原作知識があればみんなを幸せに出来る…はず   作:UUNO

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第2話

 

軽く身支度を済ませつつ、ふと、昔の事を思い出す。2年前とは比べ物にならないほどたくましく成長した僕は、代わり映えのしなかった日々に別れを告げられる事への喜びと、すっかり居心地の良くなってしまったこの場所を離れる寂しさのどちらも抱きながら、ため息を漏らす。と同時に、部屋のドアが開かれた。

 

 

 

「身支度は終わったか?…どうした?浮かない顔をして」

 

「あ。リーブスさん。いや、今になってこの場所を離れるのが少し寂しくなっちゃって」

 

「そうかそうか…じゃあ訓練兵に行くの、辞めればいいじゃねぇか」

 

「んー…それは無しだね。たしかに少し、寂しくはあるけど…それより、やっぱり僕はみんなを守りたい」

 

「殊勝な事だな。やっぱり俺の目に狂いはなかったみてぇだ」

 

「当たりまえじゃん。…リーブスさん」

 

「なんだ?」

 

「誰がなんと言おうと僕の親はリーブスさんだけだよ。何もなかった僕に、衣を与え、食を施し、住を恵んでくれた。そして…ここまで育ててくれた。ほんとにありがとう」

 

「…ふん。柄にもねぇ」

 

「まぁ今生の別れって訳でもないし、暇があれば仕事手伝いに戻ってくるけどね」

 

「訓練兵団に所属するやつが商人の裏の仕事請け負うなんてあっちゃまずいだろ。暫くは顔出すんじゃねぇぞ」

 

「それもそうか…もう時間だ。行かなきゃ…リーブスさん。元気でね」

 

「あぁ。お前も元気にやれよ」

 

 

 

 

たった2年かそこらで、僕に体術を仕込み、交渉術を鍛え、僕の事を懐刀として可愛がってくれたリーブスさんには本当に感謝している。訓練兵団に所属するのは少しだけ渋られたが…それですら愛情の裏返しだと思えば、本当に彼には頭が上がらない。

 

もちろん、互いの益になると判断しての事だっただろうが、僕には喉から手が出る程欲しかった「実戦経験」も少なからず得られた。どれだけ覚悟を決めていても怖いものは怖いし、恐怖すれば自然と体は固まる。その一瞬の緊張で命を落とす戦場において、場馴れしているかどうかが生死を分ける。

 

巨人相手じゃないにしろ、自分より大きな相手に対する実戦経験を得られたのは、僕にとってとても大きかった。と言っても、殺しはしないし道具も使わなかったのだけど。…さて。ようやくスタートラインに立てるんだ。せいぜいコケないよう気をつけなきゃな。

 

 

 

 

◾︎

 

 

『3列目!後ろを向け!!』

 

 

 

端の方でキース教官が叫ぶ声が聞こえる。どうやら僕の列の通過儀礼が終了したらしい。案の定というか、僕にはやはり声がかからなかった。シガンシナの地獄は早めに避難していたから見ていないとはいえ、この2年間血のにじむどころか、出血多量で血が足りなくなる程の努力をしてきたんだ。むしろこれで僕が通過儀礼を受けたら立ち直れなくなる。

 

 

 

『ふかした芋です!調理場にちょうど頃合のものがあったので!つい!』

 

 

おぉ、原作の指折りに入る名シーン!ここのキース教官の自分の想像の範囲を超えるバカを見て理解が追いついてない顔、やっぱり最高に面白いンだよなぁ

 

 

「貴様…盗んだのか…なぜだ…なぜ今……芋を食べだした?」

 

「…冷めてしまっては元も子も無いので…今食べるべきだと判断しました」

 

「…!?いや…分からないな。なぜ貴様は芋を食べた?」

 

「それは…なにゆえ人は芋を食べるのか?という話でしょうか?」

 

 

この食い意地。このアホさ。このシリアスな空気でも躊躇うことなく芋をかじれる肝の座り方。最高にロックだ。しかもこれをふざけているんじゃなくて至って真剣にやってるというのもツボにハマる。キース教官が僕に背中を向けていてほんとに良かった。めっちゃ口にやけてる自信あるし…あ、飯抜きって言われた時のサシャってこんな表情してたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

◾︎

 

 

 

 

さて。通過儀礼も無事(1名を除き)に終了し、食事の時間になった。となれば、向かうところはただ一つ。推しキャラの元へ!

