木之瀬さんの背中を追いかけて、狭苦しい通路を走る。
「篠崎くん……」
それが急に減速。近付いた背中を捕まえて、訊ねる。
「どうした?」
「これ……」
目の前の通路では、鋼鉄の刃がガッチャンガッチャン上下運動を繰り返していた。
名付けるなら、全自動ギロチン処刑装置。
いや、動力どうなってんだよ。
ゲームで良く見るトラップだが、実際目にすると違和感が凄い。
「隙を見て抜けよう」
「そうだね」
「何より、トラップを背にして戦いたくない」
「う、うん!」
俺の言葉に状況のマズさに気付いたのか、木之瀬さんは慌ててトラップを潜ろうとする。
「木之瀬さん、落ち着いて。頭以外ならちょん切れても回復薬でくっつくから」
「ごめん、黙って!」
怒られちゃった。
木之瀬さんは身を屈めて、真剣な表情でタイミングを窺っている。
だが、何を思ったのか、何か言いたげな顔で振り返り、ジト目を向けてくる。
「それとも、私の胴体がちょん切れた方が篠崎くんは嬉しい?」
「いや、どんな趣味だよ」
それは流石にハイレベル過ぎる性癖。
ぼくはらぶらぶエッチ派の人間だよ。
ギロチンはガチャンと地面に落下してから、ゆっくりと持ち上がる。
そして、刃がすっかり天井のスリットに吸い込まれたと思ったらスグに凄い勢いで落下してくる。
早い話が、刃が上がっている途中で、身を屈めて潜るしかないのだ。
それも、命が掛かってるもんだから、転がるようになるべく低く抜けるしかない。
「はぁ、怖かったぁ」
だから、ゴロゴロっと転がって、木之瀬さんはギロチンを抜けた。
「篠崎くん?」
……あろうことか、そんな木之瀬さんに、俺は見惚れてしまった。
だってさ、ここまで連戦も連戦、ひたすらに駆け抜けて、俺も木之瀬さんも汗だくだ。
そこに遺跡の砂利がくっついて、肌に張り付くセーラー服。首すじや、額についた砂利。それらがとてもエッチに見えた。
「あ、うん、可愛いなって」
「そう」
こっちはドキドキしてるのに、淡白だなぁ。
言われ慣れているのだろう。
俺もすぐさま転がってギロチンを抜ける。
……転がってる最中、考えてしまった。
これ、『えいっ』って転がる体を止められたら、俺、真っ二つ。
まずくない?
だって、俺は木之瀬さんと約束した。
二人で生きて脱出出来たら、毎日好き勝手呼び出して、エッチな事をしまくるぞって。
それどころか、通販でエログッズを買いあさってアブノーマルプレイをしまくるぞ、とまで。
ましてや、ぶん殴りながら犯して良い? とまで聞いた。
いやさ、俺が命懸けで木之瀬さんを守って死んだ時とかに「まぁ、結果的にクズが死んで助かった」と、そんぐらいに思って貰える様にね。
あと、一人しか脱出出来ませんって時に、殺し合いするにせよ、木之瀬さんに殺して貰うにしろ、遺恨が残らないように。
更に言うと、ここまでエグい事を言っておけば、本当に脱出出来た場合。
まぁ普通にエッチするぐらいなら良いかなと、妥協してくれそうって狙いもあった。
もちろん、リスクだって承知の上だ。
こんな奴と一緒に居たくないって思われて、ふとした瞬間に「えいや」と刺されかねないワケだ。
でも、それは俺にとってリスクにならない。望むトコロだ。
でもアレだな、こうしてトラップの助けを借りて殺すのが、木之瀬さんにしてみれば一番簡単で罪悪感ないよな。
「いてっ」
そう、こうやって、だ。
ただ、転がる俺を止めれば良い。
俺は木之瀬さんの足にぶつかって、止まった。
それだけで、手を汚すことなく、俺は死ぬ。
俺は、死ぬんだ。
「木之瀬さん??」
俺は、死ぬのか? 下から覗くセーラー服のスカート。それに、パンツ。絶景かな。
最期の景色として、悪くない。
「篠崎くん、転がりすぎ」
「あっ」
なんか、ギロチンを恐れるあまり余計に回っていたらしい。
もう十分に、ギロチンを抜けていた。ビビリ倒して無駄に転がっただけだった。
「いや、良かった。ごめんね」
恥ずかしさにヘコヘコと立ち上がる。
なんか、パンツ見たさに余計に転がったみたいになってしまった。
誤魔化すように、俺は言う。
「ここで食い止めるから、先に行って!」
「うん……」
その、うん……は頼りにならねぇーって感じの「うん」だな。
木之瀬さんは不安そうに通路の先を駆けていく。
それもそうか、さっきも同じ事を言って、結果、止められてないし。
「オラ、オイテメェ、よくもやってくれたな」
で、丁度よく、半グレどもが来た。
汚名返上の見せ場ってヤツだ。
でも、今度の足止めは簡単。ギロチンの前で通せんぼすれば良い。
「ハァ? んだコレ!」
ハンマー持ちは即座にギロチンをぶっ叩く。
即断即決ノータイム。判断が早い。
――ガァァァァン!
