「もしかして、篠崎くん?」
はい、終わった。
俺の人生終わったよ。
殺人から流れる様な顔バレ。
ファックだね。
良く見れば、問いかけてくる美少女こそ、あの木之瀬さん。
デスゲームが始まったらこの娘に殺されたいランキング堂々の一位。
あまりにも出来過ぎている。
夢なら醒めるな。
いや、醒めてくれ。
何なんだよこの状況? 俺の願った通りにデスゲームを開催しましたってか?
冗談に決まってるだろ。「彼女と付き合えるなら、俺死んでも良い!」みたいな奴だよ。軽率にデスゲームに押し込むんじゃねぇ。遠慮しろ!
はぁーそれにしても木之瀬さん、こんなダンジョンでも可愛い。
なんなら今すぐ俺をぶっ殺してくれないかな。
万が一だよ? 俺の願望通りに彼女を巻き込んだとしたら、申し訳なさ過ぎる。
ちょうど死にたくなってきたトコだわ。
彼女に殺されるなら本望。
彼女は学園イチの美少女で、スクールカーストを上から見下ろす女王だ。
一方、俺は陰キャの帝王。
お似合いかな?
「ウェイ!」
「え?」
いや、ウェイじゃねーんだよ。俺は何を言ってるんだよ。
だけどさ、こっちだって人を殺してるんだっての。
真っ当なテンションで人間なんて殺せねーんだよ。
パリピでGOGO、あたま空っぽでハッピー!
そんなテンションじゃねぇと無理なんだ。
そんな俺に、教室で雑談するノリで話し掛けられても困る。
ごめん、見栄を張った。
クラスで話し掛けられても「ど、ど、ど、どうもぉ!」みたいな感じね。
つまり、いつも通りってワケ。俺は冷静だ。デスゲームにも動じないクールな男だ。
「で、どうなんだ?」
「え? どうって?」
「参加したんだろ? デスゲーム」
画面を見せつける。
残り時間は10秒を切っていた。
どうなるんだろコレ?
冷静を装ってるけどなんも解らん。
「う、うん。アプリで参加した。でもまさか……」
「シッ!」
俺は木之瀬さんの言葉を遮った。
タイマーはゼロ。
「始まる……」
なーにが「始まる……」だよ、我ながらキチーよ。
と、スマホの画面を見ていると、地図に変化が。
地図の端っこがどんどん黒く染まって行く。
え? まさか?
「チッ、行くぞ!」
「どこへ? それより、ここドコなの?」
混乱する木之瀬さんの手を掴んで立たせると、来た道を取って返す。
いや、その前に、殺した男の死体を漁るか。
……ポケットに、回復薬か?
鑑定は後回し!
チラリと横目に確認すれば、木之瀬さんはスカートの裾を握り締め、半べそをかいていた。
「お願い、篠崎くん! 説明して!」
「知るか! 解るのは、このままココに居ると死ぬ! 移動するんだ!」
「なんで? ドコに!? お願い!」
「地図を見ろ! 俺達が居るのがココ、この黒いのに飲み込まれたら、死ぬ!」
「じゃ、じゃあドコに行けば?」
「円の中だ!」
「なんで……」
「…………」
なんでって聞かれても困るじゃんね。
だってそうとしか思えないんだもん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
バトルロイヤルゲーム。
少年少女を孤島で戦わせる小説が流行し、その後ルールをそのまんま拝借したようなFPSゲームが大流行した。
ルールは単純。
絶海の孤島。100人で戦って、最後まで生き残ってたら勝ち。武器も装備も現地調達。
だけど、皆で引き籠もっていたら、何時まで経ってもゲームが終わらないだろ? せっかくの殺し合いがかくれんぼになっちまう。
だから、どんどんと領域を削って行く。
毒ガスが撒かれて、生きていられる場所が減っていく。
広大な島でのサバイバルが、最後には家一軒よりも狭いスペースで殺し合い。
このデスゲームもまんまソレだ。
だが、そんなゲームのお約束を説明する暇がない。
手を引きながら、木之瀬さんに訊ねる。
「君は? なんで、こんなゲームに?」
「あの、気が付いたら狭い棺桶の中で……」
「俺もだ!」
言いながらも、走る。
部屋でもサンダルを使う男で良かったよマジで。
素足ならその時点で詰んでいた。
そういえば、なんで木之瀬さんはセーラー服なんだ?
