呪術師に再び青春を   作:枝那

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GW明けなので実質初投稿です。
なんとか週一投稿頑張りたいです。


第8話 石を穿つ⑤

グラウンドで、風紀委員たちが一匹の熊を取り囲んでいた。いや、正確には熊型の呪霊と言うべきか。普通の熊ならありえない複数の眼はギラギラと血走っていて、多くの命を食らったその口からは涎がダラダラと滝のように垂れている。不用意に近づけば、黒曜石を思わせる鉤爪に骨ごと断ち切られてしまいそう。

 

そんな戦車にも匹敵するような怪物に向けて、発煙弾が投げ込まれる。

次の瞬間、四方から無数の弾丸が容赦なく撃ち込まれる。

 

だが、弾丸はぶ厚い毛皮に阻まれて、その体躯に傷をつけることは能わない。

今なお続いている銃弾の嵐をものともせずのしのしと四つん這いになって進む。

クンクンと鼻を鳴らしたあと、それは最初に狩るべき獲物を定めた。

 

「Guoooooーーーーー!!!」

 

けたたましい咆哮のあと、走り出す。より一層激しくなる銃弾もまるで効いてない。

やがて彼女らでは捉えられないほどにまで加速し、縦横無尽にグラウンドを駆け回る。

その姿はまるで大型車両のよう。

余波で何名かが吹き飛ばされてしまった。

 

一旦距離を取る。こんな化け物にまともな攻撃は通じない。ゆえに。

 

ドゴォォォオン!!

 

砲弾が、放物線を描いて熊呪霊に直撃する。その後、二つ、三つと砲撃が続く。

迫撃砲による攻撃。一匹の熊を狩るには過剰すぎる威力を持つ兵器が、惜しげも無く投入される。

 

「やった……!?」

 

だが、爆煙が晴れるとそこにはかすり傷一つついてない獣の姿が。

 

「嘘でしょ………」

 

誰かが呟いた。

あれほどの攻撃を食らってもなお、勢いが衰えるどころか更に増していく怪物を見て。

 

ああ、だめだ。『これ』は人間が戦うようなものじゃない。

 

この場にいる全員が力を合わせても目の前の怪物は敵わないことを悟る。

だが、それでも。

 

(良い)

 

彼女らの瞳から戦意は消えていなかった。

相手が常識を上回る怪物だとしても、それが戦いを放棄する理由にはならない。

 

今回の模擬戦のリーダーを任された少女は考える。

どうすれば目の前の怪物に一矢報いることができるか。

どうすればあの魔人に一泡吹かせることができるか。

 

(銃撃もだめ。砲弾もだめ。となると…)

 

答えは出た。外部からの攻撃が効かないのならば、残るのは。

だが、それはあまりにも危険すぎる。

 

(でも、これしかないよね…)

 

決意は固まった。どれほど危険で、賭けとしか言いようがない一手でも、それしか方法がないのならやってみるしかない。

 

彼女は作戦の概要を仲間に伝える。当然危険だと反対されるが、彼女の意志は固く覆せない上、これ以外方法はないと知った仲間たちは渋々了承した。

 

熊呪霊は動かない。静かにこちらの様子を窺っている。じっくりと獲物を食らう瞬間を逃さないように。

 

手榴弾を投げ込む。着弾と同時に風紀委員たちが呪霊の周りを走り回る。動きながらひたすらに銃弾を撃ちまくる。

 

呪霊は立ち上がり、ブンブンと飛び回る羽虫を振り払おうとする。

だが、その刃が届くことはない。彼女らの目的は戦闘ではなく撹乱。

逃げることに専念して、とにかく相手を疲弊させる。

 

やがて銃撃が収まり、攻撃していた者たちが掃けた後、リーダーが呪霊の前に立つ。

彼女は挑発と言わんばかりに一発。眉間に向かって銃弾を放つ。

当然その弾が通ることはない。だがそれでいい。呪霊の意識を彼女一人に向けさせることができれば。

 

目論見通り、呪霊は彼女に狙いを定めた。目の前の獲物にかぶりつこうと、突進する。

直撃すればひとたまりもない。瞬く間に距離を詰める。

20m、10m、5m、1m………

 

瞬間、地面が爆ぜた。

 

呪霊の意識は眼前の獲物に向けられてた故に。

気づくことができなかった。

地面に転がされていた大量の手榴弾に。

 

意識外からの攻撃。それであっても呪霊に傷をつけることはできない。

しかし、一瞬。ほんの一瞬だけ、奴に隙が生じる。

 

爆煙を掻き分け、今度は彼女が呪霊に突っ込む。

その手に握るのは一個の手榴弾。

 

(外側がダメなら内側から…!)

