9/15...加筆修正。
リュウグウを後にしたトウヤとフブキはフート大陸へ渡る為に港を目指していたのだが……
「うわ、水嵩増してますね……これじゃあ舟がないと港まで行けませんね……」
ミズハ大陸は陸の大半が水で出来ている。その為、水嵩の高低に左右されてしまう。今回は港に続く陸地が水没してしまっているので水嵩が減るのを待つか何処かで舟を調達しなければならない。余談だが舟は大陸内の移動には使えるが大陸と大陸を渡るには船が無いと移動出来ないが単に機能性の違いである。
「なら……どうする?」
「あまり気乗りはしませんが……風猫の力を借りようかと……」
「風猫?」
「はい。隠れ里に住んでるので人目につかず知る人ぞ知る存在ですが……白上の同僚に風猫が居まして……帰省するから遊びに来ないかと手紙を貰ってたんです」
水没した陸地を見つめながら訊ねるトウヤにフブキは何処か気乗りしない感じで懐から肉球が描かれた便箋を取り出しながら言う。
「風猫なら……風を起こして水没した部分を吹き飛ばして陸地に戻せるでしょうし……最悪、風袋で白上とトウヤさんを港まで吹っ飛ばしてもらいます」
「おい、何か今聞き捨てならない事を言わなかったか?」
「……隠れ里まではそんなに遠くないですね。時間は有限ですよ」
「無視か? 無視なのか? 何故、何故何故……?」
吹っ飛ばして、の言葉に言及しようとしたが無視して先を行くフブキにトウヤは虚無顔で何故を連呼した後……慌てて後を追った。
「此処は……リュウグウにもあった滝か? まさか昇るとか言わないよな?」
「龍幻の滝と違って昇っても何もありませんよ? 用があるのはこの先です」
水没こそしていないが随所から水が見え隠れする陸地を進む事暫く……見えてきたのは滝だった。ホップステップダァイの件もあり昇るのかと危惧するトウヤに苦笑したフブキは徐に息を吸い込み……
「おかゆ~ん! 白上が来ましたよー!」
「(うるさっ!? 叫ぶなら前もって言えよ!)」
大きな声で叫んだ。至近距離に居たトウヤは慌てて両手で耳を押さえながら内心で抗議した。
「……出てきませんね。もしかしてまた白上は騙されましたか?」
「……それ以前に滝の音に掻き消されてないか?」
「…………仕方ないですね」
震えながら俯いて言うフブキに最もな事を言うトウヤ。フブキは顔を上げるとホップステップダァイの時と同じく滝を凍らせた。あの時と違うのは滝が凍った事で出てきた通路が有った事。いかにもと言った感じの隠し方だ。
「さて、行きましょうか。流石に遊びに来ないかと誘っておきながら隠れ里の場所までは騙さないでしょう……それならそれで碧崩を御見舞いするまでですがね……ふふふ」
満面の笑みを浮かべて振り返ったフブキにトウヤは怒らせたらヤバイ一人だと密かに脳内リストに刻んだ。
「……フラグじゃないといいな」
ポツリと呟いたトウヤの言葉は凍らせた滝を溶かした事で再び轟音を立てる滝の音に掻き消された。
通路の先には自然に囲まれた景色があり、トウヤは目を奪われた。少し先には鬱蒼とした森が見えるがそれがまた合っていた。
「……何か、落ち着く」
広さはそこまでなく……自然があるだけ。それなのにトウヤは開口一番にそう告げて微かに笑みを浮かべた。目を閉じ、ゆっくりと深呼吸する姿は誰の目から見てもリラックスしていると判断されるだろう。
「確かにこれは……落ち着きますね」
此処が目的である隠れ里だろうがそうでなかろうがフブキはどうでもいいとばかりにトウヤに同意を示すとゆっくりと深呼吸をする。
ーーフブキならきっと来てくれると思ってたよ~
「っ! それはそれは……取り敢えずーー死ねぇ!」
「甘いよ。碧崩なら一連の動作から直撃するまで数秒掛かる。だから避ける暇が……ない!? まさかこれは碧閃ッ!? やばいこれは避けれなーーにゃあぁ!」
騒がしさに薄目を開けてトウヤが見たのは散らばる氷の結晶と何故かヤムチャしやがってなポーズで倒れ伏す紫髪の猫耳少女と笑みを浮かべて仁王立ちするフブキの姿であり、すぐに見なかった事にして再び目を閉じた。
「有言実行ですっきりしたところで……トウヤさん、彼女は猫又おかゆと言って猫のアヤカシであり前に話した同僚の風猫です」
「ご紹介に預かりまして~、風猫のおかゆだよ。気軽におかゆんって呼んでね~」
間を置いて何事も無かったかのように紹介をするフブキと応えるおかゆにトウヤが思った事は緩いだった。ヨシノとはまた違った緩さがあり距離感を間違えたら大変な事になる奴だと密かに戦慄した。
「さて、おかゆん。折角来て早々なんですが……早急に風猫としての力を貸してくれませんか?」
「んにゃあ……急ぎの用事でもあるのかな? でもボクだけじゃ足りないよ?」
フブキが頼み事をするもおかゆは手頃な岩に腰掛けて体を左右に揺らす。早急にと言われてるのにこの態度、協力する気は無いのだろうか?
