電脳■■椅子へ
【幻実にて不明瞭な夢を偲んで、みたいな】
「どっちなんだろうな」
空虚な──真実空っぽの問いは、誰に届くでもなく空に消えた。
解らぬ儘に言葉を弄ってみたのがそもそもの始まりだったか。
否、始まりと言うのであればもっと遡れよう、僕の生まれるとき、或いはそれ以前まで。
でも結局、そういった思考も──社会を生きる上では酷く無意味なものだとも諒解している。
それが厭だった。
社会という酷く胡乱で実体のない化物は、容赦なく僕の思考を斬り捨ててくるだろう。
けれども、その化物が、僕の頭の中にしかいない幽霊であることもまた、諒解している。
しているが、駄目なのだ。
僕は、世界の中にいる。
確かに地に足をつけている。
そして、その地面に殺されそうになっている。
あの馬鹿者みたいに現実を諦められたらどれ程善かっただろうか。
僕は、この地面に立つことを強いられている。
多分、僕自身に。
確証がないのは、得たくないだけというのが本音だ。
嗚呼──厭だ。
それでも結局──世界が個人に内包されうるという思考を手放せずにいる。
中途半端なのだ。それが一番厭だった。
だから、どっちなのだろうと思索を廻らす。
世界が先にあり、私がそこに立っているのか。
私が先にあり、世界が私の中にあるだけなのか。
もしかしたら、また別の解が真実なのかもしれない。
或いは、何方も真実足りえるのだろうか──。
「取り敢えず馬鹿野郎って言ってみても良いですかね」
「良いんじゃないかな、というか
「こちとら迷惑被ってるんですよね、それで、あ~...あのくっせえ独白からどうやって結論にもっていくんですか?」
「五月蠅いなあ、今から綴るって」
僕の出した結論は、「何方も真実」という言葉に押し込められよう。
僕も世界の中にいて、世界も僕の中にいる。
「まあ、物自体とかいう便利な概念があって良かったですね」
「その通りなんだよなあ、認識される迄にも、認識される何かは在る...うん、僕の疑念には丁度いい概念だ」
「カントには謝ったほうがいいと思うんですけどね」
白衣に身を包んだ者は紅茶を静かに飲み、続けた。
「それで、結局私がやらなきゃいけないんですか?」
「僕には物理的に無理だ。物理的実体のない、思考の中、盤面の上にしか存在しない空論のような君が一番適してるんだよね」
「めんど...」
「まあそう言わずにさ」
「言っときますけど、これもあなたの脳内で完結してる妄想ですからね?」
「TRPGなんてそんなもんでしょ」
「火の玉ストレートやめない?まあ...やるかぁ...」
そう言って、それは瞳を閉じた。
認識の完全遮断、それは本来存在の消失を意味するだろうが。
その存在を、僕が瞳を代替することで成り立たせよう。
私は、認識のない世界で──認識される以前の、物自体で溢れた場所に堕ちよう。
これにて、僕の世界に対する究極の疑問は明かされた。
ならば僕は、認識を持ちながら非認識の世界を飛び回る鳥となろう。
結局、全ては儚い夢なのだろう。電気信号の見せる夢だ。
だが、今はまだ、この安楽椅子で見る夢に、もう暫し浸っていたいかな。
「でも君社会に生きてんじゃん」
「...うわーーーん!!唯我論なんてこりごりだぁ~~~!!!」