超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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まあ、何とか書いていきます。


第111話 リーンボックス かくして役者は集う

 エディン本土、ダークマウントの麓に増設された多目的スタジアム。

 元々はコロシアムとして使われる予定であったここでは、大々的なコンサートが開催されていた。

 各国から招聘された最高の音楽家たちが、各々の最高の楽曲を奏で歌う。

 中でも至高の輝きを放つのは、リーンボックスからやって来た歌姫、5pb.に他ならない。

 

『エディンのみんなー! ボクの歌を聞けー!!』

 

 ステージの後ろの液晶に映された輝けるディセプティコンのエンブレムに照らされて、5pb.は自身の初期からのヒット曲、『流星のビヴロスト』を歌う。

 観客はとてつもない盛り上がりを見せ、色とりどりのサイリウムを振り続ける。

 

 やがて曲が終わると、割れんばかりの拍手と歓声がスタジアムを包んだ。

 天覧席のメガトロン、レイ、ピーシェも満足げだ。

 

『ありがとう! ありがとう! ラブ・エディン! ……それじゃあ次はとっておきの新曲をスペシャルゲストといっしょに!』

 

 5pb.の声に背後の奈落から、一人のディセプティコンが吹き上がる花火と共にせり上がって来た。

 

 真っ赤なギター(トランスフォーマーサイズ)をかき鳴らしているのは、誰あろうサウンドウェーブだ!!

 

『それじゃあいくよー! サウンドウェーブ作詞作曲の新曲! 『PRAISE BE TO DECEPTICON』!!』

 

 サウンドウェーブの演奏に合わせ、5pb.の歌は最高潮を迎えるのだった。

 

  *  *  *

 

「……ト言ウ企画ヲ考エタ」

『………………』

 

 サウンドウェーブの発言に画面の向こうのメガトロンと残る参謀二人、そしてレイが何とも言えない顔になっている。

 

「戦意ノ高揚ト、国民ノ支持率アップ ノタメ二ナル」

『…………サウンドウェーブよ、疲れているのか?』

『明らかに論理的ではない』

『メガトロン様がこき使うからですぜ……』

『サウンドウェーブさん、働き通しですもんねえ……』

 

 メガトロン以下、幹部陣はサウンドウェーブの提案に乗り気ではないらしい。

 さしもにこれ以上は付き合い切れんと、メガトロンは話題を変える。

 

『それはともかく! 例の物は間に合うのだろうな?』

「問題ナイ。最終調整ガ終ワレバ、発進デキル」

『結構。じきにプラネテューヌに全面攻撃を仕掛けるぞ。それまでに間に合わせるのだ』

「了解」

 

 恭しく礼をするサウンドウェーブ。

 これで定例会議は終わりかと思われたが、そこでレイが手を挙げた。

 

『あ、サウンドウェーブさん、治安のことでお話があるのですが……』

「何ダ? 犯罪率ハ下ガリ、検挙率ハ上ガッテイルハズダガ?」

『そうですけど、やり過ぎです。監視カメラの配置はまだしも、インターネットはあなたが完全に管理。その上、市民の中に秘密警察を潜り込ませて監視するなんて……しかも、その秘密警察の半分は子供じゃないですか!』

 

 映像の向こう側にいるレイの表情が剣呑な物になる。

 しかし、サウンドウェーブはさも当たり前とばかりに答えた。

 

「子供ナラ、狭イ場所ニモ入ルコトガ出来、何処ニ居テモ不自然デ無ク、警戒心ヲ感ジサセナイ。極メテ、合理的ダ」

『………………』

『相変わらず、陰険だなオイ』

 

 レイは言い返さないものの怒りのあまり瞳が小さく窄まり、そうなると狂気的で恐ろしい表情になる。

 反対にスタースクリームは冷え切った目を情報参謀に向けた。

 助け舟を出したのは、メガトロンだ。

 

『まあ、サウンドウェーブがいるのは、エディンに置いても要地。万が一がないように警戒が必要なのだ』

『…………分かりました。しかしこのことは、後日ゆっくり話し合いましょう』

 

 さすがにメガトロンに言われれば、レイも一旦は引き下がらざるを得ない。

 もう、誰も発言しようとしないことを確認してから、メガトロンは締めの言葉を発する。

 

『では今回の定例会議はこれまでとする』

 

