スマホで簡単エントリー、最短5分でデスゲーム   作:ぎむねま

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とにかくぶっ殺せ

 領域の中心を目指し通路を進むと、小部屋に行き着いた。

 

 通路から中の様子を窺えば、徘徊するゴブリンの集団が見える。

 その数、八。

 とてもじゃないが、全部を相手に出来ない。

 かといって、時間にも余裕がない。

 

「木之瀬さん」

「はい!」

 

 簡単な打ち合わせの後、俺は敵のド真ん中に突っ込んだ。

 

「オラァ!」

 

 先制攻撃。まずは一匹。拳の撃ち下ろしで沈める。

 残り、七。

 

――ギャー!

――ギギッ!?

「オラオラッ!」

 

 わめくゴブリン。

 ノリノリの俺。

 

 粘つく視線を独り占め。

 ヘイト稼ぎは完璧だ。

 

 いや違う。一匹のゴブリンが脇を抜け、木之瀬さんに向かおうとする。

 慌てて回し蹴り。背中を蹴っとばす。

 

――ギャッ!?

「えいっ!」

 

 地面を転がったゴブリンに、すかさず木之瀬さんが追撃。

 コレで早くも二匹仕留めた。

 

 一方で、俺は残った六匹のゴブリンに囲まれてしまう。

 もちろん想定内。ここで俺は逃げを打つ。

 

――ギーッ!

 

 しかし、追って来たゴブリンはわずか二匹。

 思ったより少ない。

 

 残りの四匹は木之瀬さんの方に行ってしまった。

 ゴブリンも俺なんかより可愛い女の子を相手したいらしい。ファックだね。

 

 もちろんコレも想定内。

 打ち合わせ通り、木之瀬さんは一旦、今来た通路に引っ込んで貰う。

 すると、ゴブリン達は四匹で狭い通路に殺到。大渋滞だ。

 

 木之瀬さんが長剣のリーチで牽制に徹すれば、手足が短く、棍棒と短剣しか持たないゴブリン達は近寄れない。

 

 一方で、俺はゴブリン二匹を引き連れたまま、ぐるっと部屋を一回り。

 すると、後ろのゴブリンは俺の足について来れない。距離が離れる。

 

「オラァ!」

 

 そんで、走る勢いのまま、木之瀬さんに殺到するゴブリンの最後尾にタックル。

 転がったゴブリンの頭をサッカーボールみたいに蹴飛ばして、トドメ。

 コレで残りは五匹。

 

 つまり、アレだ。

 ダッシュで走り続ける限り、囲まれない。

 コレが俺の作戦だった。

 

 ゲームで学んだ事だが、囲まれてボコボコにされると何も出来ずに死ぬ。だから動き続けるのが大切なんだ。

 たかがゲームと侮るなかれ。

 だってそうだろ? 囲まれたら死ぬのは現実でも一緒。いや現実のがずっとシビアだ。兵法にもそう言うのあった気がする。

 

 ここまで作戦通り。

 

 だが、この作戦には穴があった。

 

「痛ッ!」

 

 背中をゴブリンに叩かれる。

 一瞬でも足を止めると、ゴブリンに追いつかれてしまう。

 敵に背中を向け続ける事、ソレ事態がリスクだ。

 

 振り返れば、俺を追いかけるゴブリンが四匹に増えている。

 どうやらモテ期が来たらしい。ノーセンキュー。

 お陰で木之瀬さんに向かうのは一匹だけ。これなら余裕で処理するだろう。

 

 なら、攻守交代。次はこっちが守りに徹する版だ。

 

 部屋の隅。ガントレットで守りを固めると、四匹のゴブリンが殺到してきた。

 大振りの棍棒を受け止めるとガァンと腕に衝撃。お返しにパンチをぶち込み一匹倒すが、その隙に別のゴブリンが短剣で刺してくる。痛ぇ!

 

「やぁぁ!」

 

 と、木之瀬さんの可愛い声。

 ズルリと短剣ゴブリンが崩れ落ちる。

 

「どう? わたし倒せるよ!」

 

 頼もしい。

 剣を構えてドヤ顔の木之瀬さん。

 早くも応援に来てくれた。

 

 残り二匹。

 

 助けられてばかりじゃカッコつかない。

 少しは良いとこ見せなきゃね。

 

 前後に挟まれキョロキョロしているゴブリンの後頭部をガントレットでぶん殴る。

 グチャリとした感触と共に、すごい勢いで吹っ飛んだ。

 余裕の即死。

 

「ギャッ! ギャッ!」

 

