TS転生したB級冒険者は異世界をB級に生きたい   作:エリーフ

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一 B級を目指したい

 転生する以前から、B級という言葉はなんとなく私にとってしっくりくる言葉だった。

 派手すぎたり、地味すぎない等級、それがB級だ。

 それを証明するように、世の中にはB級グルメだのB級映画だの、B級と付く単語は枚挙にいとまがない。

 ひとえにそれは、B級という言葉に含まれる親しみやすさとか、ちょうど良さがそうさせるのではないだろうか。

 

 A級は高すぎる、格式張った一流を思わせて気後れしてしまう。

 C級は低すぎる、質の悪さはそのまま息苦しさに直結してしまう。

 だからこそ、私はB級が一番だと思っていた。

 

 異世界でB級冒険者になった時。

 私はこれで、自分の身の丈にあったちょうどいい生活ができると思った。

 TS転生によって手に入れた分不相応な美貌。

 チートと言って差し支えない才能と生まれ。

 それによって被った不利益と理不尽。

 やろうと思えば、もっと良い立場と名誉を手に入れることができるのだろう。

 けれども私には、それが素晴らしいものだとはちっとも思えなかった。

 それを思えば、やはり私にはB級な生活が身の丈にあっているのだ。

 

 かくして今の私は、B級冒険者の肩書にふさわしい、B級な生き方を目指しているのである。

 

 

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 ダンジョン、冒険者ならば誰もが潜るその場所で、今日も私は魔物と戦っていた。

 相手は、私の倍位の巨体を誇る猪型魔物。

 名前をデリシャスホーンと言ったか。

 名は体を表すを地で行く魔物なのだが、その突進攻撃は脅威である。

 

 私はそんなデリシャスホーンの攻撃にカウンターを合わせた。

 やつの体の下部に潜り込むようなイメージで、そのまま踏み込んで――

 

「はあっ!」

 

 拳で顎のあたりを、アッパーの要領で叩く。

 魔物が人間と同じ身体構造をしているのかは、正直良くわからないが。

 少なくとも、相手を上方向に”打ち上げる”ことは可能だ。

 そのまま持ち上がった体に、連続で拳を叩き込んでいき――

 

「これで、トドメっ……っと」

 

 最後は、拳に光を纏わせて――撃ち抜いた。

 結果、光はデリシャスホーンの体を貫いて、天井を焦がす。

 私は勝利を確信しながらも、油断せず後方にバックステップ。

 デリシャスホーンの体が消滅したことを確認して、私は息を吐いた。

 魔物は倒すと、素材をドロップする。

 この世界は、ファンタジー世界としてはかなりライトよりな世界だった。

 そうしてドロップしたデリシャスホーンの素材は――

 

「……よし、B級肉だ」

 

 肉だった。

 そして、これが私の今日のお目当てである。

 早速地面に落ちた肉の塊――なんか、衛生面を考慮してか下に葉っぱが置いてある、どうなってるんだこれ――を拾い上げてアイテムボックスにいれると。

 私は上機嫌でダンジョンを後にした。

 

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 ダンジョンから冒険者ギルドに戻ったら、素材の換金。

 冒険者の基本である。

 

「――ナギさん、鑑定終わりましたよ」

 

 受付に私の名前が呼ばれたので、そこへ向かう。

 懇意にしている受付嬢のグレンダさんから、お金を受け取った。

 

「結構な額になるな」

「そりゃあ、デリシャスホーンのA級肉を売却したんですもん、数日は遊んで暮らせるんじゃないですか?」

「まぁ、その当たりは適当にね」

 

 デリシャスホーンのドロップ素材は顕著だが、素材には等級というものが存在する。

 上はA級、下はD級。

 素材によって、A級やD級が存在しないものもあり、デリシャスホーン肉はD級が存在しなかった。

 ただ、B級とC級はあらゆる素材に存在している。

 

「それにしても、びっくりしたな。B級肉が出る前に、A級肉がドロップするんだから」

「運が良いですよねぇ。それで、やっぱり今日もB級肉は持ち帰りなんですか?」

「当然。私はデリシャスホーンのB級肉が一番好きなんだ」

「変わってますよねナギさんって。A級肉の方が圧倒的に美味しくて、値段も高いのに」

 

 変わっている、とは私によく使われる言葉だ。

 一般的にデリシャスホーン肉はA級が至高。

 誰もがA級肉を求めてデリシャスホーンを狩るというのに、私はA級に目もくれずB級ばかりを狙っている。

 

「確かにA級の方が美味しいけど、値段が違いすぎるじゃないか。明らかに自分で食べるより、売ってお金にして豪遊した方が満足度は高い」

「それは……そうかもしれませんけど」

「何より、A級なんてほとんどドロップしない。B級は一日狩っていれば、どこかしらで一つは手に入るものだろう?」

 

