呪術師に再び青春を   作:枝那

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第2話 邂逅

とある廃工場。

とうの昔に人々に捨てられた、寂れた工場にて、銃撃戦が繰り広げられてた。

 

「止まれ!止まれぇ!!」

「クソッ!どうなってやがる!どこから情報が漏れた!?」

 

機械の兵士たちの怒号と銃声が飛び交う。

ここではつい先程まで違法武器の取引が行われていた。

シオンはその情報を事前に調べあげ、取引を強襲した。

 

スケボーの要領で呪霊に乗り工場を駆け巡る。

銃火器で武装した兵士たちであっても、呪霊には敵わないという絶対の理がある。

じわじわと痛めつけられるように追い詰められ、残る兵士はあと一人となった。

 

「もう終わりだ」

「…ッ!!この、化け物がァァ!!」

 

自棄になり、シオンに向かって乱射する。しかし弾丸が到達するより早く、彼は兵士に近づき、鳩尾に一発、気絶させた。

 

◇◇◇◇◇

 

ヴァルキューレに通報し、廃工場を後にしたシオン。

キヴォトスに来て数週間程が経過した後、彼は賞金稼ぎ以外にも不良退治や犯罪組織の撲滅など、ブラックマーケットの治安維持も行っていた。

 

圧倒的な実力によって数々の犯罪を未然に防いだ彼の名前は瞬く間にブラックマーケットに広まり、『ブラックマーケットの魔人』という異名を得るに至った。

 

「あ、兄貴ー!!今日もパトロールお疲れ様です!!」

『お疲れ様です!!』

「…兄貴はやめてください」

 

ブラックマーケットのパトロールをしていると、スケバンの少女たちに挨拶をされた。

彼の名は多くの悪党にとって恐怖の対象であるが、一方で彼の強さに魅せられたファンも生まれた。中には自主的にブラックマーケットの治安維持に協力する者までいるほどだ。

 

とまぁ、彼はなんだかんだこのキヴォトスに馴染んでいた。

 

◇◇◇◇◇

 

パトロールを終えた後、自宅へと向かっているシオン。

歩いていると、爆発音が聞こえた。それ自体、キヴォトスでは珍しくもない。

問題なのは………

 

(家の方から…!?)

 

呪霊に乗り、自宅へ急ぐ。慌てて逃げ出すの人々姿を目にする。

 

「温泉開発部だ!」

「逃げろ逃げろ!」

 

温泉開発部。それが下手人の正体だと知り、更に加速する。

自宅へ着くとそこには

ヘルメットにタンクトップという大胆な格好をした生徒たち、そして見るも無惨な姿になったシオンのアパートがあった。

 

「ハーッハッハッハ!よぉ〜しいいぞ、ドンドン爆破させろ!」

「………」

 

リーダーと思われる、赤いシャツを着た少女が高らかに笑う。

少女は人の気配に気づいたのかこちらに目を向ける。

 

「ん〜?もしかして、このアパートの住民か?すまないが……」

 

その言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 

「ゴフッ!」

「…は?」

 

シオンの出した呪霊が、ミサイルのように少女の隣にいた仲間に突っ込み、壁に叩きつけた。ゆっくり振り向くと、仲間は頭上の輪っか─ヘイロー─が消え、壁に倒れ込んでいた。

その瞬間、彼女は目の前の乱入者への警戒度を最大まで上げる。

呪力を迸らせ、幽鬼のような表情で彼は言う。

 

「お前たち、覚悟はできているんだろうな……?」

「ぶ、部長をお守りするんだ!!」

 

少女たちが一斉に射撃を開始する。

シオンは手元に出現させた呪霊を盾にして弾丸を防ぐ。

更に召喚した蛇型の呪霊の尻尾を掴み、鞭のように振り回し敵を薙ぎ払う。

 

足元に手榴弾が転がってくる。

さっき彼が敵を倒しているときの隙を突いて投げたものだろう。

爆発までに1秒もない。だが…

 

「食え」

 

指をクイ、と上に向ける仕草をすると、呪霊が地面から出現し、手榴弾を丸呑みにした。

ボンッ!と呪霊越しに爆発音が響く。

 

「なっ───」

「余所見」

 

呆気にとられる部員の後ろに回り込み、気絶させる。

そしてその間にも。

 

「ヒィ!な、なんだコイツ!?」

 

シオンの出した呪霊が、残っている部員と戦っていた。

呪霊は彼の指揮がなくとも、ある程度自律的な行動が可能。

『目の前の敵を殺さず、無力化しろ』という命令を呪いの群れは忠実に実行していた。

 

じりじりと追い詰められていく中で、リーダーの少女、カスミの脳裏によぎるのは、一人の少女の姿。どれほど権謀術数を巡らせても、無意味だと言わんばかりに踏み潰し、噛み砕いてしまう、理不尽の塊のような存在。

 

重なる。

 

「来い、“土蜘蛛”」

 

