残念ながら、今回はジンネマンさんは出てきません。次回に期待してください。
西暦、日本。
異変は翌週も起こっていた。
1989年1月16日月曜日。
「わーーー!君にやられるー!?」
叫びつつ、先週の
「何やってんだ?真島のバカが伝染ったか?」
向かいの事務机から立ち上がり、暮巳を見下ろす四角い顔と太い眉毛が渋面を作っていた。先輩社員の後藤だ。
暮巳を助け起こそうとしていた真島は一転、後藤に向き直り、「そりゃないでしょう」と情けない顔を作る。
代わりに、暮巳に手を差し伸べたのは、通りがかった若い女性社長、浜子であった。
「大丈夫、暮巳君?昨日、お酒でも飲みすぎたの?」
ボブ、というより昭和臭全開のおかっぱ髪。20代で上り詰めたトップという立場上、行き遅れてしまったハイミス(死語)。
しかし、かわいい。
猫っぽい癒し系の笑みから、『はまこ』をもじって『はにゃこ』なんて愛称も付けられている。
その微笑を浮かべ、倒れた暮巳の手を取った浜子は、引き起こそうとした。
「あら・・・??」
しかし、彼女の体重は軽く、力も足りなかった。逆に、暮巳の方へ倒れこんでしまった。
柔らそうな薄桃色の頬が迫る。浜子の髪は暮巳の顔に掛かり、ストッキングに被われた彼女の膝が彼の股間に当てられる。
それを見た、真島は、
「しゃ、社長!?・・・都外川暮巳ぃぃぃ、覚悟ぉぉぉ!!」
キレた。
そして、その異変はとうとう、社長である
翌日の午後。その予兆とも言うべき現象が起きる。
昼食を外で済まし、会社へ戻った真島は入り口のロビーで奇妙なものを見た。
清掃業者で出入りしている、
カツーン、カツーンと掃除機のヘッドが柱と床の角に当たる度に、木矢良も柱へ頭をぶつけている。
右半分の髪を金色に、 左半分は真っ赤に染色し、口紅とマニキュアも血のように赤く、はっきり言えばケバい女性だった。こぼれ落ちそうな巨乳の持ち主だが、きつい性格と前述の風貌も相まって、『おっぱいお化け』と評されていた。
正直、真島はあまり彼女に関わりたくなかったが、そのあまりに異常な光景は捨て置けなかった。
近付くと、真島の耳に、
「ハマーン様は、・・・ZZを・・・お美しいハマーン様・・・」
呪詛か念仏のように呟く木矢良の声が響く。
思い切って、真島は彼女の肩を揺すった。
「木矢良さん、大丈夫ですか?どうしたんですか?」
まるで、白昼夢でも見たかのような、木矢良は、はっ、とした顔をしたが、次の瞬間、
「私は、・・・猫のキャラ・スーンなんだよっ!」
「え、ええぇぇ!?」
その絶叫。驚愕の事実を告白された真島は、衝撃に空間に表情を張り付かせた。
(いきなり、人であることを否定されてもなぁ・・・。プロゴルファー猿かよ)
テレビアニメの主人公の名言(迷言?)『わいは猿や』を思い出す真島であった。
UC.0089、1月17日。サイド3のコロニー・コア3とアクシズの居住地区だった小惑星モウサが激突したその時の中。
ネオ・ジオン摂政、ハマーン・カーンと《ZZガンダム》パイロット、ジュドー・アーシタは戦っていた。
無重力、真空、宇宙空間。その死の領域との境界を定めるものは、二人が身につけたノーマルスーツしかない。
では、絡み合うジュドーとハマーン、二人の境界を定めるものは?
「ジュドー、私と来い」
「あんたの存在そのものがうっとおしいんだよ!あんた独りで行けばいい」
幾度目かになるハマーンの誘い。それをジュドーは彼女の人格を全否定することで返した。
もしもこの時、女であるハマーン・カーンが倒れ、感情を露にしたのなら、結果は異なるものになっていたかもしれない。
だが、ネオ・ジオンの摂政としてのハマーン・カーンが彼女を奮い立たせた。
「どう言われようと、・・・己れの運命は自分で開くのが私だっ!!」
ジュドーの腹に前蹴りを入れ、その反作用で愛機《キュベレイ》の元へ泳ぐ。
コクピットのリニア・シートに滑り込むや、機体が息を吹き返し、頭部デュアルアイ・センサーは不気味に光る。
「ジュドー・アーシタっ!お前の命、もらった!」
出遅れたジュドーもランドムーバー(ノーマルスーツ用バーニア)を使って、自身の《コアファイター》戦闘機に戻るが、
「動け、動けったら!!」
操縦桿を押し込むも、それはまったく反応しない。
そうしている間にも、《キュベレイ》が肉薄する。
ジュドーは死を覚悟した。
その時!
