企業戦士アクシズZZ   作:放置アフロ

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 ちょっと辛くなってきたんで、文字数を一話7000~9000文字前後だったのを、一話5000文字前後に変更します。
 ひょっとしたら、元に戻すかもです。


8 ガルマ・ザビ(前編)

 西暦1989年、東京。

 地下鉄有楽町線、月島駅から徒歩10分。隅田川河口と運河に囲まれた埋立地にその高層ビルはあった。

 佐備(ザビ)建設東京本社である。

 その高層階、九部 真(マ・クベ)専務の個室では秘書の浦賀(うらが)がせっせと壺やら皿を磨いていた。

 突如、室内に響く硬質な音。

 

「いい音色だろ?」

 

 豪華な革張りチェアーに腰掛けた九部が手にした白磁の壺、その首を指で弾いたのだった。

 

「はぁ。良い物なのですか?」と浦賀。

「北宋だな」と九部。

 

 その鑑定にも、太い眉を横一文字にした浦賀は、(ふーん)という感じである。

 

「私はな、浦賀。毎朝、このコレクションをあの娘に磨かせようと思う」

 

 それを聞いて浦賀は目尻を少し下げる。自分のくだらない仕事をその『娘』がやってくれるかもしれないからである。

 

(っていうか、職場に有田焼の大皿とか持ち込むなっ!邪魔でしょうがないわ!!)

 

 浦賀はポーカーフェイスで(割ってやりたいわっ!)と思う。だが、同時に新たな疑問も沸く。

 

「あの娘といいますと?」

菅 浜子(ハマーン・カーン)。気が強いところも・・・・・・良い」

 

 浦賀は、キスでもするかのように飛び出した九部の唇に、鳥肌が立った。

 

「いやむしろ、・・・・・・あの娘を『コレクション』に加えるといったほうが正しい、か」

 

 九部は始業開始時間まで、延々と手にした白磁を撫で回していた。

 そう。まるで女の肌を愛撫するかのように。

 

 

 

 10月4日。雨。

 鳥ノ宮駅に向かうタクシーの中で、アクシズ建設社長・菅 浜子(ハマーン・カーン)と総務課長兼秘書の入谷 はこべ(イリア・パゾム)は打ち合わせをする。

 親会社の佐備建設の重役ともなれば、私用同然で社有の黒塗り高級車を特権的に使用できた。一方、アクシズ建設の社用車は現場視察用の商用バンばかり。そのバンも今日は朝からフル稼働で出払っていた。

 

「・・・・・・新規プロジェクトの概要はそんなところです。どれだけウチが食い込めるかが鍵ですね。・・・・・・ただ、」

 

 珍しく入谷の歯切れが悪い。

 

「何か?」

 

 背を押すように浜子が促す。綺麗な入谷の眉が歪んだ。

 

「佐備が、・・・・・・単価下げろ、と」

「またか!」

 

 ここ数年、都内は高層マンションを筆頭に建築ラッシュが続いていた。地価はうなぎ上りに暴騰。将来的には、『庶民は東京に住めぬ』とまで囁かれていた。

 そんな状況であるから、他社では『建築単価を上げろ』とまで言わなくとも、『ああ、それでいい。やってくれ』とドンブリ勘定の見積もりでもすんなり通る案件が多い。

 にもかかわらず、佐備建設は下請けのアクシズ建設に対して、嫌がらせとも思えるほど厳しいコスト削減を求めてきた。

 さらに、浜子の頭を悩ましている問題がある。メインバンクとの関係。ようは金である。

 どうも裏で佐備の重役が銀行に圧力をかけている噂があった。その噂の影に見え隠れする男が・・・・・・、

 

「実は、・・・・・・あの男、佐備建設専務の九部 真(マ・クベ)が私に、・・・自分の、女になれ、と・・・言ってきました」

「なっ!?」

 

 ぐっ、とトーンを落とした入谷の声に、さすがの浜子も二の句が続かなかった。

 

(あの男、・・・・・・私のみならず、入谷にまで、・・・・・・)

 

