現政奉還記 B.O.W.編   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 新世代型に覚醒した共有感知の能力にて、互いの実情を知り得た新世代型の二次元人たち。
 そしてテレパシー能力を持つ新世代型から伝達した他の二次元人の事実、あのジェイクの経歴と出生も彼の口から語られる事となって初めて知った赤塚組。
 そんな中、様々なウィルス兵器に感染した敵兵が何者かの意図によって一行の眼前に送り込まれ、戦闘に追い込まれる一行。
 更にリッカーの群れから逃亡する最中に重量級の銃火器である対戦車ライフルを軽々と扱う謎の人物に窮地を救われつつ先へと進む為のアイテムであるカードキーも入手した一同。
 そうして脱出に向かい進み続ける一行の前には、研究資料としてガラス瓶に保管された奇形の動物や胎児、更には特殊培養液を用いて生み出された生体兵器。
 その様な悍ましい生体兵器を生み出していく発端が、数十年前のアメリカ軍が行った志願式の人体実験による兵士強化実験。その実験に自ら志願し唯一生存できたのが、あの小田原修司だったという。
 そして小田原修司が投与されたワクチン【D-ワクチン】の正体は、なんと新種にして未知の微生物を改良した物であった。故に微生物を媒体とする危険な生命体も生み出されているのだという。
 人体を激変させるD-ワクチンを投与し自らの運命を普通とは完全に異なる道に突き進んだ小田原修司。彼はいったい何を思い、そして最後には国連管轄の人間兵器と成り果てたのだろうか……。



現政奉還記 東南アジア市内編 小田原修司の生態調査 前編

[媒体されていたDと鬼神のクローン製造所]

 

 驚異的な攻撃性と体内の寄生体による二重攻撃を仕掛けてきたRをどうにか最後には焼失させる事ができた聖龍隊と赤塚組らは、新世代型達を率いて更に施設の上へと突き進んでいった。

 静寂の中、一行の先頭を突き進み進路の安全を確保する役回りを請け負うのは、聖龍隊でも屈指の実力者を揃えた精鋭ニュー・スターズとスター・ルーキーズの二つの総合部隊であった。

 一行の先頭を駆け抜けて安全を確保する2人の総合部隊長フロートとミラール。その後ろから配下の聖龍隊士が続けて薄暗い通路を駆け抜けていく。

 何の影も形も見当たらなくなった通路を駆け抜ける二つの総合部隊は、T字路の曲がり角にて両角の死角に素早く駆け抜け身を潜ませつつ、曲がり角の奥を慎重に見渡す。

 そして何の危険性も見当たらないと一見した上で、自分達の後方に鎮座している聖龍HEADや赤塚組、そして彼らに護衛されている新世代型たちに指サインで曲がり角の先の安全を伝える。

 先頭を行く者も、その後方から付いて来ている者も皆、慎重に一歩ずつ進んでいく。

「……何だか急に静かになったな」「ああ、不気味なほどにな」

 突然、何の前触れもなく出現しなくなった敵やクリーチャー達に、不気味なほどの静寂さに息が詰まりそうになるほど警戒心を尖らせて進んでいく大将とメタルバード。

 薄暗い通路の先頭を自ら志願して先陣を切り、進路先の安全を確認していくニュー・スターズとルーキーズの面々。しかし彼らが目を随所に光らせても、通路には散乱した書類などの紙切れや夥しい程の血痕、そして腕や足を切断された惨たらしい死体ばかりしか視界に入って来なかった。

「敵はいねェが、どうも此処でも何らかの惨劇は起こった様だな」

「そうね。何が原因が未だに解らないけど、突然勃発したバイオハザードで流出したウィルスでゾンビ等のバケモノに変異したこの施設の人間に襲われて、こうも無惨な死体に成り果てたと簡単に推測できるわ」

 先陣を突き進むフロートとミラールの両名は、無惨に切り裂かれた死体の数々を目に焼き付けつつ、これがこの施設で起きたバイオハザードで流出したウィルスによる惨劇であると推測する。

 

 そうして一行は敵の気配すら感じなくなった通路をひたすら進んでいく。が、その時。

「な、なんだ? 今の爆音は!」

 なんと通路の奥から途轍もない爆音が幾つも連続で聞こえてきたのだ。突然鳴り響くと同時に衝撃が空中に震動してくる爆音を耳にして一驚しつつも警戒する大将。

 そして一行は聖龍隊の面々を先頭に、一気に通路を駆け抜け爆音の正体を突き止めようと走った。

 

 ひたすら通路を駆け抜け、辿り着いた先で一行が目にしたものは……ウィルスに感染し凶暴性を表したゾンビ兵やハンターなどの攻撃性の高い生体兵器の爆破され焼き尽くされた残骸の山であった。

「な、何よ、コレ……!」

「どいつもコイツも片っ端からやられてやがる……!」

 強力な装備か何かで爆破された生体兵器の亡骸の山を前にして驚愕する薙切えりなに磯谷ゲンドウ。

 そして強力な爆発で死に絶えた生体兵器の亡骸を念入りに観察するメタルバードは、生体兵器の死因をこう推測した。

「これは……かなり強力な銃火器か何かで攻撃されて爆発死したモンだろう」

「ちょ、ちょっと待てよ。つまり何だ? 俺たち以外にも、この施設内で生体兵器相手に銃火器をブッ放して戦っている奴がいるって事か?」

「ああ、そうらしいな。しかもオレ達が持っている武器以上に強力な……そう、ロケットランチャーやそれぐらいの威力がある銃火器でだ」

 生体兵器の死因は、自分達以外の何者かによる強力な銃火器による爆発によるものと推測するメタルバードの推理に、自分達以外にも戦闘をしている者の存在に驚く大将が思わず訊き返す。

 自分達以外の何者かが、施設内で強力な銃火器を使用して生体兵器と戦っていると憶測を立てるメタルバードは先ほどの出来事を思い出した。

 それは先刻、自分達がリッカーの群れに襲われている際、その窮地をまるで救うかの如く出没し対戦車ライフルで強力な砲撃を放った謎の人物。

 メタルバードはその人物以外、自分達以外で生体兵器と応戦している人物が今のところ見当が付かない事を悟る。

 

 と、その時。メタルバードは激しい戦闘が起こり、何体もの生体兵器の亡骸が転がっている現状の付近を見渡した時に気付いた。

 それは、一つの両開き式の扉であった。

「おい、この扉……」

「んっ、ああ、そういやぁ有ったんだな。こんな所に扉が」

 メタルバードが扉に目を向けると、それに反して大将はメタルバードに指摘されるまで扉の存在に気付いてなかった。

 両名は互いに顔を見合わせ、扉を開けて内部へ進入していく意志を同調させる。

 そしてメタルバードと大将は如何なる状況でも応戦できる様に身構えながら、扉を蹴破った。

 二人が蹴り飛ばして開けた扉の奥には、前にも見た事のある光景に酷似しているガラス瓶が陳列された異様な研究室の様な場景であった。

 銃を前に突き出しながら、室内の危険がないか確認しつつ内部を探索する大将たち赤塚組。そして研究室内には何もいない事を確かめ、一旦は銃を仕舞う。

 だが其処で銃火器を納めた赤塚組、そして聖龍隊に新世代型達が目撃したのは、余りにも衝撃的な状景であった。

 特大のガラスケースに納められた今まで見た事のない生物。そして幾つもの腕や足が奇形と化していたり黒く変色している人体までも納められてた。

 しかも赤塚組や聖龍隊、新世代型は目を疑った。何故ならガラスケースに納められてた奇形の人体は、完全にその顔付きがあの小田原修司と酷似していたのである。

「お、おい! コイツは、まさか……!」

 震える唇で問い掛ける大将の言葉に、メタルバードも衝撃を受けた面構えで答え返した。

「間違いない……此処に納められている人体は、全て修司のクローンだ! それもウィルスや遺伝子組み換えで身体の各所が変形しちまった所謂失敗作ともいえるクローンだ」

 なんと研究室内でガラス管に納められてた人体は全て、あの小田原修司のクローンそれもウィルスを投与されたり遺伝子組み換えで身体の一部分が変形してしまっている失敗作ばかりが室内に並んでいた。

 ガラス製の収納機に納められてた小田原修司のクローンは、保存する為の液体に浸されている為か皮膚がふやけて色白であり、頭皮の毛髪は若干頭頂部に僅かながらに残っているだけであった。しかも、その身体の一部分はトカゲなどの爬虫類や獣の様な異形の姿形であった。

 一同がガラス管の中に納められている小田原修司のクローンに目を奪われている最中、新世代型の星原ヒカルを初めとする一部の新世代型たちは小田原修司のクローンとは別のガラス管に納められている未知の生物に注目していた。

「こ、これは一体なんだろう……見た事もない生物だけど」

「これも一種の生体兵器なのか?」

 ヒカル同様に注目する出雲ハルキは既にガラスケースの中で死に絶えている生物も生体兵器と認識しかける中、一人の青年が未知の生物が納められているガラスケースに手を翳した。

「あ、貴方! ひょっとして、この生物の事を……!」

 新世代型同士の共有感知で青年の素性と彼が行おうとしている行為を周知しているヒカルとハルキが問い詰めると、青年は正直に答え返した。

「ああ、その通りだ。余り気が進まないが、この生物が何なのか少し知る為にも残留思念を読み解こうと思う」

 そう言って翳した手に被せていた薄い手袋を外して、未知の生物が納められているガラスケースにその手を押し当て、その物体に残っている残留思念を読み解こうと試みる斉木楠雄。

 彼がこのとき使用した超能力は、通称サイコメトリーと呼ばれる手で触れたものの残留思念を読み取る事ができる能力である。だが読み取るものの対象によっては多大な精神的ダメージを負ってしまう事もあり、時には物でなく人間の場合でなら、その人物の五感で感じている事がストリーミング再生の様に解るという。

 このサイコメトリーについて斉木曰く「最もいらない最低最悪の能力」らしく、普段は極薄の透明な手袋をする事で能力を封印している。

 だが敢えて斉木はこの能力を用いて、今の自分たちの置かれた状況を少しでも和らげる為にも躊躇する事無く使える能力は使える時に使用しようと思い立ち、未知の生物の正体を探る為に渋々ながらサイコメトリーを使用した。

 すると斉木の脳内に激烈な電気ショックの如く未知の生物を納めたガラスケースに残っていた残留思念が流れ込んだ。その衝撃と激痛は共有感知を通して他の新世代型にも伝わり、更に斉木がサイコメトリーで見た景観も伝達してきた。

 斉木が読み取り新世代型達の脳裏にも伝達してきた景観。それは白衣を纏った学者達が入念にガラス管内に納められている数多の異形の手や足を持つ小田原修司のクローンを観察したり、今となっては既に死滅している未知の生物がガラス管内で微かに動いては生体機能がまだ失っていなかった事を把握する。

 ガラス管に納められた未知の生物は時おり活発に動きながら、その生態を学者達は念入りに観察していた場景が鮮明に新世代型達の脳内に伝達してきたのだ。

「な、何なんですの? 今のは……」

 突然脳内に入り込んできた場景に驚き戸惑う花園まりえ。

 そして一方でサイコメトリーを使用して場景を脳裏に写したと同時に他の新世代型達にもその場景を伝達させてしまった斉木楠雄は、念視した場景を目撃して一つの推測を立てる。

「そ、そうか……此処では以前、未知の生物を試験管の中で飼育しては観察したり調べたりしていたらしい。それも、かなり大掛かりな人手と資金を懸けて」

 斉木の推測を聞いて、彼の前から未知の生物を死んだ状態とはいえ観ていたヒカルとハルキは斉木に問うた。

「さ、斉木さん。それで、この生物が何なのかまでは解らないんですか?」

「ハンターやリッカー……この研究施設で俺達と遭遇した生体兵器と同じ兵器だったんですか?」

「い、いや、其処までは……サイコメトリーでは学者達が夢中でこの生物を生きた状態で飼育しながら観察していた事ぐらいしか読み取れなくて」

 ヒカルやハルキの問い掛けに、斉木は詳細な残留思念まで現場には残っていない故に詳しい事までは解らないと答える。

 するとヒカルやハルキ、更には共有感知で伝達されてきた残留思念を目撃して斉木に問い詰めていく新世代型たち。そんな場が騒然としている中、メタルバードが場の空気を和ませつつ問い詰められてた斉木と新世代型達の間に入っていく。

「ほいほい、其処までにしなさいな。斉木だって万能じゃないんだ。何より、こんな混然とした現状の中で詳細な残留思念が残っている方が稀ってモンだよ」

 メタルバードは混沌とした現状では残留思念が残りにくく、斉木の高感度のサイコメトリーでも詳細な事実までは把握できないと説いていく。

 だが、その代わりメタルバードがガラス管の中に納められている死骸と化している謎の生物について実に険しい面持ちで語った。

「それに斉木の能力を使わなくたってオレらにはコレが何なのか既に知っている。コイツは……前にもお前らに話した、あのDの主成分である未知の微生物だ」

『!!』

 このメタルバードの発言に新世代型だけでなく赤塚組までも愕然とした。

「ちょ、ちょっと待って! 確かにDは未知の微生物から構成されているって前にも聞きましたけど、でも此処のガラスケースに納められているのは微生物とは思えないほど大きな生き物ですよ! Dは微生物って言うのに、このサイズは可笑し過ぎます……!」

 メタルバードの話に疑問しか浮かばず半ば困惑する新世代型にして英語教師にして学内では情報処理部の顧問である松本頼子(まつもとよりこ)が反論する。

 すると松本頼子(まつもとよりこ)や他の皆々の疑問に対してメタルバードはその訳を語り始めた。

「確かにDは一種の微生物だ、それは間違いない。しかし近年の技術で発案された特殊な培養液の中で特別な飼育法でDを飼育し続ける事により、微生物であるDを此処まで巨大化させる事が可能なんだ。前にも言っただろ、Dはその凶暴性や意外にも高度な知能を持つ生命体ゆえに生体兵器としても時には乱用されてしまう事があるって。その生体兵器として利用する際に用いられる特殊な飼育法が、今みんなの目の前でガラス管の中にDの栄養源であり同時にDを急激に成長させ巨大化させる培養液の中で飼育される手法なんだ。此処のDたちは既に飼育を担当している学者達がいなくなった事で既に全部死んでしまっているが、おそらくは生体兵器または研究用として培養液の中で飼育されていたんだろう……ま、生きていたら生きていたで戦闘に繋がってはオレ達が追い詰められていたかもしれねェがな」

「お、おい。それって……もし巨大化したDと戦闘になったら、お前達でも負けちまうかもしれねェって事か?」

 メタルバードの発した台詞に険しい顔で訊ねる大将に、メタルバードは重たく険しい顔で真情を語った。

「ああ、下手をすればオレたち聖龍隊でも全滅に追い込まれる。Dはある種のエネルギーなら吸収して自身の栄養源にしちまう事も可能だし、何より修司の遺伝子から抽出されたDの一部には奴の闇の心(ダーク・ソウル)の効力まで受け継いじまってる個体も確認されているから、オレ達の特殊能力が無力化されちまう事も考えられるんだ」

「ま、マジかよ……聖龍隊でも勝ち目がないって……!」

 メタルバードの話を聞いて愕然となる赤塚組幹部のアツシ。だがそのアツシの言葉にメタルバードが話し返した。

「まあ、完全な成体に成長・容態していなけりゃオレ達でも十分に勝算はある。だが完全成体のΩに関しては、ただ巨大化した微生物というレベルじゃなく完全な恐竜なみに巨大かつ攻撃性の高い生命体だから苦戦は強いられるだろう……さすがに此処の研究室には完全成体のΩまでは飼育できていないみたいだがな」

 周囲に陳列されている幾つものガラスケースの中に納まっているDの死骸を見渡しながら、メタルバードは完全な成体のΩまではDを成長させる事ができなかったのであろうと認識する。

 そしてメタルバードの究極生命体Dの特殊な培養液飼育についての説明を聞いた新世代型達は、改めて周囲のガラスケースに納まっているDの死骸の数々に目を向けていく。

 培養液の中で飼育されていたDは全て小型犬なみの大きさまで巨大化しており、その異様な姿形は以前にメタルバードから聞いた通りだった。

 まず研究室で最も大きく全長10mは有ろうかと云う縦に配置されている筒状のガラスケースの底には死滅した多くのDの死骸が散乱していた。その散乱していたDの死骸の形状から、前にメタルバードから聞いたDの幼生である事がスグに分かった。話に聞いていた通り、Dの幼生は寄生虫エキノコックスに酷似している海老の幼生に近い生物で、二つの赤い眼が特徴的であった。その幼生が、培養液内での飼育によりザリガニ並に成長し巨大化していた。

 次に別のガラス管に目を通すと、其処には一体の生物の死骸がガラス管の底に沈んでいた。まるでカブトガニに形状が酷似しているその生物は、Dの幼生から一段階成長・容態したαであると識別できた。

 更にαの横に置かれているガラス管の底に沈んでいたのは、ダンゴ虫の様な甲殻に包まれた四本の細長い触腕に赤黒く変色した眼が三つに増えてたαの次の段階γの死骸であった。

 更にα、γに続いて横に並んでいたガラス管の中で不気味に水上に浮かび上がる死骸、γに肥大化した長い頭部が成長促進し、γ同様に目は赤黒く三つあった眼球が左右にそれぞれあり計六つの眼球が特徴のΖ。

 以上のDの生体の死骸が管理者がいなくなった研究室のガラス容器に納められたまま全て死滅していた。

 

 すると此処で、ジュピターキッドが研究室の机の上に置かれていたクリップボードに挟まれていた書類に気付き、その内容を読み上げようとした。

「ん、何々……小田原修司の遺伝子、通称D-遺伝子を用いた二次元人の生誕プロジェクトに付いて……ハッ!」

 その書類に書かれている事項の内容にジュピターキッドは激しく動揺し愕然とした。

 そしてジュピターキッドは慌ててクリップボードに挟まれていた書類を鷲掴みにしては、急ぎ己の懐にその書類を隠すかのように押し込んだ。

「? ジュピターキッドさん。何をそんなに慌てているんデスカ?」

「え! い、いや。何も慌てちゃいないよ、うんホント。何にもない、何にもない」

「??」

 様子の可笑しいジュピターキッドを察したアリス・カータレットからの問い掛けに、ジュピターキッドは慌てながらも上手く言い逃れる。だがそんなジュピターキッドの普通ではない様子にアリス・カータレットは首を捻って不思議に思うばかりであった。

 そんなアリス・カータレットを横目に、ジュピターキッドは上官でもあるメタルバードに急ぎ駆け寄り話し掛ける。

「メタルバード、ちょっと」

「ん、何か見つけたのかジュニア」

 小声で話し掛けるジュピターキッドにメタルバードが顔を向けると、ジュピターキッドはメタルバードの耳元で先ほど見付けた書類の内容に付いて内密に打ち明けた。

「! それは本当か、ジュニア」

「ああ、隅から隅まで一瞬で目を通したけど間違いない。あの計画についての書類だ」

 ジュピターキッドから書類の内容に付いて聞かされたメタルバードは激しく動揺し、ジュピターキッドに問い詰めた。

「……誰にも見られちゃいないよな」

「うん、今の所は。他の子達が発見する前に僕が見つけて、急いで懐に書類を仕舞い込んだから誰も気付いていない筈だ」

「そうか、それは良かった……まだ新世代型たちに知らせるのは酷だしな。今は兎にも角にもアノ事実は内密にしておかねェと」

「うん、分かってる。でもいつかは彼らにも事実を伝える積りなんだろう? 大丈夫なのかい? 事実を知って、彼等がショックを受けるのは間違いないだろうし……正直、道徳的にもどうかと思う事実だから知らせるのは伏せておいた方が良いんじゃないかと……」

「オレだってそれぐらい分かってる。しかし何時までも事実を隠し通せる訳はない、どんなに隠蔽しようと事実と云うものは必ず表側に浮き彫りになってしまうのは世の理だ。機を見て新世代型や他の二次元人や三次元人達にも公言しなければ……まぁ、その後がどうなるかが不安で一杯だがな」

「うん、そうだね……」

 メタルバードとジュピターキッドは周囲の皆々に聞かれない程度の声量で隠密に話を済ませた。

 

 と。皆がガラスの飼育容器に納められたDのそれぞれの成長容態の死骸に目を向けていた、その時。

「ねぇ! みんなコッチ!」と大きな声でキャサリン・ルースが皆を呼びかける。

 キャサリンの声に反応しジュピターキッドが彼女に駆け寄り、何があったのか訊ねる。

「どうしたんだい?」

「じゅ、ジュピターキッドさん。それがコッチの方に……」

 ジュピターキッドが訊ねるとキャサリンは何かに背筋を凍て付かせた様な蒼褪めた面差しで研究室の奥に続く入り口を指差した。

 キャサリンの様子から只事ではないと察したジュピターキッドは慎重に歩を進ませながら研究室の奥へと足を踏み入れる。その後にメタルバードたち聖龍HEADの面々も細心の注意を配りながら奥の間へと足を踏み入れていく。

 研究室の奥に足を踏み入れた聖龍HEADが其処で見たものは……先ほどの研究室同様に幾つものガラスケースが壁一面に配置されている光景であった。しかもその容器の中にはDとは全く違い人型の何かが納められてた。

 Dを飼育していた研究室の奥の間に並ぶ人型の何かが納められたガラスケースの数々に、聖龍HEADが目を凝らしながら中身の人型の何かを見定めようとしていると、後方からHEADに続けて入室してきた新世代型達や赤塚組らが辺りを見渡している時、新世代型の松原穂乃花(まつばらほのか)が入り口付近の壁に設置されていたスイッチに気付いた。

「アレ? これって何のスイッチなんだろう……」

 何のスイッチだか分からぬまま松原穂乃花(まつばらほのか)はスイッチを押した。

 すると皆が入室した奥の間の電灯が灯ったのだ。松原穂乃花(まつばらほのか)が押したスイッチは奥の間の電灯の電源を操作するスイッチだったようだ。

 そして皆は明るくなった奥の間の壁一面に配置されているガラスケースに再び目を向けると、総員愕然とした。

 陳列されたガラスケースの中には、先ほどの研究室に陳列されてたガラスケースに収納されてた小田原修司のクローンよりも完璧な、小田原修司のクローンが何体も並んでいた。

「こ、コイツは……!!」

 旧友である小田原修司の何体ものクローンを目の当たりにして衝撃を受ける大将。

 赤塚組や新世代型たちが衝撃的な光景に目を奪われている最中、メタルバードは小田原修司の精巧なクローンが納められているガラスケースの下の方に目を近づけ、其処に彫られている文章を読み解いた。

「試作品ナンバー11586-77、か……」

 ガラスケースの下に彫られた数字と文字を一見して、メタルバードは此処に陳列されているクローンは殆どが試作品として製造されたのだと認識する。

 そしてメタルバードの出した結論は、誰もが想像していなかった事実であった。

「間違いないな。此処はDの生態を調査する為の機関と、そして修司の完璧なクローンを造り出していた部署だったんだろう」

「な、何だって!」

 メタルバードの口から出た結論に驚愕する大将。

 此処の研究室および機関は、小田原修司の遺伝子からDを抽出してそれを培養し研究すると同時に精巧な修司のクローンを造り出そうと開発を進めていたクローン製造所だった。

 その場の一同がメタルバードの推測に衝撃を受ける中、クローンが幾つも展示されている奥の間の更に奥の方に3本ものガラス管があるのを燃堂力が気付く。

「な、なぁ。あそこにもガラスのケースが3本、並んでいるッスけど」

 皆、燃堂の言葉に顔を向けると確かに其処には3本ものガラスケース管が綺麗に横一列に並んでいるのが視界に入った。

 その3本の内、一番右側はガラスが大破しており、真ん中のガラス管はクローンはもちろん保存用の液体も綺麗に抜き取られ完全に空となっていた。そして一番左端のガラス管には他のクローンとは完全に異質な全身の筋肉が盛り上がった小田原修司のクローンが収納されたままだった。

「な、何だ今度は……ガラスが大破したのと、中身が空っぽの奴。それに他のクローンとは比にもならねェ程の筋肉野郎が納められてやがる……!」

 3本のガラス管を目の当たりにして、大破したもの、中身が空の、そして他のクローンとは比較する程もないほど筋肉質なクローンを前にジェイクが厳つい顔で3本のガラス管を見渡す。

 その3本のガラス管も近付いては念入りに調査しようとする聖龍HEAD。だがその時、調べようとしたHEADに一人の青年が声を掛けて来た。

「あの、ちょっと……」「ん、なんだい? 斉木」

 声を掛けて来た青年は例の超能力少年 斉木楠雄であった。声を掛けて来た斉木にメタルバードが問い返すと、斉木はHEADの人々に思わぬ事を言い出した。

「出すぎた真似だとは重々承知していますが……宜しかったら、僕の能力で更に詳細に調べられますけど手伝っても大丈夫でしょうか?」

 この斉木の提言にメタルバードは半ば驚きながら訊き返した。

「え、お前が自分から……一体どういった心境の変化なんだ? お前は自分の能力にかなりのコンプレックスがある筈だと思っていたんだが……」

 メタルバードの質問に、斉木は真剣な面差しでメタルバード達HEADに己の真情を話した。

「いえ。僕を含んだ大勢の新世代型やプロト世代の方々、そんな僕たちを必死になって護りながら先導してくれるあなた方聖龍隊の人たちに少なからず力になりたいと……そう思っただけです。それ以上に、僕達を無理やり連れてきた連中が此処で何を企んでいたのか知りたいという、言うなれば率直な好奇心で事実を知り得たいだけですよ」

 そう言うと、斉木は前に一歩二歩と出ると3本の内の真ん中の空のガラスケースに手を翳した。そう、例の薄い透明の手袋を外して。

「おい斉木。お前、その能力……サイコメトリーを使うのは、かなり辛いんじゃなかったのか? 対象によってはかなりの精神的ダメージを負うというのに」

 メタルバードは斉木が手で触れた対象物の残留思念を読み取るサイコメトリーを使用する事を直感的に把握し、斉木が最も忌み嫌ってる能力を使おうとしているのを口出した。

 すると斉木は微少ながらも拒絶感を表した面持ちでメタルバードに言った。

「大丈夫です……聖龍隊や赤塚組、それに同じ新世代型のみんながバケモノ相手に死闘を展開しているというのに自分だけ楽な思いはできませんので」

 皆が奮闘している中で、自分だけ楽な思いはできないと明かす斉木。だが彼の表情は若干、サイコメトリーで感じ入る残留思念に対する拒絶で険しく歪んでいた。

 そんな中、サイコメトリーを使用するのを若干躊躇う斉木の様子に気付いてか、彼の親友である念堂力が斉木に話し掛けてきた。

「な、なぁ……斉木」「……燃堂」

 不器用に話し掛けてきた燃堂の言葉に斉木は顔を振り向かせる。そして互いに顔を合わせた状態で燃堂は斉木に戸惑いながらも気遣いの言葉を掛けた。

「その……俺、詳しい事は良く分かんねェけど、嫌だなって思う事を無理やりやる必要はないんだから、余り無理すんじゃねェぞ」

 燃堂は新世代型二次元人同士の共有感知で周囲の新世代型の思考はもちろん斉木の能力まで頭に入っている筈なのだが、やはり彼個人の思考がついて行けず完全に斉木が超能力者である事までは把握できていなかった。それでも燃堂は斉木にも自分にとっても互いに数少ない友達だからこそ、斉木を気遣い無理強いしない事を進めてきたのだ。

 そんな燃堂の気遣いを心から察知した斉木は、自分を気遣ってくれる燃堂に話し返した。

「……ありがとう、燃堂。でも大丈夫」

 自分を気遣い労わってくれる燃堂の優しい素直な言葉に、斉木はその無表情な表情に薄らと笑みを浮かべて燃堂に礼の言葉を述べる。

 そして斉木は燃堂の気遣いを受けながら、遂にサイコメトリーで対象物であるガラス管の残留思念を読み取る決意を固めて念視を始めた。

「ウッ……」

 ガラス管に残っている残留思念が斉木の脳内に流れ込むのと同時に他の新世代型たちにも共有感知で同じ残留思念が流れ込んできた。

 斉木が読み取った3本の内の中央の空のガラス管から読み取った残留思念、それは……複数の白衣を纏った科学者と思われる人々と、黒紫の軍服を着込んだ体格の良い男性らしき人物がガラス管に納められていた左端のクローンに負けず劣らない筋肉質のクローンを移動用のガラス管に移し返して運んでいく風景であった。

 中央のガラス管から読み取った残留思念を読み取った斉木は、その並々ならぬ異常な光景に驚愕した。そして、その斉木が読み取った残留思念を共有感知で知り得た他の新世代型たちも何者が何ゆえ筋肉質に発達した小田原修司のクローンを運び出したのか疑問に思った。

 そんな斉木や新世代型たちの思考をテレパシーで感じ入ったメタルバードは、斉木に労いの言葉を掛けつつ礼を述べた。

「斉木、良くやった。オレには真似できないサイコメトリーのお陰で此処に収納されたクローン体が何処かに運び込まれたのが分かったよ」

「は、はい……」

 一方の斉木は、読み取った残留思念が余りにも衝撃的であった為、多少の動揺が見られた。

 そんな斉木が読み取ってくれた残留思念を元にメタルバードは現場検証がてら3本のガラスケースに記載されているラベルに目を通した。そして右端から順にケースに記載されてる文字を読み上げていった。

「試作品MELUS素体001-DX……試作品MELUS素体002-DX……そして試作品MELUS素体003-DX」

 右端から順に読み上げていったメタルバードは、ガラス管の中に納められていた修司のクローンが何らかの素体として造り出された事を安易に予測した。

「……何らかの実験、または生体兵器の素体として、この三体のクローンは造り出されたみたいだな」

「えッ、さ、三体?」

「そうだろ。収納するガラスケースが3本もある以上、合わせて3体のクローンが此処に納められていたって事になる。現に一番左端のは未だに納められているだろうが」

 メタルバードの発した3体のクローンの言葉に過敏に反応する大将に、メタルバードは真義を述べる。

 その一方で中央の空のガラスケースの残留思念を読み取った斉木は、次にその隣の一番右端のガラスが大破したケースに歩み寄りその残留思念も読み解こうとしていた。

「さ、斉木。無理しなくて良いんだぞ。お前が最も使用するのを躊躇っている能力ばかり使わせちゃ、聖龍隊の総長として申し訳立たねェ」

 最初に中央のガラス管の残留思念を読み解き、多少の精神的負担が罹っている斉木にメタルバードは無理強いさせまいと言葉を掛ける。

 しかし斉木はそれでも自分なりにこの場の状況を少しでも良くする為にも己の能力を酷使したいと述べ返す。

「い、いえ……まだ大丈夫です。何より、3本の内、1本に収納されてたクローンが何処かに持ち出されているのなら、他の2体はどうなったのか調べなければ……」

 斉木は精神的負担を抑え込みながら助勢していきたいとメタルバードに申し伝える。

 すると斉木を酷使するのを躊躇うメタルバードとは反対に、大将は斉木が歩み寄った大破したガラス管の状況を観察しながら言い付けた。

「斉木のあんちゃん。お前さんには、ちと悪いが……この破損したガラス管も、そのサイコメトリーって能力で調べてくんねぇか?」

「な、何を言うんだ大将! お前は特殊能力を使う者の負担を考えてやれねぇのか!」

 大将の発言にメタルバードが反論すると、大将は険しい面持ちで大破したガラス管の状態を説明し出した。

「いや、これは斉木のあんちゃんの能力で徹底的に調べた方が良いぜ。見ろよ、このガラス管。どう見ても内側から破壊して打ち破った痕跡がある。つまりは……」

 つまりガラス管の中に納められてたモノが自力でガラスを破壊して脱出した可能性があると大将は言いたかったのだ。

 大将の言い分を充分に理解するメタルバードや周囲の皆々。そして皆と同様に大将の悪い予感を察した斉木は覚悟を決めて大破したガラス管に触れた。

 すると再び斉木及び新世代型一同に残留思念が激流の如く流れ込んできた。それも今度は凄まじい衝撃を伴う残留思念であった。

「うっ……」「こ、琴浦さん! みんな、大丈夫?」

 余りの衝撃に頭を押さえ込みしゃがみ込んでしまう琴浦春香や新世代型の人々を心配して声を掛けるチョコ。

 そして斉木や新世代型たちの脳内に激しく流れ込んできたのは……ガラス管の内側で水の中から外の景色を呆然と眺める何者かの視点だった。だがある時、その者は研究室はもちろん誰の気配も感じなくなったのを見計らい、耐え忍んでいた想いを爆発させるかの如く激しくガラスを殴り付けていった。やがてガラスにヒビが入り、其処から次第にヒビが広がっていっては遂に内側から分厚いガラスの管を打ち破ったのである。内側から強烈な打撃で分厚いガラスを叩き割っては出て来られたその者は出た途端に激しい咳を何度かした後、荒い息遣いで数歩歩いては研究室のテーブルまで辿り着き、テーブルに両手を着いて一息入れた。だが、その両手の内、左手の方は黒く変色しており手の形もやや通常の人間の手とは異なっていた。

 以上の激しい残留思念を読み取った斉木楠雄、そして斉木から共有感知で同じく残留思念で読み取った光景を脳裏に焼き写した新世代型達は多大な衝撃を脳に直接受けて苦悶の心境で悶えていた。

「大丈夫か、お前等! まさか共有感知で斉木のあんちゃんだけでなく新世代型の連中までも此処まで影響が出ちまうとは……」

 斉木の能力を見込んで彼に能力の使用を推し進めた大将は、その斉木楠雄だけでなく他の新世代型達までにも共有感知で多大な影響が出るとは想定してなかった。

「琴浦さん、大丈夫? 真鍋さんも御舟さんも!」

「うぅ……ど、どうにか少しずつ落ち着いてきた……」

 頭を抱え込みしゃがみ込む琴浦春香たちを心配し気に留めるチョコの必死の問い掛けに、ようやく琴浦たちは落ち着きを取り戻しつつ平常に還っていった。

 そして斉木や新世代型達の思考を再びテレパスで読み解いたメタルバードが口を開いた。

「……やはり大将の悪い予感は的中しちまったみたいだな。この中に納められていた、おそらく修司のクローン。それが自力で脱出して今でも何処かでうろついているみたいだな」

「やっぱりか。なぁ、修司のクローンだから、俺やお前達の事を覚えていて、それで出会ったとしても攻撃してこねェなんて事はないかな」

 小田原修司のクローンゆえ、オリジナルの小田原修司とは知人の間柄である自分達には攻撃性を示さないのではないかとメタルバードに訊ねる大将。だがメタルバードは険しい顔色で答え返した。

「いや、それはどうかと……確かにクローンだから記憶も遺伝しているという認識はあるが、完全に記憶に遺伝してるとも言い難い。実際、過去に修司のクローンと何度か対峙した事があるんだが、その殆どが戦場に投下される兵士としての機能を最優先にしたタイプで記憶を欠落させられているから俺達までも敵と認識して戦い合った事も多々あったしな……無論、本物の修司の記憶を完全にコピーしているクローンも確認されたけどよ。ま、そのクローンは記憶が完全に一致していたから最初は自分を本物だと認識しちまっていたけどな」

