…お、ようやくエレンが目を覚ましたみたいだ。結構寝てたなぁ。取り囲んでる駐屯兵団の先輩方とミカサがもう爆発寸前だ。まだ睨み合ってるけどいつ動きに出てもおかしくないピリピリとした緊張感が漂っているのがわかる。
その空気に耐えられなかったのか、それとも恐怖に勝てなかったのか。キッツ隊長がエレンの正体を問う。人間か巨人か。
…全く意味のない質問だ。人間と答えようが巨人と答えようが、壁内人類の味方だと証明出来ない今のエレンが何を言っても怪しく思えてしまう。どうあっても砲撃をするとキースが決めている以上、どれだけ完璧に証明しても砲撃は免れないだろう。
まぁ、巨人の情報が何も無い状況だとそれが正しいのかもしれないんだけどね。
さて、しばらく駐屯兵団とエレン達の探り合いが続いたが、我慢できなくなったキッツ隊長がゆっくりと上げた腕を…勢い良く振り下ろす。一回目の砲撃だ。すると間髪入れずに巨人の上半身が出現し、砲弾を防ぐ。
…1回目の砲撃は無事に防げたみたいだ。正直エレンの体力を考慮してこの砲撃も僕が防いでおきたかったが、彼に『巨人の力』というものをちゃんと認識してもらうために少し危ない橋を渡ってもらうことにした。これからトロスト区奪還作戦時に巨人化できなかったり意識を取り戻せなかったりしたら困っちゃうからね。
原作だとアルミンの演説のあとキースが2度目の砲撃をしようとしたところにピクシス司令が現れるはず。アルミンの作戦に興味を持ったピクシスがキッツを止めてくれるのだから、間に合わなければエレンは助からない。…エレンが随分と寝こけてたから巻いたぶんの時間取り戻したかと思ったけど、まだピクシスが現れる様子はない。
「つまり巨人は彼のことを我々と同じ捕食対象として認識しました!!我々がいくら知恵を絞ろうともこの事実だけは変わりません!」
ピクシス司令が現れるより先にアルミンの演説が始まってしまった。何をしてるんだあの爺さんは。どこを見渡しても人が近づいてくる気配すら感じられないじゃないか。……うーん、一応様子見…かな?
「人類の栄光を願い!!これから死に行くせめてもの間に!!彼の戦術価値を説きます!!」
とうとうアルミンの演説が終わってしまった。見事な敬礼姿勢を保つアルミンに対し、キース隊長が先ほどよりもすこし遅いペースで腕を上げていく。彼にも少し思うところがあるのかもしれない。…お、ようやくピクシス司令らしき人影が近づいて来た。まだだいぶ距離が離れているけど…このままいけばまず間に合わないだろう。もうちょっと悩んでくれよキース。そしてもう少し急いでくれピクシス司令。もう少しで壁内人類の希望が無くなるんだぞ…はぁ。仕方ないなぁ…僕が時間を稼がなきゃいけないやつ?これ。エレン達から変な目で見られるようになったらどうしよう。恨むぞ爺さん。
「全く…図体の割に子鹿のように繊細な男だという噂は本当だったみたいですね。キース隊長!」
「っ!だ、誰だ貴様は!!」
「あぁ失敬。あまりにも滑稽だったのでつい…私はリアム・スコット。彼らと同じ104期訓練兵所属の兵士です」
「訓練兵だと…!貴様もヤツらの仲間ということか!」
「まぁ同期ですからね。彼らとは切磋琢磨して競い合った仲ですよ」
「隊長…彼も報告に上がっています。なんでも、補給班本部に群がっていた巨人のほとんどを一人で掃討する実力を持つとか。…彼もミカサ・アッカーマンと同程度の実力者と見て間違いないでしょう」
「…そうか。だが!こやつらの仲間だと言うのなら貴様も粛清対象だぞ!」
「これだから駐屯兵団はまともな兵士が育たないんですよ。あなたの下じゃ優秀な兵士も腐ってしまう」
「貴様…口を慎め!上官に向かって!!」
「彼は巨人の力を使えばトロスト区の奪還も夢では無いと言いました。それに対しあなたは砲弾で返事をした。巨人に勝てるかもしれない希望を自分から手放そうとするなんて、滑稽と言わずになんと言いましょうか。」
「…私は規則に従うまで!規則に反するものは誰であろうと排除する!それだけだ!」
「今重要なのは規則を破った者を粛清することではなく、トロスト区の奪還でしょう?それにあの大岩を掘り返す作業で分かったはずです。必要なのは非力な数より強力な個…つまり、巨人の力…なんじゃ無いですか?」
「…全く。あの者の言う通りじゃ。」
「ピクシス司令…!!」
「今 着いたところだが状況は早馬で伝わっておる。お前は増援の指揮に就け。ワシは…あの者達の話を聞いた方がええ気がするのぅ」
ようやく来たか。…くるのが遅すぎると思っていたが、どうやらそうでもないかもれしない。よくよく考えてみれば僕の介入のせいで撤退命令が少し早まった可能性がある。おおかたリーブスが訓練兵が前線で戦っていると聞いて僕の為に積荷を退けてくれた…というところか。その結果僕が少しやばいやつを演じなければいけなくなったが、まぁ僕の不始末だからしょうがない。
さて、第二関門も無事に突破した。残るはあと一つ。穴を塞ぐだけ。あとは出来るだけ少ない被害で乗り切るだけだ。…やってやる。
