TS転生したB級冒険者は異世界をB級に生きたい   作:エリーフ

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その少女の鮮烈はB級にあらず

 冒険者の街メロリアには、幾人かの有名冒険者がいる。

 メロリア最強と謳われるA級冒険者パーティや、マッドと噂される錬金術師。

 他にも、メロリアは「やたらと個性の強い冒険者が集まる」と言われていた。

 中でも異彩を放つのが、B級冒険者のナギである。

 

 何と言っても、特徴的なのはその美貌だ。

 端正な顔立ち、小柄ながらも貧相ではない体躯。

 普段はフードの下に隠れているものの、ボディラインが浮き出た衣服はどこか扇状的にも思える。

 本人としてはもう少しボディラインの見えない服がいいそうだが、魔道具らしくこれ以上の性能の衣服がないらしい。

 だが、何と言っても特徴的なのは、その長耳だろう。

 

 この世界には、エルフやドワーフを始めとした人間以外の種族が普通に存在している。

 中でもエルフは美男美女が多く、それ故に一時期エルフを奴隷にすることは権力者の象徴とされていた。

 現在ではエルフが人里に姿を表すことがほとんどなくなり、また当時の風潮も薄れていったものの。

 そもそもエルフの容姿が美しいことに変わりはないのだから、”高く売れる”としてエルフを狙う悪党は多かった。

 そんな中で、ナギは自分がエルフの血を引いていることを隠していない。

 無論、フードで耳が見えないようにして、いらぬ危険を引き寄せるようなことはないようにしていたが。

 

 そんな彼女は、B級冒険者であることに固執していた。

 明らかにA級でやっていける実力があるにもかかわらず、B級であることを良しとしていたのである。

 本来なら、それはあまり冒険者として褒められた態度ではない。

 冒険こそが冒険者の華。

 安定を求めるなら、もっと別の職業に付くべきだし。

 そういう安定を求める冒険者というのは、たいてい低級のチンピラみたいな連中だ。

 ただナギの場合は、その長耳から彼女が安定を求めるのも理解できたし、下手に組織に所属すると問題が起きそうでもある。

 変人と思われながらも、そうなる理由は理解できるという特殊な存在、それがナギだった。

 

 そんなナギは、時折冒険者パーティのヘルプに入ることがある。

 これがまた、結構な人気を博しているのだ。

 理由の一つが「ナギ本人が暇していれば、どんなパーティでもヘルプに入ってくれる」こと。

 たとえ、冒険者になりたてのE級冒険者パーティだろうと、誘えば参加してくれる。

 普通、そんな冒険者はいない。

 本人にしてみれば、自分みたいな変な冒険者に声をかけてくる勇気ある新人だ。

 今のうちから仲良くなっておけば、将来的に良い付き合いができるという打算もある。

 だが、周囲からしてみればナギの存在は新人にも優しく接するお姉さん冒険者(小柄)にしか見えないだろう。

 新人冒険者の脳は破壊された。

 

 ――こんな話がある。

 今から五年以上前のこと。

 ナギが、とある新人冒険者パーティとダンジョンに潜った時のことだ。

 なんとその冒険中に、ドラゴンと出くわしてしまったのである。

 

 ドラゴン。

 冒険者ならば誰もがその討伐に憧れる、強大な魔物の一種。

 当然ながら、新人冒険者パーティが探索するような階層に出てくる魔物ではない。

 どころか、そもそもメロリアの街でドラゴンの出現が観測されることは非常に稀。

 ダンジョンには時折、こうやって本来なら出てこないはずの階層に協力な魔物が出現することがある。

 先日、ナギ達が討伐したグレイトミノタウロスもその一種だ。

 中でもこのドラゴンは、特に凶悪な魔物と言えるだろう。

 

 当然ながら、そんなものと出くわしたら一巻の終わりだ。

 こういう異常発生の魔物による冒険者の死亡は、度々発生し。

 今回もそうなる――はずだった。

 

 その場に、ナギがいなければ。

 

