《グレイファントム》が侵入する、その反対の宇宙港では。
『ゲートがすべて閉まっている!《ツシマ》、主砲で穴を開けてくれ!』
先行するMS隊・隊長機の《ジム》から、苛立たしげな口調が艦橋に響く。
うんざりしながら、艦長のヘンケンは、キャプテン・シート肘掛けの通話ボタンを押した。
「ジャック・ベアード少尉、もう少し落ち着け。コロニー内で市街戦をやりたいのか?」
『呑気過ぎだ!スカーレット隊はすでに戦端を開いているんだぞ!!』
「ちっ」と舌打ちしたヘンケンは、
「じきに、開くはずだから・・・」
言いつつ、コロニーの管制官と無線のやり取りをしているオペレーターを見るが、手間取っている様子だ。
「しょうがない。主砲発射用意。ハロウィン隊、砲撃に気を付けろ」
復唱した砲雷長が指示して、《サラミス》級巡洋艦《ツシマ》に装備された6門ある単装メガ粒子砲のひとつが、コロニー端面の宇宙港ゲートのハッチに狙いを定める。
「てぇー」
MSのビームライフルよりもずっと太いピンクの光軸が、4つあるうちの左上のゲートを貫く。
開いた穴がオレンジ色の融解した断面を見せ、それが黒く冷めるのも待たずに、3機の《ジム》が中へ潜り込む。
「なんだ、これ・・・」
その時に、呆けたような声を上げたのは、センサー長だった。「メインに回します」という、彼の言葉と共に正面モニターが分割され、片方にレーダー画面が映される。
《サラミス》級《ツシマ》の6時方向、後方10kmが黒く塗りつぶされ、何も表示されていなかった。
「ミノフスキー粒子の干渉?」
「いえ、違います・・・」
続いて、後方の光学センサーの映像に切り替わる。
「なんだ、これは・・・。誰か説明してくれ」
ヘンケンもセンサー長と同じ声音でつぶやく。
映像は巨大な『無』の空間が広がっていた。真っ黒に塗りつぶされたそこだけ星の光がまったく見えない。
「レーザー測距!急げ」
「ダメです!測定不能」
(ブラックホールが生まれたとでも言うのか!?)
正確な距離の測定ができないが、その『無』の直径は軽くスペースコロニーを飲み込めるぐらいのサイズと思われる。
突然、その中心にまばゆい光が現れた。
ヘンケンの指示を待たず、即座に光学センサーがズームをかける。
それは暗闇に浮いた光の輪であった。
他の光が飲み込まれていく中で、その光輪だけが
その光輪の枠に巨大な手をかけ、向こうの世界から這い出てくるモノがいる。
(なんだ。なんなんだ、こいつは・・・)
ヤギとモグラを掛け合わせ前後に引き伸ばした悪魔のマスクに、ヘンケンは呻いた。
「大至急、ハロウィン隊を呼び戻せ!」
叫ぶヘンケンは、敵性と思われるMSのデュアルアイ・センサーが不気味に光り、背筋を嫌な寒気が走った。
「今日は連邦の俗物共が相手か。お前らならば、おセンチにならなくてすむ・・・。ヒック」
宇宙世紀に混沌をもたらす、最強にして最恐の酔っ払いの登場である。
麻里はコロニーの中を突っ切って逃走するつもりだったが、《ザクⅢ改》を曳航して飛翔したのがまずかった。
「ダメ!追いつかれる」
後方モニターの映像を正面の別枠に映すと、人工太陽が消えた闇の中をスマートなシルエット、4機の蒼い《ジム・スナイパーⅡ》が追撃する姿が見える。
彼らがマニピュレータに装備するビームライフルは麻里たちだけでなく、コロニー住民にとっても危険極まりない代物である。狙撃仕様の頭部バイザーを下ろしているところから、すぐにでも攻撃される可能性がある。
(人がいないとこに、・・・)
麻里は思いつつ、目を全天周モニターのあちこちに走らせる。
(あった!)