■
トロスト区奪還作戦の説明のために兵士が集まって来た。…心が折れているものも少なくない。不満を漏らす声も次第に大きくなっていく。彼らを死なせるわけにはいかない。彼らのためにも。彼らの帰りを待つ人のためにも。
…ピクシス司令の演説が始まった。壁の下に集められた兵士たちの不満の声がより大きなものになる。しかし作戦上彼らに危険が迫ることはない。そのことを彼らに伝えれば何の問題もないのだが…
「ワシが命ずる!!今この場から去る者の罪を免除する!!」
「な!?」
「一度巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん!巨人の恐ろしさを知った者はここを去るがいい!そして!その巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟、愛する者にも味わわせたいものも!!ここから去るがいい!!」
「それだけはダメだ…それだけは…させない。娘は…私の最後の…希望なのだから」
あの爺さん、中々にむごいことをする。彼らの愛する人を守りたいという心に付け込んだ方法…あまり褒められた行いではないが、たしかに一度散りかけた兵を集めるにはこれしかない。
…何があっても彼らは死なせない。彼らのことを待っている人がいるのだから。僕が彼らの盾となり矛となろう。彼らの愛する人を守りたいという気持ちは本物なんだ。
どこにでもいるような平凡な僕は昨日の夜に置いて来た。これから先はもう妥協なんてしない。完璧な勝利を収めてやる。
「アルミン。作戦を練っているところすまないが、少しいいか?」
「リアム?何かいい作戦でも思いついたのか?」
「あぁ。とびきりのやつを思いついた。」
「とびきり?」
「そうだ。…僕がエレンを守る。だから他の兵士たちは巨人の足止めをしててくれ。」
「何だ…それは…君は自分が何を言っているのかわかっているのか!それはもう作戦と呼んでいいものじゃない!!ただの自殺だ!」
「いや、違うな。僕ならそれが出来る。出来なければこんな作戦を提案したりしない。それに補給班の本部に群がっていた巨人を誰が処理したのか、君だって知ってるだろ?」
「たしかにそうだけど…」
「…ならこうしよう。少数精鋭部隊は付近の壁上で待機。常にガスや刃を補給する準備をしておき、僕が危ないと思い次第増援を送る。どうだ?これなら君も納得してくれるだろう」
…アルミンが必死に頭を捻らせている。流石のアルミンでも僕の発言の意味がわからないのだろう。まぁしょうがない。昨日まで平凡な訓練兵だった人間がこんな提案をして来たら誰だって混乱する。
「……君が無謀なことをしないのは知ってる。そして無意味なことを言わないことも。だからこの作戦には何か意図があるんだと思う。僕にその意図はわからないけど。それに、目的は分からないが君が本当の実力を隠していた。僕は君がミカサと同等以上の力を持っていると思っている。だから…君のことを、信じてみることにするよ」
「理解が早くて助かる。やはり君は頭がいい。…たしかに、ミカサとなら共闘してもいいかもしれないな。実力が僕に近いし、何より…彼女はまだ死にそうにない。」
「わかった。じゃあ君とミカサでエレンの守護。その他の精鋭達は壁上で待機。そして残った組の中でも腕利きのものが立体機動を駆使して対角線上の壁に巨人を引き集め、足止め。これでいいかい?」
「あぁ。十分すぎるくらいだ。ありがとう。アルミン」
良し。これでおそらく死者は出ない。壁に引き集める段階で死ぬ兵士が出てくるかもしれないが…駐屯兵団の精鋭達は見た感じ動きは悪くない。そうそうのことでは通常種に後れを取ったりしないだろう。
さて。作戦は練り終わったし、次はエレンに話しかけねば。
「エレン。ちょっといいか?」
「あぁ。リアムか。何だ?」
「エレン。石を持ち上げる時は、頭の中で強くそのことを意識するんだ。そして、何があっても君が自由を欲した理由を忘れるな。強い精神を持て。巨人の力になんて…死んでも負けるなよ。」
「…!当たり前だ…!」
「それでいい。君の肩には文字通り何千何万という人の命がかかっている。それだけは肝に銘じておいてくれ」
「あぁ……!!」
僕がエレンにみせるはじめての表情に少し驚いた様子だったが、どうやら真面目に聴いてくれたようだ。これでエレンが暴走しなければいいんだが…そううまくいくだろうか。
あまりエレンの復帰に時間をかけてしまうと僕だけはエレンが守りきれないと思った人が飛び出してくるかもしれない。そうなってくるとそこから何人の人間が死ぬかわからないため、あまり時間はかけたくない。不安は募るばかりだ。
…よし。着いた。ここからはただ無心で巨人を殺していくだけだ。シンプルでとてもわかりやすい。
「いくぞ!!エレン!!ミカサ!!」
僕の掛け声に続いて二人が返事をし、壁から飛び降りる。岩の前でエレンが自身の手を噛む。…良し!ちゃんと意識を保っている!
