呪術師に再び青春を   作:枝那

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今回は短めです。


第6話 石を穿つ③

───学生食堂

 

「…何これ?」

 

風紀委員からの要請を受け、食堂へやって来たシオン。

食堂には触手をうねうねと蠢かせる紫色の怪物が跋扈していた。

先に到着していた風紀委員たちもどう対処すべきか測りかねているようだ。

 

(呪霊?でも呪力は感じない)

 

「うぅ…気持ち悪い……」

「あの、一応聞きますけど、こいつらは駆除しちゃっていいんですよね?」

 

近くにいたエプロンを着た赤い髪の生徒に聞く。

その生徒は目尻に涙を溜めながら答える。

 

「よ、よろしくお願いします…」

「よし。じゃあ、食っていいぞ、『餐嚼(さんしょう)』」

 

そう言って彼が呼び出したのは、二足歩行のイノシシの姿をした呪霊。

特級呪霊『餐嚼』。人間の食への渇望と、餓死した者の無念から生まれた呪霊。

 

主人の許しを得た貪食の呪霊は、目の前を飛び回る獲物に食らいつく。

怪物たちの抵抗も虚しく、無惨に貪り食われる。逃げようとした個体も、その巨体からは想像もつかないほどのスピードで追いつかれ、狩られてしまう。

 

怪物たちはもういなくなって、食い足りないといった表情のまま、餐嚼は姿を消した。

騒ぎの原因は取り除かれたが、給食部の生徒に事情を聴かなければならない。

 

「えっと、何があったんですか?」

「それが…」

 

話を聞くと、あの怪物を生み出した張本人である牛牧ジュリは料理があまり得意ではなく、普段は食材選びや配膳をしているのだが、今日は学食に訪れる客が少なかったため料理の練習をしていたら加減をミスしてしまい、あの怪物が発生してしまったらしい。

 

(そういう術式か?自身が調理したものに影響を与えるとかそういう。ありえなくはないけどだとしたらあの怪物からわずかでも呪力を感じてもいいはずだ)

 

仔細を聞いたシオンがこの怪現象について考察していると、ジュリが心配そうに声をかける。

 

「あの、大丈夫ですか…?」

「ん?あぁ、問題ないですよ。一つ聞きたいんですけど、こういう怪物が生まれるのは今回が初めてじゃないんですよね?」

「えぇ、はい。でも、最近はかなりの頻度で生まれやすくなっていて…」

「ふむ…」

 

彼女の言葉がひっかかるが、どれだけ考えても答えは見えてこない。

結論を出すのは後にして、風紀委員たちに後のことを任せて立ち去ろうとする。

 

「それじゃあ、僕はこれで。後のことは頼みました」

「え」

 

食堂を立ち去ろうとするシオンに、ジュリはおずおずと聞く。

 

「怒ってないんですか…?」

「別に。自分の力を制御できなくて~、というのはよく見てきましたから。それに…」

 

「不得意なことを克服しようとしてやったことなんでしょう?結果はともかく、自分の苦手なことに挑戦できるのは立派だと思いますよ。」

 

風紀委員に事後処理を任せて、彼は食堂を後にした。

 

◇◇◇◇◇

 

食堂を去り、訓練部屋へと戻ったシオン。軽くノックする。

返事はないものの、彼女の気配は感じるから、そのまま入室する。

 

「戻りましたよ」

 

やはり返事はない。ヒナはジュースを飲むことも忘れ、映画に見入っていた。

そして何より、呪霊が完全に停止している。

四級にも満たない低級の呪霊とはいえ、凄まじい練度と集中だ。

 

(凄い集中…これは邪魔しない方がいいかな)

 

シオンはヒナに気づかれないように、そっと部屋を出た。

 

(他の風紀委員の様子でも見に行こうかな)

 

◇◇◇◇◇

 

風紀委員がトレーニングをしている校庭にやって来たシオン。

彼は近くにいた風紀委員に声をかける。

 

「調子はどうですか?」

「うひゃあ!?シ、シオンくん!?どうしてここに…」

「様子見ですよ。空崎さんはしばらくは大丈夫そうなので」

「そうなんだ…」

 

校庭を見回すと、ついさっき走り込みを終えたと思われるイオリの姿が目につく。

息を整え、膝に手をついて顔の汗を拭っている。

 

「あ、イオリ先輩だ」

「一つ聞きたいんですけど、彼女っていつもあんな感じなんですか?」

「え?うん。いつも真面目に訓練をこなしてるよ。でも、トレーニングメニュー以上にやるのは珍しいかも」

「ふーん………」

 

そう聞いた彼はイオリの方へ向かう。

 

「お疲れ様です」

「ゼェ…ハァ…シオンか…」

 

まだ息の荒いイオリに飲み物を渡す。

それをイオリはゴクゴクと音を立てて飲む。見てるこっちが気持ちよくなる飲みっぷりだ。

よく冷えた水は火照った身体によく染み渡る。

 

「何事もやりすぎは良くないですよ?」

「分かってる…けど……」

 

ためらうように口を閉じるイオリ。

それを見てシオンはあの時の訓練で抱いたイオリに対する疑念が確信に変わった。

 

「…よし!」

「?」

「明日、訓練をしましょう。僕と銀鏡さん、一対一で」

「え、ありがたいけど、いいのか?他のやつにつける訓練もあるんだろ?」

「大丈夫ですよ。僕がいなくても十分やれてますし。それに今の銀鏡さんに対応する方が良いと判断した」

「なら、遠慮なくやらせていただくけど」

「決まりですね。それじゃ、今日はこの辺で止めておきましょう」

「え」

「さっきも言いましたけど、普通にオーバーワークですよ?今日は早めに休んで、明日に備えてください。明日はかなりキツいですよ」

「わかったって……」

 

項垂れるイオリを尻目に、シオンは他の風紀委員に声を張り上げる。

 

「みなさんも、やりすぎは禁物ですよー!休憩も訓練のうちですからねー!」

『はい!!』




シオンの呪霊コレクション
・餐嚼
等級:特級呪霊
詳細:呪力の防御を貫通する強靭な咬合力。あらゆる毒物への耐性。決して満たされることのない無尽蔵の食欲。そして食らったものを消化するまでの間、自身の呪力に還元することができる。入ったものに強烈な飢餓感を与え、最終的に餓死させる領域も使用可能。

食欲という、人間の三大欲求の一つから生まれた特級呪霊。
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