リアとの死闘を終えて俺はふらつきながらもその場から離れる。リアはまだ死んでいないのが分かっているからだ。殺すのは胸糞悪いので止めを刺すのはやめた。が、このまま放置しておけば出血多量で死ぬのではなかろうか? いくら人間離れしているとはいえ体のつくりはさほど変わらないはずだ。しかし俺が死にかけの大人を子供が担ぐ光景―――、それだけでも目立つがここは俺の見知らぬ場所、そもそも病院みたいなものがあるかも分からない。俺は自分が目立つデメリットを負うか今死闘を繰り広げた奴を助ける偽善者を振る舞うか、どちらの行動をとるかなど目に見えている。その場から離れようとするときふと目線を感じた。その目線の方向に目を向けると―――
―――リアス・グレモリー達がそこにいた
まさか見られていた? ・・・グレモリー達の顔は驚愕、恐怖などの様々な感情が浮かんでいた。それはきっと負の感情なのだろう。俺の戦いを見て、姿を見て、異常なほどの殺気を纏う俺を見て恐れたのだろう、違う存在だと思っただろう。
―――何より失望しただろう
自分たちを助けてくれたヒーローがあまりにも醜い姿で、アニメみたいなかっこいい勝ち方には程遠いグロテスクな光景が今、この光景には広がっていて子供が目にするようなものではない。だがしかし。あいつらは迷っているようにも見えた。自分たちを救ってくれた人にお礼も何も言わなくて去ってもいいのだろうか、とそう思っているようだ。もしこのまま俺にお礼に言いに来るとしたらあいつらの顔はどんな顔に歪んでいるのだろうか。そんな顔でお礼を言われても俺は嬉しくない。だってそれは偽善、偽物だから。だから俺のするべき行動は決まっている。
―――黙ってこの場から去る
そう、これでいいのだ。
――――それは信じられない出来事だった
ただその一言に尽きる。自分が森から帰ってくるとき、リアスとミリキャス、その友達たちが怪しい人物に追い回され今にも命が危ない状況だったのでその者まで近づき<消し飛ばした> あまりにも異常な事態だったので詳しい話を聞こうと口を開こうとするとそれを遮る様に皆が声をそろえて言った。―――あの人、比企谷八幡を助けて欲しいと。聞いたこともない名前のためそれは誰なんだと、今まで何があったのかと聞いてみた。皆をなだめ、冷静になったリアスから話を聞いた。公園で遊んでいた時にどこか寂しそうな、悲しいような空気を纏った少年に出会い、思わず声をかけ一緒に遊んだこと。その途中突然自分たちを襲う人物が現れそれから自分たちを守ってくれ逃がしたこと。・・・そして自分たちは少年に全てを任せ何も出来ずただ逃げる事しかできなかったと教えてくれた。それが悔しかったのだろう、顔が悲痛に歪んでいる。
だからその少年を助けることにした。大切な家族を守ってくれた少年に感謝を述べなければいけないしその少年のことも気になる。あの森の中で会った少年―――、それがまだ心の中に残っているからだ。
・・・まぁでも。子供達がこんな顔をして頼んでいるのだ。それだけでも自分が動く理由になるだろう。何よりこんな顔をする子たちを放っておくなどもっての外だ。兄として、年上としてかっこいいところをみせなければいけないな。
子供たちの頭を軽く撫で、安心させるため笑顔で答える。今すぐそこに向かおうと。リアスに教えられた場所は公園だった。今いる距離からあまり遠くないためすぐに到着したが―――
「かなり強力な結界が張られているな・・・」
見たことの無い結界が張られていた。リアスたちが出れたことによると閉じ込めるようなものではないみたいだが外から入ろうとするとここには立ち入ってはいけないと言わんばかりに何かに追い出される。・・・ここは仕方ないが無理矢理入れさせて貰う。グレイフィアと子供たちに下がってもらい結界を無理矢理破壊した。しかしその破壊した後も徐々に修復しようとしている。最初はグレイフィアと二人で行こうとしたが子供達がどうしても行きたいと言うので渋々連れていくことにした。