でもよかった、ビクともしない。コレで壊れてたら、また尻尾を巻いて逃げるしかない。流石に二連チャンで「ここは俺に任せて先に行け」失敗はキツイ。
「テメェ!」
敵も俺の狙いが解ったのか、ギロチンを挟んで睨み合う。
そのとき、ゴリさんの後ろから金ジャージも出て来た。
「おい、オメー死ぬ気か! ここも闇が来るンだぞ!」
そうなのだ。
俺達はあえて円の中心を『目指さない』ルートを狙って逃げた。
追っ手を撒くために。
だから、もうじきここも闇に沈む。
ギロチンを挟んで共倒れだ。
スマホをチラ見し、黒ジャージが焦りを見せる。
「ゴリさん……ここらが引き際じゃねぇか?」
「ここまでコケにされて引き下がれっかよ!」
案外に冷静なジャージと違い、ゴリさんはヒートアップしている。
「クソがよぉ!」
その時だ。
ゴリさんがギロチンを無視して、俺にタックルを仕掛けてきのは。
正気かオイ!?
「くっ!」
なんてパワーだ。
腰を落として構えていたのに、簡単に倒されてしまう。
しかしな。
「ぐぇ」
そんな事をしたらギロチンに、……ギロチンに?
……ギロチンの刃は、ゴリの背中で止まっていた。
コレ、即死トラップじゃないのかよ!
「オラッ!」
しかし、チャンスだ。
ガントレットを握り締め、マウントされた姿勢から、ゴリの顔面を思い切りぶん殴る。
「グヘっ」
なんてタフさだ。顔面まで硬い。
「こっちの番だぜぇ?」
人の皮を被ったゴリラがギロチンの刃を押し返すと、マウントポジションで拳を振りかぶる。
こんな死に方かよ!
罰が当たった、と言うべきか。
木之瀬さんをボコボコにぶん殴るとか、心にもない外道を言っていたら俺が殴り殺されるとは。寓話のようだ。
もう俺に出来るのは時間を稼ぐことだけ。
ガントレットを構え、顔を守る! 歯を食いしばる。
その時だ。
「えいっ」
可愛らしい声がした。
ガントレットの隙間から、透き通った青い刀身がキラキラと輝いて見えた。
木之瀬さんだ。
木之瀬さんが、クリスタルソードをゴリの顔面にブッ刺していた。
死に瀕した走馬灯。極限の集中。
全てがスローに感じる世界。
俺はこの光景を一生忘れないだろう。
赤い血飛沫と、青い刀身。キレイな木之瀬さん。
ゴリの体が、ゆっくりと仰向けに、倒れる。
――ガァァァン!
その時、再び落下したギロチンがゴリの胴体を両断してしまう。
うわっ、グロッ!
「ゴリさぁん! なんで!」
叫んだのは金ジャージの、たしか『まさやん』。
最後の一人だ。
しかし、俺が言うのも何だが、本当に簡単に人が死ぬ。
ってか、結局木之瀬さんに手を汚して貰って助かってるじゃん。情けない。
さっきからそんなのばっかりじゃない??
バツが悪くなって、ヘコヘコと立ち上がり、ご挨拶。
「ありがとね」
「うん……」
うわぁ、冷たいですねぇ。
我ながら情けないから仕方ナシ。
木之瀬さんは剣の血を払い、ハァ、と息を吐いて、ひと言。
「やっぱり、二人で戦った方が良くない?」
もっともですねー!
もっとも過ぎて、ビックリしたね。
かっこつけた過ぎて、無様をしました。ごめんなさい。
「助けられてばかりだな」
「いいよ、それより信用して」
「わかった」
なさけなーい。
まぁ、そうも言ってられませんね。
通路の奥からはじわりと迫ってくる闇が見えた。
俺は木之瀬さんの手をとって、前を向く。
「行くぞ、一緒に!」
何が一緒に! だよ、今更よぉ。誤魔化してんじゃねぇよ!
無理矢理格好付けたのが見え見え。我ながらダサいっす。
「うん」
でも、木之瀬さんは元気に返事をしてくれた。
ありがたいね。
ゴリの死体とジャージを残して俺達は走って先を目指す。
その背後にジャージ野郎の罵声が飛んできた。
「テメェらが『キラー』か? ぶっ殺してやるからなぁ!」
思わず、木之瀬さんと目を合わせる。
キラー?
何の事だ?