 

 

「やぁ。初めまして。隣にご一緒しても?」

 

「…好きにしな」

 

突き刺すような鋭い眼光と、その気だるげな雰囲気。原作では4年間水晶の中に捕われることを余儀なくされた囚われのお姫様。戦士と兵士の狭間で揺れ、罪悪感に押しつぶされながらも父の元へ帰るため奔走した悲劇の少女。そう。アニ・レオンハートだ。

 

「君は…確か名前聞かれてなかったよね?どこ出身なの?」

 

「なんでそんな事あんたに教えなきゃ行けないのさ」

 

 

「ただの世間話だよ。これから切磋琢磨していくんだ。名前と出身地くらい覚えておきたいからね」

 

「…アニ・レオンハート。出身はストへス区。もういいかい?早く部屋に戻って寝たいんだけど」

 

「あぁ、もちろん。おやすみアニ。また明日ね」

 

「……」

 

短い問答の中、すぐに痺れを切らしたのか、食事もそこそこに済ませて部屋へ戻るアニの背中を眺めながら、残された僕は一人食事を続けた。

 

正直、アニの警戒心がここまでMAXだとは思わなかった。アニってこんなに冷たかったっけ?それとも訓練兵団にいるうちに少しずつ氷が溶けていったのか?最後とか普通に無視されたんだけど。

 

これから3年間共に過ごす相手にする態度じゃないぞあれ。前途多難だが、推しキャラを幸せにするためだと考えれば何も苦じゃない。むしろ、攻略のしがいがあって燃えてくる。

 

などとヘンテコな方へ思考が傾いて来た矢先、食事時間の終わりを告げる鐘がなる。続々と部屋へ戻る訓練兵たちに倣い、僕も部屋へ戻るべきなのだが…もう1人いる推しの元へ、僕は歩みを進ませた。

 

 

 

…どうやら無駄な思考をしすぎたせいで少し乗り遅れたみたいだ。サシャに餌付けを終え、膝の上で寝かしつけるヒストリアと、それを屈みながら小馬鹿にしたように見ているユミルが目に映る。

 

まぁまだ3年あるし、別の機会に仲を深めるのも良いが…やはり、「特別な存在」になるには在り来りの出会いでは少し弱いだろう。実際、ヒストリアとユミルが終始仲良くしてたのは衝撃的な出会いだったというのもあるはずだ。だから僕もそれにあやかる為、ヒストリア達へ向けて歩を進める。

 

 

「女の子2人じゃ、気を失ってる女の子を運ぶの、結構大変でしょ。手伝うよ」

 

「!あ、あなたは…」

 

「あぁ、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど…少しその子が気がかりだったから様子を見に来ただけなんだ」

 

「そ、そうなの…ねぇ。あなたはなんで良い事をするの?」

 

「良い事…?うーん、そうしたいから…じゃだめかな?君は?」

 

「私は…」

 

「分からないなら、それで良いと思うよ。損得を考える前に誰かのために行動できるなんて素敵じゃないか。でも…そのせいで自分が苦しい思いをするなら、たまには人に頼ってみるのもいいのかもね。まだ君の事何も知らないからなんとも言えないけど」

 

「……」

 

「…けっ。あとから来て私を空気扱いするなんざ、いいご身分だな。この芋女を運ぶの手伝うんならさっさとしやがれ。早く寝たいんだよ私は」

 

「あぁ、ごめんごめん僕も早く寝たいし、ササッと終わらせちゃおっか」

 

「え…あ、ちょっと待って!!」

 

 

初対面で自分の本質に近いところを言い当てられ固まっていたヒストリアは、置いていかれないようにと必死に歩みを進ませていてとても愛らしい。僕の気だるげにため息を吐きながら歩くユミルにも見習って欲しいものだ。

 

 

 

サシャは思ったよりも華奢だったのか、僕一人でも軽々と持ち上げられた。少し離れたところにある女子寮の前までサシャを運び、あとはヒストリアとユミルに任せて男子寮へと戻る。自分の部屋に戻ると、みんな寝静まったようだ。

 

 

相部屋なのは…エレンやアルミン、ジャンたちか。通過儀礼の際の列が近かったから、もしかするとと思っていたが、本当に相部屋になるとは。となれば、明日エレンに聞かれるであろう、姿勢制御のコツについて、少し考えるとするか。

 

 

 

 

 

◾︎

 

 

 

 

「おはよう。アニ」

 

「…あぁ」

 

特にこれといったアドバイスが思い浮かばないまま、気づけば寝てしまっていた僕は、朝の食事をアニとすべく声を掛けた。アニは寝起きが悪い…なぜか世間にはそんな印象があるように感じるが、そんなことは無い。

 