「その格好は、学校に居たのか?」
日曜の午後だろ? まさか、時間軸から違うとか??
「ううん、未成年と解れば、変なコトはされないかなって……」
なるほど。逆効果です。
樹海に制服で飛び込む様なもの。
俺が自殺志願者なら、死ぬ前にJKと一発ヤって死のうとする。
カモネギならぬJKに制服。
まぁ、俺だって来るのはヤクザと思ってたから仕方ない。
まさかダンジョンが来るとは思わないだろ。
むしろ、たった5分でよくソコまで思いついたと褒めるべき。
……いや、何かが、おかしい。
気になるのは『最短』5分って注意書き。
まずは木之瀬さんと話す時間が必要だ。
松明を拾い、来た道を戻る。
最初にスケルトンと戦った部屋は収縮の範囲内であった。
あそこで情報をすり合わせよう。
ゴブリンを殺した薄暗い通路を戻る。
「なに、コレ……」
「ああ、それゴブリン。俺が殺した」
ARカメラの使い方を説明する。簡素な表示だ。
「こんな怪物まで居るの?」
「そう、敵は人間だけじゃない。手当たり次第に殺すしかない」
「そうなんだ……」
「そうなんだよ」
手を引いて、最初の部屋。ここは明るくて良いね。
倒したスケルトンの横に腰掛ける。
木之瀬さんも俺の前に膝をついた。
「ねぇ、何でも良いから、知ってる事を教えて……」
「じゃあ、俺から説明する」
「うん……お願い!」
よぉし、聞いて驚けよ。
「クソほど暇だったから、噂の自殺アプリをダウンロードしたら、5分でデスゲームが始まって、気が付いたらソコの、今は閉まってるけど、石棺の中に押し込まれてた。以上!」
「えぇぇっ?」
そんだけ? みたいな顔をするなよ! コッチはモブキャラやぞ。
大した事情なんてねーんだよ!
俺が無言で促すと、木之瀬さんも事情を語った。
「あの、自殺ゲームのアプリってのは一緒。でも、最初は簡単なミッションだったの、1km走ってこいとか」
……やっぱりか。
だって、あまりにも噂と違い過ぎた。
たった5分でダンジョンに送られたのは俺だけ。
モブにあるまじき、地獄への専用チャーター機。
アプリ自体は、まんま、俺が想像してたやつ。
アホみたいなミッションをやらせるタイプの自殺アプリ。
俺と違って情緒があるじゃん。差別じゃん。
「でも、どんどん、嫌なミッションになっていって、最後には自分で自分の首を絞めろって」
典型的な奴だ。噂に聞いていた通り。
「で、ミッションを無視していたら、カウントダウンが始まって、私いよいよだなって思ったの」
「いよいよ? いよいよってのは?」
「あの、私、ホントは死にたかったワケじゃないの、友達が行方不明で……知ってる? ミントちゃん」
知ってる。藤宮 眠兎。
木之瀬さんと仲良しで、木之瀬さんに負けず、いや、もっと目立つタイプのとんでもない美少女だった。
彼女は、クォーター。ソレも、日本人の血が四分の一って意味でのクォーター。
母はアメリカ人で、父が日英のハーフ。だから、パッと見、白人に見えたほど。
ウェーブのかかった金髪がフワフワのロングヘア。華奢で小さくて、マジで人形が歩いているみたいだった。
オーラがあって、陰モブの俺はちょっと怖かったぐらい。
そんな彼女が行方不明ってのは、噂に疎い俺でも知ってる程度には大ニュースだった。
だが、それとデスゲームが結びつかない。
「それで絶対、このアプリで事件に巻き込まれたんだって思ったから……犯人が来たら問い詰めて、絶対にミントを取り返すんだって……」
「考え過ぎだろ? アレだけ目立つ容姿だ、普通に誘拐された可能性だって」
「違うの、あのね……」
え? マジ??