 その言葉で会議はお開きとなり、メガトロンたちの映像が消え、明かりが点き窓のブラインダーが上がっていく。

 窓の外では、灰色のビル群と煙を吐き出す煙突に雨が降り注いでいた。

 

 ここはモージャス・インダストリーの本社が置かれ、今やエディン第二の都市となったリーンボックスの都市だ。

 かつてはリーンボックスでも美しい景観を誇っていたこの街だが、今は都市全体が兵器工場に改造されていた。

 優雅な街並みは見る影も無く、実用一点張りの建造物が並ぶ。

 子供たちの笑い声は消え兵器工場の騒音だけが響き続ける。

 ほとんどの市民は工場での労働を義務付けられ、逆らうことは許されない。

 そして、市民は常にあらゆる方法で監視され、自由など存在するはずもない。

 

 彼がいるのは街の中央に建造された基地の司令室を兼ねる彼の執務室だ。

 サウンドウェーブは、この街を中心としたとリーンボックス内の占領地の支配を任されていた。

 

 執務室の中は清潔かつ極めて整理されていたが、メガトロンとの通信映像に映らない位置には、種々の調度品が飾られていた。

 

 世界に一つの名器と呼ばれるヴァイオリン。

 クラシックな蓄音機とレコード。

 遠い島国の雅な琴と太鼓に笛。

 不思議な形状と音色の民族楽器。

 偉大なロックスターが愛用したギターとステージ衣装。

 

 それらの間を抜けて司令室からバルコニーに出た情報参謀は、雨で濡れるのも構わず街に向かって腕を伸ばす。

 すると甲高い鳴き声を上げて一羽の鳥が空から舞い降り、サウンドウェーブの腕に止まった。

 その鳥は金属の翼と真っ赤な眼を持っていた。

 

「……レーザービーク、報告セヨ」

「ああ、影のオートボットの尻尾をやっと掴んだぜ」

 

 ニヤリと笑むレーザービークに、サウンドウェーブは無感情に頷き、機械鳥から情報をダウンロードする。

 

『影のオートボット』

 

 女神やオートボットにエディンの情報を流している謎の存在。

 レーザービークは影のオートボットが何者なのかをサウンドウェーブの命令で探っていたのだ。

 ようやく掴んだその正体は、まあ予想の範囲内ではあった。

 

「御苦労」

「それと、サウンドウェーブ。武装親衛隊の方も裏が取れた」

 

 短く分身を労ったサウンドウェーブだったが、さらなる報告にバイザーの下でオプティックを鋭くした。

 

「…………ソウカ」

「ああ、念入りに探りを入れたが、間違いない。どうする? メガトロン様に報告するか?」

「イヤ、其方ハ、イイ。……シバラク内密ニシテオケ」

「了解」

 

 主君メガトロンへの不義とも取れる言葉に、しかし大人しく従う。事はデリケートな問題だ。

 と、猫科の猛獣のような金属生命体が影から現れてサウンドウェーブの足元にスリより一つ鳴く。

 そのラヴィッジの泣き声に一転、サウンドウェーブとレーザービークの纏う空気が和やかな物に代わる。

 

「ソウカ、来タカ」

「おー! 急いで帰ってきた甲斐があったぜ!」

 

  *  *  *

 

 基地の中の来賓室。

 質素剛健を是とするディセプティコン基地にあって、ここだけは豪華な調度品が品よく並べられている。

 そこに一人の女性が通されていた。

 青い髪に、泣きボクロ。

 ヘッドホンと黒い露出度が高めの服。

 

 リーンボックスが世界に誇る歌姫、5pb.だ。

 

 彼女は椅子に座りながらも、戸惑った様子で雨の降りしきる窓の外を眺めている。

 

「オ待タセシタ」

 

 そこにトランスフォーマーサイズの扉を開けて、サウンドウェーブが現れた。

 肩にはレーザービーク、足元にはラヴィッジを伴っている。

 

「5pb.、招待ニ応ジテクレタ事、感謝スル」

「ああいえ……こちらこそお招きいただいて、ありがとうございます……」

 

 手振りで座ったままで良いと示してから丁寧に礼をするサウンドウェーブに5pb.もペコリと頭を下げる。

 

「しばらくぶりだな、5pb.」

「うん、お久し振り。ラヴィッジも」

 

 レーザービークに挨拶し、すり寄って来たラヴィッジの頭を撫でる5pb.だが、表情から不安は消えない。

 

