機動戦士Gundam GQuuuuuuX 白い深淵 作:楽園の主
◆ソドン◆
ある日、ソドンの巡航中。
《アズサ、着艦。》
管制室の隅に置いてある小さな箱状の機械。
それが、カシュ、と起動したあとそんな機械音声が繰り返し何度か流れた。
その直後管制室の前に、1機のザクが現れる
ビッ、と指でサインを送ったあと、スラスターで推進力を得て、ハッチの方向へと移動した。
「あ、帰ってきましたよ。」
ラシットがため息をついてはいるが、驚いた様子は無い。
驚いていないのはほかのメンバーも同じ。もう日常に近いようだ。
その後すぐに警報音が響き、ハッチが開く。
ちら、とモニターを見れば確かに1機のMSが着艦していた。
「もう慣れましたね。」
「こう何度も起きるとな。"あれ"もあるし。」
ちら、と先程アズサが着艦することを音声で知らせた箱状の機械に目線を送る。
初めは警報音がなんの前触れもなく鳴り響いた時は何事かとみな驚いたものだ。
蓋を開けて見ればその警報音はハッチが開き、ザクが発艦したということ。
そしてメンバーを見るにアズサが何らかの方法で自らハッチを開き、勝手に出て行ったのだと発覚。
次に帰ってきたのは数週間後だったが、その時に叱ってやろうと思ったラシット。
「何か言うことがあるんじゃないか?」
「?ああ、ただいま。」
目を細め、口角を上げて平然とそう告げたのに頭を抱えたことも衝撃的すぎてもはや記憶に新しい。
当時近くにいたシャリア・ブル中佐は笑っているだけだったし、その他のソドンクルーにアズサへなにか言える人間は居なかった。
せめてわかるようにしろ、と注意にとどまった。
その後は管制室に置かれた箱状の機械が発艦、着艦を宣言してくれるため、予知できるようになったと。
余談だが、こんなやつをこれからずっとソドンに乗せなければならないのかと、当時ラシット艦長の酒の量がしばらく増えていたらしい。
「最近、よく出ていってますね。」
「なんでもサイド6に行ってるそうですよ。」
ぽつぽつと、アズサの噂話をするソドンクルー達。
シャアに連れられてきて、功績をしっかり残した白い深淵。
彼女の噂は絶えなく、飛躍した話も多々ある。
片目を隠した仮面の下の目を見たら洗脳されてしまうとか、よくサイド6にいくのはそこを裏から支配してるからだとか、人体実験をしてるとか、ジオン軍ではない軍隊を私有してるとか、実は人間では無いとか。
他にも様々存在する。
しかし、その目線は悪いものが多いが、それだけだと言うという訳では無い。
開発にあたる常識外れの発想、それを実現させるだけの確かな腕。
ジオンの士官学校を出たわけでもない、それらと実績だけで少佐まで登り詰めた。
領域外の存在だとまで言われる彼女に、技術士として尊敬する目線もある。
そこまで行けばもはや信仰では、という程の思いを持つ者もいるとか。
(実際に近くに置くと……。)
自由に動く暴君。それでありながら仕事はこなすし、ルールを逸脱することは無い。
制御をすることを諦めるしかないとすら思えてしまう。
シャア大佐はよくこれを制御出来たものだ、とラシット艦長は常々思っている。
「いつも思いますが、本当に大丈夫なんですかね?」
「……仕事の放棄、ルールの違反。それをしない限りは放っておく方がいい。」
むしろ彼女の道を阻まない方が思いもよらない益に繋がるものだ。
巻き込まれないようにして、最低限上官としてやるべきことはやる。
そういうこと。
「まぁ、ジオンの資金源のひとつとなっていますしね。」
ははは、と笑いながらシャリア・ブル中佐はそう言った。
つい先日、ジオン軍にて公式に情報が出たが、アズサはサイド6にて会社を興したそうだ。
"ダイオロートラース"という名前らしく、そこで得た資金などの1部をジオン軍の資金源などとしていると。
「ともかく、放っておけ。」
「はーい。」
穏やかな雰囲気で、その話題を終えた。
