超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第161話 神話の終わりに

 ……今回のディセプティコンは、本気だった。

 天を覆う大艦隊、地を埋め尽くす大軍勢。

 

 何よりも、普段は姿を見せないメガトロナス・プライムがついに現れたのだ。

 

 天地の間に浮かぶディセプティコンのプライムをオートボット側のプライムたちが取り囲む。

 プライムを倒せるのはプライムのみなのだ。

 

「兄弟たちよ! 運命の時はきた!! さあ、オールスパークの下へ還るがいい!!」

「そう、運命の時がきた。……終わりにしよう、兄弟」

 

 どこか恍惚とした表情のザ・フォールンに、プライマはテメノスソードを構える。

 

「オートボット!」

「ディセプティコン……!」

 

攻撃(アタック)!!』

 

 そして、プライム戦争は最終局面を迎えた。

 

  *  *  *

 

 咆哮し、哄笑し、怒声を上げる。

 

 レイヴンは興奮していた。

 果てない戦いに。

 尽きない獲物に。

 終わりない殺戮に。

 

 夢中で大剣を振るって雲霞の如き敵の首を刎ね、腹を裂き、胸を砕き、頭を割り、(エネルゴン)を浴びる。

 

――ああ、何て楽しい。

 

 快楽に酔う中で、いつの間にか姉妹たちから逸れてしまっていたことにも、味方から孤立していたことにも、そして肉体に限界がきていたことにも気付かなかった。

 

 八方から押し寄せるディセプティコンたちに滅多刺しにされながら、レイヴンの脳裏に浮かんだのは、懐かしい母の顔だった。

 

――お母さん、私、こんなに強くなったよ。たくさんの敵を倒したよ。なのに……なんでそんな、悲しそうな顔をするの?

 

 意識が途切れる瞬間まで消えなかった母の顔は、泣きそうに歪んでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……畜生。ここまでか……」

 

 戦場から少し離れた木陰で、スノームーンは息を吐いた。

 腹には穴が開き、首を大きく斬られてエネルゴンが流れ出している。

 

「悪いな、幻影……付き合わせちまって……」

 

 傍には巨狼幻影が寄り添っているが、その身体は傷だらけで、純白だった毛並は流れ出る血で真っ赤に染まっていた。

 顔を摺り寄せ、力無く鳴く幻影に、スノームーンは微笑みかける。

 

「いい子だ……そうだな、生まれ変わったら……お前の…………故郷に…………」

 

 ゆっくりと目を閉じたスノームーンに、幻影は大きく咆哮した。

 それは相棒を悼んでの歌であり、同時に祈りでもあった。

 

――もしも生まれ変わったならば、その時は、あの敵たちのような鋼の肉体を……!

 

 血に濡れて真紅となった幻影は、一際大きな遠吠えを上げ、スノームーンに折り重なるようにして力尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉妹の中で唯一飛行能力を持つリーフウィンドは、ジェットファイアやストレイフ、オメガスプリームら、貴重な航空戦力と共に空で数多の敵に囲まれていた。

 

 いつもなら、例え敵の数が多かろうと問題はない。ディセプティコンの中に、ジェットファイアやストレイフより上手く飛べる者はいなかったから。

 しかし今回は違った。

 

 新たに現れた逆三角形のフォルムと猛禽のような逆関節の足を持つディセプティコンたちは、ジェットファイアには及ばないまでも飛び方が上手かった。

 

 速さが違う。

 技量が違う。

 何より、飛ぶことへの情熱が違う。

 まるで空を飛ぶために生まれてきたかのような連中だった。

 

 彼らに比べれば、リーフウィンドの飛び方はまるでお遊戯だった。

 

「嬢ちゃん! 逃げろ!!」

 

 そんなリーフウィンドを庇っていては、いかな歴戦の勇士たるジェットファイアでも勝利し得ようはずもない。

 何体もの飛行型ディセプティコンに組み付かれ、地上へと墜ちていった。

 

 オメガスプリームやストレイフも同様だ。

 

 そしてリーフウィンドは逃げる間もなく、敵の爪に引き裂かれた。

 

――お母様、お姉さま……申し訳ありません。

 

 脳裏に浮かんだのは、母や姉妹のこと、そして……。

 

――約束、破ってしまいましたわね……。

 

 自分に告白してきた、あの少年のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!」

 

 何体目かも分からないディセプティコンを斬り捨てて、ベルフラワーは胸に走る苦痛に呻いた。

 

「レイヴン姉さん……スノー姉さん……リーフ…………!」

 

 皆、逝ってしまった。

 理屈でなく、それを感じるのだ。

 母だけでなく、姉妹たちまでも失ってしまった。

 全ては……。

 

「お前たちのせいで……お前たちの、せいでぇえええええッ!!」

 

 涙を流しながら、ベルフラワーはディセプティコンを斬り続ける。

 頭の中が真っ赤になり、視界が白黒に染まる。

 

 ……どれくらいの時間が過ぎただろうか? どれくらいの敵を殺しただろうか?