「え! 自分を本物と認識してたって……そ、それじゃ、そのクローンは最後どうなったんですか?」

 自分を本物と思い込んでいたクローンの存在に衝撃を受ける鹿島ユノの質問に、メタルバードは悲しげな表情で事の顛末を語った。

「そのクローンは、実は手違いでクローンを製造する企業を潰すよう政府から指令を受けていた。全てのクローンを処分する使命を負ってしまったクローンは、最初自分もクローンであると判った時は戸惑ったが、修司の人一倍ある責任感をもコピーしていたクローンは見事その企業を潰し、著名な重要人物をクローンと入れ替える計画を阻止した。だが最後に残ったクローン、つまりは自分も処分しなければという責務の元、自ら頭に銃口を突き付けて引き金を引いたという……」

『…………………………』

 責任感の強い小田原修司のクローン故、クローンである自身も最終的には自らの手で処分したクローンの悲しくも切ない物語にその場の誰もが心を痛めた。

 一方で落ち着きを取り戻した斉木は最後の関門が待ち受けている事を認識し、それの前に移動した。

 最後の関門、それは筋肉質な体質が目立つ小田原修司のクローンが未だに納められているガラス管であった。斉木は、この異常なクローンが納められてるガラス管もサイコメトリーで残留思念を読み解こうと試みようとしていた。

 だが、そんな斉木の決心に対して先ほどから共有感知で激しい衝撃が脳内に伝わっては悶絶してきた新世代型の一人、薙切えりなが斉木を制止する。

「ちょ、ちょっと止めてよ! これ以上あなたが能力使ったら、関係ない私達までも巻き添えを喰らっちゃうじゃないのよ!」

 しかしこの薙切えりなの反論に斉木は落ち着いた無愛想な面持ちで言い返した。

「此処で止めたら3体のクローンがどういった経緯で造り出され、そしてガラスケースに納められたのか把握できない。何より君は自分達は関係ないと言っているけど、既に此処の研究施設に吊れて来られただけでなく、僕たちと同じ新世代型の二次元人といった意味では、もはや関係ないとは言い難いのが現実だよ」

「!」

 斉木から指摘を受けたえりなは、斉木に反感を抱きながらも何も言い返せなかった。

 そして斉木は改めて未だクローンが収納されているガラスケースに手を押し当て、残留思念を読み解き始めた。

 すると斉木や、斉木と共有感知で思考が繋がっている他の新世代型達の脳内に流れ込んできた残留思念は今までとは少し違った光景を映し出した。

 

 3体目を納めたガラス管の残留思念を読み解くと、其処には一人の男性らしき人物が脳内に映し出された。その背丈と格好から中央に納められてたクローンを何処かに移送する学者達と一緒に居た黒紫の軍服を着込んだ男性らしき人物だと把握する。その人物は単身一人で筋肉質のクローンを収納しているガラス管に接続している機械を弄り、ガラス管内のクローンの頭上からは管内から伸びてきている管がクローンの頭部に吸盤で張り付いては人物が操作している機械と連動している様であった。詳細な事柄までは把握できないものの、斉木はこの謎の人物が何らかの装置を使って眼前のクローンに何らかの電気信号を送っているのだと推測する。

 先ほどとは打って変わって余り衝撃が走ってこなかった残留思念。しかし残留思念で垣間見た黒紫色の軍服を纏った人物が、この研究機関に深く関与している事だけは判明した。そしてその人物が3体目のクローンに何らかの処置を施した事も把握する新世代型たち。

 すると此処で再度、新世代型達の思考を自身のテレパシーで読み解いたメタルバードがサイコメトリーを使用した斉木に声を掛けた。

「斉木、良く此処までの情報を引き出してくれたな。だが2体目のクローンを持ち出した時と、3体目のクローンに何かした軍服の顔までは判らないか?」

 メタルバードは斉木に此処の研究機関に深く関与しているであろう黒紫の軍服の人物像について詳細を求める。だが斉木は申し訳なさそうにメタルバードに言い返した。

「済みません、顔立ちまで読み取れるほどの残留思念が残ってなくて……判り得たのは、3体の内1体は何処かに持ち出され、もう1体は信じられない事に自力でガラス容器から脱出した事。そして最後に3体目に例の軍服姿の人物が何らかの処置を施した事しか読み取れなくて」

「いや。其処まで読み取れれば大したモンだ。自分が最も気に入らない能力で詳細な分析を自ら率先して行うとは……見直したぜ、斉木」

 自身が最も毛嫌いしているサイコメトリーを用いて情報を入手した斎木楠雄を称賛しまくるメタルバード。

 と。メタルバードが斉木を称賛している最中、その称賛されている真っ只中の斉木と琴浦春香が持前のテレパシー能力で何かの存在の強い意思を感じ取った。

「!」「! これは……」

 何かの強い意思を感じた斉木と琴浦は、その脳に針が刺さる様な敏感なまでの感覚に違和感を覚える。

 すると斉木を称賛していたメタルバードも、同じくテレパシーで二人が感じ取った強い意思を察する。

 3人は強い意思の出所を持前のテレパシーで探ってみると、何と今さっき斉木がサイコメトリーで調べたばかりの小田原修司のクローンからであった。

 このクローンから感じられる強い意志は斉木と琴浦を通じて、新世代型二次元人全員に伝わった。

「な、何事だ! この頭が痺れるほどの強い意思は……!」

 頭に伝達する痺れを感じるほどの強い意思に激しく戸惑う猿田学。

 皆が3本のガラス管に唯一残っているクローンから発せられる強い意思に困惑する中、その意思を詳細に調べようと斉木は再びクローンが収納されているガラス管に手を押し当て、サイコメトリーだけでなくテレパシーも駆使してはクローンに起きている事態を調査し始めた。

 ガラスに手を押し当てクローンをサイコメトリーとテレパシーの両方で調べ始めた斉木は驚きの情報が脳内に流れ込んだ。

 それはガラス管内部の上部から微弱な電流が放出され、その電流によってクローンの意識が目覚めようとしていたのだった。

 しかもそれと同時にクローンを納めているガラス管内の保存液が徐々に抜き取られ始めていた。

「こ、このクローン……意識がある! それも今にも活性化しかかっている!」

 クローンの意識が目覚めかけている事態に動揺し驚愕する斎木楠雄と、彼から共有感知でその詳細を知り得た新世代型達は激しく困惑した。

 と、その時だった。メタルバードがクローンや周囲の皆とは全く違う何者かの視線を感じた。それはテレパシーなどの超常的な能力などではなく、度重なる戦歴から連なる経験から自然と得た正真正銘の第六感的な感覚だった。

 メタルバードは何者かの視線を感じ取った方向に顔を向けると、視線の先には天井の隅に設置された監視カメラが怪しく作動していた。

(ッ! あの、ぬぺぬぺが言ってた通り……何者かが意図的に俺達を追い込む為、遠隔操作で目の前のクローンの活動を促しているのか!)

 先ほどから薄々と察しており、そしてあのぬぺぬぺより申し渡された何者かが意図的に自分達を追い込んでいるという情報を入手していたメタルバードは、監視カメラ越しに此方の様子を窺いながら遠隔操作で保存されてたクローンに電流を放出してその意識を目覚めさせようと目論んでいるのを察した。

 そうこうしている内に、ガラス管内の保存液は減っていき、クローンの腰の辺りまで水位が下がった、その時だった。

「う、うわ!」

 何とクローンの瞼が突然開いたと思った瞬間、そのクローンが内側から右拳でガラスを殴り付け、その衝撃でガラスにひびが入ったのだ。

 目を覚ましたクローン、そしてそのクローンが内側からガラスを打ち破ろうと何度も殴り付けて行き、ガラスのひびは益々広がっていくのだった。

 

 そして誰もが恐れていた事が。

「うわぁ!!」

 遂にクローンがガラスを打ち破り、外に飛び出した。

 外に出たクローンは、その小田原修司の顔立ちに近い風貌で厳つい眼光を一行に向けると、姿勢までも一行に向けて敢然と立ち尽くす。

 皆が皆、外に出てきたクローンに脅え警戒する中、何とクローンは皆の見ている前でみるみる内に己の筋肉を膨張させ、更に肥大化した巨大な体格へと変貌を遂げた。

『い、いやあああぁああ……!』

 研究施設に恐怖に満ちた絶叫が鳴り響く。だが恐怖の対象である肥大化したクローンは待ってはくれない。

 筋肉を更に膨張させ5mもの巨体に変貌したクローンは、荒い呼吸を吐息しつつ眼前の聖龍隊や赤塚組、そして彼らに警護されている新世代型たちに敵意をむき出しにしてきた。

「セェェリュゥゥゥタァァアァァイ……」

 敵愾心剥き出しの凶暴性を晒して、クローンは聖龍隊の名を唸り声の如く叫び上げるのであった。

 

 

 

[死闘! 小田原修司のクローンとの攻防]

 

『うわあぁぁっ!!』

 突如として目覚め、そしてガラス容器から飛び出てきては己の筋肉を極限まで膨張させて5mまでも巨大化した小田原修司のクローン。

 そのクローンの突然の暴走に脅え、思わず奥の間から一斉に逃げ出す新世代型たち。

 だが一部の新世代型。特殊な結界術に己の血を結晶化させて戦える名瀬兄妹に栗山未来。そして片太刀バサミを手に臨戦態勢を構える纏流子にその隣には縛斬を手にクローンと対峙する鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)、以下本能字学園生徒会四天王の4名。そして施設内で入手した最新式の小銃を脅えながらも震える手で身構える朱鷺戸沙耶(ときどさや)

 そして彼ら戦闘が可能な新世代型同様に巨大化したクローンを前に逃げずに居る聖龍隊一同と赤塚組幹部衆、そして呪われし血を受け継いだジェイクも巨大なクローンを前に応戦する覚悟を決めていた。

「ウオオオオオォォオオ……!」

 空気をも唸らせる程の雄叫びを上げ、己の威圧感を主張しているかのようなクローン。

 そのクローンも雄叫びを上げると遂に眼前で対峙する面々を見下ろしつつ、圧倒的な己の力を振るおうと真っ赤な眼光を鋭く向けるのだった。

 そしてその場の一同が筋肉の塊同然のクローンと激しい睨み合いを続けていると、最初に行動に移ったのはクローンの方であった。

 クローンは巨大な岩石ほどもある拳で眼前の一同に向けてハンマーの如く振り翳し、一気に振り下ろした。

 皆は一斉に避けるものの、クローンの拳が直撃した床は激しく損傷し見事なまでに陥没してしまってた。

 するとクローンは次に無造作に周囲を所構わず拳を振り回しては対峙していた者達に猛威を振るいつつ先ほどまで自分が納められたガラスケースを含む3本のガラス収納機までも破壊し尽くしながら手当たり次第に破壊して行った。

「此処じゃ馬鹿でかいアイツの影響で狭すぎる! 一旦この部屋から出て体制を立て直すぞ!」

 狭い奥の間での戦闘は不利と悟ったメタルバードは即決で奥の間からの撤退を宣言する。

 そして対峙していた者が皆、奥の間から出ようと唯一の出入口から抜け出ようと続々と入口を抜け出ていると、その隙にクローンが奥の間から退こうとしていた内の一人、朱鷺戸沙耶(ときどさや)を右手で捕まえてしまった。

「きゃあっ」「さ、沙耶!」

 上から鷲掴みするかの如く意図も簡単に朱鷺戸沙耶(ときどさや)を捕まえてしまうクローン。沙耶は悲鳴を上げ、それを見上げたメタルバードは彼女の名を叫ぶ。

 クローンに捕まってしまった沙耶は自力で抜け出そうと試みるが、筋力が異常発達したクローンの右手を並の少女が振り解く事は不可能であり、それどころかクローンは掴んでいる沙耶の手に力を入れ始め彼女を握り潰そうとしていた。

「ぐッ……!」

 首から下にかけての全身に走る強烈な激痛に悶絶する朱鷺戸沙耶(ときどさや)

「クソッ、放しやがれバケモノ!」

 と、握り潰されそうになる朱鷺戸沙耶(ときどさや)を見兼ねてジェイクが沙耶を握り締めているクローンの太くて逞しい剛腕に銃弾を放つ。

 しかしジェイクの発射した弾丸はクローンの逞しい剛腕に着弾し、肉に減り込むのだが朱鷺戸沙耶(ときどさや)を手放すほどまで効力はなかった。

 その最中もクローンの剛腕と強靭な握力で握り潰されそうになる朱鷺戸沙耶(ときどさや)。あともう少しで彼女の肋骨が砕け、内臓が破裂する寸前。の、時であった。

「やぁ!」

 朱鷺戸沙耶(ときどさや)を救うべく、キューティーハニーが咄嗟に自身の武器であるシルバーフルーレを沙耶を握り締めるクローンの手首に向けて投げ飛ばし、投げ飛ばされた鋭いフルーレはクローンの手首を貫通し激痛を伴った。

「ウアアアッ!」

 余りの激痛に思わず右手を緩めたクローンの手から、握り締められてた朱鷺戸沙耶(ときどさや)が解放され床へと落下していく。

 だが沙耶が床に落下する寸前、聖龍隊の総部隊長フロートが間一髪の所で沙耶を受け止める。

「ふぅ、大丈夫かい。お嬢ちゃん」

 小粋な兄貴風を吹かせつつ朱鷺戸沙耶(ときどさや)を受け止めたフロートは彼女を優しく床へ降ろす。

 そしてフロートに導かれ、共に奥の間からの撤退していく聖龍隊と赤塚組。

 一方でキューティーハニーにシルバーフルーレで右手首を貫かれたクローンは怒りに満ちた表情で貫通したフルーレを左手で抜き取り、フルーレを投げ飛ばした張本人キューティーハニーに怒りの矛先を向けてはフルーレを投げ返した。

 これにキューティーハニーも死角からの殺気を感じ、咄嗟の判断力と俊敏力で顔に直撃しそうになるフルーレをかわす。そして直撃しなかったフルーレは壁に突き刺さった。

 直撃を免れたキューティーハニーは何事も無かったかのように壁に突き刺さったフルーレを手に取り、そしてフルーレを投げ返したクローンに向けて愛らしい顔で言葉を投げた。

「返してくれて、ありがと」

 そう愛らしく言い残したキューティーハニーは他の面々と同じく奥の間から出て行った。

 

 その頃、奥の間と繋がっていたDの培養飼育と小田原修司のクローン保存部署に一行が総動員で退避していた。

 突然ガラスを打ち破り出てきては己の筋力を倍増させて猛威を振るってきた小田原修司のクローンに対して多大な動揺を覚えていた新世代型たちであったが、此処でようやく落ち着きを取り戻しつつあった。

「ふぅ、此処まで退散すれば後はどうにか成るでしょう。あの出入口です、5mもののクローンは通り抜けられませんし……」

 と、退避していた新世代型の一人、堂島銀が出入口の小ささからクローンは出て来られないだろうと語っている最中「グオオオオォォ……!」

 何とその5m級のクローンが3mほどの出入口を打ち破って強引に部屋から脱出する。

「は、ははは……入口、関係なかったッスね……」

 入口を打ち破り強引に奥の間から出てきたクローンを目の当たりにして涙目で呆然としてしまう真鍋義久。

 そして強引に出入口を打ち破り破壊して出てきたクローンは、その巨体を晒しながら自分の周りにあるDの培養飼育機などを手当たり次第に掴んでは前方の一行に向けて投げ飛ばしてきた。

「ウオオオッ」「は、離れろッ」

 雄叫びを上げながら物を投げ飛ばしてくるクローンの攻撃に対してメタルバードは周囲の一同に離れるよう指示を告げては皆後退した壁から離れ、クローンが投げ飛ばした物は悉く壁に激突し幸いな事に何一つ人には直撃しなかった。

 しかしクローンの猛攻は途絶える事無く、今度は直線上の飼育容器やクローン保存機を薙ぎ倒しながら一直線に突進してきた。

「避けろッ!」

 周辺の物を全て薙ぎ倒し破壊しながら突進してくるクローンの体当たりにメタルバードは一同に再び回避するよう呼び掛ける。

 メタルバードの咄嗟の指示と皆の速やかな退避でクローンの突進は誰にも当たらず、代わりにクローンは壁へと激突する。

 クローンが突っ込んだ壁はひび割れ、酷く減り込んでいるものの当のクローンは全く痛みと云うものを感じていない様子で再びクローン保存とDの培養飼育を両立していた研究室に散乱する皆々へ猛威を振るっていく。

「ウオオオオオォォ……」

 空気中に震動するほどの凄まじい雄叫びを上げ、更に興奮した様子で周辺の人々へ無差別に体当たりを仕掛けていくクローン。その突進を必死になって避け続ける皆々。

 突進による体当たりをかわされたクローンの巨体は、手当たり次第に研究室に配置されていた機材や他のクローン保管機、そしてDの培養飼育機までも大破させていき研究室は荒れ放題と化していった。

 そんなクローンの猛進による荒れ果てた惨状を前にしながら、メタルバードは冷静にテレパシーでクローンの凄まじく強い意思を読み解こうとしていた。

 メタルバードがクローンの意思を読み取ってみると、トンでもない事が判明した。

「な、なんて事だ!」

「なんて事って、一体なにがどうしたって言うんだバーンズ」

 クローンの意思を読み取って驚愕するメタルバードの様子に大将が問い詰めると、メタルバードは自身が読み取ったクローンの意思いや目的思考について話し始めた。

「あのクローン、どうやら自分が倒すべき標的として俺たち聖龍隊を狙っているみたいだ! しかも半ば興奮しているから聖龍隊以外の人間に対しても攻撃性を示しちまっている!!」

「って、オイオイ! なんでお前ら聖龍隊を標的にしちまっているんだ、あのクローン? なんで会ったばっかしのお前等を敵視しちまっているんだよ!」

「多分……さっき斉木が読み取った残留思念に出てきた軍服の男が何か仕掛けたんだろう。おそらく軍服の男が何らかの特別な装置でこのクローンに己の標的対象として聖龍隊だと潜在意識に植え付けられたんだ。斉木が読み取った残留思念は、その時の状景だったんだ。それが監視カメラでオレ達を見ている何者かの遠隔操作で微弱な電流で目覚めては標的として暗示されたオレたち聖龍隊を敵視して暴れ出したんだ! 大変だぞ。あのクローン、目覚めたばっかりなのか自棄に暴走していて聖龍隊じゃない新世代型の連中にまで襲い掛かっていやがる!!」

「クソッ、何とかしてあのデカブツを止めねェと!」

 メタルバードからクローンが自分たち聖龍隊を狙うよう暗示を植え付けられ、更に監視カメラで此方を見ている何者かによって遠隔操作で目覚めさせられては、目覚めたばかりで暴走してしまい聖龍隊とは無関係の新世代型までにも猛威を振るってしまってると聞いた大将は、急いで暴れ回るクローンを阻止しようと行動に移った。

 しかし猛威を振るうクローンの暴走に脅える新世代型達はDの培養飼育機や他のクローン保存管の間を抜けながら、必死に暴れ狂うクローンから逃れようと走り続けていた。

「きゃあっ」「うわあっ」

「ウオオオオオッ」

 様々な障害物の間を駆け抜けて逃げ惑う薙切えりなと満艦飾マコ、その二人を巨体で広大な肩幅で周辺の障害物を根こそぎ薙ぎ倒し破壊しながら追い掛け回すクローン。そんな二人の少女を追い回す巨大なクローンの前に鮮血と純潔を着込んだ臨戦態勢の纏流子と鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)が立ちはだかる。

「もうヤメロ! このデカブツ野郎!!」

「哀れにも破壊の為だけに生み出された小田原修司のクローンよ。この鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)が直々に冥府へと送り帰して進ぜようぞ!」

 流子も皐月も巨大化した小田原修司のクローンに真っ向から対峙する気満々であった。

 だが巨大クローンは、そんな二人に対して鬼気迫る厳つい顔付きで真っ向から突進してきた。

「このッ」「はぁッ」

 流子と皐月はこの突進を跳躍で回避し、それと同時に突進してくる巨大クローンの胸部にそれぞれ一太刀傷を付け、×の傷を一瞬の内に付けた。

「グオオッ」

 二人に胸部を深く傷付けられた巨大クローンは痛覚による雄叫びを上げる。

 一方で巨大クローンの胸部に二人同時に深手を負わせた流子と皐月は床に着地し、痛みに悶える巨大クローンの方を振り向いた。

「ヘッ、ざまあねェな!」

「フッ、図体だけがでかくて知性の欠片もない」

 流子も皐月も、双方共に巨大クローンに深い傷を負わせては鼻で笑った。

 だが深手を負わせた巨大クローンに顔を向けていた双方の目に衝撃的な現象が飛び込んできた。

「なッ、何!?」「! な、何と……!」

 流子と皐月の目に飛び込んできたのは、色白の胸部の肌にくっきりと追わせた×印の傷が少量の血を流しただけで徐々に傷口が塞がっていったのだ。

「な、何て回復力だ……!」

 途轍もない巨大クローンの回復力に目を疑いつつも驚愕する皐月。

 そして二人に傷を付けられた巨大クローンの方は傷口が塞がった瞬間、両名を睨み付けては激しい敵意をむき出しにして再び突進してきた。

「ウオオオオオッ!」

「き、来やがった!」「かわせッ、纏流子!」

 猛進してくる巨大クローンに流子は皐月の発言を聞いた瞬間に横に逸れ、皐月は流子とは反対の方へと身を逸らして突進を回避する。

 すると此処で鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)に厚い忠誠を誓う本能字学園生徒会の4人が駆け付け、助勢に加わってきた。

「皐月ちゃん!」「皐月様、俺達も手を貸します!」

「このデカブツ! 返り討ちにしてくれるぞ!」

「突進したりと単調な動きしかしない只の鬼神の複製……安易に行動パターンが予測できるな」

 いきり立つ生徒会の蛇崩乃音(じゃくずれののん)/猿投山渦(さなげやまうず)/蟇郡苛(がまごおりいら)/犬牟田宝火(いぬむたほうか)らの言動に反応し、巨大クローンは4人にも敵意を向け出した。

 そんな4人の意向を汲み取った皐月は、4人に一斉攻撃を命じた。

「総員! この小田原修司のクローンを総力を挙げて倒すぞ! これ以上、好き勝手な横暴は許すな!」

『はい!』

 鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)の命令に4名は力強く同意を返すと、即座に行動に移った。

 4人ともそれぞれが役割分担を行っては巨大クローンを翻弄させつつ、皐月や流子共々クローンへ攻撃を仕掛けていく。

 だが総勢6名もの攻撃や翻弄の中でも巨大クローンは長い間保存液に浸っていた為、ふやけた色白の体に負った損傷を瞬時に再生させて一向にダメージが蓄積する様子が見られなかった。

「クソッ、どんなに傷を付けてもスグに消えちまう!」

「どうにか成んない訳!?」

 幾度も攻撃を浴びせても瞬時に傷が再生してしまう巨大クローンを前に、猛攻していく蟇郡苛(がまごおりいら)蛇崩乃音(じゃくずれののん)は苦戦を強いられていた。

 すると其処に今度は栗山未来や名瀬兄妹の3名が駆け付け、しかも栗山未来が真っ先に駆け寄っていったのが何故か蟇郡苛(がまごおりいら)であった。

「済みません! ちょっとお体お借りします!」「え?」

 蟇郡苛(がまごおりいら)に駆け寄りながら声を掛ける未来に対して、声を掛けられた蟇郡苛(がまごおりいら)は何が何だか理解し切れない現状であった。

 そして蟇郡苛(がまごおりいら)に駆け寄った栗山未来は、そのまま蟇郡苛(がまごおりいら)の背中から肩にかけて足を踏み付けて、蟇郡苛(がまごおりいら)の背中を一瞬の内に駆け登り、そして一気に跳び上がり巨大クローンの頭部目掛けて己の血を結晶化させた刃を振り付けた。

「えいっ」

 未来の一太刀は巨大クローンの額に深い傷を負わせ、巨大クローンは思わず額を押さえ込み怯んでしまう。

 そして見事クローンに傷を負わせた未来は床へと着地し、再び巨大クローンに正面を向けて対峙する。

 だが栗山未来に額に傷を負わせられた巨大クローンが、傷を負った額から手を離すと未来によって付けられた傷がみるみる内に消滅し再び元通りになってしまった。

「あのクローン、再生力が半端なく強いな」

「ええ、そうね。栗山さんの能力や、あの流子や皐月それに配下の4人組らの人達の攻撃はもちろん私たちの術でも対抗できるかどうか……」

 桁違いの再生能力を秘めた巨大クローンに表情を険しくさせる名瀬博臣。そして栗山未来に纏流子や鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)にその配下である4人の蛇崩乃音(じゃくずれののん)/蟇郡苛(がまごおりいら)/猿投山渦(さなげやまうず)/犬牟田宝火(いぬむたほうか)らに自分たち兄妹が加勢しても巨大クローンに対抗できるか一抹の不安を感じる妹の名瀬美月。

 

 一方その頃、纏流子や鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)、そしてその配下である蛇崩乃音(じゃくずれののん)/蟇郡苛(がまごおりいら)/猿投山渦(さなげやまうず)/犬牟田宝火(いぬむたほうか)に栗山未来、名瀬兄妹が小田原修司の巨大クローンを取り囲み、どうにか攻防を展開しているのを纏流子の親友である満艦飾マコや栗山未来とは良縁の神原秋人ら他の新世代型達が不安な心境で見守っていた。

 そんな一抹の不安の中で見守っている最中、満艦飾マコは何かグニュっと軟らかい物を足で踏み付けた感触を覚える。

 恐る恐る自分の足元に目を向けてみると、其処には暴走した巨大クローンによって破壊されたクローン保存機から零れ出てしまった通常サイズの小田原修司のクローンをマコは踏み付けてしまってた。

「ヒっ!」

 色白いふやけた肉質と肌色のクローンを踏んでしまい背筋に寒気を感じるほどの悪寒を覚えるマコは、慌てて踏んでしまってたクローンから足を離す。

 そして足元に転がるクローンから少しばかし離れようとマコが足を歩ませようとした、次の瞬間。

「!」マコの足に何かが力強く掴む感触が走った。

 マコは恐怖に支配されつつある理性を堪えつつ、ゆっくりと視線を掴まれた足元に向けていく。

 そしてマコの視線の先に映ったのは……先ほどマコが誤って踏み付けてしまったクローンの手が、マコの足を強く掴み掛かっていた情景であった。

 しかもマコの足を掴むクローンは不気味に唸り声を発しながら、マコの顔を見上げていた。

「ウウゥ……」「ッ……きゃああぁっ!!」

 自分の足を掴み掛かる色白の不気味な風貌のクローンに驚き叫ぶマコ。まさか大破したガラス管から零れ出たクローンが生きていたこと事態、予想だにしていなかった。

「ま、マコ!?」「!」

 突然響き渡る満艦飾マコの悲鳴に反応する親友の纏流子に鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)。そして二人に続いてマコの悲鳴と彼女の足に一体のクローンがしがみ付いている現状を目撃して愕然となる他の面々。

 満艦飾マコの近場にいた他の新世代型達も、マコにしがみ付いては徐々に彼女の体に這い上がっていくクローンを前にしながらも、驚きと動揺で戸惑うばかりで何もできなかった。

 そんな最中もクローンはマコの体を這いずり上がり、彼女の顔元まで保存液でふやけた顔を近付けつつあった。

「マコ!」

 親友の危機に助けに向かおうとする纏流子であったが、マコの許に駆け付けようとする流子の目前に巨大クローンが拳を振り下ろし、彼女の行く手を遮る。

「クッ……!」

(流子、此処はマコを助ける前に、このデカブツをどうにかしねェと……!)

 行く手を遮られ苦汁の表情を浮かべる流子に対し、彼女が着込んでる神衣の鮮血はマコを救出する前に巨大クローンをどうにかしなければ助けに向かえないと流子に告げる。

 流子が巨大クローンに行く手を遮られている最中も、一体の標準サイズのクローンはマコの体を這い上がり、それどころか徐にマコの首に手を掛けようとしていた。

 新世代型達は同じ新世代同士としてマコを助けに向かいたいものの、目の前で暴れ狂う巨大クローンによる恐怖と突然動き出した標準サイズのクローンによる恐怖と、二重の恐怖心が重なり思う様に身動きができずにいたのだ。

 そして遂にマコの首にクローンの手が圧し掛かり、マコの首を絞め始めた。

「ぐぅ……っ」

 首を締められ悶えるマコ。だがマコが苦悶の状況に陥っているその時。

 一発の銃声が辺りに響いたと思われた瞬間、マコの首を絞めていたクローンの頭部が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 頭部を粉砕されたクローンは力尽き、自然とマコの体から離れては床に落下した。

 目の前で突然自分の首を絞めてきたクローンの頭部が吹き飛ばされ、呆然とするマコに一人の女性が声をかけてきた。

「あなた、大丈夫だった」

「え! ひょっとして、今のは貴女が……!」

 マコに声を掛けて来たのは、正真正銘マコの窮地を救うべく彼女の首に手を掛けたクローンの頭部を得物であるミラージュ・ガンで吹き飛ばした聖龍隊総部隊長のミラールであった。

 ミラールは呆然と立ち尽くすマコの手を引っ張り、他の新世代型たちに呼び掛けた。

「さあ、あなた達は早くこの場から逃げるのよ! 巨大化したクローンは私達が何とかするわ!」

 ミラールはマコを始めとする戦闘に参加していない新世代型たちを誘導して、散乱する戦場と化した研究室から離脱させようと行動していた。

 だがミラールが新世代型たちを誘導しようとしたその矢先の事だった。

「きゃあっ! あ、あれ……!」

 突然悲鳴を上げては研究室の一角を指差す水戸郁美。皆が彼女が震える指先で指す方に目を向けると、その視線の先では異常事態が起こっていた。

 なんと先ほどマコにしがみ付き、ミラールによって頭部を銃で吹き飛ばされたクローン同様に、保存用のガラス管に納められていたものの巨大クローンの暴走で大破したガラス管から零れ出た何体もの標準サイズのクローンが微弱ながらも動き出していたのだ。

「ウゥ……」「アァ……」

 微弱な唸り声を発しながら、弱々しい動きで立ち上がろうとする小田原修司のクローンの群れを目の当たりにして、ミラールは仲間の聖龍隊や同盟関係の赤塚組に言い放った。

「みんな気をつけて! まだクローンの生体機能が活動してる! 何を仕出かすか分からないわよッ」

 大破したガラス管に納められてたクローン全てが未だに生体機能を維持しており、目を覚ましたクローン達が何をするか分からないので気を付ける様にと周囲の皆々に言い放つミラール。

 だが、ミラールが言い放ってる最中もクローン達は暴走する巨大クローンの雄叫びや活発に動き回る地響きで目を覚ましていっては活動を開始していく。

「みんなコッチよ! 一先ず戦えない人達は研究室から出るのよっ、早く!」

 巨大クローンとの戦前に飛び出ては同時に新世代型たちに研究室からの脱出を呼び掛けるミラール配下の葉月いずな。

 だが、いずなが戦前に出て巨大クローンと応戦を開始しようと移ろうとしたその時、目覚めて床上を這いずるクローンがいずなの足首を力強く掴んでは放さなくなった。

「くッ、邪魔なんだよ。修司のクローン風情が!」

 前総長小田原修司のクローン如きに戦闘の邪魔をされて堪るかと、いずなは自身が操るくだ狐を召還して自分の足に掴み掛かるクローンへ攻撃を差し向けた。

「行け、くだ狐! たかがクローン如きが、このいずな様を止められると思ってんじゃないわよ!!」

 威勢よく、くだ狐に命じたいずなの命令に従い、くだ狐は群れを成していずなの足に掴み掛かるクローンに一斉に突進し、その色白の体に無数の風穴を開けて息の根を止める。

 一方のいずなは、くだ狐を自身の所持する管に戻すと息絶えても未だに足に掴み掛かるクローンの腕を嫌がり、足を振って強引にクローンの手を振り解く。

「くッ、力だけは本物同様に強いんだから……」

 いずなはクローンの手を足を振って振り解くと、その後に残った赤い手の痕を見て改めてクローンが本物の小田原修司同様に強力である事を把握する。

 一方別の方でも、活動を開始したクローンが非力な新世代型たちに魔の手を伸ばしていた。

「うわあ! だ、誰か! 助けてくれぇッ」

 目覚めたクローンに背後からしがみ付かれ身動きが取れなくなってしまった新世代型の氷室聖(ひむろひじり)。聖にしがみ付くクローンは更に腕の力を強め、聖の骨は次第に軋んでいった。

「くぅ……!」

 強靭な力で背中を絞り上げられていき聖は背面にかけて激痛が体中に走った。

 そんな絶体絶命の聖を救ったのは、聖龍隊士の金剛番長であった。

「ふんッ」

 己の剛腕で意図も容易く聖の背中を羽交い絞めをしていたクローンを引き剥がし、軽々と遠くへ放り投げる金剛番長。金剛によって投げ飛ばされたクローンは運悪く巨大クローンに踏み付けられて息絶えた。

 そして金剛番長の手で救われた聖を、金剛は起き上がらせては速急にその場から離れる様、聖に言い伝える。

「早く此処から離れろ。命が惜しければ……」

「あ、ああ……ありがとうございます」

 聖は厳つい顔立ちと風貌の金剛番長に戸惑いながらも礼を述べては、急ぎその場から離れていった。

 しかし目覚めた標準サイズのクローン達の脅威は他の新世代型たちにも降り懸かっていた。

「きゃあっ!」

 一体のクローンに背後からポニーテールを掴まれ、捕まっては悲鳴を上げる棗鈴。そんな棗鈴の窮地を救ったのは他でもない聖龍HEADのセーラーマーズだった。

「女の子の髪の毛なんか掴むんじゃないわよ!」

 男勝りの口調で棗鈴のポニーテールを掴んでたクローンを強引に鈴の髪の毛から引き離すと、マーズはクローンを蹴り飛ばし壁際に激突させる。

「さっ、早く逃げて!」「は、はい」

 マーズは棗鈴を逃がすと速攻で蹴り飛ばし壁際に寄り掛かるクローンに向けて灼熱の炎を放射した。

 紅蓮の炎に包まれたクローンは足をバタつかせながら炎の中でもがき苦しみながら果てていった。

 一方で聖龍隊同様に新世代型たちに襲い掛かるクローンを引き離しつつ、巨大クローンと応戦を試みようとしていた赤塚組であったが、その頭である大将が新世代型たちに襲い掛かるクローンへの攻撃を躊躇ってしまってた。

「くッ、いくらクローンとはいえ修司と瓜二つの奴を撃つのは気が進まねェぜ」

 いくら複製とはいえ旧友の小田原修司のクローンへの発砲を躊躇してしまう大将。だがそんな大将に新世代型の蓮城寺べるの髪の毛を掴んでは放さないでいるクローンを引き剥がし、クローンに止めを刺して対処していくセーラーネプチューンが声を掛ける。

