超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
リーンボックスの日は暮れて宵の口。
女神とオートボットとのパーティーは続いていた。
各々ロボットの姿へと変じた女神たちは、人間大オートボットたちと楽しく遊んでいる。
そこへ、パーティー会場となっているベールの部屋の扉を誰かが叩く。
「ベール様、失礼いたします」
部屋の主であるベールが扉を開くと、教祖補佐のアリスがいた。
「なんですの? パーティーの最中に……」
「はい、実は……」
緊迫した様子でアリスはベールに耳打ちする。
その内容を聞いたベールは真面目な顔になった。
ただならぬ様子のベールたちに気づいたノワールはコントローラーを操作してゲームを止める。
女神たちは人間に戻り、オートボットたちは通信装置の投射する映像に切り替わった。
「ねぷッ? もう終わりー?」
不満そうなネプテューヌをよそに、ノワールはベールに近づく。
「何かあったの? ベール」
「いえ、ズーネ地区にある廃棄物処理場に、多数のモンスターが出現したという報せがあったのですわ」
その言葉に、女神たち……約一名除く……のみならず、オートボットたちの表情も真剣みを帯びる。
ベールは執務机に着いてノートパソコンを起動すると、ズーネ地区についての情報をディスプレイに出した。
「ズーネ地区…… 離れ小島ね。引き潮の時だけ、地続きになると言う……」
確認するようなブランの言葉にベールは画面を見たまま頷く。
「モンスターぐらい、どこでも普通に出るっしょ?」
「国が管理している地区ですから、そんなことは有り得ませんわ」
能天気なネプテューヌに、ベールは至極真面目に返した。
その姿は遊んでいた時とは別人の様に凛々しい。
「でも…… 事実のようですわね……」
画面にはズーネ地区の衛星映像と、そこにいる無数のモンスターが映されていた。
ベールはノートパソコンを閉じて立ち上がる。
「わたくし、今から行ってきますわ」
「あ! わたしも行くよー!」
そこでネプテューヌが元気よく言うが、ベールは少し困った顔を見せる。
「けれど、これはわたくしの国のことですから……」
『いや、我々がここにこうしているのも何かの縁だ。私も行こう』
映像のオプティマスが厳かに発言した。
「わたしも手伝う。誘拐事件のときにはみんなに助けてもらったから……」
静かなブランの声に、ミラージュは無言で頷く。
『どうする? 今行くって言わないと置いてかれるぞ』
「分かってるわよ! 私も行くわ! あなたたちだけだと心配だからね!」
『ったく、素直じゃねえなぁ』
からかうようなアイアンハイドに、ノワールは腕を組んで答える。
「みなさん……」
『おっと、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!』
最後にジャズが軽い調子で言い添えた。
ベールの表情は少し戸惑ったようだったが、やがて微笑みに変わる。
「分かりました。ではみんなでまいりましょう!」
「あ、あの!」
そこでネプギアが声を上げた。
「私も、行きます!」
「え? あ、アタシも!」
「わたしも!」
「……わたしも」
ネプギアの言葉に、ユニ、ラム、ロムも同行を進言する。
だが、ブランは首を横に振った。
「あなたたちはダメ。遊びじゃないの」
「ええ~? わたしたち、ディセプティコンとだって戦えるんだよ!」
すぐさまラムが文句を言うが、ブランにうんと言う気はない。
誘拐騒動の一件で、少し過保護になっている部分もあるのかもしれないが、ロムとラムにまだ戦いは無理というのがブランの考えだ。