 

 いつしか、敵は逃げようとしだした。だから追いかけて、殺す。

 

 抵抗する奴は、殺した。

 命乞いする奴は、殺した。

 口を開いた奴は、殺した。

 何かしようとした奴は、殺した。

 何もしていない奴は、殺した。

 殺して、殺して、殺しまくった。

 

「ベルフラワー!!」

 

 次に現れたディセプティコンは、奇妙な奴だった。

 何故か自分の名前を知っている。

 

 関係ない。ディセプティコンだ、殺す。

 

「ベルフラワー!! もう止めろ! 戦いは終わったんだ!!」

 

 何を言っているのだろう?

 

 敵はまだ生きている。

 敵を全て殺すまで、終わらない。

 ディセプティコンを根絶やしにするまで、終わるはずがない。

 

 だから、敵の体を斬ろうと刀を振り上げ……その瞬間、抱きしめられた。

 

「ベル、大丈夫、大丈夫だ……終わったんだ……」

 

 暖かさに視界が色を取り戻す。

 

 そのディセプティコンは…………赤と青の体をしていた。

 

「あ、あ、あああッ……!」

 

 そこでやっと、誰を殺そうとしていたのか気が付いた。

 

「あああ……そんな……わ、私は…………ッ!」

「……大丈夫」

 

 赤と青のプライムは、ベルフラワーを安心させるように笑ってみせた。

 皮肉なことに、彼の笑みを見たのは最初に会った時以来、これが初めてだった。

 彼の肩越しに見えたのは、辺り一面に広がるディセプティコンの残骸の山だった。

 

 見回せば、足の踏み場もないほどに残骸が散乱している。

 

「こ、これ、私が……」

「……もう終わったんだよ。メガトロナスは、遥か彼方の次元に追放された」

 

 慟哭するベルフラワーを抱きしめ、赤青のプライムはその背を優しく叩く。

 

「我々の勝利だ。……もう、戦わなくてもいいんだ」

「…………」

 

 体から力が抜ける。

 もう、戦わなくてもいい。そう言ってもらった時、魂に突き刺さっていた棘が抜かれたような気がした。

 体から力が抜け、赤青のプライムを抱き返そうとした…………その瞬間に、赤と青のプライムの背に、刃が突き立てられていた。

 

「ッ……!」

「………え?」

 

 プライムの顔が一瞬驚愕に染まり、何か言おうとして言えなった。

 

 剣でプライムを刺したのは、年若いディセプティコンだった。

 その姿に見覚えがあった。

 この前倒した、棍棒と蛮刀を持ったディセプティコンの同型だ。

 

「死ね、オートボット!! 兄弟の仇だ!!」

 

 そのディセプティコンは、何度も何度もプライムを刺す。

 ベルフラワーは動こうとするが、プライムはその身体をきつく抱きしめる。

 彼女を、ディセプティコンから守るために。

 

「兄弟はなあ、兄弟は……俺のたった一人の家族だったんだ!! それを……それをぉおおおお!!」

 

 憎しみに燃える目は、誰かに似ていた。

 

――ああ、これは私だ。

 

 家族の敵討ちに燃え、憎悪に身を焦がす。

 このディセプティコンは、ベルフラワーの鏡像だった。

 

「止めて……止めて!! このヒトは関係ない! 貴方の兄弟を殺したのは、私よ!! 殺すなら、私を……!」

「オートボットは皆殺しにしてやる!!」

 

 半ば悲鳴と化した声を張り上げるベルフラワーだが、ディセプティコンには届かない。

 

「くたばれぇええええ!! オートボットぉおおおお!!」

 

 そして、ディセプティコンが最後の一突きを繰り出そうとした瞬間、その首が胴体から離れて飛んだ。兄弟の最後と同じように。

 

「ディセプティコンの屑めが……!」

 

