現政奉還記 B.O.W.編   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 迫り来る異形の怪物を相手に戦闘を展開していく聖龍隊と赤塚組を筆頭とした一行。
 そんな中、新世代型たちの秘められたテレパス能力による伝達手段が発動してしまい、彼等全員がテレパシーで互いの思考を共有し合ってしまう状況に至ってしまった。
 困惑する新世代型たちを尻目に襲い掛かってくる数多のクリーチャーや異形の生体兵器。
 先へと進む為にも施設を探索しながら脱出の糸口を探り出していく聖龍隊総長。
 だが、果たして今回も彼等は無事で済むのだろうか……。

※今回の話でも度々流血の描写があり、更には版権キャラが痛ましい目に遭っているシーンも多々あります。


現政奉還記 東南アジア市内編 造り出されし怪異 前編

[複製され続ける兵器]

 

 襲い掛かる寄生型のクリーチャーに巨大なタランチュラを退け、聖龍隊と赤塚組を先頭とした一行は施設に捕らわれの身であった新世代型の二次元人たちを警護しながら、異形の存在が蔓延る施設からの脱出経路を確保しつつ、施設の調査も進める事にした。

 そして一行はエレベーターでようやく辿り着いた地下24階で、とある研究部署に足を運ばせていた。

 其処には無数の筒状のガラスケースが置かれており、その中にはホルマリン漬けにされている様々な異形の生物が納められていた。

「こ、こいつらは……一体」

 見るからに悍ましい異形の生物に鳥肌を立たせる大将。そして大将ら赤塚組の面々と共にガラスケースに納められた数多の異形の生物を眺める聖龍隊が呟いた。

「これらも……この施設で造り出された生体兵器の様ね。研究結果として、例え失敗作であったとしても、こうしてガラスに納められて展示されているのよ」

 険しい面立ちでガラスの中の生物に視線を向ける聖龍HEADのセーラープルート。

 

 すると、聖龍隊や赤塚組と同じくガラスに納められた生体兵器を間近で眺める新世代型の面々が、聖龍隊の方々に話し掛けてきた。

「こ、このガラスの中の生体兵器も……やっぱり小田原修司の遺伝子や、その遺伝子から抽出されたD-ワクチンで造られた生き物なんですかね」

 新世代型の室戸大智からの問い掛けに、聖龍隊総長のメタルバードは意味深な険しい顔付きで答え返した。

「ああ、おそらくな。修司の遺伝子で造ったのはいいが、上手く機能せずに失敗作として保存されているのばかりだろう」

 この時の室戸大智への返しは、新世代型の意思疎通による思考伝達能力で全ての新世代型に伝わっていた。

 ガラスケースの中には、もはや人型でない生体兵器の姿も見られた。

 長い舌に赤い目、爬虫類の様な口に両手が鎌の様に形成された下半身が殆ど紛失してしまっている異形の生物が。

「へんな奴」

 その両手が鎌の異形の生物を見て、真鍋義久が思わず一言零す。

 だが、それらを初めとするガラスケースの中の生物を間近で観察していた新世代型で調理人の[[rb:幸平創真 > ゆきひらそうま]]が真面目な面構えで呟いた。

「……こいつ等、上手くすれば食えるかな?」

 この[[rb:幸平創真 > ゆきひらそうま]]の発言と思考に、赤塚組と新世代型の面々は驚愕した。

「いやいやいや! いっくら何でも生物兵器を食うのはどうかと思うぞ!? いっくら調理人だろうと、よくそんな発想思いつくな!!」

「それ以前に、食っても平気かどうか思わないんスか!?」

 [[rb:幸平創真 > ゆきひらそうま]]の言動に激しくツッコム大将と真鍋義久。

 だが、それに対して赤塚組の山崎貴史が平然と真顔で語り出した。

「いや、案外上手く下拵えすれば人間の口にも合うかもしれないよ。ほら、今では珍味で有名なナマコだって見た目的にはグロテスクだけど上手く下拵えすれば食べられるじゃないか」

「いやいやいや!! だからって!! 無理があるだろうが、無理が!!」

 仲間の山崎貴史の発言に、大将は物凄い形相で反論を返すのだった。

 

 そんな男共が騒々しくしている最中、聖龍HEADのセーラーマーズにヴィーナス、更にはウラヌスとネプチューンの四名が横に並んだガラスの試験管に装入されている人型の生物に目を向けていた。

「ど、どうしたんですか? セーラー戦士の皆さん。そんな険しそうな顔浮かべて……」

 如何にも険しい顔色を浮かべているセーラー戦士達を見て不思議に思った新世代型の能美クドリャフカが訊ねると同時に、セーラー戦士達が深刻な表情で見詰めていた試験管に自身も目を向けた。だが目を向けた瞬間、クドリャフカは愕然とした。

 視線の先に並んでいるガラスの試験管の中に納められていた人型の生物、それは自身も以前より教科書やテレビなどで顔を拝見した事がある小田原修司その容姿と瓜二つであったからだ。しかし試験管の中の人型の生物は、小田原修司の顔がやや崩れた風貌や手足の先が異形と化している容姿であった。

 いくつもの試験管の中に納められた小田原修司と瓜二つの人体を目にした能美クドリャフカ。その彼女の視覚から感じ取った映像をもテレパス系の伝達器官で互いに伝わり合う新世代型たちもクドリャフカ同様に小田原修司と酷似しているガラスの中の人体に衝撃を受ける。

 新世代型の皆が自分同様に愕然としている中、クドリャフカは最初に試験管の中の物体に目を向けていたセーラー戦士達に震える声で問い掛けた。

「あ、あの……これって……」

 すると訊ねられたセーラー戦士達は重苦しい面差しでクドリャフカに答え返していった。

「……修司君の、前総長の遺伝子から生み出された[[rb:複製 > クローン]]よ」

「彼の発達し過ぎた遺伝子を研究する余りに、修司君本人の遺伝子から[[rb:複製 > クローン]]を造り上げたのよ」

 マーズとヴィーナスの台詞を聞いて、大門ジョセフィーヌが突発的に反論してきた。

「ちょ、ちょっと待ってよ! [[rb:複製 > クローン]]って……い、いくら何でもそんな法外な……!」

 法外的な行いに驚愕するジョセフィーヌに、マーズとヴィーナスに続いてウラヌスとネプチューンが答えた。

「遺伝子研究の一環としては、完全に自我をつまりは意志を持ってない[[rb:複製 > クローン]]なら造り出されても文句は言われないんだよ」

「何より、此処はおそらく法的処置を逃れた研究施設。だからいくらでも一人の、それも人間兵器の遺伝子から[[rb:複製 > クローン]]を造ろうとも黙認されていたのかも」

『………………』

 ウラヌスとネプチューンの深刻な台詞を目の当たりにして、新世代型の面々は言葉を失ってしまってた。

 

 更に別の聖龍HEADのミュウイチゴとミュウミントの二人も、一列に並ぶ試験管の中に納められていた小田原修司の[[rb:複製 > クローン]]体を見据えていた。

 その二人が見据えている試験管の中を気になった新世代型の直枝理樹と棗恭介の二人が歩み寄っては同じく試験管の内部に目を向けた。

「ヒッ」「こ、これ……!」

 二人は表情を一変させて顔面蒼白で驚愕した。試験管の中に納められていた小田原修司の[[rb:複製 > クローン]]、それらには手に水かきや牛の蹄の様に通常の人体とは全く異なる箇所が目立っていたからだ。

 手足だけでなく、中には完全に下半身が動物の様な体躯に変化しているその[[rb:複製 > クローン]]を見て、どうしてという顔をミュウイチゴとミュウミントの二人に向ける理樹と恭介。二人の顔と対面してミュウイチゴとミュウミントは重い口を開き始めた。

「……これは、前総長の遺伝子に他の動物や生物などの遺伝子を組み込んで造られた[[rb:複製 > クローン]]よ」

「修司さんの遺伝子は様々な動物の遺伝子に変異できたから、遺伝子同士の組み合わせには相性が良かったのよ。だから、こんな半人半獣の様な遺伝子組み換えの[[rb:複製 > クローン]]が造りだされちゃっている訳」

 二人から驚愕の事実を聞いた理樹と恭介、更に二人の意識が伝わり合っている他の新世代型にもその驚愕の事実が伝達されていく。

 すると其処にジュピターキッドが歩み寄ってきては詳細を語り始める。

「これは……一種の[[rb:複製 > クローン]]兵器だろう」

「く、[[rb:複製 > クローン]]兵器??」

 ジュピターキッドの発言に困惑する恭介に、キッドは説明し始めた。

「ああ。人や動物の遺伝子を組み合わせて、全く新しい上に強靭な戦闘能力を持たされた[[rb:複製 > クローン]]の事だよ。これの場合、小田原修司の遺伝子とその他の生物の遺伝子が組み込まれたハイブリッド生体兵器だったんだろう……ま、上手く生体機能が発達していなかったのか、こうしてガラスの試験管に詰め込まれたみたいだけど」

 

 その時、他の新世代型が聞き取った情報を脳内で伝達し同等に知り得た真鍋義久が聖龍HEADの方々に伺う。

「な、なんで此処まで修司さんの[[rb:複製 > クローン]]が……それも中には動物の遺伝子と組み合わされたのが造られているンすか? いっくら修司さん自身が人間兵器として身売りしていたって……」

 すると言い寄る真鍋の問い掛けにメタルバードが答え返した。

「軍はもちろん、政府も修司という存在が持つ力に圧倒されつつも魅了されていたからな。それで、修司が戦闘中に死亡もしくは何らかの理由で辞職した後にも兵器として利用しようと模索した上で、修司の[[rb:複製 > クローン]]を造り上げたのかもしれねェな」

「そ、そんな……!」

 メタルバードの言葉に愕然となる真鍋、するとメタルバードに続いて同じHEADのエンディミオンが意味深な面立ちで語り始めた。

「それに、もしかしたら修司自身が自分の遺伝子を好きな様に使って良いと軍や政府の上層部に言っていたのかもしれない」

「そんな! 自分の[[rb:複製 > クローン]]はもちろん、その遺伝子を兵器利用される事も小田原修司は自ずと承諾していたって事ですか!?」

 キング・エンディミオンの台詞に異議を唱える室戸大智。すると異議を唱えた室戸大智にメタルバードが事の真意を語り始めた。

「修司はな、自分の遺伝子を平和利用だろうが兵器目的であろうが使用される事に関しちゃ寛大だったって言うぜ」

「な、何でまた……!?」

 平和利用ならともかく兵器目的での使用をも承諾していたという小田原修司の真情に理解を示せないキララが訊ねると、メタルバードは腕を組み深刻そうな面差しで訳を語り続けた。

「まあ、大元は俺たち二次元人の人権を保護する立場としての権威を手に入れ、二次元人を護る為に自身の遺伝子やデータを政府などの機関に提供し始めたのが発端だが……修司はな本当に昔から、自分の事を必要と見て貰いたかった。例えそれが利用目的であったとしてもだ。D-ワクチンを投与して強靭な人間兵器として国連に身売りしたのも、その変異した肉体の遺伝子を研究対象として様々な分野で扱われるのも、修司にとっては本望に近い心境であったんだ」

「な、何でまた其処まで……」

 余りにも自身を犠牲にするかのような姿勢を取っていた小田原修司の行動に深まる疑問を抑え切れずに問い掛ける猿田学。メタルバードは、そんな猿田学の質問にも受け答えた。

「前にも言っただろう。アイツは生まれながらの発達障害者。故に修司は自身を欠陥品や欠落した人間としてしか見られなかった。そんな修司にとっては、どんな理由であろうと自分を必要と見てくれる存在や組織には徹底的に身売りしてきたのよ。ま、常人には理解し切れない心情だがな」

 そして聖龍HEADの古参メンバーの顔色が重く暗くなっていく中、古参の一人であるキング・エンディミオンが再び語り始めた。

「生まれながらに障害を持ち、それで周囲の人間と違うと感じ続けてきた修司にとって自身は誰からも必要とされない欠陥品だと自負し続けてきた。そんなあいつは強靭なDの力を持つ超人へと生まれ変わってからは、更に人が変わったかのようにその力で軍や政府の下で戦い続けてきた。そう、自分が必要とされる存在であると証明し続ける為にも、な……」

 エンディミオンの話を耳にし、暗く悲しげな表情を浮かべる聖龍HEADの古参たち。そしてその他の聖龍隊は、少しばかりは必要と認可されたいと思っていた修司の実情を知っていながらも、その根本の理由が修司自身が常人とは完全に異なる発達障害者であったからだと遂最近になってから知り得た真実で理解していた。

 一方の新世代型たちは、いくら人間社会に上手く適応できずに生活できない発達障害者であろうとも自分を兵器に身を落としてまで成り上がろうと考え付いた小田原修司の思考に付いていけなかった。

 

 すると此処の場面でジュピターキッドが意味深な面差しで言葉を発した。

「昔、よく兄さんが言っていたよ……世の中には二つの存在がいる。一つは利用価値のある者、もう一つは利用価値の無い者。そして兄さんは、小田原修司は人間兵器であろうと自身の遺伝子であろうと利用価値のある存在へと自らを変えたかったんだよ。そう、発達障害者という、価値の無い者と見られたくない一心で」

 このジュピターキッドの発言に新世代型一同は凄まじく心を痛めた。

 更にキッドは真剣な面立ちで新世代型の面々に言った。

「僕たち二次元人も、それに大きく分類されている。利用価値があるべき共存すべき存在か、或いは……危険極まりない滅ぼすべき種か。その二つしか僕らの未来はない」

『!』『!』『!』

 ジュピターキッドの予想していなかった発言に、新世代型たちは愕然と衝撃を受けるのであった。

 

 

 

 

[実験の果ての異形]

 

 聖龍隊の創始者にして初代総長、そして何よりも二次元人を初めとする多くの人種保護の活動に力を入れていた人物 小田原修司の遺伝子から複製されたいくつもの生体兵器。

 その過程の中で造られたは良いが出来の悪い生体兵器がガラス製の試験管の中に納められている現状を目の当たりにした一行。

 しかも試験管に納められていた無数の生体兵器の中には、複製兵器ゆえに小田原修司と瓜二つの姿形をした生体兵器も納められていたのだ。

 一行は小田原修司のクローン兵器と共に失敗作の生体兵器が納められていた部屋を抜けて、施設の探索を行いつつ脱出に向かっていった。

 

 様々な姿形の生体兵器が納められた部屋を抜けた先は、いくつもの鉄格子の檻が並んでいる大部屋であった。

「な、なんだ? この檻は……」

 部屋に多数に渡って置かれている檻を見て、視線を泳がす真鍋義久。

 すると新世代型の一人、瀬名アラタが檻の中で何かを見つけた。

「あ! ねえ、みんな! これ見て」

 皆がアラタの言葉に、彼が見据えている折の許へと駆け付けると中には弱々しくなった茶色の子牛が一頭いた。

「牛だ!」「な、何でこんな所に……?」

 檻の中に閉じ込められている牛を見て疑問に思う鹿島ユノとキャサリン・ルース。

 更に「あ、こっちにも……!」と、今度は新世代の田所恵が別の檻を指差した。その中には一匹の山羊が弱々しく鳴いていた。

「こ、此処の動物達は、一体……」

 部屋に無数に置かれている檻の中で弱っている動物達を目の当たりにして戸惑う日暮真尋。

 そんな中、部屋の中で檻に入れられている動物達を観てキューティーハニーが重苦しい面差しで呟いた。

「多分……動物実験の為に、此処に連れて来られたのね」

「そんな!」「可哀そう……」

 キューティーハニーの発言に悲痛な表情に一変する近衛ねねと日向縁。

 だが、悲惨な動物達への扱いに対してメタルバードは非情な現実を述べる。

「人体実験を何度も重ねて行っている施設だ。同様に動物を使った実験も行っているのが妥当だろ」

「バーンズ。そんな、何も子供達の前で言わなくても……」

 メタルバードの発言に顔を曇らせて言葉を返すミラーガール。

 しかし、その時。聖龍隊の総部隊長ミラールが檻の中に閉じ込められている他とは違う動物を発見する。

「ちょっとコレ! 確かワシントン条約で密輸が禁止されている動物じゃないの……!?」

 皆がミラールの言葉で檻の中を見てみると、其処には確かに輸入禁止の動物の一体であるテナガザルがいた。

「おいおい、輸入禁止の動物までも実験に使われていたのかよ」

 国際的に輸入禁止の貴重な動物までも実験に用いられてた事実に口元を歪ませる磯谷ゲンドウの台詞に感化されたのか、赤塚組の頭領である大将が話し出した。

「タイってのはアジアでも有名な密輸ルートの中心だ。動物だけに飽き足らず、人身売買に麻薬それから銃火器と……ありとあらゆる物が非合法に密輸で運ばれるからな。そう言った意味じゃ、手に入りにくい動物とかも簡単に入手できちまう」

 大将の語るタイの犯罪現状に絶句してしまう新世代型たち。

 だが、檻の中にいる動物にはまだまだ未知の生物もいた。

「ッ! オイ、これって確か……」

 ルーキーズのトリコが指差した檻に視線を向けるココ/サニー/ゼブラ、そして小松。その視線の先の檻には日常では決して見られない動物がいた。

「これって……! 異世界で確認された希少動物じゃないですか! しかも、ほぼ幻獣に近い生命体の……」

 何と檻の中には異世界で確認された幻獣とも呼ばれている希少動物の姿までも確認された。

「別世界の動物までも実験の対象にされていたって訳かい」

 自分達の世界には存在しない未だ未知の部分が多い動物までも檻に閉じ込められ実験の対象とされていた事実に愕然とする葉月いずな。

 しかし皆が檻に閉じ込められている動物を観て周っている中、悲痛な現実を目の当たりにする新世代型がいた。

「そんな、この子……!」「? どうしたんだ、琴浦」

 檻の中を観て周っていた琴浦春香の豹変した様子に気付いた真鍋義久が声をかける。そして彼も琴浦春香が見詰める檻に視線を向けた。

 真鍋が琴浦に続いて視線を向けた次の瞬間「え……な、なんだコレは!?」と真鍋が大声で驚き慄いた。

「どうした!?」

 皆が真鍋の大声に一驚し駆け付けると、真鍋は琴浦と共に視線を向ける檻を指差した。

 その檻の中には「な……なんだ、この動物は!?」皆は檻の中で息衝いていた動物を目の当たりにして驚愕した。

 それは一見、狐の様な容姿ではあるものの尾は二つに分かれており、普通の狐よりも首が若干長く、更にはギンギンの目を光らせながら「ゼェ、ゼェ」と荒い息遣いで口から涎を垂らしながら檻の外の皆々を見据えていた。

 その異様な容姿を目の当たりにして、新世代型や一般の二次元人たちは思わず身を震わせた。

 そんな皆が見詰める異形の狐の姿を同じく見た聖龍HEADのミュウザクロは落ち着いた様子で語る。

「この動物……おそらくは遺伝子実験か何かで、こんな姿形になっちゃったのね。気の毒に」

 だがしかし、このまるで他人事みたいなミュウザクロの発言に月影ちありを初めとする新世代型の女子達が反発してきた。

「そ、それだけですか!」

「この子達、閉じ込められただけじゃなく怪物に変異させられる実験まで受けられたんですよ! どうにかできないんですか!?」

 聖龍隊の面々に何とかしてほしいと嘆願する月影ちありに神北子鞠。だが非情な現実をまたメタルバードは新世代型の面々に述べるのだった。

「お前達の気持ちは分かる。オレ達だって助け出せれば助けたいさ。しかし、こんなバイオハザードの起きた施設で飼われていた動物を安易に連れ出せば、それこそウィルス等が外に漏れ出しちまうかもしれねェんだ。可哀そうだが、コイツ等はこのまま置いていくしか手立てがねぇ」

「そんな……!」「可哀そう、動物さん達……」

 悲痛な表情を浮かべて胸を痛めるプロト世代の桃花・ブロッサムとチョコこと黒鳥千代子。

 そんな悲しげな表情をする新世代型の面々を前にして、メタルバードは申し訳なさそうに話し掛ける。

「済まねェな。だけどこればっかは、どうしようも無いんだよ。もし、こいつ等が見た目的には普通の動物でも檻から出してしばらくしてから怪物に変異する可能性だって無くは無いんだ。特に、お前さん達の様に非力な一般人を警護している中で余計な足枷を填める訳にもいかないんだ。分かってくれ」

『……………………』

 メタルバードの必死の事情を聞いて黙然としてしまう新世代型たち。

 

 人間の身勝手さで自由気ままに実験台にされてきた数多の動物達。例え異形の姿に成り果てようと、その姿を保持してようと救い上げる事も許されない現状に、新世代型を含む多くの一般二次元人は胸を痛めるのであった。

 しかしメタルバードを含む聖龍隊の言う事も一理ある。例え普通に見えたとしても、その遺伝子や細胞レベルで何らかの影響があれば、その動物を外に出す事で自然の生態系を著しく乱してしまう事と相成ってしまうのだ。

 

 

 

 

[巨体の脅威]

 

 メタルバードを初めとする聖龍隊からの悲痛な現状に胸を痛めつつも、新世代型を中心とする一行は聖龍隊と赤塚組に護衛されながら先へと進む。

 彼等が歩を踏み入れたのは、先ほどの部屋以上に広い空間であった。その部屋の中には、先ほどの部屋に並んでた鉄格子の檻よりも巨大な檻が点々と点在していた。

 広く薄暗い部屋を突き進む一行。その傍らに無数に点在している巨大な檻。

 檻の横を通る大将が、ふと檻の中に目を向けてみる。すると其処には腐敗し干乾びた動物の死骸が横たわっていた。

 大将が目を向けた檻だけにあらず、他の檻にも状態は様々ではあったが腐敗し悪臭を放ったり栄養失調で痩せ細ってそのまま絶命した動物の亡骸が檻の中に見受けられた。しかも檻の中には複数の死骸が点々と横たわっているのも見受けられた。

「コイツは……!」「ひどい……」

 大部屋の中に点在する巨大な檻の中の惨状に息を呑むメタルバードに悲痛な心境に駆られるセーラームーン。

「こ、此処の動物達は、もうみんな死んでしまっているのかな……」

「それにしても、酷い臭いだ」

 部屋の現状を見渡して全ての動物が既に死滅してしまっているのかと思考に更ける表情を浮かべるココに対し、超越した嗅覚を持つトリコは部屋に漂う死骸から発せられる腐臭による悪臭に鼻を曲げていた。

 

 と。みんなが死骸と化した動物達が収容されていた巨大な檻の間を通って今いる部屋を抜け出そうと歩を進めていた。

 その時だった。

 激しい物音が薄暗い空間に響き渡った。

「きゃあっ!」「な、何の音……!?」

 突然の激しい音に身を伏せて思わず悲鳴や脅えに駆られる新世代型の女子達。

 その時「お前ら、この場は任せた。俺達が先行して確かめてくる」と聖龍隊総長メタルバードは同士の他の聖龍隊士に伝えると、メタルバードを初めとする聖龍HEADと赤塚組は物音の正体を探る為に懐中電灯を照らしながら音のする方へと先行する。

 彼等が一歩一歩と歩み寄っていく度に空間に響き渡る物音は激しさを増し、まるで何かが激突しているかのような音に感じられた。

 そしてメタルバードと大将が先頭に立って、音が響き渡っている巨大な檻の前へ電灯を向けた。

 激しい激突音を響かせていたソレは、差し向けられた光に気付いたのか、薄暗い空間の中で赤い眼をギラリと光らせて大将やメタルバード達に視線を向けた。

『!!?』

 暗闇の中で光った赤い眼光に思わず声も出ない驚愕を背筋に浮き彫りにする一同。

 そして次の瞬間。懐中電灯の光を向けてきた上に近寄ってきた聖龍HEADと赤塚組に檻の中の巨体な生物は暴れ出し、自分を閉じ込めている檻に何度も突進していく。

「ッ!」

 メタルバードは一驚した。先ほどから響き渡っていた衝撃音は檻の中に閉じ込められている眼前の巨大な生物が、自分を閉じ込めている檻に幾度と無く突進し激突している音であったのだ。

 巨大な生物が一層激しく激突音を響かせている最中、その頃メタルバードに言われ新世代型を中心とした一般人を警護する任に就いていた他の聖龍隊士らは更に激しさを増す衝突音に多大な危機感を覚え始めてた。

 新世代型を中心とした一般人を護衛する中で心中に湧き上る危機感に動揺と焦りが高まっていく聖龍隊士たち。するとその内の一人である百江なぎさが部屋の一角その壁に有った室内の照明スイッチを見つけては、一目散に駆け出してスイッチを付けた。百江なぎさがスイッチを点けると、薄暗かった室内は電力が落ちている筈である筈なのに電灯が点き、明るくなった。

 室内の様子を把握できる様になった新世代型たちは辺りを改めて見渡す。すると天井には円錐状の笠の電灯が一列に並び、部屋の至る所には無数の巨大な檻が点在していた。

 そして周辺を明るくした一同は、先ほどから響き渡る物音の方向へと一斉に目を向けた。其処には巨大な檻の前で立ち尽くす聖龍HEADと赤塚組の姿、そして彼等の眼前では突然点いた室内の照明に驚いたのか檻の中の巨大な生物がより一層暴れ出し、その生物を閉じ込めている檻は大破寸前であった。

 そして恐れていた事が起きてしまう。檻の中の巨大な生物は大破寸前の檻に勢いを付けて一気に突進したのだ! その瞬間、檻の鉄格子は完全に大破し同時に辺りには埃や塵が生物が飛び出した勢いで凄まじく舞い上がり、檻の前にいた聖龍HEADと赤塚組の視界を遮る。だが二組に留まらず、埃と塵の風塵は後方に待機していた他の聖龍隊士と新世代型たちに襲ってきた。

 そして舞い上がっていた風塵が次第に治まり、HEADも赤塚組も、その他の聖龍隊士や新世代型たちが顔を上げてみると埃の風塵の中で巨大な生物の影が興奮し切った様な赤い眼をギラリと光らせていた。

 そして次の瞬間。その巨大生物は舞い上がる埃の中からHEADと赤塚組の一団に向かって突進してきた。

「よ、避けろ!」

 メタルバードの一声の下、一同は一斉に辺りへと身を投げ出す様にして巨大生物の猛進から回避する。

 しかし巨大生物は猛進する足を止める事無く、そのまま後方の聖龍隊メンバーと新世代型たちの方へと巨体を唸らせながら猛進していった。

「に、逃げろ、みんな!」

 猛進してくる巨大生物の巨体が迫る最中、大将が巨大生物の進路先にいる聖龍隊士や新世代型の面々に大声で呼び掛けた。

 大将の声を聞いて、聖龍隊士の面々は各自で新世代型の二次元人たちを護衛しながら同時に周囲に散らばっては巨大生物の突進から逃げ切る。

「な……何だ!? あの生き物は……!」

 自分達に向かって猛進してきた巨体の生物を目の当たりにして、猿田学は愕然とした。

 

 突進してきた、その巨体な生物に皆は尋常でない驚きを感じた。

 それは一見、象に酷似しているが長い鼻が完全に鋭い牙と青白く長い舌が飛び出している面立ちで、太い後ろ足は足腰が発達しているのか二本足で立っており、異常に変異した背骨がゴツゴツした皮膚から突出し背筋に沿って無数に並んでいた。しかもその巨体な怪物は前足が人間の手と酷似しているだけでなく、上半身に緑の毛並みが厚く覆われている赤い瞳の巨大生命体であったのだ。

 

 その巨体な象に酷似した怪物を見て、メタルバードが皆に呼び掛けた。

「みんな! コイツはさっき資料室で見た奴だ! アジア象の遺伝子を基に人為的に造り出されたクリーチャー……その名もチャウグナール・ファウグン!」

 メタルバードは自分達が通ってきた部屋その一室である資料室から拝借した資料に記載されていた人造の生体兵器についての記述に載っていた情報を思い返していた。

 それは、アジア象の遺伝子を基に造り出された生物兵器であり、凶暴かつ強力なパワーで突進したり異形の長鼻状の牙が生えた口で攻撃する重量級の生体兵器であった。

 皆がそれぞれチャウグナール・ファウグンに目を取られている最中、当のチャウグナール・ファウグンは振り返っては正面の位置を変えて再び突進する構えを取った。

「く、来るぞ!」

 メタルバード率いるHEADと赤塚組が、新世代型たちを護衛している聖龍隊メンバーと合流すると同時に指示を出していくメタルバード。

「ぜ、全員散らばれ! 一箇所に固まっていたら、それこそイイ的だ!」

 そしてチャウグナール・ファウグンが突進してくる最中、聖龍隊と赤塚組さらには新世代型たちは一斉に散らばって突進攻撃を回避していく。

 そんな混乱する戦況の中、メタルバードはミラーガールに指令を下す。

「ミラーガール! お前は最優先で新世代型を初めとする一般人の警護に当たれ! あの巨像との戦闘はオレ達で何とかする!」

「分かった!」

 メタルバードからの指令にミラーガールはハッキリと返答すると、すぐさま彼方此方に散らばった新世代型の面々の許へと駆け付けては彼等を一箇所に集めて護りやすい様にする。

 一方、新世代型達の護衛をミラーガールに一任させたメタルバードは、戦力の高い聖龍隊士を中心として彼等と共に先頭に立ち、突進攻撃を仕掛けてくるチャウグナール・ファウグンへの戦闘を開始した。

「いくぞ、お前ら! 攻撃を重点的に直撃させ続けろ!!」

 総長メタルバードからの指令の下、聖龍隊は各々が得意とする技や武器で果敢にチャウグナール・ファウグンに攻撃を浴びせていく。しかしチャウグナール・ファウグンは象の遺伝子から引き継いだ硬い皮膚が災いとして、聖龍隊や赤塚組の攻撃に対して多少の防御力を誇っていた。

「弾丸が余り効かねェ!」銃火器で果敢に攻め続ける大将の言葉にメタルバードは「それでも手を休めるな! 撃ち続けろ!」と言い掛けて行く。

 幾多の銃弾や斬撃を浴びても倒れる様子を見せないチャウグナール・ファウグン。するとチャウグナール・ファウグンは徐に自身の足元に転がっていた小さな檻に目をつけては、その檻を口である長い部位を使って高々と持ち上げた。

 そして次の瞬間、チャウグナール・ファウグンはその小さな檻を攻撃してくる聖龍隊と赤塚組に目掛けて投げ付けてきた。

「う、うわ! 避けろ!」

 メタルバードの一言で飛んでくる小さな檻から身を屈めて回避する一同。だがチャウグナール・ファウグンの猛攻は、それだけでは済まなかった。

 事も有ろうにチャウグナール・ファウグンは先ほどまで自分を閉じ込めていた大破した檻を長い口の部位で掴んでは、それを引き摺りながらも再び戦闘を続ける一同に向けて力の限り投げ飛ばしてきた。

「ま、また来たぞ!!」

 再度飛来してきた、それも巨大な檻に再び身を屈めて攻撃を回避していく聖龍隊と赤塚組。だったのだが「きゃっ!」「グッ!」何と飛んでくる巨大な檻を回避し切れずセーラーヴィーナスとキング・エンディミオンの二人が直撃してしまっては吹っ飛んでしまった。

「ヴィーナス! 衛!」

 巨大な檻に直撃してしまい派手に弾き飛ばされてしまった二人の名を叫ぶメタルバード。

 すると此処で大将率いる赤塚組の面々が手負いした二人の仇討ちと言わんばかりにチャウグナール・ファウグンに向けて銃撃を連射していった。

「この野郎ッ!」

 大将を初めとする赤塚組一同は幾度と無く銃撃を浴びせ続けていく。

 そんな中、メタルバードは手負いを負ったヴィーナスとエンディミオンの状態を同じHEADで衛生兵でもあるナースエンジェルに診察させた。

「ナースエンジェル! ヴィーナスとエンディミオンの傷をすぐさま処置しろ!」

 メタルバードからの指示を受けて即座に弾かれた二名の許に駆け寄り傷の治療をするナースエンジェル。その治療を横目にメタルバードは他の聖龍隊にも指示を飛ばす。

「他は攻撃の手を休めるな! とにかく奴を……チャウグナール・ファウグンを近寄らせるな!」

 巨体での攻撃を防ぐ為にもチャウグナール・ファウグンを近寄らせない様に攻撃を続行していく以外の手立てが今のところ見当たらないメタルバードは他の皆々に指示を告げていく。

 だが聖龍隊と赤塚組の苛烈な攻撃を続けて浴びていくチャウグナール・ファウグンは、怯む様子も見せずに攻撃してくる聖龍隊と赤塚組の眼前へと地響きを鳴らしながら歩み寄ってきた。

 歩み寄ってきたチャウグナール・ファウグンの、その巨体に圧倒される中、チャウグナール・ファウグンはその長い鼻先の鋭い牙が光る口と人間の手の様に発達した前足で攻撃しようと上半身を高々と持ち上げた。

 今にも振り下ろされそうになる長い口の部位に前足からの三点からの攻撃を防ぐ為、スター・ルーキーズの総部隊長ミラールは仲間である他の聖龍隊士たちに言い放った。

「鼻と前足を集中的に攻撃!」そのミラールの言葉に反応し、銃撃を主な戦闘スタイルにしている暁美ほむらと巴マミもミラールに続いてチャウグナール・ファウグンの振り上げられた口の部位と両前足を集中砲火していった。

 すると銃撃を三点の箇所に集中的に浴びせられたチャウグナール・ファウグンは怯んだのか、振り上げていた口の部位と両前足を下ろした。

 攻撃の手を止めたチャウグナール・ファウグンに、攻撃のチャンスを見出したメタルバードは一気に指令を下した。

「今だ! 一気に攻撃しろ! 徹底的に押し通せ!!」

 メタルバードの闘志に満ちた指令に突き動かされ、聖龍隊と赤塚組は一斉に攻撃をチャウグナール・ファウグンに浴びせていく。

 更にチャウグナール・ファウグンが怯んだ隙を衝いて、遠距離攻撃だけでなく接近戦をも展開していく聖龍隊。強烈な刃での斬り付けに拳や鈍器などでの直接攻撃を浴びせ続け、チャウグナール・ファウグンを追い詰めていく。

 そんな最中、大将は銃撃を続行しつつも傍らのメタルバードに問い詰め掛けて来た。

「それにしたって……何でよりにもよって象を生体兵器にしちまってんだ!? 此処は腐ってもタイだぞ? タイじゃ、象は神の使いとして昔っから大事にされてんのに……!」

「科学者連中にとっちゃ、神の使いだろうと何だろうと研究の対象には変わりないんだろうよ」

 現在彼等が滞在している地下研究施設の所在はタイ。そのタイでは古来より象は神の使いとして古くからタイの人々から崇められてきた動物であるにも関わらず、生体兵器の素材として扱われている現状に疑問を抱く大将。そんな大将にメタルバードは、所詮科学者達にとっては神の使いと崇め奉られている動物でも研究や実験の対象とされるのだろうと返答する。

 だがその最中、怯み動きを止めたチャウグナール・ファウグンに直接攻撃を仕掛けようとルーキーズの新人隊士である佐倉杏子が得物の仕掛け槍を手に、チャウグナール・ファウグンの上に跨った。そして同時に鋭利な槍の刃先でチャウグナール・ファウグンの背中側を滅多刺しにしていく。

 さすがの硬い皮膚を持つチャウグナール・ファウグンも先ほどから幾度と無く浴びせられていく攻撃に続いて死角である背中を何度も突き刺されては激痛を感じたのが、突然暴れ出した。

「う、うわっ」

 チャウグナール・ファウグンの背中の上で、返り血を点々と浴びながらも槍での攻撃を続けていた佐倉杏子は突然暴れ出したチャウグナール・ファウグンの背中から振り落とされそうに成るのを必死に耐えてた。

「杏子、無理すんな!」チャウグナール・ファウグンの背中の上で耐え続けている杏子に無理しないようにと呼び掛けるメタルバード。

 だが、次の瞬間「う、うわあ!」幾度と無く暴れたチャウグナール・ファウグンの背中から遂に杏子が振り払われてしまった。

「杏子!」「杏子ちゃんっ」

 振り払われ、床へと真っ逆様に落下していく杏子を目の当たりにして彼女の名を呼び掛ける暁美ほむらと鹿目まどか。

 そして杏子が床に落下する寸前であった。落下していく杏子を、天井に鞭を引っ掛けて勢い良く飛んできたジュピターキッドが空中で杏子を受け止めたのだ。

 辛うじて空中で杏子を受け止めたジュピターキッドはそのまま床上に着地すると、そこで杏子を掴んだ片腕を解放しては彼女に優しく話し掛ける。

「大丈夫だった? 余り無理をしないで」

 気遣いを掛けてくれるジュピターキッドの言葉に、杏子は素直に頷いて返答する。

 

 一方で聖龍隊と赤塚組の攻撃を浴び続けたチャウグナール・ファウグンは損傷した箇所から赤い血を垂れ流しつつも、その戦意は消えてはいなかった。

「タフだな、あの象のバケモノ……」

「皮膚が厚い分、ある程度の攻撃は耐え凌げるんだろう。だが、それも時間の問題だ」

 想定以上の強靭な体に驚きを隠せない大将に反し、メタルバードは倒れるのも時間の問題であると指摘する。

 だが全身から真紅の血を噴き出すチャウグナール・ファウグンは、その血走った赤い瞳で聖龍隊と赤塚組を睨み付けては再度攻撃の態勢に入る。

 少し後ろに下がったチャウグナール・ファウグンは、まず傍らにあった巨大な鉄製の檻を再び長い口の部位で掴み投げ飛ばした。

「伏せろ!」

 メタルバードの掛け声で再び身を屈む一同。だがその時、アクシデントが起こった。何と投げ飛ばされてきた鉄の檻は後方のミラーガールと、彼女に護衛されている新世代型たちに向かって飛来していったのだ。

「!」後方に待機しているミラーガールを初めとする一団に檻が飛んでいき、焦るメタルバード。

 だが檻がミラーガール達の目前まで迫った、その時だった。「テクマクマヤコン!」ミラーガールは呪文を唱え、そして次の瞬間蒼く優しい光に全身が包まれる。そしてその光が納まった彼女の姿は、何とセーラージュピターへと変わっていたのだ。

『ええッ!』『う、ウソッ!?』

 セーラージュピターに変身したミラーガールに驚愕する新世代型たちと大将たち赤塚組の面々。

 そしてセーラージュピターに変身したミラーガールは、本来のセーラージュピターが兼ね備えている怪力で飛んできた巨大な鉄の檻を両手で受け止めては難を逃れるのだった。

『………………』『………………』

 一方でセーラージュピターに変身しては彼女自慢の怪力で難なく飛来してきた鉄の檻を受け止めたミラーガールに対して新世代型と赤塚組の面々は驚きの余り開いた口が閉まらなかった。

 そして口を愕然と大きく開けたまま大将はメタルバードに顔を向けては質問した。

「な、なんでアッコがセーラー戦士に……?」

 口を開いた間抜け面で問い掛けて来た大将の質問にメタルバードは真顔で答えた。

「ああ、アッコは昔から多種多様に変身する事が可能なんだが、ミラーガールに変身してからはその幅を大いに広げて、今では多種多様のヒーロー/ヒロインにも変身する事が可能なのよ。しかもオマケに、その特殊能力も使用可能だしよ」

「……………………」

 今では様々な英雄にも変身する事が可能であり、同時にその英雄に備わっている特殊能力や身体的能力も身に付くのだと聞いた大将は、余りの衝撃的事実に唖然としてしまうばかりであった。

 そして当の本人であるミラーガールは、セーラージュピターの姿で受け止めた鉄の檻を床に下ろすと同時に変身を解除した。

「ラミパス」解除用の呪文を唱えた瞬間、彼女の全身は蒼く優しい光に包まれ、そしてその光が納まると元のミラーガールの姿へと戻っていた。

 ミラーガールの咄嗟の行動で間一髪の危機を救われた新世代型であったが、同時にミラーガールの幅広い変身能力を目の当たりにして驚くばかりであった。

 

 だが、そんな最中でもチャウグナール・ファウグンは血塗れの体を引き摺りながら攻撃の手を緩める事はなかった。

「おいおい、血塗れだってのに全く倒れる気配が見られない」

「体力も遺伝子基である象から引き継いちまっているんだろうな」

 一方で機関銃の連射を休む事なく果敢に攻め続ける大将と、両腕から風の真空刃を発生させるメタルバードは他の仲間共々攻撃を続ける。

 するとその時、チャウグナール・ファウグンは最後の力を振り絞るかのように後退りすると一気に力を込めて聖龍隊と赤塚組に向かって突進してきた。

「き、来たぞ……ヤバイ」

 もはや回避する暇も状況も無いまま追い詰められた聖龍隊と赤塚組。

 そしてチャウグナール・ファウグンが戦闘を仕掛け続けていた一団の目前まで迫ってきた、次の瞬間であった。

『うおりゃああぁぁあッ!!』

 何と戦闘集団の後方から、両手にハチカヅキを構える月光とロックバイソンの両足を抱えて振り翳すワイルドタイガーの二名が飛び出てきた。

 そして二名はそれぞれが持ち抱えるハチカヅキと硬化したロックバイソンを、猛進してくるチャウグナール・ファウグンの頭部に振り回しては直撃させた。

「バオオオォォ……!」

 凄まじい強度を兼ね備えたハチカヅキの頭部の鉢と極限まで硬化したロックバイソンを頭部の真正面、それも二点に直撃を喰らったチャウグナール・ファウグンは唸り声を発しながら後ろに仰け反った。

 そしてハチカヅキとロックバイソンが直撃した箇所から夥しい程の血が噴き出し、辺りを血の海と化す。

 頭部から大量の出血を噴き出したチャウグナール・ファウグンは、そのまま横向きで床上へと倒れては同時に地響きを響かせて巨体を沈めた。

 一方で力の限りハチカヅキとロックバイソンを振り回し、チャウグナール・ファウグンを返り討ちにした月光とワイルドタイガーは床に着地すると同時に抱えていた相手を下ろした。

