呪術師に再び青春を 作:枝那
書こうと思っても納得できるものができない
昼食後、再びグラウンドに集合した風紀委員たち。
「では、訓練について話しますね。」
「これから皆さんが行う訓練は大きく分けて二つ」
「一つ目は、多数対多数、数の利を上回られた時を想定した訓練。
二つ目は、一体多数、圧倒的な個への対処を想定した訓練です」
「ここまでで、何か質問はありますか?」
そこで、集団の中から一人手を挙げる。
「あの、内容は分かったんだけど具体的にどうやるの?特に最初に言ってたの」
「ああ、それはですね」
そう言いながら、手元から呪霊を出す。一部から悲鳴が漏れる。
さっきの試合で何度か見たが、その生理的嫌悪を起こさせるフォルムはやはり慣れない。
「もう分かってると思いますけど、僕には常人にはない異能を持っています。僕は呪霊と呼ばれる怪物を生み出し、操ることができる。今回はこれを訓練に利用します」
「なるほど。それで大量の呪霊?を相手に集団戦の訓練をするという訳ね」
「とは言え、呪霊ばっかり相手にして変な癖がつくと良くないですし、普段皆さんが行ってる訓練と合わせて行うことにします」
「一対多数というのは?」
「それはいたってシンプル。僕と空崎さん、あとは何体か強めの呪霊と戦ってもらいます」
風紀委員たちは得心がいったようだ。
それと、とシオンは続けてヒナの方を向く。
「空崎さんには別で訓練を用意しているので」
「…わかったわ」
「風紀委員の普段のトレーニングメニューは知らないので、それはそちらにお任せしますね」
そうして、神薙シオン主導のゲヘナ風紀委員会強化訓練が始まった。
◇◇◇◇◇
ゲヘナ風紀委員会の行政官、天雨アコは廊下を歩いていた。
その足音からは、彼女が苛立っていることがよく分かる。
風紀委員の訓練の状況を報告するため、彼女はヒナの所へ向かっている途中だ。
決して、ヒナの様子が気になるとかそんな理由ではない。
(まったく、訓練のためとはいえ、ヒナ委員長を独占するなんて…っ!)
あの澄ました顔を思い出すだけで無性に腹が立ってくる。
訓練のとき、自分たちの策をなんてことのないように打破されてしまった。
そしてなにより、ヒナ委員長との距離が近いのが気に食わない。
(委員長も委員長です!異性と密室で2人っきりだなんて、無警戒にも程があります!)
アコはヒナとシオンが訓練しているという部屋の前に立つ。
ノックしようとすると、中から声が聞こえる。
『ふぅ…上手くできてるかしら?』
『えぇ、とても上手ですよ。初めてとは思えない』
吐息混じりの声のヒナと、シオン。
ピタリと扉に耳を貼り付けて、部屋の中の会話を一言一句逃さない。
『それにしても、変な感覚ね………』
『最初はそんなものですよ。これから徐々に慣らしていきましょう』
2人で何らかの作業を行っていると思われる声。
普段の彼女なら特に気にとめずそのまま部屋に入っただろう。
しかし、今のアコはシオンに良い感情を持っておらず、些細なことでも悪い方向に考えてしまっていた。彼女の脳内には、未成年には決して見せられない光景が広がっている。
ヒナをあの邪智暴虐の卑劣漢の魔の手から救わんと、バンッ!と勢いよく扉を開ける。
「何やってるんですかぁーーっ!?」
「ん?」
「アコ?」
扉が開いた先には、ソファで呪霊を抱え、ジュースを飲みながら映画を見ているヒナと、その隣でポップコーンをつまんでいるシオンの姿があった。ヒナは映画を一時停止して目を丸くしているアコの方を向く。
「どうしたの?何か問題が起こった?」
「い、いえ、少し訓練の状況の報告をですね……そ、それより、さっきまで一体何をしていらっしゃったんですか!?何か変なことされていませんよね!?」
「映画を見ていたんですよ」
「え、映画…?なぜ…」
「それはですね………」
───────────
『僕の使う力は呪術と言います』
『…といきなり言われてもピンとこないでしょうから、まずはあちらをご覧ください』
そう言って、シオンは机に乗った二つの空き缶を指さす。
何の変哲もない普通の空き缶。これをどうするのかと訝しげに見ていると、空き缶が吹っ飛び、もう片方は突然凍り付いた。
『吹き飛ばされた方が『呪力』で、凍ったほうが『術式』です。…言ってる意味が分かりますか?』