 最後の一匹。

 果敢に向かって来たところを蹴りで転がして、顔面にパンチを振り下ろす。

 

 全体重を乗せた拳はゴブリンの顔面にメリリと埋まった。

 グロい感じに目ん玉が飛び出す。

 もちろんピクリとも動かない。コレで終わり。

 

 いやぁ、もうね、ホント。

 このガントレット、すごい。

 

「す、凄いね……」

 

 木之瀬さんもドン引きしている。

 

 我ながら、完全にアイテムにおんぶに抱っこ。

 守りたいとか言った癖に、完全にヒモ。

 なんだかんだ、木之瀬さんも三匹倒してる上、無傷だ。何発か貰った俺より全然スマートな戦いぶり。

 

 気まずさの極まり。

 クールな演技も投げ捨てて、でへへと頭を掻いて誤魔化す。

 

「いや、ホント凄いッス、このガントレット。ありがとね」

 

 コレがなかったら遥かに苦戦していただろう。

 

 だけど、木之瀬さんは浮かない顔。

 

「ううん、違くてね……」

 

 真っ青な顔で、口元をヒクつかせて、顔面が潰れたゴブリンをジッと見つめる。

 

「私もこんな風に殴られちゃうのかな……って」

 

 妙な心配をしてらっしゃる。

 

 ……いや、ガントレットでは殴らんて。

 死ぬでしょ。普通に。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「大丈夫そうだね」

「ああ」

 

 ゴブリンを倒した後、部屋の中を一回りして安全を確認。

 どんな罠があるか解らないからだ。

 

 こうしてやっと休憩出来る。

 木之瀬さんもホッと一息。

 

「それにしても、しんどいねー」

「大怪我はないが、ギリギリだろうな。これ以上のリスクは取りたくない」

 

 俺はクールモードでしたり顔。

 人見知りモードとも言う。

 

 ゲームみたいな迷宮だが。

 決定的にゲームと違うのは、一度崩れると挽回出来ない所だろう。

 

 転んで地面に転がろうモノなら、タコ殴りにされてそのまま死ぬ。

 ゲームみたいに無敵時間なんかないからな。

 

「怪我は大丈夫?」

「腕が痺れる。回復薬を飲むが、良いか?」

「いいよ、もちろん」

 

 薬は共有財産だ。緊急時ならそうも言ってられないが、お伺いは立てておく。

 別に命に別状のある怪我ではないが、コイツの効果は見ておきたい。

 

 香水瓶みたいな蓋を開け、中の青い水を一気飲み。

 

「…………」

「どう?」

「痛みが引いたような? 多分……」

 

 打撲した背中の痛みが和らいだ。

 刺された脇腹も傷口が小さくなった気がする。

 

 思った以上に効果がある……かな?

 

 そして、部屋を漁った戦果は……

 

≪ 革のブーツ ≫

 DEF+3

 

≪ 革の靴 ≫

 DEF+2

 

 どちらも足装備。

 

 サンダルだった俺には待望のモノ。

 しかし、学校指定のローファーを履いていた木之瀬さんは戸惑った。

 

「必要あるかなぁ?」

「ステータスがあるからな。持ち込んだ靴はARで見ても防御力がない。履いた方がいいだろう」

「ローファー、一個しかないから、無いと学校に行けなくなっちゃうんだけど……」

 

 そうは言うけど、命には代えられない。

 薬や財宝を差し置いて、わざわざローファーを持ち歩くのは意味がわからんし。

 

 とりあえず、革の靴を履いて貰った。

 

「なんか、ピッタリになるね」

 

 そうなのだ、不思議パワーでサイズは調整される。

 ガチの魔法の産物。

 

 なら本当に防御力があるのだろう。

 装備しない手は無い。

 

 俺は、より防御力の高いブーツを拝借。

 

 何故ってガントレットのステータスは高いが、どうしてもゼロ距離で殴り合う必要がある。蹴りだって使う。

 俺がタンク役なのもあるし、申し訳ないが防御は積ませて貰いたい。

 

 あとは、部屋の中を巡って換金アイテムもせっせと拾う。

 意味があるのかは不明だが、さっきの交渉を踏まえると馬鹿にも出来ないだろう。

 

「じゃ、行くか」

「そうだね」

 

 ここはギリギリ円の内側だが、縁に居ると逃げてくるヤツらと鉢合わせして無用な戦いに巻き込まれるってのがこの手のゲームの常識。

 腕に自信があるならそうやって物資を集めるモノだが、どうしたってリスキーだ。

 

 安全な勝ちパターンは円の中心付近での待ち伏せ。

 俺達は絶対に生き残る。

 なら、ど真ん中を目指すしかないだろう?