「ふぅ、いつもいつも済まねェな。ハチカヅキ」

「いえいえ、そんな。月光様のお役に立てるのであれば、このハチカヅキ何なりと」

 互いに息の合ったコンビである月光とハチカヅキは、お互いに意気揚々と言葉を交わす。だが一方でロックバイソンと彼を振り回したワイルドタイガーはいがみ合っていた。

「虎徹! いくら俺が硬く成れるからって、鈍器みたいに振り回すのはどう言った了見なんだァ!?」

「い、いや、悪かったって。でも、お陰で倒せたんだから良かったじゃないのアントニオ」

 体を硬くさせられる能力ゆえに鈍器の様に扱われた処遇に対して涙目で文句を吐き続けるロックバイソンに対してワイルドタイガーはただただ平謝りを繰り返す。

 だが、そんな互いに許し合った中で武器として使用されたハチカヅキと、それとは正反対で嫌々鈍器として振り回されたロックバイソンの許に総長のメタルバードが歩み寄っては声を掛けてきた。

「いやいや、お二人さん。よく頑張ってくれたな、おい。オレ様、感動しちゃったよ思わず」

「え?」「ど、どういう事?」

 メタルバードの言葉に不思議に思うハチカヅキとロックバイソン。するとメタルバードは重く切ない口調で二人に話し始めた。

「今さっきの君達の戦い方、まるで…………昔のオレ、そっくりだったよ。ハハ」

 切ない口調で語るメタルバードの目には薄らと涙が浮かべられていた。そんなメタルバードの告白を聞いて、呆気に感じるハチカヅキと立腹していた感情が一気に沈むロックバイソン。

 するとこのメタルバードの話を聞いた新世代型の面々は、互いに内密話をするかのように耳打ちで喋り出した。

「そう言えば、昔のメタルバードも完全に武器として扱われていたんだっけ」

「そうそう。当時、聖龍使いだった修司さんに幾度と無く巨大な武器に変形させられては思いっきり振り回されたり投げ飛ばされり、散々な目に遭って来たって言うからな」

 そんなヒソヒソ話をする新世代型に、涙目で真顔のメタルバードが言う。

「お前ら、頼むからそれ以上言わないでくれ。傷口に塩だ……」

 昔の思い出を思い起こして静かに切ない心情に駆り立てられるメタルバード。

 

 だが、どちらにしろ遂に巨体の生体兵器チャウグナール・ファウグンを撃破した一行。

 その戦闘の中で垣間見たミラーガールの衝撃の変身能力の幅広さと応用力に衝撃を受ける赤塚組と新世代型の面々。

 どちらにしろ、こうして一行はチャウグナール・ファウグンと戦闘を繰り広げた場から先へと歩を進ませるのであった。

 

 

 

 

[資料と証言]

 

 巨体を響かせ迫り来る脅威チャウグナール・ファウグンを倒した一行は、脱出の糸口を探りながら同時に施設内部の探索も続けながら歩を進ませていく。

「……エンディミオン、ヴィーナス。お前ら、大丈夫か?」

「あ、ああ……」「何とかね。あーーイタタ……」

 メタルバードは先ほどの戦闘で手負いしたエンディミオンとセーラーヴィーナスに声を掛ける。すると二人は痛みに身体を擦りながらも健気に返事をする。

 

 と、その時。先頭を進むメタルバードの許に後方から新世代型の面々が駆け寄っては訊ね掛けてきた。

「め、メタルバードさん……」「っ、なんだ理樹」

 メタルバードは最初に声を掛けてきた直枝理樹に顔を向けると、続いて星原ヒカルがメタルバードに問い掛けた。

「さっき貴方は資料を見て、先ほどの怪物がどの様な生体兵器か教えてくれていましたが……その資料って」

「ああ、それな。実は此処までの道中、資料が山ほど貯蔵されていた部屋で見つけたんだよ。今でも手元に持っている」

 星原ヒカルたち新世代型達の問い掛けに答えるメタルバードは、先ほど自分が入手したと言う資料を皆に見せた。そして徐に資料を開いては内容を読み上げていった。

「此処の施設じゃ、自然エネルギーの研究やそのエネルギーを生体兵器に応用する研究だけでなく……中には日本の都市伝説をモチーフにした生体兵器やその研究までも行われていたらしい」

「と、都市伝説……?」

 気に掛かる[[rb:井ノ原真人 > いのはらまさと]]に答えるようにメタルバードは語り始めた。

「うむ。お前らもさっきから目撃しているトンカラトンやアクロバティックサラサラ。これらは攻撃性や俊敏性を考慮した上で大量生産された生体兵器だ。その他にも、まだ未確認だがテケテケ/赤マント/メリーさん/ひきこさん/口裂け女/八尺様/[[rb:姦姦蛇螺 > かんかんだら]]……日本で有名な都市伝説をモチーフにしている生体兵器や怪人までも製作されていたらしいんだな」

「……あ、あの……」「? なんだ?」

「い、いえ……その、口裂け女に赤マントって何ですか?」

〔ズコーーッ〕施設で研究/製作されたという都市伝説をモチーフにした生体兵器に関して説明していたメタルバードに直枝理樹が訊ねて来た質問の内容に、メタルバード自身はジェネレーションギャップを痛感しては派手にズッコけた。

 そしてメタルバードは起き上がると質問してきた直枝理樹を初めとする新世代型の面々に問い返した。

「あ、あれ……君たち、知らない? 口裂け女に赤マント……かなり有名で、特に赤マントなんか一時期、児童等がパニックに陥って警察まで出動したほどの騒ぎに発展したんだけど……」

 しかしメタルバードに説明を受けた新世代型の若い子供たちは全員揃って首を横に振る。

 メタルバードは若い世代とのジェネレーションギャップに痛感しながらも、気を取り戻しつつ涙目で再び前進していく。

 だが悲観するメタルバードの真情を察した新世代型の子供達は、彼に気を完全に取り戻してもらう為に再度話し掛けて行った。

「と、ところで……資料には、どんな都市伝説を基にした生体兵器が造られているって書いてあるんですか?」

 メタルバードの機嫌を伺いながら訊ねる瀬名アラタの問い掛けに、メタルバードはやや不機嫌そうな面構えで答え返した。

「そうだね……主に、その容姿や行動内容。更には、その都市伝説が広まった切っ掛けというか伝承元が詳細に記されていたよ」

「た、例えばどんな……」

 これまたメタルバードの機嫌を伺いながら問い掛ける新世代型の華山るるかの質問にも、メタルバードはふくれっ面で答え返す。

「既に経験済みではあるが、トンカラトンは刀による攻撃性の高い生体兵器で、アクロバティックサラサラは軟らかい体を駆使して換気口などの狭い場所でも移動が可能な上に俊敏な動きで相手に飛び掛って口元や喉を締め付けて窒息させるタイプの生体兵器であるようだ。他にもテケテケは実験の段階で何体か複数の個体が製造されて、文字通りテケテケと両腕または両肘を使って素早く移動するらしい。そんな都市伝説でも最も恐れられている一つで赤マントの方は、噂で語り継がれている様に真っ赤なマントを羽織ったシルクハットの仮面を顔に付けた鎌を持った怪人。メリーさんについては詳細な情報は記載されてはいないが、どうやら脳を改造され一種の超能力が覚醒した生体兵器らしい。ひきこさんは都市伝説の通りに攻撃性と言うか残忍性の高い性分で、一度目を付けた相手を徹底的に痛め付けては原形を留めない位までに体を床や地面に叩き付けたり引き摺ったりするらしい……。[[rb:姦姦蛇螺 > かんかんだら]]は女性の上半身に、他の女性の肉体の腕を縫い付けた上で下半身を巨大なアナコンダなどの蛇の胴体と縫い繋いだ生体兵器らしい。そして最後に八尺様は、その名の通りに身長を約2m40cmまで巨大化させた女性の精神を侵していると記載されている。……まあ、この施設で研究されたり改造された人間の殆どが人権を奪われた[[rb:異常者 > ヒール]]だったからな。どんな実験に使われようと法律的には筋が通っちまう」

 メタルバードの淡々と語る話を聞いて、いつ如何なる場面で遭遇するかもしれない怪異たる生体兵器に対して恐怖を募らせていく新世代型たち。

 

 と。そんな中、新世代型たちは先ほどからチラチラと目に入ってきている聖龍隊の男性隊士の腰に下げられている得物に引き付けられていた。

「あ、あの、聖龍隊の皆さん。その腰の物、もしかして……」

 プロト世代のチョコが問い掛けると、男性隊士の一人で先ほどチャウグナール・ファウグンの一戦でヴィーナス共々傷を負ったエンディミオンが振り向いては答えた。

「おお、これに気付いたか。これはな、聖龍隊の男性隊士や一部の女性隊士にしか託される事が許されてない業物だよ」

 エンディミオンが業物と言ってチョコ達に見せ付けたその得物は、白く光り輝く波紋が美しい日本刀であった。その日本刀はエンディミオンだけでなく、殆どの聖龍隊士が腰に下げていた一品であった。

「に、日本刀ですか……」

「余りエンディミオンには似つかわしくない様な気がするけど……」

 差し出された日本刀を目の当たりにして唖然とする真鍋義久に対し、本来のつまりは原作などで使用する筈の無い日本刀を所持している聖龍隊の面々には似つかわしくないと断言する室戸大智。

 すると、これに対し同じく日本刀を装備している蒼の騎士ことディープ・ブルーが語り出した。

「これは前総長、そう小田原修司が全聖龍隊士に装備するよう心掛けさせた装備品なんだ。僕は結成当時の聖龍隊の事は余り知らないけど、当時の聖龍隊はアジアで初の英雄集団であると同時に幕末で実際に活躍した新撰組を基とした組織として結成していこうって考えがあったらしく、それで日本人の埃の象徴でもある日本刀を聖龍隊の一般装備にしたって訳なんだ」

「せ、聖龍隊って……新撰組を基とした組織だったんですか!?」

 初めて知った事実に衝撃を受ける真鍋義久を初めとする新世代型たち。

 すると驚きに浸る新世代型たちに対して参謀総長のジュピターキッドは丁寧にそして優しく語り始めた。

「当時、聖龍隊を本格的に始動させようとしていた義兄さん、小田原修司は幕末の戦乱の中で己の誇りと信念の元で戦い続けた新撰組にとても感化されたんだよ。それで当時は都市区や街中での戦闘や犯罪鎮圧に対しては兄さん率いる聖龍隊の男達が先陣に立って勇猛苛烈に、日本刀はもちろん携帯銃での乱闘にも参入していったんだ。現に今でも聖龍隊の軍旗には、背景に黒い五芒星そしてかの魔鳥が描かれた軍旗と、青色の五芒星を背景に漢字の【絆】の一字を施した軍旗の二種類ある。魔鳥の方の軍旗は聖龍隊という組織を象徴すると同時にアニメタウンという国を主張する軍旗であり国旗でもあり、絆の字が彫られた方の軍旗は隊士同士の結束を表した軍旗でアニメタウンの自警団としての活動時に集団の先頭側に並列している隊士が掲げて、聖龍隊の根強い結束力を広く知らしめていた御旗なんだよ。この絆の御旗は、新撰組の【誠】の御旗を元に兄さんが考案したデザインなんだ」

「へ、へぇ……」

 幕末の英雄 新撰組と聖龍隊の意外な接点に琴浦春香を初めとする新世代型たちは唖然とするばかりであった。

 更にジュピターキッドは日本刀についての解釈も新世代型たちに語り明かしていった。

「それに、日本刀も最近では軍事大国であるアメリカでもその武器としての評価が高く認められてきている。攻撃性/防御性/そして扱い易さの三点では日本刀が最も優れた武器であるとアメリカでは評価を受けている。誰にも扱いやすく、更にそれまでの刃物である刀や剣の長所を引き継ぎ、そして短所を補っている他に無い刃物であるとね」

「長所と、短所……?」

 ジュピターキッドの解釈に首を傾げる[[rb:伊武崎峻 > いぶさき しゅん]]に、ジュピターキッドが再び詳しく説明を語っていく。

「うん。アジアで広く使われてきた刀物は対象物を斬る事に長けていた、だがその分刃の部分が薄い金属で構成されていた為とても折れやすい代物だったんだ。それと引き換えに、西洋で扱われてきた剣は相手の鎧を貫く為に貫通力を極限まで高められた刃物であり、金属の厚みも十分にあった為に折れにくい刃物だった。だけど、その代わりに対象物を切断するまでの切味は東洋の刃物より低かった。そんな斬り易いが折れ易い東洋の刀と、貫通力があり折れ難いが切断力が低い西洋の剣。この二つの刃物の長所を兼ね備え、更には短所までも克服した刃物こそ他ならぬ日本刀なんだ。鉄よりも硬い鏨と、それよりも軟らかい二枚の鉄を挟み込んで熱を加えながら打ち付けて形を構成しつつ、その強度までも極限まで高めた日本刀は、対象の物を切り裂く事も貫く事も、そして何よりも折れにくく丈夫な刃物として今では世界に名を馳せている。日本のそういった刃物の業物は、日本刀のみにあらず包丁や鋏などの刃物にまで伝承され、その切味や頑丈さに惚れ惚れした外国の人間がわざわざ海を渡って日本まで買い付けに来るほど今では日本刀の評価は高まっているんだよ」

「確かに。日本の刃物を作り出す職人の巧みの業は芸術にまで達しているって言うからな。俺達も、そんな職人が丹精込めて作った刃物で料理してっから分かるぜ」

 日本刀を初めとする日本の刃物を作り出す技術の高さが海外まで認識されている事を述べるジュピターキッドの解釈を聞いて、そんな業物の包丁で日々食材を捌いている[[rb:幸平創真 > ゆきひらそうま]]は自信に溢れた面構えで同意する。

 すると其処に同じ日本刀を自身の得物として扱う[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]も語り出す。

「私も日本刀が持つ独特の美しさには感銘を受けています! 最近では、その美的評価も高まり、大勢の外国人が日本刀を美術品として買い付けていると言う話も良く耳にします」

「そうだね。日本刀は、その切味や頑丈さだけでなく、刀によって異なる波紋から発せられる妖しくも美しい光沢が輝く一級の業物だ」

 [[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の言葉に、日本刀の美しさに対して同意するジュピターキッドは最後に新世代型達にこう告げた。

「美しく妖しく 折れず曲がらず それが日本刀の強みであり古より伝承されてきた紛れもない日本の伝統工芸品だ」

 時に人の命をも奪ってしまう刃、時にはその何とも言えない魅力に引き込まれ魅了されてしまう美しき業物、多くの人命と生き様を狂わせてきた日本の美しき刃物 日本刀。

 その日本刀の評価が今では日本国内に留まらず海外までにも認可されてきた日本の伝統品。

 美しく妖しい輝きを放つ日本刀。その巧みの業で造り出された日本の古き伝統品を前にして新世代型は、その輝きと太刀筋に目を奪われた。

 

 色々と会話を重ねながら確実に前進していく一行。その道中、一行は再び資料室の様な部屋に行き着いた。

「此処は……」「入ってみようぜ」

 もはや施設中に蔓延する陰惨な空気が部屋の扉からも感じられるメタルバードに対し、中へ突入してみようと声を掛ける大将。

 そして二人を先頭に一行は部屋へと進入していった。

 室内には多くの書物が並び、棚の上には幾つもの写真や置物が飾られていた。

「此処は、一体……」

 部屋に入った新世代型の御舟百合子が徐に棚の上に目を向けてみると、其処には外国の軍隊の兵隊が横二列に並んだ写真が飾られていた。

 不思議とその写真に気を取られた御舟百合子が写真立てを手に取り、間近で写真を見詰めて見た。すると彼女は衝撃の事実を写真の中に見付けた。

「え……こ、この人!」

 その時、再び新世代型の脳裏に御舟百合子の思念が過ぎった。そして御舟百合子が写真の中で見付けた衝撃の箇所に驚いた他の新世代型たちは即行で写真を手に取る百合子の許へと駆け付けては、彼女が手に取っている写真に目を向けるのだった。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

「この写真に写っている兵士の一人……もしかして」

 駆け寄ってきては写真に写る一人の人物に目を釘付けにするイオリ・セイと手嶋純太らが視線を向けていた写真の中の人物。それは少年のように見える童顔で確実に若かったのだが、間違いなく小田原修司その人であった。小田原修司は複数の様々な人種による外人達と整列しては、隣にブラウンのオールバックの髪型でガタイの良い体格の上官らしき人物と肩を並べていた。

 新世代型たちは即行で現聖龍隊総長メタルバードの許に駆け付けては、問題の写真を見せた。

「め、メタルバード!」「こ、この写真……!」

 棗恭介と宮沢謙吾の二名から手渡された写真を見て、メタルバードは真顔で語った。

「ほほう、これは……おそらく修司がまだアメリカに渡米していた頃の写真だな。そう、向こうの外人部隊で自分を鍛えていた頃だ」

「き、鍛えていたって……!」

 メタルバードの発言に驚く[[rb:井ノ原真人 > いのはらまさと]]ら新世代型たちに、メタルバードは語り始めた。

「前にも言わなかったっけ。修司は軍での組織としての基盤、さらには格闘などのスキルを上げる為に自ら渡米してアメリカの外人部隊に入隊したんだ。そこで修司はアメリカ各地を点々としながら各軍の基地で自らの肉体をみっちり鍛え抜いては屈強な体作りに精を出していった訳だよ。これは修司がアメリカ軍に滞在していた時の写真だろうな」

 淡々と語り続けるメタルバードの解釈を聞きながら、新世代型たちは写真に写る小田原修司の傍ら、容姿でしか把握できないがおそらく上官であろう厳つくも何処か穏やかな表情を浮かべる軍人に視線が向けられていた。

 更にメタルバードに続いて、同じ古参の面子であるキング・エンディミオンが衝撃の事実を語り出した。

「それに修司は当時、アメリカ各地の軍基地を点々と移動しながら同時にその地域のアメリカヒーローと接触したって、後に修司から聞いたぜ」

「あ、アメリカのヒーローと!?」

 エンディミオンの告白に衝撃を受けるシェリー・マキシマムを初めとする新世代型たちと初耳であるスター・ルーキーズの面々。するとエンディミオンの話に付け足す様にセーラープルートが真顔で語り明かす。

「彼はヒーローの本場、アメリカで活躍するヒーロー達を訪ね回っていたのよ。特殊能力は持たないものの、磨き抜かれた格闘スキルと鮮麗された知識で犯罪者達と闘うダークヒーロー バットマン。そしてニューヨークで主な活動をしているスパイダーマンなど……修司君はアメリカで活躍するヒーロー達と接触しては、彼等からたくさんの教訓を学んだのよ」

 するとプルートに続き、同じ外部系戦士のウラヌスとネプチューンも語り出した。

「特に修司は、特殊能力無しで闘い続けるバットマンの様なダークヒーローに強い共感を得た。それで彼は、まず特殊能力無しで犯罪者などと対等に渡り合える様にと自らの肉体を鍛えていき、最終的には闇の能力と卓越した戦闘スキルの両方を兼ね備えた戦士として成長していった訳さ」

「何より、彼は心に深い闇を抱いている故にバットマンの様な闇の中で闘い続けるヒーローに凄く惹かれる傾向があったのよ。昔から彼は口々に言っていたわ……「自分は理不尽で不条理な現実という闇で生き続ける三次元人、それに反して二次元人は夢と希望の世界で生き続ける光を司る種族」と。彼は自身のそれまでの生い立ちから、三次元人は現実という闇の中で生き続ける闇を司る種族であり、私たち三次元人の微かな夢や希望という思想概念から生まれた二次元人こそ光を司る種族であると……だから彼は自然と、自ら私達とは正反対の闇の正義の側に身を投じて行ったのよ」

 自分たち三次元人は理不尽な現実の中で生き続ける闇を司る種族であり、それと反対で二次元人は夢や希望から生まれた光を司る種族であると断言していた小田原修司の言葉に、新世代型たちは愕然と立ち尽くしていた。

 

 するとその時、今度は同じ新世代型でも頭の回転が鈍く未だに自分を含んだ新世代型のテレパス系の伝達手段を完全に把握できてない燃堂力が何かを見付けた。

「おおい、みんな! また何かテープみたいなのがあったぞ!」

 燃堂の声を聞いて彼の元に駆け寄る彼の数少ない友達である斉木楠雄。そして斉木が燃堂から映像テープを手渡された瞬間、斉木は念視でテープに保存されている映像を瞬時に読み取った。そして斉木が映像を読み取った瞬間案の定、他の新世代型たちにもその映像が鮮明に伝達されてしまう。

 新世代型の皆々が映像を把握したその時、新世代型でない為に映像の中身を把握してないギュービッドが斉木に問い掛けて来た。

「おい、斉木。そのテープには何が保存されてんだい? ちょうど其処にも映写機があるから見てみようぜ」

 そう言うとギュービッドは斉木の返事も聞かずに半ば強引にテープを奪い取っては、部屋に置かれていた映写機にテープをセットしては電源を入れた。

 すると映像がスクリーンに映し出された。その映像には、今では見られない英雄達の若々しい姿と音声が記録されていた。

「突っ込めーー!」

 刀の切っ先を突き出し周囲の者たちと共に砂埃舞う荒れ狂う戦場の中を先陣を切って特攻する一人の少年。その少年に続き数多の聖龍隊の英雄達その若かりし時代の勇姿が淡々と映像に流れて出した。

「こ、これは……!」

 映像を観て愕然となる真鍋義久にメタルバードが呟き返した。

「これは、記録映像だ」「き、記録映像!?」

 メタルバードの発言に細野サクヤが思わず問い返すと、メタルバードに続いてジュピターキッドが説明し出した。

「この頃は例の大戦後の時の時期だ。異次元からの脅威、その残党を僕たち当時の聖龍隊がアジアを中心に討伐活動していた時の映像だよ」

 聖龍隊が史上初めて大掛かりな規模で展開した異次元からの脅威との大戦。その後、国際連合の指示の煽りを受けてその脅威の残党狩りを聖龍隊が請け負っていた時の映像だとジュピターキッドが語る中、映像は更に続いた。

 先頭に立つ少年が日本刀片手に敵陣に突っ込み、迫り来る無数の怪人や怪物を次々に斬り付けては薙ぎ倒していった。その少年に続き、セーラー戦士達やキューティーハニー、更には当時副長であったメタルバードにジュピターキッド等の初期の聖龍HEADが少年と共に果敢に戦い続ける様子が克明に記録されていた。

「あ、あの……あの少年って、もしや」

 新世代型の棗鈴が訊ねると、HEADのセーラーサターンが険しい面持ちで答えた。

「ええ、そうよ…………若かりし頃の、初代総長 小田原修司よ」『!』

 サターンの発言に新世代型たちは一同に愕然とした。映像の中で、風塵の中で勇猛果敢に日本刀一本で戦う童顔の少年。それこそ若かりし頃の英雄 小田原修司の姿だと言うのだった。

 若かりし頃の少年だった小田原修司は、仲間である当時のメタルバードやジュピターキッドと共に先陣を切り抜けては、その後ろを他の聖龍隊の英雄たちも猛進しては苛烈な戦闘を展開していた。

 映像には、若かりし頃のセーラー戦士たちやキューティーハニーそして魔法騎士の三名とコレクターズ、更にはまだあどけない少女であったセーラーサターンや木之本桜、そして強烈な光線を敵に次々に浴びせては消滅させていく最終兵器のちせの勇姿が鮮明に記録されていた。

 そんなヒロイン達に混ざってミラーガールも自分なりに必死になって周囲の敵である怪物どもと応戦を繰り広げ、そんな彼女の背後に回っては互いに攻撃と防御の役割を受け持つ体制を展開していく小田原修司。

 だが、ミラーガールの背後に回って互いに攻防の役割を展開する二人の周囲を、更にメタルバードとジュピターキッドも参入しては小田原修司と共に三位一体の攻撃を展開し、周辺の敵を続々と撃破していく迫力溢れるシーンが映像に流れる。

「す、スゲェ……」

 迫力満点の三人での戦闘シーンを見て思わず見惚れてしまう燃堂力。そんな燃堂と同じく映像に記録されている当時の聖龍隊ナンバー3の三人が見せる凄まじい戦闘のワンシーンは傍観する新世代型達の心を奮わせた。

「こ、これが……今でも語り継がれている、聖龍隊三化神の勇姿」

 まるで戦神の如き活躍振りに人々から未だに神と称されて呼ばれる聖龍隊最強の三人組の勇姿を見た[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は、その余りの闘士振りに激しく感銘を受けるのだった。

「三化神、これが……」「これが有名な聖龍隊の……」

 映像を観て圧巻を覚える琴浦春香と真鍋義久。そんな驚くばかりの新世代型の面々にメタルバードが語り出した。

「懐かしいな……俺と修司、そしてジュピターキッドによる[[rb:三人組 > スリーマンセル]]。鬼神・風神・地神の戦いぶり……」

 己の事を鬼神と名乗る小田原修司に続いて、風を操る事から風神と呼ばれたメタルバード、そして大地の力で草花を自在に操れるジュピターキッドを地神と呼んだ人々。この三名は今なお多くの人々から[[rb:聖龍三英傑 > せいりゅうさんえいけつ]]と呼ばれているのであった。

 そんな聖龍三英傑の勇ましい戦振りに感化され、他の聖龍隊メンバーも異次元からの脅威との残党を次々に薙ぎ倒していく。その彼等の後方からは、余り秀でた能力を持たない者達による構成部隊。今で言う聖龍一般隊士の面々も駆け付けては、装備している小銃や銃火器で群がる怪物の群集を各個撃破していく有様が記録されていた。

「あ! あの人達……」

「確か小説にも出てた! 確かジュピターキッドの叔父さんで……」

 映像に映っている小銃を構えて出陣していく手勢を観た波野リンコと篠目アカネが指差すと、ジュピターキッドが彼女達に説明した。

「ああ、彼等は僕の叔父であるウェルズ・J・プラントが率いる聖龍特攻決死隊、その先駆けとなった戦闘集団だよ。この頃は李・小狼と苺鈴の従兄妹組に今ではナースエンジェルの婚約者である宇崎星夜と元敵であるデューイ、キューティーハニーの妹ミスティーハニーに、当時はちせの恋人で今では婚約者のシュウジで構成されていた」

「え、シュウジ……? あ、ああ、そうだった。確か、ちせさんの恋人って小田原修司と同姓同名だったっけ。忘れてた」

 ハッと思い出した瀬名アラタは手の平をポンッと叩いて思い出してた。その果敢に戦う同姓同名のシュウジの戦闘振りを黙然と見詰める婚約者のちせと、その二人の旧友である赤塚組のアツシとアケミ。

 すると此処で映像に様々と記録されている戦闘シーンを傍観していた新世代型の星原ヒカルが唐突にメタルバードとジュピターキッドの二人に問い掛けて来た。

「あの、メタルバードさんにジュピターキッドさん」

「っ?」「なんだい、星原くん」

 二人が星原ヒカルに顔を振ると、ヒカルは二人に質問を出してきた。

「いえ、これは前々から思ってはいたんですが、映像にもお二人の戦う様子が記録されているのを拝見してみると……お二人の能力って具体的には、どの様な能力なんですか?」

 メタルバードとジュピターキッドの能力について知りたくなった星原ヒカルの質問に、まずジュピターキッドが自身の能力について答え語り始めた。

「ああ、僕らの能力かい。僕の方は地の理と呼ばれる力で大地の力を思うがままに操作する事が可能なんだ。その地の理つまり大地の力で植物にも影響を与えては、同時にその植物をも自在に操れるのが僕の特殊能力さ。最近では魔界の様に人間界とは異なる世界の植物や、異世界の未知なる植物の操作も可能になってきている」

 そしてジュピターキッドに続いてメタルバードも自身の能力について語り出す。

「オレの方は、メタルバードに変身してない時は体の細胞を自在に変化させて遺伝子配列をも変える事ができる。それで簡単に他人の姿に成り済ます事も可能なのよ。そしてメタルバードに変身している時は自身の体全体が金属化しているから、自由に体の至る箇所を刃物に変形させたりできたいたけど、この超獣族のエンブレムが再プロミング、つまり自我を持ってチップバードに転移した後は単なる金属化だけでなく、体そのものを精密機械に変化させる事が可能になって今のように様々な光線銃やレーザー砲等の電子兵器を初めとする電子機器にも変身する事が可能となった訳だ」

 メタルバードの話を聞いて室戸大智が思い出したかのように話し出した。

「あ! その話なら読みました! 修司さん達がバーンズの祖国を訪ねて、そこでそのエンブレムに超獣族の最新プログラムが更新された事でメタルバード変身時には更に強力な攻撃や武器への変身が可能になったんですよね!」

「ああ、覚えてくれてたか。いや、あん時は大変だったぜ。なんせタダのエンブレムが突然喋り出すわ、謎の鏡の騎士が来襲してはシッチャカメッチャかしてくれちゃったんだもんな」

「……鏡の騎士の事はお願いだから話さないで……ホントに恥ずかしいんだから」

 メタルバードの話を聞いて顔を赤くして照れるミラール。彼女にとって自身の兄の若かりし頃のはしゃぎっぷりは赤面物なのであろう。

 

 すると此処で流れていた映像が切り替わり、次に映し出されたのは若かりし頃のナースエンジェルの姿であった。

「あ、りりかだ! わっか~~い」

 旧友の若かりし頃を見て子供の様にはしゃぐ赤塚組の水原花林。だが映像の中のナースエンジェルは一人で黙々と医療現場に運ばれてくる兵士の看護と治療に追われている多忙な様子が映し出されていた。

「な、何だか大変そうですね。ナースエンジェル……」

 悲痛な表情で呟く月影ちありの言葉に、当のナースエンジェルは映像に記録されている当時の事を振り返りながら語り出した。

「あの頃は応援に駆け付けてくれた国連軍の兵士はもちろん、聖龍隊に加盟したばかりで戦い慣れてなかった人達の対応に一人で負われていたから。私以外に治癒能力を持っているセーラームーンにキューティーハニー、そして風さんやミラーガールは最戦前に出ていたから、現場で治療に当たれる人間は私しか居なかったのを覚えているわ。当時は結成してまだ間もなかったから私以外の治療班はまだ構成されてなかったし」

 当時の多忙な現状を思い返しながら静かに語り明かしていくナースエンジェルの表情には、大戦後にも続いた激しい戦火の中で身を投じそして傷付いていく仲間や兵士に心を痛めているのが鮮明に読み取れた。

 

 そして映像は終わり、同時に映写機も停止した。

「……大戦後も色々と大変だったんだな、お前ら」

 映像を見返して、聖龍隊の大戦後から続く苦労を感じ取る大将の言葉にメタルバードは険しい表情で答え返した。

「まあな。国連を初め、人々は類稀なる能力を持つオレたち二次元人を危惧しながらも、同時にその能力の高さに縋るしか生きる手立てが無かった……複雑なもんよ」

 メタルバードの話から感じられる三次元人と二次元人の深い溝と蟠りから連なる複雑な間柄に、新世代型たちは針で心を突かれる様な感覚が走った。

 すると映像を観終わった新世代型たちから質問が飛び交った。

「そういえば……映像に出てきた小田原修司は能力を使ってなかったみたいだけど、何で能力を使って戦わなかったのニャ?」

 この森園わかなからの質問に、メタルバードが答えた。

「この頃の修司は潜在的に闇の能力を持ち合わせては居たんだが、それを自在に使いこなせるほど能力は開花してなかったんだよ。だから御得意の日本刀での得物一本で敵勢に単身特攻していっちまう困ったチャンだったのよ」

 更に森園わかなに続き能美クドリャフカが質問した。

「小田原修司さんの闇の能力って、基本的にどんな事ができるんですか?」

 これについてもメタルバードが答える。

「そうだな、基本的にアイツの闇の能力は大きく分類して五つ……対象の物体や人を引き寄せる引力、そしてそれらから生体エネルギーや特殊能力によるエネルギーを吸収し、更には引き寄せたモノや吸収したエネルギーを解放したり、吸収した相手の能力を複製して自分でも使えるようになる事。後それから……闇そのものが持つ恐怖を相手に刻み込んで、恐れさせる事かね」

「恐怖、ですか……」

 闇の能力が発する恐怖に関して東郷リクヤが呟くと、メタルバードが続けて語り明かしていく。

「そうだ。人には誰しも心の中に闇を抱いている。それが怒りや憎悪、妬みなどといった負の感情なのか。はたまた自分が最も恐れている故に心の奥に仕舞い込んで隠している恐怖の対象……闇の能力は、そんな心や脳裏に潜んでいる恐怖心を増幅させて相手を錯乱状態に陥らせる事が可能な異質極まりない能力だ。今までも修司の闇の能力で、いや修司自身の抱く闇に連れて相手の内に秘められている恐怖心が込み上がり、精神が崩壊し完全に人格が壊れてしまった人間も多数見てきた。修司の闇は、大勢の人間の中に潜んでいる闇を引き出し、時にはその闇の中に潜んでいる恐怖をも操って相手を恐怖のどん底に叩き落すという異常極まりない行動もしてきた。現に、修司の闇の能力で精神が崩壊した犯罪者には恐怖で顔が引き攣り髪の毛が総白髪に変貌した奴が未だに収容されているって話だぜ。まあ、他にもいるが、その殆どが突然何かに脅えたかの様に錯乱しては心臓発作であの世に逝っちまったがな」

『……………………』

 闇の能力で相手を恐怖に陥れた上に、最悪の場合その恐怖で心臓発作を起こさせ死亡させてしまう程の強力な能力に新世代型たちは言葉に出来ない恐怖で絶句してしまう。

 

 引力/吸収/解放/複製/恐怖……五つもの闇の能力が持つ異質な力は、今や世界を劇的に変化させた。

 テロ支援国家の滅亡、テロリストの殲滅、そして暴走する特殊能力を持つ二次元人の制圧。

 だが、この闇の能力を持つ小田原修司と新世代型の関係は、後々まで明らかにはされないのであった。

 

 

 

 

[テケテケ]

 

 昔の聖龍隊の戦闘風景を撮影した記録映像を閲覧した後、一行は再び足を進ませ施設を歩いていく。

 だが、その最中にも眼前に現れては群集で襲い掛かってくるゾンビにリッカー、そしてトンカラトンにアクロバティックサラサラ、更には寄生型生体兵器の蟲狼。

 聖龍隊と赤塚組、そしてジェイクに戦闘可能な新世代型たちは協力して迫ってくる数多の敵勢を次々に撃退していくのだった。

 鮮やかな刃捌き、銃撃戦、そして超自然的な能力で悉く敵を撃破していく一行。

「ふぅ~~、此処までバケモノ共が押し寄せてくるとは……」

「おそらく、リッカーやアクロバティックサラサラそれに蟲狼は換気口ダクトを通って各階層に侵入しているんだろう。それにトンカラトンもゾンビ同様に此処の作業員の成れの果てだから、こんなに溢れているのかもな」

「ま、まさか……死んだ人間に包帯を巻いてトンカラトンにしちまう輩が、まだ施設の何処かに潜伏しているかもしれねぇのか?」

「分からねェ……しかし、気を引き締めて先に進んだ方が良いな」

 互いに臨戦態勢の大将とメタルバードの会話を後方で聞くその他の聖龍隊や赤塚組、そしてジェイクや新世代型たちは警戒を募らせていく。

 

 そして常に周囲に気を配りながら先へと進行していく一行。しかし彼等の前に施設内では未だに遭遇していない異形の存在が迫ってきていた。

「……ッ、おい、みんな。何か聞こえないか?」

 突然、大将が立ち止まっては皆に何かの物音を知らせる。その微かに聞こえてくる音は、ルーキーズのゼブラの超聴覚にもハッキリと伝わっていた。

「確かに。何かが、それも群れを成してコッチに近付いてくる」

 大将に続いてゼブラまでも指摘する接近してくる存在に一同は応戦する構えに入る。

 その音は次第に近付いてきては カサカサ……カサカサッ……と何かが物凄い速さで素早く這いずる様に移動してくるのが暗闇から聴こえてくる物音で理解できた。

 更に音は近付き カサカサからテケテケとより一層不気味な物音に変化しては激しさを増して接近してきた。

 メタルバードは懐中電灯に変形させた右腕で物音の方を照らして確認してみると、暗闇の奥から何か人影に近い黒い影が接近してくるのが確認できた。しかしその大きさにメタルバードは少しばかし戸惑った。何故なら人影は本来の人間の大きさの半分程しかなく小柄に見えたからだ。

 再度、暗闇の中で動き回っている物体を確認しようと灯りを照らした次の瞬間。

「! う、うわッ!」

 何かが突然、灯りを照らそうとしていたメタルバードに向かって暗闇の中から飛びついて来た。

「メタルバード!」

 ミラーガールが突然襲われたメタルバードの名を悲痛ながらに呼び掛けた、その直後。

「うわ!」

 今度は新世代型の神原秋人に暗闇から何かが飛び掛っては襲ってきた。

 しかもメタルバードと秋人に続いて続々と暗闇から謎の物体が一同に向かって立て続けに飛び掛ってきては物凄い力で腰の辺りを締め付けてきたのだ。

「い、一体なんなのよ! この得体の知れないのは……!?」

 腰を締め付けられ悶絶しながらも必死に抵抗するセーラーヴィーナスを初めとする聖龍隊。そして飛び付かれなかった面々は、必死で傍らで何かに体を締め付けられている仲間や同じ新世代型を救済しようと尽力し始めた。

 そして最初に飛びつかれて来たメタルバードが自身にしがみ付くその存在を強引に引き剥がし、自由の身と相成った。

 だが彼の次に飛び付かれた神原明人は自分の体にしがみ付いた存在を引き剥がそうとするものの、その力が余りにも強靭であった為に中々引き剥がす事が出来ずにいた。そして「ウ……うわあ!」

 何と神原秋人は、その腰にしがみ付いた存在の強靭な力で締め付けられ、遂に腰を切り目に、つまりは上半身と下半身が切断されてしまった。

『きゃああっ!!』

 上半身と下半身を切断され、辺り一帯に血の海ができてはその中で苦痛にもがく秋人の姿を目の当たりにした新世代型の女子達は余りの惨状に甲高い悲鳴を上げた。

 一方で自力でしがみ付く者を引き剥がしたメタルバードは、神原秋人の悲劇を繰り返してはならないと即座に右腕を刀にし両目を照明に変形させて、暗闇の中で他の面々にしがみ付く物体に向かって果敢に斬り付けて行った。そして完全な暗闇の中でメタルバードは確実に皆の体にしがみ付いている物体を斬り付けて同時に叩き落して行った。

 メタルバードの暗闇の中での行動でようやく自由の身と成った面々は、先ほどまで凄まじい力で締め付けられていた腰の辺りを擦りながら表情を苦痛に歪ませる。

 そして皆の身の安全が確立したのを認識したナースエンジェルは即行で上半身と下半身を切断されてしまった神原秋人の許に駆け寄り、彼の治療を始めた。

「酷い出血、スグに治療を」

「あ、ああ、大丈夫です。僕の傷はどんなに深くでもスグに治りますので……」

 重傷の秋人を治療しようとするナースエンジェルに対し、秋人本人はどんな重傷でもスグに完治するので大丈夫だと言葉を返す。だが

「何を言ってるの! 治りが速いとか遅いとか関係ないの! 今のあなたは完全な重傷状態なのよ! いっくら優れた身体回復でも重体者を黙って見過ごすなんて真似、私はできないわ!!」

「!」

 物凄い剣幕で言い立てるナースエンジェルの言動に、神原秋人は驚愕しつつ何も言い返せなかった。

 

 一方で暗闇からの奇襲からようやく体制を立て直した聖龍隊と赤塚組は即行で周囲を照らしては何が辺りにいるのか姿を確認しようとしていた。

 そして灯りを照らしていると、暗闇の中からその存在が不気味な容姿を灯りに照らされて克明に姿を晒した。その全貌にメタルバードも大将も、そして他の聖龍隊や赤塚組にジェイクそして新世代型たちは驚愕した。

 それはお下げ髪から普通の長髪までと様々な髪型の若い複数の女性であったが、その下半身が完全に消失しており上半身だけで移動を繰り返している得体の知れない異形の存在であった。

 その上半身だけの若い女子、そしてテケテケと両腕だけで器用に歩く姿を見た大将が蒼然とした表情で指差しながら言い放った。

「て……テケテケだ!!」

 そう大将達の前に集団で現れたのは、都市伝説でもトップクラスの恐怖と知名度を誇る下半身が切断された異形の女学生テケテケであった。

 暗闇の中でテケテケは白くギラリと光る目で聖龍隊や赤塚組の面々に狙いを定めては、群れで一斉に駆け寄って来ては飛び掛ってきた。

「こ、攻撃開始!」

 総長メタルバードの号令と同時に聖龍隊の隊士たちが、そして彼等に続いて赤塚組の面々が一斉に飛び掛ってくるテケテケの群集に向けて攻撃を始めた。

 斬撃/銃撃/打撃など様々な攻撃手段で飛び掛ってくるテケテケの群れを弾き返していく一同。

 すると此処で攻撃を掻い潜って一体のテケテケがニュー・スターズのリナリー・リーに飛び付いた。

「きゃあ!」「リナリー!」

 悲鳴を上げるリナリーと彼女の名を叫ぶアレン・ウォーカー。するとリナリーに飛び付いたテケテケはその剛腕で彼女の腰辺りを強く締め付けては、そのまま彼女の上半身と下半身を圧力で切断しようと力を入れていく。

「グッ……!」

 余りにも凄まじい剛腕による締め付けで苦痛に喘ぐリナリーは表情を歪ませる。と、その時「そりゃッ!」と、ここぞとばかしに日本刀 縛斬でリナリーにしがみ付いていたテケテケに斬りかかった新世代型の[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]。彼女はテケテケを斬り付けるとすぐさま苦痛で喘いでいたリナリーに歩み寄り、丁寧な口調で話し掛ける。

「大丈夫でしたか? お怪我は」「え、ええ、大丈夫。ありがとう」

 礼を返すリナリーに[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は、そっと彼女に手を差し伸べた。リナリーは多少困惑しながらも[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の差し出された手を掴むと、皐月はリナリーを立ち上がらせて一言。

「それは良かった。聖龍隊とはいえ、か弱い女性の身に何かあったら一大事ですからね」

 この[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の漢勝りの言葉に、リナリーは胸を激しく貫かれた。

 だがその頃、[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]とリナリー・リーが二人で良いムードに浸っている最中にもテケテケは容赦なく聖龍隊や赤塚組といった応戦する面々に向かって飛び掛ってきていた。