 剣でディセプティコンの首を刎ねたのは、ノヴァマイナーだった。

 だがその全身はディセプティコンの血に濡れ、目はギラギラと光っていてまるで別人のようだった。

 

「ディセプティコンの屑が! 屑が! 屑が!! よくもプライマ様たちを……!!」

 

 ノヴァマイナーは、地面に倒れた首なしのディセプティコンに何度も剣を突き刺す。

 

 何度も何度も何度も……。

 

 そして、辺りを見回し地面に一体だけ、まだ生きているディセプティコンがいることに気が付くと、そこまで大股に歩いていく。

 生き残りのディセプティコンは、恐怖に満ちた目でノヴァを見上げた。

 

「お願いだ、た、助けてくれ……こ、殺さないで、もう抵抗はしない……ッ」

 

 無抵抗で命乞いをするディセプティコンに、ノヴァは容赦なく剣を振り下ろす。

 

「死ね! 死ね! 死ね!! このディセプティコンめ!! お前たちは生きていること自体が間違いなんだ!!」

 

 憎しみのままに、無抵抗のディセプティコンを嬲り殺しにする……。

 その姿もまた、ベルフラワーの影だった。

 

 唐突に、ベルフラワーは理解した。

 

 憎み、憎まれ、殺し、殺され。

 これが……これが『憎しみの連鎖』なのだ。

 

「無事か……ベルフラワー」

「どうして、私を守って……」

 

 頭の中がグシャグシャで何が何だか分からないベルフラワーの問いに、プライムはエネルゴンを口から垂らしながらも笑う。

 

「誓ったから……君を守ると……」

 

 それだけを発声回路から絞り出し、プライムは意識を失った。

 ベルフラワーは、叫んだ。

 

 自分が何を叫んでいるのか、何故叫んでいるのか分からなかったが、叫び続けた。

 

  *  *  *

 

 プライム戦争はオートボットの勝利に終わった。

 しかしそれは、喜びに満ちた物ではなかった。

 

 メガトロナスは追放され、堕落せし者(ザ・フォールン)と呼ばれるようになった。

 

 この戦いで、プライムたちは、オニキスとマトリクスを持って逃亡した杖を持ったプライム、そして戦いに参加していなかったクインタスを除いては、全員死亡したのだった……。

 

 ダイノボットは深手を癒すために長い眠りに着き、セターン姉妹は彼らのために祈りを捧げる巫女として島に残った。

 

 ジェットファイアとオメガ・スプリームは、いつの間にか姿を消していた。

 

 サイバトロンは『プライム』に就任したノヴァマイナー改めノヴァ・プライムが治めることとなったが、彼のディセプティコンに対する憎しみは生涯消えず、やがてそれは選民思想へと変化し、サイバトロンに厳しいカースト制度が敷かれることとなった。

 そして『あの世界』を禁忌の地とし、全ての記録から消し去った。

 

 生き残ったオニキス・プライムは有機生命体を見下すノヴァに見切りをつけ、眷属を率いてサイバトロンを去った。

 

 死んでいったベルフラワーの姉妹たちは、母ソラスと同じ場所に埋葬された。

 

 そしてベルフラワーは……。

 

 

 

 

 

 惑星サイバトロンのある場所。

 小さな家の一室にあるカプセルの中に、赤青のプライムが横たわっていた。

 

「ねえ、見て。今日も花が綺麗よ……」

 

 その横では、ベルフラワーが抜け殻のような空虚な笑みを浮かべて、小さな紫の花の鉢を撫でていた。

 

 ベルフラワーは、かつて母ソラスと共に暮らした家に戻ってきていた。

 そこで、辛うじて一命を取り留めたものの、あれ以来一度も目を覚まさない赤青のプライムを世話していた。

 彼はスパークが傷ついており、覚醒することは、決してないと医者には言われた。

 

 赤青のプライムが入ったカプセルを操作し、自分の名前の由来となった花を世話する以外に、ベルフラワーにやることはない。

 

「お母さん、スノーお姉ちゃん、レイヴンお姉ちゃん、リーフ……」

 

 母も姉妹も失い、ヴイとハイも随分前に故郷の土に還った。

 

 もう、ベルフラワーに残されたのは彼だけだった。

 

 戦って、戦って、戦い続けて、得た物は屍にも等しい彼だけだった。

 

「ごめんなさい……」

 

 そして、彼は『自分を守るために』こうなった。

 皆は立派な自己犠牲だと彼を称えた。記念碑だってできた。

 

 ……それが、何だと言うのだ?