 

獲物を捕らえるため丸太のような腕を振り回す。

それをすんでのところで避け、大きく開いた顎に向けて手榴弾を放り投げる。

即座に退散。呪霊の体内で手榴弾が炸裂する。

 

「ーーーーーッ!!!」

 

呪霊は体の内側からやってくる激痛に悶え、暴れている。

口から黒煙を吐き、ふらふらと足取りがおぼつかない。

 

だが、それでも。

 

「クソッ……!」

 

この怪物が、倒れることはなく、より一層どす黒い殺意を持って獲物を見据える。

これがダメなら別の策を考えるしかない。彼女は頭を必死に回転させる。なんとか次の策をひねり出そうとする。

 

その時、ピピーッ!と笛の音がグラウンドに響き渡る。

同時に荒ぶっていた呪霊も姿を消してしまった。

 

「訓練終了です」

 

◇◇◇◇◇

 

「はい、というわけで。呪霊制圧訓練、お疲れ様でした。」

 

少し休憩したあと、一ヶ所に集められた風紀委員。

彼女らは悔しそうな表情を滲ませていた。そんな彼女らを見てシオンは労いの言葉をかける。

 

「アレを相手にあそこまで粘れたのは大したものですよ。単純な強さで言えば1級相当ですし」

「1級?」

「ええ。呪霊は4級から1級、特級とその強さで区分されてるんですよ」

 

「通常兵器が呪霊に有効と仮定した場合、1級呪霊の強さは『戦車でも心細い』レベルですかね」

「えっ」

 

それを聞いた風紀委員たちは驚愕する。

 

「いやいやいや…さすがに冗談だよね?」

「本当ですよ。ちなみにこれより上の特級は『クラスター弾での絨毯爆撃でトントン』って感じですね」

 

全員が言葉を失う。それほどの兵器を一人の人間が所有しているという事実。目の前の魔人がどれほど常識破りな存在か改めて気づかされた。

 

「空崎さんは相性を抜きにしても1級を祓うのに十分な実力はあると思いますよ」

「すごっ」

「さすが委員長」

 

「1級クラスの敵にあそこまで戦えるのはすごいことなんですよ。だから勝てなかったと自分を卑下するのではなく、自信につなげてください。あなたたちは強くなれる」

『…ハイ!』

 

元気よく返事する風紀委員たちを見て微笑むシオン。

彼がパチンッと指を鳴らすと呪霊が一つのクーラーボックスを運んできた。

 

「というわけでここまで頑張った皆さんにご褒美です」

 

クーラーボックスを見せつけるように開ける。

中身を見た風紀委員たちは驚愕と喜悦の入り交じった声をあげる。

 

「こ、これは………!」

 

それは子どもから大人までみんなに愛されている物。

それは度重なる訓練で疲労した少女たちにとって天からの贈り物に等しいもの。

そう、それは。

 

『バーゲンダッツだぁーー!!』

 

アイスクリーム。しかも学生には手の出しづらいちょっとお高めな。

バニラ、ストロベリー、抹茶などオーソドックスな味だけでなく期間限定の味もある。

 

それらを認識した彼女らはさっきまでの疲労はどこへやら。

目の色を変えてクーラーボックスに飛び込む。

 

「私バニラ!」

「あっズルい!」

「この限定のやつ前から食べたかったんだよねぇー」

「アイス…食ウ…寄越セェェエエ!!」

「呪霊!?」

 

あまりの変わり身の早さにヒナは呆れた目を向ける。

 

「もう…現金ね」

「まぁまぁ、元気でいいじゃないですか」

「ごめんなさい、みんなのためにわざわざ…」

「良いんですよ。懸賞金で結構貯金ありますし、ぶっちゃけあまり使ってませんし」

 

そう言いながら、彼はヒナに袋に包まれた木製のスプーンを手渡す。

 

「もちろん空崎さんの分もありますよ。何味がいいですか?」

「じゃあ、バニラで」

「あなたたちもどうですか?」

 

そう言ってアコを始めとした模擬戦に参加していなかったメンバーに目を向ける。

訓練に参加してなかった自分がもらっていいのだろうかと遠慮気味になっていたが、やはり甘味の魔力というのは凄まじく、アイスから目を離せないでいる。

 

「まぁ、貰えるなら貰いますけど…」

「私、ストロベリーがいい」

「私はクッキーアンドクリームでお願いします」

 

そうして全員がアイスに舌鼓を打って、今日の訓練は幕を閉じた。




呪霊なのに普通の武器効いてるじゃん、と思うかもしれませんがそこはシオンが上手いことやって呪力のない武器によって負ったダメージをシミュレートするよう呪霊に命令してました。

ちなみに今回の風紀委員たちが戦った呪霊は蝗GUYよろしく術式を持たないため2級で登録されてはいますが1級の強さを持っています。知能はあまり高くないから蝗GUYの方が厄介かも?
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