レイスが、出てこない。
さっきはあんなにしつこく追いかけて来たのに、探すとなると現れない。
「ふざけやがって!」
そっちが、その気なら、俺はリザードマンたちの真ん中に飛び込んでやる!
走って、走って、走って、転がる。
ようやく俺は、見覚えがある場所まで戻って来た。
思ったよりも早く帰って来れた。
まぁ、そうだよな。
立体構造だから広く感じるが、この迷宮は元々ソコまで広くない。
領域が削られる終盤となれば尚更。
スマホを見れば、闇に飲まれていない生存領域は狭い。
狭……
いや、本当に狭いな。
終盤どころか、既に最終局面じゃない?
俺が最初にモーニングスターを拾った部屋まで来た時だ。
――ゴゴゴゴゴッ
地響きと共に、ゲートが現れる。
色は、青。
脱出できる!
誰も帰った事が無い二層から、脱出出来る。
生きたまま、帰れる!
「なんでだよぉ!」
後ろから、蟻の大群に追われてなければな!
最悪だ!
最悪過ぎる!
馬鹿な事をしなければ、脱出出来ていた。
いや、でも、待てよ?
今、脱出したらどうなる?
ロクにアイテムも揃っていない。
このゲームの仕組みが解った以上、そんな状態では二度とデスゲームに挑戦しようなんて思わないだろう。
だったら、俺はずっとレイスにビビったままになる。
「こなくそ!」
だったら、全員ぶっ殺して完全クリアを目指す!
俺は金属の扉にぶちかまし、ピラミッド部屋の中に転がり込んだ。
――キシッ? シャーッ!
無数のリザードマン達が一斉にこちらを向く。
それら全部をまるっと無視して、俺はピラミッドを駆け上がった。
果たして、レイスは?
……居なかった。
レイス君さぁ。
空気を読もうよ。
代わりにあったのは祭壇。そして宝箱だ。
そこでは宝箱を供物に、司祭っぽいリザードマンが祈りを捧げている。
でも、後回し。
俺はソレすらも無視して、更に上。
ピラミッドのテッペンへ。
何を隠そう。
ここはレイスが出現した場所だ。
ピラミッドのテッペン。
何かありそうですよね?
でも、なんも無い。
なんにも、無いんです。
勢いで頂上まで駆け上がってしまった俺の選択や如何に?
そっ。
抱えてきた蟻の卵をそっと頂上に置く。
意味?
ないよ?
見た目はキレイな宝玉だし、なんかココに置けばイベントでも起こりそうかなって。
――シャーッ! シャーッ!
もちろん、なんにもありませんでした。
ただ、リザードマンたちが激怒しただけ。俺らの聖地を汚すなってね。
で、奴らどうしたか?
――キシシッ! キシャーッ!
魔法を放ったのだ。
司祭みたいな帽子を被ったリザードメイジたちが一斉に。
彼らが放ったのは火球。
ゴブリンメイジよりも、一回り大きな火球であった。
みるからに高火力。それが幾つも。
卵に命中するや、凄まじい爆発を生み出した。
俺は転がるようにして爆心地から脱出。
――キィー!!
爆炎の中から、蠢く虫のシルエットが見えた。
あーあ、知らねぇぞ?
ピラミッドから見下ろすと、怒り狂った兵蟻たちがリザードマンに襲いかかるのが見えた。
しかも、止まらない。
次から次へ現れて、さながら蟻の洪水だ。
リザードマンたちはたちまち大混乱に陥った。
「今のうち!」
俺は祭壇に戻り、どさくさに紛れて宝箱をご開帳。
さっきから気になってたんだわ。
「おぉ~!」
中には、白銀に輝く金属棒が入っていた。
コレは???
≪ 祝福のメイス ≫
ATK+45
聖別された銀から作られたメイス。
打ちつけると聖属性のダメージを与える。
なんだよオイ。
コレで倒してくださいと言わんばかりの武器。
一層もそうだったが、綺麗なクリスタルソードを供物にしていたな。
そういう攻略手順なのかも知れない。
まず武器を手に入れて、それからボス攻略。
だとしたら、蟻さんを巻き込んで大戦争を引き起こしてる俺って何なの?
今も眼下では、蟻とリザードマンの血で血を洗う闘争が巻き起こっていた。
リザードマンは火球で蟻を焼き払うが、あとからあとから湧いてくる。
「えらいこっちゃ、戦争や」
訳の解らん事を言いながら、高みの見物。
――キシャーッ!
もちろん許されるハズも無く、火球が飛んでくる。
――カチカチカチ
蟻さんもやってくる。
ヤバいよ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
蟻、リザードマン、そして俺。
三つ巴の戦いが始まった。
新武器のメイスで叩けば、あんなに強かったリザードマンも一撃でお陀仏。
でも、リザードマンを掃除してしまうと蟻さんが止まらない。
基本的に逃げ回るのが正解だ。
「ひえぇ」
魔法的な電撃をギリギリで躱す。蟻さんがまとめて焼き殺されるが、次から次へと湧いてきてリザードマンもおちおち魔法を使っていられなくなる。
今度は肉弾戦タイプのリザードマンが、剣と盾を構えてゾロゾロ来たので、片っ端からメイスで吹っ飛ばす。
どのぐらいそうして戦っていただろう?