視線の先に、植林された広大な敷地が見えた。
「
《ザクⅢ改》と離れた《キュベレイ》が鮮やかな縦ロールで地表に迫る。
『お、おう。・・・ん?なんか見覚えある、か・・・?気のせいか・・・』
そこは真島が先ほど墜落した森林公園であった。
上空から追撃する《ジム・SPⅡ》は木々の切れ目に一瞬見えた《キュベレイ》のデュアルアイ・センサーをとらえる。
間髪を入れず、右手が握る大型ビームライフルが連続的に光軸を放つ。
だが、暗い常緑針葉樹林の中に潜むMSに当たるものでもない。
本来、長距離狙撃にも使用可能なその出力は、コロニーの隔壁を貫通し宇宙空間にまで到達した。
複数の開いた穴から急激に負圧が起こり、暴風ともいえるそれは懲罰部隊の負傷兵を、次々と虚空に飲み込んでゆく。
「中でそんなもの使うんじゃない!」
激昂する麻里がサイコミュを通して攻撃を命じる。森の中からファンネルが飛び出し、《ジム・SPⅡ》の正面を3基がうるさく飛び回った。
《ジム・SPⅡ》のパイロットは咄嗟に右側頭部
しかし、そのファンネルは牽制に過ぎなかった。
バルカンの火線が空飛ぶ移動砲台を追っているうちに、別のファンネルが《ジム・SPⅡ》の側面に回り込んだ。
イエローの光軸に横から撃ち抜かれた機体は、コクピットが蒸発。融合炉を暴走させることなく、木偶人形となって空間に揺らめいた。
「次っ!」と言いつつ、視線を移した麻里は《ザクⅢ改》と別の《ジム・SPⅡ》が組み付き、きりもみしながら、地表に向かうが見える。
「
悲鳴に近い麻里の呼びかけに真島が応えるように叫ぶ。
「パイルドライバーぁぁぁ!」
激突直前に《ジム・SPⅡ》から離れ、真っ逆さまに地面へ叩きつける。機体は頭部から柔らかい土に突き刺さった。
麻里ほどの腕ではないが、真島も中々の縦ロールで《ザクⅢ改》を引き起こすと、地表近くにホバリングさせる。
「飛び道具がなくても、俺って結構やれるな!」
兄、そしてマスターと慕う真島の勇姿に麻里は微笑む。その心を、ざわり、とさせる敵意がのしかかってきた。
突っ込んできた3機目の《ジム・SPⅡ》が頭上から振り下ろすビームサーベルを、脊髄反射とも言える高速で形成した《キュベレイ》の同じ光刃が押し返す。
Iフィールドという檻に閉じ込められたメガ粒子同士が干渉し、激しいつばぜり合いを演じる。
「まとわり付くなっ!!」
罵りながら、麻里はもう片方のマニピュレータにもサーベルを形成するや、《ジム・SPⅡ》の腰部を横殴りに切り払う。
《キュベレイ》が上方の安全圏に逃げたとき、木々を吹き飛ばして《ジム・SPⅡ》が誘爆した。その爆発は先ほどビームライフルによってコロニーに開いた穴をさらに拡大した。
最後の《ジム・SPⅡ》が墜とされるのに、さほど時間はかからなかった。
「スカーレット隊、全滅!」
(なんてこった!敵を押し出すどころか、今、肉薄されたら・・・)
オペレーターの悲痛な叫びに、スチュアートは肘掛けにのせた拳を握り締めた。
メガ粒子砲や対空砲座を備えた《グレイファントム》とはいえ、高機動の敵MSに懐へ入られてしまえば、沈められるのは必至に思えた。
「敵の様子は!?」
「隔壁に穴が開いた模様。霧が発生してよく見えません!」
「至急《ツシマ》に支援要請!」
「ダメです!コロニー内の上、ミノフスキー粒子も干渉しています。一切通信できません!」
今、すぐにでも《グレイファントム》の前に広がりつつある白い霧の中から、敵MSが姿を現してもおかしくない状況だった。
「180度急速回頭、機関増速!外へ退避する。後方監視、厳となせ!」
スチュアートの命令は尻尾を巻いて、逃げ出すことを意味していた。
狭い宇宙港を《キュベレイ》が先行し、《ザクⅢ改》が続く。
常識的に考えれば、連邦軍のMS隊がやってきた方角の港に母艦がいる可能性が高く、麻里と真島は反対の港から脱出しようと急いだ。
前方の視界に開け放たれたままのゲートがモニターに映る。
(でも、・・・罠かもしれない)
麻里は思う。
「
『おう』と短く応えた真島を残し、増速しつつ《キュベレイ》はゲートをくぐった。
宇宙に出るや、鳴り響く対物感知センサーの警告音。
衝突の危険に麻里は慌てて急制動をかける。
「な、なんだ、これは!?」
センサー・ディスプレイもデブリの多さに真っ白に染まっていた。
それは沈められた宇宙艦船だった。推進剤か、武装にでも被弾したのか、バラバラにされており、原型をほとんど留めていない。
サーマル・センサーはデブリがまだかなりの熱を保持していることを感知した。
(まだ沈められて間もない・・・誰が・・・)
ふと、空間に留まる麻里の《キュベレイ》の背後、艦の装甲片の影から、白いシルエットが
(っ!・・・しまった!!)
