「陰陽頭の役割……羽織に込められた名……波紋滴静っていうのはもしかして陽心不滅みたいな事か?」
「……陽心不滅はヒグニの陰陽頭の羽織に込められた名だったか。しかし知るのは陰陽頭だけであり、まだ継子であるお主が知らされている事が不思議だが……まあ、向こうにも考えがあるのだろう。それはそれとしてお主の問いに答えるならイエス、だな」
本来、陰陽頭の羽織に込められた名と役割は継子が陰陽頭になった時に前・陰陽頭から聞かされて初めて知る。故に継子の羽織を纏うトウヤが知っている事を疑問に思ったイズナだが……ヒグニではそういう仕組みに変わったのかもしれないと一応は納得し、トウヤの問いに頷いた。
「……波紋は一滴水面に落ちるだけで生じる。数が増えれば波紋はより広く激しくなる……それを静める事こそがオトワの陰陽頭に与えられる役割。たとえその波紋を生じさせたものが強大であろうと退けんよ」
続けて波紋滴静の意味を答えたイズナにトウヤは納得したが、続いた強大であろうと退けない発言に胸騒ぎを覚えた。
「何も一人でやらなくても……せめて同士である継子や候補生を残しても良かったんじゃないか? 俺がその立場なら最後まで付き合うし、オトワの陰陽師達も同じ筈だ」
「……お主の代弁は嬉しいが、私はそうは思わん。一人でも多く生き残る事が先決だ……それに」
犠牲になるとしたら一人でいい、と言った直後……トウヤとイズナを分断するかのように蒼い閃光が駆け抜けた。
「っ、何だ今の!?」
咄嗟に距離をとった事で閃光に貫かれて死ぬという最悪な結末を避けたトウヤ。先程まで居た場所は抉られており、当たってたらと……身震いした。だがイズナの居る場所と離されてしまった上に少しずつ流されていた。
「いつの間にか周りは無数の瓦礫だし……流されてるし……まるで洪水の後みたいだな……」
このまま流されていればミズハ大陸の水没に巻き込まれずに済みそうだが……トウヤは跳び移れそうな瓦礫を探して辺りを見渡す。
「柳宮が嫌がっても死なせない……絶対に生きて此処から一緒に出るぞ!」
自分を鼓舞し、流されている瓦礫に跳び移り……閃光が飛び交う場所まで向かった。
「……守護する者が破壊する側に回るとはな……何がお主をそこまで怒らせたか……」
イズナは尾から毛を数本引き抜くと五指に挟み込む。そして水柱をあげて現れたものを見て呟く。
「だが、理由はどうあれミズハに災いをもたらすのなら討たねばならん! のう、水幻龍アクナビートよ!」
挟み込んだ毛が摩擦を起こし、火花を散らせる。イズナは手を水平に振り抜き火花を散らす毛を飛ばす。飛来した毛は速度を増し、アクナビートと呼ばれた西洋の龍に突き刺さると爆発する。効いてるのかアクナビートは長い蛇体をくねらせて鳴くと水中に逃げる。
「やはり、ただでは終わらんか!」
水中に逃げた後に起こす行動を幾つか想定して備えるイズナ。その内の1つである死角からのビットによる閃光射出をやり過ごす。これは初見殺しの1つであるがアクナビートをよく知る者なら対処は容易い。イズナもその一人だった事が幸いした形だ。これがトウヤなら完全回避はまず無理で、よくても掠りはするだろう。
「しかし……長期戦になると不利だな……どうしたものか」
何度目かの回避をして別の瓦礫に着地するイズナ。思わず弱音を吐いてしまうが無理もない……フブキなら水面を凍らせて足場を作り、風猫であるおかゆ、リン、レツなら風を巧みに操る事で空中を行き来すれば足場が無くても問題ない。しかしどちらでもないイズナとトウヤは瓦礫という足場を失えば水中という相手の領域の前に蹂躙される事となる。
「……小数により利点は足場を広く多く使える事だが、攻めあぐねるか」
先程と同じように火花を散らす毛を五指に挟み込むが、アクナビートは水中に潜んだままビットを射出してくる。そのせいで追い込まれるのはイズナ側だけになる始末。