「ユニも今回は留守番よ。あなた、まだ変身もできないんだから」
「……はい」
言い聞かせるようなノワールに、ユニはショボンとして同意する。
「ネプギア! ここはお姉ちゃんたちに任せてよ! 主人公としての活躍、見せないとね!」
「……うん」
ネプテューヌは明るく言い、ネプギアも微笑み返す。
胸の中の言い知れぬ胸騒ぎを、拭い去ろうというように。
* * *
リーンボックス教会近くの広場にて、女神たちとオートボットたちが一端合流していた。
見送りにきた候補生たちや残りのオートボットもいっしょだ。
「では、今回は私とジャズ、アイアンハイド、そしてミラージュの四名が行く」
総司令官オプティマス・プライムの厳かな声に、戦士たちは了解の意を示す。
「っちぇ! 俺も留守番かよ!」
「今回は俺たちだけで十分だからな」
サイドスワイプが不満げに言えば、アイアンハイドは弟子に渋く笑って見せた。
「なあおいミラージュ! なんか土産頼むよ、土産!」
「エネルゴンチップとか、ルビークリスタルとかさ!」
「あったらな」
無邪気で少し空気の読めていないスキッズとマッドフラップに、ミラージュはそっけなく答える。
オプティマスとジャズは並んで立ち、出撃の準備をする戦士たちを見回していた。
そこにラチェットが声をかける。
「本当に四人だけで大丈夫なのか?」
ジャズは頷いた。
「ああ、俺たち四人とベールたちでけで十分…… と言うより、これ以上戦力を割きたくない」
「それって?」
ラチェットの隣に立つアーシーが訝しげな声を出す。
「……どうにも嫌な予感がする」
声を小さくする副官に、ラチェットとアーシーは顔を見合わせる。
「今回の一件、ディセプティコンが絡んでいるかもしれない。念の為皆は待機していてくれ」
オプティマスは厳しい声で言った。
と、バンブルビーがその正面に進み出る。
「『司令官!』『オイラも』『いっしょに』『連れてってください!』」
「バンブルビー、おまえは私たちの留守を守ってほしい」
若き情報員の肩に手を置き、総司令官は優しく諭す。
「留守を守るのも、大切な仕事だ」
バンブルビーは渋々ながら電子音で了解を示した。
そんな情報員に、ジャズは軽く笑って見せる。
「まったく、バンブルビーはオプティマスのことが大好きだな!」
「そうだな」
オプティマスも少し微笑みながら同意した。
この時、とある腐女神が目を輝かせていたのを、ジャズはあえて無視した。
全員集まったのを確認し、オプティマスが口を開こうとする。
「では……」
「あ、オプっち! 今日はそれ、わたしにやらせてよ!」
ネプテューヌが声を上げた。
「ふむ、まあいいか」
あっさりそれを認めるオプティマス。
ノワールとアイアンハイドがズッコケるが、ネプテューヌは意に介さず元気に号令をかける。
「よーし! みんなー、
プラネテューヌの女神の声とともに、女神たちは変身して飛び立ち、オートボットたちはビークルモードに変形して走り出す。
「……お姉ちゃん」
遠ざかって行く姉たちを、ネプギアはどこか不安そうに見ていた。
バンブルビーはそんなパートナーに気遣わしげな視線を送るのだった。
* * *
飛んで行く女神の飛跡を見つめているのは、ネプギアたちだけではなかった。
少し離れた所で、リーンボックス教祖補佐アリスが空を見上げていた。
「……こちらアリス」
アリスは通信機を付けているわけでもないのに、声を出す。
その表情は冷たく機械的だ。
「予定通り、オートボットと女神が出撃しました。……はい、……はい、では私はこのまま、残ったオートボットと女神候補生を監視します」