そう言って現れた、巨大な蜘蛛の姿をした呪霊。

特級仮想怨霊『土蜘蛛』。

人々の蜘蛛という虫に対する嫌悪(呪い)、そして土蜘蛛という妖怪の伝承への畏怖(呪い)が重なり、混ざり、発生した特級呪霊。

 

土蜘蛛はカスミに向かってゆっくりと進む。巣に張り付いた獲物を狩るように。

じわりじわりと近づいてくる怪物を前にして、彼女は。

 

「ひっ、ひええええ!!」

 

逃げることはなく、その場で泣き出してしまった。

それを見たシオンはもう彼女に戦意はないと悟り、仲間ともども拘束した。

 

◇◇◇◇◇

 

拘束した温泉開発部の部員たちを一箇所に集めたシオンは、彼女らの処遇を決めかねていた。

ヴァルキューレに通報することも考えたが……

 

(さっきの人たちは温泉開発部って言ってた。じゃあどこかの学校の部活動なのか?)

 

そう考え部員の持ち物を漁っていると、ある校章が見つかった。

 

(この校章は確か…)

 

キヴォトスで三大高と言われるマンモス校の一つ、ゲヘナ学園の校章。

『自由と混沌』を謳い文句にしており、やんちゃな生徒が多い学校。

シオンもその情報は手にしていた。

ならばその治安維持を担う風紀委員会に連絡すべきかとスマホを取り出したちょうどその時

 

「どこだ、温泉開発部!」

 

活気のある声と、統率の取れた足音が響く。

振り返ると、軍服のような制服を身に纏った少女たちがいた。

彼女らの腕章には風紀と書かれている。恐らく彼女らがゲヘナ風紀委員会だろう。

 

彼女らが整列すると、一人の少女が前に出る。

4本の角と、腰まで伸びる白い髪。そして立ち振る舞いから分かる、別格の強さ。

 

「…私たちは温泉開発部を探してやってきたのだけれど」

 

そう言いながら、彼女は辺りを見回す。風紀委員たちが目にしたのは、拘束された温泉開発部員たち。自分たちでも手を焼くテロリストがみな揃って倒れていることに、彼女らは驚きを隠せない。

 

「これ、あなたがやったの?」

「はい」

「…そう、風紀委員の公務への協力、感謝するわ。失礼でなければ、名前を聞いてもいいかしら」

「神薙シオンと言います」

「…ッ!そう、あなたがあの『魔人』ね」

「そういうあなたはゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナさんですね」

「ええ」

 

「ねぇ、『魔人』って何?」

「知らないの?最近ブラックマーケットに現れたっていう賞金稼ぎだよ。犯罪組織とか何個も潰されてるらしいよ」

「マジ?」

 

「『魔人』はブラックマーケットに住んでいるとは聞いていたけど…ここがあなたの自宅だったのね」

「はい………全く、いい迷惑ですよ」

「ええ、本当に。それにしても、いつものように爆破した場所が、まさか『魔人』の家だったなんて、この子たちも運がないわね」

 

そう言って、ヒナは残骸となったアパートを見る。

 

「あなた、住む場所が無くなったようだけど、これからどうするの?」

「まぁ…ここが直るか、他に良い場所が見つかるまでは、どこかで野宿ですかね」

「それは大変ね。温泉開発部はうちで預からせてもらうけど、問題ないわよね?」

「ええ、よろしくお願いします」

 

ヒナが委員たちに合図を送ると、彼女らは温泉開発部を拘束し始めた。

 

「うわ、なんだこの糸!」

「解けないし、固っ!」

「ああ、今解除しますね」

 

シオンが指をパチンッと鳴らすと、温泉開発部を拘束していた糸が溶けるように消えていった。

目の前の怪奇現象に目をぱちくりさせながら、風紀委員たちは手際よく温泉開発部に手錠をかけていった。

 

「では、私たちはこれで。ああそれと、風紀委員の公務を協力してくれた謝礼として報奨金を支払わせてもらうわ。口座を教えてもらえるかしら?」

「あー…僕口座ないんですよ」

「そうなの?」

「ええ。学籍ありませんし」

「そう、じゃあ、後日現金で支払うわ」

「いやいやいや、そこまでしてもらう必要は」

「受け取ってちょうだい。風紀委員にも面子ってものがあるのよ」

「そういうことなら…ありがたく受け取らせてもらいますけど」

 

そうして、風紀委員たちは温泉開発部を連れてその場をあとにした。

「どうしよ…」と弱々しく呟くシオンの背中を、ヒナはじっと見つめていた。

 




シオンの呪霊コレクション
・土蜘蛛
等級:特級仮想怨霊
詳細:
強力な毒や溶解液を吐き出したり、鋼鉄をも両断できる糸を操る。他にも単為生殖が可能で、大量に増やした自分の子供を式神として操ったり、実物の蜘蛛を支配下に置くことができる。

シオンの手持ちの中でも、伝承に由来する仮想怨霊と現実の存在への恐れから生まれた呪霊が習合して発生したという稀有な経歴を持つ存在。
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