「くっ……まずいな、このままでは先に私の方が参ってしまう」
これ以上足場を失う訳にはいかないとアクナビート本体ではなく、ビットに狙いを定めて破壊する方針に切り替えるイズナ。だがそう来ると読んでいたのか尾の毛針が当たる直前にビットが水中に沈みやり過ごす。尾の毛針は彼方に消えていった。
「っ、そう来るか!」
ビットによる挟撃を目にしたイズナは内心でしてやられたと悪態をつく。こうなってしまうと片方を破壊したとしても、もう片方にやられてしまう。最低でも後一人味方が居ればと思うが……トウヤは分断されて行方知らず。助力は期待できない。
「……こうなれば覚悟を決めるか」
深呼吸。尾の毛針の狙いを前方のビットに定めて構える。背後は……完全にかわせたら良し、駄目でも致命傷は避けなければと決意を固める。
「行くぞ!」
投擲、速度を増した事で針と化した尾の毛が前方のビットに突き刺さり、爆破する。アクナビートも分かっていたのか前方のビットは敢えて動かさずに後方のビットから閃光を射出する。放たれる閃光は左胸を貫くルートだ。掠めたとしても肺の損壊は免れないだろう。
ーー凍てつけ!
ーー柳宮、此方だ!
ーーだめ押し、吹き飛べ!
……だが、聞き覚えのある声がすると同時にイズナの背後に氷壁が現れ、腕を掴まれて引き寄せられる感覚に襲われ、ビット自体が暴風により空高く舞った。
「……お主等、タイミング良すぎか」
呆れ半分、感謝半分といった感じでイズナは引き寄せられるまま、水面を凍らせて足場にしているトウヤの胸板に寄りかかる感じで言った。
「間に合ったようで良かった……」
「そうですね。白上が様子を見に来なければトウヤさん流され続けてましたし……」
無事を確認するようにイズナを抱きしめるトウヤと言外に自分が居たおかげだぞというフブキ。あの後、トウヤは瓦礫を渡り継いでいったのだがイズナが足場として使ったのもあって途中で行き場を失って途方に暮れていた。そんな時、避難誘導を終えたフブキが水面を凍らせて来たのと同じく避難誘導を終えたおかゆが空中から状況を把握し、今に至る。ちなみにレツはリンが満足に動けないのと龍宮艦の起動で此処には居ない。
「陰陽頭として覚悟はしていたが……礼は言わせてもらおう。有難う」
「……役割を無下にする気はないが、言わせてくれーー頭は後継者に譲って隠居するまでが仕事だ。出来る限り生きてくれ」
「……肝に命じよう」
そんな事を言われると思っていなかったのかイズナは抱きしめられたままの格好で言った。そして軽くトウヤの腰をタップする。トウヤは抱きしめたままだった事に気づきイズナを解放する。
「……では、皆の者。私に続けーー奴を、水幻龍アクナビートを討つぞ」
イズナの宣誓。トウヤ達は応えるように力強く頷いた。それと同時にアクナビートが少し離れた場所から水面の氷を砕いて姿を現した! そう、決戦の火蓋は切って落とされたのだ!
アクナビートとの決戦に終止符をうった後……
「…………」
何故かトウヤだけがミズハではない大陸の岸部に打ち上げられていた。
「……人、ですか。数日前に起きた嵐にでも巻き込まれたんでしょうね」
そんなトウヤの元に現れたのは……腰まで伸ばした蒼髪に左は赤目、何故か右目に眼帯をつけた少女だった。
to be continue ...
アクナビートってルンファク3のラスボスみたいですね。3飛ばして4をDSでプレイしててボスで出たけど、3に居たのは知らなかった。しかも喋るだと……ちなみに4で初っぱなで負けたのは私だけじゃない筈。ビットやめろ(真顔)
最後のは……分かる人には分かる。
リン=シロコっぽいイメージですが、シロコだけとは言っていない。短篇でもう答えを言ってるようなものですね(白目)
後、最後に急に話しとんだのは仕様。たまに漫画でもある……アレです。詳細は後程明かされるやつです。