呪術師に再び青春を   作:枝那

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今回は短めですが、次のお話に繋がる大事な回でもあります。


第11話 魔人宣揚

「ここは………?」

 

知ってる天井。ヒナが目覚めたらベッドの上だった。

清潔感のあるベッドと仕切り。ここは保健室だ。

 

「起きましたか」

 

「シオン」

 

ベッドのそばでシオンが丸椅子に座っていた。

周りを見てみると、保健室にいるのはヒナとシオンの二人だけ。

 

「みんなは…?」

 

「もうとっくに回復して戻っていますよ。空崎さんは特にダメージが深かったので今目覚めましたけど」

 

「そう…」

 

「あ、そうだ。リンゴ食べますか?愛清さんからもらったやつです」

 

「じゃあ、いただくわ」

 

器用にウサギ型に切られたリンゴに爪楊枝を突き刺し、ヒナに向ける。

 

「はい、あーん」

 

「…あ、あーん」

 

数秒躊躇ったあと、頬を染めながら大人しく受け入れたヒナ。

シャリシャリと噛むたびに口の中に瑞々しい甘酸っぱさが広がる。

 

「美味しい」

 

「それは良かった。さすが愛清さん。目利きも上手だ」

 

飲み込んだ後、ヒナはうつむきながら、独り言のように話す。

 

「…私は負けたのね」

 

「ええ、はい」

 

「この2週間で私もかなり強くなったと思っていたけど、所詮井の中の蛙に過ぎなかったという訳ね」

 

「まあ、僕にも意地がありますから。2週間程度鍛えた人間に負けるわけにはいかない」

 

「それもそうね」

 

少しの沈黙。意を決したように彼女は再び口を開く。

 

「…シオン。私は最初、貴方のことを疑っていたの」

 

「まぁ、そうだろうとは思っていましたよ。こんな力を持つ人間、警戒しないわけがない」

 

「違うの。そうではなくて…」

 

「?」

 

「貴方が『雷帝』の関係者ではないかと考えたの」

 

「『雷帝』…?」

 

聞き覚えのない単語に、彼は疑問符を出す。

その反応を見た彼女が『雷帝』の説明をする。

 

『雷帝』とは、かつてゲヘナ学園を治めた暴君であり、天才策略家であり、発明家であると同時に政治家でもある人物のことだ。

2年前キヴォトスを混乱に陥れたものの、部下の手により失脚し現在はキヴォトスを離れている。

 

彼女の表情と口調から、その暴君がいかに危険な人物かが分かる。

 

無数の怪物を自在に操る異質な強さを持つ『魔人』。

その力がもしあの『雷帝』によって与えられたものだとしたら…?

 

「…だから、私は貴方を見定める必要があった。マコトにかけあって貴方を風紀委員の臨時講師に任命して、監視下に置いた。貴方が『雷帝』の関係者なのか、そうでないかを見極めるために」

 

「…その割には、結構信頼してくれてたと思いますけどね」

 

彼は今までのヒナの態度を思い返す。

 

「えぇ、実際に戦ってみて体感したの。貴方は悪人ではないと。本気でゲヘナ風紀委員(私たち)を強くしようとしてくれた。貴方のその誠意に応えようと私も思ったの」

 

「そうですか」

 

「それに、貴方は私の負担を軽くしてくれたでしょう?私が出るべき案件も率先して代わってくれた」

 

「まさか。あれは訓練に集中して欲しいからで…」

 

「だとしても、私は貴方に助けられた。本当にありがとう」

 

「…そっか」

 

ヒナは深々と頭を下げる。それを見た彼はどこか困ったような、穏やかなほほ笑みを向けた。

 

ーーーーー

 

「よく聞こえない…」

 

そんな二人の様子を扉のそばで耳をすませて聞き取ろうとする怪しい影が。

 

「行政官、もっと詰めてください」

 

「ちょ、押さないでください!!…どこ触ってるんですか!!」

 