そして最後に、こう付け加えた。
「オール・ハイル・メガトロン」
* * *
海に浮かぶズーネ地区、その廃棄物処理場。
そこには無数の機械型モンスターが蔓延っていた。
うごめくモンスターの群れを高台から見下ろす者たちがいる。
あの黒衣の女性とネズミ、そしてディセプティコン破壊大帝メガトロンだ。
さらに、メガトロンの後ろには航空参謀スタースクリームと情報参謀サウンドウェーブが控えていた。
「メガトロン様、アリスカラ連絡ガアッタ。オートボットト女神ガコチラ二向カッテ来テイル」
「御苦労、サウンドウェーブ。おまえの部下は使える者ばかりだな」
機械音の如き異様な声でサウンドウェーブが報告すると、メガトロンは満足げに頷き、同盟者に視線をやる。
「奴らが来たぞ」
「フフフ、予定通りだな」
不敵な笑みを浮かべる黒衣の女性。
ネズミは近距離で見るメガトロンが恐ろしいのか、女性の足にしがみつかんばかりに震えている。
「スタースクリーム、貴様のほうも準備はできているな?」
「はい、メガトロン様。この、スタースクリームめにお任せを!」
スタースクリームは少し前に裏切ったことを棚に上げて調子良く答える。
そこぬけに冷たい視線のメガトロンだが、あえてそれ以上触れず、視線を海の彼方、今はまだ見えない宿敵たちに移した。
「他ノ者モ、配置二着イタ」
「結構、では作戦を開始する!」
サウンドウェーブの簡潔な追加報告に、メガトロンはニヤリと笑って号令をかける。
黒衣の女性もまた、邪悪な笑いを浮かべた。
「早くこい…… 女神ども、そしてオートボットどもよ」
* * *
ネプギアはリーンボックス教会のテラスから夜空を見上げていた。
その表情はどこか不安げだ。
『ギ…ア『大丈夫?』』
近くに飛んで来た通信装置が、バンブルビーの顔を投射する。彼もまた不安そうだった。
「ビー…… うん、私は大丈夫。でも、なんだかお姉ちゃんのことが心配で……」
『『大丈夫だよ!』『司令官』『といっしょ!』『司令官』『は最強なんだ!』』
「そうだね。ありがとう」
どこか無邪気にオプティマスを称えるバンブルビーに、ネプギアは笑顔になる。
この若き情報員は本当に総司令官のことが好きなのだ。
立体映像のバンブルビーを伴って屋内に入ると、そこは皆が待機しているベールの部屋だ。
「……ありがとう、オトメちゃん」
ふとネプギアが視線を巡らすと、アイエフが携帯電話を切るところだった。
「何か分かったんですか?」
「昼間、買い物に行ったときに見たネズミ、見覚えある気がして諜報部の仲間に調べてもらったの」
ネプギアがたずねると、アイエフは厳しい顔を覗かせる。
「そしたら案の定。各国のブラックリストに載ってたわ。要注意人物、と言うか要注意ネズミとしてね」
「え!? あのネズミさん、悪い人だったですか! 悲しいです……」
親友の言葉に、コンパは悲しげな顔になる。
『何と言うか、見かけによらないな』
立体映像のラチェットは純粋に驚いた様子だ。
今はそれに構わず、アイエフは言葉を続ける。
「しかも、数時間前にズーネ地区に船で向かったのが目撃されているの」
「それって……」
ネプギアのみならず、その場の全員が緊迫した空気に包まれる。
「推測でしかないけど、廃棄物処理場にモンスターが現れたのは……」
『やっぱり、裏があるかも知れないってことね』
アイエフの言葉を、こちらも厳しい表情のアーシーが継ぐ。
「今なら、まだ引き潮に間に合う。私とアーシーで様子を見に行ってくるわ!」
そう言ってアイエフは扉に向かって身を翻す。
「あ、あの!」
その時、ネプギアがアイエフを引き留めた。