「ちょっとお二人さん。なに女同士で良いムードに浸っちゃっている訳? 今は兎にも角にも応戦しなきゃいけない状況でしょッ! もうっ」

 二人の良いムードに立腹するミラールが睨みを利かせながら言い放ち掛けている最中も、テケテケの攻撃は休む事無く続いていた。

「えいっ、そりゃ!」「ふんッ、ふん!」

 マカ=アルバーンの巨大鎌での斬り付け、金剛番長の巨大な両拳での凄まじい殴打など。襲い掛かってくるテケテケに聖龍隊は必死に応戦して行った。

「そりゃッ、えいッ!」「喰らえッ!」

 一方の赤塚組も多種多様な銃火器で速急で駆け寄ってくるテケテケを眼前の近距離で狙撃しては撃退していく。

 すると、そんな聖龍隊や赤塚組の果敢な対応に感化された新世代型の戦闘タイプの二次元人までも戦闘に参入してきた。

「我々も聖龍隊の方々に加勢するぞッ!」

『はいッ! [[rb:鬼龍院>きりゅういん]]様!』「分かったよ、皐月ちゃんっ!」

 [[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]からの指示に力強く返答する本能字学園の四天王衆の男達と皐月の幼馴染の[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]。彼等も眼前に迫ってくるテケテケの群集に果敢に攻撃を展開して行った。

「剣の装!」「ふんぬッ」

 [[rb:猿投山渦>さなげやまうず]]の剣の装で変形したパワードスーツから繰り出される巨漢のパワーや有り得ないほどの速さでの攻防、そして[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]の攻撃特化の極制服での戦闘にさすがのテケテケの群集も苦戦を強いられる。

「わ、私達も参戦します!」「アタイらも混ぜやがれッ!」

 すると戦闘に参入していた[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]たちの戦闘を間近で観ていた栗山未来や纏流子、そして名瀬兄妹も戦闘に加わり始めた。

 

 新世代型も加わって、より一層激しさを増す戦闘。しかし敵側のテケテケ達は、その虚ろな眼差しを向けたまま不気味なまでの無表情で勢い衰えずに迫ってくる。

 生気のない虚ろなその瞳で、テケテケである少女達は読み取れない表情をメタルバード達に向けては一気に駆け寄ってしがみ付いて来ようとする。

 だが聖龍隊と赤塚組、更には加勢に入ってくれた新世代型の協力も相まって、テケテケの数は次第に減少して行った。するとテケテケ達の様子が徐々に変わり始めてきた。

 ボサボサの長髪を靡かせながら、次の瞬間テケテケ達は複数のグループで一斉に戦闘集団の先陣に立っていた、メタルバードと大将の体にしがみ付いた。

 上半身だけで一人当たり5,6体で纏わり付いて来たテケテケ達は、同時にしがみ付いている人間の体を少女とは思えない強力で締め付けては、そのまま切断しようと試み始めた。

「くッ……このままじゃ……!」「チクショーー……ッ」

 腰だけでなく胸部や顔面、更には両足にまでしがみ付いては強力で締め付けてくるテケテケの群れに次第に体力を持っていかれるメタルバードと大将。

 するとその時。苦痛に悶絶するメタルバードと大将の危機を救おうとミラーガールが動いた。

「二人とも、少しだけ辛抱して……! テクマクマヤコン!」

 ミラーガールが呪文を唱えた次の瞬間、彼女の姿が蒼い煌びやかな光に包まれてはその身を変身させた。

 そしてミラーガールが変身したのは何と、小田原修司の一番弟子 村田順一と共に修司直々に指導を受けて、今では順一の下で職務に就いている聖龍隊スター・コマンドーの一人、通称 高速の女神の愛称で有名な[[rb:瞬間移動能力者 > テレポーター]]で【絶対可憐チルドレン】の野上葵本人であった。

「あ、葵!? あ、アッコ。葵に変身して、どうすんだよ……?」

 何ゆえ今この場に居ない野上葵変身したのか理解できないメタルバードが著しく困惑していると、野上葵に変身したミラーガールは複数のテケテケに纏わり付かれているメタルバードと大将に向けて両手の指を狐の顔の形で指しては精神を集中させる。

 そして「はいはいはいはいはいはいはいッ!」と凄まじい剣幕で連呼していくと、それと同時にメタルバードと大将にしがみ付いていたテケテケの群れが一瞬で消えていった。

 そして消されたと思われたテケテケは次々に野上葵に変身したミラーガールの後方にボトボトと落下して行った。

「こ、これは……!」

 突然のテケテケ達の消失と空中に現れていく様を目の当たりにして愕然とする大将に新世代型の面々。するとそんな彼等にメタルバードが事情を察知して語り始めた。

「そ、そうか! ミラーガールがテレポーターの葵に変身して、彼女の自身や対象の物体を瞬間移動させる能力で俺達にしがみ付いていたテケテケの群れを瞬時に移動させているんだ!」

 そうミラーガールは自身や物体を瞬間移動できる能力を持っている野上葵に変身して、メタルバードと大将の二人にしがみ付くテケテケ達を自身の後方へと瞬間移動させたのだった。

「あ、アッコは[[rb:超能力者 > エスパー]]に変身した上で、その相手の能力まで使えるのか……!」

 さすがにミラーガールこと加賀美あつことは古い付き合いである大将も、彼女の変身能力の凄さに愕然と表情を固めてしまうばかりであった。

 そして野上葵に変身して全てのテケテケを後方に瞬間移動させたミラーガールは、次に瞬間移動させたテケテケ達に振り返っては睨みを利かせた面立ちで再び呪文を唱える。

「テクマクマヤコン!」

 すると再びミラーガールの全身を蒼白い光が包んでは、野上葵の姿から別の姿へと変身を遂げていく。

 ミラーガールが野上葵の次に変身して見せたのが、葵と同じく順一と共に修司から指導を受けてはこれまた同じく順一の下で活動している超能力者、通称 破壊の女王とも呼ばれる明石薫の凛々しき姿であった。

 強力な念力を駆使できる明石薫に変身したミラーガールは、眼前のテケテケの群れに向かって強烈なサイコキネシスを発動させてテケテケの群集を一気に片付けた。

『…………………………』

 強烈なサイキックパワーを直撃して体を切り裂かれたり内臓を破裂させられテケテケ達の惨状と、それを意図も簡単にやり遂げてしまうミラーガールの実力の恐ろしさに絶句してしまう一同。

 どちらにしろミラーガールの応用の幅が広い変身能力で救われたメタルバードと大将はテケテケからの呪縛から解放された。

 

 だがその時、テケテケの残党が一瞬の隙を衝いて一斉に襲い掛かってきた。

「うわあッ!!」

 怪しく光り、そして見開いた目という異常なまでの形相で口を大きく開けて突撃してくるテケテケの群れにルーキーズの新人勢や新世代型たちが怯んでしまった次の瞬間、彼等とテケテケの間に変身を解いて元のミラーガールに戻った彼女が自前の武器であるミラー・ソードで迫り来るテケテケの群れを斬り付けた。

「グッ」「ギャッ」

 鋭い刃であるミラー・ソードで斬り付けられたテケテケの群れは、そのまま弾き飛ばされてしまった。

 そして一方の斬りかかったミラーガールは決意を新たに力強い表情で前方のテケテケ達に睨みを飛ばしては、次の瞬間に足を前へと踏み出してはテケテケ達に再度斬りかかって行く。

 青い輝きを放つガラス細工の様な光沢を持つミラー・ソードを巧みに揮い扱いながら次々にテケテケを切り倒して行くミラーガール。そんな彼女の勇士を目の当たりにして、先ほどまで穏やかで温厚だった彼女から想像も出来ないほどの戦果を挙げるミラーガールに驚愕する新世代型たち。

 そんなミラーガールの猛攻を脇目に大将率いる赤塚組もテケテケの残党に向かって銃撃を展開していき、メタルバード指揮する聖龍隊もテケテケの残党に向かって特攻して行った。

 それから戦闘を続行して行った面々はようやくテケテケの群れを一掃する事に成功する。現場に残ったテケテケの残骸を見下ろしながら、大将は力尽きるかのようにその場に腰を下ろす。

 同じくテケテケの群集と激戦を繰り広げた聖龍隊の面々も一気に疲労が滲み出たのか、その場に腰を下ろしていく。

 だが一人だけ、両膝に手を衝き息を上げるミラーガール。そんな彼女に新世代型の子供たちが歩み寄ってきては労いの言葉を掛けてあげた。

「み、ミラーガール……!」「凄かったよ、今の!」

「あ、あんなに沢山のオバケを次々に倒しちゃうなんて……」

「それも、他の能力者……それも、レベル5の[[rb:超能力者 > エスパー]]に変身して戦えるなんて! 実に興味深い」

 琴浦春香/真鍋義久/御舟百合子/そして室戸大智からの激励にミラーガールは顔を上げると徐に言葉を返す。

「……ふぅ、いいえ。私もね、ただ見てるだけじゃダメなんだって……思い返しちゃってたのよ」

 この時ミラーガールが浮かべた何処か悲しげな面差しに四人を初めとする新世代型の一同は、直感でミラーガールの心意を悟った。

 

 争いを好まず、されど人が傷付くのは更に忌み嫌う聖女。だが、争わなければ、戦わなければ多くの人々が傷付き無意味に倒れていくばかり。

 人を 平和を 守る為に戦わなければならない 争いを忌み嫌う聖女の宿命に 新世代型たちは鋭く心を痛めるのであった。

 

 そんな戦い終わるミラーガールと、彼女の心境を察して心痛に駆られる新世代型を脇目に、総長のメタルバードを始めとするHEADが床に倒れこむテケテケの亡骸を念入りに観察した。

「この子ら……どうやら下半身を失っても生きていられる様に処置された上でウィルス等で強化されたんだろうな」

「惨い、まだ中学生か高校生くらいの女の子なのに……」

 神妙な面立ちで冷静に分析するメタルバードに続いて、テケテケにされた少女達の惨たらしい成れの果てに悲痛な心境に駆り立てられる木之本桜。だが、そんなさくらにセーラーウラヌスが冷淡とも取れる台詞を掛けるのだった。

「まあ、此処の施設で改造されて生体兵器にされたのは凶悪犯罪者などの[[rb:異常者 > ヒール]]認定を受けた輩ばっかだし、殆ど同情の余地なんて無いのが責めてもの救いだね。どうせこの子らもイジメや麻薬、暴力なんかで[[rb:異常者 > ヒール]]認定されて連行された身の上だろ」

「う、ウラヌス! そんな……」

 セーラーウラヌスの冷淡な発言にセーラームーンは悲痛な表情に一変する。

 

 すると其処に、目の前で無数に横たわるテケテケの亡骸を愕然とした面差しで見据えながら新世代型の面々がメタルバードに訊ねて来た。

「め、メタルバード……このテケテケっていう化け物も、都市伝説をモチーフにした生体兵器なのか?」

 愕然とする表情で訊ねて来た[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]に顔を振り向かせるとメタルバードは真顔で答え返した。

「ああ、下半身が切断され消失してしまった女子中学生または女子高生の亡霊あるいはそれが妖怪化したものだとされている。見ての通り、足が無いから手の平か肘を着いて移動するのが特徴で、両手で歩く際の「テケテケ」という擬音から名前が付いたとされる」

『………………』

 メタルバードの話語りを聞いて顔から血の気を引いていく面々。だが更にメタルバードは驚愕の事実を新世代型の皆々に語り始めた。

「しかも、これは明確な話じゃないんだが……このテケテケと噂の元になった下半身紛失で事故死した少女が実在しているらしいんだよ」

『えッ!』『!』

 メタルバードから語られた驚きの事実に新世代型たちは一同に驚愕した。テケテケの噂の元と成った事故死した少女が実在していたらしいのだ。

 この衝撃の事実を、メタルバードは新世代型の面々を始めとするその場の皆々に真剣な顔付きで語り出した。

 

 日本の東北または北国などの極寒の土地、それも猛吹雪が吹雪いている日の出来事。この日、雪で視界が遮られる中、線路を渡っていた少女が走行中の電車に轢かれてしまった。電車はスグに激しい震動で吹雪の中で何かと衝突したのだと察知した運転手はスグに電車を緊急停止させ、電車から降りては通過した線路の上や周辺を懐中電灯片手に必死になって捜索した。

 そして電車を降りて数分後、運転手はようやく薄暗い吹雪の中で純白の雪を染める赤い血のようなものを発見する。運転手は恐る恐る血の跡を辿って、吹雪の中を進んでいく。そしてその先で、運転手は衝撃の光景を目の当たりにするのだった。

 何と一人の女学生が電車に轢かれた為に、腰の節目から完全に上半身と下半身が切断され、その切断面からは内臓が飛び出し血が滲み出ていた。だが運転手を驚愕させたのは、これだけではなかった。

 何と上半身と下半身に体を真っ二つに切断された少女は、その悲惨な状態であるにも関わらず未だ意識があったのだ。どうやら極寒の環境ゆえに、体の血の巡りが遅くなった上に寒さゆえに神経までも鈍くなった為に、即死せず意識を保ったまま、切断された体に感じられる微々たる激痛の中で少女は必死で助けを求めながらもがき苦しんでいたという。

 極寒の地ゆえに、スグに死ねずに真っ二つに切断された体で痛み苦しみながら生涯を終えた少女の悲惨な死に様が、都市伝説テケテケへと変わっていったという。

 

 と、その時。皆がメタルバードからテケテケに関する小話を聞いていた最中、超聴覚のゼブラが何かの物音に気付いてか皆に言った。

「ッ? なんだ……水の音がして来やがる」「水の音だと?」

 ゼブラが発した水の音に関してトリコが反応を示すと、トリコに続いてメタルバードがゼブラに確認を取った。

「おいゼブラ。水の音というと……」

「分からねェ……だが、それとは別に何か巨大な生物の呼吸音みたいなのを感じる。しかも水の中から」

「水の中だと!?」

 ゼブラの発言に堂本海斗が一驚する。

 そしてゼブラの指した方角を見据えたメタルバードは、すぐさま皆に言い放った。

「よし、念の為こっちの方を捜索しとこう! 何か見付かるかもしれねェしな」

 こうしてテケテケの群れを辛くも殲滅した一行は、新たに水音が聞こえてくるという方角へと進路を取るのであった。

 

 

 

 

[水中での苦戦]

 

 テケテケの群集を退けた一行は、ゼブラの耳が捉えた水音に導かれる様に施設の先へと進む。

 一行が辿り着いた先は、巨大な円錐状のプールであった。彼等はプールの周囲と中央の柱周辺に架けられた通路を繋ぐ細長い鉄格子の通路を進んでみた。

 鉄格子の通路は水に半分ほど浸かっており、通路を一歩踏み出せばそれだけで腰の辺りまで水に浸かってしまうのだった。

「ひぃ~~、おニューのズボンが……」

「我慢して。此処を通らなければ先には進めないんだから」

 ズボンやスカートなどの衣服が水に浸かり濡れてしまう事に新世代型の女子達が泣き言を言っていると、それにジュピターキッドが穏やかながらも厳しく言いつけて行く。そんなジュピターキッドと同様に教師である美都玲奈や猿田学、そして宮内一穂や烏丸さくら達も若い新世代型達を先導しながら共に水の中を歩いていく。

 すると水中から微かに感じられた震動にマーメイドメロディーズの七海るちあが声を上げた。

「っ、何か来る!」「何!」

 るちあの一言にメタルバードを始めとする一同は即行で周囲に警戒を向ける。だが、るちあが察知した存在は水中深くから水に浸かってしまってる通路を渡る無数の人影を見上げていた。

「ど、何処だ……何処にいるんだよ、るちあの嬢ちゃん!」

 戸惑い困惑しながらも、るちあに問い詰める大将。すると、るちあに続いて自分達に接近してくる存在に気付いたのはメタルバードであった。メタルバードが徐に自分達が渡っている通路から下の水中に目を向けたその時。

「み、水の中! 水中から何かが来る!!」と、るちあが大声で叫んだ。

 そして彼女の言うとおり、水中から何か黒い巨大な物体が猛スピードで上昇してきては通路を渡っている最中の新世代型たちに狙いを付けているのをメタルバードは直感した。

 次の瞬間、水中から黒くて巨大な物体は[[rb:神北小毬 > かみきたこまり]]と[[rb:来ヶ谷唯湖 > くるがやゆいこ]]目掛けて突進してきた。「危ない!」二人の少女の身の危険を直感的に察知したメタルバードはは二人を力ずくで押し退けた。すると「う、うわあ!」水中から飛び出してきた黒い物体は狙いを付けていた二人の代わりに飛び出てきたメタルバードを巨大な口で一噛みしては、そのまま水中へとメタルバードを引き摺り込んだ。

「メタルバード!」『メタルバードさん!』

 水中へと引き摺り込まれたメタルバードを見て呼び掛けるミラーガールと、そのメタルバードの咄嗟の行動により救われた[[rb:神北小毬 > かみきたこまり]]と[[rb:来ヶ谷唯湖 > くるがやゆいこ]]の二名。

 そして皆が水面上でメタルバードを咥えて暴れまわっている黒い物体に目を向けてみると、それは通常のホオジロザメよりも二周り以上に巨大な鮫であった。

 黒く巨大な鮫は、血が通っていない漆黒の瞳を光らせながら咥え付いたメタルバードを食しようと水中で暴れ回っていた。

「ぐっ、プハッ……」

 一方のメタルバードも巨大な鮫に噛み付かれながらも必死にもがいては振り解こうと抵抗していた。

 だが巨大鮫の勢いは激しく、遂にメタルバードは巨大鮫に飲み込まれてしまった。

「ば、バーンズ……!」「メタルバード、そんな……!」

 旧友のメタルバードが飲み込まれ愕然となる大将に、今まで自分達を導いてきてくれたメタルバードの鮫に飲み込まれる様を目の当たりにして蒼然と化す星原ヒカルを始めとする新世代型たち。

 そして彼等と同じく聖龍隊の面々も鮫に飲み込まれたメタルバードを目撃して言葉を失ってしまってた。が、次の瞬間。

 メタルバードを飲み込んだ巨大鮫が水中で突如として苦しみだし、激しく水面を震わせる。そして

 

「プハ~~っ」「め、メタルバード!」

 何と鮫に飲み込まれたメタルバードが、その飲み込んだ鮫の腹部を切り裂いては、切れ目から顔を覗かせたのだ。これにはミラーガールを始めその場の一同全員が嬉々としつつも驚いた。

「ひゅ~~、全く。オレ様を食おう何て百万年早いぜ」

 捨て台詞を吐きながら巨大鮫の切り裂いた腹部から這い出るメタルバード。だがこれにより更なる問題が生じた。

 メタルバードが巨大鮫の腹部を切り開いた事により、プールには夥しい程の巨大鮫の血で紅く染まっていった。すると水中深くに身を潜めていた別固体の巨大鮫が複数、その夥しい血に反応して活動を活発化し始めたのだ。

 そして巨大鮫の血に感化され活発化した別固体の巨大鮫が複数、水面に上がってきては通路上で固まっていた一行を取り囲み始めたのだ。

「さ、鮫が!」「完全に取り囲まれた!」

 複数の巨大鮫に周囲を包囲された事態に騒然となる大将やエンディミオン達。そして水面に上昇しては姿を現した鮫達は、一体ずつであったが通路上の一行に突進してきては襲い掛かってきた。

「き、来たぞ!」「避けろ!」

 大将、エンディミオンの発言に一斉に駆け出したり慌てふためく一同。だが大将率いる赤塚組は突進してくる巨大鮫の顔面に向けて銃火器を連射し、その猛攻に鮫は怯んで思わず突進の方向を転換して去っていく。

 しかし安堵する暇も無く、次の巨大鮫が一行に向かって猛進してきた。

「また来たぞ!」

 大将の掛け声を合図に赤塚組は突進してくる鮫の顔面や頭部に銃弾を幾度と無く浴びせていく。この猛攻にこの鮫も方向転換しては逃げ去っていく。

 だが幾度と迫ってくる巨大鮫を迎撃しようと、鮫の攻撃は止む事は無く、このままでは鮫の餌になるのは時間の問題であった。

 一方その頃、最初に鮫に襲われては、自分を飲み込んだ鮫の腹を掻っ攫いで脱出したメタルバードは両腕をゴムの様に伸ばしては天上に張り巡られている管を掴んでは悠々と危機を脱していた。

 そんな一人だけ危機を逃れたメタルバードに通路上の大将や聖龍HEADの面々は大声で叫び掛けた。

「おい、バーンズ! てめェ、何一人だけ助かってんだ! 俺たちも何とかしろよッ」

「バーンズぅ、何とかしなさいよっ!」

 必死な形相で呼び掛ける大将に涙声で呼び掛けるセーラームーン。更に「バーンズ! 自分だけでなく、みんなの事も何とかして!」「早くしないと、僕たちみんな鮫の餌です!」と、厳しい台詞を吐くコレクターユイと蒼の騎士。

 これに対しメタルバード本人は「ああ、分かってるって。少し待っててくれや」と落ち着いた様子で言い返す。だが「急いでくれ!」とキング・エンディミオンがメタルバードを急かす。

 そんな皆の意見を聞いてメタルバードは早速辺りを見渡した。それもレーダーに変化させた自身の視力でだ。そしてメタルバードが捉えたのは、今自分達が居るプールの水位を管理する制御室への扉であった。メタルバードは、その制御室に狙いをつけて移動を始めた。

「みんな! オレがプールの水位を下げてくる! それまで持ち堪えてくれッ」

 そう言ってメタルバードは天井伝いに両腕でぶら下がりながら器用に移動しつつ、確実に水位制御室まで近付いていく。

 そして制御室の扉前まで辿り着くとメタルバードは天井から降下しては巨大鮫に猛攻される前に、急ぎ制御室へと入室した。

 制御室に飛び込んだメタルバードは早速、制御室の操作を行おうとレバーやスイッチなど様々な機能がある機械の前へと駆け寄る。そんなメタルバードに気付いたのか、プールの水中を観察する為の強化ガラスの覗き窓に巨大鮫が突進してきては直撃した瞬間に、ガラス窓にヒビが入った。しかも、これが原因で制御室の安全装置が解除されてしまい激しくアラームが鳴り響いた。

【警告 警告 異常事態が発生しました このままでは移行動作に入れません すぐさま緊急防水シャッターを下ろし制御室内の安全を確保してください】

 鳴り響くアラームと共にアナウンスが響き渡り、メタルバードは急ぎ防水シャッターを閉ざす作業に懸かった。

「メタルバード! まだなの?」

 通信機から室外の通路上で巨大鮫の固体と葛藤しているミラーガールが呼び掛けるが、メタルバードはそれに応答しながら同時にシャッターを降ろす作業に取り掛かっていた。

「まだだ! まずシャッターを閉じて、制御室の安全を確保しないと水位の操作ができねェ!」

 そしてメタルバードは精密機械化した自身の感覚をフルに活用して、制御室の動作を行っていく。そして制御室内の安全を確保する為の緊急防水シャッターをメタルバードは降下させる事に成功する。

 シャッターは先ほど鮫が激突しヒビが入った窓ガラスを覆うと、完全に室内からプール内を傍観する事はできなくなった。しかしメタルバードは息つく暇も無いほど速急に次の動作に移る。

 まず制御室内の水位を制御するポンプ装置の稼動手順として、1/2/3のレバーを順序良く決められた手順で上下に動かすのだが、この時もメタルバードはレーダーと変化させた視力でそのレバーを動かせば装置を稼動させられるのかを把握する。そしてメタルバードが3つのレバーをそれぞれ決められた順序で動かした事で、ようやく水位を制御するポンプ装置が稼動を開始した。

 と、その時。ポンプを稼動させたメタルバードの通信機に仲間の声が聞こえてきた。

「バーンズ、まだなの!?」「こっちは狭い通路の上だから思う様に戦えません!」

 同胞のセーラープルートとアレン・ウォーカーの切羽詰った声に、メタルバードも必死な真情で話し返した。

「もう少しだ! あとは制御盤で水嵩を完全に抜き取れば終わりだ」「急いで!」

 ミラーガールや皆の危機的状況を救うために、メタルバードは制御盤のスイッチを押してプールの水を抜き始めた。

 するとポンプで吸い上げられる水の轟音が震動となって伝わってきては、急速にプールの水かさが減ってきた。

「み、水が」

 皆が見つめる中、プールの水位は瞬く間に激減していき、水中から猛威を振るっていた巨大鮫たちは下がっていく水位のプールと共に下方へと巨体を遠ざけていくのが目に見えた。

 

 そしてプールの水は完全に底を付き、通路上から皆が真下を見下ろしてみると底の方で複数の巨大鮫が水溜り程度の状況でもがいているのが確認できた。

 皆がプール底の様子に目を奪われている最中、水位制御室からメタルバードが草臥れた様子で出てきた。

「バーンズ!」

 メタルバードの姿を見たミラーガールは人混みを掻き分け、急ぎメタルバードの許へと駆け寄る。

 そしてメタルバードの許へと駆け寄るとミラーガールは彼を労う様に優しく話し掛ける。

「お疲れ様。貴方のお陰でみんな助かったわよ、バーンズ」

 このミラーガールの労いの言葉にメタルバードは「ど、どんなものよ……」と息を上げながら言葉を返す。切羽詰った状況で急ぎ水位の制御に奔走したメタルバードは激しく気力を消耗していたのだ。

 だが草臥れてばかりいられないメタルバードは立ち上がると皆に向かって言い掛けた。

「み、みんな……さっき制御室で下に下りていける階段を見付けた。調査の為に新世代型と一部の聖龍隊士を残して、俺と共に階段を下りていくぞ」

 このメタルバードの提案に反論する者は居らず、メタルバードを筆頭とした一団は制御室を抜けた先の階段を下りていく。

 

 階段を下りていくと、その先の強固な鉄の扉を開いて出てみた一同は驚いた。

 其処は水を抜かれたプール底へ繋がっていたのだ。

 水が完全に抜き取られたプール底では、先ほどまで自分達に猛威を振るっていた巨大鮫たちがまるで浜辺に打ち上げられた鯨やイルカの様にのた打ち回っていた。

 のた打ち回り、水が無いためどうする事も出来ない鮫の横を駆け抜けるメタルバード達。すると彼等の進路先に何かの作業場の様な箇所が見受けられた。

 彼等が近付いてみると、そのすぐ傍らでのた打ち回っている巨体の鮫が僅かに残った余力でメタルバード達に喰らい付こうと体を仰け反らせる。

 巨大鮫の牙を避け、メタルバードが作業場の様な所に歩み寄っては其処に上がってみると、メタルバードは巨大鮫の腹部辺りに光る何かの物体を見付ける。

(! アレは……)

 鮫の傍らに光る物体が気になったメタルバードは、自分が上がっている場の隅に置かれている発電機に気付く。そして同時に発電機のすぐ真下には僅かな水溜りが残っており、それが横たわる鮫の真下に浸かっているのも確認できた。

 そしてメタルバードは「……おい、ジュピター。ちょっと来てくれや」「えっ、ええ……」と同行してきたセーラージュピターを自分の許へと呼び付けた。そして「悪いが、この発電機……バッテリーだけが抜かれていて発電できない。少しばかりお前の電撃をこの発電機に浴びせて、しばらくの間作動できるようにしてくれ」「え、う、うん。分かった」セーラージュピターは訳が分からないままメタルバードに言われるがままに発電機に自身で発生させた電力を浴びせて発電機を稼動させた。

 セーラージュピターの電撃で発電機が稼動したのを確認したメタルバードは、その稼動したばかりの発電機を横たわる巨大鮫の真下に広がる水溜りに故意に落とした。その瞬間、水に浸かった発電機は電気を激しく放出し、水溜りの上でのた打ち回っていた鮫の息の根を完全に止めた。

 電気ショックで全身から煙を上げて絶命した鮫を確認したメタルバードは、呆然とその場景を目の当たりにしていた面々を尻目に巨大鮫の腹部脇に転がっていた光る物体に手を伸ばした。既に鮫は絶命している為に安全に物を掴む事ができる。

 そしてメタルバードの手が掴んだ光っていた物体は、一枚のカードキーであった。

「これは……」「カードキー? でも何処の……」

 掴み取ったカードキーを見て首を傾げる龍咲海とセーラーマーキュリー。すると二人にメタルバードが平然と言った。

「何処のかは分からねェ。しかし、この先必要になるかもしれねェし、手元に置いといて損は無ェだろう」

 そう言ってメタルバードは入手したカードキーを手持ちに加えた。

 そして生体兵器として巨大化された鮫を飼育していたプール底でカードキーを入手したメタルバード達は、再び新世代型たち他の面々と合流しては施設の先へと進むのであった。

 

 地下の巨大プールで育成されていた巨大鮫との苦戦を乗り越え、何処かは分からないがカードキーを入手したメタルバード達は先へと進んでいく。

 そして筒状の巨大プールを半周した所にある扉を抜けて出た通路を、そのまま早足で駆け抜けようとした矢先。

「ッ!」

 突然、先頭を進んでいた内の一人大将が急停止した。

「ど、どうしたんだよ?」

 突然立ち止まる大将に言葉を掛けるメタルバード。すると大将は自分達が進もうとしている細長い通路の先にある物に指差した。

 それは一台の古いラジカセであった。

「こ、こんな所にラジカセ?」「余りにも不自然だな」

 不自然極まりないラジカセの存在に目を付けるジュピターキッドにワイルドタイガー達。

 そして大将は何を思ったか、通路の片隅に置かれているラジカセを手に取ると、徐に電源を入れた。

 するとラジカセから不気味な旋律が流れ出し、細長い通路に反響しながら、より一層恐怖を引き立たせた。

「ヒィッ!」「な、何この曲……!」

 不気味な戦慄に背筋に悪寒を走らせるセーラーヴィーナスとミュウイチゴ。

 更にラジカセからは気味の悪い旋律と共に不気味な歌までも聞こえてきた。

 

 

 頭に回るは笑い声……頭に回るは 笑い声……

 

 陽も暮れた帰り道 どっか遠くで声が聞こえたら

 振り向かず立ち止まらず 何にも答えちゃいけないよ

 赤色と青い色 どっちが好きか言ってしまえば

 電柱の影ン中 きらり光る目が見つめてる

 沈む陽の 向こうまで駆け抜けても 気が付けば……背中で笑ってる

 

 頭に回るは笑い声……頭に回るは 笑い声……

 

(わっはっはっはっはっはっはっは……)

 

 昨日から友達が行方知らずになった噂を

 僕だけは知っていた 話聞かずとも知っていた

 あいつは言ったのさ 赤色の言葉を

 夕陽のように 真っ赤っかにされたのさ

 

 頭に回るは笑い声……頭に回るは 笑い声……

 

 

 

 淡々とラジカセから流れる不気味な音楽に、聖龍隊も赤塚組も、そして新世代型の面々も背筋に悪寒が走り顔からは血の気が引いて蒼褪めていた。

 この時、流れた音楽はこれから起きる彼等の厄災を暗示していたのかもしれない。

 

 

 

 

[地下浄水場での死闘! 飛び交う真紅のマント]

 

 一行が複数の鮫が飼育されていたプールを抜けて薄暗く細長い通路を進んでいくと、その先は巨大なタンクやポンプそれに配管が設備されている体育館ほどの広さの空間であった。

「こ、此処は何なんだ?」

 地下の研究施設で見受けられる巨大タンクにポンプといった設備に違和感を覚える大将に、周囲に配備されている機材やタンクを念入りに観察していたセーラーウラヌスが冷静な面立ちで語り出した。

「どうやら、此処は一種の浄水施設の様な場所みたいだね」

「えっ、地下の施設に浄水システムが……?」

 ウラヌスの発言に目を丸くして驚くミラーガールに、ウラヌスと同じく此処を浄水施設と認識するコレクターアイも語り出す。

「こんな大規模な施設ほど使用する水も多いでしょうしね。さっきの様な巨大な鮫みたいな水生生物を飼育するのにも大量の水が必要だし、此処の浄水場は研究施設に職員が研究に使用したり飲み水として用いる水を供給していたみたい。施設が巨大すぎて、その施設に水を供給する浄水場も此処まで巨大な訳よ」

 コレクターアイの説明に、ミラーガールも新世代型の面々も納得する。

 

 だが、そんな地下に造られた浄水場の巨大タンクの上から徘徊し続ける一行を高々と見下ろす怪しい眼差しに誰も気付いてはいなかった。

 

 浄水場に並べられたタンクや機材の間を進み抜けては何処か出口が無いか探すメタルバード達。

 そしてしばらく進んでいると、彼等の目の前に両開き式の扉が目に入った。

「扉だ!」「よっしゃ! 出られるぞ」

 メタルバードに大将は大いに喜びつつ、皆と共に扉へと駆けつけ様とした。が、その時。

「うわ!」

 何と扉に近付いた瞬間、彼等の目の前に張り巡られていた巨大な配水管などの管が落下したり倒れてきたりしては扉を塞いでしまった。

「な、何てこった……」「急いで除けませんと……」

 赤塚組のアツシとHEADのコレクターハルナが戸惑いながらも、急きょ扉を塞ぐ配管の山を片付けようと作業に入ろうとする。

 だが赤塚組や聖龍隊が配管の撤去に移る中、メタルバードだけは異様な存在の気配を察していた。崩れ落ちてきた配管に見受けられる鋭い刃物で斬り付けられ切断された痕、つまり何者かが故意に配管を切断して自分達の行く手を塞いだのだとメタルバードは直感した。

「メタルバード、どうしたのよ。貴方も力が余っている男なら配管の片付け手伝ってよ」

 ミラーガールが一人何もしていないメタルバードに声を掛けると、メタルバードはスグに「シッ」とミラーガールに黙る様に目を光らせる。

 メタルバードに黙る様に言い付けられたミラーガール、そして彼女に対して見せたメタルバードの態度を見て危機的状況に慣れている聖龍隊と赤塚組はすぐさま非常事態を察知する。

 そして皆がその場の空気で口を閉ざし、辺りが完全に無音と化したその時である。

 

「赤が好き? 青が好き?」

 

 何処からとも無く不気味な声が聞こえてきた。

 皆は謎の声に身の毛を弥立ち、只ならぬ危機感を察知した。

 まるで問いかけて来るような低い男の様な声に、聖龍隊は如何なる状況になろうとも対応できる様に自身の得物を強く握り締め、同時に臨戦態勢を構える。

 そして皆に緊張が走っている状況の中、その声の主は静かに物音を立てずに新世代型の少年少女の背後から忍び寄ってきていた。

「!」

 背後から察した只ならぬ気配に逸早く気付いた[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は皆を押し退け、後方に縛斬を身構えた。

 そして[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の咄嗟の行動に気付いて、他の新世代型はもちろん聖龍隊や赤塚組も皐月が構える目線の先に視線を向ける。すると暗闇の中から声の主が、その実体を露にした。

 その異様かつ奇怪な容姿に誰もが背筋に悪寒を覚えた。

 黒いシルクハット、血の様に鮮やかな真紅のマント、首周りには白い蛇腹状の大きな円盤形の襟飾りを巻き付けていた。何よりも異様さを漂わせるのが、その者が顔に装着している薄気味悪い微笑みを模った様な白地の仮面であった。

 怪しい笑みを浮かべる仮面に赤いマントの怪人を目の当たりにして、大将が恐怖で声を上げた。

「あ……赤マント!」

 そう一行の前に現れた怪人は、一時期日本中を恐怖に陥れた怪人 赤マントであった。

 赤マントは恐怖で表情を引き攣る赤塚組や聖龍HEADの古参を前に、ゆっくりと歩み寄ると同時に背中から一本の巨大な鎌を皆に見せ付けながら再びあの質問を一行に投げ掛ける。

「赤が好き……青が好き……?」

 怪人 赤マントは必ずといって良いほどこの質問をぶつけてくる。そして赤が好きといえば全身を斬り付け噴出した血で体を真っ赤に染めて殺し、逆に青が好きと答えれば全身の血を抜かれて体を真っ青にされて殺してしまう狂気の殺人鬼なのだ。

 昭和の頃から人々を恐怖に陥れていた殺人鬼の赤マントを目の当たりにして古株の聖龍HEADと赤塚組は、恐怖で顔を引き攣らせ血を抜かれても居ないのに既に真っ青になっていた。

 一方の初めて狂気の赤マントの姿を目の当たりにした他の聖龍隊や新世代型たちは、初見とはいえその赤マントの異様な風貌に薄らと恐怖を覚えていた。

 

 そして赤マントが一行の前に姿を現した、次の瞬間。

 赤マントは所持していた巨大な鎌を一行の先頭に立っていたメタルバードと大将目掛けて前方に大きく振り翳した。

「うわぁッ!」「ッ!」

 大将とメタルバードは寸での所で鎌から後退して回避するのだが、それを皮切りに赤マントは立て続けに眼前の面々に向かって巨大鎌を構えては幾度と無く斬りかかって来た。

「うわ!」「きゃあ!」

 巨大な鎌を振り回し猛威を振るう赤マントの攻撃に逃げ惑う新世代型の面々。だが、そんな殺伐とした混乱の中でも赤マントは攻撃の手を緩めず何度も鎌を振り回しては誰ふり構わず斬りかかって行く。

「赤が好き? 青が好き?」

 と何度も同じ質問を問い掛けながら同時に斬りかかって来る赤マントの攻撃から逃れようと、四方八方と散り散りに逃げていってしまう新世代型の面々。

 逃げ惑う新世代型を護ろうと、応戦の構えに入る聖龍隊。だが赤マントの動きは思った以上に俊敏で、貯水タンクや天井伝いを巧みに飛び交っては狙いが付けにくかった。

 そんな中、逃げ惑う新世代型の一部は、この浄水場へと足を踏み入れた入り口に戻ってきては其処から自分達だけ逃げ去ろうと考えて扉に手を掛けようとしていた。だが、彼等が扉に手を掛けようとした瞬間、その扉の上方からも幾多の配管や機材が赤マントによって切断された上で崩れ落ちてきては完全に扉を塞いでしまったのだ。

「そ、そんな……扉が!」

 扉に手を掛けようとしていた薙切えりなは浄水場からの脱出が不能となってしまった現状に愕然とした。

 だが恐怖は彼女達に確実に迫っていた。扉を配水管を切り崩して塞いだ赤マントは、次に塞がった扉の前で立ち往生している新世代型の面々に狙いを付けてジワジワと歩み寄ってきていた。

「く、クソッ。寄りにも寄って、これじゃ逃げ場が無い……!」

 前方は塞がった扉、後方からは巨大な鎌を持った赤マント。と、完全に逃げ道すら失って激しく動揺する四宮小次郎に恐怖で顔の血色が下がっていくえりなの秘書 新戸緋沙子。

 そんな三人に赤マントは確実に歩み寄っては、両手に持つ巨大な鎌を怪しく光らせながら迫ってくる。

『……!』

追い詰められ、次第に顔から血の気が引いていく三名は逃げ場を失い、ただただ立ち往生するばかりであった。

 そして逃げ場を失った三人に赤マントは容赦なく巨大な鎌を振り上げては、一気に振り下ろした。

『!!』

 えりな/小次郎/緋沙子は自分達が斬り付けられると瞬時に察し、思わず目を瞑ってしまう。が、その時。

 赤マントが振り下ろした鎌を自力で防ぎ止めた刃が三人の前に現れた。斬られると思った瞬間に助けに入った刃に三人は恐る恐る目を開いてみると、目の前には縛斬を構えて赤マントの鎌を受け止める[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の勇ましく凛々しい姿が目に入ってきた。

「あ、あなたは……!」

 助けに入った[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]を目の当たりにして驚愕する薙切えりな。すると皐月は赤マントと刃と刃で押し合いながら後方の三人を睨み付けながら毒を吐いた。

「き、貴様等……他の皆も同様に恐怖に陥っているのに、自分達だけ逃げようとは……道徳心の欠片も無いのか!」

 赤マントと力と力の押し合いをする[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]からの毒気のある台詞に、薙切えりなは思わず苛立ってしまい言い返してしまう。

「な、何を言ってるのよ! 私達はあなた方みたいなバケモノじみた能力なんて無いんですの! バケモノ同士の戦いなんてゴメンですわ!」

「な、何だと……!」

 能力者=バケモノの発言を口に出すえりなの言動に怒りを表情に出す皐月。だが二人が睨みを利かせている中、皐月と押し合っていた赤マントが彼女とえりなが言い合っている隙を衝いて後退した。

「!」

 縛斬で応戦していた皐月は、後方に退いた赤マントに再び意識を集中させる。

 一方の赤マントは後方に退くと同時にタンク等の高所に飛び乗っては軽々と高所から高所へと素早く移動し、地上で応戦する面々を翻弄する。

「くっ、すばしっこくて狙いが付けにくい……!」

 必死に銃口で狙撃を試みようとするミラールであったが、俊敏な早さで動き回る赤マントに中々狙いが付けられずにいた。それはミラールだけでなく、狙撃や射撃などの遠距離での戦闘に特化した聖龍隊士や銃撃を中心に攻撃を試みる赤塚組も同じであった。

 そんな中、高所を次々に移動しながら地上の面々を品定めするかのように見極めていく上空の赤マント。そして彼は飛び交っている最中に、地上へと飛び降りると同時に狙いを弓での射撃に集中していた鹿目まどかに付けて、彼女に鎌を横一文字に振り付けようとした。

「ま、まどかッ!」「!」

 悲痛な叫びを上げる暁美ほむら、そしまどかの目前まで迫る鈍い光を放つ鎌の刃。

 だが、まどかに鎌が直撃する寸前であった。彼女に振り翳られた鎌をメタルバードが鋼鉄の体でまどかに直撃する直前で受け止め、更にメタルバードが刃を受け止めた瞬間にジュピターキッドが鞭で鎌の持ち手である木の部分を捕らえた。

 まどかへの攻撃をメタルバードが全身を駆使して防いだ事より、ジュピターキッドの鞭で鎌の自由が利かなくなった事に赤マントは動揺し、力を込めて鞭を振り解こうとする。

 一方で寸での所で我が身をメタルバードに救われたまどかは、ドッと力が抜けてはその場に座り込んでしまう。そんなまどかにメタルバードは手を差し伸べ言葉を掛ける。

「大丈夫か」「え、ええ……」

 まどかは呆然としながらもメタルバードの手を取り、そしてまどかが手を握ったのを確認したメタルバードはそのまま彼女を立ち上がらせた。すると其処にまどかを心配してほむらが駆け寄ってきた。

