呪術師に再び青春を   作:枝那

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高評価、感想を頂けましたら作者が呪霊のような声をあげて喜びます。
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第7話 石を穿つ④

翌日、ゲヘナ学園のグラウンドでシオンとイオリは向かい合っていた。

だが、彼女はシオンへなにか不満があるようで…

 

「なぁ」

「なんですか?」

「昨日一対一で、て言ったよな?」

「そうですね」

「じゃあなんで」

 

「他のやつらが見ているんだ!?」

 

ヒナとの戦いのときと同様に、対峙している二人を風紀委員が囲うように見物していた。

その中には、イオリの尊敬するヒナもいた。

 

イオリとしては、仲間に不甲斐ない姿を見られたくないのだろう。

納得いかないという表情でシオンを詰める。

 

「それについては謝ります。でもイオリさんの悩みは他の風紀委員にとっても他人事じゃない。そのことを理解してもらうためにみんなにも見てもらうべきだと考えました」

「うぐっ……」

 

イオリが抱える悩み。風紀委員にとって必要なことだと言われてしまえば、彼女も反論できない。渋々といった表情で戦いの準備を始める。

 

◇◇◇◇◇

 

「グハッ!!」

「はい、おしまい」

 

イオリを地面に叩きつけ、模擬戦の終了を宣言する。

彼女はその場に座り込み、先の戦いの反省点を振り返る。

シオンもイオリと同じように座り、彼女の目をまっすぐに見つめる。

 

「やっぱり戦ってみて思いましたけど、銀鏡さん、本気でやってないでしょ?」

「…ハァ!?私が本気出してないって言うのか!?」

 

シオンの言葉に、彼女は顔を赤くして語気を荒らげる。

彼は気にせず続ける。

 

「“出してない”じゃなくて“出せてない”んですよ。身近に空崎さんっていう最強がいるからかな、銀鏡さん自身が自分の可能性に蓋をしているんですよ」

「そ、それは…」

「当然追いつきたいと思っているんでしょう。でも、心のどこかでこう思ってもいるんじゃないですか?『最悪自分は勝てなくて良い。せめて委員長の負担を少しでも減らせるように戦おう』ってね」

「…ッ!!」

「それが悪いこととは言いませんよ。組織である以上、仲間との連携は重要です。でも、結局のところいついかなる時も周りに味方がいてくれるとは限らない」

 

厳しい現実を告げられ顔を下に向けるイオリ。だが彼は両手で彼女の頭を挟み、無理やり自分の顔に向けさせる。

 

「あなたは空崎さんを基準とした材料でしか組み立てができない。空崎さんより強くなった自分を想像できない」

 

「『死んで勝つ』と『死んで()勝つ』は全然違いますよ」

 

シオンは一度手を離し、茫然としているイオリの額に向けてデコピンを放つ。

 

「本気でやれ。もっと欲張れ」

 

額に生じる痛みも気にせず、イオリはうわ言のようにつぶやく。

 

「私の…本気…」

 

◇◇◇◇◇

 

模擬戦も終わり、見学していた風紀委員たちは散り散りになった。

訓練に取り組む者。勉強するため教室へ戻る者。不良生徒に対処する者。

風紀委員たちの訓練を見守っていると、ヒナが隣に来て話しかける。

 

「ありがとう、シオン」

「何がですか?」

「イオリのこと。私ではあの言葉をかけてやれなかった」

「いいんですよ。あなたたちを強くすることが僕の目的ですから」

「…ねぇ、どうしてあなたはそんなに真剣にやってくれるの?報酬が欲しいだけなら、あんな言葉をかけてあげる義理はないはず。なのに…」

「別に。特に深い理由はありませんよ。ただ、強いて言うなら…」

 

脳裏に浮かぶのは、一人の男。あの夜、全てを失った自分に道を示してくれた最強の呪術師。

少しの沈黙のあと、彼は口を開く。

 

「僕だけ強くても意味がないんですよ」

「え?」

「僕の恩師の信念です。あの人は自他共に認める最強だった。彼は教師として強く聡い仲間を育てることを選んだ。そこに至るまでの過程を僕は知りませんけど、きっと彼の人生を大きく変えるような出来事が起こったのでしょう。」

 

ヒナは愕然とした表情でシオンを見る。

それもそのはず。規格外の強さを持つ彼が最強と呼ぶ人間。そんな存在がいることが信じられないのだろう。

 

「確かに、あなたの言う通り僕にあそこまでする義理はない。でも、やるからには先生の信念に基づいてやろうと考えたんです。きっと先生ならそうするし、それが僕を救ってくれた先生への恩返しだと思うから」

 

ヒナは何も言わない。ただ、シオンの言葉を噛み締めるように聞いている。

 

「…だから」

 

「強くなってくださいね。僕に置いてかれないくらい」

 

ヒナはシオンを見上げ、目を丸くしたあと、ふっ、と笑って。

 

「ええ。誰も、あなたを独りにはさせないわ」

「…そうですか」

 

その言葉にシオンも微笑みを浮かべる。

少し間が空いた後、ヒナが再び口を開く。

 

「ねぇ、シオン。私…「ヒナ委員長お疲れ様です!こちらお飲み物です!」」

 

なにやら良い雰囲気を感じ取ったアコが二人の話を遮る。

間の悪い右腕に対して、ヒナは不機嫌な表情を浮かべる。

 

「アコ、このあとグラウンド100周」

「えぇ!?そ、それは…」

「何?」

「…謹んで承ります………」




書き溜めてた分もこれで完了。
ゴールデンウィークも終わりのためこれからは更新頻度が落ちると思います。
ご容赦ください。
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