現政奉還記 B.O.W.編 作:セイントドラゴン・レジェンド
試作品MELUS素体001-DX、試作品MELUS素体002-DX、試作品MELUS素体003-DX。
その内の一体、試作品MELUS素体003-DX、総称し3-DXと激しい攻防を繰り広げる聖龍隊と赤塚組。
無事に3-DXより逃げ果せた一行だったが、3-DXとの戦闘で脚を激しく損傷してしまうセーラーウラヌスとセーラーネプチューンの両名は、致し方なく戦前より離脱し新世代型の4名に担がれて移動する羽目になる。
その後、一行は実験の果てに廃棄された死骸の山に群がる凶暴性の高いゴキブリの大群を掻い潜り更に地上へと近づいていく。
その最中で聖龍隊より聞かされたジェイク・ミューラーの父親に、ジェイクと親しい女性エージェントの過去や研究者であった親の事を聞かされ衝撃を受ける新世代型達。
更に地下研究施設で働いていた研究員のレポートより発覚したウィルス実験の実験体とされた数多の悪役達の末路が記されたレポート。そして明かされる異常者排除法案に込められた小田原修司の思惑と願望。
そして強靭な生体兵器で氷と炎を操るサイの人造獣人と死闘を繰り広げた直後、奥の間から聞こえてきた謎の物音に一行は足を進ませるのだが……。
[亡骸を喰らう複製]
激闘の末、氷の能力と炎の能力を併せ持つサイの人型生物兵器を倒した一行は、再び非力な新世代型たちをダイヤモンド・フォーメーションで護衛しつつ先を進んでく。
しかし謎の物音が聞こえてきた通路を突き進んでいくとアルミ製の扉が目の前に現れ、その扉を通って更に先を進んでいくと今度は左への曲がり角を曲がり、今度は木製の扉が出現しそれを潜り抜けていく。
すると一行が辿り着いたのは、会議室の様な広い部屋であった。
「……此処は一体」
会議室のテーブルに手を置きながら考えに耽る大将にメタルバードが解釈を立てる。
「おそらくは……研究所員が休憩がてらに、自分達の研究テーマを互いに発表し合ったりしていた会議室なんかじゃないのかね? ほら、こんな所に埃を被ってるだけじゃなく湿気っちまってるコーヒーや砂糖があるぜ」
メタルバードが手を翳したのは、会議用テーブルの傍らの電気ポットの横に陳列されてる埃塗れの湿気って固まってしまってるコーヒーや砂糖だった。おそらくは会議の際に研究員たちがコーヒーなどを作って飲んでいた名残だろう。
と。皆が研究所員たちがお互いの研究結果を発表し合ってた会議室を物色していると、再び謎の物音が部屋の奥から聞こえてきた。
「ひっ!」「な、何なの……この音は?」
先ほどから耳に入ってくる物音に脅えるHEADの宝生波音とは真逆に、その物音に真剣に疑問を抱く洞院リナ。
物音は会議室の片隅、その右奥の扉の向こうから先ほどとは打って変わって明らかに物音が近くなっていた。
「このドアの向こうだ。謎の音はよ……」
「鬼が出るか蛇が出るか……」
互いに謎の物音に用心しながら確かめようと扉に歩み寄るメタルバードと大将。
そして歩み寄った扉を開き、奥へと進もうとすると扉の先は細い廊下であった。
廊下に出てスグに左にしか曲がれない通路を通って更に奥の方へと足を運ぶ一同。
だが、その先に存在していたものを目の当たりにして全員は一気に顔から血の気が引いた。
何かを貪る様な異様な物音がする方に近寄ってみると、其処には廊下の端で倒れこむ女性の腹部に顔を近づけて不気味な物音を立てている男の姿があった。その男は背後から近付いてきた一行の存在に気付いたのか、ゆっくりと顔を振り向かせると。
その男の顔は酷く血色が悪く、所々が腐敗している上に口元が血塗れのゾンビであった。ゾンビは女性の死体を貪っている最中、食事中にやって来た一行に気が付くと立ち上がり、より新鮮な肉を求めて近付いてきた。
「お、お前は……!」
だが血色の悪い腐敗した容姿のゾンビの顔を目撃した途端、メタルバードたち一部のHEADは驚愕してしまい応戦するのを一瞬ばかし忘れてしまう。
するとゾンビの顔を見た途端に驚いて動揺してしまってる聖龍HEADを押し退けて、ジェイクが先頭に飛び出した。
「お前ら退けッ」
戦前に飛び出したジェイクは躊躇う事無く眼前のゾンビに発砲し、眉間に着弾させるとゾンビはその一発で床に倒れた。
『……………………』
ほぼ一瞬の内に、眼前に出現したゾンビを狙撃して倒してしまう現状を目の当たりにした新世代型たちは早すぎる展開に言葉を失ってしまう。
だがジェイクが狙撃して倒したゾンビに近寄り見下ろすメタルバード達は、腐敗しているとはいえ見覚えのあるゾンビの顔に名を口にした。
「こりゃ、青山じゃねェか……」
「ああ、間違いない。《たかまれ!タカマル》の悪人にして
メタルバードとジュピターキッドが口にした【たかまれ!タカマル】の悪役、青山のゾンビ化した姿に一同は目を向けた。
更にメタルバードとジュピターキッドは先ほどまでゾンビ化した青山が貪り食っていた死体の女性にも目を向けた。
「こっちは青山の姉貴の岡山だぜ」
「こっちも最近まではゾンビとして徘徊してた痕跡があるけど、動かなくなった後はまさか弟に体を喰い付かれたとはね」
ゾンビ化した青山が貪ってた女性の亡骸は、その青山の実姉である岡山の亡骸であった。おそらくは姉弟ともにゾンビと化したが、姉の方だけ先に体内のウィルスが弱まり活動を停止した後にゾンビ化した弟に体を喰われたものだと思われる。
するとメタルバード達の話を聞いて疑問に思った星原ヒカルが訊ねてきた。
「この二人……姉弟だったんですか?」
ヒカルの質問に、最初に青山/岡山姉弟の被験体リストを入手し記載されてる名前を確認した赤塚組の大将が答える。
「い、いや……俺達は、この二人の姉弟の名前が入ったリストを入手しただけで、此処に連れてこられた悪党共の罪状や素性までは詳しくは」
するとヒカルの質問に答えている大将の話し声を聞いて、メタルバードが代わって詳細な事柄を話した。
「ああ、そうだぜ。この二人は確かに血の繋がった姉弟だ。最も姉の方は、逮捕される前まで結婚して性が岡山と変わっていたが、どっちも性根の腐った姉と弟には違いなかったぜ」
そう言うとメタルバードは改めてジェイクに狙撃されたゾンビ化した青山に、その青山に己の亡骸を貪り食われてた姉の岡山の死体を見下ろしながら仲間の聖龍隊に呼び掛けた。
「なぁ、ちょっと……この二人の死体、焼かないとマズいぞ。纏めて焼いてくれねェか」
だがこのメタルバードの指示に、仲間であり火炎系の能力者達は一同に顔を渋らせてメタルバードに言い返した。
「バーンズ。私達、さっきのサイの人型生物兵器との戦闘で豪く消耗してるの。悪いけど、みんなもう炎を繰り出すほど余力は残ってないわ」
「そうか。それは悪かったな……」
セーラーマーズを始めとする火炎系能力者達の現状を聞いたメタルバードは別の対処法を考えた。そして思い付いた結果、右手を鋭利な刃物に変形させて左手で死骸となった姉弟の頭を掴むと、躊躇う事無く右手の刃で二人の首を続け様に断頭し完全に頭と胴体を切り離した。
「ば、バーンズ、お前……!」
躊躇する事なく首を切断するメタルバードの突然の行為に驚愕する大将たち赤塚組に新世代型たちに、メタルバードは首を斬り終わると厳つい顔を振り向かせて事情を答えた。
「この手のゾンビは体そのものを焼くか、または首を切断するか吹き飛ばして粉々にしない限り再びウィルスの影響で立ち上がるタイプの生物兵器だ。死体を焼けない以上、首を斬るしか手立てがねェだろ」
微塵の躊躇いも見せずに二人の首を切断してみせるメタルバードの行為に対しての説明を聞いてもなお、動揺が収まらない一同。
すると二人の首を平然と切り落としてみせるメタルバードを見たジェイクが、今度は自身が思った疑問について問い掛けてきた。
「このゾンビはC-ウィルスのゾンビとは違うようだが……ひょっとして」
このジェイクの疑問に最後まで話を聞かずとも内容を理解したメタルバードが即決で答えた。
「……ああ。こいつはC-ウィルスと違って古いタイプのウィルス。今では洋館事件と呼ばれるラクーンシティ郊外の山中で確認されたT-ウィルスって種のウィルスだ。そう、お前さんの親父やシェリーの親っさんが完成させちまったウィルスだ」
「……………………」
ジェイク自身も薄々は気付いてたが、自分の父親であるウェスカーが生み出したウィルスの存在に多大な嫌悪感を募らせる。
そして青山と岡山の二人の死体の首を切断したメタルバードは、双方の亡骸を廊下の端に寄せた上に体の上に二つ揃えて二人の首を並べて置いては先へと急ぐ。
醜い腐敗した肉体へと変貌した岡山と青山の姉弟を尻目に、どんどん廊下を突き進んでいく一行。
そんな中で先頭を行くメタルバードは後方の仲間達に注意を呼び掛ける。
「気を付けろ。アイツら
「ああ、解った」
メタルバードからの忠告に同意し頷く大将。
そのまま一行は人影すら見当たらない廊下を一歩ずつ踏み締めて進んでいき、再びL字の曲がり角に差し掛かる。
そのL字の角を右に回ってみると、其処には5体ほどのゾンビが徘徊していた。しかも一行の存在を曲がった途端に気付いたのか、此方へと向かってきた。
「応戦開始だ!」
大将の威勢のいい皮切り声を切っ掛けに、銃撃戦を得意とする赤塚組と聖龍隊の隊士らが激しく連射していった。
「よぉ、久しぶりだな三輪! その後ろで立ち往生してるのは岩本に鷹岡、ドクターことカンザキコウスケさんもお出でか!」
ゾンビの集団の先頭には【闘将ダイモス】の三輪防人が全身の肌を異様な水膨れで覆われた奇怪な姿で接近し、その背後からは中々前に進まない三輪防人で歩み寄る事が出来なくなり立ち往生してしまう【幽☆遊☆白書】の岩本に【暗殺教室】の鷹岡、そして【BLACKCAT】のドクターの通称を持つカンザキコウスケまでもゾンビに成り果てて迫って来ていた。
と。此処で大将がゾンビ化した
ゾンビの三輪防人の身体に起きた変化に逸早く気付いたメタルバードは、銃撃を続けるジェイクや大将たちを押し退けて前へと踏み込んだ。
「やめろ! それ以上の迎撃は危険だ!」
仲間達にそう言いながら戦前に飛び出たメタルバードは、右手を突き出して其処から強烈な突風の衝撃波を繰り出した。
メタルバードが放った突風で異常なまでにオレンジの物体が腹部から膨れ上がった三輪防人に、その他のゾンビも一斉に吹き飛ばされた。
だがゾンビたちが吹き飛び、床に雪崩れ込んだその瞬間。腹部が腫れ上がった三輪防人の膨れたオレンジ色の
「ば、爆発した?」
突如、ゾンビ化した三輪防人の腹部から膨らんでいたオレンジの
そんな驚き慄く赤塚組にメタルバードが訳を話す。
「あのオレンジ色の
「は、はぁ……いわゆる、爆弾ゾンビって感じか」
メタルバードの説明を聞いて口をポカンと開けて愕然としてしまう大将。
そんな中、一行は先へと進むためにゾンビ達が薙ぎ倒れた場まで進んでいく。
そして爆発して跡形も無くなった三輪防人以外のゾンビ達の首を、先ほどと同様に切断していく為にメタルバードはある行動を取った。
メタルバードは鋼鉄化している全身で、足の裏の部位を鋭利な刃物に変形させると、その刃の足で踏み付けていく要領でゾンビ化し倒れてる岩本/鷹岡/カンザキコウスケの首を切断していきながら前へと歩いていく。それはまるで切れ味のいい包丁で太い大根に力を込めて真っ二つに切り分けていくかの様な手捌き、いや足捌きであった。
「踏み付けながら同時に首も切れるとは……いい能力だな」
「へへ、便利だろ」
ゾンビの首を踏み付けると同時に切断して見せるメタルバードの技を見たジェイクが能力を称賛すると、メタルバード本人は微笑を口元に浮かべながら言葉を返した。
三輪防人を始めとするゾンビ化した悪党達を無事撃退した一行は、更に廊下を突き進み先へと進行しようと歩き始めた。
が、その時。
「きゃあっ」
最後列の方から女子の悲鳴が響き渡り、皆が後方に目を向けてみた。
すると一行の後方から、先ほどの銃撃戦での銃声などを聞き付けて来たのか、また別のゾンビの群れが押し寄せて来た。
「! お前達……悪事に留まらずゾンビに成り果てるとは。堕ちる所まで堕ちたな」
かつて自分達が捕らえた経緯のある【インフィニット・ストラトス】の篠ノ之束【有頂天家族】の夷川早雲【舞-乙HiME】のナギ・ダイ・アルタイ【ひぐらしのなく頃に】の北条鉄平【ライフ】の佐古克己と狩野アキラたち、迫りくるゾンビの群れを前に墜ちる所まで堕ちた悪党達の腐り果てた醜態を目撃したキング・エンディミオン。
そんな腐敗臭が立ちこもる悪臭を放つゾンビへと堕ち果てた悪党達を迎撃していく後方を防衛していた聖龍隊士たち。だがゾンビに成り果てただけに、中々倒れる気配も感じられないゾンビの群衆は確実に迫って来ていた。
するとその時「ちょっくらゴメンなすって」と、新世代型たちを掻き分けて、先頭から一気に最後方まで移動してきた大将が、後方から迫るゾンビの群れに向かって手榴弾を手にする。
「さぁ、今の内に早く行けッ!」
大将は手榴弾を使用する前に、背後の聖龍隊や新世代型たちに急ぎ先へと行くよう指示を飛ばす。その大将の言動を素直に受け止めた聖龍隊は、護衛の対象である新世代型たちを引き連れて先へと向かった。
「早く! 大将の事でやんス、何か仕掛ける気ッスよ」
大将の言葉を聞き入れて、赤塚組では最も大将と付き合いの長いギョロが何かの兆候だと咄嗟に判断し、大将の言う通り新世代型たちを聖龍隊と共に誘導しながら先へと向かった。
そして大将は皆が先に進んだのを確認すると手にしていた手榴弾の安全ピンを引き抜き、下の方から転がす要領で手榴弾をゾンビ達の方へ放り投げた。
「ほれッ、プレゼントだ」
足元に手榴弾を転がしていった大将は即座にその場から立ち去る。手榴弾はゾンビ達の足元まで転がっていき、そのままゾンビ達の足元で爆発を起こした。足元から爆発を受けて、ゾンビと成り果てた悪党達は派手に吹き飛び、無残な死体へと戻った。
ゾンビに成り果てた悪党達の足元に手榴弾を放り投げ、一度に葬った大将はスグに先に進行した仲間達の許へと駆け付けていった。
「おぉい、お前ら! 後ろのゾンビ共は全部、片づけ終わった。もう後ろからゾンビが来る事は無いと思うぜ」
仲間達の許に駆け寄った大将から、先ほど後方から群がって来たゾンビ達の全滅を聞いた聖龍隊は安堵する事無く警戒心を強めたまま赤塚組や新世代型たちに言った。
「それは良かった。だが、この先の扉……この先から異常なまでの悪臭が漂っていやがる。おそらくはゾンビ化した死体の臭いだ、気を引き締めていくぞ」
聖龍隊でも屈指の嗅覚を持つトリコからの指摘を受けて、言われた通りに気を引き締めていく聖龍隊に赤塚組の面々とは反対に、逆に恐怖心が張り詰めてしまう新世代型たち。
そして一行はゆっくりと鉄の扉を開いて、奥へと足を踏み入れていった。
扉を潜り抜けた先は、道幅が3mほどの短い通路に、両脇には入ってきた扉と同じ鉄製の扉が左右対称に配置されていた。
最初は何の姿も見受けられない扉だらけの通路に足を踏み入れ進んでいく一行。そしてメタルバードがその内一つの扉に設置されている小窓から扉向こうを覗いてみると、扉の向こうは小部屋となっており部屋の片隅にはベッドが置かれており、更に中央には移送車に拘束されたまま、腐敗し切り悪臭を放ち蠅が集ってる死体が寝かせられてた。
左右対称の扉に小部屋が設置されている通路の構図にメタルバードは此処が何なのか推測を立てた。
「此処はおそらく実験に使われた人間を監禁したり観察したりする為の小部屋だろう。部屋ん中にはベッドだけでなく、ウィルスで凶暴になった奴を拘束する為の移送車までも置かれたまんまの状態の部屋まであるしな」
ウィルスを投与された被験者を軟禁し、そしてウィルスの影響で興奮したり理性を失った状態でも精密な検査が行われる様にと、軟禁する為の小部屋とその中には被験者を拘束する移送車が完備されていた。
そんな中、メタルバードに感化され興味本位で小部屋を覗いてみる新世代型たち。すると扉の小窓には、中には内側からの大量の返り血がこびり付いて室内が覗けない小部屋などもあった。
だが、ある一室の小窓を覗いてみると室内にはベッドとは別に体をしっかりと固定できる移送車も確認できた。が、次の瞬間、小窓の死角から突如として腐り切った上に血塗れの形相が覗き返してきた。
「わぁ!」
扉の小窓に突如として顔を覗かせた悍ましい形相に怯み、思わず後方に腰を抜かしてしまう吹野タダシ。
そんなタダシの驚きの言動が合図となったかの如く、タダシが覗いていた扉とその隣の扉が自然と開いてしまい、中から所々血で染まった腐敗したゾンビが床を這う様に両腕だけで出てきた。
「フッ……久しぶりだな。カリス・ノウマン、鎧塚凱夢!」
二か所の小部屋から床を這いながら出てきた【ジンキ】のカリス・ノウマンと【怨み屋本舗】の鎧塚凱夢らのゾンビを目にしたメタルバードは、右手を銃に変形して電気の銃弾を発射して床を這って接近してくるカリス・ノウマンと鎧塚凱夢のゾンビの額を撃ち抜いた。
額を撃ち抜かれたゾンビ二体は力尽き、完全に動かなくなった。
「大丈夫?」「あ、はい。少し驚いただけです」
メタルバードがゾンビ2体を撃ち抜いた直後、先ほど驚いて腰を抜かしてしまった吹野タダシに聖龍HEADのディープ・ブルーが手を差し伸べて立ち上がらせてあげてた。
と。その時だった。ディープ・ブルーが吹野タダシを立ち上がらせた直後、奥の小部屋から激しい唸り声が聞こえてきた。
「ア゛ーー、ア゛ーーーーッ!」
何やら必死さが伝わってくる不気味な奇声に皆は大層驚いたが、声の元を探る為メタルバードが気を引き締めて激しい唸り声が響いてくる奥の小部屋の方に足を進ませていった。
「ば、バーンズ! っ……」
一人だけで声の正体を探りに行ってしまうメタルバードに戸惑う大将であったが、一人で淡々と恐れる事無く前進するメタルバードを見て渋々後ろから付いていく。そんな大将に続いて他の面々も後から付いてくる、
そして問題の奇声が聞こえてくる扉の前まで進んだメタルバードと大将は、息を合わせて扉を開けて一気に中へと得物を向けて突入した。
二人が飛び込んだ小部屋。其処には移送車に固定され、動く事すら侭成らないゾンビが奇声を上げながらもがいていた。
「ア゛ーー! ウ゛ーーーーッ!」
両腕両足共にしっかりと移送車にベルトで固定され動けない状態のゾンビを、噛み付かれない様に注意しながら接近して間近で観察してみる二人。
すると血色の悪い肌をしているゾンビに嫌悪感を募らせる大将とは引き換えに、メタルバードは移送車に拘束されているゾンビを間近で拝見してみて気付いた。
「コイツ…………間違いない、仮面ライダー555の草加雅人本人だ」
「え! 間違いないのかい、バーンズ」
メタルバードの発言に驚いて訊き返すジュピターキッドに、メタルバードは真顔で答えた。
「間違いねぇよ……草加の野郎だ」
移送車に固定され身動きの取れないゾンビは、顔立ちや骨格から見て間違いなく【仮面ライダー555】の草加雅人であると断言するメタルバード。
その間もゾンビと変わり果てた草加雅人は身動きの取れない体で必死になって移送車の上で暴れていた。
「ウ゛ーー、ウ゛ーーーーッ!!」
もはや人間の頃の面影はなく、今は完全に新鮮な肉を求めるだけのゾンビへと草加雅人は変わり果てていた。
その草加が突然奇声を上げて暴れ出したのは、おそらく先ほどのゾンビ二体への攻撃による衝撃音で、休眠状態に陥っていた草加雅人のゾンビが目覚めてしまったからだと思われた。
するとメタルバードは何の躊躇もなく、草加雅人の頭の方に回っては、草加の頭部をしっかりと押さえ付ける様に腕で締め付けていった。
そしてメタルバードは草加の頭部に手を掛けたまま、既に人間でも無くなってしまってる草加に話し掛けた。
「草加、もう永遠に眠ってろ。悪さしたけりゃ地獄で思う存分、悪さしてろ……悪さする暇を閻魔様が与えてくれるとは思えないがな」
そう言い終わった瞬間、メタルバードは手を掛けてたゾンビの草加雅人の頭部を引っ張ると同時に首を捻じ曲げた。
ゴキッ 鈍く不快な骨が砕ける音が聞こえた瞬間。移送車の上で拘束され暴れてた草加雅人のゾンビはピクリとも動かなくなった。
軽く一仕事終えたメタルバードは、動かなくなった草加雅人のゾンビを見下ろしながら語り出した。
「……首の骨を捻じ曲げてへし折った。これでもう、コイツは正真正銘の死体になれた。先を急ぐぞ」
ゾンビと化した草加雅人の首の骨をへし折って完全にゾンビとしての活動機能を止めたメタルバードは、何事も無かったかのようにその場を後にし、皆に進攻を奨める。そんな冷徹な判断と行動を取るメタルバードに新世代型たちは愕然としていた。
左右対称に小部屋が並んでいた通路を進み、その先の扉を抜けてみると今度は先ほどと同様に直通の一本道の両端に鉄格子の檻が奥まで並んでいる空間であった。
不気味な雰囲気に鼻につく酷い悪臭を感じ、一行は素早く通路を駆け抜け奥の方へと直進しようと駆け出そうとした。
だが駆け出そうとした瞬間、両端の鉄格子から皮膚が爛れた青白い腕が何本も伸びてきて、駆け出そうとした皆々を捕まえようとしてきた。
「きゃあっ!」「なにっ!?」
恐怖に引き攣る表情で悲鳴を上げ、突然自分達に伸びてきた青白い生気の無い無数の腕に驚愕する新世代型の女子達。
皆が鉄格子に目を向けると、その先には物欲しそうな飢えた表情で手を伸ばしてくる無数のゾンビが鉄格子の内側に群がっていた。
「こ、こいつ等……!」
「此処の研究施設でウィルスを投与されてゾンビになっちまった連中だ!」
鉄格子の獄中に閉じ込められてる無数のゾンビを見て一驚する大将に、メタルバードが群がってくるゾンビが研究施設でウィルス投与によって動く死体へと変貌した被験者だと言い放つ。
皆が鉄格子から腕を伸ばしてくるゾンビに恐れながらも警戒しつつ先へと進み続ける。
「見ろよ。逆転裁判シリーズの悪役までも居やがるぜ」
「ホントだ。全員、此処に連行されてウィルス投与の実験台にされたんだろう」
獄中で腕を伸ばしてくるゾンビの、腐敗したとはいえ生前の名残がある顔を目にしてHEADの堂本海斗と蒼の騎士が群がってくる当のゾンビ達に警戒しながら語り合う。
「ウガァッ、ウガッ、ウガッ」
「ッ! しつこいぞガルシルド。いい加減、地獄に行ってろ」
格子から手を伸ばし、執拗に掴みかかって来る【イナズマイレブン3】のガルシルド・ベイハンだったゾンビの手を蹴飛ばすキング・エンディミオン。
そんなガルシルド・ベイハンだったゾンビの執着に困惑してたエンディミオンを見兼ねて、大将がエンディミオンに声を掛けた。
「ちょいと退けよ、衛。こんなデカっ腹のゾンビ、何発かショットガンを撃ち込めば大人しくなるさ」
そう言ってエンディミオンを軽く押し退けると、大将はガルシルド・ベイハンのゾンビの肥満体の腹に何発もショットガンを連射した。
「ウ゛ゥ……」
肥満の腹部にショットガンを直撃されたガルシルド・ベイハンのゾンビは後方へと転がる様に弾き飛ばされた。
だがガルシルド・ベイハンのゾンビだけでなく、他のゾンビ達も新鮮な生肉を求めて執拗に腕を伸ばし、更には一行とゾンビの群れを隔ててる鉄格子を激しく揺さぶり何とかして獄中から出ようと暴れ回るゾンビも出始めた。