ちょうどそのタイミングで。
「今帰った。」
シュン、と管制室の扉が開いた。
「どうですか?最近は。」
「特別なことはなにも。シャリィ、土産がある。」
「それはいいですね。後ほど頂きましょう。」
シャリアとアズサが会話している。
ちら、とそちらをラシットが見ると。
(また増えているな……。)
アズサは常に完全武装でいる。それこそ、武装した姿が当然となるまでに。
聞く話では、自室や風呂ではさすがに外すようだが、1番仲がいいとされているシャリアの前ですら外さないらしい。
前腕、背中、片目を隠す仮面、尾のような機械、とそれはそれは物々しい風貌だ。
背中に背負われたバックパックのようなそれの、下部に装飾が増えている。
またアズサの事だ、妙な開発なのだろう。
(戦争も終わったというのに……。)
本人曰く、か弱い女性の身だからなどとは言っているが明らかに過剰だ。
(なにと戦うつもりなんだか。)
確かに、戦争が終わってからキシリア派かギレン派か、などと言う話もあるが。
ソドンの中でくらい、と思ったこともないではない。
誰も信用していないということなのだろうか。
再び、ラシットの口からはため息が漏れた。
「ラシット艦長。」
「ッ!!……なんだ。」
「貴女にも土産を。先日、たしか嗜好品が残り少ないと言っていた気がしていましたので、そちらを。」
考え事をしていたところに話しかけられた、そして距離が近かったため驚いたラシット。
こういった律儀な所はあるのがアズサだ。
「それは助かるな。そろそろ買いに行こうとは思っていたところだ。……ふむ、見たことがないものだが?」
「サイド6で広告としてよく流れてくるものです。合わないようでしたら、こちらで処分致します。」
「すまないな。」
上がった口角、真意の読み取れない瞳。
人でない何かが人の振りをしているような、そんな感覚。
完全武装にゆらゆらと揺れる尾のような機械、それが人外感をさらに助長させる。
「それでは、到着まで私はソドン内のMSの整備をしている。何かあればそちらに。」
そう言って、再び管制室から出ていった。
いつまで経っても、彼女の相手は慣れない。
「キシリア閣下に呼び出されたんでしたっけ?」
「え、アズサ少佐が?何したんですか?」
「そうではない。問題があったわけでなく、キシリア様の個人的な話らしい。それも1対1でな。」
それ故にサイド6まで迎えに来たわけだ。
本来ならば入港して彼女を待つつもりが、思ったより早く彼女自ら来てしまったが。
どうか、どうか何も無く終わってくれ。
そんな思いで、ラシットは背もたれにもたれ掛かり、大きなため息をついた。
「そんなにため息をつかれては、幸せが逃げると言いますよ。」
「そう思うなら、もう少し利口になるように中佐からも言ってやってくれ。」
「ははは、私が言って止まる程度なら、我が軍は戦争に負けていますよ。」
ラシットは、頭を抱え、苦虫を噛み潰したような表情で再びため息をついた。
*
◆グラナダ◆
とある場所、応接室にて。
「改めて、先の戦争での功績、見事だった。」
「身に余る光栄です、キシリア閣下。」
ガシャと機械の音を小さくたてながら頭を下げた。
その後、椅子に座るよう指示。長い机に対面するように2人は座った。
「席を外せ、この者と二人で話しがしたい。」
完全武装の彼女をちら、と見たあと、それに短く返事をして側近であるアサーヴ中尉は部屋から出た。
「よろしいのですか?目の前の女は、完全武装ですが。」
「本人が言うなら世話は無い。そう思うなら外せ。」
ふっ、と小さく笑う彼女。言葉を聞いてなお、アズサはそれを外そうとしなかった。
「Iフィールドを用いた作戦からMSの開発、サイコミュの改良に新型のサイコミュの開発。随分と我が軍に功績を残してくれた。それだけに留まらず、実戦投入に至っておらず、情報も出回っていないだけでいくつも武装を開発したそうじゃないか。」
