(※ナレーション:
「やっぱり、・・・・・・
それにしても、早くオデッサにたどり着かないと、時間切れで西暦に戻されちゃう!
オデッサの東75キロ、国立公園内の湿地帯。
黒海北に流れ込む河川。その河口に広がる湿原に、ジオン軍外人部隊の野戦指揮所が設けられていた。
自己完結戦力として、支援部隊を引きずる外人部隊には前線整備要員が存在する。MS整備場、と言っても迷彩シートと支柱を利用した簡易テントである。
そこへ片足を引きずるようにして一機の《ザク》が帰還する。MSに片膝をつかせ、ハッチを開放するや、
「ぬかった。連邦めェ、ビーム兵器を量産してきやがった」
「あぁ! 壊してきたー。下手っぴ、ジェイクぅ。何やってるのよ~」
毒つくパイロットの眼下には、兵士と言うには幼すぎる少女が腰に手を当て、頬を膨らませていた。テクノクラートを思わせる白衣など、どうもMSのメカニックらしい。
「はいはい、どうもすいませんね。どうせ俺は隊長なんかより下手クソですよ。悪ぃ、メイ頼む」
ジェイク・ガンス軍曹が声をかけたときには、早くもメイ・カーウィン嬢はリフトカーのステアリングを握っていた。ビームによって溶断された左脚動力パイプへ整備兵を上げる。
「さすがは、ジェーン姐さん仕込のドラテクだねぇ」
などと呟きつつ、ドリンクパックに口を付けるジェイク。妹を思いやる兄のように目を細めた。
「メイちゃん、何やってるの!? そんなことまでしなくていいのよ」
新たな闖入者の声に、再度視線を下げかけたジェイクだが、突如、コクピットを鳴らす警告音に操縦桿を握る。ドリンクパックが宙に飛んだ。
テントの入り口からのぞく上空。モノアイ光学センサーが敵機を捉えていた。
「逃げろ!」
ジェイクは叫ぶのが精一杯だった。
「危ない!」
メイは誰かに運転席から引きずり出され、押し倒される。
ニーリング姿勢のまま、《ザク》はマシンガンを空に放ち、連邦軍《フライマンタ》戦闘爆撃機は30ミリ・バルカン砲の掃射で応じた。
すさまじい発射速度で繰り出される機銃弾が天幕を引き裂き、《ザク》の装甲に弾け凶悪な火花を散らす。が、それもすぐに止んだ。
ザクマシンガンの120ミリ弾は真正面から《フライマンタ》に命中。機体は四散、大小の火球となって、湿原の闇に沈んでいく。
「大丈夫、メイちゃん?」
堅くつむっていた目を開ける。見知った管制オペレータの笑顔が目の前にあった。
「ユウキぃ! うん、メイは平気だよ。ありがとぅ」
「良かったぁ」
ユウキは安堵し、メイを抱きしめた。温もりを強く感じる。
「どうしたの?」
彼女はぐったりと力なくメイに体を預けている。メイは起き上がりかけ、押し返したユウキの体が横に倒れるのを見た。
「いやぁ! しっかりし、・・・・・・誰かぁ!」
そして、そのわき腹が跳弾に貫かれ、軍服が真っ赤に染まっているのも見た。
「私のことはいい! 君も負傷者の救助に行きなさい!」
「しかし、大佐もけがを・・・・・・」
部隊司令ローデンに肩を押され、秘書官ジェーン・コンティは結んだ金髪を乱して走る。しかし、メイたちのもとへ駆けつけたときには手遅れだった。
「そんな・・・・・・」
横たわるユウキにひざまずく衛生兵に、ジェーンは哀願の視線を送った。
「ご立派でした」
彼は立ち上がり敬礼すると、別の負傷者を探して走り去った。
すでに、二人の戦友を看取った衛生兵は、三人目ユウキ・ナカサト伍長の戦死を確認したところだった。
「えぐっ、・・・・・・うっ、ユウキ、一緒に・・・・・・ひくっ、宇宙に帰ろうって約束したじゃないかぁ。なんで、なんで・・・・・・」
メイの口から嗚咽がとめどなくこぼれる。
*
(うわぁ・・・・・・。な、なんだろう。この、ものすごくシュールな光景は)
《サムソン》トレーラーを改造した移動指揮車の物陰。自分が死にゆく姿を、時空跳躍した中里有紀はのぞき見た。現実感がないことおびただしい。
(確かに、この戦争で私は死んだけど。でも、オデッサではなかったような)
有紀も記憶を取り戻しつつあった。
ともかく、この場にとどまるのは色々都合が悪い。
(ごめんね、メイちゃん)
後ろ髪を引かれる思いで、こっそりと立ち去る。何かにつまずき、
ズテン! ジュッ!