「まどか!」「ほ、ほむらちゃん……」

 ほむらは嬉しさの余り、思わずまどかを抱き締める。そんな少女二人の朗らかな様子を見てメタルバードは笑みを浮かべる。

 だが肝心の赤マントは、未だにジュピターキッドの鞭を振り解こうと、ジュピターキッドと激しく力の引き合いをしていた。

 しかし、そうして動きを封じる事に成功したジュピターキッドはすぐさま周りの皆々に鞭を引き合いながら言い放った。

「い、今だ! 赤マントを攻撃するんだ」

 このジュピターキッドの言葉を合図に、聖龍隊も赤塚組も一斉に赤マントの胴体に向けて発砲などの遠距離攻撃を開始した。

 だがしかし、皆の攻撃を一身に受けた赤マントは多少マントが傷付いただけで何ともなかった。

「ど、どういう事だ?」

 銃弾を浴びても倒れる所か苦しむ様子も無い赤マントに驚きを感じる赤塚組のテツ。すると赤マントの着衣している真紅のマントを自身のレーダーアイで緻密に調査したメタルバードが衝撃の事実を口にした。

「み、みんな! あの赤マントが着服しているマント……防弾性のある布、それも異世界から輸入されてきた特別な布だ! 耐火性や耐水性も非常に高い一品だ」

 メタルバードの語った衝撃の事実に驚きを露にする一同。

 すると皆が銃弾を浴びても存命している赤マントに驚いている最中、赤マントは力いっぱい鎌を振り回しては取っ手に巻き付いていたジュピターキッドの鞭を強引に振り解いてしまった。

「う、うわ!」「ジュニア!」

 振り解かれると同時に派手に投げ飛ばされるジュピターキッドを見て、彼の名を呼び掛けるウォーターフェアリー。

 そして鞭から解放された赤マントは再び逃げ惑う新世代型の、それも若い世代の子供を中心に追い始めた。

「赤が好き……! 青が好き……!」

 再度、気味の悪い声質で問い掛けながら追ってくる赤マントから必死で逃げる新世代型。

 そして遂に犠牲者が。

 

「赤が好きと言った子は……」「!」

 謎めいた言葉を呟きながら逃げ惑う瀬名アラタの前に立ちはだかる赤マント。そして次の瞬間「血塗れになって殺される」と言いながらアラタの胴体を巨大な鎌で切り裂いた。

「う、うわあ!!」「アラタ!」「アラタ……!」

 自分の胴体から夥しい程の血が噴き出し、恐怖で声を上げるアラタの許に駆け寄る彼の同級生の出雲アキラと細野サクヤの両名。

 血の海に倒れるアラタの痛ましい姿を目の当たりにして対応に困惑する面々にも、赤マントの脅威は迫りつつあった。

 すると此処で「生徒には手は出させんぞ!」とアラタ達の教員である猿田学が転がっていた鉄パイプを震える両手で握り締めては果敢にも赤マントに戦意を向けた。

 赤マントの方も自分に敵意を剥き出しにしている猿田学に意識を向け、それと同時に巨大鎌を自由自在に巧みに回転させながら物言わない恐怖を醸し出す。

 だが、赤マントと応戦しようとする猿田学に同じ教員の美都玲奈と日暮真尋が告げる。

「猿田先生! 無茶です、赤マントと応戦しようなんて……」「自殺行為よ!」

 だが猿田学は震える両腕で鉄パイプを握り締めながら声を掛けてくる美都玲奈と日暮真尋の二人に話し返す。

「む、無茶は承知! だがしかし、生徒を護れずに教師とは名乗れません。この猿田学、一世一代の真剣勝負!!」

 もはや覚悟を決めて赤マントに挑もうとする猿田学と、対峙する赤マント。

 しかしこの時、猿田学と赤マントが対峙している隙に逃げようとキララと彼女の恋人リカルド・フェリーニが、赤マントの死角から忍び足で静かに逃げ去ろうとしていた。が、それが新たな悲劇の始まりであった。

 二人の先頭には彼氏に押されてキララが先を進んでいたのだが、キララが一歩一歩と足を前へと踏み締めていく最中、足元が見えない中で彼女が何かを踏んでしまった次の瞬間。

「キャアぁ!」「き、キララ!」

 何とキララの足にロープが絡まり、それと同時に彼女の足首に巻き付いたロープがキララを宙吊りにしてしまった。

 片足を完全にロープで宙吊りにされて、恥ずかしい格好で逆さまに吊られるキララ。そんな彼女の悲鳴を聞いて、猿田学と対峙していた赤マントは自分が狙う対象をキララに変更し、猿田学の前から立ち去ってしまう。

「あ、待て!」

 覚悟を決めて対決しようと意気込んでいた猿田学は、立ち去ってしまう赤マントを制止しようと手を伸ばす。

 そして赤マントは速攻で宙吊りのキララを吊るしているロープに掴まっては間近で彼女の首元を見る。実はキララが掛かったロープは、前もって赤マントが仕掛けた罠だったのである。

 自分の仕掛けた罠で宙吊りになるキララの首を間近で観察する赤マントは、徐に鉄製の細い管を三本取り出して口に咥えると不気味な声で言った。

「青が好きと言った子は……血を抜かれて殺される」

 その瞬間、キララの首に三本の鉄の細い管が突き刺され、その管を伝ってキララの首から鮮やかな血が少しずつ流れ出てきた。

「い、イヤあぁッ!」

 自分の首から血液が続々と絶える事無く流出している現状に恐怖を感じ悲鳴を上げるキララ。

 キララの首から流出する血は、見る見るうちに床を真っ赤に染めていく。

 その惨状を見た恋人のフェリーニはキララの血を抜いていく赤マントに護身用のナイフを投げ付けて止めようとする。

「や、止めろ!」

 キララを救いたいが為に必死になってナイフを投げ付けたフェリーニであったが、赤マントは投げ付けられたナイフを意図も簡単に鎌で弾いてしまった。

 そして自分にナイフを投げ付けてきたフェリーニの眼前に降り立つと、次はフェリーニを攻撃の対象に定めた。そして赤マントはそのままフェリーニに幾度と無く巨大な鎌を振り回し、フェリーニを斬り付けようとする。

「わ、わッ!」

 自分に振り翳られる鎌の刃を避けようと、咄嗟に何度も後退していくフェリーニ。だが最後に振り付けられた鎌の刃がフェリーニの胸部を掠め、服の一部が裂かれてしまった。

「う、うわッ」

 服に微かに届いた刃に驚き慄いたフェリーニは、その瞬間に思わず後方に転んでしまい尻を着いてしまった。

 尻餅を着いて痛がるフェリーニの許に赤マントは歩み寄り、そしてフェリーニの首目掛けて巨大な鎌を力の限り振り回した。

「ヒッ!」

 彼女も救えず、それどころか自分の首までも刎ねられる結果になろうと察したフェリーニは恐怖と驚きで動く事が出来なかった。

 だが、そんな自分自身の最後を覚悟していたフェリーニの眼前にセーラーウラヌスが一瞬の内に赤マントとの間に入っては、赤マントの巨大鎌を自身の煌びやかな短刀で防ぎ止めていた。

 間一髪の所でウラヌスに救われたフェリーニは恐怖の余り腰を抜かしてしまい、そしてそんなフェリーニに赤マントと対峙しているウラヌスが言い放った。

「き、君……急いで此処から離れるんだ! コイツはボクが引き受ける……それと、君の恋人はさっきサターンに救出されて今はナースエンジェルに治療してもらっているから安心しな」

 このウラヌスの言葉を聞いてハッとしたフェリーニが顔を向けると、其処には先ほど首に管を貫かれて血を噴き出していたキララだけでなく、赤マントに斬り付けられた瀬名アラタの腹部の深い切り傷をも治療しているナースエンジェルにセーラームーンの姿が入った。

 フェリーニは腰が抜けた状態ながらも、自身の恋人のキララの安否を気にして床を這いずる様に彼女の許へと駆け付けていく。

 一方のウラヌスは、ネプチューンと合流しつつ赤マントとの戦闘を続行していた。

 赤マントは自分の前に立ちはだかるウラヌスとネプチューンに狙いをつけて鎌を振り付けてきた。それをウラヌスとネプチューンは華麗にかわしていき、それと同時にがら空きとなっている赤マントの腹部へウラヌスが短刀で斬り付けた。彼女が付けた傷は浅かったが、斬り付けられた赤マントは完全にウラヌスの行為に対して敵愾心を燃やす。

 其処へ今度は二人と同じ外部系戦士であるプルートとサターンも駆けつけ、四人で赤マントと応戦しようとしていた。すると「待て、お前らだけじゃ心許ない! オレらと協同戦前するんだ!」とメタルバード率いる聖龍HEADのジュピターキッドやウォーターフェアリー、そして魔法騎士やコレクターズの面々が応援に駆けつける。

「みんな、急いでこの赤マントを押え付けるなりして封じないと! このままじゃ被害が拡散するばかりだ!」

 ジュピターキッドの言うとおり、既に赤マントは多数の新世代型の子供達を中心に攻撃してきては瀬名アラタやキララを損傷させていた。早々に撃退しない限り、新世代型の子供達に被害が出る一方である。

 そしてHEADは赤マントを取り囲むと、一斉に攻撃を仕掛けた。「懸かれェ!」メタルバードの掛け声を合図に一斉攻撃を仕掛けるHEAD。だが赤マントは自分へ浴びせられる数多の攻撃を俊敏な動きで回避しては一発の攻撃も当たる事無く避け切ってしまった。

「ば、バカな……!」

「聖龍隊、それもHEADの苛烈な攻撃技を一斉に砲火しても一発すら当たらないなんて……!」

 HEADの強力な必殺技を一斉に放っても一発も直撃しないで避け切ってしまう赤マントの回避身体能力に愕然としてしまうキング・エンディミオンやジュピターキッド等のHEADの面々。

 すると此処で、先ほどまで深手を負った瀬名アラタやキララの治療に専念していたセーラームーンやナースエンジェルが駆け付けてきてはHEADと合流する。二人が合流したのを確認した総長メタルバードは大声で聖龍隊一同に指示を告げた。

「聖龍隊! 怪我人の処置は終わった! これ以上、被害を出さない為にも絶対に赤マントを倒すんだ! その為にはオレ達が連携して赤マントの俊敏な動きを封じてから強烈な攻撃を仕掛けなきゃならねェ! 総員、赤マントの動きを封じつつ応戦せよ!!」

 総長メタルバードの指示を受けて、聖龍隊士は各々赤マントに向けて自前の技や術で攻撃を仕掛けていった。

 

 まず赤マントの動きを封じ込めようと、変幻自在の水の術で赤マントを覆うと共に氷系の技で水ごと赤マントを凍り付けて動きを封じようとする聖龍隊。しかし赤マントは自分の体に纏わり付いた水が凍り付く前に、自身の周囲に広げられた水を巨大鎌を高速回転させて意図も容易く弾いてしまった。赤マントの驚きの応戦方法に驚愕する聖龍隊。

 続いてはある程度の水で全身がずぶ濡れになった赤マントに、水伝導の激しい電撃を浴びせて電気で痺れさせようと試みる。そしてセーラージュピターを筆頭とする電撃系の攻撃隊士が赤マントに強烈な電撃を直撃させて、赤マントは凄まじい電撃で全身を焦げ付かれてしまう。だが、強力な電撃を浴びても尚、赤マントは倒れる事無く果敢に巨大鎌を振り回していく。

 その幾度と無く浴びせていく攻撃にも中々倒れない赤マントに痺れを切らしたマカ=アルバーンは同じ鎌使いとして赤マントと激突する。双方の鎌が凄まじく火花を散らして空中で激突する様を観て、その光景に影で戦いを見届けていた新世代型たちは息を呑んだ。しかし自身が振り翳した鎌を受け切ったマカの攻撃を弾こうと、赤マントは自身が手にする鎌に力を入れて強引にマカの鎌を彼女ごと弾き飛ばしてみせる。

「ぐ……ッ」

 鎌ごと弾き飛ばされ壁に激突するマカが苦悶の表情を浮かべた、その時「行くぞ、皆で一斉射撃だ!」とデス・ザ・キッドの掛け声と共に同じ銃撃を得意とする総部隊長のフロートとミラール、更には暁美ほむらと巴マミ、そして沢田綱吉が赤マントに向けて一斉射撃を放った。だが赤マントは、その一斉射撃を手持ちの鎌を前方で回転させては容易く一斉射撃を全て弾き返してしまった。

「そ、そんな……っ!」

 一斉射撃を防いだ赤マントに目を丸くして驚愕するデス・ザ・キッド。

 すると赤マントは一斉射撃を行った面々に猛烈に突撃しては斬りかかって来た。

「う、うわ! 逃げろッ」

 皆が一斉に散らばろうとする中、接近戦に特化した佐倉杏子と美樹さやかの二人が得物の仕掛け槍と無数の剣を展開させて赤マントと対峙する。赤マントは立ち塞がる二人の猛烈な武器での攻撃に怯む事無く、次々に彼女達の仕掛ける攻撃を巨大な鎌で応戦しつつ弾き返してしまう。

 様々な攻撃にも対応でき、肉体の抵抗力もかなり高まっている赤マントの猛攻に次第に押されていく聖龍隊。

 だが聖龍隊が疲れてる中、赤塚組の頭領 大将が仲間達に言い放つ。「俺らも休まずに撃ち続けるんだ!」大将のこの言葉を皮切りに赤塚組は一斉に銃火器で赤マントに攻撃を仕掛けていく。しかし赤マントは通常の銃弾なども今までの攻撃同様に容易く回避していき、俊敏な動作で狙撃してくる者たちを翻弄しながら所狭しと駆け巡る。

「チッ、すばしっこい奴だぜ」

 口元を歪ませながらも過激に小銃を連射しては応戦する大将。

 だが、そんな中で流れ弾が避難している新世代型の面々の方まで飛んできた

「うわッ」「きゃっ」

 もう少しの所で直撃しそうになる状況に声を上げる新世代型の少年少女達。

 そんな激烈な射撃を続ける赤塚組にメタルバードが告げた。

「赤塚組、銃弾はなるべく控えろ! 流れ弾が新世代型に当たったらどうすんだ!」

 このメタルバードの発言に赤塚組の狙撃は一旦止んだ。

 だが銃撃が止むと同時に聖龍隊に攻撃を仕掛け始めた赤マント。そんな赤マントにトリコや金剛番長などの格闘タイプの隊士が拳を振り上げては赤マントを地面に殴り付けようとする。しかし、そんな筋骨隆々な隊士の猛攻も体を仰け反らせて回避してみせる赤マントの動作に一瞬ながらも驚く面々。

 するとその時〔ピューー〕と笛の様な音が聞こえ、赤マントはもちろん浄水場内の皆がその方向に目を向けてみる。すると其処には口笛を吹いて赤マントを誘うミラーガールの姿があった。

 そしてミラーガールは赤マントの気が自分に向いているのを確認すると「こっちよ、さぁ懸かってきなさい」と事もあろうに赤マントを挑発したのだ。

 案の定、ミラーガールの挑発に乗った赤マントは彼女に向けて巨大な鎌を振り翳しては斬りかかって来た。が、赤マントがミラーガールの目前まで迫ったその瞬間である。

「!?」

 ミラーガールに斬り付けようとした鎌を持つ両腕の手首にイバラ上の鞭が巻き付いてしまい、両手の自由を奪われてしまう赤マントは酷く困惑した。

 そして赤マントの両手首に鞭を巻き付けた張本人のジュピターキッドはミラーガールに言葉を掛ける。

「ミラーガール、今だよ!」

 この言葉を聞いてミラーガールは赤マントに隣接していた壁を蹴りながら、まるで壁を走り抜ける様にしてそのまま赤マントの顔側面に強烈な蹴りを直撃させた。

 ミラーガールの強力な蹴りを顔側面に喰らった赤マントは、それと同時に薄気味悪い微笑を模った仮面にヒビが入った。赤マントの仮面の右側に入ったヒビは更に広がっていき、仮面の半分が砕かれ割れると赤マントは素顔を隠す様に無意識の内に仮面が剥がれた顔半分を手で覆い隠す。

 一方、赤マントの顔側面に強烈な飛び蹴りを喰らわしたミラーガールは、赤マントの後方に立ち回ってはいつ如何なる時であろうと赤マントの攻撃に備えられる構えで対峙する。

 しかし赤マントは顔の側面に喰らったミラーガールの強烈な蹴りに苦しんでいるのか、はたまたその蹴りで半壊した仮面から覗いてしまう素顔を隠したがっているのか、一向に顔から手を離さずに下を向いてばかりであった。

 その頃、ジュピターキッドの鞭で動きを封じている間に垂直の壁を蹴り上げ、その勢いで赤マントに飛び蹴りを喰らわしたミラーガールの戦闘光景に新世代型の面々は大いに驚嘆した。

「す、凄いやアッコさん……ううん、今はミラーガール」

「か、壁を……それも垂直の壁を駆ける様に蹴り上げた勢いで、赤マントの顔側面に強烈なキックをお見舞するとは」

「い、いつもの穏やかで心優しいアッコさんとは全然違う……!」

 日常から見慣れている加賀美あつことしての風貌は最早微塵も感じられないほどの戦闘振りを発揮するミラーガールの戦い様に圧巻されるプロト世代のチョコ/ギュービッド/桃花の三名。

 

 一方でミラーガールから強烈な蹴りを顔側面に見舞われた赤マントは、ようやく半壊した仮面の箇所を押えていた手を離し、ゆっくりと顔を上げていった。

 そして半壊した仮面の箇所から左目をギラリと光らせては、悍ましい目付きで自分に蹴りを浴びせたミラーガールを睨み付けた。だがミラーガールは戸惑う事無く、自分を睨みつけて来る赤マントと勇猛に対面する。だがその時であった。

「え! そ、そんな……これって」

 赤マントと真正面から対面したミラーガールが突如として動揺しだした。これには彼女の戦い振りを観戦していた新世代型達も、ミラーガールとは親しい間柄の聖龍隊や赤塚組の面々も一変する彼女の様子に只ならぬ空気を感じた。

「ど、どうした……どうしたと言うんだ、アッコ」

 メタルバードが突然動揺し出したミラーガールに訊ねてみると、彼女は震える指で眼前の赤マントの顔を指した。

 皆が一同に赤マントに目を向けてみると、先ほどのミラーガールの蹴りで半壊した仮面から除かせている赤マントの素顔が全員の目に映った。その瞬間、誰もが背筋を震わせるほど心身に衝撃が走った。

 何と赤マントの半壊した左側の顔面から覗かせている素顔は、あのミラーガールこと加賀美あつこの婚約者で聖龍隊の結成者でもある初代総長 小田原修司の顔そのものであったのだ。しかも、その小田原修司の顔は少しばかり火傷の様な傷跡が酷く残っている状態だった。

 火傷を帯びた小田原修司の顔と瓜二つの赤マントは、再び巨大鎌を手に取ると対面しているミラーガールに歩み寄ってきた。

「赤が、好き……青が、好き……」

 片言の様に同じ台詞を吐き続ける赤マントの接近に関して、ミラーガールはようやく正気を取り戻しては態勢を立て直し始めた。

 赤マントとは距離を置きつつ、いつ如何なる攻撃にも対応できる様に両足を肩の位置と同じ幅に広げて応戦する構えを取る。

 次の瞬間、異様な火傷を負っている小田原修司の素顔を半分だけ晒した赤マントは自分に蹴りを入れただけでなく仮面すら半壊したミラーガールに力いっぱい鎌を振り回した。

 ミラーガールは咄嗟に身を伏せて鎌からの攻撃を回避しては、体を回転させる要領で回避運動をしつつ移動する。

 だが攻撃を外した赤マントは容赦なく立て続けにミラーガールへと鎌を振り付けては斬りかかって行く。

 更に我武者羅に鎌を振り付けていく赤マントの執拗な攻撃に、ミラーガールは激しく体を反らして攻撃を回避し続ける。

 その時、赤マントの足元に戦闘で破損した配管から流れ出した水が降り掛かったのを目にしたブルーローズが、赤マントの足元に向けて腰に下げている高圧水鉄砲を発射すると同時にその発射した水を凍らせて

赤マントの濡れた足元を氷漬けにして動きを止めた。

 足元を氷漬けにされた赤マントは必死にもがいて両足を丸々凍て付かせる氷から逃れようとする。しかし、そんな赤マントに遠方からミラールが御得意の二丁拳銃で赤マントを狙撃する。

 ミラールの銃から連射される弾丸に浴びせられていく、しかし防弾性のある赤いマントによって効果が薄いと判断したミラールは狙いを赤マントの顔に向けた。そして半壊した仮面もろとも赤マントの顔に幾度となく無数の銃弾を発射していく。

 顔面に無数の銃撃を浴びた赤マントの半壊した仮面は完全に破損し砕かれ、その素顔が完全に浮き彫りと成った。

 完全に素顔が晒された赤マントの顔、それは全体がほぼ蝋の光沢の様なてかりを放つ焼け爛れた火傷を皮膚に患った小田原修司の顔であった。

 火傷に覆われた小田原修司の顔を持つ赤マントは、この時ようやく足元に凍り付かされてた氷を自力で砕いては自分に刃向かって来ている者達に巨大鎌を振り付けては駆けて来た。

 聖龍隊と赤塚組は咄嗟に後退し、赤マントの巨大鎌から回避するが、赤マントは仮面を破壊されたのが原因か狂った様に鎌を振り回してきた。

 そんな鎌を振るって猛威を示し続ける赤マントを制止しようとニュー・スターズのマカ=アルバーンにブラック☆スターそしてデス・ザ・キッドらが赤マントに向かって応戦しようと駆け出した。だが赤マントに真正面から対抗しようとしている三人を見て、総長のメタルバードは彼等に大声で呼び掛けた。

「い、いかん! お前達、深追いはすんな! おそらく、その赤マントは……」

 とメタルバードが呼び掛けていた最中、赤マントは自分に向かってくる三人に躊躇う事無く前進しては巨大な鎌を振り回し、三人を彼等が手にしている得物ごと弾き飛ばしてみせる。

「うわッ」「うおッ」「ッ!」

 強烈な一撃で弾き飛ばされるマカとブラック☆スターとキッド。更にその衝撃は、三人の武器に変身していた大鎌のソウル=イーターと日本刀の中務椿そして二丁拳銃のエリザベスとパトリシアのトンプソン姉妹をも弾き飛ばしたと同時に武器化の変身が解除されてしまった。

 そんな弾き飛ばされて苦痛に表情を歪める三組に赤マントは容赦なく斬りかかって来ては、三組を仕留め様と巨大鎌を振るう。だが三組の危機を救おうと、他のニュー・スターズの強者達が赤マントに攻めていく。

 しかし赤マントは、そんな彼等も振り翳してくる武器ごと巨大鎌で弾き飛ばしては堂々と対峙してみせる。そして、その刃先は赤マントに向けて銃口を向けていたフロートと彼のパートナーであり弾の補充係に回っているカトレアに向けられた。

「喰らいやがれッ! 怪人がッ」「そうよ、喰らいなさい!」

 フロートとカトレアは赤マントに魔力が込められた砲弾をフロートの左腕に装填し、強力な攻撃を砲撃しようと構えた。そしてフロートが魔力を秘めた砲弾を発射して赤マントに攻撃したが、赤マントはその砲撃をこれまた簡単に悠々と回避しながら二人に迫ってきては、フロートとカトレアの眼前まで迫った瞬間に鎌を振り付けて、二人ごと弾き飛ばしてしまう。

 だが赤マントはこれだけに飽き足らず、何と自らが弾き飛ばして床に転倒したカトレアの首を左手で掴むと、それと同時に強靭な腕力で彼女の喉を締め付けた。

「……ッ!」

 喉を締め付けられ苦しがるカトレア。

 だが赤マントは苦しむ彼女を掴んだまま、右腕で巨大鎌の柄を刃に近い部分に持ち替えて呟いた。

「赤が、好きと言った子は……」

 この赤マントの言葉を聞いて皆は一瞬で赤マントの次の行動を把握した。そして赤マントは鎌の刃先をカトレアの胸部中心に突き立てると、その瞬間「血塗れになって殺される」の一言を赤マントが呟いた瞬間、カトレアの胸部に突き立てていた鎌の刃先を彼女の肉体に突き刺され、そのまま胴体を縦に一直線に切り裂いた。

「ぐあッ!」

 胸部から上半身を一直線に切り裂かれたカトレアは血反吐を吐きながら同時に苦痛な声を上げる。

「か、カトレア!」「カトレア!」

 深く体を切り裂かれたカトレアを見て絶叫する彼女の姉のエレオノールと、カトレアの恋人のフロート。一方のカトレアは切り裂かれた傷口から大量の血を噴き出しながら床に倒れた。

 そしてカトレアの体を切り裂き、彼女の返り血で顔から胸部に掛けて真っ赤に染まった赤マントは次なる標的を見定めるかの様に血塗れの顔を振り向かせた。

 焼け爛れた皮膚に返り血を浴びた顔、そして実在の小田原修司と同じ力強い眼力で睨む赤マントと対峙する聖龍隊と赤塚組。すると此処で治療に徹しているナースエンジェルが周囲の仲間達に訴え掛ける。

「だ、誰か援護をお願い! 急いでカトレアを治療しないと、彼女出血多量で危ないわ!」

 このナースエンジェルの言葉に賛同した赤塚組の面々と一部の聖龍隊士が赤マントの傍らで血の海に沈むカトレアに向かって迷わず直進しようとした瞬間、彼等に総長メタルバードが告げた。

「早まるな! 迂闊に赤マントに近付いちゃイカン!!」

 激しい剣幕を立てて叫び掛けるメタルバードの発言に、カトレアに駆けつけ様としたナースエンジェル達も他の聖龍隊の面々も、そして新世代型の皆々もメタルバードに視線を向けた。

 皆の視線を一身に浴びるメタルバードは深刻な面持ちで語り始めた。

「あの赤マントの顔、あれは完全に修司の顔。つまりはあの赤マントは修司の複製兵器だ! 修司の複製つまりはクローンであるなら奴の筋力などの身体的戦闘能力は並外れている! 迂闊に接近すれば返り討ちに遭うぞ!!」

「えっ! そ、それじゃバーンズ、どうすれば……」

 メタルバードの発言に困惑し出すミラーガールを始めとする一同。そんな皆にメタルバードは駆け出し態勢の構えを取りながら答え返す。

「どちらにしろ一筋縄じゃいかない相手なのは違いない……此処は奴を撹乱しながら重傷を負ったカトレアを救出するぞ!」

 このメタルバードの判断に、人命を優先するナースエンジェルはもちろん彼女やメタルバードと同じ聖龍HEADも同意の意志を顔に浮かべる。

 そして「行くぞ!」メタルバードの一言を発端に、聖龍HEADが総員で赤マントに向かっていった。

 一方の赤マントは自分に向かってきた聖龍HEADに狙いを付けて、迫り来るHEADの面々に鎌を振り翳していく。しかしHEADはこれを容易く避けていき、特にナースエンジェル等は身軽な身のこなしで自身に振付けられてくる鎌の刃を華麗にかわしてみせる。赤マントはそんな鎌による刃攻撃を避け続けるHEADに苛立ちを感じたのか、自棄になって鎌を我武者羅に振り回し出した。

 だがHEADの面々は、これを意図も簡単に回避し続け、赤マントの意識を完全に自分達へと向けさせた。その間、ナースエンジェルは自分同様に高い治癒能力を持つセーラームーンとキューティーハニー、更にはミラーガールらと共に重傷を負い絶えず傷口から血を噴き出しているカトレアの許に駈け付けては、彼女の傷を治療し始める。

 4人のヒロインがカトレアの傷を癒している中、赤マントはHEADの古参であり経験豊富なキング・エンディミオンと一戦を交わしていた。エンディミオンの方は巧みに赤マントからの鎌を身を反らしてかわし続ける。

「へっ、所詮はクローン。本物の修司と比べたら動きが鈍いな!」

 俊敏な動作で斬りかかって来る赤マントに対してエンディミオンは余裕を感じさせる表情で攻撃をかわし続ける。

 そして一瞬の隙を衝いてエンディミオンが赤マントの鎌の柄を掴み動きを封じると、その赤マントの背後からHEADの同胞である堂本海斗が飛び掛って行った。

「昔を思い出しますねっ」

 そう言いながら赤マントの背後を取り、肩を掴んではエンディミオンが赤マントの鎌を横取りすると同時に海斗が赤マントを後方に投げ飛ばす。

 この時、エンディミオンと海斗は昔、本物の小田原修司と組み合って一緒になって戦闘の訓練をしていた時期を思い出していた。今となっては懐かしい日々であった。

 海斗が後方に赤マントを投げ飛ばすと同時に武器である巨大な鎌を奪い取ったエンディミオンは、貯水タンクに投げ飛ばされ直撃する赤マントを確認しては奪い取った鎌を柄の部分から膝で真っ二つにへし折った。

 

 エンディミオンと堂本海斗の連携で貯水タンクに叩き付けられた赤マントは徐に起き上がると、其処に今度は内部系セーラー戦士のマーキュリー/マーズ/ジュピター/ヴィーナスが一斉に飛び掛って赤マントに追討ちを仕掛けようとした。だが4人が飛び掛った瞬間、赤マントの着衣していたマントに異変が起きた。

「きゃっ!」「ぐッ! こ、これは……っ」

 何とマントが生き物のように蠢いては、そのマントが4人に襲い掛かってきたのだ。そして布であるマントは4人の腹部や腕、更には喉までも強く締め付けてきたのだ。喉だけでなく関節部分である腕や腰までにも締め付けてくるマントの布にマーキュリーやマーズといった4人は苦しみに喘ぐ。

「あ、あれは……!」

 まるで着衣している赤マントの意志のままに4人のセーラー戦士達を締め付ける真紅のマントに新世代型たちは我が目を疑った。

 そうこうしている内に真紅の布に関節を締め付けられていた4人のセーラー戦士達の骨がバキバキと悲鳴を上げていき、4人の体に激痛が走った。そして粗方4人の体を痛め付けた赤マントは、痛め付けた4人をマントで包んだまま床に叩き付けると赤マントはその真上に跳び上がってはマントに包まれた4人にボディ・プレスを喰らわした。

「ぐはっ」「っ……!」

 体中の関節を痛めた上に頭上から強烈なボディ・プレスを喰らった4人の美少女戦士は苦痛で床の上をのた打ち回る。

 皆が赤マントのマントに目を奪われている中、4人を痛め付けた赤マントにお返しとばかりにエンディミオンと蒼の騎士が二人懸かりで正面と背後から赤マントに剣を構えて刺し貫こうと駆け出した。しかし二人が赤マントに剣を刺そうとすると、赤マントは身を回転させながら二人が刺そうとしていた剣の切っ先をマントの布で器用に包んではエンディミオンと蒼の騎士の剣を動かなくしてしまった。

「な、なに……!」「!?」

 自分達の剣を真紅のマントで包んでは動かなくされて戸惑うエンディミオンと蒼の騎士。すると赤マントは二人の剣をマントの布で包んで掴み上げては、二人を剣と共に自分よりも高々と上げてみせる。

 そして赤マントは真紅のマントで剣を掴み上げると、剣ごとエンディミオンと蒼の騎士を投げ飛ばした。

「ぐはッ!」「うっ!」

 エンディミオンと蒼の騎士の二人は貯水タンクに投げ飛ばされ叩き付けられてしまう。

「な、何なんだ、あのマントは……!?」

「ま、まるで生き物の様に動いている……!」

 生き物の様に動いては周辺の物体を包んでは掴み取る真紅のマントに、その様子を観ていた新世代型の猿田学や[[rb:犬牟田宝火 >いぬむたほうか]]が驚愕する。

 すると新世代型と同様に赤マントの蠢く真紅のマントを目の当たりにしたメタルバードが瞬時に真相を把握し、それを語り始めた。

「あ、あのマント……間違いない。アレは魔界から輸入された特別な布で、できているんだ!」

「と、特別な布?」

 メタルバードの発言に困惑する新世代型たちに、メタルバードは布について語り続ける。

「あのマントは、おそらく魔界で作られる特別な布で作られた代物だ。そう、あの【金色のガッシュ・ベル!!】でガッシュが着用しているマントと同じ素材で作られているマントだ。あのマントは着衣している奴の意思一つで自在に形を変化させて攻撃用にも防御用にも応用できる。修司も公での職務の中では、暗殺者やテロリストなどの奇襲に対応する為にわざわざガッシュに頼んで自分用のを作ってもらった事があるんだが……あの赤マントのマントも、その魔界で作られた布と同じ素材ゆえに赤マント野郎の思うとおりに操れるんだ」

 魔界で作り出された特別な布でできているマントは着衣している者の意志で自由自在に形を変えられる攻防戦に応用できる代物だったのだ。

 そんな中、エンディミオンや蒼の騎士に続いて堂本海斗も剣で赤マントに斬りかかって行った。だが例の魔界製のマントで剣の刃先を包まれては強引に奪い取られ、そして奪い取った剣を投げ捨てると次は海斗本人の頭を丸ごとマントで包む様に掴み取っては、そのまま頭上で海斗を振り回し壁に叩き付けた。壁に直撃した海斗は回転と衝撃で目を回してしまってた。

 武器である巨大な鎌を奪い取り、へし折ったが想定外の真紅のマントによる攻防を展開する赤マントに苦戦を強いられる聖龍HEAD。

 すると此処で悪戦しているHEADに加勢しようと大将率いる赤塚組が赤マントに向けて一斉射撃を放った。しかし赤マントは例のマントで自身を丸ごと包み込んでは銃弾から身を防いでしまう。

「クソッ、刃だけでなく銃弾まで防いでちまうのか……! 何なら……」

 次の瞬間、大将は仲間であるミズキに指示を言い放った。

「ミズキ、お前のレーザーで赤マントをあのマントごと貫け!」「了解」

 大将からの指示にミズキは一言返事をすると、機械化した片腕にエネルギーを溜め始め、狙いを赤マントに定める。そしてエネルギーが溜まった直後、ミズキは赤マントに向けて光線の銃砲を放った。だがミズキの放ったレーザー砲を赤マントは体を激しく空中で回転しながら軽々とかわしてみせた。

「あ、アイツ……何処まで身軽な奴なんだ」

 強力な光線での銃砲までも回避してしまった赤マントの回避能力に愕然となる大将。そして見事にミズキが放った光線を回避した赤マントは床へ手を付いて着地してみせる。

 幾度となく攻撃を防ぎ、そして反撃してみせる赤マントに悪戦苦闘する聖龍隊と赤塚組の面々。だが、激しい戦況を恐怖に駆られながら見届ける新世代型の面々の背後から三人の少女が飛び出してきた。

「我々も加勢いたします!」

 そう言って飛び出してきたのは、純潔に身を纏った[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]と鮮血を着衣する纏流子、そして皐月の配下で幼馴染の[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]の三名だった。

 しかし戦前に乗り出してきた三人にメタルバードがきつく言い渡す。

「お前達やめろ! コイツは修司の複製兵器だ、修司同様に尋常なまでに強い奴には違いない! 下がるんだッ」

 だが言い付けられた三人の内の一人、[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]がメタルバードに丁寧に話し返した。

「大丈夫です! 私に考えがあります、どうかお任せください」

 そして[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は自分と共に戦前に飛び出した流子と[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]に話し掛ける。

「二人とも、さっき私が提案した通りに攻めていくぞ」

「ヘッ、テメェに従うのは癪だけど、此処は早々とこの場を締め括らせる為にも今回だけは聞いてやるよ」

「へへ、私に任せてよ皐月ちゃん。纏流子、言って置くけど勝手な振る舞いはするんじゃないわよ! 皐月ちゃんの指示通りに動くのよっ」

 二人に指示を告げていく[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]に対し、彼女の策に乗るのを癪に思う流子。そんな流子に指示通りに動くよう再度言い付ける[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]。

 そして次の瞬間、三人は一斉に前へと駆け出し赤マントに向かっていった。

 当の攻め込まれた赤マントは迫ってくる三人に狙いを定めると、武器を失った腕を両方とも肩の位置まで上げると指の形を曲げて前方の三人に敵意を向ける。

 そして最初に[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]が奏の装・クラーヴェで赤マントに砲撃を仕掛ける。凄まじい爆風に巻き込まれる赤マントに、巻き上がる爆風に紛れて皐月と流子の二人が縛斬と片太刀バサミで赤マントに奇襲を仕掛ける。しかし赤マントは咄嗟に自分に斬りかかって来る二人に反応し、マントを操って二人が振り翳す得物を掴んで攻撃を防いでみせる。それから赤マントはマントで掴んだ得物ごと皐月と流子を投げ返す。投げ返された二人は床に着地し、態勢を立て直す。

 一方の二人を投げ返した赤マントは絶えず三人に敵意を剥き出しにしては、再び襲い掛かろうと身構える。と、その瞬間。

「喰らいなさいッ!」

 と[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]が赤マントの後方からミサイルを少し離れた場所に着弾させた。

 [[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]の放ったミサイルに直撃せず、床に着弾した拍子に上がった爆風に巻き込まれた赤マントの着用しているマントは上方へと激しくなびく。と、その次の瞬間。

「今だ!」と皐月の掛け声を合図に、皐月と流子は上へとなびく赤マントの真紅のマントの下から潜り込んでは、瞬時に赤マントの後方に回る二人。

 そして赤マントの背後に立ち回った二人は、赤マントに背を向けたまま右側の流子は左から、左側の皐月は右からそれぞれ得物である刃物を突き出して赤マントの背面から刃を貫通させた。

「ッ……!」

 背面から左側を片太刀バサミで、右側を縛斬で貫かれた赤マントは苦悶の表情を顔に浮かべて口から血反吐を零す。

「よし、やったな!」「なるほど、案外アンタの策も通じるな」

 自分の講じた策通りに事が進んで満足する皐月、そして互いに仲が悪いとはいえ皐月の講じた策が上手くいき口元に笑みを浮かべる流子。

 実は赤マントの後方から少し離れた地点にわざと[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]がミサイルを着弾させ、その反動で起きた爆風で巻き上がったマントを二人で潜り抜けて背後からそれぞれの武器で貫こうと皐月が講じていたのだ。

 皐月の縛斬と流子の片太刀バサミで背後から腹部を貫かれた赤マント。だがこの時、赤マントに致命的な痛手を負わせた二人も予想だにしない事が起きた。

 何と赤マントは自分の腹部に貫通している縛斬と片太刀バサミを白い手袋を装着している両手で掴んだのだ。これにはさすがの皐月と流子も予想だにしてなかった。

「なッ!」「こ、この……放しやがれッ」

 事もあろうに貫通させたままの武器を掴まれ、引き抜く事ができなくなってしまった皐月と流子は戸惑いながらもどうにかして赤マントから武器を引き抜こうと力を入れる。

 だが、そんな二人を赤マントは自分の腹に貫通した得物の刃物部分を掴んだまま、体を回転させ凄まじい遠心力を生み出した。

「う、うわッ」「くッ」

 突き刺した得物を引き抜こうとしていた流子と皐月は、回り始める赤マントの遠心力で各々の武器を掴んでいた手を放してしまい、そのまま壁へと振り払われてしまう。

 そして赤マントは二人を振り払うと、自分の腹に貫通された縛斬と片太刀バサミを自力で引き抜いては、壁に激突した皐月と流子に向けて武器を投げ付けた。

「うわ!」「ッ!」

 間一髪の所で顔の位置をずらして避けた流子と皐月。それぞれの武器は顔すれすれの壁に突き刺さる。

 だが赤マントの反撃はこれで終わりではなかった。赤マントは徐に懐に手を突っ込むと同時に怪しく呟いた。

「青が好きと言った子は……」

 そう言いながら赤マントは懐から先ほどキララに突き刺したのよりも太い鉄の管を指の間に挟んで取り出した次の瞬間(流子! 皐月! 来るぞッ)と流子が着服している鮮血が二人に呼び掛けた瞬間、赤マントが一瞬で壁際の流子と皐月の前まで移動する。

『!!』

 一瞬の内に眼前まで迫ってきた赤マントに二人が驚愕した次の瞬間、赤マントは指に挟んでいた鉄の管を次々に流子と皐月に突き刺した。

 大よそ胸部を中心に何本もの鉄の管を、それもかなり太い管を突き刺された二人にとって、この時の出来事は一瞬の事であった。そして突き刺された鉄の管からは大量の血が一気に噴き出した。

「ぐあぁぁッ!」「ぐぅッ!」

 自分の体から一気に大量の血が噴き出す現状に、流子と皐月は唸り声のような苦痛に喘ぐ声を上げる。

「流子ちゃん!」「皐月ちゃん!」『皐月様!』

 戦いを傍観していた流子の親友マコ、そして戦闘に加わっていた[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]、そしてマコ同様に戦いを傍観していた他の四天王衆は胸部に鉄の管を突き刺され、そこから大量の血を噴き出す流子と皐月の実に痛々しい光景を目の当たりにする。

 そして流子と皐月の上半身に鉄の管を突き刺して大量の血を噴出させた赤マントは、怪しい笑みを浮かべて口ずさむ。

「血を抜かれて、殺される……」

 太い鉄の管を体に突き刺し、その管から大量の血を噴出させて相手を失血死させる赤マントの鬼畜な戦法に新世代型たちは恐怖で身を震わせる。

 一方で流子と皐月の二名は赤マントに管を突き刺され、管を通って大量の血が体外に溢れ出る中、眼前に広がる自分達の夥しい出血で染まる赤い惨状に苦悶の表情を浮かべて絶句していた。

 二人の少女の悲惨な場景に皆が絶句する中、流子と皐月を失血で蒼褪めさせた赤マントに迎撃とばかりに肉体派の隊士である金剛番長とトリコが筋力の双璧で向かっていった。

「このッ」

 トリコの勇ましい声と共に二人は赤マントを挟み込んでは二人同時に強烈な拳を幾度も浴びせていく。

 激しい衝撃が空中に響くほどの強烈な拳を浴びせ続けるトリコと金剛番長。しかし当の赤マントはその拳を浴びても尚、屈する事無く直立不動の状態を保つ。そんな桁外れのタフさを見せ付ける赤マントに、今度はモルジアナが跳び上がっては赤マントの顔に向けて強烈な飛び膝蹴りを喰らわす。このモルジアナの飛び膝蹴りで、ようやく赤マントが怯んだ。

 モルジアナの強烈な一撃を顔に喰らった赤マントはその衝撃で首が異常な方向に曲がってしまっていた。しかし赤マントは即座に足元を正せると、捻り曲がってしまった首を自力で元に戻して何事も無かったかのように攻撃してきた面々を見据える。

