名も知らぬ刀鍛冶と刀に魅入られた錠前サオリ 作:無銘の刀鍛治
私に刀の術理など全くと言って良いほど備わってなどいない。
自嘲するまでもなく、当然の事でこの命を授かってからの時間は全て大した味のしない食事で身体を保たせ、もはや触れる気すら起きない銃を握り続けた日々なのだから。
「ぐぁ!?」
「血迷ったか錠前!!」
あぁ、だがそれでもこの手に握るもの使い方は分かる。
振るう直前までどうすれば良いのか分からなくても、あの男の意思が私を突き動かすのか目の前に斬るべきと思う銃が愚かにも間合いに入り込むのと同時にぼんやりと眺めていた空に浮かぶ雲の様に──刀をどう震えば斬れるのか分かる。
「そうかもしれないな」
思い浮かんだ通りに刀を動かせばただそれだけで、私を非難してきた奴が持っている銃が綺麗に真っ二つに斬れた。
一切のブレなく、輝きすら見せる断面に恍惚を覚えながらも私は続け様に刀を振るい間合いの外から飛んできた銃弾を斬り伏せる。
敵対行動を見せるや否や、驚きよりも先に攻撃に移る……マダムの教育が行き届いている証拠だろうな。
驚きつつも引き金を引けるという完成された兵士の在り方に憐憫を感じつつも、この刀を受け取るまでの私も同じであった事を思い出し思わず笑みが溢れるが、そんな私を近くで見ていた奴が何の躊躇もなく私に抱きつくと叫んだ。
「コイツはヤバい!!私ごと──」
「あぁ。その判断は間違っていないな。仲間が無事ならという条件がつくが」
「──は?」
一拍置いてドサリと崩れ落ちる音が聞こえ、漸く私が銃弾を斬り伏せると共に彼女達を気絶させていた事に気がついた彼女はガスマスクで隠されていても分かる明確な恐怖の表情を浮かべながら、ゆっくりと私から離れて後ずさる。
既に彼女の銃は斬り裂いている為、此処で見逃しても問題はないのだが──あぁ、そうだな。
「銃を拾われては面倒だ」
「まっ──」
風切り音と共にガスマスクが両断され、彼女は白目を剥いて倒れた。
ヘイローがあるとは言え、万が一にでも殺してしまうのは無益な殺生となる為加減をしたつもりだがこれで出来ているだろうか。
「……マダムの元へと向かう前に騒ぎを起こしてしまったのは不味かったか?」
刀を納刀しながら止めていた足を動かしつつ、少しだけ反省するがやはり彼女達が見慣れぬコレを持っている事にイチャモンを付けてきたのが悪いと思い直し、下らぬ反省をさっさと止める。
「肩に一発受けてしまったな。やはり、私の力量が足りない」
代わりに思い返すのは先ほどの一戦。
思い浮かんだ通りに刀を動かし、全ての弾丸を斬り伏せたつもりになっていたが防ぎきれなかった一発に怯み行動が遅れ、加減の難しい飛ぶ斬撃を使う羽目になってしまった。
万が一が起きると言うのもあるが、そもそもとして飛ぶ斬撃は刀が優れている証拠にはなるが本来の使い方ではない。
便利ではあるが、コレに頼り切りでは銃を持っていた時と何も変わらないのだから猛省しなければ。
「……そういう意味では直接、斬る機会を減らしたのも失敗か。今の私はもっと身体に刀を振るうという事を染み込ます必要がある」
頭で思い浮かぶ理想と現実が違うのは慣れている事だが、この刀を打った男の望みを叶えるのなら理想を現実に起こさなければならない。
そんな事が私に出来るのかは分からないが、あの男は見事に頭の中にあっただけの理想をこうして現実の形に落とし込んだのだからあの奇跡を目に焼き付けた者として、私も成せねばならない事に間違いはない。
「ん?」
ゾロゾロとこっちに向かってくる敵の気配。
あぁ……騒ぎを起こしてしまったのは失敗ではあったが少しばかりの幸運を運んできてくれたらしいな。
「存分に試し斬りをさせて貰うとしよう!!」
そうだな……ざっと、100も斬れば多少は馴染むだろうか。
アリウススクワッドの錠前サオリが謀反を起こした。
そんな報せを受けた時はきっと間違いだと思っていましたが──こうして、目の前で見せられてしまえば疑う事すら出来なくなるというものですね。
「がっ……」
「……115。ふむ、やはり多少は馴染んだな」
私のテリトリーへと最も容易く入って来た彼女を見て先ず思った事それは、『彼女が本当に
それはアリウスの者なら誰でも身に付けている白いコートを脱ぎ、普段も身に付けている姿が見られるマスクを着用していないからなどという簡単な事ではなく、纏う雰囲気と呼ぶものが違うのです。
