響side
奏さんと夢で再会してから、私は何かを抱えたまま日々を過ごしていた。
ブーステッドギアのこと、天空聖者のこと、そして……マジトピアとインフェルシア。
新しい世界の扉が開いてしまった今、私はこれまでの“普通”とは違う場所に立っている。
そんなことを思い出していると――
「響」
声をかけてきたのは、小日向未来だった。
屋上の風が、彼女の髪をやさしく揺らしている。
「未来・・・・・?」
「最近、一人でいることが多くなったんじゃない?」
「そうかな? そうでもないよ。私、一人じゃ何にこもできないし……。
ほら、この学校にだって未来が進学するから、私も一緒にって決めたわけだし。あ、いや……なんていうか、ここって学費がびっくりするくらい安いじゃない?
だったら、お母さんとおばあちゃんには負担かけずに済むかなーって。あはははー……」
未来は何も言わずに、私の手を取ってきた。
「あ……やっぱり、未来には隠し事できないね」
「だって響、無理してるんだもの」
「うん……。でも、ごめん。もう少しだけ、一人で考えさせて。これは……私が、自分で向き合わなきゃいけないことなんだ」
「わかった」
「ありがとう、未来」
しばらく沈黙が続いた後、未来がぽつりと口を開く。
「ねえ、響。どんなに悩んで考えて、出した答えで前に進んでも……
響は響のままでいてね」
「私のまま……?」
「そう。変わってしまうんじゃなくて、響のままで成長していくなら、私は応援する。
だって響の代わりなんて、どこにもいないもの。居なくなってほしくない」
「私、私のままで……いて、いいのかな……」
「響は響じゃなきゃ嫌だよ」
その一言に、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「……ありがとう、未来。
私、私のままで歩いていける気がする」
「くすっ。……そうだ、この前響が来れなかったこと座流星群、見てみる? 動画で撮っておいたんだ」
「えぇっ!?」
私は思わず声を上げて、未来のスマホを覗き込む。
「んん? 何にも見えないんだけど……?」
「うん……光量不足だったみたい」
「ダメじゃん!」
「ふふっ」「あははははっ!」
「おっかしいなあ、もう……。涙が止まらないよ……。今度こそ、一緒に見よう」
「約束。次こそは約束だからね」
(私だって守りたいものがある。
それはきっと、小さな約束や何でもない日常なのかもしれないけど……
それでも、守りたい。守れるように、私は強くなりたい)
翌日・風鳴家にて
「たのもーーっ!」
元気よくインターホンを押すと、玄関から赤い髪の利発そうな少年が顔を出した。
「どちら様ですか?」
「あ、私、風鳴弦十郎さんに用があって。翼さんから場所を聞いて来ました。弦十郎さんはいらっしゃいますか?」
「翼姉様から? わかりました。今、父様を呼んできますね」
やがて姿を見せたのは、がっしりとした体躯の男――風鳴弦十郎その人だった。
「おお、響くんか。なんだ、いきなり?」
「はい。今日はお願いがあって来ました。単刀直入に言います――
私に、戦い方を教えてください!」
「……この俺が、君に? ふむ……俺のやり方は厳しいぞ」
⸻
「はいっ!」
⸻
「ときに響くん、アクション映画は嗜む方かね?」
「は、はい?」
特訓の日々
私、立花響の特訓が――始まりました。
まずは映画。ブルース・リー。
その動きを真似る。表情も、構えも。
走る! 腕立て! 腹筋!
息抜きにカラオケで熱唱!
ボクシング!
お好み焼き・特盛で体力づけ!
そしてまたボクシング!
……たまに殺意の波動的な何か(?)
そして、また走る!
そんな熱い日々が続いて――ある日の放課後。
「ねえ未来、また流れ星の動画、見せてよ」
「何にも映ってないのに? 響ってやっぱり変わった子」
「変わった子とつるんでる未来は、もっと変わった子~。えへへっ」
2人で笑い合う時間。
そんな中、未来がふと真剣な顔をする。
「……あのね、響」
「なに?」
「流れ星の動画を撮ってたとき……響に黙ってるの、少しだけ苦しかったの。
響にだけは、もう二度と隠し事したくないな」
その言葉に、私はぎゅっと胸が締めつけられる思いだった。
「私こそ、未来に隠し事なんて……しないよ」
(……いつか、きっと。
この“今”の私のことも、未来にちゃんと打ち明けられたらな)
そんな風に思う私は――今ばかりは、ちょっと自分の立場を恨めしく感じてしまうのだった。