子供達の走るスピードに合わせ結界内の探索を始める。そして最初に訪れた場所は草木が吹き飛んでおり荒地であった。かなり広範囲、しかも予想するとこれは一撃で繰り出されたものと思われる。これを見て警戒を強め今もなを殺意などが飛び交っている場所へ向かう。
―――――その場所はまだ子供に見せる場ではなかった
血が飛び交い、お互い殺意を身に纏い全力で殺し合っている。子供たちはその光景を見て呆然としている。それもそうだろう。自分と同じぐらいの年の子がこんな戦いを繰り広げているのだ。
一瞬助けに入ろうと思ったが彼の表情を見て私は動きを止めた。それはグレイフィアも同じだったようだ。今の彼の表情、それは何かこの戦いで決意を、そして諦めのような感情も見えた。今私たちが加勢すると彼の何かを壊してしまいそうで、だから見守るだけにした。
戦いが進んでいき、お互いの体力が殆ど底に尽き一騎打ちのような体制になった。そうして地を蹴り斬り合う―――、一歩敵の方が速いッ! そう思い助けに入ろうとしたが一つ疑問に思い動きを止めた。あまりにもスキだらけなのだ、彼の構えが、体制が。しかしその疑問を裏切り敵が地面に立っていた。・・・しまった。自分の疑問で一つの子の命をほっといてしまった。そう思い後悔が渦巻く中、彼はそこに立っていた。
「「ッッ!!??」」
私も敵もあまりにも予想できない展開に思考を奪われた。その隙に勝負はあっという間に着いた。比企谷八幡という少年が相手の腹を突き刺し相手が倒れるという決着だった。・・・彼は止めは刺さなかった。
そのままその場を去ろうとする彼を見て、リアスたちは我に返り彼の元へ行こうとするが、足が震えていた。その時彼と目が合った。その時の彼の表情はやっぱりか、という表情だった。そしてこちらを一瞬見た後彼はまた去ろうとする―――、その前にリアスたちの代わりに私が彼の元へ行く。
彼に感謝を伝えるために―――
「・・・なんすか?」
俺の前にはあの時森で会ったもう一度会いたくないリストに入った人が立っていた。
「いや。自分の妹やその友達を救ってくれたヒーローに感謝を伝えようとね」
・・・まさかの誰かの兄だったよ。だれだよこの人の妹。
「だからそのお礼にお持て成しがしたくてね。その為に私の家に招待しようと思ってるんだけど、どうかな?」
笑顔で言ってるけど威圧感がパネェ。別にここは断らない方が俺の為でもあるのだがそうもいかない。俺はチラリとグレモリーたちへと目を向ける。・・・正直言って今のあいつらとは話をしたくない。
「気持ちだけでありがたいんで十分です。俺は帰らないといけないんで―――」
そう言ってその場から去ろうとする。・・・視界が揺れている。そう意識したとき俺はその場に倒れていた。
◇ ◇ ◇
目を覚ました時俺はふかふかのベットで寝ていた。
「目を覚ましたね」
その声に驚き痛む体を無理矢理起こす。
「・・・何で俺はここにいるんすかね?」
「君が急に倒れたからね。私の家に運ばしてもらったよ」
・・・やはり体が耐えれなかったか。ただでさえ限界の身体でこの人と対面したからな。そりゃ倒れるのも納得だわ。一人で勝手に納得させる。と、同時に仮面を被る。俺はもう『俺』をこの世界では出さない。そう誓ったから。だから以前の俺とは違う言動を使う。
「ありがとうございます」
仮面の笑みを浮かべ素直に感謝を伝える。それを見たこの人は顔に何かを浮かべたがそれをすぐ消し言葉を続ける。
「どういたしまして。早速で悪いけど自己紹介をしようか。私の名前はサークゼス・ルシファー、私の妹、リアスを助けてくれたことを改めてここで感謝する」
「・・・比企谷八幡です。別に助けたのは成り行きなんで感謝とかはしなくていいっすよ」
そう。本当に成り行きなのだ。彼女たちに遊びに誘われ自分が危機に陥り彼女たちが邪魔になったのでその場から逃がした。それがたまたまいい方向に転がっただけだった。
「・・・それだよ」
「・・・?」
「君は何故そんなに大人の、それ以上の考えをしているんだ? 君の思考はゆうに子供とかけ離れている」
・・・それは転生してきたからです、なんて言える筈もないので少し話を濁す。