「あの、それでボクは何で呼ばれたんでしょう……」

 

 5pb.はそう問わずにいられなかった。

 先日のこと、彼女の所属する事務所にエディンへの招待状が送られてきた。ご丁寧に国境を安全に越えられる通行証付きで。

 しかしエディン、いやメガトロンは無駄な娯楽を嫌うと言う。自分のようなアイドルは、それこそ不必要だろう。

 

 サウンドウェーブは、自分の胸辺りから立体映像を投射して答えとする。

 来賓室の長テーブルの上に、スタジアムのような建物が映し出された。

 

「ま、これだけじゃあ分からないだろうから、俺が補足をば」

 

 その映像の横にレーザービークが降り立ち、説明を始める。

 

「これはエディン本土にあるスタジアム……って言うかコロシアムなんだけど、これを使って戦意高揚のためのイベントをやろうと思うんだ。で、5pb.に歌って欲しいんだよ。……スッゲエぜ! サウンドウェーブが選りすぐった音楽家だけを招くんだ! 音楽の祭典って奴だ!」

 

 嬉しそうに笑うレーザービークと、同意するように尻尾を千切れんばかりに振るうラヴィッジ。

 しかし、5pb.の浮かない顔を見て不安げな様子になる。

 

「どうした?」

「あの……とても嬉しい提案ですけど、今回はお断りさせてもらいます」

「理由ヲ聞イテモ? ヤハリ、リーンボックス ト、戦ッテイルカラカ?」

 

 予想していなかった答えにオプティックを丸くするレーザービークに対し、サウンドウェーブは冷静だった。

 5pb.は少し顔を伏せるが、すぐに顔を上げて真っ直ぐ情報参謀の表情の読めない顔を見つめる。

 

「正直、それもあります。……でも、それ以上にボクはみんなを笑顔にしたくて歌っているから。この国には、音楽を楽しむのに必要な自由がありません。そんな所では歌えない」

「…………ソウカ」

 

 何処か納得したように、サウンドウェーブは頷く。

 5pb.はすまなそうに頭を下げるが、譲れない一線なのだろう。決して前言を撤回しない。

 

「ナラバ、仕方ガナイ。無理強イスルコトハ、出来ナイ」

「……そういうことなら、な。しかし、せっかくだ、ホテルも取ったし歓待くらいは受けてくれ」

 

 サウンドウェーブとレーザービークは残念そうだったが5pb.を無理に引き留めたりはしない。

 無理やり歌わせても、それは5pb.の歌の魅力を損なうだけだと分かっているからだ。

 

「……デハ、ソロソロ食事ニシヨウカ」

 

 サウンドウェーブがパンパンと手を叩くと、給仕服姿の男たちが料理の乗ったカートを押して部屋に入ってくる。

 テキパキとテーブルに料理を並べる給仕たち……無論サウンドウェーブたちの席には、トランスフォーマー用の食事である……しかし5pb.が気になったのは、給仕たちの一人だった。

 

「君は……!?」

 

 前に見た時よりも大分やつれて、髪は白髪交じりになっているが間違いない。以前、5pb.にストーカー行為をして、サウンドウェーブに成敗された男だ。

 元はモージャス・インダストリーの御曹司だが、会社がディセプティコンに買収されて以降、行方不明と聞いていたが……。

 

「……その節は、ご迷惑をおかけしました」

 

 元御曹司のマニー・モージャスは一礼するが、その表情には自嘲と悔恨、5pb.への申し訳なさが滲んでいる。

 どうも、本気で反省しているらしい。

 

「今となっては、何であんなことをしたのか、自分でも分からないんです……本当にすいませんでした」

「は、はあ……それはもういいけど、何でここに?」

「ここで働いているんです。……こうしないと食っていけませんし、母は出て行っちゃうし、父は働かないし……」

「ああ、はいはい。飯が不味くなるから、後にしてくれ」

 

 少し呆れたようなレーザービークの声に、マニーは自嘲気味な笑みを浮かべ一礼してから退室していった。

 かつて酷い目に遭わされそうになった相手であるし、結果的に祖国を売り渡す片棒を担いだワケだから自業自得と言えばそれまでだが、その哀愁の漂う背中に憐みを感じずにはいられない5pb.だった。

 

  *  *  *

 