ここまでくればあとは楽勝だ。作戦通りミカサはエレンの付近の巨人を。僕は通り道の近くにうろついている巨人のうなじを削ぎ落とす。
最速かつ最短のコースで巨人に近づき、刃を振り下ろす。単純な作業だ。多少体に負荷はかかるが、5年間で鍛え上げられた僕の肉体はそう易々と悲鳴をあげたりしない。
何分経っただろうか。エレンが市街地を通り抜けてようやく開けたところに出て来た頃に、少しガスと刃が減っていることに気がついた。最後の最後でガス欠になるなんて間抜けな真似をするわけにもいかない。さっさと補給してしまおう。
「ガスと刃の補給お願いします!」
「すごい…」
「あなた…ほんとに訓練兵なの?」
「そんなことより早く!!」
「え、えぇ!」
…エレンに巨人が集まってきたな。開けた場所は少しだけ戦いづらいが、巨人を建築物に見立てたリヴァイ兵長を見習うとしよう。
…!あれは…ミタビ班!何でこんなところで呑気に歩いてるんだ!
「訓練兵にばっかカッコつけさせられるか!」
「こっち向けコラッ!」
「こっち向かねぇとそのくせぇケツに刃ブチ込んで殺すぞ!!」
「来た!!1体かかった!!」
「走れ!建物まで走れ!!」
あの巨人が彼らに追いつく前に殺さないと!!…危なかった。間一髪だ。
「こんなところで何をしてるんですか!!早く壁上に戻ってください!!」
「お前だけに危険な役目を押し付けたりしねぇよ!!」
「そうだ!お前ももう限界なんだろうがお前こそ壁上で休んでろよ!!」
「何を言ってるんだっ!死にたいのか!!」
「それはこっちのセリフだ!お前…血塗れじゃねぇか!!」
…血塗れ?…あぁ、多少無理な動きを続けたせいで皮膚が裂けて、軽く血や肉が出てきているだけだ。なんてことはない。こんなの、怪我のうちにも入らない。そんなことより「うわぁぁ!」…!くそ!気を抜きすぎていた!あんなところにも巨人が!
「間に合えっ!」
「や…やめろ!…いやだ!まだ死にたく…」
…僕の目の前で、人が死んだ。間に合わなかった。僕が死なせてしまった。
「…くそっ!」
僕のせいだ。僕が無駄死にさせてしまった。…いや、無駄死にというのは失礼だ。彼の死を意味のあるものにする事が出来るのは僕しかいない…見ていてくれ。名も知らない君の無念は必ず僕が晴らしてみせる。
「い…いけえぇぇエレン!!」
…どうやら壁は防ぎ終わったらしい。…黄色の煙弾が打ち上がっていく。エレン達に二体の巨人が近づいていくが…あれは彼に任せよう。人類最強の兵士であるリヴァイ兵士長に。
…殉死一名でトロスト区奪還と言えば聞こえはいいが、一名出してしまった。なんて情けない。彼の死体はもう人に見せれる状態ではなくなっているだろう。…遺族に合わせる顔がない。
…犠牲者は出してしまったが、まだちゃんと原作通り進めている。次、大量の命が失われるのは…壁外調査のアニとの対峙か。
リヴァイ兵長が壁から降りてきて、瞬きする間もなく2体の巨人を殺していく。憂鬱な気分で目にした自由の翼は…僕にはすこし、眩しかった。
「オイ…ガキ共…これは…どういう状況だ?」