告白された?
ミントちゃんに?
木之瀬さんが???
キマシタワー
で、女の子同士で付き合えないってお断りした?
で、ミントちゃんが思い詰めていたから、自殺アプリ?
なるほどー
なるほどね、うんうん。繋がった繋がった。
青春だね。
きついわ。
このデスゲーム。本気で死にたい奴ばかりを集めてるのかと思ったら、友達を助けたいとか、そう言うパターンもあり得るとはね。
さっきの男みたいに間抜けなパコり野郎ばかりなら、円の中心を目指すだけで、自動的にゲームクリアもあり得ると思っていた。
だって、意味不明過ぎるもん。
我ながらよくこの状況に順応していると褒めたいぐらい。
普通なら訳も解らず最初のスケルトンに斬られて死んでると思う。
プレイヤーが生きる気力に乏しい奴だけなら、殆どが何も出来ずに脱落だ。
それが、目的を持ってゲームに参加した奴が居るとなると、話が変わる。
それにさ……
この手のゲーム。生き残れるのは最後の一人だけってのは定番だ。
そうなると……
俺はジッと木之瀬さんを見つめる。
「で、木之瀬さんはどうしたい?」
「あっ、名前!」
知ってるよ!
「キミは有名だしな。むしろ、ソッチが俺の名前を知ってる方が驚きだ」
「わたし、同じ学年なら全員覚えてるよ?」
はい、特殊能力。
陰キャはね、同じクラスでも半分ぐらいの名前が解らない!
木之瀬さんや藤宮さんは特別よ。
美人過ぎなのと、いっつも二人でベタベタしてて、キマシタワーの塔管理人としては必修だっただけの話。
そんな憧れの美少女と二人きり。
協力してデスゲームから脱出を目指す。
陰キャにとって夢のような展開だ。
夢なら醒めねぇかな。
……いや、無理だわ。
いっそ殺してくれー。
何故って?
どう見ても、俺、モブだし。
生きる意味も、希望も、何にも無いスカスカの男だ。
二人で仲良く脱出なんて絶対に無理。
それどころか、彼女を守って死ぬなんてオイシイ役回りすら無いだろう。
なんかのトラップで見せしめに死ぬタイプ。
だったら彼女に殺して貰った方がマシ。
いや、彼女に人が殺せるのか?
デスゲームで人を殺せないなら生き残れない。
まずはソイツを確かめる。
俺の、命で。
「キミはどうしたい? 聞きたいのは、キミはこのゲームをクリアーする気があるのか、木之瀬さんは人を殺せるのか? ソコが知りたい」
「人を……」
「だって、デスゲームだぜ? 何人が帰れるか解らない。十人かも知れないし、一人かもしれない」
「そう、だね」
「俺は、もう殺した。木之瀬さんは殺せる?」
「……殺せるよ」
嘘だぁ。
「じゃあ、殺してよ」
俺は錆びた鉄の長剣を差し出した。
「え?」
ほらぁ、ポカンとした顔するじゃん。
「だ、誰を?」
「ここには、二人しか居ないだろ? 殺せ! 俺を! もしくは、君自身を!」
俺は、木之瀬さんに長剣を握らせて、剥き出しの刃に首筋を晒した。
斬ってくれとばかりに挑発した。
「な、なんで?」
「キミを襲おうとするさっきみたいな男は、きっとまだ居る」
そう言うと、木之瀬さんは無言で頷いた。
「汚される前に、君は自分で死ぬ権利がある。どうしてもと言うなら、俺が殺してやってもいい」
「やだ! それじゃ、ミントは助からない」
マジでこんなデスゲームに参加してたら、あのちっこいミントちゃんなんてとっくに死んでると思うんですが……
まぁ、いいや。
「じゃあ、俺を殺す?」
「なんで?」
なんでじゃねーよ。
「二人仲良く脱出出来るとは限らない。定員一名様ならどうせ最後には殺し合いだ。いま俺を殺せば武器も手に入ってお得だろ?」
「しないよ……そんなの」
はっぁー。
しないよ! じゃないんだよ!
