スマホで簡単エントリー、最短5分でデスゲーム   作:ぎむねま

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とにかく逃げ延びろ

「この剣、凄いね」

 

 木之瀬さんがうっとりと呟く。

 

「ああ、攻撃力が桁違いだ」

 

 俺はスマホを翳す。

 

≪ クリスタルソード ≫

 ATK+20

 

 いやー圧倒的。

 錆びた長剣ATK+3を渡してドヤっていたのがいよいよ恥ずかしい。

 

 こんな大仰な神殿を建て、コレを奉っていたのだ。アイツらは。

 それも納得の高性能。

 

 で、木之瀬さん?

 満足した? もう良いよね? 状況忘れてない?

 

「行くぞ、ヤツらが戻ってくる」

「ちょ、ちょっと待って! 何か手掛かりがあるかも!」

 

 そうか、ミントちゃんの痕跡を探すんだっけ?

 望み薄だと思うけどなぁ。

 こんなトコに女の子が来るかね?

 

 と、一息ついたら、体の痛みが気になった。

 矢で肩がざっくり裂けている。

 

 回復薬は共有財産、良いかな? 良いよね?

 

「あー、右肩痛いから回復薬使うっす」

「いいよー」

 

 と、明るい返事。

 流石はコミュ障にも優しいギャル。

 いや、木之瀬さんは別にギャルじゃないけど。

 

 バチャバチャと振りかけると、傷は一瞬で塞がった。

 スゲーなマジで。

 

「篠崎くん、もうちょっとだけ、調べさせて」

「いいけど、急いで」

 

 木之瀬さんを急かすと、どうも祭壇を調べるようだ。

 なら俺は、ゴブリンの死体を漁る。

 

 両手剣は……胴体もろともぶった切られてARにすら反応しない。

 ただのゴミだ。

 

 そして、ゴブリンメイジの杖は魔法を強化するアイテムっぽい。

 魔法が使えないからゴミ。

 

 あとは……

 

≪ 鉄の兜 ≫

 DEF+8

 

 ゴブリンナイトが頭に被る鉄の兜がARに反応した。アイテムだ。

 ゴブリンのお古ってのは頂けないが、被ってみる。

 

「ふむ」

 

 不思議パワーでサイズ調整されて、スッポリ収まった。

 何度見てもご都合主義ゲーム感。

 

 だが、視界が遮られるのは頂けない。ここもゲームっぽく半透明処理などしてくれないもんかね?

 カシャンと面頬を下げると、もはや視界は二割ぐらい。

 

 こりゃ参ったね。

 

 でも、慣れた方が良いかもしれない。

 防御8はデカい。頭を守れるってのが大事。

 

「ねぇ篠崎くん。回復薬が落ちてたよ! それに、この石碑だけど開きそうな部分があるの、手伝っ……誰?」

「いや、オレオレ」

 

 オレオレ詐欺みたいになってしまった。

 その剣を突き付けるのやめてよ。キュンとしちゃう。タマタマが。

 

「よ、よかったー、復活したのかと」

「まさか」

 

 慌てて面頬を上げると。ようやく俺だと解ってくれたようだ。

 どうもゴブリンナイト戦がトラウマになりかけていたらしい。

 

 あんなのがポンポン出たら堪らない。

 

 ――カンッ

 

 その時、頭を殴られたような衝撃。

 

 すっかり油断していたのも手伝って、俺はぺたんと尻もちをついてしまった。

 

「ふぇ?」

「なっ! なん? 嫌ッ! 篠崎くん」

 

 俺の頭に、矢が刺さっている!

 いやいやいや、

 

 違う。跳ね上げた面頬の隙間に刺さっているのだ。

 

 なんだ? ゴブリン? どこから?

 パニックに陥る俺達に、陽気な声が掛けられた。

 

「はーい、動かないでね」

「奪ったアイテムを置いて、失せな」

「面倒くせえから殺そうぜぇ」

 

 現れたのは、人間。

 それも三人!

 

 なんとこいつら、ゴブリンの本隊が行った方から出て来やがった。

 つまり、あの大軍を釣り出した上、処理して来たって事だ。

 ただ者ではない。

 

 筋肉ムキムキ、タンクトップのアゴ髭。

 

 グレーのパーカー、眉毛無しのハゲ。

 

 黒地に金ラインのジャージ、サングラスもじゃ頭。

 

 武器はそれぞれ、ハンマー。弓、剣である。

 

 格好は典型的な半グレ不良ども。

 なのに武器はファンタジー。

 

 違和感凄いなオイ。

 

 弓を撃ったのはパーカーのハゲ。神殿の外から、中の俺に向かって、正確に頭を撃ち抜いたのだ。

 

 弓道経験者か?