「な、何て奴だ!」

 激しい拳での殴打に強烈な飛び膝蹴りを喰らって首の骨を曲げたにも関わらず、平然としている赤マントにメタルバードは愕然とした。

 4人のセーラー戦士達の骨を軋め、更には戦闘に加勢した流子と皐月をも致命傷を負わせた赤マントに対し、遂にメタルバードが直々に動き出す。

 当の怪我を負った6人は既にセーラームーンにナースエンジェル、更にミラーガールが治癒能力で治療している真っ只中であった。そんな中、メタルバードは単身、眼前の赤マントに突進して行った。

「このヤロッ、もう観念ならねェ!」

 メタルバードは遣られっ放しの上に此方の攻撃を諸共しない赤マントへ一気に攻めていく。

 すると赤マントはメタルバードの敵対心を察したのか、その場から高く跳び上がっては上方へと移動する。

「逃がすかッ」上へ向かう赤マントを追ってメタルバードも上方へと飛び上がる。

 そのまま双方は貯水タンクを始めとする浄水場の設備の上を飛び回っては激しく火花を散らしあう。メタルバードが両腕を鋭い刃物に変形させて斬り付けて来るのに対し、赤マントは身に着けているマントを変形させてメタルバードからの刃を防ぎつつ、メタルバード自身に直接攻撃して行った。例えメタルバードの肉体が鋼鉄であろうとも赤マントの拳での攻撃は一向に納まる事はなかった。

 双方、互いに一歩も引かずに空中で激しい戦いを繰り広げる様を観て、下で傍観している新世代型たちは凄まじい激戦に言葉を失う。

 そして空中では赤マントがメタルバードの刃に変形している両腕をマントで包む様に捕まえてはガラ空きになったメタルバードの顔面に拳で強烈な一撃を喰らわした。メタルバードの鋼鉄の顔面に赤マントの拳が直撃した瞬間、凄まじい衝撃が浄水場に響き渡った。

 しかし、顔面に拳を喰らわれたメタルバードは口元を不敵にニヤリと微笑むと同時に呟いた。

「かかったな」

 その一言を呟いた次の瞬間、メタルバードの腹部から巨大な手が出現し、赤マントの胴体を掴んだ。

 腹の部分を変形させて形成させた巨大な手で赤マントの胴体を掴んだメタルバードはそのまま、赤マントと共に急降下で落下しては地上に赤マントを叩き付けた。

 凄まじい激突音が響いた瞬間、赤マントが叩き付けられたコンクリの床は陥没し、衝撃でマントが捕らえていたメタルバードの両腕は解かれ自由になっていた。

 一方のコンクリに叩き付けられた赤マントは胴体を巨大な手で掴まれたままピクリとも動かなくなり、誰もが赤マントが戦闘不能に陥ったと思った瞬間。

「……ウゥ」なんと赤マントは高所から激しく叩き付けられても尚、生きていた。新世代型たちは未だに存命している赤マントに脅えきっていたその最中、メタルバードは赤マントを腹から出現させている巨大な手で捕まえたまま不敵に笑む。

 そして次の瞬間、メタルバードは腹の巨大な手で赤マントを取り押さえたまま今度は自身の両腕と両足をドリルの様な形状に変形させては、その手足を床に叩き付けられ大の字になっている赤マントの両上腕と両脚に突き刺した。

「グッ……」ドリル状の手足を自身の手足に突き刺された赤マントは苦痛で声を上げる。

 そして赤マントの両手足にドリルを突き刺したメタルバードは、惨たらしく非情なまでに突き刺したドリルの手足を高速で回転させ、赤マントの手足の肉を抉り掘っていった。

「グアアアアアアァァァ……!!」

 激しく回転するドリルで手足を抉られていく赤マントは激痛の余り絶叫を上げる。だがメタルバードは容赦なく赤マントの手足が完全に切断されるまでドリルの手足の回転を止める事無く、赤マントへの制裁を続行する。その身の毛もよだつ光景に新世代型たちは、いくら自分達に危害を加えた赤マントとはいえその悲惨な最期に目を覆いたくなる心境であった。

 そしてメタルバードの両手足のドリルが完全に赤マントの両手足を断ち切るまでに貫通すると、遂に赤マントは息絶え動かなくなった。その表情は小田原修司の表情で断末魔を上げた直後の悍ましい苦悶に満ちた表情で固まっていた。

 

 そして惨いやり口とはいえ赤マントを撃破したメタルバードはコンクリの床にまで貫通しているドリルの手足をグニャリと軟体化させると同時に引き抜いて、血塗れの手足を曝け出した。

 すると赤マントの血で手足を染めたメタルバードにジュピターキッドが一枚のタオルを投げ渡した。

「メタルバード」「おう」

 メタルバードはジュピターキッドから投げ渡されたタオルで自身の両手両足にこびり付いた血を拭き取り始める。その様子をただただ呆然と眺め続ける新世代型たち。

 そして自身の手足に付着した血を完全に拭い取ったメタルバードは治療を受けた新世代型の瀬名アラタにキララ、そして戦闘に加勢した流子と皐月に歩み寄っては声を掛ける。

「お前達、大丈夫か? 自棄にこっ酷く痛め付けられたみたいだが」

 すると赤マントに痛め付けられた4人はメタルバードに苦汁の面差しで答え返した。

「な、何とか大丈夫です。さっきナースエンジェル達に治してもらいましたし……」

「そ、それよりもアタシ……こ、怖かった~~っ!」

「さ、最初は完全に血を抜かれきって死ぬかと思った……」

「わ、私も……此処まで恐怖を感じたのは、初めてです」

 最初に赤マントに腹部を切り裂かれ赤い血に染められた瀬名アラタは蒼褪めた表情で答え。赤マントの仕掛けた罠に引っ掛かり宙吊りにされた挙句、首に鉄の管を突き刺され血を抜かれていったキララはイイ歳して思わず泣き出してしまう。そして流子と皐月も今まで味わった事のない恐怖で蒼褪めていた。

 そしてメタルバードは次に赤マントのマントで体を締め付けられ、骨に異常を来たしたマーキュリー/マーズ/ジュピター/ヴィーナスの4人に歩み寄っては彼女達に話し掛ける。

「お前等も大丈夫か? 骨がバキンゴキンと鳴っていたが……」

 この質問に4人のセーラー戦士達は口々に答えた。

「な、何とか平気よ。バーンズ……」

「確かに、未だに関節とかの箇所が痛むけど……」

「でも、ナースエンジェルやうさぎちゃん、それにアッコちゃんの治癒能力で少しは痛みも和らいだから大丈夫だと思うし……」

「そ、それにしても……まさか赤マントの身に着けていたマントがガッシュ魔王の身に着けているマントと同じ素材だったとは想定外だったわ」

 ヴィーナスの返答を受けてメタルバードもマントに対して語り出した。

「ああ、そうだな。以前も本物の修司も身に付けていた上に愛用していた一品ではあったが、それを修司の複製である赤マントにも着用させているとは……確かに修司も、あのマントを瞬時に思うがままコントロールできていたが、まさかクローンの赤マントにもそれを応用させちまうとは……いやいや、強敵だったな」

 本来は異世界で作られた物であるが為に入手すら困難である魔界製のマントを装着した瞬間に、意図も簡単に操り形状を変化させる事ができるマントを愛用していた小田原修司。そのマントは公の職務での場では暗殺やテロなどの奇襲での攻防に対応する為に使用されていた代物であった。だが、その魔界製のマントを容易く操れる修司の複製であった赤マントの脅威と、意図も簡単に操作が困難のマントを操れる修司の遺伝的要素に混迷を極める聖龍HEAD。

 

 だが、聖龍HEADや聖龍隊士らが戦闘を終え話し合っている最中、徐に治療を受けて怪我を完治させた[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]が赤マントに襲われそうになった薙切えりな/[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]/四宮小次郎の許へと不満げな顔で歩み寄って来ては、まるで三人を見下すかのような威圧感で話し掛けてきた。

「おい、貴様等!」「あら、何ですの貴女」

 威圧的な物腰で声を掛けてくる[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]に薙切えりなは睨み付けながら顔を振り向かせる。そして[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は、まるで王が下々の民を見下す様な精悍で逞しい顔立ちで薙切えりなたち三人に物申した。

「貴様等、自分達だけで逃げ去ろうとしただけに非ず、身を挺して護ってやった我々に対してバケモノ呼ばわりするとは由々しき言動! この[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]、貴様等の様な無礼な輩共に対して直々に制裁を加えてやるぞ!」

 自分達だけで逃げ去ろうとした薙切えりな達の所業だけに非ず、皐月達の様な能力者に対してのバケモノ呼びに怒りを覚えた彼女はえりな達に自ら制裁と称して体罰を与えなければ気が済まなかった。

 しかし[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の上から見下ろす姿勢と態度に反感を覚えたえりなは半ば興奮状態で反論する。

「あら、私は本当の事を申したまでですわよ。何より、貴女の様な淫らで横暴な女性と違って私達は同じバケモノ同士の戦闘に混ざりたくないですもの」

「な、何だと!」

 薙切えりなの傲慢な態度に[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は怒りを露にする。更にえりなは皐月の感情を尻目に淡々と毒気のある台詞を吐いていく。

「そもそも貴女、そんな恥ずかしい格好を良く平然と大衆の前に晒されるわよね。俗な価値基準で恥じらないと仰っているけど、あなたのその格好こそが低俗で品が有りません事よ。良くその様な低俗で淫らな身形で私の様な上品かつ高等な乙女に物言えますわね。はっ、呆れてしまいますわ」

「き、貴様……自分等だけで逃げ出そうとした下劣極まりない輩の癖に、よくもその様な減らず口を言えた物だな!」

 すると互いに一歩も引かずに言い争う薙切えりなと[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の間に、えりなの秘書であり彼女の体調管理をも任せられている新戸緋沙子までも皐月に反発し始めた。

「あなた! さっきからえりな様に対して無礼ですわよ! もっと自分の立場というものを弁えたらどうですの?」

「それはコッチの台詞だ! この豚ども!!」

「ぶ、豚……! あ、あなた……良くも、この私に向かって豚呼ばわりなんて、できますわね……ッ!!」

 怒りで次第に冷静さを失いつつある薙切えりなに反して[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は威風堂々とした姿勢を崩さず、そのままの平常心で薙切えりなに告げ切った。

「フンッ、貴様等の様な下劣極まりない下々の者共など、この[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]からしてみれば皆、服を着たタダの豚でしかないわ!」

「ふ、服を着た豚……!」

 [[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の峻烈苛烈な言動に益々怒りが込み上げてくる薙切えりなは完全に平常心と冷静さを失い、興奮し切った状態で[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]を睨み返す。だが当の[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は薙切えりなの眼光に屈する事無く、それどころか哀れみに近い見下し視線でえりなを見返す。それが更にえりなに反感を抱かせる。

 そして[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の物言いに不満を感じたのは、えりなだけでなく彼女の秘書の緋沙子や彼女達と共に真っ先に逃げ出そうとした四宮小次郎までも反感を覚える始末。

 そんな今にも激しく衝突しそうな4人を見て、慌ててジュピターキッドが仲裁に入る。

「はいはい君たち! 喧嘩は其処まで。こんな状況下で喧嘩したって何の特にもならないよ」

 しかしジュピターキッドからの仲裁を聞いても尚、不満を募らせる[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]はジュピターキッドに言い寄った。

「し、しかしジュピターキッド殿! この我々を始めとする能力者の事をバケモノ呼ばわりした不届き者ですぞ! 明らかな差別言動とは思いませんか!?」

「何よ! バケモノをバケモノと呼んで何が悪い訳!」

「こ、この……また!」

 と、再び言い争いに発展しそうになる[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]と薙切えりなの論争にジュピターキッドが再び仲裁に入る。

「まあまあ喧嘩しないの、二人とも。確かに僕らの様な普通は有り得ない能力を持った二次元人は他の普通の二次元人からはバケモノ呼ばわりされる事は多いけどさ……」

「そ、それこそ不純ではありませんか! 特にあなた方、聖龍隊の方々は今まで多くの人命や人徳を護ってきた経歴があるというのに、それをバケモノ呼びするとは……由々しき処遇!」

「まあ、確かに言われて良い気持ちにはなれないよ。だけど確かに僕等の能力は普通の人々から見たら異質で、見方を変えればどんな兵器よりも恐ろしい力なのは明らかだ。そんな力を持ってしまっている僕等に対してバケモノと呼ぶ人々が居るのは、ある程度仕方のない事なんだよ」

「し、しかし……!」

 ジュピターキッドの話に耳を傾けるも、自分等の様な能力者が異質な存在でバケモノと他の人々から呼ばれるのも致し方ないと言うジュピターキッドの発言に納得できない[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]。

 だがジュピターキッドはやや草臥れた面持ちで[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]と言い争いを始めた薙切えりなたち三人に話し掛け始めた。

「だけどね、薙切えりな。いくら自分達とは異質な能力を持っているからって、それだけの理由で相手をバケモノ呼びするのはイケナイよ。僕達は今まで聖龍隊の長い活動の中で接して来たけど、そういった能力者の中には、そんな偏見や差別に耐えながら葛藤しつつ周囲に認められていった人達だって大勢居るし、中には能力者であろうと無かろうとバケモノ染みた狂気的な敵も沢山居たんだ。無闇に能力者をバケモノ扱いしちゃイケナイよ。今では立派な差別言動で、人権団体も動き出すほどの悪質な言動で、それで[[rb:異常者 > ヒール]]認定を受けて投獄される二次元人や三次元人も大勢居るんだからね」

「………………」

 ジュピターキッドからの釈明に不満げな態度で黙然と話を聞く薙切えりな。だがジュピターキッドは続けて彼女達に衝撃の事実を語り始めた。

「それにね、薙切えりな。君達は能力者を異質なバケモノ扱いしているだろうけど、現実としては僕も君達も含む二次元人そのものがバケモノで異質な存在だと三次元人には見られているんだよ」

「な、何ですって!? この私の様なごく普通の二次元人までもバケモノですって……!」

 聞かされた事実に衝撃を受け、立腹する薙切えりな。だがジュピターキッドはそのまま真剣な顔で彼女達に語り続ける。

「そうだ。三次元人にとっては能力者ではなく、僕ら二次元人そのものが異常なまでに異質で危険極まりないバケモノ染みた種族であると未だに多くの偏見を持っているのが現状なんだ。君等が能力者を異質なバケモノと見ている様に、僕たち全ての二次元人が三次元人から偏見に満ちた白眼視されているのが酷な現実なんだよ」

「な、何で私たちを含んだ二次元人までもバケモノと見なされている訳……!?」

 話を聞いて酷く困惑する薙切えりなにジュピターキッドは深刻そうな真顔で語り出す。

「差別されるのには色々な事情や理由が有るが、時に二次元人は能力者/非能力者に限らず大半の二次元人が[[rb:異常者 > ヒール]]化しては大勢の人々を危険に晒し、命までも脅かす。その人命の中には同じ二次元人だけでなく三次元人も危険に晒される事態が多発しているんだ。それ故に三次元人側は大勢の二次元人に対して、いつ[[rb:異常者 > ヒール]]に変貌しないかと恐れてしまってる。だから常に二次元人全般を危険視してしまっているんだ……それに」

「……………………」

「……それに、三次元人から見たら僕たち二次元人は何もしなくてもバケモノと見なされている。彼等にとって僕等は絵に描いた人や動物が意志を持ち命が宿った生命体。つまりは絵だったモノが勝手に動き回って生きているというバケモノ以外の何者でもない存在として見受けられてしまっているんだ。もはや二次元人は、生まれた時からバケモノのレッテルを張られた種族でしか無いんだよ」

「! ……」

 ジュピターキッドの悲痛な心境で語る二次元人の実情を聞かされ、興奮し切っていた薙切えりなも彼女と共に逸早く脱出しようと先走っていた[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]と四宮小次郎も、そして薙切えりなと言い争っていた[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]も、その他の新世代型達も一気に失意に追い立てられた。

 そしてジュピターキッドが語る二次元人の実情を改めて耳にする聖龍隊の面々は、誰もが複雑な心境で暗い面持ちを浮かべるのだった。

 

 するとジュピターキッドの淡々と語り続ける話を粗方聞いた赤塚組の頭領 大将は何かを見下ろしながら話し始めた。

「成る程な。つまりは俺たちも……」

 皆が一斉に大将の方へと目を向けると、大将は自分の足元に転がっている物を見つめながら口に出した。

「学者共に造られたコイツとおんなじで、造られた意志あるバケモノって事か」

 そういう大将の足元には、先ほどの戦闘でメタルバードに倒され動かなくなった赤マントの亡骸が大量の血の海で横たわっていた。

 自分たち二次元人は、生体兵器として造り出された小田原修司の遺伝子複製の兵器と同じで、人の手によって造り出された意志ある種族。だが、それ故に造り出した種族である三次元人から疎まれ白眼視される現実に造られたばかりの二次元人である新世代型たちは誰もが胸を痛めるのだった。

 そして足で赤マントを指した大将は、そのまま厳つい強面で浄水場の出入り口を塞ぐ配管の片付けに入った。それを見たメタルバードは動ける聖龍隊の面々に言い付ける。

「よ、よし。俺達も配管の撤去作業に入ろうか。急いで先に進んで脱出しねェとな」

 息が詰まるほどの暗く切ない空気に肩身を押されながらメタルバードと共に撤去作業に懸かる聖龍隊と赤塚組の面々。

 しかし話を聞かされた新世代型の面々は、自分たち二次元人の実情を知り元気や活気を損失してしまってた。

 

 

 

 

[差別に関する運動]

 

 浄水場で遭遇した怪人赤マントとの死闘を潜り抜け、どうにか赤マントを倒す事ができた一行は赤マントの手により塞がった浄水場の出入り口前に積もる配管を撤去していく。

 そして全ての配管を撤去し、出入り口を確保した一行は再び施設からの脱出を図るため歩を進ませる。

 

 だが先ほどの赤マントとの死闘はもちろん、ジュピターキッドの語り明かした自分たち二次元人の実情を知って皆々黙り込んでしまっていた。

 そんな暗くて重い空気を察したのか、大将は場の空気を変え様とメタルバードに話し掛けた。

「な、なぁ。ところでよバーンズ、お前さんさっきは何で最初っから戦わなかったんだ? 全身鋼鉄でかつ機械化になれるテメェが参戦していれば簡単に早々と赤マントなんて倒せてたと思うんだが」

 これに対しメタルバードは大将に睨みを利かせながら答えた。

「若い聖龍隊士に経験を積ませる為よ。修司も口癖の様に言っていたが、経験は重要な戦闘でのスキルの糧となると。だからオレの様なほぼ不死身で全身が鋼鉄さらには機械にも変化してレーザー砲など様々な戦闘スタイルを取れる優秀なオレ様は、正真正銘最後の砦として身を控えている訳よ」

 自分で自分を優秀と言い切るメタルバードの言動に若干呆れる大将。だがそう言い切るメタルバードに大将は話し続けた。

「そ、それにしたってよ……まさか、あの赤マントも修司の複製兵器だったとは。とはいえ、いくら修司の遺伝子から造られたからって強すぎじゃねェか?」

 これに対してもメタルバードは真顔で答え返した。

「それも此処で研究していた学者達の賜だろうよ。修司の遺伝子は特殊で、その冷凍保存も通常より研究と費用を重ねたみたいだしな。その遺伝子で造られる複製兵器は修司の特徴を受け継いで、屈強なまでの筋力と桁外れの集中力を研ぎ澄ました末恐ろしい兵器に仕上げられたんだろう」

「特殊って……修司同様に、筋肉が異常発達してるって事か?」

「いいや、保存の上で特殊だって言うのは、修司の遺伝子は劣化が激しく空気に晒されるとスグに遺伝子の構造が劣化して崩れてしまうんだ。だから抜け落ちた毛根からも修司の遺伝子は採取されないし、採取する上に保存する為には修司の体から直接血液を体内から摘出して瞬時に冷凍保存しなきゃならないほど手間のかかる遺伝子だ。まあ、そうやって無事に冷凍保存しても通常の血液以上の早さで劣化しちまうがな」

「な、なるほどな……」

 メタルバードから旧友である小田原修司の特殊ゆえに特別な遺伝子の保存方法を聞いた大将は、その余りにも手間がかかる保存法と体外に出れば即効で劣化してしまう修司の遺伝子の実情に唖然としてしまう。

 そんな大将にメタルバードは更に修司の遺伝子的特長を述べていく。

「それに修司の遺伝子から受け継がれるのは、何も強靭なまでの筋力だけじゃない。知っての通り修司は体内に軍政権が投与したD-ワクチンで筋力はもちろん今では遺伝子構造までも完全に変化しちまっている。だがD-ワクチンの主な効果は人体の筋肉組織を劇的に増大させるだけでなく、その投与された者の身体的特徴をも劇的に伸ばしていくんだ」

「と、言うと?」

「ああ、修司の身体的特徴で更に飛躍的に向上したのが……奴の剛毛体質だ。どうやら修司の家系は誰もが剛毛体質らしく、Dを投与した修司の剛毛体質もD-ワクチンの影響で劇的に向上して、修司はそれをも駆使して戦闘などに応用していたからな」

「戦闘に剛毛を用いたって……結果的には、どんな戦い方をしたんだ。修司の奴」

「まあ、何と言うか……Dの力で剛毛を更に硬く、そう正しく鋼の如く硬化させては毛を針の様に変化させて、頭の頭髪はまるでウニの様にイガイガにしたらそれで相手を串刺しにするわ、腕の剛毛を針の様に変化させて、その腕で相手を殴り付けて血だらけにしちまうわ……他にも腕の剛毛を変形させて刃の様に形成してはそれで相手を斬り付けて行ったりと、剛毛だけでもかなりの応用を考え付いちまった訳よ」

「い、色々と自分の能力を最大限に応用してるんだな。修司は……」

 旧友である小田原修司の幅広い身体的特徴による戦略に目を丸くして圧倒されてしまう大将。

 

 すると場の空気を少しでも軽くしようとする大将の策が功を奏したのか、先ほどまで二次元人の実情を知って暗くなっていた新世代型の子供達が大将に続いてメタルバードに話し掛けてきた。

「あの……メタルバードさん」

「ん。何だ、またヒカルか。やけに質問が多いな」

 良く自分に質問を投げ掛けてくる星原ヒカルを前に、メタルバードは毅然とした態度で顔を向ける。ヒカルを始め、彼と同じ部隊であった出雲アキラに細野サクヤそして先ほど赤マントに致命傷を受けてナースエンジェル達に速急に治療してもらい命拾いした瀬名アラタ達は、先ほどのジュピターキッドが語った二次元人の実情に対してメタルバードにも直接問い掛けて来た。

「メタルバード、さっきジュピターキッドが話してくれた俺たち二次元人への三次元人の見方って……その……」

 普段は余り見せない薄暗い面差しで問い掛けて来る瀬名アラタの様子を察知して、メタルバードは何も言わずにただアラタ達を見据える。

 そして意を決してアラタ達はメタルバードに問い掛けるのだった。

「その……め、メタルバードさんのかつての相棒で、聖龍隊の初代総長、小田原修司さんは俺らの様な二次元人に対してどの様に接してくれていたんですか!?」

 突然のアラタの発言に一緒に足を前へ進めていく二次元人たちの一行は思わず立ち止まってしまった。

 そして再び辺りに張り詰めた空気が流れる中、メタルバードが険しい面差しでアラタ達に問い返した。

「……何で、訊くんだ?」

 問い返された瀬名アラタは思わず口を閉ざしそうになるのを堪え、メタルバードに答えた。

「そ、それは……俺たち二次元人の為に戦い続けてくれただけでなく、生き永らえてくれたって言う小田原修司も三次元人だった訳ですよね。彼は……小田原修司は俺たち二次元人の事をどう思っていたのか。他の三次元人と同じ様に、俺たち二次元人の事を、その……バケモノとして見ていたのかなって」

「………………」

 次第に意気消沈しながら問い掛けて来る瀬名アラタとその友達の質問に、その場の二次元人全員が注目する。

 皆の注目が集まる中、メタルバードは瀬名アラタ達の質問に表情を緩めては語り始めた。

「……フッ、何だ、そんな事か。別に。修司は修司で、オレたち二次元人に理解を示してくれていたから、そんな差別的な言動はしてはいなかったぜ。それどころか、オレ達の人権を世間に認めさせようと多くの二次元人に理解を示す三次元人の人達と一緒にしょっちゅう人権運動なんか行っていたしな」

「……ッ」

 メタルバードの話を聞いて失然としていた顔を上げるアラタ達。そして彼等にメタルバードは更に語り明かしていく。

「何よりだ。修司はオレたち二次元人に様々な可能性を見出しては、豪く好感を持ってくれていた。二次元人の存在は現実の人間、つまりは三次元人たちにも多大な変化を齎し、世界をより良く変えてくれる逸材であろうと、その存在意義を世間に強く示していったんだ。その為に修司は自らを国際連合に兵器として身売りしただけに有らず、多くの権力者や政財界の重鎮達と度等を組んで二次元人の人権確立とその保守に力を入れていたんだ。そう言わば、自ら汚れ役を買って出てな」

 小田原修司の二次元人の存在意義を世間に訴えかけ続ける活動と、その人権の確保と保守を自らを兵器という汚れ役に徹する事で掲げた行いに新世代型たちは言葉を失う。

 更にメタルバードは修司の出生に関しても、彼がなぜ二次元人を保護していく立場へと移り変わっていったのかも説明し出した。

「みんなも知っての通り、修司は生まれながらに発達障害を抱えて生まれてきた。それ故にアイツは他人からの愛情を一切感じられない異質な存在として自分自身を見ていた。そんな修司が自分に微かな愛情や、それに通ずる感情を悟らせてくれたのが二次元人であると思ってくれたのが事の始まりだった。二次元人は自分と言う歪んだ人間をも正しい道に導いてくれる二次元人こそ、多くの三次元人はもちろん理不尽で不条理な世の中を変えてくれる存在であると認識してくれた。だからアイツはオレたち二次元人の事を必死になって庇ってくれていた訳さ」

『……………………』

「何より、修司は発達障害者という出生である為、差別に関しては些細な言動に対しても敏感に反応するまで嫌悪感を抱いていた。差別言動に対して修司自身も、同じ様に差別され迫害される障害者という視点から見て、自分たち障害者同様に蔑ろに扱われる二次元人はもちろん歴史の中で差別され迫害されてきた黒人やユダヤ人に対しても、その人権を尊重してくれてた訳だ。まあ、これは修司自身が障害者という複雑な問題を抱えているからこそ二次元人に親身になってくれていたんだろうけど……」

 するとメタルバードに続いてジュピターキッドも口を開いては語り始めた。

「昔から義兄さんは良く言っていたよ。<差別される者の苦しみは、差別される者にしか理解できない。>と……小田原修司という人間は、自分の様な世間から爪弾きにされた障害者であるが故に、障害者と同じ様に差別される黒人やユダヤ人、そして二次元人たちを労わってくれていたんだ。……障害者という視点で見てくれたから護ってくれたって言うのも、複雑な事情だけどね」

 ジュピターキッドが語り終わると、再びメタルバードが語り出した

「それに修司は発達生涯ゆえに、周囲の人間はもちろん実の家族に対しても信頼する事ができなかったというからな。それ故に大の人間嫌いに変貌しては、近寄ってくる相手は如何なる存在であろうとも完全に信用しなかったって言うしな。あの天皇陛下やイギリスのエリザベス女王に対しても、結局は同じ人間という事で完全に信用はしていなかったみたいだし。聖龍隊の中でも修司の信頼を完全に勝ち取れた奴は殆ど居らず、修司に理解を示していたアッコや側近であるウッズぐらいしか修司の信頼を多く得た聖龍隊関係者が居ないのが現状だったな。まぁ、その誰に対しても不信感を抱く修司の思想のお陰で、オレたち二次元人に善人面して近寄ってくる露骨で強欲な連中が遠ざけられたのも事実だから余り言えたモンじゃないけどな」

「お、小田原修司は誰も信頼していない上に人間嫌いだった訳なの?」

 メタルバードの話を聞いて心痛な表情で問い掛けて来る琴浦春香に、ジュピターキッドが返答する。

「正しくは信頼しないんじゃなく、信頼できなかったんだ。義兄さんの障害は他人の愛情を一切感じられない極度の発達障害。それ故に愛情だけでなく他人への信用までも感じられなかったんだよ。その生い立ちが災いして、完全に他人を信用するだけでなく途方も無い人間嫌いに成長しちゃった訳」

「は、はぁ……」

 ジュピターキッドの語る話を聞いて溜息を吐く真鍋義久。

 

 すると此処で、メタルバードとジュピターキッド二人の話を聞いた大将が唖然とした真顔で徐に問い掛けた。

「おい、修司の奴が大の人間嫌いで、その反面俺たち二次元人に好感持っていたって事は……要するに修司は俺たち二次元人を人間として見てなかったって事じゃないのか?」

 唖然とした態度で訊ねてくる大将の質問に対し、メタルバードやジュピターキッド等の小田原修司と古い付き合いである聖龍HEADの古参達は互いに顔を見合わせながら言った。

「……まっ、嫌われるよりマシさ。なッ」「そうだね。ハハハッ」

(えええぇぇえぇッ!!?)

 メタルバードとジュピターキッド、更に他の聖龍隊古参の面々の笑いながらの返しに大将を始めとする赤塚組はもちろん新世代型の面々も愕然と心の内で衝撃を受けた。

 そしてHEADの古参メンバーが笑い合う中、ジュピターキッドが笑いながら再び語り出す。

「ハハハ……だけどね、障害者という世間から差別される人であったからこそ義兄さん、いや小田原修司は多くの二次元人に共感してはその人権を護って来てくれてたんだ。僕たち二次元人だけじゃない、過去に奴隷や迫害などの歴史を持ち、未だに時おり差別の対象とされる黒人やユダヤ人に対しても兄さんは彼等に共感し、人種問わず共存共栄していける世界の実現に向けて僕ら二次元人と共にその世界の実現に向けて活動してきたんだ」

 するとジュピターキッドの笑いながらの話を聞いた大将は、不良座りでやや不満げな表情を浮かべて愚痴った。

「要するに……修司が俺たち二次元人の差別を理解したうえに、その迫害から護ってくれてたのも、修司自身が障害者だったからって事かい」

 やや不満げな表情で愚痴る大将に、メタルバードが気難しそうな顔で語り掛ける。

「まあ、簡単に言えばそうではあるが……しかしだ。だからこそ修司の生い立ちには今の二次元人同様に苦境があった他に、その生い立ちがあったからこそ修司はオレたち二次元人に理解を示してくれたんだ。確かに皮肉では有るが、修司が同じ差別され続けている障害者だからこそ、二次元人はもちろん黒人やユダヤ人に対しても同様に人権運動を活発に行ってくれた訳よ。その点では、修司に感謝してくれよな新世代」

 突拍子に自分達に掛けられる言葉にハッとなる新世代型たち。

 小田原修司が自分たち二次元人を始め、多くの人権運動を行うまでの人種差別への働きかけには、悲しいが彼の障害者としての出生が深く関与している事実を新世代型たちは理解を深めていくのであった。

 

 発達障害者。それは他人からの愛情を感じられず、常に孤独の中で生き続ける不遇な存在。

 だが、そんな存在にも生きる喜びを。そして愛情や優しさの素晴らしさを説いてくれる創作の御話。

 小田原修司は、そんな自分には感じられない優しさや愛情を教えてくれる二次元人の存在こそが、理不尽で不条理な現実を変えてくれる力であると信じたのであった。

 自分の様な歪んだ心を持つ存在をも導いてくれる二次元人こそが、世界を美しく素晴らしい世の中に変えてくれると信じられたのである。

 

 

 

 

[ひきこさん]

 

 浄水場を抜けてしばらく歩いていくが、何の進展もないまま施設を進行していく一行。次第に話し合う余裕すらなくなり、誰もが無言で何かが突如として出現しても可笑しくない施設内を探索しながら歩んでいく一同。

 進んでいく廊下の至る所には大量の血肉がこびり付き、更にはその傍らに転がる無数の人間の死体。一行、特に新世代型たちは恐怖を感じながらも一歩ずつ確実に前進していく。

 

 そんな中、死体が壁際に横たわっている廊下を進んでいる最中でメタルバードが何か気付いた。

「! これは……」

 メタルバードは廊下に無数に点在している死体の一体に跪き、間近で死体を観察しだす。

「お、おいバーンズ。どうしたんだ?」

 大将が死体を眺めるメタルバードに訊ねると、メタルバードは観察する死体を指しながら大将に答えた。

「これを見ろよ……この死体、今まで俺達が見てきた死体とは明らかに違う」

「な、何が違うんだよ……」

「良く見てみろ……」

 大将が再度メタルバードに指摘され、死体を間近で良く良く観察してみると大将はある事実に気付いた。

「こ、これは……」

「そうだ。この死体は今までの様にゾンビやリッカーの様な生体兵器に襲われた様な傷ではなく、何か強烈な力で何度も叩き付けられた様な……或いは殴り付けられた様な痣ばかりだ。おそらく死因は殴打による外部からの衝撃だろう」

「い、今までの様に噛まれたり引っ掻かれたりされたんじゃなく、殴られて殺されたって事か? この死体……」

「ああ。しかも周りを見てみると、この死体同様に他の死体も何かで殴られたり床や壁に叩き付けられて殺された様な傷が目立つ」

 メタルバードに指摘され辺りを見渡してみると、確かに周辺の死体には酷い痣や窪んだ外傷などが目立っているのが大将の目にも入った。

 この付近の死体の殆どが、何かに激しく何度も殴打されたり叩き付けられて殺害された死体ばかりであった。

 

 誰もが異様なまでに外部からの殴打で死に至らしめられた死体の中を進む中、彼等は密かに一同を見つめる視線には気付いていなかった。

 周囲に隈なく警戒を募らせる中、両腕を刃物に変形させたメタルバードと小銃の銃口を前方に向けながら前進する二人を先頭に、後ろから他の皆々が付いていく。

 そのまま無数の死体の中を前進していく一同。何事も無く、先へと進んでいっていた、その時。

 後方を防衛していたルーキーズの一人、門脇将人の肩を何者かが突然後ろから掴み掛かった。

「ッ、うわ!」

 驚いて声を上げる将人の一声に、死体の間を続々と進んでいく一同は気付き急停止する。

「な、何だ!?」

 突然の叫び声に立ち止まり壁に反響する声に驚く大将。

 一方の将人は何者かに肩を掴まれたまま、そのまま後方へと何処かに引き摺られて行ってしまうのを彼の思い人ミヤビが目撃する。

「た、大変です! 将人様が」

 ミヤビの声に皆が視線を向けるが、既に将人の姿は暗闇の中に消えていた。

「ま、将人!」「将人が消えた!」

 消失した将人に仲間の日ノ原革とミラールが声を上げ、暗闇に消えていった将人の姿を懸命に探す。

 と。皆が消えてしまった将人の姿を目で追っていた、その時。

「うわあああぁぁぁぁ……ッ」

 暗闇の奥から消えた門脇将人の悲鳴が聞こえてきた。

「こ、この声は……!」

「間違いない、将人の声だ!」

「尋常じゃない雄叫びだったぞ」

 暗闇の奥から反響してきた将人の雄叫びに近い悲鳴を聞いて、その尋常でない悲鳴に一驚するメタルバードとエンディミオンと海斗らHEADの男達。

 そして門脇将人の悲鳴を聞いて、彼の指揮官であるミラールがHEADの上官達に言った。

「何かが起きたのよ……スグに救援に向かいましょ!」

 このミラールの提案にメタルバードも即座に行動に移ると同時に周囲の皆々に指示を伝える。

「うむ、あの将人がこれ程の絶叫を上げるなんて滅多にない。聖龍隊! 俺を含む一部の隊士は失踪した将人の追跡に向かうぞ。他の聖龍隊士と赤塚組はこの場にて待機しつつ、新世代型たちの護衛を引き続き任せる。行くぞ!」

 メタルバードの指示の元、彼に付き従いHEADではセーラームーン率いる内部系戦士の五名とジュピターキッド、そしてウォーターフェアリーが。スター・ルーキーズでは総部隊長のミラールと失踪した将人と同じ隊に所属している日ノ原革と彼の従者コトハ、そして将人の従者であるミヤビ、更にはくだ狐で細部に至るまで探索できる葉月いずなと微かな音や震動をも感知できるゼブラを加えた面々が門脇将人追跡に走るのであった。

 そして現場には、その他の聖龍隊士と赤塚組さらにジェイク等が新世代型達の護衛を保ちつつ待機するのであった。

 

 メタルバードを先頭に暗闇の中で突如として姿を消してしまった門脇将人の探索に奔走する一同。

 彼等が将人の姿を探索していると、床に何かを激しく引き摺った後が見受けられた。

 更に「……うむ、やはりな。この先に将人の声が聞こえる。それも、かなり弱々しい声でな」と引き摺られた痕が残る通路の先から感じる微弱な音で将人の居場所を探索するゼブラが、通路の先を示す。

 しかもゼブラだけでなく、使い魔の一種であるくだ狐を駆使して先の進路を隈なく探索に回させていた葉月いずなも皆に告げる。

「くだ狐たちからも同じ様な報告が入っているよ。この先に将人がいるのは確かだけど……でも、ゼブラの言うとおり大分弱っているみたいよ。何故なのかしら」

「理由は言ってみないと分からねェが、どちらにしろ急いで将人の救援に向かわなければならないのは確かだな。アイツの事だから大丈夫とは思うが、弱っているなら速急に手当てしてやんねェとな」

 ゼブラにいずなからの報告を聞いて、メタルバードは急ぎ弱体化している将人の許へ向かう事を皆に告げる。

 彼等は視界の悪い暗闇の中を、懐中電灯の微かな灯りとゼブラの聴覚そしていずなが用いるくだ狐の案内の元、弱っているらしい門脇将人の許へと急いで駈け付ける。

 

 そして一行はゼブラの聴覚といずなのくだ狐の案内の元、ようやく将人が居ると思われるとある一室に辿り付いた。

「こ、この中に将人が……」

 人気も感じられない部屋の中に将人が居ると聞かされる革。そして将人の気配が感じられる部屋のドアノブをメタルバードが手を掛ける。

「行くぞ」

 ドアノブに手を掛けるメタルバードの一言に皆は軽く頷き同意の意志を伝える。

 そしてメタルバードは一気に扉を開けると同時に、レーザー砲に変形させてた左手を突き出して室内に突入する。

「誰か居るか!」

 勢い良く中に踏み入るメタルバードに続いて、他の面々も続々と室内に踏み込んでいく。

 そして突入した室内に向けて灯りを照らし、室内を逐一に至るまで見渡す。

 すると灯りに照らされ、室内の奥その壁際に何者かが微かに映った。皆は灯りに照らされ暗闇に浮き彫りになった人影に静かに近付いていく。

 そしてゆっくりと照明を向けてみると灯りの中から現れたのは「きゃああっ」暗闇の中に現れた人物を見てミヤビが蒼褪めた表情で悲鳴を上げる。

 皆の前に姿を見せた人、それは顔から足に至るまで全身を殴打されたかのような打撲だらけの青痣塗れに血塗れの変わり果てた門脇将人の姿であった。

「ま、将人! 将人!」

 全身隈なく青痣だらけの血塗れで実に痛々しい将人を目の当たりにしてメタルバードが駆け寄り、将人の頬を叩きながら声を掛けていく。

 そして声を掛けるメタルバードに続いて参謀総長のジュピターキッドが将人に歩み寄り、まるで息絶えた様な身形に変わり果てた将人の首筋に指を当てて脈を計る。

 そして「……うん、大丈夫。まだ息がある」と将人の脈を計ったジュピターキッドは、まだ将人が存命であると皆に伝えた。

 ジュピターキッドから将人の存命を伝え聞いたメタルバードは早速、同行してもらってきたセーラームーンと彼女と同じく治癒能力を持つウォーターフェアリーに将人の治療に当たらせると共に、将人の身体的外傷をレーダーに変化させている眼球で隈なく診察してみた。

「コイツはヒデェや……腕や足、それに肋骨や頭蓋骨にまで損傷が激しく見られる。将人、お前が前に修司に痛め付けられた時の顔面の骨も、またヒビだらけになっちまっているぞ」

 手足や胸部の骨だけにあらず以前小田原修司によって徹底的に痛め付けられた頭蓋の方にまで再びヒビや骨折が入っている事を、虫の息の将人に伝えるメタルバード。しかし当の将人はメタルバードの言葉が伝わってはいたが、余りの肉体の、それも顔面の激痛で口を開く事も侭成らない状態であった。

 手や足の骨は関節の箇所から無惨なまでに粉々に打ち砕かれ、顔面や頭部までも青痣だけにあらず骨にヒビが入り至る箇所から夥しい程の出血をしているまで激しく損傷していた。それはまるで何かに激しく叩き付けられたかのような実に痛々しい生傷であった。

 と、その時。重傷の将人が寄り掛かっている壁の付近を見渡していたジュピターキッドがある事に気付いた。

「みんな、これを見てよ。壁や床の彼方此方に窪んだ上に血が付着している箇所が至る所に見られるよ」

 ジュピターキッドに指摘され、他の皆と同様に血が付着している窪みを見入るメタルバードも、窪みを良く良く間近で観察すると同時に窪みの中の血痕を詳しく調べてみた。

 すると「間違いない。この窪みも血痕も真新しい、しかも血は完全に将人の血と一致する。将人はこの場で何者かに体を激しく床や壁に叩き付けられ、青痣だらけの骨折塗れの状態にされたんだろう」と見解するメタルバードに葉月いずなが一つの疑問を投げ掛ける。

「だ、だけと……一体、誰が将人を? 将人は172cmもある上に、あの修司に直にそれも徹底的に鍛え上げられたんだよ! そんな将人を此処まで惨たらしく痛め付けられるなんて生半可な奴じゃないよ」

 するといずなに続いて将人の怪我を見受けたセーラーマーキュリーも気に留めていた疑問を投げ付ける。

「将人君の怪我を診てみたけど……何かに頭を鷲掴みされた上で床や壁に何度も叩き付けられて、ここまで痛め付けられたみたいだけど。でも、どうやって此処まで傷を負わせられたのか……まるで思いっきし壁とかに叩き付けられた様な打撲に骨折それに生傷だけど、それだと将人君以上の背丈なだけでなく強靭な筋力が必要だというのに……」