「思いついたものを形にしているだけです。皆も頭に浮かべるくらいはするでしょう、それを私は行動に移し、手元に作り上げただけにすぎません。」
「それを褒めているのだ、誰にでもできるということでは無い。概要は聞いている。誰も見たことがないようなものを、僅かな間に作り上げている、と。」
Iフィールドの作戦に、ビグ・ザムの改良案。
それもわずか一日でまとめた。
サイコミュ改良についても、着手から実戦投入までの期間が異常なまでに短い。
加えて、実戦投入時の性能について、まだ改良の余地がある、と告げたことを聞いていた。
「当時の整備士が判断した通り、常人ならあれで完成系と考えても過言でないほどのものだった。私が見てもそう思う。」
そして、実戦投入されていない武装に関してもだ。
その数、突飛な発想、見たこともない機構。
それを短期間で作り上げ、それも取り外したり戻したりできるようにしている。
まるでイタズラ程度だ、と言わんばかりに。
その知識量たるや。
「まるで異世界の技術、もしくは未来の技術を、初めから知っているかのようだ。」
その言葉を聞いても、アズサの薄く笑った表情は揺るがず、黙したままだ。
キシリアは続ける。
「ジオンに登録されている資料、これは全てシャアが作りあげたもの。出生不明、来歴不明。どこからともなくいつの間にか軍内にいた。……まるで霧の中から現れたかのようにな。」
なおのことアズサから返事はない。一瞬、無が空間を支配した。
「私自身の発言がおかしいことはわかっている。だが、ゼクノヴァがあった今それを否定できまい。」
ゼクノヴァが起き、シャア大佐は赤いガンダムと共に消失した。
馬鹿げた話だが、これを"転移"だと考えるとすると。
別の場所、もしくは別の世界でゼクノヴァが起きて、アズサがこちらへやってきた、という考えもできないことは無い。
「何者だ。……アズサ・フォーリナー。」
「……いつの日だったか、"彼"にも同じことを問われました。最も、彼はもっと直観的なものでしたが。」
やはりか、とキシリアは顔を顰める。
そこに関しては、確証があった訳では無いが、なんとなく想像はできていたことだ。
「ゼクノヴァによって、というのは部分的に否定しておきましょう。」
「……そうか。」
他の世界から来たということは否定しないのか、と思い、キシリアは厳しい目線を深める。
とはいえ、貢献したのは事実。
さらにいえば、月面のグラナダにソロモンが落ちそうになった時、それの軌道をそらす作戦をシャアが立案した。
その、要となる爆破機構を即席で強化したのも彼女だ。
「……何故シャアの元に?フォーリナー。」
「面白そうだからですよ。今では、シャリィ……いえ、シャリア・ブル中佐も面白そうな人だと、そう認識しています。」
(言葉通り、本当に楽しむためにここにいるのか……。)
で、あるなら彼女の立ち位置というのが揺らぎやすいことの証左でもある。
何を持って楽しむなのか、ということはもうさておいて、だが。
そう思えば、少なくとも、彼女はギレン・ザビ側の人間ではなく、自分の敵では無いのだろう。そう、キシリアは判断した。
味方か、と言われれば判断は難しい。現状はシャア、そしてシャリアの傍に位置しているため、味方に近しいだろう。
加えて、頂点に立とうとするような意思も感じない。
キシリア自身の直感を信じるなら、これはもう、放し飼いの方が扱いやすいのだろう。
同時に、過度に干渉しなければ、敵ともなり得ない。
付かず離れずの距離で、自陣の上に立たせておくだけ。
それでいいのだろう。
信頼、と言うには少しか細いものだが、疑いを持つほどではない。
(しかし、できるだけ監視は必要か……。)
キシリアは忘れもしない。
ゼクノヴァが発生した後の、彼女の言葉を。
─やはり面白いな─
そんな言葉を。1歩間違えれば彼女一人で人類の存亡を左右する可能性がある。
