TS転生したB級冒険者は異世界をB級に生きたい   作:エリーフ

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3 B級な趣味

 異世界には娯楽が少ないから、自分で娯楽を探さないと行けない。

 一番簡単な娯楽が料理と食事。

 この世界は食事のレベルが異世界としてはかなり高い部類に入る(と思う)から。

 それを活かして、色んな料理を食べるのが私にとっての一番の楽しみだ。

 

 次に読書。

 本は結構な高級品だけど、出回っていないわけではない。

 そういった本を買い漁って読むのは、結構楽しいのだ。

 特に料理本は、色々と参考になる。

 先述の料理と合わせて、メロリアに入ってきた珍しい食材で遠くの街の御当地B級グルメを再現したりとか。

 

 ただまぁ、趣味がそれだけというのも味気ない。

 なにより私が読む本は料理本に限らないのだ。

 小説だって読むし、この世界の魔物の生態とかを記録した図鑑なんかも結構好みだ。

 中でも特に比率が高いのは、魔術本である。

 

 魔術本。

 ようするに魔術に関する本。

 読むだけで効果のある魔導書とは違い、これ自体は単なる書物である。

 新しい魔術の論文だったり、新しく作られた魔術学校のテキストだったり。

 興味深いものは山ほどある、そういう本を眺めているのが単純に楽しい。

 

 加えて、私が魔術本を好む理由は他に二つある。

 一つは――同士がいることだった。

 

 

 <>

 

 

「――ナギ、おはよ」

 

 ギルドで朝食を取っていたら、一人の少女が私に声をかけてくる。

 少しクセのある長い黒髪の、凛とした少女だった。

 魔道具と思われるライトアーマーを身に着け、腰には剣を佩いている剣士。

 名を――

 

「シャーネ、おはよう。今日は一人なのか」

「今日はお休みなの。ナギがギルドで朝食取ってるってことは、そっちはこれからパーティのヘルプ?」

「そんなところ」

 

 シャーネは、とある冒険者パーティのメンバーである。

 私とはそこそこ付き合いが長く、そろそろ五年くらいになるか。

 メロリアは比較的人の出入りが激しいので、もしかしたらメロリアの冒険者で一番親しくて付き合いが長いのはシャーネかもしれないな。

 

「だったら……見てみて」

「串に突き刺した生魚が、どうしたんだ。……まさかわざわざ持ってきたのか?」

「そりゃ、アイテムボックスに入れれば痛みませんし? って、それはどうでもいいの」

 

 私の疑問兼ボケにシャーネは、律儀に乗っかった。

 まぁぶっちゃけ、シャーネが何をやりたいのかは概ね想像がついているのだけど。

 

「見ててね……<炙り>!」

 

 想像通り、シャーネは魔術を起動した。

 そして魔力が生魚にまとわりついたかと思うと――火がついていないにもかかわらず生魚があぶられていく。

 最終的には、いい感じの香ばしい匂いをさせた焼き魚へと変貌を遂げたのだ。

 

「上げる!」

「どうも。塩はあるか?」

「言うと思って、用意しておいたよ!」

「ありがとう。それにしても――また新しい便利魔術を見つけたのか。今度は、火を使わずに対象を”炙る”魔術?」

 

 塩をかけてた魚を朝食に加えつつ、問いかける。

 なお、魚の味は焼き加減がちょうどよくて、塩がマッチして最高だった。

 便利魔術というのは、少ない魔力でも使える代わりに効果の少ない魔術の中で、人々の生活を便利にする魔術のことだ。

 水を出したり、光をともしたり、火種を生んだり。

 その種類は多岐にわたる。

 

「そうだよ、またフィーナリア教授の魔術なの!」

「だろうなぁ」

 

 まぁ、知ってた。

 フィーナリア教授とは、私達が暮らしている大陸で一番大きな魔術大学の教授だ。

 エルフでありながら、魔術の研究のため人里で活動している変わり者。

 数百年前から魔術大学で教鞭を取っているが、そんな彼女はここ最近、便利魔術の開発に熱心だった。

 

「火を使わなくていいっていうのは、ありがたいけど……原理が不思議だよね」

「もう論文は読んだか?」

「もちろん! 今回の論文もすっっっっごく面白かったよ!」

 

 ――そして、先程言った私が魔術本を好む理由。

 同士がいると言ったが、その同士がシャーネだ。

 彼女は剣士であるにもかかわらず、こういう便利魔術に目がないのである。

 理由? 多分昔ドラゴンを討伐する時に、何故かシャーネの覚えてた<泥水>魔術が大活躍して、そこからじゃないかなぁ。

 

