TS龍人娘はモンスターあふれる世界をひっくり返す   作:ミラバケッソ

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第3話 世界樹の枝

「僕は、ただ女キャラクターで〈セブンスコンクエスト〉を遊んでいただけだぞっ。だからってこの姿になるなんてっ」

 

「落ち着け、ユーリ。キャラクリの影響なら〈再設計〉の課金アイテムがあるはずだろ。それを使えば……」

 

「それだっ」

 

 スマートフォンをチュニックのポケットから取り出して〈7CQ〉を開く。

 課金アイテムのページがまるっと無くなっており、〈キャラクター再設計チケット〉を手に入れるどころか、他の課金アイテムを購入することもままならない状態だ。

 

 僕は震えた声のまま身長より大きな杖をぎゅっと握って声を大にする。

 

「まあ、〈7CQ〉のアイテムをどうやって取り出すとか、取り出せてもそもそも効くかどうかも分からないし……!」

 

「ユーリ、お前がそれで納得できるならそれでいいよ……」

 

悔しい(ぐやじい)! こんなことならキャラクリは男にすればよかった!」

 

「そういえば俺の時は女に出来なかったんだよな……」

 

 ヒイロが茶色の髪を掻く。

 彼はそのまま鞄に入っていたスマートフォンを取り出して、すいすいとなにかを調べ始める。

 

 ヒイロはなにやら操作を続けたあと、再び布製の鞄を漁り始めた。

 薄緑色をした液体が入っている瓶を手に取ると、蓋を開け、恐る恐る口に含む。

 

 眉間に皺を寄せていたヒイロ。しかし液体を飲み干すと目をまん丸にして驚きの表情を見せた。

 

「これ、たしかに〈体力回復ポーション〉だわ。さっきまで結構傷貰ってたんだけど、傷も痛みもなくなったわ」

 

「……いよいよもって〈セブンスコンクエスト〉が現実化したことに現実味が湧いてきたね」

 

「そもそもなんで〈7CQ〉が現実化したんだ? 神の代替わりか?」

 

「今度の神様は随分と厨二な嗜好を持つみたいだね」

 

「ジョークを言えるくらいには落ち着いたみたいだな。で、どうするよ」

 

 ヒイロと軽口をたたき合ううちに焦燥感や不安といったものは、とりあえずは遠ざかっていった。

 これがひとりであれば肉体の変化に気付いた時点でしばらく動けなくなっていただろう。

 

 素直に頼ってくれる人がいる。素直に頼れる人がいる。それだけで不安というものは遠ざけやすくなる。

 ゆっくりと深呼吸をして、考えを整える。

 

「視聴覚室のモニタでテレビをつけよう。あとは〈セブンスコンクエスト〉の中身がどれだけ自分に適用されているか」

 

「どれだけ戦えるかってことだろ。でもよ、正直〈セブンスコンクエスト〉に頼って生き残るってのは得体の知れなさがあって気分が悪い」

 

 ヒイロは以前から〈7CQ〉に不快感を示していた。であればゲームがそのまま現実化したようなこの状況でその元凶にすがるのは気分が悪いのも仕方ない。

 

 仕方ないが……現状これに頼らずに生き残ることができるかと言われれば無理だろう。

 もっと強い敵が出てくれば、銃火器を持った軍隊であればともかく、普通の人間では敵いもしないかもしれない。

 

 視聴覚準備室に入ってテレビを映す。

 ヒイロはまだ緊張していたのか、準備室の椅子に深く座ると大きく息を吐く。

 僕は隣の席に座ってリモコンを操作していくが……。

 

「緊急ニュースばっかだな……」

 

「世界的に怪物が出現しているとも報じられているね」

 

 予想としては大当たりである。

 世界的に頒布されている〈セブンスコンクエスト〉が現実化したのであれば、モンスターの被害も世界規模に及ぶはずである。

 僕はヒイロに告げる。

 

「モンスターの被害が世界規模なら、逃げることよりも生き残ることを目標にした方がいいかもしれない」

 

「ヤな三段論法」

 

「……安全な場所なんて、自分で作らないとないかもしれないね」

 

「もうちょっとこの現状に容赦が欲しかったなあ!」

 

「自衛隊の基地がモンスターによって潰されたり、避難所に小型のモンスターが押しかけてきたりしているみたいだ」

 

 どうやら銃弾が通じないモンスターがいるらしい。

 ニュース映像では身体が透過しているのか銃弾をすり抜けさせる魔物もいたし、別の中継では分厚い筋肉に阻まれて銃弾を肉体で進ませない魔物なんかも映っていた。

 

 ただ全ての魔物に効かないというわけではなく、それこそ学校を襲ってきたゴブリンのような小型の魔物には効果てきめんといった模様。

 

「……自衛隊もこりゃ頼りになりそうにないな」

 

「同感。翻って、この身体がいざという時に使えるかどうかも確認したいね」

 

「確認って、どうやってするんだよ?」

 

 ヒイロが首をかしげる。あまりピンと来ていない様子だ。

 

「〈7CQ〉のステータスを見るとキャラクターのレベルが1に戻っていた」

 

「……お、俺もだ」

 

「日食で『イベントが開始』して、キャラクターの身体に作り替えられたときにレベルが1になったとするね」

 

 本来はレベルが1じゃない人間や別の要因でそうなったのかもしれない。

 しかし今回の説明には一切関係がないのでこの仮定でも問題はないだろう。

 ヒイロも真面目な顔をして頷き始めた。

 

「レベルが1の場合は元の自分と比べて動けるかを基準にしよう。たとえばヒイロがこれからこの準備室の椅子を軽く殴ってみるとする。普通は木製で多少薄くても軽く殴ったくらいじゃ壊せないよね?」