「大将くん! こいつ等はあくまで修司君の遺伝子から複製されたクローン! 何の躊躇いも必要ないわ。それどころか急いで対処しないと新世代型の人々に危害が及ぶわ!」

 このネプチューンの助言を聞き、大将は覚悟を決めて旧友のクローンへ発砲を開始する。

「ウオオオオオオオオ……!」

 一方の巨大クローンも絶えず暴れまわり、周辺の物体を破壊しながら自分と対峙する流子や皐月、未来たちに後から遅れて加勢しに来た聖龍隊と赤塚組と真っ向から激突していた。

 巨大な拳が柱ほどの剛腕で振り下ろされ、それを間一髪の所でかわすシルバー・クロウにブラック・ロータス。

 更に巨大クローンは拳で殴り付けるに飽き足らず、今度は巨大な足を高々と上げては床上の面々を踏み付けようと仕出かしてきた。

「アスナ、避けろ!」「きゃっ!」

 振り下ろされる足で踏み付けられそうになるアスナを間一髪の所で押し退けて双方共に難を逃れるキリトとアスナ。

 だが巨大クローンと戦闘を展開している最中も、標準サイズのクローンが十数体も押し寄せてきては新世代型に襲い掛かってきた。

「くっ、クソッ! こっち来るんじゃねェ!」「いやあっ」

 床上を這いずりながら手を差し向けてくるクローンに足蹴りして抵抗する幸平創真に、その創真の後ろに隠れながらクローンの群れに脅えて悲鳴を上げる田所恵。

「こ、こっち来ないでぇ!」「ひぃっ!」

 迫り来るクローンの群れに恐れを成し必死に逃げ惑う三枝葉留佳(さいぐさはるか)二木佳奈多(ふたきかなた)の2人組。

 そして此方では床上を這いずりながら迫るクローンと立ち上がってふら付きながらも歩み寄ってくるクローンなどの群れに取り囲まれ、逃げ場を失ってしまってた速水ヒロがそこ等中に落ちているガラスや機材の破片をクローンに投げ付けては孤独な応戦を繰り広げてた。

「く、来るな! コッチに来るんじゃない!!」

 最早いつもの彼からは感じられない慌て振りで、ヒロは目に涙を浮かべていた。

 そんな殺伐とした混乱の最中だった。幾つもの銃声が鳴り響いたと同時に閃光が宙を一直線に駆け抜けたと思いきや、創真や田所恵に三枝葉留佳(さいぐさはるか)二木佳奈多(ふたきかなた)の2人、そして涙目になって逃げ場を失っていた速水ヒロを追い詰めていたクローン達が一斉に頭を撃たれて続々と床に倒れていった。

 銃声と閃光が放たれた先を見てみると、其処には2丁拳銃のミラージュ・ガンを両手に握り締めクローン達の頭部を悉く撃ち抜いたミラールの姿が在った。

「ふっ、さすがに数が多いと私でも手こずるわ」

 そう言いながらミラージュ・ガンの銃口から上がる硝煙を勝ち誇る様に息で吹き消すミラール。

 だがミラールが撃ち抜いたクローン以外にも、まだ標準サイズのクローンはもちろん例の巨大クローンまでも未だ健在であった。

「このままじゃ普通のサイズのクローンに取り囲まれるか、巨大なクローンに殴り潰されるか道はないわ!」

 数多のクローンに一体の巨大なクローンを前にして、現状打破に難解を示す新世代型の仙道キヨカ。

 すると複数のクローンに巨大クローンと応戦し続けていたドラゴンキッドにブルーローズが総長であるメタルバードに物申した。

「これじゃ埒が明かないよ」

「総長! 此処では何体ものクローンに巨大なクローンと、二重の攻防が強いられてるわ! 一旦、別の場所まで退きましょッ」

 複数のクローン相手に苦戦するドラゴンキッドに、この場での戦闘では此方に不利があると主張するブルーローズの言い分に、メタルバードは承諾した。

「うむ、確かにそうだ……みんな! 一旦この場から撤退するぞ! 雑魚の標準サイズのクローンは適当に処理して、兎に角いまは巨大クローンをどうにかして対処するんだ! 良いなッ」

 メタルバードの判断に反論する聖龍隊士は居らず、赤塚組もメタルバードの意見に賛同する。

 そして一行は迫り来る複数のクローンを悉く撃破しながら同時に猛威を振るう巨大クローンへと応戦を展開していく。

「邪魔でござる!」

 居合番長が行く手を遮るクローンの群れに突っ込むと、一瞬でクローンの群集を瞬く間に斬り捨ててみせた。

 研究室からの脱出路を確保する為、聖龍隊はまず出入り口前に群がっているクローンの群集を一気に畳み掛ける。

 聖龍隊士の強烈な攻撃を浴びて果てるクローンの亡骸を横目に、その傍らを駆け抜けては研究室を抜け出る為に新世代型たちを先導する聖龍隊。

「コッチだ、急げ!」

 フロートの掛け声が響く中、新世代型達は研究室の外へと脱出し、残るは未だ内部で巨大クローンと応戦している面々だけであった。

「ウオオオオオ、ウオウオウオォ……」

 巨大クローンは益々興奮してきたのか更に激しく雄叫びをあげる。

 そんな興奮が上がっていく巨大クローンを弾幕で押し退けたり、周辺で這いずり回ってる標準サイズのクローンを攻撃して倒したりしながら、戦前で活躍する者達は研究室を後退していく。

「俺達も早く退散するぞ!」

 慌てふためきながらメタルバードは戦前で戦っていた者達に呼び掛けながら急ぎ研究室を出て、先に出ていた面々と合流し急いでその場から走り去ろうとする。

 しかし案の定か、巨大クローンは再び己の巨体よりも小さな入口を打ち破って強引に研究室を飛び出しては先に抜け出た一行を追って猛進してきた。

「ウアアアアアアァァァ……ッ!」

「アイツ、まだ追っかけて来るぞ!」

 怒りと興奮に満ちた雄叫びを上げながら追ってくる巨大クローンを背に、大将は未だ追跡してくる巨大クローンに吃驚していた。

 

 そして研究室を飛び出し追っ手の巨大クローンから必死になって退避し続ける一行が行き着いた先は、不運にも5つの通路全てが瓦礫で塞がっていたり床下が抜けていて先へ進めない円形状の広場だった。

「しまった! 逃げ場がない!」

 逃げ道を失い途方に暮れるメタルバード達。だが巨大クローンはそんな事お構い無しに荒れ狂いながら猛進して追ってきていた。

「クソッ、どうする!」

 5つの通路全てが進行不可能の中で追い詰められる状況で、大将がメタルバードに問い詰める。

 問い詰められたメタルバードは皆の救済を求める視線を一身に受けながら、ある一つの策に賭けた。

「……よし、ミラーガール。其処の床が抜けている通路に出来る限り非力な新世代型たちを押し込むんだ。無論、床の穴から落ちない程度までにな」

「わ、分かったわ。みんなコッチに来て」

 メタルバードの策を詳しく知らないまま、ミラーガールは言われるがままに新世代型たちを誘導して床の穴ギリギリの所まで人身を押し込む。

 次にメタルバードは床に穴が空いた通路にギリギリまで新世代型を押し込んだミラーガールに次なる指示を出す。

「よし、今度はお前や新世代型達が円形状のホールに出ない様に、お前のミラー・バリアーを展開させて広場と通路とを隔離するんだ。急げ!」

「う、うん!」

 急かされるミラーガールは慌てて円形状の広場と自分たちがいる通路の区切りの部分にミラー・バリアーを展開させて、自分達の現状と広場とを隔離する。

 そしてバリアーを展開したミラーガールをその場で待機させ、残った聖龍隊士と赤塚組にジェイクら加勢してくれる新世代型の戦闘員の面々にメタルバードは告げた。

「此処からが正念場だ。このホールであのデカブツをどうにかして食い止めるぞ! 此処いらで倒さなけりゃ、後々オレらにとって確実に不利な相手となろう! 各自、戦闘準備!!」

『はい!』「ヨッシャッ! 俺らも一肌脱ぐぜ!」

「以前にも、あのクローン同様に馬鹿でかい怪物に追い回されたことが有っからな。また返り討ちにしてやるぜ」

 メタルバードからの指示を受けて威勢よく返答する聖龍隊士たちに同盟関係の赤塚組の頭領 大将。そして以前にも巨大クローンに追跡されて命辛々逃げ延びた経緯を持つジェイクも銃を構えて臨戦態勢に入る。

「本能字生徒会! 我等も聖龍隊に加勢して、あの忌まわしき小田原修司殿のクローンを討伐するぞ! 纏流子、貴様も今を確実に生き残りたければ我等と共闘戦前を結ぶのだ!」

『はい! 皐月様』「ヘッ、余り気が進まねぇが仕方がねェ。手を貸してやるよ」

 同じくメタルバードの指示を聞いて自分達も聖龍隊に加勢し、かの鬼神であり二次元人の為に尽力してくれた小田原修司のクローンを打破する為に一致団結して共闘しようと配下の生徒会四天王や宿敵の纏流子に激しく呼び掛ける鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)。その彼女の呼び掛けに配下の四天王は強く賛同し、ライバルの纏流子は渋々これに承諾する。

「博臣先輩、美月先輩! こうなったら私達も出来得る限り、戦力の足しになりましょう!」

「戦力の足しってのが少し癪な言い方だけど……まぁ、此処まで来てしまった以上、あそこまでの怪物を倒す手助けぐらいはしてやっても良いか」

「兄貴、未来さん達を含む他の戦える新世代型の人達だって協力してあげてるんだから、兄貴も塵くらいの力になってあげなよ」

 栗山未来からの申し出に通常のナルシスト状態で語る博臣に対し、その兄に対して美月はいつもの毒気のある台詞を吐く。

「こ、こうなったら……私も出来る限り戦うわよ。怖いけど……」

 施設内で入手した銃火器を武装して、脅えながらも戦う覚悟を決める朱鷺戸沙耶(ときどさや)

 こうして各々が迫りくる巨大クローンと退治する覚悟を腹に決め、円形状の広場で待ち受けた。

 すると皆が駆け抜けてきた通路の奥からその巨体が物凄い速さで猛進してきた。

「セェェェリュゥゥタァァアァァイ……!!」

 聖龍隊に対しての激しい敵愾心を募らせながら猛進してくる巨大クローンの全身は、いつのまにか蒸気を上げ生々しい程の赤い血色染みた体色へと変貌していた。

「な、何だアレは? 蒸気が立ち篭っているし、体の色も真っ赤になっていやがる!」

 銃口を迫りくる巨大クローンに向けながら変貌しているその巨体に疑問を走らせる大将は隣のメタルバードに問い掛ける。するとメタルバードは変貌した巨大クローンについて定説を挙げた。

「アレもD-ワクチンからなる体質変化の現れだ! 長い間、保存用の液体に浸っていた肉体に染み込んだ水分がDの過剰なまでの発熱体質で一気に水蒸気となって体面の細胞から吹き出ていやがるんだ! そしてDの最も容姿的に現れる変化は、その肉体の毛細血管や熱を帯びた肉体によって全身が真っ赤に変貌するのが特徴だ! 兎に角みんな気をつけろ! あそこまで変異しちまったら攻撃性だけでなく凶暴性も格段に上がっている筈だ!!」

 メタルバードの言うとおり、巨大クローンは更に凶暴的な面構えに変貌しては猛進し、眼前の戦前の者達に体当たりを仕掛けようと速度を落とさず突進してきた。

「かわせッ」

 メタルバードの咄嗟の一言に戦前の面々は一斉に真横へと身をかわし、巨大クローンの突進を回避する。

 しかし突進をかわされた巨大クローンはその勢いある速度で突っ込んできたにも関わらず、壁に激突する前に足を踏ん張り速度を落としては体勢を反転させ、再び戦前の者たちと対峙するのであった。

「ウウウゥ……ッ」

 厳つい顔立ちで唸り声を発しながら敵意を剥き出しにして睨み付ける巨大クローンの眼光に、戦前の者達の危機感は最高潮へと達していた。

 そして巨大クローンは行動を起こした。まずは戦前に出ていた聖龍HEADのセーラーウラヌスとセーラーネプチューンを捕まえようと両腕を思いっきり振り回し、巨大な手で掴み掛かろうと仕掛けてきた。

 これをウラヌス/ネプチューンは後ろに退き難なくかわしてみせると、巨大クローンは今度は両手を高々と上げては両拳で思いっきり床を叩き付け、凄まじい衝撃を床に震動させた。

『うわぁっ!』

 巨大クローンが振り下ろした両拳によって引き起こされた衝撃波は床を伝って戦前の者達に激しく伝わり、思わず腰を抜かしたり膝を着いて怯んでしまう。

 そうやって衝撃波を床に震動させた巨大クローンは腰を抜かし床に尻を着いてしまってたメタルバードに狙いを定めて巨石の様な拳を振り下ろしてきた。

「!」

 これに対してメタルバードは咄嗟に反応し、身を横に転がして回避する。巨大クローンの拳は床へと直撃し、床は陥没するほど損傷を受ける。

 メタルバードに攻撃をかわされた巨大クローンは益々興奮し、今度は手当たり次第に周辺の戦前者たちへ柱の如く太い剛腕を振り回しては猛攻を振るってきた。その剛腕を振り回す勢いは風を切るほど凄まじいものであった。

 そんな風を切るほどの勢いのある剛腕を、同じく剛腕では決して劣ってない聖龍隊の金剛番長とトリコがそれぞれ巨大クローンが振り回す拳を全身で受け止め、動きを完全に封じる。

 金剛番長とトリコの2人に拳を押さえ付けられ、思う様に動けなくなってしまった巨大クローン。其処に今度は前方からブルーローズが高圧水鉄砲をクローンの顔面に直射させると同時に凍て付かせ、凍て付いた巨大クローンの顔面に向けて跳び上がっては爪先蹴りを喰らわす。

「ウゴッ」

 凍り付いた顔に強烈な爪先蹴りをお見舞いされた巨大クローンは背筋を除け反らし、一瞬だけだが怯ませる事に成功する。

 そんなブルーローズの華麗な爪先蹴りを目撃したウラヌスとネプチューンも同様の戦法を取る事にした。

「あの巨体には跳び蹴りが有効と見た。ネプチューン」

「そうね、ウラヌス。あのぬぺぬぺに対しても爪先蹴りはかなり有効だったし、あの修司君のクローンに対しても効果は期待できそうね」

 以前にも爪先蹴りで効果覿面であったぬぺぬぺ同様に、巨大クローンに対しても頭部への爪先蹴りは効力があると判断した2人のヒロインは早速クローンへの攻撃を開始した。

「やッ」「はぁ」

 ウラヌス/ネプチューンは交互に跳び上がっては巨大クローンの頭部にブルーローズ以上に強烈な爪先蹴りを浴びせていく。2人の予測通り、巨大クローンへの頭部への攻撃はかなりの効き目があった。

 だが最初は優位に立っていた2人の爪先蹴りでの攻撃だったが、最後にウラヌスとネプチューンが2人同時に爪先蹴りを巨大クローンの頭部に浴びせようと跳びかかった次の瞬間、悲劇は起きた。

 何と顔面に爪先蹴りが直撃する寸前に巨大クローンは口を開き、ウラヌスとネプチューンの爪先蹴りを口で銜え受け止めてしまったのだ。

 しかも巨大クローンは同時に口内に銜えた2人の脚を噛み出した。

「うわぁ!」「きゃあっ!」

 脚の肉に喰い込む巨大クローンの歯がウラヌスとネプチューンに多大な激痛を与える。

「ウラヌス! ネプチューン!」

 脚を噛み千切られそうになる2人を目の当たりにしてメタルバードが彼女達の名を叫び掛ける。

 そんな中、2人のヒロインの危機をどうにかして制止させようと巨大クローンの拳を身を持って受け止め続けていたトリコと金剛番長が、拳を押さえ込みながら巨大クローンの横暴を静止しようと試みる。

「や、やめねェか! このクローン」「ふむッ」

 押さえ込む拳を引きながら、どうにかしてウラヌスとネプチューンへの噛み付きを静止しようとするトリコと金剛番長。しかし巨大クローンは冷めない興奮状態なのか猛烈に2人の脚をむしゃぶる様に噛み続ける。

 しかし先ほどから巨大クローンの剛腕を全身を用いて押さえ込んでいた疲労が蓄積していたのか、トリコと金剛番長の踏ん張っていた腰の力が一瞬だけ弱まり、その瞬間を衝いて巨大クローンは己の拳を押さえ込んでいた2人を力尽くで振り上げては剛腕を振り回し始めた。

「うわッ」「ッ!」

 拳を押さえ込んだまま宙に浮かせられるトリコと金剛番長を、巨大クローンは今度は全身を回転させて勢いを増して強引に2人を拳から振り払った。

「ぐッ!」「ッ……!」

 回転による遠心力で増した力で振り払われたトリコと金剛番長は拳から引き剥がされ、その拍子に壁へと激突してしまう。

 すると自由になった手で巨大クローンは口に咥えているウラヌスとネプチューンの上半身を掴むと、そのまま2人の体を引いては脚を噛み千切ろうと計った。

「い、イカン! あのままじゃ2人とも脚を食い千切られるぞ!!」

 このまま放置しておけばウラヌスとネプチューンの美脚は無惨にも噛み千切られる現状を叫ぶメタルバード。

 だがそれ以上に恐ろしかったのは、何と巨大クローンは2人の美脚を噛み千切りながら同時に歯が喰い込む傷口から滴り落ちる血を貪る様に啜っていたのだ。

 口元からウラヌスとネプチューンの脚を食い千切る際に滴り落ちる血で真っ赤に染まる巨大クローンは不気味な音を立てて二人の血を啜り続ける。

 ウラヌスとネプチューン、天王星と海王星の聖なる力に守護されている2人のヒロインでも、この窮地を自力で抜け出すほど余力は残っていなかった。このまま自分達の脚を小田原修司の巨大クローンに噛み千切られ、無惨にも両足を失って血の海に沈められるか2人に残された道はなかった。

 だが此処で2人の大先輩を救うべく、自身の得物である二つの棒付き鉄球を構えた剛力番長が巨大クローンに駆け寄った。

「それ以上の悪逆非道は許しませんわよ!」

 そう叫びながら剛力番長は鋼鉄製の棒付き鉄球《しおチャンコ・みそチャンコ》を振り回し、巨大クローンの左脚のすねに直撃させた。

 普通の人間にとっても脚のすねへの打撃は激痛が伴う様に、巨大クローンへのすね打撃も効果覿面であった。

「ウギャッ」

 左脚のすねを剛力番長に打ち付けられた巨大クローンは、その余りの激痛に思わずウラヌスとネプチューンの脚を噛み千切ってた口と2人の上半身を掴む両手を緩めて放してしまった。

 巨大クローンの口と手から解放されたウラヌスとネプチューンは、そのまま床へと落下し脚を酷く損傷していたため動く事すら侭ならなかった。

「ウラヌス! ネプチューン!」

 解放され床へと落下したまま動かなくなるウラヌスとネプチューンに急ぎ駆け寄るセーラームーン。

 セーラームーンに続き、左脚のすねを激しく打ち付けられて怯んだ際に後ろへと退いてしまう巨大クローンの隙を突いてメタルバードもウラヌスとネプチューンの許に駆け寄る。

 そして駆け寄ったメタルバードはセーラームーンと共に2人の脚の損傷具合を視認する。すると想像以上に2人のヒロインの脚は深い損傷であった。

「コイツは酷い……前歯で噛み千切られそうになった上に手で強引に引き千切られそうにもなったから、傷口から骨が見えちまってる」

 ウラヌスとネプチューンの両脚は想像以上に残酷なもので、両脚の肉は巨大クローンの前歯で噛み裂かれ更に手で強引に引っ張った為に損傷箇所が拡がってしまった為に僅かながらも白い骨が垣間見えてしまうほど激しい損傷だった。

 この余りにも惨たらしい現状にメタルバードは即座に仲間へと指示を飛ばす。

「セーラームーン、それにナースエンジェル! 2人係りでウラヌスとネプチューンの傷を治療するんだ! 此処まで深い傷だと、下手をすりゃ雑菌が入り込んで感染症を引き起こすかもしれねェ!」

 このメタルバードの診断にナースエンジェルもウラヌスとネプチューンの許へ駆け寄り、セーラームーンと共に2人を安全な場所まで移動させ的確かつ速急な治療を施していく。

 

 一方の巨大クローンは剛力番長の一打により左脚のすねを激しく痛めては悶絶しながら暴れ回っていたが、ようやくすねの痛みが治まり再び戦前の者達に睨みを利かせて雄叫びを上げる。

「セェェリュゥゥゥタァァアァァァァイ!!」

 すねを攻撃されてなのか怒声にも近い唸り声で雄叫びを上げる巨大クローン。その巨大クローンは再度、戦前の者達を殴り付けようと厳つい顔立ちで拳を振り上げた。と、その時である。

「そうは、させませんわよ!」

 と、お嬢様言葉で拳を振り上げる巨大クローンに跳びかかる剛力番長。剛力番長は巨大クローンの首後ろに跨ると、自身の武器である両刀の巨大鉄球で巨大クローンの脳天を殴り始めた。

 巨大な鋼鉄製の鉄球を先端に装着した棒を軽々と扱う剛力番長の二つの鉄球での打撃を頭蓋では最も弱い脳天に喰らい続ける巨大クローンは、必死で己の首に跨る剛力番長を振り払おうと我武者羅に体を捻り反らして抵抗する。

 しかし剛力番長も振り払われまいと、必死に足の力だけで巨大クローンの首後ろにしがみ付き、脳天に御得意の鉄球での打撃攻撃を連続でお見舞いして行く。

 すると何度も脳天を攻撃され続けた巨大クローンは苦し紛れとはいえ、自ら壁に突進し激突するという奇行に走り始めた。壁に激突する際の衝撃で体勢を崩しそうになり思わずクローンの首から落ちそうになる白雪宮拳こと剛力番長。だが落とされまいと懸命に巨大クローンの首に自らの足を巻き付けては脳天にキツイ打撃を浴びせ続ける。

 だが巨大クローンも脳天を攻撃され続けられた為か更に苛烈になっていき益々壁に自らの体をぶつけては首に脚を巻き付かせてしがみ付く剛力番長を振り解こうと暴れ狂う。

 さすがに何度も壁に激突しては、その衝撃で体勢を維持するのが困難になってきた剛力番長。

 すると、そんな剛力番長に聖龍HEADの蒼の騎士が速急に声を掛けた。

「拳ちゃん! もう其処までで良い、深追いはするな! 深手を負う前にクローンから一旦下りるんだ!」

「は、はい!」

 蒼の騎士からの助言に剛力番長は素直に従い、巨大クローンの脳天への攻撃を止め、一旦床へと下がる。

 そして剛力番長が下りたのを確認した蒼の騎士は彼女に代わって、何度も脳天に打撃を浴びて朦朧としている巨大クローンに背後から跳びかかりクローンの視界を手で覆っては塞いでみせた。

 視界を塞がれ何も見えなくなった巨大クローンは辺りを探る様に我武者羅に剛腕を振り回し、巨大な手の平を所構わず振り回す。

 蒼の騎士に視界を塞がれ、手当たり次第に巨大な手の平を振り回す巨大クローンの振り翳られる手は、その鉄パイプよりも太い指だけで壁のコンクリートを抉り掘ってしまった。

「な、何て奴だ!」

 指先で意図も容易く壁のコンクリートを抉ってしまうほど指の筋肉も異常なまでに発達している巨大クローンに驚愕する大将たち。

 手当たり次第に手を振り回す視界を被われた巨大クローンは、目を塞がれて混乱している様でもあった。

 そして目を被われた状態の巨大クローンは視界が塞がったまま壁へと突進し、激突してしまう。だが巨大クローンの顔にしがみ付き視界を奪ってる蒼の騎士は壁への激突の際の衝撃にも動じず、必死に巨大クローンの顔にしがみ付く。

 だが此処で巨大クローンは大きく体を仰け反らせ、顔にしがみ付いていた蒼の騎士を振り払ってしまった。

 振り払われた蒼の騎士は床に着地すると速攻で巨大クローンの懐に入り込み、先ほどまで視界を奪われた状態で暴れ回った為に半ば混乱している巨大クローンの腹を何度も殴打していった。

 連続で拳を巨大クローンの懐に殴り付けて行く蒼の騎士の猛攻に、巨大クローンの方はその勢いで微弱ながらも後ろへと後退されていった。

 だが連続で腹部を殴られた巨大クローンは正気が戻るとスグに目の前の蒼の騎士に鋭い眼光で見下ろしては、丸太の様な剛腕を振り上げて蒼の騎士の脳天目掛けて拳を振り下ろした。

 しかし蒼の騎士は巨大な拳が直撃する寸前、後ろへと退き間一髪の所で攻撃を回避する。しかし床に直撃したクローンの巨石の様な拳による打撃は凄まじい衝撃波を生み、周辺の者たちを怯ませてしまう。

 だが蒼の騎士は一瞬怯んだものの即座に攻撃に移り、巨大クローンの尾てい骨の部分を蹴り上げて激痛を与えた。

「グウッ」

 尾てい骨を蹴り上げられ、凄まじい痛覚を感じた巨大クローンは激痛の余り唸り声を上げる。

 すると絶えず攻撃を仕掛けていく蒼の騎士に向かって先輩でもある同じHEADのキング・エンディミオンが蒼の騎士に呼び掛けた。

「ディープ・ブルー! もうそれぐらいにして一旦退けッ。深追いは余りにも危険だ」

 このエンディミオンの言葉に蒼の騎士は素直に同意し、一旦退いた。

 だが偶然にも蒼の騎士に呼び掛けたエンディミオンが巨大クローンの視線の先に映ってしまい、巨大クローンはエンディミオンに狙いを付け真っ向から突っ込んでいった。

「エンディミオン!」「衛のあんちゃん!」

 巨大クローンに狙われたエンディミオンを目の当たりにして、仲間のセーラーヴィーナスと大将が名を呼ぶ。

 しかしエンディミオンは一向に逃げようとはせず、それどころか腰に装備していたディスク状の手裏剣を右手に隠し持つとそれを突進してくる巨大クローンの顔面それも目元に投げ付け直撃させた。

「ガウッ」

 目に円形状の手裏剣を投げ付けられた巨大クローンは痛覚で思わず直撃した目を手で押さえ、前が見えない状態となってしまう。その間にエンディミオンは容易く真横に突進を回避し、巨大クローンは勢い余ってエンディミオンの背後の通路を塞いでいた瓦礫の山に突っ込んでしまう。

「ギュゥ……」

 瓦礫の山に突っ込んだ巨大クローンは、その巨体で突っ込んだ勢いで通路を塞いでいた瓦礫の山を見事なまでに一掃してしまう。だが同時に瓦礫の山に真正面から突っ込んだ衝撃と反動で背を翻すと即座に片膝を着いて右手で頭を抱え込んでしまう。

 巨大クローンが瓦礫の山に突進し朦朧となっては片膝を着いた隙を突いてエンディミオンが自前の剣でクローンの真正面から連続で斬りかかって行った。

 幾つもの切傷が巨大クローンの真正面に生じていく中、巨大クローンは何十斬も浴びてようやく立ち上がり眼前のエンディミオンに拳を振り下ろした。

 しかしエンディミオンは振り下ろされた巨大クローンの拳をひらりと身を反らしかわすと、すかさず巨大クローンの剛腕を両腕でしっかりと捕らえ、そのまま巨大クローンが拳を振り下ろした反動を利用して見事なハンマー投げを繰り出した。

「ウガァ」

 剛腕を捕らえたエンディミオンの鮮やかなハンマー投げで巨体を投げ飛ばされた巨大クローンは床に叩き付けられる。

「う、うわッ。マジかよ、信じられねェ……」

 振り下ろされた剛腕を逆に捕らえては、その勢いのままハンマー投げで5mものの巨体を投げ飛ばして見せたエンディミオンの体術の凄さを間近で目の当たりにした大将は、普段の冷静で落ち着いた風貌のかつ王族であるエンディミオンからは想像できないほど俄かには信じ難い彼の格闘スキルを前にして驚愕した。

「す、凄ぉい……あの巨体を反動でとはいえ簡単に投げ飛ばしちゃうなんて……!」

 大将と同じくエンディミオンのハンマー投げを間近で目撃した小鳥遊おとはら新世代型たちも唖然としてしまうほど驚いてしまう。

 だがエンディミオンのハンマー投げで背中を激しく床に打ち付けられた巨大クローンは即座に起き上がり、自分を投げ飛ばしたエンディミオンに再び対峙する。

 するとエンディミオンは何かを閃いたのか、場所を移動してスグに巨大クローンに挑発を仕掛けた。

「ほらッ、コッチに来いよ。図体がデカイだけの鈍間が!」

 エンディミオンの言葉の意味を解釈しているかは定かではないが、巨大クローンは明らかに自分と敵対しているエンディミオンに攻撃の的を絞る。

 そしてエンディミオンに向かって再び一直線に突進してきた。

 だが先ほどと同じくエンディミオンは自分の方へ一直線に猛進してくる巨大クローンの目元に懐に装備している円盤状の手裏剣を投げ付け、巨大クローンの目を晦ます。

 そしてこれまた先ほどと同じ要領で目を痛みで押さえ込んでは視界を封じられた巨大クローンの突進をエンディミオンは横に回避し、巨大クローンは別の瓦礫の山で埋まった通路に突っ込んでは瓦礫の山を一掃する。

 案の定、瓦礫の山に直に突撃した巨大クローンは再び目眩を起こし片膝を着いて動きを止めてしまう。

 其処にキング・エンディミオンがここぞとばかしり猛烈な攻撃を浴びせていく。そんなエンディミオンに続けと、赤塚組の面々が銃火器を片膝を着いて朦朧としている真っ赤に染まり切った巨大クローンに遠方から射撃していく。更に赤塚組に続いてジェイクも携帯してたマグナムを両手で構えて強烈な銃弾を確実に巨大クローンに発射していく。そのジェイクの傍らでは小銃を構えて銃弾を連射していく朱鷺戸沙耶(ときどさや)の姿も確認できる。

 エンディミオンからの打撃と斬撃の連撃、そして赤塚組やジェイクに朱鷺戸沙耶(ときどさや)らの弾幕を一身に浴び続ける巨大クローンは、その赤く染まった肉体に無数の弾痕と切傷を負いながらも再び立ち上がっては再度エンディミオンを初めとする周囲の面々に猛攻を仕掛けてきた。

 空を切るほどの勢いで剛腕を振り回し、巨石の如き拳を振り上げて戦前の者達に強烈な一撃をお見舞いしようと我武者羅に乱れ狂う巨大クローン。

 聖龍隊の一団も総力を挙げて巨大クローンに攻撃していくが、赤く染まり盛り上がった筋肉に覆われた肉体には打撃は余り効かず、銃撃や斬り付けで攻撃した傷もDの遺伝子による桁違いの再生能力で傷口を瞬時に塞いでしまい、一向に戦況は変わらず寧ろ若干ながら巨大クローンの猛威に押され掛けていた。

「クソッ、銃弾も刃も……肉弾戦も殆ど効果が無いぜ!」

「ガラス管から解き放たれて血流が活発化してきた為に肉体が赤く染まっていくのと同時に筋肉組織までも向上していっちまってる。血流が激しく体内を巡る事で筋肉にDの分泌成分が注入された事で筋肉が異常発達し、体の表面が赤く染まった挙句全身を覆う筋肉が鎧の様に分厚く膨張したから銃弾も刃も……如何なる打撃も効果が薄くなっちまってる! このままじゃ此方が一方的に不利になるばかりだ」

 銃撃も刃も肉弾戦による打撃も殆ど巨大クローンに効果が薄い事に微かな動揺を覚えてきた大将に、メタルバードが今の巨大クローンの現状を説きつつも何れは此方側が不利に追い込まれていく現況も語り明かす。

 このままでは確実に此方が不利な戦況に追い込まれる現状を認識していく戦前の者たち。どうにかしなければ何れは巨大クローンに全員が強靭な力で圧迫され肉の塊にもされかねないと不安な心境に駆り立てられる戦前者たち。

 

 すると戦況が思わしくない現状の中、先ほどから何度も巨大クローンと対峙してはどうにか返り討ちに投げ飛ばしたりしていったエンディミオンが何かに気付いたのと同時に閃いては咄嗟に言葉を放った。

「! そうだ……ミラーガール! それに新世代型の諸君! 一旦そこの通路から出てってくれないか、俺に考えがあるんだ!」

 突然エンディミオンは奥の床が完全に抜け落ち、そこにギリギリまで身を退けた上に広場方面にはミラーガールのバリアーで完全防壁を布いてる避難してる面々に場所を空けろと言い出した。

 これに新世代型達は理由が分からずエンディミオンに反論する。

「ど、どうしてなんですか! 今ミラーガールのバリアーから出て広場に出てしまえば、それこそ巨大クローンの格好の的じゃない!」

「そうッスよ! 俺たちを護ってくれるんじゃなかったんすか、エンディミオンの王様っ!!」

 エンディミオンの突然の発令に困惑する薙切えりなに涙目になって訴える燃堂力。更に新世代型たちを護る立場に回っていたミラーガールもエンディミオンに話し返す。

「衛さん! 今、この子達を通路から広場に移すのは危険だわ! 我武者羅に暴れ回っている修司のクローンがこの子達に何を仕出かすか分からない」

 必死に新世代型たちを通路から広場へ移すのを危ういと訴えるミラーガール。しかしミラーガール達の訴えを聞いたエンディミオンは真剣な面差しで皆に言い切った。

「大丈夫、俺にいい作戦があるんだ。頼む、此処は俺を信じてくれ」

「…………」

 エンディミオンの真剣な眼差しでの発言に、ミラーガールは一時思考に耽った。

 そして「……うん、分かったわ。衛さん、貴方を信じます」ミラーガールはエンディミオンの言葉を信じた。

「ありがとう、ミラーガール!」

 一方のエンディミオンも自分の提案を信じてくれたミラーガールに礼を返す。

 そしてエンディミオンの言葉を信じたミラーガールは発動してたバリアーを解除して、通路側に待機していた新世代型たちを成るべく巨大クローンに近づけない様に注意しながら的確に誘導していく。

「さあ、コッチよ。クローンが気づかない内に早く……!」

 この時クローンは周囲で応戦していく聖龍隊士や赤塚組の猛攻に取り囲まれ、かなり動きを制限されていた状態であった。

 そしてミラーガールの適切な誘導により、空いた通路を確認したエンディミオンは、その通路の奥に空いた穴の少し前まで立ち位置を移すと口笛を鳴らして大声で巨大クローンに呼び掛けた。