「しかし!私は骨の髄まで菅 浜子社長とアクシズ建設に忠誠を誓った身。それを捨てることなどどうしてできましょう!」

「入谷・・・・・・」

「かくなる上は。・・・・・・社長、命令してください。ダンプで突っ込んで、佐備の奴等にカチ込みます!」

「ちょっ、ちょっと!落ち着くのだ入谷 はこべ(イリア・パゾム)!」

 

 浜子はさすがに、タクシー運転手を気にした。先ほどから彼は、チラチラとルームミラーでこちらをうかがっている。

 

「そんなことしたら、本当に捕まるか、死んじゃうでしょうが!」

 

 それは、・・・・・・昔は私だってアクシズをゼダンの門にぶつけたり、コロニーをダブリンに落としたりもしたけど、・・・・・・。それはシャアの言葉を借りて言えば、『若さゆえの過ちというもの』では済まされないし、『認めたくないもの』と言っても認めなければいけないと、最近は思っている。

 

「入谷。お前の気持ちは分かる。だが、まだその時ではない」

「しかし、このままでは資金繰りが、・・・・・・

 社員の首を切ってる時間なんてありません。アクシズそのものが、・・・・・・」

 

 その先の言葉を、ぐっといい淀む入谷。

 太いため息をつき、つぶやいた。

 

「せめて、駆馬さんがご存命でしたら、ここまで佐備グループ(ザ ビ 家)の仕打ちも酷くなかったでしょうに・・・・・・」

 

 佐備 駆馬(さび・かるま)。彼は佐備建設先代社長、佐備グループ現会長の佐備 定義(さび・さだよし)の四男にして、次期社長と目された男である。不幸にも彼は10年前、アメリカ、シアトルの飛行機事故で行方不明となった。

 彼の後を継いだのが、定義の次男・佐須郎(さすろう)である。しかし、建築業が好きではなかった彼は、就任間もなく極左ゲリラの爆弾テロに巻き込まれ死亡。現社長の岸 莉愛(きし・りあ)は佐須郎の元・配偶者である。

 彼女は低迷する佐備建設をグループ内で一、二を争う利益をたたき出す組織に建て直し、その手腕を認められて、あっという間にトップへと上り詰めた。

 次期政界入りも囁かれる女傑である。

 そして、この岸 莉愛(きし・りあ)の子飼いの部下が九部 真(マ・クベ)であった。

 

(私は・・・アクシズ建設を利用して佐備グループ(ザ ビ 家)を見返したいだけだ)

 

 浜子は表情を曇らせながら、流れる車外の風景に目をやる。

 

(そんな、アクシズでも、・・・私のために潰すわけにはいかない。社員たちを路頭に迷わせるわけにはいかない!)

 

 浜子の脳裏にふと、『かんぱーい!!』と威勢よくジョッキをぶつけ合う真島 世路(マシュマー・セロ)五十川 やよい(ヤヨイ・イガルガ)のダメ社員コンビの顔が浮かんだ。慌てて浜子は首を振り、それを追い出す。

 

(いやいや、あいつらは論外にしても、・・・・・・。

 中卒夜学勤労少女の来栖 麻里(マリーダ・クルス)。親元の九州から遠く離れて頑張る中里 有紀(ユウキ・ナカサト)。それに入谷(イリア)。それだけではない!

 頑張る社員たちの気持ちを裏切るわけにはいかない!

 ならば、私一人が全てを背負えば。それで済むのであれば、)

 

 浜子は決意する。

 

(私も姉さんと同じ道を行こう・・・・・・)

 

 宇宙世紀で浜子(ハマーン)の姉、マレーネ・カーンはドズル・ザビの妾にされた上、銀河の果てで死んでいった。

 浜子の瞳に映るサイドウインドウを滴る雨だれ。彼女にはそれが流れ落ちる涙のように見えた。

 

 

 

「いやー、やっぱ、やよいマジ面白いわっ!」

 

 ほろ酔い加減で一人呟きつつ、この日もアクシズ建設営業課の真島(マシュマー)は居酒屋はざまの暖簾(のれん)をくぐる。

 彼は先ほど厚生課のやよいと一緒に新宿、靖国通りの横断歩道を渡りながら、

 

「「コマネチ!コマネチ!コッ、マッ、ネッ、チッ!!」」

 

 と連発していた。すでに二人で2軒ほどハシゴした後である。

 

「いらっしゃいませー♪」

 

