呪術師に再び青春を   作:枝那

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遅れてしまって本当にすいませんでした!!
リアルの方で忙しくて執筆する時間が取れませんでした!!

これからは更新頻度上げてこうと思います。


第14話 天使にレクイエムを②

シオンがトリニティに来た翌日。

 

正義実現委員会の特別講師としての仕事の傍ら、彼はトリニティ総合学園の敷地を散策していた。

 

「しかし広いな」

 

 歩きながら呟く。三大校と呼ばれるだけある。

 

「アレがブラックマーケットの……」

「なぜ汚らわしい傭兵がトリニティに……」

 

好奇の視線以外に、蔑みの視線が向けられる。トリニティはいわゆるお嬢様学校。上流階級の生徒も少なくなく、それ故に特権意識が強い者もいる。そんな彼女らにとってブラックマーケットで賞金稼ぎをして日銭を稼いでいる彼は差別の対象以外の何者でもないのだろう。

 

(くだらな)

 

しかし、彼からすれば腐ったミカンと称される呪術総監部や御三家の連中と比べたらはるかに可愛いものだと、内心せせら笑う。

 

もう少し歩いていると一際大きい建物が目に入る。

 

「これは……」

 

ゆっくりと見上げる。ただ大きいだけでなく荘厳さも兼ね備えており、思わず息を呑む。

 

「大聖堂、だっけ」

 

「ええ、そうですよ」

 

大聖堂に圧倒されながら見入っていると、横から声を掛けられた。

 

「すいません。お困りのようでしたので、つい」

 

「いや、大丈夫ですよ。あなたは?」

 

「私は、シスターフッドの伊落マリーと申します」

 

シスター服に身を包んだオレンジ色の髪の彼女、伊落マリーはぺこりと頭を軽く下げた。

 

「シスターフッド……僕は神薙シオンと言います。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。シオンさんは、大聖堂に御用があるのですか?」

 

(ここ大聖堂だったのか)「いや、実は僕、トリニティに来て日が浅くて散策していたところなんですよ」

 

「もしかして、ティーパーティーが招聘した正義実現委員会の外部講師の方ですか?」

 

「えぇ、そうです。…もう広まっているんですね」

 

「はい。剣先ツルギさんと戦って勝ったのですから、噂にならないほうがおかしいです」

 

「それもそうか」

 

噂が広まるのは早いものだ、とどこか他人事のように考えていると、

 

「シオンさんはトリニティを散策してるんですよね?よろしければ、私がご案内しましょうか?」

 

なんとマリーがトリニティ総合学園を案内してくれると言ってくれた。

 

「いいんですか?いや、助かりますけど」

 

「いいんです。困っている人を助けるのはシスターの役目ですから」

 

「…では、厚意に甘えるとしましょうか」

 

ーーーーー

 

彼はマリーにトリニティを案内してもらった。この広いトリニティの施設を全て見て回るのは一苦労だった。

 

「わざわざありがとうございました」

 

「いえ、これも一人前のシスターになるためですから」

 

彼の感謝の言葉に、マリーは気にしなくていいと微笑む。こんなよそ者一人のために時間も手間もかけるなんて、随分なお人好しだ。

 

「そうですか。…僕は、もう立派なシスターだと思いますけどね」

 

「いえいえ、まだまだ未熟者ですから」

 

「そんなことないですよ。とても丁寧に案内してくれたし、周りの人も、あなたに好意的な目を向けていた。シスターとして、普段から人の助けになっているのがよく分かります」

 

「そ、そうですか…ありがとうございます」

 

「宗教には個人的に良い思い出はありませんけど、あなたはとても素敵な人だ。あなたのような人がいれば、シスターフッドは安泰ですね」

 

「あ、あまりからかわないでください!」

 

「からかってなんかいませんよ。僕はあなたのことを好ましく思ってる」

 

「うぅ……」

 

ド直球に好意の言葉を告げられ、顔を赤く染め、タジタジになる。これまで感謝の言葉を述べられることはあったが、好意をここまで真っ直ぐに伝えられることはそうそうなかった。マリーは火が吹き出そうなくらい顔を熱くする。

 

「そろそろ委員会の方に戻らないといけないので、僕はこれで。改めてありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそ。時間があれば、今度シスターフッドにもいらしてください。私たちは来る者を拒まず、ですから」

 

「ええ、そうさせていただきます」

 

シオンはマリーに別れを告げる。小さくなっていく彼の背中を、彼女はわずかに熱を帯びた瞳で見つめる。

 

 

「…神薙シオンさん。また、お会いできるでしょうか…」

 

周囲の喧騒にかき消されそうなほど小さな声で、彼女は呟いた。

 

◇◇◇◇◇

 

「おーい、調子はどうですかー?」

 

「ぜぇ…ぜぇ…シ、シオンさん…」

 

グラウンドに顔を見せに来たシオンに、息を切らしている部員が応対する。顔を真っ赤に染め、全身汗だくになっていて見るからに疲れているのが分かる。彼女だけではない。ほとんどの生徒は生気を感じられないほど疲れ切っている。

 

彼女たちが行っていたのは言わばリアルシューティングゲーム。大量の呪霊の中からターゲットのみを撃ち抜くという、正確な射撃能力を鍛える訓練。それだけならここまで疲れないと思うが、呪霊は攻撃もしてくるのだ。威力はそこまで高くないが、攻撃を食らうと動きに支障が出るので避けなければならない。

 

つまり、呪霊の攻撃を避けつつ、大量の呪霊の中から少数の標的を正確に射撃しなければならないという、かなりハードな訓練となっていたのだ。

 

「ちょっと…この訓練、キツすぎないですか…!?」

 