「ピューー。カモン、でかいの。コッチに突っ込んで来いよ、出来損ないの修司のクローン風情が!」

 これまた言葉の真意を理解したのかは不明であったが、巨大クローンは確実に挑発してきたであろうエンディミオンに正面を向けて突進する構えに入る。

 次の瞬間、巨大クローンは一気に駆け抜け、前方のキング・エンディミオンに突進してきた。

「セェェリュゥゥタァァアァァイ……!!」

 怒りに満ちた雄叫びを上げながら突進し体当たりしてくる巨大クローン、だがエンディミオンはギリギリまで巨大クローンを引き付ける。

 前方からは突進してくる巨大クローン、後方の通路には巨大な穴が空いており正に背水の陣の状況に自らを追い込むエンディミオン。

 そして巨大クローンが眼前まで迫ってきた、次の瞬間。エンディミオンは風になびく竹のように自然と身を反らし横へと移動する。しかし猛進していく巨大クローンの突進の勢いは収まる事はなく、エンディミオンに突進を回避されても勢い余ってそのまま前方に巨大な穴が空いている通路へと突っ込んでいってしまった。

 そして案の定、猛進する巨大クローンはそのまま巨大な穴へと向かってしまう。一時は一瞬の動物的判断で跳躍して穴の向こう側へと飛び移ろうとしたものの、距離が僅かながらに届かず穴へと落下してしまう。

「ウオオオオオオオオオオォォォォォォ……」

 断末魔の如き雄叫びを上げながら穴へと落下し、下の階にその巨体を直に叩き付けてしまう。

 念のため、エンディミオンが穴の上から下の階層に落下した巨大クローンの様子を確認すると、巨大クローンは微弱ながらも微かに全身を動かし未だ息のある状態であった。

「これならしばらくは動けないだろう。さっ、今の内に上の階へ移動しよう」

 巨大クローンの状態を視認したエンディミオンは穴から遠ざかると広場に待機していた仲間達にその場からの移動を進める。

「な、成る程な……クローンを敢えて穴の方に誘導したって事か。さすがだな」

 キング・エンディミオンの講じた策に呆気に取られながらも感心する大将。

 更に大将に続いて総長のメタルバードもエンディミオンの策を称賛する。

「良くやったな衛。これで一時凌ぎだが、どうにか修司の巨大クローンの追撃は時間が稼げる……今の内に先へ進もう」

「ああ」メタルバードに返事するエンディミオン。

 

 そして一行は巨大クローンとの激しい攻防を終えて、一旦広場の中央に集結する。

「そんでバーンズ。これからドッチに行く?」「そうだな……」

 大将とメタルバードが話し合っているのは、先ほどの戦闘で巨大クローンが突進した勢いで一掃された瓦礫の山で塞がっていた2つの通路であった。瓦礫の山が無くなった事で先へと進める様になったものの、どちらを進んでいけば良いのか議題になっていた。

「右の通路か、左の通路か……こりゃ悩むな」「そうだなぁ……」

 大将もメタルバードも右側の通路か左側の通路、どちらを進んでいくのが良策なのか悩みに悩み抜いていた。

 するとその時「おっ、閃いた」とメタルバードが何かを思い付いた様である。

「何か閃いたのか、バーンズ?」

「おお、こう言う道しるべに迷った時の解決案がな」

 何かを思いついたメタルバードに問い掛ける大将に、メタルバードはこの様な道行きに迷った際の解決案を閃いたという。

 と。メタルバードは何気に同じ聖龍HEADのセーラームーンに声を掛けた。

「なぁ、セーラームーン。お前のエターナル・ティアルをムーン・パワー・ティアルに形変えて貸してくんねェか?」

「え? ええ……う、うん。別に構わないけど……」

 エターナルセーラームーンはメタルバードの思考を理解できないまま己のアイテムであるエターナル・ティアルをスティック状のムーン・パワー・ティアルに変形させて貸し出した。

 棒状に伸びたムーン・パワー・ティアルをエターナルセーラームーンから貸してもらったメタルバードは自然な流れで瓦礫が除かれた2つの通路の中央に立つと、セーラームーンから借りたムーン・パワー・ティアルを頂点から掴むとそれを何気なく手放した。

 手放されたムーン・パワー・ティアルは重力に従い、そのまま床へと倒れていく。

 そして倒れたムーン・パワー・ティアルは左側の方へと自然に倒れたのをメタルバードは確認すると皆に言った。

「よし、左に行こう」〔ズコッーーーー〕

 まさかのムーン・パワー・ティアルが倒れた方に進もうと言いだしたメタルバードの発言に、一同は一斉にズッコけた。

「おいいィィッ! そんな適当な選び方で言い訳かーーッ!!」

 メタルバードのまさかのムーン・パワー・ティアルによる棒倒しでの進路選びに彼の両肩を掴んで思いっきり反論する大将。しかし当のメタルバードは平然と言い返した。

「なぁに。どっちに行っても大して変わりないだろう。どうせ何処もかしこも怪物だらけの現状には違いないんだし」

「だァァからって! そんなヒロインのアイテムを棒倒しの道具に使用する横暴な選び方があるかよッ! おい、うさぎのねえちゃん! アンタの道具が適当すぎる選択肢に使われてんだぞ! バーンズに文句の一つぐらい言ってやれよ!」

 余りにも適当すぎるメタルバードの選び法に異論を唱える大将に己のアイテムを雑に扱われた事に反論しろと言われたセーラームーンは、呆然としながらも明るい笑顔で大将に話し返す。

「い、いや~~、確かにバーンズの決め方は少し雑だなって思うんだけど……だけどさ。結局の所は本当にどっちに行っても生体兵器がウヨウヨしているのが現状かもしれないんだし、ホントの意味でどっちに行こうが同じ事なんだし別に私は構わないなぁ~~って思うんだよねぇ」

 皇女の癖に呆然とした態度とヘラヘラと昔と変わらない明るい笑顔で悠々と話すセーラームーンの言動に、大将は堪忍袋の緒が切れた。

「テメェという女は!! ネオ・クイーン・セレニティだが何だが知らねェが、皇女になってもその気楽さと呑気さは直っちゃいねェようだな、オイ!! そもそも、こういう俺達の道しるべをしっかりと決めるのが人の上に立つテメェらHEADの、王族の義務ってモンだろうがッ!!」

「大将落ち着け! 気持ちは解るが堪えろッ」

「大将! 確かにうさぎちゃんは昔とちっとも変わってない呑気っぷりだけど、今はアレでも一応は皇女なのよ! 手をあげたらイケないわ!」

「な、なるちゃん。ドサクサに紛れて何気に毒気のある台詞吐く様になったね……」

 興奮する大将を必死に取り押さえる赤塚組幹部のテツと海野なる。だが旧友でもある、なるの台詞に若干ながらの心痛を覚えるセーラームーン。

 そんな波乱の状況を目の当たりにして唖然としてしまう新世代型の一同。

 するとメタルバードのいい加減な対応を目撃した新世代型の真鍋義久がHEADの面々に訊ねてきた。

「あ、あの……いっつもこんな感じなんすか? 聖龍隊って……」

 この真鍋の呆気に取られた質問にHEADの面子は複雑な心境を顔に表しては語り明かす。

「ああ、バーンズはいっつもこんな感じで戦況を突っ切っていくのが多少の問題なんだよ」

 と、キング・エンディミオンが。

「副長だった頃から、この調子なんだけど何時も行き当たりバッタリって感じでトントン拍子で進んで行っちゃうのよね」

 と、セーラーヴィーナスが呆れた表情で語る。

「修司さんが総長だった時は、こんなバーンズさんの適当さを上手くフォローしてはくれていたものの、総長の座をバーンズさんが譲り受けた後もあの適当さは変わってなくて……」

 と、堂本海斗が呆れ返った面構えで前総長と現総長のかつての間柄について語った。

「総長になっても相変わらずの適当さと行き当たりバッタリな対応には、私もてんてこ舞してるんだけど……やっぱりバーンズの個性なのか、中々直らないのよね」

「って、個性って強調するのもどうかと思うけど……」

 ミラーガールの、メタルバードの適当な対応を個性と言い表す発言に同じHEADの真紅が複雑に思う。

 

 どちらにしろ、メタルバードの適当な道行き選びで左の通路を行く事にした一行は、渋々ながらメタルバードの意見に賛同しつつ進行していくのであった。

 

 だが、先ほどエンディミオンの策で通路の穴に落ち下の階層に落下したままの巨大化した小田原修司のクローンは未だに生存していた。

 しかも、その体の表面の肉質は不気味に蠢いては次第に体面を覆う様に分厚い何かが浮き上がる様に発生しているのを、聖龍隊や赤塚組などの一行は知らずに居た。

 

 

 

 

[廃棄場の恐怖]

 

 メタルバードのトンでもない選び方で決めた通路を複雑な心境で進んでいく一行。

 その間、赤塚組やジェイクらは先ほどの巨大クローンとの戦闘で消耗した銃器の弾奏に新たな銃弾を詰め込む作業をしていた。

 一方で、施設内で入手した最新式の小銃を赤塚組やジェイクと同じく手入れしていた朱鷺戸沙耶(ときどさや)が何やら銃の手入れで困惑している様子を見取ったメタルバードが彼女に話し掛ける。

「どうしたんだい、沙耶の嬢ちゃん」

 優しく接するメタルバードの問い掛けに、朱鷺戸沙耶(ときどさや)は小銃を手にしたままメタルバードに顔を向けて答えた。

「あ、メタルバードさん。それが、さっきから銃を連射し続けた所為か弾詰まりが生じてしまって」

「弾詰まりか……よし、それなら俺に貸してみろ。少しは銃器の事は詳しいから、直してやる序にちょこっと改造も加えてバージョンアップしてやるよ」

「わあ、ありがとうございます!」

 小銃の修理だけでなく改造による強化も施してくれると言ってくれたメタルバードの発言に心から感謝する朱鷺戸沙耶(ときどさや)

 そしてメタルバードは全身を精密機械に変化させられるサイボーグ状態の身体を用いて指先をドリルなどの小道具に変形させて器用に小銃の弾詰まりを修復する。

 それと同時に朱鷺戸沙耶(ときどさや)が扱ってきた最新式の小銃の状態も念入りに観察していく。

「ほぅほぅ、成る程な」

 小銃の全体を見通して、その性能や構造を理解したメタルバードは小銃を見る度に頷いた。

「何が成る程なんですの?」

 メタルバードの小銃をあらゆる角度から見取る様子と発言に訊ねる朱鷺戸沙耶(ときどさや)。するとメタルバードは自身の目で確認した最新式の小銃の機能について沙耶に説明し出した。

「ほら、銃の引き金があるだろ。その左側面についている、このレバーみたいな摘まみが見えるだろ」

 メタルバードの指差す小銃の左側面、その引き金の少し上の方に付いている摘まみの様なレバーが沙耶の目にも入る。メタルバードはこの摘まみについて説明する。

「これは所謂、三段階式の発射システムを司るレバーだ。単発式に続いて2発同時、そして3発同時発射が可能なバースト方式を取り入れた小銃だ」

 すると、このメタルバードの朱鷺戸沙耶(ときどさや)に対する説明を共有感知で知り得た沙耶の親友の直枝理樹がメタルバードに質問した。

「バースト方式って、一体何なんですか?」

「うむ。バースト方式ってのは、簡単に言えば1回のトリガーつまり引き金を引けば同時に弾が複数発射される小銃の機能さ」

 バーストについてメタルバードは更に詳細に語っていく。

「レバーを一番下に設定すれば1回の引き金で一発の銃弾が発射されるが、真ん中に設定すれば1回のトリガーで一度に2発の銃弾が発射される。そして最後に一番上にレバーを回せば、一度に発射される弾は最大で3発となる。つまり1回の銃撃で2倍,3倍の威力のある銃撃が可能となる極最近、銃器に取り入れられた機能さ。主に2発同時発射を2点バースト、3発同時発射を3点バーストと略称されてる」

「へぇ……」

 メタルバードの説明に思わず感心してしまう理樹に沙耶。しかし此処でメタルバードは同時に複数バーストの欠点も沙耶に説き教えた。

「無論、1回の射撃で複数の弾丸が発射されるからその分威力が増すんだが、同時に弾の消費も激しいのが難点だ。弾の消費を抑えたかったら1発式の発射システムに切り替えて、弾に余裕がある時には複数発射で敵に驚異的なダメージを与えられる。ま、そこは使用者の見極めがモノを言う。沙耶、時と状況を考えて素早く判断した上でこの銃器を扱え。上手くいけば素早く敵を倒す事が可能な性能を、この小銃は備えてる」

「は、はい!」

 メタルバードの丁寧な説明に感激しつつも感謝の返事をする朱鷺戸沙耶(ときどさや)

 そしてメタルバードは最後に沙耶の扱う小銃を改造して、銃創に込められる弾丸を増量させてあげた。

 

 メタルバードが朱鷺戸沙耶(ときどさや)の小銃の不具合の修復と充填できる弾の増量の改造を施した丁度その時、赤塚組とジェイクそれに聖龍隊の装備点検も済んだ。

 そんな中、メタルバードは先ほどの戦闘で小田原修司の巨大クローンに脚を噛み千切られそうになったセーラーウラヌスとセーラーネプチューンに歩み寄っては2人の状態を確認しに来た。

「2人とも、大丈夫か?」

 不安そうな面持ちで2人の治療に専念してたナースエンジェルとセーラームーンに問い掛けるメタルバード。するとセーラームーンが離脱して一人で治療を続けていたナースエンジェルが重苦しい表情でメタルバードに2人の現状を報告した。

「バーンズ、それが余り良くないの……ウラヌスもネプチューンも修司さんのクローンに脚を深く噛み千切られそうになって、脚の肉が酷く損傷しただけでなく微かだけど骨にまで損傷が及んでいるみたいなの。私とセーラームーンの治癒能力で出来うる限りの治療は施したものの、傷を負った箇所は未だに傷跡が生々しく残ってしまった上に骨にまで損傷を受けた為にマトモに歩く事すら困難になってしまって」

「そうか、それは厄介だな。確かに2人とも、自慢の美脚が前歯で削り抉られて酷い傷跡が残っちまってる」

 ナースエンジェルの報告を聞いて、メタルバードもウラヌスとネプチューンの美しい脚に生々しく残ってしまった抉られた傷跡を見て悲観する。

 だが脚に深い損傷を受け、表面上はナースエンジェルとセーラームーンの治癒能力で回復した脚を深々と見詰めた当のウラヌスとネプチューンは無理にでも自らの脚で立ち上がろうと試みる。

「だ、大丈夫だ。これぐらい……」

「ええ、どうにか立てる……うっ」

 だが立ち上がろうとする2人だったが、脚に受けた損傷が余りにも深い為に未だ直立しようとすると激痛が脚に走り、上手く立ち上がる事が困難に成っていた。

「おいおい、そう無理すんじゃねェよ。さっき受けた傷と言い、その後遺症とも言うべき今の状態から見て、お前達2人はしばらく戦闘を控えろ。俺的には、その脚に残った傷跡が上手く消えてくれる事を祈るばかりだが……」

 メタルバードは立ち上がる事すら困難であるウラヌスとネプチューンに、しばらくの間の戦闘を避ける様に言い渡すと同時に2人の脚の生々しい傷跡が一刻も早く消えてくれる事を心から願った。

 そしてメタルバードは脚の損傷で立ち上がる事すら困難であるウラヌスとネプチューンの2人を同胞の聖龍隊士に担いで運んで貰おうと仲間達に呼び掛けた。

「おぉい、誰かーー。ウラヌスとネプチューンの肩を担いで一緒に進んでくれないか? 2人は立ち上がる事すら困難だから、誰か担いで運んでくれたら良いんだが」

 と。メタルバードが仲間の聖龍隊士にウラヌスとネプチューンの負傷した両名の移動を補助してくれるよう呼び掛けた、その時。

「あの、メタルバードくん。宜しければ私が両名を担いで一緒に歩行しますが」

「え? 猿田のおっさん……」

 自ら立ち上がれないウラヌスとネプチューンを担いで一緒に歩んでいくと名乗ったのは、意外にも聖龍隊士ではない新世代型の猿田学であった。

 更に猿田学に続いてもう一人、別の新世代型二次元人も両名の移動補助に名乗り出た。

「Fuu! それならオレも手伝うぜ! 困った時はお互い様♪ You」

 ラップ口調でノリノリな調子で名乗り出たのは、DJ.Cooこと黒川冷だった。

「おおっ、貴方も協力してくれますか。それは実に光栄です」

「何を言ってるんだい! 聖龍隊に赤塚組、助けてもらってばかりじゃ悪いじゃないか♪ こんなバケモノだらけの施設では、助け合うのが常識ってモンだろOK?」

 自分に続いて自らもウラヌス/ネプチューンの負傷組を担いで運ぶ事を名乗り出てくれたDJ.Cooに感謝する猿田学。だが当のDJ.Cooは異形の怪物だらけの状況下で助け合うのは常識だと、恩着せがましくないラッパー口調で話し返す。

 こうして猿田学と黒川冷はお互いに協力し合って歩行不能のウラヌスとネプチューンの肩をそれぞれ担いで運ぼうとする。

 しかし一人の男性が女性の肩を担いで運ぶのは、やや困難であり、どうしてもあと2人の人間が必要であった。

「困ったな、やはりお二方は両脚ともに痛手を負っている為に、両肩を同時に担いで運ぶしか手立てがないのだが……何方か、一緒に2人を移送させるのを手伝ってくれませんか?」

 猿田学は両脚に痛手を負って直立する事すら困難である2人を運ぶには、同時に2人の人間が1人の肩を左右それぞれ担いで運ばなければならないと悟り、周囲の人々に協力を煽った。

 すると猿田学の呼び掛けに1人のイタリア系新世代型二次元人が応えた。

「よし! このイタリアの伊達男リカルド・フェリーニ様も一役買うぜ。何より美しい脚に傷を負った女性を放っておくなんて、このオレの流儀に反するからな」

 ウラヌス/ネプチューンの歩行補助に買って出たリカルド・フェリーニの応答。だが、そのフェリーニの発言に彼と交際しているガンプラアイドル「キララ」ことミホシが鋭い視線を送る。そんなミホシの視線に気付いたフェリーニは彼女の機嫌を宥めながら言葉を交わす。

「って、キララ。そんなに睨まないでくれよ。俺は俺で単に困ったレディーを見過ごせない主義なのは、お前だって分かってるだろう? それにDJのオッサンが言っていただろ、困った時はお互い様って。こういう時こそ協力し合って助け合わなけりゃイケないってのが筋じゃないか。オレだって正直、護られっぱなしは申し訳ないし、少しは俺らを警護してくれてる彼女等の力になりたいだけだって」

 そう恋人のキララに言うと、フェリーニは彼女にウィンクを飛ばして愛嬌を示す。

 すると此処で鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)が配下の蟇郡苛(がまごおりいら)に命じた。

「蟇郡! 怪我を負ってしまわれた聖龍HEADの方々の補助に回れ! 貴様の体格なら軽々と担げる筈だ」

「はい! 皐月様」

 命令を受けて自らもウラヌス/ネプチューンの歩行補助に回ろうとする蟇郡苛(がまごおりいら)。だが、そんな彼に猿田学が静止の言葉を掛ける。

「いや、待ってくれ。君達は私たち新世代型の中でも数少ない戦闘可能なタイプの二次元人だ。今後も君らの戦力が必要となるのは目に見えているし、そんな君達に余計な負担は掛けさせたくない。此処は我々、戦闘に参加できない者達に任せてほしい。強いて言うなら役割分担だ、戦闘が不可能な我々が少しばかしの補助を請け負って協力し合い、君たち戦闘可能な面々は今後の戦闘に備えて体力を温存していってほしい」

「成る程、貴方の仰っている事の方が筋が通っていますね。蟇郡、此処は猿田氏の提言通り、我々は今後の戦闘に備えて体力を温存させる為、怪我人の補助は他の面々に任せよう」

「は、はい! 皐月様……」

 猿田学の提案を受けて、鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)蟇郡苛(がまごおりいら)も彼の意見に同意する。

 最後の1人が自ら名乗り出てくれない状況に猿田学やフェリーニに黒川冷が困惑していると、やっと1人の新世代型が名乗りを挙げてくれた。

「よっし! 此処は俺がいっちょ一肌脱ぎましょ……」〔ゴチンッ〕と、自ら名乗り出てくれた新世代型の青年 真鍋義久が名乗りを挙げた瞬間、彼の頭に後方から拳骨が飛んできた。

「イッタァ……誰だよ」と、真鍋が後ろを振り向くと其処には怒りの感情を面に表しているイオリ・リン子の姿があった。

「な、何なんですか。オバサン……」

 涙目でリン子に何ゆえ拳骨を頭に喰らわしたのか尋ねる真鍋。するとリン子は真鍋に怒りながら訳を話した。

「あなたね! ドサクサに紛れてウラヌスさんとネプチューンさんの身体を触ろうとするなんて、なんて破廉恥なの!」

「ぎ、ギクッ。なんで分かったの……ハッ、そうだった!」

 リン子に怒られながら真鍋は新世代型同士で経由している共有感知でリン子がなぜ自分の真意を察したのか判った。それはリン子も同じく共有感知で真鍋の下心を察していたからである。

「もうっ、真鍋君のエッチ!」〔バチッーーン〕「こ、琴浦。お前まで怒るなよ……」

 同じく共有感知は元より元々テレパシーを持っていた琴浦春香は真鍋のいやらしい下心に立腹して、思わず真鍋の頬に平手打ちを打ちかました。

 そんな真鍋義久の呆れ果てる真情を共有感知で知り得た新世代型は一気に呆れ返ってしまう。

 すると皆の呆れ果てる冷ややかな視線を一身に浴びる真鍋義久の許に、既にエロスの師弟関係を確固たるものにしている聖龍隊総長メタルバードが弟子の真鍋に声を掛ける。

「真鍋、お前の心情はハッキリ言って純粋な青少年の心意そのものだ。気に病む事など何一つないぞ」

「し、師匠……」

「だがな、ウラヌスとネプチューン……はるかとみちるだけはやめておけ」

「っ? そ、それはまたなんで……?」

 メタルバードの真剣な真顔での発言に問い返す真鍋。するとメタルバードは更に表情を真剣かつ険しい顔立ちに変貌させて強く言い放った。

「何故なら……二人は百合のカリスマだッ! 異性には全く興味を持ってはいない!!」

「〔ガァーーッン〕そ、そうか……!!」

 メタルバードからの指摘に真鍋義久はウラヌスとネプチューンが百合のカリスマという紛れもない称号を世間的に得ている事実を痛感し、相当な衝撃を受ける。

 そんなメタルバードと真鍋の相も変わらないエロス師弟トークに毎度の事ながら呆れ果て呆然としてしまう一同。

「……アッコさん。一度あの2人、徹底的にボコしませんか?」

「もう放っておきましょう。何だかツッコムのも馬鹿馬鹿しくなってきたわ」

 2人のやり取りを間近で目撃した琴浦春香はミラーガールに2人係りでボコボコに叩きのめそうと提言するも、ミラーガールの方は2人に関しては程々愛想が尽きてた。

 そんな場の一同がメタルバードと真鍋の会話に呆れ果て愛想尽きていたその時、真鍋に代わり1人の強面の青年が挙動不審ながらも手を挙げる。

「あ、あの……良かったら俺も、一緒にお2人を運ぶの手伝いますけど」

「ん、君は……」

 自ら手を挙げて名乗り出る青年に猿田学が顔を向けると、手を挙げて名乗り出たのはあの燃堂力であった。

「君は確か、燃堂力くんだったね。君も協力してくれるのかね?」

「は、はい。さ、猿田さんやDJの人が言う様に、確かに助けられっぱなしじゃ申し訳なくて……自分で良ければ少しでも何か力に成りたいんです」

 この時、猿田学やDJ.Cooそしてフェリーニを初め全ての新世代型たちが共有感知で燃堂力が心の底から人助けしたいと嘆願していると理解し、猿田学は快く燃堂の助勢を受け入れてあげた。

「ありがとう! 君の様に純粋に人の助けに成りたいと言ってくれる好青年が、まさか居てくれたとは……ホントに感謝するよ」

「は、はい!」

 この時、燃堂は猿田学の言葉に甚く感激していた。何故なら普段から困っている人の助けになりたいと自ら行動を起こしているのだが、自前の強面で無意味に恐がられたり、人助けしているのに不良紛いの行為と周囲から見なされていた為、猿田学に言われた言葉が豪く胸に突き刺さるほど感激していた。

 そして猿田学と黒川冷がセーラーウラヌスを、リカルド・フェリーニと燃堂力がセーラーネプチューンを、それぞれ肩を担いで2人係りで1人を移送する体制を取った。

「よし、これでウラヌスとネプチューンは大丈夫だな。4人とも、2人を頼むぜ」

「はい」「OK! 任せてくれよ総長さんよッ」

「フッ、野暮な事は聞かないでくれよ。俺様がレディーを手荒く扱うなんて無粋な真似するとでも?」

「ま、任せてください!」

 総長メタルバードにウラヌス/ネプチューン組の担ぎを任された猿田学/黒川冷/リカルド/そして燃堂はそれぞれ強く返答するのだった。

 

 そして一行は再び上層部への階層を目指し、先を進んでいくのであった。

 

 しばらく1本の通路に沿って突き進んでいくと、左側に鉄の扉が見える行き止まりに突き当たった。

「ふ~~む、この先を進むには左の扉を行くしかないか……」

「ま、また何かしら出てくる様な気しかしないんだが……」

 冷静な判断で先を進むには左の扉を抜けるしかないと断言するメタルバードに反して、大将は扉の先にも何かしら出現しないかと不安が過ぎる。

 と。此処でメタルバードと大将は互いに顔を見合わせると、阿吽の呼吸の如くそれぞれの思惑を察してか互いに右手を突き出すと突然ジャンケンを開始した。

 ジャンケンをし合う2人。そして結果はメタルバードの勝利で大将の負け。この結果から大将は渋々、扉の奥の確認に向かう事を承諾する。

「お前ら。ホントに何が出るか予測できねェし、気を緩めるなよ」

「大将こそ。油断するんじゃねェぞ」

 配下の幹部達に気の緩みを指摘する大将だが、逆に幹部のアツシに油断しないようにと言われてしまう。

 そしてメタルバードが扉のドアノブに手を掛け、大将を筆頭とした赤塚組が突入の体制に入る。

 メタルバードはゆっくりとドアノブを捻り、回してドアを外開きに開いた。そして扉が開いた瞬間、大将たち赤塚組は一斉に扉の内部へと突入していく。

 大将たち赤塚組の一同が扉の奥へと突入してから数秒が経った。ドアノブを捻る役に回ったメタルバードも他の一同も突入していった赤塚組の安否を気にする。

 すると次の瞬間、内部に突入していった赤塚組が一斉に外へと飛び出して来ては真っ青な顔色で吐き気を催していた。

「ウゲッ、ウオおっ……」

 内部へ突入した赤塚組の誰もが顔面蒼白となり、中には通路の行き止まりその角で胃の中の物を吐き出してしまう者も見受けられた。

 只事でない様子の赤塚組を目の当たりにして愕然となる一同。そしてメタルバードは内部に突入し、そして蒼褪めた顔色で飛び出してきた大将に何かあったのか訊ねた。

「た、大将。いったい中で何を……」

 只ならぬ様子で吐き気に襲われている大将に戸惑いながらも訊ねるメタルバード。すると大将は冴えない顔色でメタルバードに答えた。

「そ、それが……ウプッ。中に、中には……悪臭が立ち篭る程の、生き物の死骸が山の様に積まれてて……ウゲッ」

「い、生き物の死骸? それが山の様に積まれてるって……!」

 凄まじい吐き気に襲われる大将から中の様子を聞いてメタルバードは騒然となる。

 しばしの間、吐き気に見舞われる赤塚組を安静にしておいて、今度はメタルバードたち聖龍隊の面々が扉の向こうへと進入していく。

 そぉっと扉を開き、暗闇に包まれる空間からは確かに鼻に来る強烈な悪臭がツンと来た。

「ッ!」思わず鼻の穴を塞ぐ聖龍隊の面々。

 そして暗闇に光を灯すと、そこ等中に何らかの動物はもちろん人間らしき死骸の山が大量に積まれていた。

「ッ!!」「グッ!」

 その光景を前にメタルバードもジュピターキッドも、そして他の聖龍隊士も全員に激しい悪感が心身ともに走った。

 更に聖龍隊士に続いて扉を潜り抜けた新世代型の面々も、その衝撃的な光景に驚愕した。

「な、何じゃ! この死骸の山は……!」

 目の前に広がる数多の生物の死骸の山を目撃して激しく動揺するラル。

 すると胸に立ち篭る吐き気を必死に堪えながらメタルバードが現状に関して推測を立てる。

「こ、此処は……おそらく生物実験の過程で廃棄された動物や人間、そして生体兵器を排気する場所みたいだ。それにしても酷い……!」

 メタルバードは皆に現状の推測を語っている最中も目の前に広がる惨状に吐き気が募り、それを必死に堪えていた。

 だが、そんな目を覆いたくなるほどの惨状の中で一筋の地上への希望が皆の目に映った。

「あっ! アレ、階段じゃないですか?」

 チョコが指差す方に目を向けると、其処には確かに上へと続く階段が壁伝いに設置されているのが薄らと目に映った。

「よし! あの階段を上がって上へと向かうぞ! この廃棄された死骸の山ン中を進むのは少し癪だが、みんな堪えて階段を一気に駆け上がろう」

 廃棄された実験体の死骸の山を抜けて、階段で一気に上まで駆け抜けようと皆に提言するメタルバード。皆も死骸の山の中を進むのは気が引いたが、此処は敢えて我慢して階段を上がっていく提案に承諾する。

 そしてゆっくりゆっくりと一歩ずつ死骸の山の中を歩きながら階段まで進んでいく一行。先頭を行くメタルバードは死骸の山にまで気を配り、いつ何が起きても対応できる様に身構えてた。

 すると廃棄された実験体の死骸の山の中を進んでた、その最中、事態は起きた。

 何かが死骸の山の中から動く微音が皆の耳に入ってきた。咄嗟に反応した聖龍隊のミラールが音のした方角に光を照らした。すると其処には。

 何と廃棄された実験体の死骸の山の中から此方へと這いずる様に近づいてくる異形の生物の姿が其処にあった。

「きゃあっ!!」

 死骸の山から這いずり出てきた異形の生物に、新世代型のキャサリン・ルースやか弱い女子達は絹を裂く様な悲鳴を上げて絶叫する。

 だが女子達が悲鳴を上げている最中も異形の生物はその小柄ながらも奇怪な体で接近してくる。

 誰もが死骸の山から出現した異形の生物に驚愕している、その時。ミラール総部隊長が接近してくる異形の生物に向かって発砲した。

「ギャウッ」

 小柄で異形の生物は銃撃を受けると呆気なく倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。

『………………』

 突然死骸の山から出現しては蠢いた奇怪な生物に言葉を失くして愕然とする新世代型たち。

 その現状を目の当たりにしたメタルバードは皆に注意を呼び掛ける。

「気を付けろ。廃棄された実験体の中には、まだ生存している生物兵器や実験で奇形に成り果てた生物も潜んでいる!」

 メタルバードの注意を受けて一行は死骸の山から出没するかもしれない異形の生物に警戒しながら再び歩を進ませる。

 しかし死骸の山からは、生き生きと生存している一行の存在を嗅ぎ付けたのか、度々異形の生物がその不気味な姿を現し、近付いてきた。

「片付けるわよ!」

 総部隊長のミラールは配下のルーキーズのメンバーに死骸の山から続々と出没する異形の生物を始末するよう命じては、一斉に攻撃を仕掛け異形の生物を一掃してみせた。

 だが、それでも死骸の山の彼方此方では山の中で何かが蠢いている様子が見受けられ、未だに異形の生物が潜んでいる事を感じさせる。

 そんな現状の中を再び足を進ませて階段まで一気に向かおうとするメタルバード。だがその時、また新たな微音がそれも一行に接近してきていた。

「な、何だ今度は?」「何かの羽音みたいだけど……」

 何かが群れを成して接近してくる羽音に関心を惹くメタルバードとミラーガール。

 するとその羽音を唸らせて接近してくる生物は、それこそ大群で上方から地上の一行に迫ってきた。

「あ、あ……っ!」「ん、どうしたんだ、お嬢ちゃん?」

 上を見上げて激しく動揺した様な蒼褪めた顔の吉野悠姫(よしの ゆうき)に、気を落ち着かせてから遅れてやって来た赤塚組の頭領 大将が声を掛ける。

 すると吉野悠姫(よしの ゆうき)は蒼褪めた面差しで上の方を指差した。大将も彼女が指差す上の方へ顔を上げてみると、其処には大群で押し寄せてくる無数の生物の姿が視界に入った。

「あ、アレは……!」

 見上げた大将も、その他の一同も上方から大群で押し寄せてくるその生物に非常に驚愕した。

「ご……ゴキブリ!!?」『いやぁ~~~~っ!!』

 何と上方から無数のゴキブリの大群が羽を羽ばたかせて此方へと押し寄せていた。その絶景を目の当たりにした大将は激しく驚愕し、ゴキブリが苦手な女子や女性陣は凄まじい悲鳴を上げる。

 だが誰よりも迫りくるゴキブリの大群に驚愕し恐れたのが、あの斉木楠雄であった。

「ご、ゴキブリ!! しかも大群で!!」

 そんな誰よりも驚愕し、激しく鳥肌が立つ斉木に向かってゴキブリの大群は距離を縮めていった。

「う、うわあッ!!」

 ゴキブリの大群に恐れ混乱した斉木は、無我夢中で無意識の内に念力つまりサイコキネシスを使用してしまった。

「うわぁ!」

 たまたま斉木の側に居た瀬名アラタは、斉木の発動した念力の凄まじさに驚いた。斉木の念力はこの時、ゴキブリの大群に脅えていたのも影響してか凄まじいエネルギーを発して上方から飛来してくるゴキブリの大群を一気に吹き飛ばした。

「さ、斉木のあんちゃん! ちょっとやりすぎだ!」

 斉木の凄まじい念力を前に大将は力の加減が激しすぎると、斉木に訴え掛ける。

 だが斉木の念力で吹き飛ばされたゴキブリの大群は再び群れを成して飛来してきた。

「ま、また来ましたわっ!」

 ゴキブリの群集に涙目で脅える薙切えりなの一言を切っ掛けに、遂に斉木楠雄の忍耐が切れた。

「うわああッ!!」

 再来するゴキブリの群集が接近してくるのを目の当たりにした斉木は絶叫を上げたが、次の瞬間、その斉木の姿が一瞬で消え失せてしまった。

「さ、斉木くん?」

「斉木! なぁ、みんな! 斉木が消えちまったぞッ」

 突然目の前から消失した斉木に戸惑うミラーガールに、親友である燃堂力は突然目の前から姿を消した斉木に困惑し半ば混乱しながら周囲の皆に斉木の消失を訴える。

 この突然の斉木楠雄の消失に、メタルバードは即座に自身のテレパシーを駆使して姿を消してしまった斉木に問い掛けた。

(斉木、斉木! 何処に居るんだ、返事をしろ、オイ!)

