颯爽と差し込める朝日と、まだまだバリエーションの尽きそうにないベルトルトの寝相で心地よく目覚めた。今日の訓練は午前から対人格闘の訓練がある。となればすることはひとつ。
「おはようアニ」
「…はぁ。またあんたかい。今度はなんの用?」
「今日の訓練について少しね」
「…なに?まさか私に対人格闘のペアになれって言うんじゃないだろうね」
「おぉ、さすがアニだ。話が早いね」
そう。日常的にアニと対人格闘のペアを組み、本格的に彼女との距離を縮める布石を打つ。邪険に扱われるのはいつもの事だが、毎日話しかけていたのもあって一応話は聞いて貰えそうだ。
「はぁ。か弱い乙女をいたぶろうってのかい」
「何言ってるんだか。君、かなり強いだろ?僕が知ってる中で君ほどの技術を持ってる人はそういない。だから試してみたいんだ」
「試してみたい…?何をさ」
「君レベルの相手だと何処まで苦戦するのか…ね。僕は僕が負ける訳ないと思ってるし、それは君もだ。だから軽く戦ってみようっていうだけだよ」
「……」
ううむ、警戒半分ムカつき半分ってとこか。アニは基本的に煽り耐性がなく、煽ってみれば割と思うように動いてくれる。それだけ絶対的な自信があるのだろう。
「朝食後すぐに動くのはあまり得意じゃないし、僕は先に行って待ってるね」
「まだ組むなんて言ってないんだけど」
「組むさ。君は挑発を受けてそれに乗らないタイプじゃない。それが自分の得意な分野なら尚更ね。まだ数日しか話してないけどそれくらいは分かるよ」
「……」
それに、君も気になるだろ?自分にここまで言ってくる男がどこまで出来るのか」
「…はぁ。わかったよ。だけど、あんたの方が弱かったらもう二度と組まないから」
「うん。それでいいよ。じゃあお先に。早いとこ体を起こさなきゃ」
僕は前世で病弱で、運動も出来ずストレス発散の方法もなく、寝て起きてを繰り返し、時間の感覚すら分からなくなる生活をしていた。だがこれは僕の生活習慣が悪いのではなく、麻酔や鎮痛剤の副作用で常に眠気に見舞われていた為のものだ。
一日の半分以上を睡眠に費やしていた僕の血糖値が低くなるのは至極当然で、その結果起きて用意された食事を済ませる度にさらに眠気を催すという悪循環に陥っていた。なので調子が良い時や何か用事がある時は基本食事をしていなかったのだが、この世界に来て2年経った今でもその習慣は続いている。
運動をするにはカロリーを摂取した方が良いのは分かりきっているのだが、何故かこの習慣だけは何故か治らなかったのだ。
サシャを餌付けし、部屋で着替えた後、まだ誰も居ないグラウンドで軽くストレッチをしながら時間が過ぎるのを待つ。今は四季で言うところの春にあたり特段怪我をしやすいという訳ではないのだが、長期間訓練から離れたくはないので念入りに筋肉をほぐしていく中で、まだ心を固く閉ざしている少女に思いを馳せる。
原作ではキース教官に孤立気味だと評価されていたアニだが、これはいずれ殺さねばならない敵であるエルディア人と親しくすることを恐れていたからだ。
彼女達がマーレから寝返りこちら側に着いてもらうにはマーレへの帰還が絶対的に約束されなければならない。そのうえで安全の担保や今後の将来性といったカードを徐々に切っていく必要がある。
だが、この時人を殺してしまっているとなれば、彼女らの安全性を保証するのが少し難しくなってしまう。もう既に人類の3割程度を間接的に殺したライナー、ベルトルトには少し窮屈な生活を強いるだろうが…アニならばまだ間に合う。彼女はまだ誰も殺してはいないし、その存在すら知られていないのだから。
初めての壁外調査までの約3年間で、島に住んでいるのは自分達と変わらない普通の人で、これ以上殺したくないと思わせなければならない。原作でも少なからず思っていただろうがそれ以上にだ。問題は山積みだが、一つ一つクリアしていこう。
◾︎
「準備はいい?アニ」
「…早くかかってきな」
「そんなに怖い顔しない方がいいよ。せっかくの可愛い顔が台無しだっ!!」
僕の足を狙ったカーフキックを間一髪で避け、少しだけ距離をとる。これは捌けなかったらしばらくまともに動けなさそうだな。アニは…避けられたのが意外だったのか、目と口を見開いきとても可愛らしくぽかんとしている。
が、直ぐに切り替えが済んだのか即座に追撃を開始する。その攻撃たちを避けて、捌いて、距離を取ってとしていると、次第にアニの顔が険しくなっていく。おや、アニが急に距離を取ったな。どうかしたのだろうか?