 

「まあな。本気で殴れば出来るヤツは多そうだけど」

 

「はい、じゃあ立ってー。そしてその椅子を軽く殴ってみて!」

 

「うおっ!? マジでやるのか!? 弁償とか……いや、意味ないか」

 

 これから世界は確実に荒れる。

 無秩序でアナーキストになられても困るが、元の社会秩序に全身どっぷり浸かったままでも危ない。

 いざとなったら道徳に反することをしなければならないかもしれない。

 

 そのことをどこまで理解したのかは分からないが、ヒイロは大きくため息をついて軽く木製の椅子を殴った。

 バキン! と大きな音を立てて背もたれが破壊される様に、ヒイロは少なからず慄いている。

 

 昭和や平成の初期ならば多少暴力を振るうことに抵抗がない人間というものは多かったのだろう。

 だがしかし今は令和の世の中。本気の殴り合いをするよりもスマホを使って相手を悪者にするのが喧嘩の主流だ。

 

 要するに、僕たちは暴力になれていない。

 少なくとも僕とヒイロは暴力に慣れるような育ちではなかった。

 

「これで分かったことがある。僕らはレベル1であっても〈ハクスラ〉ゲームに登場できるだけの能力を持っている」

 

「でもよ、俺は剣とかロクに振ったことないぜ」

 

「上手く扱えないだけで怪我はしなかったでしょ。〈剣士〉の片手剣スキルは初期値は3レベル。剣の取扱で怪我をせずに僕が起きるまでゴブリンを追い払い続けられる。そういう能力はあるんだ」

 

 薪割りで聞く事例だけれども、斧を扱って足に刃を当てる初心者もいる。

 だから薪割り初心者は口を酸っぱくして足に当てないようなスタンスの取り方や取り回しを教えられるのだ。

 そういったレクチャーもなく剣を振り回して当てるべきでない人に当てなかったというのは、十分に取扱に関する素養があると見ていい。

 

 とはいっても、剣術で無双できるようなレベルでもないのだけれども。

 

 こちらの説明にヒイロは唸って、なんとか納得しようと呑み込もうとしている。

 

「呑み込めているかどうかは分からないがなるほどな……。じゃあユーリ、お前はどんなキャラなんだ?」

 

 当然のように疑問が飛んでくる。

 もちろん、僕は自分のゲームキャラのスペックなら覚えている。

 

「職業は〈付与魔術師〉(エンチャンター)。相手の行動を封じたり、味方を動きやすくする魔法が得意で、腕力なんかはお前に両腕で腕相撲を挑んでも余裕で負ける」

 

「玄人好みのキャラクターを使ってたんだな。俺は……そういうのは難しそうで無理だわ」

 

「ヒーラーとバッファーは上手いほどレイドに誘ってもらえるからね、ゲーム時代は結構いい思いをしたよ」

 

 おかげで寝不足になるくらいにはこのゲームをやりこんだ。

 上手い付与術師がいると攻略が捗るから、ひっきりなしにフレンドから呼ばれたのだ。

 

 まあ……それでゲットした装備やアイテムなんかは消滅したっぽいけれど。

 その代わりに初心者用の装備やポーションなんかがインベントリに入れ込まれている。

 

 だがゲームのストレージを見てみると、『ベータテスター用プレゼント』というものが入ってある。

 

「ベータテスト時ゲームをプレイしていた方には有力なスキルやアイテムが手に入るプレゼントボックスをお贈りします……か」

 

「罠じゃねーの? この『自分の思い通りに運ぼう』っていう思惑が見えて気持ちが悪い」

 

「気持ちは分かるけれど、この先役立つものが手に入るなら僕はプレゼントボックスを開けておいた方がいいと思うけどね」

 

 ……〈セブンスコンクエスト〉の開発者は僕たちに一体なにをさせたいのか。

 分からないなりに利用していくしかない。

 ヒイロは不満はあるものの、僕の説得に応じてくれるようだった。

 

「スキル〈二刀流〉? おっ、いいねえ、格好いいじゃないの」

 

 ヒイロのプレゼントボックスの内容はスキル、〈二刀流〉とちょっと良さそうな白銀の剣だ。

 彼はなんだかんだかっこよく敵を倒すという想像自体は好きなのか、少し喜んでいた。

 

 僕の場合は……

 

「〈世界樹の枝〉と……セカンドジョブ? 新しいジョブが選べるのか」

 

 セカンドジョブは新しい職業を選ぶことで能力もスキルも得られるというものらしい。

 傷ついても治す手段があまりなさそうだし、ここは回復系の職業を選んでおきたいな。

 

 ……もし、この先ヒイロを失うことがあれば、僕はきっと正気ではいられなくなるだろうから。

 

 僕はスマホをタップして〈神官〉を選択する。

 ……バフと回復の両方を受け持つと頭がパンクするかもしれないが、やるしかない。

 

 それと、〈世界樹の枝〉か。

 こいつは埋めた場所が安全圏になるそうだ。といっても遠ざけることが出来るのはモンスターだけで、人間の悪意を防ぐにはかなりの成長を必要とするらしい。

 植えた箇所が繁栄するほど世界樹は成長し、あらたな枝を伸ばすのだとか。

 

 その説明を見たヒイロはこちらを二度見して問うた。

 

「ってことは、安全圏を作ってそこを成長させることが俺たちの生き残りの芽なんじゃないか?」

 

「それを知った人たちは押しかけてくるか、あるいは奪おうとするだろうけれどもね」

 

「厄介なアイテムだけど、これは助かるんじゃないか?」

 

「ああ。僕たちの長期的な目標が決まってきたよね。世界樹を成長させて、この危機を生き残ること。これが僕たちが取るべき道だろう」

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