(※ナレーション:
「(酒で)強化されすぎた真島は、どこか混乱していた。浜子の飲み会がまたひとつの不幸を生んだんだ。そう、黒い三連星が超新星爆発して消えた。ま、ぶっちゃけ、『黒い星』って意味分かんないんだけど。
そして、俺にとって偽妹キャラの麻里も、とっても危ない状況だった」
オデッサから東南東の方角約220キロ、アルムヤンスク郊外。
月が雲に隠れ、辺りはますます闇に包まれた。
深いところから沸くようなドーン、ドーンという地響きがする。それは畑の一本道を疾駆するMSの足音だ。
闇夜のフェンリル隊所属の2機は街の外郭で減速し、膝撃ち姿勢を取る。
《グフ》と《ザクⅠ》。それぞれのパイロットは各種センサーで一通り周囲を探索した後、前進を再開した。先ほどと違い可能な限り足音、駆動音を抑えた隠密行動である。
アルムヤンスクは死んだ街だ。地球降下作戦時、激しい戦闘があった。
かつての街の中心部に近づくにつれ、建物は密集してくる。旧世紀の共産圏にありがちな、マッチ箱のような長方形アパートメントが規則正しい間隔で置かれている。ことごとく、無人だ。
「ねずみが潜んでいそうな臭いがぷんぷんするぜ」
ザクマシンガンの砲口で窓をなめるようにポイントする《グフ》のパイロット、レンチェフ少尉が後方の《ザク》へレーザー通信を送る。《ザク》に乗るマニング軍曹は街に入ってから、
『対MS歩兵ですか? しかし、市街で連中を相手するとMSではもてあまします。歩兵は歩兵同士。われわれは迂回して川岸を・・・・・・』
「断る。見ろ」
レンチェフが前方の路上に付いた真新しいタイヤ痕の画像データを送る。ジオン軍のものではない。
「くるぜ・・・・・・」
レンチェフがつぶやいた直後、タイヤが上げる、けたたましいスキール音がセンサーソナーに捉えられた。100メートル先のコーナーを軍用エレカが飛び出した。その荷台から連邦歩兵が《グフ》に向け、バズーカを放つ。
「当たるかよ、そんなもん」レンチェフがうそぶく。
《グフ》は棒立ちだったが、コーナーリング中に発射された無誘導の砲弾は明後日の方向へ飛んでいった。
そのまま全速で逃げるエレカを《グフ》が猛追する。
「待ってました、だ! マニング援護しろ」
『少尉! 罠です!』
分かりきったことを言う。レンチェフはせせら笑った。
エレカは交差点を猛スピードで左折。追う《グフ》のナイトビジョンは曲がった先300メートルに大きな
減速せずラウンダバウトに突っ込んだエレカは、まるで旧世紀のB級映画並みに横転した。
「くく、こいつはますます本物だ!」
《グフ》はラウンダバウトで急制動。間髪を入れず、ザクマシンガンが火を吹き、一発でエレカが粉砕された。
その時!
《グフ》の後方7時の方角、アパートの内部で閃光が発せられた。割れた窓から飛び出したのは、対MS重誘導弾リジーナ。ラウンダバウトを中心に半円形に取り囲むアパート群、対MS特技兵はその室内で待ち伏せしていた。
しかし、
「甘ぇな」
エレカを撃つや、フットペダルを踏み込んだレンチェフ。《グフ》は上空に飛翔し、3発の誘導弾は足元を行き過ぎた。リジーナのガンナーは《グフ》の姿を見失っていた。
着地するや、そのまま横移動。すぐ脇を別のアパートから発射されたリジーナが擦過し、また外れた。
レンチェフは機体をターンさせ、最初の攻撃があった廃墟アパートに照準。ザクマシンガンの3点バースト射撃を受け、3階建のそれは倒壊した。
「マニング!」
援護はどうした!? と発する前に、回りこんだ《ザクⅠ》のシルエットがモニター正面に映りこむ。
左手のクラッカーをアンダースロー後、ザクマシンガンを両手持ちで構える。クラッカーは《グフ》背後のアパートメントの2階ベランダから突入。発射直前の第三射目のリジーナに誘爆する。窓すべてから白煙と瓦礫が噴き出す。
さらに、ザクマシンガンの水平射撃が畳み掛ける。
《グフ》も横移動しつつ、行軍間射撃。十字砲火に晒されたアパートもすぐに崩壊した。
連邦歩兵は攻撃後即リジーナを放棄、尻に帆をかけて遁走つもりだったのだろうが、そんな間もなく壊滅した。
(うぅ・・・・・・あぁ・・・・・・)
見れば、モニターの下方、最初にレンチェフが攻撃したアパートの地階に瀕死の連邦兵がのたうっている。
レンチェフは彼の目前まで《グフ》を進め、ザクマシンガンの砲口を向けた。トリガーを引こうとして、
「や~めた」
《グフ》の足で踏み潰す。何か嫌な音を立てて、足底から染みが広がった。
「あ、汚れた。チッ! ま、いいかどうせ俺が洗うんじゃねぇし」
『ソナー感! 方位090!』
