現政奉還記 B.O.W.編 作:セイントドラゴン・レジェンド
そして更に地上へと進行する一行の前に立ちはだかったのは、日本の都市伝説をモデルに造り出された人造の怪異たちであった。
赤マント、ひきこさん、メリーさん……実に悍ましく残忍な生体兵器に苦戦を強いられながらも確実に勝ち進み、そして生き残る一同。
だが、聖龍隊総長メタルバードは対峙して来た多くの生体兵器に見られる、ある特徴から衝撃の推測を立てる。
そして皆を引き連れて急速に先へと進行するのだった。その意図とは……
※今回の話の一つで「奇形の症状と怪物」という話の中で登場している博物館は実在のものです。検索すれば画像などスグに出ますが、かなりショッキングな画像が多いので検索する時はお気をつけて下さい。
※また今回は各版権作品のネタバレも執筆していますので、拝読する際はご注意ください。
[衝撃の疾走]
人造の怪異、八尺様を撃破した直後メタルバードは今まで目にしてきた人造の怪異や生体兵器に見られた特徴に焦りを感じた。
そして新世代型達を引き連れて急速に足を駆け出して施設内を走るのであった。
「はぁ、はぁ……そ、それにしても、一体どうしたって言うんすかメタルバード!」
「一体、何をそんなに慌てているんですか」
突然全員に駆け出させ先を急がせるメタルバードの言動に疑問を感じ、真鍋義久と星原ヒカルが先頭を走るメタルバードに訊ねる。
すると問われたメタルバードは全速力で走りながら険しい面持ちで質問に答える。
「はぁ、此処に来るまでオレ達と戦ってきた幾多の生体兵器……それら全てにはD-ワクチンや、それを基に生み出されたD-ウィルスの影響が見られた」
「つ、つまり……?」
「Dが与える影響、それは単に筋肉組織の向上や身体能力の劇的変化だけじゃない。その生命体が持つ生命力までも格段に上昇させる効果もあるんだ! その著しく上昇した生命力は重傷を負った肉体の回復能力を向上させる……現に、あの修司ですら本来半年は寝たきりになる程の重傷を負っても1ヶ月余りで完治しちまうほど回復能力が異状に高いんだ! そして、その修司の並外れた生命力と回復能力はDを投与された生体兵器にも少なからず兆候が現れる筈!」
『………………』
「簡単に言えば今までオレ達が倒してきた幾多の生体兵器、そいつ等も何れは傷付いた肉体が回復し……また復活してオレ達を追ってくる可能性があるって事だ」
『!!』
メタルバードが口にした推測に、新世代型の一同は衝撃を受けた。
聖龍隊や自分達が命からがら倒す事ができた強敵、テケテケ/赤マント/ひきこさん/メリーさん/
只でさえ恐怖と衝撃を受けた強敵の数々が、再びDによる回復能力で蘇生し襲ってくるかもしれないと知らされた新世代型の一同は言い知れぬ不安と恐怖に襲われる。
そしてメタルバードの口から今までの強敵が復活し、再び襲ってくるかもしれないと知らされた一行は更に躍起になって先を急ぐのであった。
だが、皆が全速力で走り続けていくと、案の定例のゾンビやリッカーなどのB.O.Wが出現し襲ってきた。
「邪魔だ!」
先を急ぐメタルバードが右腕をレーザー砲に変形させて、一撃でゾンビの群れを吹き飛ばす。
しかしゾンビの群れは先ほどの爆音や皆の駆け出す足音に引かれてか次々に周囲に集まってきてしまってた。
「しつこいぞ!」
そんな目の前に群がるゾンビ達に今度は大将がショットガンを連発して蹴散らしてみせる。
メタルバードや大将に続く様に他の聖龍隊士や赤塚組、更にはジェイクまでもが集まってくるゾンビに攻撃を浴びせ次々に倒していく。
そんな聖龍隊や赤塚組、何よりも傭兵として多大な戦歴を持つジェイクの奮闘を目の当たりにして、自分達も加勢しようと奮起した纏流子や
彼等の奮闘が功をそうしたのか、群がるゾンビは次々と呆気なく倒されていく。
しかし皆がゾンビを始めとする数多の生体兵器に奮闘する中、彼等が目指す進行先の入り口が狭まった通路の進入先に何とゾンビの群衆が行く手を阻んでいた。
「か、数が多い!」「これじゃ倒すのに時間がかかる……!」
余りのゾンビの数の多さに戸惑うマカ=アルバーンにデス・ザ・キッド。
だが、其処に赤塚組頭領の大将が前に出てきては足を止めている他の面々に威勢よく声を掛ける。
「離れてろッ、コイツで一発お見舞いしてやらァ!」
そう言って大将が懐から取り出したのは一個の手榴弾であった。彼は手榴弾の安全ピンを威勢よく口で抜き取ると、それを通路の入り口で群がっているゾンビ達に投げ付けた。
大将が投げた手榴弾はゾンビの群衆を爆発で一挙に吹き飛ばし、通路の奥が見えるまでに目の前が片付いた。
「よし、このまま一直線に駆け抜けるぞ!」
ゾンビの群衆が片付いたのを視認したメタルバードは皆にこのまま通路を一直線に駆け抜けるよう告げると、自ら先頭を走って後方の皆々を誘導していく。
メタルバードの指示の下、細長い通路を一直線に駆け抜ける一同。しかし彼等の前に想定外の敵が現れた。
「ゲッ、何なんだ、あのゾンビ!」
「と、言うよりゾンビなの? 銃を構えているけど……!」
通路を駆け抜ける皆の前に現れたるは、小銃を構えた兵士姿のゾンビであった。武器を扱うゾンビの存在に多大に驚く大将と海野なる。
小銃を構えるゾンビ兵は、曲がり角の陰から身を乗り出して発砲してきた。
「みんな伏せろッ!」
すかさずメタルバードが皆に伏せる様に告げ、しゃがみ込ませるとメタルバードは躊躇なく前に飛び出し己の鋼鉄の体を盾にして皆を護る。
しかしメタルバードだけに盾の役割を担わせる訳にはいかないと、ロックバイソンもメタルバードに続いて前に踏み出しては強固なアーマーを盾に皆を護った。
「そ、それにしても……なんでアイツらは銃なんか使えるんだ?」
しゃがみ込む銃撃から身を伏せていた大将が疑問を吐き散らすと、自身を銃撃からの盾にするメタルバードがそれに答えた。
「ウィルスの中にはある程度の知能を持たせたまま感染するタイプも開発されているんだ。そのゾンビは小銃に留まらず、多種多様な銃火器を扱えちまう厄介な奴だ!」
「ま、マジかよ……」
メタルバードの解説を聞いて衝撃を受ける大将。
すると此処で銃声を聞き付けてか、他の武装したゾンビ兵も駆け付けては身構えて銃口を此方に向けてきた。
「数が増えたぞ!」
「完璧にガードしろ! 拳、お前も前に出て弾丸避けに……バイソンはもっと俺と身を近付けて銃弾が掻い潜らないほど隙間を作るな」
「はいっ!」「分かった!」
武装ゾンビの集結に焦りを見せる大将に引き換え、メタルバードは銃弾が後方の面々に直撃しない様にと弾丸を弾いてしまうほどの強固な肉体を持つ白雪宮拳こと剛力番長を呼び寄せ、更にロックバイソンに近付かせて互いの間の僅かな隙間を埋めるよう指示を出していく。剛力番長とロックバイソンもそれに素直に対応する。
メタルバード/ロックバイソン/剛力番長の三人は横一列に並び態勢を低くして形成した防弾壁にゾンビ兵達が放ってくる銃弾は効力を示さなかった。
すると此処で三人の奮闘を間近で見ているミラーガールがメタルバードに話し掛けた。
「め、メタルバード。此処は私がミラー・バリアーでみんなを銃弾から防ぐってのはどう? それならあなた達が壁になる必要は無いんだし」
すると、このミラーガールの提案に赤塚組のテツが異議を唱えた。
「ミラーガール。それでは確かに向こう側の銃撃を防げるが、同時に此方の反撃も君のバリアーで防がれて出来なくなってしまう」
「え、でも……」
テツの反論を聞いて現状の打破に困惑するミラーガール。
するとテツは膝を曲げて態勢を低くしては防弾壁に徹する剛力番長に声を掛けた。
「確か……拳ちゃんだったよね。済まないが君の肩、少し借りるよ」
「え、ええ……構いませんけど」
戸惑う剛力番長を脇目に、テツは有言の如く彼女の肩を借りてその肩にライフル銃の銃身を置いた。
そして剛力番長の肩に銃身を置いて狙いを定めるテツは、狙いを定めた瞬間引き金を引いて銃弾を放つ。
テツの放ったライフル銃の弾丸はゾンビ兵の額に命中し、一発で倒して見せた。
更にテツは空になった薬莢を抜き取ってスグに次の弾丸を装填すると、もう一体のゾンビ兵にもライフル銃で銃撃する。
「グハッ」
テツの放った銃弾が直撃し真後ろに倒れ込むゾンビ兵。
テツはそのまま剛力番長の肩に銃身を置きながら銃口を定めて狙撃し続けた。
「グホッ」「ガッ」銃弾は一発も外れる事無くゾンビ兵の頭部に命中し、次々に倒されていった。
そして前方で銃撃してくるゾンビ兵を全てライフル一丁で倒して見せたテツに、メタルバードが賞賛の言葉を掛ける。
「テツ、良くやったな」
メタルバードに続いて頭領の大将もテツに言った。
「良くやったぜテツ! この先も、その調子で頼むぜ」「ああ、もちろんさ」
大将に話し返したテツは、次に肩を貸してくれた剛力番長に礼の言葉を述べた。
「拳ちゃん、ありがとう。済まないね、女の子の肩に銃身なんか置いてしまって」
「いいえ、お役に立てられたなら光栄です。何より皆さん、あなたの狙撃の腕に救われましたわ」
礼を述べられた剛力番長もテツに礼を述べ返す。
そして再び進攻する一行。
だが進んでいくと再び銃火器を装備したゾンビ兵が隊を率いて待ち構えていた。
「か、隠れろッ」
今度は障害物越しに身を潜ませて攻撃から身を防ぐよう告げるメタルバード。
最戦前で臨戦態勢に入る聖龍隊や赤塚組らの後方では、非力な新世代型達が鳴り響く銃撃や砲撃に身を震わせて脅えていた。
「この距離からじゃ近付いて攻撃は出来ねェ……狙撃・銃撃班! 及び射撃班! 向かい側のゾンビ共を狙い撃て!!」
メタルバードの指示を聞き、銃撃や弓での射撃を主に得意とする聖龍隊士が前に出てきては、物陰に隠れながら遠方のゾンビ兵を狙い撃つ。
HEADのメタルバードの電撃砲、ウォーターフェアリーの水の弓矢、セーラーヴィーナスによる光の矢、キューティーハニーの紅い閃光の矢、木之本桜のアロー(矢)とショット(撃)、コレクターズの電子武装による狙撃、鳳凰寺風の疾風の矢、ミュウミントの風圧の矢、ちせの光線狙撃。更にニュー・スターズのフロートとカトレア組による魔装弾での炎や氷の爆撃、デス・ザ・キッドの二丁拳銃、高町なのはを筆頭とした狙撃班、鋼鉄の装甲すら撃ち抜く卑怯番長の左腕に内蔵された砲撃銃。ルーキーズのミラールのミラージュ・ガンによる狙撃、ツナとリクオの炎と妖力での攻防、ジョーイの指示の元で活動するヒーローマンの電撃による砲撃、巴マミと暁美ほむらの銃撃に加えた鹿目まどかの射撃。そして最後に赤塚組とジェイクの銃撃が展開し、遠方のゾンビ兵は悉く撃破されていく。
次々とゾンビ兵を撃破していく最戦前の面々。しかし彼等の目に途轍もない武器を持って登場するゾンビ兵が飛び込んできた。
「ロケットランチャー!」
赤塚組のミズキが叫んだ瞬間、ゾンビ兵が構えたロケットランチャーの砲口から砲弾が放たれ飛んできた。
「うわッ!」
強烈な爆音と衝撃、そして硝煙に頭を伏せる一同。その衝撃は後方で身を潜ませていた新世代型達にも伝わっていた。
「気をつけろッ! マトモに喰らったら即死か、よくて瀕死の状態だ!」
メタルバードが最戦前は元より後方の新世代型達にも呼び掛けている最中も、前方からゾンビ兵がロケットランチャーの砲弾を砲撃してくる。
「ッ!」
爆撃に身を伏せて砲撃から身を守るメタルバードら戦前の皆々。
しかしゾンビ兵が空に成ったランチャーに新しく砲弾を装填しようとしている最中に、テツやミラールが装填しようとしているゾンビ兵を狙撃しランチャーでの攻撃を終結させる。
だが他のゾンビ兵は、小銃を構え発砲しながら次第に戦前へと進攻していき距離を縮めていく。
迂闊に近寄らせて発砲させる訳には行かないと、接近してくるゾンビ兵に攻撃を浴びせまくる戦前の皆々。
だが戦前に接近してくるゾンビ兵の一体を狙撃した瞬間、何とそのゾンビ兵の体が硬く変化しては上半身を分離させ、まるで貝の様な甲殻の上半身で迫ってきた。
「な、何だあのバケモノは!」
突如として変異したゾンビ兵の風貌に驚愕する大将に、メタルバードが語った。
「アイツは体内で成長したウィルスが寄生虫の様に宿主の肉体を乗っ取った状態で極まれに変異するタイプだ。気をつけろ、あの硬い甲殻には並の銃火器は効かない上に挟まれたら一溜まりもない」
メタルバードが語っている最中も、上半身が変異したゾンビ兵は二本の人間の足でぎこちない足取りとはいえ確実に歩み寄ってきていた。
そんな変異し接近してくるゾンビ兵に銃撃で応戦する赤塚組だが、メタルバードの語ったとおり銃弾は硬い甲殻に弾かれ全く効き目がなかった。
「どうすんだよ? このままじゃ、あの硬い身体の奴が近付いてくるばかりだぞ!」
応戦が効かずに顔を渋らせる大将の言葉を受けて、メタルバードが仲間に指示を仰ぐ。
「セーラームーン! あの接近してくるB.O.Wに、お前の光属性の技を放て!」
「分かった!」
メタルバードの指示を受けてセーラームーンは自分たち戦前の面々に接近してくる硬い甲殻のB.O.Wに向けて月の魔力による強烈な光の技を放った。
「シャアアァァ……」
セーラームーンの光の技を浴びて、崩れる様に倒れ込む固い甲殻のB.O.Wは瞬く間に消滅してしまった。
「こ、これは……」
光を浴びた途端に消滅した甲殻の変異したゾンビ兵を目の当たりにした大将が唖然としていると、メタルバードが訳を話した。
「このタイプは強烈な光に極端に弱いタイプなんだ。だからセーラームーンの光り輝く技でなくても、閃光手榴弾の様な代物でもアッと言う間に肉体が消滅しちまうのよ」
メタルバードが訳を話している最中も、戦前に乗り出した面々は徐々に前進していき進行先の安全を確保しながら突き進んでいった。
その間も休みなく出現してくる武装したゾンビ兵を撃退しながら前進していく戦前の勇者達。
そして遂に視界に現れ続けてた全てのゾンビ兵を撃退し辿り着いた別通路への入り口。その扉の前まで安全を確認する為近付くセーラーウラヌス。
すると通路の奥から何者かが駆け寄ってくる足音が聞こえ、ウラヌスは躊躇う事無く接近戦の構えで待ち受ける。
そしてウラヌスが待ち受ける通路口から案の定、武装したゾンビ兵が駆け抜けてきては通路口から飛び出てきた。其処をウラヌスは得物の短刀で腹部を一突きして難なく倒してみせる。ウラヌスの短刀で貫かれたゾンビ兵は他の兵士と同じく赤い泡状に成り果てては消滅してしまった。
更に通路の奥から他の武装ゾンビ兵が駆け抜けてくる足音が聞こえてきて、ウラヌスは再び待ち受ける。
だが駆け付けてきたゾンビ兵が通路口から飛び出てきた所を短刀で一突きにしようとしたウラヌスの一撃をゾンビ兵はかわしてしまい、それどころか装備していた電撃ロッドでウラヌスに強力な電撃をお見舞いした。
「うわぁ!」「ウラヌス!」
感電し身を震わせるウラヌスを目の当たりにして騒然と化すメタルバード達。そしてウラヌスに電撃ロッドを殴り付けたゾンビ兵にメタルバードが砲口に変形させた右腕で頭部を狙い撃つ。
メタルバードの電撃砲を頭部に真正面から喰らったゾンビ兵の頭は見事に木っ端微塵となり、床に倒れたゾンビ兵は他のゾンビ同様血の様に赤い泡となって消滅した。
メタルバードが砲撃でゾンビ兵を倒している間、セーラーネプチューンがウラヌスに駆け寄っては彼女の容態を気にしていた。
「ウラヌス、大丈夫?」「ね、ネプチューン……何とか大丈夫だよ」
電撃を浴びたウラヌスは多少身体に痺れが残っているものの大事には至ってなかった。
その間、攻撃を受けて死滅すると赤い泡状に変化して消滅する武装したゾンビ兵を目撃した大将たち赤塚組の面々が、消滅するゾンビに疑問を抱いてた。
「それにしても……コイツらは何なんだ? 武装しているだけでも普通じゃねェし」
と。そんな疑問を抱いている赤塚組の面々にメタルバードが事情を話す。
「このタイプは、ウロボロスだ」
「う、ウロボロス?」
「そうだ。昔、アフリカの地で確認されたウィルスの一種だ。感染した人間は理性を失って凶暴性を発揮し、更に微かに残っている知性で様々な道具も使用する事が可能な種だ。例え銃火器でなくても斧や鎌などの道具も使って攻撃してくる実例が報告されている」
この大将に語り明かすメタルバードの話を聞いて、テツがそのアフリカでのバイオハザードを思い出しては語り出した。
「そう言えば俺も聞いたな。アフリカの地で、トライセルって製薬企業が世界中にそのウィルスを拡散させるミサイルを開発して、世界各地にバイオハザードを引き起こそうとしていたって話。確か、その企業の裏で暗躍していた男が全て意図を引いていたって聞いた。確か名前は……そう、アルバード・ウェスカーだ」
このテツの発した名前を聞いて、ミズキも続けて語り出す。
「そのアルバード・ウェスカーって、確かバイオハザード事件の発端ともいえるアメリカ中西部にあったラクーンシティを始めとするバイオハザード事件、通称ラクーン事件などに深く関与していた男でしょ。バイオハザードの起源とも言える生物兵器を開発した今は無きアンブレラ社の元研究員で、アンブレラが崩壊した後も様々なバイオハザード事件に絡んでいたって言う……今では既にBSAAの隊員によって殺されたらしいけど」
ミズキが語っている最中、自然と表情を険しくさせるジェイク。
更にテツやミズキの話を聞いて自然と険しい面立ちになっていくジェイクに気付いてか、メタルバードが無言で先へと進行していく。
通路へと進行し歩んでいくメタルバードを先頭とする一行。
だが進路方向に再び武装したゾンビ兵らが連なって出現した。しかも、そのゾンビ兵達は右手に電撃ロッド、左には鉄製の盾を装備して接近してきていた。
「クソッ、今度は盾持ちかよ」「あの盾じゃ銃弾も弾かれちまうぞ」
自分達の装備では盾持ち相手には苦戦を強いられるのを直感する大将とテツ。すると盾を装備したゾンビ兵の軍勢を目にしたメタルバードが即座に指示を告げる。
「あの盾持ちには生半可な攻撃は効かねェ……ジュピター、さくら、ナオミ。前に出ろ! お前達の電撃で盾持ちのゾンビ共を一掃しろッ!」
「了解っ」「はいっ」「お任せを!」
メタルバードの指示を受けてセーラージュピター/木之本桜/梅枝ナオミの三名が戦前に出る。そしてジュピターとナオミは電撃系の能力を、さくらはサンダー(雷)のカードを使用し前方から迫ってくる盾持ちのゾンビ兵達目掛けて強烈な電撃を放出し攻撃した。
「グアアア……ッ」
三人が放つ強烈な電撃はゾンビ兵達が装備していた盾をも貫通し、ゾンビ兵達に直撃し感電する。そしてゾンビ兵達は悉く倒れていき血の泡と化して消滅した。
「良っしゃァ! 良くやったぞ三人とも! その調子でドンドン突き進めッ」
強力な電撃でゾンビ兵を一掃して見せた三人の活躍を目の当たりにして歓喜するメタルバードは調子が上がる。
盾を装備したゾンビ兵を撃退した一行は通路を直進していくが、その先は電灯が消滅し真っ暗闇となっていた。
「先が見えねェな……」
目を凝らしながらも一寸先も見えない状況に顔を渋らせる大将。するとメタルバードが困惑する皆に言った。
「下がってろ、此処はオレが先導する」
そう言うとメタルバードは自身の眼球をライトに変化させては進路方向を照らして見せた。
「ホント、お前のその能力は便利だな」「ヘヘ、あんがとよ」
他愛もない会話をしながらも、大将とメタルバードは先を照らしながら先へと進行していく。
正真正銘、一寸先も見えない状況で一歩一歩確かめながら先を歩んでいく一行。この時、誰もが暗闇から何が出てきても可笑しくないと自負し、誰もが闇に対して恐怖を覚えていた。
そんな誰もが視界を塞ぐ闇に警戒し恐怖していた矢先、案の定暗闇からゾンビの大群が速足で出現してきた。
「来たぞ! 攻撃開始!!」
メタルバードの号令の下、彼に続いて先ほどの電撃組は元より他の聖龍隊士や赤塚組そしてジェイクも応戦していく。
眼球をライトに変化させて照らしながら、暗闇に浮かぶゾンビ達を攻撃していく一行。だがその時、何体かのゾンビが攻撃を受けた途端に頭部を貫いて体内から巨大な蟲の様な部位が突出し出したのだ。
「きゃあっ!」「な、何なのアレ!?」
頭部が弾け、首から巨大な蟲に似た部位を出現させるゾンビに驚愕し悲鳴を上げる鹿島ユノやキャサリン・ユースら新世代型の女子達。
そんな悲鳴を上げる女子達を尻目にメタルバードが説明しながら応戦していく。
「これもウロボロスゾンビの一種だ。体内で成長したウロボロスが攻撃を受けて、蟲の様な体を宿主の体内から飛び出させて先端の尖った牙で攻撃して来るんだ!」
すると後方の皆に説明し終わったメタルバードは速急に右腕のレーザー砲を変形させて特殊な電気による砲弾を放出した。その砲弾は床に直撃すると強烈な閃光を放ち、それを間近で浴びた頭部から蟲の部位を突出させたゾンビは続々と蟲の部分を崩壊させて倒れていった。
「ふぅ、コイツ等もさっきの硬い甲殻に包まれた奴と同じで強烈な光には極端に弱い。ウロボロスの大半が光や炎に弱い性質だからな」
そう語るとメタルバードは再び暗闇に包まれた通路を先導し、突き進んでいった。
[生体兵器ウロボロス]
通路を突き進んでいく一行が辿り着いたのは、電動式の機械仕掛けの扉であった。
メタルバードと大将は扉の両側にある開閉のスイッチを同時に押して、扉を開いた。
二人が同時にスイッチを押すと開いた扉を潜って内部へと進行する一同。
其処は床が網格子となっている何やら機械的な空間であった。
そんな空間に全員が扉を潜って内部に入った瞬間、何故か進入してきた扉が突然閉まってしまった。
「お、おい」
突然閉まる扉に駆け付ける大将。だが扉は既に電子ロックされているのか完全に閉じ切ってしまってた。
「こ、此処は一体何なんだ……」「…………」
険しい面持ちで辺りを見回すジュピターキッドとメタルバード。
この時、彼等一同は気付いていなかった。天井隅に備え付けられていた監視カメラで一行の様子を事細かく見ている視線に。
殺風景な室内を見渡していると、ジュピターキッドがちょうど進入してきた扉から直進した所に人らしき物体が手術台の様な椅子に腰掛けているのが目に飛び込んできた。
「みんな! 人が……」
ジュピターキッドの言葉に皆が一斉に視線を向けた途端、椅子に腰掛けていた人物が前触れも無しに立ち上がった。
「ッ!」
今までの事案から何かが起きるのではないかと本能的に察した大将ら赤塚組の面々は、立ち上がった人物に向けて銃口を向けた。
そして銃を向けながら静かに立ち上がる人物に近寄っていく。
その人物は血相の悪い肌色に素っ裸。何より頭髪はもちろん毛が一本も生えていない人体であった。だが、その人物は何故か顔を下に向けて正面の大将たち赤塚組や他の一同に顔を見せなかった。
謎の人に警戒を怠らず少しずつ接近していく赤塚組。そんな赤塚組同様に謎の人物に違和感を覚えて銃を向けるジェイク。
そして赤塚組の面々が謎の人に近付いていってた次の瞬間。その人物は顔を上げ、前方に広がる一同に顔を向けた。その顔を見た途端、誰もが驚愕した。その人物の瞳は、まるで爬虫類の様に金色の瞳をしていたのであった。
金色の瞳で周辺の皆々を見据える謎の人物。彼はそっと一歩ずつ歩み始めると、その異様な瞳に更に警戒心を募らせた赤塚組とジェイクが銃を突き付けて威嚇する。
だが銃口を向けていた最中、異変は突如として起こった。
突然、金色の瞳をした男が激しく身震いし始め、突然の事態に戸惑う大将たち。
そして激しく身震いした男は、次第に体の表面から黒ずんだ太い触手状の物体を出現させては、その黒い触手に飲み込まれる形で人体が覆われていった。
「な、何だ!」
突然の事態に激しく困惑する現場。だがその最中も男の体は黒い物体に飲み込まれていき、遂には巨大な黒い蠢く触手に覆われた物体へと変貌してしまった。
「な、何なのアレ!?」
見た事も聞いた事も無い蠢く黒い物体に覆われた人体に大いに脅える棗鈴を始めとする新世代型達。
そんな皆が騒然と化している最中、黒く蠢く物体に覆われた人物は見る影も無くなり、ただの黒い蠢く物体へと変わり果ててはその異様な姿で迫ってきた。
その異様な黒い物体の姿を目撃して、メタルバードが黒い物体の正体に気付き皆に伝える。
「き、気をつけろ! そいつは例のウロボロスだ! ウロボロスの寄生型ウィルスが人体を乗っ取って巨大な媒体に変異して襲ってくるバケモノだ!!」
「な、何だと!?」
メタルバードの話を聞いて一驚する大将。
そんな混乱の最中ですら、ウロボロスウィルスで変異した人体は蠢く黒い物体をうねらせて周囲の健全な肉体を求めて活発に動き出した。
「うわぁ!」「ど、どうしよう! 逃げ場が無いッ!」
進入してきた扉は完全に閉ざされ逃げ場を失って混乱する新世代型達は、ただただ混乱するばかりであった。
そんな新世代型達を警護する為に彼等を囲む形で防衛しに移行する聖龍隊。すると聖龍隊が新世代型達を警護すると同時に赤塚組やジェイクも変異したウロボロスに向けて銃撃を開始する。
すると其処に聖龍隊総長のメタルバードが現場の皆々に指示を告げていく。
「全員良く聞け! 今目の前にいるウロボロスは極度の火炎攻撃に弱い。炎系能力者は戦前に出て、強力な火炎で一気に焼き尽くすんだッ!」
更にメタルバードは赤塚組を始めとする銃撃戦を得意とする者達にも指示を告げる。
「大将、それにその他の銃撃タイプの連中は変異したウロボロスのオレンジ色の球体を狙って撃て! あの球体が弱点の一つだ。的確に銃弾を御見舞いしてやれば、必ず最後は朽ちる筈だ!」
メタルバードの指示を聞いて、赤塚組にジェイクそして聖龍隊の狙撃系の戦闘員はウロボロスのオレンジ色の球体を狙い始める。それと同時にセーラーマーズや獅堂光を始めとする火炎属性の聖龍隊士らは変異し巨大化したウロボロスに強力な火炎を放射して応戦していく。
「ウオオオオォォォ……」
聖龍隊士の面々から放たれる炎を浴びて苦しむウロボロス。それと同じくウロボロスに銃撃を幾度と無く連射していく赤塚組とジェイク。
そんな中、攻撃され続けるウロボロスも苦し紛れに自分に攻撃してくる面々に接近しては太くて黒い触手を伸ばして来ては反撃しようと試みる。だが、そんな自分達に迫ってくる触手を佐倉杏子が得物の仕掛け槍で見事に一刀両断して叩き切ってみせる。
火炎系の能力に銃撃での戦闘タイプの面々とは違い、他の聖龍隊士らは新世代型達の警護に努める。
そんな中、新世代型達を警護する側のジュピターキッドが室内に設置されていたある機械に目をつけた。
「ハッ、これは使える」
そう思った瞬間、ジュピターキッドはその機械に駆け寄っては機械の赤くて大きなボタンを力いっぱい押して機械を作動させた。
【タンクに燃料補充中 補充されるまで火炎放射器は使用できません】
ジュピターキッドが作動させた機械からアナウンス音声が聞こえる。そう彼が見つけて作動させた装置は室内に配備された火炎放射器の燃料補充用の装置であったのだ。
火炎放射器が使えれば、更にウロボロスに火炎攻撃を浴びせられる要員が一人増える事を見計らって行動したジュピターキッド。
そんな火炎放射器に燃料が補充されている間も巨大化したウロボロスに強力な火炎と銃弾を御見舞いしていく戦前の者たち。
すると攻撃を浴び続けていたウロボロスが忽然と床下へと姿を消してしまった。
「き、消えた……?」
忽然と消えたウロボロスに呆気に取られる大将。
だがそれを見たメタルバードが即行で皆に注意を呼びかけた。
「気をつけろ! 奴は床下から突然現れては奇襲を仕掛ける積もりだ!!」
これを聞いた大将たち戦前の者達は急ぎ周辺と自分達の足元に気を配る。
そして周囲を隈なく見渡していると、あろう事かウロボロスは隅っこに避難していた新世代型達の目の前に出現したのだった。
『うわあッ!』
目の前に盛り上がる様に出現する黒い触手の塊に絶叫する新世代型達。
そんな新世代型達に狙いをつけたのか、巨大化した触手の肉体で覆い被さるように真上から波の様に押し寄せてくるウロボロス。新世代型達が思わず目を閉じてしまった瞬間、ミラーガールが皆の前に飛び出ては波の様に押し寄せてくるウロボロスに対し防御技を発動させた。
「ミラー・ドーム・バリアー」
半球状の光の壁がミラーガールを始めとする新世代型達と彼等を警護する役回りの聖龍隊士を覆い、どうにかウロボロスの魔手から難を逃れる事ができた。
そしてミラーガールの咄嗟の判断で難を逃れた新世代型達から気を逸らさせる為、攻撃に徹する役回りの一人ファイヤーエンブレムがウロボロスに呼び掛けながら灼熱の炎を放つ。
「コッチよ、バケモノ!」
オネエ口調で呼び掛けながら炎を放出しウロボロスに火炎を浴びせるファイヤーエンブレム。ウロボロスは自分に攻撃してきたファイヤーエンブレムに気が向いてか、彼の方へと近付いていく。
ファイヤーエンブレムの機転で新世代型達から気を逸らさせる事に成功したのを見届けた他の攻撃役。炎の魔装を装ったアリババに沢田綱吉が強力な火炎攻撃をウロボロスに向けて発射する。
聖龍隊の火炎攻撃に負けじと赤塚組やジェイクも指摘されたオレンジ色の球体を狙撃しては破裂させていく。
強力な火炎攻撃に苛烈な銃撃戦が展開されていく中、遂に補充装置の補充が完了した。
赤色だったランプが燃料補充完了を知らせる緑のランプに点灯したのを確認したジュピターキッドが、急ぎ装置の前に駆け付けては燃料が補充された火炎放射器を背負い、加勢しに行く。
「コッチも来い! バケモノ」
ウロボロスを挑発しつつ自分に気を振り向かせようとするジュピターキッド。その声に反応してかウロボロスはジュピターキッドの方へと近付いていき、それを確認したジュピターキッドは間近までウロボロスが接近するのを見定める。
そして近距離まで近付いたウロボロスにジュピターキッドは躊躇する事無く火炎放射器を向けて強烈な炎を浴びせた。
「ギュオオオオオォォ……」
奇声を上げながら苦しむウロボロス。そんな火炎放射器一機で立ち向かうジュピターキッドに加勢しようと、彼と同じHEADのミュウザクロが専用アイテムのザクロホイップを鞭の様に変形させてマグマの如き高エネルギーを叩き付けてマグマを抉りながら光の鞭とマグマの灼熱で攻撃する必殺技のリボーン ザクロスピュアでウロボロスに攻撃する。
火炎放射器の一直線に放たれる火炎攻撃に加え、広範囲でマグマエネルギーで攻撃するザクロスピュアで追い詰められていくウロボロス。
灼熱の業火に包まれるウロボロスに更なる追撃をするべく、セーラーマーズや獅堂光も掛け付け共に強力な火炎攻撃を御見舞いしていく。
更にウロボロスを追い詰めようとニュー・スターズ総部隊長の
「フレッシュ・ファイア!」
度々ならぬ聖龍隊の面々から繰り出される強烈な火炎攻撃に次第に巨大な全貌を縮小させて触手の塊を焼失させていくウロボロス。
炎に包まれもがき苦しむウロボロスに追撃ちとばかしに赤塚組やジェイクらも銃弾を浴びせていく。
「コッチも炎で攻撃してやろうぜ……一太郎! お前が持っている
「え! で、でも……案外、大勢の敵を一気に焼き尽くす事もできるし、有りっ丈ってそんな全部投げちゃ勿体無いんじゃ……」
「バカヤローーッ! 火炎能力者の聖龍隊がいるのに、そんな
『……………………』
同胞の市川一太郎に手持ちの
そして一太郎は渋々手持ちの
「それにしても……ただのウィルスで此処まで巨大化した上に触手をうねらせて襲い掛かるバケモノが存在するとは」
「これは通称、ウロボロス・ムコノと呼ばれる固体だ。全身にウロボロスウィルス特有の黒い触手で覆われた挙句、腕に纏わりついた触手が束になって掴みかかって来る厄介な相手だ。時間はかかるが、炎と銃撃を浴びせ続ければ必ず勝算はある」
対峙するウロボロス・ムコノと果敢に応戦する大将と彼の疑問に答えながら戦闘を続けるメタルバード。
と。此処で火炎放射器をムコノに向けて放っていたジュピターキッドが言い放った。
「ッ! 燃料切れだ……!」
ムコノに放射し続けていた火炎放射器の燃料を全て使い切ってしまい、ジュピターキッドは慌てて燃料を充填させる為に補充機に向かい空となった火炎放射器を配置する。
しばらくの間、火炎放射器が使えない状況の中で唯一の火炎攻撃は聖龍隊士の炎系の攻撃だけであったが、強力な火炎を放射し続ける聖龍隊士の気力は消耗し始めていた。
聖龍隊士の消耗を悟り、何か別の対策を練り始めるメタルバード。するとその時、彼の視線の先に各所に配置されていたガスボンベが視界に入った。
「アレだ!」
メタルバードは早速、各所に配置されているガスボンベの内ムコノの近くにあったボンベを意図的に倒すと速攻でムコノに砲撃を始める。まるで遭えて此方の方へと誘うかのように。
そしてメタルバードの狙い通り、ムコノは床上に倒したガスボンベの上を通過すると、ボンベは自然とムコノの触手に絡み付き一体化してしまってた。
ボンベを触手に絡みつかせ、体内に取り込んだムコノを目の当たりにしたメタルバードは即座に赤塚組に叫んだ。
「大将! お前達の方からムコノの中のボンベを撃つんだ! ガスボンベが爆発すればムコノに大打撃を与えられる!」
こうして赤塚組は初めてメタルバードの意図を察して、ムコノの体内に取り込まれたガスボンベに狙いを付けて銃弾を放った。
見事、銃弾はムコノの内部に取り込まれたボンベに命中し、ボンベは大爆発。その炎に包まれムコノは更に痛手を被る。
そしてメタルバードは戦前に出ている赤塚組や聖龍隊の面々に指示を仰いでいく。
「周辺のガスボンベも利用してムコノを焼き尽くすんだ! 特殊能力の炎だけじゃ到底間に合わない! 火炎放射器も充填され次第、新世代型を警護する隊士が一人担いで戦闘に加われッ。兎にも角にも焼き尽くして倒すんだ!!」
メタルバードの発案に同意する赤塚組やジェイクは手当たり次第に周辺のガスボンベを倒して、いつ何時でもムコノがボンベを取り込める様に仕掛けていく。それと同時に火炎系の能力を駆使する聖龍隊士も挙って力を振り絞り更に火力を上げて攻撃していく。
ウロボロス・ムコノの背面からは三本の巨大な触腕が伸びてきては、その先端にオレンジの球体が生えてはその触腕で攻撃してくる者たちを襲いに掛かる。
「あの球体を狙って撃ち続けろ! 火炎攻撃ほどじゃないが、いくらかはダメージが嵩む筈だ!」
皆に呼び掛けながらメタルバードも電撃の砲口をムコノに向けて砲撃していく。
「ダメだ! あの腕が邪魔で近付けねェ!」
近距離から銃撃を行う大将たちであったが、背面から伸びる触腕が邪魔して迂闊に近づく事ができなかった。
そんな中、ムコノはその腕を伸ばして来ては戦前の者達はもちろん部屋の隅に固まっている新世代型達に猛威を振るうのであった。
「腕に気をつけろ! 離れているからって油断してたらヤラれるぞ!」
伸びてくる腕に対して注意を呼びかけるメタルバード。
その最中、ウロボロス・ムコノは幾度の攻撃を回避する為か再び床下の網格子に身を潜める。
だがムコノが床下に身を潜めて瞬く間に戦前の皆の死角から出現しては、太い触腕を振るってくる。
銃撃を得意とする者らはムコノと適度な距離を保ちつつ射撃していき、炎で攻撃する能力者はギリギリまで接近して灼熱の炎をムコノにお見舞いする。
「グオォォヒィィィ……」
低い唸り声のような奇声を上げながら攻撃を受けつつ反撃してくるウロボロス・ムコノ。
赤塚組やジェイクはムコノの弱点であるオレンジの球体を狙撃し破裂させつつ、同時に炎系能力者達は強烈な火力で押していく。
二重の攻撃を浴びる度に姿を晦まし、別の場所に出現して撹乱してくるムコノ。そんなムコノの姿を確認してスグ、接近しては銃撃戦と火炎攻撃で追い詰めていく戦前。
そして此処で先ほど燃料が空となり充填する為に装置に戻した火炎放射器の燃料が充填し終わった。
「よし、今度は俺が行って来る」
火炎放射器の燃料が充填されたのを確認したキリトが新世代型達の警護を他の仲間達に委ねて、今度は自身が直接ムコノに炎を御見舞いしてやろうと奮起する。
そして火炎放射器を背負ったキリトは、迷う事無くムコノに接近し激しい炎を放射していく。
キリトの放射する炎に苦しむムコノ。その間、銃撃戦を展開する赤塚組やジェイクらは炎に包まれるムコノに向けて銃火器を連射していく。
だがムコノの方も激しい攻撃に苦しむばかりではなく、自身の体の一部である触手の塊を飛ばして来ては反撃して見せたり、追い詰められると床下に逃げ込み姿を晦ました後に皆の死角から出現してみせる。
しかし度々出現場所を変えてくるムコノにキリトは戸惑う事無く、冷静な対応で接近しては強烈な炎を放射して攻撃していく。
「頼んだぞキリト! 派手に燃やしてやれ!」
総長メタルバードの激励が飛び交う中、無我夢中で火炎放射器を放射し続けるキリト。そんな彼の横に一列に並ぶマーズや光などの炎系能力者たちも、一斉にムコノに苛烈な炎を直射していく。
激しい烈火、そして銃撃を浴び続けて体から黒い体液を漏らしていくムコノ。ウィルスで体内の血液などの体液が黒く変色したのであろう。
だがキリトの火炎攻撃は、火炎放射器の燃料残高が無くなると同時に納まってしまった。止むを得ずキリトは燃料が切れた火炎放射器を補充機に装填し、充填されるのを待つ。
キリトが火炎放射器を充填させている最中、ウロボロス・ムコノはガスボンベを体内に取り込んだのを視認したテツが急遽、ガスボンベに狙いを付けて小銃を構える。そして狙いを付けた瞬間、発砲し取り込まれたボンベに着弾させて爆発炎上させる事に成功する。
テツを始めとする狙撃側がムコノに向けて発砲していく最中、ようやく火炎放射器に燃料が充填された。
「今度は僕が……!」
そう言って有田春雪ことシルバー・クロウが充填された火炎放射器に駆け寄り、燃料が充填された火炎放射器を担いだ。そしてムコノに接近し、強烈な炎を放射していく。
しかし火炎と銃撃の二重で苦しむムコノは、苦し紛れに巨大な腕を振り回しては戦前の者たちを苦戦させる。
「まだ倒れないのか!?」
苛烈な炎と銃撃の二重攻撃戦前を展開しても尚、一向に倒れる気配の無いウロボロス・ムコノに焦りを感じ始める大将。
そんな苦戦の最中、ムコノが振るってきた触手塗れの腕に山崎貴史が捕らわれてしまった。
「貴史!」ムコノに捕まる貴史。
だがそれ以上に彼の体には大量の触手が纏わり付き、貴史の体力を著しく奪っていく。
「ナースエンジェル! 貴史の治療だ、急がないとウロボロスに体を喰い尽くされるぞ」
メタルバードは速急にナースエンジェルに山崎貴史の治療に当たらせた。
その間も火炎放射器の燃料が空になればスグに充填しに向かい、更にはムコノに向けて無数の弾丸を浴びせ続ける。
そうして幾度の銃撃と火炎放射器による攻撃が続く中、遂に全身の触手や身体を焼き尽くされた上に銃弾を喰らったウロボロス・ムコノは体を身震いさせて大量の黒い体液を床一杯に流出させた後、ようやく絶命したのであった。
すると同時に閉じ切っていた室内全ての電動扉が開平し、部屋を通り抜けて先へと進める様になった。
「はぁ、やっと倒れたか。に、してもタフなバケモノだったな。このウロボロスって奴は……」
「ああ、人体の細胞を食い尽くして巨大化する上に強化しちまうウィルスだからな。アフリカでは、このウロボロスを進化の奇跡とか言ってミサイルに搭載して世界中に拡散させようとしていたしな」
息も絶え絶えの大将とメタルバードが語り合う中、ミラーガールが二人に声をかける。
「さあ、此処も長居は禁物。早々に先へと進みましょう。さっきもメタルバードが言っていた通り、もしかしたら今まで倒してきた敵がD-ワクチンの影響で復活してまた追ってくる可能性だってあるんでしょ?」
「そ、そうだな……先に行くか。しっかし、まさかウロボロスウィルスまでこの施設で研究されていたとは……この施設を管理していた奴は何を考えて、こんな地下施設を造ったんだが」
地下の研究施設に懸念を募らせていくメタルバード。
こうして一同が無事に開平した扉へと足を進めて先へと進行していく最中、一人だけ想いに耽っている青年が静かに佇んでいた。
(……このウロボロスが、親父がアフリカで開発したって言うウィルスか……チッ)
部屋の真ん中で佇むその青年に、ミラーガールが声をかける。
「? ジェイク、どうしたの? 早く行きましょう」「あ、ああ……今行く」
声を掛けられた青年ジェイク・ミューラーは考え事を止め、皆と共に先を急いだ。
だが、そんなジェイクの様子も監視カメラを通して静かに眺めている存在にこの時誰も気付く事はなかった。
[屈強な扉]
暗闇に包まれた通路を突き進んでいく一行。そんな彼等が進んでいくと通路の幅が次第に広くなり、ぼんやりとだが明るくもなってきた。
だが、辺りが薄らと明るくなったと思った途端、先を進む一行にある群集が一斉に襲い掛かってきた。
『うわああぁああッ!!』
顔を引き攣らせて絶叫しながら疾走するメタルバードと大将。その後ろからはリッカーの大群が勢いを増して迫ってきていた。
「逃げろォ! いっくら何でも、あんな大群のリッカーじゃこっちが不利だ!!」
蒼然とした顔で前方を先に疾走していく皆に叫び掛けるメタルバード。彼と大将の前方には、新世代型達と彼等を警護する他の聖龍隊士と赤塚組の面々が全力疾走していた。
「走れ走れッ! 追い付かれたら集団で切り裂かれるぞ!」
リッカーの群れに追い付かれたら鋭い爪で集団で切り裂かれると忠告する大将。無論それは他の皆も解り切っていた事で、誰もが一目散に駆け続ける。
誰もが恐怖と混乱で只管走り続ける最中、一行はまるで洞窟の内部の様な空間に行き着いた。すると先頭を走っていたジュピターキッドとウォーターフェアリーの目に飛び込んできたのは、一本の左右に開閉するタイプの渡り廊下だった。しかも、その渡り廊下を渡り切った向こう側の壁際には、渡り廊下の昇降を司る開閉操作盤が見えた。
操作可能な開閉式渡り廊下を目にしたジュピターキッドは、すぐさま後方の皆々に呼び掛けた。
「みんな! 兎に角あの橋の様な渡り廊下を突っ切るんだ! あの廊下を通過すれば、後は扉を降ろしてリッカーを足止めできる筈だ!」
ジュピターキッドの話を聞いて、皆は急ぎ足で渡り廊下へと駆けていく。
そして先頭のジュピターキッドが最初に橋を渡り切ると操作盤の横で立ち止まっては、自分の後ろから駆け抜けてくる新世代型達や他の聖龍隊士に赤塚組の面々を誘導しつつ全員が渡り切るのを見計らっていた。
皆が続々と渡り廊下を突っ切っていく中、一番後方に陣取っていたメタルバードと大将の二人がリッカーに真後ろ寸前まで追い着かれそうになりながらも懸命に走ってくるのが目に飛び込んできた。
「バーンズ、大将! 早く橋を渡るんだッ!」
ジュピターキッドは追い着かれそうな二人に叫び掛けながら同時に操作盤に手を掛け、自分達が渡ってきた渡り廊下の橋を降ろし始めた。
「おいおいッ! 俺達がまだだぞッ!!」
未だ橋まで辿り着いていない状況を訴える大将。だが既に橋は二つに開平し下方に降り始めていた。
「急いで! 橋が完全に降りるまで駆け抜けるんだ!」
全速力で走り抜けるメタルバードと大将に呼び掛けるジュピターキッド。だがジュピターキッドが二人に呼び掛けている最中も橋は降りていき、更にメタルバードと大将の背後からはリッカーの大群が迫ってきていた。
そしてメタルバードと大将がリッカーの大群に追われながらも渡り廊下の橋に辿り着いた時、既に橋はほぼ完全に降り切っていた。
「跳べッ」メタルバードの一声に、メタルバードと同時に跳び上がる大将。
二人はリッカーの大群から逃れる為、生きる為に完全に左右に分かれて降り切った渡り廊下を跳び越えて向こう側まで飛び移ろうとした。
そして「ウッ」〔コキンッ〕「うぐッ」メタルバードは腹を強打しながらも、どうにか渡り廊下の向こう側に飛び付く事ができた。一方の大将は飛び移った際に受けた衝撃が過敏に痛感したのか悶絶してしまう。