《コアファイター》から発せられた謎の発光が迫る《キュベレイ》を押しとどめ、それどころか弾き飛ばした。
「なんだ、このパワーは、・・・ああっ!?」
ジュドーを守ろうと、ハマーンの否定を押し止めようとする力。《コアファイター》の中から多くの人の意志があふれ出てくるのを、ジュドーだけでなくハマーンも感じていた。
「な、何だ・・・あれはカミーユ・ビダン?」
その意志の中に、かつてすれ違った青年の影を見たハマーンは怯える。顔面には無数の汗が浮き出て、バイザーの内に玉となって漂う。
狼狽するハマーンをよそに、その光は動かない《コアファイター》の代わりとなって、虚空に漂う《ZZガンダム》の
「う、動け・・・。なんで、私の手が、・・・!?」
《ZZ》の合体を阻止しようと、コクピットの操縦桿を押し込もうにも、ハマーン自身の腕が、手が動かない。光は彼女の肉体すら呪縛した。
「人の想いが、・・・人の意志が力となって、私を苦しめているのか?縛っているのか?
これが、・・・ニュータイプ・・・」
「あなたには見えているはずだ。戦いで無駄死にをした人の意志が」
ハマーンはジュドーの言葉を嘲笑った。
「人は生きる限り独りだよ。人類そのものもそうだ。
お前が見せたように、人類すべてがニュータイプになれるものかっ!!その前に人類は地球を食い尽くすよ」
そう。道はすでに分かれた。お前がさきほど、拒絶した時に!
「そんなに人を信じられないのか!?」
「子供がっ!お前だって私のすべてを否定したくせにっ!!」
ハマーンの激情に《ZZ》は頭部ヘキサゴン砲口に粒子を集束させることで答えた。
「憎しみは憎しみを呼ぶだけだって、分かれっ!!」
ジュドーの叫びとともに、ヘキサゴン砲口よりハイメガキャノンが発射される。コロニーレーザーの出力20%にも及ぶ太い光軸は《キュベレイ》を一瞬で焼き尽くそうとする。
だが、
「ぬうううぅぅおおお!!」
両マニピュレータを前方で交差し、直撃に耐える《キュベレイ》とハマーン。機体を通して現出した彼女の意志が不可分の絶対領域を生みだし、バリヤーとして作用した。
「憎しみを生むもの。憎しみを育てる血を吐き出せ!!」
ジュドーも自身の意志をぶつけながら、照射時間限界までトリガーを引きづめに引いた。
「吐き出すものなど、・・・無いっ!!」
「自分の頭だけで考えるなっ!!」
ジュドーの強い意志が、ハイメガキャノンに憑依し、その威力を極限まで高める。ハマーンの絶対領域ごと《キュベレイ》を背後の巨大な外壁、コア3のそれへ押し込む。激突に《キュベレイ》が外壁内部にまでめり込み、消えた。
《ZZ》の性能をスペック以上に引き出した精神作用は、反作用としてジュドーにひどく疲労を感じさせた。呼吸が荒い。
「今持っている肉体にだけ捉われるから、・・・あっ・・・!!」
《ZZ》の全天周モニター下方。開いた穴の中で光る隻眼。右のマニピュレータを外壁につきながら、半壊した頭部を見せる。這い出てくる《キュベレイ》の姿はジュドーに想像の悪魔を思わせた。
「肉体があるから、・・・ふふふ、やれるのさ!!」
《キュベレイ》は壊れゆくコロニーと小惑星の間を縫うように飛び去った。
ジュドーは一瞬、追うのをためらった。
危険もある。だが彼には、モニターに映る《キュベレイ》の背が寂しげに思えた。
ひとつ首を振り、思いを捨て、《ZZ》は追撃に移った。
(どこだ・・・?どこに隠れた、ハマーン!)
巨大なデブリと言うより、もはや巨大多層構造物となったコア3とモウサの残骸は、アンブッシュするには最適の場所といえる。
その瓦礫の中から、ジュドーは俊敏な殺意を読み取った。
(前っ!!)