頼むから殺してくれー。
土下座したらワンチャン無いかな?
俺は苛立ちのままに木之瀬さんを押し倒す。強引に!
「きゃっ!」
「この状況が既に異常なんだ! 殺されるかも知れないってのに、俺は武器を手放し、君に握らせた。この意味がわかる?」
切羽詰まった俺の問いかけに、木之瀬さんはプルプルと顔を振る。
解らないよな。解るわけ無い。彼女みたいな女の子にはな。
「俺は、別に殺されたって構わないと思っている! こんな人生、君に刺されて終わるのも悪くないってね」
掛け値無しの本心。
さっき会った時に、改めてそう思った。
俺の様なモブがこの手のデスゲームで生き残れる可能性は僅か。
なら「ごめんね」と泣きながら美少女に刺されるの、最高じゃんね。
「そ、んな……」
「それぐらい、イカれた奴が大勢居る! 忘れたか? コレは死にたい奴ばかりを集めたデスゲームだ!」
木之瀬さんは青い顔で震えている。
震えたいのはこっちだよ。なんなら、ちびったまである。
もし、ノータイムで「おっ! そうだな!」って斬られたら泣いちゃう所だった。
ちょっと賭けだった。
いや、彼女に殺されたいってのはある程度ホントだよ?
ホントはホントだけど、やっぱ情緒は大事。
押し倒した姿勢、木之瀬さんの顔が間近で緊張しちまうよ。
言い含めるように説明する。
「例えば、怪しい奴が、へへっ、まぶい女が居るじゃねーか! と寄ってきたとする」
「なんだか、悪役のイメージが古い感じだね」
「…………」
あれ?
ひょとして、言葉のナイフで殺そうとしてる?
切れ味は十分! だがノーダメージを装う。
「そんな時「それ以上近寄ったら、斬ります!」はダメだ。無言で斬れ!」
「な、なんで?」
「死ぬのが嫌な奴はデスゲームなんざ参加してねーんだよ! 死が抑止力にならない!」
「…………」
木之瀬さんはゴクリと唾を飲み込んだ。
押し倒した姿勢。なんか興奮するから止めて欲しい。
「つまり、参加者は全員漏れなくイカれてるんだ。殺したって構わない。いや、殺してあげたほうが為になるぐらいに思っておけ。少しの躊躇も許されない」
「じゃあ! ……じゃあ、篠崎くんも?」
「俺が一番イカれてる! 暇つぶしで参加してるんだぞ!」
いや、自分で言ってて悲しくなってきたわ。
本当は、マジでデスゲームが始まるとは思ってもみなかった。
冷静になると、どっと力が抜ける。
はぁ、コレ無理ゲーじゃん。
木之瀬さんはデスゲームには優しすぎる。
モブの俺でも、木之瀬さんを守って死ぬぐらいの役目はあるかも?