 

 それになによりヤバいのは、『このデスゲームで徒党を組んでいる』事だ。

 

 面識のある俺と木之瀬さんが目的と事情を摺り合わせるのにもかなりの時間が掛かったにも関わらず。

 それが三人で? そんなコト可能なのか?

 いや、現実的じゃ無い。

 

 死にたい奴が参加するデスゲームってワリに、イケイケの三人が都合良く集まって徒党を組むってのは腑に落ちない。

 

 つまり??

 

 コイツら、初めから三人で、それもやる気満々で参加している???

 

 だが、そうとしか思えない。

 

 だって何より手慣れている。

 普通ノータイムで頭に矢を放つか?

 そんで当てるか?

 あのゴブリンの群れを退治出来るか?

 

 だとしたら、コイツらは、このゲームの正体を知っている事になる。

 

 初めからデスゲームだと知って参加したんだ! 殺す気で!

 そして、ゲームにはちゃんと脱出方法が存在するって証拠でもある。

 

 まずい……

 

 帰れるって希望と同時、途轍もない焦燥感。

 なにせコイツらには圧倒的な知識のアドバンテージがある。

 

 そんなヤツらが、よりによって見るからに半グレのクソ共。

 人を殺すのに躊躇がない連中と来た。

 

 いや、俺だって格好は人の事言えないわな。

 ヨレヨレのジャージだし。

 

 じっと三人の様子を窺う。

 コイツら揃いも揃って靴だけは中世みたいな革靴で……いや、それも俺らと一緒か。アイテムに違いない。

 

 そう言えば、コイツらは経験者なのになんでジャージなんだ?

 鎧とかは出ないのか?

 

 いや、そういえば、ゴブリンメイジの服もアイテム扱いじゃなかった。

 

 そう言う事なのか? 服としての防具は存在しない?

 防具は靴や兜?

 

 それ以外は守れないのか?

 

 と。

 

 思考を巡らすのも限界だった。

 

 半グレの野郎共が、木之瀬さんを見逃すハズなど無いのだから。

 

「アレ? JKじゃん!」

「失せろっての嘘でーす、遊ぼうぜ」

 

 ヤバい、脳震盪で、動けない。

 やつらが、来る。

 

「篠崎くん! 大丈夫?」

「…………」

 

 心配する木之瀬さんには悪いが、俺は、いっその事、死んだふりを決め込む事にした。

 

「ねぇ! お願い! 返事をして!」

「あー彼氏君、死んじゃった? 代わりに俺達と遊ぼうぜ」

 

 ズカズカとやって来たのは、パーカーの眉無しハゲ! 弓持ちだ!

 他のヤツらは周囲を警戒、遺跡を見て回っている。

 やはり、手慣れている。

 

 逃げるなら、弓持ちが厄介だ。背中を撃たれかねない。

 コイツだけでもどうにかしたい。

 

 脳震盪で揺れる視界の中。木之瀬さんが動いた。

 立ち上がって、クリスタルソードを正眼に構える。

 

「…………」

 

 何も言わない。

 

 「嫌ッ!」でも「どうして?」でもない。

 

 何も言わず、斬る気でいる。

 

 約束を守ってくれた。

 俺はソレが堪らなく嬉しい。

 倒れながら、震える彼女の背中を見守る。

 

 一方でハゲはどうだ?

 彼氏を殺された少女が必死の抵抗。

 そんな風に思ったのかも知れない。

 

 とにかく、ヤツは油断した。

 

「マジ? かわよー。まさやん! いいよね? 俺、このコとヤリたい!」

 

 弓持ちの眉無しハゲ。

 剣を突き付けられながら、余裕綽々で木之瀬さんに近付いた。

 

 だが、木之瀬さんにばかり注目し、頭に矢が刺さった俺は完全にノーマーク。

 

 音を殺し、ゆっくりと立ち上がって、忍び寄る。

 まるでコチラを見ていない。

 

 一気に走り込み、ガントレットを握り込む。

 がら空きとなったハゲの腹。大振りの一発を叩き込んだ。

 

「オラァ!」

「ぐえ、オイ、テメェ!」

 

 ……なんだ? 固い! ぶ厚いゴムみたいな感触。

 嘘だろ? ゴツいガントレットで殴ってんだぞ? 三人の中で一番華奢に見えるのに。

 

 実はとんでもなく鍛えてるのか? だとしたら、自由にさせてはマズい!