 雨の中にあって、都市の住人たちは忙しなく動き続ける。

 勤勉と清貧を是とするエディンにあって、無駄な娯楽に興じている時間は無い。

 統治者たるサウンドウェーブの気質が染み渡っているが如く、都市はまるで一つの機械のように機能していた。

 

『勤労と清貧は美徳である! 怠惰と浪費は悪である! 忘れるな、メガトロンはお前たちを見ている!』

 

 この街のランドマークであるビルの巨大モニターに映されたメガトロンが演説を振る中、周りに構わず歩く一人の影があった。

 雨避けのコートで体をスッポリ覆い、フードを目深に被ったその人物は、しかし僅かに露出した口元だけでも気品のある美女だと分かる。

 

『国民たちよ! このエディンを支配するのは、このメガトロンである!!』

 

「いいえ、……いいえ。ここはリーンボックス。決してあなたの支配する国ではありませんわ」

 

 メガトロンの演説を流し続けるモニターを見上げ、フードの女は周りに聞こえないように呟く。

 フードの中から覗く青い垂れ目と金糸のような髪が決意に揺れる。

 

 女性は、フードを被り直すと建物と建物の間の狭い路地へ入っていく。

 曲がりくねった道を進み、野良猫とすれ違ったところで、古びたガレージの裏に出た。

 中に入るための薄汚れた扉には小さく、リーンボックスの国章が描かれていた。

 

「ここですわね……」

 

 女性は扉を行儀よくノックする。

 すると、中から声がした。

 

「…………合言葉は?」

「のばら」

「…………入ってください」

 

 短く答えると、扉が開く。

 女性が足を進めると、ガレージの中には何人もの男女が武器を手入れしたり、装甲車を弄ったりしていた。

 

「ベール!」

 

 フードの女性に気付き声を懸けたのは、ガレージの中央で男たちと話していた大きな影だった。

 銀色の体に目をバイザーで覆ったオートボット、ジャズである。

 

「君も無事に到着したみたいだな」

「ジャズ! あなたも問題はなかったようですわね」

 

 女性……ベールがフードを外すと、豊かな金髪があふれ出る。

 

「グリーンハート様……! グリーンハート様だ……!」

「おお、グリーンハート様……生きてまたお目にかかれるとは……」

「ありがたや……ありがたや……生きる気力が湧いてきた……!」

 

 武器や車の手入れをしていた人々は、手を止め感極まった様子でベールに祈りを捧げ、涙すら流している者もいる。

 ベールは彼らを元気づけるように、たおやかな笑みを浮かべた。

 

「皆さん。街の様子はわたくしも目にしました。この暴虐を許しては置けません。微力ながら、わたくしとそこのジャズも皆さんに協力させていただきますわ」

 

 自分たちが真に信じる女神の宣言に、その場にいた人々から歓声が上がった。

 この場所は、エディンの洗脳ペンキの効果を撃ち破る程に強い意思や信仰心を持った人間たちが祖国を取り戻さんと結成したレジスタンス、そのアジトなのだ。

 ベールとジャズは、都市奪還のために彼らと接触、それぞれ別ルートで都市に潜入し、ここで合流したのである。

 

 己の国を取り戻さんがために。

 

「おお、グリーンハート様。よく来てくださいました」

 

 と、ジャズの隣にいた男がベールに歩み寄ってくるが、ベールの表情が硬くなる。

 以前に比べて痩せ細り、顔には髭が伸ばし放題でみすぼらしい身なりになっているが、その男はリーンボックスに属しながらディセプティコンに組し、またハイドラに出資し、遂に追放されたモージャス・インダストリーの前社長、ゴルドノ・モージャスに他ならない。

 

 ……断っておくと、別に彼がレジスタンスのリーダーと言うワケではなく、資金や武器を提供しているパトロンと言うだけだ。

 

「ハハハ、私が信用出来ませんかな? それも仕方がない。しかし、こういう言葉があります。『敵の敵は味方』とね」

「ミスター・ゴルドノ……その言葉で信用するワケではありませんが、今はあなたの……モージャス一族の力が必要なのは確かですわ」

 

 正直、ベールとしては苦渋の決断だった。

 彼から話しを持ちかけられた時、チカなどは「どの面上げて!」と怒り狂っていたが、会社を乗っ取られたとはいえ、モージャス一族は資産を持ちあちこちに顔が利く。

 レジスタンスが厳しい監視社会の中で今まで活動出来たのも、ゴルドノの支援があればこそだ。

 