『…感覚だけど、『呪力』はエネルギーを直接ぶつけて、『術式』は呪霊を出したのと同じことをしている…?』
『お、半分正解です。呪力を術式に流して呪術が発動する。五条先生…僕の呪術の師匠は呪力を電気に、術式を家電に例えていました』
『で、ここからが本題です。空崎さん、いやこのキヴォトスの生徒は僕が持つ呪力とは全く逆のエネルギーをその身に宿している』
『みんなそれを認識しているわけではありませんが、体を守ったりするときなどに無意識に使っているようです。これがキヴォトス人が丈夫な理由ですね』
『話を戻しましょう。先日の戦いで空崎さんはそのエネルギーを弾丸に込めていた。今回の特訓ではそれを意識的に行えるようになってもらいます』
『概要は分かった。でも具体的にどうするの?あの戦いのあと、もう一度できないか試してみたけど結局できなかった』
『でしょうね。呪力の源は負の感情。その反転したものである正のエネルギーも感情に大きな関わりがある。あの時は感情が大きく高ぶっていたんでしょう』
『なるほど…』
『呪術を扱う者はみなわずかな感情の火種から呪力を捻出する訓練をしています。感情が大きく振れた時呪力を無駄遣いしないためにもね』
『色々な訓練がありますが空崎さんにはコレを行ってもらいます』
───────────
「そういうわけで今空崎さんは映画鑑賞中です」
「なるほど…そういうことですか」
シオンの説明を受け、アコは納得がいった。
「…いやいやいや!それがどうして映画鑑賞に繋がるんです!?」
訳ではないようだ。
面倒くさそうにシオンはため息をつく。
「仕方ないですね。最後まで話しましょう」
「最初からそうしてください!…というか、なんですか、コレ?」
「記憶を可視化する術式を持つ呪霊です。発動には条件がありますけど」
「なんかもうなんでもアリですね」
───────────
シオンはどこから取り出したのか大量のDVDを見せる。
『映画鑑賞?』
ヒナは要領を得ない様子で反復する。
『はい。もちろんただ観るわけじゃありません』
シオンは一体の呪霊を出現させて、ヒナに手渡す。
『こいつと一緒に観てもらいます。』
『この子と一緒にって…なんで?』
『それはですね』
そう言うと呪霊が突然跳び上がりヒナに襲い掛かった。
ヒナはそれにすぐさま対応し、壁にたたきつける。
彼女は僅かばかり不機嫌な表情でシオンに詰め寄る。
『これはどういうこと?』
『さっきのようにあの呪霊にはあなたを攻撃する命令を下しています。でも、あなたがエネルギーを流し続ければ動きは止まります』
『まずはこの呪霊を消滅させずに映画を一本観通すこと。これがどんな感情下でも一定の出力を保つ訓練』
ヒナは納得したものの、何の説明も受けず攻撃され、顔にはまだ不満が残っている。
『多すぎたら駄目ですよ。空崎さんのエネルギーは呪霊と相性最悪。少しでも加減をミスしたら一瞬で塵に帰ります』
『これは今の空崎さんでも出せるレベルの微弱なエネルギーに対応していますけど、徐々にレベルを上げるつもりですから気を付けてくださいね。ああそれと…』
『まだ何かあるの?』
『ポテチの味は何がいいですか?あとドリンクも』
『…適当に決めて』
───────────
「空崎さんは飲み込み早いですね。この調子なら2週間後には基礎的な運用はマスターできますよ」
「そう?…あ、飲み物ちょうだい」
「オレンジジュースでいいですか?」
「それでいいわ」
(なんか……)
「ポテチも少なくなってきましたね。新しいの補充しないと」
「サワークリームオニオンもよろしく」
「わかりました」
(距離、近くないですか…!?)
妙に気心の知れた風な二人を見て、アコは唖然とする。
二人の間に存在する何とも言い難い信頼のようなものを感じ取り、彼女の嫉妬の炎は再び燃え上がった。二人の間に割り込もうと口を開こうとしたちょうどその時、バンッ!とこれまた乱暴に扉が開かれる。絶妙なタイミングで入ってきた風紀委員をジト目を向けながら、何があったのか聞く。
「失礼します!」
「今度は何ですか?」
「食堂で正体不明の怪生物が大量発生したそうです!」
「…はい?」
ちなみにシオンが好きなポテチの味はのり塩です。
作者はコンソメが好きです。