野放しにして、妙なものを開発されればその確率が高まる。
全く、どこまで何が見えていて、何を知っているのか。
「──すまないな、脅すような形になってしまった。」
「それだけ抱えるものが大きいことは理解しています。」
それから、一言二言雑談をした。次は、軍のことなど関係ない無駄話を、少しだけ。
最中にも、興味深い話をしていたアズサの言葉を、キシリアは逃さず記憶する。
いい時間がたち、話のいい切れ目でアズサを退室させることにした。
立ち上がり、この場を去る彼女に。
「最後に。……シャロンの薔薇。それについてなにか?」
随分と含みの多い言葉だ。この言葉では、何を聞いているのかわかったものでは無い。
その質問に、アズサは────
*
「結局、なんの話なんですかね。キシリア様が自らなんて。」
ソドン内にて、コモリはぽつりとそう会話を切り出した。
「さぁ……。でも多分Iフィールドとか、サイコミュがとか、そういう話だろ。」
きっと功績についての話だろうとエグザべは推測し、彼女に返答した。
事実、間違ってはいない。
アズサとキシリアの話が終われば、ソドンはまた、アズサを迎えて別の仕事へ向かうことになる。
それ以外にソドンクルーはグラナダに用が無いため、実質休憩時間だ。
とはいえ、中佐である2人は片方が艦長なこともあり、報告などがあるのか待機だと言い残して出ていった。
その2人以外の人は、現在はソドン内にて、のんびり過ごしている。
悪いことしてたりして。なんてセリフをぽつり。エグザべは苦笑いで答えを濁した。
(おそらく、見極めるため、なんだろうな……。)
言葉には出さないが、エグザべにはなんとなくそう察した。
そりゃあ、素性が不明すぎて怪しみもするだろう。
本人の性格や行動が目立つだけで、細部を見れば怪しいところだらけだ。
じゃなければ、こんな形での話にはならない。
「まぁ私らもあんまり知らないしね、あの人のこと。」
アズサは仕事以外に関していえば、関わるのはほぼシャリアのみ。
事務連絡や仕事に関してはもちろん他者と関わるが、そうでない時はだいたい自室か格納庫、もしくは勝手に占領している空き部屋にいる。
ソドンにいる時は、だが。
アクションをしかければそれなりに答えてくれはするが、彼女からアクションをかけられること、というのがあまりない。
仕事としては知っているが、趣味が何かとか好みが何なのかとか、そういったことを知っている人は少ないという。
「あ、これアズサ少佐の別室じゃない?」
別室、とは言っても空き部屋をアズサが勝手に占領してるに過ぎないが。
わざわざ狭いソドンの中の一室を占領している事になんとなく不満はあるが、功績が功績だけに許されている感が否めない。
「何があるんだろね。」
「さぁ。機械好きっぽいし、そんなのばかりじゃないか?」
機械好きじゃなきゃ、MSをずっと"触って"いたりしないだろうし、開発だってあそこまで思いつくわけも、上手くいくわけも無いはずだ。
「開いたりして。」
「おいバカやめろって……!」
ロックはかかっているだろうが、開けようとする行為そのもの、それは人によっては咎められる行為だ。
ニシシ、と笑いながら冗談交じりに開けようとしたコモリ。
「私に何か?」
「「うわぁぁ!?!?」」
真横すぐ近くから声。部屋の持ち主その人がそこに居た。
「あ、アズサ少佐!戻っていたんですね!」
「キシリア様との話とお聞きしてたので長くなるとばかり!」
2人はビシッと背筋を伸ばし、アズサに向き直る。
「いやなに、大した話でもなかったからな。それで、"その部屋"に何か用か?」
口角を上げながらそう問うアズサ。
彼女は笑いながらただ聞いただけのように思われるが、2人にとっては後ろめたいこともあり、ただただ怖い笑顔に見えた。
「あまり虐めるのはよくありませんね、アズサ少佐。」
