「それで、私のところに来たのね」
「……はい──お母様」
お父様の部屋を離れ私が訪ねたのは、お母様のところだ。
お母様ならきっと、助言をくださるはずだから……。
私のこの胸の高鳴りの意味を……。
「あら?陽務君はお父さんのところ?」
「はい、今は二人きりで話したいと」
「あらあら、陽務君はお眼鏡にかなったのかしらね」
お母様が何かを呟いたが、僕には聞き取れなかった。
「それで京極、あなたはどうなのかしら?」
「どう……と言いますと?」
問い返すと、お母様は微笑みながら言った。
「陽務君のこと。友達以上の何かがあるんじゃないかしら?」
「──!?」
「当たりみたいね」
どうやら顔に出ていたらしい。
それくらいの悩み……なのかな。
「お母様……」
「お父さんが認めたのなら、私からは何も言わないわ。もしもあなたが陽務君に特別な感情を抱いてるというのなら、それで良い。京極なりに答えを出せば良いと思うわ」
……僕なりの答え。僕は楽郎に特別な感情があるのかわからない……。でも、さっきの楽郎の言葉は僕の中で何度も何度も反芻されている。
『俺は友達だと思っています。』
友達……僕が本当にそう思っているのなら、僕のこの胸の高鳴りは違うはずだ……。
緊張して、顔が熱くなって、何故か頭から離れない楽郎の言葉。僕は今まで誰かに恋をしたことは無かった。
だから本当にそうなのかと勘繰ってしまう。
だけどお母様は僕なりに答えを出せば良いと言った。
僕の……
「お母様、ありがとうございます」
「良い顔になったわね。それじゃあ、式場はどこでやりましょうか?向こうのご両親への挨拶もあるわね!それから──」
「お母様!?」
◆◇
「……」
「おや、帰ってきたかい」
「……」
「お前が京極の事を愛してるのはわかるが、もうちょっと認めてやっても良いんじゃないのかい?」
「……お言葉ですがお祖母様、私としましては、認めるわけには──」
「富嶽の歩法だろ?良いじゃないか、意図せずとはいえ、全くの未経験が使えるなんて聞いたら、あの世から教えにやってくるだろうさ」
「それは……確かにあり得る話ですが……京極の事は別です」
「ほう?」
「京極はまだ私の元に居て欲しいのです!あの子に男などまだ早い!」
「それが本音かい。全くこのシスコンは」
「家族を愛して何が悪いのですか!」
「お前の場合は京極だけじゃろ!あの婿殿を傷つけるような真似はしないでおくれよ?」
「……」
「こっちを見ないか!」
◆◇
「……やはりここに居たか。」
「……お久しぶりです……國綱さん」
俺は蛇に睨まれた蛙のように縮こまった。
「國綱!何故いる!」
すかさず備前さんの怒号が飛ぶも、國綱さんは平然としていた。
「愛しの妹に会いに帰ってきました。」
「……そうか、言いたい事はそれだけか?」
「ちょっと待ってください!それ本物ですか⁉︎本物ですか⁉︎」
今すぐ切り捨てると言わんばかりに備前さんが鞘に収まった刀を手に取った。俺は全力で止めた。
流石に刃傷沙汰は御免だ……。
「何をやってるんですか!」
「京極!京極じゃないか!」
「國綱兄様!何故ここにいるんですか!」
「京極に会えるのならばどこへでも。……あとでお祖母様にお叱りを受けそうだが……。」
言葉を紡ぐ國綱さんの顔が徐々に青くなっていた。
お祖母様……京極達のお祖母さんの事か……。
「お父様、一旦それは納めてください」
「……まぁ、良いだろう。」
備前さんは持っていた刀を置いた。
良かった……なんとか刃傷沙汰は回避できた……。それにしても龍宮院家って強制イベント多すぎるだろ……特にランダムエンカのボスとか。命が幾つあっても足りやしない……。
「備前」
「母さん……」
居間に一人の老婆が入ってきた。母さんって事は……この人がお祖母さん……ってことだよな?