気が付けば蟻の流入が止まっていた。まだ百匹ぐらい残っているが、打ち止めらしい。
だが、リザードマンもボロボロ。まともに動ける個体は少ない。
両者ほぼ全滅と言えるだろう。
まぁ、俺が調整したからだけど。
戦いも終盤。
そんな時だ。
真っ黒な霧が目の前に現れたのは。
「死ね!」
ノータイムで殴りかかった。
――ゴアァァ!
腹に響く呻き声。
効いた!
霧の状態で、攻撃が通った!
レイスが姿を現す。
一度死んで、蘇った。
真っ黒で、顔の無い。
リザードマンの王。
――ガァァァァ!
今までの、いけ好かない余裕っぷりが嘘の様だ。
怒り狂って噛み付いてくる。
「ホラよ! ごちそうだ!」
その口の中、蟻さんを投げ込んだ。
グチャリと潰れる。
――カチカチカチ
兵蟻たちは恐れを知らない。残りの百匹が果敢にレイスに突っ込んで行く。
好き放題に噛み付くが、まるでダメージにはなっていない。
しかし、関節にまとわりつけばしっかり行動は阻害するようだ。
俺はこの隙にポーチから攻撃薬を取り出して、一気飲み。
さらには、アクセサリーをDEF重視から、ATK重視に装備し直す。
それぞれATKが8と9で+17。
合計で62にもなる。
弱点属性で威力は倍? 攻撃薬で更に倍?
「ヒヒッ!」
面白くなってきた。
そんな俺の背中に激痛が走る。
蟻に噛まれたのだ。
「邪魔すんなよ!」
猛烈に痛い。
今までだって何度も何度も噛まれてきたが、DEF寄りにしていたからそうでもなかっただけだった。
肉を抉られる強烈な痛みに変わってしまった。
「離れろ! 離れろって」
てなもんで、猫の手で背中を掻くように、俺はメイスで背中を払ってしまう。
グチュ。
蟻さんが背中で潰れる。
――カチカチカチ
蟻さん超激怒。うーん困ったね。
俺は最後の回復薬を一気に煽る。
背中の痛みは引いたが、状況は最悪に近い。
気が付けば、闇の収束も近い。
ピラミッド部屋の外は、既に闇に飲まれている。
もうドコにも逃げ場など無かった。
「やったらぁ!」
俺はレイスに殴りかかる。
こうなれば、もうコイツをぶっ殺す以外にないからだ。
――グォォォ
レイスも俺を殺しに来た。
不定形の泥みたいな体で、手を槍みたいに尖らせる。
紙一重で躱すと同時、俺はその手をぶん殴る。
グチュ。
あんなに固かったレイスの体が潰れる感触。
凄まじい火力だ!
一気に決める!
追撃するべく、一歩踏み出す。
その足を貫かれた。ブーツを槍が貫通している。
レイスが、地面の下から攻撃してきた。
コイツは霧になって壁を貫通出来る。だったら変形した体の一部でこんな攻撃も出来るってか。
――ギギギッ
俺の足を封じたレイスは、のっぺらぼうの顔をパカリと分割した。
頭を噛み潰すつもりだ。
甘ぇよ!
――ブッ!
吹きかけたのは、口に含んだ回復薬。
お前はコイツも弱点だろ?
――ギュァァァ!
怯んだ隙、逃しはしない。
メイスを握り締め、引き絞るようなテイクバック。
全身の筋肉を総動員。
俺はメイスをバットみたいに振り抜いた!
――ガァァァァァ!
部屋中に響く、レイスの悲鳴。
怖気が走る不気味さだが、今はこの声が心地良い。
モーニングスターじゃビクともしなかったレイスの体、それが気持ち良く吹っ飛んで行く。
足に刺さった槍も抜けている。
さぁ追撃、と言う時だ。
「えっ?」
火球が迫っていた。
リザードメイジの放ったモノだろう。
既に躱しようがない至近。
え、あっ? 死?
俺、死んだ?
違う!
俺は再びメイスをフルスイング!
ぶん回す棒に確かな手応え!
――ドォン!
爆発音はレイスから。
火球を、狙って、レイスに打ち込んだ。
我ながら天才的なバッティングセンス!!
俺、才能ある。
やきう。始めて良いか?
――ギィィイィ
そんで、火球よ。
物理攻撃じゃないから、コイツは当然効く!
痛む右足を引き摺って、追撃。
取り出したのはサバイバルナイフ、それをレイスの顔面に突き立てた。
更に、追撃。
「うぉぉぉぉ!」
ナイフの柄に向かって、俺はメイスを振り下ろす。
釘を打ち込むみたいに、叩き込んだ。
――アァァァ!
切ない悲鳴を残し、レイスは消えた。
それと、同時。
――シャララーン
スマホのアラーム。
そして、俺の意識は白に飲まれた。
スマホには、congratulationの派手な飾り文字。
システムメッセージが添えられていた。
≪ 二層を攻略しました 報酬を受け取ってください ≫