スマホで簡単エントリー、最短5分でデスゲーム   作:ぎむねま

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とにかくやっつけろ

 薄暗い教室で、木之瀬さんと二人っきり。

 

「篠崎くん、おねがい……優しくして。痛いのイヤ」

 

 俺はむずがる木之瀬さんの手を握り、ゆっくりと指を絡める。

 

「大丈夫。殴ったりしないよ」

「ほ、ホントに?」

「ほんとさ」

 

 怯える彼女に覆い被さり、優しいキス。

 

「今日のトコロは……ね」

「そ、そんなの!」

「だから、ほら、足を開いて」

「うぅ……」

 

 木之瀬さんは恥ずかしそうに目を伏せて、それでも俺を受け入れてくれた。

 

「好きだよ、奈々」

「わたしも! 篠崎くん!」

 

 

 

 

 ドクン! ドクン! ドクン!

「ヒュー、ヒュー、ヒュー」

 

 激しい心音と、おかしな呼吸音。

 あまりのストレスに、逃避を求め、脳が心地良い幻覚を見せる。

 

 現実の俺は、薄暗い遺跡の中で、生と死の狭間。

 ギリギリの戦いの最中であった。

 

 生きる希望を燃やして、ギリギリで踏ん張る。

 

 ヤバい! ヤバい! ヤバい!

 今の俺、死にかけている!

 

 退屈で死にてーが口癖の俺だが、汚いゴブリンに殺されるのは死んでも嫌だ。

 

 投げ込まれる火球と、横から飛んでくる矢。

 どちらも躱さないと、即座に、死ぬ!

 

 そして、どちらも躱しながらでは、近寄る事すら出来そうもない!

 

 いや、本当か?

 火球はともかく、矢の一発ぐらいなら?

 回復薬だってある。

 被弾覚悟で突っ込んで、ゴブリンメイジに肉薄出来れば……

 

 思考する俺の意識を縫うように、風切り音が迫る。

 

 ――ザッ!

「あぶっ!」

 

 躱した矢は、石畳にざっくり刺さった。

 血の気が引く。

 

「…………」

 

 無理だコレ! 骨ごと砕ける!

 ゲームじゃ無い。痛みで動けなくなる。

 

 だけど! そうでもしないと!

 

 ――ギャーギャギャギャ

 

 不快な奇声。

 ゴブリンの呪文。

 

 ゴゥと唸る火球を紙一重の回避。

 明らかなチャンス。

 だが、踏み込もうとする足元に再び矢が刺さる。

 

 近づけない!

 キッチリ連携されて、魔法を引き撃ちされている!

 このままじゃ、躱しきれずにいつか死ぬ!

 

 じゃ、じゃあ、先に弓を片付けるか?

 

 無理だ! あの火球から目を切るなんて出来ない。

 当たれば即死だ。

 

 だけど、俺には時間もない!

 まず木之瀬さんの加勢に、いやそれ以前にゴブリンの本隊が戻って来たら終わりだ。

 どうする? どうしよ?

 

 そうだ!

 ウェストポーチに手を突っ込んで、小瓶を取り出す。

 噛みちぎるように蓋を開け、一気飲み。

 苦い。

 

「あぶね!」

 

 気を抜いた瞬間、意識の外から飛んで来た矢は偶然に外れてくれた。

 しかし、その隙にメイジゴブリンは大きく間合いを広げてしまう。

 

 見晴らしもよく、矢の援護を受けやすい位置。

 ゴブリンのくせにしゃらくさい。

 アイツ時間を稼ぐつもりだ。

 

 一方で、俺達は完全に分断されてしまった。

 

 いっそ、まずは木之瀬さんと二人で騎士風ゴブリンを殺すか?

 いや、ゴブリンメイジに背を向ければ、二人まとめて焼かれるのがオチ。

 

 魔法使いってのは、高火力低装甲ってのがお約束。

 まずアイツを落とさないと話にならない。

 

 覚悟を、決める!

 

「ぐぉぉぉっ!」

 

 一目散に、ゴブリンメイジへダッシュ。

 

――ザクッ!

「ぐべっ!」

 

 右肩に矢が刺さる。

 痛い! でも、骨には達してない。

 これなら! 耐えられる!

 

 さっき飲んだのは守備薬。

 きっちり効果が発揮されてる。

 

 矢の被弾は無視。

 真っ直ぐゴブリンメイジへ走る。

 だが……

 

 ――ギャギャッ!

 

 ゴブリンメイジがコチラに杖を構える。

 

 火球が、来る!