とか思ったけど、それも無理そう。
俺が伝家の宝刀「ココは俺に任せて逃げろ!」とか言っても。
「そんなぁ、置いていけないよぉ」で、二人で死ぬ奴じゃん。
ソレはマジで萎える。
完全な無駄死に。
あまりにも下らない。
なんだかテンションを上げすぎて無理が来た。
こんなトコで憧れの美少女に会えた喜びも過ぎ去って。どうにもシラけてしまった。
……だって、どう考えても死ぬんだもん。
スマホのタイマーは刻々と減っている。
理解の悪い女の子を説得するなんて無理。
泣いたり拗ねたりする木之瀬さんをなだめてる内に、二人纏めて死ぬだろう。
ソレは最悪だ。
「はぁ……まぁいいや。じゃあね」
俺は、のそのそと立ち上がる。
「え? 行っちゃう……の?」
「だって、面倒だもん」
「なに……それ……」
信じられないって顔しやがって。
守って貰って当然みたいな顔しやがって。
はぁ、うっぜ。
躁鬱なんだよ。コッチは。
つーか無理矢理に躁にして、殺人をしたんだ。
そうやって君を助けたんだ。
もう、十分だろ?
いつも、俺はそうなんだ。
ずっとハイテンションなんて、無理なんだよ。途中で面倒臭くなっちまう。
「一緒に行動したくない理由は色々あるけど、まず君に覚悟がないこと」
「あるよ! きっと殺せる!」
「そして、俺が君を守りたいって事」
「??? え? どういう?」
「そのまんま、俺はキミを守って死にたい」
「う、うん?」
「どうせ死ぬなら、君を守って死にたいと思う。だから、一緒には居られない」
「ちょっと待って!」
「なに?」
「意味がわかないよ!」
だよな。
でも、そうなんだ。
「どうせ死ぬなら、好き勝手暴れて自由に死にたい。でも、君と一緒に居たら、君を守りたいと思ってしまう」
「え? ええ? じゃあなんで行っちゃうの?」
「こんなトコに拉致されてる段階で、どうせ死ぬんだ。きっと守れない。無力感に苛まれて死ぬより、好き勝手暴れた方がマシだろ?」
「後ろ向き過ぎるよぉぉ!」
木之瀬さんが叫ぶ。まるで理解出来ない様子だ。
でも、本当だ。
「なにより、万一全部が上手く行って、最後に残った君と僕。脱出出来るのは一人ですってなったとき嫌な思いをする。俺には特に目標もなくて、君には守りたい友達が居る。君は俺がどうぞと譲ってくれる事を期待する。考えただけでもうんざりだ」
「うぇ……あーうん」
木之瀬さんは苦笑いをして。
「それは、ちょっと解るかな。私も、やってくれるよね? って期待されるのは、嫌!」
「だろ?」
「じゃあ、その時は私が責任をもって篠崎君を殺すよ」
「出来るの?」
「やるよ、篠崎君も私を殺すんでしょ? 恨みっこ無しだからね!」
「そんなの、解らない」
「え? ズルい!! そんなの!」
「気分が乗ったら殺す。でも、きっと後悔するだろうな。なんで俺が生き残ったんだって」
「そんなの、私もだよ」
「だから嫌なんだ」
「ハァ……」
木之瀬さんは呆れたように肩を竦める。
「後ろ向き過ぎ! もしかしたら二人で、ううん、ミントも見つけて三人で脱出出来るかも」
流石は木之瀬さん。夢も希望も一杯だね。
まぁ、絶対に無理だけど。特にミントちゃん。死んでるでしょ。
俺はもう、この場で君が「ごめんね」って泣きながら斬り殺してくれたらソレでいいんだけど?
「めんどくさい。無駄な目標も義務も抱えたくない。俺に何の得があるんだよ?」
「そ、それは……」
なんか木之瀬さんがモジモジし始めた。
「えと、好きにしていいよ。私の事」
ふーむ。
女の武器を使って来ましたか!
何でもするって覚悟は評価する。
表情からも、甘さが抜けた。
学園イチの美少女とエッチ。
一般的な無気力男を奮起させるには十分でしょうね。
だがな! そんな色仕掛けが俺に効くかよ。
こっちは半端な覚悟で無気力してねーんだよ!