 はざまには例によって、どう見ても未成年の栗毛の店員さんと、冷酒のグラスを挨拶代わりに軽く上げる浜子がいた。

 真島は席に着き、

 

「えーと、じゃぁ・・・・・・ハイボールとキムチでいいや」

「はーい、ハイボールフロートとキムチパフェですねー」

「全然ちげー!気持ち悪いわっ!!」

 

 真島の「きみ、注文聞いてた?」というセリフを無視して、小さな店員さんは「プルプルプルプルー♪」と奇声を上げながら、厨房に駆け戻っていった。

 

「なんなんすかね、あの店員?大家んとこの自由すぎる三姉妹にそっくりなんですけど。アハハ・・・・・・」

 

 真島の乾いた笑いに反応がない。いつもの詩人モードの浜子であれば、

 

『こんな店に入った己の身を呪うがいい!』

 

 だとか、

 

『客の都合というものを洞察できない店員は、排除すべきだ! 』

 

 とか、半分意味不明ながら、頓知(とんち)の利いたセリフを言ってくれるはずだが・・・・・・。押し黙った浜子は、グラスの淵を指先でなでている。

 いや、何か口ずさんでいる。

 

「・・・・・・♪やさしいめをしたおとこに、あ~い~た~い~♪」

(男かよっ!社長も欲求不満、たまってるなぁ・・・・・・)

 

 真島は苦笑に顔を引きつらせたが、次の瞬間、

 

(えっ!!??)

 

 もの哀しい浜子の横顔。閉じた瞳から一筋の涙がこぼれ落ちるのを見た。

 

「どっ、どうしたんすか、社長!?何か、あったんすか?」

 

 思いのほか大きな声の真島に、浜子もやや驚きながら彼を見た。

 その瞳がまだ潤んでいた。今さっき以上に真島は、どきっ、とする。

 すぐに自分を取り戻した浜子はその表情を隠し、不思議な笑みを口元に浮かべて言う。

 

「いや、実は私は社長を辞めることになった」

「なっ、なんですってー!?」

 

 真島は椅子を蹴って立ち上がった。

 

「落ち着け、真島。辞めるといっても、・・・・・・配置転換のようなものだ」

 

 何とか腰を落ち着ける真島と、彼の方を見ない浜子。

 

「佐備建設の九部 真専務の・・・・・・。

 彼の・・・・・・、専属秘書として・・・・・・。

 出向することが内々定だが・・・・・・、決まった・・・・・・」

 

 そして、真島の方を向くや、今まで見たことがないような笑顔で言う。

 

「心配するな!私がいなくなっても、入谷がいる。新しい社長には浦賀辺りが来るだろうが、私からも彼によく・・・・・・」

 

 真島はもう何も聞こえてなかった。

 

 

 

 真島世路は唐突に小学生のときの思い出が蘇った。

 

「俺、もうこの町にいられないんだよ」

 

 親友だった友達が夕方、急に真島宅を訪れ世路に言う。彼の親はヤクザに莫大な借金を背負わされていた。夜逃げするつもりだ。最後の別れを言いに来たのだ。

 真島少年は何か力になってやりたかった。しかし、さよならの言葉しか少年の口からは出てこなかった。

 だが、今なら・・・・・・。

 

 

 

「絶対ダメっす!!そんな顔、俺許さねっす。俺らがいる限り社長がそんなことする必要ないっす!」

 

 あまりにも強い真島の口調に浜子は、ぼーっ、と彼の顔を眺めている。熱く語る真島は気付いていないが、飲んでも白くなるばかりの浜子の頬が薄桃色になっている。

 

「九部って、社長がしょっちゅう、『あの俗物がっ!』って言ってた男でしょ?そんな奴の下で社長が働くことねっす!!」

 

 聞いた浜子は、「ふっ!」と鼻で笑うような声を出し、うつむいて垂れた髪の中に心を隠した。

 次に、顔を上げた浜子はいつもの彼女に戻っていた。

 

「真島っ!今日は飲もう、とことん」

「付き合いますよ、社長っ!!」

 

 その日の二人は大いに飲み、かつ、空虚な馬鹿笑いを上げた。

 

 

 

 そして。

 

 隣には酔いつぶれた浜子がカウンターに突っ伏している。

 真島はつぶやく。

 

(何が変わるか、)

 

 いや、何も変わらないかもしれない。……でもっ!