 

 彼は最後まで苦しみや悲しみから解放されなかった。

 死んではいないが、それが救いになっているとは思えない。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 

 彼を助ける手段は、もう一つだけ。

 カプセルのスイッチを切り、彼を死なせてやること。

 しかし、ベルフラワーにはそれが出来ない。

 

 心の何処かで、この状況に『幸福』を感じているから。

 彼と共にいられるから。

 彼を独占できるから。

 彼をずっと見ていられるから。

 

 母は自分たちに幸せになってほしいと最後に願った。

 でも、その遺言をベルフラワーはこんな歪な形でしか果たすことが出来なかった。

 

――嗚呼、何て醜悪で滑稽で独善的な女なのだろう自分は。

 

 決して逃げられない幸せの牢獄で、ベルフラワーは泣く。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!!」

「いいのよ、ベル」

 

 不意に、声がかけられた。

 それは久しく聞いていない声だった。

 顔を上げると、そこには人間と同じほどの大きさの、下半身や肩、頭部から触手が伸びた女性を思わせる姿の金属生命体がいた。

 

「…………クインタス?」

 

 戦いに参加せずにいた13人のプライムの一人、クインタス・プライムがそこにいた。

 

「久し振りね、ベル……可哀そうに、こんなに涙を流して……もう、悲しまなくていいのよ……」

 

 母ソラスと最も仲が良かったプライムは、優しい声色でベルフラワーを慰め、その頬を撫でた。

 しかし、その声に、目に、ベルフラワーは言い知れぬ不安を覚えた。

 

「クインタス、今まで何を……」

「ねえ、ベル? こんなのって間違っていると思わない?」

「…………」

 

 質問に質問で返され、ベルフラワーは黙り込む。

 構わずに、クインタスは続けた。

 

「ベル、ベルフラワー……オールスパークは私たちのことを愛してなんかいないの……あれは我々を駒としてしか見ていない、残忍な存在よ……!」

「な、何を言っているの……?」

 

 熱に浮かされたように細かく震える声で語るクインタスに、ベルフラワーは恐怖を感じる。

 ニイッとクインタスは裂けたように笑むと、掌から映像を投射する。

 

『……これは公的に記録される映像データではなく、私個人の記録だ』

 

 映し出されたのは、あの杖を持ったプライムだった。

 

「これを手に入れるのに、苦労したわ」

『この記録が世に出ることはまずないと思うが……ああいや、よそう。私は、胸の内に抱えた物を吐き出したいんだ。そうしないと、とても耐えられない……!』

 

 悔恨と苦悩に満ちた表情の杖を持ったプライムは、大きく息を吐くと言葉を絞り出す。

 

『ことの起こりは、オールスパークから始まる。ある時のことだ、プライムの何人かがオールスパークから啓示を賜った。それはかつてのような謎めいた言葉ではなく、映像だった……未来の記憶、言わば予言だ。これから先、何が起こるか、誰が死に、誰が生き残るか……その全てだ』

 

 最初、ベルフラワーは何を言っているのか分からなかった。

 

『その予言によると、我らサイバトロニアンは、『オートボット』と『ディセプティコン』と呼ばれる二派に別れて果てしない争いを繰り広げるという……』

 

 だって分かるはずがないじゃないか。

 

『端を発するのは、メガトロナス。彼がソラスを…………殺害することから、戦争は始まる。そこからは、もう泥沼だ。終わることなく、永遠にも等しい時間を憎しみ合い、殺し合うのだ……!』

 

 あの戦争も、母の死も、最初から決まっていたなんて。

 

『啓示を受けたのは、私とプライマ……それにメガトロナスだ。多分、他の者も何人かは気が付いている。私は何とか止めようとした……つもりだ。しかし、メガトロナスは言った、これこそがオールスパークの望みだと。彼はあの未来を忠実に再現するつもりだ』

「ふざけないで!!」

 

 気が付けば、ベルフラワーは叫んでいた。

 最初から分かっていたなら、何でそれを回避しようとしなかったのか。

 

『メガトロナスはオールスパークを愛していると同時に、自らもオールスパークから最も愛されることを望んでいる。兄弟の一人として13分の1の愛情を与えられるのではなく、唯一無二の存在として愛を独占する…………そのためなら、彼は何だってするだろう。……プライマは悩んでいたが、啓示に従う道を選んだ。私や他の多くの者たちも。そういう意味では、我ら兄弟は共犯者だった』

「ふざけないで……!」

 

 子供の頃、ベルフラワーたち姉妹は、自分こそが母から一番愛されていると思っていた。だから競い合い争った。

 メガトロナスのやったことは、それと丸っきり一緒だ。

 

 そんなことのために、皆死んでいったのか?

