原作知識があればみんなを幸せに出来る…はず   作:UUNO

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第6話

 

 

 

寝て、起きて、訓練する。変わらない日常を続けてどれほどの年月が経ったのだろうか。細かい日付という概念が存在しないこの世界では、自分の感覚と四季の移り変わりだけを頼りに生きていかなければならない。

 

暖かくなり草花が芽吹き始めた頃、なんとなく見た新聞の年度が更新されており、それからようやく人々に口伝で広がって行き、そうやっていつの間にか年を越して行くわけだ。

 

 

 

 

 

もちろん史学に興味が無い人間は今が何年かなんて知る必要は無いし、西暦が普及され年越しという一大イベントがあった僕の生きていた時代ですら西暦が曖昧な人がいたのだから、今を生きるのに精一杯なこの世界の人達がそんなことを重要視するはずもない。とはいえ僕の中身は現代っ子。誕生日もクリスマスも年末年始すらないこの世界では少しだけ物足りなさを感じている。

 

 

 

 

閑話休題。いつの間にか何度目かの梅雨入りを果たしたようだが…はっきり言って僕は雨が嫌いだ。なんなら全訓練兵がそう思ってるはず。地面のぬかるみや視界の悪さで過酷な訓練がさらに過酷になり皆のフラストレーションが溜まるし、1人で過ごす時間が増えてしまう。

 

僕たちは訓練兵なので基本的に自分の身の回りの事は自分でしなければならない。日々のベッドメイキングや食事の準備、片付けに始まり、訓練で使った道具の整備や清掃も全てだ。雨が続くこうと雪が降ろうと訓練は行われるので、服にも道具にもベッタリと付く泥を落としたり、乾かしたりと色々と時間がとられてしまうのだ。

 

 

 

 

一人でいる時間が増えるとやはり不安になってしまう。僕は上手く立ち回れているのか。他の訓練兵と親密になれているのか。そして…本当にこれで良い方向へと変わっていってるのか。1度始まると留まることを知らずに溢れだしてくるネガティブな思考の数々に本当に嫌気がさす。あぁ。やっぱり雨は嫌いだ。

 

 

 

 

 

感傷に浸るのも程々にして、現実的な話をしよう。現状崖っぷちに立たされているパラディ島が戦争を回避するには『ジークとタイバーを丸め込み、全てのヘイトをマーレに押し付ける事』と、『島の有用性を示し恒久的な取引を取れる状態にする事』が必須条件になる。

 

 

この程度でどうにかなるとは思ってはいないけど…まぁこの2つは最低限必要だろう。覚悟ガンギマリな彼らを説得するには一筋縄では行かないだろうが、実は彼らには『同胞を守る為に同胞を犠牲にする』という肉を切らせて元を断つという共通点がある。

 

 

 

仕方なく犠牲にはしているが、犠牲を出さなくて良いなら出したくないと考えている2人だ。どうにか丸め込めるだろう。というより丸め込まなければいけない。原作でもエレンが戦争回避のために奔走していたが、結局は地ならし以外の解決法を見つけだすことが出来なかった。

 

 

 

理由は至極単純で、エレンが見る未来はこれから起きる事象だけで、そこに至るまでマーレでは何があり、何を考えていたかまでは分からないからだ。分かりやすく言うなら答えは分かるけど途中式が分からないってとこかな。だから途中式まで完璧な僕と協力する事で未来が変わる可能性が増える……かもしれない。

 

まだ可能性があるかもしれない段階だからね。今の僕が出来ることなんてたかが知れてるし、さしあたっていずれ協力関係になりパラディ島を守るエレンとの関係をちゃんと築かなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。とつぜんだが、僕は基本的にバレたくない事は隠し通すべきだと思っている。何を当たり前のことを急に言いだしたのかと思われるかもしれないが、案外これが大事な事だったりする。

 

 

どれだけ僕が信頼を得るに値する訓練兵だとしても、ほんの少しでも詰めが甘ければそれだけで僕への不信感は増していく。特に誰も彼も疑心暗鬼になってしまう物語中盤では尚更だ。そこで僕が怪しい素振りを見せようものなら即地下牢行き。良くて処刑悪くて拷問だろう。

 

 

エルヴィン団長は基本疑わしきは利用するというクレイジーな思考をしているので割となんとかなるかもしれないけど…彼以外はそうとも言えない。兵長なんかは最悪だ。だから、バレたくない事…僕ならば、原作知識の事は隠し通さなければならない。

 

 

だけどもし、不審に思われるような動きをしてしまったり、情報を漏らしてしまった時は…むしろ不信に思えなくなるほどの情報を与えるのも手だと思っている。怪しかろうがなんだろうが、『人類にとって有益である』と分かりきっている人材を簡単に切り捨てるほどのバカは調査兵団にはいない。