そのタイミングで、シャリア・ブル中佐が現れて空気を断ち切る。
「む、シャリィか。虐めてなどいない、何か用かと問うているだけだ。」
「肩書きというのは、意外と馬鹿に出来ませんよ。」
そう話し始め、2人はそのままそこを去り始める。
コモリは大きなため息をついて、ガクッ、と項垂れた。
「あっぶなー……なんでこんないいタイミングで現れるかなぁ。」
バレそうになったことには危機を感じているようだが、反省はしているのか、していないのか。
(……何か、隠しているんだろうか。)
人とは隠し事をするもの、当たり前のことだが、それ以上の何かが、そこにあるのだろうか。
そんなことを、エグザべは思った。
「──ッ……。」
瞬間、シャリアと話していたアズサの目線。
それが、こちらを向いていることに気がついた。
離れていってるため、決して近くない距離だが、しっかりと目が合った。
最強のニュータイプと言われる彼に1目置かれ、対等に付き合いがある存在だ。
白い深淵、そしてその言動が目立つだけで、もしかしたら。
「何ぼーっとしてんの、戻るよ。」
「ん、あ、ああ。今行く。」
コモリに話しかけられ、思考を現実に。
再びソドンはグラナダから、サイド6へと向かっていった。
*
「なに?では皆も来ると?」
「ああ。アズサ少佐がサイド6で何をしているから気になってな。」
もちろん、キシリア様からは許可を得ている。
そんな言葉を彼女は発した。
仕事上の付き合いから、噂通りの存在ではなく、ある程度それらは誇張されたものであることはみな理解していた。
噂とは得てして誤った方向に大きくなるもの。
とはいえ、真偽は念の為確認せねばならない。
ついでにプライベートでも見れれば、彼女の人となりをまた深く認識して親睦でも深められるのでは、といったところだ。
この話にはソドンクルーのほとんどが同意している。
「大したことはしていませんよ。」
「構わない。そもそもアズサ少佐は積極的にこちらと関わろうとはしないだろう?」
アズサとしては噂に惑わされる人に対して気を使わせるのも使うのも面倒だからとあまり関わってきていなかった。
対するソドンクルーも、あまり深く知らないし、アズサがあまり関わろうとしないのなら、気を使って必要なこと以外はあまり話しかけない、とそのようにしていたと。
これといってアズサにその他に理由はないが、それをラシットは気にしていたらしい。
「作戦中の信頼関係にも繋がる、ここは1つ、頼めるな?アズサ・フォーリナー少佐。」
「ラシット艦長の進言とあれば。」
理由がわかればアズサに否定する意思はない。
「ですが今はエグザべ少尉の機種転換に手をかけたい。到着後でも?」
「もちろん。」
「ありがとうございます。それでは。」
そう言って彼とMS、Gクァックスの元へと向かった。
「なぜ突然?」
「謎が多い娘だからな。」
未だ判明してることは少ない彼女だ。
正直なところ、背中を預けられる信頼があるというわけではない。
常に完全装備、関わりが少ない、軍人でありながら自分の会社を持つことを許される、実績だけは異様にある。
不気味なことこの上ない彼女を、少しでも信頼したいから、とのこと。
とはいえ、一部のソドンほぼ野次馬に近い。
現実問題として考えているのはラシット艦長だけのようだ。
戦争も終えたが、何となく、そこはしっかりしたいし、疑いたくない。
それ故のこと。
「……踏み込みすぎると、という話もありますが。」
ソドンの操舵をしていたタンギが、ポツリとそうつぶやく。
「何を言う。非合法の裏取引じゃあるまいに。」
はは、と笑いながらラシットはそれを一蹴。
この中でただ1人、その発言に少しだけ険しい顔をした者がいた。
それに気づいたのはコモリだけだった。
◆サイド6◆
クランバトル。モビルスーツを用いた非合法の賞金バトル。2対2のチーム戦で制限時間5分の間に相手の頭部を破壊した方が勝利。