コロニーの裂け目から2基のファンネルがビームを放つ。先読みした《ZZ》とジュドーは難なくかわして、ハイパービームサーベルで一閃。返す刀でもう1基も落とす。
しかし、それは隙を作るための牽制攻撃であった。
接近警報が鳴り響いたときには、直上からビームサーベル二刀流の《キュベレイ》が急降下で迫っていた。
「もらったぁぁぁ!!」
「おまえはぁぁぁ!!」
2本のイエローの光軸と、太いピンクの光軸が交錯し、焼き切られた装甲片とパーツが虚空に舞った。
《キュベレイ》のサーベルは《ZZ》の左半身とBパーツを大破させ、《ZZ》の一閃は《キュベレイ》の腰部をなぎ払った。
《キュベレイ》は上・下半身に分断されたが、わずかにサーベルの軌道がそれ、コクピット下をギリギリでかすめたおかげで、ハマーンは蒸発されずにすんだ。
ジュドーの攻撃にためらいが混じったものか・・・。
「ぐっ・・・!」
その一撃を喰らった直後に、脱落し向かってきたモニターの破片がハマーンの左脇腹に突き刺さった。運悪く水平に挿入したそれは肋骨の隙間から、肺にまで達していた。
「ぐ、・・・ぬぬぬ・・・ぐああああぁぁぁ!!」
渾身の力を込め、それを引き抜くハマーン。血沫がコクピットに漂う。
(保って、・・・数分か・・・)
呼吸の苦しさから、ハマーンは自身の運命を悟った。
だが、それでもあの少年、ジュドー・アーシタには言わねばならない。
彼女はサバイバルキットから応急シートを脇腹のノーマルスーツに張り付けると、コクピットハッチを開放した。
果たして、そこには、
「ハマーン・・・」
同様にハッチを開けたジュドーが見下ろしていた。
「相討ちと言いたいが、・・・私の負けだな」
「なぜもっとファンネルを使わなかった!?」
ジュドーの問いにハマーンは自嘲気味に笑う。
「一騎打ちと言ったろ?」
「その潔さを、・・・なんでもっと上手に使えなかったんだ?持てる能力を調和と協調に使えば、地球だって救えたのに!!」
「アステロイドベルトまで行った人間が地球に戻ってくるって言うのは、人間がまだ飛べないって、証拠だろ?」
「だからって、・・・こんなところで戦って・・・何にも・・・」
「そうさっ!賢しいお前たちのせいで、地球にしがみつく馬鹿どもを抹殺できなかったよ。
うっ・・・・・・すべてお前たち子供が・・・」
「お、おい・・・」
呼吸がいよいよ苦しくなる。そんなハマーンの様子を見かねて、ジュドーがハッチから身を乗りだし、手を伸ばすが、
(ふっ、・・・これだけ悪態をつければ、・・・もう満足だ・・・)
ハマーンはもう一度自分を笑った。
「さがれっ!!」
ジュドーを一喝し、《キュベレイ》上半身のバーニアを吹かし後退する。
見る見るうちに背後に小惑星モウサの巨岩が迫る。
「帰ってきてよかった。
強い子に会えて・・・」
衝突の後、電子部品のショート、金属火花を引き起こし、・・・
そして、残っていた推進剤に誘爆した。
私は走馬灯というものを見たことが無い。
それは旧世紀、中国で生まれ、海を渡って隣の国、日本に伝わった。
そして、死ぬ間際に見る光景のことを、日本人は『走馬灯のような』と例えたらしい。
それなら、今、私が見ているのは、まさに、・・・
(ありがとうございます。シャア大佐にほめていただけるなんて・・・)
ツインテールにまとめた赤毛を揺らし、赤く染めた頬に手をやる少女。
(ハマーンって呼んでください)
顔を輝かせて、あの人へ羨望の眼差しを送る。
そうか、死ねば、・・・この身にまとっていた摂政という肩書きや、ジオンの再興というしがらみに縛られなくてすむ。それはきっと、ミネバ様やシャアに押し付けることになるだろう。無責任なことだ。
でも、・・・
それでも、・・・
私は虹の向こうで、あの頃のあの人と思い出の中で一緒にいられる。
今の私にはそれだけで、・・・
リンリンと、仕事の電話が鳴り響いていた。
浜子は窓際のデスクに突っ伏し、うなされていた。
「・・・シャア、・・・ずっと、・・・一緒に・・・居てくれるって、・・・」
「社長!大丈夫ですか!?」
気が付けば、浜子の肩をゆする真島世路の心配顔が覗き込んでいた。
(ん、・・・マシュマー、か・・・?ふっ、・・・そうか。
私もとうとう天国か、・・・いや、無論、ここは地獄であろうな。堕ちたか・・・)
「社長、ひとりの世界にひたっていらっしゃるところ、大変申し訳ないんですが、・・・」
遠い目の浜子を真島がまだのぞきこんでいたが、その表情は先程と打って変わって、笑いをこらえてるようなものだった。頬と口の端が、ピクピク、と細かく痙攣している。
「大事な書類に北米大陸、描いてますよ」
「ほえ?」と間抜けな声をあげ、手元を見ると、大事な書類、ー四半期決算報告書には逆三角形によだれを垂らした痕が、でかでかと残されていた。
居眠りしているうちに、やらかしたらしい。
もわっ、と蒸気でも立てんばかりに浜子の顔が赤くなる。
真島が勢いよく笑い飛ばした。
「アッハッハッハっ!社長、まだ火曜っすよ!?疲れすぎじゃないすか?」
恥辱にまみれ尽くした浜子は、慌てて出したハンカチで口元と書類を拭う。「ぬぬぬ・・・」と赤面一転、歯噛みしながら、浜子は真島を一瞥するが、
「後藤さん、外線2番に
真島の背後、そのセリフを発した青年が視界に入り、彼女は驚愕する。
(なっ!グレミー・トト・・・、貴様っ!・・・・・・??)