「あまり大きな声出すとバレてしまいますよ」

 

「あなた達」

 

バァン!と勢いよく扉を開かれる。集まっていた風紀委員たちはギギギ、錆び付いた歯車のようにゆっくりとその音の発信源を見る。

 

そこには冷たい表情で皆を見下ろすヒナが。

 

「盗み聞きとは関心しないわね」

 

『す、すみませんでしたぁあああ!!』

 

◇◇◇◇◇

 

翌日。

 

「見送りなんて、別にいいのに」

 

「そう言わないの。みんなも貴方に感謝しているんだから」

 

ゲヘナ学園の校門前にて、ゲヘナ風紀委員が全員集まっていた。

今日学園を去るシオンを見送りに来たのだ。

 

「う゛ぅ゛〜じじょ゛ぉ゛〜行゛がな゛い゛でぇ゛〜〜」

 

「ずっとゲヘナにいてぇ〜〜〜」

 

「今生の別れというわけでもありませんし、普段はブラックマーケットにいますからまた会えますよ」

 

別れを惜しむ者。

 

「ありがとうな、シオン」

 

「銀鏡さん」

 

「昨日は負けてしまったけど、次はこうはいかないからな。それまで首を洗って待ってろ!」

 

「…うん。楽しみにしてます」

 

再戦を誓う者。

 

「…まぁ、一応、感謝はしてますよ?えぇ、委員長には及びませんが。少しくらいならあなたを認めてあげてもいいですよ?」

 

「………」

 

「なんですかその表情は!?」

 

(面白いなこの人)

 

多くの者と言葉を交わす。

 

「…またね」

 

「えぇ、またいつか」

 

風紀委員たちは整列し、背筋を正す。

 

『神薙シオンさん。2週間ありがとうございました!』

 

一斉に礼をした。

それを見て彼は笑みを浮かべながら。

 

「えぇ、こちらこそ、ありがとうございました。またどこかで会いましょう。さようなら!」

 

こうして、シオンと風紀委員の特別訓練は幕を閉じた。

 

◇◇◇◇◇

 

彼らの別れの様子を校舎から覗いている者がいた。

 

「神薙シオン…『奴』の手の者かと思ったがそうではなかったらしい」

 

そう。万魔殿議長、羽沼マコトである。

 

「あれほどの力…手に入れることが出来ればこのキヴォトスを征服するなど容易だ」

 

彼女は特徴的な笑い声を上げながら、あくどい笑みを浮かべる。

 

「決めたぞ、神薙シオン!絶対に貴様を手に入れてみせる!そしてキヴォトス全土に、この羽沼マコト様の威名を轟かせるのだ!」

「のだー!」

 

隣にいたイブキが無邪気に繰り返す。

そんなマコトを見て、赤い髪の生徒は頭が痛そうにため息をついた。

 

◇◇◇◇◇

 

シオンがゲヘナを去ってから3日後………

 

「ありがとうございます。では、下がってください」

 

部下を退室させた後、提出された報告書を読む少女。

その佇まいからは並々ならぬ気品を感じられる。所作は流れるように美しく、彼女がやんごとない身分であることを理解させられる。

 

「ブラックマーケットの『魔人』。ゲヘナの風紀委員長を圧倒するほどの実力を持つ傭兵。俄には信じ難いですが、事実彼の訓練によって風紀委員の実力は飛躍的に成長し、ゲヘナ自治区の治安は以前では考えられないほど改善された…」

 

報告書を置いて紅茶を飲む。一般人では手が届かない高級品だ。

鼻を突き抜ける香りが精神をリラックスさせる。目を瞑り思考を整理する。

 

「ゲヘナ学園が接触したとなると、我々も無視する訳にはいきません。反対する方も出てくるでしょうが…」

 

 

「神薙シオンさんを、我らがトリニティ総合学園にご招待しましょう」




一体何藤何サなんだ…………
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