落胆する間もなく、マニングの警告に即散開して建物の影に潜む。新たな敵はラウンダバウトの東から接近しつつある。その足音を《グフ》のソナーも感知した。音紋照合・・・・・・該当無し。
「来やがったな。連邦のブリキ野郎」
レンチェフも友軍がアジアで実用化された連邦軍MSと、交戦したことを聞き及んでいた。もちろん、『白い奴』のことは言うまでもない。
弾が残っていたが、あえてレンチェフはザクマシンガンを弾倉交換。音を立てぬスローな動作で左手に持ち替える。空いた右手は左腕シールドの裏からヒートサーベルを抜いた。
敵機は先ほどの砲声を聞き、こちらに向かってきているだろう。だが、おそらくレンチェフたちの潜伏地点に気づいていない。無防備に近づいてきたところを、マニングの《ザク》で牽制し、別方向からレンチェフの《グフ》が急襲するつもりだ。
《ザク》にレーザー通信で作戦を送ると、レンチェフは《グフ》を静かに暗い影を選んで進ませた。敵機を背後から襲える位置取りをする。
敵パイロットは練度が低いのか、建物の死角などを確かめもせず、一定のペースでラウンダバウトに向かっていた。しかも、単機である。
(ただの大バカ野郎だな)
《グフ》が潜むビルの向こう側を敵機が何事もないように歩いていく。わずかに機体を進めて、ビル影からうかがうとMSの後姿が見えた。斜め45度で天を突くスパイクが肩から生えている。
(なんだありゃ、《グフ》もどきか?)
にしては、そのスパイクは両肩に1本ずつしかなく、しかも《グフ》のそれよりもはるかに長大だ。そして、後ろから確認できるほど細長い角が頭部から伸びていた。
雲が切れ、月が姿を現す。サブ・モニター表示された高感度カメラの画像を見たレンチェフは失笑を禁じえなかった。
(赤い彗星のつもりかよ)
唐突にその赤いMSは停止した。
今だっ! と言うこともなく先ほどの連携同様、飛び出した《ザクⅠ》がマシンガンを・・・・・・。
放つこともなく、一瞬で光軸に貫かれて爆発した。
すでに、ビル影から回りこんでいた《グフ》もモニターにその散華を認める。
(マニングやられたか。だが!)
赤いMSは半歩脚を後ろへ引くと、《グフ》に左側面を見せた。
「おせぇ!」
レンチェフはトリガーを引く。
しかし、ザクマシンガンは徹甲弾に換装したにも関わらず、肩部を回りこんできた可動式シールドに跳ね返された。まるで、雨粒がレインコートに弾かれているように易々と。
逆三角形のそれはバリアブルシールドとでも言おうか。甲冑の騎士がマントをはためかせる動作に似ていた。
《グフ》の突撃射撃で赤いMSが守勢に回った隙に、格闘戦の間合いに入った。赤熱のヒートサーベルを敵機に向け、振り下ろす。
(頭は潰せる!)
レンチェフは確信する。
しかし、赤いMSはかがむような低姿勢からメインスラスターを焚き、一挙動で接近、ヒートサーベルの間合いを潰す。そのまま、ショルダータックルを食らわせた。肩のスパイクは槍となって、《グフ》の頭部を突き刺した。
頭が千切れ、吹き飛ぶ。機体は尻餅をつくようにビルへ突っ込み、完全に廃墟と化した。巻き上がった瓦礫で、辺りはヴェールがかかったようにかすむ。
レンチェフは悪態をつき、ふてぶてしくモニターをにらむ。
「ぬおっ! この《グフ》が」
白兵でやられるわけにはいかない。格闘能力を強化した《グフ》が!
補助カメラの狭い視界に、ぼんやりと何かが映る。それは《グフ》が握るヒートサーベルと同じ、電熱兵器が発するオレンジの光だった。
レンチェフがフットペダルを踏み、ヘッドレス《グフ》が立ち上がりかけたとき。
敵機が高速の突きを繰り出した。
*
ビームライフルの先端に取り付けられたヒート
引いては突き、突いては引く。超高温の刃は、熱したナイフをバターに刺すがごとく、超硬スチール装甲をうがった。《グフ》を蜂の巣に変えて、ようやくバヨネットのめった刺しは止まった。融解面に接触した伝導液が一気に蒸発し、すさまじい量のもやが辺りに立ち込める。
(いいねぇ。楽しいだろ)
真紅の西洋甲冑を思わせるMS。コクピットのパイロットは、囁く声を聞く。だが、それが彼女自身の脳裏から発せられたものだとは気づいていない。
「なんだか、こうしていると気分が乗ってくるねぇ。そう・・・・・・まるで魂が踊っているようだよ」
霧がかかったような意識で別の自分、前世の彼女とでも言おうか、またその声がする。
(しかし、あんた射撃は下手だねぇ)
「なに言ってんだい! ちゃんと抜き撃ちで仕留めてやっただろ、さっき」
(でも、あのガキが乗ってる《キュベレイ》を外したじゃないか。情けないね)
マニングの《ザク》と
(いつまでものんきに酔っ払ってるんじゃないよ。必ず生き残りを探し出して、打ち首にしてやりな!)