「今回の働き如何では、リーンボックスに対する裏切りは、無かったことにしてやる。そう言う約束だからな。……が、万が一にも怪しい動きをして見ろ? さすがの俺もアイアンハイドに倣わざるを得ん」

 

 ジャズも渋面を作って、警告する。

 結局、エディン建国と侵攻のドサクサでゴルドノを逮捕出来なかったことは、彼の中でもシコリになっている。

 

 ゴルドノは、それだけは以前と変わらない好々爺然とした……感情の全く読めない笑みを浮かべるのみだった。

 

  *  *  *

 

 雨は平等に降り続ける。

 

 この都市への入る手段は多くはない。

 都市外縁は電流の流れる高いフェンスに囲まれ、主要な道路には検問が置かれ主要でない道路は封鎖された。

 そんな中で、都市と都市を繋ぐ列車は数少ない交通手段だ。

 他の都市から大量に物資を運び込み、また完成した兵器を輸送する列車は重宝されていた。

 

 今宵も一台の輸送列車が駅に向かって走ってくる。

 プラットホームでは、エディンの兵士たちが、貨物の運びだしと検閲のために待ち構えていた。

 輸送列車がホームに入ろうとする直前、貨車の屋根から大小二つほどの影が飛び降りたことには、誰も気が付かなかった。

 

 昆虫の翅のようなパーツを背中に持った、黒く大きい人型は、素早く黒いスポーツカーに変形して着地する。

 もう一つの人間大の影は、綺麗に着地し素早くスポーツカーに乗り込む。

 スポーツカーは急発進して路地に入り込む。

 

 見る者が見れば、その動きが町中に配置された監視カメラの死角を縫うような物であることが分かるだろう。

 

 スポーツカーの運転席で、人間大の影……肩の辺りで切りそろえた金髪と青い瞳の垂れ目が特徴的な美しい少女は、ハンドルも握らずに街を見回す。

 その顔は複雑そうに歪んでいた。

 

「………………」

「なあ、おい。帰って来ちまってよかったのか?」

 

 ダッシュボードに置かれたノートパソコンから声がする。

 少女は答えず、車の窓から見える街頭モニターに目を止める。

 

『エディンの国民よ! 人は自由を持つに値しない! 支配による秩序、圧制による平和こそが必要不可欠なのだ!!』

 

 モニターでは、メガトロンの演説がエンドレスで流されている。

 その背後に、小さく情報参謀サウンドウェーブの姿が映っていた。

 

「……………はあ」

 

 小さく溜め息を吐く少女。

 

 リーンボックスが占領されたと聞き、居ても立ってもいられずエディンに潜り込んで、早一か月。

 しかしリーンボックスにもエディンにも敵対するのが躊躇われ、明確な行動指標も無く、結局は兵隊の眼を掻い潜って放浪する日々。

 幸い、と言うべきか、情報参謀とその分身たちに叩き込まれた隠密術と処世術で切り抜けているが、それもいつまで持つか。

 

「どうすればいいのか分からない。……それでも」

 

 サウンドウェーブは野垂れ死ぬはずの自分を拾ってくれた恩人で、ベールはこんな自分を妹と呼んでくれた人だ。

 

 この二人が戦うことになって、他の国になんかいられない。

 

「何が出来るか何て分からない。……でも、ジッと何かしていられない」

 

 少女……かつてはディセプティコンの特殊潜入兵、あるいはリーンボックスの教祖補佐……もしくは女神候補生の候補、今はハグレ者のプリテンダーのアリスは懊悩を込めて深く深く息を吐くのだった。

 

 雨はまだ、当分は止みそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、役者は集まった。

 役者同士の打ち合わせは無く、開演前のリハーサルも無く、脚本すらも無い。

 

 それでも、等しく幕は開く。

 




そんなワケでリーンボックス編、開幕。

他と空気が違う?
やって、サウンドウェーブが担当してる場所ですし。
……そしてラステイションとルウィーはこの話書くための前振りみたいなもんですし。

今回の解説

PRAISE BE TO DECEPTICON
アニメイテッドの主題歌、トランスフォーマーEVOのカップリング曲。
訳すならディセプティコンを称えよ、みたいな感じです。
つまり、現代版(って言うにもちと古いけど)デストロン讃歌。

のばら
FF2の反乱軍の合言葉。

では。
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