「私も連れていってください!」
『ギ…ア…?』
「え? ダメよ、ネプギアまで危険な目に遭わせるわけには……」
紫の女神候補生の突然の言葉に、バンブルビーは戸惑い、アイエフはやんわりと拒否する。
「どうしても気になるんです! お願い、アイエフさん!」
しかし、ネプギアの決意は変わらない。
アイエフは根負けしたように、一つ息を吐き、ネプギアの目を真っ直ぐ見つめる。
「絶対に無茶はしないこと。少しでも危険を感じたら、すぐに撤退だからね」
「うん、ありがとう!」
至極真面目な顔で、ネプギアは礼を言う。
『『オイラも』『いっしょに』『行くぜベイビー!』』
バンブルビーも同行を希望する。
『いいけど、アナタも無茶はしないでね』
それをアーシーが許可した。
これで、ズーネ地区に向かうメンバーが決まったのだった。
* * *
空を行く女神たちは、ズーネ地区に近づきつつあった。
その下の引き潮によって海から現れた道を、オプティマス率いるビークルモードのオートボットたちが走っている。
「見えてきましたわよ!」
ベールの言葉のとおり、一同の視界にズーネ地区が入って来た。
大きくはない島に廃棄物処理のための施設と、モンスターが無数にひしめいているのが見える。
「ゲッ、うじゃうじゃいやがる!」
それを見てブランが嫌悪感を露わにする。
「何よ、数は多いけど、大したことない奴ばかりじゃない!」
『油断すんなよ、数は力なりだ』
「はいはい」
自信ありげなノワールに、アイアンハイドが通信で注意を促す。
「そうね、万が一、街に渡ったりしたら大変よ! ここで早めに……」
『ッ! 様子がおかしい!』
冷静なネプテューヌの声を、オプティマスがさえぎった。
見れば、地面を破って砲台のような大型モンスターが姿を見せた。
砲塔を回転させ、モンスターは女神たちに狙いをつける。
『来るぞ! 皆気をつけろ!』
女神たちは飛来するビームをよけ、あるいは防ぐ。
オートボットたちも降り注ぐビーム弾をさけながら敵に向かっていく。
「このデカブツが真打ってわけか! 着いて来いミラージュ!」
『了解』
「敵にとって不足なしですわね! ジャズ、サポートをお願いします!」
『イエスマム、ってな!』
「よし、行くわよ! アイアンハイド、援護してちょうだい!」
『無茶はすんなよ!』
ブラン、ベール、ノワールが砲撃をかいくぐってモンスターへと突っ込んでいき、ミラージュ、ジャズ、アイアンハイドがそれに続く。
「オプっち、そっちは大丈夫?」
『問題ない、このまま島へ上陸する!』
「なら、私も遅れてはいられないわね!」
ネプテューヌとオプティマスも敵陣に向かう。
雨あられと砲撃を浴びせるモンスターだが、瞬く間に女神の接近を許してしまった。
一方、オートボットたちも道なりに島に上陸してモンスターに向かって行こうとする。
「これは……!」
だが、オプティマスたちの行く手を阻むように瓦礫や廃棄物を積み重ねた壁が広がっていた。
高さからとても乗り越えることはできない。迂回するにせよ、壊して直進するにせよ時間がかかってしまう。
オプティマスはすぐさまネプテューヌに連絡を入れる。
「ネプテューヌ! こちらオプティマス! 道が塞がれている!」
『なんですって!?』
「明らかに人為的な物だ、嫌な予感がする! 我々が合流するまで無理は控えて……」
その瞬間、目の前の壁が爆発した。
あらかじめ爆発物を仕込んであったのだろう。爆炎と降り注ぐ瓦礫から身を守りながら、オートボットたちは身構える。
はたして噴煙の向こうから飛び出してくる者たちがいた。
「ぶっ潰れろぉおおッ!!」