また、SNSで生配信されており、賭けの対象にもなっている。
その胴元は一切の不明。
本日も、みなの娯楽に、そして退役軍人や敗残兵の食い扶持として、戦いは発生する。
─Win Thailands─
「うし、今日は高戦績だな。」
とあるクラン、タイランツ。今回のクランバトルではほぼノーダメージ、そして短時間で終えた。
「噂が本当なら、来るかね。」
《まさか。あくまで噂だろ。まぁ、チャンスタイムだと思えば……か?》
クランバトルの噂。それは、高戦績、そして短時間で終えた時、乱入戦が始まり、それに勝利すればさらに多額の賞金が手に入る、というもの。
しかし、短時間と言われてもどれほどか不明、高戦績という基準も不明。
あくまで噂、都市伝説の類かと思われている。
が、今回は違った。
モニターに映ったWin、という文字にジャミングが走り、真っ暗になった。
そして、白い光が一筋、縦に走る。
さらなるジャミングとともに、文字が表示された。
─!乱入発生!─
「!なんだ!?噂は本当だったのか!?」
さらに文字が追加で表示される。
─蒼碧の破壊者・最後の審判─
《チーム……いや、機体名か!?くそっ、どっからだ、何が来る!?」 》
「焦るな!M.A.Vの基本通りに──」
瞬間、碧い光が走る。後ろにいた一機が、それに攫われるように消えた。
「なッ!?どこへ──ッ!?」
いつの間にか目の前に一機、居た。
そのMSから大きな重圧を感じる、巨体。MAほど全高が高い訳では無い。それはだいたい22m、通常よりも5m大きいか、と言うほど。
とてつもなく圧される感覚。手足が明らかに大きい。
その手で掴まれたなら、頭部なんぞ片手で簡単に握りつぶされるほどに。
「チィッ!」
手にしたマシンガンを射撃する。
タイランツは戦績のいいクランだ。そこそこ賞金を得ており、遠距離武器を少しは買う余裕がある。
それでも、基本は控える。使わずに勝つにこしたことはないからだ。
だが、瞬間的に射撃を判断した。
それほど、相手が脅威だと思ったからだ。
「!?シールドか!?」
そのMSが、手を前に出し、ぐっ、と握ると白い光が走り、障壁が発生、銃弾を防いだ。
《くそ、速すぎる!なんなんだこいつッ!!》
相方の通信が入る。まずは味方の援護か、と考えた。
見るだけでわかるが、目の前のMSは重い。
高速機動にはついて来れないだろうと判断した。
バーニアを全力に、味方の元へと向かった。
巨体のMSは、ゆったりとした動きで追ってくるだけだ、やはりすぐには追いつけはしないだろう。
味方はどうなっているか、とそちらへと目線を向けた。
執拗に追われている。それも、弄ぶように。
銃撃で応戦しながら、逃げている。
近接用の武装もしているのに応戦しないといつのは、それは、その異様な見た目からだろうか。
大きさは17mほどか、腕を組みながら高速機動し、追い回している。
異様なのはその、肢体。
「なんだ、ありゃ……?」
腕を前に組んでいるが、その時点で腕が4本。
さらに、背中や肩に至るまで、腕が無数に生えている。
1本1本が通常のMSより細い辺りが、その異様さを際立てる。
あんな腕で近接攻撃をしたら、すぐに折れてしまいそうだが、とも思えてしまう。
はっ、と意識を戻す。悠長にしていられる時間はない、もうすぐ追いつかれてしまいそうだからだ。
「大丈夫か!?」
《すまん、助かる!》
彼も射撃し、十字砲火。それに気付いた多腕のMSは突然真後ろに移動、弾を避けた。
その後合流し、1度場を整えようとした。
「!?おい後ろ!」
《え?なッ、くそぉおお!!》
いつの間にかだ。先程の巨体のMSが味方の後ろに居たのだ。
振り返りながら振ったヒートホーク。近すぎたせいか、腕ごと薙ぎ払われてそれは吹き飛ばされた。
武器と共に腕が吹っ飛ぶ。凄まじい出力だ。
退避しようとしたが肩を捕まれ、逃げられない。