 テレパシーで何度も斉木の名を呼び掛け続けるメタルバード。すると何やら脅え切った様に震える口調で斉木が呼び掛けに答えてきた。

(……ば、バーンズさん。僕ですけど……)

(おお、斉木! 良かった、消えちまったからどうしたのかと思ったが、無事な様だな。今どこに居る?)

(そ、それが……ゴキブリの群れに思わずパニックになって、咄嗟にテレポートを発動させたみたいで今自分が何処に居るのか……)

(何!? パニックになってテレポートを発動させちまっただと?)

 斉木の告白にメタルバードは唖然となってしまった。

 実を言うと斉木は幼少の頃から極度に発達したテレパシーを持ち合わせていた為、何かと人の心の内に潜んでいる人間の闇に干渉してきた為に恋愛や動物関連には一切の関心を持っていないのだ。だが、そのテレパシーを持ってしても思考が全く読めない生物として虫類を多大に嫌っており、その中でも特にゴキブリだけは絶対の嫌悪感を斉木は持ってしまっているのだ。

 それ故に大群で迫ってきたゴキブリに多大の恐怖心を覚え、無我夢中で思わず念力を発動させた挙句、再度飛来してきたゴキブリの群れを目の当たりにした斉木は混乱状態に陥ってしまい無意識に瞬間移動を発動させてしまった顛末なのである。

 メタルバードは未だにゴキブリの大群に恐怖を覚えている斉木にテレパシーで話し掛け続けた。

(斉木! どうしたんだよ? いきなり瞬間移動なんか発動させちゃって)

(じ、実は僕……昔から形状やテレパシーを持ってしても思考が全く読めない虫が大の苦手で、その中でも特にゴキブリだけは絶対ダメなんです!!)

(……………………)

 意外な斉木の弱点を知ってしまい、呆気に取られるメタルバードは失言してしまう。

 だが気を取り直してメタルバードは斉木に今自分がいる場所を伝えるよう再度テレパシーで訴え掛ける。

(斉木! お前がゴキブリ苦手なのは良く分かったよ。それじゃ、今お前が居る場所が何処なのかは解らないのか?)

(え、え~~と……)

 斉木は自身の千里眼などの超能力を駆使して、現在の自分の居場所を特定した。

(ええっと、今現在の地点は……ハッ、皆さんが居る廃棄場のちょうど真上の階層にいます! そう、階段を上りきった先の通路です!)

(何だと? お前だけで先に行っちまったって事か? 何てこった)

 斉木の現在地が今自分たちがゴキブリの群れに襲われている廃棄場の真上の階層、その最上階の扉の先にいると知ってメタルバードは唖然とした。

 しかしメタルバードは気を取り直して斉木に階段を上がった先の状況を報告する様に伝えた。

(斉木、今お前が居る所がどの様な場所なのか詳細を教えてくれ)

(そ、それが……何の変哲もない通路で、壁には扉が一つあるだけの光景です。その扉の奥こそ、皆さんが今ゴキブリに襲われてる現場の真上に位置してる階段の最上階です!)

(よし。それなら扉を開いて階段を上がった先がどうなっているか確かめてくれ)

(む、無理無理! 無理ですよ! ゴキブリだらけの空間に飛び込むなんて、そんな恐ろしいこと僕には到底出来ません! 絶対に無理です無理!!)

 扉を開けて階段を上がった先の状況を教えてくれるよう頼むメタルバードであったが、斉木は巌なに扉を開けて再びゴキブリの群れがいる空間に進入するのを拒む。これにはメタルバードも程々に呆然としてしまう。

 止むを得ず、斉木を階段を上がった先の扉の奥で待機させて自分たちは今のゴキブリの群集に襲われてる現状を突破しようとメタルバードは模索する。

 だが、群がっては体に飛び付いて肉を齧り付くゴキブリの大群は一向にその勢いを衰えず群がり続ける。

「ッ、それにしても何で、このゴキブリ共は俺達に飛び付いてくる訳だ!?」

 群がるゴキブリに悪戦苦闘するメタルバードの傍らで、ゴキブリの大群に巨大な鉈を振り付けて応戦してる大将が何ゆえ自分達に飛び付いてくるのか疑問に思っているのを聞いたメタルバードは自分なりの解釈を話した。

「多分このゴキブリは廃棄されたウィルス感染の実験体の屍を食っちまったんだ! だからウィルスの影響で攻撃性と凶暴性が増して、生きた人間にも襲い掛かってくる様に変異しちまったんだよ!!」

「うぅ……夢に出てきそう」

 メタルバードの解釈を傍らでゴキブリの大群を薙ぎ払っていた赤塚組の秋夏子は、弱々しい面差しで悪夢に出てきそうなゴキブリの大群に苦戦する。

 だが最悪な事に、一行がゴキブリの大群に苦戦している最中も廃棄された屍の中から異形の生物が出没し、接近してきた。

「きゃあ! また何か出てきた!」

 死骸の山の中から出没する異形の存在に彩瀬なるが悲鳴を上げる。

 上空からは生きた人肉を喰らいつくゴキブリの大群、地上からは死骸の山から出現する異形の生物。全く以って挟み撃ちの状況に追い込まれ、苦戦を強いられる一行。

 と。此処でメタルバードが仲間達に指示を出し、地上の死骸の山から出現する異形の存在だけでも片付けようと思い立った。

「か、火炎部隊! もう死骸の山から何が出てきても可笑しくない! 出来損ないとはいえ危険な生体兵器だ、死骸の山を焼き尽くせ!」

 総長メタルバードの指示を受けて、炎系能力者たちは一斉に付近の死骸の山に火を放つ。

 強烈な火炎は見事に死骸の山を焼き尽くし、同時に死骸の山から出現する異形の生物も火達磨にしてみせた。

 一方、上空から飛び付いてくるゴキブリの大群に鉈やナイフを振り回し応戦してた赤塚組はキリがないほど押し寄せる群集に悪戦苦闘してた。其処で赤塚組の頭領 大将はゴキブリの大群に向かって思い切った行動を取る。

「こ、これでも喰らえッ」

 ゴキブリの群衆に襲われながらも大将は装備していた手榴弾を廃棄場の角に向けて投げ付けた。すると手榴弾は爆発し、その衝撃でなのかゴキブリの大群の大半が気絶し下へと続々と落下していった。

 だが、ゴキブリの群集は未だ勢いを衰えず群がっては一行に襲い掛かる。

 此処で遂にゴキブリの大群による数での猛攻に堪え切れなくなったメタルバードは同じHEADの獅堂光と鳳凰寺風に言い放った。

「光、風! お前達の緋焔の舞と風の怒りで、ゴキブリ共を一掃してくれッ」

「分かった!」「分かりましたわ」

 メタルバードの提案で、光は赤い炎の竜巻を巻き起こす緋焔の舞を、風は敵を激しい風の障壁の中に包み込む風の怒りを発動させる。

 すると風の風の怒りと光の緋焔の舞が一体化し、目の前に風の障壁に包まれた巨大な炎の竜巻が発生し、ゴキブリの大群を吸い込んでは一気に焼失させていく。

「す、スゲェ……」

 光と風の合体魔法の凄まじさに圧巻する大将。そしてみるみる内にゴキブリらは風の威力を加算されて威力を増した炎の竜巻に巻き込まれては焼失していくのだった。

 そして粗方のゴキブリを一掃させた直後、メタルバードは周辺の皆に即座に指示を飛ばした。

「よし、今の内だ! 一気に階段を駆け上るぞッ!」

 メタルバードの掛け声を合図に、先頭に言い出しっぺのメタルバードが先導しつつ一行は駆け足で階段を上っていく。

 皆が駆け上る階段は、およそ3階分の高さまで上に続いており、皆は息を切らしながら階段を駆け上っていく。

 しかし先ほどの大将が投げた手榴弾で気絶し、階段に落下したゴキブリを踏み付けながらの進行に新世代型の女子達は多大な嫌悪感を覚えてた。

「うぅ……ゴキブリを踏みながら進むなんて」

「我慢しろッ。此処で立ち止まったら後がない!」

 ゴキブリを踏み付ける際のブチュブチュという何とも気色悪い感触に今にも涙を零しそうな面構えになる薙切えりなに、エンディミオンが堪えるよう言い付ける。

 だが此処で問題が発生した。先ほどメタルバードの指示で焼き尽くした死骸の山から発生した数多の生物の死骸が焼ける異質な臭いの煙までも上がってきて、階段を駆け上る一行を苦しませる。

「うっ、苦しい……」

「余り息をしない方が良い。ハンカチやタオルで口を塞いで、なるべく煙を吸わないよう進んでいくんだ」

 死骸が焼ける悪臭漂う煙の中で息苦しくなる鹿島ユノたち立ち篭る煙の中で苦しむ新世代型の人々にジュピターキッドがハンカチ等の布類で口を被い煙を余り吸い込まないよう呼び掛けながら共に階段を駆け上る。

 次第に焼ける死骸の山から立ち篭る煙が充満していく状況の中、煙で眼が沁みたり息苦しくなる中で懸命に階段を上っていく一行。

 そして遂に階段を上り切り、階段を上がった先の扉へと辿り着けた。

 だが此処で新たな問題が発生した。何と扉には鍵がかかっているのか開かなかったのだ。

 既に煙が最大にまで充満している状況下で何とか扉を抉じ開けようと奮闘するメタルバード。だが扉は一向に開く気配がなかった。その最中も炎に包まれる死骸の山から発生した煙が充満していき、皆の呼吸が侭成らない現状へと追い詰められていた。

 開かない扉に困惑するメタルバード。だがその時、メタルバードはある事を思い出し咄嗟に扉を激しく叩き続けた。

「斉木! 斉木! 其処に居るんだろ? 返事をしてくれ、斉木!」

 メタルバードは先ほど大の苦手なゴキブリの大群に迫られ、突発的に瞬間移動を発動させて階段を上がった先の扉の向こうまで移動してしまった斉木楠雄に声を掛け続けた。

 何度も何度も扉を叩き、扉の向こうにいる筈の斉木に呼び掛けていると、ようやく扉の向こうから声が返って来た。

「ば、バーンズさん?」

「斉木! 良かった、まだ其処に居てくれたんだな! 頼む、そっちからドアの鍵を開けてくれッ」

 斉木に扉の鍵を開けるよう頼み込むメタルバードであったが、当の斉木は態度を豹変させて言い返してきた。

「だから無理ですって! 何度いえば解ってくれるんですか! 僕はゴキブリだらけの空間と自分の空間を一緒にしたくないんですよッ!!」

「大丈夫だ! ゴキブリは全部、炎の竜巻に巻き込ませて一匹残らず焼き尽くしたし、オマケに死骸の山も焼き尽くした! だけど炎で焼き尽くした死骸の山から発生した煙でみんな苦しがってんだ! 頼む斉木、このままじゃみんな煙で窒息しちまう!」

 メタルバードの必死の訴えを聞いて、斉木はゴキブリが既に全滅していると言う言葉を信じて扉のドアノブに手をかけ、開けようと試みた。

 しかし「だ、ダメです! 此方側も鍵が掛かっていて開きません。それこそ鍵が無いとドアは開かない構造です」と、ドアノブに手を架け捻り回そうとした斉木は鍵が無ければ開かない事を向こう側のメタルバードに伝えた。

 するとメタルバードは超能力者である斉木に言った。

「そ、それじゃ斉木。お前の念力とかで鍵を開けられないか? お前の能力でドアを開けてくれ」

「し、しかし。上手くいくかどうか……」

「頼む! 一応は試してくれ! このままじゃ本当にみんなが煙で窒息して死んじまう!」

 メタルバードの必死の嘆願に斉木はダメ元で超能力を駆使し、最初にドアノブ内の構造を熟知した上で念力で細かな作業を施して鍵を開錠しようと試みる。

 しかし先ほどのゴキブリの大軍勢による混乱と、メタルバードに急かされる余り上手く鍵の開錠が出来ずにいた。

「頼む斉木! みんな、もう限界だ……!」

 生憎にもメタルバードは全身の細胞を隈なく金属化している完全金属生命体と化しているため充満する煙を吸わずに平然さを保っていられているのだが、他の聖龍隊士や赤塚組そして新世代型の面々は狭い階段の通路幅で立ち往生してしまい同時に充満する煙で呼吸が息苦しくなっては朦朧とする者までも現れ始めた。

 そんな切羽詰った状況の中で必死に鍵の開錠に精を出す斉木。そして。

 ガチャッという音が聞こえ、それと同時に斉木は扉向こうのメタルバード達に言い放った。

「鍵が開きました! 早く」

 斉木がその一言を発したと同時に彼は開錠した扉を開けて、皆を自分が居続けた通路へと誘った。

 すると扉が開いた瞬間、狭い階段幅で立ち往生して詰まっていた一行が通路に傾れ込み、一気に通路には大量の人混みで埋め尽くされた。

 そして全員が通路へと脱出したのを確認したジュピターキッドが急いで扉を閉めるよう言い渡す。

「早く! 扉を閉めるんだ、煙がこっちにも来る前に。早く!」

 ジュピターキッドの緊急の発言に、扉の傍らにいた赤塚組の幹部である山崎貴史が急いで扉を閉める。

 

「ハァ、ハァ……み、みんな。無事かぁ」

 焦り過ぎた為に息を切らしたメタルバードの問い掛けに、扉を潜り抜けて通路に飛び出した一同は一斉に返答した。

『はい、平気です』

 皆の返答を聞いたメタルバードは若干の安堵感に浸りつつ、先に階段向こうの通路に瞬間移動しては急いで鍵の開錠に専念してくれた斉木に声をかける。

「さ、斉木。ホントにありがとな。お陰で助かったぜ」

「は、はい……此方こそ、勝手に瞬間移動で1人だけ先に進んでしまって済みませんでした」

 斉木に礼を言うメタルバードに反して、斉木の方はゴキブリの大群に混乱したとはいえ1人だけで先に移動してしまった事を謝罪する。

 一方で、1人だけで先に移動した斉木に新世代型の女子達が文句を言いに来た。

「ちょっと彼方! 1人だけ瞬間移動で逃げるなんて卑怯ですわよ!」

「そうですわ! 私達だってゴキブリには泣くほど怖がっていたのに、自分1人だけで先に行っちゃうなんて!」

 発作的とはいえ1人だけで瞬間移動で逃げ出した斉木に立腹し文句を言い立てる薙切えりなに花園まりえ。だが二人の女子に文句を言い付けられる斉木は身を震わせて己なりの事情を自ら語った。

「ほ、ホントにゴメン……む、昔からテレパシーでも思考が読めない動物とかは余り苦手で。特に形状なんかでも読み解けない虫類が一番ダメで、その中でもゴキブリだけは反射的に拒絶しちゃうんだ……!」

 斉木の心からの謝罪と絶対的なゴキブリへの恐怖心と嫌悪感を共有感知で知り得た新世代型の女子達は、それ以上斉木に文句を言う事はなかった。

 すると此処で斉木の親友である燃堂力が、床に座り込む斉木に優しく話し掛けてきた。

「斉木、大丈夫か? かなり顔色が優れないけど……」

「ね、燃堂……ああ、少しは落ち着いたから大丈夫。でもゴメン、1人だけで先に行ってしまって」

「いやいや。あんなゴキブリの大群に囲まれちゃ、ゴキブリ嫌いの奴なら誰だって逃げたくなっちまうよ。それにしても……まさか斉木、お前が此処までゴキブリ嫌いだったなんて初めて知ったぜ」

「そ、そういや……話してなかったっけ。いやぁ、ゴキブリだけはホントに駄目で」

「まぁ、そう言う俺だって苦手と言やぁ苦手だから気持ちは解らなくも無いけどな。責めて殺虫剤でゴキブリを弱らせてからティッシュで鷲掴みにした後、トイレで流すぐらいしか出来ないし」

「そ、それだけでも十分立派だよ。僕なんか見るのだけでも精神的に駄目で、ティッシュ越しとはいえ掴むなんて動作できっこない……」

「は、ははは……ホントに斉木はゴキブリが駄目なんだな。まぁ、普段から口数の少ない斉木が人並みに苦手なものが有ったって事が解って、少しは親しみやすさが増したけどな」

 ゴキブリだけは絶対的に苦手と論する斉木の言い分に苦笑しながらも、彼の人間染みた感情を目の当たりにした燃堂は心成しか穏やかな心境に浸るのだった。

 そして床に地べたに座り込む顔の血色が冴えない斉木に燃堂は手を差し伸べ、斉木は自分に差し伸べてくれた彼の手を掴むと、燃堂はそのまま斉木を立ち上がらせて勇気付けた。

「それじゃ、俺はまたフェリーニさんと一緒にネプチューンさんを担がなきゃいけないからコレで。斉木、こんな怪物だらけの場所じゃ誰だって怖い思いをするのは同然だ。だけど俺達には、英雄集団 聖龍隊に国連が認めた荒くれ者の一派 赤塚組が付いているんだ。だからきっと、みんな無事にこの不気味な施設から出られる筈さ。元気出せ」

「燃堂……ああ、その通りだな。ありがとう」

 燃堂の心からの激ましに斉木は心の底から有難味を感じ、感謝するのであった。

 だが一方で、新世代型達は各々の真意が丸解りしてしまう共有感知を通じて、斉木を励ます燃堂の異常な点に気付いてしまう。

(あの燃堂って男の子、お友達の斉木楠雄くんが超能力者だって、まるで気付いてない……)

(それ所か、未だに斉木が目の前で駆使している超能力を目撃しているにも関わらず、何も気付く気配がないというか、頭の回転が追い付いてないと言うか……)

 それは燃堂力が目の前で超能力を駆使し続けているにも関わらず、未だに斉木楠雄が超能力者である事に気付いていない点であった。それもただ単に気付いてないと言うよりも、超能力だと言う事を認識する以前に頭の回転が追い付いてない異常な程の鈍さと云うか、簡潔にいえば余りにも馬鹿に近い思考の持ち主である事に、新世代型の美都玲奈や真鍋義久ら新世代型達は唖然としてしまう。

 だが、それ以上に合点がいかない燃堂の事で新世代型たちに衝撃を走らせる事実が皆の脳裏に電撃の様に迸った。

(だ、だが何よりも! 私たち新世代型は今、共有感知でお互いの思考が包み隠さず知れ渡っているのに、この燃堂という青年に関しては全く思考が読めない!)

(何も考えてないだと!? いや、少なからず人間には欲望や邪念といった雑念が少しばかりは常に心中にあるのが通常なのに、この燃堂って奴だけは頭の中も心中も見事なまでに空っぽ! 完全に真っ白な空白の心情を維持している!!)

 そう、新世代型達は共有感知でお互いの思考を知り得てしまう現状だというのに、燃堂の場合のみは彼自身の脳内や心中が全くの空白で何も考えてない心情を維持している現実だった。本来は人の心には少なからず欲望や邪念といった雑念が全く無い【無心無念】の境地に至っているのだった。猿田学や黒木場リョウら新世代型一同は、この様な燃堂の異常な精神に動揺を抑え切れなかった。

 すると、そんな燃堂の通常の人間とは全く異なる心情を良く知っている斉木が、燃堂以外の新世代型たちにテレパシーを通して伝えた。

(みんな、燃堂は昔からこういう奴なんだよ。この僕ですら唯一心が読めない人間で、何を考えているのか全く見当も付かない奴なんだ。けれど、基本的には良心的な奴で凄くイイ奴である事は確かだ。凶悪極まりない面構えから君たちテレパシーを持ち合わせてない一般の人間からしてみたら見た目的に恐がられたり距離を置かれてしまうけど、実際は悪事など全く思いつかない程の善人なんだ。確かに彼の思考が読み取れない分、何を考えているか解らない所謂ミステリアスバカなんだけど僕にとっては数少ない親友なんだ。大丈夫、彼は心から困った人を見捨てられない人間だから安心してくれ。普段は見た目のせいで行った善行が悪行にされてしまう点があるけど、今の君達なら共有感知で燃堂が根っからの悪人でなく真逆の善人だって解る筈だ)

 燃堂の心意をテレパシーで伝える斉木の口調から、彼が如何に燃堂という人間に対して友好的でかつ信頼しているか他の新世代型達は斉木の話に理解を得た。

 

 その後、一行はゴキブリによる混乱とそれによる疲労、そして煙が充満する空間からの脱出で息苦しかった呼吸を整えるため一時の休憩に入る。

 そして疲労が大分解消され、呼吸も少し安定した一行は再び地上を目指して階段から抜け出た通路を突き進んでいくのであった。

 

 

 

 

[2人の科学者と小田原修司の実情]

 

 蠢く異形の実験体が出没する廃棄場さらに大群で群がるゴキブリに悪戦苦闘し、死骸の山を焼いた際の立ち篭る煙で苦しむ中、ようやく不気味で陰惨な廃棄場から脱出できた一行。

 その後、煙を吸ってしまった為に苦しがる面々を休ませた後、再び地上へと向けて歩を進める一行。

 一直線に続く細長い通路の先頭にメタルバードや大将といった首領陣が前方を警護し、その他の聖龍隊士や赤塚組の幹部等は後方に回って後ろからの不意打ちに備えて進行する。

 

 通路を進行する中、聖龍隊参謀総長のジュピターキッドは此処まで戦闘に参入してくれた新世代型の子達に感謝と御詫びの言葉を述べていた。

「それにしてもありがとう。そしてゴメンね。本来は君達も他の新世代型同様に僕等が警護しながら先導してあげなきゃイケないのに、戦闘に参加してもらっちゃって……嫌だったらホントに無理しないで護衛される側に回っていても良いんだからね」

 しかしジュピターキッドの心遣いに敬意を表しながら戦闘に参入する新世代型の1人、鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)が丁寧な口調でジュピターキッドに言い放った。

「何を言いますか。常日頃から我々二次元人の安全と平和を護って下さる聖龍隊の方々に少しでも加勢できるのなら、この鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)、逆に光栄であります! 無論、我等だけでは余り戦力に加算されませんかもしれませんが、少なからず加勢致す所存であります!」

 すると鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)に続き、纏流子も勝気な口調でジュピターキッドに言い返した。

「アタイも同じさ! そもそも護られてばっかなんて性に合わねぇんだよ。自分の敵は自分で倒すのがアタイの性分なのさ。何よりアタイと鬼龍院の仇が同じだって解った以上、こんな辺鄙な施設とっとと抜け出して同じ仇を討つまでは死ねねェしな!」

「そ、そうかい……でも、ホントに無理強いだけはしないでね」

 纏流子の勢いに圧倒されるジュピターキッドは、それでも命を粗末にしない様にと無理強いだけはしないよう言い付けるのだった。

 更にジュピターキッドは纏流子や鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)と同様に、戦闘に参加している栗山未来と名瀬兄妹にも言葉を掛ける。

「君達も怖がったら戦闘に参加しなくても良いんだからね。僕たち聖龍隊だけでも十分に戦えるんだから、一般人の君達が無理に戦闘に参加する事は無いんだ」

 しかしこれに対しても栗山未来たちはジュピターキッドに強い信念を感じさせる面差しで話し返した。

「君達も無理しなくて良いんだからね。確か君達は妖夢という一種の妖怪と戦っている人達と言うけど、今は僕たち聖龍隊が警護すべき新世代型なんだから何もしなくても大丈夫なんだからね」

 だが、これに対しても未来達はジュピターキッドに言い返した。

「大丈夫ですよ。これぐらいの戦闘、日常から経験していますので。ただ相手が妖夢ではなく生体兵器に代わっただけですし」

「私達も栗山さんと同じです。少しは自分の身ぐらい自分で護りたいんです。何事も他人任せってのは、どうも気に障って……」

「フッ、僕も栗山さんに美月と同意見です。何よりも相手はタダの生物兵器。妖夢に比べたらカワイイもんですよ。まっ、可愛いと言えば美月の方が誰よりも可愛いですけどね」

「……………………」

 栗山未来に名瀬兄妹の言い分を聞いて、ジュピターキッドは最後に語った名瀬博臣のシスコン振りに思わず失言してしまう。

 一方此方では、ジュピターキッドと同じ聖龍HEADのちせが先ほどゴキブリの大群で混乱し発作的に瞬間移動をした挙句、未だにその精神的疲労が多少残っている斉木楠雄に気を遣ってた。

「君、大丈夫? まだ顔色が冴えないけど……」

「え、ええ……もう十分、休ませて貰いましたから大丈夫です。お気遣い、感謝します」

 斉木は未だ冴えない顔色でちせに返答と同時に感謝の言葉を返した。

 しかし実はこの時、斉木は聖龍HEADですら気付く事がなかった、ある思惑を心中に秘めていた。それは。

(……しかし、当初に皆の前で念力を使ってしまったり発作的とはいえ瞬間移動を使用してしまうとは。だが何よりも新世代型同士の共有感知で僕が超能力者である事がこの場にいる新世代型全員に知れ渡ってしまった。僕が超能力者だという事は成るべく伏せなきゃいけない事だし、どうにかしないと……こうなったら最終手段だが、僕の超能力をフル活用して此処にいる人間全員の記憶から、僕が超能力者である部分だけをゴッソリ消去するしか手立てはないな。燃堂は余り僕の超能力に関してはいつもの如く頭が鈍くて認知し切れてないから省くけど、他の新世代型に以前に僕自身が超能力者だと告白してしまったプロト世代のチョコちゃん達3人、そして同じプロト世代で海道ジンも全員の記憶を隙を見て改ざんしなければ……)

 事もあろうに斉木は自身の超能力を駆使して、これまで共に行動してきた人々全員の記憶を改ざんし、自分が超能力者である事実を抹消しようと目論んでいた。

 だが、そんな斉木ですら記憶の改ざんが必要ないと認識していたのが聖龍隊の面々であった。

(……けれど聖龍隊の人達だけは大丈夫だろう。聖龍隊は元々、特殊能力者の人権を保護していく組織でもあるし能力者の個人情報の管理は万全だ。故に僕が超能力者である素性を知っていても問題はないだろう。しかし……)

 聖龍隊という組織そのものが自分の様な特殊能力者の人権保護を維持している組織ゆえに、聖龍隊関係者だけは記憶改ざんはしなくて良いと判断する斉木。だが同時に斉木の脳裏に聖龍隊の各隊士について興味深い観点がある事に、斉木は注目していた。

(しかし、さすがは聖龍隊だ。特に常日頃から戦前に身を乗り出しているこの場の人々は、全員己の心を完全に遮断している。言うなれば心つまり精神の完全防壁だ。僕や琴浦春香の様な超感度のテレパシーでも、その心意を読み解く事は不可能。今現在、エスパーなどの特殊能力者が日常的に存在している現状で、機密事項に関わる政府の高官や軍の上層部の人間にも同様の精神鍛錬術、通称精神心理密閉(ハート・ロック)と呼ばれる術で最高機密や極秘作戦などが外部に洩れるのを防いでいる。だが、その鍛錬で極限まで精神を研ぎ澄まさなければ術を得られないというのに、聖龍隊の

戦前で活躍しているこの場の人々は全員それを得ている。実に凄まじい事だ。お陰で僕が一番知りたい情報も、テレパシーを駆使して入手する事ができないし)

 斉木が聖龍隊の各隊士の心意から読み解きたい一番の情報。それは……

(なぜ、僕達の前に生み出された新世代型たちが当時の世界に反旗を翻したのか。それが最も知り得たい情報なのに。今この場に居るHEAD、ニュー・スターズ、ルーキーズ。更にこの場には居ないマン・ヒールズに村田順一さん率いるスター・コマンドーも、その時の新世代型の反旗による反乱鎮圧で戦前で活躍していたと聞く。しかし、その戦乱での記憶情報までも完全防壁で読み解く事が防がれてしまっている為、なぜ初期の新世代型達が反乱を起こしたのか……そして、その影響で今の僕たち新たな新世代型が未だに二次元人・三次元人、両方から危険視され続けているのか。その理由が全く持って知り得られない……何で初期の新世代型は反乱を起こしたんだ? そして何故、今の新世代型である僕らまでも双方の次元界から危惧されなければならないんだ……!)

 斉木は何ゆえ、初期の新世代型達が世界に反旗を翻したのか。その反乱以降に生み出された今の自分たち新世代型が両次元から危惧される理由を知り得たかった。何故、生み出されたばかりの自分達が凶暴な性分を持つ人間を見る様な白眼視をされなければならないのか。2013年3月以降に新たに三次元政府により生み出された新世代型の1人として、斉木は初期の新世代型の反乱に付いて知りたかったのである。

 

 その頃、そんな斉木の人知れない思惑など知る由もないメタルバードは考え事をしながら先頭を進んでいた。

「……………………………………」

 無言の面持ちで考えに耽るメタルバードの様子に、気になった大将が声を掛ける。

「どうしたんだバーンズ? 珍しく考え事に没頭している面しちまってよ」

 大将からの問い掛けにメタルバードは気難しい面持ちで答え返した。

「ああ、それがな……さっきオレ達と戦闘を繰り広げた修司のクローン。アレについて、ちょっとな」

「あの筋肉が肥大化した巨大クローンか。アレがどうした?」

「いやな。修司のクローンを大々的に研究していたクローン製造所の奥の間で見付けた3本のガラスケース。そのガラス管の下には、それぞれ試作品と記載されていたラベルが彫られてて……」

「試作品?」

「ああ、試作品MELUS素体001-DX、試作品MELUS素体002-DX、試作品MELUS素体003-DXの、おそらく造り出された修司のクローンの中でも最高傑作に近い3体だったんだろう。だが、斉木がサイコメトリーで読み取ってくれて入手した情報によれば……試作品MELUS素体001-DXと名称されたクローンは自らガラス管を打ち破って何処かへ逃亡。試作品MELUS素体002-DXと云われるクローンは黒紫の軍服を着た軍人らしい人間の手によって何処かへ運び出され、最後の試作品MELUS素体003-DXは遠隔操作で目覚めさせられオレ達を襲撃した。しかも、この003-DXはオレたち聖龍隊を敵として認識するよう暗示の様な方法で潜在意識に刷り込ませた形跡が、オレのテレパシーで判明したんだ。多分、あの003-DXは最初からオレたち聖龍隊と、そして俺達と一緒に居るみんなを襲撃させる為に敢えてあそこに保管されていたんだろう」

「し、しかし一体誰が、そんな事を……!」

「分からん。しかし斉木のサイコメトリーでは、2体目の002-DXを運び出した軍人と同一人物と思われる奴が003-DXに聖龍隊への敵愾心を植え付けたとオレは考えている。誰だが分からんが、俺たち聖龍隊と俺らと一緒に行動している此処の全員を片付けさせる為に起動させたのかもしれん。しかも恐ろしい事に、まだ運び出された002-DXも施設内の何処かで俺らを待ち受けているかもしれねェし、何より自力で脱出した001-DXって個体も未だに施設内を徘徊している可能性が安易に考えられる……それにMELUS素体と表示されていたのも気に掛かる。素体という事は、その修司のクローンを用いて何か途轍もない生体兵器を造り出そうって考えている輩がいるかもしれねェって事だ」

「つ、つまり! さっきの巨大クローンよりもヤバイ修司のクローンを利用した生体兵器が存在しているかもしれねェって事か!? 冗談じゃねェぞ、オイ。さっきの巨大クローンだけでも厄介なのに、まだ施設内には同じ様な……いや、アレ以上にヤバくて強靭な修司のクローン兵器が存在しているかもしれないのかよ!」

「そう言う事になるな。さっきの巨大クローンも、まだ完全に息の根を止めてないし、また襲ってくる可能性もなくはない。それに自力で脱出した修司のクローンも気に掛かる……大将、さっきの修司の巨大クローンなんだが、名称されてたナンバーに因んで3-DXと捕捉しよう。この先も、また襲撃してくるかもしれないしな」

「ああ、そうだな。だが、正直言って、もうあのクローンとは出くわしたくねェよ。お前ら聖龍隊でも苦戦した巨大クローンを俺ら通常の人間が普通の銃火器で対抗できるとは、到底思えないしな」

「それはオレも同意見。正直、あのクローンとはもう遭遇したくねェのが本音だ」

 メタルバードと大将はそれぞれの思想を話し合い、例の先ほどの巨大クローンを3-DXと捕捉すると共に、他にも施設内で徘徊してる可能性のある逃亡した試作品MELUS素体001-DXに何処かへ運び出された試作品MELUS素体002-DXへの懸念を募らせつつ、MELUSと呼ばれる何らかの生体兵器の素体として修司のクローンが最高傑作品として3体製造されてた可能性も視野に入れるのであった。

 

 一方、此方では新世代型同士の共有感知で全員がテレパシーを習得してしまった影響で、当初自分たちを金目当てだけで助け出し護りながら行動を共にしてくれたジェイクの素性を知ってしまった新世代型の人々が、当の本人であるジェイクと気まずい空気の中、話をしていた。

「そ、それにしても……貴方、親の事では色々と苦労していたのね」

 ジェイクの機嫌を伺いながら美都玲奈が話し掛けると、ジェイクは仏頂面の強面で話し返してきた。

「もう良いさ。親父は既に死んじまっているし、俺にとっては記憶にすらない薄情な親だ。おふくろを置き去りにした最低な野郎だと昔から思ってはいたが……まさか、それ以上の悪漢だったとは」

 記憶にすらない父親を母親を見捨てた薄情な人間と認識していたジェイクであったが、その父親がそれ以上の悪党であった事に多大な嫌悪感を覚えていた。

 そんな自分の父親に嫌悪感を示すジェイクに、ギュービッドが何気なく話し掛けてきた。

「で、でもさジェイク! アンタの極悪な親父と、アンタ自身は血の繋がりは有ってもそれだけの関係じゃないか。親は親、子は子で、アンタ自身に罪なんてこれっぽちも無いんだし気にする事なんて無いじゃないか。確かに辛い素性かもしれなかったけど、今となってはその親父も死んだ上に、それ以上前には親父さんが関与していた悪徳製薬企業のアンブレラも壊滅したんだし……どちらにしろ、これからの人生を決めるのはアンタ自身なんだ。親父さんとは真逆の人生を歩んでいけば、それで良いじゃないか!」

「先輩の仰る通りです! ジェイクさん、お父さんとは違う道を歩んでこそ、貴方は貴方の人生を正しく歩んでいけるんじゃないでしょうか?」

「ギュービッド様に桃花ちゃんの言うとおりです! ジェイクさんは本当は父親とは正反対で生物兵器を根絶する為にも、この研究施設に潜り込んだんでしょ? 立派な事ですよ」

 ギュービッドに続きジェイクに激励を飛ばす桃花・ブロッサムにチョコ。そんな3人の少女の訴えにジェイクは仏頂面な強面を変えずに無言で聞き入れる。

 すると此処でジェイクとの話に聖龍隊参謀総長のジュピターキッドも加わり、トンでもない話を始めてしまった。

「チョコちゃん達の言う通りだよジェイク。父親が大犯罪者だからって君までその重荷を背負う必要は無いんだ。確かに父親から受け継いだウィルスへの抗体は抗えないウェスカーからの遺伝ではあるけど、君はそれを利用して中国でのバイオハザード事件以降も、殲滅しきれなかった生体兵器を次々に各所で撃破してるって聞いたよ。もう父親も、その父親が所属していたアンブレラも今では過去の遺物だし、余り気にする事はないさ。まぁ、三次元界ではバイオハザードを引き起こした有名な企業として名が知れ渡ったアンブレラと同じ社名の会社が実在しているけどね」

