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「……ご主人様はやっぱり優しいね」
「優しい? もしかしてこの頭を撫でる行為を言ってるのか?」
過去を悔いて、涙が溢れる程だったリンを撫でていたらそんな事を言われたトウヤは落ち込んでたりしたら普通は元気付けるし、これもその一種だと言うが、リンはその普通が出来るのがご主人様だと返した。
「そういうものか(ん? 今サラッと俺をご主人様呼びする理由を告げなかったか?)」
「ん! そういうもの! だからご主人様はご主人様!」
そう言って笑うとリンは二又を器用に動かしてトウヤの腰に輪状に絡ませてきた。トウヤは二又でハートを作るのは分かるが、まさかの手錠ならぬ尾錠拘束に少し驚いたが顔には出さなかった。
「涼風、そろそろ戻るか……って痛いんだが!?」
「ん! んっ! リンって呼んで! 他人行儀みたいで嫌!」
尾錠拘束による締め付けが強くなり堪らず悲鳴をあげるトウヤ。降参とばかりに涼風ではなくリンと呼ぶ事をせざるを得なかった。
「いててて! わ、分かった! 分かったから! ……涼……リン、これでいいか?」
「ん!」
頭を撫でてから遠慮が無くなったというか……これが素なのか……明らかに変わったリンにトウヤは内心で拘束からの強制名前呼びが計算づくだとしたら恐ろしくて泣けるぜ……と嘆いた。
「ん、ご主人様出来たよ」
「器用だな……有難うリン」
草木で編まれた鞘を手渡すリンにお礼を言って帯に鞘を差し、アゾットを納める。なかなか様になってると言われ、頬をかくトウヤ。事の始まりは羽織で包んでるアゾットを見たリンが鞘は持ってないのかと訊ねたのが切っ掛け。レツの墓前は草木が豊富であり、手先が器用なリンが無いなら作ると鞘を作ったのだ。
「……蔓で編んで、聖花を散りばめてるからいざとなればご主人様を守ってくれる」
「……聖花か。それはさぞご加護がありそうだな……というか樋にあった血管みたいな線が消えたんだが……やっぱり呪われてるだろ……」
早速聖花が仕事をしたのか、アゾットの樋にあった線が消えていた。トウヤは愛着心はあったが、それはそれ……と消えた事に安堵していた。今の状態に敢えて名を付けるならーー蔓花の聖鞘・アゾット(封)だろうか。
「……よし、そろそろ戻るか」
「ん」
最早恒例となったお姫様抱っこで里への帰路につく。だが慣れはしないのか二人の顔は赤い。
だが、その赤みを帯びた顔はすぐに青ざめる事となる。二人が着いた時に見たのは変わり果てた里の姿だった。木々はへし折れ、環境や作りが災いして所々が燃焼していた。点々と倒れてるのは里民だろう。
「な、何でこんな……」
「里を離れてる間に何が……っ、取り敢えず生存者を捜そう。白上達の安否も気になる」
「ん、ん……そうだね……」
「しっかり掴まってろ。この惨状での捜索は少しばかり荒くなる」
ショックを受けていたリンを落ち着かせたトウヤは指示を出す。指示を受けたリンが落ちないように首に手を回したのを確認すると捜索を始める。
「……ご主人様、忍者?」
「いや、祓無施……もしかしてこの動きでそう思ったか? これは……訓練の賜物かな。あいつらには感謝しかない……」
倒壊した木を飛び越え、今正に倒れてきた木は跳躍して乗り、挟み込む形で倒れてきた木は右、左と蹴ってジグザグに駆け上り、目の前を塞ぐ大木は重力を無視して逆さまに立つと急降下して着地……そしてまた物凄い速さで走り出す。リンも速さには自信があるが……負けるんじゃないかと思う程だった。おまけにこれだけ高速で動いてるのにお姫様抱っこをされているリンが必死にしがみつかなくても振り落とされない謎の安定感がある。
「……そっか」
リンはそう言うと微笑を浮かべた。トウヤは笑う要素あったか? と内心で思いながらも崩壊する里を駆けていった。
「っ!?」
里を駆ける事暫く。トウヤはいきなり飛来する何かを避ける為にタイミングよく降ってきた枝を蹴って後退。その直後、枝が凍りついた。
「凍りついた……って事は白上か! って何かに引っ張られる!?」
後退した勢いが急に無くなるのと同時に引っ張られる感覚に戸惑う。抵抗は無駄だとばかりにそのまま地面に引っ張られーー否、押し込まれる。
「ぐえぇ……これ、引っ張られてるというより……押さえつけられ……重力か……? なら、白上じゃない……まさか里を滅茶苦茶にした奴か!」
「ん! ご主人様、大丈夫!?」
地面に押さえつけられ、両足が埋まる中でも姿勢を乱さないトウヤにリンは内心で凄いと思いながらも心配する。
「ぐ……リン! ダメ元で何か出来ないか? 例えば重力を相殺するとか……追い風でこの場から吹き飛ばすとか!」
「ん……ん! ダメ……重すぎる! 追い風も試したけど沈む!」
提案を受けて試したリンだが、上手くいかず……焦りを見せる。トウヤはトウヤで体中から嫌な音をするのを感じて苦悶の表情を浮かべる。だがその拷問じみた圧迫はふいに止む。
「ーートウヤさん! 大丈夫ですか!?」
「白上か……もしかして重力を掛けてた奴を倒してくれたのか……助かった」
「ま、まあ……そんな所ですね……無事で良かった……」
「…………ん?」
重力から解放され、座り込むトウヤに駆け寄ってきたのはフブキだった。お礼を言うトウヤに何処かバツの悪そうな笑みを浮かべる。リンはどうしてそんな顔をするのか首を傾げ、幾つか理由を考えて違うよねと首を左右に振った。
「リン? どうした?」
「ん、勘違いというか馬鹿げた考えをした自分がアホらしくなった」
「あはは…………」
お姫様抱っこされたままの状態で首を左右に振れば余程の鈍感でない限りは気にする。トウヤもその例に漏れず気にするが、リンはそう言うだけで何故かフブキは苦笑いを浮かべた上に冷や汗を垂らしていた。
少し経って再び立ち上がったトウヤはフブキに里の状況を聞いた。火はフブキが消して回り、ラウラは怪我人の手当てをしているがおかゆが行方不明らしい。今向かってるのは被害が少なかった位置であり、仮拠点との事。
「おかゆんが行方不明……少し前に見た時の会話は……被害状況を里民から聞いてた……白上、もしかしておかゆんって里の中である程度権力があったりするか?」
「えっと……確か次期里長と言われてた気が……リンは何か聞いてますか?」
「ん……おかゆ姉さんは候補だった。でも兄さんが亡くなったから必然的に次期里長になる……もし、里を滅茶苦茶にした者を見て追いかけてたとしたら……」
「行方不明なのも頷けるか……だけどまだ推測に過ぎない。先ずは生存者に話を聞こう」
この里を駆ける場面をゲームにするならロックマンXのライドチェイサーステージかな……ぶつかればダメ受けて、ライフがゼロになれば死ぬ。尚、それでもお姫様抱っこの姿勢は乱さない。燃え尽きたぜ真っ白にな……