寝起きは機嫌が悪そうに見えるのは、シンプルに彼女の機嫌が常時良くないというだけの話だ。実際、進撃の巨人LOST GIRLSの第1話にアニの寝起きシーンが描かれているが、そこに陰鬱な表情はなく、いつも通りのアニ・レオンハートとして描かれている。

 

 

「今日は適性診断があるらしいよ。自信の程は?」

 

「自信の無いやつがこんな所にいると思う?」

 

「それもそうだね。アニは随分体を鍛えてるし、自分の体の動かし方もちゃんと分かってるし、楽に突破できそうだ」

 

「……」

 

「そんなに睨まないでよ。歩き方とか姿勢とか見てたら、何となくわかるでしょ?」

 

「…何が言いたいんだい」

 

「なにも?僕は君と3年間仲良く過ごしたいだけだよ」

 

「…はぁ。勝手にしな」

 

やはり、まだパラディ島のエルディア人の事をよく思っていない時期なだけあって、アニの心は氷の薔薇の様に尖りきっている。これからゆっくり溶かすにしても、まずは何かワンアクション欲しいところだが…まぁまだ2日目だ。悲観するほどじゃない。

 

 

それに、対人格闘の訓練が始まれば嫌でも距離が縮まるはずだ。原作ではエレンがアニの技術を見よう見まねでジャンに使用した時、嬉しそうにその技術をエレンに教えようとしていた。僕は巨人化するつもりもその予定もないので、格闘術が必要かと言われれば否だが、それでもみんなを守るためにできることはしてきた。

 

 

アニの格闘技術は確かに魅力的だが、一方的に教えてもらうのも味気ない。いつも自分に負けてばかりの男より、自分が1度も勝てない男の方がいざと言う時頼りがいがあるのは道理だろう。

 

 

前世の僕は病弱だった事もあり、激しいトレーニング等は全くと言っていいほどして来れなかった。だが、外に出られない分トレーニングや格闘技といった体を使う事への欲求は留まることを知らずに、様々な創作物やインターネットから知識を経て、繰り返し脳内で反復練習していた。

 

 

脳みそに染み込ませたその知識は2年の月日と共に僕に最適化され、様々な格闘技が混ざりあった僕オリジナルとして完成していた。数千年前から研磨され、研ぎ澄まされてきた技術が、一介のマーレ人が作り出した格闘技如きに負けるはずがない。

 

 

いくらアニの蹴りがすごいと言っても、それは格闘技が存在しないこの世界においてのみだ。少し申し訳ないが、彼女のプライドには存分にへし折れてもらう事にしよう。

 

 

父から叩き込まれた技術の全てを使って僕に勝てないとなれば、負けず嫌いの彼女は僕を負かすために対人格闘は僕と過ごしてくれるはず。朝と夜の食事を含めたらほぼ毎日どこかしらで接触できるし、警戒を解いてもらえるのも存外時間がかからないかもしれないな。

 

 

 

 

◾︎

 

 

 

 

 

食事を終え、アニと雑談を混じえながらグラウンドへ着くと、もう適正診断の用意がされていた。程なくして、全員が食事を終え綺麗に整列をしていると、キース教官から訓練内容の説明を受けた。まぁ要は立体機動装置を使って問題ない体幹があるかどうかみるだけだ。僕なら問題なく合格出来るはずなのだが…あれ、思ったより揺れないな。

 

 

素質があると言われていたジャンやコニーですら少しブレが生じていたから、正直かなり揺れると思っていたが…大したほどではないか。これで面と向かってエレンに教えてやれる。よかったよかった。

 

 

 

 

適性ありと見なされ、今後の訓練に参加する資格を得た僕は、教官から課されたトレーニングを行っていた。課されたと言っても、オフの日以外で空いた時間が出来た時、個々が自主的にする様言いつけられたもので、特に強制力なんかはない。

 

だが、岩や竹で作られた少し前時代的な手作り感満載のトレーニング器具と、思いのほか現代的な考えのトレーニングメニューに感動した僕は、大人しくそのメニューをこなす事にした。

 

 

前から気になっていたのだ。立体機動という危険の伴う訓練を、キース教官一人で見るなど不可能に近い。しかし、座学以外でほかの教官が現れるシーンは無かった。となれば、自然と1度の訓練の人数を絞らなければならず、立体機動訓練中の兵士以外は暇な時間になる。

 

 

兵士を育てる上でそういった時間を極力減らすため、自主的な訓練を促しているらしいのだ。もちろん、評価に入らない訓練などしたくないという考えの兵士もいるが、真面目に取り組む周りとの差に耐えかねていずれ遅れて参加し出す事だろう。それもそのはずで、しっかりと練られているであろうこのメニューは、