「あんた…私の事舐めてんの?」
「そんな事ないさ。ただ、女の子に手を上げるのは少し気が引けるというか…」
「じゃあなんで私に喧嘩売って来たのさ。これで私が満足すると思うわけ?」
「それは…うん。思わないね。じゃあ…この木剣が当たれば僕の勝ち…って事でいいかな?」
「勝手にしな」
「じゃあそれで」
手早く会話を切りあげるや否や、アニの懐へと潜り込む。小柄なアニと僕とではかなりのリーチ差があるため、本来ならアニのリーチの外からナイフを当てれば良いのだが…少しも勝てる見込みがなかったと思わせるため、わざとアニのリーチ内に入り込み戦う
迎撃しようと攻撃を繰り出してくるが、数撃躱した所でアニから死角になるよう放った木剣を持つ右腕を、アニの首元へ添える。
「さて…これで認めて貰えたかな?にしても、やっぱりすごい技術だ。誰に教えてもらったの?」
「アンタそれ嫌味で言ってんの?」
「そんな訳無いじゃないか。君の技術が思った以上のものだったから素直に疑問に思っただけだよ。君のそれは12歳の少女が持つにはあまりに異質だ」
「…お父さんが…」
「なるほどね…じゃあアニはその技術の体現者はアニのお父さんなのか。良い家族を持ったね」
「あんたこそ、12歳の子供がしていい身のこなしじゃなかったけど…何者なの?」
「僕は出身がシガンシナだからね。故郷を失った時から開拓地へ行かずに色々してたらいつの間にか身に付いたものだよ」
「そう…」
「ねぇ、君の技術も取り入れたいし、今後も定期的に僕と組まない?」
「…癇に障るけど、あんたが強いのが分かったし、……私が体を動かしたくなった時位は相手したげるよ」
「それで十分さ。ありがとうアニ」
実際、彼女の技はかなり興味深いものだ。構えはムエタイだが所々にアレンジの効いており、面白いと思えるものが非常に多かった。彼女と定期的に技術交換が出来れば、お互いもっと技術向上が測れそうではある。
僕は物語終了まで後暗い事をするつもりは無いから体術をそこまで鍛えなくて良いのだが…もし、エレンがアニに技を教えて貰え無かった場合、最悪エレンをマーレに連れ去られる可能性がある為、僕が仕込んでやらねばならない為覚えておいて損は無いだろう。
まぁそうならない様に務めるのが僕の役目なのだが、もし仮にマーレ勢3人と協定を結べ無かった場合、ただの喧嘩自慢のエレンでは鎧を纏うライナーに手も足も出ない。
打撃による外部破壊は全く通じない為にアニの技を何度が使用していたが、その技術が無くなるということはただの餌でしかない。エレンが連れ去られるのは=バットエンド確定で、ジークによる安楽死計画が実行されてしまう。何としてもエレンには強くなってもらわなければならない。
さて、対人格闘訓練も終わり移動と少しの休憩を済ませたら、次は技巧術の訓練が始まる。技巧術とは簡単に言えば立体機動への理解度を深める為のもので、構造への理解から始まり動かし方、操作方法と続き、果てには解体、組み立てまで行う訓練だ。
基本的に僕の頭脳はこの世界では上澄みのほうではあるが、それは前世からの記憶によるもの。思考力や知識をそのまま用いているから周りと少しだけ差がついているだけで、特段僕の頭の出来が周りより優れている訳では無い。
なのでこの訓練には人一倍集中して参加する必要がある。立体機動という、前世の常識が通用しないもの。本誌で少しだけ解説が付いていたが、どれだけ読んでも、何度考えてもその構造はどこか理解しきれない部分があった。
前世の知識が通じない…もしくは不純物として邪魔になる、この世界独自の技術形態。この技術をどれほど理解出来るかどうかで今後の生存度が変わってくると言っても過言ではない。
普段は抜き身がちなジャンですら真剣に取り組んでいる事から、その重要性は見て取れるだろう。初めは僕なりの理論で取り組んでみて、ある程度月日が経ったらジャンやミカサの理論を組み込んで見ても良いだろう。前世の物理学とブレンド出来そうならしてみたいし…ようやく憧れの立体機動に移れるんだ。少しばかり浮き足立っても…仕方ないよね?