 葉月いずなもマーキュリーも門脇将人がこうも簡単に痛め付けられた現状に頭を捻る。元悪人とはいえ、かの鬼神と恐れられた小田原修司に鍛え上げられ改心した上で屈強な聖龍隊士へと変貌した将人は容易く傷だらけにされる訳が無かった。兎に角、将人を痛め付けたのが将人以上に背丈があり、そして筋力が異常なまでに有り余っている存在である事だけは確かであった。

 何れにしろ、メタルバード達は見た感じ完全に血塗れの肉の塊同然に変わり果てた将人の治療に専念するのだった。

 

 一方その頃、将人の追跡に向かった面子以外でその場に待機している聖龍隊と赤塚組そして彼等に護衛してもらってる新世代型たちは大人しく待機していた。

 だが、いくら待っても中々戻ってこないメタルバード率いる隊士達を心配して不安に煽られる皆々の心情を察してか、特に不安がっている新世代型の子供達をミラーガールが優しく宥めてあげてく。

「だ、大丈夫よ。バーンズもジュニアも一緒なんだし、全員無事に戻ってくるわよ。そんなに脅えなくたって、此処にいる私達だけでもみんなの事を護りきって見せるわ」

 しかしミラーガールの励ましに対しても胸中に溜まっていく不安の気分が晴れる事無く、どんよりと暗く沈む新世代型たち。

 と、まさにその時だった。

 皆が待機している何処か近場から、暗闇の中から何かの物音が微かに聞こえてきたのだ。

「! だ、誰だ其処に居るのは!?」

 物音に驚いて咄嗟に銃を音の方向へ向けては訊ねる赤塚組のアツシ。しかし確かに物音が聞こえてきた方からは何の返答も返って来なかった。

「き、気のせいか……」と、アツシが銃を下ろそうとしたその時。

 今度は反対側から物音が聞こえてきた。それも今度はアツシの耳だけでなく他の皆の耳にも確かに音が伝わっていた。

「だ、誰なんだ!!」

 今度はアツシだけでなく、赤塚組の大将や他の幹部達も音が聞こえてきた方角に銃を向けて発砲する体制に入る。しかし暗闇からは不気味なまでの静寂さしか感じられなかった。

 再び銃を下ろそうとするアツシやその他の赤塚組。だが下ろそうとした瞬間、銃を向けていた方角とは別方向に何者かの人影が視界に入った。

『!』

 暗闇の中で移動した人影に赤塚組も新世代型の一同も驚愕し、人影が動いていた方に咄嗟に銃を向ける。

 張り詰めた空気が現場の赤塚組と聖龍隊に走る中、聖龍隊副長ミラーガールの無言の指揮の下、その場の聖龍隊は全方向に広がり全方面から如何なる時でも対応できる様な体制に入る。

 だが、周囲に展開し如何なる事態にでも対応できる防衛体制を組んだ聖龍隊と赤塚組の努めも空しく、悲劇は起きてしまった。

 周囲を完全な暗闇で取り囲まれた一同を防衛する聖龍隊と赤塚組。しかし防衛に回っていた聖龍隊と赤塚組の人と人の間を掻い潜る様に何者かの手が暗闇の中からヌッと出てきては、護衛され取り囲まれる新世代型の一人の肩をいきなり掴んだ。

「ッ!?」

 突如、暗闇から伸びる手に肩を掴まれ愕然と成る新世代型の四宮小次郎。そして次の瞬間「うわッ!」四宮の姿は暗闇の中へと消えていってしまった。

 そしてこの時、現場の聖龍隊と赤塚組は四宮の悲鳴で始めて彼の緊急事態を悟る。慌てて大将が四宮が立っていた場所まで駆け付けては辺りを懐中電灯で見渡していく。

 すると四宮が消えた暗闇の奥の通路に何かが引き摺られた様な痕が残っているのを大将は発見する。

 だが、それと同時に暗闇から尋常でない絶叫が壁や床を反響して響いてきた。

「うわああああぁぁぁぁぁ……!!」

 その絶叫は紛れも無く、姿を消した四宮の物であった。

「し、四宮!?」

 完全な暗闇の奥から鳴り響いてくる四宮の絶叫に彼の同期生である堂島銀が激しく反応する。

 そして消えた四宮小次郎を急ぎ大将が追い駆けようと皆に声を掛ける。

「い、急いで追わねェと! 今の悲鳴からして只事じゃねェや」

 すると四宮の後を追おうとする大将に堂島銀が声を掛けてくる。

「お、お願いだ! 俺も一緒に連れて行ってくれ。四宮とは同期の仲なんだ、頼む足手まといだけにはならないから」

 堂島銀の必死の要望に、それを聞いた赤塚組のテツが大将と堂島銀に話し掛ける。

「よし、俺も一緒に同行しよう。四宮を連れて行った奴が只者じゃないかもしれないし、此処は戦闘慣れしている面子が追跡した方が得策だろう。堂島銀さんよ、一緒に来るのは構わないが危険だと感じたら真っ先に自分の身を優先して物陰などに隠れていてくれよ」

「あ、ああ。分かった」」

 テツからの指示を受けて承諾する堂島銀。すると同じくテツの提案を聞いた[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]が配下の本能字四天王の一人である[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]に命じた。

「蟇郡、貴様も赤塚組の皆様方と共に付いて行けッ。我等、本能字学園の四天王も御役に立てる所を聖龍隊の方々や下々の者共に示すのだ!」

「しょ、承知しました。皐月様」

 [[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]からの命を受けて本能字四天王の一角、[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]も大将やテツ、そして堂島銀と共に姿を晦ました四宮小次郎の捜索に同行する。

「よし、俺様に付いて来い!」威勢の良い啖呵を切って大将が先頭を行く中、その後ろからテツに堂島銀、そして[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]が四宮小次郎の捜索に買って出る。

 

 何処までも続く暗闇、そして通路の床に残る引き摺られた痕を辿って一歩一歩前へ歩いていく大将達。

 そして彼等が痕を辿って歩いていった、その先で…… ドガッ バキッ ドゴッ 何かが激しくぶつかり合う凄まじい音が一行の耳に入ってくる。

 不気味なまでの激しく凄まじい音に悪寒が背筋に走る一行。だが一行の耳に入ってきたのは、激しい物音だけではなかった。

「うぅ……ッ……がはッ…………グッ」

 激しく叩きつけられる音と共に悲痛なまでの唸り声までも微かに聞こえてきた。

 その激しい物音に掻き消されながらも微かに聞こえられる悲痛な声に同行してきた堂島銀が気付いた。

「こ、この声……間違いない、四宮だ!」

 微弱な唸り声、その主は失踪した四宮小次郎であると堂島銀は察知する。その銀の発言に、四宮の探索に走っていた大将にテツそして[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は急ぎ声の聞こえる方へと走り抜ける。

 そして四宮探索の一行は、とある小部屋の前まで行き着いた。中からは凄まじい激突音と共に四宮小次郎の弱々しい唸り声が聞こえてきていた。

「行くぞ」「ああ」

 大将とテツは互いに小銃を腕に抱えながら、小部屋への突入を再確認する。

 そして二人同時に小部屋の扉を蹴破り、室内に向けて銃口を向ける。

 一行が踏み込んだ部屋の中には、傷だらけの痛々しい姿へと変わり果てた四宮と、その四宮の頭を鷲掴みする長身の女性らしき人物が小部屋の中央に立っていた。

「こ、コイツは……!!?」

 踏み込んだ部屋の中央に居た女性の禍々しい姿に、大将もテツも、そして同行してきた堂島銀に[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は驚愕した。

 大よそ全長が約2mはあろうかという長身で、髪の毛は顔が隠れるほど前に垂れ下がってるボサボサの黒い長髪、そして所々ボロボロに傷んだ白いワンピース姿の女性。その女性の右手には、全身を隈なく青痣だらけの生傷だらけにされた四宮小次郎が頭部を鷲掴みにされていた。

 大将達は傷だらけの如何にも重傷の四宮小次郎を救出するべく、彼の頭を鷲掴みしては捕らえている長身の女性に向けて銃口を向けて怒鳴った。

「う、動くな! おい女、その手に掴んでいる男を早く放すんだ。早く放せ!」

 女に怒鳴り散らしながら銃口を向ける大将とテツ。だが女は顔が隠れるほどに長い黒髪の隙間から悍ましい眼を覗かせ、銃口を向ける大将やテツそして二人に同行してきた堂島銀と[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]を睨み付ける。その眼力による迫力に思わず大将やテツだけでなく銀や[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]達は怯んでしまった。

 そして女は鷲掴みにしていた四宮小次郎を片腕で軽々と振り投げては後方の壁に投げ飛ばし、四宮は壁に激突した。

「し、四宮!」

 投げ飛ばされ壁に激突し、そのままピクリとも動かずに床へとずり落ちる四宮を目の当たりにして堂島銀が叫ぶ。

 だが当の四宮を後方へと投げ飛ばした長身の女は、そのまま前方で銃を向ける大将とテツに急接近してきた。

「うわッ」「ッ!」

 そして大将とテツを有無も言わさずに、それぞれを片手で掴み掛かってはそのまま軽々と投げ飛ばしては双方とも壁に激突させた。

 大将もテツも、壁に窪みが生じるほど激しく投げ付けられては痛みで悶絶してしまう。

 すると長身の女の標的が今度は[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]に向けられてしまった。[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]も女の次の狙いが自分だと察して、戦闘態勢に入ろうと身構えた。しかし彼が戦闘態勢に入る直前に女は[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]に急接近しては彼の首元を片腕で掴んでは、女性とは思えないほどの力強い握力で[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]の首を締め付け始めた。

「グ……ッ」

 片手で喉を締め付けられた上に、片腕で軽々と重量級の自分を持ち上げる女の強力に苦悶の面差しを浮かべる[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]。

 [[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は何とか自力で女の腕力を振り解こうと暴れるが、女の力が緩まる事はなく益々苦しんでいく始末。

(もうダメか……)

 [[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]がそう思った、まさにその時。彼の喉を締め上げ、つりあがった恐ろしい眼で睨み付けていた女が突如、目の色を変えては[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]の首を離し彼を解放した。

「グッ、ガはっ……はぁ」

 締め付けられていた喉を解放され、息苦しさから咳き込む[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は少しずつ呼吸を平常通りに戻していく。

 一方の長身の女は[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]を解放すると、そのままそそくさとその場から立ち去っては姿を晦ましてしまった。

 呼吸を取り戻し、次第に気を落ち着かせていく[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]の許に突如として姿を現した女に怖気づいて立ち尽くしてしまってた堂島銀が駆け寄ってきては[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]に声を掛ける。

「君、大丈夫かい?」「え、ええ……何とか」

 気に掛けてくれる堂島銀に対し[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は額から大量の汗を掻きながら険しい面差しで返事をする。

 一方で長身の女に意図も容易く投げ飛ばされた大将とテツの方も、壁に激突した背中を痛めながらもどうにか立ち上がれてた。

「あ、イテテテ……何だったんだ、今の女は?」

「うっ……女とは思えない程、力強かったな」

 互いに背中を痛めながら立ち上がる大将とテツ。

 そして皆は最初に女に捕まっては徹底的に痛め付けられ虫の息と成り果てている四宮小次郎の許へと歩み寄る。

「四宮……四宮!」

 堂島銀が四宮の名を何度も呼びかけていく。すると「……ウぅ……」四宮小次郎は弱々しいながらも微かな声を発して堂島の言葉に反応する。

 微かに意識のある四宮を確認して、大将が急ぎ重体の四宮を連れて行こうとする。すると四宮を連れて行こうとする大将にテツが待ったの一声をかけた。

「待て、大将!」「ど、どうした?」

 大将が訊き返すと、テツは四宮の負傷した箇所を念入りに診ながら答え返した。

「この四宮って奴、左足と右腕の骨が完全にイッちまってる。無闇に動かせば骨折が更に酷くなるぞ」

「な、なに!」「何だと! 其処まで酷いのか、四宮は」

 四宮小次郎の損傷の深さに驚愕する大将と堂島銀。この時、四宮小次郎は顔面や手足に酷い痣や出血が見受けられる他にも、激しく頭部や手足を床や壁に叩き付けられた為に損傷が骨にまで異常を来たしていたのであった。

 当の四宮小次郎も、料理人の命ともいえる利き腕はもちろん体の至る箇所から感じる激痛に酷く悶絶し、喋る事も侭成らなかった。

「え、ええっと……お、おい。其処のガマのあんちゃん!」

「え……えっと、俺ですか?」

 重傷の四宮を目の当たりにした大将は、困惑しながらも放心状態で立ち尽くしていた[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]を見受けては彼を呼び付ける。一方の[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は先ほどまで自分の事を間近で直視していた長身の女の異様なまでの眼光に放心状態に陥っていたが、大将に呼び掛けられた事でようやく正気を取り戻す。

「ガマのあんちゃん。そこ等へんに棒切れとか、無ければ鉄パイプとか硬くて真っ直ぐな棒状のモンは落ちてねェか? この四宮のあんちゃんの骨折した所に添え木として使いたいんだが」

「わ、分かりました。棒切れか鉄パイプ、添え木になる物なら何でも良いんですね。探してみます」

「俺の方でも辺りを探してみる。頼むぞ、ガマの青年」

 大将から四宮の骨折箇所を留める添え木代わりを求める声に、[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は一瞬戸惑いながらも返事をする。そして[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]とテツ、更に大将と堂島銀は辺りを隈なく探して四宮の添え木になる物を捜し求めた。その間も、謎の長身女に痛め付けられ、血達磨にされた四宮小次郎は微かな吐息をしながら己が肉体を文字通りの肉の塊同然に、床に寝かせるのだった。

 

 一方、場所は戻り此処は残りの聖龍隊と赤塚組によって護衛されている新世代型一同の集団。

 彼等は暗闇の中に姿を消した門脇将人を追跡するメタルバード達と、同じく姿を晦ました四宮小次郎を追っていった大将達の帰りを何時か何時かと待ち続けていた。

「大丈夫かしら、バーンズ達に大将達。何だか心配になってきちゃった」

 さすがの心強いミラーガールも帰りの遅い二組に不安の色が胸中に溜まっていく。

 そして二組が抜けた事により、より一層周囲に対して警戒の心遣いを強める聖龍隊と赤塚組は、更に強固なダイヤモンド・フォーメーションで前衛/後衛/側衛を厳重に布いていく。

 しかし強固なまでに固めた防衛体制ダイヤモンド・フォーメーションも暗闇からの異形の奇襲に掻い潜られ、悲劇は繰り返されてしまう。

 前方/後方/側面と至る箇所からの奇襲に備えていた聖龍隊と赤塚組であったが、そんな暗闇の中から突如長い黒髪が視界を遮った。

「う、うわぁ!」突如視界に入った黒髪に驚き腰を抜かすルーキーズの工藤タイキの悲鳴を皮切りに、全体に緊張が走った。

 だがその瞬間「うわあ!」「きゃっ!」暗闇から伸びてきた手に、今度は二人が。新世代型の森谷ヒヨリと薙切えりなの二名が暗闇へと引き摺り込まれた。

「森谷さん!?」「え、えりな様!」

 暗闇に勢い良く引き摺り込まれた森谷ヒヨリと薙切えりなを目の当たりにして、ヒヨリの親友である琴浦春香とえりなの秘書である[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]が一驚する。

 そして突如として視界に現れた長い黒髪と暗闇から伸びてきた手によって引きずり込まれて姿を消した森谷ヒヨリと薙切えりなを目の当たりにした一同は混乱し始めた。

「い、今のは何?」「め、目の前に黒い髪の……そう、女の人が!」

 視界に映った黒髪の女に尋常でないほど脅えうろたえる鹿島ユノにキャサリン・ルース。

「も、森谷は? 森谷は、一体どこに……!?」

「く、暗闇から手が出現したと思ったら、その手が森谷さんの手を掴んでそのまま引っ張っていったみたいだけど……」

 突然姿を消した森谷ヒヨリに混乱する真鍋義久に、彼女が消えた様子を一部始終目撃した戸室大智が語り明かす。

 しかし一度、現状に蔓延った混乱の状況下は草々消えるものではなかった。誰もが暗闇からの奇襲によって、悉く姿を消した聖龍隊の門脇将人に新世代型の四宮小次郎/森谷ヒヨリ/薙切えりなの計4名を前にして、次は自分の番ではないかと疑心暗鬼に陥り始めた。

『う、うわあぁぁ……ッ!!』

 そして遂に混乱と恐怖が新世代型の心中に満ち溢れた瞬間、新世代型たちは一同に混乱し思わず走り出して行ってしまった。

「み、みんな! 落ち着きなさい、落ち着いて……!」

「みんな、落ち着くんだ! 暗闇で無闇に動き回っては、それこそ危険だ!」

 混乱と恐怖でパニックに陥る子供達を前に、教師である美都玲奈と猿田学は必死に混乱に喘ぐ子供達を宥めていく。

「き、貴様等! 此処で散り散りに成れば、相手の思う壺だぞ! 冷静になれッ」

 [[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]も美都玲奈や猿田学に続いて、周囲の者共に言い放ってはその場を静め様とする。

 しかし場の状況が鎮まる事は無く、一人が暗闇の通路へと駆け抜けるとその後を追って他の子供達も続々と駆けて行ってしまった。

「み、みんな! 落ち着いて……ああっ」

 混乱する現状を前にしたミラーガールは、通路に駆け込んでいく子供達を追って自らも暗闇の通路に踏み込んだ。

「ミラーガール!」「あの子達を宥めないと……後は任せたわ!」

 セーラープルートからの掛け声にミラーガールは現状を任せると言い残して子供達の後を追っていってしまう。

 だがミラーガール一人だけで行かせる訳には行かず、聖龍HEADはミラーガールの後を追おうと決意する。

「彼女だけじゃ心許ないわ……私も行くわ!」

「それでは私も……光さん、海さん。後をお願いしますわ」

「それじゃ私も行くわ。結、春奈、後をお願いね」

 ミラーガールの加勢に向かう為、キューティーハニーと鳳凰寺風、そしてコレクターアイの三名が彼女の後を追う。

 

 その頃のミラーガールは、混乱に喘ぐ新世代型の子供達を懸命に宥めつつ少しずつ落ち着かせていた。

「大丈夫、大丈夫だから。みんなは必ず私達が護るし、消えてしまった人達も必ず見つけ出すから。ねっ」

 優しくも力強く励ましの言葉を掛けていくミラーガール。

 するとその時、皆を励ましていたミラーガールの耳に何やら不気味で違和感のある物音が聞こえてきた。

 何かを激しく、それも凄まじく砕いていく物音にミラーガールだけでなく彼女に宥められていた新世代型の少年少女等も気付く。

「な、何……この音」不気味で不快な物音に一層恐怖に駆り立てられる鹿島ユノ。

 だが皆の耳に入ってきた音は、不快な物音だけではなかった。「うぅ……」「が……っ」何かが悲痛なまでに苦しみ、悶える様な声までも耳に入ってきた。

 この声に良く良く耳を澄ましてみると、それは先ほど暗闇に姿を消した森谷ヒヨリと薙切えりなの声に間違いなかった。

「この声……森谷だ、間違いない!」

「もう一人は……えりなの奴だ! 酷く弱弱しいが」

 暗闇から反響してくる不快音と共に聞こえて来る二人の苦悶の声に、真鍋義久と幸平創真が二人の声に違いないと叫ぶ。だが次第に二人の声は益々弱々しくなっていき、徐々に聞こえなくなってきていた。

「な、何だか声が弱くなってきてないか」

「ああ、何だかまるで、力尽きて来たかのような」

 微弱になってきた二人の声に対して発言する瀬名アラタと出雲ハルキの台詞を聞いて、えりなの秘書である[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]が激しく反発する。

「な、何を仰っているの、其処の二人! まるでえりな様が死に掛けているみたいな言い方は止めてください!!」

 瀬名アラタと出雲ハルキの言い方に不快を覚えた[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]は激しく言い返す。

 しかしアラタとハルキだけでなく、他の面々の聴覚にも二人の声が次第に弱まって来ているのが確かに感じられてた。

「で、でも本当に二人の声が弱まって来ているのが私にも感じられるわ。……心配ね、少し様子を見てくるわ」

 そう言ってミラーガールが二人の微弱な声と激しい物音のする方へと足を向けた瞬間、えりなの秘書である[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]がミラーガールに言い寄った。

「み、ミラーガール! お願いします、私もご一緒に。えりな様の身に何かが起きているのは確かですし、私もこの目で……」

「えっ、ええっと……」

 同行させてほしいと要望する[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]の訴えに戸惑うミラーガール。すると此処で混乱に陥り、集っていた面子が散り散りになるのを防ごうと模索していた

[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]がミラーガールに力強い面立ちで訴えかける。

「ミラーガール! 我等、本能字学園の者どもの居ります! 故に心配御無用! 他の軟弱な者共ぐらい護り抜いて見せます上に、軟弱な者を連れ去った得体の知れない輩も撃退して見せますので御安心を!!」

 ミラーガールに敬称の構えを取る[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]と、彼女に付き従う本能字学園の[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]/[[rb:猿投山渦>さなげやまうず]]/[[rb:犬牟田宝火 >いぬむたほうか]]の面々。更には宿敵の纏流子に満艦飾マコに、何度も流子と共闘してきた栗山未来や名瀬兄妹の面々もミラーガールに従う姿勢を示す。

 彼等の力強い表情を見て、ミラーガールは一瞬この場には居ない筈の自分の婚約者 小田原修司の面影を新世代型の[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]や纏流子、そして栗山未来や名瀬兄妹に重ね合わせた。

「分かったわ。でも無理だけはしないでね」「はいッ」

 ミラーガールからの問い掛けに[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は力強く返答する。

 そして一行はミラーガールを先頭に、森谷ヒヨリと薙切えりなの声が最後に聞こえてきた、強烈な衝撃音が未だに鳴り響いている方へと進んでいった。

 と。ミラーガールを先頭に一行が闇に消えた森谷ヒヨリと薙切えりなの捜索に進んでいた、正にその時。

「! こ、これは……!」

 突如として新世代型が頭を押えては立ち止まった。

「ど、どうしたの? みんな」

 頭を押さえ込んで立ち止まる新世代型の面々を心配するミラーガール。実はこの時、新世代型たちは例のテレパス系統の意思疎通能力である映像が直接自分たちの脳内に伝わってきたのだ。その映像は、消えた森谷ヒヨリと薙切えりなの視点から見た実に惨たらしい彼女達の現状であった。

 

(きゃああっ)(いやああっ)

 森谷ヒヨリ/薙切えりな、二人は共に何者かによって徹底的に痛め付けられ苦痛に喘ぎ続ける状景が新世代型の脳裏に伝わってくる。

 腕を掴まれた森谷ヒヨリは、そのまま部屋の壁際に配置されている棚のガラス戸に投げ飛ばされ顔からガラス戸に突っ込んでは視界が血で赤く染まる情景が新世代型の脳内にも伝わってきた。

 一方の薙切えりなは強力な腕力で振り回され、室内に置かれていたガラス棚に放り投げられ、顔面からガラスに突っ込んでは血達磨にされた挙句、彼女がガラス棚に顔から上半身が埋まっている状態でそのガラス棚を倒しては、えりなをガラス棚の下敷きにした上で何度も何度もガラス棚をえりなに叩き付けて彼女を激しく甚振る様子までもが、ミラーガールと行動を共にしている新世代型達の脳裏に伝わってきたのだ。

 更に何者かに足を掴まれた二人は、そのまま片腕で容易く振り上げられ同時に互いの頭部をまるでアメリカンクラッカーの様に前方で激突され骨が砕かれていく鈍い音が響き渡る。

 そしてヒヨリとえりなの二人は徹底的に痛め付けられ、打撲だらけの血塗れにした何者かに足を同時に掴まれてはそのまま彼女達をズルズルと引き摺り始める感覚までも、虫の息と成り果てたヒヨリとえりな二人の少女が感じる感覚が他の新世代型たちに伝わって来ていたのだった。

 ヒヨリとえりなの現在の状況を二人の感覚から直接脳内に伝えられた新世代型たちは、彼女達が味わった超絶な激痛と衝撃で自分達にまでも、その痛覚が伝わっては苦悶に至る。

 

「み、みんな……どうしたの? 一体」

 ヒヨリとえりなの現状を脳内で感じ取り、その激痛までも感じてしまってた新世代型の苦しむ様子を見て戸惑い始めてしまうミラーガール。

 するとその時。ミラーガールだけでは心許ないと駆け付けてきた聖龍HEADの面々、キューティーハニーと鳳凰寺風そしてコレクターアイがその場に到着した。

「ミラーガール!」「一体どうしたの? 彼等は……」

「そ、それが……私にも良くは」

 駆け付けてきたコレクターアイとキューティーハニーからの問い掛けに対してミラーガールは未だに状況が把握し切れてない現状を伝える。

 その時、駆け付けて来てくれた聖龍HEADの三人の美女とミラーガールに頭を抱えて悶絶していた新世代型の一人、真鍋義久が詳細を語るのであった。

「み、ミラーガール。それにHEADのお姉さん方……た、大変だ。森谷とえりなって子が……!」

「え!」「ど、どういう事なの? 詳しく言って」

 真鍋の発言に驚愕するキューティーハニーに対し、コレクターアイは更なる事情を詳細に語る様、真鍋に問い詰める。

 そして真鍋を皮切りに、他の新世代型の面々も自分達の脳内に直接伝達してきたヒヨリとえりなの現状を語り始めるのであった。

 

 新世代型たちがミラーガールに駆け付けて来てくれたキューティーハニー/鳳凰寺風/コレクターアイに自分達の脳内に伝わってきた二人の感覚や視点を伝えると、伝え聞いた四名のヒロインは一刻も早く森谷ヒヨリと薙切えりなの許へと急ぐのだった。

「ま、まさか……突然消えた二人が、今そこまで痛め付けられているなんて……!」

「急ぎませんと、お二人とも命が危険ですわ!」

「まさか、先に消えた門脇や新世代型の四宮小次郎って人も、その人物に連れ去られたんじゃ……!」

 新世代型たちが感知した二人の少女の現況を聞いて急ぎ駈け付ける三名は、ミラーガールと共に急ぎ足で駆け抜けていく。

「そ、それにしても酷い……! か弱い女の子を、あそこまでモノみたいに振り回した挙句、痛め付けるなんて!」

 ミラーガールは新世代型達から伝え聞いた森谷ヒヨリと薙切えりなの現状に深く遺憾の意を胸中に溜め込んでいた。

 そしてキューティーハニー/鳳凰寺風/コレクターアイ三名を加えた一同は、急ぎ何者かの手によって痛め付けられている森谷ヒヨリと薙切えりなの許へと向かうのであった。

 琴浦春香や斉木楠雄といったテレパシー以外にも二人の苦痛の感覚が伝わってきている新世代型たちは迷う事無く4人のヒロインに二人の居場所を指示しては誘導し、暗闇の中を駆け抜けていく。

 暗闇の通路を駆け抜けていき、遂に一行は二人の気配が感じられるとある一室に辿り着いた。聖龍HEADの4名は暗闇の室内を照らして森谷ヒヨリと薙切えりなの姿を視認しようとした。だが、そこで彼女達の視界に捉えられた光景は一同に衝撃を与えた。

 室内のちょうど中央には、白いボロボロのワンピース姿でボサボサの黒い長髪の女が背中を向けて佇んでいたが、その女の両手には汚れ塗れの足が掴まれていた。HEADの4人のヒロインは灯りを女が掴んでいる足の主へと向けた。そして灯りの中に照らされた足の主、それは全身を痣だらけにされ顔面を激しく殴打され頭から夥しい程の出血を垂れ流しては顔の上半分を血で真っ赤に染め上げられてた森谷ヒヨリと薙切えりなの姿だった。

 二人とも、先ほど他の新世代型達が捉えた通り、壁や床さらには室内の家具にまでも至る所に打ち付けられては激しく顔面や身体を強打して血を流し痣塗れの痛ましい姿へと成り果てていた。

『………………!』

 徹底的に痛め付けられ、動かなくなっている彼女等とその足を掴んでいる異形の雰囲気を醸し出している身形の女にミラーガールたち一行は愕然と蒼褪めては立ち尽くしてしまってた。

 だが、そんな彼女達に気付いたのかヒヨリとえりなの足を掴んでいた女は二人の足を放すと、振り返ってはミラーガール達の方へと向いて徐に指差した。

 そして振り返った女は指を差したまま「……あああアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ…………ッ」何とも奇怪な唸り声を上げては、その禍々しいつり上がった目で眼前のミラーガール達を睨み付けては奇声を上げ続ける。しかもこの時、ミラーガール達が射していた照明に浮かび上がった女の口元と目元は奇怪なまでに耳元まで裂けていた。

 悍ましい容姿と形相さらには奇声を上げる女は次の瞬間、目の前で女の姿と痛々しい姿に変わり果てたヒヨリとえりなに愕然としているミラーガール達に素早い動作で猛威を向け駆け寄ってきた。

 

 

 

 その頃、闇に消えた門脇将人の処置を済ませたメタルバード率いる一行は皆が待機しているであろう地点まで戻っている最中であった。

 メタルバードと共に待機地点に戻ろうと奔走しているのは、門脇将人捜索に当たったセーラームーン率いる内部系戦士の五名とジュピターキッド、そしてウォーターフェアリー。更には将人と同じスター・ルーキーズのメンバーで総部隊長のミラールと将人と同じ隊に所属している日ノ原革と彼の従者コトハ、そして将人の従者であるミヤビ。そして、くだ狐使いの葉月いずなと超聴覚の持ち主ゼブラの面々に瀕死の重傷を負わせられてた門脇将人本人であった。

 将人は依然、暗闇で急襲して来た何者かによって痛め付けられた過度で、セーラームーンやウォーターフェアリーの治療能力でも未だに完全に体の痛みが消えていなかった。

「うぅ……」「ま、将人様。大丈夫ですか?」

 未だ体に走る激痛に襲われる将人を気に掛け、彼を気遣うミヤビ。そんな彼女に将人は顔や手足の痛む箇所を気にしながらもミヤビをこれ以上心配させまいと彼女に微かな笑みで話し返す。

「な、なあに……これぐらい、前総長のシゴキに比べたら大した事は無ェよ」

 だが将人の負っていた傷は深く、未だに砕かれた手足の骨や粉砕された顔面の骨から生じる激痛に襲われていた。

 そんな出血は止まったものの未だに激痛が走る体に鞭打って直走る将人を引き連れて、総長メタルバードは一刻も早い待機メンバーとの合流を急ぎながら将人を襲った者について思考していた。

「しかし何だ……将人は突然、暗闇から奇襲を受けて訳も分からないまま痛め付けられた上に所構わず引き摺られて体をメタメタにされたらしいが、一体誰が……?」

「今のところ、皆目見当も付かない。だけど将人をこれ程までに痛め付けられる上に床や壁に叩き付けられるほど振り回せる相手だけに、相当の強さを秘めた相手だろう」

 メタルバードの考慮を受けてジュピターキッドも自分なりの解釈を語る。

 だが、メタルバード率いる一団が暗闇の通路を未だ体の痛みを解消できていない門脇将人を気遣いながら駆け抜けていると、暗闇の曲がり角で彼等は突如として遭遇した。

「う、うわッ!」「わッ!」

 メタルバードも、曲がり角から飛び出してきた男も暗闇の中で驚き慄く。

 そして互いに懐中電灯で顔を照らし合わせて確認し合うと、それは見慣れた顔であった。

「な、何だ。大将じゃねェか……」

「ば、バーンズ。お前等かよ……フゥ、てっきりまたあの女かと思っちまったぜ」

 曲がり角でメタルバード達と遭遇したのは、門脇将人と同じく闇の中に姿を消した四宮小次郎を追っていった大将率いるテツと堂島銀そして[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]、更には重傷を負っている四宮小次郎本人達であった。

「ど、どうしたの大将。その、四宮って人……」

 セーラージュピターが重体の四宮小次郎を見て戸惑いながらも訊ねると、大将は訳を話した。

「そ、それがよ……将人の坊主が消えたと思ったら、今度はこの四宮ってオッサンが暗闇の中で誰かに掴まれたと思った瞬間に暗闇ン中に引きずり込まれちまって。そんで俺とテツ、それに四宮のオッサンの同期って言う堂島のオッサンとガマのあんちゃんで探しに行ったんだが、その先で不気味な女に痛め付けられた四宮のオッサンを見つけたんだよ。その女は四宮のオッサンに続いて俺達にまで襲い掛かってきたんだが、何故だかガマのあんちゃんと対峙した瞬間に何処かに行っちまって、それからは深手を負った四宮のオッサンを全員で担ぎながら運んでいたんだよ」

 大将から詳細な理由を聞いて立ち尽くすメタルバード達。すると大将は思い出したかのように、眼前のヒロイン二人に話し掛けた。

「おっ、そうだ! 確かセーラームーンにウォーターフェアリー、お前さん達は怪我の治癒能力を持っていたよな。悪いが、この四宮のオッサンの怪我も治してくれや。このオッサン、全身を隈なく痣だらけにされただけでなく、骨まで酷く折られていて完膚なきまでに痛め付けられちまっているんだよ。一応、今は応急処置で骨折した箇所には添え木代わりになる物で固定はしているけど」

 そう語り明かす大将の言うとおり、堂島銀と[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]に両肩を担がれて運ばれている四宮小次郎の右腕と左足には鉄パイプ等の添え木代わりの代用品で固定されているのが見受けられた。

「ひ、酷い……」

 二人の男に肩を担がれ運ばれる四宮の悲惨な状態にセーラーマーズは言葉を失くした。

 急いでセーラームーンとウォーターフェアリーが四宮の許へと駆け付けると、怪我の処置を施し始める。だが思った以上に四宮の容態は悪く、処置を施すセーラームーンとウォーターフェアリーの二名は悲痛な面持ちで嘆いた。

「これ……アタシ達だけじゃ、どうしようもないぐらいの酷い怪我だよ」

「ほんと、此処まで酷いと私達の治癒能力だけで完治させるのは難しいわ。何よりこの怪我の状態、完全に将人と同じなのが気に掛かるわ……」

 先ほども診てあげた門脇将人と同じ怪我の状態に顔を引き攣らせるウォーターフェアリー。彼女の言葉を聞いて、すかさずジュピターキッドが四宮を発見し運んできた大将達に、その時の状況を尋ねた。

「大将。君達はさっき、この四宮って人を探しては見付けた時に女性と遭遇したって言っていたけど、それって一体……」

 深刻な面立ちで問い掛けて来るジュピターキッドの顔を見て、大将達は先ほど自分達が体感した恐怖と状況について語り明かすのだった。

「……と、言う訳なんだ。その女は豪く怪力で、途方も無い腕力で俺とテツを意図も簡単に投げ飛ばしちまったのよ。そんで最後はガマのあんちゃんの首を片腕で軽々と締め上げたと思ったら、突然どこかに行っちまって姿を消しちまった訳なのよ」

「う~~ん……白い服、長身の女。か」

 大将達から粗方、先ほど彼等が体験した経緯を聞いたメタルバードは四宮を痛め付けていた長身で白服の女に思考を募らせていた。

 その時、メタルバード同様に大将達から四宮小次郎を痛め付けていた謎の女の事を聞いた日ノ原革たちは一つの推測を起てた。

「も、もしかすっと……将人を襲ったのも、その女なんじゃ……!」

「有り得るな。将人も、この四宮って奴もやられ方が殆ど同じだし十分に考えられる」

 革たちの推測にメタルバードも同意の姿勢を示し、思案に更ける。

 どちらにしろ、この場に留まらず他の聖龍隊や赤塚組が警護している新世代型達が待機している地点までも戻る為にも、メタルバードは傷が深く完治し切れてない門脇将人と四宮小次郎を連れて大将達と合流した状態で待機地点まで向かうのだった。

 

 そして合流を果たしたメタルバード達と大将達は深手の門脇将人と四宮小次郎を担ぎつつ、どうにか問題の白服の女と対面する事無く無事に待機地点まで戻ってきた。

「あ、バーンズ! それに大将君達も」

「良かった。みんな無事に戻ってきてくれたのね」

 出迎えてくれた獅堂光に龍咲海の笑顔にメタルバードが苦渋の表情で話し返す。

「いや、残念ながらみんながみんな無事とは言い切れなくってよ。俺らが捜索していた将人も、大将達が追ってた四宮も、二人とも何者かに酷く痛め付けられちまっててよ。幸い、重傷だが命に別状が無いのが救いだが」

 出迎えてくれた面々に行方知れずだった二人の状態を報告するメタルバード。

 と、その時。メタルバードはある事に気付く。それは待機場所に居る筈である大勢の新世代型たちが、年配の者を除いた若い子供達だけが居なくなっていた事に。更に子供達だけでなく、同じHEADのメンバーでもあるミラーガールにキューティーハニー/鳳凰寺風/コレクターアイの姿までも見えなかった。

「お、おい。新世代型の子供達は、皆どうしたんだ? それにミラーガールやキューティーハニー、風に愛の姿も見えないが……」

 すると疑問に思うメタルバードに待機していたミュウザクロが事情を話した。

「そ、それが……此処で待機していた私達の目の前に、白い服を着た髪の長い女の人が突然現れて。そしたら今度は森谷ヒヨリと薙切えりなって新世代型の女子がその女らしい人影に攫われたのを皮切りに、子供達がみな脅え始めて、アッという間に散り散りに分散してしまったのよ! もちろん、私達や大人の新世代型たちが宥めたりして落ち着かせようとしたんだけど、結局みんな散り散りに走り出しちゃって……。ミラーガールが子供達を追って一人で暗闇の中を行くのを見て、ハニーさんたち他のHEADの三人方も追っていって。それから私達は総長達が戻って来るまで現状を確保しつつ待機していた訳なんです」

 話を聞いたメタルバードは血相を変えて一驚した。

「な、何だって……! マズいぞ。その女は門脇や四宮って新世代型も、意図も簡単に叩きのめしては痛め付けたほどの強敵だ! いくらアッコやハニー達とはいえ、下手したら全員やられるぞ!!」

 緊急の事態を察したメタルバードは、即座にその場の聖龍隊と赤塚組達に指示を告げた。

「聖龍隊! 急いでミラーガール達を追うんだ! 下手したら更なる被害者が続出する事になるぞ……念の為、総員で迎え撃つかもしれねェし赤塚組も全員来てくれ! もちろん新世代型の連中を警護しながら一緒に付いて来るんだ! ジェイク、お前さんの腕前もまた協力頼むぜ」

「ヘッ、OK。また賃金が嵩む訳だし、得だねコリャ」

 メタルバードから銃撃の腕前を買われているジェイク・ミューラーは新たな敵を倒し、その分の賃金を上乗せで得られる事に調子が上がる。

 そしてメタルバード達は待機地点で自分らの帰りを待っていた他の聖龍隊と赤塚組の面々と合流し、謎の女に突如として連れ去られてしまった森谷ヒヨリと薙切えりなの失踪を皮切りに混乱し逃げ惑ってしまう新世代型の子供等を追っていったミラーガールを始めとする4人のヒロイン達の捜索に懸かるのであった。

 

 ミラーガール達の行方を追うメタルバード達。その最中、メタルバードは速急に聖龍隊の無線機でミラーガールへと連絡を取ろうと電源を入れる。

「此方メタルバード、此方メタルバード! ミラーガール、応答せよ。繰り返す、応答せよ!」

 すると無線機から微かながらにミラーガールからの返答が返って来た。

「こ、此方ミラーガール……現在、応せんちゅ……しきゅ、きゅうえ……」だが無線機から発信されるミラーガールの声は所々にノイズが入り途切れた状態であった。

 メタルバードは再度ミラーガールへと呼び掛ける。

「ど、どうしたんだミラーガール? そっちで今、何が起こっているんだ! 詳しく話せッ」

「現在……ッ、白い装束の女性と交戦中……ガハッ。わ、私も……ハニーさんも風さんも、コレクターアイも全員追い詰められて……! お、女の人は新世代の女の子で、森谷ヒヨリと薙切えりなの二人を襲っては、どちらとも意識が無く重体……ぐっ! い、急いで応援を……このままじゃ、私達だけじゃ持たない…………ッ!!」

 苦し紛れに訴えかけるミラーガールは、最後に苦悶に満ちた声を発しその瞬間を最後に無線は途切れた。

「もしもし、もしもし。ミラーガール! ……クソッ、通信が切れた」

 苦痛に喘ぐ声質にミラーガールが唱えてた状況を聞いて、メタルバードは彼女達の安否を気にしつつ顔を歪める。

 するとミラーガールからの通信をメタルバードが手にしている無線機から洩れた話し声で察した大将が、顔を歪めているメタルバードに話し掛ける。

「白装束の女って……もしや、俺やテツ達が遭遇した女なんじゃ」

 大将に続いて無線の洩れてた会話に大将の話に耳を傾けていたテツも切羽詰った表情でメタルバードに訴える。

「だとすると、ヤバいぞバーンズ。まさかとは思うが、ミラーガール達の身に危険が迫っているのは確かだ! スグに向かおう」

 大将、そしてテツの訴えを間近で聞き取り、メタルバードは一回頷くと速急に前へと駆け出す足を速めてはミラーガール達の許へと更に急いだ。 

 

 メタルバードはミラーガールの無線機のGPSを自身のコンピューター化した脳細胞で受信し、彼女達の居場所を特定しつつ駆け足で向かってく。

 そして彼等はようやくミラーガール達4人のヒロインと新世代型の子供達がいる場所まで到着した。

「ミラーガール! ハニー、風、愛!」

 ミラーガールとその他3人のヒロインの名を叫びながら、彼女等と新世代型たちが所在している一室に駆け込むメタルバード。

 だが、彼等が部屋に駆け込んだ、まさにその時「きゃあっ」メタルバード達が駆け込む部屋の出入り口そのスグ間際の壁に鳳凰寺風が勢い良く激突したのだ。

「ふ、風!?」壁に激突し、苦悶の表情を浮かべる風にメタルバード達が目を奪われていると「きゃっ!」「がはっ!」同じ室内から他の二名、コレクターアイとミラーガール二人の悲痛な喘ぎ声が立て続けに聞こえてきた。

 メタルバード達は声のする方へ目を向けると、其処には白いボロボロの服を着た黒い長髪の2m程の女がコレクターアイやミラーガールを片腕で軽々と振り回しては投げ飛ばし、壁や床に叩き付けている様が視界に入ってきた。

