「じゃあ、嬢ちゃんは友達をこんなトコまで探しに来たんか?」
「うん……変かな?」
「まぁ、正直厳しいと思うで。ここには長く留まれる場所なんかあらへんし」
「でも、せめて彼女を知ってる人が居ないかなって」
「うぅん……知ってるとしたらキラーやろうが……」
「その場合、キラーに殺されてるって事になるよね」
「まぁなぁ……」
後ろでは、おっちゃんと木之瀬さんの世間話。
「ちょっと待てよ、静かにして」
一方、俺は一人で戦わされていた。
それも、ゴブリンメイジと!
「まぁまぁ、先輩からのアドバイスや、落ち着いて火球を見切ってみぃ」
「いや、見切れと言われてもな」
俺はいま、狭い部屋でゴブリンメイジと向かい合っている。
いや、合わされている。
この部屋は、迷路みたいに細かく間仕切りで仕切られた作りだった。
そんな場所だから、爆弾みたいな火球を相手に逃げ場が無い。
今だって、ゴブリンメイジは虎の子の火球をいつ投げ込むか、じりじりとタイミングを窺っているのだ。
おっちゃん曰く、一人ならダッシュで脇を抜けるのが正解。
だが、複数人ならそうは行かない。誰かが火球を喰らうハメになる。
そこで、俺だ。
俺に向かっておっちゃんの檄が飛ぶ。
「しっかり良く見て、横から火球を
そう。
この火球、弾ける。
そう言えば、最初の一撃もガントレットで弾いて事なきを得た。
だが、狙ってやれと言われると……
「火球にそこまでの速度はあらへん。キャッチボールみたいなもんや」
そう言われてもね……二人とも滅茶苦茶遠くから観戦してんじゃん。
たっぷり5mの距離が信頼の証。
と、……来た!
ゴブリンメイジが山なりに火球を投げ込んで来たのだ。
正真正銘、命懸けのキャッチボール。
ただひたすら、よく、見る!!
よく観察すると、火球の中で物凄いエネルギーが渦巻いているのが見えた。煮えたぎるマグマが蛇みたいに蠢き、シュッーっとガス漏れのような音まで発している。
コレを叩くのか?
触った途端に爆発しそうだ。
でも、やるしかない。
即死さえしなければ、おっちゃんから貰った潤沢な回復薬で治して貰える。
右手のガントレットで、そっと横から触った。
いける!
ファーストタッチは柔らかに、その後は全力で振り抜く!
ドォン! と爆発音を奏でたのは、壁。
確かに、弾くことに成功したのだ!
「熱ちぃ!!」
でも、熱いんですけど??
「普通は盾で弾くさかいな、ガントレットでするとそりゃ熱いやろな」
え? ぶっつけだったの?
俺はその怒りをゴブリンメイジに叩き込む。
――ギビィ!
灼熱のガントレットがゴブリンメイジの顔面にめり込んだ。
肉が焦げる匂いがしました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅむ、いちいち回復薬を使うんは燃費が悪いやね」
いや、ふざけんな。
俺は真っ赤に腫れた右手を回復薬で治療していた。
当て布があるから大丈夫だったが、下手すりゃ手が溶けて癒着してたぞ?
「まぁ、もうすぐゲームも終いや、ちゃっちゃと行くで」
と、今度はおっちゃんが先頭を歩む。
――ギャギャギャ
また、ゴブリンメイジだ。
「次はワイや、見とき」
おっちゃんとゴブリンメイジが向かいあう。
おっちゃんは盾も持っていない。狭い通路、下手に躱してもダメージを負いかねない距離。ダッシュで駆け抜ける様子もない。
どうするのか? と見ていたら、動いた。
ゴブリンメイジが杖を構えた瞬間に、ナイフを抜き、投げる。
まさか???
その、まさかだ。
ナイフが火球を引き裂いて爆発した。
――ギャァァァ
ゴブリンメイジは火炎に飲まれた。
おっちゃんはスタスタと近付き、もう一本のナイフで首をカッ切って終わり。
「どないや?」
振り返ってドヤ顔を決める。
「おー」
俺達は拍手でおっちゃんを迎えた。
やるやん。
「ゴブリンメイジはサシなら、怖くもなんともあらへん。問題は乱戦になったときや」
「あー」
横から火球を投げ込まれたらどうしようもないと。
「せやさかい、戦う時は地形と戦力を意識せな」
おっちゃんは手元でナイフをクルクルと回してみせる。何と言うか、歴戦って感じだ。
「おっちゃんはこのゲームに何回参加してるんだ?」
「5、いや、今回で6度目やな」
結構多い、か?
最初はおっちゃんも生き延びるのでやっと。
しかし、持って帰った貴金属の誘惑に抗いがたく、二度三度と参加してしまったと。
「エントリーボタンさえタップせな、安全なもんや」
いや、そんなんで良いのか? 向こうは人間を何人もワープさせて戦わせるような連中だぞ?