この時メタルバードは、ゾンビによって激しく揺さぶられる鉄格子の扉が老朽化していた為か蝶番の金具が外れかかっているのに気づいて皆を急がせた。
「急げ! こんな数のゾンビ共に時間を喰う訳にはいかねェ! 一気に駆け抜けるぞ!」
メタルバードの鶴の一声で、一行は全速力で通路を駆け抜け、両端の牢獄から手を伸ばす飢えたゾンビ達を尻目にその場から退避する。
通路を駆け抜ける一行の先頭を行くメタルバードが、駆け抜けた先の扉を開いて中に飛び込んでみると、其処は幾つもの大きな鉄の檻が置かれている大部屋であった。
「此処は……」
目の前に広がる無数の檻が置かれた殺風景な光景に一時ばかし戸惑うメタルバード達。
だがその時。メタルバード達が目の前に広がる幾つもの檻ばかりの大部屋を見渡していると、その大部屋の片隅からもゾンビが出現し一行に忍び寄ってくるのが皆の目に飛び込んできた。
「あ、アンタは……黒井!?」
メタルバードを始めとする聖龍隊は近寄ってくるゾンビを見て驚いた。それは【アイドルマスターシリーズ】の悪役である黒井社長だった。
ゾンビと成り果て、生きた人肉を求めて接近してくる黒井に赤塚組のテツが咄嗟に反応し、ゾンビとなった黒井社長の眉間に狙いをつけて発砲した。
「アウ……」
テツの的確な狙撃能力で眉間を撃ち抜かれた黒井社長だったゾンビは力尽きてその場に倒れこんだ。
目の前に突如として現れた黒井のゾンビを見て、メタルバードが現場である鉄の檻ばかりの異様な大部屋に先ほど通過してきた鉄格子の通路や左右対称に小部屋が並んだ一本道の通路など、此処までの道行で見受けられた監禁する為としか思えない造りの部屋にメタルバードは一つの推測を立てる。
「此処も……それに俺達が通過してきた小部屋や牢屋なんかも、ウィルス実験で体を弄られた悪役共を閉じ込めて観察する為のモンだったんだろう」
このメタルバードの推測に、ジュピターキッドが此処に来る前に見つけたレポートを思い出した。
「そういえば……研究所員が寝泊まりに使っていた就眠室で見つけたレポートには、
ジュピターキッドは所員が使用してた就寝部屋で見つけたレポートに記されていた、獄中に閉じ込めたウィルスを投与した
と、その時だった。後方の先ほど一行が駆け抜けた両端が鉄格子の檻で囲まれている通路へと繋がる扉の奥から、何やら金属が外れて床に落ちた様な鈍い金属音が聞こえた。
「なんだっ?」
後方の扉の奥から聞こえた金属音に、大将だけでなく全員が先ほど潜った扉に視線を向ける。
すると皆が視線を向けた次の瞬間。扉を打ち破って奥から無数のゾンビが現場である檻が多数ある大部屋へと雪崩れ込んできた。
「さっきの奴らだ! 鉄格子を打ち破って出て来ちまったんだ!」
メタルバードは先ほど気付いた鉄格子の扉の蝶番が外れかかっているのを素早く思い出し、ゾンビ達が鉄格子の扉を強引に外して外部へと出てきては自分達が駆け込んだ大部屋へと肉を求めて一気に雪崩れ込んできたと直感した。
戦前の者たちは雪崩れ込んできたゾンビの群衆に攻撃を開始した。
「千石! テメェの教育は、もう誰も必要としてない!」
「ガルシルド、お前しつこいぞ!」
「桐生、地獄で御仲間が待ってるぜ!」
ゾンビと化した【こどものおもちゃ】の千石、先ほども見受けられた【イナズマイレブン3】のガルシルド・ベイハン【428~封鎖された渋谷で~】の桐生洋司らを始めとするゾンビ達に果敢に銃撃などで応戦していく聖龍隊。
すると銃撃を掻い潜って【逆転裁判】の狩魔豪が戦前で銃撃してた赤塚組のギョロに迫り、掴みかかって来た。
「うわッ」
迫られ今にも噛み付かれそうになるギョロは、必死で抵抗し両肩を掴んできた狩魔のゾンビを押し退けて瞬発的に腰に装備していたタガーナイフを手に取ると、一瞬の内に狩魔の頭に突き刺し蹴り飛ばした。
頭にナイフを突き刺され、蹴り飛ばされた狩魔であったゾンビはそのまま動かなくなる。
だがギョロが押し退けた狩魔以外のゾンビ達は勢いが減る所か益々群がっては押し寄せてくる
しかし皆が戦前のゾンビの群れに圧倒されていた時だった。
「きゃあッ!」
後方で聞き覚えのある女子の声がその場に響いた。
「アスナ!」
その声の主は【SAO】のアスナであり、彼女の悲鳴に逸早く気付いたキリトがアスナの身に起こっている危険を目の当たりにする。
それは前方のゾンビとは別に、元々大部屋に転がっていた死体が起き上がってはゾンビとしてアスナに迫り今にも首の柔らかい肉を食い千切ろうと突っかかっていた。
キリトは瞬時に、アスナに迫るゾンビを剣で薙ぎ払い彼女を救った。だがアスナを食い千切ろうとしていたゾンビの腐り切った青白い顔を見て、キリトは愕然とした。
「お、お前は! 須郷」
それはキリト達とは顔馴染みの悪役であった須郷伸之であった。
しかも後方にはもう一体、須郷とは別のゾンビまでも何時の間にか迫って来ていた。
「テメェは……! 一条元総司令じゃねぇか」
須郷と別のゾンビの顔を見たメタルバードは、そのゾンビが【鳥人戦隊ジェットマン】の一条総司令である事を瞬時に気付く。
後方には須郷伸之と一条総司令の、前方には【逆転裁判】や【逆転検事】などの悪役のゾンビの群衆に挟まれ、身動きが出来なくなる一同。
すると背水の陣状態に追い込まれて、大将が仲間の赤塚組に言い放った。
「て、テメェら! まずは前方のゾンビの大軍をどうにかするぞ! 後ろのゾンビ二体は後方の連中に任す!」
この大将の判断に、聖龍隊参謀総長のジュピターキッドも頷く。
「そうしよう! 数的には前方のゾンビを大人数で防いだ方が得策だ。後方の部隊に告ぐ! 後ろ二体のゾンビはそっちに任せる! 二体だけならスグに倒せる筈だ!」
ジュピターキッドも大将の発案した策に同乗し、赤塚組の面々と共に前方で群がるゾンビ達に果敢に反撃していった。
「これだけ群れているんだ、手榴弾やグレネードなんかで一気に爆撃していくぜ!」
前方に集結してるゾンビの群れに、大将は手榴弾やグレネードなどを砲撃していき前方のゾンビの群れを爆発で一気に片付けていった。
大将の爆撃による一斉鎮圧は功を奏し、【こどものおもちゃ】の千石【逆転裁判】の小中大【逆転検事】のカーネイジ・オンレッド 【逆転検事2】の一柳万才、王都楼真悟、風見豊【逆転裁判3】の綾里キミ子【逆転裁判4】の牙琉響也、そして【イナズマイレブン3】のガルシルド・ベイハンらであったゾンビの大軍は爆撃で一気に吹き飛ばされ動かなくなった。
一方で最後方では未だゾンビと成り果てた須郷伸之に一条総司令と苦戦を続けているルーキーズの新人勢。
「いっ、いい加減にしろ、須郷!」
アスナに迫っているのを止めてから執拗に襲い掛かってくる須郷伸之のゾンビに抗うキリト。
だが、そんなゾンビ一体にいつまでも時間を取られてるキリトの対応にジェイクが痺れを切らして助太刀に入る。
「おい、小僧。そんなちんたら相手してんじゃねェ! 手早く片付けろッ」
そうキリトに言うとジェイクは銃を構えて、銃身を須郷伸之の頭部に狙いを定める。
そして狙いをつけた瞬間、ジェイクは拳銃を発砲。彼が放った弾丸は須郷伸之のゾンビの頭部に着弾し、そのまま貫通。須郷伸之のゾンビの頭部には見事なまでに風穴が開いた。
更にジェイクは他のルーキーズの新人達が苦戦している一条総司令のゾンビにも銃を向けて躊躇いなく発砲し、一条総司令だったゾンビは頭を銃弾で貫かれその場で倒れた。
こうして全てのゾンビを倒し終わった一行は、ようやく一段落できたのであった。
「よし、これで全部片付けたな」
拳銃を構えたまま周辺のゾンビを全て倒した事を確認するジェイクに、先ほどジェイクに助けられたキリト達ルーキーズの新人勢は唖然としていた。
そんな新人達を見て、ジェイクが先ほどのルーキーズの所業について難癖をつけてきた。
「お前等、バケモノ相手に何を悠長に対応していたんだ? さっさと片付けろってんだ」
ジェイクの文句を受けて、キリトがルーキーズを代表して答え返した。
「あ、だけど……いくら何でも殺すのは、さすがに……」
実戦での経験が浅いルーキーズの新人達の言動を受けて、ジェイクが厳つい強面で言い寄ってきた。
「テメェら、何か勘違いしてねぇか? ゾンビってのは元々死んでるんだよ。殺す殺さない以前に、既にウィルスに感染して死んじまってる輩なんだぞ」
ジェイクのこの話に、メタルバードもジェイクの意見に賛成する話をその場の皆に語った。
「ジェイクの言う通りだ。ゾンビってのはウィルスに感染して死亡した生物の死体が、そのウィルスに支配されて捕食の対象である新鮮な肉を求めて徘徊する謂わば死にぞこないの様な存在。だからゾンビを殺すんじゃなく、元々死んでいる奴の死体にウィルスが支配して動かしているだけの頭部を攻撃するだけだ。何の躊躇いも必要ない。ウィルスに感染してゾンビ化したら、それこそ救済の意味も込めて頭を撃ち抜かないと、こっちが逆に喰い付かれて同じゾンビにされちまう」
ゾンビは元から死体であり、ウィルスに支配されて動き回っているだけの亡骸であるが故に、一切の躊躇も必要とせずに頭部を攻撃していくのが妥当な手段であると皆に伝えるメタルバード。そんな彼の筋が通った話を聞いても、完全に釈然とできない新世代型やルーキーズの新人達。
するとジェイクやメタルバードの話を聞いた大将が、何かを思い出したかのように語り始めた。
「確かにな。ゾンビってのが元から死体をウィルスに乗っ取られた哀れな亡骸なのは間違いないな…………ッ、そういや。なぁ、りりか。お前さんたち聖龍隊が所持している対ウィルスのワクチンは、あとどれくらい残っているんだ?」
ウィルスに唯一対抗できるワクチンを所持している聖龍隊、そしてそのワクチンの管理を行っていたナースエンジェルに大将が問い詰めると、ナースエンジェルは険しい面持ちで話し返した。
「それが……もうホンの僅かしか残ってないのよ。道中、ウィルスに感染したと思われる多くの生物兵器と戦闘を繰り返し続けているから、戦前で戦ってるみんなにワクチンを打ち続けていたんだけど、それもあって今では最初の頃よりかなり減ってしまってるわ」
「そうか、それはマズいな……」
ナースエンジェルの話を聞いて表情を濁らせる大将。もしウィルスに感染してしまえば、いづれ生体機能が完全に失われ、その直後からはウィルスの影響で徘徊するゾンビと同様に成り果ててしまう現実が降り掛かる。
そんな現実を大将が真剣な表情で思い詰めているその時、その大将にワクチンの残量を指摘されたナースエンジェルが大切な事を思い出した。
「あ、そうだ! まだチョコちゃん達や海道ジンくんにワクチンを打っていなかった!」
『えっ?』
ナースエンジェルの咄嗟の発言に意表を衝かれるチョコ/ギュービッド/桃花/海道ジンの四人のプロト世代。
するとナースエンジェルの言葉を聞き受けたメタルバードは早速、彼女にプロト世代4人へのワクチン投与を指示した。
「それはマズい。空気感染の可能性もあるし、早くその四人にもワクチンを打たねぇと。チョコ、ギュービッド、桃花、そして海道ジン、右腕を出せ。スグにワクチンを投与する」
メタルバードにワクチンの投与を言い付けられて、ギュービッドは愚痴を発した。
「マジかよ……アタシャ、あんまり注射とかって好きじゃないのに」
ワクチンが詰まってる注射器を目にしたギュービッドは、実に不快そうな表情を浮かべて愚痴を零す。
そんな愚痴るギュービッドの右腕を掴み、脈に沿ってワクチンを注射していくナースエンジェル。二人を横目にメタルバードが愚痴るギュービッドに言葉を掛ける。
「つべこべ言うな。仕方ないだろ。ワクチンを投与しなきゃ、お前らプロト世代は生物兵器に噛まれて数分後にはゾンビとかに成っちまってる可能性だって無くは無いんだ。俺も正直、ゾンビに成り果てたとはいえお前らを攻撃するのは気が引けるん。このワクチンは、そんな状況が起こらない為の処置なんだ。黙って四人とも、腕を曝け出せ」
メタルバードの言葉を受けて、ギュービッドは注射器の針の微々たる痛みにも堪え、残りの三人も黙って右腕を捲り注射の準備をする。
そして最初にワクチンを注射してもらったギュービッドは、針が腕に突き刺された不快感を抱いたままナースエンジェルの前から立ち去ると、今度はその不快をワクチンが必要ない新世代型の琴浦春香たちに愚痴として向けた。
「チェッ、良いよな琴浦たちは。アタイらプロト世代と違ってワクチン打たなくてもウィルスに感染する事ないんだからさ」
注射を刺された右腕を気にしながら琴浦春香たち新世代型に愚痴と不満をぶつけてくるギュービッドの言動に、琴浦春香ら新世代型は困惑してしまう。
そんな不満を愚痴るギュービッドの発言を聞いて、同じくウィルスへの抗体を持つジェイクが微笑しながら声を掛けてきた。
「はは、それは仕方ねぇだろギュービッド。新世代型は元々、如何なるウィルスにも抵抗できる抗体、免疫を兼ね備えた俺らと違って今までにない異端な二次元人なんだからよ」
『……………………』
ジェイクの異端者発言に対して、遺憾な心境を表情に表す新世代型たちの眼光に気付き、ジェイクは彼らに平謝りした。
「ああ、済まん済まん。異端ってのは言い過ぎだったな、悪ィ悪ィ。まぁ、俺も同じウィルスの抗体を持っている事だし、同じ異端者……バケモノ同士って事で良いじゃないか、ハハ」
『…………………………』
ジェイクの苦笑での謝罪に、余り良い気分になれない新世代型たちは不満で一杯の顔を浮かべる。
一方でナースエンジェルに注射してもらい、ワクチンを投与され終わったプロト世代の4名は再び新世代型たちの集に戻る。だが未だにワクチン注射を受けた事への不満が消えないギュービッドは、今度は全身の細胞を金属化してるメタルバードに不満がこもった愚痴を吐いていく。
「全く、プロト世代とか旧世代ってのは何かと損だね。それにしてもバーンズ、アンタだけはズルいわよ! なんせ全身を隈なく金属に変化させて、ウィルス感染は元よりゾンビに噛まれても平気なんてさ」
「へへ、羨ましいだろ」
「って言うか! 完全なチートじゃないか。全身の細胞を金属にした上に、どんな電子機器にも精密機器にも身体を自在に変化させられるなんてさ! ウィルス感染の心配がないだけでも羨ましいのに、その上どんな武器にも変形できるなんて完全なチート以外の何物でもないよっ!」
「いやぁ、そんな言わないでくれよ。照れるじゃないか」
ギュービッドの不満一杯の愚痴を吐き掛けられても、メタルバードは笑顔を絶やさず平然と嬉しそうに言葉を返すだけであった。まさに蛙の面に水。
そんなこんなで全てのゾンビを倒し、更にはプロト世代であった四人に対ウィルスのワクチンを投与し終わった一行は、現場の大部屋から一刻も早く先へ進もうと足を前進させた。次の瞬間。
「ギィエエエェェェ……!」
まるで地の底から涌いてきた様な不気味な唸り声が大部屋に響き渡り、誰もが激しく動揺した。
「な、なんだ?」
突如として響き渡り耳に聞こえてきた不気味な奇声に辺りを見回す大将たち戦闘員。
すると大部屋の上方に目を向けてみると、何と其処には!
全身が血の様に赤く、手足の爪先は鋭く全身の筋肉も強化された異様な存在が宙にいた。尖った耳に背中には蝙蝠の様な青い翼が生えている、正しく悪魔の様な外見をしている怪人が皆の上方で地上の一行を怪しい眼光で見下ろしていた。
「グアアァッ……!」
雄叫びの様な奇声を上げた真っ赤な悪魔の様な容姿の怪物は、そのまま地上の一行に滑空して襲い掛かって来た。
「うわぁ!」「伏せろッ」
滑空し襲い掛かって来た赤い悪魔に悲鳴を上げる新世代型の女子達に、メタルバードは全員に体をしゃがませて攻撃を回避するよう言い放つ。
そして全員が体勢を低くした上を、赤い悪魔は滑空していき、再び上空で地上の面々を悍ましい形相で見据える。
するとその時、頭上を滑空していった赤い悪魔の顔立ちを注意深く見ていたメタルバードが途轍もない事実に気付いた。
「あ、あの怪物……!」
「どうしたんだバーンズ。あの赤い野郎に見覚えがあるのか?」
血の様に赤い悪魔を見て驚愕するメタルバードに大将が問い詰めると、メタルバードは激しい動揺に満ちた面持ちで答えた。
「あの赤い悪魔……容姿は以前と、かなり掛け離れた風貌だが。間違いない、
「な、なんだと!? 元は人間だったのか? それが悪魔みたいに変異しちまったって言うのかよ!」
メタルバードは赤い悪魔の微かに残っている人間だった時の面影で判明したのは【プリティーリズム・ディアマイヒューチャー】の阿世知欽太郎の成れの果てでだった。これに大将は人間だった阿世知が人間とは掛け離れた禍々しい容姿に変貌している事実に、俄かには信じ難かった。
だが当の阿世知欽太郎だった赤い悪魔は青い翼を羽ばたかせて、連続で下方の一行に滑空し襲い掛かっていく。
「また来たぞ!」
赤い悪魔と成り果てた阿世知欽太郎は再度、上空から滑空し地上の面々に襲い続ける。
そんな変わり果てた阿世知欽太郎に大将はショットガンを発射。無数の散弾が赤い悪魔へと変貌した阿世知欽太郎に着弾する。
そして阿世知欽太郎は再び上空で羽を羽ばたかせて停止すると、次の攻撃の機会を窺う。
聖龍隊に赤塚組は、そんな上方で自分達を見据える異形の存在に変わり果てた阿世知欽太郎に攻撃を開始した。
「攻撃しろ! あの悪魔に成り果てた阿世知を地面に叩き落すんだ!」
聖龍隊は己が得意とする特殊能力を用いて、赤塚組は様々な銃火器で上空を羽ばたく阿世知欽太郎に果敢に攻撃を仕掛けていく。
しかし悪魔の様な異形に変貌した阿世知欽太郎は途轍もなく素早い動作で、右に左にへと攻撃を回避してしまう。
「クソッ、全然当たらねぇぞ!」
「ケケ、ケケケケッ」
赤塚組のアツシは銃器での攻撃はもちろん聖龍隊の特殊能力による攻撃すらも意図も簡単に回避してしまう阿世知欽太郎の俊敏な動きと小馬鹿にしてるような笑い声に苛立ち始めてきた。
「しかし、何で元は人間だった阿世知って野郎はあそこまで変貌しちまってる訳なんだ?」
攻撃を回避し続ける阿世知欽太郎に対し、銃撃を続けていく大将がなぜ阿世知が現在の赤い体と青い蝙蝠の羽で構成された姿に変貌したのか疑問に思っているとメタルバードがそれに答えた。
「おそらくウィルス投与の影響で人体があそこまで変貌を遂げちまったんだろう! さっきから倒してきているゾンビの中にも、耳が尖っていたり手足の爪先が鋭く変異している者も多く見られた! 阿世知の場合は、その現象が更に肥大化したモンなんだろうよッ!」
一向に当たらない攻撃に苦戦を強いられる聖龍隊に赤塚組。
しかもウィルスで完全に容姿が変異した阿世知欽太郎は、宙をひらひらと舞いながら地上の面々に向かって口から火の玉を吐き出して攻撃を仕掛けてきた。
「ひ、火の玉まで吐きやがった!」
容姿だけでなく火の玉までも吐き出せる能力を持った阿世知欽太郎に大将を始めとする多くの者たちが驚愕する中、皆は一斉に散らばり吐き出された火の玉から回避していく。
そんな中、引き続き変異した阿世知欽太郎に銃撃を当てようと発砲していく大将は、自分達の攻撃を回避し続ける阿世知欽太郎の動きとその血の様に赤い体を見てある事を口に出した。
「何だか……あの攻撃を回避していく動きに赤い体と青い蝙蝠の羽。どう見ても魔界村のレッドアリーマーに瓜二つだな」
「あッ、そういや……言われてみると確かに似てるな。ウィルスで全身が赤く変色し、背中には青い蝙蝠の羽が生えているし、完全にレッドアリーマーとそっくりだな」
攻撃を続行していく阿世知欽太郎の容姿が、殆ど【魔界村シリーズ】に登場しているクリーチャー、レッドアリーマーと瓜二つである事に気付く大将とメタルバード。だがそれでも攻撃の手は緩めず、レッドアリーマーと瓜二つの阿世知欽太郎に攻撃を続けていく。
そうして何度も攻撃をし続けていると、何発かは阿世知欽太郎に直撃し、攻撃が当たる度に阿世知欽太郎の動きが鈍くなってきているのが見て取れた。
「攻撃を受けて、かなり弱ってきているようだな……」
「このまま一気に片付けてやろうぜ!」
度重なる攻撃を受けて、重なる負傷に動作にも鈍さが見られてきた阿世知欽太郎に、メタルバードと大将は一気に片を付けようと攻撃の手を更に過激にして連続で攻撃していく。
素早く目にも止まらぬ速さで飛行し戦前の者たちを攪乱していく阿世知欽太郎であったが、攻撃が当たる度に動きが鈍くなり、更に時おり一瞬ではあるが空中で停止したりもしたので、その瞬間に攻撃を一斉に浴びせて阿世知欽太郎であった異形のクリーチャーに負荷を掛けさせていく。
そして遂に聖龍隊と赤塚組は、レッドアリーマーに酷似した阿世知欽太郎に幾度とない攻撃を浴びせ続けると、阿世知欽太郎は苦しみ出した。
「ウギャアーーーー……!」
断末魔を上げる異形の怪物、阿世知欽太郎は苦しみながら天井や壁へと激突し、遂には先ほど聖龍隊や赤塚組の爆撃で一斉鎮圧したゾンビの亡骸の上へと落下した。
赤い体と青い蝙蝠の羽を持つ、正しくレッドアリーマーと瓜二つの異形に変異した阿世知欽太郎は、今を以って完全な只の残骸と成り果てたのだった。
「な、中々攻撃が当てられなかったな……」
「ああ、正しくレッドアリーマーと全く同じ動きだったな」
苦労の末、かつて少年時代にプレイしたゲーム【魔界村】の強敵レッドアリーマーへと変異した阿世知欽太郎を倒したメタルバードと大将は束の間の、勝利の余韻に浸るのだった。
一行は先ほど爆撃で倒し尽くしたゾンビ達の死骸に、その上に落下したレッドアリーマーと酷似した異形の阿世知欽太郎たちの死骸の山を見据えてた。
そして、しばらく倒し尽くした異形の容姿に変貌した悪役達の亡骸を目の当たりにしながら大将が皆に言った。
「それじゃ此処にも、もう用は無ぇや。先に行こうぜ」「ああ、そうだな」
大将の進行にメタルバードも同意する。
そして一行がその場から立ち去ろうとした、正しくその時であった。
激しい地響きと共に吹き上がる砂煙に皆が動揺し、砂煙が吹き上がる方へと顔を振り向くと先ほどまでゾンビの死体の山が築かれてた床の部分だけがポッカリと陥没していた。その陥没した場所の穴は巨大で、穴が開いた衝撃でなのか傍らには死体の山の上に落下した阿世知欽太郎の赤い死骸が転がっていた。
突然の衝撃と地響き、それと同時に床が陥没し巨大な穴が開いた光景に一同は驚愕した。
「な、なんだ……!?」
突如として床が陥没し、死体の山と共に床が消えた現状に激しく戸惑ってしまう大将。すると突然の事態に戸惑う一同を尻目に、更に不可解な現象が発生した。
肉を引き裂き骨を砕く実に不気味で不快な音が、陥没した床の穴の底から響き渡って来た。
誰もが、その不気味な不快音に血の気が静かに引いていく最中、更に背筋が凍り付く事態が発生した。
なんと陥没した床の穴から何かの塊が続々と飛び出てきたのだ。皆がその穴の底から飛び出てきた物体に目を向けてみると、床に転がるその塊は何と先ほど聖龍隊や赤塚組が倒した数多のゾンビ達の死骸、それも頭部や片足それに片腕など様々な部位が何かに千切られ消失した何とも痛ましい惨状の死骸が床に転がる。
「きゃああっ!」
頭や手足を千切られ、腐敗していた体が更に無残で惨たらしい死骸と成り果てたゾンビ達の惨状に一般の二次元人女子達は悲鳴を叫ぶ。