「み、ミラーガール! アイ!」「アッコ!」

 我武者羅に振り回され続け、痛め続けられている二人を目の当たりにし、メタルバードと大将は驚愕の面差しを浮かべては彼女達の惨状に目を奪われてた。

 すると、目の前で繰り広げられている惨状に目を奪われているその時、メタルバードと大将の足元から微弱な喘ぎ声が聞こえてきた。

「……た、助けて……」「助けて、痛い……」

 足元から自分達に掛けてくる喘ぎ声に気付いたメタルバード達は、足元の暗闇に懐中電灯を照らしてみた。すると其処には目を覆いたくなるほどの悲惨な惨状が見る者の視界に突き刺さった。

 灯りに照らされた床上には、頭から足元まで流血し身体の至る箇所に酷い痣が見受けられる程に痛め付けられ弱り切っていた森谷ヒヨリと薙切えりなの二人が虫の息でメタルバード達、駆け付けてきた者達に助けを求めていたのだ。

 メタルバード達は床上でのた打ち回る血塗れの二人を見て愕然としていると、手を伸ばして必死で助けを求めている二人が唐突に後ろへと引き摺られ始めた。二人の後方に灯りを向けると、ヒヨリとえりなの足を掴んでは引き寄せる女の姿が暗闇に映し出された。

 そして女は、引き寄せた森谷ヒヨリと薙切えりなの足を掴んだまま二人を前後に、互い違いに途轍もない怪力で振り回しながら二人の頭部を床へ幾度と無く叩き続け始めた。前後に振り回され、二人は前頭部と後頭部を交互に床に叩きつけられる度にその頭から夥しい程の血肉が床に飛散し、見るも無惨な状態へと益々悪化していく。

「…………………………」

 人間離れした怪力で同じHEADのヒロインを軽々と壁に投げ飛ばしただけでなく、二人の女子も片腕で床に叩き続けていく女の常識外れの暴力性に流石のメタルバードも言葉を失い立ち尽くしてしまう。

 だが、そんな失言し立ち尽くしてしまってるメタルバードを脇目に視認した参謀総長のジュピターキッドは、総長であるメタルバードに代わり聖龍隊の面々に指示を投げた。

「せ……聖龍隊! あの白服の女を取り押さえろ! ナースエンジェルを始めとする治癒能力者は女に血塗れにされた森谷ヒヨリと薙切えりなを救出し、即効で治療を開始! それに続けてミラーガール達の治療にも取り掛かれ!!」

 切羽詰った焦りに満ちた表情で指示を飛ばすジュピターキッドの命令に、聖龍隊は即座に動き出した。

「この女! 大人しくしろッ」

 キング・エンディミオンが堂本海斗と二人掛りで白服の女の両腕を取り押さえ、その間に他の聖龍隊士が女に振り回され頭部を床に何度も叩き付けられていた森谷ヒヨリと薙切えりなの二人を引き寄せて救出する。

 だが、その二人の治療を開始しようとナースエンジェルが駆け寄ろうとしたその時、エンディミオンと堂本海斗に取り押さえられていた女は尋常でない力で二人の男を振り払い、意図も簡単に自らの腕を振り解いてしまった。

「う、うわッ」「わあッ!」

 エンディミオンと海斗は簡単に振り払われ、遠方へと投げ飛ばされてしまう。

 二人が自分の腕から離れたのを視認した女は、救出されたばかりのヒヨリとえりなの許へと再び歩み寄っては、少女達の足を再び掴んでは力一杯に振り回し始めた。

「たっ、助けて……!」「いやぁ……!」

 悲痛な訴えを唱えるヒヨリとえりなの声も空しく、女は今度は横方向に二人を振り回しては自分に近付いて来ようとする者達にヒヨリとえりなを直撃させては簡単に近寄らせないようにする。

 そんな女の猛攻に対し、治療に駆け付けてきたナースエンジェルに振り回されるヒヨリとえりなが直撃しそうになった。だがしかし、ナースエンジェルは寸での所で振り回されてくる二人を身を仰け反らせて巧みに回避してみせる。

 アクロバティックな動作で女の猛攻を回避し続けたナースエンジェルは、暴れまわる女の動きを仲間達に止めてほしいと伝える。

「みんな! これじゃ今振り回されている二人の治療ができないわ! どんな手段でも良いから、この女性の動きを封じて!」

 このナースエンジェルからの要望を伝え聞いたジュピターキッドは、筋力に長けている3人の隊士に指示を告げた。

「トリコ! 金剛番長! それに剛力番長! 三人掛かりで、あの女を取り押さえるんだ! 君達の強力なら、いくらかは時間が稼げる!!」

「おうッ!」「筋は通すぜ!」「お任せくださいっ」

 トリコ/金剛番長/剛力番長の三人は、女の動きを瞬時に見極めて咄嗟に三人同時で飛び掛った。

「このッ」「ムッ!」「放しませんわッ」

 三人掛かりで取り押さえて、ようやく女は動きを止め掴んでいたヒヨリとえりなを手から離した。

 女が二人を離したのを確認して、聖龍隊が二人を急ぎ引き寄せると其処にナースエンジェルが駆け寄って治療を始める。

「もう大丈夫よ、今すぐ」

 と、ナースエンジェルが二人の治療に取り掛かろうとしたその時、彼女のスカートを何かが引っ張った。

 目を向けてみると皮膚が剥がれ落ち血が滲み出ている手でスカートを掴む顔中傷だらけの森谷ヒヨリがナースエンジェルにその顔を向けて弱々しい声で訴え掛けて来た。

「たずげて……いだいの、いだいヨ……ッ!」

 するとヒヨリに続いて、えりなも痣だらけの顔を向けて謎の女に痛め付けられて変に屈折してしまった指が目を引く右手で助けを求める様に、その右手を伸ばしては悲痛な喘ぎ声で訴える。

「だずげで、じにだくない……ごわいよ……っ!」

 この時の彼女は、普段は決して見せないであろう実に女々しく弱々しい表情と声、そして目には涙を浮かべてはナースエンジェルに救いを求めていた。

 度重なる苦痛で真の恐怖を感じた二人の救いを求める声を聞いて、ナースエンジェルは決意に満ちた表情に顔を一変させるとスグに二人の治療に専念する。

 一方で、謎の女に投げ飛ばされたミラーガール/キューティーハニー/鳳凰寺風/コレクターアイの許にHEADの面々が駆け付けて4人の怪我の具合を確認してきた。

「みんな大丈夫?」「す、スグに治療するね」

 気に掛けるマーキュリーに続き、4人の怪我を回復させようとするセーラームーンの声を耳にし、ミラーガールが駆け寄ってきてくれた仲間達に言う。

「わ、私達は大丈夫……それよりも、あの女の人をどうにかして止めないと。こ、これじゃ……新世代型の子供達にも危険が」

「子供達に?」

 ミラーガールの言葉にセーラーマーズが疑問視すると、キューティーハニーが痛みを堪えながらも回答する。

「あ、あの女……何故だかは分からないけど、どうも子供ばかりを狙っているみたいなの。現に、私達よりも後ろに居た新世代型の子供達に襲い掛かろうとしたから、私達が前に出て子供達を護ろうとしたんだけど……」

「け、結果は……見ての通り、惨敗よ」

 キューティーハニーの話に付け足す様にコレクターアイが口元を歪ませながら語る。

 更に鳳凰寺風が此処で興味深い事を話した。

「そ、それと……あの女性、どうも何らかの憎悪に駆られている様に私は感じられるのですが」

「憎悪ですって!?」

 風の言う憎悪に過敏に反応する真紅。

 確かに猛威を振るう女を見てみると、何か狂気染みた憎悪らしきオーラが漂っている様に感じられた。

 

 と、その時。謎の女は自分を取り押さえる常人以上の強力を秘めているトリコ/金剛番長/剛力番長を何と自力で振り払い、彼等を振り解いてしまった。

「そ、そんな……!」「!」「何ですって!」

 自力で自分達の押え込みを振り解いた女の怪力に驚愕するトリコ/金剛番長/剛力番長の三人。

 そして女は自身が解放されると即行で眼前の新世代型の子供達に迫り来た。

「う、うわあッ!」

 自分らに襲い掛かってくる凶暴な女に顔を引き攣らせて脅えきる子供達。

 この時、子供達に迫る女の視界に真鍋義久の姿が運悪く入り込んでしまった。女は視界に捕らえた真鍋に狙いを付けて迫っていく。

「う、うわぁ!」

 自分に猛進してくるのを視認した真鍋は恐怖の余り頭を抱えてはしゃがみ込んでしまう。

 だが、その時「真鍋くん!」そんな真鍋を気遣い彼を護るかのように、琴浦春香が全身を使って真鍋に覆い被さった。その瞬間。真鍋に覆い被さる琴浦春香の顔を捉えた女は彼女の目の前で急停止した。

「……え?」「……っ?」

 襲い掛かるとばかり思っていた女の突然の停止に恐怖で閉じていた瞼をそっと開いてみる琴浦と真鍋。

 二人が瞼を開くと視界に飛び込んできたのは、女の耳元まで裂けた口とつり上がった目という何とも奇怪な形相であった。

『!』『ッ!』

 眼前まで迫ってきた女の形相に驚愕する真鍋と琴浦、そして新世代型の子供達。

 だが奇怪な形相の女は琴浦の眼前まで迫っていたが、何故だか女はその異様な目付きで琴浦春香を捉えるなり石の様に固まって動かなくなった。

 突然、動きを止めた女に琴浦も真鍋も他の新世代型の子供等も唖然としていると、琴浦を見据える女の真横から先ほど女に痛め付けられ鬱憤が溜まっていた門脇将人が女に向かって自身の得物、劍神「[[rb:逐力 > オロチ]]」を振り翳しては女に斬りかかった。

「さっきは良くも……この[[rb:女 > アマ]]!!」

 怒号を上げながら女に斬りかかる将人。だが女は殺気に満ちている将人の攻撃を敏感に察知しては身を後ろへ仰け反らせるように下がってはかわしてみせる。

 そして振り下ろした瞬間、将人は完全に無防備となってしまい、女は躊躇する事無く将人の頭を強靭な握力で鷲掴みした。

「ッ!」

 頭を鷲掴みにされた瞬間、並々ならぬ握力で掴まれた将人の頭に激痛が走る。

 そして将人の頭を鷲掴みした女は、将人の後頭部を押さえ込んでは壁に思いっきり叩き付けた。

「ぐはッ」

 顔面を壁に激突され、苦痛に喘ぐ将人。そんな将人を目の当たりにして彼の従者ミヤビは悲鳴を上げる。

「ま、将人様ーー!」

 彼女の悲鳴が室内に空しく響く中、将人を壁に叩き付けた女は更に将人の顔面を壁に叩き付け、幾度と無く将人の顔を痛めつけて行く。

 何度も、何度も。将人の後頭部を掴んでは彼の顔面を力いっぱい壁に激しく叩きつけて行く女の凶行に誰もが絶句していた。そして将人を壁に叩きつけていく事、遂に壁に穴が開き将人の流血する頭頂部が壁の穴から突き出てしまった。

 壁に穴が開いたのに気付いた女は、将人の頭を鷲掴みし彼の血塗れの顔を視認すると弱り切っているのを確認したのか、力尽きた将人をそのまま床へ放り捨てた。女に放り捨てられた将人は頭から顔全体を砕かれた壁の白い粉に塗れ、頭頂部からは真紅の血を流出している上に鼻や口からは夥しい程の血を流し床を紅く染めて気絶していた。

「ま、将人様!!」

 床に放り捨てられた将人を目にし、ミヤビが彼に駆け寄ろうとすると、そんな彼女を察知した女が今度はミヤビに狙いを付けて彼女の首根っこを強靭な握力で掴み掛かった。

「きゃっ!」

 首根っこを掴まれ、取り押さえられたミヤビが悲鳴を上げると、女は無情にも首根っこを掴んだままミヤビを床に力いっぱい投げ付けた。

「っ!」

 悲鳴すら上げられない程、一瞬で床に投げ付けられたミヤビ。

 門脇将人に続きミヤビまでも痛め付けた女の凶行を阻止する為に、聖龍隊は一斉に猛威を振るう女を包囲し、女に飛び掛っては取り押さえに行った。

 だが不気味な女は飛び掛ってくる聖龍隊の名立たる隊士たちを意図も簡単にかわしては同時に手首や足首を掴んでは軽々と振り回し投げ飛ばしていってしまう。

「こ、この女! 細身の癖に異常なほど腕っ節が強いぞ!」

 女に飛び掛った瞬間、女に太い腕を掴まれそのまま振り回されては投げ飛ばされたトリコが、投げ飛ばされて激突した壁際で女の異常なまでの強さに懸念を促す。

 無論、聖龍隊士の誰よりも経験を積んでいる筈のHEADも次々に女に攻撃を繰り出していくが、女は簡単に身を仰け反らしてみせるなどして攻撃を回避すると同時に俊敏な動きで攻撃に転じて反撃してみせる。

「きゃあッ」「ああっ」

 HEADである龍咲海やミュウイチゴ等の女性隊士は悉く不気味な女に反撃され、意図も容易く投げ飛ばされ壁に叩き付けられてしまう。

 しかもその時、一瞬の隙を衝いて救出されていた血塗れの森谷ヒヨリと薙切えりなの足首を再び掴んでは捕らえ、二人を引き摺る様に自分の許へと引き寄せてしまう。

「ああ……」「あぅ……」

 微かな喘ぎ声で再び助けを求めるヒヨリとえりなの二人。だが女は二人を引き摺っては、そのまま回転しながら二人を床の上で引き摺り始めた。

 無惨にも床上で引き摺られ、床には二人の血が円を描く様に跡が残っていく。そして更に女の回転の速さが増していき、遂にはヒヨリとえりな二人の体が遠心力で宙に浮かんでは周囲の人々に激突させられていき武器の様に扱われてしまう始末。これでは女に近づく事も困難であった。

 

 一方で、女の異常なまでの残忍性と暴力性そして強靭さに驚き、思わず立ち尽くしてしまうメタルバードと大将。

 そんな中、大将以外の赤塚組は女に向けて幾度と無く銃火器を発砲していくが、女は銃弾がその身に着弾しても怯む事無く発砲してきた赤塚組に襲い掛かり、その凶暴性を発揮し続けていく。

 2m程の長身で白いボロボロの服を着衣した黒い長髪の、口元と目元が耳元まで異様に裂けている容姿。更にその女が平然と振るい続ける残忍性と暴力性を見て、メタルバードは遂に女の正体に気付いた。

「わ、分かったぞ! あの女は……!!」

 震える声で驚愕しながらも語り始めるメタルバードの言葉に、傍らの大将も新世代型達も耳を傾けた瞬間、メタルバードは女の正体を口から出した。

「あ、あの女は…………ひ、ひきこさん!!」

「ひきこさん!?」『!!』

 愕然とした蒼褪めた顔付きで言い放つメタルバードの言葉に驚愕する大将と新世代型たち。

 すると彼等と同じくメタルバードの放った「ひきこさん」と言う名を耳にしたジェイクが、銃撃で応戦し続けながらメタルバードに訊ねた。

「お、おい! 何なんだよ、そのひきこって女は……!」

 初めて耳にする名前に疑問に思うジェイクにメタルバードは、そのひきこさんと応戦し続ける彼と聖龍隊士達そして赤塚組の面々に新世代型達の前で詳細を語り始めた。

 

 雨の日に白いぼろぼろの着物を着て、人形のようなものを引きずっている女と出会う。

 よく見ると女の目はつり上がり、口は耳元まで裂けている。

 そして女が引きずっていたものは人形ではなく、小学生ほどの子供そのものだった。

 女は自分の姿を見た子供を捕らえて肉塊になるまで引きずり回し、決まった場所に連れて行き放置する。

 彼女は自分が受けた酷いいじめに対する恨みから、子供を捕まえては肉塊と化すまで引きずり回しているのだ、という異常なまでに恐ろしい都市伝説なのである。

 元は背が高く成績優秀で顔も可愛く心優しく先生からも可愛がられていた少女であったとされ、怪異化した原因は前述の「妬みによる他生徒からのいじめ」の他「両親の虐待」として語られるパターンもある。

 自ら、あるいは両親に軟禁されることにより「ひきこもり」になり、やがて怪異化し凶暴な怪人へと変貌されたとも云われる。

 一説ではひきこさんを目撃してしまうと、今度は自分が引きずられてしまうとされると云う諸説もある。

 以上が一般的な話だが、他にもいじめで引きこもりになり、その果てに遂には自殺してしまった息子の母親であり、死んだ息子の未練を晴らすためにいじめっ子を探し回り続け見つけた子供を引きずり回しているという説もある。こちらの説ではひきこさんが子供を引きずるのは息子がよくいじめっ子に引きずり回されていたからとされており、一部では自殺ではなく引きずられたせいで死んでしまったと云われている。

 

 そんな残忍かつ凶暴性の高い怪異ひきこさんは、今目の前で多くの同胞である聖龍隊士や赤塚組を尋常でない怪力でヒヨリとえりなの二人を振り回し、そして掴んでいた二人の足首を放してはヒヨリとえりなをそれぞれ聖龍隊のブラック☆スター、赤塚組のアツシに直撃させた。振り回され投げ飛ばされたヒヨリとえりなを直撃させられ、彼女等と共に倒れ込むブラック☆スターとアツシ。

 一方のひきこさんは苛烈な赤塚組の銃撃を一身に受けても尚、倒れる気配が無く果敢に駆け寄っては銃火器を構える赤塚組の幹部達を掴んでは投げ飛ばしたり引き摺ったりして深手を負わせていく。

 ひきこさんに投げ飛ばされ、はたまた引き摺られて血だらけの生傷だらけになる赤塚組の面々。だがその間にもジェイクが主にひきこさんの頭部を中心に銃撃しては攻撃していき、確実にひきこさんに損傷を与えていく。

 しかし銃弾を喰らっても怯まずに残忍な手口で次々と攻撃を仕掛けていく聖龍隊や赤塚組の面々を掴んでは、それこそヌイグルミの如く振り回したり引き摺ったりして相手を傷だらけの血塗れにしていった。

 耐える事無く俊敏な動きで駆け回っては相手を掴み掛かって残忍なまでに何度も殴打したり引き摺ったりしたりと猛威を振るい続ける怪奇ひきこさん。

 すると、ひきこさんは先ほど強靭な腕力で振り回していた森谷ヒヨリと薙切えりなに再び目を付けては、その内の一人である薙切えりなに狙いを絞る。

 そして最早動く事すら侭ならないえりなの胸ぐらを掴むと、彼女を左手で押え付けて反対側の右腕で力いっぱいえりなの顔面を殴り始めた。

「ぎゃあッ、ギャッ」

 ひきこさんに顔面を殴り付けられる度に苦痛な喘ぎ声を発するえりな。だがひきこさんの拳は更に激しさを増し、遂には両手で床に寝転ぶ姿勢のえりなの顔を思いっきり殴り始めた。

 幾度と顔面を殴られ続けて、えりなの顔は血塗れになると同時に酷く腫れ上がっていった。その顔は差し詰め、熟した赤いトマトの如く膨れ上がり美しかったえりなの顔立ちからかなり遠ざかっていた。

 

 そんな横暴の数々を働き続けるひきこさんの凶行を止めるべく、遂に恐怖で立ち尽くしていたメタルバードが直々に動いた。

「これ以上、好き勝手はさせねェぞ!!」

 メタルバードは薙切えりなを床に押し付け、幾度となく彼女を殴り続けるひきこさんに飛び掛り、そして自身の体を軟体化させてスライム状に肉体を変形させると同時にその体でひきこさんに絡み付き彼女の動きを封じようと試みる。

 しかしメタルバードに纏わり付かれたひきこさんは常人離れした怪力で強引に自身に纏わり付くメタルバードを引き剥がし、彼を捕まえては壁に向けて勢い良く投げ飛ばした。

「うわあッ!」

 引き剥がされた上に、意図も簡単に投げ飛ばされるメタルバードは、そのまま壁に激突し減り込んでしまう。

 するとメタルバードに続けと大将もひきこさんに向けて銃撃していきながら突進して行った。

「うおりゃああぁッ!!」

 雄叫びを上げながら発砲しつつ突進していく大将。だが、そんな突進してくる大将をも掴んでは遠心力を利用して軽々と投げ返してみせるひきこさん。

「うわあああッ!」

 ひきこさんに力いっぱい投げ返された大将は、メタルバードが減り込んでいる壁のスグ隣の壁に激突し手痛いしっぺ返しを味わう。

「あ、イテテテ……チクショーー、思った以上に力があるな。あの姉ちゃん」

 激突し朦朧とする頭を押えながら起き上がる大将。すると隣の壁に全身が減り込んでいたメタルバードも壁から抜け出しては大将に答え返すように語る。

「全くだな……イテテ。しっかし、どうにかしないと本当にコレはヤバイぜ大将」

 このままでは場に居る皆全員がひきこさんに惨殺されかねないと語り掛けるメタルバードの発言に返す言葉も思いつかず必死に知恵を搾り出そうと奮闘する大将。

 と。二人が思案を必死に模索している最中、ひきこさんは恐怖で脅え切っている新世代型の子供達を視界に捉えては狙いを付けてしまった。

 そして、ひきこさんは新世代型の子供等をジッと見据えると狙いを絞った猛獣の如く彼等に猛進してきた。

『きゃああ!!』

「み、みんな! 危ないッ」「リン子!」

「子供達には……手は出させない!」「み、美都先生!」

 猛進してくるひきこさんを目の前に絶叫する子供達を目の当たりにして、一児の母であり主婦であるイオリ・リン子とその夫イオリ・タケシ。更には生徒達を思って単身彼等とひきこさんの間に駆け込む美都玲奈に彼女を呼び止めようとする猿田学。子供達を護ろうと本能的に飛び出していってしまった二組の男女を目の前にし、HEADのセーラーマーズは戦闘で受けた痛みに喘ぎながらも飛び出す二組に声を掛ける。

「あ、危ない!」

 しかし夫婦と教師の二組は足を止める事無く、子供達を護ろうと彼等とひきこさんの間に割って入ってしまう。

 その時だった。子供達の前に飛び出し、か弱い命を護ろうとする二組の大人達の姿を目の当たりにしたミラーガールが、ひきこさんから受けた痛みで体を引き摺りながらも咄嗟に彼等の前に飛び出した。そして二組の大人たちと子供達を死守するかの如くミラー・シールドを前に突き出すと同時に呪文を言い放った。

「ミラー・ドーム・バリアー!」

 ミラーガールが呪文を叫んだ瞬間、彼女が前に突き出していた鏡の盾から蒼白い光が放出されると同時に、その光がミラーガールを始めとする彼女の後方にいる新世代型の子供達と大人二組に覆い被さり、蒼白い光のドームに皆が包まれた。

 そして猛進してきたひきこさんが、その蒼白い光の壁に追突するとまるで拒絶し合うかのようにひきこさんの攻撃を軽くとはいえ弾き返してしまう。

 光の壁に触れるだけでも弾かれてしまうひきこさんは豪く困惑したのか、拳で何度も壁を殴り付けては強引に突破しようと試みる。しかしミラーガールが展開したミラー・ドーム・バリアーを打ち破る事はできなかった。

 と。ひきこさんがミラー・ドーム・バリアーを何度も殴り続けている、その時だった。

 突然ドーム状の光の壁を殴り続けていた、ひきこさんの手の動きが止まった。これに対して光の壁の内側に居る、バリアーを展開していたミラーガールや彼女の発生させたバリアーに護られている新世代型達も動揺した。何ゆえ、ひきこさんはミラーガール達を護ってる光の壁への攻撃を止めたのか、バリアーを放出し展開しているミラーガールもそのバリアーに護られている新世代型達も状況が呑み込めなかった。

 そして次の瞬間「う……うあああアアアアアアアアアァァァ!!」バリアーへの攻撃を止めたひきこさんが突如、謎の奇声を上げ錯乱し始めた。

「な、何なの!?」

 突如として奇声を上げては錯乱し、烈しく髪を振り乱すひきこさんの行動にミラーガールはもちろん新世代型達や他の聖龍隊に赤塚組の面々も驚愕し困惑した。

 何故ひきこさんは突如として奇声を上げては錯乱したのか。その後景を目の当たりにしていたメタルバードはある事に気付いた。それはミラーガールが、自分や新世代型達を護る為に展開したバリアーであった。

 ミラーガールの発生させた光の半球状の壁は鏡魔法による魔法エネルギーで生成されている為か、光の壁は鏡の様にしっかりと対象物を反映していたのである。無論、それは鏡の壁を幾度と無く殴り続けていたひきこさんの異様な形相をも反映させていたのだ。

 この事実にメタルバードは都市伝説ひきこさんに関わる一つの噂を思い返した。

 ひきこさんは自分の顔の醜さゆえ、鏡を見る事を最も嫌い、鏡を見た途端に退散するほど鏡を嫌がっていると云う話である。

 この話を思い出してメタルバードはミラー・バリアーを発生させているミラーガールに言い放った。

「ハッ! ミラーガール! そのひきこさんは自分の顔の醜さ故に、鏡を見る事を非常に嫌がっている! これを利用するんだ」

 メタルバードはミラーガールに彼女が使用する鏡魔法による鏡の様な光の壁で、ひきこさんを牽制しつつ新世代型達を護りながら応戦しようと提案したのだ。

 一方のひきこさんは未だにミラーガールが発生させたミラー・ドール・バリアーに映った自分の顔を目の当たりにして錯乱状態に陥っていた。

「うわあああああああああああああああああああぁぁぁ」

 未だに異常なまでの奇声を上げながら錯乱し、混乱に喘ぐひきこさん。

 混乱に喘ぎ続けるひきこさんに対してメタルバードは聖龍隊の隊士達に指示を告げた。

「テメェら! ひきこさんが混乱している今がチャンスだ! 全員で取り押さえるなりして、ひきこさんを倒すんだ!」

 メタルバードの指示に聖龍隊士たちは動き出した。

「押さえろ!」「このッ」

 聖龍隊の腕っ節の男達は一斉にひきこさんに飛び掛った。

 上に圧し掛かる形で、ひきこさんの動きを完全に封じた聖龍隊の男隊士たち。だが、ひきこさんは自分の体を押さえ付けている屈強な男達を自力で撥ね返し、一人一人腕や足を掴んでは常人離れの怪力で投げ飛ばしていった。

「うわッ!」「ぐはッ!」

 ひきこさんは軽々と怪力で日ノ原革やトリコを投げ返し壁へと激突させてみせる。

 そんな暴走し続けるひきこさんを制止させる為にリナリー・リーが攻撃を仕掛ける。

「はぁッ!」

 リナリーはイノセンスで結晶型と云われる装備、[[rb:黒い靴 > ダークブーツ]]での強烈な蹴りを、ひきこさん目掛けて放った。

 リナリーの空中からの走り跳び蹴りは見事に、ひきこさんに直撃し彼女の足元をふらつかせる。

 しかしリナリーの強烈なキックを喰らっても尚、ひきこさんはその戦意と敵意を静める事無く、蹴りを放ったリナリーに悍ましい形相で睨みを利かせながら迫ってきた。

「うあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」

 暗闇に支配される空間を激しく響かせる程の奇声を上げながら両手を突き出してリナリーに襲い掛かろうとするひきこさん。

 だが、その時「はァッ!」リナリーに襲い掛かろうとしたひきこさんにアレン・ウォーカーが、仲間のリナリーを護らんと攻撃を仕掛けた。アレンの奇形の左腕の甲に埋まっている十字架が反応し、発動と同時に彼の左腕を白く巨大な鉤爪へ変質させ、アレンはその左腕でリナリーに迫るひきこさんを攻撃した。

 しかし、ひきこさんはアレンの攻撃を寸での所で回避し、ひきこさんがかわした事でアレンの鉤爪による攻撃は床に直撃し、床を大破させた。

 一方のひきこさんは、自分に攻撃を仕掛けてくる数多の聖龍隊や赤塚組の面々を前にして、彼に対して臨戦態勢を構え始めた。

 リナリー、そしてアレンと攻撃を続けていく聖龍隊の面々に、総長メタルバードは傷付き苦痛に喘いでは戦意を欠き始めた聖龍隊を奮い立たせるかの如く言い放った。

「テメェら! 俺たち聖龍隊がタダちょっと痛め付けられただけで黙って見ているだけとは情けねェぜ! 俺らHEADも加勢し出すから、お前等も抜かりなく目の前の敵だけに集中して応戦しやがれッ!!」

 このメタルバードの威勢のよい啖呵に、ひきこさんとの戦闘で傷付いた聖龍隊の面々は奮い上がった。

「いっ、一斉に攻撃だ! いくら強靭な怪力を持っているとはいえ、立派な生体兵器という生命体だ。打撃に斬撃、さらには銃撃など様々な攻撃を繰り返し当て続ければ必ず倒れる! 諦めてはいけない!!」

 更に参謀総長のジュピターキッドの発言にも再び闘志を奮い立たせた聖龍隊に、勇気を分けてもらった赤塚組の面々も躍起になり始めた。

「ヨッシャッ! 俺達も此処いらで反撃してやろうじゃねェか!!」

『オウッ!』

 頭領 大将の一声に、赤塚組の幹部達は挙って返答した。

 更に、これらの反応はミラーガールに護られている立場の新世代型達にも熱い感情として伝わってきた。

「我々も黙認していては成らない! 今、目の前に立ちはだかる敵を倒さず、いつ倒す! 今こそ名立たる英雄達と共に攻め立てるぞ諸君!!」

「はい!」

「我等、本能字学園生徒会四天王の実力を見せ付けましょう!」

「有無ッ!」

「あの様な異様の女、我々が総力を挙げれば……しかも聖龍隊の様な名誉ある方々と力を合わせれば、必ず倒せる筈です!」

 本能字学園を束ねる[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の力強い掛け声に、[[rb:蛇崩乃音>じゃくずれののん]]/[[rb:猿投山渦>さなげやまうず]]/[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]/[[rb:犬牟田宝火 >いぬむたほうか]]の4人も賛同し、参戦する覚悟を固める。

 四天王達の戦意に感化され、纏流子も逃げずに怪異であるひきこさんに立ち向かう決意を示す。

「あっ、アタイだってヤッてやる! おい鮮血、行くぞ!」

(おう、そうこなくっちゃな!)

 流子は片太刀バサミを構えて自らが着衣している鮮血に呼び掛ける。そんな勢いに乗る流子に鮮血も活気が立ってきていた。

 更に流子や皐月達の心境の変化を目の当たりにした栗山未来と名瀬兄妹の面々も、眼前の脅威であるひきこさんと真っ向から対峙する事を決心する。

「確かに……此処で、あの女性に遣られてしまえば脱出なんて出来ない。覚悟を決めなきゃ!」

 未来は流子や皐月たちと同じく、ひきこさんに向けて自らの血を凝固させた朱色の刃を構えて応戦する意志を剥き出しにした。

 流子や皐月達、更には未来たちも加勢する構えを示して勢いを付けていく一同。しかし肝心のひきこさんは、そんな戦意を向上していく皆々を前にしても尚その虚ろで耳元まで裂けた瞳で自分に戦意を向けてくる聖龍隊や赤塚組、そして新世代型達を見据える。

 そして、ひきこさんは見るからに自分に対して敵意と戦意を向ける一行へと進攻した。

「うあああああああああああああああああああああああ」

 耳鳴りしそうなほど甲高い奇声を上げながら両手を構えて迫ってくるひきこさんに対して聖龍隊を始めとする一団は応戦を開始する。

「攻撃しろッ!」

 総長メタルバードの掛け声の下、まず聖龍隊に赤塚組そしてジェイクらは、ひきこさんに目掛けて無数の弾幕による銃撃を開始した。

 弾幕による弾丸を一身に浴びるひきこさん。しかし彼女は怯む様子も無く、銃撃を仕掛けてきた一団に突進してきた。其処に「次は格闘タイプの連中! 突進してくるひきこさんに応戦開始!」とメタルバードが接近戦を得意とする格闘タイプの聖龍隊士に指示を下すと、トリコや金剛番長などの戦士が突進してくるひきこさんの前へと突っ込んでいく。

「釘パンチ!」「ダブルハンマー!」

 トリコの釘パンチ、金剛番長のダブルハンマーが直撃する寸前、ひきこさんは身を後ろへと反らして二人の攻撃を容易くかわして見せる。

 と、其処に。今度はマカ=アルバーンと六道りんねの二人が得物である大鎌を振り翳しては、ひきこさんに斬りかかった。だがこれも寸での所でかわされ、微かにひきこさんの服に斬撃が掠り少しばかり切り裂いただけに終わった。

 と、今度は赤塚組がマカとりんねの攻撃をかわした直後のひきこさんが止まった瞬間を狙い撃ち、ショットガンや機関銃などの銃火器を有りっ丈ブッ放す。赤塚組の銃撃を浴びて、ひきこさんの白い服は微かながらに彼女の出血で紅く染まっていく。

 だが、ひきこさんは自分に容赦なく攻撃してくる面々に明らかな憎悪を向けては荒れた両腕で掴み掛かって来た。

「ウッ!」「アツシ!」

 この時、運悪く銃撃していた内の一人アツシがひきこさんに捕まり、両手で首を強く締め付け上げられた。

 大将や赤塚組の面々の眼前で首を締め上げられもがき続けるアツシ。と、此処で同じ赤塚組の山崎貴史がアツシを掴み上げるひきこさんに捨て身のタックルを喰らわす。

「ッ!」「うッ」

 山崎の捨て身のタックルを喰らったひきこさんは一瞬怯んでは掴んでたアツシを放してしまい、解放されたアツシは床へ投げ出された。

 アツシを手放した瞬間、赤塚組は一斉にひきこさんへ銃撃をこれでもかと連射し、苛烈な攻撃を仕掛けていく。

「オラオラッ! どんどんブッ放せ!! おいミズキ! テメェも光線銃で、あの女を穴だらけにしてやんな!」

「了解」

 頭領 大将の指示にミズキは落ち着いた風貌で冷静に右腕を機械化し、その先端に強力なエネルギーを貯蓄していく。

 そしてミズキは一気に貯蓄したエネルギーを一筋のレーザー砲撃として放ち、放たれた光線は一直線にひきこさんの体を貫通する。

 強力なエネルギーによる砲撃を直に喰らったひきこさん。だが、その身には途方も無いダメージが蓄積されている筈なのだが、ひきこさんは未だに自分を攻撃してくる周囲の者達に憎悪に煮えたぎった瞳で睨みつけて来ていた。

「思ったよりも、案外タフだぞ。こいつ」

 想像以上の体力を秘めていたひきこさんの脅威に愕然とするメタルバード。

 と。幾度無く浴びてきた攻撃にふら付きながらも態勢を立て直そうとするひきこさんの様子を見て、HEADの魔法騎士の三人が一斉に同時にひきこさんへ剣を振り付けて行った。

 光/海/風の三人の剣で連続で斬り付けられるひきこさん。更に其処へ今度はブラック☆スターが妖刀に変身した椿を手に、自らもひきこさんを斬り付けて行った。

 魔法騎士の三人にブラック☆スターの斬撃を喰らって、怯んだのか背中を大きく後ろへ反らすひきこさん。すると身を反らし動きを止めているひきこさんに、[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]が纏流子と傘下の[[rb:猿投山渦>さなげやまうず]]を引き連れてひきこさんに特攻を仕掛ける。

「行くぞッ、私に続け!」「いっちょ派手に切り裂いてやるか!」

 二人に指示を告げる様に特攻していく[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の後ろから纏流子と[[rb:猿投山渦>さなげやまうず]]の二人もひきこさんへ斬りに行く。

 そして突風の如き俊敏な速さで駆け抜ける三人は、長身な為にがら空きであるひきこさんの胴体に狙いを絞っては其処を斬り付けた。

「ぐおおッ」

 三人の斬撃を胴体に浴びて苦痛に喘いだのか唸り声を上げるひきこさん。だが、ひきこさんが苦痛に喘いでいる最中、更に一行は攻撃を仕掛けていく。

 ひきこさんが苦痛で斬られた箇所を思わず手で押さえている隙に、名瀬兄妹が得意の空間術で一時的にひきこさん動きを封じると二人は栗山未来に言い放った。

「栗山さん、今よ!」「今の内に早くッ」「はいっ」

 美月と博臣の名瀬兄妹に言われて未来はすかさず右手から放出した自らの血で形成した刃で、ひきこさんの後ろから背中を一突きした。

「ぐおッ」

 背中を刃渡り60cmもの刃で貫かれたひきこさんは思わず悶絶する。

 そして余りの激痛か、ひきこさんは自らの背中に手を回し、背中を突き刺した栗山未来の手を掴み捕らえる。そして一気に全力で未来を前方へ振り回すと、そのまま彼女を回し投げた。

「う、うわぁ!」

 物凄い力で片手を掴まれ、挙句に前へと振り回されそのまま投げ飛ばされた栗山未来は成す術も無く振り飛ばされてしまう。

 と、そんな栗山未来を聖龍隊の隊士 卑怯番長が受け止める。

「ふぅ。君、大丈夫かい」「あ……はい」

 ハンチング帽を被り黒い仮面を付けている卑怯番長に危ない所を救われ、未来は唖然としつつも卑怯番長に言葉を返す。

 

 一方で聖龍隊や赤塚組、更にはジェイクの銃撃や新世代型の苛烈な攻撃を浴び続けるひきこさんは未だ倒れる気配も無く、その猛威を振るい続ける。

「なかなか倒れないな、あのひきこさんって奴……」「ああ、まったくだ」

 メタルバードと大将は、ひきこさんに向けて苛烈な攻撃を仕掛け続けるが、そのひきこさんの体力の高さに異常なまでに驚かされていた。

 既にひきこさんは、その着衣している白いボロボロの服を自らの血で所々赤く染めているにも関わらず、それこそ何かに取り憑かれたかの様に異常なまでの敵愾心を周囲の猛者達に向け続ける。

「ひ、怯むな! 彼女は確実にダメージが蓄積されている状態だ! このまま攻撃の手を緩めるな」

 参謀総長のジュピターキッドの指示により、聖龍隊は重度のダメージが蓄積されている筈であるひきこさんに再度攻撃を仕掛けていく。

 鋭い切味の斬撃、砲撃で暗闇に光る一筋の閃光、接近戦での強烈な打撃、更には多種多様な自然系の能力でひきこさんを圧倒していく聖龍隊。

 そんな聖龍隊の苛烈極まる攻撃を浴びて、ひきこさんの身は次第に一目見ても分かるほどの損傷を受けていた。しかし、やはりひきこさんが倒れる事はなかった。

 ひきこさんは幾度とない攻撃に晒されて完全に自我を失った狂人の様に目の色を一変させて迫ってきた。

 黒く湿った髪を前に垂れ下ろし、異様な気迫で駆け寄ってくるひきこさんに聖龍隊や赤塚組は脅えつつも果敢に攻撃していく。

 だが、ひきこさんはその2mの長身と尋常でない怪力でほぼ真上から両腕を振り上げては、強靭な腕力で両拳を振り下ろし相手の頭部に強烈な一撃を浴びせた。

「ぐッ!」

 頭の天辺に強烈な一撃を浴びせられたアラジンは、余りの激痛に頭を押さえ込んではその場で蹲ってしまう。

 しかし、ひきこさんの猛攻は止まる事を知らず、長身と怪力を活かした攻撃を繰り出していく。

 右腕を横へと振り翳すと、一気に前へ振り回しては相手の頭部側面に強烈な打撃を放ち。更には自分より遥かに背丈の短い者に対しては、その相手の頭を両手で挟み込む様に掴んでは強靭な握力で頭蓋骨に直接激しい痛みを感じさせる。

 そして相手に一時の激しい猛攻や激痛を与えると、ひきこさんはその相手を放り投げては次の標的に攻撃の的を絞りジワジワと迫るのだった。

 ひきこさんの激化していく戦意に戸惑っていたメタルバードは、先ほどのひきこさんの事を思い出して即行でミラーガールに指示を飛ばした。

「ミラーガール! 新世代型の警護は一旦止めて、ひきこさんの前に出ろ! そしてひきこさんの目の前にミラー・ウォールを展開させるんだ!」

「わ、分かった」

 ミラーガールはメタルバードの指示の内容に戸惑いながらも、新世代型達を護っていたミラー・ドーム・バリアーを解除し消滅させ、直行でひきこさんの前へと飛び出る。そしてミラーガールはひきこさんの前で鏡の壁ミラー・ウォールを発動させた。

 目の前に立ちはだかるミラー・ウォールにひきこさんは間髪入れず強靭な拳で殴り付け叩き壊しに入る。だが、ミラー・ウォールを破壊しようとするひきこさんは鏡の壁に反映される自分に気付いては動きをピタリと止めた。

 鏡の壁に映し出される自分の醜い顔を目の当たりにし、ひきこさんは激しい拒絶反応を起こしては再び錯乱してしまう。

「うああああああああああああああああああああああああ」

 受け入れたくない自分の醜い顔を目の当たりにし、拒絶するひきこさんは錯乱しながらも自分の顔が映る鏡の壁を更に強く殴り付けて行く。物理攻撃に弱いミラーガールの防御術であるミラー・ウォールを連続で殴り付けられて行き、次第に鏡の壁にヒビが入り後もう少しで破壊される寸前まで至った。

 自分を唯一護っているミラー・ウォールが次第に破壊されていき、恐怖で顔を引き攣らせるミラーガール。

 と。ミラーガールの繰り出す鏡の壁が次第に破壊されていく最中、その鏡の壁に幾度と無く殴り付けて行くひきこさんにメタルバードが自身の体を軟体化させて、ひきこさんの上半身に纏わり付いた。

 頭から上半身を丸ごとスライムの様に軟体化した肉体で締め付けられ動きを封じられるひきこさんに、纏わり付いているメタルバードはひきこさんの動きを封じつつ彼女の骨格の状態を念入りに調べていく。

 そして「……うむ、やっぱな。いくら凶暴で強くても、骨格は人間と全くおんなじか」と、ひきこさんの骨格や関節が人間と同じ構造である事を認識したメタルバードは次の瞬間、皆の目の前で背筋が凍る程の一手をひきこさんに仕掛けた。