 

 ガントレットを盾に、ただ真っ直ぐに突っ込んだ。

 イチかバチか、顔面だけ守ってのヘッドスライディング。

 すると、どうだ?

 

 覚悟した火球が、来ない?

 

 ゴブリンメイジは慌てた様子で火球の発射を止めたのだ。

 なんだ? どうして止めた?

 火球をはじき返されるのを恐れたか?

 なら、火球を地面にぶつけりゃ良いだろ? それならはじき返す事も出来ずに俺はお陀仏。コイツは明らかなミス。

 

 しかし、コレはチャンス。

 そのまま足元にタックル、転ばせる事に成功。

 

 ――ギャッ!

 

 結果、理想的なマウントポジション。

 ワンパンで終わり!

 

 ――だが

 ……俺は拳を振り下ろせなかった。

 

 ゴブリンメイジの杖の先、ギラギラと輝く魔法の輝きから目を離せない。

 撃ち出されなかった火球! まだ消えていなかった!

 

 間近に感じるエネルギーの奔流に、ゴクリと唾を飲む。

 コレ、爆弾みたいなモンなんじゃ?

 

 さっき魔法を撃って来なかったのもそうだ。

 考えて見りゃ当たり前。

 これはゲームじゃない。

 

 間近の地面にぶつけて起爆なんて出来やしないんだ。普通におっかない。手足の一本も吹っ飛べば一生モノの怪我になる。そんな常識をすっかり忘れていた。

 ゲーム脳が過ぎた。だからこそ突っ込めたのだが、ココに来て俺はビビっちまった。

 

 ――ギギギッ!!!

 

 一方で、このゴブリンはどうだ?

 

 マウントを取った有利な状況が却ってまずかった。俺はコイツをワンパンで殺せる。コイツだってソレが解ってる。

 

 ゴブリンメイジは危険な覚悟を決めてしまった。

 死ねばもろともと言いたげに、コイツは俺に杖を振る。

 

 自爆覚悟ってヤツだ!

 

 暴力反対! 平和的に話し合いで解決しようぜ!

 無理だ! 言葉がわかんねー。

 

 杖を掴む? んなコトしても腕ごと焼かれる!

 そうだ!!

 

 抱きつくようにゴブリンメイジの襟をつかむと、そのまま一気に体を捻る。

 

「オラァ!」

 

 体重差を活かし、振り回す。

 ゴブリンと一緒になって、ゴロゴロと地面を転がった。

 夢では木之瀬さんと抱き合ってたのに、現実で抱くのはゴブリンなんだから堪らねー。

 こんなのってアリかよ。生きるのって大変だ。

 もう諦めて良い?

 木之瀬さん俺を殺してくれねーかな?

 

 馬鹿な考えを吹き飛ばすように、ドォンと爆風と衝撃。

 振り回した事で火球が外れ、石柱に当たって背後で弾けた。

 

 ――ダスッ!

 

 そして、無情にも首筋に矢が刺さる。

 ゴブリンメイジの、だ。

 

 振り回した事で、ちょうど盾代わりになってくれた。

 偶然だ。

 完全に偶然。

 

 だけど、アレだ。

 一挙両得。まるで武道の達人になったよう。

 

「へへっ」

 

 ひたすらツイてる!

 次はお前だ! 俺は弓兵ゴブリンの位置を確認。

 

 

 …………いや、遠いな。

 

 

 あんな遠くから狙っているのか。

 そして、ゴブリンメイジが死んだってのに向かって来る様子もない。

 ひょっとしたら、アイツ。

 動かないのではなく、動けないのでは?

 

 ゲームでは固定砲台みたいに動かない敵だって珍しくない。

 くそ、ゲーム脳であるべきか、ゲームの常識を捨てるべきか解らない。

 

 だったら、まずは引き返す。木之瀬さんを助けないと。

 

 折角だからとゴブリンメイジの杖を拾い、神殿へと駆け戻る。

 

「無事でいてくれよ」

 

 慌てて駆け戻った神殿の中。ガァンガァンと金属をぶつける音が木霊する。

 

 まだ木之瀬さんは戦っている!

 パルテノン神殿みたいな柱の間を懸命に駆ける。

 

 果たして、木之瀬さんと両手剣ゴブリンの姿が見えた。

 

 最初の場所から、かなり押し込まれている。

 おかげで、かなり遠い。

 

「きゃあ!」

 

 突き飛ばされた木之瀬さんが、柱に背中を打ちつけた。

 ヤバい! ここからじゃ間に合わない!

