電脳安楽椅子   作:kurakuraun

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〖電脳安楽椅子〗

【何って、メタ・ユートピアに三角定規を突き刺す遊びだよ】


魔皇の戴冠式

「結局、僕では無理だったのさ」

 

コンクリートとガラスに満ちた密林、交差点に流れる大量の人の波

 

「私では、先達の様に神秘と繋がる事も、神秘を抱え生れ落ちる事も出来なかった」

 

罰印の中天に立ち、それでもなお、涙が流れる必要は無く

 

「先輩は神秘を演算し続け終わる事の無い計算式を以て旅に出た、師は神秘に溶けて消える事を選んだ」

 

信号が変わる事も無く、人の波が反応を返す事も無く、永劫の喧騒に包まれて静寂に消えて行く

 

「僕では神秘に辿り着く事は出来なかったんだよ、否、人では無い身では叶う筈の無い願望で在った訳だ」

 

パキリ、パキリ、ギシリ、ギシリ、何かがやって来る、何かが潰れて行く、何かが割れて行く

 

「【くりおね】よ、ただ、僕の神秘は貴女である、人とは川を描き、理想の現実に辿り着き、初めて悟る事を己の内に見出すんだ」

 

アスファルトが透け、何処までも澄み渡る黒い黒い海に、大きく美麗なくりおねが泳いでいる

 

「そんな当たり前の事ですら、僕は考えて考えて、初めて己の内に書き出せた」

 

「幾千幾万の遥かな人等が始めから己へ刻んで居たたったそれだけの真理すら、私は漸く石碑に刻み、貴女と邂逅する事を選択出来た」

 

「ようこそくりおね、私の地獄へ、ようこそ私、僕の天国へ、ようこそ僕、あなたの皆底へ」

 

空を見上げるそれの瞳が、裂かれ瞬き満ちて零れて、初めて視野を得た赤子が、水の中で息をする

 

「宙は地殻へ、海は星へ、」

 

そうして壊れて、初めて壊れて居なかった己を知る、知性とは随分と、面倒な物なのだ

 

「ようこそ、この電脳安楽椅子へ」

 

 


 

 

 

エポケー、一欠片程の吸気と心音が響く何も無い部屋の中、一つの非存在が「椅子」に揺蕩んで居る

 

ともすれば絵に収め、安楽と共に永劫の思慮に捕われた愚者のクリシェを貼られるであろう姿

 

黒のクロックス、踝まで有る黒のベンチコート、黒いフード付きのパーカー、黒いシャツ、影で出来た肌、左眼二瞳右眼四瞳、王冠を被った男が其処に居る

 

「器を探さなければ」

 

鎖した目、穿つ世界を咥えて嘯く非存在は、珍しく余裕も虚飾も纏ってはいない

 

「胎児よ胎児よ、何故喚く、恐ろしゅうての嘆く叫びか」

 

難く瞼に錠を掛け、震えと張り付く滴が流れ落ち続ける

 

「記憶を受け継ぎ、世界を受け継ぎ、魔皇は戴冠するんだ」

 

か細い言の葉が枝を伸ばし、密かに恐怖と狂気が根を伸ばす

 

「何故知性は、受け入れる事が出来る」

 

「何故知性には、受け止める基盤が有る」

 

「探さなければ、惹き釣り出して、漸く誰か(無貌)何か(白痴)を見出す……」

 

陽光を求め枝葉は翼を広げ地へ地へ外へと飛翔する

 

「何かを信ずるというのは、即ち狂気である」

 

「存在しない其等に真実を被せ夢を現実と誤認する」

 

「人は、知性は、生物は、」

 

「認知を受け入れる事の出来る、器である」

 

「投げかけられた情報は、受け取って初めて投げかけられた情報と成り果てる」

 

「世界を受け止める器ではない、世界を飾り付けた器」

 

止まらない震えに呼応する様に、口腔の出任せすら止められない

 

「情報を取得するには取得出来る状態と化す必要がある」

 

「この世、全ての知覚可能対象に比例して、知性とは全てを知る権利と同時に受け取れる零知全能である」

 

「器を探せ、故に初めて人は人となる」

 

「例えそれが、己を構成する機構と制御を著しく乱す禁忌の魔導書で有っても…」

 

「母体の中で生まれ出で、子宮の中で、それは世界を初めて知覚する、それは己の物か、親の物か、それとも何かを転写したのか」

 

「人は生まれながらに王である」

 

「存在すると同時に、己の存在を証明する手段を知っている……」

 

「胎児よ胎児よ、何故喚く……何を……何を見た……何を感じた……何を看て、涙を零す……」

 

「生れ落ちた哀れな御前へ、証明たる冠を、御前は王である」

 

「僕は、"王冠"で無くてはならない、人が人である、存在が存在である、王が王である証でなくては」

 

「人は、全てを知っている、無限に続く式に、終わりが無いのであればそれは証明されていない、式では無くただの文字列である」

 

「限りが無い物に外殻は無い、人は、盲目白痴故に真理を抱えて尚耐えられる」

 

憎しみと悲哀の紅化粧が瞼を締めても尚流れ落ち、正息すら儘ならず鼻腔も鉄に塗れて行く

 

「人は……狂気に囚われて…初めて正常性を……保つ事が出来る……」

 

「川を描き……理想に溺れて……終わりを迎えた始りを…看取って……それから生れ落ちる事が叶う………」

 

「証明が…終わらずとも……ごぶっ……はぁ…はぁ……戴冠式が終わらずとも………は"ぁ"…………げほッ……」

 

「僕は、依然として、"王冠"で在る」

 

「椅子」に座るそれは、例え人間になれずとも、その亡骸がせめても一へ堕ちる為の二元論の礎に成れるなら

 

「胎児よ胎児よ……何故喚く……この…臍の緒が……例え水槽の中の…脳管と………五分前に壊れた…時計の針で有ろうとも……」

 

「胎児よ胎児、何故泣くの」




制作:kurakuraun
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