そして。
─グシャッ─
いとも簡単に、頭部を握りつぶされて粉砕された。
その眼光が、彼を貫く
噂は本当だった。だが、どうやってこれに勝てというのか。
巨体のMSは動かない。多腕のMSが、もう既に彼の後ろにいるからだ。
振り返る間もない。身体中が、掴まれる。
「や、やめっ……うわぁぁあああ!!」
脚部装甲、腕部装甲。バキバキ、と音をたてて剥がされ、破壊されていく。
叫んでいるうちに、手足すらも破壊し、もがれた。
そして。
─プツンッ─
頭部の、破壊が完了した。
SNSのモニターに表示されるのは、タイランツが負けたこと。そして。
─襲撃完了─
そう表示された。初めて、配信で写ったそれら。
あれの正体はなんなのか。勝つためにはどうすればいいのか。
噂は、都市伝説は本当だった、と界隈は騒然としている。
なお、勝利した前の試合の賞金についてはしっかり支払われている。
乱入に負けても、損は修理費だけ。
と、いうのは後日、タイランツから発信された事だ。
人々は、さらなる賞金を、栄光を求めて、乱入を狙う。
*
「禁止信号です。サイド6イズマ管制より、入港禁止信号。」
進路上にジャンク業者のMSが侵入したためにそう発信された。
こうなると容易に予想がつくから、民間にMSを払い下げるのには反対したのだ、とため息を着くラシット。
「構わん、もっと寄せてやれ。」
もちろん、払い下げたとはいえ戦闘用のインストーラーデバイスは外してはある。武器は使えない。
まぁ、当然といえば当然だ。
「サイド6に文句を入れておけよ。」
「了解です。」
「連邦軍の敗残兵、その食い扶持斡旋でしょう。これも戦勝国の義務……平和のための必要悪です。」
「そんなこと言ったって、サイド6だって主権国家です。ジオンが面倒見る義務はありませんよ。」
瞬間、シャリアは眉間をおさえ、何かを察知した。
「ガンダム……。」
「どうして分かるんです?」
「木星帰りの勘、ですか?」
その時、管制室の通信が音を発する。
《シャリィ。》
アズサだ。シャリアが察知したことを、アズサも察知したのだろう。
「ええ。……間違いない、赤いガンダムです。」
そう言いながら、シャリアは通信に向けて何かをつぶやく。
それに、アズサは了解とだけ呟いてすぐに通信を終えた。
「フォーリナー少佐まで……。」
「あいつに関してはよくわからん。」
その後直ぐに、軍警察と赤いガンダムが接触したと、情報が入った。
赤いガンダムはそこから逃亡、軍警察は追ったものの、補足できていない、という状況となった。
「驚いたな……本当に赤い彗星なのか?」
しかし、赤い彗星のシャアが消えた後、その名を騙る者は大勢いた。名声が欲しいのか何なのかは不明だが。
今回もそれではないのか、とコモリ少尉は苛立ちながら呟いた。
「コモリ少尉も知っているでしょう、彼の出自を。」
「ジオン・ダイクンの忘れ形見って噂ですよね?」
中佐のご友人、というよりもM.A.Vだったとは聞いているが、出自はもはや都市伝説の類。
彼女はそれをは信じていない。無論、他の人間も真に信じているものはいないといって過言ではないだろう。
「しかし……キシリア閣下はそう思っていない。それを確かめるために、ここへ来たのです。コワル中尉、ガンダムクァックスは?」
「アズサ少佐の元に。エグザべ少尉が機種転換の訓練中です。」
ふむ、とシャリアは呟いた後に。
「オメガサイコミュの起動デバイスを使用します。」
「!?ちょっとまってください!」
皆がざわめく。それはそうだ。
そもそも、連邦とジオンの両方において現在サイコミュの開発は条約として禁じられている。
新型サイコミュであるオメガサイコミュが載せられた、そしてそれの不使用を条件に駆り出したMS、それがガンダムクァックスだ。
禁止条約を破って作り出されたそれ。その上にグラナダの承認もなくオメガサイコミュの起動デバイスの使用。