 俺は必死にパーカーハゲの腰のあたりにしがみつく。

 しかし、パーカーの力は凄かった、長くは保たない。

 

「てめ、ふざけんじゃねーゾ」

「木之瀬さん!」

「篠崎くん!」

 

 俺の声に反応し、木之瀬さんは動いた。

 いや、初めから殺す気だったのだ。彼女はとうに覚悟を決めていた。

 

「やあっ!」

 

 ハゲの頭が、ポロリと落ちる。

 

 言うまでもなく、即死。

 死体はバタリと倒れてから、思い出したかの様に血を吹き出した。

 

 クリスタルソードヤバい。

 間近で見て益々そう思った。

 怖気をふるう切れ味。

 

 だが、もちろん、その瞬間はヤツらにも見られていた。

 

「てっちゃぁぁん! クソッ! ゴリさん! コイツら殺すぞ!」

「あいよ!」

 

 ヤバいぞ。

 確かに、コレで数の上では二対二。

 だが、無理だ。

 

 俺にはソレが解ってしまう。

 

 なにせ、装備が違う。

 

 今気付いたが、コイツらジャラジャラと貴金属を身に付けている。

 半グレの格好に金属のチェーンとか、違和感が無いので気が付かなかったが。明らかに現代ファッションのソレとは違う。

 よくよく思い返せば、ガントレットで殴ったとき、それらの幾つかが身代わりになるように砕けていた。

 

 きっとコレが防具系アイテムなのだ。

 アクセサリーは換金アイテムだけじゃなかった。

 そんなモノまであるのかよ。

 

 シロウト二人で敵う相手じゃない。

 

「逃げよう! 木之瀬さん」

「うん!」

 

 神殿を飛び出し、猛ダッシュ。

 

「てっめぇ! 逃がすかタコ!」

「ゴリさん、女の子の剣に注意しろ、アレがお宝だ。防御無視で一発でやられる」

「だからって、許せッかヨォ!」

 

 凄い速さで追いかけてくる。

 扉を開ける僅かな時間が、きっと取れない。

 

 だから、俺は叫んだ。

 

「よっさん! 今だ!」

 

 背後に向けて。呼びかける。

 

 もちろん、よっさんなんて居ない。

 親が飼ってるインコの名前だ。

 

 それだけなら、下手くそなハッタリ。

 

 ――ザンッ!

 

 しかし、俺とヤツらの間に矢が飛び込んで、石畳に突き刺さるなら、そうも言ってられないだろう?

 

「クソッ! 新手か!」

「良く見ろゴリさん、あれはゴブリンだ!」

 

 バレた! 一瞬で。

 

 そう、俺は弓持ちのゴブリンを排除しなかった。

 どうも固定砲台よろしく動こうとしないので、後回しに探索をしていたのだ。

 

 上手いこと利用したつもりが、あっさりと看破されてしまった。

 だが、一瞬とは言え、時間を作れた。

 

「開いた! 行こう! 篠崎くん!」

 

 その間に、木之瀬さんが扉を開いた。思ったより早い。

 

 木之瀬さんに続いて滑り込むと、俺は慌てて扉を閉める。

 思わず、口角がつり上がるのを自覚した。

 

 ここだ。

 一生、言う機会など無いと思ったが、チャンスが巡った。

 死にたがりの俺にとって、夢にまでみたシチュエーション。

 

「先に行け!!!」

「うん!」

 

 何度も言い含めた。

 だから、木之瀬さんは期待通り先に進んでくれる。

 良かった。これで、夢が叶う。

 

「オラァ開けろボケェ」

 

 木の扉をガンガンと叩く音。

 だが俺は腰を落とし踏ん張って、決して扉を開けさせない。

 

 そうだ、これこそが、俺が長年憧れていたシーン。

 「俺に任せて先に行け」という状況だ。

 

 それで、女の子を守って死ねるなら、最高じゃないか。

 

「ぶっ殺されてぇのかオイ!」

「まさやん退けよ、俺がやる」

 

 しかし、扉の奥で不穏な気配。

 だがな、覚悟を決めた俺は手強いぜ?

 

「ぶげぇ!」

 

 あっさりと吹き飛ばされましたぁ!!!

 

 ハンマーだ。

 ゴリさんと呼ばれたタンクトップのアゴ髭が、ハンマーで扉ごと俺の覚悟を吹き飛ばしてしまった。

 

「やべっ」

 

 勝てるワケが無い。パワーが違う。

 うーん、諦め。

 

 いや確かにね、ここは任せて先に行けをしたかったよ?

 でも、ただの無駄死にはキツいっス。

 

 扉もなしに通路で戦えばリーチ差がモロに来る。

 

 さっき言っていた事もキレイに忘れ。俺は木之瀬さんを追いかけた。

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