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「なんか、雰囲気あるね」

「絶対に、良いモノがあるんだろうが……」

 

 次の部屋はデカかった。

 なんせ、パルテノン神殿みたいのがそっくり部屋に収まっているのだから。

 

 部屋を巡回するのは、またもやゴブリン。

 しかし、数が多い。見えるだけでも十は居る。

 

「厳しいな」

「どうしようか?」

「ココで待機しかないだろうな」

 

 恐らく、部屋全体で二十はゴブリンが居るだろう。

 ボスが居たっておかしくない。

 

 一斉に向かってきたら、どうやっても勝てそうにない。

 

 歩くゴブリンをAR鑑定してみるが、どれもLv1。そこは安心だ。

 

 ってか、Lvって何だ? こっちは幾ら敵を倒しても人間Lv1だ。

 

 経験値とかそう言うので強化される世界ではないって事か?

 考えてもわからない。

 

 とにかく、こういう場合は待ちだ。

 何か動きがあるのに期待して、通路で待機。

 

 この手のゲームにはどうしたってこう言う時間が出来る。

 

 と、円の収縮予告が出た。

 

「マズいな……」

「端っこになっちゃったね」

 

 ほとんど地図の真ん中付近まで来ていたのに、どうも反対側に収束しそうである。運が悪い。

 

「人が雪崩れ込んでくる可能性があるぞ」

「こっち側の領域外になりそうな人が、真ん中を目指して移動するって事だよね?」

「そうだ」

 

 しかも、神殿のあるこの大広間は色々な所から繋がっている。

 乱戦になってもおかしくない。

 

 と、いよいよ動きがあった。

 ゴブリン達が揃って左の通路に駆けだしたのだ。

 そちらも領域外に近い方角。

 

 焦れた誰かが、大部屋のモンスターにちょっかいをかけたに違いない。

 

「チャンスだな! 一気に通り抜ける」

「ちょっと待って! ここにミントちゃんの手掛かりがあったりしない?」

「いや、それは……、探索する時間は無い。プレイヤーが来るかもだし、殺し終えたゴブリン達が戻ってくるかも解らない。神殿の中にどんなボスが居るかも不気味だ。リスクばかりでメリットがない」

 

 ミントちゃんの生死が絶望的なのを抜きにしてもだ。

 この手のゲームは、いかにもな場所だからと、必ずしも貴重なアイテムなり、重要なイベントがあるとは限らない。

 ランダム要素が強く。凄い強いボスが、クソ下らないアイテムを守っていたなんて事はザラ。

 

 さすがに、レアリティが高いモノが出やすいみたいな補正はあったりするが、そもそもそんなゲーム的なルールがこのデスゲームに適用されるかは謎。

 もっと言うとゲーム外のミントちゃんの手掛かりなんてあり得ないのだ。

 

「……でも!」

 

 木之瀬さんは納得しない。

 いや、正直俺だってこの神殿は気になる。

 元の世界に帰る手掛かりだってあるかも知れない。

 もしくは強力なアイテムがある可能性はそこそこ高いように思う。

 

 俺がこの悪趣味なゲームの主催者なら、あの神殿に何も置かないってのはあり得ない。

 

「じゃあ、基本は円の中心の方角を目指して素通り。駆け抜けざまに神殿の中を確認し、残った敵の数が二匹以下だったら中に突っ込んで一人一殺を目指す。ソレでいいか?」

「うん! ソレで行こう!」

 

 作戦は決まった、早い話が出たとこ勝負だ。

 どうしてもヤバかったら引き返して通路で戦う手筈。

 

 まずは敵の様子を確認。

 ゴブリンの大群は、揃って左の通路に走って行った。

 まるでゲームの雑魚キャラだ。敵を見つけると一目散。

 目に見えるゴブリンはゼロ。チャンスだ。

 

「行くぞ!」

 

 ダッシュで駆け出す。

 向かいの扉を目指し、部屋の中央を突っ切って神殿の横を駆け抜ける。

 その最中、横目で神殿の中を確認。

 

 どんなボスが居るのやら……

 

 見えた!

 木之瀬さんが叫ぶ。

 

「二匹だよ! ゴブリン!」

「こっちも見えてる!」

 

 元々探索に前のめりだった木之瀬さんが、我先にと神殿に飛び込む。

 俺も追いかけるように転がり込んだ。

 

 ……まずいな。

 

 飛び込んだ瞬間の感想が、ソレだ。

 やはりと言うか、ゴブリンはゴブリンだが、二匹とも普通のゴブリンじゃない。

 

 まず兜を被ったゴブリン。コイツがゴブリンのくせにデカい。俺よりデカい。

 武器はゴツイ両手剣。体格もガッチリしていて。明らかに他と違う!