「うぅ……」「あ、アソコが……」
腹を強打し苦渋の表情を浮かべるメタルバードに反し、大将はどうやら股間に衝撃が伝わってしまったらしく激しく悶絶してしまってた。
だがその時。向こう側に飛び付いた二人を追ってきたリッカーの一体が、二人に向かって向かい側から飛び掛かって来た。
メタルバードも大将も、完全に降り切った渡り廊下に必死にしがみ付くので精一杯の所に襲い掛かってくるリッカーにどうする事も出来ずにいた。
だが、しがみ付いている二人にリッカーが飛び掛ろうとしていた瞬間。一発の銃声と共に飛び掛かって来たリッカーが迎撃され、渡り廊下真下の奈落の底に落下して行った。
驚きに満ちる表情を浮かべるメタルバードと大将が顔を上げて見上げてみると、其処には銃を構える巴マミの姿があった。
更にマミは続け様に跳び越えてくるリッカーの群れを一体一体確実に狙撃しては奈落の底に落として行く。
そんなマミに続けと暁美ほむらも拳銃でリッカーを狙い撃ちする。その最中、聖龍隊の面々が降下した橋にしがみ付くメタルバードと大将を引き上げ始めた。
「バーンズ、しっかり」「あ、ああ。悪いなジュピター」
メタルバードはセーラージュピターに引き上げられ、どうにか助かった。
「お、お願い。小父ちゃんも引き上げて……」
「もう、しょうがありませんね」「全く、手の懸かるオッサンだ」
股間を激烈に打ち付けて弱々しくなっていた大将の訴えに、渋々承諾しては二人掛りで引き上げてあげるアスナと佐倉杏子。
そしてどうにか飛び移った二人を引き上げたのだが、降下した橋の向かい側に続々と集結するリッカーの大群は機会を伺いながら向こう側に飛び移ってこようと模索していた。
「おいおい、また俺達を追ってくる気かよ」
引き上げられ命拾いした大将は、執拗に追ってくるリッカーの大群に顔を渋らせる。
と。皆が向こう側から此方へと飛び移ろうとしていたリッカーの大群に苦戦を感じ始めていた、その時。
「ギャア」「! な、何だ!?」
突如として何処からとも無く強力な攻撃がリッカーの大群の中心に放たれ、リッカーが派手に吹き飛んだ。その場景を目の当たりにして騒然となるメタルバードや他の一同。
皆が突然の砲撃に戸惑っていると、再度激しい砲撃がリッカーの群れに放たれた。
「い、一体どこから……!」
大将がリッカーの大群に砲撃している場所を見渡していると、大将や皆と同様に砲撃を行っているのが誰か見極めようとメタルバードが自身の眼球をレーダーだけでなく暗視ゴーグル化して薄暗い洞窟の様な岩肌が露出した周囲を見渡し始めた。
すると暗視で周囲を見渡していたメタルバードの目に、かなり距離が離れた所から強烈な砲撃をリッカーの群れに向かって放ってる人影が映った。
「ッ? アイツは一体……」
メタルバードが暗視で砲撃を続ける人影を観察していると、リッカーの群れに砲撃を行っているその人影に大将や他の皆も気付き出した。
「な、何者だ。あの人物は……」「誰にしても、あの巨大な砲身は何?」
遠方に薄らと確認できる人影に関心を引く猿田学に対し、美都玲奈は人影が担いではリッカーの群れに向けている巨大な砲身に目が行っていた。
すると暗視眼力で人影の様子を確認していたメタルバードが、人影が放つ砲身の武器が何なのか説明し出した。
「アレは……間違いない。対戦車用の巨大ライフルだ!」
「た、対戦車ライフル!?」
メタルバードの口から出た武器の名に驚く大将。硬い装甲をも撃ち抜いてしまう特大の砲弾を放つ事ができる対戦車用ライフル、それを軽々と扱い威力満点の特大砲弾をリッカーの大群に向けて砲撃し続ける謎の人影に皆の関心は最高潮に達していた。
そして遂に目の前の降下した橋の向かい側に群れていたリッカーが完全に全滅され、静寂が辺りに過ぎったのを見計らった皆が一掃された橋の向こう側に目を向けたホンの一瞬。再び遠方の狙撃していた人影の方に視線を戻してみると既にその人影は居なくなっていた。
「い、今のは……」
何の意図があって自分達を執拗に追撃してきたリッカーの大群を対戦車ライフルで狙撃した何者かに疑問を感じる大将たち。
そんな中、メタルバードがリッカーの大群を狙撃していた人物が居た遠方まで翼を生やして飛び立ち、確認しに向かった。
メタルバードが人影が狙撃していた場所に降り立って辺りを確認するが、既に人の気配は微塵も感じられなかった。
(……今のは)
メタルバードは先ほどまで今自分が立っている見晴らしの良い高所で狙撃していた謎の人物に付いて思考を巡らせていた。
と。メタルバードが謎の存在に考え込んでいると、足元に何かが落ちているのに気付いた。メタルバードは足元のそれを拾い上げ、目線まで持ち上げて確認してみるとそれは一枚のカードキーであった。
そのカードキーは狙撃した者が落とした物または意図的に落としていった物と見たメタルバードは、そのカードキーを持って仲間達の元に飛び立っては戻っていった。
「メタルバード」「何があったか?」
ミラーガールにキング・エンディミオンが戻ってきたメタルバードに言い寄ると、メタルバードは狙撃地点に落ちていたカードキーを皆に見せつけた。
「そ、そのカードキーは……」
「狙撃地点に落ちていたんだ。狙撃者が落としていった物か、はたまた意図的に落としたのかは不明だが……」
ミラーガールの問い掛けに己の推測を語るメタルバード。
するとメタルバードが狙撃地点で見つけてきたカードキーを見たセーラージュピターがある事に気付いた。
「アレ? ねぇ、これって確か鮫のプール底で見付けたカードキーに似てない?」
セーラージュピターの言葉に改めてカードキーを観察してみると、確かに形状などが巨大鮫が泳いでいたプール底でメタルバードが発見したカードキーと酷似していた。
「確かに。同じ種類のカードキーって事?」
カードキーを間近で観察したミラーガールが首を傾げながら話していると、メタルバードもそれに同意見を示した。
「確かに形とか似ているな……もしかしたら同じ所で使うキーかもしれねェな。これも持っていくとするか」
そう言うとメタルバードは狙撃地点で入手したカードキーも懐に仕舞い、携帯した。
開平式の渡り廊下をどうにか突っ切り、リッカーの大群から逃れた一行はそのまま通路を進んでいく。
すると先ほどまで機械的な空間だったのが一挙に岩肌が完全に露出した洞窟の様な風貌の空間に激変した。
「な、何だ此処は……まるで廃墟か、良くて何処かの遺跡みたいじゃねェか」
辺りを見渡して感じた現状に率直な意見を述べる大将。
すると皆の目の前に、底が見えない奈落の谷間を挟んで鉄橋が鎖で吊り上がっていた。
「この先を進むには、橋を降ろして渡らなきゃいけねェみたいだな」
「そうだな」
すると周辺を見渡していたキリトが総長のメタルバードに声をかけた。
「総長、アレッ」キリトの指す方を見てみると、其処には工事現場で見かける様な小屋が在った。
すぐさま小屋の入り口前に駆け付けて扉を開けようとするメタルバード。だが扉には中から鍵が掛かっていた。
「どうすんだよバーンズ。鍵が掛かっているけど、ブッ壊そうか?」
手荒い手段で扉を破ろうと言う大将の発言に難癖を付けるかのような表情を向けるメタルバード。すると彼は御得意の肉体を液状に軟体化させては扉の下の隙間から内部に難なく侵入して見せてしまう。
そんなメタルバードの御得意の侵入法に呆気に取られる大将。
そして数分も経たない内に……「ホイ、鍵開けたぞ」と再び扉の隙間から液状の体で這い出てくるメタルバード。更に彼は突拍子も無い事を言い出した。
「それとよ。中にまたカードキーが有ったぞ。しかも三枚のキーを挿入して操作する操作盤も中に有った」
「部屋ン中、物色してたな」
メタルバードの室内の状況を詳細に知っている様子から、彼が室内を探索していた事に察する大将。
そして二人は早速小屋の中に進入し、その操作盤とやらの前に来た。
「成る程な。確かにカードキーを三枚挿入しなきゃ操作できない仕組みだな」
「そうだろ。早速、三枚とも差し込んでみようぜ」
操作盤を見て納得する大将の傍らで躊躇い無く入手したカードキーを操作盤に挿入していくメタルバード。
巨大鮫が飼育されていたプールの底で発見したキー、先ほど謎の人物が砲撃を行っていた高所で見付けたキー、そして最後に小屋の中で見付けたキーの三枚を操作盤に挿入して装置を作動させた。
ランプが点灯し、操作盤のボタンを押して作動させるメタルバード。すると小屋の外に設置されていた吊り上がっていた鉄橋が次第に降り始めた。
「橋が!」「成る程な。此処の操作盤は鉄橋の奴だったのか」
外で待機していた皆が降りてくる鉄橋を目の当たりにして声を上げる中、操作盤を弄るメタルバードは自分が操作している操作盤が鉄橋の昇降を操作する奴だと始めて知る。
メタルバードの操作で次第に降りてくる鉄橋。だが此処で問題が起こった。
何と鉄橋の昇降を司る鎖が何かに引っ掛かってしまったのか、突如として停止してしまったのだ。
「おい、橋が止まっちまったぞ」
目の前に下りてきていた橋の停止に戸惑うテツ。すると外の異常事態に気付いて飛び出てきたメタルバードと大将も、引っ掛かって停止してしまった鉄橋を前にして悩んでしまう。
「困ったな、これじゃ先に進めねェ」
困惑するメタルバードだが、その時大将が閃いたのか発言した。
「おい! 其処に二階部分に上がれるエレベーターがある。それに乗って鉄橋を繋ぐ鎖を断ち切るしか、橋を下ろす手段は無ェぜ」
目を向けてみると、空間の一番左端に工業用の簡単な造りのエレベーターが存在していた。この大将の提案に同じ赤塚組の面々も同意する。
「確かに、それしか手立ては無さそうね」
「上に行って、鎖の箇所の部品を壊すしか無さそうだな」
大将の提案に、鉄橋を降ろす手段が鎖の部品を破壊するしか無いと判断するアケミとアツシ。
早速、大将を筆頭とした赤塚組が行動に移る。
「君達だけで大丈夫かい?」
武装しただけの力量しか無い赤塚組を気遣って声をかけるジュピターキッドに、大将が威勢よく言い返した。
「なぁに、たまには俺らに任せておけって」
余裕綽々な雰囲気でエレベーターに搭乗し、操作盤で一つ上の階まで向かってく赤塚組。
そして赤塚組の一行は目的の高さまで上ると、エレベーターから降りては一目散に鉄橋とを繋ぐ鎖の元まで走り抜けていく。
「ン? 何だ、あの穴は」
細長い階層の石が剥き出しの通路を突き進んでいる最中、目に付いたフェンスの内側にぽっかりと空いた穴を不思議がる山崎貴史。
そして赤塚組は鉄橋と自分達が足を着いている階層を繋げている鎖の元に辿り着くと、すぐさま鎖を断ち切り鉄橋を半ば強引に降ろす作業に取り掛かった。
パールや金槌で強引に鎖と床場を繋ぐ部品を外しにかかる大将とテツ。鎖と床場を繋ぐ金具の隙間にパールや金槌を差し込んで、力任せに外そうとする。
だが赤塚組が鎖の断ち切り作業に懸かったその時、先ほど山崎貴史が気にしてたフェンスの内側に空いた巨大な穴から何とリッカーが鋭い爪を壁に引っ掛けてはよじ登って来たのだ。
「り、リッカーだと!?」「大将! お前らの方に向かっているぞッ!」
突如穴の中から這い上がってきたリッカーに驚愕する堂本海斗に、そのリッカーが向かっている先が作業を進めている赤塚組の方だと知らせるメタルバード。
だがリッカーの方は壁をよじ登り、次第に赤塚組との距離を縮めていく。
「クッ、大将、テツ! 此処は私達が喰い止めるから、あなた達は急いで鎖を!」
鎖を取り外す作業を行う大将とテツに呼び掛けながら這い上がり接近してくるリッカーと応戦を始めるミズキたち他の赤塚組。
すると赤塚組に接近していくリッカーの大群を目の当たりにした聖龍隊やジェイクも、壁をよじ登っていくリッカーに狙いを付けて狙撃し始めた。
「聖龍隊、赤塚組を援護しろ! リッカーを狙い撃てッ」
メタルバードの指示を合図に、彼と共に壁を登っていくリッカーを狙撃していく聖龍隊。
一方のリッカーも攻撃を受けては壁から落下したり、大将たちがいる階層まで辿り着いた所で一撃喰らった瞬間に絶命して消滅したりと赤塚組に近づく事が侭成らなかった。
「大将! テツさん、急いで!」
這い上がってくるリッカーを迎撃しながら鎖の分断作業に取り掛かる大将とテツに呼び掛けるアツシ。
無論、切羽詰る状況の中で慌しく作業を進める大将とテツ。
「クッ……」「こ、コナクソッ」
力いっぱいにパールと金槌で鎖と壁を接続する金属部品を剥がそうと躍起になるテツと大将。
そして遂に二人の労力が功を制し、金属金具が剥がれ落ちた。
金具が外れた衝撃音と共に強烈な震動が響くと同時に落下する鉄橋。橋は見事に底が見えない谷間に架かり、先へと進める様になった。
「よしッ! みんな渡れ! 大将、お前等もスグにコッチに降りて来い!」
架け渡された鉄橋に皆を誘導させながら上方の赤塚組の面々にも呼び掛ける大将。
一方の大将たち赤塚組は鉄橋を繋ぐ金具を外したのも束の間、周囲をすっかりリッカーに取り囲まれてしまった。
「クソッ、あっち行け!」
周囲に群がるリッカーに向けてショットガンを放つアツシ。だが同じ階層に集うリッカーは余りにも数が多かった。
と。其処に新世代型を始めとする皆を橋の向こう側に誘導し終わった木之本桜が真上の赤塚組に呼び掛ける。
「みんな、急いで飛び降りて! 私に考えがあるの」
さくらの発言に若干の戸惑いを感じつつも、周囲をリッカーに囲まれた赤塚組は止むを得ずさくらの言うとおりに2階の階層から真下に飛び降りた。すると赤塚組が2階から飛び降りた瞬間、さくらが一枚のカードを発動させた。
「フロート(浮)!」
さくらが発動させたフロート(浮)のカードは複数の対象物に同時にかけられるカードで、その効果は静かに空中を浮かせる事ができる。さくらの発動させたフロート(浮)の効果で、静かにゆっくりと地面に着地する事ができた赤塚組は、速急に他の皆と共に橋の向こう側へと駆け抜けていった。
「サンキューー、さくら! お陰で助かったぜ」
鉄橋の向こう側の通路を駆け抜けながらカードの効果で穏やかに2階から移動できた事に礼を言う大将。
そしてリッカーの群れから逃れた一行の前に、屈強な鉄の扉が現れた。幸いにも、その扉には鍵が掛かっておらず一行は扉の先へと進めた。
「急いで中に入るんだ! リッカー達が追いついて来るッ」
先ほど地面の穴から出現してくるリッカーの群れから逃れる為にも、急ぎ鉄の扉の向こう側に進入し扉を硬く閉ざそうと皆に告げるメタルバード。
一行は急ぎ鉄の扉を潜り抜け、扉の奥へと足を踏み入れる。そして全員が扉を通ったのを確認した直後、扉横に在った巨大な本棚を横へ移動させて完全に扉を塞いだ。
[奇形の症状と怪物]
リッカーの群れから難を逃れた一行は無事に屈強な鉄の扉を潜り抜け、内部へと足を運ぶ事ができた。
しかし其処で彼等が目撃したのは、余りにも異様な光景であった。
「……なん、何なんだ此処は……」
余りにも衝撃的な光景に愕然となる大将。だが愕然としたのは他の皆も同じであった。
皆の視界に広がる異様な光景。それは……
無数に展示されてるガラスケースに納められた幾多の小動物のホルマリン漬けや動物の剥製であった。
ホルマリンの中に納められた多種多様な動物の亡骸を前にして、新世代型の女子達は大層気味悪がった。
「何なの、これ……」「気味が悪い……」
ガラスケースに納められた小動物を目の当たりにして悪寒を感じる蓮城寺べると小鳥遊おとは。
だが気味悪がりながらも注意深くガラスケース内のホルマリン漬けの動物を観察していく内に、一同はある衝撃の事実に気付いた。
「な、何なんだコレは!」
ケース内のホルマリン漬けの小動物の異常さに驚き声を上げるラル。
皆が驚愕したガラスケース内の小動物。それらは全てが異様な姿の動物であったのだ。
眼が一つしかない小猿、身体が結合している亀、幾つもの脚が生えたカエル、等など……奇形の動物ばかりがホルマリン漬けで保管されていたのだ。
余りにも異形の姿の動物に目を奪われ愕然とする一同。更に視野を広げてみると、他にも魚や人間の幼児、剥製として標本にされているものでは耳が四つあるヒョウに顔が二つある猫など。ホルマリン漬け以外にも多数の奇形の生物が標本として保管されていたのだ。
新世代型と同様に異様な光景に目を奪われる聖龍隊は、視界に広がる保管されている数多の奇形の動物を目の当たりにして口を開いた。
「これは……世界中で確認されている様々な奇形の奇病を患った動物や人体の標本だ」
「き、奇形の奇病?」
思わず口を開いて呟いてしまったジュピターキッドの言葉に動揺する真鍋義久。すると動揺する真鍋や他の新世代型達にメタルバードが代わって詳細を語り始めた。
「この世には、生まれた時から奇形の容姿や身体つきで生まれてくる生物が世界中で確認されているんだよ。その殆どが生まれてスグに死んでしまうほど生命力が弱々しいんだが、そう言った奇形で生まれてしまう動物の奇病を研究する為に、こうしてホルマリン漬けや剥製として標本にしていると聞いた事がある」
『………………』
「奇形で生まれてしまう動物の原因は様々だが、環境破壊による遺伝子レベルの異状や突然変異など……ありとあらゆる原因が発端であると言われてる。例えば、この眼が一つしかないサルや魚。これらは主に単眼病と呼ばれ、サルや魚以外にも哺乳類に多く見られる奇形だ。他にも世界で既に確認されている奇形の動物や幼児の標本がてんこ盛りだ」
蒼然とした面差しで語るメタルバードの話を黙々と耳を傾ける新世代達。
確かにメタルバードに言われて改めて周囲を見渡してみると、様々な動物の奇形が目に入ってきた。
ホルマリン漬けにされガラス製のケースに納められている単眼症のサル、単眼病の謎の魚、身体が結合している亀、結合性の人間の双子の幼児、奇形の魚、奇形の豚、脚が沢山あるカエル。
他にも剥製では、二つの顔を持つ牛、二つの口を持つ豚、双頭の鳥、脚が五本の羊、羽の生えた猫、耳が四つあるヒョウ、顔が二つある猫、半分ずつ体が異なる生物、足の本数が異常な牛、肢が6本ある犬など。
余りにも異形で姿形が異常な生物が展示されているのであった。
その余りにも不気味で恐ろしい光景を目の当たりにしたセーラーマーキュリーとナースエンジェルが重い口を開いた。
「何だか、まるで……デュピュイトラン博物館に来たのを思い出すわね」
「ええ」
この二人の会話を聞いた琴浦春香が、二人が口に出した博物館に付いて訊ねてきた。
「何です? そのデュピュ、何とか博物館って」
するとマーキュリーとナースエンジェルは重く険しい表情で口を開いて語り始めた。
「……昔ね。医学を学んでいた私とナースエンジェルで足を運んだパリの博物館よ。其処も此処と同様、様々な奇形や奇病の幼児や胎児がホルマリン漬けで展示されていたのよ」
「余り気持ちの良い博物館ではなかったけど、医学を学ぶ上では知らなければいけない事ではあったし、何より貴重な知識を学べたのは確かだわ」
マーキュリーとナースエンジェルが語るデュピュイトラン博物館とは。
パリ大学医学科付属の病理解剖学博物館として1835年に設立された由緒ある博物館。
近代外科学の発達に大きな貢献をしたフランスの外科医ギヨームデュピュイトランに因んで名付けられている。
医療が発達していない時代の奇形や奇病など、病理組織を中心にデュピュイトランが1800年代に行ったオペや研究で得た人間や動物の標本などが数千点展示されている。
事実、医学的知識を身に着けられる確かな場所ではあるが、余りにも異様な光景と不気味な展示物から世界で最も恐ろしい場所の一つと言われてしまっている。
そんな不気味に感じてしまう展示物の数々に鳥肌が立ってしまう新世代型の一同。だが不気味な展示物を見ても若干の険しさを浮かべるだけで後は平然としている聖龍隊の面々を目にして、真鍋が次第に親しみやすさを感じ始めていたメタルバードに訳を訊ねた。
「あ、あの……なんで皆さん、こういったものを目の当たりにしても平気でいられるんですか?」
するとメタルバードは険しい面差しを真鍋に向けて答えた。
「聖龍隊に長く務めているとな……こんな展示物程度じゃ怖気づかなくなっちまうのよ」
「……!」
メタルバードの台詞に唖然と固まってしまう真鍋。
更にメタルバードは、この施設内で共に過ごしてきて親しみが一層深まった真鍋に対して何処か悲しげな表情で語り明かした。
「……聖龍隊の職務に就いていると、色々と嫌な事もやらなきゃならない事があるのさ」
「………………」
真鍋はそれ以上、メタルバードに言葉を掛ける事ができなかった。
と。真鍋の質問にメタルバードが思い口調で語り明かし、場の空気が重くなっていた矢先の事。
奇形の動物を展示してる大部屋の奥から何かが近付いて来ているのに誰も気付かなかった。
それは天井を這って真下にいる面々をじっくりと見下ろしながら、まるで品定めするかのように眺めていた。
しかも、その存在は二つの視覚で左右別々に周囲に点在する者達の様子を眺めていた。
そしてそれはゆっくりと、壁に伝って下りてきては狙いを定めたミラーガールの背後に近付く。
二つの視覚でミラーガールを捉えたそれは、静かに彼女の後ろを取り襲い掛かる態勢に入る。
そして次の瞬間「……! ミラーガール、後ろ!」「!」たまたま周辺を見渡していたセーラーマーズがミラーガールに危険が迫っているのを伝え、ミラーガールは間一髪背後からの攻撃を回避した。
ミラーガールに襲い掛かったその存在は……何と頭が二つもある巨大な蛇であった。
二つの顔から連なる蛇睨みと伸びてくる細長い舌で周辺の者たちを恐怖に陥れる双頭の大蛇。
双頭の大蛇は周辺の壁を伝いながら床上の面々を次々に襲い掛かっていく。
「何だ、あの蛇は!」
「アレも、おそらく此処で研究されたウィルスで巨大化した奇形の蛇だ」
双頭の大蛇を目の当たりにした赤塚組のテツが叫ぶ中、ジュピターキッドがその双頭の大蛇がウィルスで巨大化した奇形の蛇であるかもしれないと口に出す。
だがジュピターキッドが双頭の大蛇に対しての見解を述べている最中も、双頭の大蛇はホルマリン漬けのガラス容器の隙間を掻い潜って逃げ惑う新世代型達を追い回し二つの口で噛み付こうと迫ってくる。
「きゃあっ」「逃げろぉ!」
悲鳴を上げ逃げ惑う新世代の女子や男子たち。だが双頭の蛇は的確に地上を逃げ回る新世代型の位置を把握しては追い続ける。
「ど、どういう事だ? 隠れたりしながら逃げているのに、あの二つの頭の蛇ちゃんと俺達の場所が分かってる……!」
物陰に身を潜めながら逃げ続けているのに的確に位置を把握している双頭の大蛇の行動に困惑する真鍋義久。
すると逃げ回り続ける真鍋や他の新世代型達を警護しながら応戦するジュピターキッドがその理由を語ってくれた。
「蛇ってのは視力の弱い生き物なんだ。大抵の蛇は眼で獲物を捉えるんじゃなく、獲物の体温を感じ取る器官で位置が分かるんだ。だから物陰に身を潜めていても体温でスグに居場所が分かるから、みんな兎に角逃げるんだ!」
新世代型達の体温で動き回る彼等の位置を把握する双頭の大蛇に、何とか動きを止めようとジュピターキッドが茨の鞭を振るっては双頭の大蛇を攻撃する。
しかし双頭の大蛇はジュピターキッドの振るう鞭に多少は怯みながらも二つの巨大な口で噛み付いて来ようとする。
「シャアッ」
双頭の内の一つがジュピターキッドに頭を突き出して噛み付こうとした瞬間、ジュピターキッドは噛み付いてきた頭の上に駆け上っては身軽な動きで攻撃を回避してみせる。
双頭の内の一つの頭を踏み台にして跳び上がったジュピターキッドは天井の照明に鞭を振るって掴まり、そのまま器用に照明を伝って天井を移動していく。
一方のジュピターキッドへの噛み付きを失敗した双頭の大蛇は、再び恐怖で逃げ惑う新世代型達を狙っては二つの頭で向かっていく。
「うわァっ!」「こ、こっちに来ないで!」
床を這う様に逃げ惑い続ける薙切えりなと薙切アリスの従姉妹。だが双頭の大蛇は、そんな床を這っている二人に狙いをつけて鋭い牙からオレンジ色の液体を垂れ流しながら口を大きく開けて迫ってきた。
『き、きゃあっ!』
壁際に追い詰められ、逃げ場を失う二人は恐怖の余り自然と抱き合っては迫り来る大蛇に脅え動けなくなってしまう。
その時、追い詰められた二人と大蛇の間に入って窮地を救ったのが、キリトであった。キリトは剣で噛み付いてくる双頭の内の片側の大蛇の牙を押し返し、どうにか踏ん張っていた。
「い、今の内に早く逃げろ……!」
大蛇の牙を押し返しつつ背後のえりなとアリスに訴えるキリト。二人はキリトに言われた通りに逃げ腰でその場から遠ざかって行く。
その間も大蛇の牙と剣で押し返しつつ対峙するキリト。だが彼の力が一瞬だけ怯んだ次の瞬間、大蛇はキリトを剣ごと牙に引っ掛けて投げ飛ばしたのだ。
「うわぁ!」
剣を持ったまま宙を舞い投げ飛ばされるキリト。そして室内に展示されていたホルマリン漬けの奇形動物が並んだガラスケースに衝突し、ケース内に納められていたホルマリン漬けの展示物を派手に破損させては床をホルマリンで水浸しにしてしまう。
キリトが容器が割れ散乱したホルマリン漬けの奇形動物の中で倒れている最中、そのキリトを投げ飛ばした双頭の大蛇がキリトに向かって牙を怪しく光らせながら迫ってきていた。
「く、くそッ」
水浸しの床上を這う様に後退していくキリト。だが双頭の大蛇は先ほど自分の狩りを邪魔したキリトに対象を移したのか二つの頭を向けて今にも噛み付いてきそうな雰囲気であった。
だが、そんなキリトの危機に総部隊長のミラールが二丁拳銃で大蛇に向けて発砲し注意を此方に向けた。
「コッチよ大蛇! その頭、二つとも吹っ飛ばしてやるからッ」
威勢よく銃を乱射して此方に気を向かせようとするミラール。すると大蛇は執拗に発砲してくるミラールに気が向いたのか、巨大な蛇体を這ってミラールの所に向かっていった。
自分の方へと注意を向けさせる事に成功したミラールは、更に連射を過激化させて双頭の大蛇に銃撃を仕掛けていく。だが想像以上に大蛇の表面を覆う鱗が硬く、銃弾が撥ね返されてしまう。
余り効力が現れない銃撃に表情を険しくさせて困惑するミラール。
一方で表面の鱗への直接的な打撃への攻撃効力が薄いと認識した赤塚組のテツは、鱗で唯一守られていない箇所すなわち大蛇の口内に目掛けて銃を撃った。
「シャッ」
口内に銃弾を喰らった大蛇が怯んだのを視認したテツは、急遽周りの皆に伝えた。
「みんな! 胴体などの鱗の部分への攻撃は意味が無い! 硬い鱗で守られていない口の中を攻撃するんだ!」
このテツの発案にその場の戦闘員全員が賛同し、皆立ち位置を変えながら双頭の大蛇の口内を狙える位置まで移動していく。
弱点である口内は、大蛇が双頭故に口も二つあり、その二つの口内を狙って攻撃していけば必ず勝算が見えてくる筈であった。
そんな双頭の大蛇の頭にメタルバードは飛び掛かり、両肩筋から左右それぞれ二本の腕を生やして合計6本の腕で双頭の大蛇の頭を押さえ込む。下と真ん中の両腕は双頭の大蛇の口を閉ざさぬ様に動きを止め、最後に一番上の両腕で大蛇の双頭の脳天の部分を何度も殴り付けて必死に攻撃する。
だがメタルバードの二つの脳天への打撃で苦痛を味わう大蛇は痛みで暴れ回り、更に周囲のホルマリン漬けの展示物を破壊し回っていく。
と。そんな混戦の中で暴れ回る双頭の大蛇から隠れる様に態勢を低くして隠れていた薙切えりなの足元に、瓶が破損した為のか中に納められていた単眼病の人間の胎児が転がってきた。それを目の当たりにした薙切えりなは衝撃の余り絶叫してしまう。
「……きゃああっ!!」
奇形の胎児を前にして半ば錯乱するえりなの絶叫が室内に響き渡る中、双頭の大蛇の頭部にしがみ付いて打撃していたメタルバードが大蛇に振り放されてしまう。
「うわぁッ」
振り放されたメタルバードは陳列されているホルマリン漬けの標本に派手に激突し、ガラスとホルマリンを散乱させながら床に叩き付けられてしまう。
メタルバードは振り放されたのを前にして、大将率いる赤塚組が銃撃戦で双頭の大蛇の口内に向けて銃を連射して応戦していく。
口内に銃弾を浴びせられていく双頭の大蛇は、狙いを地上の大将に絞っては彼を執拗に追い回し始めた。
「クッ、こっちに来やがったか」
後退しながら自分を付け狙う双頭の大蛇に反撃していく大将。
双頭の大蛇に面と向かって背中越しに後退しながら両手に構える二丁の拳銃でひたすら大蛇の二つの口内に銃弾を連射していく。しかし後ろ向きで後退しながら連射していく大将も遂に壁際まで追い詰められてしまい、後退する事ができなくなってしまう。
そんな追い詰められた現状の中、双頭の大蛇は勢いを増して大将に迫ってくる。
「クッ……」
追い詰められた大将は咄嗟に横へと身投げし床に寝転がり、双頭の大蛇の突進から回避する。
突進から回避した大将が徐に目を開いてみると、床に寝そべってる彼の顔のスグ目の前に破損したガラス容器から飛び出た、脚が複数生えている奇形の子犬のホルマリン漬けが転がっていた。
ホルマリン漬けにされた奇形の子犬を間近で目撃した大将は、蒼然としながらも立ち上がっては態勢を立て直しつつ改めて思った。
「たくっ、……気味の悪いモンばっか標本にされてやがるな」
不気味極まりない奇形の生物の展示標本が無数に展示されている部屋の現状に蒼然となりながらも即行で臨戦態勢に整える大将。
その頃、大将に突進をかわされた双頭の大蛇は再び床を這って逃げ惑う新世代型達を標的として狙い始めていた。
「ひぃッ」「こ、こっちに来たぁ」
床を這う様に逃げ惑い、更に展示物の陰に身を隠しながら移動していく新世代型達。だが双頭の大蛇は視覚ではなく獲物の体温を感知するセンサーを頭部に備えており、しかもその感知するセンサーは二つの双頭どちら共に備わっているが為に本来の蛇の二倍の感度で獲物が何処に身を潜めているのかが感知できてしまっていたのだ。
床を這い、物陰に隠れながら移動していく新世代型達の体温を感知して追尾する双頭の大蛇。
すると地上を這って移動する新世代型の一人、朝比奈コウタの体温を感知した双頭の大蛇が接近し、コウタに向けて双頭の内の片側の牙を向けてきた。
そして朝比奈コウタが展示品の隙間を掻い潜って走り抜けていた次の瞬間、双頭の大蛇がコウタの胴体に喰らい付いてしまった。
「うわあッ!」「あ、朝比奈!」
双頭の大蛇に噛み付かれ、高々と持ち上げられるコウタを見上げて彼の名を叫ぶ東郷リクヤ。
その間も双頭の大蛇は朝比奈コウタの体を牙で貫き咥えたまま暴れ回る一方であった。
「ウッ……」
双頭の大蛇に噛み付かれ、体に食い込む牙の激痛に悶えるコウタ。
と、その時。双頭の大蛇に噛み付かれ咥えられたまま何もできずに苦悶し続けるコウタの窮地を救おうと、モルジアナが強烈な飛び蹴りを双頭の大蛇のコウタに噛み付いている頭部に喰らわした。
モルジアナの強烈な蹴りを喰らって怯んだ双頭の大蛇は思わず咥えていた朝比奈コウタを放し、彼を投げ出した。巨大な口と牙から解放されたコウタは床上へと身を投げ出され、苦痛で動く事すら至難の状態であった。
そんな深手を負った朝比奈コウタの傷を癒す為、速急にナースエンジェルがコウタの許に駆け寄り治療を始めようとする。
「しっかり! スグに治療してあげるから」
朝比奈コウタの胴体にくっきりと残った牙の傷跡を治そうと懸かるナースエンジェル。だが、この時彼女はコウタの傷を診て衝撃の事実を知ってしまう。
「え、そんな……!」「どうした、ナースエンジェル!」
激しく困惑するナースエンジェルの様子に瞬時に察したメタルバードが彼女の許に飛び降りて訊ねると、ナースエンジェルは衰弱していく朝比奈コウタの容態と状態についてメタルバードに詳細を伝えた。
ナースエンジェルから衝撃の事実を伝え聞いたメタルバードは、速急に仲間に呼び掛けた。
「な、何だと……! そいつはマズイ……セーラームーン! それにキューティーハニーに風! それから癒しの水の力を持つウォーターフェアリーに解毒効果の術を得ているジュピターキッド! 更にみんなの能力を上昇させられるミラーガール! 全員コッチに来てくれ! ナースエンジェルと共に朝比奈コウタの治療に取り掛かってくれッ、急がねェとコウタの小僧が死んじまう!!」
「え!」「こ、コウタが……!?」「! ……」
メタルバードの突然の召集に一驚するミラーガールやその他のヒロイン達。そして同期であるコウタが死んでしまうかもしれないと耳にして困惑する篠目アカネと愕然となる東郷リクヤ。
更にメタルバードは双頭の大蛇と戦闘を繰り広げている同胞の聖龍隊や赤塚組そしてジェイクはもちろん、その双頭の大蛇から必死になって逃避行し続ける新世代型の全員に大声で呼び掛けた。
「みんな気をつけろ! その大蛇は毒を持っている種だ! 噛み付かれたら最悪、死に至るぞ!!」
『!!』
メタルバードの発言を聞いて初めて双頭の大蛇が毒持ちであると認識し驚愕する総員。時おり双頭の大蛇の牙から垂れていたオレンジ色の液体は、実は猛毒だったのである。
一方で、双頭の大蛇の毒牙に苦しんでいる朝比奈コウタの周囲には治療に駆けつけたナースエンジェルとメタルバードの召集で集まった聖龍HEADの面々が集っていた。
治癒能力を持つナースエンジェル/セーラームーン/キューティーハニー/鳳凰寺風、更に癒しの効力が秘められている水の力を持つウォーターフェアリーに存在する毒の殆どには免疫及び解毒作用のある能力を発揮できるジュピターキッド。そして最後に、そんな皆々の能力を著しく向上させる能力の持ち主であるミラーガールが、皆の能力を強めた状態で朝比奈コウタの治療に総員で取り掛かる。
その頃、コウタに毒牙を向けた双頭の大蛇は一向に静まる気配を見せずに未だ暴れ回っている現況であった。
『シャアアァァァアアア……』
二つの頭から低い威嚇音を発しながら、周囲に散らばる聖龍隊や赤塚組に威嚇する双頭の大蛇。一方の対峙する側も、毒牙を持っている双頭の大蛇に噛み付かれまいと一定の距離を置きつつ戦闘隊形を保っていた。
すると此処で双頭の大蛇が赤塚組のアツシ/アケミ夫婦に突進し、二人同時に毒牙を向けてきた。
「来たな!」「これでも喰らいなさいっ」
アツシとアケミの二人は、口を大きく開けて突進してきた双頭の大蛇の両側の口内に向けて構えていたグレネードランチャーで砲弾を撃ち込んだ。
『キシャアァ……ッ』
二つの口内に同時に砲弾を撃ち込まれた双頭の大蛇は怯み、アツシとアケミの二人から退いていった。
「この調子だ! 兎に角、あの蛇のどちらでも良いから口が開いた瞬間を見計らって口ン中に撃っていくぞッ!」
赤塚組の司令塔とも言えるテツの指示の下、赤塚組の幹部衆は双頭の大蛇が口を開く瞬間を狙って銃口を絶えず大蛇に向ける。
しかし当の大蛇は所構わず動き回り、かつ暴れ回っていた為に中々射撃の狙いが付けられず赤塚組は苦悩してしまう。
「くッ……これじゃ狙いが付けられない。こうなったら……」
狙いが定まらず苦悩し続けた赤塚組のテツは、ある策を思い付き自分らと同じく双頭の大蛇に苦戦を強いられている聖龍隊の隊士達にその策を告げた。
「聖龍隊のみんな! 済まないが大蛇に直接、強力な打撃を浴びせてくれないか? 硬い鱗で威力は半減するものの、強烈な打撃を浴びせ続ければ幾らかは動きが鈍くなる筈だ! その隙に俺達が大蛇の口内目掛けて弾を撃ち込んでいくから頼む!」
このテツの講じた策に、聖龍隊の面々は賛同した。
「テツさんの考えが一番筋が通っているわね。ルーキーズ! 武道や打撃系の隊士は接近して大蛇に直接攻撃! 私を含む銃撃や射撃などの遠距離からの射撃タイプの隊士は大蛇が怯んだ隙に赤塚組と連携して大蛇口内を狙っていくわよ! 総員、行動開始!」
聖龍隊スター・ルーキーズ総部隊長ミラールの指示を受けて、ルーキーズの隊士たちは各々の戦闘に特化した役回りで行動し出した。
一方、ミラールと同様にテツの講じた策に同意したフロートが配下のニュー・スターズの面々に命じる。
「テメェら! おれ達もルーキーズに遅れるな! 各自、接近して攻撃する側と遠距離から攻撃していく側に分かれて二つ頭の蛇野郎を叩きのめすぞッ!!」
総部隊長フロートの威勢の良い指示を受け止め、ニュー・スターズの面々も各自己の得意とする戦闘手段で双頭の大蛇に攻撃を展開していく。
と。双頭の大蛇と激しい戦闘を皆が繰り広げていく最中、メタルバードの声が辺りに反響する。
「おーーい、誰かぁ!」
戦闘の中を飛び交う銃撃や混戦から身を低くして難を逃れていた新世代型達がメタルバードの声に反応する。
「どうしたんですか?」
ラルが訊き返すと、メタルバードは先ほど治療を終えた朝比奈コウタの肩を担ぎながら訳を話した。
「このコウタのガキの治療が終わったんだが、このままこの場所に居座らせたんじゃまた大蛇の標的にされかね無ェ。誰か、コウタの小僧を何処か安全な場所まで移してくれねェか」
このメタルバードの訴えに、朝比奈コウタの身を心配し駆け付けてきた猿田学や美都玲奈が承諾する。
「分かりました。では、朝比奈の事は我々にお任せください。健闘を祈っています」
そうメタルバード達、朝比奈コウタの治療に取り掛かってくれた聖龍隊の面々に告げた猿田学がコウタの肩を担いで、彼を余所へ移動し始めた。するとその様子を見て最初にメタルバードの呼び掛けに反応したラルも猿田学に加勢する。
「私もご一緒に手伝いましょう」「ああ、ありがとうございます」
朝比奈コウタの移送を手助けしてくれるラルに、猿田学は率直に礼を述べる。
そして治療が終わっても尚、衰弱し切った朝比奈コウタの運搬をラルや猿田学ら他の新世代型達に一任したメタルバード達は、再び双頭の大蛇との戦闘に戻っていく。
だが一方で双頭の大蛇との戦闘は苛烈を増していき、銃撃で更に展示物であるホルマリン漬けや奇形の動物の剥製が破損していく戦況の中を衰弱している朝比奈コウタを担いで運搬する猿田学とラル。だがその時、間近で破裂する銃声に思わず怯み態勢を低くしてしまう猿田学とラル、そして二人に担がれたコウタは物陰に身を潜める。すると猿田学とラルの視界に、床上に転がっている瓶から零れ落ちた半面奇形の子猫のホルマリン漬けが目に入ってしまった。その他にも床上には幾つもの奇形の動物や人間の胎児のホルマリン漬けが散乱していた。
(ッ……いくら奇形で生まれてスグに死んでしまったとはいえ、生物兵器を生み出す為の研究資料として扱われるとは。酷な話だ)
猿田学は床に散乱する幾つもの奇形の動物や胎児の亡骸を目の当たりにして、甚く遺憾の意を覚えるのであった。
そんな乱戦状況の中、双頭の大蛇への攻撃は一層激しさを増していき、双頭の大蛇の巨体は傷だらけになっていってた。
暴れ回る大蛇の動きを鈍らせるべく、トリコや金剛番長を始めとする武道等の怪力で蛇体を直接攻撃していくと同時に、強力な打撃を受けて動きな鈍くなった大蛇の双頭の口内に銃火器での苛烈な砲撃を放っていく面々。
弱点である口内を集中的に浴びせられ、次第に弱っていくのが目に見えてきた双頭の大蛇。そして遂に双頭の内の一首が力尽きたのか、首をぐったりと下ろして完全に死に絶えた。
ところが、未だ死に絶えてないもう一方の首が所構わず周囲の攻撃してくる面々を喰らい付こうと猛威を振るっていく。
力尽きた一方の首を引き摺りながら、まだ息がある首は攻め続ける聖龍隊や赤塚組に迫っては毒牙で喰らい付こうと必死の抵抗を見せる。
「ひ、怯むんじゃねェ! 首が一つになった時点で、後は残った首に攻撃し続けりゃ俺らの勝ちだ! 気張っていくぞテメェら!!」
総部隊長にて元賞金稼ぎのフロートがアニキ口調で周囲の仲間達をいきり立たせる。
そして最後の首の口内に向けて一気に攻撃を集中させて完全に大蛇の息の根を止めに懸かる。
「キシャァァアア……」
残った首の口内に浴びせられた集中砲火で遂に双頭の大蛇は断末魔を上げながら力尽きた。
力尽きた双頭の大蛇は戦闘で散乱した多くの瓶容器の破片やホルマリン漬けの標本の中で横たわる。
遂に双頭の大蛇を倒す事ができた一同は、戦闘に参加した者/参加しなかった者も含めて全員がホッと胸を撫で下ろし安心する。
だが散乱する部屋の一角だけ。先ほど双頭の大蛇の毒牙に噛まれて衰弱する朝比奈コウタの周囲だけが、彼の容態に気を張り詰めていた。
「コウタ……」「朝比奈……」
毒牙に喰い付かれ、全身に毒が回っていたのを聖龍HEADの総力を挙げた治療で解毒したものの未だに意識が朦朧としている朝比奈コウタの身を案じて悲痛な面持ちを浮かべる篠目アカネと東郷リクヤ。
すると朦朧としていた朝比奈コウタが目を開き、アカネとリクヤの顔を視認する。
「あ、アカネ……リクヤ……」
「こ、コウタ!」「朝比奈、気が付いたか!」
意識を取り戻しつつある朝比奈コウタの容態に少しばかし安堵した篠目アカネと東郷リクヤの二人は思わず表情を緩める。
更に意識を少しずつ取り戻していく朝比奈コウタの許に、双頭の大蛇との戦闘を終えたあのジェイクが歩み寄っては声をかけてきた。
「大丈夫か、ボウズ」
ジェイクなりにコウタの身を気遣って声を掛けた積りであったのだが、声を掛けられた朝比奈コウタは苦笑の表情でジェイクに言葉を返した。
「あ、ああ……大丈夫だよ、一応は。ふぅ、元々は……アンタの親が造り始めた兵器が、今ではあんな奇形の動物にまで応用されちまうとはな」
「!」
朝比奈コウタの、この多少の皮肉が篭った発言にジェイクは返す言葉を失うほど衝撃を受けた。
そしてこの時、コウタの発言を切っ掛けに痛感する場の重い空気を新世代型特有のテレパス系統の共有感知で敏感に感じ取ってしまう他の新世代型達。
そんな場の空気を真から察して多少気まずい雰囲気になってしまう新世代型達とジェイクの空気を何とか誤魔化そうと、メタルバードがその場の皆に言い放つ。
「よ、よし。取り敢えず怪我を負った朝比奈コウタを運びつつ、安全な場所まで移動しよう。な」
「そ、そうだな……いっくらバケモノだらけの施設でも、バケモノが出ない場所の一つぐらいは有るだろう」
何とかその場の空気を誤魔化そうと現地からの移動を皆に勧めるメタルバードに対し、それに同意する大将は何ゆえ場の空気が重くなってしまっているのか理解できず戸惑っていた。
そしてメタルバードは場を移動する皆と共に歩き出し、同時に負傷者のコウタを担いで彼を運ぶラルと猿田学に歩み寄り声をかける。
「お二人さん、大丈夫か? 運ぶの手伝おうか?」
コウタの両肩を担いで彼を運ぶ中年男性のラルと猿田学の二人に運び役を代行しようかと声をかけるメタルバード。そんなメタルバードの気遣いにラルと猿田学は険しい顔色で答え返す。
「いやいや、お気遣い無く。私達だけで大丈夫ですわい。まだまだ若いもんには負けませんって」
「同じく私も。この朝比奈も私にとっては大事な生徒。私自身で彼を移動させなければ……」
「あ、ああ……分かった。でも、無理はしないでくれよな」
ラルも猿田学も気遣い無用の言葉を返し、そんな二人にメタルバードは若干の不安が混じった表情を浮かべながらも気に掛ける。
しかし一方で、先ほどの朝比奈コウタの一言に人知れず立ち尽くすジェイク。彼は厳つい面持ちで思い耽ていた。
(……確かに。D-ウィルスから造り出されたとはいえ、生物兵器の開発の根源はアンブレラ。そして、その幹部だったのが……)
そんな厳つい面持ちで立ち尽くし、険しい表情を浮かべるジェイクに気付いて、彼と彼の事実を知ってしまった新世代型達と違い全く真情を知らない赤塚組の大将がジェイクに呼び掛ける。
「おぉい、ジェイクのあんちゃん。俺らも先に行こうぜ。正直、こんな薄気味悪い標本ばっかり並んでいる部屋に居るだけでも鳥肌もんだ」
「……ああ、今行く」「?」