「逆にあれだけの死闘を繰り広げてまだ子供らしかったら怖くないですかね? ・・・それより今の状況を教えて欲しいんですけど」
「話を濁さないでほしい」
言葉に覇気が纏った。それは嘘をつくことを許さないと言わんばかりの覇気を。・・・この人にはかなわない、それが今の覇気で分かった。急の言葉で硬直している俺に言葉を続ける。
「正直に言って私はまだ君を信頼することができない。いくら娘を助けてくれた恩人とはいえ人間の身で悪魔を倒し、正体不明の神器を使っている。・・・できれば恩人をこんな風に疑いたくないのだけれどね。
だから君が何故あの時あの場から逃げようとしたのか、何を思い何を決意したかを教えて欲しい」
・・・下手な嘘はつけない。それはこの人の目を見たら分かった。だが俺は簡単に『俺』の決意を喋りたくない。けど、この場から逃れるためには―――
「・・・言える範囲でいいですかね?」
ルシファーさんは頷く。それを見て俺は言葉を続ける。
「俺は昔、いや最近ですかね。親を悪魔に殺されました」
悪魔という言葉に少し顔を歪めたが黙って話を促してくれた。嘘は許されず自分のことを話すのも俺が拒んでいる。なら言える範囲の偽りない本当の気持ちを教えるしかない。・・・嘘を交えつつ、だが。
「その時ですかね。神器に目覚めたのは―――」
自分が目の届かない所で死んだ親、火事から逃げるため親の死体を放置してしまったこと、その時に悪魔と遭遇したこと。殺されかけた時、死にたくないと思ったときに神器に目覚めたこと。しかし力を扱いきれず気絶し目を覚ましたらそこに悪魔は居なく荒地に変わっていたこと。
―――その時自分が思ったことも
この性格は本当は昔からだがそれをこの事件の所為だと言う。自分の一番近い存在があまりにもあっけない死を迎えたせいか人との関わりに興味が無くなったこと。だから彼女たちと距離が近づくのが怖いと、そう言った。
「―――このくらいですかね。俺が話せる範囲は」
「・・・そんな経験を君はしてきたのか。すまない、いくら善か悪かを見定めるにしてもむやみに聞いていいものじゃなかった」
本当に申し訳なさそうに謝罪を言ってくる。別に大丈夫だと、そう言う前にルシファーさんが胸にそっと俺を寄せて抱きしめた。その時に言葉は無かったがただその温もりは嘘ではないことが分かった。少し空白の時間が過ぎルシファーさんが離れる。
「君は信頼に値する人だった―――。だからこの屋敷の主として、王として君を受け入れよう―――」
ルシファーさんのそのときの顔はとても優しかった。けどそれが俺の心を優しくそっと傷つけた。確かに人の関わりには興味があまりないのかもしれない。だが彼女たち、グレモリーたちと距離が近づくのが怖いとかそんな感情はない。
近づくことなんて俺はしないのだから。例え距離を縮めようと俺がされても俺は罪悪感なんて抱かないだろう。むしろ俺から断ち切るだろう。
だからルシファーさんの表情がただ俺の胸を苦しめた。
そしてこの嘘が気付かれなかったということはルシファーさんが見逃してくれたのか。逆にその感情が好ましいと思われたのだろうか。
それとももう既に
俺の顔に、心に、俺の存在自体に偽りの仮面が張り付いて本音も嘘も区別というものがなくなってしまったのか
もし。もしそうなら。その仮面はもう二度と離れない気がして、もう二度と心の底にある本音が自分でも分からなくなりそうになるような気がして。
けど今は考えることより先に目の前の存在に言葉を言わなければいけないのでただ口先だけの言葉を繰り出す。
「・・・・ありがとう、ございます」
今の俺の顔は、何より心はどれだけ歪んでしまっているのだろうか。そんなことから目を背ける様に俺はルシファーさんに一言し眠りについた―――
◇ ◇ ◇
屋敷に来てから一か月半ぐらいの時が流れた。ルシファーさんやグレイフィアさんにお世話になったりグレモリーたちの子守り? をしている。時々稽古などもさせてもらっている。皆にさん付けや呼び方を変えて欲しいと言われるが本当に勘弁してほしいです。ボッチは人と話すことで精一杯なんです。そしてまた今日が始まる。目を覚ましベットから降り廊下を歩く。・・・この広さは全然なれねぇ。
