初めから、おかしかった。
キラーは、木之瀬さんだけは絶対に殺そうとしなかった。
殺すチャンスは幾らでもあったのに。
そんな男がミントちゃんを知っていた事。
木之瀬さんが好きだった矢野先輩にどこか似ていた事。
ミントちゃんが木之瀬さんを好きだった事。
……そして、既に取得されていた変身スキル。
それら全てが、看破のスキルを見た瞬間に、繋がった。
なんでって?
看破があまりにもゴミスキルだったから。
俺は、いつだって、こういうゴミを使う運命にある。
いつもいつも、なんか良く解らないモノに手を出してしまうのだ。
ガンダムのパチモンのプラモとか、誰も知らないようなクソゲーとか。
そんな、意味不明なモノにどうしたって惹かれてしまう。
だから今回も。
看破こそが俺の為のスキルだって思ってしまった。
その途端、全てが繋がったのだ。
つまり、ほとんどヤケクソの直感だ。
だけど、俺はこの直感に生かされてきた。
アリのウンコにだって助けられたのだ。
だったら最後までコイツに従わなきゃ嘘だろう?
「と、いうワケでね」
俺は、転がるミントちゃんのお腹を蹴っ飛ばす。無造作に。
「ぐぎぃ!!」
ゲロゲロと吐いちゃって苦しそう。可哀想ね。
看破の無力化は、凄い事になっている。まるで抵抗する力がなさそうだ。
普通、蹴っ飛ばしたら反射的にお腹に力を入れて抵抗するだろう?
それが、まるでなかった。全くの無防備。
柔らかなお腹を蹴り込んで、つま先がぐちゅっとめり込んだんだから、もう蹴られたミントちゃんは堪んないだろうね。
ちょっとした嘘を看破されただけで空手の師範は脱力していた。
それが、全身を変身させた状態で看破されたんだから、まぁ酷い。
「ぐぇ、あおぅ」
意味不明な悲鳴と、嗚咽。
のたうち回りたいのに、手足は動かず、指先がピクピクと痙攣するだけ。
代わりに、だらだらと脂汗を流し、顔がべちゃべちゃになっている。
キラキラ輝くウェーブの掛かった髪も痙攣にあわせて波打つばかりだ。
そんなミントちゃんのブロンドヘアをむんずと掴み、吊り上げた。
俺は、更に残酷で酷い宣言をミントちゃんに突き付ける。
「はーい、じゃあコレからミントちゃんの無防備な顔面をパンチしまーす」
「えぇ?」
ミントちゃんをビビらせるつもりの顔面パンチ宣言。
しかし、反応したのは木之瀬さんだった。
「なんで? ミントが? ドコから?」
「あー、あのね、キラーってのはミントちゃんが魔法で変身した姿だったのよ」
「うそぉ?」
そう思うよね。
まぁ、そうなのよ。
「で、俺がソレを見破る魔法で看破したってワケ」
「そうなの? え、篠崎くんはなんで……」
「まぁまぁ、それは後でね」
今はとにかく、ミントちゃんにお仕置きせねば。
髪を掴んで吊り上げたまま、目の前でガントレットをニギニギして見せる。
「えー、今からこの鋼鉄のガントレットでミントちゃんの顔面を破壊しまーす」
「そ、そんなぁ」
……なんか木之瀬さんが反応するの調子狂うなぁ。
「これは、お仕置きで躾けです、ミントちゃんはいっぱい人を殺し過ぎました」
「ミントがキラーなら、そうだよね」
そうなのだ、調べるとキラーは同じ学校の人間すら殺していた。なんなら俺のクラスメイトまでいた。
そこまでして彼女は二層を挑戦するためのアイテムを集めていたのだ。
可愛い彼女がお願いすれば、隙を突いて殺すぐらいは何とも無かっただろう。
許せねぇよなぁ?
いや、クラスメイトって言っても俺はちょろっと話すぐらいの仲だったけどさ。
でも、まぁ、この程度の『ワカらせ』は許されるっしょ。
「コレは制裁でーす、邪悪な心を正義の拳で調教してあげるよーん」
神経を逆なでするような、身勝手な事を言ってやる。
なんかね、ミントちゃん律儀に悔しそうな顔するから苛めたくなるんよ。
「えい!」
パンチをするふりをして、寸止め。
「ひっ、ハッ!」
それだけで、ミントちゃんはビビリ散らして失禁した。
まぁ、無理もない。
いまの俺の力で本気の顔面パンチなんてしたら一発で死ぬからね。
「んー? 漏らしちゃって子供かな?」
「ぐ、がが……」
ぐちゃぐちゃの顔で悔しそうに睨んでくる。良いですね。
「うわぁ……」
木之瀬さん反応し過ぎよ。
「そんな反抗的な態度じゃ終わりませんよ。もっと殊勝にね、どうか馬鹿で間抜けで、殺人鬼である私の顔面をグチャグチャになるまでぶん殴って残らず前歯を折って調教して下さいって、土下座してお願いしなさい!」
俺はワケがわからん事を言いながら、髪を掴んだまま、ミントちゃんの顔面を床に擦りつける。
ぐりぐりーってな。
「ぎっ! がっ!」
「良く出来ました! あとは、その惨めな土下座に免じて、顔面グーパンチで調教してあげまーす」
「ぐがぁ……」
ちょっと動けるようになって来たのか、ミントちゃんは反抗しようとする。
じゃあ、そろそろ終わらすか。
――ごりゅ
予備動作なし、顔面に容赦ないグーパンチ。
ガントレットがめり込んで、前歯は残らず折れてしまった。
「ぐべぃ」
ビクンビクンと痙攣している。
大丈夫かな? 死んでないよな?