だがその間も穴からは続々と頭や手足などの身体の一部を千切られたゾンビの死骸が抜け落ちた床の穴の奥から、まるで何かに放り投げられていく要領で次々と一同の目の前に投げ出され床に転がっていく。
「な、何なんだ、これは……!」
突如として抜け落ちた穴に、床と共に落下したゾンビの死骸が身体の至る箇所を千切られ穴の底から放り出されていく無残な死骸。目の前で起こる事態に理解が追い付かず困惑するばかりの大将。
だが、そんな大将だけでなく現場の一同全員が愕然とする事態が皆の耳に飛び込んできた。
「セェェリュゥゥゥタァァアァァイ……」
千切られてくゾンビの死骸が放出されていく床の穴の奥から聞き覚えのある雄叫びが皆の耳に嫌が応にも入って来てしまった。
「こ、この唸り声、雄叫びは……!」
「ま、間違いない……! この声……」
地の底から響いてくる様な重みのある唸り声にも近い雄叫びに聞き覚えのある大将とメタルバードは、一気に顔から血の気が引いていく。
そして誰もが恐れていた予感が現実のものと成ってしまった。
抜け落ちた床の穴から凄まじい跳躍力で、穴の底から一同の目の前まで跳び上がって出現した巨体が皆の目前に現れた。
「セェェリュゥゥタァァイィィッ!!」
『出たーーーーッ!!』
抜け落ちた床の穴から跳び上がって姿を現したのは先刻、一行との戦闘で予め陥没していた床の穴に上手く誘発して穴に落として窮地を脱した、あの小田原修司の巨大クローン3-DXだった。
再び目の前に対峙する3-DXを前にして驚愕の余り目が飛び出るほど衝撃を受けるメタルバードと大将。
「ウオオオオォ」
低い雄叫びを高々と上げる3-DX。だが穴から跳び出てきた3-DXをよく見てみると、左肩に掛けての僅かな部分に何やら黒い
黒い嚢胞にオレンジのコアの特徴を見て、メタルバードは瞬時に気が付いた。
「あ、アレは! ウロボロスじゃないか」
「ま、まさか! あのクローンはウロボロスウィルスの特徴なんて無かったじゃないか!」
メタルバードの気付いたウロボロスウィルスの特徴に、大将は最初に3-DXを見た時にはウロボロスの特徴は見られなかったと反論する。
しかし3-DXに当初は見られなかったウロボロスウィルスの特徴が見て取れた次の瞬間、更なる驚愕の事態が目の前で起きた。
なんと3-DXは足元に転がっていたレッドアリーマーに酷似した姿に変貌した阿世知欽太郎の亡骸を目にすると、その阿世知欽太郎の死骸を掴んで頭を丸ごと齧り付いた。
「うわっ!」「あ、頭を喰ってる……!」
阿世知欽太郎の頭部を噛み千切り、頭蓋をバキバキと激しく音を立てて噛み砕く轟音を響かせながら頭部を食す3-DXの行動に驚きと衝撃を受ける小野田坂道と
すると更に衝撃的な事態が目の前で起こった。
なんと火の玉を口から吐く事もできた阿世知欽太郎の頭部を噛み千切り、残りの体を床へ投げ捨てた3-DXの肉体が微かな炎を上げながら更に紅く変異し始めたのだ。
「な、なに!」「体が燃えてるぞ……!」
阿世知欽太郎の頭蓋を噛み砕いた3-DXの体から微かに炎が噴き上がり、まるで業火を全身に纏っているかの様な風貌へと豹変し、目を丸くして驚愕する大将とアツシ。
そして全身を炎で纏った3-DXは燃え上がる巨体で立ちはだかり、一行を厳つい顔立ちと鋭い目で見下ろす。
「ウオオオオォォォ……」
全身から炎と共に蒸気を噴き上げる3-DXの変貌振りに言葉を無くす一同。大将は何ゆえ3-DXが炎を纏える様になったのか疑惑で頭がいっぱいだった。
「な、なんで……体から炎が噴出していやがるんだ。あの修司のクローン……」
そんな愕然とする大将に、傍らのメタルバードが推測を立てた。
「お、おそらく! あの3-DX、此処まで来る道中で色んなウィルスを体内に宿しているゾンビや生体兵器を喰らって、自分の体内に取り入れやがったんだ……今も俺らが倒したゾンビを食い千切って、火の玉を吐ける阿世知欽太郎の死骸までも喰っちまったから、その特徴なんかを諸に取り込んじまったんだろう……!」
「お、おい! あのクローン、つまりウィルスを持ってるゾンビの細胞を体内に取り入れたから全身が燃え上がったって事かよ! それじゃ、あの肩に見えるウロボロスも……」
メタルバードの推測を聞いてジェイクが問い詰めると、メタルバードはジェイクの疑問に素直に答えた。
「ああ……あの肩に見られるウロボロスも、おそらく何処かでウロボロスウィルスを宿した生体兵器の肉片を喰った為にその影響が肩に現れたんだろう。今、阿世知欽太郎の死骸も口にしたから全身を炎に纏った姿に変貌したのと同じだ」
激しく動揺する口調で語るメタルバードの言葉を耳にし、ジェイクに大将ら赤塚組、そして大将の思考をテレパシーで読み取って事実を知ってしまう琴浦春香に斉木楠雄、更にこの二人と共有感知で思考を共有してしまっている為にテレパシーで知り得てしまった情報を自然と周知してしまう新世代型達、皆が衝撃を受ける。
ウィルスを宿すゾンビや生体兵器の肉片を体内に取り入れる事で、そのウィルスの持つ特性を自身に取り込んでしまう3-DXの実態に誰もが愕然とする中、阿世知欽太郎の肉片も体内に取り込んだ為に全身を炎で纏った3-DXは、その炎に包まれる巨体を唸らせて一同に迫って来た。
「ウオオオオォォ……」
「き、来た!」「後退しろ、後退!」
迫りくる3-DXに驚愕する海野なるに続いてメタルバードが皆に後退する様に伝えてながら同じく後ろへと退いていく。
その間、大将たち赤塚組は迫りくる3-DXに発砲し銃撃を御見舞いしていく。だが当の3-DXは微塵も怯む事無く、平然と巨体を撓らせて前進してくる。
その間に先頭は大部屋を駆け抜け、向かい側の扉へと駆け付けると戸を開けて一気に潜り抜けていく。
そして一行に遅れて赤塚組の面々も3-DXに銃撃を仕掛けながら後退し、赤塚組が戸を潜ると3-DXからの追跡を免れ様と急いで扉を閉める。
「な、何なんだ、あの怪物は! ゾンビを喰ってウィルスを自分の体内に宿すなんて……!」
3-DXのウィルスを己の体内に取り込む所業にジェイクが驚きを表にしながら言い放つと、メタルバードが自分なりの解釈を説いた。
「た、多分……あのクローン、3-DXは修司もそうだった様に全てのウィルスへの抗体や免疫が最初っから備わっているんだ! その免疫の効果でウィルスを体内に蓄積しても、支配される事無く逆にウィルスの効力や特性を身に着けちまうんだろう。肩に見られたウロボロスだけでなく、阿世知欽太郎の死骸も取り込んだから全身が炎に包まれる能力も手に入れちまったんだ!」
小田原修司自身が全てのウィルスへの抗体や免疫を備えた人間だった為に、そのクローンである3-DXも同様の免疫や耐性を兼ね備えてる。それ故にウィルスを摂取しても、ウィルスに体を支配される事無く逆に支配して、そのウィルスの効力や特性を身に着けてしまう耐性を備えているのだと説くメタルバード。その証拠に当初は見られなかったウロボロスの特徴も、何処かでウロボロスウィルスを宿した生体兵器を食して体内に宿した為に左肩にその特徴が浮き彫りになり、更に先ほど火の玉を吐ける悪魔の様な異形に成り果てた阿世知欽太郎の死骸の一部を体内に取り込んだ為に全身が炎で包まれるといった現象が生じたと、メタルバードは推測するのだった。
このメタルバードの推測を聞いたジェイクは、いきり立って強く言い返した。
「……冗談じゃねぇぞ。この施設にはウロボロスだけじゃなく、多種多様なウィルスが研究されているんだ! そんな様々なウィルスを取り込まれたら、それこそ今までにないB.O.W以上のバケモノに変貌しちまうって事じゃねぇか!!」
「確かにその通りだ。何か対策を練らねぇと……」
ジェイクの言う通り、研究施設内ではウロボロスだけでなく様々なタイプのウィルスや生物兵器が研究・開発されており、その多くのウィルスを体内に取り込めば今以上に強力な存在に3-DXは成り果てB.O.W以上の強敵に成りかねない。ジェイクの指摘を受けてメタルバードは今後、巨大クローンへの対策をどうにか講じなければ何れ全員が殺されてしまう危機感に苛まれる。
と。ウィルスへの耐性ゆえに、逆にウィルスを支配して己の力として摂取・蓄積する事が可能な小田原修司の巨大クローン3-DXへの対策にメタルバードが頭を悩ませていたその時。先ほど一行が潜り抜けた扉の周囲の鉄筋コンクリートが轟音と共に内側から巨大な亀裂が入ったのか壁が浮き上がった。
「な、何だ」
轟音と同時に浮き上がり亀裂が入る鉄筋コンクリートの壁に驚く大将や皆。すると何度も壁に激突するかの様な轟音と浮き上がる壁を目の当たりにして、メタルバードが気付いた。
「い、いけない! 3-DXが壁に体当たりして、強引に突破しようとしている!」
「なんだと!」
なんと3-DXが自身の巨体が扉を通れず進行が不可能だと認識した上で、扉横の壁に体当たりして壁を打ち破り強引に突破した上で一行を追跡してくるのだとメタルバードは安易に予想。その発言に大将たちは衝撃を受ける。
メタルバードは急いでルーキーズの面々に新世代型たちの避難を指示する。
「ルーキーズ! 急いで新世代型たちを此処から遠ざけろ! 3-DXの追尾は俺たちで何とか防ぐ!」
「了解!」
メタルバードの指示にルーキーズ総部隊長ミラールは答えると、ルーキーズの仲間達を指揮しながら新世代型たちを誘導させ先へと進行させていく。
「急いで! クローンが壁を突破する前に早く遠ざかるのよ!」
ミラールの掛け声に合わせてルーキーズの面々も新世代型たちを先導したりして先へと進ませる。
そしてルーキーズが新世代型達を誘導し先へと進ませたその時、遂に壁向こうの3-DXが体当たりで強引に壁を突破し突き抜けてきた。
「ッ!」
飛び散るコンクリートの破片に舞い上がる砂煙に思わず顔を腕で防ぐメタルバード達。
そして自らの突進で鉄筋コンクリートの壁を破壊した3-DXは、大破した壁の穴を乗り越えてメタルバード達の前に再び対峙する。
「き、来た!」「攻撃開始!」
目の前に巨大な全貌を現す3-DXに動揺するセーラームーンだが、総長のメタルバードは仲間の聖龍隊に3-DXへの攻撃を指示する。
総長の指令で3-DXに攻撃を開始する聖龍隊に続いて、赤塚組の面々も大将を先頭に3-DXへ銃撃を開始した。
だが当初からの分厚い筋肉は基より、ウロボロスなどの数多のウィルスの影響で如何なる攻撃にも耐性を持ってしまった3-DXへの攻撃は殆ど効果が無い。
「こうなったら! 刃で斬りかかっていくよ!」
「ええ!」「そうですわね!」
魔法騎士の三人は、獅堂光の提案を皮切りに龍咲海と鳳凰寺風が同意し、三人で一斉に3-DXへと斬りかかっていった。
そんな魔法騎士の三人に続いて、メタルバードが仲間達に声を掛ける。
「オレ達も続けッ!」
仲間達に呼び掛けると、メタルバードは手足の先端を槍の形に変形させて3-DXに飛び掛かり、槍状の手足を四ヵ所ともに突き刺した。
魔法騎士の斬撃での攻撃に続けと、ミラーガールは鏡の剣ミラー・ソードで。ウォーターフェアリーは剣の形に形成した水の剣で。キューティーハニーはシルバーフルーレで。木之元桜は実体化させたソード(剣)のカードで。コレクターズのユイ・ハルナ・アイの三人は得物である電子ロッドを剣に変化させて。アンリエッタ、アニエスの主と従者による二重の剣の刃。マカ=アルバーンとブラック☆スターの鋭い一太刀。居合番長の猛烈な居合切り。アレン・ウォーカーの
数多の聖龍隊の剣士による鋭くも素晴らしい斬撃の数々が3-DXに斬り付けられる。しかし3-DXの凄まじい再生能力により、聖龍隊の振るった斬撃は悉く忽ち切傷が塞がってしまう。
しかも此処で運悪く、アンリエッタが自ら振るった剣が3-DXの左大腿部に直撃したものの刃が少ししか入らず、そのまま抜けなくなってしまったアンリエッタは困惑しながらも必死に剣を引き抜こうとする。
「あ、あれ……っ」
だがアンリエッタが振り付けた剣は3-DXの大腿部から一向に抜けず、アンリエッタは焦った。
と。どうにかして剣を引き抜こうと必死になるアンリエッタに、3-DXは右手の拳を豪快に殴り付けようと振り翳した。
「アンリエッタ! 避けろッ」「え?」
3-DXの上半身に手足を突き刺した状態のメタルバードが、3-DXの振り翳す拳に気付きアンリエッタに叫ぶ。しかし彼女が気付いた時には既に3-DXの岩石の如き拳はアンリエッタの目前まで迫って来ていた。
アンリエッタの上半身よりも断然巨大な拳が、まさにアンリエッタに直撃すると思われた。その瞬間。
「アンリエッタ様!」
直撃を喰らう寸前でアンリエッタの従者、アニエスが間一髪の所でアンリエッタを抱き抱えて3-DXの拳から救った。
危機一髪の所をアニエスに救われたアンリエッタ。だがアンリエッタへの攻撃が失敗した3-DXは、外した右手をそのまま自分の左大腿部に刺さったままのアンリエッタの剣に伸ばし、水平に振り付けられた剣を自力で引き抜いた。
そして3-DXは自らが引き抜いた剣を、そのままナイフ投げの持ち方で手にすると前方で対峙している者たちに剣を投げ返した。
『わッ!』
危うく当たりそうになるアンリエッタの剣に身を反らして回避する一同。
だが3-DXの反撃はこれで留まらず、次に標的に定めたのは己の上半身に鋭くさせた手足を突き刺しているメタルバードであった。
3-DXは自身の上半身に突き刺さったままのメタルバードを厳つい強面で睨み付けた。
「ッ! は、はぁい……」
3-DXに睨み付けられたメタルバードは、思わずか細い声で返事してしまう。
するとメタルバードが挨拶を返した次の瞬間、3-DXは右手でメタルバードを掴むと、これまた自力でメタルバードを自身の体から引き抜こうとする。
「ッ……!」
力を入れてメタルバードを引き抜こうとする3-DX。だが肝心のメタルバードの手足は一向に上半身から引き抜く事はできなかった。
これにはメタルバードの秘策が功を奏していた。
(フフフ、手足の先端に返しを作っておいた。いくら力を入れたって、返しが肉に引っかかって引き抜けねぇぜ)
メタルバードは3-DXの上半身に突き刺している槍状に変形させた両手両足の先端部分に返しを予め形成しており、その返しが体内の肉に引っ掛かって引き抜きにくくしていたのだ。
そうとは知らず3-DXは強引にメタルバードを引き抜こうと両手を使って更に力尽くで引っこ抜こうと躍起になる。
3-DXの強力で引っ張られ、体内の肉に返しが引っ掛かっている為にメタルバードの手足が突き刺さってる周辺の肉も引っ張られ、異様に浮き上がっていく。
力技では到底引き抜けないであろうメタルバードの手足。だが巨大クローンはそれでも容赦なくメタルバードを引き抜こうと力を入れ続けた。
「お、おい……おいおいおい」
更なる強力で引き抜こうと躍起になる3-DX。これに返しで内部の肉が引っ掛かっているのも気にせず強引に引き抜こうとする3-DXの行動に焦りを感じ始めるメタルバード。
そして遂に、3-DXは先端が返しとなっている槍状の手足を力任せに引き抜き、メタルバードを己の体から引き抜いた。同時に先端の返しに3-DXの人肉も多く引き千切られ、突き刺ささってた個所から大量の血が噴き出し、メタルバードの銀の光沢の体を赤く染まらせる。
「…………………………ッ」
返しを作って引き抜きにくくしてた手足を強引に引き抜かれた事に加え、3-DXの傷穴から大量に噴き出す出血を浴びて自身が真っ赤に染まる現状にメタルバードは言葉を失い愕然する。
そしてメタルバードを引き抜いた3-DXは、己の上半身から引き抜いたメタルバードを頭上よりも高く掲げるとそのまま足元の床に叩き付けた。
「ぐッ!」
激しく床に叩き付けられ悶絶するメタルバード。だが3-DXは追い打ちを掛けるかの如く、巨大で太い足を上げて床に叩き付けたメタルバードを力一杯踏み付ける。
「ぐはッ!」
全体重を懸けられ踏み付けられるメタルバードは凄まじい激痛で悶える。
だがすぐさまメタルバードは自身の体を液状化させて、3-DXの足と床との隙間から抜け出し、現状を打開した。
メタルバードは液状化させた体で床を這いながら戦前の仲間達の許まで来ると元の姿形に戻り、再び3-DXと向き合う。
「や、ヤベェぞ……こっちの攻撃が全く歯が立たない」
自分達の攻撃が如何に強力であろうとも、3-DXに殆ど痛手を負わせられない現状に愕然となるメタルバード。
だが、そんなメタルバードを含んだ戦前の者たちの目に、更に驚愕の現実が飛び込んできた。
なんとメタルバードが3-DXに突き刺した槍状の両手両足が刺さっていた四ヵ所の傷穴が、先ほどまで大量出血を噴き出していたにも関わらず自然と出血が収まり、出血が止まると同時に傷口が綺麗に塞がったのだ。
この驚異的な3-DXの再生能力を目の当たりにしたメタルバード達は衝撃を受け、絶句してしまう。
するとその時。圧倒的な強さと驚異的な再生能力を見せつけた小田原修司の巨大クローンに唖然としてしまうメタルバードたち戦前の者達に後方から声が掛かって来た。
「メタルバード! 早くこっちに」
振り向くと、後方には通路の壁や天井など四方八方に氷の分厚い壁をいつのまにか形成し、中央に穴を開けて其処から声を掛けてくるセーラーマーキュリーを始めとする氷系の能力が使える聖龍隊の仲間が待機していた。
「お前等いつのまに……!? いや、しかしこれなら何とかできるかもしれねぇ! 助かったぜ」
マーキュリーの呼び掛けに答えたメタルバードは、戦前で共に3-DXと対峙していた仲間達と一緒に氷の壁の中央に設けられた穴に飛び込み、氷の壁向こうに移る。
そしてメタルバードを始めとする全ての戦前での戦闘員が氷の穴に飛び込み、氷壁の向こう側に移動し終わったのを見計らったメタルバードは即座にマーキュリーを始めとする氷系能力者達に指示を飛ばす。
「穴を塞げ! そして完全に3-DXの進攻を塞ぐんだ!!」
メタルバードは移動用に設けられている穴を完全に塞ぎ、氷の壁を絶壁にして3-DXが追跡できない様にしろと呼び掛ける。メタルバードの指示を受けて、氷系能力者達は氷壁の穴を完全に塞ぎ、同時に壁を絶対に突破できないよう頑丈に仕上げる。
そして氷壁の中央の穴は塞がれ、氷壁は完全なる絶壁へと仕上げられたと思われた瞬間。壁向こうの巨大クローンが剛腕で力の限り氷壁を殴り付けては、厚さ3mもある氷壁にヒビを入れていく。
その現状を目の当たりにしたメタルバードは、仲間達に大声で強く呼びかける。
「もっと氷の壁を分厚くしろ! 修司のクローンが打ち破れないほど強固に! そして頑丈に!!」
メタルバードの指示を受けてマーキュリーを中心とする龍咲海に、スノウ(雪)とフリーズ(凍)を駆使して氷壁を分厚くさせてく木之元桜、キューティーハニーのハニー・ルージュアローの氷(ブリザード)、コレクターズの三人が放つ凍てつく吹雪が氷壁を更に分厚く強固な絶壁に仕上げていく。
そして聖龍HEADの面々が築き上げた氷の絶壁は、瞬く間に厚さ5mもの分厚い氷壁へと変貌した。
氷壁の向こうからは3-DXが力任せに壁を打ち破ろうと何度も拳を殴り付けてくる轟音が響いていたが、メタルバードは即急にこの場から離れて先に進行したルーキーズの面々と彼らに警護されてる新世代型達との合流を皆に急がせた。
「よし、此処はもう大丈夫だ! 早く新世代型とルーキーズの許に合流するぞ」
「おうッ」「そうだな。さっさとバケモノから成るべく離れたいぜ」
メタルバードの進行を急がせる言動に、大将は威勢よく返事し、ジェイクは即急に3-DXから距離を置きたいとして先に進む事を承諾した。
そしてメタルバードと大将を筆頭とした聖龍HEADとニュー・スターズ、そして赤塚組にジェイクらの面々は先に進行しているルーキーズと彼らに警護されてる新世代型達の許へと合流しに向かうのであった。
[鬼神の秘蔵映像]
再び目の前に現れた小田原修司の巨大クローン3-DX。
しかも3-DXは施設内を徘徊している最中で、様々なウィルスや生物兵器の肉片を体内に取り込み、ウィルスを支配したり生物兵器の特徴を受け継いだ容態に己を変化させていた。
それも全ては複製元の小田原修司の、全てのウィルスへの免疫と抗体による体質を受け継いでしまっていた為に、様々なタイプのウィルスに対する耐性を備えている為に起きてしまった状態である。
そんな3-DXから氷の絶壁で追跡を逃れた聖龍HEADとニュー・スターズ、そして赤塚組とジェイクらは先に進行している筈のルーキーズと新世代型達と合流を果たすべく先を急ぐ。
「……はぁ、はぁ……や、やっと追い付けたか」
「バーンズ! それにアッコお姉ちゃん達も、無事だったのね」
やっとの事でルーキーズと新世代型達に追い付けたメタルバード達を見て、ルーキーズ総部隊長のミラールがメタルバードやミラーガール達の無事に安堵する。
それと同時に、エターナル・セーラームーン達セーラー戦士一同は、最初の3-DXとの戦闘でクローンに脚を噛み千切られそうになった為に深手を負い、歩く事すら侭成らなくなった為に新世代型の猿田学と黒川冷およびリカルド・フェリーニと燃堂力の四人に担がれて戦闘から離脱していたウラヌスとネプチューンに駆け寄り優しく声をかける。
「ウラヌス、ネプチューン」「二人とも、大丈夫か」
エターナル・セーラームーンにキング・エンディミオンが心配して声を掛けると、ウラヌスとネプチューンは今まで自分達を担ぎ運んでくれた4人の手から離れ、言葉を返した。
「ああ、もう大丈夫」
「この4人が親身になって支えてくれたから、脚の痛みも少しは和らいだわ」
ウラヌスとネプチューンは、強張らせた笑顔で自分達を心配してくれるセーラームーンやエンディミオン達に言葉を返す。
と。皆が合流を果たし、少しばかし息をついていたその時だった。何かが激しく砕け散る衝撃音が響いてきた。
「なんだ?」
激しい衝撃音に一驚し、音のした方を反射的に振り向いてしまう大将や皆々。
すると細かい粉が床に落ちる音が聴こえてくる方向から、あの恐るべき唸り声が高々と響き渡った。
「セェェリュゥゥゥタァァアァァイ……」
「あ、あの声……!」
「マジかよ。あの分厚い氷の壁を、もう砕いて突破してきやがったのか」
不気味に響いてきたのは、紛れもない3-DXの唸り声であった。この声を聴いて大将は激しく動揺し、メタルバードは先ほど3-DXの進攻を防ぐ為に設けた5mもの厚さの氷壁を早々と突破したのかと驚き愕然とした。
そして当の3-DXは、重量感溢れる足音を軋ませながら一行の許へと接近してくるのを全員が五感で察する。
「き、来た……!」「は、早く逃げないと!」
3-DXに恐怖し小声で脅え始めるアイラ・ユルキアイネンと烏丸さくらたち新世代型達を横目に、同じく3-DXとの戦闘を避けたい一心の聖龍隊や赤塚組は何処か逃げられる道は無いかと近辺の扉を片っ端から開けてみたり通路を覗いて逃げられるか確認していった。
するとメタルバードが、ある部屋への扉を開けて室内を確認してみると即座に皆に言い放った。
「みんな! こっちに入るんだ、早く!」
メタルバードは自分の目で確認した室内へ皆を誘導し出した。メタルバードの指示に皆は迫る3-DXへの脅威から素直に聞き入れ、全員が続々と室内へと進入していく。
そして全員を室内に進入させたのを確認したメタルバードは、御得意のテレパシーで全員の心に直接強く呼びかけた。
(静かに!)