 

「オラッ! コッチだ!」

 

 ガントレットをカチ合わせ、ガンガン鳴らす。

 だが、ゴブリンはチラリとコチラを見る。それだけ。

 まずは木之瀬さんを倒す気だ。

 

 ままま、まず、まずい。

 なんか! なんかないッスか?

 このままじゃ、おれの、らぶらぶエッチが! (知能低下)

 

 杖で、魔法!

 無理!

 

 要らねーよこんなモン!

 

 杖を投げ捨てると、カァンと祭壇に跳ね返った。

 

 祭壇?

 奉られてるのは、宝箱?

 

 コイツら、コレを守ってたんじゃ?

 いわゆるご神体ってヤツだ。

 

「開けるぞ! オイ!」

 

 ゴブリンの気を引くべく、祭壇に駆け寄って、蹴飛ばす様に宝箱を蹴り開けた。

 

「なんだ? 剣?」

 

 ゴブリンのご神体。

 てっきり宗教的なお守りかなんかだと思ったら、剣だった。

 

 しかも、やたらキラキラしていて、豪華。

 銀の鞘には、ブルーの宝石。

 

 コレがヤツらのご神体? 儀式剣って奴か?

 どうする?

 

「ゲッ!」

 

 木之瀬さんに視点を戻せば、絶対絶命のピンチだった。

 片膝をついた姿勢、押し込まれる刃をつばぜり合いで耐えている。

 

「木之瀬さんっ!」

 

 だから俺は、拾ったばかりの剣を投げた。

 儀式剣が音を立てながら石床を滑り、ギャリギャリと音をたてる。

 

 ――ギャ?

 

 お陰で一瞬、ゴブリンの気が逸れた。

 僅かな隙を逃すまじと、木之瀬さんは錆びた長剣を振り上げる。

 ……だが。

 

 キンッ!

「きゃっ」

 

 ゴツイ両手剣と、錆びた長剣。

 思い切りカチ合えば、当然、負けたのは錆びた長剣だ。

 甲高い音と共に、長剣はぷっつりと折られてしまった。

 木之瀬さんは弾かれて地面に叩き付けられる。

 

 ――カラン

 

 と、その目の前に、ちょうど良く滑り込んだのが、あの儀式剣だった。

 

 我ながらナイスコントロール。

 まぁ、偶然ですけどね。

 

「えっ、これ、なに?」

 

 木之瀬さんは飛びついて、即座に抜き放つ。

 

 その様子を遠くから見て、思った。

 綺麗だ……と。

 

 刀身はガラスみたいに透明で、青い光を放っている。

 それが木之瀬さんにピッタリで、薄汚いダンジョンの中にあって、澄み切った可憐さが浮き上がるようだった。

 

 ずっと見ていたい。

 そう思わせる神性。

 

 だが、美を理解しないゴブリンは無粋であった。

 蹲る木之瀬さんの前に立ち塞がり、俺から女神を隠してしまう。

 そして、少女を擂り潰さんばかり。大きく大きく両手剣を振りかぶるのだ。

 

 そこで、ようやく我に返った。

 

「やべぇ」

 

 見とれてる場合じゃなかった。

 もはやどうにもならない距離。

 

 貴重な芸術作品が、物の価値を知らない暴徒に破壊される如く。

 虚無感に包まれ、呆然とする俺の見つめる先。

 

 ゴブリンは振りかぶった膂力を開放した。

 両手剣を唸るような速度で叩き付け……

 

 ――シャリン

 

 そして、斬られた。

 

 剣とは思えない澄んだ音が鳴った後。

 ゴブリンの体は綺麗に二つに分割された。

 

 どさりと音をたて、離れ離れになった上半身と下半身が崩れ落ちる。

 

「嘘だろ!?」

 

 崩れ落ちる死体の向こう側。

 倒れたまま、無理やり剣を振り抜いた木之瀬さんの姿が見えた。

 力など入りようも無い体勢が、尋常ならざる剣の切れ味を物語る。

 

 おいおい、あの固いゴブリンナイトをバター扱いかよ。

 

 そして、剣の威力にビビったのは俺だけじゃない。

 振るった本人が一番驚いているようだった。

 

「す、凄い……」

 

 木之瀬さんは剣を見つめ、ウットリと呟く。

 その表情の色っぽいコト。

 

 薄汚いゴブリンの返り血すらも、彼女を彩る。

 

 そして、まぁ。

 暴力に酔ってらっしゃる。

 

 美しい刀身と美しい少女、あつらえたようにお似合いに見えた。

 

 

 うーん。

 

 ひょっとしてコレ。

 守るどころか、俺が守って貰う流れ?

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