「理論上は確かに、光にも熱はあるけどさ。結局それで対象を温めたら燃えちゃうじゃん? 燃えないように条件をつけてるって書いてあったけど、その辺りがよくわからなくって」

「ああそれは、そもそも魔術に使う魔力量に制限をかけてるんだよ。そうすればそもそも発火するほどの光量にはならないし――」

「なるほどぉ。それじゃあこの――」

 

 なんて、話が弾むのだ。

 世の中に魔術師は多く入れど、魔術の理論に興味のある冒険者の魔術師は少ない。

 なにせ、詠唱して魔力を消費すれば発動できてしまうのが魔術である。

 詠唱を改良して魔力の消費量や効果量を自分にあった形にする魔術師はいても、魔術そのものに手を加える魔術師はそういない。

 そこら辺は、学校で魔術を研究するタイプの魔術師の両分になるからな。

 

 かくして、私とシャーネは魔術談義に花を咲かせる。

 私が待ち合わせしていた冒険者がやってくるまでの間だったけど。

 シャーネは私の話についてきてくれるから、本当に助かるのだ。

 少なくとも、メロリアの街で私とこの話ができる人間は――多分、シャーネを含めて二人くらいしかいないはずだ。

 

 

 <>

 

 

 その日、私が冒険から帰ってきて宿に戻ると、手紙が結構届いていた。

 出した相手は全員同じだろうから、一つ手にとって中身を確認する。

 差出人は「フィーナリア」。

 今朝話題になっていた魔術大学の教授であり――私の大叔母である。

 

 手紙の内容は、大半が魔術の資料だ。

 私は資料に軽く目を通すと、最低限の分類分けをしていく。

 これらは大叔母が私に届けてくれた、最新の魔術研究である。

 大学の外に出していいものだけだが、それでも結構な数だ。

 中でも一番のお目当ては――

 

「……あった、<炙り>魔術の資料」

 

 先日大叔母が開発した()()()()()()()()魔術の資料。

 その内容は、これまた先日私が書店で購入した魔術本の内容よりも明らかに濃い。

 まぁ、魔術本に掲載する内容を執筆するための資料なんだから当然だけど。

 で、最後に。

 大叔母本人からの私に対する私信に手を付ける。

 分類分けの最中に、取っておいたものだ。

 内容はこう。

 

()()()()()()()()<炙り>魔術、なかなか悪くなかったよ。ここ最近の玩具の中じゃ一番の当たりだね。

 火を使わない調理ってのは、正直あんまりピンとこなかったが、確かにできると便利そうだ。

 とはいえ、今のところただ<炙り>ができるだけだと、正直そこまでインパクトは強くない。

 料理好きのアンタなら解ってると思うけど、食材の調理法なんてごまんとあるんだから。

 それらを全て一つの魔術で解決できるようになって、初めて優秀な便利魔術と言えるだろうね』

 

 とのこと。

 

「……いやハードル高いな」

 

 アイデア出しは自分じゃないからって、メチャクチャなこと言ってるなあの合法ロリ……

 こほん。

 

 そう、何を隠そう。

 ここ最近フィーナリア教授が開発したことになっている便利魔術は、私が開発したものなのだ。

 正確に言うと、私がアイデア出しをして作った原形を大叔母がまとめる感じ。

 使い道がありそうなら採用、なさそうなら没という感じで。

 採用率は大体二割くらい? まぁ、それはしょうが無いのだ。

 なにせ、この魔術開発は趣味であるからして。

 

 魔術師の趣味として、魔術を開発、改良するというのは結構有意義なのだ。

 より強力な魔術を開発できれば、歴史に名を残せるかもしれないし。

 それでいて、空き時間でできるからコスパがいい。

 私の場合は、あまりだいそれたことはしない主義なので、こうして便利魔術を開発していた。

 なんというか、ちょうどいい塩梅なんだよな、便利魔術って。

 転生者の私なら、すでに大体のことはやり尽くしている便利魔術の開発に、一石を投じられるかもしれない。

 開発しても、正直一部の魔術マニアの間で話題になるだけだから。

 いや、歴史変えるレベルの便利魔術を開発できたら、また話は違うだろうけどさ。

 それも私が名前を出したくないのもあって、開発者は大叔母になるだろうし。

 

「さてと、手紙の返事を考えるために資料を読み解くかなぁ」

 

 というわけで私は、個人的に満足度の高いB級趣味である、魔術開発に今日の空いた時間を使うと決めるのだった。




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