奇形の動物や胎児が標本として陳列されている部屋に居続ける事を躊躇う大将の心境に対し、ジェイクは重苦しい顔付きで返答する。そんなジェイクの様子に気掛かりを持ちながら、大将はジェイクと共に他の皆と一緒に先を進んでいく。
双頭の大蛇との戦闘を終えて、室内を出た一行は負傷者の朝比奈コウタの身を気遣いながら先を進んでいく。
そんな状況下の中で、ジェイクの隣で共に歩む大将が何となくジェイクに話し掛けた。
「に、しても……いっくら修司の遺伝子が優秀だからって、その遺伝子を基にD-ワクチンやD-ウィルスなんて物騒なモン造るなって話だよな。ジェイクのあんちゃん」
「あ、ああ……そうだな」
ジェイクの方は少々気まずい雰囲気を醸し出しているのを、この時大将は全く気付いていなかった。
「まっ、さっきバーンズの野郎に聞いたんだが、D-ワクチンはほぼ全てのウィルスを強化する作用があるから、こうして物騒な生物兵器に応用されちまうのが現状らしいけどな。本来D-ワクチンは正しく使えば人間にとって有効な薬物や改質酵素として用いられる素晴らしいワクチンみたいだけど」
「……………………」
「そんなD-ワクチンをウィルスに転用しちまうってのは、やっぱそういった機関が強力な生体兵器を欲したりしているのが悲しい現実なんだろうなぁ。それもこれも、生物兵器開発の発端とも言える製薬企業の悪行が今になっても事態を納まらなくさせちまっているのが原因だけどな」
「! ……」
大将の発した台詞に過敏に反応するジェイク。だが大将はそんなジェイクの様子に微塵も気付かず話を進める。
「お前さんも聞いた事ぐらいはあるだろ? かつてアメリカに存在していた巨大製薬企業アンブレラ。そのアンブレラが裏で極秘に危険極まりない生物兵器を製造し続けて世界中に売り捌いていたって話を。その元凶のアンブレラは今じゃ崩壊しちまって悪名だけが残っているが、その名残として未だに多くの生物兵器が世の中に出回っちまっているがな」
「………………」
大将の話を聞いてより一層険しい顔付きになるジェイク。だがジェイクの心情に全く気付かない大将は話を続行してしまう。
「オマケに、そのアンブレラでも最も悪名を募らせたのが元幹部だったといわれるアルバード・ウェスカーってクソ野郎だ。アンブレラに居た頃から多くのバイオハザードの裏で暗躍し続け、そしてアフリカの地でのバイオハザードの一件でようやく死んでくれた最低最悪な野郎だった。そいつが居たから未だに生物兵器が根絶されてないって言われちまっているしな」
「………………!」
淡々と語る大将の話を沈黙を保ちながら黙って聞く耳を立て続けるジェイク。その顔は明らかに不快な心情を表していた。
「……ん、どうしたんだジェイクのあんちゃん。そんな仏頂面で恐い顔しちゃってよ」
尋常でないジェイクの様子にやっと気付いた大将は、平然と悠々とした口調で訊ねるのだが、この大将の態度にジェイクの腹底に溜まっていた不快感が爆発してしまった。
「ウッセェよ! テメェさん達には関係ねェだろうがッ!!」
「わッ! な、何だよ急に怒り出して……何か、気に障る事でも言っちまったか?」
突然立腹するジェイクの様子に驚く大将だったが、何が彼の気に触れてしまったのか把握してはいなかった。
そして大将の話を一方的に受け止めていたジェイクは、腹を立てたまま先へと速足で進んでいき皆の更に先へと一人走りしてしまう。
「お、おおい! 一体どうしちまったんだよっ、ジェイクのあんちゃん!」
突然態度が急変したジェイクに戸惑いながらも彼を呼び止めようとする大将。だがジェイクは立腹したまま先へと一人走りしてしまう。
この時、大将の話が耳に入っていた聖龍HEADの面々とジェイクの心情を感知していた新世代型達は、なぜジェイクが不快な想いに駆られてしまったのか理解していたが、それ故に複雑な心境に駆り立てられてしまうのであった。
[互いに語り明かされる内情]
一行は双頭の大蛇に噛み付かれ、深手を負った新世代型の朝比奈コウタを担いで比較的安全な場所を探し回った。
そして遂に施設内の休憩所の様な自販機などが立ち並ぶ小部屋に辿り着き、其処に生物兵器が居ない事を確認すると負傷した朝比奈コウタを壁際に寄り掛からせて休ませる。
コウタが消耗した体力を取り戻す間、他の新世代型達も此処まで無事に逃げ延び、そして走り抜けてきた疲労を回復させようと各々休息に入った。
そんな皆が個人個人で束の間の休息を取っている最中、未だ客観的に不機嫌になっているジェイク・ミューラーの事を気掛かりしている大将が気まずい雰囲気の中、ジェイクに話し掛ける。
「じぇ、ジェイクのあんちゃん、どうしちまったんだよ。さっきから何だか機嫌悪そうだけんど……」
「………………」
大将が気を遣って話し掛けるものの、ジェイクの方は先ほどから変わらず仏頂面で如何にも不機嫌そうな面構えで黙り込んでしまってた。
そんな仏頂面のままで不機嫌に口を硬く閉ざすジェイクの真情と、そんなジェイクを気に掛けて極普通に接する大将のやり取りを例の共有感知で自然と感知してしまう新世代型達。彼等は何故ジェイクが不機嫌になってしまったのか、その理由すら共有感知で全員が知り得てしまっているのだ。
「ジェイクのあんちゃん、ホントにどうしちまったんだよ? 何か気に障る事、言っちまったか? なぁ、黙っていたんじゃ分からねェよ」
「……ウッセェな! 放っといてくれよ、俺の事は」
自分の言動で機嫌を損ねてしまったのではないかと自責の念に駆られる大将に反し、不機嫌なジェイクは自分の事に構わず放って置いてほしい心境であった。
「ど、どうしたって言うんだよ。ホント……」
ジェイクの心情が掴めず苦悩する大将。そんな大将に琴浦春香が近寄っては声を掛けて来た。
「あ、あの、大将さん……ジェイクさんの事は少し、その……そっとしておいて上げた方が」
「あん? だけどよ、ジェイクのあんちゃん突然態度が前以上に荒っぽくなっちまって……何か気になんのよ」
ジェイクの真情を察している新世代型の一人、琴浦春香からの指示に対し大将は荒っぽかった性格が更に荒々しくなってしまったジェイクが気になって仕方が無かった。
そして大将は琴浦春香の訴えを退け、一人厳つく物思いに耽っているジェイクを問い詰めていく。
「なぁ、一体どうしたって言うんだよジェイク! 何か気に障る事言ったんなら謝るけどよ、何に対してそんなに気を立てているのか言ってくれなきゃ解らねェだろうがよ」
「ッ………………」
だが問い詰められるジェイクは厳つい表情を更に険しくさせては黙然と黙り込んでしまう。
「タクッ、どうしちまったんだよぉ。急にご機嫌斜めになっちゃってさ」
突然と不機嫌になり反発してくる様になったジェイクに対して大将はふくれっ面で反感した。
するとその時、先ほどからジェイクと大将のやり取りの一部始終を耳にしていた赤塚組のミズキが、一方的に問い詰める大将とそれを受け流すジェイクに言った。
「……もしかしてジェイク。貴方の機嫌が損なわれた理由って、さっき大将が口にしたウェスカーの事なんじゃないの?」
「!」「な、なに?」
ミズキの突然の発言に不意を衝かれるジェイクと驚愕する大将。
そして大将は慌ててジェイクに確認をする。
「ほ、本当なのか、ジェイクのあんちゃん。もしかすっと……お前さん、昔何らかの形でウェスカーのクソ野郎に何かされた経緯とか有んのか?」
「………………」
ミズキからの指摘を受けた上に、それに対して再び問い詰めてくる大将の問い掛けにジェイク本人は表情を一変させて物静かな仏頂面で目を逸らし続けてた。
正確な真実が知りたい大将は更にジェイクへと問い詰めていく。
「なぁ、お前さん……あのウェスカーと何かあったのか」
「ウッセェ!」『!!』
執拗な大将の質問攻めに対して静まり返っていた心情が一気に込み上げたのと同時に怒号を放つジェイクの怒声に周囲の皆々は一驚した。
そして一言、怒声を言い放ったジェイクは気まずい空気の中、大将から離れる様に歩き出した。そんなジェイクに再度声を掛けようとする大将に対して棗鈴が制止しに来る。
「大将さん。今はしばらく、そっとしておきましょう。ジェイクにはジェイクの苦しい想いがあるんですし……」
「だ、だけどよ……それならそれで話してくれた方が俺ら的にも理解し合えるし都合が良いんじゃないか」
棗鈴からの切なる訴えに対し大将は互いの理解を深める為にもジェイクの内情を知っておきたいと反論する。
だが大将は、そんな自分に言い寄る棗鈴やジェイクの真情を既に理解している新世代型達の真意など微塵も察知せず淡々と語り明かす。
「ジェイク、一体あのウェスカーと何があったんだ? あのクソッタレな下衆野郎に何かされたのか? 何をウェスカーの名前を聞いただけで、そんなに腹立てている訳なんだ?」
切実に問い掛ける大将だが、ジェイクの方は静寂に包まれたかのような雰囲気で腰をしゃがませて黙り込んでしまってた。
「……確かにアルバード・ウェスカーはトンでもない大悪党だったぜ。アンブレラの時代から裏方で色々と悪どいやり口で生物兵器の実験を繰り返し行っていたし、それが元手でラクーンシティもウィルスに侵されて最後はミサイルで町ごと消滅されちまって……挙句の果てにはアフリカでウィルスを詰め込んだミサイルを搭載した戦闘機で発射して、世界中をウィルス塗れにしようとしたイカれたクソッタレだったけどよ。だからって、そんなウェスカーに何かされたとはいえ、今じゃとっくにくたばっちまっている悪党の事で何時までも悩んでいたって意味無いぜ。悪党の末路なんてロクなもんじゃねェしよ」
大将が真実を知らずに淡々とアルバード・ウェスカーの結末を語り終わると、静寂を保っていたジェイクが徐に立ち上がり辺りを歩き回りながら大将や皆に聞こえる様な声量で語り返してきた。
「俺も、そのウェスカーってクソ野郎については知ってるよ。実際は会った事すら無いけどな」
「? 会った事すらない?」
ジェイクの態度からウェスカーとは面識が有ると思い込んでいた大将は、このジェイクの告白に心底驚いた。
そしてジェイクはそのまま語り続ける。
「アルバード・ウェスカー、俺と同じで様々なウィルスに抗体を持ってた元アンブレラの幹部だった男。様々なバイオハザード事件の黒幕として暗躍し続け……最終的には今アンタの言ったとおりアフリカの地でミサイルを発射して全世界の人間をバケモノに変身させちまうウィルスを撒き散らして世界を支配しようとしたクソ野郎。オマケに最終的には、そのウィルスで自身をバケモノに変えて死んでいったっていう……だが何よりもムカつくのが!」
ジェイクは床に転がっていたタンク缶を蹴飛ばし、己の怒りを面に出しながら静かに告白した。
「…………俺の、クソ親父って事だ」「……!」『……』
このジェイクの告白に初耳の大将は肝が抜かれるほど驚き、大将以外の赤塚組やニュー・スターズ/ルーキーズといった聖龍隊士などの面々も、ジェイクから語られた衝撃の事実に絶句してしまう。
悪名高きアルバード・ウェスカー。そのウェスカーに実子が居るだけでも驚きだと言うのに、それがまさか今目の前に居る青年ジェイクこそウェスカーの息子であった事実に、その事実を初めて知った赤塚組に聖龍隊のニュー・スターズ/ルーキーズは愕然としてしまう。
この時、既にジェイクの実情をテレパシーで経由して周知していた新世代型達は目の前の場景を眺めるしかできなかった。
そして初めて知ったジェイクの素性に驚きを隠せない大将は、既に周知していたであろう余り驚いていない聖龍HEADに動揺しながら訊ねた。
「お、おい……今のジェイクのあんちゃんが言った事って、本当なのか」
動揺しながら訊ねる大将の問い掛けに、メタルバードが重い口を開いて語った。
「ああ、本当だ。この事は公にはされてないが、確かにジェイクはかのアルバード・ウェスカーの血の繋がった息子だ。まぁ、本人も遂最近知った事だけどな」
「……………………」
メタルバードの口から語られる事実に大将は愕然としてしまい、口を開けっ放しにしてしまってた。
一方で重い口を開き、自らの素性であるウェスカーとの血縁関係を告白したジェイクは暗黙の雰囲気の中で再び床に座り込んでしまった。
ジェイクにとってアルバード・ウェスカーは全く面識の無い父親。だがその父親が犯した数々の悪行によってジェイクは己が望まない宿命を背負う形で生きてしまっているのだった。
この研究施設で活発に活動する生体兵器も、元を辿れば己の父親であるウェスカーやそのウェスカーが所属していたアンブレラによって造り出された生体兵器。そんな生体兵器と対峙しながら、その生体兵器によって苦しみ恐怖する者の存在はジェイク本人にとっても苦汁の想いであった。
このジェイクの素性を初めて知った大将は、戸惑いつつもジェイクに声を掛けようとした。
「な、なぁ……ジェイクのあんちゃん、その……」
大将がジェイクに声を掛けようとした瞬間、ジェイクはその厳つい顔を大将に向けて無言の威圧を掛ける。
「っ……そ、その……済まねェな、何も知らずにお前さんの事色々と詮索しちまって。本当に済まん」
ジェイクの無言の威圧に一瞬動じる大将であったが、それでもジェイクに執拗な詮索を一方的に問い詰めてしまった事を心から詫びた。
そんな大将の心からの謝罪を受けて、ジェイクは厳つい真顔を振り向かせてはスッと立ち上がり大将と対話した。
「……もう良いさ。俺にとっては親父のやった事は関係ねェし、何より会った事すらない親の事でいつまでもクヨクヨしちまうほど柔な人間じゃねェよ。それ以前に……昔、ある女から言われた。『親が酷いから何だって言う……生きる事に信念が持てないのは、自分の問題』だとな。俺も、もうスッキリ親父の呪われた血を受け入れた。そして今じゃ、その呪われた血による抗体で怪物狩りが日常になっちまっているのさ」
『………………』
「……フッ、まぁ小せえ頃から戦場で生きてきた俺に取っちゃ、倒す相手が人間じゃなくバケモノに変わっただけだがな」
ジェイクの話の内容に愕然とする大将や周囲の新世代型達を前にしても、ジェイクは淡々と自分の信条を語り明かした。
そしてジェイクは大将と話し終えると、既に自身の素性を周知していた新世代型達に歩み寄っては徐に訊ね掛けた。
「お前さん達は、既に俺の素性を知っていたみたいだが……」
するとこのジェイクの問い掛けに新世代型の美都玲奈がそれに答えた。
「私たち新世代型の共有感知で貴方の事はもちろん同じ新世代型の二次元人同士の素性まで、自分の意志とは関係なく頭の中に入ってきてしまうのよ。新世代型同士はお互いの共有感知って潜在神経が覚醒した為にお互いの素性や心情を知り得てしまうけど、貴方を含む他のタイプの二次元人の場合は其処の琴浦春香さんを始めとするテレパシー系能力者のテレパスを通じて、新世代型同士にも相手の心境が伝わってしまうの」
「成る程ねぇ。それじゃ、その共有感知って能力が覚醒してから俺の素性や過去も全て知っちまっているって訳か」
「そう言う事になるわね。本来のテレパシー能力者が、自身の能力を制御できない様に私たち新世代型の共有感知も制御が利かず勝手に周囲の人々の内情や心境を知ってしまうのよ。ゴメンなさい、何だかプライバシーの侵害みたいで」
美都玲奈が謝罪の言葉を述べると、ジェイクは微塵も気にしていない様子で話し返した。
「なぁに、もう良いって。俺も最初は自分のウィルスに免疫のある体質に関しては戸惑ったからアンタらの苦労も少しは理解できる。それよりも、あんた達も俺と同様にウィルスに対する免疫が生まれ付き備わっているって言うじゃないか。そう言った意味じゃ、お互い同じ様な境遇だな」
自身のウィルスへの免疫力が備わった遺伝的体質に戸惑っていた経験のあるジェイクは、共有感知と云うお互いの真情を隅々まで知り得てしまう能力が覚醒してしまった新世代型達の気苦労を理解してくれていた。
「ふっ、その通りね。私達の場合は、それが原因でこの施設に誘拐されて監禁されてしまっていたけど」
ジェイクの返した話に思わず苦笑で話し返す美都玲奈。するとジェイクも口元に苦笑を浮かべながら話し返してきた。
「ふぅ、俺様もこの体質には色々と苦労が絶えねェよ。あんた等は生まれ付きの体質だが、俺の場合は親父からの遺伝で受け継いじまった免疫だし、この免疫体質が切っ掛けで色々とウィルス関連の事件に勝手に巻き込まれちまう。この研究施設に忍び込んだのも元を辿ればその免疫体質がそもそもの発端だしな。まっ、まさか此処の研究施設で俺と同じウィルスの抗体があるアンタら新世代型と出くわすなんて皮肉な縁だな」
「確かに……皮肉と言えば皮肉ね。貴方との出会いはもちろん、自分と同じ新世代型の二次元人と初めて顔を合わす切っ掛けがまさかのウィルスへの抵抗力が体に備わっていた為に施設に連れて来られたのが、そもそもの発端だから本当に皮肉ね」
聖龍隊や赤塚組はもちろん、自分たちウィルスへの免疫が備わっている者同士の遭遇が不思議な縁に感じるジェイクと美都玲奈。無論、その不思議な巡り合わせを感じ取っていたのはジェイクや玲奈だけでなく他の新世代型達も同じであった。
そしてジェイクは一通り赤塚組や新世代型達と話し終えると、装備している銃器の点検を始めた。
一方で、蓄積した疲労を少しでも解消するべく休息に入る新世代型同士でも、ジェイクの告白を切っ掛けに自身に対する素性を周囲の他の新世代型に語り始めた。何よりも、既に共有感知で互いの素性や心境が解り合ってしまう状況だから今さらな話ではあるが。
「……共有感知で知ってしまったけど、凄く辛い思いをしてきたのね。あなた達双子は」
「それにしても酷い話ね。親子水入らずで暮らそうとしているのを引き裂くなんて……あなた達、名士の一族は」
気難しい悲痛な面差しで
葉留佳と佳奈多の母親は古くからの名士の生まれで、プライドが高く子孫を絶やさないため母親とは幼馴染だった2人を婿としていた。
だが2人が産まれた後に3人で家庭を持とうとしたところ2人は両親から引き離されてしまい、それに反発した婿の一人、三枝晶が2人を取り戻そうと三枝家に乗り込んで結果として殺人未遂・放火事件を起こして逮捕。葉留佳と佳奈多はそれぞれ別の家に引き取られ、その後2人の中で比較的秀れていた佳奈多が三枝家の跡継ぎとなった。
だが佳奈多は、引き取られた先でも虐待を受け更に三枝家全体から葉留佳を敵視する様に言われるなどされ、そのため葉留佳を守るために敢えて葉留佳に冷淡な態度を取り続けていた。
一方、陰では葉留佳が両親と暮らせるように工面するなど彼女を守るように尽力していた。
佳奈多にとって葉留佳は最愛の存在であり、彼女が無事なら後はどうでもよいと断言するほどである。最終的には理樹の助けで成長した葉留佳の願いを受け、全てを打ち明けて和解した経緯があるのだ。
この悲しい事実を共有感知で知り得た教師の美都玲奈と母であるイオリ・リン子は非常な名士の一族の傲慢かつ冷酷な事情を知って葉留佳と佳奈多に同情した。
二人の女性からの心優しい気遣いに葉留佳と佳奈多は薄らと悲しげな表情で話し返した。
「良いんです。もう、昔の事ですし……何より今では、三枝家とは決別して家族五人で暮らせていますので。これもそれも、全て理樹君の助言のお陰なんです」
「何より……私達が三枝一族と決別した直後、タイミング良く政府の軍事警察が三枝一族を拘束して、人権を剥奪される
実は後に三枝一族は三次元政府より、永くに渡る陰湿な行為によって
一方、壁際に腰を掛けて休息する
「ねえ……あなた、あの幸平城一郎の息子なの?」
気難しい顔で問い掛けて来たえりなに対し創真は平然と答え返した。
「ああ、そうだぜ。俺の料理の腕は3歳の頃から親父が叩き込んでくれたモンなんだ」
「……!」
創真の発言を聞いた途端、えりなは表情を険しく固めた。
「そ、そうだったの……!」
えりなは完全に動揺している様子だった。兼ねてより共有感知で
更に、えりなは創真に学園入学時の事実を訊ねた。
「それと……私が入学テストの際に不合格にした料理を合格に変えたのって、その時一緒に評価を下していた料理長な訳?」
「ああ、あれな。確かにアンタが不味いって吐き捨てた料理を、アンタが去った後料理長が様子の可笑しかったアンタを見て俺の料理を味見してくれたら大変気に入ってくれて、それで合格に変えて貰ったのよ」
「……!!」
これまた、えりなに取っては想定外の事実だった。当初えりなは入学テストの際に創真が出した庶民的料理に大変激怒し、不満を持ちながら食してみた所かなり美味に感じてしまう。だが悔しさ余りに創真の料理を不味いと吐き捨て不合格にしてしまってたの。だが、その自分の真情を察して改めて味見した料理長が創真の不合格を取り消して学園への入学を認めていたのを彼女は知らずに過ごしていたのだった。そして今まで創真の入学は何らかの手違いであると勝手に思い込んでしまっていたのだ。
改めて創真の入学が手違いではなく、料理長が自らの申し出で不合格を取り消した適切な処置であった事を知った薙切えりなは心底衝撃を受けた。
そんな衝撃を受け、言葉を失う薙切えりなに今度は創真の方が訊ねる。
「……そういうアンタも、俺の親父とは何だか面識があるみたいだけど……」
すると薙切えりなは胸ポケットから一枚の写真を取り出し、創真に見せた。
「おい、コレって……!」
写真を見た創真は愕然とした。そこには薙切えりなと己の実父幸平城一郎が並んで写っているのだ。
そして創真に写真を見せた薙切えりなは静かに語り始めた。
「私の完璧な料理を求める根底は……全てあなたの父親、城一郎氏が発端なの。でもまさか、その城一郎さんと貴方が親子だなんて皮肉だわ」
薙切えりなの告白に今度は創真が衝撃を受けた。
そもそも彼女が完璧な料理を求める根底には、どうやら創真の父・城一郎が関係しているらしく、城一郎とのツーショット写真を肌身離さず持ち歩いているのだ。
そしてえりなは何時にも増して真剣な顔付きで語り始めた。己の美食センス、そして神の舌(ゴッド・タン)を引き出したのは己の父、薙切薊の教育による賜だと。だがそれは教育とは到底呼べない恐怖心によるものであった。美味/不味の食事を交互にえりなに差し出し、不味と感じた食事を一切の躊躇いを許さないままゴミ箱に投棄するという、当時の食事を粗末にしたくないと言うえりなの心意を完全に無視し拒絶した洗脳に近い教育だったのだ。
えりなの幼少の事を聞いた創真は、改めて彼女が庶民的料理への嫌悪と偏見の根本的理由を知るのだが、それに対しても創真は何時もの悠々としたマイペースな態度でえりなに言い返した。
「まっ、いつかはアンタの口から美味いって言葉を言わせてみせるさ」
「…………」
創真からの挑戦とも言える言葉に、えりな本人は無言の無表情で黙然と聞き入れた。
これは後に幸平創真の最終目的とも言える自分自身への挑戦宣言だったのかもしれない。
その頃、世界最高峰のホビーつまり玩具と認定されたLBXのプレイヤー養成学校「神威大門統合学園」で生活していた生徒達に質問攻めが待ち受けていた。
「な、なぁ……あんた達って、あの神威大門統合学園に居たんだろ?」
「国と国を滅ぼし合う代理戦争をLBXで行っていたって本当なのか!」
『…………』
次々に投げ付けられる質問の数々に苦渋の表情を浮かべて返す言葉が見つけられない学園関係者達。
現在LBXは世界最高峰のホビーとして認定され、プロリーグの設立などビジネス業界でも絶大な存在感を獲得していた。
そのLBXを操るLBXプレイヤーの養成学校「神威大門統合学園」は世界唯一のLBXプレイヤー養成学校として有名であったのだが、そこでは直径10kmもの巨大ジオラマ「セカンドワールド」を用いた疑似戦争「ウォータイム」への参加が義務付けられていた。だが後にウォータイムは擬似戦争ではなく本物の国家の存亡がかかった代理戦争であることが明かされ、更にテロリストによって学園が占拠され難を逃れたものの本当に死者が出ていた正真正銘の戦争に発展しかけた事が報道機関を通じて全世界に広がっていたのだ。
そんな代理戦争を教育の一環として平然と行い続けていた学園関係者や生徒達に襲い掛かる質問の数々に、遂には目に涙を浮かべて耳を塞いで悲感する女子生徒も続出し始めたのを目にして聖龍隊総長メタルバードが急ぎ飛び交う質問攻めを治めた。
「其処までだ。彼等が困惑しているのが解らないのか」
メタルバードが間に入っての制止でどうにか飛び交う質問攻めが静まった。
そして静まり返った現状を前にしてメタルバードが学園関係者に代わって彼等の真情を語り始めた。
「生徒達は最初は知らなかったんだ。単に子供同士で交流を図る遊具の一つに過ぎなかったLBXが、まさか代理戦争に使用される事となっていたとは……。実際に、その代理戦争で現実の戦争は幾つか消滅できていたが結局は子供達の真剣なLBXの想いを身勝手な大人達が利用していただけなんだ。生徒達に悪意は全くないんだ。そうだろ、大門学園長殿」
そう言ってメタルバードは険しい目付きを部屋の片隅で座り込んで黙々としていた大門ジョセフィーヌに向けた。
大門ジョセフィーヌは蒼々とした面持ちで重い口を開いては己の真情を語り始めた。
「し、仕方なかったのよ……! 現実の世界から戦争を失くすには、セカンドワールドでの擬似戦争で片を付ける以外……方法が無かったのよ!」
蒼々とした面持ちで両肩を抱き締めながら震えて事の真意を語り明かす大門ジョセフィーヌ。
しかし、そんな身を震わせて論弁する大門ジョセフィーヌに神浜コウジが問い詰める。
「だけどアンタ。その為に、そのセカンドワールドに美都さんの父親を部品として幽閉していたんだろ! 何が世界平和の為だ、ただの虚構の平和を……権力者の保身の為の行為じゃないか!」
「……………………」
一方的に神浜コウジや周囲の人々から問い詰められる大門ジョセフィーヌは、最早何も言い返すこともできずに単身蹲って身を縮ませるばかりであった。
そんな一方的に攻められる大門ジョセフィーヌを始めとする生徒を含んだ学園関係者と言い寄る他の新世代型の間に再びメタルバードが立ち入って悶着を収拾させる。
「もうそれぐらいにしてやれって。もう大門のオッサンも学園でのテロ以降、十分に懲り懲りしているんだし、そのテロを切っ掛けに神威大門統合学園は正真正銘のLBXプレイヤーの養成学校として生まれ変わったんだからよ。何よりセカンドワールドでの代理戦争を支持していた多くの権力者は、その学園内でのテロ以降殆どが失脚したりはたまた病死したりして騒動が治まったんだから、それで良しとしようじゃないか……大門のオッサンも反省してるし、何よりその部品として用いられた美都玲奈の親っさんも確か現在都内の病院で治療を受けて回復に向かっているみたいだしな。そうだろ、玲奈の姉ちゃん」
メタルバードからの質問に、父親をセカンドワールドの部品にされたが後に無事に救出し病院に搬送した娘の美都玲奈は悲痛な面差しながらも頷いた。
更にメタルバードは、テロ騒動後の神威大門統合学園について語り始めた。
「何より、そのテロを発端にセカンドワールドの真実が世界中に公表され、代理戦争を続けられなくなった政府や当局は渋々学園から手を引いて今では少しずつ本物のLBXプレイヤーの養成校へと変わりつつある。その際、自責の念に駆られた大門のオッサンが学園を閉鎖しようと言い出したのを猿田のオッサンが制止した事で学園の復興が本格的に開始になったんだ。子供達に大人の身勝手な戦争の代理をさせるのではなく、正真正銘のLBXという一つの相手と相手を結びつける道具の真価を高めようと行動を起こしているんだ。まぁ、そのテロが原因で親族から学園を去る様に言われた生徒も多数いるって話だが……」
メタルバードが目を向けた先には、テロ事件終結後に学園を去った磯谷ゲンドウ/浜岬タイガ/東郷リクヤ/篠目アカネ/ロイ・チェン/朝比奈コウタ/キャサリン・ルース/園山ハナコ/笹川ノゾミらが複雑な心情を顔に浮かべて沈黙していた。
「……まぁ、学園に残った者、残らなかった者も含めてテロ事件以降の学園は色々とシッチャカメッチャカだったみたいでな。言っちゃ何だけど、残った奴等も残らなかった奴等も事件後は色々と大変だったんじゃないか? 例えばマスコミが押し掛けての質問攻めとか……」
メタルバードから事の意表を衝かれ半ば衝撃を受ける学園関係者達。すると鹿島ユノが皆に代わって答え返した。
「え、ええ……やっぱり、テロに巻き込まれた事はもちろん、私達が授業として行っていた活動そのものが権力者達が望んでいた代理戦争だった事も含めて色々とマスコミ何かに聞かれました……」
重い口調で語り明かす鹿島ユノの話を聞いたメタルバードは、今度はそのセカンドワールドでの代理戦争に深く関与していた権力者の一人であった男の息子に話を掛けた。
「お前さんの親父さんも……代理戦争を望んでセカンドワールドでの活動を延々と続けていたらしいな。まぁ、今となっちゃ空のお星さんになっちゃった総理大臣だし詳しい事情は藪の中だけど」
「……はい。確かに父も代理戦争を望んでいた権力者の一人だったのかもしれません。僕自身、父に直接お話を聞きたかったのですがテロ事件終結後には既に亡くなられてて……」
暗い面持ちで語り返すのは、学園でのテロ当時の総理大臣であった東郷儀一の息子、リクヤであった。父であり総理大臣である東郷儀一は生徒達がセカンドワールドでの擬似戦争が本物の国家の存亡を担っていた代理戦争だと知り、これ以上のセカンドワールドでの代理戦争を拒んでいる意志を息子であるリクヤから聞かされるものの、その意志を拒絶し最後までセカンドワールドでの代理戦争を推奨したまま病死してしまったのである。
メタルバードは再び話の矛先を、例の父親をセカンドワールドの部品に使用された美都玲奈に振る。
「美都の姉ちゃん。そう言えば、あんたの親父さん……確か美都英輔だったっけ? ちゃんと回復に向かっているんだよな? オレたち聖龍HEADはあんた等新世代型の監視を三次元政府から命じられてはいるが、そう事細かく監視の目が行き届いてないから完全に把握してないけど、大丈夫なんだよな」
美都玲奈の父親 美都英輔の身を案じるメタルバードの問い掛けに、娘の玲奈はしっかりと答えた。
「ええ、今の所は大事ないと御医者様からも言われているわ。かなり心身ともに疲労が積み重なっているけど、しっかりと養生すれば良くなるって」
「そうか、それは良かったな。あ、所で大門のオネエのオッサンに猿田のオッサン。アンタ等に申し出があるんだが……」
『……?』
美都玲奈からの答え返しに安堵したメタルバードは直後に今度は大門ジョセフィーヌと猿田学の二人に話を振ってきて、これに二人が唖然としているとメタルバードは思わぬ事を語り始めた。
「もし良かったら……学園の復興にオレたち聖龍隊も一肌脱いでやろうか?」
「え!」「と、と言いますと……」
メタルバードの発言に動揺する大門と猿田。そんな二人を前にメタルバードは衝撃的な話を持ち掛けるのだった。
「なに、簡単な事よ。代理戦争ばっかやっていた学園で、しかもその代理戦争を行っていたセカンドワールドが崩壊して殆どの機能を失くしちまった神威大門統合学園に聖龍隊の口添えで多大な基金を贈って上げようかって話だよ。ほら、学園復興には何かと物入りだろ。金の事なら少しばかしはオレたち聖龍隊で何とかできるし、寄付金ぐらい贈呈してやるよ」
「ほ、本当!?」「本当ですか、その話!」
メタルバードの話を聞いて飛び上がる大門と猿田。そんな反応を見せる二人にメタルバードは満面の笑みで話し返した。
「ホント、ホント。オレ達は前総長の修司の頃から、そりゃもう並々ならぬ人脈が世界中に拡散していると言っても過言じゃない。その人脈と、その人脈から成る資金で様々な事業にも出資したりできるし、何より代理戦争をやっていたっていう風評で世間からの風当たりが半端ねェし余り活動しにくいだろ? そういう時にこそ物を言う人脈が修司の頃からオレたち聖龍隊に繋がっているのよ。だから資金も活動も思うがまま、大船に乗った積りで安心しとくれ」
『………………』
メタルバードからの思わぬ助け舟に心の底から安堵の表情を顔に浮かべる大門ジョセフィーヌと猿田学。
更にメタルバードはそのまま調子に乗ってか、側で蹲って休息していた【プリティーリズム・レインボーライブ】の面子にも声を掛けた。
「お前達にも色々と援助してやろか?」『…………』
メタルバードの発言に面々は不意を衝かれた真顔を向けてキョトンとした。そんな面々にメタルバードは彼等の抱える現在の問題と事情を語り始めた。
「オレ様の耳にも既に入っているんだぜ。かの元エーデールローズ財団の主宰でずる賢い手段でプリズムキングの座を手に入れた法月仁が、父親である財団理事長の法月皇から勘当されエーデルローズ主宰職を解任され、二度とプリズムショーに関与する事を禁止にされた直後、その仁が国連軍直轄の軍事警察に
『………………』
メタルバードから今現在の自分達の置かれている現状について隅々まで指摘を受けられて【プリティーリズム・レインボーライブ】の面々は口を重くして悲痛な想いで硬く閉ざしてしまった。
そんな一人の
「まぁ、だが安心しろ。この現況から無事に脱出し、現政奉還についての問題も解決した後にはオレからも三次元政府に口添えして、お前らの業務停止命令を取り下げてくれるよう計らってやるから。まだまだ無事に此処から脱出できるかも不明だし、何より今は現政奉還の煽りを受けて色々と情勢が激動しているが、世間が落ち着いた後には俺たち聖龍隊が君らの活動を後押ししてやる」
「そ、それは本当なんですか……?」
俄かには信じ難いメタルバードの話の内容に挙動不信になる茨千里。そんな彼女の素顔を暴露しながらメタルバードは淡々と語り返す。
「ああ、約束するぜ人型ロボットに搭乗しているモモさんよ。こう見えてオレたち聖龍隊は夢見る少年少女を後押しする活動も頻繁に行っている。下衆で外道な法月仁の悪行が切っ掛けで業務を全て停止させられているアンタらにも少しばかしは夢や理想を追い求める手助けぐらい、難なく手を差し伸べてやる器量はあるのよ。まっ、そこは神威大門統合学園への資金援助と同様に此処から無事抜け出し、更には現政奉還の件も納まった暁に援助してやるさ。大抵の事は、この聖龍隊にお任せあれ」
実に頼もしいといった飄々とした面差しで様々な形での援助を約束していくメタルバードの台詞に、皆は唖然と喋りを忘れてしまってた。
神威大門統合学園とプリズムショーへの援助及び活動の後押しを口約したメタルバードは、次に久方振りに顔を合わせた様子でお喋りしながら休息している瀬名アラタ達の許に歩み寄っては、星原ヒカルに出雲ハルキそして細野サクヤの三人と口々に語り合っている瀬名アラタに声を掛けていった。
「瀬名アラタ。オレたち聖龍隊の所に入ってきた情報によると……お前さんは学園でのテロ事件以降、世界中を渡り歩いて色々な世界の実情に触れる旅路に就いているみたいだけど。なんか世界を見て回って感じたか?」
メタルバードは瀬名アラタに世界を見て回って何かを実感したか訊ねると、アラタは旅に出た経緯と一緒に世界を渡り歩いて実感した経験を力強い顔立ちで語り始めた。
「はい。俺は学園でのテロを起こしたワールドセイバーを率いていたセレディの思想に少しばかし共感したんです。確かにセレディ達ワールドセイバーのやった事は間違いです。セレディの言うとおり貧困や格差、そして国境という隔たりがあるから戦争は絶えず行われ続けている主張は俺も少なからず同意できます。もちろんセレディ達の行いは許されない事でしたが、俺は俺なりにセレディの発した戦争なき世界について自分なりの考えを求める為にも、事件後神威島の学園を去って旅に出たんです。そして俺は事件後、同じ様に島を去る海道ジンさんの提案で世界中のLBXプレイヤーと接しながら世界の実情を見て回る旅に出ていったんです。……確かに世界は学園で生活していて世界の現状を知らずに過ごしてきた俺にとっては過酷とも言えるほど非情な現実ばかりが目の前に広がっていました。しかし同時に、そんな世界でも必死になって生きている人々の強い想いにも触れる事ができました! この旅で俺はホンの少しだけど何かを感じ取れた様な気がするんです」
瀬名アラタの熱い心情を芯から受け止めたメタルバードは表情を変える事は無かったが、アラタの情熱に感極まり心を揺さ振られた。
しかしメタルバードは同時に、あの世界的テロリスト ワールドセイバーの首領セレディ・クライスラーの思想について一つの疑問がどうしても頭を過ぎってしまってた。
それ故にメタルバードはセレディの主張に首肯できると思っている瀬名アラタに険しい顔付きで問い詰めた。
「アラタ、お前は本当にセレディの言うとおり国境を失くし更には貧富の差も無くせば世界は平和に成ると思っているのか?」
「………………」
メタルバードからの問い掛けに不意を衝かれ絶句してしまうアラタ。だがそんなアラタに躊躇せずメタルバードは更にアラタ少年に問い詰めていった。
「これはあくまでオレの見解なんだが……国境が無くなり、更には貧富の差も無くなり人々が平等に豊かになっただけで平和になるとは到底思えん。良いか、国とは云わば1人の人だ。そもそも国とは個々の人間が密集して造り上げられた集合体に他ならない。例え国同士の境目である国境が無くなっても、人と人の垣根が消えない限り完全に人々が平等な存在に成り得る事は無いんだよ。そんな状況で貧富の差も無くなっても、個人個人の考え、つまりは価値観が統一されない限り永遠に争いは起き続ける」
「…………」
価値観の違い、それこそが戦争の根本的な原因であると主張するメタルバードの話に瀬名アラタは険しい面持ちで真剣に聞き入れ続けた。
「国境と云う垣根が消えても、貧富の差が解消され皆が裕福になったとしても、個人の価値観が違えばそれだけで争いは絶えず起こってしまう物なんだよ。例えばアラタ、お前の様な若い少年いやお前以上に幼い子供達を平然と奴隷として扱い続け酷使し続ける大人達にとってはそれが当たり前であり間違った行いをしているとは認識していないんだ。他にも女性が仕事に就いたり高い地位を得るのは間違っていると思い込んでいる価値観の連中や、若い女性を無理やり誘拐した上で強引に結婚させたりする風習を行い続ける国の連中も、自分達のやっている事は間違っている事ではなく正しい伝統的な行いであると固定概念に近い価値観に囚われてしまっているんだ。そんな連中と国境を隔てて共に生きて行こうとしたって互いに理解し合えなければ必ず争いは起こってしまうものなんだ。かのテロリスト、セレディ・クライスラーは国境も貧富の差も無くせば世界は平和で平等になると豪語していたが、実際は価値観が統一されなければ争いと云うものは少なからず勃発してしまうのが現状なんだよ。……酷だけど、それが理不尽な現実って奴なんだよ」
「…………」
メタルバードの話を淡々と聞き入れる瀬名アラタは、国境や貧富の差が消失しても個人と個人が理解し得ない限り争いは延々と勃発してしまう不条理かつ理不尽な現実を指摘され衝撃を受けてしまう。
と。そんな失意に駆られる瀬名アラタにメタルバードが話を付け加えた。
「まぁ、実を言うと……これはオレの考えじゃなく修司が口に出した思考なんだ。国境は全く関係なく、一人一人が互いを尊重しあい理解し合わなければ本当の平等な平和は実現できないと。簡単に言えば、国と国の境目ではなく人と人との柵という名の境目を無くさない限り真の平和は訪れないって考えだったんだよな修司は」
大切なのは国と国ではなく、人と人との結びつきと理解を深める事の重要性であると断言する聖龍隊前総長小田原修司の格言に、瀬名アラタはもちろん他の新世代型達も心を揺さ振られる。
そして最後に、メタルバードは瀬名アラタだけでなく周囲の新世代型の全員に対して険しい顔付きで主張を説いた。
「……無論、難しい事はもちろん、お前達のような権力も何もない連中に取っちゃ何も変える事ができないのが現実だ。まず不条理で理不尽な現実を変える前に、少しでもその様な世界や世界の実情を知る事が大事なんだ。要するに世界を変えようと思う前に、世界の真実を知る事が一番大切な事なんだよ。目を背けず、しっかりと世界の切実な現状を目に焼き映して知り得る事が大事なんだ」
世界をより良く変える前に、その世界の現状をまず知る事が大切である。そう教えを説うメタルバードの格言に、瀬名アラタはもちろん他の新世代型達も息を呑んで納得する。
メタルバードが瀬名アラタや新世代型に世界の実情を変える前に知る事が大切であると説いた後、ある男子高校生と女子高校生が隣同士で床に座り込んでは会話していた。
その青年と少女こそ、同じ
「……君は自身が
「…………」
斉木楠雄に問い掛けられて、悲痛な表情を浮かべて何も言い返せずにいる琴浦春香。だが口を閉ざし続ける琴浦春香に斉木楠雄は容赦なく問い掛けて行く。
「答えたくなくても、君たちと最初に会った時から君を始め、真鍋義久や御舟百合子達の身上を既に把握している。僕のテレパシーは君の何倍もの感度を誇るから簡単に知り得てしまうんだよ」
「………………」
「君の場合は、今の学校に転校する前の校内でも陰湿な扱いを受けた挙句、教師からは君の能力を単なる虚言癖と悪く言う始末。更には実の母親から君の能力は単なる妄想癖と虐げられ、挙句の果てには家庭は崩壊。両親は離婚……ま、離婚の原因は君の能力ではなく父方の浮気が原因だったみたいだけどね。その後、今の学校生活では自分を理解してくれる真鍋義久と親しくなり、それを切っ掛けに室戸大智や御舟百合子といった面々とも親しくなれた。だが腹の底がドス黒い森谷ヒヨリとの遭遇で、彼女のドス黒さを直感した君は大衆の面前でまさかの嘔吐。それを目の当たりにした森谷ヒヨリは陰湿なイジメを君に行っていた所、真鍋義久が仲裁に入ってくれたが、それがまた新たな問題を起こしてしまった……兼ねてより真鍋義久に好意を持っていた森谷ヒヨリが君を庇った為、君に対しての執拗な嫉妬で遂に実家の新興宗教「森谷教」の信者を使って真鍋義久を襲わせてしまい、その襲撃で真鍋義久は腹部を刃物で突き刺され病院に搬送されるほどの重傷を負った。これに対して君は自分自身を責めたが、それとは反対で真鍋義久からはしっかりと愛情を向けられた。一方で君に対して陰湿な行為を繰り返していた君の親族や、君を蔑ろにしていた母親、そして今申した森谷ヒヨリは信者を使っての真鍋義久襲撃の一件で、それぞれが政府から
「………………」
「更にその後も君を悩ませる事件が勃発した。君の実夫で今では離婚し別の家庭を築いていた君の父親が、事もあろうに君の能力を悪用して会社のトップに君臨しようと目論んだ。しかしそれを義父であり君の祖父である大企業の会長に見抜かれ社長の座から追放。だがその直後、自身の実子であり君の腹違いの妹である女の子に暴力を振るった事で遂に軍事警察が介入。そのまま連行されて日の目を見る事はおそらくもう無いだろう……と、まぁ、これが今の君の現状だ。当たっているだろ?」
「…………………………」
斉木楠雄から語られる己の内情に沈黙の状態で聞き受ける琴浦春香。するとそんな淡々と冷静に琴浦の実情を語り明かす斉木に真鍋が文句を言ってきた。
「お前なッ! もう少し、こう……オブラートに言葉を包んで話せない訳? 琴浦だって身内の事では色々と悩んでいるんだ。それを根掘り葉掘り掘り返さないでくれよ!」
「それは悪かった、僕は少しばかし正直に話を進めてしまったよ。其処の所は詫びるよ」
真鍋からの文句に斉木は表情一つ変える事無く平然と謝罪の言葉を述べた。
しかし斉木は、そんな文句を言ってきた真鍋義久に対しても彼の内情を赤裸々に語り明かしてきた。