 母も、姉妹も、オートボットも、ディセプティコンも。

 

「ふざけないでよ! みんな、一体何のために死んだのよ! 何の、ために……!」

 

 やるせなさに涙を流し、崩れ落ちるベルフラワー。

 クインタスは痛ましげに彼女に寄り添い、肩に手を置く。

 

「これで分かったでしょう? オールスパークは、創造主としてあまりに不完全よ……こんな争いと苦しみに満ちた未来を強いるのだからね」

 

 不気味に笑うクインタスの触手がユラユラと蠢く。

 

「私たちでやり直しましょう……! 二人でなら出来るわ……! ソラスを、スノーを、レイヴンを、リーフを奪ったこの世界を……一度破壊して、新しく創り直すことが!!」

 

 その言葉は毒のようにベルフラワーの心に浸透してきた。

 心が憎しみで真っ赤に染まっていく……。

 

――そう、こんな世界は壊れてしまえばいい……!

 

『……しかし、彼は違った。我らの末の弟は』

 

 だが、聞こえてきた言葉に顔を上げた。

 プライムたちの末の弟とは、そこで眠り続ける赤と青のプライムに他ならない。

 

『彼は常に新しい道を探していた。苦しみ悩み、皆が救われる道を求めていた。……それでも彼が戦ったのは、他人の命を守るためだった……我々とは大違いだ。彼こそ、真のプライムだ』

 

 自嘲に満ちた笑みを最後に、映像は消える。

 

――ああ、そうか。貴方はやっぱりそうなのね。

 

 眠り続ける赤青のプライムの顔を見る。

 結局彼は、自分たちが憎しみのために戦う中で、一貫して守るために戦い抜いたのだ。

 だが、その中で彼はどれだけ苦しんだのだろうか。

 

「…………クインタス、彼はどうするの?」

「こいつには、役割があるわ。……こいつのスパークを抉り出し、別人として転生させる」

「なんですって!?」

 

 驚愕にオプティックを見開くベルフラワーだが、クインタスは慣れた手つきでカプセルの蓋を開ける。その目は異常な光を帯びていた。

 

「プライムはプライムにしか殺せない……彼はメガトロナスを殺すための駒……そしていずれは、この私がサイバトロンの支配者になるための、駒になるのよ……!! 私なら出来る……! 私は命を創り出し、操る術を編み出した。私こそが、オールスパークに代わって完璧な『創造主』になる……!!」

 

 何処からか見たことの無い杖を取り出し、それの先端に雷のようなエネルギーが集まってゆく。

 

「生まれ変わったコイツの生は、苦しみに満ちた物になるだろう……! 当然の報いだ。ソラスを守れなかったこいつもプライマやメガトロナスと同罪だ……!!」

「だめええええ!!」

 

 顔を狂気に歪め、赤青のプライムに向けて杖からエネルギーを放とうとするクインタスだが、ベルフラワーは止めようと間に割って入った。

 

「なっ!? そ、そんな……!」

 

 慌てて放射を止めるクインタスだが、時すでに遅し。

 ベルフラワーの胸を構成する金属が破れ、青く光る球体……スパークが転がり落ち、光を失う。

 

「ベル! ベルフラワー!!」

 

 スパークは、サイバトロニアンの魂、その本質。

 肉体が破損しようともスパークが無事なら、修理できる。

 ……しかしプライムならいざ知らず、そうでない者にとっては魂たるスパークが肉体から離れてしまうと言うのは、死と同義。

 

「な、何故……どうして……!?」

 

――このヒトは私を守ってくれたから。私もこのヒトを守りたかったの。

 

 そう言おうとしたが、すでに体から離れた魂は、口を開くことが出来なかった。

 

 今のベルフラワーは、肉体は死に魂のみの存在。

 オールスパークの下に還る前の、幽霊に過ぎない。

 

「ああ……そんな、そんなつもりは……」

 

 最愛の姉妹の、その最後の血族を自らの手で葬ってしまったことを受け入れられず、クインタスは頭を抱えて蹲る。

 

――クインタス、ごめんなさい。私はただ、このヒトに苦しんで欲しくなかったのよ。

 

 その言葉は、クインタスには届かなかった。

 

 蹲っていたクインタスは顔を上げると浮かび上がり、再び杖からエネルギーを放って今度こそ赤青のプライムの肉体からスパークを抜き取る。

 プライムのスパークは傷つき、肉体から離れてなお輝きを放っていた。

 

――!? クインタス、止めて!!

