「そろそろ行くか」
待ち合わせの時間にはまだ余裕があるが、万が一にも京極のが先に来てるなんて事があれば、ピザルートに分岐しかねない。あんな悪夢はもうゴメンだ……。
「いってきまーす」
懸念事項といえば……國綱さんくらいだな。
まあ……京極が言うには、謹慎中らしいから多分大丈夫だろうけど……その時はその時だ。
◆◇
「──っと、良かった。まだ来てないな」
待ち合わせ時間は10時半。そして現在時刻は9時半だ。1時間早いけど、時間潰しはテキトーにしときゃあっという間だ。
「まあ、無難なのはコーヒー飲んで時間潰す事か……。」
京極がどれくらいに来るかわからんけど、10分くらい前に戻れば多分大丈夫だろう。
◆◇
「……うん、バッチリだ」
京都から持ってきたいつもの服もあるし、強いていえば……どこからともなく國綱兄様がやってきたりしなければ……。
いや、お祖母様に怒られて謹慎中らしいからきっと大丈夫なはず……だよね……?信じてますよ……?
「では、行ってまいります」
今日は楽郎と映画だ。ちょっと気になっていたところに実家からチケットが届いたんだけど……タイミング良すぎてちょっと怖い。ま、まあ気にせず行こう!國綱兄様にはお礼の電話をかけておこう!
◆◇
「楽郎!」
「京極、おはよう」
「うん、おはよう。ごめんね、待った?」
おっと……ここは今来たとこって言うのがセオリーだってラブ・クロックで出てきたな……。まあ、実際今来たのだが
「いや、俺も今来たとこだよ。」
「良かった、そういえば楽郎のその服似合ってるね」
「お、おお……ありがとう。京極も似合ってるぞ」
瑠美に選んでもらった服は結構ウケが良かった。そして相手の格好を褒める技術は外道鉛筆が熱演してたからな。ここで役に立つとは思わなかったぜ。
「それじゃ、行こうよ」
「おう」
◆◇
『誉は浜で死にました』
「ぉぉ……」
俺は思わず小さく唸った。
京極と見にきたこの映画は、ずっと昔にあった白黒映画をこの時代にというコンセプトで上映されてるみたいで、色の無い白黒の世界を描いているのだが、それでも面白さが伝わってくる。
そして物語は終盤に……。
敵将を討ち取り、最後は──
◆◇
「いやぁ……面白かったな」
「うん……あのラストには涙を流さずにはいられなかったよ……。」
映画が終わり、映画館の外で感想を言い合った。
京極の言う通り、ラストには思わず感動した。
俺としては中盤の裏切った友との決闘が良かったな……。
「それにしても、お腹減ったね」
「そうだな……」
そう言いながら時計を見ると、時刻は12:30だった。
「そういやお昼どうする?」
「僕、まだ越してきたばかりでこの辺の地理知らないんだけどさ、楽郎のオススメとかってある?」
うーん、難しい事を聞いてくるなこのお嬢様は……。
「この辺……あっ、そういやこの辺って」
近くに思い当たる店があったな。まあ、最近行ってなかったけど
「京極、近くに美味いラーメン屋があるからそこでも良いか?」
「うん、楽郎のオススメなら是非」
決定だ。そんなわけで俺たちは近くのラーメン屋に行くことにした。あそこ行くの久しぶりだなぁ……。
◆◇
「へいらっしゃーい」
「ここがそうなの?」
「おう、俺もたまに来てた店だぞ」
「へー」
店員の案内で俺たちはカウンター席に座った。
さて、俺はいつもの魚介ラーメンを──
「ね、ねぇ……楽郎?」
「うん?どした京極」
そう言った京極は、メニューを指差して聞いた。
「な、なんだいこのラーメンは?この、もやしやニンニクが沢山乗ってるラーメンは……」
「ん?ああ、ここそういうのも出す店だからな。所謂二郎系ってやつだっけ」
俺は頼んだことはないが、時々いかにもそういうのが好きそうな人が頼んでるのを見たことはあるんだよな。いろいろ増やしてたりとか。
「そ、そうなんだ……。じゃあ、僕はこれにしようかな」
そう言って京極は二郎系を選んだ。って、いやマジか
「いやお前大丈夫か……?これ結構量あるやつだぞ?」
「だ、大丈夫!普通の量もあるみたいだし、大丈夫だ!」
「まあ、お前がそう言うなら良いんじゃないの?」
そんなこんなで俺たちはラーメンを注文した。
俺は魚介ラーメンを。京極は二郎系ラーメンを。
◆◇
「お待たせしました!」
「おお……。」
「これは……凄いね……」
注文したラーメンが来ると、俺と京極は戦慄した。
「えっ、もやしの量とか凄いんだけど……楽郎、ちょっといる?」
「そう言いながら俺の丼にもやし移すのやめろ。いや良いけど……。」