「だけど君だって琴浦春香の母親の態度や行いに少しばかりの不満を感じているのは確かだろ? オマケに彼女の父親が腹違いとはいえ妹に家庭内暴力を振るって、それが原因で警察に
「ッ……」
己の心中に秘めていた内情を語り明かされ愕然と絶句してしまう真鍋。
更に其処へ今度は斉木の話に耳を傾けていた森谷ヒヨリが暗い面差しで話し掛けてきた。
「うん、そうだよ真鍋君。琴浦さんのお祖父ちゃんとは仲良くなれているし、何より私の様に貴方を殺傷させてしまった女なんか眼中に無いんでしょ」
「ど、どうしたんだよ森谷。いきなり……」
突然暗い面差しで話し掛けてくる森谷ヒヨリの様子に戸惑う真鍋。すると森谷ヒヨリは心底感じた真鍋の真情について語り始めた。
「私もね、新世代型同士の共有感知で真鍋君の思考が解る様になったのよ……真鍋君は確かに私の命令が元で起こってしまった殺傷事件については半ば許してくれているみたいだけど、未だに私が琴浦さんに仕出かした仕打ちの件と実家の新興宗教に関して余り快く思っていなかったのね。バレンタインデーで私が一生懸命作ったチョコレートにも毒が入れられていないか疑ったり、徹底的に私の事は敵視しているのが良く解ったわ……」
自身の直向な想いに反して敵視されている事実に落胆し悲しむヒヨリの言い分に対し、真鍋は有りの侭の想いをヒヨリにぶつけた。
「だ、だってよ……琴浦に対しての陰湿な行為は未だにムシャクシャするほど腹が立つし、何より好意に想っているって言いながらそんな俺を門下生に襲わせて重傷負わせた身分で良く言えるよな。ハッキリいって森谷ン家の宗教ってオウム真理教みたいに怪しい感じだし、それこそチョコにサリンとか猛毒が混入されてないか疑っちまうぐらい酷い見た目と悪臭だったしよ」
この真鍋の言い分に話を聞いていた戸室大智が森谷を弁論するかの如く語り始めた。
「しかし真鍋君、それは少し言いすぎじゃ有りませんか? 確かに森谷君の様な新興宗教は例のオウム真理教などの宗教団体が原因で今では一部の信仰団体しか世界的に認可されない御時世とはいえ、森谷君の実家をそのままオウム真理教と一緒にするのは邪見しすぎだと思うのですが……それと森谷君の琴浦君に対する陰湿なイジメと君を襲撃させた一件は許し難いものですが、チョコレートに猛毒を混入するほど彼女は陰険な人間ではありませんよ。確かに彼女のチョコは見た目的には悪質極まりないほど危険に満ちた物体には違いないですが」
「…………っ」
戸室大智の弁論に陰ながら滝の様な涙を流し悲感する森谷ヒヨリ。実際、彼女は成績も悪くそれと同じぐらい料理も不下手で、それこそ彼女の料理は陰険な見た目と風貌そして悪臭漂うほどの危険物なのである。
すると此処で語り手を静めていた斉木楠雄が再び語り出す。
「まぁ、確かに皆さんの仰るとおり森谷ヒヨリの心中はあなた方の中では最も陰湿で腹黒い性質の悪いモノです。この僕も頻繁に人間の心理を見通していますが、彼女ほど腹黒い人間は草々いませんよ」
「っ~~~~」
斉木楠雄の容赦のない追打ちに完全に心を折られた涙目の森谷ヒヨリ。だがそんなヒヨリを尻目に斉木楠雄は今度は己の能力で感じ得た人間の本性や自らの生い立ちを語り始めた。
「まぁ、皆さんの内情ばかり暴露しては申し訳ありませんし、僕の方からも少しばかし自分の過去や真情を語りますよ。実は僕は森谷ヒヨリの様に腹黒い人間に対しては余り抵抗がありません。寧ろ、そんな腹黒さが目立つのが人間の本性だと自覚していますので。僕は既に2歳の頃から周囲の人や動物の思考を送受信する事が可能となっていて、これは今でも制御不能な困った欠点ですが受信は制御不能で常に他人の本心が勝手に聞こえて来てしまうんです。それ故、僕は2歳の頃で既に人間の腹黒い本性や腹の底を知り尽くし、人間に絶望した経験があるんです。そんな僕にとって、今さら腹黒かったり過去に陰惨な行為を平然と行った人間を前にしても何とも感じないんです。例えば森谷ヒヨリの腹黒さが今以上で、貴女が例え精神的に病んでいようと
「…………っ」
余りにも自身の事を悪く語り続ける斉木の言葉に森谷ヒヨリはドン底まで叩き落された心境に陥り涙の滝を目から流していた。
だが、そんな深く傷心した森谷ヒヨリを尻目に琴浦春香が同じテレパシー能力者として斉木に話し掛けてきた。
「そ、それにしても……斉木さん、普段とは随分違ってかなり自分から積極的に話すんですね」
「え、それってどういう事だ、春香」
琴浦春香の台詞に訊き返す真鍋義久。真鍋の問いに琴浦は斉木の実情を話した。
「う、うん……この斉木さんは、普段から私達の様に周囲の人たちと距離を置いて成るべく目立たない様に生活しているみたいで、実生活でも常に表情を保ったまま変える事無く無表情で冷静な素振りで振舞っているみたいなの。そんな生活では、自分が
琴浦春香から語り明かされた己の実情に付いて、斉木楠雄は仕方ないなという様子で渋々と話し出してくれた。
「ふぅ、それも仕方ないでしょ、琴浦春香。この施設を逃げ回っている最中に開花してしまった共有感知で僕らの思考は一定に新世代型全員の脳内に流出してしまっているんだから。こうして僕達が会話している内容も他の新世代型には既に伝わってしまっているし、僕や琴浦春香の様な能力者の存在も捕捉されてしまった。そんな現状の中で態々沈黙を保っているのもバカらしく思えてしまってね。どうせ僕が超感度の
斉木楠雄の思考に触れて、彼の考えに少しばかし賛同の意を思わせる琴浦春香や真鍋義久たち。
更に斉木楠雄は同じ特殊能力で苦悩している琴浦春香に自身の身上だけでなく身内に付いても包み隠さず語り明かしていった。
「僕は君と違って複数の超能力を生まれ付き備えていただけでなく、常人の域を大いに凌駕するほどの超人的な身体能力までも身に付いてしまってた。39℃もの高熱にも平然と耐えられる強靭な肉体、そして超能力を使用しなくても高校のテストでは前9教科満点をとれる程の学力まで持ち合わせていた。だけど同時に超能力や身体的能力も加わって余りの万能さに現在に至るまで何事も容易く出来てしまう故に、本当に努力するという事が出来ない・努力する機会がないという他人からしてみれば実に贅沢なコンプレックスを抱いてしまっている。その事から僕自身、生まれ付き全てを奪われた人間と称して、人として当たり前の努力する喜びを感じる事は諦め掛けている。また、先ほども森谷ヒヨリの一件で申したとおり幼い頃からテレパシーや透視などで人間の闇と云うものを嫌と云うほど関わってしまったが為に恋愛事はもちろん動物との接触も余り関心が持てないんだ」
『………………』
斉木の語る内情に静かに耳を傾け聞き入れる琴浦や真鍋たち。そんな話に耳を傾けてくれている5人を前に、斉木は淡々と無表情で語り続けた。
「そして何より、琴浦春香と違って家族が僕の能力に付いて割りと寛大に受け入れてくれた事が今のところ大きな救いかな。僕の家庭は3人暮らしで、祖父母の家には僕の兄が住んでいるから占めて4人構成の家庭だ。父である優柔不断でだらしなくって、困った事があれば何かと僕の能力に頼ってくる。その一方で僕の誕生会を開いてくれる友人達の誘いをどうにか替え玉で凌ごうとする僕に友達が開いてくれた誕生会に行きなさいと論してくれる一面も見せてくれている。そんな優柔不断でだらしない父と未だに新婚夫婦の如く相思相愛の母は、僕自身の事をいつも気に掛けてくれる一言で言えば僕の成長の支えになってくれる良い母だ。まぁその半面、温厚かつ良くも悪くも度が過ぎた天然な性格な為に悪徳商法や詐欺など格好のカモにされてしまうのが唯一の欠点だけどね。……一方で、一度怒ると自身の気が済むまで相手を情け容赦なく制裁し、怒りが頂点に達すれば般若の如く顔が変貌する凶暴性を持ち合わせているから、僕はもちろん家族内では誰もが内心恐れている対象だ……」
自分の父と母に関する話を語る斉木楠雄の口調に、何かと万能な超能力に頼ってくる優柔不断な性格ながらも友達付き合いを大事にするよう論する父の一面と、天然で騙されやすいが息子の成長を確実に支えている良妻賢母の一面と同時に一度怒り出すと情け容赦ない性分へと変貌し最悪の場合は顔面が般若面の様に変貌する凶暴性の二面性を持っている母を持つ斉木楠雄の日常の気苦労と生活感の一片を知る琴浦春香に真鍋義久たち。
「そして最後に僕の直属の血筋で家では長男に当たる僕の兄、空助。兄は生まれ付きIQ218の頭脳を持つ天才発明家で、僕がいま頭に装着している超能力制御装置を開発した張本人だ。母さんからは「くー君」と呼ばれているけど、14歳の頃に高校を飛び級で卒業し、イギリスのケンブリッジ大学に留学。今では既に修士号を取得していて、発明などのライセンスや特許収入で巨万の富を築き上げている。それなのに超能力者の僕にはあらゆる面で敵わず、僕に対しての嫉妬や劣等感を持ち続けているかの様に装ってはいるが、その本質は弟に勝てない事に快感を覚えているドMだから、僕は正直余り兄とは関わりたくはない。この前も正攻法では僕に勝てないと踏んだのが、テレパスキャンセラーという一種の超能力妨害装置を開発して、ロンドン市街を舞台にした鬼ごっこを仕掛けてきたよ。まぁ、結局僕が勝ってしまったけどね。今では大学を卒業後、帰国後は祖父母の家で暮らしているよ」
「ち、因みに……斉木さんのお祖父さんとお祖母さんは、斉木さんが超能力者である事は知っているの?」
斉木の話を聞いて御舟百合子がふと思った疑問を斉木本人に問い掛けてみると、斉木は有りの侭を答えた。
「ああ、それなら今年の春休みに一家揃って祖父母の家に訪ねた折に両親が僕の能力に付いて告白したから知っているよ。最初は双方ともかなり驚愕したけど、僕が超能力者であると知ったそれ以降も普通に接してくれているよ。元々、祖父母は母方の両親で父の方は既に他界しているんだ。そんな祖父の方は気難しい態度を取り周囲に対して冷淡に接するから、家族の間では無愛想な人間だと思われているけど、その本性は人前では決して本音を吐かない云わば完璧なツンデレで、内心では孫の僕や娘である母の事をとても溺愛してくれている……一方で父の事は完全に害虫扱いして一方的に嫌悪しては、父に対して本気で横柄に接してしまっているけどね。そして祖母は既に還暦を過ぎているのに十分に40代でも通じるほどの若々しい外見をしている。これに対して本人は石仮面を被っている為だと説明しているが。また見た目だけでなく年齢を気にせず、若者の流行に乗りたがるイケイケな性格で良くnon-noやSeventeenといった若者向けの雑誌を愛読しているし、時には年齢にそぐわない服を着ている事も多々ある。まぁ、これらの点を含めて家族は僕とは普通に接してくれているのが、僕にとっては有難味のある経緯かな」
自身の身内に関する情報を赤裸々に己の口から直接語った斉木の話を聞いて、琴浦春香は少し羨ましくも思えば同時に破天荒で面白みのある家庭なんだなと感じ取る。一方で琴浦以外の面々も、斉木楠雄の個性溢れる身内事情に感化されていた。
「ど……どちらにしろ、良かったじゃない。家族から邪見にされなくて」
琴浦春香は自分と違い身内から邪険に扱われてない斉木楠雄に対して羨ましい感情を抑えながら良好な関係を祝福した。
すると斉木楠雄はそんな琴浦春香を始めとする面々を前に、トンでもない事を言い出した。
「ま、そもそも……僕の方は完全なギャグ漫画で、其方と違ってシリアスな場面は殆ど無い漫画だしね」
「おいおい、それ言っちゃって良い訳なのオイ」
斉木楠雄のトンでも発言に思わず口を挟み込んでしまう真鍋義久。
こうして各々がその場にて思い通りの休息を取る最中、中には久々の再開に心を躍らせる心情で楽観的に話し合いながら休みを取る面々の姿もあった。
「それにしても……まさかこんな所でレイジに会えるなんて! それもアイラさんも一緒だなんて」
「い、いやぁ……俺もまさか、こんな辺鄙な研究施設で一緒に囚われていた面子の中にセイや他のガンダムファイターズの仲間達に再会できるなんて夢にも思わなかったぜ」
久々の再会を心から喜び合うイオリ・セイとアリーア・フォン・レイジ・アスナの二人。二人は過去にガンダムの世界大会で共にタッグを組んで共闘した間柄なのである。
しかし世界大会の事件後に、セイとレイジはそれぞれ別れる事と相成ったのだ。それもこれもレイジは元々、この世界の人間ではなく異世界アリアンの第一王子であったのだ。レイジが元の世界アリアンに戻る際、レイジは強くなったセイとガンダムファイトで再び闘うといういつ叶うともしれない約束を交わし、己の世界に帰参した。
だがレイジが己の世界アリアンに帰参した時、なぜか目の前に同じガンダムファイターのアイラ・ユキシアイネンの姿も傍らに存在していたのだ。当初はなぜ自分の世界に付いて来たのかアイラに怒鳴るレイジであったが、実はアイラは以前よりレイジに好意を寄せており、レイジと共に居たいと強く祈った事でレイジ共々異世界アリアンに着いたのである。
最初からアイラの心意を察していなかったレイジは、当初は自分に付いてきたアイラに戸惑ったものの、自分に率直な好意を寄せてくれているアイラと少しずつ距離を縮めていき今では婚約の儀を取り計らった経緯なのだという。
異世界アリアンに帰参したレイジと、そのレイジを追ってアリアンまで付いてきたアイラ、二人のアリアンでの経緯を聞いたセイ達は心から二人の祝福を再会の喜びと共に祝った。
「良かったね、アイラ! レイジ君と想いが通じて」
「うん、だけど着いてスグに怒鳴られたのには参ったわよ。まさかアソコまで私の想いに鈍感だったなんて思わなかったわ」
レイジと想いを添い遂げられたアイラを祝福するコウサカ・チナの言葉に、アイラはレイジの余りの鈍さに愚痴を零した。
一方で再び対面を叶えられたイオリ・セイとレイジは周りの人々に囲まれながら互いに再会の喜びを分かち合っていた。
「レイジ! また会えるとはな……まあ、まさかこんな陰気臭い研究所で再会するとは皮肉だけど」
「まあな。まさかアリアンからアイラ共々、誘拐されて拉致られるとは思っても見なかったぜ」
再会を喜ぶゴンダ・モンタに対し、レイジは研究所内で再会できた事には少し複雑な心境を抱いていた。
「レイジ君もアイラちゃんも元気そうで、ホントに良かったわ! あの事件の後、めっきり音沙汰なしだったから心配だったけど……」
「こんな研究所の奥深くで調子どうって聞くのも野暮な話だけど、二人とも何事も無く元気そうで良かったよ」
久々に元気なレイジとアイラの顔を見て相思相愛のイオリ・リン子とタケシ夫婦は元気そうな二人の様子に大いに喜んだ。
そんな中には過去の経緯を語り合い暗い空気の中を会話する面々に、久々の再会に喜び合う面々の中、此方では互いに険しい面持ちで対話する二人の少女のやり取りが続けられていた。
「……つまり。父さんを殺したのは
「………………」
物凄い剣幕で
「お、おい! 纏流子、皐月様に怒鳴り散らすな!」
「そうだよ、皐月ちゃんを怒鳴らないで! 皐月ちゃんも自分の母親に対しては前々から好機を狙っていたんだよ」
「俺達も先ほど新世代型同士の共有感知で知った事だが、皐月様の実母は実に恐ろしい計画を立てているらしい……皐月様が本能字学園を今の様にしたのも、母親に対する抗力を備える為の仕方のない事だったのだ!」
「その通りだ……だが、詳しい事は直接皐月様の口からお聞きになりたいのは僕達も同じだ。皐月様、どうか御話お願いできませんか?」
怒鳴り散らす纏流子を宥めつつ、流子と同じ疑問を抱いては皐月に目を向ける
すると皆の視線の矛先である
彼女の母、
しかも彼女は以前、流子の父の研究成果を奪取し殺めたのは自分であると断言したが、実際は彼女自身は全くその事に関わっておらず、皐月の母である羅暁の命で生命戦維の研究成果を持っていた纏一身を襲撃させ、そして片太刀バサミの片鱗を奪った挙句に流子の父を殺害させたのが、あの針目縫だというのだ。皐月は母に忠誠を誓うフリをしながら一身が作っていた鮮血を奪えなかった事で針目縫を責めるが、本心では母の企みの一部が上手くいかなかった事を大いに歓喜していたとの事。だが皐月本人も理解できなかったのが、なぜ流子の父一身が自身が着衣している純潔と同じ神衣の鮮血を作り上げ、更に生命戦維の研究成果を持っていたのかまでは皐月の実母羅暁にしか解らないとの事である。
どちらにしろ、自身が追っていた父の仇が皐月の妹の仇である皐月の母羅暁であると知った纏流子は心中に煮え滾る怒りを抑えつつも皐月に話し掛けた。
「……要するに、アタイ達の仇は同じって訳か」
「ああ、そう言う事になるな。母は生命戦維での世界制覇の為なら如何なる犠牲も厭わない人間性を持っている。私は、そんな母に対抗する為、生徒会四天王も本能字学園同様に立ち上げたのだ」
互いの利害が一致した事に多少の不満は残ったものの、同じ相手と敵対している事を知った流子と皐月はお互いに共同戦前を布いた。
「此処はシャクだが、アンタの考えに乗ってやるよ。序にアンタの妹の仇も取ってやるさ」
「ふんッ、それは余計なお節介と云うものだ纏流子。妹の仇は姉である私自身で討ち取ってみせる! その為にも、こんな辺鄙なバケモノだらけの研究所から一刻も早く抜け出し、我々の本能町へと帰り着くぞ!!」
「ヘッ、言われるまでもねェ!」
纏流子と
そして纏流子と
「それにしても……まさかお前に妹がいたとはな」「? ……」
突然の流子からの声掛けに不意を衝かれる皐月。そして流子はそのまま皐月に穏やかな口調で話し続けた。
「いやな……アタイには父さん以外の家族なんて居なかったから。母さんは誰なのか、結局父さんは教えてくれないまま死んじまったし……アタシには父さん以外の家族は誰もいないし知らずに生きてきた」
「………………」
「時々な、マコの家族を見ていると何だか羨ましくなってきちまって……アタイにもこんな明るい家族がいてくれたら、さぞ毎日が楽しいだろうなって。アンタみたいに妹じゃなくてもマコの様に元気で活発な弟がいるだけでも家族の有難味が嫌ってほど身に沁みる」
「……何が言いたい?」
仏頂面な真顔で流子の話に耳を傾けていた皐月が、表情一つ変えずに問い返すと流子はそんな皐月に挙動しながらも話し返した。
「い、いやな……ただ、アタイ達はお互いに家族を失った身の上だ。だけどよ…………」
「………………」
「……お前も、家族を失って辛かったんだな」
「!」
流子からの思いも寄らぬ一言に激しく動揺する
だがこの時、当の二人は全く持って真実を知っていなかった為に途轍もない事実を周知していなかった。
まさか、既に死別していたと思われていた身内同士が顔を合わせている事を知らずに。
そんな様々な己の身上を共有感知で知り得てしまい、終いには全てを曝け出すかのように自ら語り明かしていく新世代型達。
その様な身上の中で、とある新世代型達は他の新世代型達の真情を受け止めつつも一人のスーパーヒロインかのミラーガールと休憩がてらお話してた。
「あ、あの、ミラーガールさん。ミラーガールさんは、あの小田原修司の事を誰よりも受け入れてあげて、それで修司さんの孤独を解して上げていったんですよね?」
ミラーガールの恋愛話に関わる質問を目を輝かせて問い詰めてくる大宮忍。そんな忍にミラーガールは笑顔で質問に答えてあげていく。
「ええ、私はその積りで修司と触れ合ってきたわ。修司の方は時おり、それが鬱陶しく感じたり、はたまた苦痛に感じてしまっていた事もあったけど、私はその事を配慮しつつ少しずつ修司との距離を縮めていこうと努力してきたわ」
「く、苦痛に感じていたって……」
ミラーガールの発した小田原修司の苦痛に対して疑問に思うアリス・カータレットの疑問にミラーガールが答える。
「うん、これは修司の生まれ付きの病気……いいえ、個性に近い障害なの。修司と私達の若い頃を執筆した小説『聖龍伝説』にも載っているけど、修司は先天性の発達障害者だったのよ。修司の様な発達障害者は他人からの愛情を余り感じ取ったりする事が不下手だったり、それどころか苦痛に感じてしまう事もある精神的な障害なの。……特に修司は、他人からの愛情を全く感じられないほど症状が重く、それが原因で実の家族とも不仲になってしまったり、昔はそれが元手で同じ聖龍隊同士でも一悶着起こしてしまったりした事も多々あったわ。でも私は、そんな修司の障害を受け入れて少しずつ修司を自分の殻から飛び出させて広い世界を感じ取ってもらおうと色々と模索したりしたわ」
「す、凄いですね! それで小田原修司は世界情勢や過酷な現実にも広い視野で見渡せる器量を身に着けられたんですね!」
「……そうね。私のお節介で、修司は現実と云うものを更に知ってしまい、そして目撃してしまったわ」
『……?』
ミラーガールの小田原修司への付き合い方を聞いて、その地道な付き合いが物を言い小田原修司の世界情勢に対しての広い視野が生まれた事を察して称賛する一条蛍の言葉に、何故かミラーガールは突然表情を曇らせてしまい、ミラーガール周辺の新世代型の女子達は唖然としてしまった。
そして表情を曇らせたミラーガールは重い口を開いて、なぜ自分が暗い心情に浸ってしまったのかを語り始めた。
「……私はね、修司を広い世界に導いたのは間違いだったのではないかと時おり思ってしまうの。確かに修司は広い世界を体感する事で、それまで味わった事のない感覚を覚え人として限りなく成長できたし、聖龍隊の総長として聖龍隊のみんなを引っ張っていけたし、それ以外にもアニメタウンの市長として様々な公約を実行していく行動力も身に付いた。だけど修司が感じ取った想いは素晴らしい物ばかりじゃなかった……世界の過酷で理不尽な現実、そして不条理な世の中までも目にした上で体感した修司は余計に現実嫌いに陥ってしまい、最終的には二次元人贔屓と呼ばれてしまうほど現実世界の三次元人を嫌う様に成ってしまったの。さっきメタルバードが言っていたけど、現実を変える前にまず現実を知る事が大切だと言うけど、修司の場合は逆に現実を知り過ぎて現実そのものを毛嫌いしてしまいほど世の中の不条理や理不尽さを憎んでしまったの……」
『……………………』
「……私が修司を世間の荒波に誘い出してしまった事で、修司は理不尽な凶行を行う人間を問答無用で処罰する
「ミラーガール……」『…………』
切実なミラーガールの悲痛な真情に心打たれ、何も話しかける事が出来なくなってしまった九条カレンにその他の【のんのんびより】と【きんいろモザイク】の少女達。
そして双頭の大蛇によって噛み付かれ、その毒牙にかかって重体の朝比奈コウタの体力の回復を待つ為に一行はその場にて一時の休息を摂り続けた。
しかしその間、蓄積されてた疲労によって中には浅い眠りに陥ってしまう者の姿も見受けられた。
だが全員が心の底から安心している訳ではなかった。いつ何時、ウィルスに感染し異形のバケモノと変異した人間や動物が襲い掛かってくるか解らなかった。
そんな状況下の中でも、新世代型の二次元人たちは休息の中で施設で遭遇して以来、如何なる状況下でも己の窮地を幾度と無く救ってきてくれた輝かしくも美しいヒロイン達の姿を、瞼の裏側に映し出しては自然と心地よい眠りに浸っていくのであった。
[液状のモンスター]
奇形の怪物 双頭の大蛇の毒牙に掛かった朝比奈コウタの回復を待つと同時に束の間の休息に浸っていた新世代型の二次元人たち。
猛毒を喰らったコウタの治療にナースエンジェルやセーラームーン、キューティーハニーに鳳凰寺風そしてミラーガールらが交代で懸かり付けで治療に専念している最中、新世代型達は束の間の安息に心を許したのか、いつのまにか眠りに付いていた。
そして
「……おい、おい。起きろ、起きろってば、おい」
「う~~ん……」
荒々しい声に促され、瞼を開いて眠りから覚める新世代型の面々。
彼等が目を開けてみると、目の前には完全武装している大将を筆頭とした赤塚組の一同が揃って此方を見詰めていた。
「あ、アレ? 此処は……」
「寝惚けるな。此処はまだ研究所内だ。さぁ立て、もう出発するぞ」
半ば寝坊助状態の真鍋義久に厳つい顔で睨み付けながら現場からの出発を呼び掛ける赤塚組のテツ。
新世代型たちが辺りを見渡して確認してみると、既に聖龍隊の総員が出発の準備を済ませて何時でも発てる状態にまで身支度を整えていた。
「あ、アレレ? もう皆さん出発の準備が出来ちゃっている訳!?」
いつの間にか出発の準備を済ませている聖龍隊の面々を目の当たりにした真鍋義久を始めとする新世代型たちは途轍もなく驚いた。
だが、そんな驚愕する新世代型たちに赤塚組の市川レイコが若干呆れた面で呆れ笑いを浮かべながら言った。
「何を言っているのよ。あなた達、結構寝ていたのよ。かれこれ30分は寝ていたわ」
「さ、30分! 我々がボォッとしている間に、もうそんな時間が経っていたのですか」
市川レイコの半ば呆れながらの発言に、自分達が半ば熟睡していたのが30分と云う長時間であった事を指摘され一驚する猿田学たち新世代型。
すると皆の視界に、聖龍HEADの治癒能力者に代わる代わる治療してもらった朝比奈コウタの姿が目に入った。
「コウタ君!」「朝比奈、無事か」
朝比奈コウタの身を案じて彼に駆け寄る美都玲奈に東郷リクヤの言葉に反応したのか、朝比奈コウタが顔を上げて二人の顔を見上げて言った。
「あ、ああ……何とかな。悪ィな、カッコ悪い所見せちまって……」
「何を言ってるんだ。どちらにしろ、無事で何よりだ」
自身の負傷を半ば格好が付かないと自負する朝比奈コウタの言い分に対し、東郷リクヤはそれ以上に朝比奈コウタの無事を喜んだ。
すると朝比奈コウタの治療に専念した一人ナースエンジェルが心配するリクヤや美都玲奈たち神威大門統合学園関係者の皆々にコウタの状態を報告した。
「体力はまだ完全に回復してはいませんが、体内に注入された毒は完全に浄化しました。もう命に別状はありません」
「よ、良かった……」
ナースエンジェルの安心を感じさせる笑顔と優しい言葉に胸を撫で下ろすリクヤ。
しかし其処に念を差すかの様にジュピターキッドが治療を終えた朝比奈コウタやその親友達に呼び掛ける。
「ただし、体内の毒は完全に解毒できているけど体力の回復までには至ってない。コウタくん、君は少しずつ焦らずゆっくりと前進しながら先へ進んでいこう」
「は、はい……ありがとうございます」
体力の万全にまで至っていないコウタの状態に念を差すジュピターキッドの言葉に、コウタ自身も良く己の体の事を理解している故にジュピターキッドに礼を返す。
そして体内の毒が全て浄化しているものの体力が完全復活していない朝比奈コウタの両側に、親友の東郷リクヤとロイ・チェンがコウタの肩を担いぎながら彼の身を案じつつその場から移動できる様に体制を組んだ。
そして一行は体力の衰えた状態の朝比奈コウタの身を庇いつつ、その場からの移動を始めて再び研究施設からの脱出に歩を進ませた。
一行が休憩していた部屋を出ると、その先は一本の長い廊下に出ていた。
皆が廊下を前進しつつ、先頭のメタルバードと大将が常に周囲を警戒しながら確実に前進していく中、体力を消耗している朝比奈コウタに一人の青年が声をかけてきた。
「おい、ボウズ。疲れているみたいだな、コレ良かったら飲め」
声を掛けてきたのは、先ほど悪名高いアルバード・ウェスカーの実子であると赤塚組にも露見したジェイク・ミューラーだった。ジェイクは疲労困憊のコウタを気に掛け、先ほど休憩を取っていた部屋の隅に設置されていた自販機を拳銃で強引に開平して取り出したコーラを差し出した。
「電源が落ちていたから余り冷えてはいないが、少しはカロリーが摂取できて疲労も取れるだろうよ」
そう言ってジェイクはコウタにコーラを差し出す。コウタの方もジェイクの気遣いに半ば疲れているとはいえ感謝の気持ちを伝え返した。
「あ、ありがとう……」
そう言ってジェイクからコーラを受け取ったコウタは、缶のタブを開けて一気に中のコーラを飲み干していく。
ジェイクがコウタにコーラを手渡し気遣っている最中、皆が進行している廊下の奥から複数の人影が確実に接近してくるのが先頭のメタルバードと大将の目に止まった。
「て、敵か?」
「こんなウィルス塗れの研究所に生きた人間がいる訳が無ェ! 俺達以外の人を見たら即座に敵と思え!」
突如視界に入ってきた人影に敵かどうか躊躇する大将に反し、メタルバードはウィルスで完全に汚染された研究所内で既に生きた人間の存在は有り得ないと断言し皆に敵と思うよう言い伝えると右腕を光線銃に変形させて自分達の方に向かってくる人影に目掛けて発砲した。
金色の閃光が薄暗い空間を一直線に飛来していくと、前方で駆け抜けてきた人影の頭部にその光線が直撃し、人影は床に倒れた。
「アウゥ……ッ!」
奇怪な唸り声の様な断末魔を上げて床に倒れる人影は、頭部に攻撃を受けると瞬時に肉体が発火したかの様に一瞬で焼失してしまった。
攻撃を受けて倒されると同時に発火したかのように瞬時に焼失する兵士の様な武装した対象を目にしたメタルバードが衝撃の事実を大声で暴露する。
「き、気をつけろ! コイツは今年の7月に中国の
何とメタルバード達の前に立ちはだかったのは、2013年の7月中国の
そして武装したジュアヴォ兵が次々と前進してきては聖龍隊や赤塚組に銃火器を放射してきた。
「応戦しろッ」
メタルバードの掛け声で聖龍隊も赤塚組も廊下に点在している荷物などの障害物に身を潜めながら応戦していく。
だがそれはジュアヴォ兵も同じで、物陰に身を潜めつつ確実に接近してきていた。
そんな兵士に赤塚組の狙撃手テツがライフル銃で物陰に身を潜めながら頭部を狙撃していく。
強力なライフルの弾丸を頭部に直撃した兵士は一瞬で倒れては焼失していった。テツはここぞとばかしに続々と兵士の頭部目掛けて狙撃を続けていく。
しかしテツのライフル銃による遠距離攻撃を掻い潜り、接近してきた兵士に大将たちがショットガン等の接近戦向けの銃火器で応戦し撃退していく。
赤塚組に負けじと聖龍隊も狙撃や弓での射撃を得意とする者等が戦前に出てきては接近してくる兵士に狙撃を開始する。
そして半ば前線の兵士を倒し尽くした赤塚組と聖龍隊は後方の新世代型たちを引き連れて再び前進していく。
少しずつ焦らずに前進していく一行。だが廊下の曲がり角で待ち受けていた兵士が先頭を歩いていた大将に電撃ロッドで殴り付けては大将を感電させた。
「ぐああッ!」
打撃よりも強烈な電流が体に流れて感電する大将。思わず膝を床に着かせてしまう大将の背後から、大将が姿勢を低くした瞬間に赤塚組の水原花林が拳銃で死角で待ち受けていた兵士を撃った。
拳銃の銃弾を脚に受けた兵士はその場で両膝を着き、その瞬間を狙っていたかのように花林が膝を着いた兵士に強烈な蹴りをお見舞いしてやる。花林の蹴りを受けた兵士は、それが止めとなったのか壁に吹き飛ばされ直撃した途端に焼失して消えてしまった。
一方で電気を帯びたスタン・ロッドの電撃を喰らった大将は怯んだものの大事無く、再び銃火器を構えて前進する構えに入る。
そして再び前進していく一行に、大将と同様に先頭を行くメタルバードが敵対するジュアヴォ兵の特徴を告げる。
「みんな気をつけろ。ウィルスにも多種多様あって、その中にはある程度の知能を保ったまま感染者に変貌するウィルスも多数確認されている。オレ達がいま戦っているジュアヴォもそれらの種と同じで戦闘に特化した知能を保ったまま活動できるウィルス兵器だ! 様々な銃火器での攻撃に常に警戒を怠るな」
総員、メタルバードの発した指摘を受けて警戒の念をより一層強めた。
そして再び長く道幅の広い通路に出ては各々が銃や武器を構えて戦前に飛び出していく。するとその瞬間、突如としてアラーム音が鳴り響き、次の瞬間至る所からジュアヴォ兵が武器を構えて出現し此方へと迫ってきた。
「来たぞッ、応戦開始!」
メタルバードの掛け声を合図に戦前の猛者たちは迫り来る兵士に向かって狙撃を開始し始めた。
戦前で果敢に狙撃していく者の中には、先ほど自身の素性を告白したジェイクの姿もあった。
「ジェイクのあんちゃん、いっくら親父譲りの抗体持ちとはいえ無理は済んじゃねェぞ」
「ヘッ、お気遣いどうも。だが、このジュアヴォは前のテロ事件で俺の血液を用いて通常よりも更に強化された生体兵器だ。俺が戦前に出て一匹残らず殲滅するのが筋ってもんだ!」
そう意気込むジェイクは次々と敵兵のジュアヴォ兵を撃破していく。中には急接近してきたジュアヴォ兵を銃を使わず素手で殴り付けては焼失させてしまう荒業も披露してみせる程であった。
「……おい、あの闘い方ってまるで……」
「それ以上、言わないで上げて。本人も気付かずに取っ組み合っているんだ」
ジェイクの敵に対しての闘い方を見て、彼の実父であるアルバード・ウェスカーの闘い方を思い出す大将。だがそんな大将や彼と同様にジェイクの闘い方が父親と酷似しているのを感づいた他の面々にジュピターキッドが指摘しないで上げるよう言い渡す。
と。此処でメタルバードが応戦を繰り広げながら隣の大将に話し掛けた。
「おい、何だか可笑しいと思わないか」「何かだ?」
問い掛けて来るメタルバードの発言に大将は視線を逸らさずただ真っ直ぐ顔を向けては前方の敵兵を狙撃しながら答え返す。
「オレ達が研究所内を進んでいく内に、さっきはウロボロスによる感染兵にウロボロス・ムコノが立ちはだかった。そして双頭の大蛇との戦闘を挟んで今目の前の戦況では先のテロ事件で使用されたC-ウィルスを用いた兵士が猛威を振るっている」
「つまり?」
「つまり……誰かが意図的にオレ達の進行先にウィルスに感染した兵士を流出させては、俺達の行く手を阻んでいるって事さ」
メタルバードの発した台詞に驚愕する大将は、一時的に射撃を止めてメタルバードに反論した。
「! おいおい……それじゃ、何処の誰かさんが俺達が施設内を徘徊しているのを眺めては、行く手にウィルス感染の兵士を配置させている訳ってか!? しかし誰が……!」
「それはオレにも分からん! しかし誰かがオレ達の進行を敢えて妨害している節目が見て取れる! もしかしたら何処からかオレたちの事を監視している可能性もある」
「マジかよ! シャレにならん事してくれるぜ、誰かさんよ!」
何者かが意図的に一行の進路先にウィルスに感染した兵士を配置させて待ち受けさせていると考慮するメタルバードの意見に、大将は表情を一層険しくさせながら目の前の敵を只管に狙撃していく。
そして一通りの敵兵を排除し終わった戦前の者らは、後方に待機している接近戦タイプの聖龍隊士や、その聖龍隊士に護られている新世代型の面々を引き連れて先へと進んでいく。
その間、大将は先ほど自分らと対峙したジュアヴォに関してメタルバードに問い質していた。
「バーンズ、さっきのジュアヴォってのは……」
険しい面持ちで問い掛ける大将にメタルバードも険しい顔色で答え返した。
「うむ、ジュアヴォとはセルビア語で「悪魔」という意味を持つ。対生物兵器特殊部隊B.S.A.A.によって名付けられた。その存在が確認されたのは半年前の東欧紛争地域が初めてだ、実はその国こそジェイクが生まれて、しかも傭兵として戦ってきた国だったんだ。このジュアヴォの特徴は言語を理解し、複雑な連帯行動や高度な武器も操ることができる点だ。そしてこのB.O.W.の最大の特徴は、傷を負っても再生していく点にある。再生が追い付かないほどの大きな傷を負うと、再生の過程で別の形状に変異する事もある。複数個所の損傷だとほぼ全身が変異する事も有るから実に厄介だ。だが、それでも回復不可能なほどのダメージを負うとウイルスの再生能力がオーバーヒートを起こして発火してしまう。さっきの灰の様に肉体が焼失していく現象がコレだ。しかし、変異が更に進むと「サナギ」の変態へと変化して更なる進化を遂げたジュアヴォが、新たなる脅威であるより強力なB.O.W.へと変異するんだ。さっきテツが頭部を一撃で狙撃してくれたから殆どが変異せずに焼失してくれたから良かったものの、この先どんなジュアヴォや生体兵器が出没するか分からねェ。みんな気をつけろ」
メタルバードの険しい面持ちでの忠告に、大将を始め先頭を歩く第一線の面々は表情を険しくさせる。
と。一行が警戒しながら前進しているその時、物陰から何か得体の知れない物体が飛び出してきた。
「う、うわッ!」
飛び出してきた得体の知れない物体は歩を進めていた赤塚組のアツシの顔に張り付いてきた。
「あ、アツシ!」
突然飛び出してきた物体に張り付かれ大変戸惑うアツシを前に頭領の大将は慌ててしまう。
更に大将だけでなく周囲の皆々までもアツシの顔に張り付く得体の知れない物体に驚き酷く戸惑ってしまってた。
皆がアツシの顔に張り付いた物体に目を向けてみると、それは緑色のスライムに近い形状の蠢く物体であった。アツシの顔に張り付いたスライムは不気味に蠢いては離れようとはせず、このままではアツシが窒息してしまうのは目に見えてしまってた。
急ぎ大将がアツシの顔に張り付くスライムを素手で引き剥がそうと試みるが、しばらくスライムに触れていると大将は手に何か違和感を覚え、ふと右手の平を眺めてみた。
右手の平を見た大将は愕然とした。何故なら手の平が赤い発疹が広く発生しており、何か微少ながらも痛感を手の平に覚えていた。
大将がアツシの顔に張り付いたスライムの除去に手間取っているのを見たメタルバードが鋼鉄の腕でアツシの顔のスライムを強引に引っぺがした。
「ぷはッ」
顔面に張り付いていたスライムが剥がされ、ようやく呼吸が出来る様になったアツシ。そしてアツシの顔からスライムを引き剥がしたメタルバードは、剥がしたスライムを床に叩き付けた。
だがこの時、二つの驚くべき事が皆の視界に映し出された。
一つはスライムを引き剥がされたアツシの顔面。何とアツシの顔面もスライムを素手で引き剥がした大将の手の平以上に赤い発疹が酷く発生しており、目を覆いたくなるほどの惨状と化していた。
そしてもう一つの驚くべき事態。それは何とメタルバードが引き剥がし床に叩き付けたスライムが、まるで生物の様に蠢いてはカタツムリ等の生物に近い動作で床を這っていたのだ。
床上で蠢くスライムを一目見たメタルバードは、その異常さに逸早く気付き速急に処置を行わせた。
「ま、マーズ! このスライムを焼けッ、今すぐ!」
メタルバードは即行でセーラーマーズに指示を出し、マーズは灼熱の火炎をスライムに浴びせた。スライムは水分が蒸発する要領でジュワっと音を立てながらぶくぶくと泡を発生させつつ黒焦げの塊へと変わり果てていった。
一方、そのスライムに顔を張り付かれたアツシとスライムを素手で触れた大将の手の平は相変わらず酷い赤い発疹が浮かび上がっていた。
速急にナースエンジェルがアツシの顔の皮膚と大将の両手の平を診断してみると、驚くべき事が判明した。
「こ、これは……!」
診断の結果にナースエンジェルは非常に驚いた。
「ナースエンジェル! 一体、二人は……」
そして診断の結果を聞きに来たメタルバードにナースエンジェルは答えた。
「この皮膚の発疹……間違いない、皮膚の表面上の細胞が侵食された形跡よ!」
「な、何だと! つまり、あのスライムは……」
「ええ、あのスライム状の物体いえ生物は他の生物の細胞を全体で喰い尽くす一種の生物兵器!」
ナースエンジェルの出した結論に、聞きに来たメタルバードもナースエンジェルの結論を聞いた他の一同も驚愕した。
先ほどアツシの顔に張り付いたスライムは、アツシの顔面の細胞だけでなく素手で触れた大将の手の平の細胞も侵食し、赤い発疹はその痕跡だというのだ。
「お、おいおいマジかよ。俺やアツシの体が危うく喰われちまってたかもしれねェって事かよ!」
事の深刻さを受けて驚愕する大将は顔から血の気が引いていった。
「ちょ、ちょっと! 俺の顔は大丈夫な訳? ねぇナースエンジェル、大丈夫だよね俺の顔!」
人喰いスライムが顔に張り付いた名残で顔全体に赤い発疹が目立つアツシは涙目でナースエンジェルに訴える。するとナースエンジェルは困惑するアツシを宥めつつ詳細を説明し出した。
「大丈夫ですよ。今は赤い発疹が目立ちますけど、顔の表面の細胞が軽く侵食されている程度ですから。これくらいなら私だけの治癒能力で十分に治せます」
「よ、良かった……それじゃ、早く顔を治療してくんない? 何だか微妙だけど顔が痒いんだ……」
赤い発疹の影響か微妙な痒さを訴えるアツシは一刻も早い治療をナースエンジェルに要望する。するとアツシに続いて手の平を喰われた大将も大慌てでナースエンジェルに治療を訴えてきた。
「お、おいりりか! 俺の手の平にも発疹が出来ているんだ。これって、あのスライムに喰われた痕なんだろ? 俺の方も早く治療してくれ! 痒くて堪らんッ」
「はいはい。順番に診て行きますから、お二人とも騒がないで」
激しい痒さ故に一刻も早い治療を熱望するアツシと大将。だが、そんな二人を相手にナースエンジェルは落ち着いた様子で順序よく双方を診ては治療に取り掛かる。
そしてナースエンジェルが大将とアツシの赤い発疹の治療に懸かっている間、メタルバードとジュピターキッドの両名は先ほど出没したスライム状の生物に関して問答をし合っていた。
「それにしても、さっきのスライムは一体なんだったんだ? やはりアレも一種の生物兵器なのかね」
メタルバードが顔を傾げる中、ジュピターキッドも冷静な態度で自身の見当を話した。
「うん、その可能性が高いね。実際、アメーバとかの単細胞生物に、あのスライム状の生物は近いのかもしれない。単細胞生物は、その細胞全体で獲物を捕食する性質があるし、それでアツシの顔に飛び付いたのかもしれない」
「に、しても恐ろしいな。スライムみたいな形状ゆえに余り大した攻撃も効き目が有るかどうか分からんし、さっきのマーズの火炎攻撃がたまたま効いたから良かったものの同じ様に熱に弱いスライムばかりとは言えんしな」
「その通りだ。それに、今以上にこの先で同じ様なスライム状の生体兵器が潜んでいる可能性もある。慎重に進んでいかないと」
「ああ、さっきみたいに物陰から突然飛び出てきては顔とかに引っ付かれたら堪ったモンじゃねェ。此処はちょっとした死角も注意して進まないとな」
「いや、死角だけじゃない。スライムのほぼ液状の体質から見て、天井裏や壁の隙間さらには壁伝いに張られている配管や通風口からも出現するかもしれない。油断ならないよ」
メタルバードにジュピターキッドは液状のスライム型の生体兵器の出没に、いつ何処から出現するか分からない懸念を募らせていった。
一方で先ほどからスライムに体面の細胞を侵食され、赤い発疹が皮膚に表れてしまった大将とアツシの二人を治療していたナースエンジェルの処置が終わった。
「はい、これでもう大丈夫よ」「りりか、ありがとう。ウチの男達の為に……」
二人の治療を終えたナースエンジェルに、旧友である水原花林が礼の言葉を述べる。
そんな対話をする女友達同士の話に治療をしてもらった大将とアツシが割り入ってきた。
「ほ、ホントにあんがとよ、りりか。痒かったのも、ようやく治まってきたぜ」
「俺の方もありがとう。顔の激しい痒みがウソの様に消えてくれたよ」
双方共に無事に治療を終えて、皮膚の発疹と痒みから解放され一安心する。
すると其処に話している面々にメタルバードが声をかけてきた。
「よし、無事に治療も終えたんならトットと先に行こうぜ。この先も、さっきみたいなスライムが出没するかもしれねェから気を引き締めて注意しながら進んでいくぞ」
親指で進路方向を指しながら皆に語るメタルバードの言葉に、反論する者は無くその場からの移動を再開するのであった。
移動を再開した一行。だがそんな彼等の進路に再びジュアヴォ兵が集団を成して現れ、銃火器を振るってくる。