同時にメタルバードは自身の腕を前で交差させた上で変形させて×印のマークを皆に見せつけて、余計に皆の発言を制止させる。
更にメタルバードは自身の眼球を熱感知レーダーに変化させて、室外の熱反応を注意深く観ていく。
すると強烈な高熱反応の巨大な人型の塊が自分達の方に接近してくるのが捉えられた。
(3-DXだ。やはりD-ワクチンを投与して筋肉を異常発達させてた修司同様、クローンである3-DXの筋肉も異常なまでに熱を発している。ゾンビや他の生体兵器と比べてみると、完全に高熱の塊で全身が真っ赤だぜ)
赤外線サーモグラフィの如く小田原修司の巨大クローンの異常発達した筋肉から発せられる高熱を感知し、接近してくる高熱の塊であるクローンの動きを注意深く観続けるメタルバード。
全身の筋肉から高熱を発し続ける3-DXは、遂にその高熱を発する巨体をメタルバード達が駆け込んだ室内の前まで歩み寄って来た。
メタルバードも他の皆も、全員が息を殺し口を閉ざし、沈黙を保持し続ける。
肩に恐怖と不安が伸し掛かる重い空気の中、全員が懸命に息を殺して3-DXが自分達が籠城している部屋から離れていくのを待ち望む。
そして耐えに耐え忍んだ末に3-DXはようやく皆が沈黙している部屋の前を通り過ぎ、その場から徐々に離れていった。
3-DXが完全に眼球のレーダーで捕捉できなくなるまで離れていったのを視認したメタルバードは、室内で息を殺し沈黙を保つ皆々に顔を向けて×印に変形していた腕を○の形に変形させると押し殺していた言葉で皆に言った。
「もう大丈夫だ」
メタルバードの○の形に変形した両腕と一言で、室内で同じく息を殺して沈黙していた一同は一気に疲れが出ては皆その場で力尽きてしまう。
「や、やっと出し抜けだワサ」
「ひぃ~~、おっかなかったでヤンス……」
恐怖と緊張が一気に解れて、その場にしゃがみ込んでしまう赤塚組のチカ子とゴマ。
「ど、どうにか一時凌ぎとはいえ撒けたね」
「そうだな。できれば今後も戦闘は避けたいが……しかし、あのクローンが追跡を止めるとは到底思えないし」
一時的に追撃を撒けたと言うジュピターキッドに対し、キング・エンディミオンはこの先も3-DXが追跡を諦めるとは到底思えずにいた。
と。此処でウラヌスとネプチューンの脚の容態が気になり、ナースエンジェルが二人の許に駆け寄って来た。
「ウラヌス、ネプチューン。早く脚の怪我を完治させる為に、もう少し治癒エネルギーを放射しておきましょう」
ナースエンジェルは自分同様に治癒能力を持つ仲間に援助を呼び掛けた。
「セーラームーン、キューティーハニー、それに風さんにミラーガール。治療を手伝ってください」
ナースエンジェルの嘆願を聞いて、ナースエンジェル同様に治癒能力を持つセーラームーンにキューティーハニーに鳳凰寺風、そしてミラーガール達が歩み寄り、共にウラヌスとネプチューンの負傷した脚に治癒能力のエネルギーを放射して治療を行う。
その頃、3-DXから身を隠す為に駆け込んだ室内を、新世代型の斉木楠雄が念入りに見渡していた。
斉木が部屋中を見渡してみると、部屋には多くの映像を納めているであろうフィルムが陳列された棚と、それをスクリーンに投影する為の映写機が室内に置かれていた。
一体、自分達が駆け込んだこの部屋は何なのか疑問に思う斉木。そんな彼に気付いてメタルバードが斉木を始めとする新世代型達に現場の部屋が何なのかを話した。
「此処はおそらく、何かの記録映像を試写する為の部屋だろう」
メタルバードが言うには、この部屋は何かの記録を視聴する為の試写室であると言う。
そして斉木は、そんな試写室の棚に陳列されている数多くの映像フィルムに注目した。
(これは……)
斉木が映像フィルムに多少の関心を持ち、思わずフィルムに触ろうとしたその時。
「貴方! やめて下さらない!? 迂闊に色んなモノに触らないで!!」
と、物凄い剣幕でフィルムに触ろうとした斉木に言い放つ薙切えりなの声に、斉木も思わず手を止めてしまう。
えりなの剣幕に斉木だけでなく室内の誰もが彼女に視線を向ける中、えりなは立腹しながら斉木に訴えた。
「また貴方の変な能力で頭の中に流れ込む映像というか、思念にはもうウンザリなの! お願いだから余計な事はしないで!」
薙切えりなは斉木楠雄の超能力サイコメトリーで、映像テープなどの物証から感じられる残留思念が新世代型同士の思考を繋げている共有感知を通して自分にまで伝わってしまう事を極度なまでに嫌悪していたのだ。
斉木楠雄だけでなく薙切えりなの発言に皆が戸惑っている最中、斉木楠雄が手に取ろうとしていた数あるフィルムの中の一本をメタルバードが手に取り、フィルムのラベルを拝見し記録されてる中身を確認してみた。
「何々……199X年。場所アメリカ、0エリア…………これは」
ラベルに記載された年号と場所を読んだメタルバードの微かな言葉を耳にした新世代型の星原ヒカルが、険しい面持ちでフィルムを見詰めるメタルバードに問い掛けた。
「メタルバードさん、そのフィルムは一体……」
険しい面持ちで見詰めるフィルムについて問い掛けるヒカルに、メタルバードは険しい顔つきでヒカルに答えた。
「いや、これは……もしかしたら、修司の若い頃を収めた映像フィルムかもしれねぇ」
「小田原修司の若い頃……それって」
かの鬼神 小田原修司の若い頃を収めていると聞いて更に疑問を募らせる星原ヒカル。だが、そんな疑問を募らせるヒカルを尻目に、メタルバードは何を思ったのかそのフィルムテープを部屋に置かれているスクリーン前の映写機に填め込んだ。
「め、メタルバードさん! 何を……」
メタルバードの突然の行為に動揺してしまう星原ヒカル。
するとメタルバードは仲間の聖龍隊と同盟相手の赤塚組に厳つい顔付きで告げた。
「みんな、ちょっとこのフィルムを見てくれないか。もしかすると、修司の資料映像なのかもしれない」
「修司の資料映像……って。そんなモンを見て何になるんだ?」
大将が問い返すと、メタルバードは真剣な面差しで事情を話した。
「このフィルムのラベルに記載されている日付と場所は、かつて修司がD-ワクチンを投与した時期と場所が記されている。もしDの影響で巨大化した修司が収められていれば、この映像は貴重な糧だ。例の3-DXの動きは完全にDの力で巨大化した修司と全く同じ動作だった。だからこそ、Dで巨大化した修司の戦闘動作を頭に叩き入れておけば、3-DXとの戦闘で容易に立ち回れるのは目に見えている」
「あ、なるほど。敵の動きを予め知っておけば、戦況が有利に進められるって訳だな」
「そういう事」
巨大化した小田原修司のクローンである3-DXは体格だけでなく動作までも本物に酷似している故に、予め本物の小田原修司の動作を記憶しておけば3-DXとの戦闘での立ち回りを有利に進められると指摘するメタルバードの言い分に、大将は本心から納得する。
更にメタルバードは聖龍隊の新人組であるルーキーズの三組に唱えた。
「ソードアート・オンライン組、アクセルワールド組、そしてマギカ組! お前達は去年聖龍隊に入隊したばかりで余り修司とは本格的な組手をしてないから、よぉく目を凝らして修司の動作や癖を頭に叩き込んでおけ! 再び3-DXと対峙した時の、貴重な参考になるのは間違いないからな!」
「は、はい……ッ」
メタルバードからの強制にキリトは戸惑いながらも返事をし、聖龍隊の新人達は全員同意する。
そしてメタルバードが聖龍隊の若き新人達に唱えた直後、更に赤塚組の面子にも鋭い眼光で直視しつつ強く唱えてく。
「赤塚組も目を通しておいた方が良いぞ! 修司のクローンなら戦闘での動作も殆ど本物と酷似しているだろうし、行動パターンを理解しておいた方が何かと都合がいい筈だ」
「そ、それもそうね……戦闘において、相手の行動パターンを知っておくのは確かに好都合だわ」
メタルバードの言い分に、ミズキを始める赤塚組の面々も映像の視聴に同意を示す。
聖龍隊の新人達に視聴を促し、赤塚組にも映像の視聴を承諾させたメタルバードは、即座にフィルムをはめ込んだ映写機を作動させてスクリーンに映像を投影した。
最初に皆々が視聴した映像は、コンクリートの床に軍人らしい外国人が腰を下ろしている椅子といった何処かの研究施設の実験場の様に見える殺風景な場面であった。
初めに映像に映っていた軍人の腕に、科学者らしき人物が何かを外人の腕に注射器で注入している状景であった。腕に何かを注射された軍人は、最初は苦しそうに顔を歪めていたが突如として注射された腕から異様に筋肉が膨張し始め、同時に雄叫びを上げながら椅子から立ち上がり更に上腕筋に背筋と、膨張していく筋肉の面積が広がり続ける衝撃的な場面が映し出された。
だが、その外国の軍人は注射された片腕から背筋に掛けて異様なまでに筋肉が膨張していくと前触れもなく倒れてしまい全く動かなくなってしまった。
コンクリの床に倒れた軍人は目を見開いたまま血の涙を流し、眼球は不気味なまでに充血した状態で事切れていた。
すると注射された軍人の様子を周囲で傍観していた他の軍人達が、数人で動かなくなった軍人の両手両足を掴んでは何処かへと運んで行ってしまう。
次に映像は突如として一瞬のノイズが走ったのと同時に切り替わり、映し出されたのはカメラ目線で背筋を伸ばし厳つい強面で敬礼の構えを示す軍用ズボンにシャツを着用した日本人の少年だった。
「国籍、名前、および年齢!」
実験の過程を観察する軍人の一人が、これから実験対象になる少年に名乗るよう指示を飛ばす。これに少年は率直に堂々と答えた。
「日本人、小田原修司! 13歳です」
少年は名乗ると即座に椅子に座り、自ら右腕を差し出すかのように突き出し注射を志願する。
そして科学者によって右腕に何かを注射される少年。注射し終わった直後、少年の体には特に異常が見られず、観察してた軍人や科学者たちはその少年を移動させる。
少年が赴いたのは、何トンもあろうかという戦車の前だった。すると軍人達は、その戦車を遠隔操作で急速発進させ投薬した少年に向けて走らせた。
だが少年は既で突進してくる戦車を受け止め、それと同時に両腕から背筋・腹筋に掛けての筋肉が著しく膨張し突進し続ける戦車を押し退けていった。
そして挙句の果てには戦車を前から持ち上げて、そのまま引っ繰り返した。
この少年の行動に、周囲で観察してた軍人や科学者たちは大いに歓喜に沸いた。
「凄い! 5トンもある戦車を引っ繰り返したぞ!」
「おめでとう小田原修司! 君は今日からスーパー・ソルジャーだ!!」
だが科学者や軍人らの歓喜に沸く歓声に、少年は戦車を引っ繰り返した直後ただ一点を無言で見詰めていた。
「……ど、どうした? おい、どうしたんだ……」
撮影者が少年に近寄り声を掛けた、その時。
「ウガアァッ!」
なんと少年の顔が元から厳つかった顔立ちから更に、もはや人間とは思えない程までに厳つく真っ赤に染まった風貌へと豹変した。
すると少年は声を掛けてきた撮影者に掴みかかり、撮影者を激しく床や壁に叩き付けていく様子が、激しく揺れる映像で視聴する者たちは状況を克明に理解した。
映像を視聴してた聖龍隊や赤塚組に新世代型達の目にも、小田原修司が通常の人間では決して持ち上げる事すら侭成らない戦車を引っ繰り返しただけでなく、その直後に顔が赤鬼の如き形相に豹変して撮影者に襲い掛かる様子がハッキリと伝わった。
と。撮影者が形相を豹変させた少年時代の小田原修司に襲われてる現状が映し出されていると、居合わせていた軍人達が止めに入ってくる音声が流れた。
「急にどうしたんだ!?」「バーサーカー状態だ! 取り押さえろッ」
だが暴走した小田原修司に投げ飛ばされた撮影者は、そのままコンクリの床に叩き落されたまま動かなくなったのか映像は壁以外映らなくなった。しかし音声だけはハッキリと記録され続けてた。
暴走した小田原修司を止めようとする軍人達が鳴らす銃撃。それと同時に記録された唸り声の様な怒り狂った雄叫び。そして人々の苦痛に悶えるかのような悲痛な叫び。床に転がったカメラが映し出すコンクリの壁にも流れ弾が直撃する惨状。
更に銃撃に混じって軍人達の悲鳴や断末魔までも録音されており、その軍人または科学者のものなのか映像いやカメラには赤い血が飛散しレンズの縦半分だけを紅く染めた。
と。此処で映像は途切れ、最後には軍人などの人々の悲鳴や断末魔さらには流血の描写までも鮮明に記録されてたフィルムの一巻は終わった。
何かの実験の過程で投薬されたであろう若かりし小田原修司の異常なまでに膨張した筋肉と、それによって成し遂げられた戦車をも引っ繰り返せる驚異の怪力。だが、その直後に豹変した小田原修司によって襲われる撮影者に、制止しに入った軍人や現場にいた科学者らに多大な犠牲者が出たと思われる記録映像。その映像を初見した聖龍隊と赤塚組に新世代型の面々は一同に蒼然と黙り込み、一方でHEADだけは平然とスクリーンに投影された映像を観ていた。
映像を観終わった大将が動揺しながら震える唇で一緒に視聴したHEADに問い掛けた。
「お、おい……今の……」
動揺する大将の問い掛けに、メタルバードが落ち着いた面持ちで平然と大将たち赤塚組や聖龍隊の新人達に説明していく。
「見てのとおり。修司が若い頃、少年時代にD-ワクチンを投与した時の実験過程を撮影した映像だ。話に聞いたところ、D-ワクチンの投薬実験は志願制で、修司以外にも多くの軍人が強靭な肉体を渇望し志願したという。当時アメリカで外人特殊部隊に所属していた修司の部隊も投薬実験に参加し、皆が揃って志願したという……だが多くの軍人がD-ワクチンを投与した直後に表れる異常発達する筋肉の膨張に己の体が耐え切れず、その場で絶命したらしい。そんな中で唯一、修司だけがD-ワクチンを投薬されても生き残ったらしいが、同時に筋肉を異常発達させるドーパミンの効果で一度筋肉が膨張した修司は極度の暴走状態いわゆる
『……………………………………』
メタルバードから過去のD-ワクチン投薬実験に志願した多くの軍人が死亡していく中で、小田原修司のみが生存したが同時に暴走してしまい、実験に立ち会った軍人や科学者を襲撃し殺害に至るまでの経緯を聞いた赤塚組に新人達、そして新世代型達は一同に衝撃を受け蒼然と言葉を失ってしまう。
そんなメタルバードの説明を聞いた赤塚組のテツが険しい面持ちで問い返してきた。
「暴走する、すなわち
「ふむ。まず話しておかなきゃならないのは、D-ワクチンが人体における影響の過程だ。当初のD-ワクチンは怒りの感情で脳から分泌されるドーパミンと作用し合って筋肉を常人以上にまで発達させて凄まじい怪力を身に着ける効果だった。多くの人間が過剰なまでに反応したD-ワクチンの効力で筋肉が膨張し過ぎて死んでいったが、修司の場合は死ぬ事なく見事なまでにD-ワクチンと体内の筋肉細胞が結合した事で存命できた。しかし引き換えに、修司は怒りで自我を失った状態に陥り、筋肉が膨張し巨大化した上で暴走してしまうというリスクも持ち合わせてしまった」
『…………』
「簡単に纏めると、D-ワクチンは怒りによるドーパミンと作用して筋肉を過剰発達させた上で強靭な怪力を得られるが、修司の場合は怒りで自我を失って見境なく暴れ回ってしまう代物だったという事だ」
「怒りで我を忘れて暴れ回るって……まるでアベンジャーズのハルクだな」
「確かにな。ただハルクと違うのは、向こうはガンマ線で筋肉が膨張し緑色の巨体に変貌するが、修司はD-ワクチンという薬物で筋肉が異常発達し血流が激しくなる事で全身が赤黒い巨体に変貌するという点だが。まぁ、ガンマ線と薬物という点では違うが、どちらも巨体に成ったら自我を失って暴れ回ってしまうリスクはおんなじだな」
テツの問い掛けに答えるメタルバードの説明を受けて、テツはまるで当時の小田原修司がハルクの様な存在だったなと述べると、メタルバードはガンマ線と薬物による違いを除けば理性を失う点は一致してると語る。
そしてテツに語り終えたメタルバードは、映写機から映像フィルムを外して元あった棚に戻すと同時に別のフィルムを色々と物色していた時だった。
棚の前で次に映写するテープを物色するメタルバードに新世代型の出雲ハルキが真剣な真顔で訊ねてきた。
「メタルバードさん! 今の映像に記録されてた実験は本当にあった事ですか!? 極普通の軍人がD-ワクチンを投薬された直後に死んでいったなんて……しかも唯一投薬実験で生き延びた小田原修司も、Dの影響で巨大化したら手が付けられないぐらい暴走していたなんて……!」
ハルキは自分達も目に焼き映した映像に記録されたD-ワクチンの実験過程と、その実験で肉体を極度なまでに強化しながらも理性を失い暴れ回ってしまった小田原修司の経緯に衝撃を受けていた。
だがメタルバードは、そんな衝撃を受けてる出雲ハルキを横目に、棚に陳列されてるフィルムテープを物色しながら平然と話を返した。
「……ハルキ、それに新世代。時に人というのは非力な存在ゆえに、どうしても力を欲してしまう行為に駆られてしまう事があるんだ。軍は今も昔も力を欲し続ける為に様々な実験も行えば、同時に兵器の開発にも着手し続けている。Dの人体実験だってそれと同じだ。その実験に参加した兵士の殆どは自らの意志で己の体を差し出して志願した軍人ばかりだ。もちろん、あの修司も同じだ。最初、修司と会った時からアイツは力に対する執着心が異常に強く、自らを強められる為ならば軍の実験に志願しただけでなく軍政に身を売った行為も繰り返した。己の強さを極限まで高める為に、奴は自分自身を何度追い詰めていた事か……」
「…………………………」
力を欲する余り古より繰り返されてきた人間の力への欲求。それと同じく小田原修司も力に対する異常なまでの執着心を顕わにし、自ら軍事政権に身を売ってまで己の力を極限まで高めていった経緯を聞いて出雲ハルキも他の新世代型達も居た堪れない心境に駆られた。
一方でメタルバードは物色してたフィルムの中から一本を選び出し、それを映写機に填め込むと再びスクリーンに映像を投影し、皆で視聴した。
だが新世代型達の方は、過去に軍事政権の下で志願制とはいえ行われたD-ワクチンの人体実験と、その実験で理性を失い暴れ回るだけの怪物に変貌してまでも己の強さを追求した小田原修司の真意に衝撃と疑問を膨らませてた。
そんな中、メタルバードが回したフィルムに納められてた映像には遠方の地点から撮影されたと思われる、巨大化した小田原修司と古参の聖龍HEADの面々までがスクリーンにアップされた。
「お、おい! 巨大化した修司だけじゃなく、お前達まで納められてっぞ」
軍事政権が撮影したと思われる映像に納められた巨大化した小田原修司と何やら取っ組み合っている聖龍HEAD、その古参であるセーラー戦士にミラーガールやメタルバード達を見て、大将がメタルバード達に何ゆえHEADの面々まで映像に納められているのか問い詰めた。
すると問い詰められたメタルバードは厳つい顔立ちで映像を睨み付けながら言った。
「クソ、おそらく軍事政権が修司をアニメタウンに帰還させた後も、Dによる戦闘状況と被験者の修司の様子を記録する為に隠し撮りしてやがったんだ。全く、軍って奴らは……」
メタルバードは自分達と小田原修司の戦闘状景を隠し撮りしていた軍の行為に愚痴を走らせた。
そしてメタルバードが愚痴を吐いた軍の隠し撮り映像に納められていたのは……
「修司! やめろ、やめるんだ!!」「グアアアッ!」
D-ワクチンによって理性を失い巨大化した小田原修司が手当たり次第に暴れ回り、それを当時の聖龍HEADの副長メタルバードやミラーガールを始めとする聖龍隊古参の面々が取り囲み奮闘してた光景であった。
映像の中でメタルバードや聖龍HEADは、自我を失い暴走する小田原修司を懸命に取り囲みつつ宥めながらも、無作為に暴れ回る小田原修司を押さえ込もうと奮闘していた。だが小田原修司の暴走はHEADの懸命な制止にも関わらず、戦場である荒野で怒りに身を任せて暴れ回っては聖龍隊が所持する軍用車などを掴んでは投げ飛ばしたりと暴虐の数々を繰り返してた。怒りを表立った形相に体の表面の汗を体内から発せられる高熱で蒸気に変化させて、水蒸気を纏わせた状態で暴れ狂う小田原修司。そんな暴走する小田原修司を何とか取り押さえようと、巨大化した彼の体にしがみ付き必死に押さえ込もうとする聖龍HEADのヒロイン達。だが彼女らの力ではDの影響で筋力が増強し自我を失った小田原修司を取り押さえる事は困難であり、巨大化した小田原修司にしがみ付いたヒロイン達は悉く小田原修司に掴まれては地面に叩き付けられていく。
「ぎゃあっ!」「っ!」
キューティーハニーやセーラーサターンなど、体力的には常人を超えたヒロイン達を意図も簡単に自身の体から引き剥がし地面に叩き付けていく自我無き小田原修司。更に理性の欠けた小田原修司は地面に叩き付けたセーラーサターンに追撃とばかしに彼女の体を足で踏み付けていく。
「ぐっ!」
サターンの胴体と同幅の足が彼女の体を踏み付け、サターンは悶絶してしまう。そんな巨大な足で踏み付けてサターンを苦しめる小田原修司を止めようとウラヌスとネプチューンが共同で小田原修司に体当たりし、サターンから足を押し退けさせる。しかし二人に体当たりされた暴走状態の小田原修司はウラヌスとネプチューンに攻撃性を向けてしまい、二人に突進していく。ウラヌスとネプチューンはこの突進を巧みにかわしてみせると即座に反撃に回り、小田原修司を肉体的な痛みで気絶させて暴走を止めようと狙う。しかしDによって得た動物的な直感と回避能力から小田原修司はウラヌスとネプチューンの攻撃を回避すると同時に二人の首根っこを掴んで、あろう事か二人を地面に何度も叩き付け痛め付ける。声にならないほど悶絶する二人を助けようとセーラームーンや魔法騎士の三人も小田原修司を押さえ込みに駆け付ける。更にカードキャプターのさくらもシャドウ(影)やウッド(樹)のカードで小田原修司の動きを封じ込めようと図る。
しかし数多の魔法や技を受けても、小田原修司は余計に興奮し更に攻撃性と凶暴性を上昇していくばかりであった。
すると其処にジープに搭乗して現れた東京ミュウミュウのメンバーに聖龍隊の一般隊士であったデューイや宇崎星夜らが駆け付け加勢するのだが、ミュウミュウの多種多様な技に一般隊士達が砲撃する銃火器も暴走する小田原修司には対して効き目が得られなかった。
当時の聖龍隊が総力を挙げて自我を失ってる小田原修司を抑制しようと手痛く痛め付けられていく最中、乱闘の最中に参謀総長のジュピターキッドがある聖龍隊士達と共に駆け付けてきた。
「遅れてゴメンっ……マーメイドメロディーズ! 君たちの歌声で義兄さんの、総長の暴走を止めてくれッ」
ジュピターキッドはともに現場に駆け付けたマーメイドメロディーズのるちあ・波音・リナの三人に、人魚の能力である歌の魔力で暴走する小田原修司を鎮めるよう伝える。指示を受けた三人は即座に、その美しい歌声によるメロディーを奏で、荒れ狂う戦場に朗らかな旋律が流れていく。それと同時に暴走状態の小田原修司にも変化が起き始め、次第に足元からふらつき始めた。そして充血してた目からは血の気が引いていき、激しい血流で赤黒く変色してた肉体は次第に普通の肌色に戻っていくのと同時に膨張した筋肉組織も戻っていき、遂には元の大きさに姿に小田原修司が戻っていく。そしてマーメイドメロディーズの歌唱を感じながら、そのまま気を失い地面に倒れてしまう。
映像はマーメイドメロディーズの歌声で暴走してた小田原修司が気を失った所で終わってた。この映像を観た一同は、当時の暴走状態に陥った小田原修司の制御不能なまでの力とそれを制止しようと奮闘する聖龍隊の一部始終を目の当たりにし、驚愕の余り言葉を失くしていた。
「む、昔の修司が一度巨大化すると手が付けられないほど暴れ回っていたって聞いてはいたが、まさか此処までとは……」
想像以上に当初の小田原修司がDの力で巨大化した際の暴走状態に驚きを隠せない大将が呟くと、回してた映像フィルムを映写機から外すメタルバードが当時の出来事を語り明かした。
「あの頃の修司は一度キレると手が付けられないほど暴れちまってたからな。悪人だけでなく時には町の公共物も手当たり次第に破壊し尽くした事も何度もあった。正直、力による抑制はアイツには通じなかったよ」
一度でも怒りで自我を失い巨大化した上に暴走した小田原修司には、聖龍隊の如何なる能力や武力も歯が立たなかった経緯を語りながらメタルバードは映写機から外したフィルムを元の棚に戻しつつ、次に視写するフィルムを探ってた。
すると初めて暴走状態に陥った小田原修司とそれを制止しようと奮闘する聖龍隊の戦いぶりを納めた映像を拝見した新世代型の真鍋義久が次に投影するフィルムを探るメタルバードに問い掛けてきた。
「と、当時の聖龍隊が所持していた武器はもちろん、聖龍隊のヒロイン達の能力ですら歯が立たなかったんですか?」
これにメタルバードはフィルムを探った状態で真鍋に背を向けたまま話し返した。
「まぁな、ホントにあの時の修司には手がかかったぜ。なんせオレやちせのレーザーや電撃砲を受けても、瞬時に肉体が再生するほど新陳代謝が向上してて効き目が無かったし。それにキューティーハニーやセーラーサターンにウラヌス・ネプチューンといった格闘技を得意とする聖龍隊の打撃すらビクともしなかったからな。オマケにさくらのシャドウ(影)やウッド(樹)といった対象物の動きを封じる手立ても、暴走した修司の怪力で意図も簡単に外されちまってな。まぁ、あの頃のさくらは今よりも格段に魔力が低かったからシャドウ(影)やウッド(樹)の拘束力が弱かったのも振り解かれた要因ではあるがな」
当時の聖龍隊の武力や特殊能力が暴走状態の小田原修司に効果が出なかったのを答えるメタルバードは、棚から新たなフィルムを取り出し映写機に填め込もうとしてた。
すると真鍋義久に続いて新世代型の綾瀬なるが映像の後半に納められてた場面についてメタルバードに訊いてみた。