「な!!」「そ、それってホントですか!?」

 ジュピターキッドが最後に語った実在するアンブレラの存在に驚愕するジェイクとチョコたち周囲の皆々。そしてチョコが反射的に訊き返すと、ジュピターキッドは実在するアンブレラについて語り始めた。

「ああ、三次元界でも余りにも有名なアンブレラの社名をそのまま採用した企業が今年アメリカのバージニア州で創業している。君らも周知の事だけど、バイオハザードシリーズは世界的にも人気で実写映画化もされた程の人気振りだ。その人気にあやかってアンブレラの社名と赤と白の傘の様な紋章のロゴを使用した企業が実際に商標登録されているんだ。まぁ、バイオハザードを引き起こしたアンブレラと唯一違うのは、製薬会社などではなく、銃火器のパーツを製造する企業って事だけど」

『…………………………』

 現実世界に実在するアンブレラの存在を聞いて、唖然と言葉を失くしてしまうジェイクやその他の面々。

 と、その時。自分達がジェイクや彼の父親、そしてその父親であるアルバード・ウェスカーについて話を聞いている際、ギュービッドがある事を思い出してはジェイクに尋ねた。

「あっ、そういや……なぁジェイク。確かアンタ、此処の研究施設で生物兵器の開発や研究が行われてるのを知り合いから聞いて、それで潜り込んだって言っていたけど、その知人ってのは……」

「ッ…………」

 ギュービッドからタイの都市部の地下研究施設で生物兵器の研究や開発を伝えた人物に付いて指摘されたジェイクは、突然口を噤んで何も話そうとしなくなってしまう。

 そんなジェイクの様子に気付いて、ジュピターキッドが不意にジェイクへとある人物の名を口に出した。

「シェリー・バーキンでしょ。どうせ」

「ああ、シェリーから聞いたんだが……あ」

 不意に名前を口に出されて、反射的に自身もその事実を認可してしまったジェイクは呆気に取られる。

 そしてジェイクが呆気に取られている最中に、ジュピターキッドが口に出しジェイクも自然と同意してしまったシェリー・バーキンという人物に付いてチョコ達プロト世代を含む新世代型の面々が質問攻めしてきた。

「しぇ、シェリー・バーキンって誰?」

「何だか女性の名前みたいだけど」

「ジェイクとは、どういった関係なの? ねぇ!」

「もしかして、もしかすっと。ジェイクの恋人か!?」

 質問攻めしてくる面々に、ジェイク本人は次第に厳つい顔を赤らめていく。

 すると明らかに赤面しているジェイクに代わって、ジュピターキッドが皆の疑問の的になっているシェリー・バーキンについて語り始めた。

「シェリー・バーキンってのは、現在はアメリカの諜報機関に身を置いているエージェントの女性さ。例の中国でのバイオハザードの折にも僕らと共闘戦前を如いてくれた心強い女性なのさ。そもそも彼女の初めての任務が実はアルバード・ウェスカーの実の息子であるジェイクの保護だったんだよ。それでジェイクとは顔馴染みになってるって訳さ。かのラクーンシティでの事件でウィルス兵器の一種G-ウィルスを体内に植え付けられてた事で長い間、アメリカの監視の下で軟禁状態に置かれていたけど、彼女に対する脅威がようやく消滅した事からエージェントになる事を条件にようやくある程度の自由を得られる生活に戻れたんだ。中国のバイオテロ以降も、アメリカで元気にやっている筈だよ」

 ジュピターキッドがシェリー・バーキンの現在事項を語っている最中、ジェイクは何やら気まずそうに皆から視線を逸らしていた。

 だが、シェリーの話を聞いた新世代型達は益々興奮してはジェイクに質問攻めをしていった。

「なぁなぁジェイク! そのシェリーってエージェント、美人なのか?」

「もしかすると、もしかして! ジェイクとはイイ関係なの?」

 男女共に訊き続けてくる新世代型達の問い攻めにジェイクは痺れを切らして赤面の強面で突っ返した。

「ち、ちげェわ! そんな関係な訳、ないだろうが! そもそも、あんな乳臭ぇ女なんか興味の欠片も無ェわ!!」

「乳臭いって……そんなに幼いというか、童顔なのか? そのシェリーって女性」

 ジェイクの反論に疑問を浮かべる真鍋義久ら新世代型たち。すると其処に再びジュピターキッドが声を掛けながら1枚の写真を懐から取り出しながら皆に見せつけた。

「まぁ、確かにジェイクの言い分にも一理あるね。彼女はとっても若々しい。ホラ、これがシェリーだよ」

 そう言いながらジュピターキッドが懐から取り出して皆に見せつけた写真には、金髪のショートカットの麗しく若々しい女性が写っていた。

「わぁ! これがジェイクを保護する任務を請け負った女性エージェントのシャリー・バーキンっすか!? めっちゃ美人!」

「スゲェ! こんな若くて美人のエージェント、ホントに居るんだ! てっきり映画の中だけの存在だとばっか思ってたわ!!」

 シェリー・バーキンの写真を見た途端に目の色を変えて興奮しまくる新世代型の男子たち。そんな男子たちを前にして女子たちは程ほど呆れてしまう。

 だが此処でシェリーの写真を取り出したジュピターキッドにジェイクが怒声で文句を言いかがって来た。

「おいテメェ! なんでシェリーの写真なんか持ってるんだよ! しかも都合よく!!」

 余りにも都合よく手元にシェリーの写真を持っていたジュピターキッドに怒り付けるジェイク。だがそんなジェイクの怒りに満ちた赤面を前にジュピターキッドはニヤニヤしながら言葉を返した。

「アレレ? やっぱ気になっちゃうのジェイクくん。まぁ、最初は彼女に対してツンツンした態度を取っていた君が徐々に彼女に心を許すようになっていき、最終的には逆にシェリーを死守していった騎士(ナイト)様ですからねぇ」

 明らかに激情しているジェイクを小馬鹿にしているような素振りで挑発口調で話し続けるジュピターキッドの言動に、ジェイクの怒りは更に募っていった。

 しかしジェイクは、まるで自分がシェリーを気に掛けている様な言い草をするジュピターキッドに反発していく。

「だ、だけどよ……まぁ、これは俺も同じウィルスの抗体持ちだから言えた義理じゃねェけど、シェリーだって随分と人間離れした体質のスーパーガールなんだぜ。俺なんかに護られなくたって簡単にくたばったりはしねェぜ」

「? スーパーガール?」

 ジェイクの発した言葉に新世代型たちが呆気に感じていると、ジュピターキッドがその理由を話し始めた。

「シェリーは幼少の頃にG-ウィルスを植え付けられただろ? まだ、そのウィルスが彼女の体内に残っている関係で、彼女の身体能力は著しく上昇し、超人的な能力を得ているんだ」

「超人的な能力って……どんな能力なんですの?」

 シェリー・バーキンの能力について関心を持った水戸郁美が尋ねると、ジュピターキッドは包み隠さず彼女の得た超人的能力について皆に話した。

「うん。戦闘に特化した能力ではないけど、致命傷を負っても瞬時に再生しスグに完治してしまう点や、またはある程度の老化が止まるといった能力が彼女の身体には現れている」

「老化が止まるって……それじゃ、彼女は今いったい……」

 老化が止まる能力を知って一驚するイオリ・リン子が尋ねると、ジュピターキッドは気まずそうな面持ちで答えた。

「それが…………実はシェリー、今はもう27なんだよ」

『27!!?』「何だとッ!」

 麗しく若々しい容姿のシェリー・バーキンが実は歳が27に達していると聞いて驚愕する新世代型一同にジェイク。

〔ガァーーン……〕

(そんな、私よりも若々しいのに27って……)

(わ、私よりもある意味、肌のキメも美貌も幼すぎるぐらい若く見える!)

(27でこの美貌と若さ! う、羨ましすぎる……っ)

(私と5つしか違わないのに、この子! 完全に10代後半か20ぐらいにしか見えないじゃないっ!)

(私と同い年って! 有り得ないじゃないの!!)

(に、27なのに私と同じぐらいにしか見えない。いや、下手すれば私より年下に見られるかも……)

 27なのに自分よりも若々しいシェリーの容姿に呆然となる美都玲奈に、一見中学生と見間違えるほど幼い顔立ちをしている小柄な34歳の汐見潤。シェリーの若々しい美貌に羨ましがる、巨乳でおっとりとした母性的雰囲気がある保母さんに近いタイプの英語教師で情報処理部の顧問、そしてあのメタルバードや小田原修司より一つ年下の松本頼子。自分とは5つの歳の差しかないのに完全に10代後半か20前後に見えるシェリーに衝撃を受ける33歳のイオリ・リン子。自分と全く同い年であるにも関わらず、自分以上に素顔が若々しいシェリーに嫉妬するキララ。27と云う三十路手前の年齢なのに自分と同じ歳、または自分より年下にも見えるシェリーに愕然とする宮内れんげの姉で旭丘分校の教師、 ポニーテールの糸目キャラの24歳の宮内一穂。

 だが、そんな女性達の間近で人知れずジェイクも同じ様に衝撃を受け、壁に向かってしゃがみ込んでいた。

 こうして一部の新世代型の女性達はシェリーの異常なまでの若さの保持具合に衝撃を受け、驚愕してしまう。しかし同時に彼女達はジュピターキッドにシェリーの老化が止まった要因であるG-ウィルスについて問い詰め出して来た。

「あ、あの……」「な、何ですか?」

 ゴマを擂る様な素振りで歩み寄ってくる女性たちに半ば圧倒されかけるジュピターキッドが何事かと訊き返すと、女性達は一斉にジュピターキッドに言い切った。

『そのG-ウィルスって、いくらぐらいで手に入ります?』

 なんと老化防止と若々しい美貌欲しさにウィルスを求めてきたのだ。これにはさすがのジュピターキッドも呆れ返った。

「って! ウィルス欲しがっちゃイケないよ! シェリーだって好きでウィルスを植え付けられた訳じゃないんだし、それにね……」

 ジュピターキッドは女性達と話しながら懐からシェリーの写真とは別の写真を取り出して見せ付けた。

「下手したら、こうなるよ」

 ジュピターキッドが女性達に見せ付けた写真、其処に写っていたのは……右腕が肥大化した上に肩の部分に巨大な目玉が一際目立つ異様な容姿の白衣の不気味な男性であった。

「こ、これは……」

 異様な容姿の男性の写真を見て蒼褪めた顔で訊き返すイオリ・リン子。ジュピターキッドは彼女達に写真に写っているのが誰か、そして何故この様な異形の姿に変貌したのかを話した。

「この人はね、実はシェリーにG-ウィルスを植え付けた張本人で、かつシェリーの実父であるアンブレラの研究員だったウィリアム・バーキン。ラクーン事件の際に自らG-ウィルスを投与した結果、この様な異形の姿へと変貌してしまったんだよ」

『……………………』

 ウィルスを植え付けられたシェリーの実父にして、ウィルスを娘のシェリーに植え付けた張本人でもあるウィリアム・バーキンが、自身にG-ウィルスを投与して変わり果てた異形の姿を目にして言葉を失う女性達。

 すると其処に先ほどまで壁に向いてしゃがみ込んでいたジェイクがやって来て、ジュピターキッドが取り出して皆に見せているウィルスで変異したシェリーの父親の写真を覗きに来た。

「これが……シェリーの親父さんか」「ジェイク……」

 先ほどの何らかの衝撃を受けて失意していた様子とは一変し、険しい面持ちでシェリーの父親の変わり果てた姿を目に焼き付けるジェイク。そんなジェイクを見てジュピターキッドが声を掛ける。

「ジェイク、確か君も既にシェリー本人から聞いていたんじゃ。自分の父親がウィルスの研究者で、そのウィルスを自身に投与して怪物になってしまったって……」

 このジュピターキッドの質問に、ジェイクは何処か顔に影を潜めながら答えた。

「ああ、バイオテロの時も、その後の何度かの連絡でもアイツの親父の事は聞いていたさ。だけど、その現物を見るのは初めてでな。まさかシェリーの親父が、こんな化け物に変異しちまっていたとは……」

 シェリーの実父の成れの果てを目にして、何処か悲しげな雰囲気を醸し出すジェイク。おそらくこの時、ジェイクは自分の父親とシェリーの父親を重ねていたのだろう。

 しかし、このジュピターキッドの話を聞いて星原ヒカルが一つの疑問をぶつけた。

「で、ですけど……いくらウィルスで人格なども変化していたかもしれなかったって、実の娘に自らウィルスを植え付けたんですか? そのウィリアム・バーキンって研究者は……」

 これに対しジュピターキッドは、ウィリアムが自らG-ウィルスを研究・開発し、そして自らに投与した後に娘へウィルスを植え付けた経緯やその後のシェリーについても皆に語り明かした。

 

 G-ウィルス。それは無限の進化・変異をもたらすという画期的な特性を持っていたが、同時に安定性に欠けるウィルスであった。安定した生物兵器を開発するという製薬企業アンブレラの目的にはそぐわないものであり、リスクばかりが高い代物であった。その為バーキンが研究に没頭してしばらくすると、アンブレラはG-ウィルス研究の停止を求めるようになった。

 しかし、バーキンはG-ウィルスの持つ無限の可能性に取り憑かれており、アンブレラの要請を拒否。両者の衝突は、ラクーンシティ全体がT-ウィルスによるバイオハザードが波及した際に、アンブレラが特殊部隊を派遣しバーキンを襲撃する、と言う形で幕を下ろした。

 だが、死の間際にバーキンは最後の抵抗としてG-ウィルスを自らの体に注射した。

「わ、私には……Gがある。無限の進化を、可能性を秘めたGが……!」

 自らにGを注射したウィリアムは異形のG生物と化して特殊部隊を襲い、1名を残して部隊を全滅させてしまった。

 G-ウィルスはその不安定性ゆえに生物兵器の作成には用いられなかったため、これがG-ウィルスが戦闘を目的として生物に利用された初のケースとなった。

 だがG-ウィルスによる変異の末に自我を失ったバーキンは、無限に変異を繰り返す怪物となり、以降は生物にあって当たり前の繁殖本能から、遺伝子的に近い実の娘、当時12歳のシェリー・バーキンに胚を植え付ける為に執拗に彼女を狙うようにまで成り果てた。

「シェリ~~~~~~~~」

 そしてウィリアムは、遂に娘であるシェリーに胚を植え付け、シェリーの命を危険な状態にまで追い込む。だが当時、ラクーンシティに配属されたばかりの新人警官であったレオン・S・ケネディと後のBSAA隊長に昇格するクリス・レッドフィールドの妹クレアの手によってG-ウィルスのワクチンを投与され危機から脱した。

 その後、レオンとクレアの2人によって第5形態にまで変貌を遂げたウィリアムは撃退され、ラクーンシティの滅菌作戦によるミサイル投下の爆発に巻き込まれ完全に消滅した。

 だが、これで話は終わらなかった。

 その後、シェリーと彼女を救ったレオンはアメリカ政府に保護の名目で連行されてしまう。

 アメリカ政府はレオンに、こう告げたと言う。

「我々は君とあの娘をなんとでも出来るという事だ」

 この政府の脅迫紛いの警告にレオンは反発した。

「シェリーはよせ、あの子に罪はない」

 G-ウィルスを研究していたのも、そのウィルスを彼女に植え付けたのも全ては両親でありその子供であるシェリーには何の罪もないと訴える。だが政府は強固な姿勢を崩さず、シェリーと共に連行したレオンに対し、シェリーの扱いについて丁寧な口調で当時のシェリーの状態とレオンの行動に関して告げた。

「あの子は貴重なG抗体を宿している。安心しろ、乱暴には扱わんさ。率直に言うと……君を高く評価している」

 政府はゾンビだらけのラクーンシティで生き延びた上に、貴重なG-ウィルスの抗体を持っているシェリーを護り抜いたレオンの戦歴を高評価していた。

 そして最後に政府はレオンに最終宣告とも言える発言を述べた。

「話を穏便に済ませるなら選択は1つだ……我々の側につけ」

 こうしてレオンは合衆国政府の裏側に身を置く様になり、同時にシェリーはその身をアメリカ政府に保護される名目で政府の管轄内で様々なウィルスの被験体として利用されながら長い軟禁生活を余儀なくされたのであった。

 

『………………………………』

 語られたシェリー・バーキンの今に至るまでの経緯を初めて知った新世代型や赤塚組に1部の聖龍隊士は余りの衝撃的な過去に絶句してしまい、彼らと同じく話に耳を傾けていたジェイクは後半の内容について激しい苛立ちを覚えていた。

「……つまりアレかよ。シェリーは保護されるって名目で、政府のお偉いさん方に好き勝手に体を弄られまくったって事かよ」

 腹の底に暗雲が広がるかの如く激しい鬱憤が堪っていく激情を厳つい顔に発しながら問い詰めるジェイクの台詞に、メタルバードが険しい面持ちで語り返した。

「確かに、言い方を変えればそうなるな。シェリーは他に有無もないG-ウィルスの抗体を体内に持っていた為、身の安全を保障される代わりに様々な実験を繰り返されながらエージェントになるまで長い軟禁生活を過ごしてきた訳だ」

 このメタルバードの語ったシェリーへの政府の応対にジェイクは激怒した。

「何が身の安全を保障するだ! そんなのシェリーをタダのモルモットにするだけの口実じゃねェか! しかも、いっくらウィルスの影響で特殊な身体能力を得ているからってエージェントになるのを条件にある程度の自由しか得られないなんて……自由の国アメリカが良く言えるぜ! 言っちゃァ何だが、俺やシェリーの親父が所属していたアンブレラと何ら変わりないじゃないか!!」

 シェリーの扱いに対してジェイクは、シェリーを保護の名目で軟禁させつつ様々な実験に利用した挙句、エージェントになるのを条件に多少の自由しか与えないアメリカは今は無きアンブレラと殆ど同じだと主張する。

 これに対してジェイクの激情を目の当たりにしたジュピターキッドは落ち着いた様子で話し返す。

「そう言わないでくれよ。確かに扱いに対しては多々の不満はあるかもしれないけど、彼女の母国でもあるんだからね」

 アメリカのシェリーへの扱いは確かに不満があるが、同時にアメリカはシェリーの母国である事をジェイクに伝えるジュピターキッド。

 更にジュピターキッドに続いてメタルバードが険しい面持ちでジェイクに話し掛ける。

「それにな、ジェイク。シェリーがアメリカにしか身を置けなかったのは、彼女の身が本当に危ぶまれていたからなんだ。アメリカ政府はシェリーを用いた実験を行うのと引き換えに、軟禁状態ではあったが彼女に対する脅威から確実に保護してくれていたんだよ。シェリーがエージェントになったのも、その時には既に彼女にとっての最大の脅威が消滅したからこそ、エージェントと云う職種ながらも自由を与えて貰えたんだよ」

「その脅威って何なんだよ……! 軍事大国アメリカに護って貰わなきゃ成らない程の脅威だったって言うのか?」

 メタルバードの発言に鋭い眼光で睨み付けながらジェイクが脅迫並みに問い詰める。

 このジェイクの疑問に対し、メタルバードとジュピターキッドは複雑な心境の下ジェイクに事の真意を言った。

「……ああ。正直、アメリカと云う巨大な国家の力添えが無ければ確実にシェリーはウィルス実験を嫌と云うほどさせられた挙句、様々なバイオテロに利用されてしまってただろう」

「アメリカと云う国家にしか護り切れない強大な脅威……それはジェイク、君と最も深い関係に当たる人物だ。そう、君の忌まわしき血を受け継がせた張本人……シェリーの父親、ウィリアム・バーキン同様にアンブレラの下で研究していた、あの男から護る為にもシェリーは、そしてレオンは仕方なくアメリカ政府に身を置く事しか選択肢はなかったんだよ」

「…………っ! それじゃ……」

 メタルバードとジュピターキッドの神妙な話を聞いてジェイクは自然とシェリーにとっての最大の脅威が何だったのか理解した。そしてジェイクの思考を共有感知のテレパシーで自然に読み取ってしまった新世代型達も、ジェイク同様にシェリーの脅威が何だったのかを周知してしまった。

 それは他の誰でもない、ジェイクに全てのウィルスの抗体という呪われた血を受け継がせた彼の実父。ウィリアム・バーキン同様にアンブレラの研究員であった、あのアルバード・ウェスカー本人だという事実に。

 ジェイクは結局、シェリーを軟禁に追い込まなければ護り切れなかった脅威が自分の忌まわしき父である事を知り、失然となった。

 

 そんな自分の父親が原因で長い間、軟禁生活を余儀なくされたシェリーの真実を知り、失意に駆られるジェイクにジュピターキッドが歩み寄っては彼の肩を軽く叩いて励まして上げた。

「大丈夫だよジェイク。確かに君の父親が原因でシェリーが不自由な半生を送ってきたのは変えられない事実だ。でもそれはそれ、これはこれだ。君は君で今を懸命に生きていけば、それで良いんだよ。シェリーだってG-ウィルスの件を除いても、やっぱ両親共にアンブレラでウィルスの研究を行っていたって過去が有るけど、それを受け止めつつ背負いながら一生懸命いまを生きている。君も、そんなシェリー同様に親が酷かろうが、腸が煮えくり返る様な大悪党の子供であろうと自分自身が道を踏み外さなければ良いんだから。顔も極悪非道なウェスカーに似ているって言われてるけど、それぐらいで落ち込まない落ち込まない。確かに最初に会った時から異常なまでに金にがめつくて金銭への執着心だらけで、ハッキリ言って金と自分の力以外信じない捻くれた性格の持ち主だったけど今はシェリーと知り合った事で、ちょっとぶっきら棒だけど正義感に少しだけは目覚めた青年だ。いっくら息子と言えどウェスカーとは全く違う。寧ろジェイク、君こそウェスカーの息子として生まれてしまった一番の被害者でもあるんだしね!」

「アンタ……随分と立派な説教を言ってる積りだろうけど、所々に何かえげつない台詞を混ぜているな……っ」

 ジェイクに励ましの言葉を掛けつつも、その中に何やらエグイ発言を織り交ぜながら淡々と話すジュピターキッドの台詞にジェイクは失望のどん底に叩き落された様な心境で言葉を返した。

 更にジュピターキッドはジェイクに平然と話し続けた。

「ああ、それからジェイク。この際だ、君に見せたいモノがあるんだ」

「な、何だ?」

「君の父親、アルバード・ウェスカーの姿を納めた写真だよ。どうせ父親の悪名は耳にしているけど顔とかは拝んだ事はないでしょ? 良い機会だし見せてあげるよ」

 そう言ってジュピターキッドは懐からシェリー・バーキンの写真に続いて、ジェイクの父親であるアルバード・ウェスカーを納めた写真を、ジェイクは元より周囲の皆々にも堂々と見せびらかした。

 そしてジュピターキッドが見せ付けた写真を目の当たりにした皆はもちろん、その写真に納められている父親を見たジェイクも蒼然と驚愕してしまった。

 何と写真に納められてたアルバード・ウェスカーは……金髪のオールバックに赤く怪しく光る眼、そして上半身を黒い嚢胞で覆われ心臓の部分にオレンジ色のコアが形成された上に、右腕には金属の破片が鎌の様な危険な凶器が取り付いている異形の容姿であった。

「うわーーーーーーッ!!」

 写真に納められた父の姿を目にした途端、表情を豹変させて絶叫しながら写真に向かって拳銃を乱射し出すジェイク。これには写真を取り出したジュピターキッドも周囲の皆々も驚愕し、ジュピターキッドなんぞ突然のジェイクの発砲に驚き慌てて身を反らしては銃撃から身をかわす。

「うわーーーウソだーーーーッ! 俺の親父もシェリーの親父みたいにウィルスで変異しちまったって言うのかよッ!!」

 明らかに人間の容姿から掛け離れた姿の父親の写真を前にして激しくも悲痛な絶叫の如き疑問を吐き散らすジェイクの問い掛けに、危うくジェイクの撃った銃弾に当たりそうになったジュピターキッドが詳しい事情を冷めた表情でジェイクに話し始めた。

「君のお父さんはね。君も既に知っているけどBSAAの隊長であるクリスらに追い詰められた際に、あのウロボロス・ウィルスを最後の手段として自ら大量に体内に取り込んだんだよ。いま見せた写真は、そのウロボロス・ウィルスを大量接種して半ば感情的になっていた面も重なって上半身にウロボロスの嚢胞が覆い尽くされた暴走状態の時の姿。この時の君のお父さんはウィルスに支配される所か、逆に自らの意思でウィルスを支配してしまってたんだ」

「お、親父って……人間のまま殺されてたんじゃ無かったのかよ」

 震える唇で半ば涙声で聞き返すジェイクに、ジュピターキッドは淡々とそして悠々と話し続けた。

「うん、ハッキリ言って化け物に変貌してから殺されたんだよ。その前からも君のお父さんは体内に維持していたウィルスの影響で人間の容姿を保ちながらも強烈な体術や迅速移動など、到底生身の人間には真似できない芸当をやって退け、最終的にこの姿に成ってからはそんな体術や迅速移動が行えなくなった代わりに攻撃力と耐久力は比較にならないほど向上して、嚢胞で形成された巨大な腕は数10mにまで伸び、岩盤を容易く砕くほどのパワーや右腕の金属の破片をそれこそ鎌の様に振り下ろしては足掻き抜いたって聞いているよ。確か丁度、ウロボロス・ウィルスを搭載したステルス機が墜落したのがアフリカの活火山の噴火口の内部で、其処でウェスカーは追い詰められてウロボロスを自らに取り込んじゃったんだね。ウィルスでの変身はバイオハザードシリーズでは死亡フラグだって言うのに」

「そ、それで……最後は、あのクリスっておっさんに倒されて御陀仏したって訳か? 俺の親父は……」

 再び涙声で問い返すジェイクに、ジュピターキッドはウェスカーの末路についても詳細に語り明かした。

「まぁね。でも、その前にクリス達BSAAのコンビに追い詰められた際、足場が崩れて溶岩流の中に落っこちて沈み掛けたけど」

「溶岩!!? 親父は殺されたんじゃなく、溶岩に呑み込まれて死んだって事か!?」

「いいや。これがかなり渋とくて、溶岩に体が沈み掛けているって言うのに、溶岩の熱さにもがき苦しみながらもヘリコプターで脱出しようとしたクリス達が搭乗したヘリを腕を伸ばして掴まえて、ヘリごとクリス達を溶岩に引き摺りこもうと最後まで抵抗したんだけど、ヘリに搭乗したクリス達BSAAの隊員2人によってロケットランチャーを2発撃ち込まれてようやく完全に倒せたらしいよ」

「何それッ! 親父の奴、溶岩に沈んでも死ななかった訳!? 普通の生き物ならアッと言う間に体が溶けて御陀仏するって言うのに、それでも死なない所かヘリを引き込もうと最後まで抵抗した訳!!?」

「まぁ、そんな悲観しなくても。過去にもアンブレラが製造した生物兵器の中には溶鉱炉に落っこちても死なずに何度も相手を執拗に追い掛け回した個体も確認されてるし、溶岩に落ちて死ななかった程度バイオハザードでは平凡な事だよ」

「それはあくまでB.O.Wの方だろうがッ! 親父は元々は人間だったのに何? 最後はB.O.Wにも劣らないほどの耐久力としつこさで戦って、終いにはロケットランチャー2発でようやく御陀仏したのかよッ!! 最早B.O.Wの域も超えてッぞ! ワハハハハハッ」

 ジュピターキッドから自分の父親のB.O.Wにも匹敵するほどの耐久力と執拗さで抵抗し続け、最後にはロケットランチャー2発でようやく死んだという衝撃の事実を聞かされて、ジェイクは最早完全に狂乱してしまった。

 そんなジェイクに追打ちを掛けるかの如くジュピターキッドが声を掛ける。

「ジェイク、自分の父親のこと知れて良かった? 嬉しかったかい?」

「ううん、知りたくなかった! まさか親父が最後にはバケモノに変身して、しかも溶岩に沈みながらも未だに生存できて挙句の果てにロケットランチャー2発でようやく倒せたなんて知りたくも無かった!!」

 己の悲痛な心情を洗い浚い吐き散らすジェイクは、まさに悲劇の言葉以外、当て嵌まらなかった。

 だが、そんなジェイクを尻目に新世代型の面々もジュピターキッドが取り出し公開したアルバード・ウェスカーがウロボロス・ウィルスで変異した姿を写した、銃弾で穴だらけになった写真を間近で拝みながら口々に呟いていった。

「でも、確かにこの姿はエグイよな……」

「うん。さっきウロボロスを目の当たりにしただけあって、このウェスカーの姿はマジで有り得ないぜ……」

「気色悪いにも程がありますわ」

「黒くてブヨブヨした嚢胞が凄く不気味だわ」

「これじゃ、ゾンビとかハンターとかのB.O.Wの方がまだ可愛げがあるぜ」

「…………………………」

 写真を間近で拝見した面々で口々に変異したウェスカーの容姿について呟く真鍋義久/今泉俊輔/薙切えりな/荊千里(いばらちさと)/猿投山渦(さなげやまうず)ら新世代型たちの言葉を聞いて、身を震わせて激しくも切なく感情を昂らせるジェイク。

 そんな面々を前にしたジュピターキッドは、少しばかしジェイクに哀れみを感じて眼前の皆に言った。

「ま、みんな。それ以上は言わないであげて。ジェイクの精神的ライフが0に成って来ちゃっているからさ。それにさ、ウェスカーの写真はもう1枚持っているんだ」

「ッ!!」『えっ!』

 もう1枚ウェスカーの写真を所持していると発言したジュピターキッドの言葉に、ジェイクは激しく動揺し他の皆は新たなウェスカーの写真に興味津々な面持ちで反応する。

 そしてジュピターキッドが取り出し、皆に見せたもう1枚のウェスカーの写真は……先ほどの異様な容姿とは打って変わって、金髪のオールバックは変わらず顔にグラサンを掛け、厳つくも整った顔立ち。全身に黒い革製の衣服を纏い、同じく両手にも黒の革製手袋を填めた見た目的には極普通の人間の姿が納められていた。

「って! 親父が人間だった時の写真を持ってんなら先に見せやがれッ!!」

 後から人間の容姿の父親の写真を取り出して拝見させるジュピターキッドにジェイクが怒声を吐き掛ける。

 そんな最中、新たに公開されたウェスカーの人間の容姿を見せられた新世代型達はそれぞれ一見した感想を述べていく。

「確かに。さっきから聞かされている通り、何処となくジェイクに似てるな」

「うん。雰囲気と言うか顔立ちも結構近いね」

 人間のウェスカーの写真を拝ませて貰った真鍋義久と琴浦春香の2人は、聞かされている通り親のウェスカーと息子のジェイクの顔立ちが何処となく似通っているのに気付く。

「なんや、グラサン先輩みたいにグラサン掛けてるがな。このウェスカーってオッサン」

「それ以外はジェイクさんと顔立ちがホントにそっくりだ」

「……グラサン以外、共通点が無いんだが」

 鳴子章吉の発言を聞いて、眼鏡以外は確かにジェイクと顔立ちが似ていると述べる小野田坂道に、グラサン以外の共通点など無いと言い切るグラサン先輩こと金城真護。

「あら、テライケメン」「本当……何だか渋くてカッコいい」

「!」「え……っ!」

 ウェスカーの顔立ちを目にして、その強面ながらも整った顔立ちに思わず惚れ掛けるイオリ・リン子にそれに賛同してしまう美都玲奈。そんな2人を横目に、妻のリン子の一言に衝撃を受けるイオリ・タケシに同じく美都玲奈の発言に若干ながらも動揺する猿田学。

 すると中々の伊達顔のウェスカーを目にした新世代型の篠目アカネが尋ねてきた。

「け、結構イケメンだけど、このウェスカーって今は死んだ悪党、この時は幾つだったんです?」

 この篠目アカネの質問に、変わらずジュピターキッドが返答した。

「実は、この時のウェスカーは死亡する前の時の姿で、この時は……もう、とっくに48歳に達していたというよ」

『よッ、48!!?』

 ジュピターキッドからウェスカーの死亡した時の年齢が、実は既に50手前の48歳であると知って愕然となる猿田学やイオリ・タケシら新世代型の男性たち。

 これを聞いて驚いた新世代型の面々は挙って返答したジュピターキッドに問い詰めた。

「48! この見た目で!?」

「48にしちゃ、豪く体格のえェおっさんやな!」

「48で、この鍛え抜かれた体躯と若々しさは異常でしょ!」

 48と言う高齢にも関わらず、鍛え抜かれた体格に若々しい肌。洗練された筋肉を見て真鍋義久に鳴子章吉は衝撃を受け、猿田学は思わず異議を唱えてしまう。

 すると生まれて初めて父親の人間である姿を見たジェイクが、父親の異常なまでの若々しさと鍛え抜かれた肉体に関して問い質した。

「な、なぁ……シェリーもそうだった様に、親父も体内にウィルス宿していたから、こんなに若く見えちまっている上に肉体も若々しいのか?」

 この疑問にジュピターキッドも考えながら答え返した。

「う~~む、確かに……ウェスカーが高齢だったにも関わらず、並外れた体術と迅速移動が可能な身体能力を秘めた若々しい肉体を維持できていたのは、今考えればシェリー同様に体内にウィルスを持っていた為だったとも考えられるね。ただ、ウェスカーはウィルスに感染する前からラクーンシティの特殊警察部隊の隊長で、その頃から自ら肉体の鍛錬を行ってきた筈だ。だから単に体内にウィルスが残っているだけでなく、自ずと肉体の鍛錬に精を出していた賜物だったのかもしれないよ」

 体内のウィルス残留だけでなく、特殊部隊の隊長時代から肉体の鍛錬を行ってきた賜物として死ぬ間際まで若々しい肉体を維持できていたのかもしれないと推測するジュピターキッド。

 

 そして長々とシェリー・バーキンやその父親であるウィリアム・バーキン。更にはジェイクが嫌悪している彼の父アルバード・ウェスカーについて語ってきたジュピターキッドは、話を直接的に聞かせたジェイクに平然と言い切った。

「でもジェイク。これでシェリーとは大分、近づけたんじゃない? お互いに親の事で悩んでいたんだし、その親の事を知った今ではシェリーとの距離が縮んだんじゃないかい?」

 お互いの父親が共に同じ悪徳企業に身を置いていたウィルス研究者で、どちらも最後にはウィルスで変異した上で倒された身上を赤裸々に聞かされたジェイクは呟く様に「……確かに、シェリーとは仲良くできそーーだぜ……」と半ば涙目で身を震わせながら言った。

 そんな自分とシェリーの余りにも酷似している境遇に悲観的になるジェイクの近くでは、ジュピターキッドの話を聞いていた内に1人ミラーガールが気鬱な面持ちでしょ気返っていた。