それは砂色のディセプティコン、ボーンクラッシャーだった。
その後ろから黒い体に長い腕のバリケード、黒と銀の巨体のブラックアウトとグラインダー、さらに全身を武装したブロウルが続く。
ボーンクラッシャーは雄叫びを上げてオプティマスに突撃するが、オプティマスは唸りを上げて迫る拳を紙一重でかわし、カウンターの要領で敵の顔面に拳を叩き込む。
もんどりうって倒れるボーンクラッシャーだが、すぐさま立ち上がり背中の腕を勢いよく伸ばしてオプティマスを攻撃する。
「おっ死ね!!」
だがオプティマスは素早くこれをよけるとエナジーブレードを展開し、そのままボーンクラッシャーに斬りかかる。
その時、ブロウルが右腕の主砲を両者の真ん中に撃ってきて、オプティマスとボーンクラッシャーはそれをよける形でお互いに距離を取った。
バリケードが腕のタイヤを刃だらけのブレードホイール・アームへと変形させミラージュ目がけて投擲すると、この恐るべき殺戮兵器は猛スピードで赤いオートボットへと飛んで行く。
ミラージュは瞬時に軽やかに大ジャンプしてそれをかわし、バリケードへと斬りかかる。
帰ってきたブレードホイール・アームを回収したバリケードは、それをすかさず空中のミラージュに投げつける。
空中ではよけることはできない、ミラージュ危うし。
だがミラージュは飛んでくる殺戮ディスクを腕のブレードで受け、その軌道を変えさせる。
ブラックアウトはいつぞやのお返しとばかりにアイアンハイド目がけて砲撃を繰り出す。
アイアンハイドは軽快に砲撃をよけ、お返しに両腕のガトリング・キャノンをお見舞いする。
だが兄貴分の隣に立つグラインダーがそれを撃ち落とし、二体はさらなる砲撃の雨を黒いオートボットに浴びせかける。
右腕の主砲と左腕のガトリングを発射するブロウルだが、ジャズは素早い動きでこれをよけ続ける。
さらにジャンプしてブロウルの背に組み付くと、ゼロ距離でクレッセントキャノンをお見舞いしてやる。
激痛にうめくブロウルだが、大したダメージもなくジャズを振り払う。
「ネプテューヌ、ディセプティコンが現れた! これは罠だ! 応答してくれ、ネプテューヌ!」
しかし、オプティマスの呼びかけにネプテューヌは答えない。
通信機器からはノイズしか聞こえてこない。
この状態にはおぼえがあった。
妨害電波による通信障害だ。
オプティマスは焦りと怒りに顔を歪め、目の前のディセプティコンを睨みつける。
戦いは続く。
* * *
「オプっち! オプっち、どうしたの!?」
ネプテューヌはインカム型の通信機でオプティマスに呼びかけるが応答がない。
そんな間にも砲台モンスターの攻撃は続き、女神たちはそれをかわし、防ぐ。
「オプっちたちとの連絡がつかなくなったわ!」
「みたいね! これは……ハメられたか」
ノワールは悔しげに大剣を振るい続ける。
「なら、ちゃっちゃとコイツらを倒して助けに行くぞ! テンツェリントランぺ!」
「ええ、そういたしましょう! レイニーラトナピュラ!」
ブランの横薙ぎの戦斧が、ベールの長槍の突きが、砲台モンスターに命中し、モンスターは粒子に還った。
「二人に負けてられないわね! レイシーズダンス!」
「早くオプっちたちの所へ行かないと…… クロスコンビネーション!」
ノワールに蹴り上げられ斬り裂かれ、ネプテューヌの太刀の連撃に襲われ、モンスターたちは消え去る。
「これで一段落ね……」
少し息を吐くノワールに、ネプテューヌは厳しい顔で頷いた。
「さあ、早くオートボットと合流しましょう!」
その言葉に皆同意し、女神たちは飛び立とうとする。
まさに、そのとき!