「へへ、皆さん。少しエグイようだが、此処でいっちょ終わらせますからショッキングなシーンは御勘弁」

 メタルバードが周囲の皆にそう言った次の瞬間、ひきこさんの体に纏わり付いていたメタルバードは、ひきこさんの首の辺りの軟体化した部分を変形させる。

 一方のひきこさんはメタルバードに何かされているのを、体を激しく揺さぶってはメタルバードを引き離そうと抗い続ける。

 だが、ひきこさんの抵抗を受けても尚メタルバードは離れようとはせず、更にひきこさんの身体に圧力を懸けた。

 そして ゴキッ 何とも不気味で重みのある音が鳴り響いた。

 異様な音が軟体化したメタルバードに纏わり付かれたひきこさんから生じた瞬間、ひきこさんは糸が切れた人形の如く床に膝を着き、そして前のめりに倒れ込んでしまった。

『!』突如として倒れては動かなくなったひきこさんを目の当たりにして、一同は何がどうなっているのか理解できずに驚愕しつつ激しく困惑した。

 そして前のめりに倒れ込んだひきこさんの上半身にスライム状の肉体で纏わり付いていたメタルバードが離れては、メタルバードは元の怪獣ギャオスに酷似してる普段の姿へと戻ってみせる。

「ふぅ、やっと倒したか」

 額を拭う素振りで床に寝転がるひきこさんを見下ろすメタルバードに、状況を把握できない大将がメタルバードに話し掛ける。

「お、おいバーンズ。お前、一体なにを……」

 大将がメタルバードに、彼がひきこさんに何をしたのか問い質すとメタルバードは視線でひきこさんの首元を差した。大将はメタルバードの視線を追ってひきこさんの首元に目を向けてみると、ひきこさんの身に起きた異常に気付いた。

「こっ、これは……!!」

 大将が目を向けてみると、その先のひきこさんの首は異様な形に折れていた。

 実はメタルバードは自身の肉体を軟体化させては、ひきこさんの上半身に纏わり付いた時に彼女の首の骨を軟体化させた肉体で器用にへし折っていたのだった。ミラーガールにひきこさんの前でミラー・ウォールを発動させたのも、ひきこさんが過剰に拒絶反応を示す自らの変わり果てた顔と対面させて混乱した瞬間に飛び付いて纏わり付く策だったのである。

 強烈な握力と異様なまでの長身、そして残忍で凶暴性の高いひきこさんであったが、原型である人間と全く同じ骨格をしていた為、簡単に首の骨を折られてしまったのである。

 かくして一行は、メタルバードの立てた策とそれに便乗したミラーガールの術で見事ひきこさんという凶暴かつ強力な怪異を撃退したのだった。

 

 一行は真っ先に、ひきこさんに残忍なまでの暴力的な攻撃を浴びせられ見るも無惨な重傷を負った聖龍隊の門脇将人、そして新世代型の四宮小次郎/森谷ヒヨリ/薙切えりなら4名の傷の治療を集中的に行った。

 誰もが手足だけでなく顔にまで惨いまでの殴打の痕が見られ、傷と汚れと血で全身が酷い容姿へと変わり果てていた。

「おい! 大丈夫か、おい」

 メタルバードが同じ聖龍隊の門脇将人や新世代型の面々に呼び掛けるものの、彼等は酷く体を痛め付けられたのか意識が朦朧とし言葉を発する事も無かった。

 聖龍隊や赤塚組、そして新世代型の面々はひきこさんに痛め付けられ酷い惨状に成り果てた4人の痛々しい姿を目の当たりにして言葉を失っていた。

 4人の姿、それは辛うじて原型を留めている物の、その姿形は肉の塊に酷似していた。二次元人らしく整った顔立ちの4人であったが、ひきこさんにより激しく顔面を集中的に殴打され酷く痛め付けられた4人の顔は腫れ上がり、かつての面影すら感じられないほど顔が変形していた。

「え、えりな様……」「森谷さん……」

 赤く腫れ上がった二人の惨状を目の当たりにして、気に病む[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]と琴浦春香。

「おい四宮! 返事をしろ、しっかりするんだ四宮!」「………………」

 未だ意識が朦朧とする四宮小次郎に声を掛け続ける堂島銀。しかし当の四宮は意識が朦朧とし反応が返ってくる事はなかった。

「将人! 将人! しっかりしなさい!」「将人様……!」

 戦闘の最中、ひきこさんに顔面を壁に何度も叩き付けられ激しく痛め付けられた門脇将人に、直属の上官であるルーキーズ総部隊長のミラールと将人の従者ミヤビが声をかける。だが将人は顔面を酷く損傷し、頭や鼻からは大量の血が流れ、そして歯茎からも夥しい出血が生じていた。

 と。其処にミラーガールを始めとするナースエンジェルにキューティーハニー、セーラームーンに鳳凰寺風ら治癒能力を持っているHEADのヒロイン達が重傷を負い意識を失っている4人の治療を始める。

「みんな、ちょっと怪我人から離れて」

 ミラーガールの一声に、各々の怪我人に寄り添っていた面々が離れるとミラーガールはミラー・シールドを前に構え上げては、盾から虹色の光を放出し、その光が4人の怪我人を覆う。更に其処へミラーガールが展開するミラー・ヒーリング・フラッシュに向けて他の治癒能力者がそれぞれの治癒効果のある技のエネルギーを、ミラーガールのミラー・ヒーリング・フラッシュに直射していった。するとミラーガールは更にミラー・プレイ・デザイアーで他の治癒能力者の治癒能力を更に高めていき、一気に向上した治癒能力で重度の傷を負っていた4人の傷は見る見る内に消えていった。

 そしてミラーガールを筆頭とした5人のヒロインの向上した治癒能力を受けて傷が癒えた4人の重傷者たちは失っていた意識を取り戻し、目を開けた。

「えりな様!」

 目を覚ました薙切えりなに秘書である[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]が駆け寄る。

「森谷さん!」「森谷!」「大丈夫なの?」

「す、凄いや。見た目的には完全に傷が消えてる……!」

 目覚めた森谷ヒヨリに駆け寄る琴浦春香に真鍋義久、そして御舟百合子に戸室大智。だが大智の方はミラーガール達が見せた治癒能力の高さに非常に感銘を受けていた。

「四宮、平気か!」「うぅ……」

 一方目覚めた四宮小次郎に強く呼び掛けていた堂島銀の呼び掛けに、当の四宮は未だ体に残っている痛感に頭を押さえながら体を起き上がらせる。

「将人、しっかりなさい!」「将人様……うっ」

 此方では目を覚ました門脇将人に総部隊長のミラールが呼び掛ける一方で、将人の従者であるミヤビは将人が無事に目を覚ました事に思わず感極まり涙ぐんでしまう。

 そして目覚めた4人は、それぞれ立ち上がっては聖龍隊の面々に顔を向けた。

「わ、私は一体……」「うっ、まだ頭が痛い……」

 激しく体を痛め付けられた薙切えりなと森谷ヒヨリは、未だ肉体に残っている痛みに顔を歪ませていた。そんな二人にメタルバードが訳を話しつつ、この先の治療された者達に共通する通告を伝える。

「お前達はみんな、暗闇から襲い掛かってきた怪異ひきこさんに体を滅茶苦茶に痛め付けられたんだ。体の傷とかは何とかミラーガール達の能力で治ったが、まだ痛みが残ってる。4人とも、此処から出たら一応は精密検査を受けた方が良いな。見た目的に治っていても、実際は骨とか内臓にダメージが残っていて、それが原因で致命傷になる事も有り得るからな」

 メタルバードが4人に事情を話し終えると、薙切えりなが普段は決して人前には見せないであろう不安そうな面持ちでメタルバードに話し返してきた。

「あ、あの……」

「なんだ?」

「そ、その…………私の右腕の痛みは、その……消えますよね」

「?」

「だ、だから……このまま、包丁も持てなくなってしまわないかと。そう訊ねているんですの……!」

 一流の料理人を目指している薙切えりなの不安げな面持ちでの問い掛けを目の当たりにして、メタルバードは普段の彼女からは余り見られない表情を目の当たりにして(へぇ、結構カワイイ所もあるじゃねェか。このお嬢様は)と内心えりなの不安げな表情から感じる彼女の可愛さを思いながらも、彼女の問い掛けに答えるのだった。

「まぁ、アッコやセーラームーン達の治癒能力で大体は治っていると思うが、もしかしたら骨の異常までは完治していない可能性も考えられる。心配なら此処から出たらスグに念入りな診察を受けさせてやるから安心しろよ。お嬢様」

「は、はい……」メタルバードの答え返しを聞き、えりなは唖然としつつも内心落ち着きを取り戻した。

 一方でメタルバードは、先ほどから目覚めてスグに自分の口内を気にしてか口の中をモゴモゴとする将人に気付いて彼に訊ね掛ける。

「おい将人。さっきから口ン中弄っているけど、どうしたんだ?」

 メタルバードが訊くと、将人は以前から歯茎に差し込んでいる8本の差し歯と共に4本の歯を口の中から吐き出した。

「お、お前! それ……」

 メタルバードが驚いていると、将人は呆然とした様子で語り始めた。

「ええ。以前、修司さんに殴られて折られた歯に続いて、さっきから顔を集中的に攻撃されたのか新しく別に4本の歯が抜けたみたいで……しかも4本とも前歯で目立つ所」

 ほぼ放心状態で語り明かしていく将人の心境を察してか、メタルバードも同じルーキーズに周囲の面々も唖然と言葉を失くす。

 この状況で将人は放心状態で更に語った。

「はは、また差し歯、歯医者で作らなきゃな……」

 だが、これに対してメタルバードが放心状態の将人に追討ちの如き言葉を告げてしまう。

「将人。お前にはかなり酷だが……以前の8本に今回の4本、計12本も歯が抜けちゃ、差し歯じゃ間に合わない。入れ歯の方が良いって、医者から言われるのは確実だぞ」

「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ」

 メタルバードの発言に将人の心は完全に歯と同様に折れ、若くして入れ歯の人生に言葉にならない衝撃を受けては滝の様な涙を延々と流す。

 

 と。皆がそれぞれ無事に? 目を覚ました4人の重傷者を前に話し合っている最中、室内を探索していた赤塚組の海野なるが叫んだ。

「大将! それにメタルバードも! こっちに来て」

 なるに呼ばれた大将とメタルバードが駆け寄ると、なるは二人に部屋の一角に置かれていた机上に有った一つの書物を差し出した。

 メタルバードと大将がその書物を開いて中身を拝見してみると、其処には衝撃の情報が記載されていた。

「こ、これは……!!」「バーンズ、それに大将。それって何?」

 驚き愕然としているメタルバードと大将にミラーガールが歩み寄り訊ねると、メタルバードはミラーガールにも書物を差し出して言った。

「見てみろよ」

 メタルバードに言われ、彼から受け取った書物に目を通すミラーガール。すると書物の内容を見てミラーガールも愕然とした。

「ば、バーンズ……これ!」

「ああ。この研究施設で造られた生体兵器の一体……ひきこさんに関する情報だ」

 何と部屋の一角に置かれていた机の上に何気なく有った書物は、今自分達が居る研究施設で研究/開発され造り出された生体兵器の一体である、先ほど皆が総力を挙げて辛うじて倒した怪異ひきこさんに関する研究資料だった。

 やはり、ひきこさんはトンカラトンやアクロバティックサラサラ、更には蟲狼などといった日本の都市伝説をモチーフに造り上げられた一種の生体兵器であったのだ。

 驚き慄くメタルバードや大将、そしてミラーガールに続いて他の聖龍隊士や赤塚組に新世代型達も挙って資料を回し見る。其処には都市伝説で語られるひきこさんの噂の発祥と、その噂を基に造り出された生体兵器としてのひきこさんの実情が克明に記されていた。

 

 

 日本都市伝説 ひきこさんデータファイル

 雨の日に白いぼろぼろの着物を着て、人形のようなものを引きずっている女と出会う。

 よく見ると女の目はつり上がり、口は耳元まで裂けている。

 そして女が引きずっていたものは人形ではなく、小学生ほどの子供そのものだった。

 女は自分の姿を見た子供を捕らえて肉塊になるまで引きずり回し、決まった場所に連れて行き放置する。

 彼女は自分が受けた酷いいじめに対する恨みから、子供を捕まえては肉塊と化すまで引きずり回しているのだ、というもの。

 元は背が高く成績優秀で顔も可愛く心優しく先生からも可愛がられていた少女であったとされ、怪異化した原因は前述の「妬みによる他生徒からのいじめ」の他「両親の虐待」として語られるパターンもある。

 自ら、あるいは両親に軟禁されることにより「ひきこもり」になり、やがて怪異化したとされる。引き摺り殺した子供たちを自宅にコレクションしているともされる。

 一説ではひきこさんを目撃してしまうと、今度は自分が引きずられてしまうとされる所もある。

 また、ひきこさんの本名は「森妃姫子(もりひきこ)」であるとされる。これは「引き子→ひきこ」という読み替え、さらに姓名を逆にすると『ひきこもり』の連鎖で成立したとされる。

 この都市伝説としての発生の背景には「ひきこもり」に対する偏見と社会問題が反映されていると思われる。

 以上が一般的だが、他にもいじめで引きこもりになり果て遂には自殺してしまった息子の母親であり、死んだ息子の未練を晴らすためにいじめっ子を探し回り続け見つけた子供を引きずり回しているという説もある。こちらの説ではひきこさんが子供を引きずるのは息子がよくいじめっ子に引きずり回されていたからとされており、一部では自殺ではなく引きずられたせいで死んだとする場合もある。

 

 我々は、以上の都市伝説による話をベースに生体兵器ひきこさんの製造に取り掛かった。

 先ずは収集した[[rb:異常者 > ヒール]]の中から適材と見受けた女性の被験者を実験台に、その理性を失わせ、欠いた理性の代わりに異常なまでの残忍性と凶暴性を精神に刷り込ませる事に成功する。これにより、生体兵器としてのひきこさんの攻撃性は想像以上に向上した。

 だが、余りにも都市伝説のひきこさんを意識して改造していった為か、本来のひきこさん同様の特徴も発生してしまった。

 それは本来のひきこさんの回避方法に基づく特徴である。

 ひきこさんに対する回避方法

・残忍性・暴力性の高い怪異だが、いじめられた子供と同じ名前の子は襲わない。

 また、いじめられっ子も襲われないという。

・自分の顔の醜さゆえ、鏡を見ることも嫌うので、出会ったら鏡を見せれば激しく戸惑ってしまう。

・もし「私の顔は醜いか」と尋ねてきたら、「引っ張るぞ!引っ張るぞ!」と叫ぶと退散する。

 

 以上の回避方法が、今のところ伝承で語り継がれている都市伝説でのひきこさん回避法であるが、実際の生体兵器にもこれに近い反応が見られる。

 例えば、ひきこさんは本能的にイジメっ子とイジメラレっ子の区別ができ、いじめっ子などの性格に難がある人間に対しては異常なまでの凶暴性と残忍性を示し、それこそ肉塊になるまで対象者を攻撃し続ける。逆にいじめられた経緯のある少年少女などは本能的に察知し、凶暴性や攻撃性を潜め攻撃しなくなってしまう。

 また、研究の過程で異様に変わり果ててしまった口元と目元の醜さゆえに、鏡に対して異常なまでの拒絶反応を示し、錯乱してしまう欠点も発見されている。

 だが、相手が鏡を見せつける前に、ひきこさんは俊敏な動きで相手に駆け寄り、頭や腕または足を掴み、そして引き摺ったり何度も殴打して相手を肉塊にするまで攻撃の手を止めないから余り気にする事ではないだろう。

 

 このいじめっ子に対して憎悪にも近い激情で残忍かつ暴力性の高い生体兵器を開発した所、都市伝説の発祥元である日本から早速注文が来た。それも全て教育省や教育委員会の様な児童を相手にしている機関からだ。

 発注を受けて、当研究機関は既に日本に向けて5体もの生体兵器ひきこさんを発送した。

 これにより日本では未だに多くの問題ある生徒や教師が謎の失踪または急死に至っているという。しかし政府は自分達が発注したひきこさん隠蔽の為、様々な手法でひきこさんに殺された生徒や教師の死を偽装していった。死体を政府ぐるみで隠蔽したり、死んでなく単なる失踪として闇に葬ったりしているという。

 小田原修司による改革によって教育現場での様々な問題は鎮圧されていたが、当の小田原修司失脚に伴い再び教育内での教師や生徒の問題が浮上してきた事から、遂この前日本政府から新たにひきこさんを十数体発送してほしいという注文を受けた。

 幸いな事に実験台になる[[rb:異常者 > ヒール]]は幾らでも当研究所に収容されているから幾らでも製造可能だ。

 小田原修司は背後に巨大な権力を付けていた事で武力による教育者および問題を起こす生徒の処分を国連から命じられていた。だが、その小田原修司無き今、我々の研究機関で製造され続けるひきこさんが日本を始めとする全世界の教育現場での問題を人知れず鎮圧してくれるから、我々にとっては大きな進歩であろう。

 

 

 ひきこさんに関する研究資料に記載されていた文面を全て読み終えた一同は、その余りの内容に愕然としていた。

「こ、このひきこさんも……此処の研究施設で改造されて造られた生体兵器だったか。それにしても……」

「うむ。[[rb:異常者 > ヒール]]と認定された女性の肉体と精神を改造して、本来のひきこさん同様の凶暴性と残忍性を植え付けた恐るべき生体兵器……確かに手強い相手では有った」

 研究資料に目を通した大将とメタルバードは、女性の人体を改造し本来のひきこさん同様の残忍性と暴力性を植え付けられた生体兵器ひきこさんに対し、改めてその脅威を感じた。

 すると、ひきこさんの研究資料を回し読みした新世代型二次元人で、ひきこさんに痛め付けられた内の一人、治療を終えたばかりの薙切えりなが不満そうな顔で言い放った。

「ちょっと待ってよ! 資料によれば、ひきこさんはイジメっ子だけを残忍に痛め付けるって記載されているのに、なぜ私も悲惨なまでに痛め付けられた訳なんですの!?」

 えりなはイジメっ子でもない自分が何故、ひきこさんに狙われ徹底的に暴力を振るわれたのか納得できずに不満を吐き散らす。

 この、えりなの不満に同じく資料に目を通したジュピターキッドが渋々ながらも答えた。

「それは…………言っちゃぁ悪いけど、君って性格に難があるからイジメっ子と見受けられちゃったのかも」

 この発言に薙切えりなは感情を昂らせて言い返した。

「な、何ですって!? この私が、そんな犯罪者紛いな輩と同等に見られたと申すのですか! 屈辱ですわ!!」

 更に不満が消えない薙切えりなは、心中に募る不服を吐き出す勢いで語り続ける。

「そもそも……冷酷非情な性格で、政府からブラックリストに載せられた四宮や人を殺させようとした其処の森谷ヒヨリって女と一緒にされるなんて心外ですわ!」

「あ、貴女……今、何て」

 薙切えりなの突然の発言に、彼女の話に出た森谷ヒヨリが驚きの表情で問い掛けた。すると、えりなは立腹しながら森谷にいきり立って言い放った。

「私、ちゃんと知っていますのよ。先ほどから私たち新世代型同士のテレパス系の能力で、あなたが昔ほかの人に指示して其処の真鍋って人を殺させようとした事を」

「そ、それは……」

「四宮の様に冷酷無慈悲な外道と、あなたの様な人殺しを指図した人間と同等だなんて捉われたくないですわ!」

 この薙切えりなの発言に、指摘された四宮と森谷は酷く動揺し愕然とした。

 そして、えりなの言い分に対し森谷が自らの事情を語り明かした。

「あ、あれは事故だったのよ! 私は単に、真鍋君を襲う様に指示しただけで、襲った二人が勝手に持っていた刃物で真鍋君を刺しただけで殺す様にまでは指示してない!」

 涙ながらに自分は真鍋の殺害など指示もしていなければ望んでいないと釈明する森谷。だが彼女の言い分に薙切えりなは険しい顔で言い続ける。

「まぁ、良く耳にする犯罪者の言い訳です事。自分は指示してないから無実とか、都合の良い事ばっかり仰るなんて、さすがは政府からブラックリストに載せられているだけの事は有りますわね」

「…………っ」

 えりなの心に突き刺さる一言一句に涙を浮かべる森谷ヒヨリ。だが、そんな森谷と同様にひきこさんから同じイジメっ子と認識された薙切えりなの鬱憤が晴れる事はなく、えりなは更に傲慢な態度で語り続ける。

「まったく! 何で私のような素晴らしい才能ある二次元人が、四宮の様な冷酷な外道と犯罪者紛いの森谷ヒヨリと同等に見られるのか、訳が分かりませんわ!」

 すると此処で己の胸中に溜まる鬱憤を吐き散らす薙切えりなの言動を制止するかの様に、真鍋義久が鬱憤を吐き散らす薙切えりなに言い寄った。

「ちょっと待ってくれ。確かに森谷は過去に俺を暴漢に襲わせた事が有るけど、それはもう済んだ話だ。そ、そりゃ俺だって最初は森谷に対して腸が煮え滾るほど森谷にブチキレタけど、今は正真正銘反省している事だから俺は気にしてはいねぇし……」

 過去に森谷の指示で暴漢に襲われた際、その暴漢に刺傷された経緯のある真鍋は、今では改心している森谷を許していると薙切えりなに訴え掛ける。だが当のえりなは、それでも同等の存在として見受けられた経緯に腹を立てたまま森谷を庇う真鍋に反論する。

「例え被害者側が許したとしても、本人が起こした犯罪行為が一生消える事は無いんですのよ。自らの悪癖または異常と見られる行為を起こした人物が永遠に要注意人物として、あの9・11を起こした過激派テロリストと同じ扱い同然のブラックリストに記載されている危険人物なんですのよ。現に、ウチの学園の面汚しである四宮も未だに政府にブラックリスト記載者が月毎に納めなくてはならない罰金を払い続けているのが現状ですし、そんな異常な二次元人を庇うなんてアナタもどうかしていますわ!」

「なッ……あ、アンタ! いくら綺麗でナイスバディなお嬢様でも、少し傲慢すぎやしねぇか!?」

「何ですって!!」

 遂には一触即発に成り掛ける薙切えりなと真鍋義久。だが、悶着を起こしそうになる二人の間に琴浦春香や[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]らが入っては二人を宥める。

 しかし腹の虫が治まらないえりなは、自分や四宮そして森谷と同じく、ひきこさんに急襲され徹底的に痛め付けられた聖龍隊の門脇将人に鬱憤の矛先を向ける。

「貴方だって……確かHEADの方々が仰っていましたが、結局は元[[rb:異常者 > ヒール]]だったのを前総長の小田原修司に許してもらえたからこそ、今も堂々と聖龍隊の一員として生き延びているだけなんでしょ? 何をしたのかは知りませんが、政府から目を付けられている所を見ると余程の陰惨な行為を繰り返していた事なんでしょうね」

 えりなの鬱憤混じりの発言に将人は己の罪状を否定する事無く話し返した。

「……ああ、そうだ。俺は、今は同じ部隊で一緒になっている革に対して昔、陰湿なイジメをしていた。それからも革やその周囲の人間に危害を加えて続けて、その時期に前総長の修司さんと出くわして徹底的に制裁行為を加えられたのを切っ掛けに聖龍隊に加盟させられたんだ」

 将人の過去の経緯を聞いて、えりなは皮肉に満ちた言動で突っ撥ねた。

「ハッ、やっぱりね。今では異常犯罪の一種に認可されたイジメをしていたから、同じイジメっ子でかつ殺人教唆の森谷ヒヨリと同様に痛め付けられたのね。それに冷酷な四宮も同様に。それなのに何で私までも、こんな人でなしのクズ同然の輩と一緒にされなければならないんですの!?」

 未だに自分も他の3人と同じイジメっ子などと同じ異常な存在と同等にされた経緯に憤りを感じる薙切えりなの言い分に、示唆された四宮は下を俯き、森谷は表情を暗くさせ、門脇将人は険しい面持ちで沈黙する。

 だが従者の立場でありながら恋し合う門脇将人を悪く言われたミヤビが、傲慢な態度で毒のある台詞を淡々と語る薙切えりなに反発し出した。

「待ってください。確かに将人様は、昔はたくさん間違いを犯してきました……されど、今は前総長の修司さんの計らいで聖龍隊に加盟してから随分と心を入れ替えて頑張って来たんです! それだけはご理解ください」

 ミヤビの必死の訴え。しかしミヤビの訴えを聞いても尚えりなは将人らの様なブラックリスト入りの人間と同等にされた腹の虫が納まらずに、今度は必死に訴え掛けてくるミヤビに鬱憤の矛先を向けた。

「けれど、その小田原修司の許しが無かったら結局は[[rb:異常者 > ヒール]]として監獄に収容されていたのは確実だったんでしょ? あなたも可哀そうね。こんな外道の下で働かされて……もう少し異性を見る目を養ったらどう? こんな傷だらけの経歴を持っている男なんか恥以外の何者でもないですわ。それとも、あなたもその男と同様の[[rb:異常者 > ヒール]]なんですの? それでしたら丁度良いカップルですわね。汚れ者同士のお似合いのお二人ですわ」

 嫌味ったらしい薙切えりなの発言に心を抉られたミヤビ。そんなミヤビの心境を敏感に察した門脇将人はえりなの発言にカッとなり、感情を昂らせてえりなに言い寄った。

「て、テメェ! ミヤビは関係ねぇよ! それなのにさっきからミヤビにまで文句を垂れ込みやがって……いい加減にしないと新世代型とか関係なくブッ飛ばすぞ!!」

 しかし当の薙切えりなは高飛車な態度で将人を見下す様な顔付きで言い切る。

「まぁ、怖い。さすが陰湿な[[rb:異常者 > ヒール]]だっただけの事はありますわね。か弱い女性や非力な人々を怖がらせるのは一級品です事。ほっほっほ」

「て、テメェ……!!」

 えりなの高飛車で傲慢かつ相手を見下す態度に将人の怒りは限界まで募っていった。

 と。其処に今にも喧嘩に発展しそうな将人とえりなの間に革と[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]が割っては二人を宥めに入った。

「お、落ち着けよ将人」

「えりな様、お気持ちは十分に解りますわ。けれどえりな様を外道な[[rb:異常者 > ヒール]]と同等に認知した相手は、所詮は生体兵器のひきこさん。えりな様が気にする事はありませんわ。そもそも、こんな過ちを犯し続けてきた連中と話するだけ無駄ですわ」

 将人を宥める革に対して、えりなの秘書である[[rb:新戸緋沙子 > あらとひさこ]]はえりなを他の外道と世間から見受けられた二次元人と同等に認知したひきこさんが所詮は生体兵器で特別気にする必要はないと宥めると同時に、世間からあしらわれる人と対話し関わるだけ無駄であると訴える。

 

 そんな新世代型や元[[rb:異常者 > ヒール]]である将人達の激しい言い合いを尻目に、総長のメタルバードと参謀総長のジュピターキッドそして赤塚組頭領の大将は呆れた面差しで言い争いを傍観していた。

「あのお嬢様……自分の傲慢な態度がイジメっ子と何ら変わり無いって事、自覚してないな」

「うん。あの高飛車で傲慢な性格が、ひきこさんに改造された生体兵器の気に障ったって事に気付いてないね」

「勝気って言うか、やけに態度がデカイって感じだな。あのお嬢ちゃんは」

 言い争う面々の中でも、傲慢で高飛車な性格の薙切えりなの無自覚な問題ある性分にメタルバードもジュピターキッドも大将も呆然と視線を向けていた。

 と、その時。大将がある事を思い出しては、悶着状態が次第に治まってきた新世代型達の許に歩み寄っては問い掛けた。

「な、なぁ。ちょっと良いか」

 新世代型達が問い掛けて来た大将に顔を向けると、大将はそのまま彼等に質問してきた。

「俺も、ひきこさんに関する資料を一通り目を通したんだが、確かガマのあんちゃんと琴浦の嬢ちゃんの時だけは、あのひきこさんが攻撃をやめてた気がしたんだが……アレって」

 すると新世代型達に質問をぶつける大将に、後方からジュピターキッドが大将の疑問に答えた。

「資料にも記載されていたけど、ひきこさんは本能的にイジメラレっ子に対してだけは、その凶暴性を潜める傾向があったらしい。だから……」

 このジュピターキッドの話に、まずは琴浦春香が暗い表情で話した。

「う、うん。私、昔から良くイジメられてたから……」

「あ、なるほど。だからひきこさんは俺を庇った琴浦には攻撃して来なかった訳か」

 琴浦春香の話を耳にし、何故ひきこさんから咄嗟に自分を庇ってくれた琴浦春香が攻撃されなかったのか理解する真鍋義久。

 すると話を聞いた大将には新たな疑問が浮上した。

「アレ? でもよ、イジメられてた琴浦の嬢ちゃんは解るけどガマのあんちゃんは何でだ? ガマのあんちゃんの時も、ひきこさんの奴、締め上げていた手を放してはそのままどっかに行っちまったし」

 大将はイジメラレっ子であった琴浦春香にひきこさんが攻撃しなかったのは理解できたが、自分が締め上げている最中の[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]への攻撃をやめた理由について疑問に思った。

 すると、この大将の疑問に[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は話すのを躊躇いながらも、己が身上を語り明かした。

「い、いや。実は、その…………俺も昔、小学生の頃イジメられてたんで」

『…………………………』

 [[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]の衝撃の告白に、大将はともかく他の新世代型達も口を開けて愕然とした。

「そ、そうだったのか……その、何か悪ィな」

「い、いや。昔の事なので、大丈夫です」

 金髪でオールバックの髪型と褐色肌、そして筋骨隆々な巨体の厳つい風貌から予想だにしていなかった[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]の過去を知って気まずく謝る大将。だが[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は昔の事で別段に気にしてはいないと大将に言葉を返す。

 すると、そんな[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]に琴浦春香が見上げながら話し掛けた。

「そ、その耳のピアスも……小学生の頃、イジメられて開けられた穴に叔父さんが買ってくれたピアスを付けているんですよね」

「あ、ああ、その通りだ。このピアスは叔父が贈ってくれた代物で、今ではイジメで開けられた穴を隠す為にも付けているんだ」

 琴浦春香に指摘され、[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は今の自分が付けている、やや福耳気味な両耳のピアスについて語る。

 すると配下の[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]の心情を察して、[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]が琴浦春香に厳つい顔で話し掛けた。

「おい、貴様。いくらテレパスとはいえ、[[rb:蟇郡>がまごおり]]の過去に無闇に触れるでない。人には他人から言われて気に触る過去も多々あるのだぞ」

 この[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]の言い分に、琴浦春香は気まずくなり思わず悲痛な表情を下に向けてしまう。すると琴浦春香を弁論する様に真鍋義久が[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]に物申した。

「き、鬼龍院さんよ。確かにアンタの言うとおりだけど、琴浦とかのテレパシー能力は制御ができないのが普通なんだよ。琴浦だって、好きで相手の心を覗いている訳じゃないんだ!」

 すると琴浦に過去の自分の経緯を覗かれた[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]が、自分を思って論弁してくれる[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]に言った。

「さ、皐月様。自分は特に気にしていませんので大丈夫です。過去は過去、今は今として皐月様を始めとする生徒会の一員として奮い立っている日々ですし、彼女を攻めないで下さい」

 と。[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]に琴浦春香に対する反発を制止する様に訴える[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]。彼の訴えを聞き受け、[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は琴浦春香への反論を止め、口を閉ざした。

 更に[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]に今の自分達の実情について語り始めた。

「そ、それに……彼女だけでなく、今や我々全ての新世代型がテレパシーを通じてお互いの身上を自然と周知してしまう現状ではないですか。現にこの俺も、テレパシーで他の新世代型や赤塚組の方々の心の内を自然と勝手に解ってしまう現状なのです。彼女だけを攻めるのは、どうかと思いますが」

「うむ、それもそうだな。今や、我々新世代型全てにテレパシー能力が身に付いて、互いの心理を悟ってしまう上に他の二次元人の心意までも察してしまう現況だ。此処は癪ではあるが、新世代型同士腹を割って互いを理解し受け入れるしかなさそうだな」

 [[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]の訴えを聞き入れ、[[rb:鬼龍院皐月>きりゅういんさつき]]は自分らと同じ新世代型での意志の共有をし兼ねない現状である事を受け入れ提案するのであった。

 すると[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]の過去を聞いて、大将が申し訳なさそうに話し掛けてきた。

「済まねェな、ガマのあんちゃん。おりゃぁ、てっきりテメェさんも昔の俺の様にヤンチャばっかしている様な若者だとばっかし思っちまってよ。済まねェ」

 申し訳なさそうに見た目で判別してしまった事を謝罪する大将の発言に、[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は首を横に振りながら話し返した。

「い、いえ。昔は兎も角、今の自分は見たまんま周りから恐れられている風貌ですし、仕方ない事です。気にしないで下さい」

 謝罪する大将に[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]は、見た目で判別してしまった大将の思考を少しも気に障ってないと伝えるのだった。

 と、其処に。[[rb:蟇郡苛>がまごおりいら]]に謝罪する大将の話を聞いて、その大将に新世代型の月影ちあり達が質問してきた。

「大将さんは、昔はヤンチャしていたんですか?」

 この少女達の質問に大将は活気に満ちた笑顔で答え返した。

「ああ、まあな! 昔は色々とヤンチャばっかしていたぜ、俺は。それで昔は良く、周りの大人達から叱られっ放しだったぜ、ホント」

 すると昔の自分の事を包み隠さず語る大将に続いて、彼とは昔からの付き合いであるギョロとゴマも昔の大将の事を語り出した。

「でも、大将は決して弱いもんイジメなんて無粋な真似はしなかったんスよ」

「そうそう。逆に言えば、大将は昔っから曲がった事が大っ嫌いな性分で、常に弱いモンの味方をしてくれる、頼りがいのあるガキ大将だったんス! もちろん、それは今でも健在でヤンス」

 昔から自分たち子分や弱い者の味方に回ってくれてた情に厚い大将の性分を自慢げに語り明かしていくギョロとゴマ。

 すると其処に、ギョロやゴマと同様に大将とは古い間柄であるミラーガールが話しに入ってきた。

「アレ? でも良く私の前では女子相手に嫌がらせしてたんじゃなかった? しかも私やモコに対してはやたらと」

 するとミラーガールの発言にギョロとゴマが笑いながら、その訳を話した。

「ははっ、アッコ。それは大将がアッコに関しては素直になれなくて、ついついチョッカイ掛けたり意地悪しちゃっただけなんスよ」

「そうそう。特に大将はアッコの事となると焼きに焼いちゃって、アッコの前じゃかなり悪ぶったりしちゃってただけッスよ」

「てッ、テメェら……!!」ギョロとゴマの発言に大将は顔を真っ赤にして心の底から照れる。

 すると、この話を聞いて新世代型の女子達がミラーガールに迫ってきた。

「ふふふ、何だかミラーガール。いやアッコさんって昔から結構モテるんですね」

「小田原修司だけでなく、荒くれ者の大将さんの心まで奪っちゃうとは」

「まぁ、大将さんと小田原修司じゃ、見た目は別として世間からの人望や信頼に関しては修司さんの方が上手ですけど」

 今や聖龍隊のヒロインでも飛び抜いて世間の注目を浴びているミラーガールこと加賀美あつこのモテっぷりに微笑む女子達。

 するとミラーガールは平然と新世代型の女子達に話し返した。

「別に。私は大将の事、嫌いでは無かったわよ」「!」

 ミラーガールのこの一言に大将は我を忘れて嬉々と顔を晴れ晴れとさせた。

 だがミラーガールは「ただ大将はもちろん誰よりも、私が修司の事を好きになっちゃっただけなの」と微塵の悪気も無い笑顔で平然と言った。

「………………」

 このミラーガールの一言に、大将は胸に巨大な矢が突き刺さる程の衝撃を受ける。

 そして大将は胸に突き刺さる心の痛みを洗い浚いブチ撒ける様に「クソッ〔カン〕クソッ〔カンッ〕クソォ!〔カァン……〕」と突如壁に【修司】と書かれた紙を貼った藁人形を涙ながらに打ち付け始めた。

 そんな大将の悲痛な思いでの行動に、メタルバードとエンディミオンが止めに入る。

「やめろって大将!」

「気持ちは解るが、下手したらお前自身が自分の呪いを跳ね返されて痛い目に遭うかもしれないから、それぐらいで!」

 必死に大将の藁人形への釘打ちを制止しつつ宥めていくメタルバードとエンディミオン。

 すると大将を宥めに入るエンディミオンの発言を聞いて、疑問に思った新世代型の星原ハルキや瀬名アラタがジュピターキッドに訊ねた。

「呪いが跳ね返されるって……」

 この質問にジュピターキッドは事実を包み隠さずに語り明かした。

「義兄さんは呪術などを撥ね返してしまう体質の持ち主なんだ。義兄さんに呪術を掛け様とした相手は、義兄さんに掛けた筈の呪いをそのまま撥ね返されて逆に非業の死を遂げてしまうんだ。過去にも何度か、義兄さんに呪いを掛けようとした様々な人達が居たんだけど、兄さんの呪いを撥ね返す体質で跳ね返された呪いがそのまま自分達に降り掛かっては奇怪な変死を遂げてしまう人が続出したんだ。その人達の中には権威ある著名な人物や凶悪な犯罪者など大勢居たけど、結局誰も義兄さんを呪い殺せず、逆に呪いを撥ね返されて死んでしまったけどね」

 他人からの呪いを自然に撥ね返し、逆に呪いを掛けようとした相手に呪いを弾き返して呪い殺してしまう体質の小田原修司に多大な寒気を感じる新世代型達。

 だが、この体質の欠点をもジュピターキッドは隠さずに話した。

「まぁ、この体質はどんな呪術をも撥ね返せるけど、その代わりに占い等の自分の未来を暗示する術までも無力化させてしまう難点があるんだよね。義兄さんの占いでは、個性や性格などは把握できるけど未来を暗示するのだけは体質的に不可能で、後にどんな災いや出来事が自分に起こるのか予測できないのも、小田原修司ならではの特異体質であったんだ」

 ジュピターキッドの話に耳を傾け、話を聞き入れる新世代型達。更にジュピターキッドは小田原修司の体質について語り続ける。

「他にも、この体質では自分の運気を周囲の影響からではコントロールする事もできなくなっている。例えば自分の運気を上げようと、様々な御呪いやジンクスをやってみても運気が向上する事はないし、逆に運気が自分の言動で下がってしまう事もないんだ。言うなれば、運気の変動も他人や周囲の影響で変わる事はなく、小田原修司は常に自分の力だけで運命を切り拓かなければならない現状に立たされていたって訳さ」

 運勢までも影響を受けずに、自力で運命を切り拓かなければならなかった小田原修司の稀な体質に新世代型達は驚くばかりであった。

 

 と、その時。未だに修司への妬みで藁人形に釘を打ち続ける大将を脇目に、先ほどひきこさんの研究資料を読み通した赤塚組の海野なるがメタルバードに話し掛けた。

「ねぇ。この資料によれば、既にこのひきこさんと同様の生体兵器が日本に送られているって記載されているけど、これって……」

 この海野なるの疑問にメタルバードが自分なりの解釈を立てて答えた。

「うむ、おそらくはイジメを起こした生徒や、それを見て見ぬ振りをしていた教師を陰から抹殺する為に教育省や教育委員会の連中が挙ってひきこさんを欲しがったんだろうよ」

「そ、そんな! でも、なんで……」

 メタルバードの発言に衝撃を受ける赤塚組の山崎千春が問い返すと、メタルバードは更に己の解釈を語り続けた。

「教育の現場では、昔からイジメなどの問題が肥大化するのは恐れられてた。特に今ではイジメを止められなかった教育側の連中にとってはイジメと云う問題が表に浮き彫りになる前に、どうにか隠蔽したいのが本音だったんだ。だからこそ、イジメっ子やイジメを傍観していた教師といった問題ある人間を始末する、ひきこさんという生体兵器が求められたんだろう。ひきこさんによってイジメっ子やイジメを傍観していた教師が殺された後は、政府ぐるみでひきこさんの存在を隠蔽するのと同時に生徒や教師の変死や失踪も誤魔化していたんだろうよ」

「そんな……」

 杜撰な教育現場の一掃を、生体兵器であるひきこさんに任せてイジメ等の社会問題が表沙汰になる前に片を付けていた組織での隠蔽活動に衝撃を受ける水原花林。

 するとメタルバードに続いてジュピターキッドが険しい面持ちで現実の真意を口に出す。

「死人に口なし……イジメ等の問題を起こした生徒も、それを傍観していた教師も人知れず消失してしまった方が、教育委員会や教育省にとっては都合が良いんだよ」

 教育現場で日々勃発する様々な問題が表沙汰になる前に、その問題に関与していた生徒や教師の死亡や失踪が何より上役の人間達にとっては大層都合が良いと言う事を語り明かすジュピターキッドの言論に、新世代型達は愕然としてしまうばかりであった。

 

 と、その時。各々が話し合っている最中、新世代型の彩瀬なるが聖龍隊の方々に御声を掛けて来た。

「あ、あの……もう、そろそろ此処から離れた方が良いんじゃ」

 そう言う彼女の顔は脅え切っていた。そして彩瀬なるの視線の先には、先ほど苦闘の末メタルバードが首の骨をへし折って倒したひきこさんの亡骸が横たわっていた。

 この彩瀬なるの提案に、他の新世代型達も挙ってその場からの撤退を望み始めた。

「た、確かに……もう、こんなおっかねぇ所には留まりたくねぇ……ッ」

「いっくら、ひきこさんを倒したとはいえ、また同じ様な生体兵器がやって来るかもしれないし……!」

 恐怖で顔を真っ青にして脅え震える真鍋義久に、先ほど目の当たりにした惨状を二度と拝みたくないと強く願望を抱くキャサリン・ルース。

 そんな新世代型達の意見を聞き入れ、聖龍隊はこの場から離れて先へと進行する事にした。

「まぁ、確かに長居する理由も無いし……さっさと先に行くか」

「そうだね。下手したら本当に他の生体兵器もこの場に群がってくるかもしれないし、それが妥当だね」

 聖龍隊総長のメタルバードと参謀総長のジュピターキッドも新世代型達の意見に同意し、一行はその場からの離脱を始めるのだった。

 しかしこの時、未だに小田原修司への妬みから藁人形に釘を打ち続けていた大将だけは話を聞いてなかった為「あ、あれ……?」大将が気付いた頃には既に皆脱却した後であった。

「み、みんな! 俺を置いていかないでくれーー! 俺だって一人は怖いんだよーーーー!!」

 大将は急ぎ、皆の後を追うのであった。

 

 だがこの時、誰もが気付いてはいなかった。

 研究施設の地下深く。一行の誰もが気付かずに放置していたとある一室で、また新たな怪異が目覚めていた事に……

 

 

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