「お祖母様」
「お、お祖母様……!」
「國綱、アンタは後で私の部屋に来なさい。そして京極、おかえり。よく戻ったね」
「ただいま戻りました。ご挨拶に伺えずごめんなさい」
「良いんだよ。アンタは若いんだから私みたいな老いぼれより婿殿と一緒にいるべきさね?」
「お、お祖母様……僕と楽郎はそんな仲じゃありませんよ……」
「……」
龍宮院家の方々によって繰り広げられている会話に気まずさを感じたので俺は沈黙する事にした。沈黙は金なりってな。てか婿殿って……そんな火に油を注ぐような事言わないでくださいよ……。
「そうじゃ、婿殿は初めましてじゃな。」
「あっはい。京極さんのクラスメイトであり友人の陽務楽郎です。ご挨拶遅れましたがお邪魔しております」
話題を振られ、咄嗟に自己紹介をした。こんな感じだろうか……?
「ご丁寧にどうも。私は龍宮院とよというもんじゃ。備前の母であり、そこの馬鹿者と今は席を外している柾宗と京極の祖母に当たるものじゃ」
「は、はぁ……よろしくお願いします」
國綱さんだけ馬鹿者って……。そしてやはりお祖母さんだったか……。備前さんや國綱さんもそうだけど、優しそうな表情の裏に感じる圧があるな……。
「さて、備前よ。この婿殿は孫娘をどう思ってるのじゃ?」
「え、」
「母さん、良いのか?」
「当たり前じゃろうて。京極が連れてきた婿殿じゃ。きっと信用に値する人物なのじゃろうて」
「で、ですから──」
「私は認めませんよ!」
京極が否定しようとした刹那、國綱さんが声を上げた。
「國綱」
「私は絶対に認めません!少なくとも私より強い者でなければ……!」
なんか知らぬ間に俺=京極と付き合ってるって構図完成してない?ただの友達なんだけどこれ口挟まない方が良さそう……というか挟む余地が無いんだが……。
「ほう?では、國綱より強ければ認めると?」
「ええ、私を越えられればの話ですが」
「ならば簡単な事だ。陽務君が國綱を倒せば良いんだ」
「はい⁉︎」
え、なんでそんな事になってるんだ……⁉︎ 國綱さんを⁉︎ いやちょっと待て、本当に待ってくれ
「ちょっと待ってくださいよ、なんか話進んでませんか?」
「そうですよ!兄様はともかく楽郎は未経験ですよ⁉︎」
「ふむ……ならば京極、アンタがこの子を鍛えれば良いだろう。婿殿を想う京極の愛が龍宮院の次期当主を超えるのじゃ」
「で、ですから!」
「……君はどうなんだ?私と戦うのかい?」
國綱さんの獲物を狙う狩人のような目が俺を突き刺した。
なし崩し的に戦う流れになってるが、これはどうなんだ……?
「俺は……」
「陽務君、戦ってくれるよな?」
「婿殿」
「楽郎……」
龍宮院家の方々が俺を見ている。どんな答えを出すのか。
こうもされちゃ選ぶ選択肢は一つしか無い。
「……わかりました。國綱さん、あなたに勝ってみせます」
「吐いた唾は飲ませんぞ」
「……上等」
あれ、これもしかして死刑宣告だった……?断頭台に上がるのは鉛筆だけで良いと思うんだが……⁉︎
「よく言った。それでこそ漢じゃ」
「てか俺は別に京極とは──」
「よし、では試合の日程を」
「京極よ、どんな助っ人を使っても良い。ただ、無茶はするな」
「お父様、お祖母様、私は席を外します。」
京極との関係を否定しようとしたが、話は進んでいく。そして國綱さんは退出していった。空気が少し和らいだ気がしたが気のせいだろう。
「ごめんね……楽郎」
京極が申し訳なさそうに頭を下げた。
「いや……気にしないで。ほら、頭上げて」
「……しっかし、どうしような……。試合する事になっちゃったけど……」
「……私が責任を持って楽郎を鍛えるよ。それともう1人、助っ人を呼ぶからその人も」
こうして俺は、國綱さんと戦う事になってしまった。
何度も言うが俺は別に付き合ってる訳ではない。否定しようにもなし崩し的に話が進んじゃうし試合が決定するしでもう滅茶苦茶だ。だけど、助っ人って誰なんだろう?こうなった以上は俺も本気でやらなければ。龍宮院富嶽のVR剣道教室でトレースAIと戦うとかかな……?
何をすべきか……とにかく為すべきことを為すだけか。
そういえばなんで俺と京極がそういう関係だと思われてるんだろうな?京極が俺をどう思ってるかは知らないけど、俺自身は仲の良い友達と認識してるんだがな。特別な感情なんて抱いてないはずだが。
「京極」
「うん?」
「特訓、よろしく頼むな」
「もちろん」
こうして國綱さんを倒すための特訓が始まった。