柔らかそうに波打つ髪は宇宙世紀の見知った金色ではなく、黒である。しかし、
(あの、ぼややん、とした雰囲気。間違いあるまい)
浜子の『例のあの能力』が都外川暮巳が発するマザコン臭を敏感に察知し、確信する。
「おう」と短く応えて、すぐに受話器を取ろうとする後藤を先んじて、暮巳が言う。
「後藤先輩、るうさんとはどういう関係なんですか?どこまでいったんですか?」
彼の探るような口調と視線には、若干の険が含まれている。
「あのねぇ、・・・彼女とはいい同業者としてお付き合いさせてもらってるよ。
お前こそ流川さんのこと『るう』だなんて、名前で呼ぶような親しい関係だったっけ?」
浜子は渋面を作って答える四角い顔、
(あいつは確か、マシュマーの腹心で確か、ゴットン・ゴーとか言ったか・・・?
いや!そんなことより。何より・・・)
別の人物が廊下から入ってくる。「ちわー、今日もよろしくお願いしまーす」と、やる気があるんだか、無いんだか分からない一本調子の声音の
(キャラ・スーン!お前まで・・・。)
浜子は愕然とし、こめかみに浮き出た嫌な汗が流れ落ちる。
(なんだ、このアクシズ将兵の士気の低さは、・・・。
というか、・・・・・・どこだ、ここは!?)
若い女性が発する明るい談笑と、テレビから流れる音声が浜子の耳に入る。並べた事務用個人デスクの向こうには、簡単な応接間兼休憩所が設けられ、折しも、ブラウン管モニターには
〈レウルーラ事件!!政治家と企業を結ぶ黒い金脈〉
とテロップが流れ、のらりくらりと野党議員の質問を、
『んー、なにぶん昔のことでしてー』
だの、
『記憶にございません』
と、かわす貧相な男の顔が映し出された。
『どうですかね、このレウルーラ社長の、ひる・どうそん、・・・
えー、失礼!
コメンテーターの解説に加え、蛭田のゴキブリのように黒光りするオールバックと、眼下の落ち窪んだ丸い目が、浜子の怒りに油を注ぐ。
(この・・・恥を知れっ!俗物がっ!!)
浜子は心中で叫ぶ。
さらにタイミングの悪いことに、テレビの前の女子社員たちは、茶をしばき、せんべいの割れる小気味よい音を立てながら、他愛の無い会話に花を咲かせている。
「やー、あと3日だねー、金曜まで」
「やよいちゃんは、金曜の夜のことばっかり考えてるよねー」
「やー、だって人生、飲むために生きてるっていうか。もうそれしかないっていうか!」
浜子の怒りが限界を越えた。
ガタッ!
勢いよく立ち上がり、椅子は後ろへひっくり返った。
「うつけがっ!週初めから何を浮かれているかっ!人事部付けにするぞっ!!」
『人事部付けにする』とは、遠まわしに辞めさせる、という意味である。浜子の一喝を受け、談笑していた厚生課の
目を吊り上げ、口を引き結んだ浜子の表情。
そう。まさにそれは宇宙世紀、地球圏をネオ・ジオンの恐怖政治に陥れた摂政、アクシズのハマーン・カーンそのものであった。
そして、ここもアクシズには違いなかった。
アクシズ建設。
東京都内にある建設会社。従業員数50名の中小企業である。
時に西暦1989年1月。
彼らはこれから訪れるバブル崩壊を、生き延びることができるのだろうか?
(次回予告)
(※BGM「アニメじゃな~い?」、ナレーション:
♪デ、デ、デ、デ~ン♪
「アクシズ建設は一般企業だから、中にはできる人物がいます。
休憩になっても演説して、自分の正当性をアピールするなんて、尊敬したいもんだ。
しかし、それが飲み会の強制で、5軒もハシゴしろと言われたら、ごめんって言っちゃう。
飲みすぎると、胃に穴を開けちまうんだぜ。
次回、アクシズZZ『プルトゥエルブ』
うわぁ、妹キャラ、かわいそう」
(登場人物紹介)
グレミー・トト →
ゴットン・ゴー →
キャラ・スーン →
ヒル・ドーソン →
ヤヨイ・イカルガ →
スミレ・ホンゴウ →
ハマーン・カーン →
失敗、すみれがカブった。まぁ、遊びで書いてるんで、おk牧場ってことで。