「またジュアヴォか!」「文句を言うな、応戦し続けろ!」
再び現れるジュアヴォに表情を険しくさせる大将にメタルバードが文句を言う前に戦前の兵士を撃退せよと指示を告げていく。
聖龍隊に赤塚組は強力な銃火器に特殊な武器を用いて次々にジュアヴォ兵を撃退していく。しかも上手く急所を狙撃できているのかジュアヴォは変異する事無く一瞬で焼失していってくれた。
聖龍隊も果敢に抗戦するが、何よりも赤塚組の面々が戦前に出て行っては強力な銃火器類で行く手を阻むジュアヴォ兵を撃破していく。
そんな戦況の中、今は攻撃を受けて変異する事のないジュアヴォだとしても、いつ攻撃を受けて損傷した途端に更なる異形に変異するか気が気でないメタルバードがある策を思い付いた。
「そうだ……赤塚組! 一旦後方に下がれ! 他の聖龍隊士も一旦退けッ」
メタルバードの突然の指令に戸惑う赤塚組に聖龍隊であったが、言うとおりに戦前から退くとメタルバードは次なる指令を仲間の聖龍隊に告げた。
「マーキュリー! ハニー! それにさくらに海! オマケに
メタルバードの活気の良い指示を受けて、名前を呼ばれた聖龍隊士を始めとする氷系の技を使用できる隊士が戦前に出た。そして戦前に出た仲間達にメタルバードは大声で呼び掛けた。
「そぉれッ! 一斉にジュアヴォに向かって氷技を放て! ジュアヴォ兵を残らず凍て付かせろッ!」
メタルバードの合図にマーキュリーとキューティーハニーの氷技、木之本桜のフリーズ(凍)のカード、龍咲海の魔法、更にブルーローズと
そんな凍て付いて動けなくなったジュアヴォ兵の軍勢にメタルバードが両翼を生やし背中にジェットエンジンを出現させて、高速で凍て付いたジュアヴォ兵の軍勢に突っ込んでいった。
「ジェット=ラリアット!」
メタルバードは高速で宙を飛来しながら両腕を真っ直ぐ伸ばし、ウェスタン=ラリアットの要領で伸ばした両腕を凍り付いたジュアヴォ兵に直撃させて、ジュアヴォ兵を悉く粉砕してみせた。
そして一通りラリアットで凍り付いたジュアヴォ兵を粉砕したメタルバードは床に着地すると離陸地点である後方の連れに顔を向けて一言。
「どうだ! 凍らせて攻撃すれば、如何なジュアヴォでも変異する間もなく玉砕できる! 今後はジュアヴォ兵に対して氷系の能力者を戦前に出させて戦闘を展開していくぞッ」
威勢のいいメタルバードの活気の声に、一瞬で飛来してはラリアットで凍て付いたジュアヴォ兵を玉砕して見せたメタルバードの大技に唖然としていた一同も、メタルバードの講じた策に乗り同意の合図による頷きを示した。
更にメタルバードの策に乗って調子付いた赤塚組も、凍て付いたジュアヴォへの攻撃にヤル気を増していく。
「ヨッシャッ、こっからは凍り付いた所を狙い撃ちだ!」
活気付く赤塚組のアツシの発言に、傍らで銃撃戦を展開していたジェイクが反論してきた。
「ヘッ、何を言ってやがるんだ。氷漬けになった相手に銃弾なんか勿体無いぜ。此処は手っ取り早く接近して直接……」
そう言うとジェイクは突然駆け出し、凍て付いたジュアヴォ兵に急接近していく。そして接近したジェイクは素手で凍て付いたジュアヴォを殴り付けて粉砕してみせる。
「た、確かに……凍らせた相手に銃弾を使用する事も無いな。接近して打撃とか与えれば簡単に粉々になってくれる」
ジェイクの論した通り凍て付いた相手への攻撃には銃撃よりも弾薬の消費が抑えられる接近してからの打撃攻撃が有効であると悟る赤塚組のテツ。
と。此処で単身戦前に飛び出ては凍て付いたジュアヴォを次々に素手で粉砕していくジェイクの周囲に多数のジュアヴォ兵士が出現し、ジェイクを取り囲んだ。そして装備してる小銃の銃口をジェイクに向けて常に発砲できる態勢へと転じた。
「ジェイクが危ない! 聖龍隊、ジェイクの周囲のジュアヴォを凍らせろッ」
取り囲まれ絶体絶命のジェイクの危機を救う為、メタルバードは仲間の聖龍隊にジェイクの周囲のジュアヴォを凍らせる様に指示を出す。
メタルバードの指示を受けて即座にジェイク周辺のジュアヴォを凍らせていく聖龍隊。一方でジェイクも凍て付いたジュアヴォを目の当たりにすると手当たり次第に凍り付いたジュアヴォ兵を素手で粉砕していった。
と。そんな周囲の凍て付いたジュアヴォを次々に粉砕していくジェイクの背後から、刃渡り20cmはあるサバイバルナイフを振り翳して迫るジュアヴォ兵の姿があった。
「ジェイク、危ない!」
ジェイクの背後に迫るジュアヴォに気付いたグレイは咄嗟に氷魔法でキャノン砲を形成し、狙いを定める。
「アイス・キャノン!」
グレイの構える氷のキャノン砲から魔力で構成された氷の砲弾が飛び出し、それがジェイクの背後に迫っていたジュアヴォに直撃した。
氷の砲弾を直撃したジュアヴォは体勢を崩すと同時に瞬時に凍り付いた。
「サンキューー、グレイの坊主!」
ジェイクは自分の窮地を救ってくれたグレイに礼を言うと、速決で背後で凍り付いているジュアヴォを掌底で一気に粉砕して見せた。
そんなジェイクの掌底を目の当たりにしたグレイは呆然と見据えていると、彼の肩を叩いてジュピターキッドが声を掛ける。
「グレイ、君の思う所は解る。だけど言わないで上げよう……ジェイク本人も知らずに父親と同じ戦闘を用いているのに気付いていないんだから」
二人はジェイクの掌底を間近で目撃して、その光景がジェイクの実父ウェスカーと寸分違わず酷似している事実を口にしたい性分を堪えてた。
その後も迫り来るジュアヴォを凍り付かせた上で粉砕していく聖龍隊とジェイク。
更にジェイクは少し離れた場所で凍り付いたジュアヴォに視線を向けるや否や即座に拳銃を手に取り、離れた場所の凍り付いたジュアヴォを銃弾一発で粉砕してみせる。
ジェイクのみに飽き足らず、赤塚組の面々も遠距離で銃撃を展開するジュアヴォ兵に聖龍隊が氷系の技で凍て付かせた所を銃撃で逆に粉砕していき、ジュアヴォとの銃撃戦を有利に進めていく。
そんな有利な戦況の中、ジュアヴォに混じって例のスライム状の生物兵器までも何処からとも無く出現し、床を這ってジュアヴォと銃撃戦を交えている聖龍隊や赤塚組の方へと接近してきた。
「あのスライムだ!」「注意しろッ、迂闊に近寄らせるな!」
接近してくるスライムを眼前にして一驚するジュピターキッドに戦前の仲間達に接近させないよう呼び掛けるメタルバード。
すると人間の細胞を侵食するというスライム状の生物兵器に半ば脅えていたブルーローズが、接近してくるスライムに向かって高圧水鉄砲による氷の弾道を放射した。
ブルーローズの放った凍て付いた水はスライムを完全に氷漬けにして、スライムの動きを完全に停止させた。
其処に氷漬けになったスライムへ剛腕のトリコが丸太の様に太い腕を振り下ろして、氷漬けになったスライムを直接拳で玉砕した。
トリコの拳で玉砕したスライムは氷の破片となって辺りに散らばり、最早完全に再生する事も無いであろう。
一方で氷系能力者の後方での支援のお陰で、凍て付いた周囲のジュアヴォを直接打撃で粉砕して行ったジェイクの方も、粗方ジュアヴォの軍勢を片付ける事ができてた。
「コッチは片付いたぜ」「ああ、ご苦労ジェイク」
自らの周囲の凍て付いたジュアヴォを全て片付けたジェイクの言葉にメタルバードも労いの言葉を返す。
そして全てのジュアヴォを片付けた一行は、再びジュアヴォやスライム状の生物兵器の出現に警戒しながら進行して行った。
その過程で一行は通路の一角に置かれていた銀に輝くアタッシュケースを発見する。
「おっ、こりゃ……お宝かな」
本業が賊である赤塚組の頭領 大将はケースの中身を期待して、迷う事無くケースを開けた。
するとケースの中に入っていたのは最新式の小銃であった。弾丸は赤塚組やジェイクが持参している弾薬でも填まる小銃であったが、問題はジェイクも赤塚組の面々も手持ちの銃火器が満杯でこれ以上装備する事ができなかった。
「参ったな。最新式の銃だし、これならさらに戦力になるっていうのに誰も持てやしねェや」
誰も持参する事ができない最新式の銃器に頭を悩ませる大将。すると其処に一人の少女が前に出ては名乗りを上げた。
「それでしたら、私が携帯しますよ」「ん、お前さんは……」
前に出て自ら銃器を装備すると言い出す少女に顔を向ける大将の視界に映ったのは、新世代型の
「おいおい、お嬢ちゃん。これはオモチャじゃねェんだぜ。年端もいかねェ娘さんが銃を持つってのは気に進まねェが……」
年頃の娘に銃器を持たせる事に懸念を抱く大将に反し、言い出した沙耶は自信を持って大将に反論した。
「大丈夫です。私、こう見えて銃器の取り扱いには詳しいんです。私にも武器を持たせてくれれば少なからず戦力に加われます……何より、護ってられてばかりでは申し訳ない気分ですし」
そう言うと沙耶は有無も言わさずケース内の銃に手を伸ばし、最新式の小銃を慣れた手つきで取り扱い始めた。
そんな
(銃火器に対して何の躊躇いも無く手に取り、そして慣れた手付きで取り扱える……やはりこれも、アイツの遺伝子による作用なのかね)
メタルバードは慣れた手付きで銃器を取り扱う
その後、
そして一行は、そのまま通路の奥の厳重な扉へと辿り着き、その扉を開いて奥へと進んでいくのだった。
[ぬぺぬぺ]
一行が厳重な扉を抜けて先へと進むと、其処は殺風景な色白の部屋であった。
壁や天井、床に至るまで色白で統一された部屋の側面には、何やら緑色の得体の知れない液体が詰まったガラス管がずらりと並んでいた。
「こ、此処はいったい……」
真っ先に部屋に入り、状況を確認するメタルバードは進入した部屋の異様なまでの殺風景な風景に異質な何かを感じた。
と。メタルバードに続いて続々と室内に進入していく聖龍隊や赤塚組の面々が、部屋の中央に緑色の液体が広がっているのが目に飛び込んできた。
「何だ? この液体は……」
疑問に思った大将が歩み寄ってみると、液体は部屋の中央から広大な範囲にまで広がっていた。
更に大将に続いて床に広がる液体を懸念に思ったセーラーウラヌスとセーラーネプチューンも歩み寄って、床上の緑の液体を観察してみると液体とは別のある物が目に映った。
それは黄金色に輝く、まるでトカゲか或いはドラゴンの頭部に酷似した何かの頭蓋であった。
「何かしら、あの頭蓋」「確かめてみるか」
黄金色の頭蓋が気になり、少しずつ歩み寄ろうとするネプチューンにウラヌス。
が、その時だった。
床上に広大に広がっていた緑の液体が突如として動き出し、歩み寄ろうとしていたウラヌスとネプチューンを引っくり返してしまった。
「う、うわっ」
突然足元の液体が動き出し、驚いた拍子に尻餅を着いてしまうウラヌスとネプチューン。
一方で突如として動き出した液体は、部屋の中央にポツンと置かれていた黄金色の頭部を中心に怪しくそして激しく蠢いた。
激しく蠢き、徐々に形を成していく緑の液体に愕然とした面持ちで見据える一行。
そして蠢く液体の動きが止まった時には、既に液体は黄金色の頭部を天辺に据えて、高さ5mは有ろうかと云う部屋の天井擦れ擦れの高さまで頭身を成していた。
「こ、コイツは……!」
姿形を形成し目の前に立ちはだかる異様な存在にメタルバードは目を丸くした。
スライムの様なブヨブヨとした肉体に頭部は先ほど部屋に広がる液体の中央に鎮座していた黄金色のドラゴンの様な硬い形状、左腕や胸部そして左足にまでギョロリと蠢く眼球が至る箇所に突出している。上半身の背骨は軟体化した肉体から飛び出てしまっており、腹部には巨大な口がぽっかりと開いてはその口内にまで赤い眼が怪しく光っていた。更にその真下、股間に当たる箇所にはもう一つの顔が巨大で長い舌を左足から右腕にかけて異様に巻き付けていた。
その間も眼前の異形の存在の肉体からは肉体の表面が崩れ去り、床には滲み出た液状の肉体が広がっていた。
「な……何なんだ、この緑色のバケモノは……!」
蒼然とした面持ちで驚き慄く大将が言葉を発したその時。
「……名乗るなら、まずは其方から名乗るのが礼ではないのか……」
何と眼前の怪物が大将の発言に対し言葉を返してきたのだ。
「しゃ、喋ったぁあああッ!!」『うわぁっ!!』
言葉を発した怪物に、大将はもちろん背後で室内の壁際に身を寄せていた新世代型達も驚愕する。
すると更に誰もが想定していなかった事態が起こった。何と皆が部屋に進入して来た頑丈な鉄製の扉が何の前触れも無く、そして誰も触れていないのに勝手に閉じてしまったのだ。
「と、扉が!」
突然閉まった扉に皆は戸惑い、急ぎ扉を開けようと扉の開平を司る丸いハンドルを回して開こうと試みるものの、扉は頑固として開く事はなかった。
そして事もあろうに室内に聖龍隊と赤塚組そして新世代型達が、背後の扉を閉ざされ前には緑色の異形の怪物が立ちはだかり、完全に身動きが出来なくなってしまってた。
すると一行が進入して来た扉が閉まってしまった事を認識した緑色の怪物は、戦前のメタルバードや大将達へ不意に話し掛けてきた。
「成る程な……この私の次なる獲物は、君たちというわけか」
「え、獲物だと!?」
怪物の台詞に一驚する大将。すると大将同様に怪物の発言に疑惑を浮かべたメタルバードが、言葉を発する怪物に問い質した。
「お前は……一体、何者だ」
メタルバードの質問に怪物は率直な意見で答えた。
「私は……私は、誰なのだろうか」「なに?」
怪物の発言に顔を歪ませて疑問視するメタルバード。
更に言葉を発する怪物は自らの経緯を丁寧に一行に語り始めた。
「……記憶にあるのは、私はただ単に強さを求めるだけの武人だった様な気がする。そして力を追い求める故に、この様な研究機関で自らの肉体を強化できるという人体実験に志願した……だがその結果、得られたのは人間だった頃の記憶の欠如と醜い姿形だけだった。私はただ、ただ……強くなりたいと心の底から想い願い、それ故に禁忌の実験に自らを捧げてしまった。その末路が今の姿だ」
『…………』
強さを追い求める余り自ら志願して人体実験を行ったと主張する怪物の話に愕然と言葉を失くす一同。
すると自らの今に至る現状を語り明かす怪物は目の前に険しい顔付きで立ち尽くす二人の女性の顔を見て、とある事実に気付いた。
「っ、君らは……」
『?』
「君達は……かの聖龍隊か? 世界最強の武人にして最悪の人間兵器と呼ばれ恐れた小田原修司が結成した軍隊の。そして君らは聖龍隊では古参の面子である天王星を守護するセーラーウラヌスと海王星を守護するセーラーネプチューンではないか!?」
怪物の問い掛けに二人の美女ウラヌスとネプチューンは答えた。
「ああ、そうだけど」「それが何か?」
訊き返された怪物は二人を直視しながら不気味な雰囲気を醸し出しながら話した。
「君らを始め、聖龍隊は世界でも屈指の遊撃軍隊。今では日本とは完全に独立している国家アニメタウンを聖龍隊のトップ、通称HEADのメンバーで先導している正に軍隊と国家の両方のトップに君臨する戦士達。まさか、この様な姿に成り得てから御目に掛かれるとは……」
半ば聖龍隊との遭遇に満足しているかのような言い草で語る怪物の発言に、今度は聖龍隊の総長であるメタルバードが質問をぶつけた。
「お前さん、本当に自分が何者で、しかも此処の研究施設ではどんな実験を行っていたか思い出せないのか?」
質問された怪物は言葉に躊躇している気配を感じさせずに率直に答え返した。
「その通りだ、私は確か男だった様な気がするだけでそれ以外の人間としての記憶が全く欠如してしまっているのだ。それに此処では様々な人間が実験体として用いられているのは知っているが……私の様に自ら志願したり、ある者達は
『………………』
皆が固唾を呑んで怪物の話に耳を傾けていると、怪物は途轍もない事を話し始めた。
「……君達も私同様、屈強な生物兵器を生み出す実験の過程に放り込まれたに過ぎないという事だ」
「な、何!」
怪物の発言にメタルバードはもちろん他の一同も驚愕した。更に怪物は興味深い事を語り出した。
「君たち、聖龍隊はとても経験豊富で知恵も回る物も少なからず居ると言う。それなら薄々気付いているはずだ……此処の研究施設では度々、ウィルスに感染し攻撃的になった兵士がばら撒かれ君たちの行く手を阻んでいる事に。それだけではない、私の記憶に薄らと残っているが一般の二次元人とは全く異なる二次元人……そう、確か新世代型二次元人と呼ばれる全く新しい種族であり生命である二次元人。その二次元人達の特異稀なる遺伝子を用いて更なる強力な生物兵器の開発に着目しているとか何とか」
『!!』
怪物の発した話に愕然と成る新世代型たち。だが怪物の話はこれで終わりではなかった。
「そして何より、此処まで辿り着く間に様々な生体兵器が君達に襲い掛かっている筈だ。おそらくは此処の施設で造り出した生体兵器の試行も兼ねて聖龍隊である君達にぶつけているのだろう……そして、これが一番大切な話だ。君たちも既に気付いているとは思うが、何者かに此処まで誘導させられている節目を感じてはいないかね」
「! ……何か知っているのか」
真意を衝かれたメタルバードは険しい目付きで怪物に問い質すと、怪物は意外な事実を話してくれた。
「此処の研究機関を、莫大な資金を出資してまで地下に造り上げた人間……つまりは機関のトップにあたる人物だ。その人物が此処に監禁されている新世代型を救出しに侵入して来た時点でトップの人物の思惑が動き出したのだろう……ただし、二つの内のどちらかしか成し遂げられない思惑がな」
「二つの内の一つ?」
怪物の言葉に疑問を浮かべるメタルバード達。彼等に怪物は再度丁寧な口調で詳細を語り始めた。
「うむ、一つは今や世界情勢の表舞台と裏方で活躍してきた小田原修司。彼以上に最強にして最悪の生体兵器を生み出すという思惑だ」
「何だと! あの修司以上の兵器だって……!?」
怪物の話に驚愕し、俄かには信じ難い心境の大将。そして怪物はもう一つの思惑に付いても語ってくれた。
「そしてもう一つ……これが何よりも恐ろしい思惑だ」
『……っ』固唾を呑んで話に聞き入る一同。
そして遂に怪物はもう一つの思惑に付いて語り明かした。
「もう一つの思惑、それは……全人類の絶滅が狙いだ」
「ぜ、全人類の絶滅!?」
怪物の話した内容に驚倒してしまうメタルバード。怪物はその全容を語り始めた。
「そうだ。もう既に、この東南アジアの都内には凶暴なウィルスでゾンビと化した人々が蹂躙しているだろう。その狙いはアジアを中心に世界のあらゆる人種を絶滅に追い込む破滅的計画だ」
「な、何でそんな事を……?」
驚いた様子で海野なるが問い質すと、怪物は素直に答えてくれた。
「この研究機関を開発したトップの人間は異常なまでに非人間的な思想を秘めているからに過ぎない」
「非人間的思想?」
再びメタルバードが首を傾げると、怪物は丁寧に答える。
「いわば、人間の存在は地球を破滅に追い込み、何れは人間自らのみにあらず地球全体を汚染し全ての生命を根絶してしまう可能性を危惧した思想だ。環境破壊に無意味で埒の明かない絶えない争い……それらを繰り返す人間を根絶して事、有りの侭の地球を甦らせられるという人間そのものを否定した思想の事だ。今、君たちを研究施設内で上手く誘導している人物はおそらく君たちで生体兵器のテストをしている積りであろうが……トップの一人だけは人類を根絶する為の生体兵器の開発に着目している。その、生体兵器開発の実験体の一体が私という事だがな」
『…………………………』
人間の存在そのものを完全否定する思惑を抱いている人間の存在に絶句する一同。
と。此処で皆に経緯などを語り明かしてくれた怪物が思わぬ事を言い出した。
「……ところで、君達は聖龍隊だろう? 此処から抜け出したいのであれば、この私を倒す事だ」
「え、え!?」
怪物の思わぬ発言に驚異してしまうセーラームーン。その事情を怪物は赤裸々に語ってくれた。
「君たちを何処か被害を被らない場所で監視しつつ、上手く誘導している者らは君たちの実力を確認する為にも私が幽閉されていたこの場所まで辿り着いたのだろう。現に、私の部屋にやって来たものは人で無くなった生体兵器や、何らかのミスを犯してその粛清として私に取り込ませた人間ばかりだ。つまりは君達も私との戦闘データを採取する為に此処まで誘導されてしまったのだろう」
「そ、そんな……!」
「現に、君達が進入して来た扉は監視している者の遠隔操作で完全に閉ざされてしまっているからだ。此処から抜け出す為には、異形の怪物に成り果てた私自身を倒す以外、道は無いのだ」
怪物の突然の話に困惑するメタルバード達。
確かに進入して来た扉は遠隔操作で完全に鍵が掛かってしまっているのか人力で開く事はまず不可能。そしてもう一方の確認していない扉は怪物の向こう側に確認できた。無論、その扉も遠隔操作でロックされているかもしれない。つまり怪物の言うとおり、この密室で互いに戦い合わなければ部屋を出る事は出来ないのかもしれないのだ。
この怪物の話を聞いても自分達の状況に困惑するばかりの面々。そんな彼等に怪物は自らの要望を訴え出した。
「私は見ての通り、もう人間ではない。しかし武人としての誇りと生き様だけは確かに残っている……お願いだ、私に武人の誇りが残っている今の内に、私を倒してくれ!」
「し、しかし……!」
怪物の必死の志願に更に困惑してしまうキューティーハニー。しかし怪物の言動は収まる事がなかった。
「頼む! もう、いつ私の人格が崩壊してしまうか解らない! 責めて……責めて、人間としての人格が残っている今の内に私を! 私を武人として葬ってくれ!! さもなくば……」
次の瞬間、怪物は左腕を振り上げるとそれを力いっぱい前方の非力な新世代型たちに向けて振り付けてきた。
『うわぁ!』
突然の怪物の攻撃に怯む新世代型たち。そんな新世代型たちへの攻撃を寸での所で防いでみせるウラヌス。
攻撃を仕掛けてきた怪物は、眼前の一同を対峙するかのように睨み付けては脅威に満ちた口振りで言い放った。
「私を倒さぬのなら……まずは人数を減らすと言う事で最も弱い対象を、その子供達を私の一部として取り込むぞ!」
己を攻撃して来ないのなら非力な新世代型の子供達を攻撃し、己の肉体の一部として取り込むと脅迫してくる怪物。
この怪物の言動を受けて、聖龍隊はアニメタウンの指導権を持つ者たちとして、更に世界最強の遊撃軍隊としての誇りを賭けて怪物との死闘を承諾するのだった。
「分かったわ! あなたの要望、叶えて差し上げますわ」
「このボクたち聖龍隊と戦って死ねる名誉を誇りに思いながら、安らかに眠るがいい……」
怪物の嘆願を承諾して臨戦態勢に入るネプチューンとウラヌス。これに対して怪物は感謝の意を込めて礼を述べてきた。
「ありがとう、聖龍隊の英雄たちよ……」
そしてネプチューンにウラヌスの臨戦態勢によって他の聖龍隊や赤塚組も渋々、怪物との戦闘に承諾しては戦闘態勢に入る。
すると此処でセーラーネプチューンが眼前で対峙する怪物に向かって一言。
「そう言えば……あなた、自分の名前が思い出せないみたいだけど私達は何て呼んだら良いかしら?」
「はて。考えてもなかったな……其方の好きな様に呼んでくれれば良いさ」
「そう。それなら御言葉に甘えて……あなたの体質から感じ取ってみて、【ぬぺぬぺ】なんて呼び名はどうかしら?」
「ぬぺぬぺ? ……以外だな。知性と美貌そして芸術的才能を兼ね備えた比の打ち所の無いセーラー戦士ネプチューンとも有ろう者が、まさかその様な可愛げのある呼び名を私に名付けてくれるとは」
「あら? それは筋違いってモノよ。私だって可愛い物には愛着を持つレディーであり、同時に少女の心を持っている戦士なんですのよ」
「ふふ、そうか。それでは改めて戦闘を開始しようではないか、深海の戦士ネプチューンと飛翔の戦士ウラヌス。そして世界最強の英雄集団、聖龍隊よ!」
こうして怪物ぬぺぬぺと聖龍隊に赤塚組といった面々との激しい死闘が開始された。
人間としての人格が残っている間に、せめてもの情けで武人として最後の死闘を展開したいと嘆願する液状の怪物ぬぺぬぺとの戦闘。
まず聖龍隊はセーラーマーズを筆頭とした火炎攻撃を中心とした隊士による灼熱の炎をぬぺぬぺに放射し攻撃してみる。
しかし、ぬぺぬぺの水分豊富なスライム状の滑りのある体質が仇となって火炎攻撃は余り効果がなかった。
「チッ、体内の水分が多すぎて、殆ど水に炎を直撃させているみたいだ!」
火炎攻撃の効き目の無さに舌打をするメタルバード。
其処に今度は赤塚組とジェイク、そして
だが肉体の殆どがスライム状のブヨブヨとした体質に阻まれ、銃弾も余り効果を示さなかった。
「クッ、あの体じゃ弾が体内まで届かねェ」
効力を発揮できない銃撃に悔しがる大将。
するとお次はマーキュリーを先頭に先ほどのジュアヴォ戦でも活躍した氷系の能力者たちが、ジュアヴォ同様にぬぺぬぺを凍らせて攻撃してみようと思い立ち、ぬぺぬぺに凍て付く氷の攻撃を放った。
氷系の技を喰らったぬぺぬぺの表面はみるみる内に凍り付いていき、ほぼ水分で構成されたぬぺぬぺの表面上の液体だけだが凍らせる事に成功する。
其処をメタルバードが巨大化した自身の右腕で力いっぱい殴り付け、凍て付いたぬぺぬぺの凍り付いた箇所を殴打すると同時に激しくぬぺぬぺの態勢を崩してみせる。
だが、ぬぺぬぺはスグに態勢を立て直し、更に凍て付いた箇所を殴打され激しく損傷した部分を速効で再生して見せては、元の形状へと戻ってしまう。
「何てこった。再生能力が半端なく高いぜ、コイツは」
凍り付いた箇所を殴打したにも関わらず瞬時に再生してみせるぬぺぬぺの脅威の再生能力に驚愕するメタルバード。
水分を多く含んだ体質ゆえに火炎による攻撃も無力。更に氷系の技で凍て付かせて、其処を打撃で攻撃してもスグにスライム状の肉体による異常なまでの再生能力で瞬時に回復。最早ぬぺぬぺに対抗できる手段は少なくなってきていた。
と。此処でメタルバードがレーダーの役割を担う機械化した眼球で自分達と対峙するぬぺぬぺの体質や肉体構造を念入りに調査し始めた。何かしらの弱点を見出す為に。
そんな中、先ほど少しばかし効力を見せた氷系の技で立ち向かおうとグレイや
「アイス・キャノン!」「それッ」「はぁッ」
三人の強烈な凍て付く攻撃がぬぺぬぺに直撃するものの、先ほどと同様に体面の滑りである水分しか凍り付かせる事ができなかった。だが其処にトリコや金剛番長が強烈な拳での打撃を連続で浴びせていった。
「釘パンチ!」「ダブル・ハンマー!」
二人の剛腕による打撃でぬぺぬぺは激しく後方に退き、同時に凍て付いた液状の肉体も粉砕していく。しかし、やはりぬぺぬぺは高い再生能力で損傷し失った肉体を瞬時に再生してみせる。
「クッ、これじゃ埒が明かねェぜ」「む……」
表情を歪ませて苦悶するトリコに厳つい顔でぬぺぬぺを睨み付ける金剛番長。
一方その頃、そんな皆の戦闘状況と攻撃を受けては瞬時に回復してみせたぬぺぬぺを事細かくレーダーと化した眼球で捕捉し続けていたメタルバードがある事に気付いた。
「そ、そうか。成る程な。おい、みんな! ぬぺぬぺは凍り付いた肉体を損失すると、その分体の細胞を再生に回す為に肉体の体積が著しく消費していく! つまり地道な手段ではあるが、ぬぺぬぺを凍らせてはその箇所を即座に打撃や銃撃で損失させて、ぬぺぬぺの体積を徐々に減らしていくしか勝ち目が無ェ! いくら再生能力が高くっても、その際に損失した肉体を補う細胞が少なくなっていけばぬぺぬぺの再生能力も少しは抑えられる筈だ!!」
「確かに……地道な作業ではあるが、それぐらいしか勝ち目が無いのは致し方ないな」
メタルバードの捕捉した情報を基にした提案を聞いて、確実に勝つにはそれ以外の手法はないと合意するジュピターキッド。
するとこのメタルバードの発した作戦に、ぬぺぬぺ本人も同意するのであった。
「ふふ、確かにそうだな。超獣族の王家継承者であったバーンズ・ウィングダムズ・キングスよ。私の凍て付いた肉体が損失すればするほど、再生で補わなければいけない細胞は数知れない。其処に気付いたのはさすがとしか言いようが無いな」
メタルバードの策を敵ながら称賛するぬぺぬぺ。いくら人間だった頃の面影を失くしていても、武人としての気構えと誇りだけは失ってはいない。
そしてメタルバードの発した作戦を実行する為に、最戦前にはマーキュリーを始めとする龍咲海にフリーズ(凍)のカードを手に構える木之本桜、ブルーローズと
その背後には赤塚組の一同にジェイク、そして
そしてメタルバードが戦闘態勢に入る一団に合図を送った。
「氷系能力者! 一斉攻撃を放てッ!」
メタルバードの合図に一斉にぬぺぬぺへと凍て付く技を発射していく最戦前の隊士達。彼等の働きでぬぺぬぺの全身は白く凍て付いた。そのぬぺぬぺが凍りついた事を認識したメタルバードは新たに指示を出した。
「氷系、退け! 銃撃隊、俺と共にぬぺぬぺに一斉射撃だ! 構わない、惜しみなく銃弾をお見舞いしてやれッ」
このメタルバードの指示を合図に氷系能力者と入れ替わりに戦前に出た銃撃者たちは右腕を砲身に変形させたメタルバードと共に凍て付いたぬぺぬぺへ一斉射撃を開始した。白く凍て付いたぬぺぬぺの凍り付いた肉体の表面は銃撃などの打撃でみるみる内に粉々になっていき、ぬぺぬぺの体が少しばかし細く成って行くのが目に見えてきた。
更にメタルバードは砲撃のみに非ず、銃弾が飛び交うぬぺぬぺの眼前まで接近しては直接鋼の拳や肉体で、ぬぺぬぺを攻撃して行った。
「
改めて己の鋼の肉体の頑丈さを新しく戦力に加わった
だが、攻撃を受け続けているぬぺぬぺも遣られっ放しではなかった。
「ぐふふ、私がただ黙って攻撃を受けてばかりだと思うかね?」
不敵にそう言うと、ぬぺぬぺは半ば液状の左腕をゴムの様に伸ばして来ては最戦前で戦う者たちに反撃してきた。
「うわッ」「避けろッ」
咄嗟に放たれた伸縮性の腕による攻撃に身を伏せていく赤塚組を始めとする戦前の者たち。
更に銃撃が止み、立ち位置を後退して代わる代わる攻撃を繰り返そうとする氷系の能力者たちが戦前に出た直後、ぬぺぬぺは再び腕を振るっては自身の液状の肉体の一部を飛散させてきた。
「う、うわっ」「な、何しやがるんだ!」
腕や顔に緑色のスライム状の肉片を飛ばされ、驚きそして怒るブルーローズにグレイ。
だが、そんなぬぺぬぺの肉片が体に飛着した面々に異変が起こった。それは先ほど、赤塚組のアツシの顔面にスライム状の生物兵器が飛び付いて、顔の細胞を侵食したのと同じく皮膚に赤い発疹が浮き出ていたのだ。
「い、いやぁ!」
腕に飛着した肉片の部分から徐々に赤い発疹が広がっていくのを目の当たりにしたブルーローズは悲鳴を上げ恐怖する。
それを見たメタルバードは例のアツシに飛び掛かったスライムを思い返しながら語り始めた。
「さ、さっきのスライム状の生物兵器と同じだ! ぬぺぬぺの細胞いや体そのものが生きた細胞を侵食する一種の生物兵器で構成されている!」
衝撃の展開に驚くメタルバードの語りを聞いて、それに付け足す様にぬぺぬぺが徐に話し出した。
「ふふふ、私の肉体を構成しているスライム状の細胞は、そんらそこ等のスライム形状の生物兵器とは桁が違う。他のスライムとは異なり、生きた細胞を侵食するスピードも捕食する生存資質も格段に飛躍しているのだ。それ、話をしている内に君達の体は徐々にスライムに侵食され、最悪の場合骨を構成しているカルシウムまで侵食し捕食してしまうだろう」
ぬぺぬぺの話しているとおり、その間にもぬぺぬぺの生きた細胞を捕食するスライム状の肉片は付着した戦前の者達の皮膚を赤く発疹させつつ蝕んでいた。
「うわッ、誰か何とかしてくれ!」
自身の肉体を蝕まれていく感触に、さすがのグレイも脅えだし助けを求める。
と。其処にグレイと同じく身体をスライムに蝕まれていく感触に悪感を覚えるブルーローズが一か八か、自身の身体に付着しているスライム上の肉片に己のNEXT能力である氷の力で凍らせてみた。するとブルーローズの身体に付着していたスライムは凍りつき、バラバラになって身体から剥がれ落ちていった。
「こ、これだわ! みんな、スライムは凍らせれば簡単に剥がれ落ちる。体が食い尽くされる前に剥ぎ取ってやりましょう!」
このブルーローズの見出した解決策に、周囲の皆も挙って自身の身体に張り付くスライムを凍らせて引き剥がしていく。
すると自ら身体に付着したスライムの対処法を見出したブルーローズに、ぬぺぬぺは狙いを定めつつ彼女を称賛する。
「さすが氷系のNEXTなだけは有るな、蒼き薔薇ブルーローズ。子供向けの水鉄砲を用いた氷の技だけでなく、その様な咄嗟の判断力も持ち合わせているとは……いやはや、驚いた」
すると称賛の言葉をぬぺぬぺに掛けられたブルーローズ本人も、ぬぺぬぺと対峙しながら同時にぬぺぬぺに向けて手の平を翳した。
「私の場合、水鉄砲はスポンサーのアイデアで子供向けの玩具として売り出す為の小道具に過ぎないわ。私の本来のNEXT能力は、念じた物体を凍て付かせたり周囲の温度を下げる事。すなわち、あなたのその細身になった体を丸ごと凍らせて、仲間達の打撃で一気に粉砕させる事も可能って事よ!」
ブルーローズがぬぺぬぺに勝利宣言ともいえる発言を言い放った次の瞬間、彼女の体全身が青白い光に包まれた。これはNEXT特有の、特殊能力を使用する際に見られる現象である。
そしてブルーローズが一気に眼前のぬぺぬぺの全身を凍て付かせようと能力を発動させようとした。その瞬間。ブルーローズの左頬に何か鞭状の物体が強烈に叩き付けられ、ブルーローズは床に転倒してしまう。
「ぐッ……」
絶叫にも出せないほどの素早さで頬を叩かれ床に転倒してしまうブルーローズ。
「ブルーローズ!」
仲間のグレイが慌てて彼女に駆け寄ろうとすると、ブルーローズを叩いた物体が怪しくグレイの視界に入り込み彼の足を止める。
能力を発動させる直前にブルーローズを叩いた物体、それはぬぺぬぺの右腕に巻き付いていた異様に細長い舌であった。その舌はぬぺぬぺの股間部分にぽっかりと開いた不気味な口から伸びており、それが宙を舞う様に戦前の面々を動揺させる動きをしてみせる。
「この野郎ッ」
仲間のブルーローズを攻撃され、仇と言わんばかりにぬぺぬぺに向かっていくグレイ。だが、そんな彼をぬぺぬぺは先ほどまで異様に長い舌を巻き付けていた右腕でグレイの首根っこを掴み上げ、彼の自由を奪ってしまう。
「グレイ!」
同じ部隊であり仲間であるグレイが捕らわれ、慌ててしまうナツ・ドラグニル。
だがグレイを捕らえたぬぺぬぺの右腕は、容赦なくグレイの首を握り締めていく。
「ぐぁ……ッ!」
首を握り締められ呼吸も侭成らない状態のグレイ・フルバスター。彼は必死にもがいて、この状況から切り抜こうとするがぬぺぬぺの右腕が緩む事はなかった。
一方で能力を発動させようとした所を長い舌で狙い打ちされ、床に転倒してしまってたブルーローズは再度ぬぺぬぺへ能力を発動させて凍り付かせようと左手を翳した。だが能力の使用をさせまいと、ぬぺぬぺは床に寝転んだ状態で能力を使おうとしているブルーローズの背中に容赦なく長い舌を振り付けていった。
「ぐはッ」
背中を激しく殴打され攻撃に集中できないブルーローズ。そんな彼女にぬぺぬぺは攻撃の手を緩めずにブルーローズの露出している色白の背中を長い舌で激しく叩きつけて行く。
異様に長い舌を器用に鞭の要領でブルーローズの背中に叩きつけて行くぬぺぬぺの攻撃に成す術も無いブルーローズ。そんな彼女を挑発するかのように、ぬぺぬぺはブルーローズの背中を舌で叩き付けながら話し掛けてきた。
「ふっふっふっふ、美しくも妖艶な茨を纏う蒼き薔薇ブルーローズも、この舌での鞭使いには苦痛を強いられると見た。どうかね? 普段は女王様キャラを演じてヒーロー活動をしている君が、逆に鞭で痛め付けらる気分は」
「ぐはぁ!」
挑発的な言動をブルーローズに掛けて行くぬぺぬぺ、だがその最中も当のブルーローズは背中を激しく鞭の様に振るわれる長い舌で殴打され続けては絶叫し、無惨にも彼女の美しい色白の肌は赤く腫れ上がってしまってた。
幾度と無くブルーローズの背中を痛め付けたぬぺぬぺは、挙句の果てにブルーローズをその痛め付けるのに用いた長い舌を彼女の首に巻き付けては、気道を圧迫し締め上げてきた。
「うぅ……っ」
喉を締め付けられ、苦境の極みに達していくブルーローズ。だが、ぬぺぬぺの攻撃の手はこれでお終いではなかった。
何と舌をブルーローズの首に巻き付けたまま彼女を自分の許へと引き寄せていき、最終的にはブルーローズを自分の胴体へと押し当てた。
だが、異変はその時まさに起こったのだ。ぬぺぬぺに引き寄せられ胴体に押し当てられたブルーローズに、ぬぺぬぺの右腕に首を掴まれ捕らわれているグレイ、二人の体に次第に緑色の粘液が生物の様に移動しては少しずつ包み込んでいくのだった。
「な、何だアレは!? グレイの首筋にブルーローズの上半身が少しずつ緑の粘液に呑み込まれていっちまっているじゃねェか!」
目の前で起こっている異常事態に愕然となるナツに周囲の皆々。
すると眼前で起こっている事態に理解が追い付かない面々を前にして、ぬぺぬぺ本人が自分の仕出かしている行為と己が捕らえている二人に起こっている状況を解説し出した。
「この二人の身に何が起こっているのか理解できないようだな……私の全身は今や9割以上がスライム状の生体兵器で構成されている。その生体兵器は生きた細胞を捕食する事に掛けては他の生体兵器の比ではない。最早この二人も私の体を伝って移動しつつある軟体生物兵器の捕食の対象として、その活気の良い細胞へと侵食を開始したのだ。そして行く行くは、この男女は共に私の体の一部と化すだろう……」
このぬぺぬぺの話を聞いて、恐怖で混乱してしまうブルーローズとグレイは非常に焦り始めた。
「た、助けてッ。このままじゃ私、コイツの一部になっちゃう!」
「ぐぅ~~ッ(た、頼む! 誰かコイツの腕を解いてくれぇ)」
胴体に押し当てられ徐々に侵食されていくブルーローズに、首を掴まれ手首越しから這ってくるスライム状の細胞に侵食される恐怖に脅えるグレイ。二名は侵食されてしまわない内に救助を求めていく。
しかし、その間もブルーローズは顔から上半身のヒーロースーツでは覆い隠せてない露出した体面から、グレイは首根っこから徐々に侵食されていき、その症状として例の赤い発疹が2人の身体に目立ってきた。
「ぐ、グレイ君! ブルーローズ! ちくしょう、何とかしねェと……」
「ダメです虎徹さん! 迂闊に近づけば貴方もあの緑色の細胞に侵食され、捕まってしまいます!」
仲間のグレイとブルーローズの危機に救出に向かおうと駆け出そうとするワイルドタイガーを、相棒であるバーナビーが接近すれば緑の細胞に捕まり捕食されかねないと制止する。
2人の仲間の危機を救う事も出来ず、ワイルドタイガーもバーナビーもその他の仲間達もグレイとブルーローズが徐々に侵食されていくのを黙然と見詰めるしか出来なかった。
その時。「うおりゃッ」鋼鉄の肉体を持つメタルバードが軟体状の肉体であるぬぺぬぺの左腿目掛けて槍の形に変形させた両腕を突き刺した。
そして両腕を突き刺したメタルバードは、ぬぺぬぺに捕らわれ徐々に侵食されつつあるブルーローズとグレイに言い放った。
「グレイ、ブルーローズ! 少し痺れるかもしれんが、我慢してくれッ」
メタルバードはぬぺぬぺの身体と密着している二人にそう告げると、ぬぺぬぺに突き刺した両腕から高圧電流を放出した。
「ぐおおおおッ」「うッ」「きゃ……っ」
体に流れる電撃に痺れるぬぺぬぺに、そのぬぺぬぺに捕らわれているため感電し同じく電撃が体に流れて苦しむグレイとブルーローズ。
だが体内に注がれた電流によってグレイとブルーローズを捕らえていたぬぺぬぺの侵食細胞は二人を自然と放し、解放された二人は床に倒れ込んだ。
「グレイ! ブルーローズ!」
急ぎ参謀総長のジュピターキッドが床に投げ出される二人の許に駆け寄ってみると、グレイは捕まえられてた首が、ブルーローズは押し当てられてた顔から腹部に至る上半身が、ぬぺぬぺの侵食細胞に喰い付かれた痕跡として赤い発疹が酷く残ってしまってた。
「酷い……急いで処置を!」
ジュピターキッドの緊急を要する指示にナースエンジェルが赤い発疹が発生している二人を安全な場所まで移動させては治療処置を施す。
一方でぬぺぬぺに高圧電流で攻撃し続けるメタルバードは未だに電撃をぬぺぬぺに放出し続けていた。
「ど、どうだ……スライム状の、肉体の9割以上が水分なら電撃が如何に苦痛か良く解るだろうが」
懸命に電撃を放出し続けるメタルバード。すると彼は電撃を放出し続けた疲労か、電流の放出を一旦やめ後方へ退く。そんなメタルバードに強力な電撃を放流されたぬぺぬぺは、メタルバードの実情を良く理解しているかのように語り出した。
「クックック、さすがは今の私と同じ軟体生命体であるメタルバード。細胞を金属化し一種のサイボーグと化している今の状態なら電撃は逆にエネルギーとして吸収できるが、本来のバーンズの時は今の私同様の軟体生命体。電撃が最大の弱点となってしまう軟体生命体が本質ゆえに私への対抗策の一つとして電撃を戦闘に用いるとは、考えたものだ」
自身と同じ軟体生命体であるが故に電撃と云う弱点も共通している点に気付いたメタルバードの戦法を評価するぬぺぬぺ。
一方で評価を受けたメタルバードは体内に貯蓄していた電気を消耗してしまい、故に疲労感に体が襲われていた。
「はぁ、はぁ……」
電気エネルギーを消耗しすぎたメタルバードは荒い息遣いで眼前のぬぺぬぺと対峙する。
しかし疲労困憊してばかりではいられない。速急に眼前のぬぺぬぺを倒し先へと進まねばならないと言う使命感から、メタルバードは周囲に鎮座していた仲間達に要望した。
「セーラージュピター、さくら、ナオミ、それにドラゴンキッド。いいや、ちせにコレクターズ! 全員、俺に有りっ丈の電気エネルギーを注いでくれ! 考えがあるんだ」
「う、うん」「わ、分かった」「総長がそう言うなら……」
「ボク達の電気エネルギーで何か作戦を思いついたんだね!」
「こうなったら、メタルバードの策に乗るしか今はなさそうね」
「よぉし……ハルナちゃん、アイちゃん! 私達も三人同時にメタルバードに電気ショックを充電させましょっ!」
「はいっ」「こうなったらバーンズ一か八か賭けるしかなさそうね」
メタルバードからの起っての希望で、電撃系の能力が使用できる聖龍隊士はメタルバードに向けて強烈な電撃を一斉に浴びせた。
皆からの電撃を浴びて充電させてもらったメタルバードの体の表面には夥しい程の電気エネルギーが帯電し、メタルバードの全身は電気の光に包まれた。
そして全身に電気を帯びたメタルバードは、前方のぬぺぬぺ目掛けて一直線に滑空し突っ込んでいった。
「秘技・電撃人間魚雷! ……人間じゃないけど」
メタルバードは体に電気を帯びた状態でプロレス技の一つである人間魚雷でぬぺぬぺに滑空し突進していった。狙いはぬぺぬぺの胴体に突っ込んで自らの体に帯電している電気で痺れさせる事であった。
だがメタルバードの人間魚雷がぬぺぬぺに直撃する寸前、何とぬぺぬぺの胴体にぽっかりと大きな穴が開いてメタルバードはその中を突き抜けて向こう側まで貫通してしまった。
「って、ウッソぉーーッ!!?」『!!』
ぬぺぬぺの胴体に巨大な穴が開き、その中を通過されて技を防がれた事態に驚愕するメタルバード。そして彼と同様にぬぺぬぺの胴体に巨大な穴が開いた現状を目の当たりにした一同も驚愕した。
そしてぬぺぬぺの体の穴を通過してしまい技を避けられたメタルバードは、ぬぺぬぺの向こう側に存在している頑丈そうな鉄の扉へと突っ込んでいき足を着いてしまう。その瞬間、メタルバードの体に帯電していた電気は全て鉄製の扉へと流出してしまった。
(クッ、帯電していた電気が全て鉄の扉に逆流しちまったか……!)