「でも今考えるとシェリーさんが少し羨ましいな。私と1つ違いなのに、あんなに若々しいなんて」

 すると、このミラーガールの発言を耳にした途端、ジェイクが表情を一変させてミラーガールに問い詰めた。

「ちょっと待て! シェリーと1つ違いで羨ましいって……まさかミラーガール! お前さん26な訳!?」

 唐突にミラーガールの年齢を訊ねるジェイクに、ミラーガールは怒る事もなく少し落ち込んだ様子で自身の年齢について話し返した。

「うん。実は私、この前の9月6日で26になったの。だからシェリーさんとは1つ違いって事になるわ」

「マジかよ! でもお前さんも案外、若そうに見えるじゃねェか」

 シェリーとは1つ年下のミラーガールの年齢を聞いて驚きながらも、中々の若さを保っているミラーガールを指摘するジェイク。

 すると其処にメタルバードがジェイクに近寄っては耳打ちで話し掛けてきた。

「でもよ、ジェイク。いっくら見た目が若々しくても容姿には騙されるなよ。アッコ、いやミラーガールはこう見えても聖龍隊でも……いや、此処にいる面子の中では最も歳食っている二次元人なんだからな」

「え!!」

 メタルバードから、ミラーガールがこの場に居る二次元人の誰よりも高齢であると聞かされ驚愕するジェイク。

 しかしこの時、前総長にして現婚約者の小田原修司譲りの地獄耳でメタルバードがジェイクに話した内容を耳に入れたミラーガールは、表情すら変えずとも薄らと顔に影を落としては笑みを浮かべたままメタルバードに歩み寄る。

 そしてジェイクに密かに話をしたメタルバードの尖った口を右手で鷲掴みしては、メタルバードに穏やかながらも激情が篭った口調で厳しく問い詰めた。

「バーンズ。それは事実とはいえ、言っちゃいけない話なのが判らないの? ええ」

「ッ~~、ッ~~~~!」

 ミラーガールに問い詰められながらも、口を鷲掴みにされている為に口を開けられず何も言い返せないでもがきまくるメタルバード。

 この時のメタルバードがジェイクに密かに耳打ちで話した内容は、新世代型の共有感知によるテレパシーで全員に伝わっていた。

 するとメタルバードから直接、耳打ちで聞かされたジェイクは何故ミラーガールがこの場に居る人々の中で最も高齢なのか疑問に思い、ミラーガールに口ばしを鷲掴みにされるメタルバードを横目にジュピターキッドに事情を尋ねた。

「なぁ、ミラーガールがこの中で一番歳食ってるって……」

 すると訊かれたジュピターキッドはメタルバード同様、ジェイクに耳打ちでその事情を話した。この時の話の内容も新世代型たち全員に伝わっていた。

「歳食ってるってのは、二次元人として最も古い作品のキャラクターだって意味でメタルバードが言ったんだよ。《ひみつのアッコちゃん》はこの場に居る二次元人達の中では最も古い作品だから」

「……ああ、なるほど」

 ジュピターキッドから事情を聞いて納得するジェイクに、その話を共有感知で知り得た新世代型達も心の中で納得する。

 現に《ひみつのアッコちゃん》が最初に世に公表されたのは、今から51年前。1962年に赤塚不二夫氏によって描かれ、大勢の女の子に夢を与えた作品なのである。つまり2013年での加賀美あつこの実年齢はは5いっ……いや、これ以上は言わないで置こう。

 

 だが、耳打ちで自分の実年齢をジェイクに打ち明けたメタルバードの口の先端を延々と鷲掴みし続けるミラーガールを目の当たりにして、そんなミラーガールを宥めようと周囲の聖龍隊士たちが挙ってミラーガールを褒め称え始める。

「だ、だけどアッコさん。実際はホントに若々しいですし、あの修司さんが言うほど弱くもないですし逆に頼りがいのある女性には違いありませんか」

「そ、そうだぞアッコちゃん。君は多種多様な戦法が可能なヒロインだけでなく、家事や料理も普段からこなせる上に勉強や書紀だって昔から淡々と成せるじゃないか! いやぁ、うちのうさぎにも見習って欲しいよ、全く」

 何とかミラーガールの御機嫌を取ろうと必死になるHEADの堂本海斗やキング・エンディミオン。更にHEADよりも下の位置に所属している聖龍隊士も挙ってミラーガールの御機嫌取りを図る。

「そ、そうですそうです! アッコさんは誰であろうと、その柔軟な優しさをかけてくれる素晴らしい女性ですし、あの修司さんが唯一心を許せた女性じゃないですか」

「そうだ、そうだ! 誰よりも人一倍優しくて気遣ってくれるアッコさんに俺達はいっつも助けられてるし」

 必死にミラーガールの御機嫌取りを図るアレン・ウォーカーと神田ユウに続き、スター・ルーキーズの隊士たちも称賛し始めた。

「そうですよ! アッコさんの変身魔法は僕等だっていつ見ても思わず見惚れるほどデパートリーが多いですし、逆にボク達の方が羨ましいぐらいですよ」

「アッコさんの変幻自在の戦闘は、僕等も見習っているんです!」

「皆の言うとおりだ。加賀美あつこ、アンタの元祖変身ヒロインの地位が有ってこそ、今の多くの変身ヒロインが健在な上に俺らの様な特殊な能力を持つ二次元人も多く存在できているんじゃねーーか」

「そうです! アッコさんはもっと自分に自信を持っても良いんですよ!」

「ボクらと違って変身する事で色んな能力も使えるし、アッコさんほど万能な聖龍隊のメンバーは……ううん! ヒロインはいないよ」

「言われてみると、確かにアッコさんは変身する事で色んな秘術も使えるし、1人で何でもこなせる万能聖龍隊士には違わないわね」

「そうそう……俺が良く、前総長の修司さんに鍛錬という名目で徹底的に痛め付けられ、全身を複雑骨折した上に醜く顔や身体が腫れ上がった時も優しく接してくれたし……正真正銘の天使、いや聖女ですよ!」

「どんな異様な存在でも対等に接してあげる清き優しさ……まさに聖女の名に相応しい心だ」

「私たちの様な半獣・半人はもちろん、誰に対しても差別したり白い眼で見ないアッコさんは本当に立派です」

「俺らの様な半端な新人にも適切なアドバイスや対応をしてくれるアッコさんには、俺たち心から感謝しているんですよ!」

「そうですよ。僕らの様に実戦での戦歴が浅い新人にも親身になって応対してくれるアッコさんの精神は、まさに魔鏡聖女と言う名にピッタリです!」

「私達も……お互いに様々な境遇で魔法少女になっては辛く苦しい状況の折に助けに来てくれて、聖龍隊に入れてくれた事で過酷な運命にも抗える道を示してくれたアッコさんには感謝しても仕切れません!」

 各々の身上を振り返りながらミラーガールに今まで彼女の優しい心遣いに救われた事を包み隠さず感謝し述べてくアラジン/沢田綱吉/奴良リクオ/小松/ドラゴンキッド/鹿島リン/門脇将人/六道りんね/ミルヒオーレ・F・ビスコッティ/キリト/シルバー・ロウ/鹿目まどか達ルーキーズの面々。

 そんなミラーガールを激励する聖龍隊士を黙視していたジェイクに、聖龍隊士の1人が気付いては彼にもミラーガールに関して何か述べるよう訴える。

「おいジェイク! お前さんもミラーガールの今まで施設内で見せてきた数々の戦闘を目の当たりにしてきて分かってるだろ! ミラーガールは、その変身能力で得られる無限の強さだけでなく誰に対しても平等に接してくれる気高くも心優しい精神を秘めた、まさに天使や聖女に例えても可笑しくない聖龍隊の……いや、日本屈指のスーパーヒロインだろうが!!」

 だがジェイクはこれに対して突っぱねた態度で眼前の皆々に言い放った。

「フ、フン! 日本のメジャーなヒロインだが何だが知らねェが、あの鬼畜と名高い小田原修司と婚約した女だろうが。んなモンが天使とか聖女とかな訳ねェじゃねーーか」

 だが実はこの時、ジェイクは心の中で密かにこう想っていた。

(天使はシェリーだけの特権に決まってるだろぉおおがぁああ! バーーカバーーカ、テメェらマジバーーカ!!)

 このジェイクのシェリーに対しての本音を共有感知を通して完全に周知してしまう新世代型達は敢えて何も言わずに黙然を尽き通した。

 だが、このジェイクの台詞に聖龍隊士らは挙ってジェイクに反論した。

「何だとぉ!? アッコさんは綺麗なだけじゃなく、優しくて勇敢で誰よりも他人想いで日頃から俺達の事を気遣ってくれて……前総長の小田原修司さんが相手でも本気になれば数分でK.O.できるアッコさんの何処が聖女じゃないと言うんだーーーーーー!!」

「聖女じゃねーーーーよっっっ」

 聖龍隊士らが語るミラーガールこと加賀美あつこの日常から行ってきたであろう、人間兵器でかつ対特殊能力者の戦歴を持つ最凶最悪とも言える小田原修司への扱いに関して、ジェイクは到底ミラーガールが聖女とは思えなかった。

 ミラーガールを聖女と認識している聖龍隊士らの反論に異議を唱えるジェイクは発作的に彼らに問い質した。

「お前らの基準おかしい! お前らの聖女の基準なにっ」

「そんなの決まってるだろ。もちろん、あの修司さんと「ううん! やっぱ言わなくていい」

 ジェイクは聖女の基準について訊こうとしたが、聖龍隊士らの最初の発言を聞いてやはり答えなくても結果は同じだなと思いっきり反発する。

 すると先ほどから皆々の会話を傍観していたジュピターキッドが、ジェイクの反応と態度そして言動から彼の真意を察して口元をニヤケさせながら問い質した。

「はは~~ん、さてはジェイク。君、「天使はシェリーだけの特権に決まってるだろぉぉぉがぁぁぁ! バーーカバーーカ、オレバーーカ!」とか思っちゃってるね」

(読心術……!!? このジュピターキッド、琴浦ガールや斉木ボーイたち新世代型と同じでテレパスが使えるのかぁ!? けど最後ちげえぇぇぇっっ)

 ジュピターキッドに最後の方以外の真意を指摘されたジェイクは思わず激しく動揺してしまう。

「なっ、何でここでシェシェ、シェリーが出てくりゅんだよ……!」

「オイ、顔に本音が出ちまってるぞ」

 思いっきり動揺してしまうジェイクの表情に、明らかな激しい動揺が見受けられてメタルバードがジェイクに本音が表情に洩れていると指摘する。

 このジェイクの明らかに激しい動揺が見受けられる態度と表情を目の当たりにした聖龍隊の各隊士や新世代型の男子達がジェイクにチクチクと挑発し始めた。

しかも何故かHEADの1人で普段は冷静沈着で温厚な性格の参謀総長ジュピターキッドも混じって。

「つーーか、あれあれ~~? ジュピターキッドさんは持っていたのに君は愛しのシェリーちゃんの写真、持っていないの~~?」

「えーー? 持ってないなんて信じられない。何で何で~~?」

「え? え? もしかして恥ずかしいの?」

「普段から手持ちに出来ないほどウブなの? 勇気ないの? え? え? えぇ~~?」

「本命には素直になれない系?」

「本命童貞、見た目どおりww」

 この挑発の連続に、遂にさすがのジェイクも堪忍袋の緒が切れた。

「うるせーーっ! あんな見た目だけが乳臭そうな三十路までカウントダウンが始まった女、誰が気にするかってーーの!!」

〔カチャリッ〕

 ジェイクが思わず発した怒声に、ジュピターキッドは予め準備しておいた常備品の1つであるペン型録音機を使って、今のジェイクの台詞を一言も逃さずに録音した。

 今の自分の台詞が録音された事に再び激しく動揺するジェイク。

 そして思いっきり悪意のあるニヤケ顔のジュピターキッドは、同じ様な悪意のあるニヤケ顔のセーラーヴィーナスに録音機を投げ渡した。

「ヴィーナス! これを大事に預かってて! 此処から無事に脱出できたら即行でアメリカ在住のシェリー・バーキンに速達で送りつけろっ! ぎゃはははっ」

「OK分かったわ! うひひひっ」

「こんの腐れ外道ヒーローがぁあああッ!!」

 あからさまに悪意が滲み出ている、意外にも腹黒いジュピターキッドの所業とそれに便乗するセーラーヴィーナス、2人の鬼畜の所業ともいえる行為にジェイクは怒り狂い荒れまくった。

 

 そんな呆れ果ててしまう現状を目の当たりにして、新世代型の面々は呆然と口を軽く開けて立ち尽くしてしまってた。

 すると其処にニヤニヤした顔でメタルバードが、何とか録音機を奪い取ろうとするジェイクを玩ぶかのように互いにジェイクの台詞が録音されたペン型録音機を投げ渡し合うジュピターキッドとセーラーヴィーナスの2人に話し掛けた。

「おいおい、お二人さん。もう、それぐらいにしてやれよ。ジェイクが、ちょこっとばかし可哀相じゃねェか。グフフ……っ」

 だが、そう言うメタルバードも明らかに3人の情景を間近で見ては微妙に笑っていた。

「そう言うテメェも笑ってんじゃねェかッ!」

 自分を玩ぶ2人に訴え掛けるメタルバードの嫌味な笑みを目にして怒声を投げ付けるジェイク。

 しかし此処で明らかに目の前の現状に面白がっていながらもやめる様言い渡すメタルバードの言葉を聞き受けて、ジュピターキッドとヴィーナスは録音機の受け渡しを停止した。

「あ、ああ……分かった分かった。ゴメンよジェイク。ちゃんと台詞は消しとくから。ハハハ……」

「しぇ、シェリーにはもちろん送りつけるなんてウソだから安心して。フフフフ……」

 未だにジェイクを玩んだ反動で込み上げてくる笑いを抑え切れないジュピターキッドとヴィーナスは、必死に腹の底から込み上げてくる笑いを堪えながら録音機の消去ボタンを押して先ほど録音したジェイクの発作的な台詞を消した。

 しかし玩ばれたジェイクの怒りは収まらず、厳つい顔を更に険しく猛々しい顔立ちに変貌させてはジュピターキッドとヴィーナスを睨み付けながら2人に文句を言う。

「テメェら、良くも好き勝手にオレ様をおちょくってくれたな……!!」

 ジェイクは拳の骨をバキバキと鳴らしながら睨み付けるのだが、そんな睨みを受けながらもジュピターキッドとヴィーナスは怒れるジェイクを宥める様に淡々と話し掛ける。

「まぁまぁジェイク。もう消して上げたんだから、そう怒らないで」

「そうよジェイクくん。いつまでも怒っていたら、恐い顔がいつにも増して益々厳つい強面になっちゃってシェリーちゃんに嫌われちゃうわよ」

「……………………ッ!」

 あからさまに小馬鹿にしている口振りで話して来る2人に対してジェイクの怒りは収まる所か上昇してしまう。

 そんな呆れた情景を目の当たりにし続ける新世代型は、対峙し合うジェイクとジュピターキッド/セーラーヴィーナスの3名に対して呆気に取られる最中、先ほどジェイクが発した台詞にジェイク以上に怒りを露にした女性が歩み寄ってきた。

 そして強引にジェイクの首を両手で締め上げると、怒りに満ちた面差しでジェイクに言いかがって来た。

「ちょっとアンタ……三十路までカウントダウンですって? 27がもう三十路までカウントダウンが始まっている歳だって言う訳なのか? アァン?」

「ぐゥ~~ッ! (こ、この女……B.O.W並みにおっかねェッ!)」

 力いっぱいにジェイクの首を締め上げ、先ほどのジェイクの発言に怒りを生じていたのは、皮肉にもシェリーと同年齢であったガンプラアイドル「キララ」ことミホシだった。

 そんなミホシの怒り表れる行為を目の当たりにしたメタルバードは、急ぎ脚に負傷を負って立ち上がれなくなったセーラーネプチューンを燃堂力と共に担いでいるミホシの恋人リカルド・フェリーニに呼び掛けた。

「リカルド! キララをとめろッ! 下手したらジェイク本気で死ぬぞ! お前の恋人なんだから何とかしとくれッ」

「あ、ああ……キララ、やめるんだ!」

 メタルバードの呼び掛けにキララの恋人であるフェリーニは燃堂にネプチューンを一旦任せて、キララの暴走を必死になって抑える。

 

 そんな情景を呆れながら傍観するメタルバードに、先ほど拝見させてもらった写真に写っていたジェイクの実父ウェスカーについて尋ねてきた。

「そ、そう言えば……話は戻りますけど、ジェイクの実の父親つまりアルバード・ウェスカーはウィルスを体内に宿してから身体能力が飛躍的に上がったんですか?」

 先ほど聞いた話に出てきたウェスカーの常人離れした体術や迅速移動を耳にして、新世代型達は改めてウェスカーの驚異の身体能力に関心を抱いてた。

 この質問に対してメタルバードはウェスカーの常人を超えた身体能力に加えて、そのウェスカーと対等にそして素手同士で取っ組みたかった人物の事を語った。

「ああ、ウェスカーは体内のウィルスの影響で、視力以外の筋力や体術が著しく向上したんだよ。何せ、あの修司がいつかは素手で闘い合ってみたいっていうほど強かったみたいだしな」

「! す、素手でウェスカーと闘ってみたかったんですか!? あの小田原修司さんが」

 メタルバードの発言を聞いて驚愕する真鍋義久ら新世代型たち。これにもメタルバードは包み隠さず小田原修司の実情を語り明かしていった。

「ああ、修司は昔から根っからの悪人や悪党そして異常者(ヒール)嫌いであったが、同時に武術に秀でた者や悪人にしては武人として誇り高い奴に対しては平等に接する傾向が有ったんだよ。修司曰く、犯罪者や異常者(ヒール)は最低最悪な種であり微塵の誇りすら持っていない低俗な輩と想っていた。しかし、そんな悪人や異常者(ヒール)の中にも僅かに存在している、純粋に強さを欲し追い求める武術の達人や武人として誇り高い相手に対しては敬意を評して対等に闘ってみたいという思考も根強く芽生えていたんだよ。実際に修司はそうして倒した悪人や異常者(ヒール)は尊敬に値する敵として、本来ならば異常者(ヒール)排除法で存在を抹消されてしまう様な相手であろうとも同等の存在として認めた上で生かしていたって言うぜ」

 更にメタルバードは、武人の誇りと気高さを持つ犯罪者や異常者(ヒール)に対して小田原修司が行ってきた対応を新世代型たちに語っていく。

「それに修司は、例え相手が犯罪者や異常者(ヒール)であっても気高い精神を持っている奴なら評価に値するとして、時には軽い処罰で済ませ、ある時は聖龍隊の裏方である諜報員としても採用する事が多々あった。それ以上に、政府から異常者(ヒール)認定を受けた相手であっても修司はない、ある特別な心を……そう、他者を愛するという心を持つ者は修司自身の権力で保護すると同時に聖龍隊に加盟させた事例も多くある。そう、例えばこの場に居る者でも門脇将人や卑怯番長、そしてこの場には居ないがブラック・ラヴァーズのリーダーであるガイトも他者を愛する事ができる貴重な人材として、修司は彼らの罪を償わせる為に聖龍隊に入れてやったんだよ。まぁ簡単に纏めると、相手が凶悪な異常者(ヒール)であっても発達障害者の修司には生まれながらに持っていなかった愛情を持っている相手には修司なりの適度な対応をしてたって訳」

「よ、要するに……例え相手の異常者(ヒール)が凶悪卑劣な人格者であっても、他者を愛したり思いやって上げられる逸材なら対応を妥協していたという訳ですか? 前総長の小田原修司さんは……」

 メタルバードの語りに星原ヒカルが問い返すと、メタルバードは率直に答え返した。

「ああ、その通りだな。修司曰く、他者を本気で思いやったり愛していたりしている二次元人なら逆にその感情を持っている事を羨ましく思いつつ、受け入れてやってた訳さ。何より修司が本気で許せない異常者(ヒール)ってのは、そう言った相手への思いやりや愛情が微塵もない、それこそ《吐き気を催す程の邪悪さ》を秘めた異常者(ヒール)なのよ。まぁ、その《吐き気を催す程の邪悪さ》に認定された異常者(ヒール)の中にも、さっき言った様な武人の誇りや気高い信念を持つ相手の場合は、やはり修司は対等に渡り合いたいと思っていたが……」

「ひ、異常者(ヒール)の中でも最高峰で凶悪かつ残酷な《吐き気を催す邪悪さ》を秘めた相手でも、あの修司さんは対等に接していたんですか?」

 真鍋義久が質問すると、メタルバードは真鍋の質問にも正直に話した。

「ああ、修司曰く、そう言った異常者(ヒール)は奴の中じゃ《吐き気を催す邪悪さ》には分類せず、《悪のカリスマ》的な感覚で接し、そして対等に闘って来たんだよ。あのウェスカーも、修司の中ではカリスマと評されて、修司はウェスカーと対峙した時は正々堂々と真っ向から拳と拳で闘い抜きたかったと豪語していたな」

 この真鍋の質問に答えたメタルバードの話を耳に入れた、そのウェスカーの実子であるジェイクは蒼褪めた面差しで動揺しながらメタルバードに問い質した。

「お、おい……変異しなくても尋常じゃないぐらいに強かった親父と真っ向から闘いたかったって……親父もバケモノだったが、やっぱ小田原修司もバケモノ並みに尋常じゃねェな……!」

「まぁ、強い相手と闘ってより自分を強めたいって想いで、常に強者を求めていたって節もあるけどな」

 常人以上の強さを秘めてた父と真っ向から対決してみたいという小田原修司の思想に激しく動揺するジェイクの言葉に、メタルバードは小田原修司が自分をより強める為にも常に強者との闘いを求めていた事を話に付け加える。

 

 

 ジュピターキッドがシェリーとジェイクの実父について語り、更にヴィーナスと一緒なってジェイクをおちょくる現状に呆れ果てたり、はたまた小田原修司が誇り高い信念と気高い精神を持つ異常者(ヒール)と真っ向から対決し更には対等に接するというメタルバードの話を聞きつつ一本道の通路を進み続ける一行。

 すると長々と続いている何もない通路の側面に扉があるのを先頭を進んでいた大将が見付けた。

「あ、おい。あんな所にドアが」

「確かに……よし、このまま通路を進んでもキリが無さそうだし、そのドア開けて中に入ってみるか。もしかしたら脱出への糸口が見付かるかもしれねェ」

 大将の視線の先にある扉を見たメタルバードは、ひたすら長い通路を進んでいくよりも扉の奥に進入しては何かしら発見できると判断し、扉の向こうへ進んでいく事を決断した。

 

 そしてメタルバードと大将がゆっくりと扉を開き、一行は扉の奥へと進行していった。

 

 

 

 

[実験体にされた二次元人と排除法案の可決までの道行き]

 

 扉を開けて中へと進入していく一行。扉の先はいくつものベッドが並んだ、まるで病院の病棟みたいな部屋であった。

「な、何なんだ此処は?」

 扉の先に広がる幾つものベッドを目の当たりにして現場の部屋が何なのか疑問に思う大将。

 そんな大将たち赤塚組や新世代型を横目に、メタルバードは室内の探索を黙々と始めてた。

 ベッドは長い間、何者かが使用していた痕跡が見受けられ、シーツや枕カバーは寝汗を吸い込んだ為か茶色く変色していた。

 最初メタルバードは生物兵器の実験に利用された異常者(ヒール)、つまりは被験者たちが寝泊りしていた部屋と思い込んでいた。しかしベッドの横に設置されている小さい引き出し付きの家具の中に収納されてた拳銃の弾丸や何処かの部屋の鍵など、本来は被験者が持つべきではない代物が多く見受けられ、メタルバードは此処のベッドを利用していた人々が何者だったのか思考に耽った。

 するとその時。メタルバードの探索に協力しようと、同じ様に室内を探索していた赤塚組が部屋の奥、進入して来た扉側から見てカーテンで覆われたベッドの所で何かを見付けた。

「バーンズ! こっちに来てくれでヤンス」

 カーテンで覆われたベッドで何かを最初に発見した赤塚組の幹部ギョロがメタルバードを呼ぶ。メタルバードは速急にギョロを始めとした赤塚組幹部衆の許へと駆け付ける。

「何か見付けたのか」

 駆け付けたメタルバードが訊くと、最初にそれを発見したギョロも他の赤塚組の面々も全員がカーテンに覆われてたベッドに視線を向ける。メタルバードも彼らの視線を追って目を向けると、ベッドの上に異常な物体が寝ているのを視認する。

 それは頭に銃を突き付けている半ば腐乱した白衣を纏った人間の死体であった。

 若干ながらも腐敗が進み、悪臭も感じられる死体を目の当たりにしながらも、死体の状態を念入りに確認してみた。すると死体は男性であり、頭部に自ずと突き付けた銃口から発射された1発の弾丸が貫通しており、死体となった男性は自ら命を絶った事が窺えた。

 更に調べてみると、死体の腕や足の数箇所には人が噛み付いた様な傷跡が見られた。その傷の状態から、傷は生前に付いたものであると把握できた。

 これ等の状態から、メタルバードは簡単に死んだ人物の生前の心境と死因を判別した。

「成程な……バイオハザードが起こった施設内を逃げ回っている最中に、ゾンビに噛まれて此処に逃げ込んだ末にワクチンがない等の絶望感から自分がゾンビになるのを拒む理由も含めて、自ら自分の頭に所持していた銃を突き付けて自殺したって経緯だな」

 B.O.Wから逃げ回っている最中、ゾンビに手足を噛まれ負傷した末に逃げ込んだが、ウィルスの対抗策であるワクチンの不所持と此処からの生還に絶望視し拳銃自殺に至ったのであろうとメタルバードは呆気なく推測してしまう。

 このメタルバードの推測を受けて、大将も死体が自殺に使用した拳銃を手に取り調べてみると、弾は1発も残ってなく最後の銃弾で自ら命を絶ったのだと容易に想像できた。

 

 部屋の状況とベッドに横たわる拳銃自殺の死体を見て、メタルバードはこの部屋が何だったのか理解した。

「此処は……どうやら研究施設で働く研究員なんかの就寝部屋みたいだったみたいだな」

 このメタルバードの推測に大将が問い質した。

「するってェと、この辺りは研究所員なんかの居住スペースだったって事か?」

「ああ、その様だ。研究所員の居住区なら、何かしら見付けられるかも知れない……もう少し辺りを探索してみよう」

 メタルバードや大将たち、聖龍隊と赤塚組の面々は更に居住区の就寝部屋を徹底的に探索してみた。

 すると、ある空きベッドの上に書類の様な数枚の紙が止められてるクリップボードをメタルバードは目にした。

 何かの文章を綴った数枚の紙が止められてるクリップボードに手を伸ばし、紙に記載されてる文章が何なのか目を通してみた。するとその書類は被験者と呼ばれる者達の観察を記録したレポートであった。

 

○月×日

 今日も被験体の観察をする、ここ毎日だ。奴等も此処の施設に連れて来られてから飽きもせず文句ばっかり項垂れる。どうせ、もう戸籍なんかも全て消されて存在そのものを抹消された世界のクズの癖に。

 檻の中に閉じ込めた被験体どもは、檻の外から観察している俺達を睨み付けながらガン垂れてきやがる。ムナクソ悪いぜ、タクッ。

 どいつもこいつも自分勝手な連中で、世間から忌み嫌われていた存在だって言うのに、未だに自分等が異常者(ヒール)でもなければモルモットでもないと思い込んでやがる。

 どうせ直にB.O.Wの実験体として人間ですら無くなるというのに……おっと、そういや。もう異常者(ヒール)は人間でもなければ存在もしていない、云わば空気の様な輩だったな、忘れてたぜ。

 

○月×日

 今日はモルモット共に餌を与える餌やり係の当番が俺に回ってきた。

 当然の如く、獣の如く凶暴な異常者(ヒール)には、本来のライオンや虎などの猛獣に餌をやるように食べ物を檻の中に投げ飛ばすのが一番手っ取り早いんだが、主任の言う事には彼らの人間としての自覚性が欠如していく様子も観察するべきと言う事で簡単なスープとパン、そしてスプーンを人数分揃えて鉄の棒で檻の中に押し込んでいくやり方で餌を与えていく。マジでめんどくさい。

 餌を与えられるだけでも感謝してほしいのに、さすがは異常者(ヒール)。感謝どころか「こんなモン食えるかッ」って、それこそゴリラみたいに投げ返してきやがった。

 どうせいつ死んでも構わない連中なんだが、これでも貴重なモルモット。死んでしまっては困る。しかし未だに意味のないプライドを持っている為に与えられた食事を満足に食べようとしない。いつまで自分達が人間だと思い込んでいやがるんだ。

 

○月×日

 モルモット達が与えられた餌を拒み続けてきた為、かなり衰弱しきってしまってる。今死なれたら困るのはコッチだって言うのに。

 主任に報告したら、「彼らの人間性が未だに無意味ながらに存在しているから、動物的本能である食への欲求も薄れてしまっている」のだと。

 既に此処に運び込まれた直後にウィルスを投与して、いつ人間性が欠如したケダモノに成り果てても良いものの、その前に死なれてしまっては困る。

 

○月×日

 奴等も、ようやく自分達の立場が分かってきたのか、やっと与えられた餌を貪る様に食い尽くしてくれるようになった。

 試しに餌として大量のパンを檻の中に入れたところ、奴等はアリの様にパンの山に群がっては奪いながら頬張ってくれるまでに至った。

 実に面白い。此処まで貪欲に、そして互いに奪い合いながらも無我夢中で餌に群がるモルモットは見てて飽きない。

 かつては高い地位に上り詰めていたが、異常者(ヒール)認定で地位を剥奪された上に書類上の存在も完全抹消された連中も今では動物そのものだ。

 元教師である《幽☆遊☆白書》の岩本や、《たかまれ!タカマル》の青山姉弟に《こどものおもちゃ》の千石はもちろん、元高官軍人である《闘将ダイモス》の三輪防人や《鳥人戦隊ジェットマン》の一条元総司令、アイドルグループの社長だった《アイドルマスターシリーズ》の黒井に今では身内には既に獄中で死亡したと偽りの報告をされてる《プリティーリズム・ディアマイヒューチャー》の阿世知欽太郎。元名士や元法律家であった輩の《逆転裁判》の一柳万才/王都楼真悟/風見豊/カーネイジ・オンレッド/狩魔豪/小中大/綾里キミ子らクズ共。サッカーというスポーツを利用して人間強化計画を実行していた《イナズマイレブン3》ガルシルド・ベイハン。ヒーローであったにも関わらず、その鬼畜な所業と性格から異常者(ヒール)認定された《仮面ライダー555》草加雅人。小田原修司の権威で世界規模で変革された法律によって今では殺人罪同様の重犯罪と化したイジメに加担したとして精神異常凶悪犯罪者と世間から見定められた《ライフ》の佐古克己と狩野アキラ。

 その他にも様々な鬼畜な所業や悪行で人権を奪われ、存在そのものを抹消された異常者(ヒール)達が挙って食料に群がり貪り尽くす光景は、こいつ等が人権を得てた頃と違って明らかに人間離れした家畜みたいで実に愉快である。

 この先、こいつ等をどの様に処理して凄まじい生体兵器に仕上げていくか、今から楽しみである。

 

○月×日

 被験体たちに変化が見られる様になった。

 どいつもこいつも完全に動物の様に四つん這いで移動する様になり、更には身体の所々が明らかに変異しているのが見て取れた。

 しかも日常から与えていたスープとパンの餌を、スプーンを使わずに直接皿を嘗め回して啜るという異常行動が見受けられた。

 明らかにウィルスの影響で知性が欠如し、動物的動作で餌に噛り付いている現状だった。

 顔中をコーンスープ塗れにしながら皿を嘗めずり回し、挙句の果てには顔にこびり付いたスープを互いに舐め合ってまでスープを口にするまでに至った。

 老若男女問わずに正真正銘の家畜同然に成りつつある異常者(ヒール)たちは実に滑稽で面白みがある。

 この先どの様な変化が現れるのか期待に胸が高まる。

 

○月×日

 遂に全ての異常者(ヒール)共が、その身を変貌させ始めてきた。

 ウィルスの影響で体が次第に腐敗していく者、手足が鋭い鋭利な爪に変化していく者と。様々な変化が確認できた。

 遂に奴等は檻の中で既に弱りきり、死亡した他の異常者(ヒール)の亡骸を貪るというゾンビそのものの行為をするまでに至ってきた。

 研究の成果は抜群と捉えても良さそうだ!