「あつつつつつ!!」
盛大に転倒しそうになって、とっさに手を着いたのは巨大な薬莢だった。
「ジェイクさぁぁぁん! こんなところでザクマシンガンなんて撃つからもう~。ふぅ~、ふぅ~」
手の平に息を吹きかける彼女は、突如、ぶわっ、と額に汗が浮く。
見れば、ユウキの亡骸を囲む外人部隊面々、彼らの視線を一気に集めていた。ビジネススーツ姿の有紀は、不審者以外なにものでもない。
「え、あ、と、その、・・・・・・よし!」
強行突破。勢いに任せて乗り切る。有紀は決意した。
「私、ユウキの双子の妹、ユウカですっ!」
「・・・・・・」と、メイ。
「・・・・・・」そして、ジェーン。
(まずい)
毛根が開き噴出した汗が、顔面をだらだらと流れ落ちるのを感じる。
不退転。攻撃あるのみ。有紀は覚悟した。
「じ、実はユウキとは戦争で生き別れて・・・・・・、サイド3で生きてるって聞いて、こっそりお姉ちゃんを追いかけて。やっと再会できたんですが・・・・・・」とにかく、誤魔化す!
・
・
・
「うわぁぁぁぁん! ごめぇんなさい、せっかく、せっかく出会えたのに、・・・・・・うぅ、ユウキが、おねえさんが、死んじゃって」
(う、うそっ!? 騙せたの? ええぇぇぇ!? ジェーンさんまで! おかしいでしょ!)
隊の実務を取り仕切るやり手のジェーンも、目尻から流れた熱いものを拭っている。
「ユウカさん」
背後から近づいたローデンが、静かに声をかける。こめかみから流れ落ちる血もそのままだ。
「お姉さんの事は残念だった。今、私は哀しみよりも戦争の、運命の理不尽さに引き裂かれそうだ。
サイド2出身の彼女は亡くした家族のことも語らず、独りだった。仇であるジオン軍の中で、自分を殺し、心を殺して、任務に忠実だった。
だが、最後のとき、ユウキ・ナカサトは孤独ではなかった! メイの、コンティ大尉の涙は真実そのものだ!」
(大佐ぁぁぁ、なんですかその一方的に無茶すぎる解釈! 臭すぎます! ああ、もう。なんで誰も気が付かないかなー)
無理言うな、である。この場の有紀以外が時空跳躍を理解できるわけも無い。
作戦は成功だが、彼女の心中は複雑なものがあった。むしろ哀しくなり涙がこぼれた。
その光をローデンは正視できなかった。
*
連邦軍に戦線を押し込まれていると見たローデン大佐は、指揮所を後退させることを決断する。簡易テントは早々に撤去された。
「君も一緒に来なさい。ユウキは責任を持って搬送しよう」
自分の遺体が死体袋に入れられ、運ばれていく様子は、
(たちの悪い冗談としか思えないのだけど・・・・・・)である。
「狭いところでごめんなさいね」
有紀は
「その席はね・・・・・・、あなたのお姉さん、ユウキがオペレータとして、皆を・・・・・・ウッ」
そこまで言って、ジェーンは表情を辛そうに歪ませ、うつむいた。
(いや、だ・か・らっ! もー、いいですって。私のこと気づかないんですよね。忘れた方がいいんじゃないですか? ていうか忘れろ、ユウキ・ナカサトのことは!)
なんだかジェーンの仕草ですら、芝居がかっているように見え、有紀は捨て鉢な気分になってしまう。
やがて、ジェーンは前方運転席へ移っていったが、
「エンジンがかからない? 悪いことは続くものね。別のトラクターを探してくるわ」
ガスタービンの調子が悪いらしい。ドアの開閉する音に続いて、その足音は遠ざかっていった。
(なんでこんなことになっちゃったんだろう)
地元の短大を卒業し、夢にまで見た上京。小なりとはいえ東京の建設会社で、バリバリのOL生活を満喫していたというのに。
ここに来て、宇宙世紀、前世の記憶を(断片的だが)取り戻してしまった。
(こっちの世界に私は未練なんて、・・・・・・)
突如、胸の奥がチクリ、と痛んだ。
(亡くした家族のこと? 違う? メイちゃんたち? うぅん、そうじゃない)
もやもやと、不確かだった思いが形になりつつあった。
(そうか、そうだったんだ、私は・・・・・・。それなら)
有紀は決意した。
そして彼女の目的を達するためにも、まずアクシズ建設社員として浜子に知らせなければならない。
(オデッサの所在を!)