 

「それでもっ!可能性があるならっ!」

 

 死んだはずの神根(ジンネマン)の実子・真里(マリィ)は生き返った。いや、死なない歴史に改変された。

 真島は目を覚ます気配のない浜子を抱え、はざまの暖簾(のれん)をくぐった。すぐに時空の扉が彼らを捕らえ、宇宙世紀へと旅立って行った。

 

 

 

 しばらくして、

 

 ガラッ!

 

「姉さん!真島さんは?」

 

 勢いよくはざまの出入り口を栗毛の少女が開ける。真島の会社の後輩であり、大家・神根の養女・来栖三姉妹(トリプルズ)の末っ子、麻里(マリーダ)である。

 

「帰ったよ。浜子さんと一緒に。肩、抱きながら~♪」

 

 姉・(プル)の言い様に険しくなる麻里(マリーダ)の表情。それを見た(プル)は一層いたずらっ子っぽい笑みを浮かべた。

 

「ねぇ、いいもの、貸してあげよっか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満月の夜。

 月よりも明るく廃墟を映し出す照明弾。

 戦争が生み出した瓦礫の山。そこからジャンプした巨人のシルエットを照らし出す。

 それはジオン公国軍主力MS《ザクⅡ》。頭部には隊長機および指揮官用(S 型)を示すブレードアンテナが天を指す。

 そして、月明かりと照明弾の光の受け、赤い機体色が夜の闇に鮮やかなコントラストを生み出す。

 

「背を見せて逃げる、だと・・・・・・?おかしい・・・・・・、陽動?ということは・・・・・・」つぶやく《ザクⅡS》のパイロット。

 

 先ほどまで地球連邦軍新型MS、通称『白い奴』を追っていたシャア・アズナブル少佐は跳躍しつつ、機体を回頭させ、6時方向の背後を確認する。

 ズーミングした高感度モニターに映し出されたのは、倒壊したビル群の先、ドーム球場の中に隠蔽する巨大な『木馬』、敵の強襲揚陸艦だった。

 

「伏兵して、背後からの奇襲・・・・・・。いい作戦だ。・・・・・・復讐に使わせてもらう」

 

 つぶやきつつ、通信ボタンを押す。

 別枠のモニターに端正な容姿の青年が映し出された途端、

 

『待っていた、シャア』と、青年。

「MSが逃げるぞ。その先に木馬がいるはずだ。追えるか?」とシャア。

『追うさ!!』

 

 即座に応えた青年の画像が消えると共に、《ザク》の上空を熱核ジェットエンジンの轟音が通り過ぎて行った。

 西暦ではありえないシルエットの航空機である。翼幅に比べて前後長は極端に短い。全備重量は980トンに達し肥大した胴体部は翼を広げたフクロウを連想させる。

 ジオン公国が開発した輸送/爆撃機《ガウ》である。2連装メガ粒子砲2門、大きなペイロードの爆弾倉をほこる。汎用機動兵器MSの搭載も可能で、まさに『攻撃空母』の二つ名にふさわしい。

 

 ビル影に機体を隠したシャアは『白い奴』を追う《ガウ》の飛行編隊をモニターに映す。

 

「さらばだ、友よ」

 

 




(次回予告)
(※BGM「アニメじゃな~い?」、ナレーション:明日 修道(あした・しゅどう)

♪デ、デ、デ、デ~ン♪

「昔、アクシズで浜子(ハマーン)さんとシャアが何かあったらしいんだが、そりゃいいんだ。
 真島さんがすっかり本気で!
 あの《ザクⅢ改》でサイコフレームもないのに、また無理しちゃって。
 モビルスーツで殴り合い?柔道?何の光りー?
 意味不明だよぉ。
 次回、アクシズZZ『ガルマ・ザビ(中編)』
 真島さん、Gガンダムじゃないんだからね」



(登場人物紹介)

ウラガン → 浦賀(うらが)

キシリア・ザビ → 岸 莉愛(きし・りあ) ※SPサンクス:KY@RGM-79R様



(あとがき)

 次回はちゃんと戦闘シーンあります。
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