 ようは、高望みするよりも手の届く満足を満たすのが私のやり方。

 デリシャスホーンを狩るときは必ずB級の肉が出るまで狩って、狩った肉は自分で食べる。

 売値的にも、味的にも、それが一番バランスのいい方法だった。

 

「B級ってのは、バランスがいいんだよ。C級だと、どうしても質が落ちるし売値も大した額にならない。A級は味はいいけど、高級品過ぎて手が届かない」

「でた、ナギさんのB級哲学」

「そんな気取った言い方をしてるつもりはないけどね」

 

 ただ、私がB級にこだわっているのも、それが理由だ。

 B級肉、B級冒険者、それから――

 

「ナギさんなら、何時でもA級冒険者になれるのに」

「性に合わないって解ってるから、私はB級でいいんだよ」

 

 そう言って、グレンダに別れを告げる。

 忘れずにお金は財布へしまって、財布もアイテムボックスにしまう。

 軽く手を降ってグレンダから離れ、周囲に知り合いの冒険者もいないので今日はこのまま帰ることにした。

 ギルドを出る前に、改めてフードを目深にかぶる。

 ギルドの中は荒くれ者が多いけど、同時に知人も多く秩序が成り立っている。

 けれども外に出たら、色々と面倒が発生する可能性もあるのだ。

 厄介な自分の容姿にため息を付きつつ、私は夜の街を歩く。

 目指すところは、拠点としている宿なのだけど。

 町並みをながめながら、夕飯に思いを馳せるのが結構楽しいのだ。

 

 私が拠点としている街は、冒険者の街メロリア。

 大きめなダンジョンを有する街で、辺りにはダンジョン帰りと思われる冒険者とそれを相手に商売する商人の姿が見受けられる。

 中には知り合いもいて、軽く手を降って挨拶をする。

 穏やかな町だ。

 冒険者の街ではあるけれど、街としてはそこまで大規模というわけではない。

 もっと大規模な冒険者街になると、もっと人はごった返しているし喧嘩も多いのだ。

 ここはある程度の秩序が保たれていて、まさに、ちょうどいい規模の街と言えるだろう。

 まぁ、私の容姿はそんなメロリアの街ですら厄介事を惹き寄せかねないのだが。

 

「そんなことより、肉だ肉」

 

 ともあれ、仕事終わりに考えることは楽しいことであるべきだ。

 今日の私の夕飯は決まっている。

 デリシャスホーンのB級肉を使用したサンドイッチ。

 通称「B級サンド」である。

 そもそもデリシャスホーンはこのメロリアの街のダンジョンにしか出現しない魔物であり。

 その肉は、間違いなくメロリアの特産品である。

 それを利用したサンド。

 特に味が良く、かといってそこまで高級品でないB級肉はこうしてサンドイッチの具材として好まれていた。

 そしてこの街で長年研究されてきたソースとの相性は最高で、これを目当てに遠くから遠征してくる冒険者もいるほどだ。

 そのうえで、ご当地であるメロリアではありふれた庶民の味でもある。

 

 まさに、異世界のB級グルメと言えるだろう。

 

 私は、そういうB級グルメが好きだ。

 お手軽感と味の良さが両立していて、まさにバランスがいい。

 そんな日々の贅沢を自宅で作って食べるべく、私は帰路につくのだった。

 

 

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 ナギ。

 冒険者の街メロリアを拠点とする、B級冒険者だ。

 年の頃は十代半ばに見えるが、実際は二十と少しを過ぎたところだという。

 その特徴は、何と言っても美貌。

 透き通るような金の髪をセミロングくらいの長さまで伸ばし。

 前髪には、両親の形見である髪留めがつけられている。

 衣服はローブと、その下には動きやすさを重視した体のラインがはっきりと見える服。

 背丈は小柄だが、出るところは出ていた。

 そして何より、ローブの下に隠された――一般的なそれよりも短い尖った耳。

 

 とにかく、人目を引く少女である。

 だからこそローブを被って、目立たないようにしているし。

 それが本人の人間性を表していた。

 

 ナギは、B級であることをよしとする冒険者だった。

 普通、冒険者は出世を夢見て”冒険”に繰り出す者たちで。

 ナギのような安定志向は――下級の冒険者ならいないわけでもないが、ナギくらいの実力を持つ冒険者がそうなることは珍しい。

 変人と呼ばれるのも、致し方ないことだろう。

 とはいえ、本人はそんな”B級哲学”に満足していた。

 

 心躍るような冒険よりも、バランスの取れたB級な日常を。

 これは、そんな生き方を是とする冒険者の物語だ。




B級冒険者が、B級な生活にこだわる日常系のお話です。
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