私は――立花響。
今、私は小さな女の子を連れて、必死に逃げていた。
あれから、もう15分以上。
振り返れば、ノイズたちは執拗に追い続けてくる。
(くそっ……しつこい!)
たまに数が減っている気もするけど、ただ逃げるしか手段がない今、そんなことは関係ない。
「お姉ちゃん……私たち、死んじゃうのかな……?」
怯える少女の声に、私ははっとする。
「大丈夫! 生きるのを、絶対に諦めないで!」
そう励ました、その瞬間だった。
私の左腕に、異変が起きた。
オレンジ色に輝く、重厚なガントレットが装着される。
「こ、これは……!?」
戸惑う私の前に、何かがきらめいた。
――冷たい空気。
目前のノイズが、一瞬にして氷漬けにされ、砕け散った。
「!?」
そこに現れたのは、涼やかな美貌を湛えた少女――司波深雪だった。
「ぼーっとしていてはダメです!」
彼女は冷静に私へ指示を飛ばす。
「立花響さん、しっかりしてください! 事情の説明は後! 今はこの子を守って!」
「は、はい!」
私は必死にガントレットを握りしめ、ノイズに向かって振りかざした。
――ドン!
殴った瞬間、ノイズの体が吹き飛ぶ。
「ノイズを、殴れた……?」
「お姉ちゃん、すごい!」
少女の笑顔に、私の胸が熱くなる。
しばらくして、周囲にノイズの気配が消えた。
深雪さんは、静かに私の前に立った。
「……終わりましたね。立花響――いえ、“フレイジェル”」
「フレイジェル……? それ、何ですか?」
「まだ記憶の封印が解けていないのですね。まぁ、それも仕方ありません。リアスお姉様が、いずれ解き明かしてくださいます」
そう言うと、深雪さんは私の手を取った。
そして、ポケットから白い携帯電話のようなものを取り出すと、それが杖のような形に変形した。
「ゴール・ルーマ・ルジュナ」
足元に魔法陣が現れ、私たちは光に包まれる。
目を閉じ、そして――目を開けると、そこは見知らぬ空間だった。
辺りを見回すと、そこは学校の空き教室のようだった。
だけど、どこかおかしい。
あちこちにオカルトチックな飾り付けが施され、どこか不気味な雰囲気を漂わせている。
「ここは……?」
「オカルト研究部の部室です」
「え、じゃあここ、リディアン……?」
「ええ。ただし、部屋の広さも、認識も魔法でいじってありますので、普通の生徒には見えません」
「へえ……」
私はぽかんとしながら、深雪さんの話に耳を傾けた。
そして、深雪さんから真実を告げられる。
2年前、ライブ会場で死にかけた私。
そのとき、私は人間をやめ、天空聖者――フレイジェルとしての道を歩み始めたこと。
左手のガントレットは、その証。
それは私の命を救い、同時にツヴァイウィングの天羽奏さんのプロテクターの力を宿すものだった。
――私は、もう普通の人間じゃない。
説明を聞き終えたころ、再び魔法陣が現れた。
そこに現れたのは――
「……あら、ちょうどいいタイミングね」
リアス・グレモリー先輩。
リアス先輩は、柔らかく微笑みながら深雪さんに声をかけた。
「ごめんなさいね、深雪。説明を任せてしまって」
「いえ、お姉様の頼みですから」
「ありがとう。今度、買い物にでも付き合ってもらおうかしら」
「……楽しみにしています」
深雪さんは再び呪文を唱え、姿を消した。
静まり返った部室に、私とリアス先輩、二人きり。
先輩は、私を正面から見据えた。
「さて……深雪から、あのガントレットのことは聞いたでしょう?」
私は小さく頷いた。
「なら、次はあなたがもう人間じゃないということ。そして、これから歩む運命について、ちゃんと話さないといけないわね」
リアス先輩の瞳は真剣だった。
私はごくりと息を呑んだ。
この夜。
私は“立花響”であり、同時に“天空聖者フレイジェル”でもある――
本当の自分と向き合うことになる。
そして、私の新しい物語が、静かに、だが確かに始まった。
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