さりげなくどころか堂々ともやしを俺のラーメンに移す京極にツッコミを入れた。
「まあ、美味そうじゃん。とりあえず食べよう」
「そうだね、いただきます」
ラーメンをひと口。うん、魚介の出汁が染みてて美味い。
「……」
京極は無言でラーメンを啜っている。
「美味いか?」
「……」
特に返事をするでもなく、京極はひたすらラーメンを啜っている。もやし俺のとこによけられたけど、まあ良いか。
◆◇
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
「ありがとうございやしたー」
「いやあ、美味かったな」
「そうだね……。とてもお腹いっぱいだよ……。」
京極は腹を抑えて少し苦しそうにしていた。
「まあ、あんだけ食ったらな……。そういや、これ食っとけ」
俺はカバンから取り出したある物を渡した。
「何これ……」
「ブレスケアだよ。ほら、あのラーメン、ニンニクとか凄かったろ。斎賀さん家帰る時に何か言われかねないからな。」
実は瑠美のやつから持たされたやつだけど、まさかここで役に立つとは……。
「ありがとう……。そういえば、ラーメン代ありがとうね」
「気にすんなって、映画誘ってくれたしお礼みたいなもんだよ」
「……ありがとう。それで、次はどうする?」
「うん?そうだな──」
◆◇
それから京極とどこへ行くかと話になり、京極の行ってみたいところを適当に周っていった。
例えば龍宮院富嶽にまつわる歴史の施設
一個人にそんなものあるのかって?ありますよ。
とはいっても実態は、龍宮院富嶽に憧れた剣士の展示みたいなものだった。京極は喜んでたからまあ良いのだろう。
他にはロックロール。俺が普段行ってるとこにという京極の提案でここを選ばせてもらったのだが、岩巻さんの反応は微妙なものだった。乙女ゲー風に言えば……
そしてなんの因果が働いたのか、雑ピに遭遇した。いつものように俺たちが付き合ってるのかだなんだと言っていたが、俺たちはそもそも付き合ってないっての。多分月曜日は尋問だな。雑ピのネタリストを出さなければ。
そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ去った。俺たちはそれぞれの家に帰宅した。
◆◇
side京極
「今日は楽しかったな〜」
楽郎と映画を見て、ご飯食べて、いろんなところ回って!あとは幕末で天誅出来れば完璧だ!
ピロンピロン
「誰だろ──」
「はい」
『もしもし京極?愛しの柾宗君だぞ』
「切りましょうか」
『待って待って冗談だから……。』
電話の主は現在謹慎中の國綱兄様と思いきや、柾宗兄様だった。
「どうされましたか?」
『いやね、兄貴が送った映画のチケットどうしたかなと思ってさ』
「ああ、それなら友達と行きましたよ」
『陽務君だな?俺としては兄貴より全然そっちのが良いと思うぞ〜』
「まだ言ってませんが……まあ、そうですよ。楽郎と行きましたけど」
すぐに楽郎の事だと気づかれた。柾宗兄様は勘が鋭いから隠し事出来ないな……。
『ふんふん、名前呼びか……。もうそこまでとは……兄さん嬉しいぞ』
「!?」
しまった……!ボロ出ちゃったよ!いや、落ち着け……國綱兄様と違って柾宗兄様は楽郎に対して好感度は高いはず……。
『まあ、それは良いんだけど。』
『京極、親父から伝言だ』
「……っ」
電話の向こうから聞こえる柾宗兄様の声色が変わった。
真面目な話をする時だ……。
『『近い内、京都の龍宮院の本家まで帰ってきなさい。最近仲の良い男の子も連れて』だとよ』
「……本家ですか……。それは家族への挨拶とかですかね……?」
せめてもの冗談を言ってみた。まあ、それは外れた。
『さあな。國綱兄貴の事もあったし、普通に気になってるんじゃないか?まあ、兄貴と違って悪いようにはしないさ。知ってるだろ?』
「ええ、まぁ……。」
お父様はそんなお方じゃないのは僕も知っているけど……万が一があっても、お母様にお祖母様もいる……。きっと大丈夫だ
『そんじゃ、俺はこの後用事があるから切るぞ』
「わかりました。近いうちに行くとお父様に伝えておいてください」
『おっけー』
そうして電話は切れた。
「……遂に呼ばれちゃったかぁ。」
龍宮院富嶽の歩法が使える少年という事で、お父様の興味を引いてたけど……。楽郎大丈夫だよね……?
まあ、その時はその時だね。國綱兄様が暴走さえしなければ……。
僕は待ち構える出来事に頭を悩ませながら、電脳世界へ飛び立った。