ぬぺぬぺへの攻撃用として帯電していた電気が全て鉄の扉に吸収されてしまい困惑するメタルバード。
だが困惑してばかりもいられない。メタルバードはスグに床へと着地し、再び自身の体に穴を開けて己を貫通させて攻撃を防いだぬぺぬぺに視線を向ける。
一方のぬぺぬぺは突進してくるメタルバードの攻撃をかわす為に開けた胴体の穴を塞ぐと、スグに後方に鎮座しているメタルバードへと姿勢を向ける。
「ぐふふ、強力な電気を鋼の体に纏わらせて突進してくるとは良い作戦だったな。しかし私が軟体生命体へと変貌している事を忘れてもらってはいけない。其方が電撃を帯びた肉体で突っ込んでくるのなら自らの体を変形させて突進してくる其方を通過させる大穴ぐらい簡単に開けられるわ」
自らの考案した対抗策を自慢げに語るぬぺぬぺの台詞に、メタルバードは険しい表情で聞き入れていた。
そしてぬぺぬぺは、自らの体に強力な電気を帯電させて突進する作戦を失敗したばかりのメタルバードを突如、右腕で頭ごと鷲掴みして捕らえてしまう。
「ぐッ」
頭を鷲掴みにされるのと同時に、スライム状の細胞が頭頂部から首に掛けて包み込まれて完全に掴まれてしまうメタルバードは振り解く事さえ侭成らなかった。
「メタルバード!」
頭部を丸ごとスライム状の細胞で包み込まれて動きを封じられてしまうメタルバードを目の当たりにしたミラーガールが心配そうに叫ぶ。
そんな中、スライム上の細胞で顔を丸ごと掴まれたメタルバードはスライム上の細胞で顔を包まれている状態でも自身を掴んでいるぬぺぬぺに強気な態度で言い放った。
「おいっ、ぬぺぬぺ! 今のオレの体の細胞が全て金属に変化している事を忘れたか! いくら他の細胞を侵食する其方さんのスライムの細胞でもオレの鋼の細胞には全く効き目が無ェんだぞッ」
丸ごと顔をスライムで包み込まれながらも懸命に自身の金属化した細胞は侵食できないとぬぺぬぺに訴えるメタルバード。
だがメタルバードの強気な発言を聞いたぬぺぬぺは自信に満ちた口振りで言い返した。
「ははは、それぐらい私だって気付いているわ。ただ、折角の強靭な君の鋼の肉体なのだからね。それを有効に利用させてもらうだけさ」
「り、利用だと?」
ぬぺぬぺの発言に理解が示せず困惑するメタルバード。だが次の瞬間、そのぬぺぬぺの発した言葉の真意をメタルバードは身を持って知るのだった。
何とぬぺぬぺはメタルバードの頭部をスライム状の細胞で包んだ状態で掴んだまま、周辺へと無闇に振り回し始めたのだ。
「うわぁ!」頭部を鷲掴みにされて振り回されるメタルバード。
が、そのメタルバードがぬぺぬぺと対峙している他の面々の方にまで振り回されてきた。
「うわあ!」「あ、頭を下げろッ!」
振り回され飛んでくるメタルバードの体に逃げ惑う新世代型たち。そんな彼等に大将は頭を低くして己の身を護れと指示を飛ばす。
そんな最中、ぬぺぬぺは更に力強くメタルバードを振り回し、眼前で対峙する者達との牽制に用いたり、両壁際にズラリと並べられてる緑色の液体が詰まったガラス管を悉くメタルバードを振り付けて叩き割っていく。
ぬぺぬぺがメタルバードを振り回して叩き割ったガラス管から夥しい量の緑色の液体が床一杯に広がっていく。
そしてぬぺぬぺは壁際の液体が詰まったガラス管を全て破壊し尽くすと、ようやくメタルバードを目の前の床に叩き付けて解放した。
「うおッ」
床に激しく叩き付けられると同時に解放されたメタルバードは自由の身になった気分に浸る事も無く、立ち上がっては姿勢を自分を散々振り回したぬぺぬぺへ向けて対峙する。
「よ、良くもやってくれたな……だがオレ様の鋼鉄の体には殆どダメージはない。お前がオレにしてやった攻撃も、余り意味を成さなかった様だな」
振り回された勢いで若干目を回してしまってたメタルバードだったが、鋼鉄の肉体により損傷は全く持って皆無に等しかった。ぬぺぬぺに其方の攻撃は意味が無かったと告げるメタルバード。
だがメタルバードを振り回し、周囲のガラス管を全て破壊し尽くしたぬぺぬぺは余裕を感じさせる口振りで対峙するメタルバード達に告げた。
「ぐふふ、そんなこと百も承知だ。メタルバードの肉体はミサイルをも通じぬ程の強度を持つ、かのスーパーマン以上に屈強な肉体だ。振り回し、壁や床に叩き付ける攻撃が如何に無意味か私が知らぬと思っているのか。そして君を振り回して眼前の面々に振り払っていっても戦闘経験豊富な聖龍隊の事だ、難なく回避してしまうのは承知の上だよ」
「と、言うと……」
「ふふふふ……」
ぬぺぬぺの不敵な発言にメタルバードが問い返すと、ぬぺぬぺは不敵な微少を口ずさみながら己の考案した策を実行に移した。
何と先ほどぬぺぬぺがメタルバードを振り回した勢いで破壊したガラス管から零れ出た緑色の液体が、ぬぺぬぺの足元周辺のスライム状の細胞にスポンジの様に吸収されていったのだ。
「な、何!」
目の前で起こる想定外の事態に驚愕するメタルバード達。その最中でも床に広がっていた緑色の液体は、ぬぺぬぺの足元に広がっているスライム状の細胞に吸い取られていった。まるでスポンジが水を吸収するかの如く、みるみる内にガラス管から零れ出た緑色の液体はぬぺぬぺの体へと吸収されていってしまった。
そして緑色の液体を全て吸収し終わった頃には、ぬぺぬぺの全体は最初の頃よりも更に肥大化しては巨大化してしまってた。
「な、なんじゃコレはーーッ!?」
目を丸くして驚愕する大将の絶叫が部屋に響く中、大将や皆の驚きを目の当たりにしたぬぺぬぺは自らの体に起こった事態に付いて詳しく語り明かしてくれた。
「クックック、何が起きたのか全く見当が付かないようだな。良いかい、この部屋に陳列されてたガラス管に納められてた液体は私の肉体を構成している特殊な培養液だったのだよ。培養液を吸収する事で私は己の肉体を更に肥大化させる事が可能となる。其処で、頑丈な鋼鉄の肉体であるメタルバードを振り回して、強引にガラス管を破壊して中の培養液を全て出させたのだ。お陰で凍らされ砕かれていった元の肉体以上に肥大化した巨大な肉体へと変貌を遂げる事ができたよ。ハハハ……」
ぬぺぬぺは、メタルバードを捕まえて振り回したのは彼に損傷を与える為でもなければ対峙している者たちへの牽制でもなく、自分の体を構成している培養液を保存しているガラス管を破壊して中身の培養液を自身に吸収する事が本来の目的であったと堂々と皆に語り明かした。
実際ぬぺぬぺは特殊な培養液を吸収した為に、凍り付かされ砕かれていっては細身になった肉体から一変、元の体格以上に肥大化した体格へと変貌を遂げていた。
「て、テメェ、卑怯だぞ! オレを使って保存ケースを破壊して、中身の培養液を吸収して巨大化するなんてよッ!」
メタルバードは自身の鋼鉄の体を利用して周囲のガラス管を破壊しては中身の培養液をそっくりそのまま吸収して巨大化したぬぺぬぺの行為を卑怯と訴える。
だが当のぬぺぬぺは巨大化した体を見せ付ける様に平然と言い返した。
「何を言う。本来、戦いにルールやマナーなどはない。勝つか負けるか、生か死か、そのどちらかしかない。何より周囲の物や現状によって戦闘を展開し、己にとって有利な状況に持ち込むのは戦闘では極普通の事ではないか。ただ私にとって都合が良かったのは、自力では破壊できない強化ガラスの保存官を破壊する事が可能なほどの頑丈な鋼鉄の肉体を持つメタルバードが目の前にやって来てくれた事が、何よりの状況有利に繋がっただけの事だ」
悠々と勝負事の理屈を述べていくぬぺぬぺ。一方、ぬぺぬぺの述べる戦闘を有利にしていく戦術には共感できるものの、それに利用されたメタルバードは甚く遺憾の意を心中に秘めていた。
そして培養液を吸収し全身を肥大化させたぬぺぬぺは、その肥大化した体を大いに利用し戦前で戦う者達に猛威を振るっていった。
「うわぁ!」「回避しろッ」
ぬぺぬぺは肥大化した腕を自在に伸縮させて戦前の面々へと腕を伸ばして拳を振るってきた。それを必死になってかわし続ける戦前の者たち。
するとぬぺぬぺは次に細かった腕を丸太の様に太く膨張させると、その腕をハンマーの如く振り下ろして攻撃してきた。
「あ、アイツ……培養液を吸収した分、肥大化した体を駆使して攻撃してきやがる」
培養液を吸収し肥大化した分、身体を自在に膨張させて攻撃してくるぬぺぬぺの猛攻に苦戦に追い詰められていくメタルバード達。
と。ぬぺぬぺが培養液を吸収し肥大化した肉体を駆使して猛攻を続行していた、その時だった。
「はぁッ!」
一体の影がぬぺぬぺに向かって跳び上がった。そしてぬぺぬぺのトカゲの様な頭蓋目掛けて跳び蹴りを喰らわした。
「ぐおッ」
強烈な跳び蹴りを頭部に喰らって怯むぬぺぬぺ。
そしてぬぺぬぺが自分の頭部に蹴りを与えた影の正体に目を向けてみると、其処には厳つい顔付きでぬぺぬぺを睨み付けるセーラーウラヌスの姿があった。
「ぐぬぬ、まさか私が猛攻を仕掛けている最中に飛び蹴り仕返してくるとは……」
ぬぺぬぺは一瞬の内に飛び蹴りで反撃してきたウラヌスの蹴りに驚いた様子であった。
するとぬぺぬぺに飛び蹴りを喰らわしたウラヌスの横にセーラーネプチューンも駆け寄ってきては、ウラヌスに話し掛ける。
「ウラヌス、此処はあのドラゴンの様な頭に向かって攻撃して行きましょう。あそこの部分だけはスライムの様に液状化していないから打撃攻撃が効く筈よ」
「その通りだ。首から下の殆どはスライムの様に形を変えられるが、硬い頭部だけは変形できないみたいだし打撃は有効な筈だ」
お互いにぬぺぬぺの頭部への打撃を意思疎通させたネプチューンとウラヌス。そして二人の美女は再度ぬぺぬぺの頭部に向かって強烈な蹴りを御見舞いしていく。
「はぁッ」「えいッ」
高く跳び上がった天王星の戦士ウラヌスと海王星の戦士ネプチューンの蹴りは、空中で鮮やかに交差してはぬぺぬぺの黄金色の頭部に強烈な蹴りの一撃をお互いにお見舞いしてやった。
「ぐおおッ!」
一度目の跳び蹴りよりも強烈な二重攻撃による二発の跳び蹴りを喰らって、激しく痛みを感じたのか体を仰け反らせるぬぺぬぺ。
(これは思った以上に効く様だ)
同時に頭部へと浴びせていく蹴りの連続攻撃の効力が想定以上である事に、ウラヌスはこのネプチューンとの共闘攻撃を更に続行していく。
黄金色の頭部に左右同時からブーツを履いた爪先による強烈な跳び蹴りの連続。ウラヌスとネプチューンはぬぺぬぺの頭部に蹴りを直撃させるとそのまま素早く床へと着地し、そして態勢を瞬時に立て替えてから再度ぬぺぬぺの頭部に跳び蹴りをお見舞いして行く。
この攻撃をウラヌスとネプチューンは何度も何度も繰り返し行い、液状の身体でない頭部に攻撃を集中させられているぬぺぬぺは忽ちグロッキーへと陥ってしまう。
だが、ぬぺぬぺも攻撃されてばかりではなかった。
「ぐぬ、地上からの交差する爪先蹴りの連打……さすが連携ではセーラー戦士随一の二人だ、ウラヌス、ネプチューンよ」
ぬぺぬぺは巧みな連携で自身の頭部へ爪先蹴りを浴びせ続けるウラヌスとネプチューンを称賛しながら反撃へと転じていった。
まずは爪先蹴りを地上から跳び上がり己の頭部へ直撃させようとするウラヌスを左腕の鋭い爪で弾き飛ばした。
「うわッ」
ぬぺぬぺの鋭い爪に弾かれ床へと落下するウラヌス。更に弾かれるのと同時に爪で切り裂かれたのか、ウラヌスの美脚にはくっきりと爪で切り裂かれた痕が残ってしまってた。
一方のネプチューンも、ウラヌス同様に頭部に向かって爪先蹴りを放とうと跳び上がるものの右腕で弾かれ、同じく脚には引っ掻き傷が痛々しく残ってしまってた。
そしてウラヌスもネプチューンもぬぺぬぺの爪先で弾かれ床へ落下してしまい動けなくなっている所を、ぬぺぬぺは躊躇いも無く狙って来た。
「グググ、セーラー戦士屈指の格闘ファイターウラヌスとネプチューンもこれで最後だな」
不敵にそして不気味に笑むと、ぬぺぬぺは膨張させた右腕を大きく振り翳して床上のウラヌスとネプチューンを同時に叩き潰そうとした。
『!』『あ!』
床上に脚の損傷で怯んで動けなくなってしまってたウラヌスとネプチューンに、その二人に膨張した腕が振り下ろされそうになる光景を目の当たりにして騒然となる他の一同。
そしてぬぺぬぺは一気に膨張し振り上げた右腕を振り下ろし、ウラヌスとネプチューンを殴り付けては叩き潰そうと試みた。
その瞬間。ウラヌスとネプチューンに丸太の様に膨張させた片腕を振り下ろそうとしたぬぺぬぺの黄金色の頭部に何者かが宙を舞い、ウラヌスとネプチューン同様にぬぺぬぺの黄金色の頭部目掛けて強烈なキックをお見舞いし、ウラヌスとネプチューンに攻撃を仕掛けようとしていたぬぺぬぺを激しく仰け反らせた。
間一髪、ぬぺぬぺの膨張した腕でのアームハンマーに難を救われたウラヌスとネプチューンが立ち上がり、ぬぺぬぺに飛び蹴りを喰らわして自分達を救ってくれた者に周囲の皆々と同じく視線を向けた。
皆の視線の先で凛々しく立っていたのは、先ほどまでは後方で新世代型や戦闘に参加していない隊士らを護る立場に鎮座していた一人の乙女。
動きやすさを重視した青いラインが施されたシューズ、そして如何なる動作をも可能とするショートズボン、両膝や両肘にはサポーターの様に関節を守るカバーを装着したコスチュームに変身したミラーガールであった。
このミラーガールの変身した姿に新世代型たちは皆驚いた。今までのスカート姿から一転、激しい動作にも対応できる短パンに近い戦闘コスチュームに身を変えたミラーガールの姿に圧巻した。
「ぐむむ……」
そんなコスチュームを一変させたミラーガールに頭部を激しく蹴られて悶絶するぬぺぬぺは、ゆっくりと赤い眼をミラーガールへ向ける。
「ぐぬ、そうか……姿を変えて、己の戦闘スタイルをも変える事のできるミラーガールであったか」
ぬぺぬぺは自身の姿を変化させて攻撃してきたミラーガール一点に視線を向けたまま、静かに語り始めた。
「本来は弱者や非力な者等を護る力を操るのが常等戦法だが……しかし姿を変える、つまりは変身する事で様々なコスチュームに変わる事でその戦術や戦法も著しく変えて戦えるヒロイン。それがミラーガール、君だ。今の接近して戦う格闘タイプの姿はもちろん、己の武器までもコスチューム同様に変化させて多種多様な戦闘スタイルに変身して戦況を乗り切り、更にはその戦況すら有利にしていく。まさに変幻自在のヒロイン、ミラーガール。かの他人を全く信用できなかった哀れで孤独な小田原修司が唯一、心を許せた聖女なだけはあるな」
ミラーガールの多種多様な姿に変身して戦う変幻自在の戦法を称賛すると同時に、彼女が最も愛して止まない今では婚約者でもある小田原修司への皮肉を淡々と語るぬぺぬぺ。
しかしミラーガールは、そんなぬぺぬぺの婚約者への皮肉に全く動じず、落ち着いた表情でぬぺぬぺを見据えながら傍らで佇んでいるウラヌスとネプチューンの両名に物静かな声で話し掛けた。
「ウラヌス、ネプチューン。確かにぬぺぬぺの頭部は他の体の部位とは異なり、骨格の様にしっかりと硬い頭蓋で構成されているわ。腕や胴体は滑りのある軟体性の体で直接的な打撃は効かないけど、頭の脳細胞を護っている頭蓋への直接攻撃はかなり有効な筈だわ。でも2人だけだと、さっきの様に両腕の爪で弾かれて防がれてしまう。だから此処は3人で代わる代わる交代しながら頭蓋を攻撃して、同時にぬぺぬぺを翻弄させる作戦でいきましょう」
このミラーガールの提案した作戦に、ウラヌスとネプチューンの2人も同意した。
「ああ、3人で代わる代わる攻撃していった方が腕で弾かれる余裕も与えないほど強烈な連打を浴びせられる」
「何より3人で巧みに動き回りながら頭部を交互に攻めていけば、必ず相手は私達の動きを追って翻弄してしまう事は間違いないわね」
こうしてミラーガールの策に同意したウラヌスとネプチューンは、3人で代わる代わる交互に形状が硬い頭蓋へと攻撃していった。
まず最初は言い出しっぺであるミラーガールがサポーターを装着して保護している右膝で、ぬぺぬぺの頭蓋に膝打ちを喰らわした。
「ぐっ」ミラーガールの膝打ちを喰らって声を上げるぬぺぬぺ。
更にミラーガールが膝打ちを当てた直後、今度はネプチューンが右足のブーツを回し蹴りの要領でぬぺぬぺの後頭部へ直撃させる。
「がッ」
後頭部に激しい衝撃を与えられたぬぺぬぺは再び痛みによる声を上げてしまう。
そして最後にネプチューンが床へ着地したのと同時に跳び上がるウラヌスのローリングソバットによる足裏が、ぬぺぬぺの頭蓋側面に直撃し、ぬぺぬぺの頭蓋内部は激しく震動し半ば目を回してしまう。
そんな目を回してしまうぬぺぬぺの状態を見切り、頃合を見計らってミラーガール/ウラヌス/ネプチューンの3名が目を回しているぬぺぬぺの頭部に目掛けて同時に爪先蹴りを浴びせた。
「ぐおおッ」
目を回している最中に頭蓋に強烈な爪先蹴りを三度も浴びせられたぬぺぬぺは、半ば意識を失ってしまったのか後方へと仰向けに倒れ込んでしまった。
「や、やったぁーーッ!」『うわぁい!』
見事3人での連携でぬぺぬぺを床に沈ませた光景を目の当たりにして、喜びの余り叫んでしまう大将に新世代型の二次元人たち。
そんな皆の激励を受けて、ミラーガール/ウラヌス/ネプチューンの3名はすっきりとした面差しで振り向き、その穏やかな表情を向けた。
が、3人が周囲の皆から激励を受けているその時。3人の背後で仰向けで倒れ込んでいたぬぺぬぺがスライム状の体を駆使して床上を這う様に移動しては体勢を立て直し、再び3人の乙女に襲い掛かってきた。
「油断は禁物だぞ! 聖龍隊」『!!』
背後から雄叫びを上げつつ、ほぼ真上から襲い掛かってきたぬぺぬぺに驚愕する3人。
だが、ぬぺぬぺがその巨体で3人に覆い被さる形で襲い掛かってきた瞬間、襲われる寸前の3人の死角からいきり立った声が飛んできた。
「3人とも! 其処を退けッ!」
その声に3人が声の方へ顔を向けると、其処には左腕を巨大な電磁砲に変形させては電気エネルギーを溜めているメタルバードの姿が目に入った。
「メタルバード」
「退くんだッ、この砲撃で全てを終わらせる!」
ミラーガールがメタルバードの名を呼ぶ中、メタルバードは自身の左腕の砲身でぬぺぬぺに止めを刺すと豪語し、その言葉を受け止めたミラーガールたち3人はメタルバードの近辺から即座に離れた。
そして3人の乙女の代わりにメタルバードへと大波の様にスライム状の巨体で押し潰そうと迫るぬぺぬぺに、メタルバードは電撃を溜めつつ狙いを定めていく。
そして次の瞬間。激しい閃光がメタルバードの左腕の砲口から放たれ、同時に凄まじい電撃が火花を散らしながら砲撃と共に砲口から放出される。
「ぐおおおおおおおおおおお……ッ!!」
強烈な閃光と共に放たれた電磁砲に直撃した上に、砲撃と共に放たれた凄まじい電撃が全身を駆け巡り激しく感電していく現状に、ぬぺぬぺは並々ならぬ絶叫を上げて苦しみ抜いた。
その衝撃的な場面を目の当たりにした新世代型の二次元人たちは、その凄まじい電撃と強烈な閃光による砲撃の威力にド肝を抜かれてしまう。
そしてメタルバードの砲身から放たれた凄まじい電磁砲による閃光が静まると、電磁砲を直撃したぬぺぬぺの胴体には巨大な穴が口を開き、更にその穴の周辺にも無数の小さな穴が開いてしまってた。しかも、ぬぺぬぺの体は水分が含まれたスライム状の肉体から一変、水分が失われたかのように干からびボロボロの全身に放出された電撃が未だに帯びていた。
致命的な損傷を受けたぬぺぬぺは、その干からびた下半身がボロボロに崩れていき床に黄金色の頭蓋を着いてうつ伏せで倒れ込んでしまわれた。
「ううう……」
全身の水分が強力な電撃で蒸発してしまい、スライム状の肉体の殆どを干からびさせてしまったぬぺぬぺは力の無い唸り声を発しながら眼前の聖龍隊を見据える。
だが幾らその姿が異形の怪物へと変貌してしまわれても元は誇り高い武人。ぬぺぬぺは自らの志願で人格者としての名残が残っている己と死闘を繰り広げてくれた聖龍隊を始めとする者達に感謝の言葉を述べ出した。
「す、済まない。そしてありがたい……己が力の欲望に負けて、自ら異形のバケモノへと変貌してしまった私の宿願を叶えてくれて……感謝の仕様もない」
苦し紛れに最後の言葉を述べていくぬぺぬぺの発言に、ぬぺぬぺと対面している一同は静かに床上に沈んだぬぺぬぺを見詰めた。
更にぬぺぬぺは己に対しての戦術の巧妙さについても丁寧に称賛していく。
「わ、私の粘液体質の体を凍らせた上で銃撃や打撃による肉体の損失……そんな私が損失した肉体を補う為に付近のガラス管をメタルバードを振るって破壊し中身の培養液を吸収した直後は……ウラヌス、ネプチューン。君らの共闘による蹴りは実に見事で鮮やかだったよ。しかも君らを弾き返してスグ反撃しようとした私を、コスチュームを変化させて直接攻撃に転じたミラーガール、きみの判断も素晴らしかった。その後の3人での互い違いでの攻撃には、さすがの私も久々に感激するほどの連携振りであった。そしてメタルバード、君の最後の電磁砲の破壊力のみに非ず、そのタイミングさえも天才的であった。ま、しかし君らのそんな戦術は殆ど、かの鬼神 小田原修司より授かったものだろうがね」
ぬぺぬぺは称賛の言葉の最後に、自分との戦闘で見せた戦術の殆どが前聖龍隊総長 小田原修司より鍛えられ、授けられたものであろうと指摘した。
そしてぬぺぬぺは唯一聖龍隊に注目していたが、その聖龍隊以外で自分と健闘した面々にも声を掛けた。
「君達は……一体誰なのだ? 聖龍隊ではなさそうだが、君らの戦い振りも実に見事であった」
すると声を掛けられた一団の頭領はぬぺぬぺに名乗った。
「俺達は赤塚組。セブンズ・ガードの一角にして、聖龍隊とは盟友の間柄になる」
「あ、赤塚組……! そうか、あの武装集団にして義賊として名高い赤塚組であったか。これは、聖龍隊以外にも素晴らしい戦闘のプロと一戦を交えられたものだ」
赤塚組であると名乗った大将の言葉を聞いて、ぬぺぬぺは聖龍隊とは別格の屈強な戦闘のプロと対戦できた事にも感銘を受けた。
更に聖龍隊や赤塚組の面子以外で、自分と銃火器で渡り合った二人の男女を視線に捉えたぬぺぬぺは、その二人に対しても名を尋ねた。
「き、君らは……聖龍隊、いや赤塚組のメンバーなのかね? やけに歳の離れた男女だが」
すると尋ねられた男女は、ぬぺぬぺの問いに答え返した。
「私は
「俺はジェイク、ジェイク・ミューラー……俺はちょいと訳ありで、この施設を徘徊していたら新世代型の連中や赤塚組、そして聖龍隊の輩と出くわしちまっただけの成り行きよ」
と。ぬぺぬぺはジェイクの名を聞いた途端、眼の色を変えて問い質した。
「じぇ、ジェイク……! まさか君が、かの有名なウィルス研究者であり、生物兵器開発の発端ともいえるアンブレラ社の幹部であったアルバード・ウェスカーの息子か……!!」
事実を指摘されたジェイクは表情を険しくさせつつも、ぬぺぬぺの問い掛けに正直に答えた。
「……ああ、その通りだ。俺は、そのアルバード・ウェスカーの呪われた血を受け付いたジェイク・ウェスカーだ」
ジェイクは敢えて忌まわしき父の姓名で己の名を改めて名乗る。
するとジェイクの素性を把握した所で、ぬぺぬぺはジェイクを始めとする眼前の者達に最後の力を振り絞って語り出した。
「ふふふ、実に不思議な縁だな。君の父親も力を欲した余りに様々なウィルス事件の背後で暗躍していたという……今の私からしてみれば、この私と同等の存在だ」
『………………』
「ふふ、だがジェイク・ウェスカー。君でも……いや、君たち聖龍隊以外の面々は知らないだろうが、ジェイク少しは気持ちを朗らかにしても大丈夫だ。何故なら生物兵器開発の発端は、元々はアンブレラが起源ではないのだからな」
「な、何だと!? おい、それは本当か?」
ぬぺぬぺの突然の発言に驚愕する大将。するとぬぺぬぺは平然と衝撃の事実を語り始めた。
「その通りだ。生物兵器開発は遺伝子技術が発達してから様々な国が裏で暗躍しては製造し続けてきた。かのソ連今のロシアでは炭素菌による生物兵器の着目に、かのアンブレラと裏で手を組み自国の武力を強化しようと目論んだアメリカ……製薬企業がウィルス兵器や生体兵器を開発しているのは、専らその様な国家が武力として生物兵器を欲しているのが現状なのだよ」
淡々と生物兵器開発の裏方を語り明かすぬぺぬぺの台詞に慄く一同。
だが、ぬぺぬぺは更に驚愕の事柄を口にした。
「しかし……今現在の様に人間や動植物を怪物に変異させてしまう様なウィルス兵器の開発は、元々はジェイクきみの父親が幹部をしていたアンブレラが発端ではないのだ」
「! そ、それってどういう事だ!?」
ぬぺぬぺの発言に困惑してしまうジェイクに、ぬぺぬぺは語り続けた。
「多くの生物、数多の命を異形の姿に変異させて人々を脅威に陥れているウィルス兵器……その発端は十数年前、アメリカのとある研究機関で行われた人体実験が発端だったのだ」
『…………………………』
「その実験は、特殊な酵素と云うべきワクチンを人体に投与して人間の筋肉組織や細胞を著しく強化した、いわゆる強化人間による兵士製造を目的とした実験だったという。だが、その実験に自ら志願してワクチンを投与して行った多くの若者は強化され膨張した筋肉組織に体が保持できなくなり、膨張した筋肉組織で脳内血管が千切れたり内臓が破裂して即座に死亡してしまう実例が殆どだったらしい……志願した若い兵士の殆どが、自ら力を欲した為に自ずと命を事切らしてしまった皮肉な所以なのよ」
『………………』
「……だが、その志願した兵士の内の一人。当時13歳だったある日本人の青年がワクチン投与に志願した事で、その後のウィルス研究や開発の歴史に多大な影響を齎してしまった。その日本人の青年は多くの同胞がワクチンを投与してスグに死んでいく様を目の当たりにしながら、毅然とした態度で自ら右腕を差し出しその腕にワクチンを注入してもらった。その結果、青年の筋力は凄まじいほどに強化され戦車すら自力で引っくり返してしまうほどの怪力を手に入れた。……しかしその直後、青年の膨張した筋肉に人を興奮させる作用を持つアドレナリンが過剰反応を起こし、青年は膨張した筋肉の影響で5mを超える赤黒い怪人へと変貌した上に過剰反応を起こしたアドレナリン等の脳内物質の影響で理性を失い、凶暴化して実験を行っていた研究施設の関係者を悉く殴り付けては殺傷していってしまったという。そして、その人体実験で変貌した青年の遺伝子や情報、更には実験で青年に投与されたワクチンがその後の生物兵器開発に影響を齎し発展させていってしまったという……」
「お、おい……まさか、そのワクチン。それにその日本人の青年って……」
ぬぺぬぺの話を聞いて蒼褪めた表情で問い返す大将に、ぬぺぬぺは静かに答え返した。
「君が、君らが思い描いている通りだよ……その人体実験で用いられたワクチンこそ、当時筋肉強化剤として兵士強化の実験に使用された今では多くのウィルスと掛け合わせる事で効力を上昇させ真価を発揮したD-ワクチン。そして、そのD-ワクチンを自ら志願して投与された直後に理性を失い正真正銘の怪物として猛威を振るったのが、後々多くの生物兵器開発のサンプルに利用されてしまう小田原修司なのだよ」
『!!』
ぬぺぬぺが明かした衝撃の事実に聖龍隊以外の面々一同が愕然とした。
あの小田原修司が投与したD-ワクチン、その後そのワクチンは様々なウィルスと掛け合わせる事でウィルスを強化させる事のできる改質酵素として注目を浴び、更に基のD-ワクチンで肉体を極限まで強化した小田原修司のその実験後の変異した遺伝子構造が数多の生物兵器に応用される結果となってしまった事実を知り驚愕する面々。これに対し粗方の事実を周知していた聖龍隊、特にHEADの面々は厳つい顔付きで黙然と立ち尽くしていた。
最後にぬぺぬぺはD-ワクチンを投与したその後の小田原修司の変異した体質についても語り出した。
「D-ワクチンの効果で並々ならぬ免疫力と様々なウィルスへの抗体を身に付けた小田原修司は、その後ワクチンによる筋肉増加で巨体の闘士に成り上がっただけに非ず、ワクチンの影響でその後彼の遺伝子は激的に変化し最早人間の遺伝子とは異なってしまった。だが逆にその結果、小田原修司は狼や半漁人または竜にまで己の肉体を自在に変化させて戦う事もできる様になったのだ……わ、私もそんな彼の様に人並み外れた力を欲して、この施設での実験に志願してしまったのだ」
ワクチンの効果で人間の遺伝子では無くなった小田原修司は、それを逆手にとって竜や狼など様々な動物系の異人に変身して戦い続けたという。そんな小田原修司の経緯に、ぬぺぬぺ本人も多大な関心を惹き、人ならざる力に魅了されたのだという。
そんな人間の枠をも超えた力に魅了され、その果てにスライム状の異形の怪物に変異してしまった武人ぬぺぬぺは、こんな自分と対等に戦い合ってくれた聖龍隊を始めとする面々に正真正銘最後の言葉を発するのだった。
「武人として、これ以上の誇りを与えてくれて……ありがとう」
その言葉を最後に、ぬぺぬぺは息を引き取った。異形に成り果てようとも決して変わる事のない武人の誇りを貫き通した気高い最後であった。
死に絶えて、床に広がる液状のぬぺぬぺの遺骸を前にして、一同は心の中で弔いの念をぬぺぬぺに掛けるのであった。
だが、そんなぬぺぬぺを魅了し更には多くの生物兵器開発の実験の発端が、ジェイクの父親ウェスカーが幹部をしていたアンブレラ社が発端ではなく十数年前にアメリカのとある研究施設で行われた志願式の人体実験で使用されたD-ワクチン、そしてそのワクチンを投与して唯一生き延びた小田原修司の遺伝子情報が大元の根源である事を知った新世代型の面々は、その事で頭を一杯にしていた。
[D-ワクチンの真実]
脅威の軟体生物兵器ぬぺぬぺと死闘を繰り広げた一行。
そして最初の方でぬぺぬぺが申していた通り、何者かによる遠隔操作で部屋の扉はロックが解除され、一行は部屋の奥に進む扉を潜って先を行く。
しかし誰もが、ぬぺぬぺの発していた何者かによる監視を忘れずに、一歩一歩確実に先へと慎重に歩んでいく。
それと同時に、新世代型たちは先ほどぬぺぬぺの語ったウィルスや生物兵器開発の根源についても深く考慮していた。
前聖龍隊総長 小田原修司が若干13歳で志願したD-ワクチン投与による兵士強化実験。その実験が今現在の数多の生体兵器開発に繋がっているという衝撃の事実。
小田原修司の肉体に注入されたD-ワクチンはその後、彼の筋力を凄まじく増大させ骨格をも変貌させてしまうほどの巨体の闘士へと変異してしまう。それだけではない、D-ワクチン投与によって小田原修司の遺伝子は変異し続け、最終的には狼や半漁人さらには竜といった人外のクリーチャーにまで変身可能に能力が上昇したのだという。
そして、そんな小田原修司が志願してまで投与したD-ワクチンにワクチン投与後の彼の遺伝子情報が後々の生物兵器開発の根源であると新世代型たちは周知してしまった。
自分たち、二次元人の尊厳や人権を護る活動を頻繁に行い、更には二次元人の独立国家アニメタウンを長年統治してきた人物が生物兵器の起源に近い存在であると知り衝撃を受ける新世代型たち。
そんな小田原修司が投与したD-ワクチンとワクチン投与後の小田原修司の存在が生物兵器開発に繋がっていた事を知り幻滅してしまってる新世代型たちを観察してたメタルバードが、気落ちしている彼らに何気なく話し掛けてきた。
「……お前達、そんなに幻滅すんな。修司が自らの意思で投与したD-ワクチンに、そのワクチンで変異した遺伝子が生物兵器ばっかに使われていない事ぐらい、とっくに知っているだろ」
メタルバードの言うとおり。現に小田原修司にD-ワクチンを投与した事で変異した彼の遺伝子や細胞からは全く新しいD-ワクチンを始めとする改質酵素や物質が抽出されている。その多くが癌などの不治の病の改善や治療に用いられる医学の進歩を促した結果に結びついていた。
しかし、その事実を知っていても、やはり小田原修司の遺伝子や彼が投与したD-ワクチンがその後の生物兵器開発に多大な影響を齎していた事実には変わらず、新世代型たちはすっかり気を落としてしまってた。
すると新世代型同様に、小田原修司から抽出された彼の遺伝子や体内で劇的に変化したD-ワクチンが生物兵器の製造に深く関与していた事実を初めて知った赤塚組の頭領 大将も新世代型の二次元人達に話し掛けた。
「お前さん達、俺も少なからずショックは受けたよ。まさかアンブレラとかの製薬企業や国家機関よりも、修司の遺伝子や奴が投与したD-ワクチンが生体兵器開発の根源だったとは驚きだしショッキングな事だよ。……だけどな、少なからず生物兵器ばかりに修司の遺伝子やD-ワクチンは活用されてもいないんだぜ。癌の特効薬や様々な病気の改善に繋がる新薬の開発にも、修司はWHOに自分の遺伝子を提供して作られたって話なんだしよ。そんなに気落ちすんなや」
するとメタルバードや大将の励ましを受けて、複雑な心境で瀬名アラタが大将に話し返した。
「だ、だけど……まさか此処の施設で多く見てきたゾンビやリッカーとかの生物兵器にもD-ワクチンが用いられてたって知ると……嫌な話、まるで修司さんこそが生物兵器の始祖みたいな気がしてしまって……」
「そんな考え込むな、アラタの坊ちゃん。確かに修司は昔から力ってものにかなり魅入られていた節が見られていて、アメリカに渡米した時に軍の人体実験に志願して自らD-ワクチンを投与させてもらって巨体のファイターに変貌しちまった話は俺様も前々から耳にしていたよ。しかもその後、体内でD-ワクチンの作用とかで強化された筋肉組織内でD-ワクチンそのものが変異して筋力以外にも人体にかなりの影響が出ちまったらしい。それがさっき、ぬぺぬぺが話していた狼や半漁人さらには竜へと変身しちまう能力の向上作用だろうよい。だがな、問題はそんな多種多様な怪物に変身できちまう様になった修司じゃなく、その修司の遺伝子や修司が投与されたD-ワクチンを生物兵器開発に利用しちまうお偉いさん方や今さっき俺が言ったアンブレラの様な巨大製薬企業や国家機関が諸悪の根源だ。修司本人は変異した自分の遺伝子が癌などの不治の病に効果を示せると知った時は、世界中の製薬企業がその薬を独占して大々的な企業争いが起こらない様にと平和的に世界中の人々に無償または格安で薬や物質を提供するWHOに自身の遺伝子を提供して研究に使ってもらったんだってよ。修司はあくまで自身の体から抽出されたD-ワクチンや自らの遺伝子を平和目的で世界に使用させようと思い立った訳なんだ。それこそゾンビを生み出す様なウィルス兵器開発に使われる積りは毛頭なかったんだぜ」
あくまで小田原修司自身は自らの遺伝子と自身から抽出されたD-ワクチンを平和目的での使用を望んでおり、それ故に製薬企業同士の骨肉の争いを阻止すべく自らの遺伝子を研究用としてWHOにのみ提供し癌の特効薬などの研究開発に積極的に協力したのだと、修司を弁論する大将の長々しい話にアラタも他の新世代型達も耳を傾けて聞き入れた。
すると今度は大将の話に耳を傾けていたジェイクが聖龍隊の面々に問い掛けて来た。
「おい、さっきのぬぺぬぺって野郎が言っていた事だが……お前さん達は前々から小田原修司の遺伝子や、その小田原修司が投与したD-ワクチンが生物兵器の開発に一目置かれていた事実を知っていたのか?」
この質問にジュピターキッドが険しい表情で答えた。
「ああ、その通りだ。主に聖龍隊の最高幹部、つまりはHEADの面々のみが詳細を知っていただけであったが他にも今回の様なウィルス兵器使用のテロに関与した聖龍隊士で、小田原修司と生物兵器開発の繋がりを知ってしまった者も少なくは無い」
聖龍隊が周知している範囲内の現状を鮮明に答えていくジュピターキッド。
するとジュピターキッドの話を聞いたジェイクが今度は別の疑問を問い掛けて来た。
「なるほど……それじゃ、そもそもD-ワクチンって何なんだ? 俺も最近ウィルス絡みの事件に関わってから良く耳にしてはいたんだが、他のウィルスと掛け合わせる事でそのウィルスを激的なまでに強化させちまうワクチンって一体全体何なんだ。その昔、アメリカが兵士の強化のために用いた単なる筋肉強化剤とは到底思えないんだが……」
この鋭いジェイクの疑問に、メタルバードが半ば諦めた感情で話し始めた。
「まぁ、さっきのぬぺぬぺの発言を聞いて知っちまった以上、もう少しばかしは話しても問題なかろう。そもそもD-ワクチンってのはな……」
メタルバードは小田原修司が自ら志願して投与してもらった筋肉強化剤と云われてるD-ワクチンの詳細に付いて語り始めた。
「D-ワクチン、その実態は……実は微細な生物、つまりは一種の微生物に近い生命体なんだ」
「せ、生物! つまりはウィルスかよ!」
メタルバードの発したD-ワクチンが一種の微生物だと耳にしたジェイクがウィルス兵器の様な代物なのかと慌てて問い返すと、メタルバードはその詳細を語り返した。
「いやいや、ウィルスとは全く別の個体。ウィルスとは異なる微生物なんだよ、新種のウィルスとかじゃないから安心しろ。まぁ、当初このD-ワクチンが開発された時は、人体に多大な影響を齎す新種の微生物と注目されたらしいがな」
「開発されたって……そもそも、そのD-ワクチンって一体誰が開発して創り出したんですか?」
メタルバードの語りを聞いて開発者に対して質問する細野サクヤの問いに、これまたメタルバードが真剣な顔付きで答えた。
「D-ワクチンを研究・開発したのは……ゼルトン・プラトニクス、通称Drゼルトンと呼ばれてた細胞学の権威だ」
「さ、細胞学?」
初めて耳にする細胞学と云う言葉に首を傾げる瀬名アラタに、親友の出雲ハルキがその疑問に代わって答えた。
「細胞学と言うのは、人体を構成する37兆2000億個ものの細胞一つ一つを改質したり、細胞を構成している遺伝子そのものを強化または改造して、人間の肉体に様々な病気に対する免疫を付けたり人体そのものを極限まで強化させる学問の一つだ。生命の基本構造と基本事象を強める為に、細胞そのものを研究して細胞の形態/構造/機能を上昇させ、成長/分化/生殖/遺伝/生態、更には進化を促す可能性を秘めた今の時代では医学/人体学/そして生物学にも多大な影響を与えている学問でもある」
事細かく丁寧に細胞学に付いての詳細を分かりやすく説明していく出雲ハルキの話を聞いて、ただただ頷くばかりの新世代型たちにハルキの説明に感心する聖龍隊。
ハルキの説明が終わった所に、再びメタルバードが細胞学の権威でありD-ワクチンを研究開発したDrゼルトンについて皆に語り明かしていった。
ゼルトン・プラトニクス。
細胞学の権威であり、彼が長年に渡って研究開発したD-ワクチンは人類学・生物学・医学など幅広い学識に影響を与えたといわれている学者。
彼が作り出したD-ワクチンは当初、人体の細胞を極限まで向上させる改質酵素に近い物質であると思われていた。だがその実は、D-ワクチンの実態はミクロ単位の新種の微生物に様々な生物の遺伝子を掛け合わせたり、多くの改質効果のある薬物を用いて改良を重ねた、新種の微生物の集合体だったのである。
このD-ワクチンの大元を構成している微生物は、それまでの微生物とは途轍もなく異なり、ありとあらゆる生命体からエネルギーを吸収し、特殊な放射線を照射するだけで分裂増殖する特性を持つ。他にも卵生、分裂などの複数の増殖手段を持ち、活動環境により様々な変態を行い厳しい環境下でも生き抜く適応能力を持っている。
そして特殊な放射線を浴びせる事で、微生物であるD-ワクチンは著しく巨大化し、高い攻撃性、防御能力、増殖性など持っている為に生体兵器としても優れてしまっている一面も持つ。
仮にD-ワクチンを構成している微生物をDと略称する。このDはあらゆる生物のエネルギー源を吸収可能な能力を持ち、更に微生物の状態で体内に投与すれば筋肉などの細胞を著しく増加させられる作用を持つが、同時に宿主の生命エネルギーを吸収してしまう。
多くの被験者が、このD-ワクチンを投与された直後に筋肉の増加に肉体が耐え切れず内臓や血管の破裂で死亡してしまう中、小田原修司のみがこのD-ワクチンによる微生物と奇跡的に適応できたのだ。故に生命エネルギーを吸収されずに、逆に小田原修司の赤血球を始めとする細胞と上手く融合し、自身の筋肉の強化や細胞の変異を可能とした。またDと同様に高い環境適応能力を小田原修司は手に入れ、活動環境に応じて様々な変身を可能とした。
また吸収・貯蔵した遺伝子情報は逆に分離・抽出する事も可能であり、これにより小田原修司の人体おもに血液からは改善された新たなD-ワクチンが抽出され、それを基に多くの改質酵素や新薬の開発に着手されている。
微生物としてのDは高い環境適応能力による凄まじい生命力や、環境に応じての遺伝子細胞の変態など周囲の環境に逸早く適応できる生命体である。
その生命体としてのDは主に幼体→アルファ(α)→ゼータ(Ζ)→ガンマ(γ)→そして完全成体であるオメガ(Ω)にまで成長・容態が促進可能である。
二つの赤い眼が目を引くエキノコックスに近い海老の幼生に似た幼体、カブトガニに近い形状で丸い先端には小さな赤い眼が二つ備わっているα、ダンゴ虫に似た硬い甲殻に身を包んだ四本の細長い脚に赤かった眼が黒く変色し更に三つに眼球が増えているγ、そのγに長い頭部と顔で最も甲殻類に近い形態に変態しているΖ。そして最後に成体として完全体にまで成長を遂げたΩはティラノの様な巨大な体に二本爪の二足歩行が可能となった上に鋭い爪で俊敏に動きつつ獲物を切り裂く高い攻撃性と運動性を兼ね備えた恐るべき生命体。バルブホースの様な形状の尾に紫色の八つの腹筋組織が腹部から露出しているその全貌は、実に驚異的であるという。
更に生物としては凶暴性のみならず知能も意外と高く、同属など仲間と認識した相手には的確に従い、従順な側面を持つ。
しかも精神感応能力、すなわち一種のテレパシーで互いの意思疎通をも可能としてしまっている生物なのである。