有紀は端末を立ち上げるや、素早く防衛作戦骨子に目を通す。それによると、マ・クベはオデッサ中心部を離れ、西の敵主力方面に移動したと思われる。
(多分、陸戦艇《ダブデ》ね)
有紀は祈る気持ちで、トレーラーの無線のマイクを取った。
「設計課より業務連絡申し上げます! 浜子社長、至急オープン回線をお取りください! 業務連絡、業務連絡~・・・・・・!」
野戦指揮車の大出力で飛ばすが、ヘッドセットに返ってくるのはミノフスキー高濃度を思わせる雑音だ。
(だ、ダメなの? どうしたら)
ふと、有紀の脳裏にひらめいた。地元九州は宮崎で夏の到来を告げる、恒例行事のアレである。
*
『業務連絡、業務連絡~・・・・・・』
最初に異変に気づいたのは、ジェイクだった。不自然な無線内容を《ザク》が受信しなお、
「この声は・・・・・・ユウキ!? いや、妹の方か。何やってんだ!」
騙されていた、というか、勘違いしていたというか。
ミノフスキー高濃度下であっても戦場で強力な電波を出せば、敵に所在がバレる可能性がある。ちなみに、先ほどの《フライマンタ》はたまたま迷い込んだに過ぎない。
《ザク》の外部スピーカーをオンにする。
「今すぐやめろ! そんなことをしたら、・・・・・・」
そこでジェイクは、とある結論に行きかけ先の言葉を飲み込んだ。
「やめなさい、ユウカ! あなた、まさか連邦のスパイなの!?」
ジェイクの言葉をジェーンが代弁していた。別のトラクターを運んできた彼女はトレーラー入り口の取っ手に張り付いている。中からロックされていた。
すぐに腰の拳銃を抜くが、その程度では開錠することなど不可能ということを撃つ前に悟る。
「ジェイクっ!!」
金髪を振り乱して、ジェーンは背後の《ザク》を見上げる。だが、それだけだ。
何をしろというのか?
ザクマシンガンで破壊しろ、とでも?
ユウキの妹がスパイであれば、一刻を争う。すぐにでもやるべきだ。
トリガーに指をかけるジェイクの脳裏に彼女の面影がよぎった。
死の苦痛の最中、仲間の命を救った安堵の色を浮かべた瞳。必死に笑おうとして
迷った。ためらった。実際にはそれは一瞬だった。
「アンテナを破壊して!」
ジェーンの冷静かつ強い口調が現実に引き戻す。トレーラーの屋根に設置された野戦用パラボラアンテナを《ザク》のマニピュレータで握りつぶす。
と、
「う、わっ!」
トレーラーが小爆発を起こした。
(や、やった・・・・・・)
ジェイクはその行為を当然だろうと思う。同時に死んだユウキに対して、一気に申し訳ない気持ちになった。妹は手榴弾か何かで自決したのだ。
「これが戦争だ。許してく・・・・・・」
ジェイクがすべてを呟く前に、夜空にたくさんの花が咲いた。それは信号弾という光の花。鮮やかな彩りは、殺し合いの中で刹那的な光の饗宴を作り出した。
そう、まるで西暦日本の花火大会のような。
それが今だ健在のトレーラーから一斉に打ち上げられたものだと、悟ったときにはジェイクの後悔は、逆に大きな怒りへ変っていた。
「いい加減出てこい! 信号弾の発射機も壊した。もう何もできないぞ!」
《ザク》はトレーラーを激しく揺する。屋根もボディもベコベコにへこんでいた。すでに《ザク》に
「捕虜にするだけだ。殺しはしない」
ジェイクの声は、やや穏やかなものになる。戦友の妹が無事だったことに胸のつかえが取れたのか。
その時!
一陣の疾風が沸き起こり、爆音が辺りをつんざく。
衝撃波にトレーラーは転がり、ジェーンは4メートルほど吹き飛んだ。
《ザク》ですら、圧倒される。オートバランサーのおかげで転倒は免れた。
「な、な、な!」
なにごとかを理解する前にコクピットに警告音が鳴った。センサーが上方の何かを捉える。
機体を反らして仰角を取り、モノアイが空を見上げようとした。
瞬間、急上昇から一転、急降下した
反応する間も無かった。
地上すれすれにホバリングしたMSは、万歳するように直上に向けた両手から光の刃を形成した。
上から下に唐竹割り。
《ザク》の両マニピュレータが溶断され、ドウッ、と地を震わす。ザクマシンガンの砲口はピクリとも動かせなかった。
続く回転斬りで腰から両断された。上・下半身もマニピュレータと同じ運命をたどる。
溶断面から噴出した液体が、また《キュベレイ》を
「殺しはしない。だが今の菅浜子、公国に忠誠を誓った身ではないのでな。許せよ」
(次回予告)
(※BGM「アニ×じゃな~い?」、ナレーション:
♪デ、デ、デ、デ~ン♪
「マ・クベの所在を突き止めた浜子さん。
恨みつらみは分かるけど、・・・・・・。
でも、その凶弾が宇宙世紀の未来だけじゃなく、
西暦も狂わせることになるなんて。
次回アクシズZZ『オデッサ(10)』
一体、これからどうなるの?」