「おはよう、八幡」
後ろから挨拶を交わしてきた。その声の正体はリアス・グレモリー。紅い髪が特徴的な女の子だ。
「おはようさん」
軽く手を上げてこちらも挨拶をかわす。そして他愛もない会話をした後別れる。その途中でリアスたーん! と聞こえたのは気のせいだろう。てってけ歩き続けると今度は姫島朱乃と会う。神社で襲われていた子だ。
「おはようございます、八幡さん」
「おう、おはようさん」
・・・今まで流していたが何故下の名で呼ぶのだろうか。比企谷と呼んでくれと言ったはずが八幡になっていた。姫島とも適当に会話をし別れる。また歩くと今度はグレイフィアさんと会う。髪の色が銀色と、この屋敷の人は皆髪の色がとても珍しいようだ。
「おはようございます。比企谷さん」
・・・今は言葉遣いがとても丁寧だが時々キャラが可笑しくなる時がある。前に風呂の前でバッタリ会ったときに、
「一緒にはいりますか」
と、微笑みながら言われた。俺も心は高校生、さすがにこの人の色んな部分を見て冷静でいられるかと言われたら断言できない。・・・この人スタイル物凄いからな。それを断ったが、まぁうん色々あって一緒に入ることになって大変なことになった。
「おはようございます。グレイフィアさん」
その時に彼女の顔が少し不機嫌になった。理由もわかるが絶対に言わない。・・・お姉さんとか呼べるはずないでしょう。
そして屋敷の中にいる人とすれ違うたびに挨拶と軽い会話を交わす。ここの屋敷たちの人は皆いい人だ。裏の顔なく接してくれていることが分かる。だからこそ俺は迷っている。
・・・ここをいつ立ち去ろうか、と
俺は彼女たち、グレモリーたちに少なからず好感をもたれている。それを恋愛感情だとか自惚れていると思っているわけじゃない。
俺は彼女たちに呪いをかけてしまったのだ。その呪いは優しく彼女たちの心を『信頼』という文字で今もなを鎖で縛りつけている。そして彼女たちはそれを違う意味でとらえてしまっている。・・・だから俺はそれを解かなければいけない義務がある。俺が彼女たちにかけた呪い、それを解くには俺が行動を起こさなければいけないのだろう。それを解くための行動。俺が悪役を振る舞い、彼女たちの俺の印象を塗りつぶす、確かにこれが一番のような気がするが違う。今度は罪悪感という鎖で彼女たちを縛ってしまう。
彼女たちは子供の純粋な心を失わずそして優しさがあるからこその苦悩だった。だから俺は―――
屋敷の外へと足を向けたときそこにはルシファーさんがいた。先ほどの妹にじゃれていた時の顔とは違う真面目な顔になっていた。
「・・・行くのかい?」
・・・何でわかるんですかね、俺の行動が。
「はぁ・・・。何で分かったんすか?」
「否定はしないんだね」
「事実ですから」
「・・・せめて理由を教えてくれないかな?」
彼は俺を止めようとしなかった。だが理由を教えてくれと言った。それは俺が感じている人の気配に聞かせたいのだろうか。俺が気付くのだ、この人が気付かないはずがない。
「罪と向き合うため、ですかね」
だが俺はそれに気づかないふりをする。そして俺は出口に向かって走る。そして外に出て日本へと戻ろうとオニキスへと問う。もうここへ来ることはおそらくないだろう。そう思いチラリと屋敷を見ると窓からこちらを見ている―――
それを見た瞬間俺はその場から姿を消した。
◇ ◇ ◇
「あ~、ついに春休みも終わったな。・・・しんど」
元の世界と違う制服をなれたように着こなし朝飯を食べる。
「時間は・・・、まだ余裕だな」
日々の日課であるオニキスに会いに行き軽く鍛錬をする。そしてそれが終わり目を覚ます。そして時間をチラリとみる。
「ヤバッ! もうこんな時間かよ!?」
玄関に急いで出て靴を履きかえ扉を開ける。
「いってきます」
返事は返っては来ないことをわかりつつも癖で言う。
―――今日から比企谷八幡の高校二年生の生活が始まる