「頼み事が何なのか白上は言っていないが……よく猫又だけだと足りないと断言出来るな?」
「風猫としての力を貸してと言われたら大体分かるよ。ボク達が頼まれる事は霧を吹き飛ばして欲しいとか崖の向こうに吹き飛ばして欲しいとかだからね~。フブキが頼む程の事だし、何処かに吹っ飛ばして欲しいとかじゃないかな~後、おかゆんと呼んでよ」
そんなおかゆにトウヤは言外に本当は知っているんじゃないかと訊ねるが、返ってきたのは今までの経験から理解してるといったものだった。
「吹っ飛ばして欲しい事は欲しいですが……それは最終手段で、港まで続く陸地が水没してしまっているのでモーセの海割りよろしく風で吹っ飛ばして欲しいんですよ」
「また無茶ぶりするなぁ……ボクに頼まなくてもフブキが凍らせて道にすればいいじゃん……」
「……確かにそれは俺も思った」
どっちの味方ですかとばかりにジト目でトウヤを見るフブキ。トウヤは肩を竦めた。
「港までかなり距離があってアヤカシの白上では保たないんですよ……渡ってる最中にドボンなんて嫌でしょう?」
「確かに嫌だが……おかゆんに水を吹っ飛ばしてもらうのと変わらなくないか?」
「持続力が違うんですよ。それにおかゆんは式ですし……式になった証の五芒星が見えませんか?」
そう言っておかゆを指差すフブキ。ゆらゆらと揺れる尾が二又に分かれる位置に翠色の五芒星が見え隠れしていた。
「……確かにあるな。それなら陰陽師は一緒じゃないのか? こういうのは主人を通すのが筋ってものだ」
「へぇ……式を無理矢理従わせればいいとか考えないんだ?」
「そういうのは嫌いなんでね。俺は関係を大事にしたいんだ。それに無理矢理なんて……愛がないしな」
「何故そこで愛!? ……すいません、言わなければと思いました……愛は大切ですよね」
ネタに走ったフブキだがトウヤの目が変な事言ったか?と訴えているように見えてすぐに頭を下げた。
「……話を戻すが、おかゆんが良いと言ったとしても主人の同意を得てからだ。で、何処にいる?」
「んにゃぁ……君って見掛けによらずすけべぇだね」
「…………は?」
「何処にいるって此処に居なければ家に居るに決まってるじゃん。だったら会いに行こうって事で……愛の巣に押し掛けるなんて……すけべぇ」
にやにやと片手を握り、顎に当てるおかゆ。そんなつもりがないトウヤからすれば焦ると思ったのだろう。現にフブキは冷たい眼差しを向けている。
「……悪いが、そういうのは色ボケイヤラシストピンクコヨーテで慣れてるんだ」
「……ちぇー。その澄まし顔を歪めてみたかったなー」
「し、白上は当然知ってましたよ? トウヤさんにそんな気はないって!」
「そうか(目は口ほどに物を言うと言ってやろうか? 隠せてないからな?)」
分かりやすく残念がるおかゆと信じてましたと言いながら冷や汗をかき、目を泳がせるフブキに内心で責めるだけに留めたトウヤは肩を竦めた。
「……まあ、家に居るのは嘘じゃないけどねーー療養中なんだ」
「療養……怪我でもしたのか?」
「んにゃ。ヤりすぎて腰がね~」
「ヤりすぎてって、え? おかゆん!? 何時の間にそこまでの仲に!? 手紙では陰陽師さんはあれだけ奥手と言ってたのに!」
またしてもにやにやと言うおかゆ。フブキは想像したのか顔を赤くしておかゆの両肩を掴んで揺さぶる始末。
「ま、そういう事で……態々同意を得なくてもボクが力を貸すと言うだけで良いんだよ」
「……確かに、事情が事情だけに会って同意を得るのは難しそうだな。となれば後はどうおかゆんに力を貸してもらうかだな……」
「……やっぱり力ずくで従わせますか?」
「フブキって意外と脳筋思考になりがちだよね……仕方ないにゃあ、そこまで脅されたら力を貸すしかないよね~」
最初はあれだけ渋っていたのにどういう心境の変化だと両肩を掴んでいた手に思わず力を込めてしまうフブキ。五指がおかゆの肩に食い込み、にやけ顔が苦痛に歪んだ。
「いったあああぁ!? 今、本気でやったよねフブキ!?」
「あ……すみませんつい……」
「ついじゃないんだよもおぉ! 攻撃力に全振りしてないかなあぁ!? 痛すぎるからあぁ! フブキ半端ないってえぇ! というかいい加減肩から手を離せよぉ!?」
「……(懐かしいな。まるでさくらとこよりを見てるみたいだ)」
ーーあっちゅ!? おいピンクコヨーテ! これ何入れたにぇ!? 冷たいお茶なのにあっちゅいのはおかしい!
ーーえ~? カプサイシンとスッポンの生き血と……ギンギンマルだよ?
ーー辛みと性欲増加……ってギンギンマルとか洒落にならないにぇえ! あっ、身も心もっあっちゅ!? ああああぁ! 助けてえぇ!
ーーさくら? 居ないと思ってたらまたか……誰が後片付けするんだ?何か強姦現場みたいで嫌だぞこの光景……
ーー同胞、任せました。
ーーちょ待てよ!? 逃げるな! 同性のあれこれの後始末から逃げるな! 俺にやらせるなばかやろおぉ! というか色ボケイヤラシストピンクコヨーテは何処行ったあぁ!
ヒグニでは割りと日常茶飯事なやり取りをフブキとおかゆに重ねてトウヤは寂しげに微笑を浮かべた。
「酷い目に遭った……んで、どうする? 力を貸してあげるけど……もう行く?」
「……そうですね、時間は有限ですし、トウヤさんはどう思いますか?」
「いや、居心地がいいからもう少しゆっくりしていきたい……ダメか?」
「ダメじゃないと思うけど……急いでなかったかな?」
「まあ……良いんじゃないですか? よく考えたら急ぐ旅路ではありませんし……」
おかゆんを弄りすぎた気がする……だが私は後悔していない! 燦然と輝くはキャラ崩壊のタグ!