「分かってるって! 私を誰だと思ってるんだい。私は・・・・・・」
*
『おーおー、今度は誰を連れてきたんだ?』
《ガ・ゾウム》の外部スピーカーから漏れるだみ声は
彼の機体は『嵐』の《ガザD》同様可変MSであるが、一見しただけでは両者は似ていない。共通点といえば、可変機であること。そして、類似点として《ガザ》シリーズのメイン兵装を発展させた、ハイパー・ナックル・バスターを装備していることぐらいだ。
「いやー、遅れてサーセン。駆けつけ三杯いきますかぁ?」
『あ、その声は先輩だ。でも僕のロボットの方がかっこいいや』
「おいおい、今日は
赤い塗装、腰部装甲には大きく『龍飛』と漢字が書き込まれ、シルエットはスマートかつ直線で構成されている。
(そういえば、こいつもはざまに来てた、か?)
おぼろげな記憶であったが、暮巳が
『お~い、
『そういや、厚生課のやよいもいないぞ』
闇に沈む濃紺の2機。《リック・ディアス》からは
「どうなってんだ? たくさんいるお」
『だから、こっちが聞きてーって!』
『先輩の銃、かっこいいなぁ。僕のと交換しません?』
「しねーお」
『・・・・・・うッ。げ~』
『お、おい!
『酒飲んで空飛んだりしたから、酔ったんじゃないか? 芝生に吐いちゃえよ』
エライ騒ぎである。
「あれ、麻里は?」
傷害未遂事件以来、麻里を避けていたが、さすがに気になった。
(※真島自身は殺人未遂だと思っている)
『どこ行ったかなぁ? 心配だなぁ。あぁ、僕の麻里ちゃ~ん♪』暮巳が同調して言う。
(・・・・・・確かにものすごく心配だが、お前がここにいる点は安心だ)
何かの時には、グラディウス・レーザーをぶち込んでやろう、と真島は決意した。
『
『
上賀の語尾が闇夜に消え入り、皆の不安をあおる。
「ん、誰かもうひとりいたような・・・・・・」度忘れしたような真島。
『誰かって誰です?』と暮巳。
「アホ! それがわかりゃ苦労しねぇって!」
『他にいたか?』と後藤。
「う~ん」
『無理に思い出すことないだろ。どうせ大したことじゃないって!』気楽な調子の
「そうかぁ? なんか大事な人、忘れてるような気がするんだが」
『大事な人? そんな奴いないよ』明るい声の赤堀。
「え、えぇ~! ほ、ほら、『俗物めが!』とか『生意気な!』とか、『小賢しい!』とか何かと小うるさいさぁ」
『そんな奴ウチの会社にいなかったよな、陸?』
『まったく記憶にございません!』
赤堀の問いに、強く否定する上賀。そして、続けた。
『
ギャハハハ!!!! と、全員が爆笑した。外部スピーカーから轟く大音響は、数キロ先まで飛んでいった。
『上賀さん、ちげーよ。それを言うなら、「365日年中無休24時間営業プレッシャー女」だって!』
後藤の言い様に、爆笑は大爆笑へ変った。メートルを上げている社員たちは、普段の抑圧された不満を噴出させた。
『この前なんか会議でさー』と赤堀。
『「では聞くが、
相方・陸の《リック・ディアス》は同意するようにモノアイを点滅させた。
『あのハイミス、自分がババァ化した完全形態の超高ビー女ということ、理解しているんですかね? 麻里ちゃんならともかく、三十路前で
『はは、無理しすぎだよなー。ひょっとしたら、昔はあれが似合う美少女だったりして』
『ありえない! 絶対にありえない! 幻想ですよ。ファイナルファンタジーですよ!』
(・・・・・・いや、髪形は別にいいじゃん)
真島は心の奥で微妙にフォローする。
いつの間にか、夜風がピューピューと不気味に唸っていた。
『なるほど良く分かった。……これで終わりか? それともまだ続けるか?』
声は、唐突に背後から聞こえてきた。
全員の背筋を悪寒と絶望が走った。
(次回予告)
(※BGM「アニ×じゃな~い?」、ナレーション:
♪デ、デ、デ、デ~ン♪
「グダグダ愚痴ってるもんだから、最悪の事態になった。きっと強化されすぎたんだね。
《ガザ》の嵐どころか、粛清の嵐が始まる。
けど、暮巳が再び目覚める。これは反乱なの!?
しかし、そこに新たな闖入者が!
次回、アクシズZZ『オデッサ(5)』
《ガザ》の微妙な冒険が見れるぞ!」
【来栖麻里に死亡フラグが立ちました】
【真島たちにも死亡フラグが立ちました】
(登場人物紹介)
アポリー・ベイ →
リカルド・ヴェガ →