とりあえず寝かせて、顔にベチャベチャと回復薬を零していく。
ここでおしっこひっかけたら鬼畜も極まった感じだが、流石にそこまでしないよ。
折れた歯も丁寧に刺していく、きっとくっつく。
ここまですれば完全に無力化したって言えるでしょ。
俺は、隷属の首輪をそっとミントちゃんの首に巻く。
装備された。
≪ 藤宮 眠兎 ≫
人間Lv2 隷属
はい、俺の奴隷ね。
で、木之瀬さん。
「ごめん、俺が生きてるってもっと早く言うべきでしたぁ!」
一転、土下座して平謝りですよ。
「う、うん……」
木之瀬さんは微妙な顔だ。
かいつまんで、いままでの事を説明する。
二層を死にそうになりながら攻略したこと、魔法を一つ貰えたこと。
そして、無事だと明かせなかった理由。
だって、あの状況で俺が現れたら二層に行ったとバレる。
同じだけの装備を持っている相手がいるなら、キラーは警戒して中々現れないと思ったのだ。
あとは、木之瀬さんをストーカーしてりゃキラーを捕まえられると思っていたら、木之瀬さんは警察に保護されてしまった。
キラーも俺も、ダンジョンで木之瀬さんを捕まえるしか無くなったのだ。
「あの、それで、木之瀬さん」
ダメだ、今の俺、顔が真っ赤だ。
「木之瀬さんが、俺の事好きって、あの聞いちゃったから」
「え? あ、アレは、アレはね、違う! 違くて!」
違わないだろー。
可愛い嘘だ。
「看破!」
「えっ、あの、うん、好き……です」
看破が効いたのか効かなかったのか、木之瀬さんは真っ赤に俯いて、そう言った。
予想通り。
だけど、予想外だったのが続く言葉だ。
「だから、いいよ……殴っても」
「え?」
殴らないってば!
「で、でも! 好きなんでしょ? 女の子の顔を殴るの」
そう言う木之瀬さんの目線の先には、ズタボロになったミントちゃんが。
あ、ヤバいっすね。
「違うって、俺、木之瀬さんを殴りたいなんて思ってないから」
「えぇ?」
「…………」
いまの、えぇ? に失望が混じっていた様に思えるのは、気のせいだろうか?
俺は木之瀬さんの手を握って、落ち着かせる。
「安心してよ、殴ったりしないから」
「……うん」
木之瀬さんは、肩を落として俯いてしまう。
え? マジで?
え? マジなの?
木之瀬さん。
ド!
なの?
ド、ドMの人なの?
「あの、木之瀬さんは、俺に殴られたいの? Mだったり?」
「そっ! そんな事無いよ!」
眉を吊り上げ、怒って見せる。
だけど、さぁ……
「看破!」
「あっ、うぅ!」
先ほどよりも、激しい反応。脱力。
そんな事、あるみたいですね。
そして……
「私ね、顔面をバチボコに殴りながらエッチするって言われて、意識しちゃって。それから篠崎くんがモンスターを殴る度にドキドキしちゃって」
ドMじゃん!
「なのに、守って守られて、最後には殺しちゃって。それで帰ってからね、篠崎くんの夢を見たの。何で助けてくれなかったんだ! って怒って、私の顔を殴るの」
えぇ?
「それで、私、悲しいハズなのに、興奮しちゃったの」
そんなの、ある?
「えーと、それで木之瀬さんはオナニーしたの?」
「お、オナ? し、しないよ! そんなの!」
……いや、してるでしょ。
これ、してるでしょ!
「看破!」
情け無用の看破。
すると、どうだ。
木之瀬さんは可哀想な程に顔を真っ赤にして、口をパクパク。
よほど言いたくないのか、でも、最後には涙目でしゃべり出した。
「あ、う……毎日さんかい、ううん、四、うそ、きっと五回以上……イキまくって、気絶しちゃうから、数は良く解んない」
え、えぇ……怖い、怖くない?
言わせておいて、なんか、俺まで恥ずかしくなってきた。
「篠崎くんの拳がね、顔にグチャってめり込んで、最後には首を絞められて殺されながらイって落ちるの。だから途中から訳わからなくなって、でも、私がこの人を殺しちゃったんだって、朝起きたら死ぬ程後悔して」
滅茶苦茶に、倒錯しとる!
「だから、羨ましかった! さっきの、殴られるミントがね、ずっと我慢してたの」
いやいや、え?
「だから、殴って! ミントみたいに私もグチャって……」
いや、困るて!
え、どうすれば?
俺は混乱の極致に居た。
木之瀬さんも、話したく無い事を無理矢理に暴かれて、脱力していた。
だから、やってしまった。
≪ 木之瀬 奈々 ≫
人間Lv1 隷属
首輪、付けちゃった……