 

 

それに、原作ではマーレ勢を返り討ちにして超大型と女型を何とか勝ちとり、マーレの軍事力は低下したと周辺諸国に思わせる事でパラディ島へのちょっかいは後回しにされるようになっていた。という事はマーレ勢をこちら側に寝返らせる事が出来れば…あるいはパラディ島内に捕らえる事が出来れば、ある程度は辻褄合わせが出来るって寸法だ。まぁ、それでも原作では3年間で駆逐艦含み32隻を島へ送り込んで来てたけど。

 

 

 

「おはようアニ。今日もよろしくね」

 

「…はぁ。良く飽きないねアンタ」

 

「ん?なにが?」

 

「毎日毎日私に絡んできて…別に面白くないでしょ。こんな女とつるんでたって」

 

 

「そんな事ないよ。君と話してるのが1番心地いいから僕は少しの時間でも君と過ごしてるんじゃないか。それに…こんなにのんびりしてられるのも今のうちなんだし、したい事はしとかなきゃね」

 

 

「……そう」

 

「にしても、変わったね。アニ」

 

「変わった?どこが?」

 

「なんというか…柔らかくなったかな?」

 

「……は?喧嘩売ってんの?」

 

 

 

え?いや、別に喧嘩は売ってないんだけど…訓練兵団に入団したばかりの研ぎ澄まされた眼光とか随分柔らかくなったねって言ったのに

 

 

…あ、あれか。遠回しにちょっと太った?って言われたとでも思ってるのかな?太るわけないだろあれだけ毎日体を動かしているのに訓練兵の残飯みたいな食事しか取ってなくて。

 

 

せっかく設備もメニューも整っているのに肝心の食事があれだと筋分解で逆に細くならないか心配なくらいだ。

 

 

 

 

「あぁ違う違う。身体じゃなくて中身がね。雰囲気が随分柔らかくなったなって。心配しなくても君の身体は美しいままだよ」

 

「よくそんな歯の浮くようなセリフ言えるね…こんな何も考えてなさそうなやつが寄ってくるから能天気が移ったのかもね」

 

「別にお世辞で言った訳じゃないからね。しなやかで強い機能美に優れた芸術品とも思えるくらい美しい体だと思ってるよ」

 

 

「はぁ…どうも。下心で言ってるんじゃないのが逆に気持ち悪いね」

 

「別にないとは言って無いんだけどね」

 

「……!!?」

 

 

 

 

あ、アニってそんな顔出来るんだ。ちょっと新鮮で面白いかも。実はアニって結構顔芸できるんだよねぇ…パイ頬張ってた奴とかエレン奪還の『私が賭けたのはここからだから』とか。でも、あの時に比べて今はかなり余裕が無い時期のはずだ。

 

 

作中終盤は『始祖を奪還しマーレへ帰れる可能性』と『エレンを止めるためマーレへ帰還する』という父の元へ戻る口実があり、少なからず余裕が出て来たからだと思うけど…まだなんの手がかりも掴めずにただひたすら月日だけ流れていっているこの時期の彼女がこんな豊かな表情を見せてくれるのはまぁ、良い傾向だと言って差し支えないだろう。

 

 

 

「だから嬉しいよ。僕は君に…君たちに笑っていて欲しいんだ。たかだか十年と少ししか生きていない子供が命を賭して戦わなきゃなんて悲しすぎる。みんなが平和な世界で愛する人と暮らして欲しい。その為に僕は兵士になったんだから」

 

 

 

「……そりゃ随分…ご大層な動機だね。でも、生まれて十数年しか生きてないのはアンタも同じでしょ。そんな奴が1人で背負うには荷が重そうだけど」

 

 

「うーん、卓越した何かがある訳じゃないから割と替えがきいちゃうんだよね僕って。だからまぁ…潰れちゃったら誰かしらに引き継いでもらうよ」

 

 

「…それじゃアンタは」

 

 

「捨て駒みたい…って思った?」

 

 

 

「っ!……自覚があるなら…好きにすれば?」

 

 

 

「あ、おーい!アニ!ご飯まだ残ってるよ!…ったく、ちゃんと食べなきゃ筋分解するってあれだけ… いや、口に出したことは1回もなかったか」

 

 

捨て駒。マーレから受けているエルディア人の扱いだ。『僕』という存在と『マーレの戦士』の境遇を少しでも似通わせてマーレから長年受け続けてきた洗脳を解くのが目的だったけど…彼女との関係もあってか効果てきめんみたいだ。

 

 