「だ、だけど……暴走した修司さんをマーメイドメロディーズの歌声で止められてましたよね? マーメイドメロディーズの歌だけは効果があったんですか?」
綾瀬なるがマーメイドメロディーズの歌声だけは例外的に暴走状態の小田原修司に効力があったのか尋ねると、メタルバードは映写機の調子を見ながら綾瀬なるの質問に答える。
「それはだ、綾瀬なる。別にマーメイドメロディーズの魔力の籠った歌声が効いていた訳じゃなかったんだ。修司にはメロディーズの邪気を祓う歌の魔力は、修司自身の闇の能力で掻き消され効力が無力化されてた。だがメロディーズの美しい旋律は、お前さん達も知ってのとおり心を落ち着かせられるだろ。修司にも、その効果は普通に効いていたから暴走状態の時にメロディーズの旋律を聴かせて奴の怒りの感情を静められた。マーメイドメロディーズの歌声は実に効果覿面で、怒りで自我を失ってた修司はアッという間に大人しくなって、そのまま元に戻ると同時に気を失って眠ってくれたから助かったよ。もう殆ど、修司が自分でDのパワーを制御するまではメロディーズの歌声に頼り切っていたな」
「なるほど。つまり人魚の嬢ちゃん達の歌は、一種の精神安定剤代わりで暴走する修司を宥められたって訳か」
「そういう事」
マーメイドメロディーズの歌声が、暴走した小田原修司を抑制できた数少ない手段だったと語るメタルバード。そんな彼の話を聞いて、メロディーズの人魚姫たちの歌声が暴走する小田原修司にとっては精神安定剤の役割を担っていた事を把握する大将。彼の納得する発言にメタルバードは映写機の調子を整えながらキッパリ言った。
そんな中、メタルバードが映写機に填め込んだフィルムを回す前に視聴する新人や赤塚組に声を掛ける。
「それじゃ次は、修司が完全にD-ワクチンによる暴走を自制した後の記録映像を観てみよう。フィルムには2001年と記されてた、この頃には修司は完全にDを自力で制御できていたからな……ま、記録されたのは国連軍管轄の施設だから、人間兵器としての修司を記録したモンだろうがな」
記録映像が小田原修司を人間兵器として記録した国連の代物である事に、メタルバードは小田原修司を人間兵器として扱ってた国連に対しての不満を浮かべながら映写機を作動させる。
映像に納められていたのは……
何処かの施設、その広いコンクリート張りの空間であった。
其処で小田原修司はDの力で自身を巨大化させ、無作為に暴れ回る事無く完全に自身を制御できているのが確認できた。
制御可能になったDのパワーで巨大化した小田原修司は果敢に国連の幹部や軍の上層部の人間に己の力を見せ付けていた。
映像の中の小田原修司は自らを巨大化させ、増強した筋力で戦車の砲身を掴んでは軽々と投げ飛ばしたり他の戦車に叩き付けたりと猛々しい活躍を見せていた。
しかも自分に向けられて放たれた戦車の砲弾をも、体を捻り砲弾の反動を上手く緩和させながら片手でキャッチし、そのまま体を回転させながら砲弾を撃った戦車に投げ返す芸当まで見られた。
更に複数の機関銃から弾を連射され直撃してもなお、小田原修司の巨体には殆ど効かなかった。更に戦車やバズーカなどの砲撃を受けても、多少よろめくだけで差して致命傷になっていなかった。
驚きの怪力と強靭な肉体を見せ付けていく小田原修司であるが、更に8mの巨体からは想像できない程の跳躍力で自身の3倍もの高さを跳び上がってみせたりもした。
更に映像が切り替わり、今度の小田原修司は普通の大きさで装甲の厚い装備を身に着けて映し出された。しかもその右手には何やら巨大な銃が構えられていた。
小田原修司はその巨大な銃を構えると、前方の標的に向けて重量感溢れる銃の砲身を定めて砲弾を発射していった。前方の標的に砲弾が直撃すると、的は粉々に吹き飛び辺りに散乱した。
重量感も威力も普通の銃火器とは桁違いの重火器を右手に構える勇猛な小田原修司の姿に、勇猛な小田原修司を初めて目にする面々は衝撃を受けて言葉を失っていた時、映像には映っていなかったが渋い男性の声が小田原修司に問い掛けてきて、小田原修司も仏頂面ではあるが会話をしている様子が納められてた。
「どうかね? 我が軍が開発した君特製の、君だけの銃は」
「ああ、多少は重いが威力も申し分ない」
「だろうね。君専用に作らせた特製の対戦車ライフルだ。重量26K、全長800mm、大型セミオート式狙撃銃で口径は20.5mmもあるバケモノ並みの銃だ。しかも君の要望通り、左右どちらでも射撃可能にした両利きの性能に仕上げている。それに有効射程は3,000mもあるから、それで狙われた敵兵はさぞ災難だろうね」
「確かに。これを受けて生きていられる人間はそうそう居ない。ところで、もう一つだけ注文したいんだが」
「なんだね?」
「この俺専用の対戦車ライフルの特大の銃弾、いや砲弾をできれば……チタンかタングステン製にしてほしいんだが」
「おいおい、無茶言わないでくれ。チタンなんて高価な物を簡単に使える訳ないじゃないか。銃だけでなく専用の特大砲弾だけでも特別製で、かなり費用が嵩んでいるんだ。それに君が狙うのはイスラムなどのテロ組織だろ? もう、そんなバケモノ銃で十分じゃないか」
「いや。相手が……敵が戦車を持ち出してきた時の為にも、弾も特別なものを使いたいんだ。そう、敵が普通の対戦車兵器でも簡単に突破できない戦車を用いた時、そんな戦車の装甲をも切り裂く事ができるチタンかタングステンの銃弾を使いたいんだ」
「はは、必要ないだろ。イスラムの自爆テロリスト共がそんな戦車を入手する事すら不可能だよ」
「世の中に絶対はない。例え数パーセントの可能性であっても、敵が戦車を用いるのを想定して戦わなければ」
「そ、そうか……しかしコスト的に今のその銃だけで我慢してほしい。確かに君個人の戦力は十分評価してる。だが今のところはそれで存分に戦ってほしいのが国連の要望だ。威力も十分、重さも出来る限り軽減したし、左右どちらの腕でも発射できるから状況に応じて使い分けてほしい」
「分かった、弾の材質は妥協しよう……しかし、やはり少し重いな」
「ふふ、怖い怖い」
映像は兵装を纏い特製の対戦車ライフルを手に持つ無表情の小田原修司と、映像には映ってないがおそらく国連側の人間との会話で途切れていた。
国連所有の人間兵器として、特製の武器を作ってもらい訓練もしてもらってた小田原修司の身上に新世代型達は驚きと衝撃で胸が一杯になった。
「こ、これが……戦場で幾多の敵を、命を殲滅してきた小田原修司。その一部と言う訳か……!」
鮮明に映像に記録された小田原修司のDによる肉体強化での異常な身体能力、そして大よそ常人では決して扱える事のない特製の武器を自在に操る苛烈な姿に、星原ヒカルを始めとする新世代型達は衝撃を受けては目を丸くし口を半開きにしてしまってた。
だが、一方で映像に納められてた人間兵器としての小田原修司を視聴した赤塚組に聖龍HEADは如何にも不快そうな面立ちを浮かべてた。
そんな如何にも不機嫌な表情を浮かべる赤塚組の頭領 大将に恐る恐る真鍋義久が話し掛けた。
「あ、あの……どうしたんです? 大将さんもメタルバードさんも、いやHEADに赤塚組の皆さん……何で、そんな顔していらっしゃるんですか……?」
挙動不審な口振りで真鍋が訊ねると、大将が厳ついしかめっ面で答えた。
「何でか、だと……そりゃ小僧、修司の野郎が俺はともかく聖龍隊の連中にも自分を人間兵器として国連に売り飛ばしていた事を黙っていたから虫唾が走るんだよ……!」
「だ、黙って国連に売り飛ばしてた?」
大将の答えに真鍋義久を始めとする新世代型達が激しく戸惑っていると、そんな真鍋とは顔馴染みであるプロト世代のギュービッドが詳しい事情を話し始めた。
「真鍋、アンタら最近になって生まれた新世代型は詳しくは知らないだろうけど……あの修司さんは自ら国連に自分の人権を売り飛ばして、人間兵器としての地位を得た経緯なんだよ」
「じ、自分から人権を渡して国連所有の人間兵器になった訳なの!? その修司さんって……」
ギュービッドからの話を聞いて非常に驚く琴浦春香。そんな琴浦春香に親友であるプロト世代の黒鳥千代子ことチョコも訳を話した。
「琴浦さん。私もニュースとか歴史の勉強で少ししか事情は知らないけど、修司さんは自分を高評価してもらいたくて、それで国連に人権を譲った暁に人間兵器としての絶対的な地位を手に入れたって聞いてるよ」
「そ、そんな! 自分を高評価してほしいからって、自分から進んで人間兵器になるなんて……普通じゃない!」
チョコの話を聞いた琴浦春香と共有感知で意志が繋がっている為に知り得てしまった瀬名アラタは、自らを評価してほしいからと進んで兵器に成り下がった小田原修司の心理を理解できなかった。
そんなギュービッドやチョコの話を聞いて驚愕する新世代型達に、メタルバードが小田原修司の真意を語り明かした。
「修司はな、元々普通じゃなかったんだよ。お前らも修司が執筆した自伝本、読んだだろ? あれの中でも修司は公表してるが、修司自身が稀に見る極度の発達障害者だったんだよ。修司はそんな自分を価値のない人間だと思い込んじまう悪癖が昔からあった……それで修司は世間から自分の存在を認めてもらいたい一心で、俺たち聖龍隊の同期にすら話さず独断で国連に人権を渡した代わりに国連の言うがままに動く人間兵器として戦い続けていたんだ。まぁ、他人に評価してほしいとか認めてもらいたいって気持ちはお前等も少しは分かるだろ? 人間、誰かに評価してもらいたいが為に必死になって努力し続ける生き物なんだからな」
「だ、だからって……自分から率先して兵器になってしまうなんて」
メタルバードの話を聞いても尚、小田原修司の自らを兵器として差し出した行為に疑問に思う茨千里。すると今度はジュピターキッドが義兄の小田原修司の経緯を語り明かした。
「義兄さんが人間兵器になったのは、癪に感じるけど実は僕ら二次元人の為でもあったんだよ。二次元人の中には軍によって兵器として改造されたり人体実験にされたりした不遇な人も多いから。義兄さんは、そんな二次元人を軍が兵器として扱ったり実験に使用させない為に自ら人間兵器に身を落としたんだ。ま、最も義兄さん自身が聖龍隊の組織としての権限を強める為にも人間兵器の立場という実権を掌握したかったって本音もあるけどね。小田原修司が人間兵器として国連に人権を謙譲したからこそ、聖龍隊の権限と二次元人の人権が保守されてきたとも言われてるんだ」
「だけどな……ッ! いくら何でも国連に人権を明け渡すなんて身勝手すぎるぜ! しかも俺はともかく聖龍隊の、仲間であるアッコやバーンズにも何も言わずに勝手によッ! 人権を渡して失うなんて
「あ、確かに。国連に人権を渡したって事は、つまり人権が無くなる……
ジュピターキッドの話を聞いて怒りに身を震わす大将の発言で、新世代型の細野サクヤは人権を失った小田原修司が
「確かに実質は
テロリストや凶悪犯罪者に分類される
「だけどなバーンズ! いくら俺たち二次元人や聖龍隊の尊厳を護る為だったとはいえ、同じ聖龍隊であるお前等にも黙って人間兵器に成り下がってた修司の行動には納得いかねぇぜ! 人権がないって事は、結局は世の中に存在しないのと同じなんだぞ! 無論、戸籍すら消失していたんだから……」
「た、大将。もうそれは済んだ話なんだし、そんなカッカしないで」
怒りで感情的になる大将にミラーガールが何とか宥めようとする。
するとメタルバードの話から大将の怒りを顕わにした言動といった話の流れを聞いて、新世代型の神原秋人が一つの疑問を生じた。
「あ、あれ? なんか話を聞いていると、聖龍隊の人達って小田原修司が人間兵器だったのを知らなかったみたいな」
この神原秋人が思わず発した疑問に、ミラールが答えた。
「ああ、実はHEADの先輩達も私達ルーキーズも前総長が国連所有の人間兵器だって知ったのはつい最近なのよ」
「え! そうなんですか?」
ミラールの答えた言葉に栗山未来が反応すると、メタルバードがしかめっ面で話した。
「ああ、オレたち聖龍隊はもちろん世間で修司が国連所有の人間兵器だったって知ったのは、一昨年の異世界会合の時だ。あの野郎、いつの間にか……いや、今考えてみたらD-ワクチン投与された上で国連に身を置いていた時から兵器として活動していたんだろうよ」
2011年の魔界で開かれた異世界会合でのテロ事件で、始めて公になった小田原修司の国連所有の人間兵器の実態について如何にも不満げに話すメタルバード。するとメタルバードに続いてジュピターキッドも呆れた感じの不満に満ちた面立ちで語り始めた。
「全くだよ。いくら聖龍隊の権限や二次元人の人権の保守、それに自分の立場を強める為に兵器としての実権を掌握してたのには僕らもかなり驚かされたよ。というか、あまり気持ちのいい話じゃないしね」
「ちょ、ちょっと。ジュニアまで……」
メタルバードや大将だけでなくジュピターキッドまでも小田原修司への不満を口にし始め、大変戸惑うミラーガール。
だが、そんな周囲の男性陣の不満に不機嫌な表情を浮かべるHEADや赤塚組に気配りしてるミラーガールに、不満を抱く男性の一人である大将が問い詰める。
「アッコ! お前は嫌じゃなかったのか!? 修司が人権の無い人間兵器に成り下がっていた事によ。人権がないって事は戸籍も存在してない、つまりはお前と籍を入れる、要するに結婚する事すらできなくしてた修司の勝手な行動を、お前は気にしてなかったのか?」
人権を失っていた為に戸籍すら消失しており普通に結婚する事すらできなかった小田原修司の実情に対して、意中の異性であったミラーガールに不満では無かったのかと問い詰める大将。すると問い詰められたミラーガールは苦笑しながらも今の真情を打ち明けた。
「た、確かに最初は、修司が
「……タクッ。アッコ、お前はホントに修司に甘いな……! バーンズお前さん達は、やっぱり修司にはムカついただろ?」
国連から人間兵器としての地位を返上し、代わりに国連からは人権を返還してもらった小田原修司。そんな小田原修司がその後、自分と婚約してくれた事で今は気にしてないと話すミラーガールの態度に、大将は甘いと嫉妬混じりの苛立ちを感じつつメタルバード達に人間兵器になった小田原修司に反感を覚えたのかと話を振る。するとメタルバードは冷静さを装いながら大将に話し返した。
「まぁ、人権を失ってアッコと結ばれなくなっちまった立場に自分を追い込んだ修司の勝手な行動には、俺も最初は腸が煮えくり返るほどイラついたさ。だが当のアッコが許してる訳だし、国連から人権を返上して貰った後はちゃんと婚約も交わした訳だし、今は何とも思っちゃいないさ」
「ッ……お前もアッコ同様、甘いんじゃねぇか」
「フッ……無論、アッコの純情を踏み躙ったままだったら、オレも修司を容赦なく痛め付けてたがな」
「ほほぅ、それは俺と同意見だったんだな。俺もアッコを置き去りにしたままだったら、立場とか完全に無視して修司を半殺しにしてやってたぜ」
最後にはメタルバードも大将も、小田原修司への不満と率直な意思を述べ合って意気投合したのか双方とも末恐ろしい顔を浮かべる始末だった。
するとメタルバードや大将の会話にHEADの面々の不満げな表情を目の当たりにして、新世代型達はある事に気付いた。
「な、何だか……小田原修司が人権の無い人間兵器に成り下がったというよりも、加賀美あつこと結婚できない立場に成り下がった事に対して怒ってるような」
「そうだな。兵器になった事よりも、アッコさんの純粋な想いを裏切りそうになった経緯について腹を立てているみたい」
新世代型達は、小田原修司が人間兵器になった事よりも、そんな小田原修司と結婚すらできない状況に追い込まれたミラーガールこと加賀美あつこに対してメタルバードや大将を始めとする面々が立腹してる様子を察した。
新世代型は記録映像を視聴した上に聖龍隊の会話から、国連所有の人間兵器として活躍した事で聖龍隊という組織の権限と二次元人の立場、そして己の実権を保ってきた小田原修司の生態について改めて理解した。
人間離れの存在に成り果てようと。人権の無い人間兵器に成り下がろうと。己の力を強め保持してきた小田原修司。人々から己の存在価値を認可されたいが為に己自身を売った小田原修司。
それと同時に自らが指揮をする聖龍隊の権限と二次元人達の人権保守をも、兵器としての実権を用いて保ち護って来た小田原修司の半生に深い憤りを感じた。
しかし彼らはまだ知らない。
自分達、今までの二次元人とは全く異なる新しい種である新世代型二次元人が、人間兵器と成り果てた小田原修司と深い関りを持っている事に。
そして聖龍隊の一部の者が、既にその関係を周知しているという事実にまだ気づいていないのであった、
[大活躍!LBXと謎の人物への懸念]
前聖龍隊総長 小田原修司の秘蔵映像を視聴した一行。
D-ワクチンを投与してから一時期、Dの力を制御できなかった頃の小田原修司。
その後、Dを制御できる様になった後の小田原修司が国連から人間兵器として訓練を受けたり特製の重火器を与えられたりと。
小田原修司の波乱万丈の半生の一部始終を初めて目撃した聖龍隊の新人達に新世代型達は、衝撃の余り頭が真っ白になっていた。
映像フィルムの視聴室で一時ばかし休息を取った一同は、少しして再び足を歩ませ地上への脱出に全力を注ぐ。
聖龍隊の現総長のメタルバード、赤塚組頭領の大将を先頭に一行は先行きも解らぬ道へと進行していく。
「……もうアイツは追ってきてないな」
「今のところはな。だが、まだ俺達を追ってくる事だろうしこの先も十分に気を付けるべきだろ」
例の小田原修司の遺伝子から生み出された巨大クローン試作品MELUS素体003-DX、通称3-DXからの追跡に気を緩めずに警戒しながら先へと進んでいく大将とメタルバード。
そんな彼らの進む廊下の脇には、不自然に裸体の死体が数多く転がっていた。
「この裸の死体は何だ?」
裸体の死体に疑念を思う大将にメタルバードが推測を述べた。
「おそらくは生体実験で弄られてた実験体がウィルスに感染して徘徊していたけど、力尽きて倒れたんだろう。怖いのは、こういう死体がいきなり起き上がって襲ってくる事だが」
己の推測を述べた上で、裸体などの死体で恐ろしいのが突然起き上がりゾンビとして襲い掛かってくる事だと語るメタルバード。だが彼の、そんな不安は的中してしまった。
皆が裸体の死体の横を通り過ぎようとした、その時。裸体の死体が突如として起き上がり、一行に両手を伸ばして歩み寄って来た。
「やっぱ起きやがった!!」「撃て! 撃てッ!」
想像してたが、やはりゾンビとして起き上がった裸体の死体を前に驚愕するメタルバード。そしてメタルバード同様に起き上がった裸体のゾンビに驚愕する大将は攻撃を指示する。
そして大将の指示を切っ掛けに、赤塚組はもちろん聖龍隊も裸体のゾンビに攻撃していく。ゾンビは傷だらけになって床に倒れた。
皆が裸体のゾンビを倒し一息入れてたのだが、安心したのも束の間。何と廊下の曲がり角や他の道脇に倒れていた他の死体も次々に起き上がっていき、皆の進行を遮った。
「他のゾンビも活動を始めやがった!」
「攻撃の手を緩めるな! それと新世代型を中心とした一般人の警護も怠るな!」
起き上がっては迫ってくるゾンビに発砲していくジェイクに続き攻撃していくメタルバードは、聖龍隊の仲間達に新世代型たち一般二次元人の警護も怠らないよう言い付けていく。
一行が起き上がっては襲い来るゾンビを各個撃破していく道中、視界に前方が瓦礫で進行不能の右へしか進めないT字の道が現れた。前方は瓦礫で完全に塞がっており、どう転んでも右へ曲がるしかない状況で進もうとした矢先、前方の瓦礫の山の前で倒れてた死体が起き上がり、ゾンビとして進行する一同に歩み寄ろうとした、その時。
歩み寄ってくるゾンビが向かって右の曲がり角を通過しようとした時、その曲がり角から強烈な砲撃が飛来してきてゾンビに命中。ゾンビは跡形もなく吹き飛ばされてしまった。
「な、なんだ!? 今のは……!」
ゾンビを粉砕した砲撃に驚くテツが叫び、先頭を進んでたメタルバードが曲がり角の陰に身を潜めつつも砲撃が飛んできた曲がり角の奥を用心しながら覗き見てみる。するとメタルバードの目にトンデモないものが飛び込んできた。
「な、なんだアレは!!」
メタルバードの目に飛び込んできたもの。それは戦車の砲身と同じぐらいのサイズの銃身ライフルを構える内部の機械が丸出しの巨大な人型ロボットだった。
メタルバードと同じく、角の物陰から身を潜めつつ人型ロボットを視認した大将は、そのロボットのサイズといい姿形といい更には構えてる銃の大きさに形から、先ほどから目撃している脅威と酷似しているのに気づいた。
「お、おい……あのロボット。何処となく例の、修司のクローンの3-DXと似てないか? しかも、あの右腕に装備してる銃もさっき見た映像に記録されてた修司専用の対戦車ライフルと瓜二つだぞ……!」
銃を構えて左右の通路を往復していくロボットの大きさや姿形が小田原修司の巨大クローンである3-DXと酷似している点や、そのロボットが装備してる銃が本物の小田原修司が国連より製造された特注ライフルと同形状の巨大ライフルに大将は気付いた。これにメタルバードが大型銃を構えてる巨大化した小田原修司と瓜二つのロボットに対し説明した。
「あのロボットは修司が国連軍に兵器として所有されていた時に開発され使用されてた兵器の一種だ! 鬼と自称してた修司をモデルに造られた事からデーモンのアンドロイド、通称デモンドロイドと呼ばれるロボット兵器。今じゃ修司が国連から離脱して殆ど使用されてないと聞いているが……」
「するってぇと何だ? 国連が所有してたロボット兵器までも、此処の研究施設は所持してたって訳か?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
メタルバードの説明を聞いた大将が今自分達がいる研究施設が国連軍が所有してた兵器をも所持していたのかと訊き返すと、メタルバードは大将に少しばかり待つよう言うと即座に己の眼球をレーダーに変化させてデモンドロイドを調べ始めた。
デモンドロイドをレーダーと化した眼球で調べながら、メタルバードは大将に引き続きデモンドロイドについて説明していった。
「デモンドロイドにもタイプが様々ある……本来の修司の姿形をベースにした人並みの大きさで銃や刀を装備したタイプ。そしてあのデモンドロイドの様にDの力で巨大化した修司をモデルにしているロボットも存在している。何よりデモンドロイドにプログラムされてる内容によっちゃ、戦況が大きく左右される。あのデモンドロイドのプログラムを調べて置かねぇと……」
大将に小田原修司を基に造り出された機械人形デモンドロイドの様々な機種を説明するメタルバードは、更にデモンドロイドに組み込まれてるプログラムを調べる為にレーダーで念入りに長調していく。
そして大型ライフル銃を構えて左右を往復するデモンドロイドのプログラムを調べ終わったメタルバードは、その結果を大将たち待機している仲間達に伝えた。
「なるほど……あのデモンドロイドは簡単なプログラムで作動している警備ロボットみたいな感じだ。センサーで自分の周囲を通過しようとする対象物には容赦なくライフルで吹き飛ばすプログラムだ」
「そうか。それじゃ、もし今あのロボットが往復している最中に通路に出てみたら……」
「ああ、容赦なくその場でライフルの餌食だ。粉々に吹き飛ばされるぞ」
デモンドロイドのプログラムを読み取り、通路の左右を往復するデモンドロイドがセンサーで稼働し不審者を排除する警備型のプログラムであると認識するメタルバードに、今通路に出たらどうなると大将が訊ねるとメタルバードは出た途端にセンサーに感知され一瞬で吹き飛ばされる事を告げる。
「ど、どうするんだ? 迂闊に前に出たらセンサーに引っ掛かって、それこそ格好の的になっちまうし……!」
警備式デモンドロイドが往復する通路に飛び出した瞬間にセンサーに感知されては即座に大型ライフルの的になってしまう現状に困惑する大将。するとメタルバードの説明を聞いてた赤塚組のミズキが、メタルバードと困惑する大将に提案した。
「ねぇ。あの警備ロボットのデモンドロイド、内部の機械がむき出しになっているし、センサーに感知される前に機械を破壊して機能停止にする事はできないの?」
「う~~む、確かに。あのデモンドロイドは安上がりで仕上げられたのか装甲が完全に省かれてて、内部の機械部分が丸見えだしな……だけどセンサーに感知される前に攻撃できるか不安だけど。やってみるか」
ミズキの提案にメタルバードはデモンドロイドの感知装置に引っ掛かる前に攻撃できるか思い悩むが、意を決して右腕をレーザー砲に変形しエネルギーを溜めてからデモンドロイドが往復する通路に飛び出した。
「そりゃッ」
通路に飛び出したメタルバードは瞬時に溜めていた電撃砲をデモンドロイドに向けて発射し、デモンドロイドに直撃し帯電する。しかしデモンドロイドは機能停止せず、センサーが発動しメタルバードの方に正面を向けて構えている特大銃を砲撃した。
「うわァ!」「バーンズ!」
戦車の砲弾ほどもある銃撃を真正面から受けて後方の壁まで吹き飛ばされるメタルバードを目の当たりにして、大将や仲間達が駆け付ける。
「バーンズ、大丈夫か!」
メタルバードに駆け寄った大将たちは急いでメタルバードを引き摺って、デモンドロイドのセンサーが感知しない角の物陰へと避難する。
仲間達によって引き摺られながらも物陰へと誘導されたメタルバードは砲撃の衝動で目を回しながら語った。
「い、イテテ……大丈夫だが、やはり強力な電撃砲一発でも完全に機能停止させる事は不可能だ。連射したくても、その前にセンサーに引っ掛かって砲撃の的になっちまうし……」
「な、なんか手立ては無ぇのかよ……」
大将が目を回すメタルバードにデモンドロイドへの対抗手段を問い掛けると、メタルバードは参った様な口振りで答えた。