特に厄介なのは、その高い適応能力で物理攻撃・エネルギー攻撃も一時は効くものの即座に耐性を備えてしまうという。
そして近年、外部環境への適応能力の高さから国際宇宙ステーション内でDを生存したまま保管し、宇宙空間などの空気の存在しない環境に晒しても生存できる事が判明した。
この様に生物兵器としてはもちろん、個体の生物としても驚異的なDであるが強力なエネルギーや度重なる打撃攻撃や爆発の衝撃までは適応が間に合わず、しかも激しい損傷ほど素早く回復できない為、連続での攻撃は多少は効果がある。
『………………………………………………』
メタルバードから細胞学の権威であるDrゼルトンの開発したD-ワクチンとそのワクチンを投与され、遺伝子を劇的に変化させた小田原修司の詳細。更には生命体としてのD-ワクチンの驚異的な存在感を耳にし、初耳である新世代型たちにジェイク、そして赤塚組の面々は一同共々言葉を失った。
未知の微生物に様々な生命体の遺伝子と改質酵素などの薬物を組み合わせて作り出されたD-ワクチン。そのワクチンに唯一適合し、世界最強の能力者および人間兵器になった小田原修司の実態を愕然とする一同は垣間見た。
するとメタルバードの語り明かしたDrゼルトンとD-ワクチン、更にはワクチン投与後の小田原修司の事柄を聞いた美都玲奈がメタルバードに、ふと訊ねた。
「ね、ねぇ……今現在、当初のD-ワクチンよりも改善された癌の特効薬や改質酵素を作り出せる新しいD-ワクチンが小田原修司の遺伝子からしか抽出されないって言うけど、それってつまり血液から取り出せるって事でしょ? 安易な方法で誰でも簡単に入手できてしまう様に思えるんだけど……」
小田原修司の血液などから遺伝子を抽出し、其処から改善されたD-ワクチンを採取できるのなら、誰にでも簡単にD-ワクチンが入手され兼ねないのではないかと指摘する美都玲奈。彼女が一番に思った事は、血液などから安易に採取した遺伝子からD-ワクチンを入手できてしまえば、どんな機関や組織の人間にも手に入れられ、最悪の場合この施設内を徘徊する異形の生体兵器にも利用されてしまわないかという一抹の不安であった。
だが、そんな美都玲奈の不安を掻き消す様にメタルバードは案外あっさりと言い返してしまう。
「それは大丈夫だ。確かに修司の遺伝子から初期とは異なりかなり改善されたD-ワクチンが抽出できるが、そもそも修司の遺伝子そのものが入手困難な代物だからな」
「え? 総長、それってどういう事なんですか?」
メタルバードの発した小田原修司の遺伝子採取困難の発言に初耳のアスナが訊くと、メタルバードはアスナたち新人組が未だその事に関して周知していない事実を再認識して語ってやった。
「ああ、そう言えばお前達はまだ知らなかったっけ。修司の遺伝子は、修司の人体から出ると瞬間的に遺伝子構造が崩壊しちまうんだ。例えば髪の毛の毛根にしろ、体外に流れた血液や体液にしろ、修司の体内から出ちまった遺伝子という遺伝子は一瞬の内に遺伝子配列が欠損していき最終的には崩壊しちまうんだ。だから極普通に修司の遺伝子つまりはDNAを入手する事すら困難なんだ」
「そ、そうだったんすか。いや、聖龍隊に入ってまだ1年足らずですけど、俺たち新人組は初めて知りました」
メタルバードの話を聞いて初めて小田原修司の遺伝子が体外に出ると瞬時に崩壊して採取する事が困難であると周知するキリトたち新人勢。メタルバードは更に話を続けた。
「そもそもD-ワクチンと結合した修司の遺伝子そのものが特殊なんだよ。その遺伝子情報も、修司の体内を絶えず流れる血液や筋肉組織にまで伝達されてはいるが一度でも体外に出で空気に接触すると血液中のヘモグロビン等の細胞が死滅してしまう様に修司の遺伝子も一瞬の内に崩壊しちまうんだよ。その点、修司の血液や遺伝子を悪意のある奴が入手する事は困難だから助かってはいるが……その代わりに修司の血液を念入りに調べるにはWHOなどの一部の機関でしか行えない。遺伝子のサンプルを提供したりする場合も、WHOとかは修司の脈に管を通して血液が空気に触れないよう細心の注意を心掛けて採取し、遺伝子サンプルである血液を保存する為には一定量をパックに詰めたら即座に瞬間冷凍しなきゃ保存できなかったんだ。まぁ、そうやって瞬間冷凍した血液も半年ぐらいしか遺伝子構造が保てないのが今の現状なんだがな」
小田原修司の遺伝子が採取する事も困難であれば、同時に瞬間冷凍した血液などの遺伝子の保存までも期間が限られている現状を知って愕然としてしまう聖龍隊の新人達に赤塚組の面々そして新世代型二次元人の一同。
更に詳細な事情を周知しているメタルバードや聖龍HEADの面々は皆に語り明かした。
初期のDrゼルトンが開発したD-ワクチンを投与され、そのD-ワクチンと奇跡的に遺伝子が結合した小田原修司は己の筋肉構造が著しく変化し凄まじい怪力を得たと同時に理性をも失ってしまう巨体の怪物にも変貌してしまった。
それから数年かけて小田原修司は己の理性を保った状態でも巨体で怪力を発揮できるまでに自我を制御できる様になった。しかし、それと同時期に小田原修司の遺伝子にも影響が出始めてしまった。
極普通の小田原修司の遺伝子は、本来の人間の遺伝子とは掛け離れた遺伝子構造へと変異してしまい同時に小田原修司は己の肉体を様々な獣に変身できる能力をも手に入れた。
後に国際連合に、潜在能力であった
身売りしたのである。だが、この事実は当時の聖龍隊士は誰も知らず、唯一知っていたのは小田原修司の側近で最も信頼の高かったジュピターキッドの父親であるウッズだけであった。
それ以降、小田原修司は特殊能力者に対しては
その結果、小田原修司は特殊能力を使用せずとも格闘技で修羅場を乗り切れるほどの筋力の向上と技術を身に着けた。
そして小田原修司の遺伝子から採取されたD-ワクチン自体も変化を遂げ、初期とは全く異なる改善物質へと成り得ていた。
国連は、この改善されたD-ワクチンを使用したいが為に小田原修司に医療機関を通して遺伝子のサンプルともなる血液の瞬間冷凍保存を持ちかけた。これに対し修司は「あくまで平和的目的の為の遺伝子利用」を政府に条件として突き出し、更に己の遺伝子から採取された改善D-ワクチンで新たに生み出された新薬に付いては製薬企業同士の骨肉の勢力争いの火蓋に発展しない為にも「D-ワクチンによる新薬の開発は世界保健機構のみが行い、更にD-ワクチンで作り出された新薬はWHOを通して世界中に無償または格安で提供する」事を提案し、国際的にも正式に小田原修司の遺伝子からD-ワクチンを採取して新薬の研究が行えるのはWHOのみとなっている。これにより癌の特効薬などが開発され、世界中でほぼ無償で提供されては多くの人命が救われる結果となったのだ。
しかし裏のルートを通して非合法に小田原修司の遺伝子や、その遺伝子から採取されたD-ワクチンがテロ組織などに渡ってしまい多くのバイオテロなどにも利用されているのが悲しい現実なのである。
すると今までの話を念入りに耳に入れていたキャサリン・ルースがハッとした表情で質問した。
「す、すると修司さんも三次元人にして特殊能力者として世間的には認められてるの?」
本来、通常の人間とは異なる二次元人のみを特殊能力者などの分類にするのが実例であるが、
しかしジュピターキッドと少しだけ顔を合わせたメタルバードは複雑な心境でキャサリンの質問に打ち明けた。
「……いや、残念だがそれは無かった。三次元政府は小田原修司を特殊能力者と認定する事は、決して無かったんだ」
「そ、それはまだどうして……」
複雑な心境を顔に浮かべて打ち明けるメタルバードの話を聞いて鹿島ユノが問い質す。ユノの問いにメタルバードは表情にやや暗さを足して語り明かした。
「三次元政府は、同じ三次元人である小田原修司を特殊能力者に分類するのを躊躇ったんだ。それもこれも、特殊能力者の大半が二次元人であるが為に三次元人の修司までも同じ特殊能力者と認定すればそれこそ、二次元人と三次元人が同等の存在であると認可してしまうと判断したからなんだ。故にその後も修司は能力者でも無ければ人間でもない、双方から外される扱いを受ける事と相成ったんだ」
三次元人である小田原修司を特殊能力者と認めれば、二次元人と三次元人の隔たりが皆無になってしまうと判断された故に能力者と認可されなかった小田原修司の話を聞いて、真鍋義久が不満げに反論した。
「そ、それって……単に三次元人が二次元人と同類にするのを嫌がった、いわば差別的扱いじゃないッスか!」
小田原修司を能力者に認定しなかった三次元側の判断は、単に三次元人と二次元人を同類に扱うのを極端に嫌がった云わば差別的判断だと抗議する真鍋。この真鍋の発言を耳にし、メタルバードは暗く悲痛な面持ちで真鍋に告げた。
「お前達の気持ちも良く分かる……結局、三次元側はオレたち二次元人を能力者または創造の産物あるいは
二次元人を異形の存在と認識している三次元人にとっては、いくら二次元人贔屓の小田原修司でさえも二次元人特有の特殊能力者として認可してしまえば、自分たち三次元人と二次元人が同等の存在であると認めてしまう結果に至ってしまう事から小田原修司を能力者判別しなかったのだ。これに対して当の小田原修司本人も深い差別感が滲み出ていると激しい嫌悪感を覚えたという。
そんなD-ワクチンの実態とそれを作り出した細胞学の権威Drゼルトン、そしてDを投与された小田原修司と生命体であるDとそれを用いて変わり続ける世界情勢を知り得て愕然とする新世代型達。するとそんな新世代型の一人である真鍋義久が愕然とした表情で質問してきた。
「……あ、あの……話は変わるんですが、さっき戦いの最中にミラーガールが何だか姿が普段と変わったんですけど、アレって……」
先ほどの戦闘で己の容姿を変えて戦い方までも変化させたミラーガールについて真鍋が話を切り替えては質問してみると、その真鍋の問いにもメタルバードが平然と答えた。
「ああ、さっきのか……アッコ、いやミラーガールは時おり戦況に応じて色々とコスチュームを変化させて臨機応変に戦っていくスタイルができる聖龍隊でも数少ないヒロインなんだ。前にも話したとは思うが、アッコは変身ヒロインや変身系の能力を持つ二次元人の始祖ともいえる存在だ。それ故に他のヒーローやヒロインが身に付けている戦闘スタイルもコスチュームを変化させる事で自由自在に扱う事が可能なんだよ。近年登場した変身ヒロインシリーズの<プリキュア>も、今までの変身戦闘ヒロインとは異なり、格闘技などの物理系の攻撃を主流にしている様にミラーガールもそんなプリキュア同様に肉弾で戦闘を行える変身と戦術を前々から可能としていたんだよ。他にも、三次元人でかつ多くの二次元人と関係を築いてきた修司と共に行動してきたのか、様々な能力や戦法を使えるキャラクター達と出逢ったアッコは彼らの様に多種多様な戦法や能力を変身する事で自らも使用できるまでに能力を向上させる事に成功したんだよ。まぁ、あの修司からはリスクも伴うから余り感心はできないと言われちまったがな」
「へ? なんで感心できないんですか? 凄くないッスか、色んな戦法や能力を自由に使えるなんて」
メタルバードが最後に発した小田原修司の感想に異議を唱える真鍋義久。するとその修司の発言の意味をメタルバードはこう答えた。
「修司曰く、便利で高機能・高威力の能力ほどリスクの高いモノはないって言付けさ。アッコの変身能力はミラールや折紙サイクロン以上で、無機物・有機物だけでなくその大きさや体積までも自在に変化させられるほど変身できる範囲が広大なんだよ。そんな高度な能力ほど時には周囲から危険視される可能性も大きいんだよ。実際、強力な特殊能力者の中には世間体が悪くなっちまった輩も多いんだよ。そう言った意味で修司は、アッコの広範囲の変身能力には危惧しちまってたんだよ」
無機物・有機物のみにならず変身するモノの大小や体積までも変化させられるミラーガールの変身能力の高さを危惧していたという小田原修司の考慮に、新世代型たちは如何に小田原修司が加賀美あつこの変身能力の範囲の広さに懸念を感じていたか身に沁みて思った。
だが、自身の能力の危うさに対して語られたミラーガールが反論する様にメタルバードや皆に話し返した。
「でもバーンズ。その私の能力で、これまでみんなかなり助かっているのは事実でしょ? 修司のは単なる心配性なだけで、私の変身能力に対して危惧してるって訳じゃないのよ、もう」
このミラーガールの反論に、メタルバードは真顔で言い返してみせる。
「まぁ、それも一理あるな。アッコ、お前が幅広い変身をフルに活用できるからって、みんなに怪我をさせまいと自己判断で勝手に行動して、それを修司やオレ達は良く心配していたぜ」
「ま、まぁ……そんな事も、多々あったわね」
メタルバードに過去の自分の経緯を言い返され、何も反論できなくなってしまうミラーガール。だがメタルバードは容赦なくミラーガールの過去からの行動心理について赤裸々に語り続けた。
「何より、お前は昔っから無鉄砲で単身勝手に行動しちゃう悪癖があるからな。そうだろ、ミラーガールに変身できる様になる前からそれが原因で身の回りで起こった数々の事件を更に掻き回して問題を余計に厄介な展開にしちまう……修司も呆れていたよ、ホント」
「………………」
「確かにお前の変身能力の幅広さは聖龍隊でも特級の部類だ、それは認めるさ。だからってな、お前は基本的には戦闘に余り向いていないヒロインなんだし無茶しすぎて場を余計に混乱させたりして、みんなを振り回しちまったこと何回あった? それこそ修司が人一倍お前を注意深く見ていた訳さ」
「……………………」
「……まぁ、お前の無鉄砲な所を気にかけていた半面、やっぱ修司は修司なりにアッコの事を心配していた証だったのかもしれねェがな」
自身の過去の経緯を語り明かされ、沈黙してしまうミラーガールに対し、メタルバードは最後に小田原修司のミラーガールへの懸念の半分は心配性な上の気遣いであったと話を付け足す。
だが、その小田原修司の真意が変身ヒロインの始祖である加賀美あつこに対する<無限の可能性>を秘めた二次元人であるからこそ、加賀美あつこに対して人一倍気を配っていた事に新世代型達はまだ知らない。
そして一行が更に先へと進んでいく中、先ほどのメタルバードのD-ワクチンに対しての話を聞いた新世代型たちが互いに喋り出した。
「しっかし、まさかD-ワクチンが微生物を主成分に作り出されてたなんて。驚きだぜ」
「そうね。微生物が、まさか人間の肉体を異常なまでに向上させてしまうなんて信じられないわ」
新世代型たちは、D-ワクチンを構成している微生物が人体に多大な影響を齎していた事実に俄かには信じ難かった。
すると、そんな新世代型達の話を小耳にしたメタルバードはニヤケながら談話している若者達に話し掛けてきた。
「君たち、そこまで驚く事はないだろ。D-ワクチンの基になった微生物はもちろん、以外にも世界的に微生物は色んな所で人間社会に貢献しているんだぜ」
「え? 貢献してるって、そこまで活用されてるんすか」
談話をしている最中に話し掛けてくれたメタルバードの話を聞いて、微生物に付いての談話に耳を傾けていた新世代型の
創真の問い掛けに対し、メタルバードは真剣な真顔で創真を始めとする【食戟のソーマ】組のキャラクター達に懸命に話し掛けて行った。
「その通りだぜ、創真くん。それに【食戟のソーマ】の将来有望な料理人を目指す新世代型の二次元人達も良く聞くが良い。近い未来、来る人口増加によって世界が未曾有の食糧難に喘ぐ可能性が試算されている。そんな近未来の食糧不足と云う問題を解決するかもしれない新技術が、プランクトンを始めとする多くの微生物による食材加工の技術がいま着目されているんだ」
「び、微生物って食べられるんですか!?」
メタルバードの突然の発言に驚愕し戸惑う薙切えりなに対し、メタルバードは悠々と語り続けていく。
「まぁ、今はまだ研究段階で全ての微生物を食料として人間の口に入れられる様に加工するにはまだまだ時間が懸かるんだが、徐々に人々の口に微生物を加工した食材や食品が開発されてきているのは事実だ。例えば淡水ではごく普通に見られる微生物で、大きさは0.1mm以下の単細胞生物に分類されるミドリムシ。このミドリムシを加工して精製された粉末はビタミン類やミネラルが豊富に含まれていて、今まさに注目されている食材である。このミドリムシの粉末を錠剤にしたサプリメントも今では広く流通されているし、実用化栄養補助食品として一部実用化養魚用配合飼料つまりはシラスウナギやニジマスなどの稚魚に与える飼料に配合されて幼生の栄養強化に用いられているんだ。その他にも研究段階だがミドリムシを用いたバイオ燃料の材料としても注目されているし、医療技術の転用や環境改善、そして最初にも言ったが豊富な栄養素を持つことから食用としての研究が進められている。今年の1月9日、産業技術総合研究所がミドリムシ由来成分が約70%を占めるプラスチックの生成に成功し、環境に優しい新物質として注目されつつ更に研究改良が行われている」
淡水に多く生息している微生物ミドリムシの多大な着目点からの研究が盛んに行われている事を知り、料理関連の技術や追求を日夜行っている【食戟のソーマ】組は多大に目を丸くして驚いた。
更にメタルバードはミドリムシ以外の微生物の研究や応用についても、まるで【食戟のソーマ】組に学ばせるかの様に語っていく。
「ミドリムシだけじゃないぞ、お前等。微生物の中には食材を発酵させて、食材に更なる旨味を与えてくれるものも居れば、食材と発酵して醤油や味噌などの調味料も多く生産されている。更に近未来、豊富なプランクトンが生息している海中から様々なプランクトンが抽出され、動物性プランクトンや植物性プランクトンを生成して様々な食材として加工し利用する研究も盛んに行われている。将来的にはミドリムシや海中のプランクトンを主成分とした食品が市場に出回るとも言われている。無論、その食品を使用した料理も近い将来生産されるかもしれない」
海中プランクトンの様な微生物の研究に付いても熱く語るメタルバードの話に耳を傾ける【食戟のソーマ】組の面々に、メタルバードは最後にこう彼らに言い伝えた。
「お前達は自然界で生きている多種多様な動物や魚、そして植物を調理して人々に食の有難味を伝えていく料理人達だ。だが、何も食材を調理するだけが料理とは言えない。最新の技術で生み出されていく新しい食材や調味料、それらを組み合わせて如何に美味い一品を拵えるかが料理人の腕の見せ所だ。そして何よりも厨房で調理をするだけが料理人だけでなく、新技術で日々作り出されていく食材や、食材を生産する現場や環境を見て学び肌で感じるのも、料理人として己の腕を高める秘訣である事を忘れないでくれ」
メタルバードが【食戟のソーマ】組に伝えた〔命あるものを調理し食し、そしてその命である食材が生産される現状を見て学ぶべし〕という教えに、【食戟のソーマ】組はただただ関心するばかりであった。
更にメタルバードに続いて聖龍隊参謀総長のジュピターキッドも未来食に付いて【食戟のソーマ】組を始めとする後世に生きる新世代型たちに語り出した。
「メタルバードはプランクトンやミドリムシといった微生物を主成分とする食品技術に付いて語ったけど、微生物以外にも未来食で有望視されている食材が研究者達の間で議論を醸し出しているけどね……」
「ほぉ、そりゃまたどんな食材が注目されてるんすか?」
ジュピターキッドの発した微生物以外の未来食について疑問を浮かべた
すると、この創真の問い掛けにジュピターキッドは表情を渋らせて気まずい感じで答えた。
「そ、それはその……実は…………虫なんだ」『む、虫!!?』
微生物に続く未来で食卓に並べられるかもしれない食材が、まさかの虫であると聞いた【食戟のソーマ】組は一同ともに衝撃を受けた。
だが衝撃を受ける【食戟のソーマ】組の中でも特に衝撃を受けた挙句、まさかの虫を食すこと事態に強い悪感を抱いて反論しにくる少女が。誰であろう他でもないゴッド・タン(神の舌)を持つ薙切えりな本人であった。
「ウソでしょ! まさか虫を調理して食べるなんて……悪趣味にも程がありますわ!!」
このえりなの反感にジュピターキッドは彼女の迫力に押されつつも戸惑いながらに宥めるかの様に落ち着かせながら話し返した。
「い、いや。確かに食べ慣れてない人や国柄によっては抵抗のある食文化だけれど、中央アジアなどの国々では既に多くの虫料理が出店などに並んでいるほど人々の食生活に浸透しているんだよ。日本でも東北を中心にイナゴの佃煮や、蜂の駆除の際に採取された蜂の子や親蜂を揚げたり焼いたりして食べる風習があるじゃないか。僕らが牛肉や豚肉、更には先ほども述べた蜂の巣から採った蜂蜜と同様に立派な食材の一種なんだよ」
「し、しかし……イナゴの佃煮にしろ、蜂の子の揚げ物にせよ、どちらにしろ庶民の食べ物じゃないですか! そんなグロテスクな食材、私でしたら死んでも口にしませんわ!!」
ジュピターキッドの説明を聞いても尚、虫食について反抗を示すえりなに対して二人の話を傍らで聞いていたメタルバードが再び食に付いての議論を薙切えりな達【食戟のソーマ】組に語っていった。
「だがな、薙切えりな。実際、近年では度重なる人口増加による食糧不足が近い将来訪れるという定説により、食糧難を乗り切る新しい食材として注目されているのが先ほども説明した微生物だけでなく既にアジアの国々で扱われてる昆虫が注目されているんだぜ。アジアの人々が口に入れる昆虫の多くには豊富なアミノ酸やミネラル、良質なタンパク質など人間の細胞を構成していく上では欠かせない栄養素が充分過ぎるほど詰まっていると栄養学的にも認められているんだぞ。その高い栄養価が更に注目される要素の一つとして、近い将来食卓に並ぶかもしれないんだぜ。創真に恵、お前達料理人たちも近い将来、昆虫を食材として調理する時代が来るかもしれないから虫の料理については粗方学んでおいた方が良いぜ」
【食戟のソーマ】組に悠々と近未来の食材として注目される昆虫料理について知り得た上で学習した方が良いと指摘するメタルバードの言い分に、【食戟のソーマ】組は複雑な心境を顔に浮かべる。
だがしかし、メタルバードの昆虫食への論議を聞いても薙切えりなの心境は気難しいままであった。
「けれど! 虫をそのまま揚げたり焼いただけのグロテスクな料理だなんて……それこそ虫唾が走りますわ!」
虫だけに虫唾が走るという上手い台詞を言い放つえりなの発言を聞いて、先ほどから【食戟のソーマ】組への論弁を耳に入れていた真鍋義久が新世代型同士の共有感知で知り得た記憶を元にえりなに話し掛ける。
「えりなのお嬢さん。確かに俺も昆虫料理ってグロテスクなイメージが強いから気持ちは分からなくはないけど、けれどメタルバード達の言うとおり近い将来起こりうる人口増加で食糧難に世界が喘ぐって話題は俺の耳にも入っているんだ。俺は料理人でもなければ研究者でもないから調理や食材については素人だけど、実際に口にできるまで開発されたミドリムシの錠剤やアジアの人たちが良く口にしている昆虫食だって立派に人間が食べても無害だって証明はされているんだし、そんな露骨に嫌がらなくても良いんじゃねェ? 大体ねぇ……」
次の瞬間、真鍋はえりなに向かってトンでもない事を発言した。
「……そもそも、えりなさんよ。お前さん、やたらと俺ら庶民が口にする料理に対して劣等感や嫌悪剥き出しにしているけど、高級食材ばっか食っているからって少し調子に乗ってないか? そのデカパイも高級食材、特に高級肉ばっか食っているからそんなにパンパンの胸に育っちゃったんじゃないの」
「!!」
この真鍋義久のセクハラ紛いの発言に、えりなは顔一面を赤面して反射的に自分の胸を両手で押さえ隠してしまった。そして胸を隠したまま赤面で真鍋に言い返した。
「ちょ、ちょっとアナタ! 私の美食センスと胸は全然関係ないでしょっ! なに突然胸の話に話題を振ってくる訳!?」
唐突に自身の胸を指摘されたえりなは羞恥心の余り、いつもとは打って変わって大変な慌てぶりで真鍋に反論していく。
だが、このえりなの赤面での突っ返しが火蓋となり、真鍋の方も更に言葉に過激さを加えながら反論していく始末。
「ホントの事だろっ、その豊満なまでの巨乳。完全に俺ら庶民とは違ってお高い食材ばかり食ってきた何よりの証じゃないか! 見ているだけで興奮してくるわッ」
この時の真鍋の目の色は完全に悶々とした眼に、その上荒い鼻息であった。
そんな助平心を包み隠さず晒し吐き出す真鍋の一句一言にえりなは更に顔を赤くしていく。そんなえりなを救済する為に、助平発言を吐き散らす真鍋とえりなの間にえりなの秘書である
「あなた! えりな様に向かって失礼でしょ! えりな様は当学園内でも一,二を争うほどの上品な味を選別できる舌の持ち主。それ故に常にその舌の感度を保持し続ける為にも選び抜かれた食材はもちろん、この私が精魂込めて作る精進料理を口にして調子を常に保っておいでですのよ! それを調子に乗っているとか、高級食材ばっか食べているから胸だけ成長したみたいな愚劣な発言をなさいますわね……!」
常日頃から自身が作る精進料理で薙切えりなの体調管理も行っている秘書の
「そうか? えりなお嬢様の神の舌はどうか知らねェけど、そのえりな様も秘書であるアンタも……オマケに同じ学園であんた等のグループに所属している肉美こと
「な……何ですって!」
「ちょっと! 私まで巻き込まないでよ、このヘンタイ!!」
えりなに飽き足らず自分の胸の大きさまで指摘されて激怒する
すると【食戟のソーマ】の巨乳三人組と言い争いに発展してしまう真鍋にメタルバードが穏やかな口調で声を掛ける。
「真鍋、それ以上は言うな。確かに三人とも、俺ら庶民の料理にはかなりの偏見を持っているけど、それと胸のでかさは関係ないじゃないか。寧ろ、あの豊満な胸はそれこそ神からの授かりモノ。イエス・キリストや仏様を拝む様に、大切に拝まなければならないぞ」
「し、師匠……!」
「さあ、神が与えし偉大な二つの山々に敬意を表して拝み奉ろう」
「は、はい……」
メタルバードまでも助平心満載の言葉を真鍋に掛け、それに対して説き伏せられる真鍋義久。そして二人のエロス師弟は薙切えりな/
『………………』
このメタルバードと真鍋義久の合掌に対し3人はドン引きした上で絶句してしまう。
更にメタルバードは、この施設を共に進んでいった間に弟子の関係を築いた真鍋に続けて申した。
「ほら、真鍋良く見ろ。男の古来より受け継ぎし願望……異性への欲情。俺たちの周りには、そんな男達の願望を満たしてくれる尊き方々がいらっしゃるではないか」
「お、おお……確かに」
「ほぉれ、えりなの従姉妹に当たりし薙切アリス。彼女もまた、えりなに負けず劣らない立派なモノをぶら下げておるぞよ。拝むのじゃ、拝むのじゃ……」
「ははぁ……」
えりな達3人に続き、そのえりなの従姉妹であるハーフで銀髪の薙切アリスにまでも低い物腰で彼女の胸に向かって合掌する二人。これに当のアリスは呆れて冷たい視線を二人に送るのだった。
だが、そんなエロス師弟の暴走は止まらず更に周囲の驚異的な胸囲を持つ美女達に順序ずつ手を合わせ合掌していくのだった。
そんなエロス師弟の止まらぬエロスの暴走に唖然となり思わず立ち尽くす周囲の皆々。だが、そんな二人の暴走というよりも限りないエロスの放出に静かなる怒りを上らせた少女がゆっくりとメタルバードと真鍋に歩み寄ってきていた。
「はは、ははは……」
壊れたかのような不気味な微少を口ずさみながら片手に何処からとも無く拾ってきた鉄パイプを握り締め、徐々に真鍋義久に歩み寄っていく一人の少女。その少女の存在にメタルバードが最初に気付いた。
「は……ハッ! こ、琴浦! どうした……その鉄パイプ、何する積りだ。しかも何だか原画崩壊みたいに笑顔が不気味染みているんだけど……」
異様な微笑を浮かべつつ、右手に握り締めた鉄パイプを引き摺りながら確実に歩み寄ってくる琴浦春香の存在にメタルバードは騒然と成って声を掛ける。
すると琴浦春香は不敵な微笑を真鍋に向けて己の実情を語り始めた。
「はは……いえ、何だかね……さっきから巨乳巨乳って合掌していく真鍋くんを見続けていたら、何だかこう……心の奥に眠っていた狂気にも近い感情が芽生えて来ちゃって……」
そう言う琴浦の顔からは完全に生気が失われ、若干ながらも狂気染みた風貌が漂ってきていた。
「こ、琴浦、落ち着け。もうお前さん完全にイッちまって表情が原画崩壊レベルにまで達しちゃってるよ?」
様子が一変した琴浦春香を目の当たりにしたメタルバードは蒼然としつつも狂気染みた琴浦を宥め続ける。
そしてメタルバードだけでなく、琴浦の標的にされてる真鍋本人も宥めていく。
「こ、琴浦、落ち着こう、な。お前、完全に笑顔が恐いよ……」
震える唇で必死に宥める真鍋であったが、当の琴浦本人は表情を変えずに徐々に真鍋へと迫ってきていた。
誰もが恋人である真鍋のエロス加減にキレた琴浦が暴走してしまうと思った瞬間、そんな末恐ろしい笑顔を浮かべる琴浦の肩に手を乗せてミラーガールが優しく話し掛けてあげた。
「春香ちゃん、もうそれくらいにしえあげましょう」
「……アッコさん」
琴浦を制止するミラーガールに対し、自分を制止しに来たミラーガールに顔を振り向かす琴浦春香。
更にミラーガールは静かに怒りを込み上げる琴浦春香に優しく説き伏せていく。
「私もね、常々バーンズの下品でイヤラシイ発言の数々にはホントにウンザリしているの。けれどバーンズって無駄に不死身だから、どんなに殴ろうと、どんなに細切れにしようと、どんなに血達磨にしてやっても全然懲りないし私も正直諦め掛けているのよ。もうね春香ちゃん、バーンズに限らず男ってのは一度執着したモノに対しては、どんな障害が有ろうと成し遂げようとしちゃう生き物なのよ。だから少しは妥協してあげないと」
「………………」「…………ッ」
ミラーガールの優しい笑顔から語られるメタルバードことバーンズの常日頃からの行いに対しての扱いに耳を傾けては表情を温和にさせつつ聞き入れていく琴浦春香に対し、自分の日常を赤裸々に語られて涙目になるメタルバード。
そしてミラーガールは更に琴浦春香の心境を自身に重ねつつ彼女に話し続けた。
「そりゃ私だって巨乳にばっか夢中になる男性陣には怒りを感じているわ。世の中には身体の事で色々と悩んでいる人が居るって言うのに、そんな人達を尻目に無我夢中で女性の出っ張ったお尻や胸を追い回す馬鹿な男共には私はもう完全に呆れ果てているのよ」
「…………」
「それにさ、春香ちゃん。あなたの様な可愛らしい女の子が鉄パイプなんて物騒なモノ持つもんじゃないわ。か弱い女の子が鈍器を片手にサイテーーな男に向かっていくなんてはしたないわ。同じ貧乳同士、気持ちは分かるけど堪えてあげなさい」
「は、はい……」
物騒ながらも落ち着いたミラーガールの説得に琴浦春香は手に持っていた鉄パイプを捨てた。
誰もがホッと胸を撫で下ろし、メタルバードも真鍋も琴浦の暴走が未然に防がれた事に心から落ち着きを取り戻していった。
しかし、琴浦春香が鉄パイプを捨てたのを確認したミラーガールは次の瞬間「痛め付けるなら…………ワタシガヤルワ」と殺気に満ちた恐怖の形相で安心し切っていた真鍋に一直線に駆け出し、彼の首を喉輪攻めで締め上げ、真鍋を苦しめ始めた。
「うぎゃあっ!」
突然自分の喉を締め上げられ苦しむ真鍋が絶叫すると、慌てたメタルバードが急いでミラーガールを止めに入る。
「アッコやめろ! 素人相手にその技は危険過ぎるって!!」
目の色を変えて止めに入るメタルバードであったが、ミラーガールは末恐ろしい形相のままで真鍋の喉を締め上げ続ける。
そしてミラーガールは真鍋の首を締め上げながら、自分の心中に秘めていた己の真意を包み隠さず語り出した。
「巨乳、巨乳って……そんなに胸のデカイ女が良いのか、コラァ!」
ミラーガールの心意が篭った雄叫びに、先ほどミラーガールに止めに入られた琴浦春香も他の一同も余りの事態に失言してしまう有様。
更にミラーガールの悲痛な心の叫びは止む事無く、締め上げ続ける真鍋に言い付けられて行く。
「世の中にはねぇ、胸の小ささで悩んでいる女の子がたっくさん居るのよ! それなのにアナタは……しかも自分に好意を寄せてくれている彼女が一番気にしている胸の小ささを知って置きながら未だに巨乳の女性に色目を使っちゃって。いっぺん、死なせてヤロウか?」
「アッコもう落ち着け! 真鍋の奴が死んじまう!!」
自身も琴浦春香同様に胸の小ささにコンプレックスを抱いているミラーガールの悲痛な叫びを前に、真鍋は既に顔から血の気が引き始めていた。そんな真鍋を救おうとメタルバードが慌ててミラーガールを止めに入る。
そしてようやくメタルバードが間に入った事で間一髪の所を救われた真鍋であったが、貧乳のミラーガールや琴浦春香は先ほどからメタルバード同様に巨乳の女性を拝み続けていた真鍋を汚いモノを見るかの様な視線で見下していた。
「……そうよね。男の人って結局は見た目、胸の大きさとかで異性を判別するんだものね。真鍋くんも昔から、其処の悪癖だけは直らず仕舞い」
「こ、琴浦!?」
なんと先ほどミラーガールに説き伏せられて冷静さを取り戻していた琴浦春香が再び真鍋への激情に返り咲いていた。
二人の貧乳女子からの冷遇された眼差しを一身に浴びて激しく動揺する真鍋。だが彼の悲劇はこれで終わりではなかった。
しかも激情に浸っていたのは琴浦春香やミラーガールだけではなかった。
「その通りよ。周りに胸の大きな女性が居ると、何かと比較してくる。私の様な貧乳ヒロインは必ず胸の大きさの対象としてしか扱われなくなる……」
「そうよ、その通りだわ。私も学園に居た頃から、周りのみんなと見比べていたけど……周りはみんな巨乳ばっかで私だけ浮いてた存在だったのを、今でも鮮明に覚えているわ」
何とミラーガールと琴浦春香に続いて己の胸の乏しさに悩みを抱いていたコウサカ・チナやキャサリン・ユースら他の貧乳ヒロイン達までも形相を一変させて不穏な空気が場に溢れていくのをメタルバードたち男達は気付いた。
『ひぃィッ!!』
暗愚に満ちる貧乳女子たちの面差しを目の当たりにした男達は皆、驚愕の余り悲鳴を上げる。
「わわわわわわわわ……」
「み、みんな。落ち着いて……胸が小さいだの何だのと気にしちゃいけないよ。ねぇ」
挙動不振に陥るメタルバードを横目にジュピターキッドが懸命に貧乳女子たちを宥め続けていく。しかし一向に女子達の冷遇と化した表情は変わらなかった。
と。そんな茶番劇を前にして呆れ果ててるジェイクが一言。
「な、何なんだ、コレは……」
そんな呆れ果ててしまってるジェイクを尻目にジュピターキッドに続き、他の男子達も貧乳女子達を宥めていく始末。
すると激情化する女子達を前にして、遂に痺れを切らした聖龍HEADの古参キング・エンディミオンが貧乳女子たちをどうにか励まそうと言葉を掛けてきた。
「みんな、そんなに自分の事を劣化している存在だと追い込むなよ。身体の事で悩んでいる人間なんて、この世には沢山いるんだぞ。あの修司だって自分の身体の事では逐一周囲と見比べて気にしていたんだし」
「え? あの修司さんも周りの人たちより劣っている身体的特徴があったんですか!?」
キング・エンディミオンの発言に反射的に問い返す
「ああ。アイツも昔っから……自分の身長の事で苦悩していたもんだよ」
「し、身長って……世間では鬼神と恐れられてる小田原修司って、いったい身長はどれくらいやったんや?」
「アイツって結局、聖龍隊に所属している間でも最高で……168しか身長なかったんだよな」
「って、結構チビだったんですね! 小田原修司って」
身長がたったの168cmしかなかったという事実を聞いて一驚する真鍋義久。
するとエンディミオンの話にメタルバードが付け足した。
「まぁ、アイツの場合は遺伝性の短足つまりは足が短かったからな。それで周囲の二次元人と比べたら、結構背の低さが目立っちまって修司なりに気にしていたよ。まぁ、その修司が言うには……二次元人は結局の所、三次元人の理想を元に生み出された種族ゆえに身長の高い二次元人が多く目立つ様に成っちまったみたいだけどな」
つまり小田原修司が言うには、二次元人は三次元人の理想の容姿と体形を生まれ付き備えている種族で、高身長が理想的かつ周囲から注目を浴びられる点であるが故に二次元人が高身長なのは仕方なかった事だと自負していた小田原修司であったが、それでも高身長が基本の二次元人と身長が低い自分の背丈を比べては気にしていたという。
このメタルバードの付け足した話を聞いて、これまた昔の事を思い出しては表情を蒼褪めさせる門脇将人が思い口を開いた。
「そうそう。確か最初に敵として修司さんと対峙した時、俺ってつい「このチビがッ」って言っちまって、それが原因で後々まで身長の事で痛め付けられたっけな。「どうだ? チビに痛め付けられる気分は……」と物凄い形相で何度命を落としかけた事か……」
172cmの将人が思わず発してしまった一言によって、後々までその身長の事で鍛錬などで良く痛めつけられて来た苦痛の思い出が将人にはあった。
すると一悶着起こしている男女の騒動を呆然と見据えたまま進行する一行の先頭をメタルバードや大将に代わって進んでいた海野なるが進路先を指差して皆に言った。
「あっ、みんな見て! また扉よ」
なるの指差す方を見てみると、其処には先ほどのぬぺぬぺが滞在していた部屋と同じ様な造りの鉄の扉が立ちはだかっていた。
「よ、よし。今は兎に角、あの部屋に入って進行できるか確認してみるのが一番だな。アッコ、それに可愛い女子の皆さん。今は取り敢えず落ち着いて先に進む事を考えましょう。ねっ」
『…………………………………………』
メタルバードのその場凌ぎの説得に貧乳女子たちは胸の奥のモヤモヤを解消できないまま、仕方なく先へと進行していくのであった。
[改良版:ぬぺぬぺR]
真鍋義久と薙切えりなとの悶着から始まった騒動を一段落させて通路の先に出現した鉄の扉を開いて内部へと進入していく一行。
其処は先ほど訪れたぬぺぬぺの部屋同様に、壁一面に何らかの液体が詰まっていたであろうガラス管が並んでいた風景が広がっていた。
しかし違う箇所もあり、ガラス管の殆どは既に破損しており中身もほぼ全て漏れていた。そして所々に木箱や動物を入れる為の鉄製の小さな檻も幾つか見受けられた。
「此処はさっきとは随分違うな」
辺りを見渡して、先ほどのぬぺぬぺとの戦闘を展開した間取りとは違う事を指摘する大将。
大将たち赤塚組に続き室内を隈なく探索していく聖龍隊。すると総長のメタルバードは部屋の一角にポツンと置かれていた何らかのレポートを見つけて、それを手に取ると即座に黙読してみた。
メタルバードが手にしたレポートには以下の文章が綴られていた。
《培養液を用いた合成獣の生成レポート》
我々研究班は、生物の細胞やエネルギーを吸収するD-ワクチンを基に独自に開発した特殊培養液による新たな生体兵器の開発に着目する所まで辿り着いた。
先月も、武術を得意とする人間を利用して培養液との融合を図ったが、思った以上に人体を始めとする細胞への浸食が激しく、もはや人の原型を留められない域まで達してしまった。
この人体を利用しての培養液実験で判明した事は、培養液は生物の細胞と化合するとその細胞を侵食し取り込む性質があると言う事だ。
つまりは人体だけでなく様々な生物を培養液と接触させる事でより強力な合成型生体兵器を生産できるという事だ。
先ほども述べた培養液と一体化した人間も、他の生物の細胞を侵食する培養液の性質を受け付いたのか、廃棄処分する予定の出来損ないの生体兵器をも取り込んで更に人としての原型を失っていった。
この特性を活かし、我々研究班は哺乳類や爬虫類、更には甲殻類などの生物を同時に培養液に侵食させて一体化させる事で新たな生体兵器の開発に取り掛かった。
異世界から密輸入してきた青い体毛の大型の狼、巨大な甲殻類、鋭利で鋭い爪を持つ二つの尾の爬虫類など。この世界には存在しない生物での実験を試みた。
結果、培養液により一体化した三種の生命体は時間の経過と共に次第にその全貌を形成していった。狼の頭部に爬虫類の手足と爪、そして甲殻類の硬い装甲を備えた生体兵器が完成したかと思われた。
しかし研究班が予想だにしなかった欠点が、この生体兵器に表れた。
それは全身を形成する培養液が甲殻類の生物細胞と一体化したことで、本来の培養液が持つ生命体を取り込む要素が無力化されてしまった。
我々はこの欠点を打開する為、ある手法を取り入れた。それは寄生タイプの生体兵器を取り込ませる事で、その寄生体が他の生物を取り込んで栄養分として摂取するよう改良したのである。
その結果、寄生体が摂取した栄養分や生物の影響で狼の頭部からでも獲物を喰らうという生物的栄養の摂取が可能となり、更に取り込んだ生物の影響か頭部の右箇所に巨大な腕が突出し、この腕を用いた攻撃が可能となった更に凶暴性が増した生体兵器へと突然変異にも近い変貌を遂げられた。
しかし寄生体を取り込ませた事による代償も大きく、本来の右腕は足元に広がるスライム状の細胞と一体化し退化してしまった上に、上腕筋に当たる箇所は過剰な生物細胞の摂取により骨が剥き出しの状態へと変わり果ててしまった。
それ以外は鋭い爪を持つ三本の腕に、剛腕の青く太い腕、そして狼の頭部に寄生体による他の生物細胞の摂取が可能となった素晴らしい生体兵器へと変貌できた。
問題なのは、寄生体が直接獲物を摂取する際に変化してしまった腹部の巨大な穴。寄生体はこの穴から無数の触手を放ち、獲物を捕らえては捕食するのだが同時にこの箇所への銃火器による爆発系の攻撃は過敏に反応してしまう。
更なる改良が今後も必要と我々は見ている。
生物の細胞を侵食する特殊な培養液を用いた生体兵器の開発レポートを黙読していき、険しい心境に浸るメタルバード。