さて、確認しておくが…僕はさっき情報は徹底して隠し通すか、全てさらけ出すべきだと言った。だがそれは巨大な組織や自分ではどうしようもない相手に限った事だ。僕が壁外調査に参加しているのならいざ知らず、訓練兵3人に疑われたところで何も出来やしない。

 

 

せいぜいカマかけくらいが限度だろう。それも、僕がハズレだったとしても問題ないような。彼らにいくら情報を小出しにしたところで、疑問は疑問のままで終わる可能性はかなり高い。もし巨人の力を使おうものなら二度と壁内には戻って来れないし、最終手段である残りの壁を壊し大量虐殺という手を取らなくては行けない。

 

 

いくら島の悪魔だ何だと言った所で、まだ15にも満たない少年少女達だ。数百万にも及ぶパラディ島の総人口相手に殺戮の限りを尽くす決心はそう付かないだろう。僕が始祖である。もしくは始祖について何かしらの情報を持っていると確証が取れるまで動きたくないのも当然だ。

 

 

 

もし仮に行動に移してきたとしても、超大型は捕獲に向いていないからベルトルトは巨人化出来ず、持久力の劣る鎧も出来る限り使わずに手札として残しておきたい。必然襲ってくるならバランスの取れた女型なのだが、流石に巨人1体に捕まるなんてへまはしないと思いたい。

 

 

 

 

 

 

まぁなんにせよ、ようやく原作とのズレが生じてきたってとこだ。

本来進撃の巨人の世界では過去と未来もなく同時に存在する。過去が変わると未来が変わる訳ではなく、過去を変えたことでパラレルワールドが生じる訳でもなく、未来からの干渉を前提に世界が進んでいく。

 

 

 

本来であれば一方通行のはずの『時間』という概念を、始祖の巨人だけは多方向に影響を与えることが出来てしまう。何が言いたいかと言うと、『ベルトルトが喰われる』という過去を『ベルトルトを無視しカルラを喰う』という過去に変えたのではなく、元々ベルトルトが喰われる過去など存在しない。

 

 

何故なら、未来のエレンが過去のダイナ巨人に干渉し、ベルトルトではなくカルラを喰わせる事は決まっていて、その結果今があるから。これがエレンの言っていた始祖の力は過去も未来もなく同時に存在するという力の正体だ。この力があるせいで、本来なら進撃の巨人において原作崩壊などは起こりえない。

 

 

そう…本来なら。例え何百何千と繰り返しても同じ歴史を辿るはずだったこの世界で、僕というイレギュラーが加わった事により複雑に入り組んでいた過去と未来が交錯し、本来辿るべきはずだった歴史から乖離している。

 

もし、始祖の力を手に入れたエレンですら僕に干渉できないのなら…考えうる限り最高な展開だと言えるだろう。雨で沈んでいた心が少しだけ晴れやかになるというものだ。

 

 

「どうしたの?リアム。嬉しそうな顔して」

 

 

「ん?ちょっと世界の真理について考えてたんだ」

 

「それはまたなんというか…壮大だね!」

 

いやぁ可愛い。演技だとわかっていても可愛らしいものは可愛らしい。餌を貰う時だけあざとくオネダリするペットが可愛いのと同じだ。まぁ、だからといって狂信的に彼女を推すなんてことは無いが。

 

 

「でしょ?僕ってばこの狭い壁の中で収まる器じゃないからね。大空へ羽ばたいていかなきゃ」

 

「そ、そうだね!私もそう思う!」

 

 

「おいお前。クリスタに余計なこと吹き込むんじゃねぇよ」

 

「あぁユミルか。人聞きの悪い事を言わないでくれよ。それじゃまるで僕が純粋なクリスタを騙して誑かしてる小悪党みたいじゃないか」

 

 

「そう言ってんだよ。ほら行くぞクリスタ。こんな奴とつるんでたら私たちまでイカれちまう」

 

 

「ユミルったらそんな失礼なこと言わないの!確かにリアムはちょっと変わってるけど…それもリアムの良いところじゃない!」

 

 

「精一杯のフォローをありがとうクリスタ。でも大丈夫だよ。僕は今めっぽう機嫌が良いんだ。罵詈雑言なんでもござれだよ」

 

 

「…ほ〜う?」

 

 

「こらユミル!乗らないの!リアムも挑発しちゃだめでしょ!!」

 

 

あぁ、平和だ。1番コンタクトを取る必要があるエレンとの絡みが就寝前の少ししかない事を除いては全て順調だと言える。…1番大事な事後回しにしてたな。もっと積極的に行かなきゃ。さぁ、ようやく下準備も大詰めだ。何としてもこの仮初の平和を守らなくちゃね。

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