「そ、それがだな……最早デモンドロイドの丸裸の機械部分を破壊するしか手段が無いんだが、問題は巨大な骨格に四方から感知できるセンサーが備えられている事だ。センサーを掻い潜って直接内部の機械を破壊するのが得策なんだが、肝心のセンサーを掻い潜るには真上から行くしか手立ては無ぇし……」
「お、おい! 真上からっても、あのデモンドロイドは天井擦れ擦れで移動してんだぞ。真上からなんて無理じゃないか」
「そうなんだよな。後はセンサーが発動しない50cm以下の奴が近づいてデモンドロイドの機械を弄ってどうにか機能停止させるしか……」
「おいおい、そんな50cm以下の奴って……子供でもそんな小さい奴はいないぞ。しかも機械弄りのできる奴なんて」
と。メタルバードと大将がデモンドロイドの手段を話していると、その会話を聞いていた新世代型二次元人の細野サクヤが声を掛けてきた。
「あ、あの……50cm以下の対象物なら、センサーに感知されないんですよね?」
「あ、ああ……そうだが」
未だ砲撃の衝撃で意識が朦朧とするメタルバードがサクヤの質問に答えると、サクヤに続いて瀬名アラタや出雲ハルキらがメタルバード達に駆け寄り元気のいい声で話し掛けてきた。
「メタルバードさん! オレ達に協力させてください」
「俺達のLBXなら、あのデモンドロイドのセンサーを掻い潜れるはずです」
力強い声で協力を名乗り出るアラタとハルキ。サクヤに続いて自ら率先して協力を名乗り出る男子に続いて、なんと女子達までも名乗り出てきた。
「それなら私達も!」
「ええ! 相手がロボットで、しかもセンサーを掻い潜れるのが小さい対象物っていうなら私達の機体が役に立つ筈!」
「総長さん、アタシ達も加勢させてくれよッ。もう護られてばっかの堪え続ける現状は飽き飽きなんだ! ここらで一発ぐらい相手側を叩きのめさないと気が済まないぜ」
聖龍隊総長メタルバードにデモンドロイドへの加勢を嘆願する神威大門統合学園の第4小隊であったツインお団子ヘアの鹿島ユノに勝気なキャサリン・ルース、そして第6小隊で男勝りのバネッサ・ガラ。
神威大門統合学園の優秀なLBXプレイヤーであった子供達の加勢にメタルバードが驚いていると、LBXを知らない大将が子供らに訊ねた。
「お、おい……そのLBXってなんなんだ? その手に持っているプラモデルの事か?」
大将が不思議そうな面差しで訊ねると、星原ヒカルが大将の質問に答えた。
「LBXは、このCCMという携帯端末を使って遠隔操作できる次世代のホビー用小型ロボットなんです。元来は強化ダンボールで作られた戦闘フィールドなどで闘わせる事が基本なんですが、装備してる武器やカスタムで簡単な精密機械の修復や破壊も行えるのでデモンドロイドに対しても活用できる筈です」
そうLBXと携帯端末CCMを見せながら丁寧に説明するヒカルの話を聞いて、大将は豪く感心した。
「ほほぉ、今の御時世そんな玩具が流通しているとは……いやはや驚いたぜ」
LBXについてヒカルの説明を聞いて感心する大将に、聖龍隊参謀総長のジュピターキッドがLBXについての説明を付け足して話し始めた。
「Little Battler eXperience、つまりは小さな戦士の体験を略したのがLBXだ。コアスケルトンと呼ばれる骨格にアーマーフレームと呼ばれる外装を施し、内部にはモーターやバッテリーそれにCPUが内蔵されたコアボックスで構成された高性能のホビーだ。コアボックスの中身とアーマーフレームをカスタマイズすれば自分オリジナルのLBXも作れる。まぁ、玩具にしては余りにも高性能すぎて、本来のホビー用としての用途を外れて警備用やスパイ・工作活動用・暗殺用まで作られているけど。その高性能と火力から一時期、販売中止にまで陥った経緯もある」
「な、何だがオモチャにしては、やたらと物騒だな……」
「それがLBXの長所にして最大の難所さ。今では終わった事だけど、そのLBXを用いて権力者たちがプレイヤーに疑似戦争を行わせ、自国の領土拡大などを行わせてた事もあるからね」
「ぎ、疑似戦争って……! 其処まで行くとガンダム並みに危ねぇ代物だな、LBXは!」
ジュピターキッドのLBXについての説明と今までの経緯を聞いて、大将はLBXの従来の玩具の域を超えた高性能な点と疑似戦争まで行われてた事実に驚愕した。このジュピターキッドの説明を聞いて、瀬名アラタ達その疑似戦争に参加させられてたLBXプレイヤー、そして彼ら若い子供達に疑似戦争を行わせた美都玲奈や海道ジンに猿田学や大門ジョセフィーヌや日暮真尋などの教員は複雑な心境に追い立てられる。そんな神威大門統合学園関係の人々の真意を共有感知で知ってしまい、同じく複雑な想いを感じる新世代型たち。
兎にも角にも瀬名アラタ達は自機のLBXを稼働させる準備を行い、そして稼働させると数機のLBXが一直線に8m級のデモンドロイドへと向かっていった。
小型ロボットのLBXは、そのサイズからデモンドロイドのセンサーに反応せず、そのままアラタ達のLBXはデモンドロイドに辿り着く事が果たせた。
「やったな! あれで中のマシーンを破壊できれば此処は突破できる!」
「アラタの坊主たち。中の機械を弄って、あの巨大ロボットを動かせなくできるか?」
角の物陰からLBXの進行状況を窺ってたメタルバードが、LBXがデモンドロイドに無傷で辿り着いた事に喜ぶ横で、大将がLBXプレイヤーの瀬名アラタ達にデモンドロイドの機能停止が可能なのか問い掛ける。
「はい、今サクヤ達がデモンドロイドの内部構造を調べています。もう少しで何処の回線を切断すれば機能停止できるか判断できる筈です」
大将に問い掛けられた瀬名アラタはLBXを遠隔操作するCCMを見詰めながら話し返し、その間にもLBXに搭載されているカメラを通してデモンドロイドの内部構造をモニタリングしスキャンして電子経路などを把握していく細野サクヤたち機械に人一倍詳しいLBXのメカニック達。
一致団結してデモンドロイドの内部構造と電子回路を調べていく細野サクヤを始めとしたLBXのメカニック達。そして遂にデモンドロイドの弱点といえる電子回路の個所を幾つか発見した。
「! アラタ、みんな! デモンドロイドの主流電源を司る回路とケーブルを探知できた! 今からCCMにその個所を送るから、その部分をソード系の武器などで切断して!」
「分かった、サクヤ!」
仲間の細野サクヤ達が探知し発見してくれたデモンドロイドの弱点をCCMで確認したアラタ達は、各機でCCMに表示された個所を装備しているソード系などの武器で切断したりして破壊した。
瀬名アラタを始めとするLBXプレイヤー達が破壊工作を終えた瞬間、デモンドロイドに搭載されたセンサーの一つ、目の部分の赤い光が消灯し、次の瞬間にデモンドロイド本体が激しく震え完全に機能を停止した。
「よし! デモンドロイドは完全に機能停止に陥ったわ!」
メカニックの一人である波野リンコが、自分達が見出した個所をアラタ達LBXプレイヤーが破壊した事でデモンドロイドの機能を停止させられた結果に大いに喜ぶ。
「やったぜ!」「ああ」
自分達の手で強固な警備と強力な武装のデモンドロイドを停止でき、舞い上がる様に喜ぶ無敵ギンジロウは思わず横にいた乾カゲトラにハイタッチする。だが乾カゲトラの方も破壊に成功できた喜びは一緒で、ギンジロウのハイタッチを素直に右手で受け止めた。
「よっしゃッ! これで先に進めるぜバーンズ!」
「そうだな。レーダーで見ても完全にデモンドロイドは機能停止してる! 先に進むぞ」
名LBXプレイヤーの腕前とデモンドロイドの弱点個所を発見したメカニック達の奮闘で進軍が叶って歓喜する大将に呼ばれ、メタルバードも自身のレーダーと化してる眼球でデモンドロイドの完全停止を確認した上で進行を再開する。
最初は強力な砲撃を喰らわすデモンドロイドに恐れながらも完全に機能停止した事が解った一同は、まず停止したデモンドロイドに歩み寄り巨体で重量が重い本体を横移動の際に用いていた左右の壁の深い溝に押し込もうと図る。
「これは流石に、少し重いな……」「ああ、そうだな……ッ」
超重量の機械の塊であるデモンドロイドを移動の際に用いたレールに乗せたまま横へずらそうと力を入れて押していくトリコとゼブラ。その横で大将が、何気なく外してみたデモンドロイドが装備していた特大ライフル銃を持とうと一人踏ん張っていた。
「ッンム! グッ……こ、これはかなり重い……ッ!」
「大将止めなさい。血管が切れるわよ」
かなりの重量がある大型ライフル銃を持ち上げ続けようとする大将の真っ赤になる顔を見て、同じ赤塚組のミズキが声を掛ける。
やがて持ち上げ続けるのは無理だと漸く察した大将が、持ち上げていた特大銃をそのまま床に落としてしまう。
床に落ちた大型銃は強烈な振動と音を発生させて落下した。その衝撃は余りにも大きく、落とした張本人の大将も周囲の皆々も衝撃で床から足が浮かび上がる程だった。
「き、急に落とさないでよ……驚いたじゃないか」
「い、いや……悪ィ悪ィ。まさか此処までの衝撃とは……」
突然の振動と衝撃に心から驚いてしまうジュピターキッドに言われる大将も、余りの衝撃に鼓動が激しくなっていた。
そんな中で大将はある疑問を思い浮かべる。
「それにしても……なんで此処まで重量級の強力なロボットが施設の警備なんかしてるんだ?」
この疑問にメタルバードが推測を答える。
「おそらく逃げ出した生体兵器を排除する目的で此処の通路に設置されたんだろう。修司をモデルに造られたデモンドロイドなら十分に火力がある」
メタルバードの推測に赤塚組のテツも納得する。
「なるほど。確かに強力なB.O.Wなら、この特大ライフル銃一発で簡単に仕留められるだろうな」
実際の大型ライフル銃は、先ほど皆が視聴した映像に納められていた小田原修司専用の対戦車ライフルよりも格段に大きく、砲弾も最早ライフルの弾とは呼べないほど巨大な砲弾であった。
一方でHEADの一人キング・エンディミオンはデモンドロイドの突破を果たしてくれた瀬名アラタ達LBXのプレイヤーと的確な指示を果たしたメカニック達を称賛してた。
「それにしても君たち、良くやってくれた! お陰で誰一人の負傷者も出さずに突破できた。ホントに大したものだ」
王族であるエンディミオンに称賛され、アラタ達は本望の如く言葉を返した。
「い、いえ……俺達こそ、こんな場面でお役に立てて何よりです」
アラタ達プレイヤーも、デモンドロイドの弱点を見出したメカニック達もエンディミオンの言葉に心から満足した。
丁度その時、機能停止したデモンドロイドを横に押し退ける作業をしてたトリコとゼブラが、やっとの事でデモンドロイドを通路の両脇に設けられた溝幅へと押し込められた。
「ふぅ……やっと退けられたぜ」
「この修司のロボット、やけに重たい金属や機械で造られてやがるぜ」
小田原修司を模った巨大ロボットの重量に苦戦したトリコとゼブラ。そんな現況を確認したメタルバードが皆に声を掛ける。
「それじゃみんな。デモンドロイドはアラタ達が片付けてくれた事だし、とっとと先に行こうぜ」
そう言って横へとどうにか退け押したデモンドロイドの横を通り、先へと進行しようとするメタルバード。
だが、次の瞬間。
「! み、みんな隠れろ!」
突如としてメタルバードが皆を後退させ、同時に自身も機能停止したデモンドロイドの陰に伏せる。
「ど、どうしたんだバーンズ?」
突然自分達を後退させたり身を伏せさせたりするメタルバードの行為に驚く大将。するとメタルバードは今や完全に動かない機械の塊と化したデモンドロイドの残骸の後ろで進路方向先を指差した。
「あ、アレ。目を凝らしてよぉく見てみろ」
「っ? ……ッ、バーンズあれは……!」
メタルバードに指されて唯一の進路可能な通路の向こうを凝視してみると、何と機能停止させたデモンドロイドの向こう側にも数体の稼働しているデモンドロイドが左右移動を繰り返していた。
「う、ウソだろッ? まだあの厄介なデモンドロイドが数機も稼働していやがったのか!」
大将は我が目を疑ってしまった。強力な砲撃を繰り出せる警備ロボであるデモンドロイドがまだ設置されていたのだから。
「まさか、まだ…………ッ! 何だと? 三機も稼働している!」
大将同様に稼働しているデモンドロイドの存在に驚愕するテツが凝視してみると、通路の奥まで視認できる稼働中のデモンドロイドが三機も現存していたのだ。
現存している稼働中のデモンドロイド三機を前に、メタルバードが苦渋の表情を浮かべながらも再び瀬名アラタ達LBXプレイヤー達に危険なデモンドロイド排除を嘆願しようとした矢先。
「まだ稼働中のデモンドロイドが居やがるとはな…………あ。なぁ、今思ったんだがバーンズ。お前が液状化して、あのデモンドロイドに接近して直接壊す事は可能じゃねぇ?」
「あ、言われてみれば……そんじゃ今度もオレが行ってくるか」
大将に指摘され、メタルバードは思い改め液状化での接近作戦を実行に移してみた。
だが液状化したメタルバードが稼働中のデモンドロイドに接近しようと液状化の状態で近付いていく最中、二体目のデモンドロイドの腹部から機械音が作動し、次の瞬間腹部から無数の赤い閃光が液状化で床を這って接近しするメタルバードに降り注いだ。
「イタッ、イダダ……ッ! 地味に痛いッ」
液状化とは痛覚は普通に感じるメタルバードは降り注ぐ赤い閃光の如き弾幕に堪らず後退していった。
すると後方で静かに待機している皆の許に液体のメタルバードが退却すると、自然とデモンドロイドの腹部から連射される弾幕も収まった。
「ふぅ、イタタ……まさか胸部にガトリングが内蔵されていたとは……」
一般の機関銃よりも何倍も威力のあるガトリングの弾幕に堪え切れず着弾した身体の箇所を摩るメタルバード。そんなメタルバードを見て細野サクヤが申し訳なさそうに言葉を掛けてきた。
「す、すみません、メタルバードさん。さっきLBXからの映像で胸部のガトリングを確認してた事、伝えていませんでした」
「い、いやいや。謝る事じゃないさ……オレだったら良かったものの、他の連中だったら穴だらけにはなっていたがな。ハハ……」
サクヤからの謝罪にメタルバード痛みで苦笑しながら返した。
だが、そんなガトリングの弾幕で痛がるメタルバードに大将が台詞を吐き捨てた。
「おいバーンズ。テメェは鋼鉄の体だから当たっても平気だろうが。ちょっとは我慢して近付けなかったのか?」
「無茶言うな! ガトリングって言ったら鋼鉄の鉄板も穴だらけにしちまうほど超火力なんだぞ! いくら死なないからってオレの体は痛みを感じるんだよッ!」
「タクっ、使えねぇ野郎だぜ」
「テメェな……!!」
まさに大将とメタルバードが一触即発に成りかけた瞬間、慌てて瀬名アラタらLBXプレイヤー達が間に入って二人を宥めた。
「ま、まぁまぁメタルバードさん! そう怒らないで」
「ぼ、ボク達がまたLBXを使って警備システムを突破して見せますので喧嘩はしないでくださいっ」
アラタと星原ヒカルを始めとする男女のLBXプレイヤー達の言葉に、メタルバードと大将は気持ちが静まっていった。
そして瀬名アラタ達はメタルバードと大将の気持ちが平穏化したのを確認した後、再び進行先に聳えるデモンドロイド三機の機能停止に取り掛からった。
その後、最初のデモンドロイドと同様に、瀬名アラタを筆頭としたLBXプレイヤーとメカニック達の奮闘により研究施設内の警備を担ってたデモンドロイド三機の機能を全て突破してみせ、一同はどうにかデモンドロイド四機が警備していた通路を通り抜ける事が出来た。
「ふぅ、やっと通れたな」
「ええ、しかも全員が無傷でとは。凄い性能だ、LBXとやらは」
ようやく通り抜けた通路の先で、背後には合計四機のデモンドロイドの残骸を背にしながらLBXの凄まじい性能に驚きを隠せないでいるアツシや山崎貴史ら赤塚組の面々。
「ありがとう、みんな。君たちのお陰で難なく突破できたわ、ホント大したものね」
「い、いえ……」「そんな、褒められるほどでは……」
LBXプレイヤー達の協力で無事にデモンドロイドの警備を掻い潜って進行できた事に笑顔で称賛していくミラーガールの言葉を受けて、非常に照れながらも赤面で言葉を返す東郷リクヤや剣菱ワタルら男性LBXプレイヤー達。
ミラーガールの称賛を浴びて非常に赤面で照れる男子を見て、同じLBXプレイヤーやメカニックの女子達は男子らに冷ややかな目を向けるのだった。
だが、その時。LBXの素晴らしい活躍を目の当たりにした大将が目を輝かせて瀬名アラタ達LBXを扱う子供達に言い寄って来た。
「す、スゲェなLBXって。最初は性能の高さで暗殺とかにも使われるって聞いて物騒なモンだって思ったけどホントにスゲェ……! なぁ! そのLBXって俺にでも扱えるか!?」
「い、いや……はい、多分扱えると思います」
眩しいほど目を輝かせて言い寄ってくる大将の迫力に押されながらも答える瀬名アラタ。するとアラタの言葉を受けた大将は、同じ赤塚組の女性であるミズキに訴え始めた。
「ミズキ、ミズキ! 俺もLBX欲しい! なぁなぁ、此処から出られたら買おうぜ買おうぜ!」
無邪気な子供同然にねだり始める26の男性、赤塚大作。そんな大将にねだられる年上の女性ミズキは呆れつつも反論するのだった。
「……大将。いい年した大人が玩具を欲しがるのもどうかと「玩具じゃねぇ! LBXやでッ!」
呆然と言い返すミズキの発言に大将はどうでもいい事を反論する始末。だがミズキも負けずと大将に言い返した。
「……あのね! 只でさえウチの組は赤字続きだっていうのに、余計なモン買うお金が何処にあるって言うのっ! いい加減にしてっ」
只でさえ収入が低く出費が大きい赤塚組の台所事情を理由に大将を叱り付けるミズキの一声に、当の大将は条件反射で身を縮ませてしまう。
「ッ……だ、だってよ。此処まで高性能で小型なら、カラクリ兵器の歯車なんかの機材の隙間に入り込んで細かな作業をLBXが代わってやってくれるから便利じゃないかよ。俺やミズキの手作業や工学技術も応用すれば幅が広くなると思うんだが……」
「それなら先ず! 出費を最低限に抑え込む努力してから言いなさいよっ! ホントにもう……新しいモノを見るとスグに欲しがる悪い癖は未だに治らないわね、ホントっ」
身を縮ませながら己の意図を語る大将であったが、ミズキの尤もな台詞に何の反論も返せなかった。
そんなミズキに言い包められ、まるで子犬の様に小さくなる大将を目の当たりにしたLBXプレイヤーの面々が唖然としていると、赤塚組の山崎貴史が密かに話し掛けてきた。
「ウチの大将は、昔から新しモノには目がないんだよ。君らがLBXを操作しているのを見て、大将はすっかり気に入っちゃったみたいだ。まぁ、君らは気にする事ないよ。はは」
『………………………………』
如何に未知に近い代物でも、その代物の素晴らしさを認めれば容易く受け入れる赤塚大作の気性。そんな自分達の頭について笑顔で語る山崎貴史の言葉に、瀬名アラタを始めとするLBXプレイヤーは元より彼等から共有感知で伝えられ、新世代型一同は呆気に取られてしまう。
大将が瀬名アラタ達が披露したLBXの戦いぶりに心を奪われている一方で、残骸と化したデモンドロイドを思慮深く見つめるテツの存在が。
そのテツの様子に漸く気付いた大将が、心身に目前の残骸を見つめ続けるテツに声を掛ける。
「? どうしたテツ? さっきからロボットの残骸ばっか見てよ」
険しい面立ちで瀬名アラタらLBXプレイヤー達が破壊して見せたデモンドロイドの残骸を見詰める仲間のテツに話し掛ける大将。その大将の問い掛けにテツは険しい面持ちを向けて答え返した。
「大将、それが………………お前は、このロボットが構えている銃を見て、どう思う?」
「銃……?」
テツに指摘された大将が言われた通りにデモンドロイドが右肩に乗せる形で構えて所持している大型のライフル銃に視線を向けてみた。如何にも重量感が溢れ、放たれるラグビーの球どほぼ同じ大きさの砲弾を発射できる大型ライフル銃は常人ならば一発の砲弾で意図も容易く粉砕してみせる威力だと、容易に想像できた。
「こ、この銃がどうかしたのか……?」
一発の狙撃で人間の体を引き裂き粉砕してしまう巨大銃を改めて見て再度テツに問い掛ける大将に、テツは思想に満ちた険しい顔色で大将と語り合った。
「……この銃、よくよく見てみたら明らかに修司が愛用していた銃と形が近いと思わないか」
「修司が使ってたライフル銃と……そ、そりゃ。このデモンドロイドが修司をモデルにした超火力ロボットなんだし、銃も本人が戦場で使用していたのと似たようなの持たせてたんじゃねぇの?」
「そうだ。サイズは格段にロボットの方がデカいが、その形状は非常に酷似している。よく見てみろ大将、この銃の形と言い砲身の長さと言い……この施設で、この銃と同形のライフル銃で俺たち助けられてるじゃないか」
「助けられた……?」
「そう、ほら。お前とバーンズがリッカーの群れに襲われて逃げ惑っていた時だ」
「…………! あの時か!」
テツに指摘を語られて、漸く大将は思い出した。
地下の研究施設内を脱出に向けて皆で奔走している最中、出くわしてしまったB.O.Wのリッカーの大群。その群れに追われる道中で降ろされる渡り廊下の様な橋に執拗に跳び付いて追撃してくるリッカーの群れに放たれた、遠方よりの強力な対戦車ライフルの砲弾による援護と思われる砲撃。しかもメタルバードが砲撃を行っていた者が狙撃した地点まで見に行くと、其処には奇形の動物が展示されている部屋へ通じる道を開けさせる三枚のカードキーの一枚が自然と置かれていた。この敵か味方かも不明な謎多き人物の意図的な狙撃に使用された対戦車ライフル銃と、デモンドロイドが装備していた特大ライフル銃の形状が非常に酷似しているのに大将も漸く気付いた。
「そういや……あの狙撃手。サイズは違えど、このロボットと全く同じ形のライフル銃、それも対戦車ライフルの様な特大の砲身のライフルを撃って俺達を助けてくれたような……」
「そうだ、思い出したか。あの時、遠距離から威力満点の対戦車ライフルを放ってリッカーの群れを一掃してくれてなかったら大惨事になっていたかもしれなかった、あの場面だ。あの時、俺達の窮地を救ってくれた狙撃手はスグに消えちまったが、狙撃に使用された対戦車ライフルは今思うとデモンドロイド……いや修司が戦場で使用してた特製のライフル銃と似てなかったか」
「言われてみれば……確かに!」
なんとテツは大将ら自分達の窮地を救ってくれた謎の人物が使用していた対戦車ライフルが、デモンドロイドと同形でかつ小田原修司が愛用していた特製のライフル銃と酷似していると語る。それを聞いた大将は、改めて思い起こしてみると確かに謎の人物が使用していた対戦車ライフルは先ほど映像の中で小田原修司が使用していた特製のライフル銃と同じ代物の様な気がしてきた。
「するってェと何だ? あの狙撃手が使っていたのは、修司と同じまたはデモンドロイドが使ってる特大のライフル銃と同じモンだって言いたいのか?」
「いま考えてみると、あれほどの巨大なライフル銃をあそこまで扱える人間は草々居ない。先ほどの映像で見た通りの威力と性能を兼ね備えた銃なら尚の事だ」
「じ、じゃあ……あの狙撃手は、まさか……!」
テツの意味深な発言を受けて真剣に思い耽る大将の脳裏に浮かんだのは、かつて同じ時期を共に過ごした旧友の顔であった。
すると真面目な面立ちで大将と密かに語り合うテツの話し声が耳に入り、メタルバードたち聖龍隊の面々も二人の会話に気付く。
「おい、テツ、大将。さっきから何をクソ真面目な面で語り合っているんだ? 大将なんか真面目な面なんて珍し過ぎるっていうのによ」
「そ、それがだなバーンズ。俺も今さっきテツから言われて気付いたんだが…………」
メタルバードに訊ねられた大将はテツに言われて気が付いた、謎の狙撃者が使用していた対戦車ライフルと小田原修司やデモンドロイドが使用してた大型ライフル銃の奇妙な酷似点をメタルバード達に話した。
このテツが最初に気付いた、偶然にしては出来過ぎた点を聞いてメタルバードは考え込んだ。
「確かにそうだ。あの時の対戦車ライフル、通常のライフルよりも強力だったしな。形も修司が国連に与えられた特製ライフルと似ていたが……まさか」
思考を重ねた末に一つの可能性に辿り着いたメタルバードは、自然と同じく考えを一緒にした同胞の聖龍HEADのジュピターキッドらと顔を合わせた。
そしてHEADの皆と同じく、その考えに辿り着いたミラーガールが発作的にその考えを口走った。
「まさか……修司!?」
そう大将や聖龍HEADが考えた末に辿り着いた一つの答。それは先刻、前触れもなく現れては遠方より特大の対戦車ライフルでメタルバードと大将らを救った狙撃手が、あの小田原修司本人ではないかと。大将やHEAD、そして修司の婚約者であるミラーガールは微かな喜びで咄嗟に口走ってしまった。
「し、修司って! まさか前アニメタウン市長の?」
「修司さんも、この施設にいるって事?」
ミラーガールの一言で騒然となる現場で慌ただしく口々に言うギュービッドやチョコ。
だが、この定説にメタルバードが難儀を示す。
「だけど……あの狙撃手が修司なら、なんで黙って何処かに消えちまったんだ? それが解らねぇ」
「ま、まぁ確かに。そう言われると何も返せねぇ……」
メタルバードは理解し難かった。人知れず消えてしまった謎の人物が小田原修司なら、何ゆえ親しい間柄である大将やメタルバード達に何も言い残さず忽然と姿を消したのか。メタルバードの言葉を受けて大将も何も返答する事はできなかった。
メタルバードに大将、そして一行は先ほど強力な狙撃でリッカーの群れを一掃した謎の人物について思考に耽るのだった。
二人の頭が考え込んでいるのを察したテツが、メタルバードと大将に声を掛けて今の自分達が行うべき行動を口にした。
