呪術師に再び青春を 作:枝那
めっちゃ続きが気になる終わり方で早く続きが読みたいです。
振り返ってみると、本当に色濃い日々だった。
ヒナと共に映画を見ている最中に奇襲をかけてきた不良生徒たちを沈めたり。
ジュリが生み出した巨大怪物を討伐したり。
帰宅部の生徒に髪をいじられたり。
ゲヘナで過ごした日々は多忙で騒がしかったが、楽しいものでもあった。
そして、その時間ももうすぐ終わりを迎える。
───訓練、最終日。
◇◇◇◇◇
「この2週間、あなたたちは本当によく頑張りました」
グラウンドに集結している風紀委員たちに向けてシオンが心からの労いの言葉をかける。
「あなたたちは2週間前とは比べ物にならないほど強くなりました」
彼は数秒ほど目を瞑り、再び彼女らに視線を向ける。
「この2週間で得たものを、特訓の成果を全て僕にぶつけてください」
『はい!!』
◇◇◇◇◇
「では、このコインが地面に落ちたら試合開始です」
ピンッと空に向かって弾き飛ばされ、そのままクルクルとコインは地面に到着する。
その瞬間、百を超える大量の蠅頭が校庭を埋め尽くした。
魔人VS風紀委員。その戦いで先手を打ったのはシオンだった。
蠅頭をチャフのように使い、視界を塞ぐ。
彼女らは冷静に対応し、蠅頭たちを撃ち抜こうとする。
しかし。
「すり抜けた…⁉」
呪力の薄い蠅頭は無機物をすり抜けることができる。低級呪霊ならではの特性だ。
ならば本人を叩くしかない。とはいえこの不明瞭な視界の中では、満足に動くこともできない。
「どいて」
その言葉の後、紫電が蠅頭の大群を薙ぎ払う。
反転術式の正のエネルギーを付与された銃撃。呪霊たちが抗う間もなく塵と化すのは道理だ。
呪いの霧が晴れ、シオンの姿が捉えられる。
彼の眉間に向かって銃弾が放たれる。前方に真っすぐ手を伸ばし呪霊越しに掴む。
ドカーーーンッ!!
風紀委員たちの後方から放たれる88ミリFlak36対空砲。
人間を相手にするには余剰すぎる火力が、ふんだんに投入される。
爆風による砂埃が晴れると、そこには一つの球体が。
その球体が崩れ、中からシオンが現れる。
あれほどの攻撃を受けていながら、シオンは試合開始から一歩も動いていない。
すました顔で佇んでいるシオンに彼女たちは心の中で悪態をつくが、次の作戦に移行する。
「…上か」
高く飛び上がったイオリが、シオンに向けてかかと落としを食らわせる。彼は片手で防ぐ。彼の腕を足場代わりにして後ろに飛び、空中から銃弾を3発。しかし、それも呪霊によって防がれてしまう。
着地し、一気に距離を詰めたイオリは、彼の目に向けて砂をぶつける。視界が塞がれている隙に、彼のこめかみに向けて回し蹴りを食らわそうとする。
「!!」(やっぱりコレも防がれるか!)
視覚が奪われているにも関わらず、彼女のハイキックは彼の右腕に阻まれる。
「…ッ、ァアア!!」(ここで引いたらダメだ!シオンは絶対その隙を突いてくる!)
彼の腕はその場に固定されたかのように動かない。足はそのままに、イオリは彼の腹に向けて銃弾を放つ。空いている左手でそれを防ぐ。彼の両手は塞がれた。その隙を彼女たちは見逃さない。
側方から放たれる無数の銃弾。彼は後方に跳び、回避する。
どれだけ攻撃しようとビクリともしなかった難攻不落の要塞がやっと動いた。
イオリは即座に体勢を立て直す。今度は迂闊に距離を詰めず、遠距離からの狙撃に徹する。
縦横無尽にグラウンドを駆け巡り、四方から銃弾が撃ち込まれる
着弾のタイミングが不規則。一個一個防いでたら間に合わない。ならば、と巨大な蛇型呪霊を出現させ、サークル状に自身を囲わせ、銃弾を防ぐ。
それを認識した瞬間、イオリは再び天高く飛び上がる。巨木のような呪霊を飛び越え、空中から構える。
『本気でやれ。もっと欲張れ』
あの時から脳裏に焼き付いて離れない言葉。今の彼女は、ただ
「え?」
スコープ越しに彼女が見たのは、大きな口を開けて迫ってくる竜のような呪霊。
回避が間に合わない。呪霊に噛みつかれ地面に叩きつけられる。すでに指をかけた引き金が引かれ、銃弾はあらぬ方向へと向かう。
「ま、だだ……ッ!!」
まさに規格外。その実力の差を目の当たりにしてもなお、彼女の心は折れていなかった。
痛みに耐えながら起き上がろうとする。しかしそれを静止する者が。
彼女がようやく動き出す。
「イオリ」
─空崎ヒナ、参戦。
「委員長……」
「あなたは休んでいて。ここからは私がやる」
「でも!」
「これは命令よ」
「…ッ!わかった……」
シオンとヒナが対峙する。両肩に巨岩を乗せられたような重圧。他の風紀委員たちは動くことができない。
(空崎さんには呪霊の防御が意味をなさない。高火力で叩き潰そうにも本人の耐久力も相当高くなっている)
(多分シオンは私の知らない手札を何枚も隠し持ってる。攻撃は防げなくてもどうにかする手段はあるでしょうね)
((面倒だ/くさい…))
「まずはこれでいきましょう」
そう言って手を振りかざす。地面から出てくるのは泥の人形。彼を中心に一反(約10m×100m)のフィールドが広がる。どれほど強力な術式を持っても、それを使う前に祓われたら意味が無い。ヒナはそれを即座に祓おうとする。しかし…
(攻撃できない!?)