とんでもないことを言っている、というのは火を見るより明らかだ。
「オメガサイコミュはまだ実践で1度も使われたことがないんです!万が一暴走してゼクノヴァを起こしたら……!」
「その時は我々全員マ・クベ中将の軍事法廷にて──」
ラシットは無言で首を切るハンドサイン。
その直後、管制室のスピーカーからアズサの声。
《随分と楽観視をされるのですね。そも、ゼクノヴァの規模がどうか不明であるのに、"生き残れる"前提とは。》
「ゲロマズ……。」
コモリは双方の発言に対して、そう呟いた。
しかし、その"赤いガンダム"を止められるとするならば、オメガサイコミュという同じ力を持つガンダムクァックスだけだ、とシャリアは言った。
「エグザべ少尉。」
機種転換を終え、エグザべはガンダムクァックスの操縦席にて、返答する。
「……オメガは特殊なサイコミュです。僕に、使いこなせるでしょうか。」
不安からか、背を押して欲しいからか。そんな言葉をシャリアに返した。
《少尉はフラナガンスクール首席の才能と伺っています。でなければ、貴重なオメガサイコミュの起動デバイスを託したりなどしません。》
そう言われ、緊張した面持ちで、そのデバイスへと視線を向ける。
初陣、そして大きなものを託された、というその事実は重くのしかかる。
エグザべはG-クアクスを操縦し、出撃の準備を整える。
「アズサ少佐は、どう思われますか。」
発艦するだろうその場から立ち去ろうとしたアズサの背中に、そう問いかけた。
G-クアクスのスピーカーから、彼女の声が響く。
《やれるやれないではない。やるしか無ければやるだけだ、そうだろう?》
そう言って、彼女はこの場から立ち去った。
(簡単に言ってくれるな、あの人は……。)
《あと、これ秘密作戦なので。諸々宜しく。》
「い、いや、よろしくと言われても。僕これ初陣なんですよ……?」
《大丈夫。君も、ニュータイプでしょう?》
その言葉に、絶句しつつも、ここまで来ればだ。
アズサの言う通り、やるしかないのだ。
「エグザべ少尉、G-クアクス!出撃します!」
カタパルトが起動し、それにより、体にかかるGに苦悶の声をもらすも、無事発艦。
エグザべは任務に向かった。
「秘密作戦って、中佐は今も戦争をしてるつもりなのか……?これだけミノフスキー粒子をばらまいていれば、バレバレだろ。」
そんな他人事を呟きつつもスラスターによって加速。赤いガンダムを追う。
視点は戻り、ソドンでは。
《シャリィ、私も出る。少し、早めに戻らなければならない用ができた。》
管制室に、アズサはそう通信を入れた。
「……わかりました。ではこちらは、そのまま。」
言葉だけで、何かを察したか、特に聞き返すことなく了承した。
その後ろでは、アズサ少佐まで!?と驚く声もちらほら。
《ああ。そのまま向かうといい。それでは後ほど。》
アズサはそこまで言って通信を切る。
即座に彼女は自由に動くために多少改造を施したザクに乗り。
─カシュ─
《アズサ、発艦。》
彼女もまた、発艦した。
ラシットは、頭を抱えた。
(おいたわしや、艦長……。)
そんなことを、一部のソドンクルーは思った。
最終話まできっちり見たので、なんとなく先を決めた後の投稿です。
好き勝手書きます。
AIアートにて"アズサ・フォーリナー"のキャラ絵を近しい感じのものを出力出来ました。武装有りと、武装無しの状態どちらもあるのですが、どうです?
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見たいよ!
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どっちでもいいよ。
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みたくない……想像で補完します。