「……考えるのは後にしよう。今は兎に角、先を急いで一刻も早くこの悍ましい研究施設から出るべきだ」
「テツの言う通りだな。大将、一先ず先ほどの狙撃者についてはまた後で考えよう。今はアラタ達が拓いてくれた道を突き進んで上へと目指そうじゃないか」
「……そうだな。考えるのは、また後でも間に合うしな。此処で怖いのはゾンビやリッカーだけじゃねぇ。さっき撒いた修司のクローン、アイツもまたいつ追ってくるか解らねぇし急いでこっから出なきゃな」
テツの発言とメタルバードの言葉を受けて、大将も現場を後にして先への進行を決意する。
だが誰の心意にも未だに消えてはいなかった。
謎の人物についての只ならぬ懸念の溝が……。
[猛攻!適合した悪魔のクローン]
瀬名アラタたち優秀なLBXプレイヤーに確かな分析能力で的確な指示を飛ばしたメカニック達の思わぬ加勢により、脅威であった巨大化した小田原修司をモデルに製造された戦闘ロボット:デモンドロイドを突破する事に成功した一行。
その後、一行は謎の人物についての懸念に思想を膨らませながらも先へと足を進ませていく。
その道中、メタルバードら聖龍隊はとある研究室に目を留まらせ、念入りにその研究室を見ていった。その研究室は実に異様で、室内の人が丸ごと納められる程の大きさの試験管が全て大破していたのである。
「………………」「……う~~ん。これは……」
研究室内で試験管の周囲を中心に調べていくジュピターキッドとメタルバードら聖龍隊。そんな室内を調べていく聖龍隊に赤塚組の大将が声を掛ける。
「お、おい。バーンズ、お前たち何を調べてるんだ?」
「いやな。ここ等の試験管も、全て内部から破壊された様な痕跡があるんだ。要するに内側から大破して中身の水がガラスの破片と共に辺りに散乱してる」
大将に問い掛けられ、メタルバードは大破した試験管の周囲に散乱するガラスの破片や水浸しの床を目で差して答えた。このメタルバードの答を聞いた大将は驚愕の形相で問い返した。
「つ、つまり。この試験管からも何か、トンデモないB.O.Wが自力で飛び出した後って事か?」
試験管の中に納められてた生体兵器が例の3-DX同様に自力で内側からガラスを破壊して外に飛び出した可能性があると示唆された大将は衝撃を受ける。
だが、そんな衝撃を受ける大将に傍らにいたジェイクが当たり前の様な真顔で話し掛けてきた。
「もう何が出てきても可笑しくないだろ、オッサン。ゾンビにリッカー、人間兵器小田原修司の遺伝子から造り出された巨大クローン……何が現れても可笑しくないぜ、此処の施設はよ」
既に中国の
ジェイクが過去の経験から数多のB.O.Wに対して驚きもしない事を述べている最中、メタルバードは精密機械化した眼球で床に散乱する水浸しの中のガラス破片などを詳細に調べてた。
すると一つの僅かなガラス破片に、微かな反応を感知するメタルバード。彼は早速、反応が見られたガラス破片に視線を集中させ更に詳細な情報を読み取っていく。
メタルバードがスキャンしたガラス破片に見られた反応、それは生物の細胞であった。メタルバードはガラス破片に付着している細胞が、おそらくは試験管に納められてた生体兵器の物証であると確信し、その付着してた細胞をスキャンして詳細な遺伝子情報を読み取った。
ガラス破片に付着してた細胞の遺伝子、それを読み取ったメタルバードは驚愕した。何故なら彼にとって、その遺伝子は実に見慣れたDNAと酷似していたからである。
「こ、これは……!」
激しく動揺の色に目を変えるメタルバードは、更に細胞の遺伝子を精密に調べる。すると細胞からは更なる驚愕の事実が判明した。
「う、ウソだろ? これは……!!」
二重の衝撃を精神に受けて驚愕していくメタルバード。
そんな一人黙々と現場の調査を行い続けるメタルバードに、彼の様子が変わるのに気付いた大将が声を掛ける。
「どうしたんだバーンズ。何か解ったのか?」
大将に訊ねられたメタルバードは実に険しい面持ちで答え返した。
「……試験管のガラス破片からDNAが検出された。おそらくは試験管内にいた生物のものだろうが……」
「…………?」
メタルバードの険しい面持ちと重い口調に不思議そうな顔を浮かべる大将。
そしてメタルバードは重い口を開き検出された遺伝子について大将に語り明かした。
「検出されたDNA……少しばかし変異はしているものの、明らかに修司のDNAと一致している」
「な、なに!?」
「それだけじゃない。多少ながらも細胞がウィルスの影響で変異している節も見られるんだ」
「ウィルスまで……なんてこった!」
メタルバードから大破した試験管のガラス破片から小田原修司の遺伝子に近い細胞が確認できたのと、その細胞がウィルスの影響で多少ながらも変異している事実を聞かされ、大将は驚愕した。
内側より大破したガラス管の破片から検出されたウィルスで変異した小田原修司の遺伝子の事実を、メタルバードから知らされた大将から更に琴浦春香や斉木楠雄のテレパス、そして二人より共有感知で検出された変死した小田原修司の遺伝子による事実が脳内に伝わっていく新世代型達。全員が小田原修司の遺伝子を用いたウィルス生体兵器を密かに察知し恐れていた、その時である。
遠くよりメタルバードたち聖龍HEADが調査していた研究室の入り口前で固まっていた新世代型一同に何かが急速に向かってきていた。
「っ!」
その迫りくる存在に入り口前に固まっていた新世代型達が共有感知を通して全員が気付いては、猛進してきた存在の方へ一斉に顔を向けた瞬間。その存在は奇声を上げて新世代型達に飛び掛かった。
「ウアアアアァァァ……ッ!」
奇声を上げる存在は、偶然にも新世代型の井ノ原真人に飛び掛かって来た。
「う、うわっ!」
上半身に掴みかかり飛び掛かって来た存在に井ノ原真人は思わず転倒してしまう。
すると飛び掛かって来た存在と共に床に転倒した真人を助けるべく、鬼龍院皐月が咄嗟に真人に飛び付いた存在を下から上へ向けて縛斬で振り回し薙ぎ払った。
縛斬で薙ぎ払われた存在は真人から離れ、新世代型達と距離を置いた。それと同時に皆は真人に飛び掛かった存在に目を向けて、その姿を確認しようとした。
だが、皆の目に飛び込んだのは驚くべき姿であった。
なんと全身が不気味なほど色白の体色をしてる、所々が腐敗した全裸の小田原修司の姿そのものであった。全身蒼白の小田原修司は全裸のままで目の前に立ち尽くし、生気のない白い眼で新世代型達を見据えてた。
「あ、あれは……!?」
異様なほどに色白で全裸の、生気のない瞳の小田原修司の存在を目の前にした真鍋義久を始めとする新世代型達は一同に騒然となった。
そして全裸の小田原修司が、再び眼前の新世代型達に頼りない足取りで歩み寄り近付くと、右腕を大きく横に振り翳して腕を用いて殴りかかろうとした瞬間。新世代型達と全裸の小田原修司の間にニュー・スターズ総部隊長のフロートが入っては、殴り掛かろうとする寸前の小田原修司の腕を丸太の様に太い手で押し退けては、瞬時に己の腕を振り付けて反撃していく。
「アウッ」
フロートの剛腕から放たれた反撃を受けて吹き飛ばされる色白の小田原修司。その小田原修司が立ち上がろうとするのが目に入った瞬間、デス・ザ・キッドが二丁拳銃で立ち上がろうとする小田原修司の頭部を中心に乱射した。
「ウア゛ア゛ッ、ア゛ア゛……」
頭部を中心に銃弾を乱射された全裸で色白の小田原修司は、そのまま悶絶しながら体が溶け出し液体となって消滅した。
「い、今の修司は……!」
目の前で新世代型達に襲い掛かり、そして聖龍隊によって撃ち抜かれると体が溶けて液体になって消滅した、異様に色白の肌で全裸の小田原修司を目撃した大将たち赤塚組に襲われた新世代型達は鼓動が激しくなる一方であった。
そして銃撃で撃ち抜かれ肉体が溶け出した小田原修司らしき存在にメタルバードが有無も言わずに歩み寄ると、溶けて液体と化した肉体の一部を人差し指に付着させる。そのままメタルバードは精密機械と化してる身体で溶けた肉体の遺伝子情報を詳細に分析し、飛びかかって来た小田原修司について調べてみる。分析の結果、衝撃の事実が判明した。
「……マジかよ……」
「どうしたんだ? 鳥のにいちゃん」
分析結果を知って驚愕するメタルバードに、その表情と言動を目にして問い掛けるジェイク。問い掛けられてメタルバードは険しい面持ちで分析結果を伝えた。
「そ、それが……ジェイク、どうやら今の修司の姿の奴。C-ウィルスの感染体だったみたいだ」
「な、何だと!?」
メタルバードの発言を聞いて驚愕するジェイク。そしてその会話を聞いて大将ら赤塚組もメタルバードに問い詰めた。
「お、おい! C-ウィルスって確か、以前の7月に
この大将の言葉に新世代型達も衝撃が走る。
大将に問い詰められ、メタルバードは事の真相を語った。
「ああ、間違いねえ。今の修司は、おそらく此処の試験管で保存されてたクローン個体が自力で抜け出し、そして施設内を徘徊している最中に空気感染でC-ウィルスにかかったんだろう」
「確かバーンズ。そのC-ウィルスって……」
メタルバードの話を聞きつつ問い掛けるミズキの言葉に、メタルバード本人は重く険しい表情で答えた。
「ああ、厄介な事にC-ウィルスは今までのウィルスの様に体組織の破壊で筋力が衰え、運動能力が著しく減少するという欠点があった。しかし従来のウィルス感染のゾンビと違って、C-ウィルスは寧ろ肉体能力の強化作用が見られる様になり、対象者に向かって走る事も出来れば飛び掛かったりする事も可能。更には金網などの障害物も難なく突破したり、はたまた武器を使用したりと、これまでにない動きを見せている……非常に厄介なゾンビだ」
「つ、つまりそのC-ウィルスに感染したゾンビだけは、今までのゾンビとは比べ物にならないほど強いって事!?」
C-ウィルス感染のゾンビについてのメタルバードの話を聞いたギュービッドが一驚しつつ質問すると、メタルバードは無言で頷いて見せた。
従来のゾンビと違い、体組織の破壊で筋力が衰え運動能力が減少するのではなく、C-ウィルスは筋力の強化作用が見られ様々な動作を可能にさせる代物なのである。
と。此処でメタルバードの話を大将やジェイクからテレパスそして共有感知を通して全員に知れ渡った新世代型の一人、猿田学が先ほどの戦闘で脚を負傷したセーラーウラヌスの肩を担いだまま問い掛けてきた。
「そ、それでは……C-ウィルスに感染したクローンは……」
猿田学の問い掛けにメタルバードが顔を向けて答える。
「ああ。此処の施設で造られた修司のクローンが逃亡してる最中にC-ウィルスに感染したんだろう。D-ワクチンによる遺伝子変異までも複製されて、只でさえ強靭な筋力が更にC-ウィルスで強化された上に凶暴性も向上しちまってる」
唖然とする猿田学や新世代型達を前にして、メタルバードは更に話を付け加えた。
「何よりC-ウィルスで厄介なのは二つの感染系統だ。空気感染では筋力が向上し、さっきの修司のクローンみたいなゾンビへと変貌する系統。もう一つは直接C-ウィルスを生前に体内に投与されたタイプの生体兵器だ。これは多少の知能も残っているから、敵に回すと恐ろしいんだが……そんな奴はいない事を祈るばかりだ」
空気感染でゾンビ化する個体に、直接体内に投与されて知能を残したまま生体兵器へと成り果てるパターン。メタルバードは後者の存在を最も恐れた。
皆が突然のC-ウィルス感染体の小田原修司のクローンの急襲に驚き慄いている最中、メタルバードは精密機械化してる自身の眼球を調整して周辺の状況を事細かく見ていく。
熱を感知できるサーモグラフィモードへと眼球を変化させて周囲を探知してみると、所々に無数の熱反応が感知できた。この無数の熱反応を視認し、メタルバードは皆に注意を呼び掛ける。
「みんな、この先にも多数の熱反応が見られる。おそらくはC-ウィルス感染個体だ。注意して進むぞ」
「ぞ、ゾンビに熱反応なんかあるんですか?」
メタルバードの説明に琴浦春香が思い付いた疑問をぶつけると、メタルバードは新世代型達にも解り易く説いた。
「相手が修司のクローンなら、D-ワクチンの影響で体内の筋肉細胞が熱を発しやすくなる。それだけでも熱反応があるんだが、C-ウィルスに感染するとその影響で余計に体温が上昇するんだ。しかもC-ウィルスは肉体が負傷すると活性化する作用が見られ、傷を負っても再生する能力まで身に着けた個体も確認されてる」
説明を聞いて新世代型達はC-ウィルス感染のゾンビや生体兵器への恐怖心で内情を染めていった。
と。此処でメタルバードの話を聞いて、今まで新世代型達に担いでもらっていたセーラーウラヌスとセーラーネプチューンの二名が、自分達を担いでくれた四名に礼を述べながら身を離した。
「君たち、もうボクらは大丈夫だ。今までありがとう」
「え? そ、そうですか……」
「おいおい。ウラヌスにネプチューンのHEADのお嬢ちゃん方、大丈夫かよ? まだまだ傷が痛むんじゃないのか」
身を離して平気そうに言葉を掛けてくるウラヌスに唖然としながら返事する猿田学に反して黒川冷に心配される二人。するとネプチューンが微笑みながら自分達を今まで担いでくれた方々に言葉を返した。
「いいえ、もう平気ですわ。皆様が親身になって私達を介抱してくれたお陰で。何より今は、あのC-ウィルスで強化されたゾンビや修司のクローンがそこら中に居るかもしれませんし、もう休んでいられませんもの」
「そ、そうか……だけどネプチューンのお嬢ちゃん。どうか無理だけはしないでくれよ。レディーが傷付くとこなんか、もう見たくもねぇぜ」
「お、俺も。ウラヌスさん、ネプチューンさん。無理しないでくださいっ」
「ありがとう、ふふ」
自分達の身を案じてくれるリカルド・フェリーニや燃堂力らの言葉に、ネプチューンは優しい微笑みでお礼の言葉を返した。
こうして例の小田原修司の巨大クローン兵器3-DXによって両脚を深く負傷したセーラーウラヌスとセーラーネプチューンは、今まで負傷して真面に歩けなかった自分達を労して担ぎ運んでくれた猿田学と黒川冷、そしてリカルド・フェリーニと燃堂力に礼を述べて戦前に戻った。
メタルバードより
進行する一団の先頭には、眼球を熱感知センサーに変化したメタルバードが先陣を切っていた。
「此処は俺が先頭を行く。今までもそうだが、俺なら何かと敵の急襲に対応できるし、それ以上にこの付近の生体兵器の殆どがおそらくC-ウィルス保持の個体だろうしな。さっきから熱反応で詳細な場所がスグに判る。サーモグラフィーでC-ウィルス保持の野郎が何処にいるか分かる俺が先頭の方が何かと都合が良いだろ」
「ホントに便利だな、アンタのその能力。眼球を丸ごと赤外線装置に変化できて、視界に映るもの全部の熱反応を感知できるとは」
赤外線装置によるサーモグラフィの色画像として目に映った光景を通して熱反応を持った存在を識別できるメタルバードの能力に、ジェイクは本心から便利さを重宝した。
メタルバードを先頭に進行していく一同。しかしそんな彼らに脅威は容赦なく襲い掛かる。
「ウアァ……っ」
何かの呻き声が聞こえた瞬間、先陣を行くメタルバードが後方の仲間を制止させる。
「待てっ。そこの曲がり角に一体いる」
そう背後の仲間達に告げると、メタルバードは呻き声が聞こえた曲がり角の先を一人で確認しに向かう。
すると曲がり角にメタルバードが顔を覗かせた瞬間、角の先に潜んでた小田原修司のクローンゾンビが腕を振り付けて急襲してきた。
しかしメタルバードはこれを即座に回避し、瞬時に体勢を低くして右肘でゾンビの胸部に強烈な打撃を放った。
「アウ……っ」
胸部に右肘を直撃された小田原修司のクローンゾンビは後ろへよろめき、その隙を見てメタルバードが自身の右手をサバイバルナイフの形状に変形させて一気に頭部を貫いた。
「ア゛ァ……ッ」
顔面から刃物で貫かれたゾンビは、そのまま背中から床に倒れては溶けて消滅。
最も後方でその情景を眺めていた新世代型達が唖然としているのを尻目に、メタルバードは赤塚組や聖龍隊の新人達にに注意を呼びかけた。
「気をつけろ。熱反応では、こういったゾンビ化した修司のクローンがあちこちにいやがる。不意打ちや奇襲には十分、注意しろよ」
「ヘッ、俺様は別に大丈夫だぜ鳥のあんちゃん。もう前に何度も、こういったバケモノを拝んでは一戦交えているからな。逆に返り討ちにしてやるよ」
メタルバードの呼びかけに、ジェイクは実に心強い台詞を返した。
更に一行は通路の奥へと進行していく。
すると目の前に、明らかに人の形とは懸け離れている影がその異形を暗闇から現した。
「ま、まさかアレは……!」
暗闇から現れた、その異形の者の姿形を見たメタルバードは衝撃を受けた。
明らかに首の部分が異様に肥大化しており、まるで長い袋の様に首が変形した異形の存在だった。
「な、なんだ? あの喉デカは」
喉の部分が異様に長い袋状に変異したゾンビを見て不思議がる大将。だが次の瞬間、その首が長い袋に変異したゾンビが行動を起こした。
「ウァアアァァアアア……ッ」
首が変異したゾンビは、喉の袋を膨らませると聴覚を激しく刺激する奇怪な咆哮を放った。
「うわっ」「な、何だ! この耳にくる声……頭に響く」
突然の長い袋に首が変異したゾンビの咆哮に思わず耳を塞いでしまう海のなるや赤塚大作ら一同。
すると強力な咆哮を上げて一同を怯ませた異様に喉が肥大化したゾンビはそのまま見た目と反して早い足並みで何処かへと逃げ去ってしまった。
「な、何だったんだ。今のは……?」
近づいた途端に強力な咆哮を放っては、叫んだ直後に独特の唸り声を上げながら何処ぞへと去ってしまった異形のゾンビに呆然としてしまう大将や皆。
しかし方向を叫び上げては即座に唸り声を上げながら逃げ去った異形のゾンビを目にしたメタルバード達HEADは、目の色を変えて驚愕し皆に言い放った。
「い、イカン! あいつが叫んだらマズい事になるぞ!!」
「え、あいつって今の喉デカの奴か?」
メタルバードの仰天した面構えでの発言に大将が訊き返すと、メタルバードは慌てた様子で詳しい訳を話した。
「今のはシュリーカーっていうゾンビの変異体だ! C‐ウィルスで首が長い袋の形状に発達した変異体で、喉を膨らませて強力な咆哮を放つタイプのB.O.W! 厄介なのは、その咆哮が周囲の人間の聴覚を刺激する以外に周辺のゾンビを呼び集めちまう効果があるって事だ! オマケにシュリーカーの咆哮で呼び集まったゾンビは活性化して動きも通常より速くなっちまう」
「なにッ!? ゾンビが集まるだと?」
説明を聞いて大将は驚愕した。
メタルバードが説明した所によると、先ほどの喉が長い袋の様に発達したゾンビはシュリーカーという変異したゾンビ個体で、喉を膨らませて放つ強力な咆哮を武器にしているという。しかもその咆哮は周辺のゾンビを呼び集めつつ活性化させて動きを速くしてしまう効力もあるらしい。
すると、そのシュリーカーが強力な咆哮を叫び上げて逃げ去った後、シュリーカーの咆哮を聞き付けた小田原修司のクローン個体から発生したゾンビが一同の周辺に群がって来た。
「し、しまった! もう集まって来やがったッ」
「ヒぃッ! 修司そっくりのゾンビがちらほらと……!!」
周辺に駆け付ける形で集結する小田原修司のクローンから空気感染でゾンビ化した群衆に仰天するメタルバードに思わず怯えてしまう大将。
そして今は逃げ去ってしまったシュリーカーの咆哮で集まって来たゾンビは、一行に襲い掛かるのであった。
集結してくるゾンビ化した小田原修司のクローンに対して、聖龍隊は果敢に挑んでいった。が。
「う、うわ!」「キリトくん!」
勢いよく走り向かってくるゾンビにキリトが飛び膝蹴りを喰らわされてしまい転倒してしまう。アスナは急いで転倒するキリトの援護に回る。
そんなキリトに飛び膝蹴りを喰らわすゾンビの攻撃を目撃した仲間達は愕然とした。
「も、もうゾンビの動きじゃねッ!」
「これじゃ、生身の格闘家と変わらねぇ……!」
果敢に跳び上がっては膝を顔に直撃させるゾンビの攻撃を見て、クラインとエギルは最早ごく普通の格闘慣れした生身の人間同様の動きをする小田原修司のクローンゾンビに驚愕する。
そんな中、キリトに飛び膝蹴りを喰らわしたゾンビは次に傍らにいたアスナに襲い掛かった。
「うわっ」
小田原修司と瓜二つのゾンビは、その腐敗した肉体でアスナを押し倒し彼女の首筋に喰らい付こうと迫っていた。
そのアスナの危機に、先ほどゾンビの飛び膝蹴りを喰らって横転してたキリトが借りを返すと言わんばかりに、アスナに喰らい付こうとするゾンビに鋭い蹴りを入れ助ける。
「このッ」
キリトの蹴りを喰らってアスナから離れた小田原修司のクローンゾンビ。キリトはそのまま剣を振り翳し、アスナから離れたゾンビに斬りかかる。
「うおッ」
キリトの振り下ろした刃はゾンビの身体を切り裂き、それと同時に小田原修司のクローンゾンビは断末魔の呻き声を上げて溶けて消滅した。
キリトやアスナたち聖龍隊の新人たちが苦戦してる中、ベテランである聖龍HEADの面々は集まってくる小田原修司のクローンゾンビを悉く撃退していく。
両腕で掴み掛かってくるゾンビに掴まれる瞬間、瞬時に回避しては瞬く間に得物である短刀でゾンビの顔面を貫いて撃破していくセーラーウラヌス。
目前のゾンビに打撃を与えて怯んだ隙に、強烈な後方縦回転蹴りを喰らわしてゾンビを消滅させるセーラーネプチューン。
他のHEADも己の得物や長年聖龍隊で培った武術を用いて、ゾンビに連続で攻撃を当てて消滅させていく。
一方の赤塚組も群がってくる旧友の小田原修司のクローンがゾンビ化した敵に対して、自らの命の危険を感じながら絶えまず銃撃を放ってゾンビを次々に消滅させていく。
更に聖龍HEADも襲い掛かるゾンビにカウンターの如く強烈な打撃や刃を振り付けて刺し貫いては次々に小田原修司のクローンゾンビを撃破して行く。
華麗な剣捌きで跳びかかって来るゾンビに鋭い切っ先の刃を突き刺して処理する者、攻撃の瞬間に回避し逆立ちしてはゾンビの首に足を巻き付けてそのまま反動で投げ飛ばして倒してみせる者など、聖龍HEADの戦いぶりは見る者を惹き付ける素晴らしい情景であった。
どうにかして群がってきたゾンビ化した小田原修司のクローンを認識したメタルバードは、仲間達にゾンビ化したクローンについて独自の解釈を述べた。
「ゾンビ化した修司のクローンは、修司のD-ワクチンで強化された遺伝子を引き継いだ状態で、更に筋力を上昇させるC-ウィルスで運動能力が向上しちまっている。最早ただのゾンビじゃなく、腐敗しているだけで極普通の武芸者と思って応戦した方が良いな。以降、このC-ウィルスで筋力が上昇した修司のクローンをS-ゾンビと補足する。さぁ、またS-ゾンビが群がってくる前に先を急ぐぞ」
メタルバードは集結したC-ウィルス感染体の小田原修司のクローンをS-ゾンビと補足するのを伝えた直後、即座に駆け足で先へと進行。
「まさかな……C-ウィルスが此処でも使用されてたか。何だか因縁だな」
先だっての
ジェイクがC‐ウィルスへの因果を深々と感じている最中、大将がメタルバードを始めとした聖龍HEADに小田原修司のクローンをゾンビに変異させてるC-ウィルスについて訊ねてきた。
「……なぁ、バーンズ。お前さん達は以前にも
「いや、C-ウィルスは過去のラクーンシティなどで確認されてるウィルスとは少し違う。元々、生きた人間をゾンビに変えちまう始祖ウィルスから抽出したDNAを変異させる特性に別のウィルスを組み合わせたり合成したりした事で作られた、最近では新しいウィルスだ。今までのゾンビはウィルスで体組織が破壊され筋力が衰え、運動能力が著しく減少する弱点があったが、C-ウィルスは逆に筋力を強化する作用があり、走ったり飛び掛かったり、ある程度の壁をよじ登れたり、はたまた武器を使用するといった従来のゾンビには見られない動作が確認されてる」
「お、おい……それじゃ、過去のウィルスより格段にヤバいじゃねぇか」
「そうだな。しかもS-ゾンビの場合は、体術に秀でた修司のクローンがゾンビに変異して元からあった筋力が更に強化されたから益々ヤバいぜ。最早、修司の体術は遺伝子レベルで伝達される鍛え上げられた身体能力だし、その修司のクローンがC-ウィルスで余計に手強くなっちまった訳だしな」
「………………」
メタルバードの話を聞いてS-ゾンビへの懸念をより強める大将。だが次のメタルバードの発言に大将は肝を冷やした。
「まぁ、今のところC-ウィルスに空気感染した修司のクローンしか見られないのが勿怪の幸いだな。もし直接ウィルスを投与されたのが現れたら……」
「ちょ、直接ウィルスを投与されたのがって……それ、どういう事だよ」
「ああ、実はな……」
メタルバードが大将に話そうとした、まさにその時。
「あ! アレはさっきの……」
進路方向先に佇む一体の陰に気づいた新世代型の能美クドリャフカが叫んだ。彼女が指さす方向には、先ほど皆が目撃した異形の存在が再び立ち尽くしていた。
「あ、居やがった! 確か……」
「シュリーカーだ。また唸り声上げられたら厄介だぞ」
前方に再び立ち尽くし怪しい静寂を保つ、ゾンビを呼び集める咆哮を上げるシュリーカー。その存在に大将とメタルバードを始めとする戦前の者たちは警戒を強める。
そして一歩一歩、前方のシュリーカーに忍び寄り奇襲を掛けようと試みるのだが……シュリーカーは死角から忍び寄ってくるメタルバード達に気づいてしまう。
「ウァアアァァアアアアアアアアアァァァ」「うわッ」
案の定、肥大化した喉の袋を膨らませ強烈な咆哮を放ち、皆の聴覚を過敏に刺激する。
「ど、どうにかなんねェのか、この雄叫びは……!」
「そう言われても……ッ」
強力なシュリーカーの咆哮で思わず耳を塞いで苦しがる大将がメタルバード達に打開を訴えるものの、当のメタルバード達もシュリーカーの強力な咆哮に苦しむ一方。
と、一同がシュリーカーの咆哮に耳を塞ぎ苦しんでる最中、聖龍HEADの木之元桜が行動に移った。
「サイレント!」