 生きた人間を合法的に人体実験に使用できる数少ない異常者(ヒール)達が、こうして世の中で始めて科学に貢献できた素晴らしい瞬間でもある。

 今後も更に研究と彼らの生態観察を行いつつ、戦闘に特化した生物兵器の開発に着手し続けていく所存である。

 

 

「……………………」

 此処の施設で勤務していた研究員の手書きのレポートを黙読したメタルバードは、異常者(ヒール)と世間から認定された故に合法的に人体実験の被験者として施設に強制的に連れて来られ、その果てにウィルスで異形の生体兵器へと成り変わってしまった数多の異常者(ヒール)たちの顛末に険しい顔付きで黙然としていた。

 するとレポートを黙読してるメタルバードを見て気になった新世代型の猿田学が、メタルバードに歩み寄っては彼が目を通していたレポートを覗き込んだ。

「……それは」「あ、あいや……これは」

 徐に覗き込んできた猿田学に尋ねられたメタルバードは一気に戸惑い、何て答えれば良いか迷ってしまう。それもこれも現状の新世代型は皆、共有感知で全員の思考を共有し知り得てしまう特性を持ってしまっている為に、たった1人の新世代型に何か教えれば、それは全ての新世代型たちに教えてしまう事に繋がるからである。

 年端もいかない子供も含んだ新世代型たちに、いくら異常者(ヒール)認定されているとはいえ同じ二次元人が人体実験で生体兵器の研究に利用された事実を知らすのは気が退けたのだ。

 だが猿田学は、いま自分たちが強制的に置かれてしまってる状況に追い込んだこの施設で行われてた実験に関心を持ってしまっている為、半ば強引にメタルバードの手から彼が黙読してた観察レポートを取っては読み始めてしまった。

「ちょ、ちょっと……」

 レポートを取り上げられ、読まれてしまう状況に困惑してしまうメタルバード。

 だが猿田学はそんなメタルバードの心境を知らずに、黙々とレポートを黙読していく。そして自分たち同様、此処の研究施設に強制的に連れて来られた異常者(ヒール)たちの顛末を知って愕然としてしまい絶句してしまう。

 そしてメタルバードの思考通り、猿田学が知ってしまった異常者(ヒール)達の成れの果てを他の新世代型達も共有感知で知ってしまい愕然とした。

 そんな新世代型達が異常者(ヒール)の扱いとその顛末を知ってしまった為に、新世代型二次元人の1人である星原ヒカルが余りにも衝撃的な異常者(ヒール)への扱いとその根源である異常者(ヒール)排除法についてメタルバードに問い詰めた。

「メタルバードさん。何故、此処まで異常者(ヒール)と認定された二次元人が家畜以下の扱いを受けてるんですか? しかも異常者(ヒール)の場合は合法的に人体実験として体を利用されるなんて、余りにも非人道的すぎますよ!」

 いくら鬼畜でかつ残忍な性分の異常者(ヒール)とはいえ、合法的に刑務所や収容所から連行され研究機関などで人体実験の被験者として利用される非人道的な現状に反論を唱えるヒカル。

 すると、このヒカルのメタルバードへの問い掛けに周りの皆が揃って暗い心境に浸っていると、そんな皆と同じでメタルバードに問い詰めるヒカルの言動を耳に入れたミラールが彼の反論に異議を語り始めた。

「あなた、何を言ってるの? そんな異常者(ヒール)に人権とか言っていたら世界秩序もあったモンじゃないわよ。異常者(ヒール)は人権を剥奪され、それからは刑務所で日の目を見ない人生を送るか処分しなきゃ善良な人々の平和が脅かされるじゃない。さっき赤塚組から見せてもらった被験体リストに記載されてた異常者(ヒール)を確認してみたけど、全員が畜生以下の外道じゃないのよ。本来なら真っ先に殺処分されるのが妥当なのに、此処に連れて来られたって言うのはおそらく……彼ら自身が望んで此処にやって来たって考えられるわよ」

「! お、自ずと人体実験に志願してたって言うんですか?」

「そうよ。ムショ暮らしが嫌になった異常者(ヒール)が自ずと自分が収容されてる刑務所などの施設から合法的に出られるのが、自らの体を利用してもらう人体実験での志願での他所である研究機関に身を預ける方法しか無いのが現状。まぁ、此処の様に危険極まりない生物兵器の開発の為の機関もそれが可能なのが唯一の難点だけど、異常者(ヒール)にとっては不自由かつ人権を剥奪されて自業自得の生活を送るよりも人体実験の被験者として大切に扱われたいって思いの方が強いのよ。現に実在する製薬企業なんかも新薬の人体実験の被験者に獄中に入れられた異常者(ヒール)と取引して、収容所から製薬企業管轄の施設に連れて行かれて自ら新薬の実験体に志願する輩も多いのよ」

 ミラールの語る実情に衝撃を受け疑問を投げ返す星原ヒカルであったが、そんなヒカルの疑問にもミラールは平然とした態度で話し返す。

 すると星原ヒカルに続いて、ミラールの話を聞いた他の新世代型達も異常者(ヒール)排除法について問い質してきた。

「そ、そもそも……なんで異常者(ヒール)排除法なんて法律が世界規模で実案されたんですか!?」

 今一緒に居る森谷ヒヨリや自分の母親を危険人物として記載してるブラックリストも、自分の父親が刑務所に投獄された経緯も全てが異常者(ヒール)排除法の法案に組み込まれている事から、前々から異常者(ヒール)排除法について疑問を抱いていた琴浦春香が質問すると、ミラールは態度を変えずに冷静な面持ちで答え返した。

「それこそ世界平和の為よ。そもそも異常者(ヒール)排除法の法案は、かの9・11の同時多発テロ事件でウチらの前の総長だった小田原修司が考案した法案なのよ。世界中がテロの恐怖で支配された現状に当時の修司さんがテロリストを始めとする危険な犯罪者を一掃するために世界中に発案したのが始まりなの。当時の世界情勢はそれこそテロの恐怖で市民が脅えては自ずと外出するのも怖がってしまってた時代背景だったのよ。そんな時に前総長は市民の安全と世界の平和及び秩序の平定を完全なものにする為に、前々から気に入らなかった凶悪で残忍な二次元人などを含めた存在を完全に抹消する為にテロリストの殲滅と同時に凶悪な二次元人を取り締まる法案を世界に発案したのよ。その際、イジメなど当時はまだ犯罪と認識されてなかった凶悪行為も含めた、まだその頃の法律では捕えられない人間にも対応できる法案として世界中に採用されたのが異常者(ヒール)排除法、または排除法案だったのよ」

「だ、だけどよ。いくら何でもイジメや一般の犯罪者もテロリストと同様に扱うのはどうかと……」

 いくら何でも一般の犯罪も凶悪なテロ行為と同一化するのは気が進まないと述べる真鍋義久の発言に、ミラールは強い意志を表情に出して話し切った。

「本気で言ってるの!? イジメも犯罪も……そしてテロも同じ罪のない人間を苦しませる非道な行いじゃない! そんな輩を一掃し、時にはその場で殺処分も許される異常者(ヒール)排除法案は世界中の大臣や大統領にも認可され、二次元人も三次元人も同等の扱いで悪行を行ってきた者を一括して異常者(ヒール)と呼ぶ様になったのよ。異常者(ヒール)に認定された輩は誰も彼も平然と人を殺傷してしまう程の残忍さと凶悪性が見られ、テロリストも犯罪者もイジメっ子も皆平等に異常者(ヒール)として処分していくのが世界の平和に繋がるのよ!! それに何? まさかあなたは再び9・11の様な悲惨なテロが行われても良いと思っているの?」

「い、いや。そう言う意味じゃ……」

「そう言う意味じゃない! テロやイジメを平然と行える、それこそ精神が普通でない異常者を捕えまたは処分しなきゃ同時多発テロの惨劇が何度も世界中で勃発していたかもしれないのよ! ハッキリ言って異常者(ヒール)排除法案があるからこそ、今の時代イジメはもちろん世界各地でのテロ行為も激減したのよ。あなたみたいに異常者(ヒール)排除法に異議を唱えるのは、悪事を重ねていつ異常者(ヒール)認定されるか分からず怯えてる人間か異常者(ヒール)そのものでしか有り得ないわ!!」

「……………………」

 強気な姿勢を崩さずに淡々と熱く語り続けるミラールの言動に押され、真鍋義久は何も言い返せなくなってしまった。

 すると今度はブラックリストに認定されてしまってる森谷ヒヨリがミラールに問い質す。

「確かに……今ではイジメは列記とした犯罪と認識されてます。そのイジメを行った人間も、それを隠蔽しようとした組織も揃って異常者(ヒール)と認定されては、私みたいにブラックリストに載るか異常者(ヒール)として殺処分または良くて刑務所に揃って投獄されるのが今の時代の現状です。だけど……結局、ブラックリストに記載されているだけでも世間からは白い目で見られ、それこそ殺人鬼やテロリスト同様に思われてるんです! それに付いてミラールさんはどう思っているんですか!?」

 イジメを行った生徒や職員、そしてそれを隠蔽しようとした学校や会社などの組織も粛清され、ブラックリストに載っただけでも周囲から凶悪な犯罪者と見られる傾向について問い質す森谷ヒヨリの質問に、彼女と同様にブラックリストに名前が記されている四宮小次郎と速水ヒロもミラールに注目する。

 すると、この森谷ヒヨリの質問に対してもミラールは冷然とした態度を変えずに答えた。

「それは単なる自業自得でしょ? 過去の罪状からブラックリストに認定されただけで殺処分されずに済んだって喜ぶべきじゃないの? どんなに改心しようと過去に犯した罪が消える事は永遠に無いんだから。生かされているだけってだけでも私たち異常者(ヒール)を狩る権限を持つ聖龍隊や国家組織に感謝してほしいぐらいだわ」

「な、何だと……!」

 ミラールの悪気の無い言葉に発作的に怒ってしまう四宮小次郎が、ミラールに反感を抱いては彼女に歩み寄ろうと足を前に数歩出した次の瞬間。

 ミラールは明らかに憎悪と敵意に満ちた四宮小次郎を見受けて迷わず銃を向けた。

「!」『!』

 銃口を向けてくるミラールの咄嗟の行動に一驚する四宮小次郎と彼の背後にいる森谷ヒヨリと速水ヒロの3人。そんな3人にミラールは脅しとも取れる言葉を掛けながら銃を向け続ける。

「あら? ブラックリストに載っただけじゃ飽き足らず、まだ他人を平然と傷つけ踏み躙る積りなの? 生憎、私たちはそんな異常者(ヒール)を合法的に処分する役職だから、その気になればこの場であなた達3人を異常者(ヒール)として殺処分する事も可能なのよ」

『…………………………』

「特に私は他の聖龍隊……HEADやニュー・スターズに常に甘い考えしか持っていないジュンと違って如何なる時でも異常者(ヒール)と対峙しては処分していく姿勢だから気を抜かない事ね。あなた達、ブラックリストに載っている二次元人はいつ精神が異常な状態に陥り、それこそサイコパスの様な存在に成り果てても可笑しくないのよ。まぁ、あなた達の場合はホンの少しだけど自分の過去の悪行に罪悪感を覚えているようだし、何か仕出かしたら1発で即死して苦しまずに済むよう取り計らってあげるから安心して頂戴」

 そう言うとミラールは3人に向けてた銃を腰に再び装着しては何事も無かったかのように室内の探索に戻る。

 だがミラールの冷淡過ぎる態度に四宮小次郎らブラックリスト入りの3人を含む新世代型達は蒼然と言葉を失ってしまってた。

 しかしミラールが探索に戻っていくのを確認した後、参謀総長のジュピターキッドが失言してしまってる新世代型達の気を落ち着かせようと話し掛けてきた。

「気を悪くしないでくれ。ミラールは聖龍隊に入る前は非合法とはいえ異常者(ヒール)を処分する組織の一員として生きて来たんだよ。その後、その組織が壊滅した後に聖龍隊の正式な一員として加盟したんだが、非合法組織の頃から異常者(ヒール)への対応は変わらず淡々と躊躇わず処分し続けているんだ。しかも2年前のアジア大戦以降からは更に戦術に磨きを付けて異常者(ヒール)排除に専念してきたんだ。本来は優しい女の子だから、誤解だけはしないでほしい」

 ミラールへの理解を促すジュピターキッドの話を聞き入れながらも、新世代型達は今度はジュピターキッドに異常者(ヒール)排除法への疑問をぶつけて来た。

「そ、そもそも……私たち新世代型の二次元人は遂最近生み出されたから良く知らないんですが、いくらテロリストや凶悪犯罪に対抗する為とはいえ異常者(ヒール)排除法の法案内容は余りにも過激では無いですか? 凶悪なテロリストや犯罪者とはいえ人権や所有財産の9割を剥奪され、挙句の果てには処分の名目で様々な場面で殺されていって……人権の無視が余りにも無視されていて、道徳的にかなり問題では……!」

 新世代型の美都玲奈からの異常者(ヒール)排除法の下で行われてる余りにも過激な対応への指摘に、ジュピターキッドは無表情な面構えで語り始めた。

「……確かにそうだ。強制的に人権や所有財産を没収して処分を下したり投獄したりと人道的には余り良く思われてない面も多々あるのが排除法に対しての一部の意見だ。だけど、その一部の意見よりも大多数の人間が凶悪犯罪者や爆破テロを行うテロリストの徹底した対処を求めているからこそ、今なお兄さんが発案した異常者(ヒール)排除法案は世界中で可決され、国際連合もその法案に賛成しては多くの国々で採用されているんだよ。世界は未だにあの日の悲劇を……9・11の同時多発テロの恐怖に支配されているんだ。だからテロリストを含む多くの凶悪な人間の厳重な処罰を与える排除法を世論は推し進めているだよ」

「で、ですけど……それにしては異常者(ヒール)排除法で排除され続けているのが、三次元人が2割ほどで二次元人は8割ほどだなんて、余りにも処分されている数に差が出ていますけど」

 ジュピターキッドの話を聞いても未だに納得できずにいる美都玲奈や新世代型たちは、今度は排除法で処罰されてる人種がどう見ても二次元人の方が遥かに多いと指摘した。これに対してジュピターキッドは軽く溜息を衝いた面持ちで渋々と答え返す。

「それも確かにそうだ。異常者(ヒール)認定を受けているのは殆どが二次元人だ。それこそ、三次元人が二次元人を差別化して三次元人よりも多くの二次元人を迫害しているという話題もちらほら小耳にするよ。しかしその背景には、三次元人が抱いている二次元人への恐怖……今で言う異常者(ヒール)の発生現象が原因なんだ」

異常者(ヒール)の発生が原因?」

「そう。これはまだ二次元界と三次元界が融合し、それぞれの種族同士の交流が始まった頃の事……前触れも無く精神に異常を来たした二次元人が無差別に三次元人を殺傷していく事件が起きてしまったんだ。この事件により、二次元人の精神状態が異常化した通称異常者(ヒール)の発生事案と同時に、いつ異常者(ヒール)化するか分からない二次元人への只ならぬ恐怖心が三次元人側に芽生えてしまったんだ。この事件以降、当時のアニメタウン市長であり同時に初代聖龍隊総長の兄さん、いや小田原修司が発案したのが今では世界中で採用された異常者(ヒール)排除法だったんだ。兄さんは昔から「二次元人は本来、高等な種族で穢れた種族である三次元人を導いてくれる輝かしい種族であり、鬼畜でかつ残忍で凶悪な二次元人などの異常者(ヒール)は存在を決して許されない存在である」と公言した事で、その様な悪質極まりない二次元人の排除も目的とした異常者(ヒール)排除法を正式に二次元界であるアニメタウンに最初に発案し、その後世界中で勃発し続ける二次元人の異常者(ヒール)化現象と陰惨な爆破テロの鎮圧も兼ねて国連を通して世界中に法案が適用されていったんだよ」

『……………………………………』

「要するに、異常者(ヒール)排除法が世界中で採用され適用されたのは、かの9・11以降の人々のテロへの恐怖心からテロリストの殲滅と凶悪犯罪撲滅の為に世論が推奨していったから。そして排除法で三次元人よりも二次元人の方が処分されていくのは、異常者(ヒール)化現象で二次元人が突然凶暴に成ったりクリーチャーに変異して襲い掛かって来るという恐怖心から、どうしても二次元人の方が排除されていってしまうんだ。凄く酷だけど、未だに二次元人が精神的にも肉体的にも三次元人の憎悪に影響を受けて怪物みたくなってしまうのが現状だからね……」

 ジュピターキッドは最後に残念そうに話し終えると、他の聖龍隊や赤塚組の様に研究所員の就寝部屋の探索に戻っていった。しかしジュピターキッドが語ってくれた話の内容に新世代型達は余りの衝撃に唖然としてしまうのであった。

 二次元人を高等な種族であると信じ重宝していた小田原修司は、凶悪な二次元人や三次元人の負の感情に感化され精神的に異常と化した二次元人の粛清として異常者(ヒール)排除法を発案。その後、例の世界的テロ9・11によって世界中にテロの恐怖が蔓延してしまった情勢の中で小田原修司の考案した異常者(ヒール)排除法を国連は大変気に入り、二次元界だけでなく三次元界でも採用しては世界中でテロリストや凶悪な人間の排除に専念していったのである。しかも排除法で処分される割合が三次元人よりも二次元人の方が多いのは、三次元人と違い二次元人は異常者(ヒール)と成り果ててしまうという恐怖心から三次元政府は二次元人の異常者(ヒール)の方を率先して行う為に二次元人の排除率の方が高まってしまう現状なのである。

 これらの事実を知って、新世代型達は自分たち二次元人が生きている世界情勢の背景と三次元人が抱く自分たち二次元人への恐怖心に多大な衝撃を受けるのだった。

 

 一方で研究施設の職員達が寝泊りに使用していた部屋を物色していた赤塚組が、部屋の片隅に置かれている鍵の掛かった長方形の箱を見付ける。

「っ、これは……」

 最初に箱を見つけた赤塚組のゴマが中身を確認する為、僅かな隙間から中を覗いてみると箱の中には銃らしき物体が確認できた。

「あ! これは……大将! それにみんな! 何だかヤケにでっかい銃が箱ン中に収められているッス」

 箱に収められた銃を皆に報告するゴマ。ゴマの報告を受けて赤塚組の一同と銃と聞いて駆けつけたジェイクが箱の許に集結する。

「銃が有んのか! そりゃ良い。戦力の加算の為にも貰っておいた方が良いぜ」

 この先の戦闘で使用する為に箱を開けて中身の銃を貰い受けようと言いだすジェイク。だが肝心の銃が収められている木箱は鍵が掛かっており、容易に開ける事は困難であった。

「こんなモン、力尽くでどうにか……っ!」

 ジェイクは収められてる銃器をどうしても入手すべく、強引に箱をこじ開けようとする。しかし箱は木製に関わらず頑丈に造られており、ジェイクの様な屈強な男の力でもこじ開けるのは中々難しい。

 そんな木箱の戸に苦戦してるジェイクを見て、大将が歩み寄ってはジェイクに声をかける。

「はいはい、ジェイク。そんな無理やりこじ開けようとしなくっとも、俺様に任せれば簡単に開くぜ」

「なに? お前、この頑丈な南京錠を開錠できるっていうのか?」

 大将の声掛けにジェイクは木箱を塞ぐ頑丈で大きな南京錠を開錠できるのか問い質すと、大将は余裕に満ちた表情で綽々と木箱の前に歩み寄っては腰にぶら下げていたナイロン製の包みを手に取り、それを広げた。

 するとナイロンの包みからはドライバー等の大工作業で使われる小道具がビッシリと備えられていた。

「おいおい、こんな小道具で南京錠を開けられるのか?」

「お前さんは何を勘違いしてやがるんだい? 一体いつ、俺様が南京錠を開錠するって言った?」

 ジェイクの疑問に勘違いするなと言い返した大将は、平然と銃が収められてる木箱の方へ広げた大工道具を使い始めた。

「な、何をする積りだ?」

「見て分かんねェか? 鍵の方じゃなく、箱の方をネジや蝶番やらを外して解体しちまえば鍵なんて必要ないだろう」

 そう、大将は銃を収めている箱が木製でもあるため敢えて鍵の開錠ではなく木箱の解体をしてしまえば容易に中身を取り出せると考え付いたのだ。

「成程な。鍵じゃなく入れ物の方を壊しちまえば簡単だしな……それにしてもアンタ、いつもそんな大工道具一式を持ち合わせているのかよ」

 鍵ではなく敢えて逆の発想で入れ物の解体に目を付けた大将を称賛するジェイク。だが同時にジェイクは大将に常に大工道具を常備しているのか訊ねると、大将は黙々と木箱の解体に取り組みながらジェイクの疑問に事情を挟みながら答えた。

「ああ、昔っから簡単な小道具ぐらいは常備する様、体に染み付いちまってるのよ。実は俺の実家は代々、大工の家系でな。俺も小さい頃から金づちや釘なんかを弄っていて見慣れたモンなのよ。大工の知識と技術は親父から直伝されたり自力で学んだりして今じゃ1人前の大工職人って肩書きも付いているのよ。赤塚組を大々的に組織した後も、家が災害や紛争で大破した奴等の為に赤塚組総出で民家を建ててやったり修復して、その地域の連中が生活できる様にもしてやってんのよ」

「へぇ~~、お前さん達。ただ武器を手に戦うだけの集団じゃなかったんだな」

 大将の話を聞いて改めて赤塚組という組織についての考えを見直したジェイク。そんな黙々と作業に没頭する大将を見据えるジェイクに、後ろからその赤塚組の幹部であるテツが歩み寄ってはジェイクの肩を軽く叩いて彼に話し掛ける。

「そう、俺たち赤塚組は今や戦うだけの集団ではない。それこそ出来うる限りの力と範囲で地道ながらも人の憩いの空間を造り上げているんだ」

「憩いの場?」

 テツの発言に疑問に思うジェイク。そんな彼にテツは続けて詳細を話した。

「そうだ。家と言うのは住む人にとっては唯一無二の憩いの空間でなければならない。そんな家を災害や紛争で大破もしくは失ってしまった人々に再び憩いの空間を提供する為にも、家を造り上げる技術は必要なんだと……俺達は大将に良く教えられたもんだ」

「…………………………」

「俺たち幹部衆も、他の組員と同じ様に最初は大将に半ば強引に大工の技術を叩き込まれた。無論、最初は戸惑いも感じていたが今となっては大将にとても感謝している。俺やミズキも元自衛隊とはいえ戦うだけしか取り得のなかった輩だった。それを大将が精魂込めて大工技術を教えてくれたお陰で今まで戦うしか能のなかった俺みたいな輩でも正真正銘、人の助けになれる事ができたんだ。戦うだけなら銃器を持った人間なら誰にでもできる野蛮な行為だ。だが大将はそんな俺たちに戦いとは全く別の手腕も身に着けてくれたんだ。人を救済する、それは破壊する事ではなく再生する事である……俺は大将から大工の技術を教わってから、そう思える様になったんだ」

「っ…………」

 テツの真剣な面差しでの釈明にジェイクは呆気に取られた顔で感心した。

 人の憩いの空間である家。その家を破壊されたり損失してしまった人々の助けになれる、大工としての技術と腕前を配下や子分達に教えている大将。その大将から授かった技術で戦うだけでなく家の修復や建築を図れる経緯に、テツだけでなく赤塚組の人間全員は感謝しているのだった。

 そんなテツの大工技術を教えてくれた大将への感謝の言葉を、背中越しとはいえ大将は秘かに小耳に入れながら作業に没頭していた。

 そして遂に作業を終えた大将が立ち上がり、皆の前でネジと蝶番を外した木箱の戸を開いてみせた。

「よし、開いたぜ」

 大将が解体した木箱を開けてみると、其処には通常のライフル銃よりも大型のライフル銃が黒光りを発していた。

「この銃……」

 木箱を解体して開けた大将が始めて見る銃に視線を向けていると、後方で同じく木箱の中の銃に視点を向けてたテツが口を開いた。

「そいつは……まさかウェザビー・マグナムか!?」

「ウェザビー・マグナム?」

 銃器には余り詳しくない大将や周囲の皆々がテツの言葉に気を振り向かせると、テツは木箱の中に収められてるウェザビー・マグナムについて語った。

「正式名称ルガー・NO1・シングルショットライフル、通称ルガー460ウェザビー・マグナムと云われるカスタム銃だ。巨大なアフリカ象も一発で倒せる最強力のカートリッジ、460ウェザビー・マグナム弾を撃てる地上最強のライフル銃だ」

 テツが詳細を教えてくれた強大な威力を誇る460ウェザビー・マグナム・カートリッジは、その銃弾だけでも10cmもある巨大な弾であり、その銃弾を発射できるライフル銃460ウェザビー・マグナム・カスタムは正に地上最強のライフル銃であった。

「それはスゲェな! 早速この銃を頂戴しようぜ」

「だ、だけどな大将。そのウェザビー・マグナム銃は威力が途轍もなく高くって、普通の人間が撃ったら忽ち肩の骨が確実に折れちまう代物なんだぞ」

 地上最強のライフル銃と知って頂こうと言い出す大将に、テツはウェザビー・マグナム銃が高威力で普通の人間が発砲すれば確実に肩の骨を折ってしまう危険が伴うと告げる。

 だが大将は自信満々にテツに言い返した。

「なぁに言ってやがるんだ。オレ様が日々の大工仕事で体を鍛え抜いているのを忘れたか。この最強クラスのライフル銃も扱って見せるさ」

「だ、だけど……銃弾はどうするんだ? そのウェザビー・マグナム銃の弾丸は、俺達が常備しているライフル銃の弾丸より遥かに大きい専用の460ウェザビー・マグナム弾しか装填できない。銃本体があっても弾丸が無きゃな」

「そうか、弾か。うん……いや待てよ」

 鍛え抜いた己の肉体なら肩の骨が折れてしまうウェザビー・マグナム銃を扱えると豪語する大将に、テツは肝心の専用弾丸はどうするのだと問い返す。本来のライフル銃の銃弾よりも遥かに大粒のマグナム弾しか装填できない事を指摘された大将は何かを思い返したかのように再び工具を手に持って、ライフル銃が収められていた木箱の一番下に設備されてる同じく鍵の掛かった引き出しを工具を用いて解体する要領で開けてみた。

 すると引き出しの中にはビッシリと460ウェザビー・マグナム・カートリッジ弾が詰め込まれてた。

「よしッ、思ったとおりだ。銃が上の棚に収められていた訳だし、その下の引き出しには弾があるのは明白だ!」

 引き出しの中に詰め込まれてる460ウェザビー・マグナム・カートリッジの銃弾を残らず回収する大将。

 そして全ての弾薬を回収し終わると、今度は最初に見つけた460ウェザビー・マグナム・ライフルを背中に背負う形で装備した。

「やれやれ……肩が折れたり脱臼しても知らないぞ」

 弾丸だけでなくライフルまでも装備した大将を目の当たりにして、肩の骨が損傷しても知らないと呆れながらテツが告げる。

 そして大将の大工工具だけでの武器貯蔵箱の解体を観続けていたジェイクが改心しながら声を掛けてきた。

「それにしてもオッサン。まさかドライバーとかだけで箱を開けて中身の銃を手にしちまうとは……驚きだぜ」

「へヘッ、日本の匠の技を侮るなよ」

 工具のみで木箱を開平して見せた大将のスゴ業に驚きを覚えるジェイクの言葉に、大将は日本が古より受け継ぎ発展させてきた大工の技量を誇らしげに自慢した。

 そんな大将の匠の技をジェイクや他の面々同様に目にしてた聖龍隊のニュー・スターズ総部隊長のフロートが、ジェイクや周囲の皆々同様に大将の大工の腕前を称賛してきた。

「アウッ、さすがだぜ赤塚組の頭領さんよ! だがな、このオレ様だって技師としては聖龍隊でも随一の腕前なんだぜッ! メカニックとして常日頃から仲間達の装備を整えたり、精密機械だってその気になれば御手製のを自分で考案して作れるのよ。アウ!」

「その通り! ダーリンの技師の腕前は貴方以上なんだからっ。ホントにその気になっちゃえば、瓦礫の山からでも繊細な装飾が彫られた造形だって造っちゃうんだから!」

 このフロートと彼に魅了されっ放しの恋人で今は完全なアメリカンガールの風貌に豹変してるカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌの2人からの発言に大将は勝気な笑みで撥ね返した。

「ヘッ、確かにオレ様の方は精密機械に関しちゃアンタよりも疎い……だが木造加工ならこっちの方が腕は達者なんだぜ」

「ハハッ! そう言う意味じゃ、オレたちゃ此処にいる連中の中では誰よりも技術の腕前が鳴ってるって事だな! ハハハッ」

 大将が撥ね返した勝気な言動にフロートは大笑いしながら愛想よく話し返した。お互いに己の技術に誇りを持っている者同士の朗らかな会話であった。

 だが、このフロートの技師発言に対して彼の大柄で巨大な体躯を目の当たりにしてるジェイクが、フロートに問い質した。

「アンタ、技師で精密機械も弄ってるのか? それにしちゃ、そんなデカイ腕で精密な手作業ができるのか?」

 丸太の様に太く、精密機械の細かな作業はもちろん狭い空間の機械部分も弄られなさそうなフロートの両腕を指しながらジェイクが訊ねると、フロートは……

「なにか、〔ウィーーン、ガチャ〕言ったかな? ジェイクくん」

「腕から腕が出たーーッ!」

 何と巨大な両腕の手の平がパカリと開平し中から小型の腕、所謂マジックハンドが出てきた。これを目の当たりにしたジェイクはもちろん、ジェイクと同じく初見である新世代型達も驚愕した。

 そんな驚愕する面々を前にフロートは高笑いしながら語り明かした。

「アウ! おれ様のごつくて太っい腕は主に攻撃用として使ってるのさ。精密な手作業の際には、腕の中から小型マジックハンドが出てくるから精密な作業はもちろん狭い箇所にマジックハンドを伸ばして精巧な作業が行えるって訳なのよッ!」

「………………………………」

 巨大な腕から小型マジックハンドを出せる為に精密性の高い手作業も難なく行える事を、マジックハンドを見せびらかしながら豪語するフロートの言葉にジェイクは衝撃を受け失意に満ちた面持ちで愕然としてしまう。

 そして気を取り直したジェイクは、巨大な腕から小型マジックハンドを出せるフロートに叫びながら反論を言い放つ。

「何それッ! アンタ上半身は最早、人間とは掛け離れた体付きだし海パン一丁だし……マジで鉄人(サイボーグ)じゃなく完全なロボットじゃないか!! ホントに海パン一丁の変態ロボットじゃねェか!!」

「いやいや~~変態だなんて、そんな言わないでくれよ。照れるじゃねェか」

「いや褒めてないからッ! 全ッ然、褒めてないからな俺!!」

 人間離れし過ぎたフロートの体格と構造そして下半身は海パン一丁姿に、ジェイクは最早フロートが鉄人(サイボーグ)などではなく海パン一丁の変態野郎と罵るが、変態と呼ばれたフロートは逆に嬉しそうに照れる始末。これにジェイクは一言も変態である事を称賛してる積りは微塵も無いと言い返す。

 そんな茶番劇を呆れながら傍観する新世代型たち。すると確かにジェイクの言うとおり、見た目的には変態であるフロートの容姿について新世代型の琴浦春香が、フロートが指揮するニュー・スターズの部隊【ソウルイーター】組に尋ねた。

「あの……フロートさんって、いつもあんな感じなんですか?」

 常に海パン一丁で陽気な人間離れした骨格に変態、いや変貌してしまってるフロートについて琴浦春香が尋ねると、ブラック☆スターが楽しげに話し返した。

「オウよっ、ウチらん所の総部隊長はいっつもあんな感じで、見てて飽きねェんだぜ」

 ブラック☆スターに続いてデス・ザ・キッドも今では自分達の上官であるフロートについて複雑そうに語った。

「まぁ、義理堅く人情味溢れる兄貴肌の人物として聖龍隊内でも好感はかなり有るのは認めてはいるが……常に裸足で海パン一丁という、ふしだらな格好だけは歪めない」

 一応は人格者としてはフロートを認めているものの、彼の変態染みた格好だけは受け入れ難いと述べるデス・ザ・キッド。すると彼のパートナーであるトンプソン姉妹のエリザベスとパトリシアも続けてフロートの性分と日頃の態度について話し出した。

「ま、キッドの言うとおり。あの格好は完全な変態だけどね……でも私たちニュー・スターズの隊士に対しては日頃から武器や乗り物なんかの装備の手入れも率先して行ってくれるし、その技量も確かなものだから頼もしい存在には違いないわ」

「はははっ、でも私はフロート総部隊長の面白い格好と態度は大好きだよ! ホントに窮地に陥った時は鋼鉄の体を盾にして私達を護ってくれるし、戦闘の最中に壊れちゃった通信機なんかの聖龍隊からの支給品の道具なんかもスグに直してくれるし、頼りがいのある良い人なのは本当だよっ!」

 日頃から装備品や自分達が使用しているメカの修理や整備も率先して行ってくれるフロートの人望に彼の格好に対してはキッドと同意見のエリザベスは渋々ながらも認めている様子で、一方で妹のパトリシアは日常的に同じ格好そして態度のフロートにはかなりの好感を持っている様子であった。

 そして最後にマカ=アルバーンとソウル=イーターの2人組もフロートについて述べた。

「確かにフロートさんは格好はあんなんだけど、技師の腕前は超一流だし仲間思いだし……人望が厚いのは確かだから安心してよ」

「何より……フロートは本当に強い。それだけでも十分に認められる」

 人望が厚いのは確かだと述べるマカに、十分に強ければそれだけでも認められる存在であると無愛想な面持ちで皆に言うソウル。

 

 そんな如何にも変態の格好に関わらず人望の厚いフロートの事を聞かされた面々の許に、研究所員の就寝所の探索を終えたメタルバードがやって来て皆に言った。

「何だか楽しそうだな、お前ら。此処の就寝部屋の探索は殆ど終わった。ちょうど奥の右端にドアがあって進めそうだから向こうに移動するぞ」

 メタルバードは室内の探索を終えたので就寝部屋の右奥に繋がっている扉を抜けて移動すると皆に伝えた。

 そして、その問題の扉の前でメタルバードは慣れた手付きで右腕を軟体化させて鍵穴に挿入すると簡単に鍵を開錠して扉を開ける。そして最初にメタルバードたち聖龍隊と大将たち赤塚組にジェイクらが扉を潜り抜け、向こう側の安全を確認しに行った。

 それから1分も経たない内に、メタルバードが扉の間から顔を覗かせて外側で待機していた新世代型たちを呼び掛けた。

「おぉい、お前たち。この先は何も居ない、何だが書類の山ばっかりが目に付く部屋で危険は全く無い。入ってきても大丈夫だぞ」

 室内の安全を確認したメタルバードの言葉を聞いて、新世代型達も扉を潜って向こう側の部屋に進入していった。

 

 

 皆が扉を抜けて進入したのは、数多くの書物や様々な薬品を陳列している棚が目立つ一見書斎の様な部屋であった。

 中には薬品が収められたガラスのフラスコや試験管が中に陳列された棚に、机の上や周りには数え切れないほどの書物が積み上げられた若干ながらも散らかっている状景であったが、安らげる様な高級そうな革製の椅子も一つだけ室内に置かれてた。

 聖龍隊と赤塚組が室内、特に山の様に積まれてる書類や資料に本などの書物付近を徹底的に調べていき、この施設を運用してた研究機関に関する情報を少しでも入手しようと躍起になっていた。

 誰もが聖龍隊や赤塚組と同様に書類の山に注目する者も居れば、棚に陳列されている薬品に目を向ける新世代型達も見受けられた。彼らも部屋の現状を隅々まで見渡して、状況を自分の目で確認したかったのだ。

 そして机の周囲に積まれている書物に聖龍隊と同様に気になっては目を向けていく新世代型たち。

 するとその時、山積みにされている書物を念入りに見続けていた出雲ハルキと星原ヒカルが何かの本を発見した。

「ッ、ヒカル。これ」「え……これは」

「なんだなんだ。2人とも何か見つけたのか?」

「ハルキ、ヒカル。その本は……」

 本を見つけたハルキとヒカルに同じ様に部屋を見渡していた瀬名アラタと細野サクヤが尋ねると、2人はアラタとサクヤの2人にも本を開いて中身を見せた。

「これって……!」

「れ、歴史書? しかもこれは、あの小田原修司さんが産まれてからの世界史に関する……!」

 本の中身を拝見したアラタとサクヤは、其処に書かれていたという文字に目を引き付けられ、最初に本を発見したハルキとヒカルは時系列という文章について己の解釈を述べた。

「おそらく……かの鬼神 小田原修司の今までの経緯に付いても実際の歴史の綴りと共に書かれていると思うんだ。この本には」

「小田原修司さんが生誕してからか……もしくは聖龍隊を結成してからの経緯が克明に載ってると思うんだ」

「そ、それじゃ見てみようぜ! あの小田原修司が今までどんな武勇伝を、世界情勢に関わってきたか俺は知りたいんだ!」

「僕も興味ある。二次元人を信頼し、保護していながらも同時に異常者(ヒール)排除法案を世界に向けて推奨した小田原修司の今までの歴史を知ってみたい」

 アラタとサクヤの同意も兼ねて、4人は本を開いて中身を読んでみた。もちろん、この時彼らが読み綴った本の内容……つまりは小田原修司の経緯は共有感知を通して他の新世代型にも克明に伝わってしまってた。

 本には小田原修司が産まれてからの二次元界の情勢と三次元界の情勢や事件などが詳しく年表ごとに記されていた。

 

 

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