 

「私は諦めない……必ず、必ず創造主になってみせる……!!」

 

 昏い決意に満ちた表情で、スパークを掴むクインタス。

 ベルフラワーを殺したことで、もはや彼女の狂気は止まることは出来なくなった。

 

「そう、オールスパークの寄越した名もいらない。私は、たった今から……クインテッサだ!!」

 

 高らかに叫ぶクインタス……クインテッサの手の中で、赤青のプライムのスパークは、美しく輝いていた。

 

――どうしてこうなってしまったのだろう?

 

 何か大きな存在に引っ張られて消えゆく意識の中で、ベルフラワーは思う。

 

 悪いのは誰だ?

 

 預言を寄越したオールスパークか?

 啓示に従ったプライマとメガトロナスか?

 彼らに従い戦ったオートボットとディセプティコンか?

 私怨に呑まれた自分や姉妹たちか?

 

 唯一つ確かなのは、あの赤と青のプライムに、一切の罪はないと言うことだ。

 

 彼は啓示に従わず、憎しみにも飲まれず、体も心も傷だらけになりながら、ただひたすらに他者を救うために戦った。

 

 なのに、彼は来世でも苦しみを約束されている……。

 

――オールスパークよ、こんなのって、あんまりです。……彼は幸せになれないのですか? もしも、私に来世があるなら、その私の幸福を全部彼にあげてください……。

 

 祈りながら、ベルフラワーの魂はオールスパークへと還っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ならば、君が彼を幸せにしてあげなさい。そして、君も幸せになりなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして(ベルフラワー)の人生は終わった。

 

 でもそれで終わりではなかった。

 

 ……気が付くと、液体の中にいた。息は出来る。

 体を動かすと、壁に当たった。

 本能のままに壁を噛むと、壁は意外と柔らかくアッサリと破れた。

 身を浸していた液体と共に外界に出ると、外の空気は冷たかった。

 

 ゆっくり目を開けると、そこは深く広い縦穴の底だった。

 すぐ頭上には、大きな立方体のような物が宙に浮かんでいた。

 

 見回すと青い球体がいくつも並んでいて、その表面を破って小さく弱々しい金属生命体が孵ってきた。

 私は、本能の命じるまま、縦穴の壁面に穿たれた長い長い螺旋階段を上っていく。

 他の子たちも、一緒になって上り、やがて地上に出た。

 

 そこには大人たちが待ち構えていて、私を含めた子供たちを捕まえて、一人ずつ個別の容器のような物に入れていく。

 ……容器に入れられず、別の大きな籠にまとめて入れられる子供たちもいた。

 

「全員、回収したかね?」

「はい。いつもの通り、ディセプティコンは別の籠に一まとめにしておきました」

「分かった。…………毎度のことだが、このやり方は、正直どうかと思うのだがね。上に何度も掛けあっているんだ。ディセプティコンだけ分けるなんて、非効率な上に倫理的にも……まあいい。とにかくスキャンを初めてくれ」

「はい」

 

 それから、大人たちは別々の容器に入れられた方……つまり私たちのことを機械でスキャンした。

 

「AA08番。種族:女性(ウーマン)。体積、健康状態、共に問題なし。……ようこそAA08。このしみったれた世界へ」

 

 AA08、これが(エリータ・ワン)に与えられた最初の名前だった。

 




今回のネタ解説

クインタスからクインテッサへ。
本人の言う通り、オールスパークへの決別を込めての改名。
杖は、映画に出てきたあの杖を想定しています。

ベルフラワーからエリータ・ワンへ
うんまあ、輪廻転生は一回では終わんないよねっていう……。

今時、前世ネタが古いのはよく理解してんですけどね。
地味に母に祝福された前世と違って、医者の諦観から始まる生という対比を狙っていたり。

前世編は、予定通りにいけば次回で終わる予定。
……予定通りにいった試しがないけどな!
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