「最初はそんなものですよ。慣れれば楽になってきます。それに本当に強くなりたいんだったら、どんなにキツくてもやらないと」

 

「それは…そうだけど……」

 

「でもまぁ、序盤にやる訓練としては、少し厳しすぎたかもしれませんね。なにせ…」

 

「ゲヘナ風紀委員の人たちはこれくらい簡単にできてましたから、皆さんもできると思っていました」

 

わざとらしく、芝居がかった大声でシオンは言う。その言葉に、正義実現委員の生徒たちは、ピクリと反応する。

 

「これは皆さんの実力を正確に把握できていなかった僕の失態です」

 

そんな彼女たちの様子も構わず、彼は続ける。

 

「しょうがない。明日からはもう少し軽めのメニューにしますね。風紀委員が取り組んだやつよりも」

 

「…って…ますよ」

 

「ん?」

 

「やってやりますよ!ゲヘナの連中に負けてなんかいられません!!むしろもっと厳しいやつを持ってきてください!!」

 

「そうだそうだー!!」

「ゲヘナ風紀委員がなんぼのもんじゃーい!!」

 

さっきの疲れがまるで無くなったかのように、委員たちがいきり立つ。メラメラと燃え盛る炎を錯覚するくらい、彼女たちはやる気に満ち溢れている。

 

「上手く焚き付けたな」

 

ニヤリと笑うシオンに呆れた顔のツルギが話しかける。

 

「剣先さん。…どうしたんですか、その格好?」

 

「ああ、これは………気にするな」

 

ツルギの身体には傷一つついていないものの、服は他の者の比にならないほど汚れていてボロボロに傷ついている。これはツルギが訓練で呪霊の反撃を全く意に介さずひたすら攻撃し続けるという頭バーサーカーな戦法を取ったためである。

 

「ゲヘナへの対抗心を煽ることでみんなにやる気を出させたか。ゲヘナ風紀委員に訓練をつけた貴方だからできることだ」

 

「ああは言いましたけど、風紀委員の人たちも最初はあんな感じでしたよ」

 

「そうなのか」

 

「ええ。とはいえ、普段から厄介事に対応しているからか慣れるのは早かったですけど。そして、正実の皆さんも同じくらいポテンシャルはある。」

 

「だが、トリニティはゲヘナほど荒れてない。現状でもある程度対応できているから、成長速度が緩やかだ」

 

「加えて、あなたがいる。これはゲヘナ風紀委員にも言えることですけど、一人だけで解決できる人がいるから、他のメンバーの成長を阻害してしまっている。実際の事件では、成長を促すために自分は手を出さないなんてリスクの高いことできませんからね。だからあなたに頼らない状況が必要だった」

 

「そこまで見抜いていたのか」

 

「まぁ、一人の最強に依存すればどうなってしまうのかはよく知ってますから」

 

「そうか。…ありがとう」

 

「いえいえ、感謝されるほどのことではないですよ。……さて」

 

「どうした?」

 

「ちょっと準備をしに」

 

そう言い残して、シオンは再びグラウンドを後にする。

 

◇◇◇◇◇

 

「つ、つかれたぁ〜」

「もうむり…からだうごかない…」

「おなかすいた……」

 

グラウンドは正しく死屍累々といった様子だ。シオンの言葉により勢いを取り戻した彼女たちであるが、さすがに限界が来た。

 

「…あれ?なんかいい匂いしない?」

 

「確かに…」

 

グラウンド中に食欲を唆る匂いが立ち込める。彼女たちがその匂いに気づき始めたと同時に、彼がグラウンドに顔を出す。

 

「お疲れ様でーす」

 

「シ、シオンさん……」

 

「いやぁみんな頑張りましたね。そんな頑張ったみんなにご褒美があります」

 

大きな寸胴を見せる。匂いの源はこれだ。

 

倒れていた者たちが立ち上がり、その寸胴の元に集まる。その匂いの正体がおおよそ察しはついているようだ。

 

精も根も尽き果てた彼女たちにとって、それは灼熱の砂漠に一つだけ存在するオアシスに等しいものだった。

 

『カレーだー!!』

 

「疲れた体には、美味しいご飯を食べるのが一番ですよ」

 

そう言いながらカレーを皿に盛り付け手渡す。受け取った生徒は辛抱たまらずガツガツと食べる。見てて気持ちよくなる食べっぷりだ。

 

「インドカレーとかスープカレーとかもいいですけど、やっぱり市販のルウで作るカレーが一番美味しいですよね。お店にはお店の良さがありますけどね。オーソドックスなのは外せません」

 

あっという間にあれだけあった鍋の中身がなくなった。学生の食欲は恐ろしい。

 

「ふ~、美味しかったぁ~」

 

「シオンくんって料理上手なんだね」

 

「ま、それほどでもあります」

 

彼は食器を回収し、鍋やテーブルを片付け始める。

 

「あ、手伝うよ」

 

「いいんですよ、訓練で疲れてるでしょう」

 

特別訓練2日目。

もはや彼を部外者だと軽んじる者はいなくなっていた。




───2018年某日、呪術高専。

「はーい出来ましたよ。カルボナーラです」

「おぉーすっげぇ〜。もう見るだけで美味いって分かる」

「顔が良くて料理も美味いって逆に何を持たないのよアンタ…」

「シオンはスイーツ作りも上手いんだよね。僕のおすすめはプリンかな」

「シオン、ベーコン多めにしてくれ」

「はい、どうぞ」

「あっ、伏黒ずりぃ!」

「アンタも甘やかしてんじゃないわよ!」

「よう一年。美味そうなもん食ってんじゃん」

「味玉」

「シオンくーん、俺たちにも恵んでくれよー」

「はいはい、少し待っててくださいね」

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