「そんなもん、今犯せば良い。取引になってねーよ」
「無理だよ! 時間に追われてなんて!」
「どうかな? 試してみるか?」
こちとら早漏よ! 早ヌキの篠崎に不可能はない!
くっそ死にてーな。
だが、木之瀬さんは諦めない。
「それに、帰ってからなら、時間を気にせず何度も出来るし」
「それは一理あるな」
なーにが「一理ある」だよ! なんもねーよ。我ながらキチーよ。
自分でも何を言ってるか解らねーよ。
やめろ、色仕掛けは俺に効く。
なんかモジモジしてしまう。
「ホントの事言うと、俺、初めてだし」
「そんなの、私だって初めてだよ!」
うっそだー。
いや待て。コレは罠だ。
素数を数えろ! 1って素数に入りますか?
え? ホント? ホントに処女?
素数がギブアップしてクールな演技がログアウト。
「俺は、やっぱ、最初はらぶらぶエッチが良いな」
「らぶらぶ……はちょっと約束出来ないよ?」
はい、死んだ。
俺、言葉のナイフで死んだよ!
殺人検定合格! 覚悟アリ。
そっちがその気なら、俺も言いたいこと言わせて貰うよ?
「じゃあ、卒業するまで、毎日、好き放題呼びつけてエッチするけど、良い?」
「えぇ? 毎日? うん……いいけど……」
まじで?
マジで良いの???
急に生きる気力が湧いてきたんだけど!!
「じゃあ、アブノーマルなセックスは有り?」
「それは無理……ううん……いいよ」
俺が露骨にテンションを落とすと、木之瀬さんは慌ててOKしてくれた。
「やった! マジで? うぉぉぉ! 帰ったらエロサイトで大人のオモチャ買い漁るぞ!」
「え? ちょ……」
「木之瀬さん知ってる? 俺の腕よりぶっとくてトゲトゲしてグリグリ動く奴あるんだよ!」
「…………」
うっわ!
いつもニコニコ、愛嬌のある木之瀬さんの表情が、死んだ!!
こんなに無表情の木之瀬さん初めて見た!!
これはもう一押しですね。
「あと、首を絞めて、ボコボコに顔面殴りながら犯すから」
「え……」
抜け落ちた表情が、絶望に染まる。
「ほら、木之瀬さん可愛いから浮気しそうだし、あと、単純に女の子をぶん殴りながら犯してみたい」
「え? らぶらぶエッチが好きなんだよ、ね?」
「嫌がる女の子をバチボコにぶん殴りながら、らぶらぶエッチしたい」
「頭おかしいよ……」
おかしいんだよ!
男はみんなおかしいの!!
だから殺せよ!
俺が死んでも、あっクズが死んだわーぐらいのノリで居て欲しい。
俺が「ここは任せて先に行け」って言ったら、さっさと行って欲しいんだよ!
二人で死ぬなんてまっぴら。
上手いこと、俺が君を守って死んだとしても。
友達を探してデスゲームに参加するような君が、俺のために傷付いちゃ意味がない。
一時でも感謝してくれりゃ十分で、いちいち思い出さないでも良い。
上手いことクズが死んで、丸く収まったなって位で良いんだよ!
そもそも、こんなトコで交わした口約束になんて意味はない。
理不尽過ぎて、破って当然な位がちょうど良い。
で、どうする?
こんな変態と一緒に居たくないって諦めてくれても構わない。
どうしてもって言うなら武器もやる。
今すぐ斬り殺してくれてもオッケーだ。
さぁ、どうする?
だけど。
木之瀬さんは、
「わかった。何でも、何でも好きにして良いから」
ギリギリと歯を噛み締めながら、俺を睨んで、そう言った。
甘さが抜けた、いい顔をする。
この覚悟が欲しかった。
コレなら、何かあったら俺を殺してくれるだろう。
でも、やっぱ、ごめん。
普通にらぶらぶエッチコースも秘かに期待していい??
なんか、いまからでも土下座すればいけそうな気がしてきた。