リディアン音楽院の生徒会室。
格式ある空間で、私たちオカルト研究部の面々は、学校の“もう一つの顔”と向き合っていた。
そこにいたのは、冷静沈着で知性溢れる生徒会長――ソーナ・シトリー。
そして彼女の正体は、冥府十神の一柱《スフィンクス》、インフェルシアの三賢神の一人である。
「ようこそ、天空聖者の皆さん」
落ち着いた声音と柔らかな笑み。
だがその裏には、確かな力と“格”が滲んでいる。
「リアス、貴女のところの新入りさんには、ぜひ一度会ってみたかったの」
「ええ、でもこうして改まると何だかくすぐったいわ。
校内ではお互い忙しくて、こうしてお茶をゆっくり飲む機会もなかなかないもの」
日常では生徒会長と部長。
けれど今は、天空と冥府――二つの世界の代表同士としての対面だった。
「立花響さん。あなたが、新たな天空聖者フレイジェルね?」
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
「そんなに緊張しなくていいわ。今日は戦略会議じゃないもの。力を抜いて、ね」
「す、すみません……!」
ソーナさんは柔らかく微笑みながら、冥界の現状やインフェルシアの活動について語ってくれた。
地底深くに存在する怪物の帝国――インフェルシア。
その再興と制御のため、冥府十神は地上でも静かに動いているという。
同日・インフェルシア 地上拠点
お茶会のあと、私たちはソーナさんに連れられ、郊外のインフェルシア地上拠点へと足を運んだ。
漆黒の石材と魔導装飾で築かれたその建造物には、どこか神殿のような荘厳さが漂っていた。
「ここで、響さんに贈りたいものがあるの」
ソーナさんの合図で、魔法陣が展開されゲートが開く。
重く響く蹄の音。
そこから現れたのは――漆黒の馬。
たてがみは風もないのに揺れ、黄金の瞳が鋭く響を見つめる。
「彼の名はバリキオン。あなたに託される“記念品”よ」
「え、ええと……よろしくね、バリキオン?」
私はそっと手を差し出して――触ろうとすると
「――っぐわあぁっ!?」
次の瞬間、後肢の蹴りが響の腹部をとらえ、彼女は派手に吹き飛ばされる。
「ひ、響っ!? 大丈夫!?」
「がはっ……なんでぇ!?」
黒馬――バリキオンは微動だにせず、冷たく響を睨みつけている。
「……相変わらず、容赦がないのね、バリキオン」
リアスは小さくため息をつき、隣のソーナに向き直る。
「ソーナ、あれだけ気性の荒い魔導馬を響に託すなんて、どういうつもり?
これじゃ体のいい厄介払いをしたように見えるわ」
「いえいえ、そんなまさか。私は彼女ならやれると思ったのですよ。リアス、貴女の目利きを私は信じているわ」
「まったく……。後で響に飴でも渡しておかないと割が合わないわね」
腹をさすりながら立ち上がった私は、それでもバリキオンに向き直った。
「っ……でも! 私は絶対、君とわかり合ってみせるからね!」
その言葉に、バリキオンはわずかに耳を動かしただけだった。
「バリキオンは忠義深く気高い魔導馬。
主と認めぬ相手には牙を向ける。だが、真の主には……深い忠を誓う存在よ」
「それはつまり、“今はまだ”ってことですよね」
私の言葉に、ソーナさんとリアス部長が微笑む。
「ええ。だから頑張って、フレイジェル。
あなたが心を示せば、バリキオンは応えてくれるはずよ」
こうして私とバリキオンの、少し痛い出会いは終わった。
冥府十神の人間体2
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