まぁ、逆に考えれば、そんな奴らだ。
アプリを消したぐらいで安全とは限らないか。考え過ぎても意味がない、か。
「後は、脱出方法やな、と、その前に」
おっちゃんが扉を開ける。
次の部屋はソレほど広くない、学校の教室程度。
暴れるには狭いぐらいの部屋だった。
「最後の授業や、集団戦のやり方っちゅうんを教えたる」
部屋の中には、ゴブリンナイト1匹と、ゴブリンメイジ2匹が待ち構えて居た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「坊主!」
「うぃ!」
俺は横っ飛びに跳ねる。考える前に動く。
直後、俺が居た場所で火球が爆ぜる。
相手も三人、俺達も三人。
当然1on1の構図になるが、ゴブリンメイジの火球は自分に目掛けて投げられた分なら対処がしやすい。
だが、自分以外に放たれた火球は別だ。死角からの範囲攻撃となる。
だから声かけをする。
名前を呼ばれたらとにかく回避優先。
「堪忍や、ナイフが外れた」
「オッケー」
まぁ、投げられた火球に横からナイフを当てるのなんて無茶だよな。
はやり、向かって来る火球より対処が厳しい。
と、転がった俺にゴブリンナイトが追撃を仕掛けようとする。
「やぁ!」
そこに、木之瀬さんが割って入った。
完全に守られとる……
ままま、俺は残ったゴブリンメイジをしっかり封殺すれば良い。
……と、俺に相対するゴブリンメイジは既に火球を生み出していた。
しかし、投げてこない。
俺が火球を弾くつもりなのを見抜いている。
手元で火球を動かして、生意気にもフェイントのつもりであった。
「よっ!」
だから、おっちゃんに隙を突かれる。
見せびらかす火球にナイフが刺さったのだ。
直後に、爆発。
だが、俺は爆発を確認する前に踵を返して全力でダッシュ。
何故って、俺と相対していたゴブリンメイジにおっちゃんが攻撃したって事は、おっちゃんと相対していたゴブリンメイジは完全にフリー。
思った通り、もう1匹のゴブリンメイジがおっちゃんに火球を放つ所だった。
「せいっ!」
俺は横から割り込んで、火球を弾く。
弾く先、狙うはゴブリンナイト。
「木之瀬さん!」
「うん!」
俺の声を合図に、ゴブリンナイトと相対していた木之瀬さんが伏せる。
――ギェェェ
直後、火炎に包まれるゴブリンナイトを木之瀬さんが下から切り伏せた。そして、火球を放った後、隙だらけのゴブリンメイジをおっちゃんが刺し殺して、戦いは終わった。
おっちゃんはどっかりと座り込む。
「ふぅ……しんど」
「早かったね」
「しかし、気を使うなぁ」
一歩間違うと死にかねない。
「まぁ、毎度こんなんや、何度もやるもんやない、ワイは絶対に引退するで」
「全くだ、こんな中、一人で行動するキラーってのは本当に人間なのか?」
「プレイヤーの死体にはアイテムが漁られた痕跡があるんや、モンスターはそんな事せえへん」
うーん。
しかし、収束場所が解らないんだぞ? 幾らでも不確定要素が起こり得る。
FPSでこの手のゲームを遊んだ事があるが、上手いヤツでも死ぬときは死ぬ。
そんなリスクを許容して、ソレでも毎回人を襲うなんてまともじゃない。
会いたくはないモノだ。
スマホで地図を確認する。領域も狭くなった。残る部屋は10個程度。
ここからどうやって脱出するんだろうか?
「そろそろ、最終局面や」
確かに、後数秒で、次の収縮が始まる。
「きっとこの部屋はゲートが出るで」
おっちゃんが言った直後、収縮が始まった。
地図上の大部分が闇に染まって行く。
――ゴゴゴゴゴッ!
と、その時、部屋が揺れた。
そして、部屋の中央。地面から金属の棒がせり上がって来る。
棒は、ところどころが青く光っていた。
なんだ、これ?
「コレが、ゲートや」
おっちゃんは、ナイフで手を切ると、ゲートに手を付いた。
「血でゲートは起動する、まぁ見とき」
血が金属の棒を伝わり、青く光っていた回路が赤く染まっていく。最後に金属の棒はパカリと二つに割れて、青白い光のゲートを発現させた。
「この中を通ればゴールってワケや」
「これで、帰れるの?」
歓喜する木之瀬さん。
だけどさ、ダメだ。きっと。
「篠崎くん?」
俺は、木之瀬さんの手を引いて下がらせる。
「おっちゃん、引退だろ? わりぃけど、良い装備は置いてってくれ」
「どう言う意味? 篠崎君?」
俺は脅すような言葉を吐き捨てる。
しかし、言葉とは裏腹に、俺はおっちゃんから距離を取った。
相反する行動に木之瀬さんは混乱気味だ。だが、コレで良い。
「なんや、解ってたんか」
おっちゃんは苦笑しながら、腕輪とネックレスを外す。
「ワイの虎の子や、大事にしい」
そう言い残し、ゲートの中に飛び込んだ。
おっちゃんの体が青白い光を纏い、足元から消え始める。
青い光にまみれたおっちゃんが振り返って、言い残す。
「そうや、よく似てても赤いゲートは罠さかい。触るんやないで。アレは地獄への一本道や、誰も帰ったモンはおらん」
「ありがとよ」
「あいよ、じゃあな」
そして、おっちゃんは消えた。
ゲートと共に。
「えっ? えっ?」
木之瀬さんは混乱する。
「どう言う事? 帰れるんじゃ?」
「ああ、思った通りなんだけど……あのゲート一人用っぽい」
「えぇ? 嘘ぉ?」
嘘じゃないんだな、コレが。