確かに彼女は私の支配するアリウスにおいて、中々に折れる事のなかった心を持ち合わせていた者の一人ですが、両手で抱えるのがやっとな護りたいと願う者達を得た事で、完全には折れずとも半ばまでは折る事に成功し嘗てほどの強い雰囲気ではなくなっていた筈だ。
──にも関わらず、今目の前でキヴォトスでは珍しい刀を納刀し歩いてくる彼女からは弱々しい雰囲気など微塵も感じ取れず、何か強い熱を帯びた鋼の様な気配を纏っていた。
「……何があったのです」
そのあまりの変わり方に思わず、私の口は疑問を尋ねていた。
「ふっ」
直後に浮かべられる『どうせお前には理解出来ない』と言わんばかりの笑みが、無意識に問い掛けを口にしていたというアリウスの全てを支配下に置き、全てを知っていなければならない筈の私にはあってはならない事実も相まって酷く神経を逆撫でする。
「随分と調子に乗っている様ですが……貴女の大切なお友達がどうなっても構わないのですか?」
「姫達に何かされるのは困るな」
「そうでしょう。大人しく下がるのであれば──「だが、その前に斬ってしまえば何も問題はない」──は?」
一呼吸……予想外の言葉にたった一呼吸だけ息を飲み、警戒が疎かになった。
しかし相手は銃を握らず、私を守る様に兵もまだ配置していたのだからそんな僅かな隙は何も問題がない──筈だった。
「ギャァァ!?!?」
瞬間、感じる熱した鉄を当てられたかの様な灼熱が私の右腕を襲い、認めるのも癪な程に無様な悲鳴をあげながら視線の先で
「「ぐぁぁ!?」」
「……」
たった一呼吸の間に刀の間合いにまで詰め寄って来ていたゾッとする冷え切った表情を浮かべる錠前サオリは私の腕を切り飛ばした動きそのままに、護衛を斬り伏せると、アリウスの鉛色の空に私の血を払い何一つの躊躇も見せず頭部に向けて刀を振り下ろす!!
「この!!」
「ほぅ」
咄嗟に扇子で受け止めれば、何が嬉しいのか全く分からない笑みを浮かべ錠前サオリは無遠慮にも私を足蹴に一度離れる。
「くっ、ぁああああ!!よくも……よくも私の身体を!!」
「不思議な感じだ。マダム、貴女の事は逆らう気が全く起きない程に恐怖を抱いていた筈なのに……今の私にはソレが全く感じられない」
鈍い銀色に輝く刀身に指を這わせながら、切先の先にもはや私など見ていない彼女は頬を僅かに赤く染めゆっくりと刀を掲げる。
「恐怖も後悔も燃やしてくれたのだな」
「何をベラベラと!!」
狂っている!!もはやそうとしか思えない錠前サオリの異常な有り様に、殺すしかないと決め指先に神秘を集める。
やる事は何も変わらないとアリウスの内戦を終わらせた時の様に自分に言い聞かせ、彼女を殺そうとした刹那──キィンっと甲高い音が耳に残った。
「──終わりだ。ベアトリーチェ」
あぁ……自分がズレていく……こんな、こんなところで私は終わる?崇高にすら手を届かせる事もなく?……いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ!!!
「……死にたく……ない……」
私は崇高に……
「思っていたよりも呆気なかったな」
命を斬った感覚は思っていたよりも重苦しくはなかった。
もっと葛藤でもあるのかと思っていたが、やはりこの刀は私のそういった余分を燃やし尽くしてくれたらしい。
「……ただこれじゃあ足りない。もっと……もっと何かこの刀でしか出来ない事がある筈だ」
所詮は人斬り包丁、自分諸共に他者を害する為のものでありベアトリーチェをあっさりと斬り裂いた時点で『刀』としての役割は十分に果たしたと言えるが、ソレはただの『刀』でしかない。
あの男が追い求め、自分すらも炉心にして正しく命を賭して叩きつけたコレが単なる『刀』と同じ事しか出来ない筈がない。
「刀は既に完成している。なら、不足なのは私か」
……アリウスの外に出よう。
もっと沢山の経験を積まなければ私はこの刀の担い手になり得ない。
誰と戦う?
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ホシノ
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ヒナ
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ネル
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ツルギ
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ミカ