さくらは対象の物音を消し去るサイレント(静)のカードをシュリーカーに発動させ、シュリーカーの咆哮を打ち消した。サイレント(静)のカードによりシュリーカーの咆哮は消え、シュリーカーは喉袋を膨らませているものの強力な咆哮だけが綺麗に消えてしまってた。
「今だ! 取り押さえろッ」
シュリーカーの咆哮がサイレント(静)の効力で途絶えた瞬間、メタルバードが声を荒げてる。その声と同時に大将やエンディミオンたちがシュリーカーを背後と正面から押さえ付け、動きを完全に封じる。
「早く片づけろッ! サイレントの効果は一時的だ、効力が消える前に早くそいつを倒せッ」
「解ってる」
メタルバードの掛け声にシュリーカーの肩を前から掴んで押さえ付けるエンディミオンは、即座にシュリーカーの膨らんだ喉の袋目がけて強烈な打撃を浴びせていく。
エンディミオンから強烈な拳による打撃に続き、背後からシュリーカーを取り押さえてた大将も所持していたマグナムを2発、シュリーカーの膨らんだ喉に発砲する。そしてシュリーカーは断末魔を上げ、他のゾンビ同様に液状に溶けて消滅した。
「ふぅ、膨らんだ喉が弱点なのは
「やれやれ。また雄叫びでゾンビが集まる前に倒せて良かったぜ」
以前にも中国
だが二人を始め、メタルバード達が咆哮を上げるシュリーカーを倒せて安心しきっていた矢先。ジュピターキッドが自分達に駆け付けてくる存在に気づき、声を発する。
「ダメだ! もう集まってきちゃってる!!」
ジュピターキッドの声で周囲に目を向けた一同の視界に入ってきたのは、無数のS-ゾンビの大群であった。
「遅かったか……各自、S-ゾンビを撃破だ」
周囲に群がってきたS-ゾンビを確認したメタルバードは聖龍隊の同胞たちに迎撃を命じる。
各自、シュリーカーの咆哮で集まってきてしまったS-ゾンビにそれぞれの戦術で迎え撃つ。
鈍器を持ち迫るS-ゾンビに関しては、殴りかかってくる瞬間に振り付けられる鈍器を素早く奪い取り、逆にその鈍器でS-ゾンビの頭部を殴り付けて意図も容易く返り討ちにしてみせたりする。
またS-ゾンビの頭部に攻撃を喰らわせ、怯んだ隙に強烈な体術で打撃を放ちS-ゾンビを吹っ飛ばすと同時に消滅させたりもした。
こうして各自、順調にS-ゾンビを確固撃破していたのだが、その最中、暗闇から明らかに他のS-ゾンビとは違う動きでかつ尋常でない速さで迫る人影が急接近してきた。
「な、何か来ました!」
暗闇の奥から高速で駆け付けてくる人影に瀬名アラタが聖龍隊や赤塚組に呼びかける。
S-ゾンビと交戦中の面々が暗闇から姿を浮き彫りにしていく人影に目を向けると、暗闇から姿を見せたのは全身の筋繊維がむき出しになった異形の人型であった。
「な、なんだ? あの真っ黒い奴は……」
むき出しになった筋繊維に黒い容姿を目撃したラビは唖然としてしまう。が、その黒い筋繊維むき出しの異形は高速で駆け抜け、偶然にも前方でS-ゾンビと交戦していたリナリーに飛びかかった。
「きゃっ」
異形の存在に飛びかかられ、リナリーは床に叩き付けられてしまう。
一方でリナリーに飛びかかった敵は、すぐに立ち上がり他の標的に飛びかかろうと獲物を見定めていた。
「このッ」
仲間のリナリーに飛びかかった敵を倒そうと、アレン・ウォーカーが敵に攻撃を当てようと試みるが、その敵は機敏な動きで攻撃を回避しては腕を大きく振り付けてアレンの後頭部を殴り付けた。
「ッ!」
意外にも機敏な動きで此方の攻撃を回避されただけでなく、反撃を喰らったアレンは軽く動揺してしまう。
リナリーやアレンが謎の敵に翻弄されてる中、他の聖龍隊士はこぞって謎の敵に攻撃を浴びせていく。が、謎の敵の耐久力は思った以上に高く、中々倒れない。そうこうしている内に別個体の同じ敵がS-ゾンビの群れに雑じって集まってきてしまう。
「クソッ、なんなんだ! コイツはゾンビとは違うようだし……」
明らかに通常のゾンビとは異なる容姿に動作の黒い見た目に筋繊維むき出しの敵に困惑するフロート。
すると初めてC-ウィルスによる生物脅威と対峙する聖龍隊メンバーと赤塚組に、以前にC-ウィルスの生物脅威と戦闘経験があるHEADのセーラーマーズが言い放った。
「みんな気を付けて! そいつはブラッドショットよ」
「ブラッドショット?」
マーズの放ったブラッドショットの名に初耳の面々がきょとんとしていると、そう言い放ったマーズにそのブラッドショットが飛びかかってきた。
「ま、マーズ!」
ブラッドショットに飛びかかれそうになるセーラーマーズの危機に動揺しながらも声を発するキャサリン・ユース。だが彼女を始めとする皆の心配を他所に、マーズは飛びかかってきたブラッドショットを意図も容易く、手慣れた感覚で飛びかかってきた瞬間にブラッドショットの腕を掴み、そのまま床に叩き付けては自前のハイヒールでブラッドショットの胸部を力強く踏み付けた。
「グオオォ……」
セーラーマーズに胸部をハイヒールの鋭利な踵部分で踏み付けられたブラッドショットは、右腕を上に突き出して断末魔を上げ、そして息絶えた。
飛びかかるブラッドショットを瞬時に投げ飛ばし、床に叩き付けると即座にハイヒールで胸部を踏みつけてトドメを刺すセーラーマーズの鮮やかな反撃の様子に衝撃を受ける新世代型たち。
だがマーズに飛び掛ったブラッドショットとは別の個体も次々に聖龍隊や赤塚組に飛びかかってくる。
しかしマーズ同様に、飛びかかってくるブラッドショットに反撃を繰り出す聖龍HEAD。
メタルバードは飛びかかってくるブラッドショットの胸元に素早く体勢を低くし入り込み、そして両腕を鋼鉄の槍に変形させてはブラッドショットの弱点である心臓に二本とも突き刺して難なく倒してみせる。
更にミラーガールは前方から飛びかかってくるブラッドショットを受け止めては一瞬の内に後方の壁へと投げ飛ばし、ブラッドショットは逆さまの状態で壁に激突する。そしてミラーガールは追撃に、逆さまで壁に寄りかかるブラッドショットの胸部の心臓に自身の得物であるミラーソードを素早く突き刺した。
メタルバードにミラーガール、双方が一瞬で繰り出した反撃で二体のブラッドショットは瞬く間に倒されては消滅する。
そしてシュリーカーに続いて群がってきたS-ゾンビに複数のブラッドショットを撃破して静まり返る場。
聖龍隊総長メタルバードは全ての敵を撃破したのを確認すると、余りにも素早くブラッドショットを片付けた情景に唖然とする大将たち赤塚組や新世代型たちに顔を向けて語った。
「ブラッドショットはシュリーカー同様にゾンビの変異体。リッカーみたいに全身の筋繊維がむき出しになっていやがって、ゾンビの強化型みたいな奴だ。高速で飛び掛かったり此方の攻撃を回避したりと、動きは俊敏で耐久力も高いと来たもんだ。まあ、ちょうど胸のスグ皮膚の下にある心臓を攻撃すれば一発で倒せるけどな」
ブラッドショットの弱点が胸の皮膚の下にある心臓を攻撃すれば一撃で倒せる事を伝えるメタルバード。その彼の説明を受けて納得する大将や新世代型たち。
更にメタルバードは聖龍隊のHEAD以外の隊士にも伝える。
「お前達もブラッドショットの弱点ぐらい頭に入れておけよ。この先また出てくるかもしれねェんだからな」
「は、はぁ……」
総長メタルバードからの言伝にキリトを初めとする【SAO】【AW】【魔法少女まどか☆マギカ】ら新人勢はきょとんと立ち尽くすばかりだった。
そしてS-ゾンビにブラッドショットの群れを打ち倒した一行が再び前進していくと、大将が先ほどの話の続きをメタルバードに振った。
「……ところでバーンズ。さっきの話だが、修司のクローンに直接C-ウィルスを投与した場合って言っていたが……そもそもC-ウィルスは従来のウィルスと何が違うんだ?」
大将からの質問にメタルバードは前進しながら答えた。
「そうだな、C-ウィルスの大きな特徴といえば……ウィルスの影響で体温が非常に高くなり、負傷するとウィルスが活性化し更に体温が上昇する点かな。今までのB.O.Wと違って熱感知で居場所が特定しやすいが、その分損傷を受けたB.O.Wは変異しやすい個体も存在している。例えば……」
「例えば……?」
「ああ、さっき言いそびれちまったか直接C-ウィルスを投与された個体は、その変異しやすい性質がもろに出てるんだ。俺たちはその個体を
「ジュアヴォ?」
「うむ。ジュアヴォというのはセルビアの語源で……悪魔を意味する」
「悪魔…………」
メタルバードが語ってくれた【ジュアヴォ】という名の悪魔を意味するB.O.Wの存在を知り、今までのC-ウィルス感染個体以上に危険な存在だと直感で悟る大将。
まさか、既にその悪魔が行く手に待ち受けているとは知らずに……。
しばらく進んでいき、別エリアに足を進ませた一行。
だがそのエリアに一同が進入した矢先、突如として警報が鳴り響いた。
「わッ! なんだなんだ?」
突然の警報に驚き慄く大将や新世代型の面々。
すると次の瞬間、そこら中から小銃や刀を装備した、チョッキと短ズボンの一見ラフな装備姿の兵士が現れた。しかも、その体格は今まで目にしてきた小田原修司と酷似しているが、顔には大小合わせて複数の眼、すなわち複眼が目立つ異様な顔立ちの兵士達だった。
『うわぁッ!』「な、なんだ! このクモみたいな面の奴らは?」
突如として雪崩れ込んできた複眼の武装集団に驚く新世代型たちに大将ら。その間にも雪崩れ込んできた一派は装備している様々な銃器で一向に向けて銃撃を放ってきた。
「隠れろッ」
総長メタルバードの鶴の一声で一斉に物陰に身を隠す一同。その情景を見ていた武装集団は謎の言語で意思の疎通をしながら、物陰に身を潜めた一同の許へと進攻してきた。
進軍してくる武装集団に、メタルバードは右腕をレーザー砲に変形させながら自らが率いる聖龍隊と同盟相手の赤塚組に声を投げ飛ばした。
「全員、攻撃開始だ! 大将ッ、あれがさっき話したジュアヴォだ! 先手必勝でブッ放すぞ!」
メタルバードの指示にHEADを含む聖龍隊に赤塚組は、一斉に物陰から飛び出しては進行してくるジュアヴォの集団に攻撃を仕掛けていった。
紅き閃光と火花を散らして小銃を撃つテツに続いて、接近して直接体術で打撃を浴びせていく聖龍隊の面々。
リナリー・リーがカポエイラの要領で目前のジュアヴォに強烈な回し蹴りを連続で浴びせ続け、連続で打撃を受けたジュアヴォは倒れると同時に瞬く間に肉体が発火し灰の様に焼失してしまった。
だが打撃でなく銃撃で攻撃を放っていくテツや聖龍隊士の銃弾を受けたジュアヴォに変化が現れた。
銃撃で右腕を損傷したジュアヴォの、その右腕が瞬く間に変異していき、ぬめりのある長い触手の様に変形・長大化しては、その長大化した腕を伸ばし戦前で銃撃を展開する巴マミを頭上から殴り付けた。
「きゃっ」「ま、マミちゃん!?」
マミの近くで同じく小銃で銃撃を展開していた赤塚組のアケミは驚き、マミの名を呼ぶ。
するとマミを殴り付けた変異したジュアヴォに、ジェイクが攻撃を仕掛けたジュアヴォに駆け寄り強烈な飛び蹴りを喰らわしてジュアヴォの体勢を崩した。その瞬間を狙って、近距離から拳銃をジュアヴォの頭部に突き出して発砲。
ジェイクの銃撃を近距離から頭蓋に受けた腕が変異したジュアヴォは、そのまま灰へと焼失しながら床に倒れていった。
だが一方で待ったく別の変異を遂げるジュアヴォの姿も確認されてた。
先ほど変異したジュアヴォ同様に右腕を銃撃で損傷した個体は、損傷を受けた右腕が硬質化し巨大な鎌のように変形・巨大化しただけでなく、同じく銃撃で損傷を受けた下半身が硬質化し強固な外殻へと変化してはその両足で接近して驚異的な脚力で跳び蹴りを放つまで至ってた。
巨大な鎌状の硬質化した右腕を振り回し近~中距離と広範囲に攻撃を仕掛け、接近しても鎌状の巨大化した腕で攻撃を防ぎつつ硬質化した下半身で強烈な回し蹴りを放ち弾き飛ばしてしまうジュアヴォ変異体。
誰もが硬質化した右腕と下半身で猛威を振るう変異ジュアヴォに苦戦を強いられる戦前の聖龍隊士に赤塚組の面々。そんな苦戦の状況を目にして、メタルバードが文句を言いながら変異ジュアヴォに突進していった。
「お前ら、聖龍隊の隊士だろうがッ! もっと立ち回りを上手く考えて攻撃していけッ」
と、聖龍隊の仲間達に告げながら単身ジュアヴォ変異体に突っ込んでいくメタルバード。
そして前方のジュアヴォの硬質化した巨大な右腕の振り回し攻撃を、体勢を低くしてかわしてみせると瞬時にジュアヴォの前へと立ち回る。そして相手のジュアヴォが硬質化した下半身でメタルバードに強烈な回し蹴りを直撃させようとした瞬間、メタルバードは回し蹴りの足を直撃寸前で受け止め、そのまま足を掴んでは相手のジュアヴォの体勢を引っくり返し、うつ伏せにする。
そしてトドメとばかしに、うつ伏せになったジュアヴォの背面に強力な踵落しを喰らわせるメタルバード。
「グアァ……」
背面に踵落しを喰らったジュアヴォは断末魔を上げながら灰へと焼失し跡形も無くなってしまった。
警報と共に皆の目の前に雪崩れ込んできたジュアヴォの武装集団にどうにか打ち勝てた一行。戦闘が繰り広げられた現場にはジュアヴォの亡骸は焼失し、彼らが使用していた銃器や刀だけが見事に残されてた。
HEAD以外の初めてジュアヴォと戦闘を繰り広げた戦闘に参加した面々は、ジュアヴォの脅威に一時ばかし驚愕し立ち尽くしていた。
「お、おい……今のがジュアヴォって野郎か」
息を切らしながら大将が若干睨み付けながらメタルバードに質問すると、メタルバードは先ほどの戦闘で収集した情報を自分と同化しているチップバードのコンピューターを用いて調べながら答えた。
「ああ、今のは間違いなくジュアヴォだ。本来は人間にC-ウィルスを投与することで生み出される生体兵器で、名称はさっきも言ったがセルビア語で「悪魔」を意味する。最初にジュアヴォを確認したB.S.A.A.によって名付けられた。ウィルスの影響で過去の生体兵器のように狂暴性が増し、理性のタガが外れているため、かつては仲間だった存在でもジュアヴォ化していなければ敵とみなして容赦なく襲いかかる」
『…………』
「しかも、高度な知能や多少の自我は維持されていて、言葉を理解し、話すことも出来る上に複雑な連帯行動や高度な武器も使える。時々戦闘中に敵を挑発したり、シャワーで身体を洗ったりするとか感情が残っている仕草さえ確認されてる。また戦闘では戦車や軍用ヘリ、トラックやバイクの運転、爆弾や電子ロックなどの電子機器の操作や鍵の解錠、薬品調合による毒薬生成など専門知識が必要とされる行動まで可能みたいだから今までのゾンビやマジニの方が遥かにマシに感じちまう」
愕然とメタルバードのジュアヴォに関する説明を聞く大将を初めとする赤塚組の一同に新世代型たち、そして聖龍隊の面々。
だがメタルバードの説明は終わる事無く、メタルバードはジュアヴォに関する情報を語り続けた。
「特にジュアヴォの特徴は、C-ウィルスを投与される前に受けた命令を忠実に繰り返す傾向がある事だ。その命令が生死に関わるような危険なものであっても恐れずに遂行する。さっき目撃したいくつかの変異型を除き、ジュアヴォに変異した人間の身体に特段目立った変質は見られないが顔にはクモの様に複眼が現れる。この複眼で正体が発覚することを防ぐためだったのか、過去に俺たち聖龍HEADが
このメタルバードの説明を黙然と聞き入れてたジェイクも、過去に遭遇したジュアヴォについて口を開いた。
「確かに。俺も目にしてたが、殆どのジュアヴォが仮面やマスクで顔を覆い隠してたな。さっきのジュアヴォ共は何故か顔を隠して無かったか」
ジェイクの発言にメタルバードは情報を念入りに調査しながら憶測を語った。
「そうだな。おそらくは正体を隠す必要が無かったと、このジュアヴォ共に命令を出してた奴が予め素顔で戦わせてたかもしれねェな」
「だ、誰なの? その命令を出してるって人は……」
ジュアヴォに命令を下している人物について不安げな表情で問い質してくるシリカに、メタルバードは素っ気無く答え返した。
「そいつはオレにも皆目分からねぇな。ま、おそらくは新世代型たちを誘拐してオレ達にゾンビを初めとする生体兵器をぶつけた奴だとは思うが……」
相変わらず先ほどの戦闘で収集した情報を調べながら平然と語り続けるメタルバード。
「……そ、そういえば。さっきの戦いで突然、腕や足が変わっちまったのが混じってたが、それは……」
平然と語り続けるメタルバードに先ほどの戦闘で見られた変異したジュアヴォに関して訪ねる大将。これに対してもメタルバードは素っ気無く答える。
「ジュアヴォはウィルスの影響で体温が非常に高く、負傷するとウィルスが活性化して更に体温が上昇する。また傷を負っても再生する能力があってな、部位欠損など再生が追い付かないほどの深手を負った場合は別の形状に変異するパターンもある。だがダメージが蓄積し過ぎるとウィルス活動が激化して体が発火し焼死・灰化に至る。さっきまで戦闘をしてたジュアヴォの亡骸が跡形も残ってないのが、その理由さ」
メタルバードは更に変異したジュアヴォについての詳細を語った。
「ダメージを受けて肉体に外傷や欠損を起こしたジュアヴォが、過剰な再生能力で己の部位に変異をもたらした形態をジュアヴォ変異体と総称している。専ら蜂や百足なんかの節足動物の特徴を備えている形態だ。大きく分別してルウカ・ノガ・テロ・グラヴァの4系統の変異があるが、稀に複数の部位変異を同時に起こすタイプも発生する」
説明を続けるメタルバードが先ほどの戦闘で変異したジュアヴォに変異部分の肥大化した腕で頭部を殴られた巴マミに顔を向け語り明かした。
「例えばマミ。お前をさっき殴り倒したジュアヴォ、あれはルウカ系統のルウカ・カヴァタネだ。捕獲を意味するカヴァタネは離れた距離や物陰から標的をつかみ叩きつける攻撃手段を用いる」
「………………」
唖然とする巴マミを尻目に、メタルバードは次に確認された二箇所の変異個体についても述べた。
「そして次に確認された右腕と下半身が変異した個体、あれはルウカ・スルプとノガ・オクロプの部位変異が同時に現れた個体だ。スルプは鎌を意味し、鎌の様な形状に変異・巨大化した腕を振り回して敵を牽制する個体。そして足を意味するノガ系統のオクロプは装甲を意味し、殆どの攻撃を受け付けなくなる厄介なタイプだ」
ジュアヴォ変異体について語るメタルバードの説明を受けて、その脅威に愕然となり静まり返る現場。すると同じく説明を聞いてた以前にもジュアヴォと戦闘経験のあるジェイクが一つの疑問を感じ取り、メタルバードに問い返した。
「なあ、バーンズの旦那。今、目の前に雪崩れ込んできたジュアヴォだが……なんだか前に俺やあんた等が
現場で戦闘を展開したジュアヴォが、過去に自分や聖龍HEADが中国で遭遇した個体と別のモノだと感じ取ったジェイクがメタルバードに疑問をぶつけた。
するとメタルバードは、今さっきまで戦闘中に収集した情報を調べ終わったのか、その結果と共にジェイクの疑問にも答えた。
「それなんだが、確かに俺も戦ってみて少しばかし前に戦ったジュアヴォ個体とは何かが違うと感じた。其処でさっき、戦闘中に奴らの細胞を少しばかし頂戴してDNAを調べてみたんだ。すると驚く事に、このジュアヴォ……修司の遺伝子と見事にC-ウィルスが結合しているじゃねぇか」
「小田原修司の遺伝子と!?」『! ……』
メタルバードの発言にジェイクはもちろん、大将たち赤塚組に新世代型の一同も愕然とした。
初代聖龍隊総長にして最強の人間兵器であった小田原修司の遺伝子とC-ウィルスが結合したとは、どういう事なのだろうか。
これにメタルバードは調査結果と共に詳細を語り明かした。
「おそらく最初っからC-ウィルスと結合させる為に遺伝子を弄って作り出された修司のクローンに、直接C-ウィルスを投与して生み出された全く新しい個体だろう。以前に確認されたジュアヴォ以上に損傷箇所からの変異が激しいし、銃撃による多少の損傷だけで様々なタイプの変異体に変わるのも、修司の遺伝子とC-ウィルスが完全に結合してたからだ。従来のジュアヴォはごく一部が部位欠損すると様々なタイプの変異体へ変化するが、このジュアヴォの場合は全ての個体が変異するのが特徴だ。要するに今までのジュアヴォと違って、ほぼ全ての個体が何らかの形で体が変異してより強靭な生体兵器に変化しちまうようだ」
皆に小田原修司のクローンから作り出された全く新しいジュアヴォに関して語り尽くすメタルバードは、最後に今し方、自分達と対峙した新しい個体のジュアヴォに名称を付けた。
「以降、この修司のクローンから派生したジュアヴォを、S-ジュアヴォと補足する。みんな、特にジェイクは二度目だから間違えないように言っておくが、S-ジュアヴォは従来のジュアヴォ以上に変異しやすい厄介な個体だ。特に銃撃で多少の傷を負った輩が変異体になるから十分に注意しろ」
小田原修司のクローンの素体にC-ウィルスを直接投与して作り出された全く新しいジュアヴォ、S-ジュアヴォ。その異常なまでの変異しやすい性質に誰もが恐怖を覚えた。
しかし、以前にも従来のジュアヴォと戦闘を経験した上に、本物の小田原修司と古くからの付き合いを積み重ねてきた聖龍HEADの面々は、余り恐怖を感じてる様子は無かった。
兎にも角にも、一行は新たな脅威S-ジュアヴォとの遭遇に気を引き締めて先へと進行するのであった。
そして再び脱出に向けて先へと進行して行く一同。そんな折、焦る気持ちを抑えながら地道に徒歩で進んでいく新世代型たちの一人、真鍋義久が徐に言葉を発した。
「それにしても……テケテケにひきこさん、それにC-ウィルスとか色んなモンと施設で遭遇したけど、何気に小田原修司の遺伝子を使って生み出されたのが多かったな」
このさり気ない真鍋の言葉に同じ新世代型の細野サクヤが自分なりの意見を口に出した。
「それはおそらく此処の施設が小田原修司の遺伝子をベースとした生体兵器の開発に取りかかっていたからだと思うよ」
細野サクヤの発言を聞いた他の新世代型達は挙って生体兵器開発に使用された遺伝子の持ち主、小田原修司に対して思い思いの愚痴を言い出し始めた。
「まったく。世界最強の遺伝子だか何だか知りませんが、自分の遺伝子を兵器に乱用されて黙ってるなんて普通じゃありませんわ。小田原修司は」
「ホントにそうですわね、えりな様」
自身の遺伝子を兵器に乱用されているのに何の行動も示さない小田原修司に反感を抱く薙切えりなに秘書の
「修司くんは昔から、そういうところが変わっているというか普通と違うのよね。例え兵器に乱用されていても、それはそれで自分が評価されたとして、政府の裏方の行動には目を瞑っていたのよ……そりゃ、自分の遺伝子から生み出された兵器が戦場に投下されるのだけは反対していたけど」
「それでも! いっくら何でも怖いのが作られすぎだよ。赤マントとかの都市伝説の奴だけでも十分に不気味だったのに、今度はクローンで、しかもそれがゾンビになったりクローンから別の怪物に作り変えられてたり……それを黙認していたなんて普通じゃないよ!」
キューティーハニーの言い分に対しても、赤マントを始めとする都市伝説を基にした生体兵器に小田原修司自身のクローン、それを派生とするゾンビにジュアヴォ等の生体兵器の存在に多大な恐怖と嫌悪感を覚える新世代型の涼野いとの発言に、他の新世代型達も等しく同意見に近い真情だった。
そんな強大な生体兵器にも遺伝子を乱用される小田原修司の実情について、参謀総長のジュピターキッドが足を進ませつつ新世代型達に語り掛ける。
「……確かに義兄さんの、小田原修司の遺伝子は兵器として研究される事も少なからずある。しかし兵器として研究されていくのと同時に数多の病気の特効薬の開発にも繋がるのがDの遺伝子の現実でもある。今では不治の病であった癌の特効薬も開発され、WHOを通して世界中にほぼ無償で配布されたのも政府が秘密裏にDの遺伝子を兵器として研究していた背景があるからだ。政府が兵器としての応用を試みていたのを義兄さんが黙認していたからこそ、D遺伝子から作られた多くの薬が無償で大勢の人々に渡ったんだよ……皮肉だけど、兵器として研究価値があったからこそ多くの特効薬も生み出されたって訳だね」
「世の中、結局は結果論ですか」
ジュピターキッドの説明に結果が全てなのかと険しい表情で問い質す新世代型の斉木楠雄に、ジュピターキッドが再び語り出す。
「まぁ、そういう事になっちゃうかな。結局、力の強い権力者が得をしない限り、立場の弱い一般市民には何も得られないというのが悲しいけど現実だ。兵器開発を条件に、同時進行で開発されたワクチンや薬を無償で世界中に配布してもらったのが事の真意だしね」
「う~~ん……それでも兵器としての開発が此処まで進展していて何とも思わないんですか。聖龍隊の皆さんは」
真鍋義久が愚痴っぽく問い詰めると、総長のメタルバードが厳つい面立ちで話し返した。
「確かに修司の遺伝子が特効薬や有益なワクチン開発だけでなく、兵器としても開発・応用されているのは俺達はもちろん修司だって不本意だったさ。しかし国の連中は自分達の国の武力を上げる事しか頭になかったから、薬よりも兵器への応用に修司の遺伝子を使っちまったんだな」
「……修司さんの遺伝子も、私たちと同じで普通ではなかったという事なんですね」
新世代型の栗山未来が徐にメタルバードに訊ねると、メタルバードは前を向いたまま静かに答えた。
「……ああ、お前達にくりそつかもな」
この意味深なメタルバードの発言に、問い掛けた栗山未来だけでなく全ての新世代型二次元人達は人知れず唖然としてしまった。
まさかHEADを始めとする聖龍隊の面々が、誰もが知らない真実をひっそりと胸中に押し隠していた事に新世代型達は気づいてなかった。
癌などの特効薬やウィルスへのワクチン、そして凶悪な生体兵器の研究開発にも利用され続ける小田原修司の遺伝子。
その小田原修司と新世代型達には途轍もない事実が隠されている事を、本人たちはまだ知る由も無い。