 とはいえ、ナギは確かに優秀な冒険者ではあるが、ドラゴンに勝利できるほどではない。

 ――対外的には。

 仮に死力を尽くして勝利できたとしても、周囲の新人冒険者までは守れないのだ。

 もしナギが”全力”を出していれば、話も違ってくるだろうが。

 ナギはそうしなかった。

 

 

 だというのに、誰一人死者を出すことなく、ナギと新人冒険者パーティはドラゴンに勝利した。

 

 

 驚異的なことだ。

 まず、前提としてナギの戦闘力があってこその勝利である。

 しかし同時に、その戦闘力を活かすための鍵は新人冒険者が握っており。

 それを見出したのがナギであった。

 

 まず、冒険者パーティの中に、<泥水>と呼ばれる魔術を扱う魔術師がいた。

 これは足元に泥水をばらまくという魔術なのだが、人間相手にはあまり効果がない。

 だが、ドラゴンは非常に巨体であり、多足だ。

 下手に泥水の中を走ると足をすべらせる恐れがあり、ドラゴンの動きを極端に鈍らせることに成功する。

 とはいえ、それでもドラゴンには炎を吐くブレスなどの攻撃手段があった。

 これをどうにかするために、新人冒険者達は動いた。

 

 ナギの<強化>魔術により身体を強化し、ドラゴンの視界を走り回ったのだ。

 

 結果として、ドラゴンは狙いをつけきれず。

 更に正面からはナギが攻撃をしかけてくる状況。

 冒険者たちを走り回らせることで、ドラゴンの攻撃を届かないようにして。

 自分自身が壁となることで、更に攻撃をシャットダウンする。

 そんな方法で、ナギは見事新人冒険者を守り切りながら、ドラゴンを討伐してみせたのだ。

 

 この成功経験は、新人冒険者パーティを大きく成長させることになる。

 後にメロリア最強と謳われるAランク冒険者パーティが、産声を上げた瞬間だった。

 

 このように、ナギの発想力は人並み外れているものがある。

 これはナギに前世の記憶という他人とは違う経験があり、その上で両親から多くの冒険譚を聞くことで発想力が磨かれたからなのだが。

 とにかく、ナギは少ない戦力で絶望的な戦いに勝利する。

 そんな、盤面をひっくり返す能力に長けていた。

 

 結果として、ナギとの冒険は冒険者に大きな成果と成功体験をもたらす。

 強敵に勝利したという実感が、彼らを強く成長させるのだ。

 無論、それがナギの助けによるものだということを、彼らは忘れていない。

 しかしナギ自身は、その冒険の成果を”B級らしくない”という理由で受け取ろうとしないのだ。

 結果として、冒険者の間にはナギに対する絶大なまでの”恩”だけが残る。

 その恩を返すため、少しでも冒険者として成長しようと彼らは努力し――同時に、ナギは大きなあこがれと成っていく。

 メロリアの冒険者の脳はもうボロボロ。

 

 ナギは、立場の上ではB級冒険者であり、本人も安定を求めることを是としている。

 しかしメロリアの街に、ナギを知らない冒険者はいない。

 多くの者の憧れとなり、多くのものを冒険者へと誘う。

 それでいて、本人はどこか人との間に距離をつくる。

 そんな、美人で、耳が長くて、強くて、かっこいい、浮世離れしたお姉さん冒険者(小柄)に憧れないものはいないのだ。

 

 やがて、ナギに憧れた冒険者は自分なりの目標や夢を見つけてメロリアを離れていくのだ。

 そうして新たな冒険者がメロリアにやってきて、ナギの存在を知る。

 新たな冒険者はナギに憧れ、成長していくだろう。

 ナギは長耳の少女だ。

 その人生は他人よりも長いものであることは間違いなく、多くの出会いと別れを経験することになる。

 もしもその一つになれたら、と願いながら冒険者たちはナギに灼かれ、成長していく。

 メロリアという冒険者の街で、多くの冒険者はナギによって成長し巣立っていくのだ。

 故に――

 

 

 その鮮烈はB級にあらず。

 

 

 後に、ナギはそう語られることとなるのだが。

 本人はそのことを、知る由もないのだった。




B級ではありますが脳は焼き焦がします。
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