・ランニング10キロ

・腕立て腹筋背筋100回

などの適当なメニューではなく、どこをどう動かせばどこの筋肉が稼働し、どう言った負荷をかけるのが効率が良いなどの、理想的なトレーニングメニューとなっていた。

 

 

中でも立体機動で必要となってくるインナーマッスルについては、事細かに記されていた。これまで立体機動の技術培って来たものにしか分からないその叡智に感動し、つい夢中になってしまっているうちに、気がつけば1日目の適性診断が終了したようだった。

 

 

食堂には放心状態のエレン達以外はほとんど誰も残っていなかった。僕も鐘がなる前に手早く食事を済ませ、男子寮に戻ると、エレンが案の定聞き込みをしていた。

 

 

 

「なぁあんた!姿勢制御のコツを教えてくれないか?」

 

「あぁ、君達は確か…エレンとアルミン?だったよね?僕はリアム。よろしくね」

 

「え!?あっよろしく!」

 

「あぁ、よろしく…ってなんで俺達の名前知ってるんだ?」

 

自分に挨拶が来ると思ってなかったのか、声が上ずっているアルミンと、少しも動揺を見せず好奇心で質問をなげかけてくるエレンの対比が非常に面白いが、当たり障りのない返事をして話を姿勢制御のコツへと誘導していく。

 

幸い初日から大暴れだったエレンと、通過儀礼を受け名前を知っていてもおかしくないアルミンのふたりだったのでそれとなく理由付けするのは簡単だ。

 

 

 

「初日から食堂で大暴れしてたの忘れたの?…それに、3年間同じ部屋で過ごすんだし、初日のうちに同じ部屋の人の名前くらい覚えたよ。」

 

「そ、そうか…」

 

「それで、姿勢制御のコツだったよね?」

 

「あ、そうだ!頼む!リアムはすごくうまいって聞いたぞ!」

 

「うーん、姿勢制御のコツかぁ…うーん、コツってわけじゃないんだけど、僕の言う通りの姿勢になってくれないかな?」

 

「?わかったけど…何をするんだ?」

 

「まぁまぁ、すぐにわかるさ」

 

 

エレンにしてもらうのは、さっきのトレーニングメニューにも含まれていた代表的な体幹トレーニング。実際にエレンの体幹が足りない訳ではないのは分かっているが、確認する作業がないとさすがに不自然なので軽く確認しておく。予想通り、2分続こうが3分続こうが全くきつそうな素振りを見せなかった。

 

「なぁ?こんな事で何かわかるのか?」

 

「うん。分かるよ。今日の適性診断を合格した人に課されるトレーニングにもあるんだけど、今のは基本的な体幹トレーニング…つまり、バランスとかそういった能力のトレーニングなんだけど、この姿勢制御時間である程度の強度を図ることが出来るんだ。見たところ、適性診断をクリアできる素養は十分にありそうだし、それに…」

 

「それに?」

 

「君といつも一緒にいる黒髪の女の子…」

 

「あぁ、あいつはミカサ。俺とアルミンの同郷だ」

 

「ミカサね。あの子の姿勢制御の方が、僕より圧倒的に綺麗だった。これだけ体幹がしっかりしてて、その上ミカサに付きっきりでコツを教えてもらって、姿勢制御如き出来ないはずはないし…まぁ妥当なところで行くと装備の欠陥…とかかな?配られた直後で調整したとはいえ、なにか不具合でもあったのかも。なんだったら明日は僕のベルトを使うといい。それで出来なかったらもう僕はお手上げだ」

 

 

「なるほど…たしかに僕より運動神経のいいエレンが出来ないはずないし、装備の不具合だとすれば納得いく…ありがとう!リアム!」

 

 

自分よりも圧倒的に動けるはずのエレンがこんな簡単な事出来ないわけがない…そう気づいてしまえばあとは簡単であとはアルミンに任せておけば良い。元々賢い子だし、破損していないベルトと見比べればすぐにどこが悪いか気づくだろう。

 

「うん。これから長い付き合いになりそうだし、よろしくね。エレン。アルミン」

 

「!あぁ!絶対に合格する!ありがとな!リアム!」

 

 

やはり世界は残酷だ。こんなに爽やかな彼が数年後には世界を滅ぼす大魔王になっているのだから。それを回避するのが、この世界に紛れ込んでしまった僕の責務だ。エレン。君には何がなんでも幸せになってもらうよ。

 

 

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