 もう一匹は……なんと、司祭みたいなローブを着て、杖を構えた魔法使いスタイル。

 

 木之瀬さんも嫌な予感がしたのか、じわりと後ずさる。

 

 しかし、突っ込んだ以上、時間は掛けられない。

 本隊が戻って来たら終わりだ。

 

 俺は先に飛び込んだ木之瀬さんの横を抜け、デカい方のゴブリンに飛び掛かる。

 

 いや……飛び掛かろうとして、止めた。

 ゾクリとした予感に急停止。その瞬間、目の前を大剣が通過した。

 凄まじい風斬り音。ふらつくスケルトンとはまるで違う太刀筋。

 

 たまたま、躱せただけ。

 次は無理だ。

 

 大剣を躱せなかったらどうなる? もちろん死ぬ。

 

 大苦戦の末に勝てたとしても、ゲームじゃない。

 減るのは体力ゲージじゃない。

 手足の一本や二本、失ったって不思議じゃない。

 

 怖い!

 だけど!

 

 偶然に、初撃を躱せたこのチャンス。

 二度と来るとは思えない。

 

 歯を食いしばって踏み込む。

 

 ――ガァァン

 

 ゴブリンが二撃目を放つ直前。先に俺の拳が届いた。

 頭部にクリーンヒット。兜とガントレットがぶつかり鈍い音をたてる。

 

 固い! だが、イケる!

 

 至近まで踏み込んで、距離を殺したこの状況。

 こうなれば、もう大剣など振り抜けない。

 

「やぁぁぁ!」

 

 さらに横から木之瀬さんの追撃。

 上手い! 脇腹に刺さる。

 

 しかし、浅い。トドメには至らない。

 

 俺も追撃に踏み込んだ。

 

 が、その時。

 

 真横から強烈な光が俺を照らした。

 振り向けば、目の前に、火の玉!?

 

 火の玉?

 

「は?」

 

 もう、目の前。

 もう、当たる。

 

 躱せない。

 直撃コース!

 

 ――ドォォン!

 

 爆発。

 そして閃光。

 

 人間など簡単に死ぬ威力。

 

 だが、俺は生きている。

 

 たまたまだ。今度もたまたま。

 

 俺はガントレットで火の玉をはじき返した。

 もちろん、そんな事が出来るとは知らない。ぶっつけだ。

 手で振り払ったら出来ただけ。

 

 はじき返した先、火球が直撃した神殿の柱がガラガラと崩れていく。

 アホみたいな威力。

 

 良く見れば、さっきの魔法使いみたいなゴブリンが杖を構えている。

 

 ARで確認するまでもない。

 メイジゴブリンって奴だろクソッタレ!

 

 ココのボスはゴブリンナイトに、メイジゴブリンの編成ってワケだ。まるっきりゲームで感激しちゃうね。

 前衛と後衛、しっかり連携していらっしゃる。クソがッ!

 

 たった二匹と侮った。

 どちらも雑魚とは程遠い。

 

 あんなのに当たったら二人とも火だるま。

 自由に撃たせてはダメだ!

 

「そっちは任せた! 下がりながら時間を稼いで!」

「う、うん!」

 

 両手剣ゴブリンを木之瀬さんに託し、メイジゴブリンにダッシュ。

 こういう手合いは、近付かれれば弱い。

 それに、俺なら火球を弾けるのも解った。

 

 ――ギャギャッ!

 

 しかし、メイジゴブリンは俺から距離を取ろうとする。

 

 一直線に向かって来るモンスターばかりじゃないのか。

 『ちゃんとしたAIを積んでいる』そんな風に考えてしまうのはゲーム脳だからか?

 

 しかし、下がるより追う方が速い! ダッシュで追いすがれば、届く!

 

 その時だ。

 

 全力で駆け出す俺の足元。サクリと音をたて、何かが石畳を斬り裂いた。

 

 矢?

 

「木之瀬さん! 三匹目! 神殿の外に弓持ちのゴブリンが残ってる!」

「えぇ?」

 

 最悪だ! 全然二対二なんかじゃなかった。

 射れる位置まで、俺を誘導しようとしている。

 

「柱の陰で戦って!」

「そんなの!」

 

 難しいよな。木之瀬さんは弓の位置も解らないし。

 俺だって、正確に把握したわけじゃない。

 

 本当の死闘が始まってしまった。

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