地面からコードのような物が勢いよく伸び、女神たちの肢体に絡みつく。
だが、女神たちの力を持ってすれば、こんな物は拘束の内に入らない。
四肢に力を込め、コードを引きちぎろうとする。
そんな女神たちを少し離れた高台から見て、黒衣の女性は不敵な笑みを浮かべた。
「フフフ、そろそろか」
黒衣の女性は懐から赤く光る十字の結晶を取り出し、傍らに置かれた楕円体状の機械にそれをセットすると、機械を女神たち目がけて投げつけた。
「女神たちよ、我がサンクチュアリに堕ちるがいい!!」
その機械は女神たちの頭上で静止すると、紫の禍々しい光を放ち始める。
さらに地面からも楕円体状の機械が女神たちを取り囲むように三つ出現し、機械はそれぞれ光線によって結ばれ、三角錐型の結界を作り上げる。
そしてその内側を紫の光が満たしていく。
「こ、この光は!?」
驚愕した声を上げるブラン。その身体から力が抜ける。
「くっ……」
「力が!? どうして!」
ベールとノワールの身体からも力が抜けていく。
「あの機械、あれさえ壊せば!」
刻一刻と力が奪われていくなか、ネプテューヌは力を振り絞って太刀を頭上の円盤状の機械に投げつける。
だが太刀は機械に到達する前に、粒子に分解されてしまった。
驚愕するネプテューヌ。
そこへ、声が響く。
「シェアエナジーを力の源にしているものは、その機械に近づくことはできん。それが武器であろうと、女神自身であろうがな!」
黒衣の女性が高らかに声を上げる。
「どういうことですの……?」
力が抜けゆくなか、それでも疑問を口にするベールに、黒衣の女性は満足げに答えた。
「その機械にはアンチクリスタルと言う石が仕込んであってな。シェアクリスタルとおまえたちのリンクを遮断し、力を失わせる石だ!」
「アンチクリスタル……?」
ネプテューヌの疑問は突然のシャッター音にさえぎられる。
見れば、ネズミ型の小型モンスターがカメラで捕らえられた女神たちを撮影していた。
「う~ん、いい写真っちゅね~! これは世間に大旋風を巻き起こすっちゅよ!」
響くシャッター音に、女神たちは悔しげに顔を歪める。
「こんなこと…… ただじゃ済まさないわよ! すぐにぶっ飛ばしてやるんだから! アイアンハイドたちさえ来ればあなたなんか……」
「さて、それはどうだろうな?」
怒れるノワールの言葉に答えたのは黒衣の女性でもネズミでもなく、地獄の底から響くような低い声だ。
女神たちにとって、それは敗北の苦い経験とともに忘れがたい声だった。
高台の向こう側から現れたのは、灰銀の巨体に、悪鬼羅刹の如き顔とそこに斜めに走る傷跡のロボット。
愕然として、ネプテューヌはその名を口にする。
「メガトロン……!」
「しばらくぶりだな、女神どもよ」
ディセプティコン破壊大帝、メガトロンが嘲笑を浮かべていた。
「あなたが黒幕だったのね……!」
突然現れた大敵を、ネプテューヌは鋭い目つきで睨む。
対してメガトロンは冷たく嗤う。
「黒幕、と言うのは語弊があるな。俺はこやつの計画に乗っただけだ」
「そのとおり、我々は対等な同盟者なのだ!」
黒衣の女性が高らかに宣言する。
それを見たノワールは小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「同盟者? 手下の間違いじゃないの」
「減らず口を…… まあいい、アンチクリスタルの結界の中では女神は力を失っていく。じきに生意気な口もきけなくなるさ。フフフ、ハーハッハッハッハ!!」
高笑いをする黒衣の女性。
一方、メガトロンは片腕を砲に変えると、真上に向かって撃った。
その意味が分からず、困惑する女神たちにメガトロンはニヤリと笑って見せた。
「そして、ここから第二幕だ。 貴様らの絶望のな」
* * *
ボーンクラッシャーは背中の腕を何度も突き出して攻撃するが、オプティマスはそれをことごとくよけ、イオンブラスターを撃つ。
だがそれを巨体にみやわぬ軽やかさでよけたボーンクラッシャーは、オプティマスと距離を取った。