宇宙に
しかし、直後に殺気を感じ取った彼女は即座に、左袖口からビームサーベル・グリップを引き出す。
左右のバインダーをそれぞれ前後逆方向に噴かして、急回転。
勢いのままイエローの光刃を後方へ叩きつけた。
その白いMSが同時に振るった、同色の光刃が干渉し合い、虚空を揺らめかせ弾けた。
『さすがだ、麻里』
「あ、・・・は、浜子社長」
白い《キュベレイ》がビームサーベルの光刃を収めた。
その姿とオープン回線の声に、麻里は次の攻撃を中止した。
『余興だ。許してほしい。真島は見つかったのか?』
ちょうどその時、のんびりと《ザクⅢ改》がゲートから出てくる。
『うわぁ、社長、今回もまた派手にやった感じですね』
『連邦にかける情けなどない』
のほほんとした真島に、
『しかし、・・・MS隊と艦は容赦なく墜とさせてもらったが、』
浜子の《キュベレイ》の前方に、デブリとなった装甲片が慣性で流れてきた。MSの肩部装甲らしく、ハロウィンのカボチャ頭をした《ジム》の絵がコミカライズに描かれている。
《キュベレイ》は
『裸足で逃げ出す相手まで殺すつもりはない』
その先に、小さな
やや柔らかい口調になった浜子が続ける。
『しかし、お前たち二人がデキていたとは知らなかったぞ。例の事件でやっぱり何かあったのか?』
「い、いえ、そんなんじゃ・・・」
『おっさんぽいっすよ、社長。そういう冗談は面白くないですから』
うわずった麻里の声と憮然とした真島のそれが対照的であった。
やがて、開いた時空の扉に3人は吸い込まれていった。
幸運にも、コロニー住民の人的被害は最小限だったが、他方連邦軍は戦死者・行方不明者642名、負傷者257名という大損害をこうむった。
(行方不明者が多いのは、大隊規模の懲罰部隊の大部分が宇宙に飲み込まれたためである)
しかし、今作戦の性質上、全てを公にするわけにはいかない。情報統制と世論操作が行われ、この事件は公国軍残党によるコロニー襲撃、通称『グローブ事件』として喧伝されることとなった。
一方で、この出来事はジオン残党討伐と一年戦争で疲弊した連邦軍を再建させるためのあらたな計画を加速させることにもなった。
ガンダム開発計画。一連の開発予定の機体はイニシャルをとって、GP(Gundam Project)シリーズと呼ばれる。
事件により、テストパイロット候補の筆頭を失った連邦軍とガンダム開発元のアナハイム・エレクトロニクス社は別の者にその役割を与える。
2ヵ月後。
UC.0080、10月31日。サイド6、リボーコロニー。
半年もの間、無職を続けて両親と同居しているその女性の日課は、朝の新聞をポストから取ってくることだった。
朝のさえた空気が、すらりと伸びた太ももをなでる。
玄関から靴もサンダルも履かずに飛び出した彼女は、長いストレートの赤毛をなびかせて、ポストの開閉口をつかんだ。
「とーちゃくー」
その口調と表情は22という年齢に似合わず、幼い。
しかし、普段ポストにはない新聞以外の郵便物を見た彼女の顔は、急に兵士のように引き締まる。
封筒の角に印刷された、『E.F.S.F.』のアルファベットと錨型のロゴ。裏の差出人は、『ジョン・コーウェン』。
「なにやってるの、クリス!?またそんな格好で出て!」
玄関口に出た母親が、娘の痴態に目を剥く。
振り返ったクリスチーナ・マッケンジーは、上はシャツ一枚、下はショーツだけのまま、ペロリと舌を出して家に舞い戻った。
西暦。東京郊外のアパート・ジンネハイツ。
外でスズメがチュンチュンさえずっている。
目覚めた真島は勢いよく、上掛けのシーツを引きめくった。
しかし、彼の隣には誰もいない。むしろ、ほっ、とする真島であった。
「ふあ」とあくびしつつ、窓を開け、ショートホープに火を付ける。
その時、アパートの外廊下を、ドタドタとした足音を響かせた後、部屋がノックされる。
「開いてるよ」
と、言った直後に真島は今日が土曜であることを思い出し、舌打ちした。
(ちぇっ、アパート掃除かよ・・・)
さしずめ、住人の誰かが下りてこない真島を起こしに来たに違いない。
