なんか擬人化したモモンガみたいなやつを拾った話。 作:なんか拾ってるやつ
街が寝静まった頃、長引いていた作業を切り上げて帰路に着く。
今日も今日とて残業だった。いつの間にか、立派な社畜道を歩んでいる。
時刻は午後一〇時。絶え間なく襲ってくる睡魔に耐えながら電車に揺られ、駅のホームから出ると最寄りのコンビニへと足を向かわせる。会社から自宅までの間、このコンビニに寄るのが最近のルーティンだ。
慣れた手つきでカゴに弁当やらデザートやらを入れ、レジで会計を終えて外に出る。ふと、嫁でもいれば毎日コンビニ飯じゃないのかという考えが過り、虚しくなった。
どうも疲れていると思考がマイナスの方へ誘導される。落ち着くために深く深呼吸をしていると、ガサゴソと物陰の方から音が聞こえた。動物がゴミでも漁っているのか、と目をやれば何やら白くてふわふわした物体が揺れ動いている。──あっ、目が合った。
「オイ、お前」
ビシッと指を差される。後ろを振り返るが当然誰もいない。
「お前に言ってんだよッ」
白い物体──改めて街灯の下に出てきた少女を見やる。腰まで伸びた髪の毛は下にいくにつれ白から水色へとグラデーションになっていて、頭頂部には動物の耳?みたいなものが付いている。着ている服も相まって、全体的に白いという印象が強い。まぁ、何が言いたいかと言えば──。
「ヤバい子に絡まれてしまった……」
「なんだとォ〜?」
思わず口から漏れ出ていたが、むしろ何をどう考えればヤバくない奴になるのか。こんな時間帯にこんな場所でゴミを漁ってる十代くらいの子……ヤバい要素しかない。
疑問を抱きつつ少女を観察していると、彼女もまたじっとこちらを見てくる。甘い雰囲気というよりかは一触即発って感じだ。
「見ろッこの潤んだ瞳」
何の意図かわからず首を傾げていると、更に追加で「きらきら〜」と自分で効果音をつけてきた。
「……何の真似だ?」
「うまいもんよこせッ」
ただの乞食だった。
「腹が減ったんだよォーッ」
「だからってゴミを漁るな」
「ならうまいもんよこせッ」
何これ、カツアゲ?
正直これ以上関わりたくはないが、腹を空かせてゴミを漁るような子を放置するというのも大人として気が引ける。
どうしたもんか頭を悩ませていると、いつのまにか手に持っていた袋が無くなっていた。
「ほォ〜こりゃ……」
何という手際。
彼女は奪った袋からおにぎりを取り出すと、手に持ち興味深そうに見回していた。
「おい、これどーやって開けるんだ?」
「フィルムを剥ぐんだよ」
「どーやるんだよッ」
ため息を一つ挟んで、彼女から袋とおにぎりを取り返し丁寧に開ける。
「ほォ〜……こりゃまた面倒な……」
綺麗にフィルムの無くなったおにぎりを渡すと、少女はすぐさまはぐむしゃっ……と食べ出す。
「海苔がパリパリでうまッ」
満足げな様子の少女を横目に少し考える。
見た目が綺麗だったり、おにぎりの開け方を知らなかったり、もしかして元々は裕福な育ちだったのだろうか。それを家出か何かで飛び出して路頭に迷っていたのだろうか。にしては言葉遣いと手癖が悪いが、子供だからご愛嬌って感じか?
「おい、もっとよこせッ」
彼女の出立ちを考察していると、もう食べ終わったのか、手をくいくいっと動かして催促してくる。
「俺の晩飯なんだけど」
「ほら、早く開けろッ」
「まーた勝手に……」
仕方なくフィルムを剥がしてやり、彼女に渡す。俺の晩飯がどんどん無くなっていくな……。
「……俺はもう帰るからな」
「ハフッ?」
口元に米をつけて可愛らしく首を傾げているが、これ以上は俺の時間と飯がなくなるだけだ。流されてしまったとはいえ、これ以上関わると後が怖いしな。
ムシャムシャと食べている彼女を置いて、再び帰路に着く。数メートル歩いた所で、立ち止まって振り返った。
「……なんで着いて来てんの?」
「お前といればうんまいもん食えそうだからな」
どうやら食べ物をあげたが為に懐かれてしまったみたいだ。なんかふわふわしてる感じも相まって動物っぽいな。
「来るな、帰れ」
「ふにゅ……っ」
しっしっと追い払う動作をすると、彼女は何かを堪えるようにきゅっと眉を中央に寄せる。
「見ろッ、この心細くて今にも泣きそうな顔をッ」
全然平気そうだが。
「なぁ、あんまり聞くことじゃないが……お前家は?家族が待ってるんじゃないのか?」
もし家出であれば話を聞いた上で警察にでも連れて行こう、そう考えての質問だったのだが、彼女は今までのふざけた表情よりかは露骨に嫌そうな顔で答える。
「……フンッ、そんなものはない」
……地雷を踏み抜いてしまったか。
そっぽを向く彼女に何を言うべきか思案していると、「オイ」と彼女の方から話し出した。
「気づいたらあそこにいたんだ。姿もまた変わったし……お前の家に住ませろッ」
どういう理屈なんだ。
まるで事情の一つもわからないが、とは言え身寄りの無さそうな少女をこのまま放置するのも、警察に突き出すのも寝覚めが悪い。
相変わらず傍若無人な態度を取る少女の目線に合わせるように膝を折る。
「まぁ、少しの間だけな──」
「よォーし、帰ったらまたうまいもんよこせッ」
俺の言葉を遮って、彼女はさっさと歩き出した。
クーリングオフってできる?できない?……やっぱり早まったかも。
社畜くん
仕事帰りにモモンガを拾った社畜。死んだ魚の目をしている。
モモンガ?
ある日突然異世界に飛ばされた上に姿も変わってしまった。
姿の変化には順応しているが、見知らぬ土地に放り出された為ひとまず美味いものを探して歩き回っていた。社畜に出会わなければ危なかったかもしれない。
この世界
当然ながら、湧きドコロなどない。