と。其処にレポートに目を通しているメタルバードを気にしてか猿田学が声を掛けて来た。
「メタルバードくん、一体なにを読んでいるんだい」
訊ねられたメタルバードは無言で猿田学に自らが黙読していたレポートを手渡しては目を通らせた。
そして手渡されたレポートに目を通した猿田学は、その内容に愕然とした。
「こ、これは……!」
「ああ、例の細胞を侵食するっていう培養液から全く新しい生体兵器を開発する段取りが行われてたらしい。しかも、そのレポートに寄れば、例の培養液は他の生物の細胞やエネルギーを吸収するD-ワクチンを基に精製された代物らしい。この場の状況から観て、おそらく此処で培養液を基に造られた生体兵器が飼われていたんだろう。凶暴性が増した分、周辺の培養液を保存しているガラス管も自力で破壊して更に培養液の摂取をしちまったらしい」
「な、なるほど……それで、その生体兵器は何処に?」
「さぁな。先ほどの、ぬぺぬぺ同様に培養液での摂取ではなく、獣の頭部と寄生体からの栄養摂取で生存するタイプらしいから何処かで獲物を襲っているのかもしれねェし……或いはこの部屋の何処かに潜んでいるって可能性も否定できねェな」
「………………!」
メタルバードの推測を聞いて絶句してしまう猿田学。
と。メタルバードと猿田学、更には二人の会話を共有感知で察知し続ける新世代型たちの死角から何者かが怪しい視線を向けていた。
その視線は次第に一行の側へと接近しつつ、確実に忍び寄ってきていた。
だが、その者の視線に逸早く察知したメタルバードが感付いては声を上げる。
「! 何が居るぞ!」『!』
メタルバードの一声に反応し驚く一同は、彼が振り向いた視線の先へと咄嗟に顔を向ける。
すると幾つもの木箱や鉄の檻の間に、何か巨大な蠢くものの存在が薄らと視界に入ってきた。
「な、何あれ……!」
怪しく蠢く謎の存在に鹿島ユノを始めとする新世代型達は一同に脅えだす。
そんな皆が蠢く存在に脅え、または警戒し出した次の瞬間。突然、その物体は周りの木箱や鉄の檻を激しく散らしながら一直線に一行の方へと突進してきたのだ。
「は、離れろッ!」
メタルバードの一声で散り散りに後退しては突進してきた物体を取り囲む聖龍隊と赤塚組。
周囲の物を散乱させながら突進してきた、その存在を間近で観た一同は圧巻されてしまう。
先ほどの「ぬぺぬぺ」よりも体面が硬く構成されており、左腕は大小あわせて6本の鋭い鉤爪が生えており、顔はまるで狼に近い青い獣の顔。その傍らには同色の太くてゴツイ奇形の腕が異様な形で生えていた。そして本来の右腕は上腕筋の部分は完全に骨が露出してしまっており、まだ肉体が硬化する前に床に広がった体液と一体化してしまったのか同化して、もはや腕の原型は残っていなかった。そして床に広がる硬化し切れなかった細胞は液状と化しており、その液状の細胞から生えた下半身からは上半身の腕とは別の揃った3本指の細い腕が生えていた。だが何より目立っていたのが、上半身と下半身の継ぎ目の部分が不自然にポッカリと巨大な穴の様な損傷が見られた。
この異形の怪物の姿を見た瞬間、メタルバードは先ほど目を通したレポートに記載されていた培養液を用いた生体兵器に付いて思い出した。
「こ、コイツは……さっきのレポートに書かれていた生体兵器に間違いない!」
メタルバードは眼前の異形の生物が先ほど黙読したレポートに記述されていた生体兵器で間違いないと睨んだ。
そしてその生体兵器は自分を取り囲む聖龍隊や赤塚組に向かって六本の爪が生え揃った太い腕で攻撃してきた。
「避けろッ」
赤塚組頭領 大将の掛け声で一斉にしゃがんでは攻撃を回避する戦前の者たち。
だが生体兵器の攻撃は止まる事を知らず、更に鋭い爪での切り裂き攻撃を仕掛けていく。
「うおっとッ」
間一髪身を伏せて攻撃をかわすメタルバードは、次の瞬間周りのみんなにこう言い伝えた。
「みんな! さっきのレポートによればコイツはあのぬぺぬぺを改良した上で突然変異した怪物みたいだ! よってこの怪物を<ぬぺぬぺR>つまりはリターンと俗称し、更に略称してRと補足する! 各自、Rに向けて応戦せよッ!」
生体兵器をRと捕捉した上で応戦せよと命じるメタルバードの指示に従い、聖龍隊はRに向かって反撃を開始する。
そんな聖龍隊の反撃に便乗して赤塚組もRに向けて発砲を開始する。
「赤塚組! 俺達も応戦だ、撃ちまくれ!」
大将の掛け声が辺りに響く中、赤塚組はRに向けて銃撃戦を展開していく。
だが銃撃を開始した赤塚組に、銃撃戦に加わるジェイクに
「大将ダメだ! 銃が効かない!」「表面の装甲が硬すぎるわ」
「もっと接近して攻撃するぞ!」
赤塚組幹部のアツシと山崎千春の発言に大将は更に接近しての銃撃での応戦を実行する。
だが大将たちがRの間近まで接近し発砲しようとした矢先、何とRの下部の細い両腕が間近に接近してきた赤塚組の一団を捕らえようと腕を伸ばしてきた。
「わ! な、なんだこの腕は!?」
自分たちを捕らえようとする下部の両腕に怯み思わず退いてしまう大将たち。
すると今度はRの右肩に形成された蒼く太い腕が下方の赤塚組に向かって振り下ろされた。
「わッ!!」
強力な剛腕が振り下ろされ、間一髪回避できたものの思わず怯んでは腰が抜けてしまう大将。
その時、接近して銃撃で応戦しようと試みる赤塚組幹部のテツがRのある箇所に目を付けては其処を他の同胞に指摘した。
「右腕だ! 右腕の上腕筋、骨が露出している箇所を狙え! 硬い体面上の装甲を撃つよりは効果がある筈だ!」
テツの指摘通りに銃撃を続ける者達は、Rの骨が露出している右腕を集中的に狙撃していく。
するとテツの読み通りか骨が露出した箇所への集中銃撃を受けたRは痛手を感じたのか、移動しては狙撃してくる者たちから骨の箇所を庇う様に位置をずらす。
赤塚組ら銃撃を続行する者たちもRの動きを追って幾度と無く骨の箇所を集中攻撃していくが、Rは即座に移動してしまっては立ち位置を変えつつ太い爪の腕で反撃していく。
一方で聖龍隊の方も先ほど戦闘した<ぬぺぬぺ>と同様に氷系の能力を用いてRへ攻撃を試みていたが、<ぬぺぬぺ>と違い表面の装甲が硬いRには余り効果が無かった。しかも氷系だけにあらず電撃系や火炎系の攻撃も余り効力が発揮できず仕舞いだった。
「総長、攻撃が効きません!」
「凍らない上に電撃も炎も対して効かないわ!」
Rに向けて攻撃を続行し続けるセーラーマーズやブルーローズの発言ににメタルバードは指摘し返した。
「甲殻類の細胞も取り込んでいるんだ。それ故に液状の細胞は殆ど消失しちまっているから電撃も効かなけりゃ凍て付かないし、硬い甲殻ゆえに炎も大して効果がない! 何とかしねェと……」
どうにかして打開策を講じようと頭を捻って思考するメタルバード。すると彼はRのある特異点に気付いた。
「そ、そうか。氷系能力者! Rの足元は先ほどのぬぺぬぺ同様に硬化していない液状の細胞だ! 倒す事は不可能でも足元の液状細胞を凍らせれば一時的に動きが鈍くなる筈だ! 動きを止める為にも足元に向かって氷系のパワーを集中放射だ!」
メタルバードのこの提案に氷系能力者たちも一目でRの足元の液状の細胞に気付き、氷系の能力が少なからず効力を示すと判断しては速攻で足元の液状細胞を凍て付かせた。
「ウオッ、ウオォ」
移動する際は、あのぬぺぬぺ同様に床を液状の細胞で這って移動するRはその移動手段である液状細胞を凍り付かされ、身動きができなくなってしまってた。
すると動きを封じられたRに対し大将が赤塚組の面々に指示を仰いでいく。
「今だ! 一斉射撃しろッ!」
大将の一声に赤塚組にジェイクそして
更に発砲していく中でテツが再びRの弱いと思われる箇所を見出しては皆に伝える。
「みんな! Rの頭部は普通の狼に近い哺乳類の部分だ、硬い装甲で覆われてない以上、銃撃が効く筈だ! 頭も狙えッ」
テツの指摘に従いRの頭部をも狙撃していく赤塚組。するとテツの見出した通りRの頭部は柔らかい哺乳類の頭部で簡単に銃弾を浴びては肉に喰い込んでいく。
そして右腕の骨の露出した箇所に続き、哺乳類の頭部へと銃撃を展開していく上でテツは更にRの弱点と思われる箇所を発見し、それを皆に報告する。
「それから腹部の空いた穴にも砲撃だ! 何故だか解らないけど腹部に巨大な穴が空いている! その穴にも銃弾を有りっ丈ブチ込め!!」
Rの腹部に不自然に空いた穴へと集中攻撃を射撃していく赤塚組。
すると攻撃を受け続けているRは露出した骨に自身の頭部、そして腹部の不自然な穴への集中砲火を受けて苦しみ出し、更に過敏に周囲へ攻撃を仕掛けていく。
「来るぞ、避けろ!」
Rの反撃か例の青く太い腕をハンマーの如く振り回して殴りかかって来る攻撃に対して頭を下げて回避するよう言いつけて行く大将。
だがRは青い腕での猛攻に勢いを付けて更に周辺の自身に攻撃してくる外敵である聖龍隊や赤塚組に剛腕を振るってくる。
そんな折、アサルトライフルでRの頭部を幾度と無く狙撃していたテツにRの青い剛腕が迫ってきていた。テツは狙撃に集中しすぎて、自分に向かってくる剛腕に気付かずにいた。するとRの足元を凍らせて動きを停止させ続けていたセーラーマーキュリーが、そんなテツの危機を察して躊躇う事無くテツを押し退けた。
「危ないっ」
マーキュリーに押し退けられたテツは床に激しく転倒したものの大事には至らなかったが、そのテツを庇って押し退けたマーキュリーが代わってRの剛腕に直撃してしまった。
「っ」
声にもならない喘ぎ声を発し、マーキュリーはそのまま壁まで殴り飛ばされ派手に壁へと激突してしまう。
壁へと激突したマーキュリーは壁に減り込み、殴られた拍子に鼻から出血した上に口から吐血までしていた。
「マーキュリー!」
壁へと激突し、身動き一つしなくなってしまったマーキュリーを視界に捉えたメタルバードが彼女の名を叫ぶ。
そしてメタルバードは即座にナースエンジェルへと指示を伝える。
「ナースエンジェル! 速急にマーキュリーの手当てを。急げッ」「は、はい!」
メタルバードの指示を受けてナースエンジェルは即座に動かなくなったマーキュリーの許へと駆け寄り、治療に専念する。
ナースエンジェルが重傷のマーキュリーを治療している最中も、青く太い剛腕を立て続けに振り回して周囲を威嚇し続けるRを見て、メタルバードが戦前の仲間達に注意を呼びかける。
「気をつけろ! その青い剛腕に殴られたらタダじゃ済まないぞ! 鉤爪の腕だけじゃなく剛腕の方にも気を配れッ」
メタルバードが周囲の戦前に出てる仲間達に注意を促しているその時、再びRが青い剛腕を戦前の赤塚組に向かって振り回してきた。
「あ!」
目の前まで迫る青い剛腕を視界に捉えた赤塚組幹部の山崎貴史が声を上げるものの、剛腕はあと寸前の所まで迫ってきていた。
だがその瞬間。迫り来る青い剛腕を体を張って受け止めつつ、両腕でしっかりと捕らえては放さず剛腕の動きを完全に止めに入った金剛番長が掴んでは放さない。
「い、今の内に攻撃しろ」「あ、ああ!」
自慢の強力でRの剛腕を捕まえては放さない金剛番長は、背後の山崎貴史を始めとする銃撃戦を展開する者達に射撃を再開する様に言い放つ。それに山崎貴史は強く返答すると再びRに向かって銃撃を開始した。
前方からRの剛腕を金剛番長が押さえている最中に、Rの頭部と腹部に空いた穴に攻撃を集中させる戦前者たち。すると前方で過激な銃撃が展開されている最中にRの背後に周り込んだトリコが、Rの背後からお得意の強烈な剛腕による拳を連打していこうと行動に移っていた。
「釘パンチ100連打!!」
目にも止まらぬ速さで豪快な拳による打撃を連続でRの背面に打ち抜いていくトリコ。その衝撃は凄まじく、物凄い衝撃が空気中を振動していく程の衝撃波が周囲で戦いを見守っていた新世代型たちの体にも伝わってきた。
そして豪快な拳を百打も連続で打ち続けたトリコが、拳を直撃させていったRの背面の箇所に目をやると、その箇所の甲殻は見事なまでに剥がれ落ち殻の内側の軟らかい肉質が垣間見えた。
「やったぜ!」
己の強烈な拳による連打で銃弾をも弾く甲殻を砕いたトリコが歓喜した次の瞬間、砕かれ破損した甲殻の箇所に足元に広がる液状の細胞が這い上がってきては破損した甲殻の箇所を埋め尽くす要領で覆い被さり、再び強固な甲殻の表面へと変化して再生してしまった。
(クッ、ダメか。外面からの攻撃じゃ、スグに足元の液状細胞が破損した表面の甲殻を修復しちまうみたいだ)
外部からの攻撃では例え強固な外殻が破損できたとしても速効で足元に広がっている液状細胞が破損した箇所を修復してしまう特性を目の当たりにしたトリコは愕然とした。
「チッ、ダメだ! 外部からの攻撃じゃ、甲殻が破損したとしても液状細胞でスグに再生しちまう!!」
己の強力な拳による打撃では速効で再生修復してしまう現状を周りの仲間達に言い放ち伝えるトリコ。
するとこのトリコからの報告を聞いて、メタルバードがトリコと同じ隊《同じ版権作品》のキャラに指示を発した。
「ココ! 此処はお前の毒素が効くかは解らんが取り敢えずRに毒攻撃を仕掛けてみてくれッ」
「解りました」
自然界のあらゆる有毒物質に免疫を持ち、己の体内に無限の毒素を溜め込めるココは、その体内の毒素を自在に体外に放出しては攻撃に転用できる特異体質の持ち主。ココはメタルバードの指示を受けて両手を構えると紫色の毒素が弓の形状へと変形し、ココは猛毒の弓矢を構えてRに狙いを定めた。
そしてRの狼の頭部その後頭部に狙いを付けたココは一気に毒の弓を引き、そして後頭部目掛けて猛毒の弓矢を放った。
ココが放った猛毒の弓矢は後頭部に直撃し、それと同時にRの体内に毒素が入り込んでいった。
「ウギャアッ!」
矢による直接的な痛みと体内に流れ込む毒素の痛み、両方の苦痛を感じて雄叫びを上げるR。
すると毒の矢が直撃し苦しみ出すRの体に異常な事態が発生した。なんとRの体から物凄い蒸気が立ち昇り、異常なまでの熱気が室内に溜まり始めた。
「な、何なの、あの蒸気? どんどん体から蒸気が、煙が出てる!」
巨体から突如として物凄い量の蒸気を発し始めたRの異常事態を目の当たりにして驚く月影ちありを始めとする新世代型二次元人たち。
すると新世代型と同じく凄まじい蒸気を発するRの異常事態を前にしたメタルバードが、その原因を即座に察した。
「そ、そうか! このRの基と成っているのはD-ワクチンを基に作られた培養液で構成されている! だからココの毒の矢を受けて蒸気が発生しちまってるんだ!」
「そ、それってどういう事ですか!?」
Dを基に生成された培養液から肉体を構成している故に体から蒸気を発しているというRの理由を言い放つメタルバードの台詞に理解できない新世代型の
「Dの大きな特徴は、Dと生物の細胞が完全に融合した状態で得られる、その高い回復能力なんだが、その回復能力にはズバ抜けて高い解毒作用もあるんだ! さっきココが放った猛毒の矢を受けて、Rの体内のDがココの猛毒と作用してDと融合した肉体細胞が体内の毒を解毒しようと自然に起こっている現象なんだ。Dの解毒能力は高くて速効で細胞が毒を分解していくんだが、細胞が毒を分解する際に細胞そのものが高熱を発してしまう副作用が発症してしまうんだ! あの体から吹き出る蒸気は、体内の毒が分解されていくと同時に発生した高熱によって体内の水分が蒸発して蒸気として体外に噴出しているんだ!!」
「え! そ、それじゃ……ココさんが放った毒の矢を受けて、Rが体内のDの作用で毒素を分解していくからあの凄い量の蒸気が細胞の発熱で立ち昇っているって事ですか!?」
メタルバードからRの体から立ち昇る蒸気が、体内に撃ち込まれたココの毒を分解するD細胞の作用で起こった高熱による水分の蒸発が原因であると説明を受けて、チョコを始めとする周囲のプロト世代や新世代型達は驚愕した。
このメタルバードの説明を聞いて、新世代型の星原ヒカルがメタルバードにふと抱いた疑問を訊ねた。
「でぃ、Dには解毒作用もあるんですか? それも毒を分解する際に高熱を発し、その影響で水分が蒸気として体外に放出されるって……それじゃ、あのDを投与したあなた達の前の総長 小田原修司氏も同じ事が起こっていたんですか?」
このヒカルからの質問にメタルバードは蒸気を激しく噴出しながら暴れ回るRと戦闘を続けながら答えた。
「ああ、修司の奴も戦闘で毒を受けた際には、かなりの高熱を体から発して全身が真っ赤になるほど赤くなると同時に物凄い量の汗と蒸気を体から発していたものよ。毒が強力な分、発熱の温度も時間も高くなっちまうのが難点で、下手したら毒じゃなく高熱で脳細胞がやられていたかもしれなかった事もかなり有ったわ! 最高で解毒の際の高熱で全身から煙の様な蒸気を発しつつ高い温度で体の表面が自然発火しては全身火達磨で敵と戦うなんて無茶振りも多かったな!」
「こ、高熱で自然発火しては火達磨になって戦い続けてたって……す、凄すぎる……!」
解毒作用の際、発せられる高温で体内の水分が蒸気となって昇るだけでなく、凄まじい高温で体の表面を自然発火させては火達磨状態になって敵と対峙していた小田原修司の実情を知って驚愕してしまう瀬名アラタや新世代型たち。
だが此処で戦況がガラリと変わった。
Rが振るい続ける青い剛腕を両腕で押さえ込んでは動きを封じていた金剛番長。彼の身に誰もが想定してなかった事態が起こってしまった。
Rの巨大な青い剛腕を押さえつける金剛番長の脇の下からRの不自然に空いた穴へとショットガン等の強力な銃火器を連射していく大将と拳銃で穴に向けて発砲していくジェイク。
だが二人が金剛のほぼ背後からRの穴へと銃撃を浴びせていたその時、銃弾を浴びせていた穴から空気が抜ける様な異様な音が聞こえてきたと同時に穴の中で何かが蠢き出した。
「な、何だアレは?」
ショットガンから拳銃へと持ち替えて発砲し続ける大将は、穴の中で突如として蠢く物体を気にしながら発砲を続けた。
だが次の瞬間、穴の中で蠢いた物体から突如として無数の黄色く細い糸状の物体が這い出てきては、それらが一気に剛腕を押さえつけてた金剛に飛び付いては絡み付いてきた。
「ッ!」「こ、金剛のあんちゃん!」
無数の黄色い糸状の物体に絡み付かれる金剛は一瞬の事で何が自分の身に起こったのか理解できないまま内心困惑し、それを見た大将やジェイクは驚愕した。
そして金剛に絡み付いた黄色い糸状の物体は、金剛の体に張り巡っては体内に侵入してきて、それと同時に腹部脇に生えている二つの細い腕も金剛番長を押さえ付けて侵入を手助けする。
「ぐっ!」
体内に侵入されると同時に感じる激痛にさすがの金剛番長も顔立ちを歪ませる。
黄色い糸状の物体が金剛の体内に侵入していく現状を目の当たりにしたメタルバードは、急ぎ金剛の近くにいる仲間達に伝令する。
「だ、誰か! 金剛に絡み付いている触手を切れ! その触手はおそらくRの体内に寄生させた寄生体の触手だ。急いで断ち切らねェと金剛も寄生体に体を侵食されかねない!!」
「な、何だって!!」
なんと金剛番長に絡みつくRの不自然に空いた穴から飛び出した黄色い糸状の物体は、Rの体内に寄生している寄生体の触手で剛腕を押さえ込む金剛を侵食しようと触手を伸ばして来たのである。
メタルバードの放った衝撃の事実を耳にした大将は咄嗟に拳銃を仕舞い、革製の鞘袋に収納していたトンカラトンお手製の巨大鉈を手に取り、それで急ぎ金剛に絡み付く触手を断ち切っていった。
更に大将に続けてジェイクと
大将の咄嗟の行動とジェイク/
「金剛のあんちゃん、大丈夫か!」
触手を断ち切り金剛を助けた大将は、即座に鉈から拳銃に持ち替えて再びRに銃撃を開始しながら金剛の身を案ずる。
だが当の金剛番長は触手に侵食された部分に酷い痣が残っており、金剛番長の容態を気にしたジュピターキッドが近付いて診て見ると彼の体には既に何本かの触手が侵入してしまってた。
「これはイケない……! スグにワクチンを打たないと触手だけで体が侵食されていってしまう!」
早急な処置を施さなければ金剛番長の体は寄生体の一部である触手に侵食され、命が危ういと判断したジュピターキッドは慌てて懐から一本の注射器を取り出し金剛に針先を向けて構えた。
「金剛番長、少し辛抱してくれ」
そう言ってジュピターキッドは普通の注射器よりもやや太い注射器を金剛番長の左肩に突き刺し、中身の液体を注入する。その間、金剛番長は参謀総長のジュピターキッドを心から信頼してか無言の沈黙を保ったまま胡坐をかいて鎮座しているのであった。
その場景を目撃した新世代型達はジュピターキッドが金剛番長に注射している液体に興味を惹かれては問い質した。
「じゅ、ジュピターキッドさん。その薬は……」
新世代型の出雲ハルキが訊ねると、ジュピターキッドは金剛番長に注射しながら真顔で答え返した。
「これは大抵のウィルスに効果を示すJ-ワクチンと、D-ワクチンやD-ウィルスなどDの大々的な変異に抵抗できるよう、聖龍隊の研究機関が作りだした特別なワクチンだ。これなら大抵のウィルスはもちろん、生体兵器の一種にあたる寄生生物にも効力を示せる。……まぁ、元からウィルスなどに免疫を持っている君たち新世代型には用の無い代物だけどね」
そう語りながらジュピターキッドによる金剛番長へのワクチン注射は一通り済ませる。
一方で先ほど金剛番長を襲った寄生生物の触手は再び獲物を求めてなのか、再度Rの腹部に空いた穴から黄色い触手を無尽蔵に放出していた。
「な、なんだあの黄色い糸コンニャクみたいなのは! 気味が悪い!」
腹部から飛び出し蠢く黄色い触手を見て不気味に感じる大将が怖気づいていると、赤塚組幹部のテツがそんな怯むか脅えてしまってる同胞の赤塚組の面々に言い放つ。
「怯むな大将! それにみんなも! あの触手が飛び出している穴に向けて集中砲火だ! 多分あそこの中に寄生体が潜んでいる筈……俺達に侵食する前に銃撃で片付けよう!」
テツの威勢の良い指示に赤塚組を始め銃撃に参加していたジェイクや
その銃撃の最中、Rは先ほどまで金剛番長に押さえ付けられてた剛腕で再び眼前の銃撃を行う面々に向かって殴りつけて来た。
「伏せろッ」
殴りかかって来る剛腕に対し身を伏せて回避するよう呼び掛けるテツの一言に戦前の者達は一斉に身を伏せて攻撃を回避する。
すると腹部の触手の方も動きを活発化させては更に無数の触手を飛び出させて戦前の者達に絡み付こうと触手を伸ばしてくる。
これに対抗しようと大将は腰に下げていた手榴弾を手に持ち、触手が飛び出してきているRの腹部の穴に向かって手榴弾を放り込んだ。
「喰らいなッ」
そう叫びながら手榴弾をRの腹部の穴に放り込む大将。そして手榴弾を放り込んだ次の瞬間、安全ピンを抜いた手榴弾はRの腹部の穴の内部で爆発し、内側からRの硬い外殻を吹き飛ばした。
寄生体本体への攻撃だけでなく内側からの爆破により外殻の大破までも成し遂げた大将であったが、外殻を激しく損傷したRもその体内に住み着いている寄生体もまだ現存していた。
しかしRの硬い外殻が大破した事により、その内側の軟らかい肉質が露出したので外部からの銃撃が更に効果を上げる結果となった。
「占めた! 外殻が派手に吹き飛んだ、今の内に総攻撃だ!」
大将の指示を受けて一斉射撃をRに向けて開始する赤塚組を筆頭とした銃撃者たち。
更に銃撃で攻撃していく者達は、元々硬い外殻に覆われていなかったRの頭部と巨大な剛腕にも銃弾を直撃させていき、徐々にRの体力を消耗させていく。
しかしその最中、再びRの空いた腹部の穴から無数の触手が蠢きながら飛び出てきて、それを見た大将は再び手榴弾を構えて遠投の体勢に入る。
そして狙いを定めてはRの腹部に手榴弾を投げ込もうと構えた。その瞬間。
「ウギャアアァァア」
なんと腹部の穴から無数の触手に続いて眼の無い長い巨大な口が不気味な唸り声を上げながら飛び出し、無数の牙を怪しく光らせて飛び出してきた。
「……………………」
飛び出てきた巨大な口を目の当たりにした大将は、その異様で悍ましい場景に愕然となり言葉を失ってしまう。
だが、大将や皆が腹部の穴から飛び出てきた寄生体の本体である口に目を奪われている最中も、寄生体は触手を無数に伸ばして来ては眼前の獲物に絡み付いて喰らい付こうと活発に蠢いていた。
それを見た大将はハッと気付いて、スグに手に持っていた手榴弾を寄生体本体である口に向けて投げ込んだ。
「コレでも喰らえッ」
大将は寄生体本体を仕留める為にも直接本体に向けて手榴弾を投げ込んだ。
だが大将が寄生体の本体の方へ手榴弾を投げ込むと、本体はその巨大な口で投げ込まれた手榴弾を咥えては、まさかの口で咥えた状態で手榴弾を大将達の方へと投げ返してみせた。
「う、ウソ!?」
咥えて投げ返される手榴弾を目の当たりにして驚愕する大将。だが投げ返された手榴弾は大将たちの足元に転がってきて、大将らは急いで退避した次の瞬間。
足元に投げ返された手榴弾が爆発し、その爆風に大将たち一部の赤塚組の面子が吹き飛ばされた。
「うわぁ!」
爆風で吹き飛ばされた大将は、離れて戦闘を見守っていた新世代型たちの方へ飛ばされ激しく床に叩き付けられる。
「大将さん!」「貴方、大丈夫?」
吹き飛んできた大将に声を掛け、意識の有無を確認する新世代型のコウサカ・チナに美都玲奈。そんな気軽に声を掛けて来てくれる新世代型たちに大将は目を開いてしっかりとした意識で言葉を返した。
「あ、ああ……どうにかな。まさか手榴弾を口で咥えて投げ返すなんて芸当をするとは思っちゃいなかったぜ……」
戦闘経験豊富な大将でも、まさか寄生体が投げ込まれた手榴弾を口で咥えて逆に投げ返してくるとは想定外であった事を正直に白状する。
一方のRは腹部から寄生体の本体とその触手を突出させたまま、左腕の鋭い爪と青い剛腕による物理的攻撃を仕掛けてくるのと同時に頭部である狼に酷似している牙でも喰らい付いて攻め立てて来ていた。
このR本体での凶暴性とRに寄生している寄生体による触手攻撃が両立されている現状を目撃して、メタルバードは一つの仮説を立てた。
「そ、そうか……あのRと、Rに寄生している生命体は共生関係にあるんだ!」
「きょ、共生?」
メタルバードの放った共生と云う言葉を初めて聞いたモルジアナが訊き返すと、メタルバードはその場の皆に分かり易く説いていった。
「お前らも聞いた事は無いか? 全く違う種の生物同士がお互いを助け合いながら共存している生態現象を<共生>と言うんだ。例えば良くテレビなどで見かけるイソギンチャクを自分が被っている殻にわざと乗っけているヤドカリ。ヤドカリはイソギンチャクを自身の殻に乗せる事で、イソギンチャクの毒手のお陰で外敵から身を護れるし、イソギンチャクの方は本来は動けない生物なのだがヤドカリに乗っけて貰う事で餌が豊富な場所に楽々と移動できる上に時にはヤドカリの捕食した獲物のお零れも頂戴できる。こうしたお互いにメリットのある生態を<共生>と学者達は呼んでいるんだ」
メタルバードに続きジュピターキッドも共生現象について解り易く解説していく。
「あのRも、おそらく生体機能を保持させる為に植え付けられたとはいえ寄生生物と共生の間柄に生態が変化しているんだろう。お互いに自分に害をなす外敵を倒す為に共闘し合ったり、栄養となる捕食に対してもR本体と寄生生物が協力し合って獲物を捕食した上で栄養も互いに分け合っているんだろう」
生体兵器Rとその体内に植え付けられた寄生生物の共生に関して説明するジュピターキッドは、最後にRと寄生生物の共生ゆえの弱点に付いて語り明かした。
「故に……Rの体内に住み着いている寄生生物も、その寄生生物を体内での共生を許しているR。つまり宿主であるRが死に絶えれば体内の寄生体も同時に死滅し、どちらとも同時に片付けられる!」
体内で共生している寄生生物が、宿主であるRが死ぬと同時に寄生体本体も死滅すると語るジュピターキッドの説明を聞いて、合点気合が湧いてくる聖龍隊と赤塚組ら戦前の戦士達。
そして最戦前の銃火器を手にした赤塚組とジェイク、そして
「ウオオオォ……」「ウアーーーーァ……」
宿主であるRと、そのRの腹部からワニに様に尖った赤みかかった口を突出させている寄生体の本体へ攻撃を展開していくと、それぞれが苦悶の唸り声を上げながら苦痛に悶える。
しかし攻撃を受け続けているRと寄生体も反撃し、Rは右腕の鋭い爪と左肩の剛腕で最戦前の者たちへ物理的に反撃してくる。これに対し戦前の者達は身を伏せたりして攻撃を回避していく。
そして寄生体の方は再び黄色い触手を無数に放散して、周囲の者等への寄生を計る。しかし一直線に瞬時に伸びてくる触手に戦前の者達は素早く回避し、寄生を免れながら銃撃を展開していく。
だが、後方で護衛に当たっているミラーガールやジュピターキッド達に護られている新世代型達は、Rの腹部から突出している寄生体の本体とその周りから放散される無数の黄色い触手を目にして、血の気が引いた面持ちで思わず呟いてしまった。
「何だか…………遊星からの物体Xを思い出す」
「やめてよ。思い出さない様にしていたんだから」
男子が呟いたRから突出している寄生体の有体への感想を聞いた女子が、自分たちも内心思ってはいたが思い返さない様にしているのだから言わないでくれと文句を言う。
するとこの男女の会話を耳にしたジュピターキッドが話に入ってきては苦笑を浮かべながら語り出した。
「はは、君達もやっぱソレを思い出す? 完全にアレはトラウマもののSFホラーだったよね……君達は若いんだし、おそらくファーストコンタクトの方を見て恐怖を覚えたと思うけど、第一作つまりファーストコンタクトの後日譚である80年代の作品は見たかい?」
「い、いいえ。旧作の方はまだ……」
ジュピターキッドからの問いに朝比奈コウタが答えると、ジュピターキッドは一作目の映画に付いて語り出した。
「ファーストコンタクトの方も最新のVFX技術で最先端のCGとかを使っているから、より迫力のある悍ましい不気味な変異を遂げるシーンが多数観られたけど……旧作の方もVFXを使用してないにも関わらず寄生されては変異する人間の描写が悍ましく不気味で恐がられたよ。実際、80年代の作品をテレビ放映した所、放送後にテレビ局に苦情が殺到した事から今ではテレビ放映が禁止されてしまってるとも言われてるみたいだよ」
『…………………………………………』
テレビ放映で苦情が殺到するほどのトラウマを視聴者に植え付けた作風について知った新世代型の面々は、改めて《遊星からの物体X》シリーズの恐さを思い知った。そして、その寄生体X同様の悍ましい姿でRに寄生している寄生体を前にしてより一層恐怖を覚える面々。
一方で戦前での戦況は、遠距離からの銃撃に隙を衝いての接近戦の両方から攻めて行っていたのだが、この時戦前で接近しては剣で斬り付けたり右腕の鉤爪を剣で防いでいた美樹さやかに寄生体が狙いを付けて黄色い触手を彼女に放出した。
「さやか、危ねェ!」
美樹さやかへの寄生を許してしまう触手攻撃を避けさせる為、メタルバードはさやかを押し退けて身代わりで触手に纏わり付かれて捕らえられてしまった。
そして触手は捕らえたメタルバードを力尽くで引き寄せ、Rの眼前に引きずり出した。そして眼前に引き寄せられたメタルバードを見て、Rはメタルバードを下部の両腕で押さえ込むと同時に左肩の剛腕でメタルバードの頭部を滅多打ちに殴り付けて行った。
「総長!」
メタルバードに押し退けられ間一髪助かった美樹さやかを始めとする隊士がメタルバードを心配するが、当のメタルバードは余裕のある表情で言葉を返してきた。
「あ、安心しろッ。俺は寄生されない上に打撃攻撃も殆ど効きゃあしねぇから……イデデッ、そんな殴るんじゃねェや!」
全体の全ての細胞を金属化しているメタルバードは、如何なる寄生生物も寄せ付けない体質。更に鋼鉄の如く頑丈な肉体で物理的攻撃も多少の痛覚はあるものの殆ど効果はないのだ。
更にメタルバードは自身の金属化している肉体も、通常時と同じ様に軟体化させて体の形状を変化させる性質も持ち合わせている。この性質でメタルバードはRの下部の両腕と寄生体の触手で取り押さえられている腹部の上に当たる身体の部分をゴムの様に伸ばしては、上半身だけをRの頭部に巻き付け始めた。
「このヤロッ、タダじゃ済まさねェぞ……!」
下半身を触手と両腕で押さえ付けられてる最中も必死で上半身を伸ばし、Rの頭部の後部へと上半身を巻き付け始めようと行動に移るメタルバード。だが、そんなメタルバードをRは反抗し左肩の剛腕で再びメタルバードを殴り始めた。
「ぐっ、クソ……だ、誰か! コイツの剛腕を何とかして止めてくれ!」
Rが幾度となく殴り付けてくる剛腕の動きを封じてくれるよう周囲の仲間達に呼び掛けるメタルバード。
するとメタルバードの応援を聞き付け、先ほどメタルバードに窮地を救われた美樹さやかが恩返しの如く行動に移った。
さやかは自身が羽織っているマントから無数の剣を出現させては、その剣全ての切っ先をメタルバードに殴り掛かるRの左肩の剛腕に向けた。そして一斉に展開した無数の剣をRの青い剛腕に放った。
「ウギャッ」
さやかが放った無数の剣はRの剛腕に全て直撃し、Rは悲鳴を上げる。しかも剛腕を貫通した剣はそのまま天井に突き刺さりRの剛腕を天井に固定する事に成功した。
「さやか、良くやった!」
美樹さやかの成果に称賛を掛けるメタルバードは、即座に剛腕を固定されもがくRの後頭部へと上半身を捻る形で巻き付き、そのまま力を入れ始めた。
「こッの~~~~……ッ!」
渾身の力を入れてRの頭部を捻り回そうとするメタルバード。そしてメタルバードがRの頭部に力を入れ続けた次の瞬間。
骨が砕ける異様な音が不気味に響き渡り、その音が鳴った瞬間メタルバードがRの頭部から離れると、Rの頭部は異常な方向に曲げられ首の骨を完全に折られていた。
首の骨を砕かれ、異様な方向に頭部を曲げられたRはそのまま息絶え、ぐったりとその巨体から力が抜けていった。しかし例の剛腕がさやかが放った無数の剣で天井に固定されている為、完全に床に倒れる事はなかった。
そしてRの首に上半身を巻き付けて強引に首の骨を砕いては頭部を異常な方向に曲げたメタルバードは即行でRから離れては床に着地した。
しかし此処で予想外の出来事が起きた。
互いに共生し合い、宿主のRが死に絶えれば体内に寄生している寄生体も死に絶えると思われていたのだが、その寄生体は個体だけで活発に動き回っていた。
「キュアアアアアアアアアァァァ……」
異様な鳴き声を発しながら触手を拡散させ周囲の人間に敵意を向ける寄生体。
この異常な場景を前にして、メタルバードも新世代型たちを護衛する役回りに回っていたジュピターキッド同様に、あの《遊星からの物体X》を思い出しては顔から血の気が引いてきた。
「い、異常すぎる……この寄生体」
余りにも活発に動き、そして触手も拡散していく寄生体に蒼褪めるメタルバード。
すると此処で新世代型の護衛に回っていたジュピターキッドが《遊星からの物体X》を思い返しては戦前の聖龍隊の同士に言い放つ。
「此処は映画と同じ様に……火炎放射で一気に焼き尽くそう!」
「それなら私たちに任せて!」
ジュピターキッドの発案を聞いて、セーラーマーズを始めとする炎系能力者たちが戦前に出ては一斉に寄生体とR本体に紅蓮の炎を放射していった。
「ファイアリー(火)!」
「
「フレッシュ・ファイア!」
木之本桜/獅堂光/フロートの火炎攻撃がRを取り囲むようにしてR本体と体内に寄生している寄生体を焼き尽くしていった。
更にRを取り囲むナツ・ドラグニル/ファイヤーエンブレム/沢田綱吉/アリババも火炎攻撃で一気にRと寄生体を焼き尽くしていく。
「徹底的に焼き尽くせ! Dの作用で回復されるのも厄介だ。Rの亡骸も寄生体もほぼ完全に焼失させるんだ!」
メタルバードの切羽詰った指示にセーラーマーズを始めとする火炎隊士らは徹底的にRと寄生体を焼き尽くし、その亡骸をほぼ炭にしてしまうほど激しく燃やし尽くしていった。
「キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ……」
炎に包まれ断末魔の如く奇怪な鳴き声を発しながら果てていく寄生体を目の当たりにして、新世代型達は自らの脳裏に改めて思い知らされた。
小田原修司が投与されたD-ワクチン。その実態は未知なる新種の微生物を改良した物で、投与された人体に劇的な変化を齎す物質である事を。
そしてそのD-ワクチンを投与された小田原修司の体内で新たな改善が促され、それらを元に癌の特効薬など不治の病に効く薬や酵素が開発されていった事を。
だが、その反面、小田原修司のDNAは通常の人間と異なり筋肉強化の際の理性損失が改善された後には狼や竜などの人外の生物に変身できる能力を手に入れられた事。
更に小田原修司の体内から抽出された改善したD-ワクチンが今でも、そして現に目の前のRの様な生体兵器に用いられてしまっている現状を間近で目撃し体感してしまったのである。
今後も彼ら新世代型には様々なD-ワクチンやD-ウィルスなどの、Dの作用で激的に強化された生体兵器が迫ってくる事であろう。
自分達とDの影響で己の遺伝子が変異してしまった小田原修司との関係を、未だに知らずに……。
[D-ワクチンについての補足事項&新キャラ紹介]
D-ワクチン
小田原修司が若干13歳のとき、海外の軍隊に入隊している際に軍より打ち込まれた特殊ワクチン。
基は筋肉強化剤に近い薬剤であり、打たれた軍人の多くが投与されてすぐ筋肉の膨張や体内構造の変化に肉体が耐えられず死亡していく中、小田原修司のみがこのワクチンを投与されても死亡しなかった。小田原修司はそれ以降、興奮すると体内のドーパミンやアドレナリンとD-ワクチンが過剰反応し全身の筋肉が異常膨張し、瞬時に巨体な筋骨隆々の大男へと変貌する。容姿は筋力が異常に発達し、更に血流が激しく成る事から過剰な熱反応を起こし、血流と相まって全身が赤黒く変異する。
それから数年間、大男に変貌した小田原修司は体が巨大化すると同時に理性が一時的に失われては自我を保てなくなり暴走する傾向に陥り、これには当時の聖龍HEADや聖龍隊の隊士たち全員でも中々取り押さえることが困難であったという。
だが後に小田原修司はその自我を保ちつつDにて己の体を強化した状態を保持する事を成し遂げ、更に彼の体内のD-ワクチンが独自に変異していき、最終的に小田原修司は更なる肉体強化を成し得た。
後に小田原修司の遺伝子から取り出されるようになったD-ワクチンは劇的な変化を遂げて、一種の改質酵素にも近い物質としても用いられるようになった。これにより国際連合や世界保健機構は小田原修司の遺伝子を保管し、それを元に様々な病気の対抗薬が開発される。結果、世界中で不死の病とされた病気の3分の1が地球上から治療可能となった。
だが、修司の体内から取り出されたD-ワクチンは改良などの人の手が加えられてない素の状態で投与すると人体を劇的に変化させ、最悪の場合異形の怪物へと変異してしまうケースがある。これにより不当に入手したD-ワクチンでの生物兵器開発や人体改造などの問題が山積みの現状なのである。
その実態は新種の未知なる微生物に様々な動物の遺伝子を掛け合わせたり改質酵素などの薬物を与えて改良を重ねた細胞学の権威が作り上げてしまった技術の結晶である。
幼体
エキノコックスに近い海老の幼生に似た生物。二つの赤い眼が特徴
アルファ(α)
カブトガニに似た生物。赤い眼は小さく先端に二つある
ゼータ(Ζ)
αに肥大化した長い頭部が生えた。眼の数と色はγと同様
ガンマ(γ)
ダンゴ虫に近い甲殻に包まれた四本の細長い足の生えた生物。赤みかかった眼が黒く変色し、三つに増えている。
オメガ(Ω)
Dの完全体。此処までの成長・変態が促進可能なのが微生物であるDの特徴。
超巨大で赤黒い眼が四つ、二本爪の二足歩行で俊敏に動き、鋭い爪で獲物を切り裂く。
腹部は紫色の腹筋組織が8つに分かれており、ホースの様な形状の尾が特徴。
凶暴性のみならず知能も高く、同属など仲間と認識した相手には的確に従い、従順である。
精神感応能力(テレパシー)で互いの意思疎通が可能である生物でもある。
物理攻撃・エネルギー攻撃への耐性、外部環境への適応能力も高く、宇宙空間など酸素の無い環境でも生存できる。
自爆装置による強烈な爆発や、強力なエネルギーは吸収や無効化ができず更にダメージの回復が間に合わない為、有効である。
D-ウィルス
D-ワクチンから作り出されたウィルス兵器。主にこのウィルスに感染した生物兵器は、筋力が増大し攻撃力が通常の生物兵器よりも格段に上がる。更に二次元界では、二次元人などが投与すると精神に異常を来たしたり、クリーチャー化したりと悪影響が半端なく出る事でも有名である。が、多くの人々は強い力を欲して、自らD-ワクチンやD-ウィルスを投与してしまうのが現状である。
これに対しても大元のD-ワクチンを構成している未知の微生物そのものがウィルスと何ら変わらないのでは無いのかという意見も飛び交っているが、未だ詳しい関連性は見出せていない。
ゼルトン・プラトニクス
D-ワクチンを研究・開発した細胞学の権威であった学者。現在では故人である。
元々D-ワクチンはDrゼルトンが発見した新種にして未知の微生物を研究した上で様々な改良を重ねて完成させた人体の進化を促すワクチンだったという。
しかし当初D-ワクチンは被験者の細胞と適合しない限り、ただ被験者の筋肉を異常増加させて血管や内臓を破裂させて死亡させてしまうという実に厄介な特性を持っていた。
だがDrゼルトンの真意は、あくまでも人間の細胞の機能の向上化を促し、人類という種を正しい道に導くべく為にD-ワクチンを作り出したのである。
ゼルトン曰く、D-ワクチンは【人類の進化を促す物質】と言い伝えている。
後にゼルトンが開発したD-ワクチンを政府が半ば強引に奪取し、更に後々軍での兵士強化実験に使用されるまでに至ってしまっている。
【モデルとしてはロックマンシリーズにおけるライト博士である】