オプティマスの知るボーンクラッシャーらしからぬ、慎重な戦いかただ。
他のオートボットとディセプティコンも、一進一退の戦いを繰り広げている。
明らかに時間を稼がれていた。
と、ネプテューヌたちが降りていったほうから、エネルギー弾らしき光が空に昇るのが見えた。
「……頃合いか! 総員、いったん撤退だ!」
アイアンハイドと撃ち合いブラックアウトがそれを見て号令をかける。
それを聞いて、バリケードが組み合っていたミラージュを蹴飛ばして引きはがすと、黒いパトカーに変形する。
さらに、オプティマスと睨み合っていたボーンクラッシャーも大型アームの特徴的な大型地雷除去車に、ブロウルはゴテゴテと武装の追加された戦車に、当のブラックアウトとグラインダーも巨大な輸送ヘリに変形して退避していく。
「先へ進んでみなオートボットども! サプライズが待ってるぜ!!」
走り去るバリケードが皮肉っぽい調子で言葉を吐く。
「待て! 逃げる気か!」
砲を撃ちながらアイアンハイドが吼えるが、ディセプティコンたちは意に介さず去って行った。
「オプティマス、奴らを追うか?」
ミラージュが言うが、オプティマスは首を横に振る。
「いや、それよりもネプテューヌたちが心配だ。彼女たちと合流することを優先しよう」
オートボットたちはそれに頷いた。
「それじゃ、お姫様たちを助けにいくとしますかね」
あえて軽い調子でジャズが言ったが、誰もクスリともしない。
「家のじゃじゃ馬女神様は姫ってタマじゃないな」
「同感だ」
ムッツリとアイアンハイドとミラージュが呟き、ジャズはやれやれと肩をすくめる。
「では、オートボット、前進!」
オートボットたちはオプティマスの号令に合わせ、ビークルモードに変形して女神たちの降下地点を目指して廃棄物処理場を進んでいく。
道程にはディセプティコンの影も形も見えず、センサーにも反応がない。
不気味なくらい静かな道をオートボットは用心しながらも急ぎ、やがて女神たちの降下した場所へと出た。
そこは高台に囲まれた窪地の底で、中央に三角錐状の結界のような物がある。
その中に女神たちが囚われていた。
「ネプテューヌ!」
オートボットたちは思わずその結界に駆け寄る。
それを見てネプテューヌが叫ぶ。
「オプっち、来ちゃダメ! これは罠よ!」
その瞬間、オプティマスの聴覚センサーに、忘れたくとも忘れられない声が聞こえてきた。
「フハハハ! 我々からのサプライズは気に入ってもらえたかな?」
オプティマスが声のした方向を向くと、そこには灰銀の巨体のディセプティコン破壊大帝が立っていた。
足元には黒衣の女性とネズミが、後ろにはスタースクリームとサウンドウェーブが立っていた。
「また会ったな、プラァァイム!」
「メガトロン! これは貴様の仕業か!」
「先ほども同じ質問をされたな。残念だが違う。『ここまで』は、我が同盟者の仕事よ」
宿敵オプティマスの言葉にメガトロンは嗤いながら答えた。
「そして『ここから』が俺の策だ! ディセプティコン軍団、現れよ!」
破壊大帝の声に呼応し、周りの高台にも次々とディセプティコンが姿を現す。
先ほど戦ったメガトロンの直属部隊、それぞれが個性的な姿のコンストラクティコン、ドレッド触手をうねらせるドレッズ。
ゲイムギョウ界に置けるディセプティコンの戦力がほぼ集結していた。
圧倒的な戦力差を前に、しかしオートボットたちは戦意を失わない。
「メガトロン! この程度で我々は貴様には屈しない! 必ずネプテューヌたちを助け出すぞ!」
堂々たるオプティマスの言葉に、しかしメガトロンはまったく余裕を崩さない。
「であろうな。俺とてこれで貴様が屈服するとは思っていない。ゆえに!」
メガトロンは後ろに立つスタースクリームに視線をやる。
「スタースクリーム! やれ!」
「了解です、メガトロン様!」
するとスタースクリームは手元のリモコンのような機械を操作する。