ガチャ・・・
「真島さーん、遅いよー。早く来てー」
やはりそうだ、・・・が。
真島の部屋の扉を開けたのは、腰に手を当てた若い女性だった。二十歳前ぐらいだろうか?明るい茶に染めた髪を、幼児がするように三つ編みにしている。ジーンズのオーバーオール姿と相まって、年齢よりも幼く見えるのではないかと思えた。
いや、しかし、そんなことより・・・
「あの、失礼ですが、どちら様でしょう?」
真島のかしこまった声に、きょとんと目を丸くした彼女は次の瞬間、吹き出した。
「・・・プッ!アッハハハハ!真島さん、面白すぎー」
「おい、何やってんだ」
横から大家の神根も顔を見せる。
「真島さん、私のこと分からないんだってー!」
「お前、大丈夫か?シンナーでも食ってるのか?」
問いかけられても、会話に食い込めない真島はマヌケな表情のままだ。
ひとつため息をついて女性が言う。
「私は
一瞬の沈黙の後、
「えええぇぇぇ!!??」
真島の口から絶叫が迸った。
「ぜっんぜん、わかんねーよ!!神根さん、分かるよーに説明してくれ。来栖麻里がこの三つ編みの人になっちゃったんかい!?」
「おいおい、本気でヤバいぞ!頭でも打ったのか真島!!養女とはいえ、・・・
「真島さん、昨日ちょっと飲みすぎたんじゃない?」
三つ編みの真里は少し気味悪そうな、微妙な笑みを浮かべていた。
一方、ひげ面の神根は眉間にシワをよせながら、部屋をぐるりと見回して言う。
「むしろ、この前みたいに
「だからっ!真島さんみたいな紳士がそんなことするわけないって、何度も言ってるでしょ!!あれは何かの手違いか、事故よ」
例の事件を事故で済ますのは、どうかと思うが、・・・神根真里は父親のあごひげを引っ張った。
ちょうどその時、
「いつまで遊んでいるんだよ!私たちに全部やらせるつもりかいっ!?」
階下から苛立たしげな少女の声が部屋まで響く。
「ごめん、
あ、それと家賃の払いを
いいね、父さん?」
「ん、・・・・・・うむ。
しかし、
神根があごひげをさすりながら、三つ編みの娘に続いて階下へ去った。
ひとり残された真島はのろのろとズボンを履いて、何度も首を傾げながら外に出た。
無人のはずの真島の部屋でわずかな衣擦れの音が起きる。
押入れの中からだった。
そこに隠れた少女は、真島のシャツの胸に当たる部分を鼻にあて、その残り香を嗅いでいた。
「マスタ・・・。ううん、・・・お兄ちゃん」
(次回予告)
(※BGM「アニメじゃな~い?」、ナレーション:
♪デ、デ、デ、デ~ン♪
「
それが
結局、宇宙世紀に行くしかないって、
それが困る~。
次回、アクシズZZ『ガルマ・ザビ(前編)』
いい音色だろって、何がよ?」
【スカーレット隊は全滅するというジンクスが生まれました】
【ヘンケン・ベッケナーは艦を沈めるというジンクスが生まれました】
【ガンダム開発計画が一年前倒しになりました】
【真島に何となくフラグが立ちました】
(登場人物紹介)
マリィ・ジンネマン →
スベロア・ジンネマン →
(あとがき)
ダメだなぁ・・・・・・。折角、浜子がサラミスとやりあう土俵を用意しても書けない・・・・・・。
そして、ダブルまりになっちゃったよ(汗。これは書いてても注意しないと、間違えそうなレベル。読者様は書き手より混乱しそうだから、ルビ振り必至ですな。
統露と書いて、スベロアと読・・・・・・めねぇよ(汗。でも、そのまま変換すると、『術路亜』とか『須辺呂阿』とか。どこのキラキラネームだよ!いや、統露も十分、キラッ☆としてると思うけど(汗。こう見えて、結構大変なんです。だから、読者様が時々、感想でぽろっと出してくれると、「いただきっ!」となります。
本来、マスターに依存するプルシリーズが、逆に主の方をぐいぐいリードするなんてことはありえないと思うんですが、そこは別の人格と融合してるってことで勘弁してください。
というか、指示待ちの依存症だと、話が書きにくかったと言うのが、本音(汗。
ラストシーン、読み直すと、むしろ怖い。押入れに潜んでいるとか、・・・・・・。