それに銃口を向けた瞬間、引き金が石のように固まり、銃弾を放つことが出来なくなった。
呪霊は動かない。攻撃できない今がチャンスであるというのに、一向に攻撃する気配を見せない。
(誘ってる?いや、もしかして、あいつも攻撃できない?)
「一級仮想怨霊、泥田坊。こいつは自身の展開した簡易領域に侵入するまで互いに不干渉を強制する術式を持ちます。さて、どうしますか?」
徐々にその能力の真相に気づき始めた彼女を見て、シオンが術式の開示を行った。
(なるほど、なら…)
ヒナが走り出す。導き出した答えは一つ。
(真正面から、叩き潰す!)
泥田坊の簡易領域に足を踏み入れる。その瞬間。
「田ヲ返セェ~~~!!」
地の底から響くような声を上げて、泥田坊は身体を変化させてヒナへ攻撃する。
全方向から泥の槍がヒナに迫る。それを彼女は目にも止まらぬ速さで一つ残らず破壊する。
壊しても壊しても泥田坊の攻撃は続いていく。このままではジリ貧だ。
ヒナは反撃を止め、泥田坊に狙いを定める。
連続で放たれる銃弾がレーザーのように形を成し、泥田坊の身体に風穴を開ける。
血しぶきのように泥が飛び散り、泥田坊は塵と消えた。
「やっぱり、この程度じゃ話にならないな。なら…」
シオンが構える。呪力を迸らせ、肉体を強化する。
「直に叩くとしましょう」
目の前からシオンが消える。それを認識した瞬間にはすでに彼は後ろに回っていて、ヒナは振り返り銃を乱射する。
彼が盾にした呪霊。消滅した先にシオンの姿はない。
いつの間にか懐にいたシオンが彼女に蹴りを入れる。腹に重い衝撃が走る。わずかに後ずさりして、愛銃を横に薙ぎ払う。彼は棒高跳びの要領でそれを回避し、呪霊を弾丸のように撃ち出す。
(空崎さん相手に遠距離で戦うのは不利だ。多少リスクをおかしても、近接で攻め続ける!)
(わかりやすく距離を詰めてくるわね…私の銃は接近戦に相性が悪いもの。なら)
ヒナは足に力を込めて高く跳躍した後、翼を大きく広げて銃口を地面に向ける。弾丸の雨が降り注ぐ。
(エネルギーが込められているものとそうでないものが混ざっていて面倒くさいな)
弾丸を防ぎつつ、シオンは地面に手を触れる。すると地面が意思を持ったように盛り上がり、ドーム状に変化して彼を包み込む。
ヒナの力は呪力を中和できる。そのため呪霊では銃弾の威力を殺し切ることができない。だが、呪力を中和したところで操られていた物質まで消滅するわけではない。
とは言え、この均衡がいつまでも続くわけではない。着実に土塊のシェルターは削られていっている。
突然、ドームをかち割って光の柱が立ち上る。空中にいる彼女は回避することができない。
吹き飛ばされる。バランスを崩した彼女は翼を使って滑空し、着地する。
元々ドームがあったところには、ボロボロのシオンがいる。
(なるほど、あれほど広範囲で高威力な技。間近にいたシオンも無事では済まなかった訳ね)
なんにせよ、これは千載一遇のチャンス。傷を完全に回復される前に、一気に攻める。
傷だらけの身体であるにも関わらず、彼はすばしっこく攻撃を避け、こちらに迫る。
だが、ダメージの影響か、今までより動きが鈍い。
彼の覇気のない拳を避け、蹴飛ばす。即座に追撃しようとするヒナを、呪霊で妨害しようとする。だが、それは…
(私には時間稼ぎにならない!)
悲しいかな、一秒と経たずに祓われてしまった。
魔人への勝利。
ヒナは元は呪霊だった塵も気にせず突き進み、彼に銃を突きつける。
そして。
(え………)
ヒナの目に映るのは、ビー玉程のサイズの呪霊。異様な気配を放つ
(呪霊?まずい、防御を───)
もう遅い。
あんな小さな器に収まっていたとは思えないほど大きなエネルギーが彼女に向かって炸裂する。
拡張術式『うずまき』。呪霊を圧縮し高密度の呪力をぶつける技。
彼が放った光の柱は、ヒナを誘うための罠だった。
あえて自分もダメージを受けることでヒナに彼が追い詰められていると誤認させる。呪霊の消滅反応を利用して『うずまき』の気配を誤魔化し、こうしてヒナを有効射程距離に誘い込むことができた。
「正のエネルギーは呪力を中和するけど、外部からのダメージを完全に遮断するわけではない」
更に追撃しようとし、また極小の『うずまき』を出す。
炸裂する。
(───あぁ、こんなにも遠いのね)
眼前に迫る攻撃とは裏腹に、彼女の内心は穏やかだった。
まるで今日の青空のような、とても晴れやかな気持ちだった。
呪力の爆弾を受け入れながら、彼女はゆっくりと眠るように意識を飛ばした。
シオンの呪霊コレクション
・泥田坊
等級:一級仮想怨霊
詳細:変幻自在の泥の体を持つ。侵入するまで互いに不干渉を強制する簡易領域を使う。泥の体は打撃や斬撃が効きにくい。だが、今回に限っては相手が悪すぎた。