「アンチスパークフィールド作動! スタースクリーム様の大発明を味わいな!!」
その言葉とともに結界を構成している楕円体状の機械が突起だらけの形状に変形し、突起から紫色の電撃状のエネルギーが放たれ、逃れる間もなくオートボットたちを飲み込んでいく。
やがて紫の電撃はアンチクリスタルの結界を包み込むように、ドーム状のフィールドを形成する。
「ぐおおおおッ!?」
「オプティマス! ぐ、ぐううううッ!!」
「バカな……!」
「こ、これは、力が抜けていく……!?」
オプティマスが、アイアンハイドが、ミラージュが、ジャズが、歴戦のオートボット戦士たちが地面に膝をついて動けなくなる。
「オプっち!!」
「アイアンハイド! しっかりして!」
「大丈夫か、ミラージュ!!」
「ジャズ……!」
女神たちは各々のパートナーに手を伸ばすが、その手は虚しく空を切り、オートボットたちは地面に倒れ伏した。
「ひゃーっはっはっはっ!! どうだ! アンチスパークフィールドの味は!! アンチクリスタルの発するエネルギーを、トランスフォーマーのスパークを弱めるものに変換しているのだ!!」
「なん……だと?」
得意げに高笑いするスタースクリームに、オプティマスは驚愕の声を絞り出す。
それに答えたのは、宿敵たる破壊大帝だった。
「トランスフォーマーのスパークと女神ども持つシェアエナジーが共鳴することで、大きな力を生むことは分かっていた。それは言い換えるなら、スパークとシェアエナジーとの間には、高い親和性があるということだ」
メガトロンは地に伏した宿敵を睥睨しながら言葉を続ける。
「親和性……?」
「そうだ。つまり良く似た特性を持っているのだ。ゆえに、女神の力を奪う物は、同時にトランスフォーマーの力を奪う物にもなりうる、というわけだ」
満足げに語りながら、メガトロンは嗤う。
「本当ならオートボットを全員一網打尽にできれば言うことなかったのだがな。今回はオプティマス、貴様を掌中に収めたことで良しとしておこう。……貴様のいないオートボットなど、案山子の群れと同じだからな!!」
そして心の底から愉快だとばかりに哄笑する。
「女神もオートボットも、仲良く息絶えるがいい!!」
なぜか、黒衣の女性も負けじと高笑いを始めた。
「「フフフ、フハハハ、ハーハッハッハッハ!!」」
二者の哄笑に呼応するように、ディセプティコンたちも大きな声で嗤う。
女神もオートボットも、屈辱に震えることしかできなかった。
* * *
ネプギアとバンブルビー、アイエフとアーシーはズーネ地区に上陸したところだった。
「やけに静かね……」
「もう、退治し終わちゃったのかな?」
ビークルモードのアーシーに跨ったアイエフが呟くと、並走する同じくビークルモードのバンブルビーに乗ったネプギアが答えた。
「アイエフ、油断しないで。オプティマスたちと連絡が取れないわ」
パートナーに警告するアーシーの声が、いつになく緊迫している。
そのとき、バンブルビーのセンサーが何かを捉えた。
「『みんな!』『アレを!』」
山の向こうから禍々しい紫色の光が漏れている。
その光を見た瞬間、一同の胸に言い知れない不安が押し寄せた。
「行ってみよう!」
ネプギアの声に、紫のバイクと黄色いスポーツカーは動き出す。
光りの発生源を目指して坂道を上る間、誰も口を開かなかった。
山の上に辿り着りつくと、
「そんな……」
「なんてこと……!」
アイエフとアーシーが息を飲む。
そこに広がっていた光景は、窪地を取り囲むディセプティコンの軍勢と、
「お姉……ちゃん?」
「オ…プ…ティ…マ…ス…?」
囚われた女神たち、そして倒れて動かないオートボットたちだった。
そんなわけで、敵の罠にはまってしまった女神とオートボット。
女神候補生だけでなく、残されたオートボットたちにも試練の時となります。
総司令官オプティマス・プライムなしで戦わなければいけないのですから。
※追記、そういえばUAがついに15,000越えてました。
これも一重に読者のみなさんのおかげです。